そして、比企谷八幡は夢を見る (23)
ガイルssだよ。
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ゆっくりと目をあけると見知らぬ天井。
監禁かなにかと一瞬思ったが、いや、それはないと思い直す。
まだ、思考はうまく働かず、監禁か、とぐるぐると同じ事を考える。
暫くして、思考が上手く働く様になった。
まず、監禁でも何でもなく、勝手知ったる我が家に俺はいた。しかもリビング。俺はどうやらソファで、寝てたらしい。床にVITAちゃんがあるところを見ると、俺はゲームをやってて、寝落ちしたんだろうな。
まずは顔を洗おうと、洗面所にいこうとしたところで、ふと時計が目にはいる。
11時。完全に遅刻だ。アイエエエエ!チコク??チコクナンデ??
…と、マジでどうしよう。生徒会役員が学校に遅れるとか、雪ノ下絶対に許さないだろ。
まあわからないだろうけど。
もしわかっても、比企谷くんだから…、とか言って許してくれるかも。
自分で考えといてなんだが、説得力ありすぎだろ。
もう言い訳全部俺だからで通りませんか。ませんか。
とりあえず言い訳は後で考えよう。今は学校に行く準備をしなければ。
× × ×
自転車を漕いで学校まで向かう。
信号が意思を持ったのかなんなのか知らないが、急ぐ俺を邪魔するが如く、赤になる。勢いをつけて漕いでいたので、信号でブレーキだけで止まれず、足を地面につけて止まる。ついでに空転したペダルが足に当たる。痛い!やめて!
× × ×
そんなこんなで、学校までついた。
駐輪場に向かう途中で、自転車をおり、自転車を引っ張る。
ああ、戸塚に会いたい。この汗まみれで、足は痛い状況で、癒し、唯一の清涼剤の戸塚に会いたい。この愛は民法を変える。むしろ恋える。
なんだ恋えるって。長文タイトルのラノベの略称かなにか?
あれはそのうち廃れるからやめろって、ばっちゃんがいってた。
ちなみに清涼剤とかいっても、8×4を俺に噴射とかやめて。涼しいけど、心は氷河期になっちゃう。
その点戸塚ってすげえよな、最後まで愛情たっぷりだもん。俺の。あと可愛さはたっぷりどころか溢れ出してる。可愛さが大洪水。やばい。世界滅ぶレベル。むしろ可愛さで全てを再生する。やばい。後さっきからやばい言い過ぎてる。やばい。
× × ×
なんで雪ノ下と会うの。
疲れた体に戸塚なしで、冷たい視線はきつい。泣きそうになった。
なんなのあいつ。
無言で8×4噴射した挙句、
「昼休み、生徒会室に来なさい。庶務谷改め、汗臭谷改め、遅刻谷くん」
とか言われた。どんだけ改めてんだよ。
つーかなんで8×4持ってんの。
俺くんの予想してたのかよ。
なんなのその能力。怖いわ。
汗が冷えてきたのか、それとも恐怖でか、身震いしながら俺は教室に向かった。
× × ×
休み時間だった事が幸いしたのか、誰にも気付かれることなく机に座れた。
自動ステルス迷彩搭載、比企谷八幡。
ついに人間も透明になる時代がきたか。
科学の力ってすげー!
机に座って本を読んで数分すると、こちらに向かう足音が聞こえてくる。俺の右斜め前の人になにか用かな?
だが残念そこの人はついさっきトイレにいったぞ。
「ちょっと」
なんで、誰もいない所に話しかけてんの、怖いんだけど。
「ちょっと!聞こえてる?」
やばい、なんだこれ。
ホント怖い、本も怖い。
なんでホラーモノ買ったんだ、俺。
怖いの苦手なのに。
だってほら、人を怖がらせるためのものが怖くないわけないじゃん。
別に怖いの嫌でもいいじゃん。男は怖いのダメだといけないの?
