紅莉栖「ハロー、……ん? みんなどうしたの?」
まゆり「く、クリスちゃん……オカリンが、オカリンが……」
紅莉栖「岡部?」
ダル「オカリン、オカリン。あー、ダメだ……まゆ氏、どうやらマジみたい」
紅莉栖「何があったのか知らないけど……岡部、説明してくれる?」
岡部「えっ? ……俺が、ですか?」
紅莉栖「あれ……? なんか違和感が……」
岡部「すみません……俺、どうやら……記憶喪失みたいで」
紅莉栖「はあ!? 記憶喪失!?」
紅莉栖「えっ? 冗談でしょ……?」
ダル「冗談だったらいいんだけど……これ、マジなんだぜ」
紅莉栖「ほ、本当に記憶喪失なの……?」
岡部「ええ……どうやら、そうみたいですね」
まゆり「クリスちゃん……クリスちゃんなら治せるよね? オカリンを治してあげてほしいのです……」
紅莉栖「……治してあげたいのは山々だけど、私は医者じゃないから」
ダル「ですよねー……とりあえず、病院に連れて行くってことで」
紅莉栖「……今はそうするのが一番だと思う」
まゆり「ううー……オカリン、まゆしぃのこと忘れちゃったの?」
岡部「……ごめんなさい、何も思い出せないんです」
紅莉栖「早い段階で治療すべきよ。……ともかく、病院へ連れて行かないと」
病室
ダル「あっ、オカリン戻ってきた」
まゆり「オカリン……お医者さんに診てもらったんだよね? 治る……よね?」
岡部「……ごめんなさい、今は様子見だそうです」
まゆり「そ、そんなぁ……」
ダル「記憶喪失って……アニメの中だけかと思ってたけど、まさかオカリンが」
まゆり「クリスちゃん……オカリンを治すことはできないの?」
紅莉栖「自然治療、それで治れば何も問題は無いわ。でも、しばらく経っても治らなかったら……」
まゆり「治らなかったら……?」
紅莉栖「ショック療法、投薬、催眠療法、色々と方法はある。……でも、今は医者の言う通りにした方が良いと思う」
ダル「つまり、オカリンはしばらくはこのままってことか……」
紅莉栖「……気休め程度にしかならないけど、そんなに悲観的になることではないと思う」
ダル「もう一度頭ぶつければ治る、とかそういうことなん?」
紅莉栖「それは最終手段、例えば会話の途中で自然と思い出したりすることもあるの」
まゆり「……オカリンといっぱい会話すれば治るの?」
紅莉栖「その可能性もあるってこと。……でも、無理やり思い出させるのも危険。
脳に負担がかかり過ぎて、逆効果になってしまう可能性もあるから」
岡部「……ずいぶん、お詳しいんですね」
紅莉栖「へっ? あ、当たり前じゃない! 私が脳科学者ってことを忘れたのか?」
ダル「牧瀬氏、オカリンは記憶喪失なのだぜ……」
紅莉栖「あっ……そうだったわね」
岡部「……すみません」
紅莉栖「……ともかく、現時点では今まで通り岡部に接することが一番だと思う」
ダル「大学が始まるまではまだあるし、その間に治るといいけど……」
まゆり「オカリン……まゆしぃのせいで……ごめんね」
ダル「うーん……まゆ氏のせいではないと思われ」
紅莉栖「そもそも、何が原因で岡部は記憶喪失になったの?」
まゆり「それは……メタルうーぱが」
紅莉栖「……メタルうーぱ?」
数時間前 ラボ
岡部「そうだ、まゆり。渡し忘れていたものがあった」
まゆり「渡し忘れていたもの? なになにー?」
岡部「フッ……括目せよ! まゆり、これに見覚えは無いか?」
まゆり「ああー! メタルうーぱだー!」
岡部「その通り! この鳳凰院凶真、地獄より鋼鉄の球体を取り戻して来たのだ!」
まゆり「やったー! まゆしぃはとっても嬉しいのです」
岡部「いや、待てよ……これは確かプレミアがついているから高く売れるのだったな」
まゆり「ええー? ダメだよ、もうまゆしぃのって名前が書いてるんだよ?」
岡部「そんなことは知らん。さーて、どうしてやろうかな?」
ダル「オカリン……意地悪してないでさっさと渡せばいいんじゃね」
岡部「意地悪などでは無い! これは現実の厳しさを教える行為であってだな……」
まゆり「ううー……オカリン、まゆしぃに返してよー」
岡部「欲しいか? 欲しければくれてやる」
まゆり「本当? 欲しい、欲しいよーオカリン」
岡部「……ただし、この鳳凰院凶真から奪えたらの話だがな! フゥーハハハ!」
まゆり「奪うって……どうすればいいの?」
ダル「まゆ氏、力づくで取っちゃえばおk」
まゆり「そっかー。……オカリン、動かないでねー」
岡部「えっ? いや、力づくって……俺はまだ退院したばかりで」
まゆり「えいっ!」
岡部「や、やめろ! 落ち着け、まゆり!」
まゆり「早く返してよー!」
岡部「そ、そう簡単には渡せん!」
ダル(傍から見たらいちゃついてるようにしか見えないんですが、それは大丈夫なんですかね……?)
