辻垣内「宮永照は私が倒す」(71)

辻垣内(あれは本当に全国の頂点を決めるに相応しい戦いと呼べるものだったろうか?)

辻垣内(去年のインターハイ個人戦決勝、私は宮永が連続和了する様を成す術なく見つめていることしかできなかった)

辻垣内(対局の途中から、私たちは宮永の優勝セレモニーに数合わせとして呼ばれたギャラリーに過ぎないのではないかという感覚さえ覚えた)

辻垣内(『魔物』、『牌に愛されし者』、そういう存在がいることを身を以て思い知らされた)

辻垣内(それは、私が恐らく一生辿りつくことができない境地…)

辻垣内(それでも私は麻雀が好きだ。誰よりも牌を愛してきたという自負がある)

辻垣内(だから、今年こそは…!)

針生「長かった激闘も本日でいよいよ最終日、全国高校生の頂点に立つのは果たして誰なのか!?」

三尋木「う~んこの緊張感、何度味わってもゾクゾクするねぇ~」

針生「それでは出場選手の紹介です。
   清澄高校1年・宮永咲!団体戦では惜しくも優勝を逃しましたが、初出場の清澄高校を全国準優勝まで導いた立役者です。繰り出されるた立役者。
   嶺上開花による驚異的な和了りを幾度も披露してきました」

三尋木「大人しそうな顔してえげつない麻雀打つよね~」

針生「続いて、姫松高校3年・愛宕洋榎!強豪姫松をプレーで引っ張ってきた圧倒的な安定感を誇る選手です。
   高校最後の試合を有終の美で飾ることができるのか!?」

三尋木「よっ!浪速っ娘!!
    今度大阪で仕事あるんだけど、後でうまいたこ焼き屋教えてもらおっかな~」

針生「……」

針生「臨海女子高校3年・辻垣内智葉!この1年間、誰よりも打倒・宮永照を公言してきた選手です。
   団体戦ではチームが準決勝で敗れ、対決することは叶いませんでした。
   満を持してこの大舞台、去年の雪辱を晴らすことはできるのか!?」

三尋木「メガネ!デコ!ポニテ!」

針生「……」イラッ

針生「そして、お聞き下さいこの大歓声!白糸台高校3年・宮永照!
   最早説明不要、入学以来数多の栄光を勝ち取ってきた現高校チャンピオン。
   団体戦に続き、個人戦でもインターハイ3連覇を達成することができるのか!?」

三尋木「早く戦ってみたいなぁ」ウズウズ

点数引き継ぎとかだとややこしいので個人戦決勝は半荘1回勝負って設定でお願いします。



針生「さあ場決めも終わり、いよいよ最後の一戦の幕開けです。
   泣いても笑ってもこの半荘で全てが決まる!
   起家の宮永照がサイコロを振り対局開始です!!」

親:照 南家:辻垣内 西家:咲 北家:愛宕



……

………

照「ロン、2600」パタッ

咲「は、はい」

針生「早い、宮永照!南3局親番を迎えた宮永咲を一蹴!2位との点差を更に広げます」

三尋木「まだ5巡目とはいえ注意が足りなかったかな。
    リンシャンちゃんは東4局でチャンピオンに槍樌を振り込んでから徐々に冷静さを失ってきてるね」

三尋木(決勝の雰囲気に、というより対面のチャンピオンに呑まれたか)

咲(うぅ、お姉ちゃん昔より遥かに強くなってる…
  一度麻雀から目を背けた私じゃやっぱりお姉ちゃんには追いつけないのかな…)

辻垣内(……)

オーラス ドラ:7p
親:愛宕 15000 南家:照 43200 西家:辻垣内 33800 北家:咲 8000


針生「遂にオーラスを迎えました。2位の辻垣内とトップの宮永照の点差は9400点。
   逆転するためには5200直撃か満貫ツモ以上が必要です。
   オーラスの親は愛宕洋榎、宮永咲にとっては苦しい状況となりました」


愛宕(恭子をあんなにした清澄の大将をここまで圧倒すんのか
   宮永照、正真正銘の化けモンやな)

愛宕(そしてもう一人、臨海のメガネ
   派手さはないけど常に神経張り詰めとんのがピリピリ伝わってくるで)

愛宕(特に宮永照に対する気の配りようはハンパやない
   ここまで一度も振り込みないんは大したやっちゃ)

愛宕(…せやけど
   諦めるわけにはいかんのや!)

