和「宮永少女の事件簿」 (55)

ID:jKNuLf4nP代行なのよー

Prrrrr


ガチャッ


久「はい、こちら清澄探偵事務所。はい、ええ・・・」

久「・・・・はい、ご安心下さい。とっておきの人材を派遣しますわ、お楽しみに」

久「さて、と・・・。咲ー、ちょっと行ってもらえるかしら?」

咲「わ、私ですか?」

宮永咲は女子高生探偵である。
普段は大人しやかな文学少女として、学校でも目立たない存在の彼女だが
いざ事件に当たれば解決率100%を誇る凄腕の探偵に早変わりするのだ。

咲「その・・先週の事件で学校を休んだ分の課題がまだ終わってなくて・・・。他の人は・・・」

久「私はこれから他のクライアントと会食なのよ。スポンサーも兼ねてもらってるから断りきれなくて」

久「まこと優希も別件で聞き込み中だし、須賀君は買出し。手が空いているのはあなたと・・・」

主役の傍らに名アシスタント有り。
ホームズにワトソン、劉玄徳と諸葛孔明、星野1001と島野ヘッドコーチ。

そして宮永咲の側には、原村和が常にいた。そのピンク色の脳細胞で咲の推理を
サポートし、絶妙のコンビネーションで数々の難事件を解決してきたのである。

和「まさに名パートナー、いえお似合いのカップルともいうべき二人は年明けにもゴールインの予定であり・・・」

久「あそこでマイクにさっきから何かブツブツ吹き込んでる和だけなのよ」

咲「あうううう~」

和「何ですか、所長。私は等身大ねんどろいど咲さん8号の制作で忙しいんですが」

久「事件の依頼よ。二駅隣りの高級マンション地帯で調査をお願い」

和「他を当たってください。それでは」クルッ

久「報酬は咲の使用済みバスタオル」スチャッ

咲「な、何言ってるんですか、所長!っていうか、いつのまに!?」

和「さあ、行きましょう!この謎とバスタオルはもう、私の舌の上です!!」

咲「うう~。もう、なんでもいいです・・・・」

久「行ってら~。念の為防犯ブザー持って行くのよー」ヒラヒラヒラ

現場~レジデンス・フェイタライザー~


咲「来てはみたものの・・・間近で見ると、聞いてた以上に凄いマンションだね」

和「24階建てのハイグレードマンション。一部屋辺りの家賃は最低でも月50万以上らしいです」

咲「ベランダと屋根が交互に重なってたり・・・なんだか出来た先から、思いつくままにまた増築していったって感じだよ」

和「ギースタワー並の怪しさです。こんな所に住んでいるからには、良からぬ連中に間違いありませんね」

和「因業オヤジの慰み者にならないよう、咲さんは私から決して離れないでいてください」

咲「う、うん」ギュッ

和「もっと!その慎ましやかな胸を私の腕に押し付けて、前髪が鼻先を優しくくすぐるように!」

一「あのー、清澄探偵事務所の方ですか・・・?」

咲「は、はい!清澄探偵事務所から来ました、宮永です!」

和「ちっ。そして私がアシスタントの原村和と申します。あなたが依頼者の方ですか?」

一「はい。詳しいお話はエントランス・ロビーで。どうぞ、ご案内します。」

~1F・ロビーラウンジ~


咲「うわー、壁一面ガラス張りのエントランスなんて初めて入ったよ。向こうに見えるのは御岳山かな?」

一「透華ー、探偵の方をお連れしたよー」

透華「お待ちしていましたわ!ようこそ、龍門渕別宅へ!」

咲「は、はじめまして。それにしても凄いマンションですね。」

透華「ここはさる芸術家が半ば趣味で建てたあとに、何度か持ち主が変わっていまして。

透華「その度に改築を重ねて現在のような形になったとか」

透華「わたくしたち、こちらのマンションで高レート麻雀の場が立つという噂を聞いて以前来てみましたの」

透華「その際に奇抜な外観を衣が気に入ったので、一番上の24階をフロアごと買い取って別宅にしたのですわ」

和「動機は遺産相続のもつれですね。犯人はマスクをしている人です。悲しい事件でした。それでは帰りましょう」