まゆり「……えいっ!」
岡部「なっ……しまった!」
まゆりに隙を突かれ、岡部はメタルうーぱを手から放してしまった。
その鋼鉄の球体は宙を舞い、そのまま重力に任せて――
岡部「――うごはっ!?」
まゆり「ああー! オカリンの頭にメタルうーぱが!」
岡部「ぐ、ぐうっ……」
ダル「えっ? オカリン倒れるとかどんだけひ弱……ってあれ? 起きない……?」
まゆり「お、オカリン? オカリーン!」
ダル「――という訳」
紅莉栖「……呆れて何も言えないわ」
まゆり「……ごめんなさい」
紅莉栖「ち、違うのよ。悪いのは意地悪をした岡部であって……」
岡部「……すみません、俺の悪ふざけでみなさんに迷惑をかけてしまって」
ダル「うっ……このオカリン、ものすごく違和感が」
紅莉栖「そうね……まだ一週間位しか話したこと無いけど、これは気持ち悪い……」
岡部「すみません……黙っていた方がいいでしょうか?」
紅莉栖「そ、そういう意味じゃなくて……あー、やり辛い」
ダル「ともかく、今まで通りオカリンには接するってことでFA」
紅莉栖「ええ、岡部もそれでいいわよね」
岡部「はい。……みなさん、よろしくお願いします」
紅莉栖・ダル「……やり辛い」
ダル「ところで、オカリンの記憶喪失は日常生活に影響があるレベルなん?」
岡部「いえ、そこまででは無いようです。箸の使い方は覚えていましたから」
紅莉栖「でも、自分や他人に関する記憶は無いってことか。ふむん」
まゆり「オカリン……まゆしぃは、オカリンと十年以上一緒にいたんだよ?」
岡部「そうなんですか……ごめんなさい、それなのに忘れてしまって」
ダル「自分の設定とかも忘れてるってこと?」
岡部「設定……? 何のことですか?」
ダル「機関、とか、エル・プサイ・コンなんとかとか」
岡部「エル・プサイ……思い出せませんね」
紅莉栖「……重症ね」
まゆり「オカリン……」
紅莉栖(しばらく会話をしてみたけど、変化は無しか……)
ダル「牧瀬氏、まゆ氏、そろそろ出ないとダメみたいだお」
まゆり「ええー……まゆしぃ、オカリンの側にいてあげたいのに……」
紅莉栖「……気持ちは分かるけど、今日は帰りましょう」
ダル「まゆ氏……明日は休日だしまたお見舞いに行けるから、今日は帰ろう」
まゆり「……オカリン、また明日お見舞いに来るからね?」
岡部「ええ、ありがとうございます。……でも、無理はなさらないでくださいね」
紅莉栖「……行きましょう、まゆり」
まゆり「うん……オカリン、またね」
岡部「はい、……また明日」
夜
岡部(あの後、父親と母親と名乗る二人が来てくれたが……何も思い出せなかった)
岡部(今覚えているのは、俺が岡部倫太郎ということだけ……)
岡部(……しかし、「また入院するなんて」と両親は言っていたな)
岡部(この腹の傷……これはいったい、どこで……)
岡部(……ん? メールか……誰だろう)
岡部「閃光の……指圧師?」
『岡部くん、記憶喪失になったって本当? 私のことも忘れちゃったのかな……。
お見舞いに行くから、その時は私のこと、思い出してね?』
岡部(……指圧師の知り合いがいたのか。しかし、なんで本名で登録していないんだ?)