愛宕「行くで!!」カラカラカラカラ

7巡目 


照(…)トン 打5s

辻垣内(…!)


照 捨て牌:東 9m 7p 4m 3s 白 5s


辻垣内 手牌:12388m457789s67p ツモ7s


辻垣内(宮永からテンパイ気配…)

辻垣内(この1年間、宮永を倒すために私はひたすら麻雀のことだけを考え続けた
    世界レベルのダヴァンやネリーたちと毎日打てたのは本当に恵まれた環境だったと思う)

辻垣内(そして、全て思い返すことができるほど繰り返し観た宮永の麻雀)

辻垣内(牌譜だけでなく、顔や仕草まで映ったものもできるだけ用意した
    そういった映像は普通少ないが、彼女がチャンピオンだったのが幸いして集めるのにそれほど苦労はしなかった)

辻垣内(彼女の全てを食い入るように見つめた
    親から心配されるほどに…)

すいません>>17の前にこっちで

辻垣内 配牌:128m24779s278p東中


辻垣内(清澄にはもう逆転手を張るだけの気力はない
    愛宕洋榎、さすが姫松の主将だけあって初対戦の宮永相手によくやってる)

辻垣内(だが、だからこそ初対戦だったのが悔やまれる
    一度でも対戦していれば彼女ならもっとやり合えただろう)

辻垣内(今、宮永の支配に抗える流れにいるのは私だけ
    次はない、この局で決める)

7巡目 


照(…)トン 打5s

辻垣内(…!)


照 捨て牌:東 9m 7p 4m 3s 白 5s


辻垣内 手牌:12388m457789s67p ツモ7s


辻垣内(宮永からテンパイ気配…)

辻垣内(この1年間、宮永を倒すために私はひたすら麻雀のことだけを考え続けた
    世界レベルのダヴァンやネリーたちと毎日打てたのは本当に恵まれた環境だったと思う)

辻垣内(そして、全て思い返すことができるほど繰り返し観た宮永の麻雀)

辻垣内(牌譜だけでなく、顔や仕草まで映ったものもできるだけ用意した
    そういった映像は普通少ないが、彼女がチャンピオンだったのが幸いして集めるのにそれほど苦労はしなかった)

辻垣内(彼女の全てを食い入るように見つめた
    親から心配されるほどに…)


辻垣内(この最後の大一番…
    宮永には打点上昇も踏まえた上で良形のテンパイが入ってるはず)

辻垣内(どんな局面でもぶれない打ち筋
    圧倒的優位をもって相手を倒してきたからこそ彼女は最強なんだ)

辻垣内(打点上昇と和了率こそ驚異的ではあるが宮永の打ち筋自体はオーソドックスなもの)

辻垣内(河の状況を考えれば恐らく手はピンフ系
    早い7pの切り出しと最後の5s、本命はドラ雀頭の1-4-7s待ち、それ以外は勝負だ)

辻垣内(もしそこが入り目だったなら仕方ない…
    だが、自分を信じろ…)
    
辻垣内(今までになく私の神経は研ぎ澄まされている…!)


辻垣内 打8s


照 手牌:456m23456s34577p 

針生「おおっと!あわや決着かと思われたがこれを回避!
   ここまで振り込みのない辻垣内、既にチャンピオンのテンパイを察知しているのか!」

三尋木「ほほーん」

針生「しかし三尋木プロ、ピンフもつきますし8s切りより8m切りの方が良かったんじゃないでしょうか?」

三尋木「まあまあ、黙って見てなって」

針生「……実況に黙って、って」イラッ

愛宕 ツモ1p

愛宕(くっ…
   役なしでしかもドラの絡まん方でテンパイかい)

愛宕(せやけどチャンピオンも張ってる臭いしここは行くしかあらへん!
   降りてくれたら儲けもんや!)

愛宕「リーチや!!」


愛宕 手牌:567999m12346p撥撥


照 (……)

辻垣内 手牌:12388m457779s67p ツモ4m   

辻垣内(よし!
    この局面、この手で宮永を捲るためにはリーチは必要不可欠)

辻垣内(リーピンドラ1なら直撃でもツモっても裏がなければ宮永に届かない
    だが、これなら裏が無くても宮永を捲れる
    親のリーチは関係ない、ここで決める!)