透華「全ッ然違いますわ!全くこれだから胸の周りに無駄な脂肪がついた女は!」

咲「えっと、まずはお話を聞かせていただけますか?」

透華「あら、そうでしたわね。依頼したいのは、先ほど少し話にも出たうちの衣についてですわ」ピラッ

咲「5人の集合写真ですね、仲良さそう。この真ん中の女の子が衣ちゃんですか?」

透華「ええ、そうですわ。わたくしたち5人は、いわば家族。ですが最近衣の様子がおかしいんですの」

和「と、言いますと?」

証言者1・国広一


一「マンションの賭場は12階のフロアを全部使って毎週金・土の夜に開かれるんだ

一「そこへはみんなで行くときもあれば、気が向いた時に一人で向かうこともある

一「その日、ボクは一人で参加しようと20時に部屋を出た

一「宿題も早く終わっちゃったんで、遊びに来る医者の先生方でもムシろうかと思ってさ

一「そして12階に着いてエレベーターから降りたとき、衣がちょうど横の階段から降りてきたんだ

一「ボクらの部屋と12階の賭場以外には特に用がないから、ボクたちは他の階には普段ほとんどいかないんだけど、どうしたのかな

証言者2・沢村智紀


智紀「正午頃に最上階から下に降りようと待っていたら、階段から衣が上がってきた

智紀「どうしたのと聞いても、要領を得ず慌てた様子でさっと部屋に戻ってしまった

智紀「不可解・・・

証言者3・井上純


純「少なくともオレといるときに、衣がどこか別の階で降りたことはねえんだよなあ

純「まあ高いとこが好きだし、たまにフラっといなくなる奴ではあるんだけどさ

純「タルタルソース山盛りのファミレスでも、どこかの階にオープンしたのかね

証言者4・龍門渕透華


透華「気になって後をつけてみましたの。さすがに同じエレベーターには乗れませんでしたけど

透華「ただパネル表示で見た限り、どうも衣は13階と22階にしばしば一人で寄っているようでしたわ

透華「13階は霧島神宮の出張オフィス、22階はオーバーワールドとかいう団体の会議室が占めているそうです

透華「友人が出来て遊びに行っているとかでしたらいいんですけれど

透華「わたくしたちにも黙ってというのが少し心配ですわ・・・

和「一見用事の無さそうなフロアに、一人のときに限って寄っているのは何故かということですね」

和「それとなく聞いてみてもはぐらかされる、確かに心配です。あ、これお替わり下さい」モグモグ

透華「・・・苺ミルフィーユとマリーゴールドティーのお替わりを此方に・・・」

咲「んっと、このマンションのエレベーターは向こうに見える一つだけですか?」

智紀「そう。これが全体の館内見取り図・・・」

咲「・・・・・やっぱり」

和「咲さん、お手洗いですか?何でしたらこのティーカップに・・・」

咲「(スルー)りゅーもんさん、関係者の人を集めてもらえますか?」

透華「関係者は当の衣を除いて、元から全員ここに揃っていますけれど・・・何かありまして?」

咲「あ、そうですか。じゃあもう始めちゃいます?」

和「・・・!それでは、咲さん?」

咲「うん。謎は・・・謎は多分解けたよ」

しえんこふ

~1F・エレベーターホール~


透華「衣が何をしていたか分かったということですの?」

咲「衣ちゃんは、別にそこに何か用があったわけではありません。
  13階と22階で降りること、それ自体が必要なことだったんです」

智紀「つまりは、どういうこと・・・」

咲「井上さん、あなたの身長はどれくらいですか?」

純「オレか?184だけど・・・?」

咲「写真を見る限り、衣ちゃんの身長は井上さんのウエストまでの高さしかありません。
  125センチから130センチの間といったところでしょう」

一「それと今回の事件と、どういう関係があるの?」

咲「単純な話ですよ。つまりはこういうことです」


ポーン(エレベーターの着いた音)