岡部「またメール……フェイリス? 外国の方なのか?」
『凶真! 記憶喪失って本当ニャのか!? ……フェイリスが油断したばかりに、
この地に敵が……。って、こんなことを言ってる場合じゃニャいのニャ……。
でも、こうしていつも通りに接していれば、きっと思い出すはずニャ!』
岡部(……凶真、って誰だ? 迷惑メール……いや、思い出すって書いてあるから俺宛てなんだろうな)
岡部「またメール。漆原……?」
『岡部さん……記憶喪失ってお聞きして、ボク……こんな時に何もできなくてごめんなさい。
でも、身の回りのお世話とか、ボクにもできることはあると思います。……だから、何でも言ってください』
岡部(……この子はいい子だな。でも、一人称がボクってことは男なのか)
岡部(また来た。……三通、全部違う相手からか。一つめは、ダル)
『オカリン、記憶喪失とか厨二っぽくていいんじゃね?
って言っても、今のオカリンにはただの不幸な出来事なんだよな……。
まあ、この前退院したばかりでもあるし、今はゆっくり休むべきだろ常考』
岡部(……心配、してくれているのか? 次は……まゆり。あの女の子か)
『まゆしぃのせいでオカリンにまた迷惑かけてしまったのです……。
でも、今はオカリンが困ってるから、まゆしぃは全力でオカリンのことを助けてあげるからね?
こうなってしまったのはまゆしぃのせいだから……今は、まゆしぃを頼っていいからね』
岡部(……幼馴染、らしいな。十年も一緒にいたのか……もしかして、恋人。いや、そうではなさそうだな)
岡部(最後は、助手? ……助手って誰だ?)
『記憶喪失とか、本当にあるのね。実際に見るのは初めてだったから驚いた。
えっと……あんたは私を助けてくれたから、今回は私が助ける番なのかもしれない。
あー、医者の資格も取るべきだった。持ってたらあんたの脳を開いて……冗談。
でも、早く思い出して欲しいってのは本当だから……。おやすみ、また頭をぶつけるんじゃないわよ』
岡部(多分、心配してくれてるんだよな……本当に脳を開かれたりしないよな?)
翌朝
ルカ子「し、失礼します……」
岡部(……女の子? これは、昨日メールをくれた人の中の誰かなのか?)
ルカ子「岡……じゃなくて凶真さん。ボクのこと、覚えていますか?」
岡部「……ごめんなさい、何も覚えていないみたいです」
ルカ子「そ、そうなんですか……ボク、ボク……凶真さんに、忘れられるなんて……」
岡部「な、泣かないでください。記憶喪失になってしまったのは、俺のせいですから……すみません」
ルカ子「あ、謝らないでください……そうですよね、凶真さんが一番お辛いですよね」
岡部「……ところで、一つお聞きしたいのですが、凶真とはいったい何者なのでしょうか?」
ルカ子「えっ? あっ、そのことに関しても忘れているんですね……」
岡部「はい……できれば、岡部と呼んでいただけますか? その方がこちらも違和感が無いので」
ルカ子「分かりました。岡部さん……今日は、何でも言ってください。ボク、お世話いたしますから」
岡部(……可愛い子だな。女の子だよな? いや、ボクって言ってるから男なのか……?)
岡部「えっと、俺とはどういった知り合いなんですか?」
ルカ子「ボクは、凶……じゃなくて岡部さんの弟子なんです」
岡部「……弟子?」
ルカ子「はい、清心斬魔流をボクに伝えようとしてくれていて」
岡部(せいしんざんまりゅう……何のことだかさっぱりだ)
ルカ子「でも、このことも忘れてしまっているんですよね……」
岡部「はい……自分のことなのに、すみません」
ルカ子「い、いえ。でも、今こそ岡部さんに恩返しをしようと思います」
岡部「恩返し……?」
ルカ子「岡部さんに街で助けていただき、それから稽古をつけていただいて……」
岡部「そうですか……以前の俺、なかなか勇気があったみたいですね」
ルカ子「はい。岡部さんは……ボクの憧れの人なんです」
岡部(なっ……潤んだ瞳、まっすぐと見つめられ、憧れだと言われる)
岡部(こんな可愛い子に言われたらドキッとしてしまうな……だがおと――ッ!?)