人間だから恐怖を感じるのは仕方がない。恥じてはいない。
別に昨日、小町に、怖いの苦手なのは男としてポイント低いとか言われた事気にしてない。
やべえ、すごく気にしてる。
そういや、そのあと、ホラー本かいに行ったんだった。
「ヒッキー!」
引きこもりは学校には来ませんよ、とか一瞬思ったが、どうやら俺に話しかけているらしい。
ついさっきから虚空に喋りかけていた人物は、果たして由比ヶ浜であった。
「どうした由比ヶ浜」
由比ヶ浜が教室で俺に話しかけても、同じ生徒会役員ということが幸いして、不当に由比ヶ浜の評価がさげられることはなくなった。
周りからは、嫌々、事務連絡だけをする、健気な役員と見られているようだ。
これまでは、奉仕部というあまり名の通らない、というか、殆ど知られていない、部活の仲間と言う事であったため、カーストが違う由比ヶ浜と俺が話しているのを好奇の目で見られていた。
だから、俺は余り話しかけてもらわなかったほうがよかったのだが、生徒会という、関心は持たれて無いがある程度名が通る団体に共に所属しているという、ある種の免罪符により、会話が許された。
この免罪符とは、俺が由比ヶ浜と話すという罪に対しての免罪符である。
人と話すだけで罪とか俺どんだけ下等生物なんだよ、自分で言っててなきたくなったわ。
「なんでヒッキー返事しないの?ヒッキーひどくない!」
「ひどくねーから、むしろ自分に話しかけてられてるってわかるまで、黙って迷惑かけないようにしてるから俺優しい」
優しすぎて中学のときに声が自分の方に聞こえてきた瞬間振り向いてたら、陰でめっちゃきもいって言われてたレベル。
もう、ツンデレさんなんだから!
あと、君たちはツンデレているつもりであっても、俺の心はツンドラだから。まあ、実際はツンデレてもいないんでしょうが。
一番ひどかったのは、前の席の人に話しかけるために、声かけながら近づく奴、あれやめろ。話すなら目の前にきてから話せ。変に期待させんな。
「で、なんか用」
「用がなきゃ話しかけちゃ、ダメ……だった?」
「いや、そんなわけではないが、長時間話すと…な」
すると由比ヶ浜は、あ…、という感じで俺の言いたいことに気付き寂しそうに去っていった。流石空気の読める娘。
つまり、俺は困るのだ。いや、厳密には由比ヶ浜が困るか。
話すことは許されたが、長時間話すと、次第に何だこいつ的な目線が俺に突き刺さる。
当たり前だ、あくまで、由比ヶ浜は同じ所属団体の奴に嫌々事務連絡をしている子、という扱いなのだから。
嫌々ならば、話は早めに切り上げなければならない。
それによって評価が下がるのが俺だけならばまだいいが、比企谷八幡と長時間楽しそうに話す人、というレッテルを由比ヶ浜に貼られたら由比ヶ浜の評価まで、下がる。
この、レッテルというのが、また厄介で、質の悪いシールみたいに、いつまでもへばりつき、無理矢理剥がしても、それは完全には剥がれずに、残る。
つまり、俺と話さなくなっても、レッテルが完全に剥がれることはなく、過去に比企谷八幡と楽しそうに長時間話していた、という事実と、それ相応の評価は残るわけだ。
それだけは避けなければならない。俺個人によって由比ヶ浜に迷惑をかけてはならない。
それだけはあってはならない。
× × ×
その後の授業は何故か、集中出来ず、ぼーっとしてたら、何時の間にか、昼休みが来ていた。
まあ、とりあえず雪ノ下の所に向かうか。
「あら、きたのね、来なくてもよかったのに」
「来いって言われたからな。つーか、遠回しに来ないでっていうのやめてくんない」
よくやられたな、来なくてもよかったのに攻撃。
これは本当に傷つくから。
あときついのは、無駄に気を使われて、来てくれて嬉しいっていわれるの。顔ヒクついて、嫌がってるのわかるから。無理しなくてもいいから。
「そうね。いつまでも比企谷くんで時間をつぶしている暇もないわ。本題にはいるわ、この書類をやってほしいのだけれど」