辻垣内 打9s


照(……)チラッ

愛宕「くそ!一発おらんか!」バシッ


照(……)ツモ7p


針生「おっとここでチャンピオンがドラを掴んだ
   ソーズの連続形を切ってノベタンに受け替えか!?」

三尋木「さぁて、どうするのかね」


照(……)ビシィ!


針生「チャンピオン!なんと親のリーチに対し無筋のドラを強打!!
   これは和了るのは自分だという自信の表れか!!」

三尋木(自信?違うな
    今彼女は振り込みも覚悟してドラを打った)
    
三尋木(そして、そうまでして彼女が引けなかったのは…)

辻垣内(!!!)

辻垣内 手牌:123488m45777s67p ツモ1s


辻垣内(…どうする)

辻垣内(宮永の直前のドラ切り…
    愛宕のリーチを読み切った上での打牌か)

辻垣内(…いや
    今のはそんな雰囲気じゃなかった)

辻垣内(恐らく本来ならとっくに宮永が和了って終了しているこの局面
    この面子だからこそここまで勝負が長引き、奴の支配はもう既に崩れかかっている)

    
辻垣内(にも関わらず奴が危険を犯してまでドラを打って巡ってきた1s  
    やはりこの牌は死んでも切れない)


辻垣内(この牌を抱えればテンパイできないかもしれない
    …それでも)

辻垣内(この自分の感覚だけは裏切れない!!)

辻垣内 打1m

愛宕(…はん!二人ともウチは眼中にないって感じやな)

咲 手牌:1m149s159p東南北白撥撥 ツモ中 

咲(真っ直ぐ向かっていればこれで国士無双テンパイ…
  でも、ここで私が甘い打牌なんてしちゃいけない)

咲(和ちゃんの言った通りだったね
  このお姉ちゃんを相手にここまで渡り合える人たちがいる)

咲(麻雀をもう一度好きになれて本当に良かったと思うよ)


咲 打9s


照(……)

辻垣内 手牌:23488m145777s67p ツモ5p 打8m


針生「まさかです!流石にここまでかと思われた辻垣内!
   なんとテンパイを崩してチャンピオンの1sを止めたぁっ!!」

三尋木「…ほぉ」

三尋木(チャンピオンを倒すためにこの1年全てを麻雀に捧げてきたとか言ってたっけ…
    今、彼女のチャンピオンに対する読みは確信からもはや絶対的なものに変わりつつある)

三尋木(それはチャンピオンの麻雀を見続け、
    あの卓で必死に闘い続けた彼女にしか感じ取れない何か)

三尋木(ちょっと昔の自分を思い出しちゃうなぁ
    ま、私の場合は戦う前に逃げられちゃったけど)



……

2巡後

辻垣内 手牌:2348m145777s567p ツモ1s

辻垣内(…ふぅ)

辻垣内(こんな事言ったら皆に悪いが、団体戦準決勝で負けたことに少し感謝している)

辻垣内(うちが永水に勝って2位抜けしていたら決勝の卓はうちと白糸台と清澄と阿知賀
    とてもじゃないがあの面子で宮永照を止めることはできなかっただろう)

辻垣内(一度敗れた状態でこの勝負を迎えていたら恐らくここまでやれなかった
    それと…愛宕洋榎に宮永咲…)


辻垣内(二人ともすばらしい打ち手だ…
    心の中からで申し訳ないが礼を言わせてくれ)

辻垣内(一発か裏が乗らなければ宮永は捲れない…)

辻垣内(…それでも
    始めから勝負はこの局限りだと決めている…!)