岡部「あ、頭が……」
ルカ子「お、岡部さん!? どうされたんですか!?」
ルカ子「だ、誰か呼んだ方がいいでしょうか……?」
岡部「……いえ、何かを思い出しかけたようです。……でも、ダメでした」
ルカ子「そうですか……あの、無理はなさらないでくださいね」
岡部「ありがとうございます。……でも、このまま思い出せないなんてことだけは」
ルカ子「ええ、ボクも身の回りのお世話はさせていただきます。何でも言ってくださいね」
岡部「……すみません、よろしくお願いします」
ルカ子「えっと、早速ですが何かして欲しいことはありますか?」
岡部「して欲しいこと……風呂に入れないので、体を拭くタオルがあれば嬉しいのですが」
ルカ子「分かりました、今ご用意しますね」
ルカ子「タオルと洗面器を持ってきました。これでいいですか?」
岡部「ありがとうございます。……では、少しだけ部屋を出てもらえますか?」
ルカ子「えっ? どうしてですか?」
岡部「いや、見られるのは少し恥ずかしいので……すぐに終わりますから」
ルカ子「それでしたら、ボクがお拭きしますよ」
岡部「……えっ?」
ルカ子「あまり無理はしない方が良いですよ。まゆりちゃんに頼むのもアレでしょうから……」
岡部「い、いや、だからと言って……」
ルカ子「さあ、脱いでください。まゆりちゃんが来る前に終わらせましょう?」
岡部(は、恥ずかしくは無いのか……? いや、俺が過敏に反応しているだけか……)
岡部(半裸の自分、そして可憐な女の子……なんだこの状況は)
ルカ子「し、失礼します」
岡部「……んっ」
ルカ子「どうですか? 冷たくはありませんか?」
岡部「い、いや、大丈夫です」
ルカ子「岡部さんの体……ボクとは違って男らしいですね」
岡部「そ、そうですか? ひ、貧相だと思いますけど」
ルカ子「そんなこと無いですよ。……えいっ、よいしょ」
岡部(傷一つ無い綺麗な手、細い指……だ、ダメだ、考えてはダメだ……)
ルカ子「背中は終わりました。では、次は前を」
岡部「ま、前!? いや、流石にそれは!」
ルカ子「どうしたんですか? さあ、こちらを向いてください」
岡部「い、いえ、前は自分でも拭けますから! もう大丈夫です!」
ルカ子「あっ……そ、そうですよね。すいません、ボク……お怪我のことを何にも考えていなくて」
岡部「怪我? あ、ああ、この腹の傷……」
ルカ子「はい……ボク、岡部さんが入院したと聞いた時は……」
岡部「な、泣かないでください。傷の方はもう大丈夫ですから」
ルカ子「ぐすっ……ごめんなさい。でも、今回は少しでも力になれれば……」
岡部「ありがとうございます……では、また何かあったらお願いします」
ルカ子「は、はい! 何でも言ってくださいね?」
岡部(潤んだ瞳、どこからどう見ても可憐な女の子。……でも、何か引っかかる)
ルカ子「あっ、まゆりちゃんが来ましたよ」
まゆり「オカリン、トゥットゥルー♪」
岡部「……とぅっとぅるー?」
まゆり「うん、まゆしぃの挨拶だよ。こうやっていつも通りにすれば、
何か思い出すかもしれないってクリスちゃんが言ってたんだー」
岡部「なるほど。……まゆりさん」
まゆり「違うよ、オカリン。オカリンはまゆしぃのことを『まゆり』って呼んでたんだよ」
岡部「まゆり、ですか。では……まゆり」
まゆり「なーに、オカリン?」
岡部「えっと……トゥ、トゥットゥルー……これで合ってますか?」
まゆり「……へっ?」
岡部「あれ……? 違いましたか? 挨拶だと言っていたので、返してみたのですが」
まゆり「う、ううん。ちょっとびっくりしちゃっただけだから、大丈夫だよ」
岡部「なにに驚いたのですか?」
まゆり「ううん、気にしないでオカリン。じゃあ、改めて……トゥットゥルー♪」
岡部「トゥ、トゥットゥルー」
まゆり「違うよー。もっと楽しそうに……トゥットゥルー♪」
岡部「トゥットゥルー?」
まゆり「もっと明るくだよー。トゥットゥルー♪」
岡部「トゥットゥルー♪ こ、こうですか?」
まゆり「うんうん、まゆしぃは満足なのです」
ルカ子(岡部さん、一度もトゥットゥルーって言ってないと思うんだけど……言わない方がいいかな)
まゆり「オカリンのお家から、着替えとかタオルとか持ってきたからね」
岡部「ありがとうございます。そこに置いてくださいますか?」