12 24
11 23
10 22
-9 21
-8 20
-7 19
-6 18
-5 17
-4 16
-3 15
-2 14
-1 13

一「あ、そうか、ボタンの高さ・・・!」

咲「そうです。衣ちゃんの手が届くボタンが、精一杯頑張っても上から3番目までなんでしょう」

咲「だから12階に行きたいときには13階のボタンを押して、あとは階段を降り
  反対に24階に戻るときには、22階から歩いて登っていたんです」

咲「この手の高層マンションは、最近は手の届かない人用に車いす運転盤が設置されたり
  ボタンの配置が別の配列で並んでいることも多いんですが・・・和ちゃん」

和「建築基準法第三十四条第二項。高さ三十一メートルをこえる建築物(政令で定めるものを除く)には、非常用の昇降機を設けなければならない」

和「また同法施行令第129条の13の2より、政令で定める建築物とは、次の各号のいずれかに該当するものとする」

一 :高さ三十一メートルを超える部分を階段室、昇降機その他の建築設備の機械室、
   装飾塔、物見塔、屋窓その他これらに類する用途に供する建築物

二 :高さ三十一メートルを超える部分の各階の床面積の合計が五百平方メートル以下の建築物

三 :高さ三十一メートルを超える部分の階数が四以下の主要構造部を耐火構造とした建築物で、
   当該部分が床面積の合計百平方メートル以内ごとに耐火構造の床若しくは壁又は特定防火設備で
   その構造が第百十二条第十四項第一号イ、ロ及びニに掲げる要件を満たすものとして、
   国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたもの

四 :高さ三十一メートルを超える部分を機械製作工場、不燃性の物品を保管する倉庫
   その他これらに類する用途に供する建築物で主要構造部が不燃材料で造られたもの。
   その他これと同等以上に火災の発生のおそれの少ない構造のもの

和「先程の館内図を見ても非常用エレベーターは備わっていませんし、
  このマンションの構造は一~四のいずれにも該当しません。要するに、違法建築です」

しえんこふ

咲「おそらく例の芸術家さんが建てた頃から、外観は何度もいじられても内部設備はあまり変わっていないんでしょうね」

咲「チグハグなビフォーアフターと、背伸びしたいお年ごろの女の子のちょっとした意地が生んだ微笑ましい事件だったんです」

咲「そうだよね、衣ちゃん?」

衣「・・・ちゃんではなく・・・」スッ

透華「衣!聞いていましたの!?」

衣「透華、それにみんな、迷惑かけてごめんなさい」シュン

一「もうー、最初からそういえばいいのに。心配したんだよ?」

衣「だって、衣はおねーさんだから・・・」

智紀「私たちは家族、出来ないことは頼って欲しい。私たちも衣に助けてもらう」

衣「トモキ・・・」

純「そんじゃあ衣おねーさん、そろそろメシ食いに行こうぜ。オレは今日無性にエビフライが食いたい気分なんだよ」

衣「う、うんっ!」

透華「ハギヨシっ!すぐさまエレベータールームの改装を不動産会社に申請なさい!」

ハギヨシ「はっ、透華お嬢様。ですが、申請受理から各種承認・手続きが終わり実際に
     着工するまでには、少なく見積りましても1ヶ月はかかるかと」

透華「えーいっ!でしたらマンションの権利ごと買い取ります!電話の用意を!!」

ハギヨシ「承知致しました、透華お嬢様」

咲「ふぅ。一件落着、かな」

和「今回も咲さんと私のスカイラブハリケーンにより、事件は解決しました。敗北を知りたいです」

咲「うん、無事に解決して良かったね。あとは早く帰って課題の続きをやらないと・・・」

和「そうですね・・・・」

咲「・・・・あれ?和ちゃん、入り口ってこっちの方だっけ?」

カツッカツッカツッ

咲「なんで一階にいたはずなのに、私たちそこから階段で下に降りてるの?」

ガチャリ

咲「な、なんで鍵をかけるの?」

和「さて、問題です。愛し合う二人が他にジャマ者のいない密室にいます。一体何が起きるべきでしょう?」

咲「ひゃああーーっっ!!・・・・・・・・・・」


久「あ、結局防犯ブザー忘れてったわね。無事かしら、咲」ポリポリ



積(カン)!

もし次があったらマッスルドッキングになってしまいそう
支援ありがとうございました!

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