春香「社長ってどんな顔してたっけ?」 (40)
伊織「春香……。社長の影が薄いからって、さすがにそれはひどいわよ」
春香「うーん。雰囲気だけはわかるんだけど、はっきりと思い出せないというか」
伊織「転んで頭打ち過ぎたんじゃないの?」
春香「ボケちゃったみたいに言わないでよー。だったら伊織は社長の顔わかるの?」
伊織「当たり前でしょ。事務所でいつも顔合わせてるんだから」
春香「じゃあ、言ってみてよ。社長の特徴」
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伊織「特徴も何も、まず髪は黒でしょ」
春香「うん。それは私もわかってた」
伊織「それと……おじさんよね」
春香「それ顔の特徴なの?」
伊織「い、いいのよ!あと……ええっと……」
春香「ほら!伊織も憶えてないんでしょ?」
伊織「待ちなさいよ!いい?黒髪のおじさんで……それと……」
春香「降参してもいいよ?」
伊織「嘘よ!!伊織ちゃんの記憶力が春香ごときと同じなんて!!ええと……ええと……」
春香「ごときとか言ったよ、この子」
伊織「むぅぅ……ヒント!ヒント出しなさいよ!!」
春香「いや、だから私もわからないんだって」
伊織「わかった、降参よ!降参するわよ!だから答え教えなさいよ!!」
春香「だから、わからないんだって」
伊織「ああああ!!イライラする!最近はほぼ毎日見てるはずなのに、なんで思い出せないのよ!!」
春香「お、落ち着いてよ伊織。言い出したの私だけど、必死すぎるよ」
伊織「よし、社長室に行くわよ!」
春香「ちょっと待ってよ、顔忘れたから見に行くとか失礼すぎるよ」
伊織「かわりに伊織ちゃんの顔が見られるんだから、おあいこでしょ。おつりを貰ってもいいぐらいだわ」
春香「社長からしたら押し売りでしかないよ」
伊織「いいから早くいくわよ」
千早「無駄よ」ガチャッ
春香「あ、おかえり千早ちゃん!」
伊織「遅かったわね。それで無駄ってどういうことよ」
千早「社長室には誰もいないわ。社長は外出中みたい」
春香「そんなぁ」
伊織「何よ、めずらしくアイドルが必要としている時にいないなんて社長失格ね」
春香「その社長の仕事を今まさにやってるんだと思うけどなぁ」
千早「ええ言い過ぎよ、水瀬さん。私たちのためにいつも頑張ってくれている社長を、よりにもよって社長失格なんて」
春香「まあまあ、伊織も本気で言ってるわけじゃないんだし」
千早「こうしている間もきっといつものように善澤さんとアイドル談議したり、善澤さんとテレビ見たり、善澤さんと昔の話をしたり……」
千早「訂正するわ、水瀬さん。あの人社長失格ね」
春香「他の仕事もしてるよ!?私たちから見えないところですっごく働いてくれてるよ!!」
千早「え、そうなの?てっきり昔からの友達と遊びまわってるおじさんかと」
伊織「さすがに私もそこまで言わないわよ。もうちょっと社長を信じてあげなさいよ」
千早「ごめんなさい、社長に会えなくてイライラしていたのかもしれないわ」
春香「あれ?そういえばどうして千早ちゃんは社長室に行ったの?」
千早「それは……呼び出されたのよ。社長に」
伊織「ふーん。呼び出された、ねえ」
千早「な、何かしら?」
伊織「呼び出しておいて、何の知らせもなく社長がいなくなるわけないでしょ。ねえ、千早。あなたもしかして……」
千早「くっ!」
春香「え、なに?今、何の流れ?」
伊織「私と春香の話、聞いてたでしょ?」
千早「くっくっくっ!!!」
伊織「そしてその後、私たちに会う時間も惜しんで社長室に向かった。つまり!」
千早「くっくっくっくっくっ!!!!!」
春香「千早ちゃん追い詰められた犯人みたい」
伊織「あんたも社長の顔を憶えていないわね!!」
千早「ぐっ!!!」バタリ
春香「千早ちゃんもリアクション芸を身に着けてきたね」
伊織「誰のせいかしらね」
春香「誰のせいだろうね」
千早「まさか、私の秘密が暴かれるなんて……」ムクリ
春香「千早ちゃん、事件ネタはもういいよ。あんまり同じネタを引っ張ったら逆効果だよ」
千早「あ、そうなの?ごめんなさい、まだよくわかってなくて」
春香「ネタにもよるけどね。このネタは繰り返して活きるものでもないから」
千早「勉強になるわ」メモメモ
伊織「なんで春香は師匠面してるのよ」
春香「芸の師匠だからね」
伊織「リアクション芸しかできないくせに」
千早「それよりも、困ったわね。ここにいる三人とも社長の顔を憶えていないなんて」
春香「うーん、これはもう憶えている人を探したほうが早いかもしれないね」
伊織「いやいや普通はみんな憶えてるわよ。私たちがちょっと、ど忘れしているだけで」