まゆり「うーん……るかくん、この話し方、変えた方がいいかな?」
ルカ子「そうだね……丁寧な岡部さんも好きだけど、やっぱり前の方が」
岡部「何の話ですか?」
まゆり「オカリン、まゆしぃたちはオカリンより年下だから、そこまで丁寧に話さなくてもいいんだよ?」
岡部「そ、そうなんですか?」
ルカ子「ええ、以前の岡部さんは、こう……尊大、じゃなくて高慢……でもなくて」
岡部「……あまり良いイメージは無かった、ということですね」
まゆり「えっとね、もっと乱暴な話し方をすればいいと思うのです」
岡部「乱暴……えっと……まゆり、水を取ってくれ」
まゆり「おおー! オカリン、いい感じだねー」
岡部「そ、そうですか? じゃなくて……そうか?」
ルカ子「じゃあ、次はボクに話しかけてみてください」
岡部「分かりまし……分かった。ところで……あなたの名前、教えていただいてもいいですか?」
ルカ子「ボクの名前も忘れていたんでしたね……漆原るかです」
岡部「ありがとうございます。……るか、今日もいい天気だな」
ルカ子「……っ!?」
岡部「ど、どうかしたのか。るか」
ルカ子「い、いえ……大丈夫です」
ルカ子(呼び捨てにされたら少しドキッとしたなんて言えない……。お、落ち着かないと……)
まゆり「オカリン、るかくんのことはルカ子って呼んでたんだよ」
岡部「そうだったのか。ルカ子、……これで良いのか?」
ルカ子「は、はい。それで大丈夫です」
ルカ子(……ちょっと残念な気もするけど、岡部さんには戻っていただかないと)
岡部「なるほど、確かに違和感なく話せるな。……この調子なら、思い出すのも近いかもしれない」
まゆり「本当ー? でも、無理はしちゃダメだからね?」
岡部「ああ、分かっている」
ルカ子「岡部さん……ゆっくりでもいいから、思い出してくださいね」
岡部「ありがとう、まゆり、ルカ子」
まゆり「うん、やっぱりオカリンはその話し方が一番だと思うのです」
しばらくして
岡部「……もうこんな時間か。二人とも、そろそろ帰った方がいいんじゃないか?」
ルカ子「そうですね……まゆりちゃん、帰ろうか」
まゆり「ええー? もうちょっとオカリンとお話ししたいのに……」
岡部「今日はもういいだろう? ほら、暗くなる前に帰るんだ」
まゆり「うん……オカリン、寂しくなったら電話してね? まゆしぃならいつでもお話しできるから」
岡部「ああ、そうさせてもらうよ」
ルカ子「あ、あの、ボクもお話し相手でしたらできますから……遠慮なく、お電話してくださいね」
岡部「あ、ああ……ありがとう」
岡部(……女の子に電話してください、なんて言われたら、ドキッとするのも仕方が無いよな)
まゆり「じゃあね、オカリン。何かあったら電話してねー」
ルカ子「さようなら、岡部さん」
岡部「二人とも、気を付けるんだぞ」
岡部(……行ったか。二人から聞いたところ、俺は大学生らしい)
岡部(まゆりは俺の幼馴染であり、ルカ子とは同級生のようだ)
岡部(二人は仲が良く、ルカ子は最近まゆりに勧められ、コスプレを少しずつするようになってきたとか)
岡部(……と言われても、さっぱり思い出せないのが現状か)
岡部(そういえば、さっき頭が痛くなったな……もしかしたら、あれは思い出すきっかけなのかもしれない)
岡部(……少しずつではあるが、元に戻る可能性は十分にある)
岡部(そのためには……もっと会話をすべきだな)
翌日
岡部(今日は平日。まゆりもルカ子も学校が終わらないと来れない、と連絡があった)
岡部(……無理をしてまで来なくてもいいのだが、今は甘えておこう)
コンコン
岡部「ん? どうぞ」
萌郁「岡部くん、大丈夫?」
岡部「……誰ですか?」
萌郁「私のこと……覚えていない?」
岡部「……ごめんなさい、そうみたいです」
萌郁「桐生、萌郁。メールは見てくれた?」
岡部「メールって、朝に届いたこれですか?」
『今日はアルバイトが無いからお見舞いに行くね。でも、岡部くん、私のことも忘れてるんだよね……(; ;)』
岡部「つまり、あなたが閃光の指圧師さんですか?」
萌郁「……多分、そうだと思う」
岡部「多分? 指圧師の方なんですよね?」
萌郁「違う、私はブラウン管工房で働いている」
岡部「……指圧師では、無い?」