「は?え、マジで?俺社畜じゃないから、サービスで仕事とかしたくないんだけど」
文化祭の時で、俺の社畜根性使いきったから。専業主夫根性なら残ってます。使い果たす為に誰かもらって。
「これはサービスではないわ。れっきとした比企谷くん専用の業務内容よ。何か文句が、あるのかしら?」
「いや文句ありまくりだから。労働組合に訴えるぞ」
「お好きにどうぞ。だけど、仕事を終わらせてからにして。比企谷くんはダメダメだから、褒美も用意したわ、だからやって」
なんか、雪ノ下から褒美ってきくと、踏んであげるわ、的な事しか思いつかんな。
「あらかじめ言っておくが、俺はMではないぞ」
「なにを言っているのかしら。褒美って紅茶よ」
なんだ紅茶か、今Mって言った瞬間めっちゃ見下されたんだけど。言わなきゃよかった。
じゃあ、さっさと仕事おわらせるか。
× × ×
茶葉にお湯がそそがれると、ローズマリー系の香りが部屋いっぱいに広がる。
雪ノ下はすぐにポットに蓋をした。
蒸らすのだろうか。
2.3分した後に、ポットの中身をスプーンで軽くかき回してから、コップに注いでいく。
その様はなんだかとても綺麗で、だからこそ、何か喪失感のようなものを覚えた。
以前の彼女がそこにはいた。
なぜ、だろう、満足しているはずなのに。
俺達の関係も、奉仕部から生徒会へと、変化したが、それでも、壊れなかった筈なのに。
あれ、本当に壊れなかったか?
生徒会になんて変わったか?
ずるずると続いていたのではなかったか?
ああ、そうか…これは………
最悪の目覚めだ。
何故だか思考ははっきりしていて。
どうしても、放課後の事を考えてしまう。
部活は憂鬱だ。これは社畜とかは関係なく。
心地よい空間に慣れてしまった、いや、そう勘違いしてしまった。
俺も、彼女も。
その結果が、あのザマだ。
いや、俺が、感情を理解していれば…自意識の化物で無ければ、こうはならなかったのだろうか。
いくら考えても、答えは出ない。
だが、一つだけ、言える事がある。
俺が守りたかったのは、今見ていた、夢の様なものをであって。それは幻想なのかもしれない。
ああ、だけど、俺が守りたかったのは現状ではない。
終わり
雪ノ下に紅茶を淹れてもらって、それを飲んでいたら、昼休みは終わった。
午後の授業はつい先ほどの様な無気力状態ではなくなり、集中できた。
すげえな、雪ノ下の紅茶。
さて、生徒会行くか。
さらっと社畜根性丸出しだったな今の発言。さあ、給料なしの仕事いくかってことだぞ。
給料なし、手当なし、あるのは仕事と、罵倒のみ。誰でも働かないな。
俺でも働かん、なんならこの求人見て社会に絶望して、専業主夫になるまである。なんだ、いいじゃん。
「うぃーす」
「ヒッキー遅い」
「うお、いたのか!由比ヶ浜」
「なにそれ!ヒッキーひどい!あと、キモい!」
だって、普段三浦たちと話してから来るから遅いし。恨むなら普段遅い自分を恨め。
「で、由比ヶ浜なにしてんの」
「え?事務仕事だけど?」
「由比ヶ浜、ちょっとやったやつかせ、お前、間違ってそうだし」
なんか、部活申請に、楽しそうだからいいよ!とかかいてそう。
しかし、そこにあったのは、真面目なとても、綺麗な字で、綴られた資料だった。
「由比ヶ浜、疑ってすまん」
「そうだよ!ゆきのんの資料に間違いはないし!」
「書いたのお前じゃないのかよ…」
感心して、損した。由比ヶ浜は何をやってたんだよ。なに、文章の推敲でもしてたの?
「あたしは判子ペッタンやってただけだよ」
ペッタンは雪ノ下が似合いそう。主に胸部。
「そういえば、雪ノ下は何処だ」
「ゆきのん、あたしもしらない。どこいったんだろね」
雪ノ下は何処に行ったのか。
そのことが引っかかって、その日の活動には身が入らなかった。
何故雪ノ下はいないのか。
俺が理解できなかったからか。
俺が理性の化物だからか。
俺が、俺が、俺が、俺が、俺が………。
ああ、これはきっと。
眠い、いったんねます
このSSまとめへのコメント
めんどくさい感じが抜群に出てるよ!いいよ!