真美「たっだいまー亜美だよー」ガチャッ
亜美「そして真美だよー」
春香「おかえり、真美亜美。そうだ、二人ならわかるんじゃない?いつも社長にも悪戯してるんだし」
亜美「騙されるどころか、もはやツッコミすらしてくれないとは……」
千早「最近いつもそうやって入ってくるからよ。同じネタを使い続けるのはよくないわ」
真美「ぐはっ!千早お姉ちゃんにネタの駄目だしをくらった!?」
千早「春香、さっそく役に立ったわ」
春香「やったね千早ちゃん。でも後にしてくれるかな。それで社長のことなんだけど」
真美「えー、今日はまだ社長には悪戯してないよ?」
伊織「『社長には』って……。いえ、今はそんなことどうでもいいわ。二人とも、社長の顔ってどんなだった?」
真美「社長の顔?」
亜美「なになにいおりん。もしかしてボケちゃったの?それともそういうボケなの?」
伊織「いいから!特徴言ってみなさいよ」
亜美「特徴って言ってもねー」
真美「髪が黒くてー……あれ?」
亜美「……あれあれ?」
千早「二人も憶えていないみたいね」
真美「タンマタンマ!!えっと顔……顔……顔?」
亜美「あれ、顔ってどこまでが顔だっけ?顔の特徴って?定義は?どの程度なら特徴と言えるの?」ブツブツ
真美「眼鏡は特徴?でも外したらそれはその人の特徴じゃなくなって?お化粧した顔は特徴といえるの?」ブツブツ
伊織「なんかまずい雰囲気になってない?」
亜美「あれ?目の前に亜美の顔がある。じゃあ亜美のこの顔は誰の顔?」
真美「あれ?目の前に真美の顔がある。じゃあ真美のこの顔は誰の顔?」
伊織「あ、まずいわこれ」
春香「仕方ないなぁ。せーの」
ドンガラガッシャーン
亜美「わっ!?」
真美「びっくりした!!大丈夫、はるるん?」
春香「大丈夫、大丈夫。おかえり」
伊織(せーのって言った……)
千早「このままではまずいわね。社長の顔が気になってしかたないわ」
春香「おとなしく社長の帰りを待つしかないのかな」
真美「んっふっふー。安心したまえ、諸君」
亜美「そろそろ我々の最終兵器が到着するだろう」
伊織「最終兵器?」
ガチャッ
律子「亜美、真美……ちょっと待ってって言ったでしょう」ハァハァ
P「事務所まで競争って、こっちは運動靴じゃないんだぞ……」ゼエゼエ
千早「最終兵器今にも倒れそうなのだけど」
伊織「最後に一回しか使えなさそうではあるわね」
春香「でもプロデューサーと律子さんは確かに最終兵器だよ!」
律子「最終兵器?何の話よ」
真美「それじゃあ、りっちゃんと兄ちゃんに問題です!」ジャジャン
亜美「社長はどんな顔でしょうか!」
P「社長の顔?そんなの…………」
律子「…………」
伊織「ちょっと」
P「いやいやいや、待て。ちょっと待てよ。……眼鏡はかけてなかったよ、な?律子?」
律子「え、ええっ!?た、たぶん……」
伊織「自分の雇用主の顔も憶えてないの!?」
春香(私たちが言えたことじゃないけどね)
P「ライフライン!ライフラインを要求する!」
真美「ライフラインはオーディエンスとテレフォンが残っております」
亜美「どちらを使いますか?」
P「フィフティフィフティは?」
真美「残念ながら一問目で使ってしまいました」
亜美「何やってんのさ、兄ちゃん」
P「これ一問目だけどな。どうする、律子?」
律子「え、乗るんですか?じゃあオーディエンスを」
真美「それではオーディエンスのみなさん、一斉にこれだと思う社長の特徴を言ってください。せーの」
「「「わからない」」」
P「ひでえ」
律子「まずいわね、本当に思い出せないわ」
P「ああ、なんか思い出そうとするたびに、看板とか木の枝が邪魔している感じだ」
亜美「どうしますか、まだライフラインは残っております」
千早「さっきから亜美たちは何をやっているの?」
春香「そういう番組があったんだよ」
律子「残ってるっていってもテレフォンでしょ?使いどころのないやつじゃない」
真美「テレフォン馬鹿にしちゃダメだよ、りっちゃん。序盤は役に立つんだから」
律子「序盤はいいわよ、自分でわかるもの」
真美「確かにテレフォンで兄ちゃんに聞いてわかる問題なら、りっちゃんわかるもんね」
P「あ、そこは俺なのか」
亜美「恋人からの電話を待つように、電話の前で正座する兄ちゃん」
律子「ちょ、恋人って!?」
真美「しかし最後まで待っても鳴らない電話」
P「哀しすぎる」
亜美「それでも兄ちゃんは待ち続け、いつしか兄ちゃんのまわりはカップルの集合場所となるのでした」
P「追い打ちか!!」
真美「むしろ死体蹴りだよねー」
千早「死体蹴り?」