萌郁「うん」
岡部「それなのに指圧師……どういうことなんですかね」
萌郁「分からない。……でも、岡部くんは私のことを指圧師と呼んでいた」
岡部「じゃあ、指圧師って呼べばいいでしょうか?」
萌郁「その方が違和感が無ければ、そうした方がいいと思う」
岡部「分かりました。よろしく、指圧師さん」
萌郁「……よろしく」
岡部「…………」
萌郁「…………」
岡部「…………」
萌郁「…………」
岡部(……会話が、できない。向こうから話しかけてくれれば助かるが……仕方ない)
岡部「……あの」
萌郁「どうしたの、岡部くん」
岡部「何か話そうと思うんですけど、記憶が無いからあなたと話す話題が無くて……」
萌郁「……私も、岡部くんのことはよく知らない」
岡部「よく知らない……?」
萌郁「レトロPCを探すのに、少しだけ協力してもらっただけだから」
岡部「レトロPC、ですか」
萌郁「そう、IBN5100」
岡部「IBN、ごせんひゃ――ッ!?」
萌郁「岡部くん……? 大丈夫?」
岡部(あ、頭が……まただ、またこの感じ……何かを思い出しそうだ)
萌郁「誰か呼んだ方が……」
岡部「い、いえ、大丈夫です。もう落ち着きましたから……」
萌郁「……本当に大丈夫?」
岡部「ええ、心配させてしまってすみません」
岡部「じゃあ、あなたと俺はそこまで深い知り合いでは無いと」
萌郁「うん」
岡部「でも、その程度の関係なのにわざわざお見舞いに来たのはどうしてですか?」
萌郁「ピンバッチ、もらったから」
岡部「ピンバッチ?」
萌郁「これ、岡部くんが私にくれた」
岡部「……アルファベットが八文字、それに2010」
萌郁「何かあった時は、いつでも頼ってくれって言った」
岡部「そんなことを俺が……」
萌郁「今回は、岡部くんに何かあったから、私の方から動いてみることにした」
岡部「……ありがとうございます、助かりました。……一人だと、やっぱり少し寂しいので」
萌郁「……一人だと寂しい。それなら、来てよかった」
岡部「…………」
萌郁「…………」
岡部「…………」
萌郁「…………」
岡部(また会話が止まってしまった……しかし、話題が無い)
萌郁「岡部くん、ごめんね」
岡部「えっ?」
萌郁「私、話すのが苦手だから……」
岡部「い、いえ、居てもらうだけでもありがたいです」
萌郁「……本当に?」
岡部「ええ、こうしていれば何か思い出すかもしれないですから」
萌郁「……ありがとう、そう言ってもらえると嬉しい」
岡部「でも、メールだと印象が違いますね」
萌郁「……メールなら、直接話さなくてもいいから」
岡部「な、なるほど……じゃあ、メールで会話してみますか?」
萌郁「いいの? ここ、病室だけど」
岡部「許可は貰ってます。電話とかで記憶が戻るかもしれないって言われたので」
萌郁「それなら、メールで」カチカチ カチカチ
岡部(速っ!?)
萌郁「送らなくても、見せれば良い?」
岡部「は、はい」
萌郁「じゃあ、読んで」
岡部「えっと……」
『岡部くんって大変だね……最近まで入院してたのにまた入院。
今度は記憶喪失なんて……岡部くん、可哀想。少しでも私と話して思い出してくれないかな』
岡部「ほ、本当に……全然違いますね」
萌郁「…………」カチカチ カチカチ
『これなら何でも会話できるよ。何の話しようか? あっ、でもエッチな質問とかは駄目だからねw』
岡部「……何となくですけど、あなたが指圧師っていう理由が分かりました」
『えー、なになにー? 教えて教えてー』
岡部「そのメールを打つ速さ、指の動きが指圧師って理由なんだと思います」
『なるほどー。岡部くんって面白いね☆』
岡部「面白いのはそっちだと思いますけど」
『それって褒めてるように聞こえないよ? 馬鹿にされてたら悲しい><』
岡部(真顔でメール打ってるのに内容は……俺はこんな人とも知り合いだったんだな)
萌郁「……私、そろそろ帰らないと」
岡部「そ、そうですか。今日はありがとうございました」
萌郁「岡部くん、さようなら」
岡部「ええ、気を付けて」
岡部(結局、筆談のようなやりとりをしばらくして、あの人は帰って行った)
岡部(……そこまでの知り合いでは無い、というのが分かったくらいか)
岡部(そして、指圧師という呼び方の理由……記憶には関係あるのだろうか?)