辻垣内「リーチ!」

針生「辻垣内から遂にリーチ宣言!会場は異様な静けさに包まれています!
   絶対王者宮永照!その栄光に終止符が打たれてしまうのかぁ!!」

… 

……

………

3巡後


辻垣内「ツモ」


照(……!)ドクンッ


辻垣内「リーチ、ツモ、ドラ1、裏は…」


パタッ

辻垣内(…ふっ)


辻垣内「なし…
    
    1000、2000です」



照:42200 辻垣内:38800 愛宕:12000 咲:7000

針生「決着!!!運命の裏ドラ表示牌は7s!!!
   辻垣内届かず!この瞬間、宮永照のインターハイ個人戦3連覇が達成されました!
   しかし、健闘した辻垣内も素晴らしい勝負を魅せてくれました!
   決勝を闘った4名に今、会場総立ちで熱い拍手が送られています!」


三尋木(メガネちゃんの麻雀は今までのチャンピオンの麻雀を確かに上回っていた
    裏ドラが乗らなかったのはただの運だったかもしれない)
    

三尋木(だが、真に勝負を分けたのは追い詰められたことのなかったチャンピオンが初めて見せた覚悟のドラ切りだ
    あそこで怯んで手を変えていれば、間違いなく彼女はそれを見抜き1sを通していた)


三尋木(胸を張っていいんだぜ、チャンピオン)

辻垣内(…届かなかったか)


辻垣内(…最後の裏ドラ…    
これが…牌を愛してきた私と牌に愛された彼女との差か…?)

辻垣内(いや…そんなのは言い訳だな…
    彼女の執念が最後に私を上回った…それだけのこと…)


審判「それでは、各選手はこれから表彰式がございますので第一ホールの方へ移動してください」

辻垣内「おめでとう、宮永照」スッ

照「悪いな、対戦相手と馴れ合う気はないんでね」スタスタ

辻垣内「ふん…優勝したというのに相変わらず無愛想な奴だな全く」



照(……)スタスタ


照(……こんな汗ばんだ手で握手などできるものか)ジト

~控え室~


トントン

三尋木「は~い」

ガチャッ

すこやん「お疲れさま、詠ちゃん」

三尋木「ありゃあ、小鍛治プロじゃないですか
    お疲れ様です」

すこやん「良い試合だったね
     何だか自分の頃のことを思い出してうずうずしちゃったよ」

三尋木「またそんな年寄り臭いこと言っちゃって~
    小鍛治プロだってまだまだ若いじゃないですか」

すこやん「そんな…あの子たちと比べたら…
     私なんてもうすぐ…その…30だし…」

三尋木「まだまだ若いですって~
    そういや、思い出すといえば私もちょっと昔の自分に重ねちゃったなぁ」

すこやん「えっ?詠ちゃんって雀荘に入り浸って高校では麻雀部に入ってなかったんじゃなかったっけ?」

三尋木「いやいや、臨海のメガネちゃんがチャンピオンに挑んでる姿にちょっとねえ~
    といっても、私はその人と対戦できなかったから結果はどうあれちょっぴり嫉妬しちゃったけど」


すこやん「……」


三尋木「タイトルは幾つか獲ったけど、私はまだ自分が真の王者だとは思ってませんよ
    地元に落ち着くのはちょっと早すぎるんじゃないですか、小鍛治プロ」


すこやん「……」


三尋木「今年のインハイは近年稀にみるほどレベルが高かった
    あの子らがプロになればここ数年で麻雀界はますます盛り上がります」

三尋木「まだまだこれからっしょ~
    あの子らも私らも」


三尋木「それじゃ、私は表彰式でまだもう一仕事あるので失礼しま~す」


ガチャッ

すこやん「…はぁ」


すこやん「おちゃらけてるように見えてほんとにもう…」


すこやん「…でも
     後輩にあんなこと言われてさすがに黙ってるわけにはいかないよね」ヌォォォーン(空間が歪む音)

辻垣内(宮永照に勝てなければこの1年やってきたことは全て無駄になると思っていた)

辻垣内(だが、自分の中に確かに残っている手応え
    同じ言葉でも、去年とは全く別の熱を帯びていた周囲の労いの声…)

辻垣内(去年は別次元にいると思えた宮永照を今は正面から真っ直ぐ見据えることができる)

辻垣内(私が麻雀の道を歩み続けて行く限り
    この先何度でも彼女は私の前に立ちはだかるだろう)


辻垣内(次は必ず倒す、宮永照…!)
    

辻垣内(今度はプロの舞台で!!)



おしまい

期待してるガイトさんが巷でかませ認定されてるようなんで
本編でかませになる前に自分でかっこいいガイトさんを書いちゃいました

初ssで疲れましたが今まで読んで下さった方はありがとうごさいました

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