春香「説明面倒だから、自分で考えてみてね」
伊織「師匠めんどくさがりね」
律子「恋人……」
春香「律子さーん律子さーん。……せーの」
伊織「やめなさい」
P「おっかしいなー、毎朝見てるはずなんだけどな」
律子「やっぱり疲れてるのかしら」
春香「でも私たちも憶えていませんよ」
千早「誰も社長の顔がわからないなんて……あ」
千早「わかったわ!やっぱりあれは社長じゃなくて、遊びほうけているおじさんだったのよ!!」
春香「何もわかってないよ、千早ちゃん」
伊織「だったらそのおじさんの顔は?ってなるでしょ」
P「ついでに本物の社長はどこだ?ともなるな」
律子「というか『あれ』呼ばわりはやめなさいよ」
千早「みんなよってたかって、春香のあとに続くなんて……なるほど!これが死体蹴りというやつね」
春香「千早ちゃんは勉強熱心だなぁ」
P「アイドルの路線に影響でないといいなぁ」
春香「私がちゃんと見てるから大丈夫ですよ」
P「本気で心配になってきた」
春香「ひどい!!」
伊織「全員が全員、同じことを忘れるなんて普通じゃないわ。でもこの現象に原因があるとすれば」
春香「社長だよね?」
P「原因ってひどいな」
真美「でもおかしいよ、こんなのー」
亜美「社長のせいとしか思えないっしょー」
律子「うーん、失礼だけどやっぱりそうなるわよね」
春香「むー、ずっと話してたらますます気になってきたよ。はやく帰ってこないかな、社長」
P「社長がいつ帰るか、律子知らないか?」
律子「知りませんよ。外出するとこ見てないんですから」
千早「はやく帰ってこないかしら」
伊織「伊織ちゃんを待たせるなんて、何考えてるのよ!」
真美「しゃちょー!!はやく来てくれーー!!」
亜美「だせー!社長をだせーー!!」
ガチャッ
「「「!?」」」
高木「な、何の騒ぎかね……?」
「「「…………」」」
高木「なんだね、じっと顔をみつめて。今食べてきた、昼食のご飯粒でもついているのかな?」
「「「普通だ……」」」
高木「……はぁ?」
高木「はっはっはっ!!そうか私の顔のことか」
P「す、すみません!!社長の顔を忘れるなんて!!」
高木「まあ、これには私の方にも責任があるからねえ」
春香「責任?」
高木「特徴がないというか影が薄いというか、昔から人に憶えられにくい顔でね」
高木「よく言われたよ『キサマの顔を思い出そうとすると、なんだか近くにある看板のことばかり思い出す』とね」
春香「ああー」
千早「春香……」
高木「『というか君の顔、もとから木の枝で隠れてなかったかい?』とかもあったな。理由はわからないが、私の顔はどうも記憶に残り辛いらしい」
律子「それは……」
高木「ああ、だから営業が本当に苦手でね。駆け出しのころは大変だった」
高木「営業に行こうにも先方に憶えてもらえなくてね。彼らの記憶の中では、私は顔が何かの陰になって隠れていて、相棒はなぜか常に顔に影があって隠れていたからなぁ。いやはや、懐かしい」
P「苦労なさったんですね」
高木「それなりにね。だから街で君の頭を見たときはティンときたよ」
高木「この若者ならきっと立派なプロデューサーになれると。どうやら私の目に狂いはなかったようだ」
P「そんな……恐縮です」
高木「そして律子くん。君のような美人を忘れるような男もいないだろう」
律子「そ、そんなこと!……ありがとうございます」
真美「目立ちまくりだね、兄ちゃん」
亜美「モテモテだねえ、りっちゃん」
律子「恥ずかしいから茶化さないでよ」
P「いいじゃないか、スタッフさん達の間では律子は有名だぞ」
伊織「あんたほどじゃないけどね」
高木「はっはっはっ!!おかげで私も社長業に専念できる。これからも期待しているよ」
P「はい!!」
千早「社長業ってなにかしら?……あ、わかったわ」ボソボソ
春香「私が悪かったから、自分で処理しようとしないで。たぶんわかってないし」ボソボソ
小鳥(こんにちは、音無小鳥です)
小鳥(先日の社長の騒動の時、ずっといました)
小鳥(いつものように。ええ、いつものように静かに事務所で仕事をしていました)
小鳥(事務所で一番社長と付き合いの長い私を、どうしてみんな思い出さなかったのでしょうか)
小鳥(それとも思い出していたけど、たぶん役に立たないだろうと思われていたのでしょうか)
小鳥(そんなことを思いつつ、今日も静かにお仕事します)
春香「ねえ、伊織」
伊織「どうしたの?また考え事?」
春香「プロデューサーの頭はなんでPの形してるんだろう?」
おしまい!
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