岡部(まあ、無駄なことなんてきっと無いはず……ん?)
岡部「またメールか……」
萌郁『岡部くん、今日は楽しかったね。また二人でお話しできたらいいなー。
きっと、岡部くんの記憶も戻ると思う。だから無理せず頑張ってねb』
岡部(楽しかったのか……表情が読めない人だ)
ダル「あれ? オカリン一人とは予想外ですた」
岡部「あなたは……ダルさんでしたっけ?」
ダル「うへっ……寒気がする。僕のことはダルって感じで、それと話し方も乱暴な感じでよろ」
岡部「わ、分かった。ダル、見舞いに来てくれたのか?」
ダル「おっ、オカリンっぽい。まあ、見舞いというか、ナースさんを見に来たというか……ぐへへ」
岡部「……ダル、自重しろ」
ダル「へいへい。……ん? オカリン、自重とかそういう言葉は覚えてるん?」
岡部「自然に出て来たのだが、おかしかったか?」
ダル「いや、その辺の知識? 記憶? みたいなのはあるんだ、って思っただけだお」
岡部「自分のことなのに分からないとは……不思議なものだな」
ダル「ぬるぽ」
岡部「ガッ」
ダル「……なるほど」
ダル「で、オカリン何か思い出したん? あれから進展があったのかkwsk」
岡部「進展というものはあまりないな……ただ、会話の途中で頭が痛くなったことはある」
ダル「頭が痛い……もしかして、何か思い出せるんじゃね?」
岡部「その可能性はある」
ダル「どんな時に頭が痛くなったのか覚えてる?」
岡部「一度目は……ルカ子が、俺を潤んだ瞳で見つめて来た時だ」
ダル「のろけ? いや、でもるか氏だと……いやなんでもない」
岡部「次は、IBN5100の話をしていた時だ」
ダル「IBN5100? 都市伝説の話されても……」
岡部「共通点はさっぱりだ……現状はこんなところだな」
ダル「つまり、まだまだ終わらないよ! ってことでおk?」
岡部「ああ……残念だが、そういうことになるな」
ダル「まっ、そこまで焦る必要も無いと思われ。勉強とかには影響しなさそうだし」
岡部「そういえば、もうすぐ大学が始まるのか……」
ダル「夏休みの半分くらいを病院で過ごすとか、不幸ってレベルじゃねーぞ」
岡部「……この腹の傷、か。いったい、何があったのか……」
ダル「知らないうちに傷を受けていたとか、厨二っぽくていいんじゃね?」
岡部「ダル……どうして俺を厨二にしたがる」
ダル「記憶を失う前のオカリンの半分は厨二で出来ています」
岡部「……俺は厨二病だったのか。なんかショックだ」
ダル「だって、自称がアレだったし」
岡部「アレ? アレとは何のことだ?」
ダル「ほら、狂気のマッドサイエンティスト(笑)っていつも言ってんじゃん」
岡部「狂気のマッドサイエン――ッ!? ま、まただ……」
ダル「お、オカリン?」
岡部「これだ……この痛み、何かを思い出そうとすると……痛む」
ダル「そ、そんなこと考えてる場合じゃないお! ……オカリン、大丈夫?」
岡部「ああ、大丈夫だ……心配させて悪かったな」
ダル「べ、別にオカリンのことなんて心配してないんだからねっ」
岡部「……気持ち悪いからやめてくれ」
ダル「さて、と。僕はそろそろ帰るけど、引き止めるなら今のうちなんだぜ?」
岡部「言ってろ。さっさと帰れ、暗くなる前にな」
ダル「ウホッ、さり気なく僕の心配するとかオカリンマジ紳士」
岡部「……せっかく来てくれたのだ、心配くらいはする」
ダル「おっ、デレ期キター?」
岡部「う、うるさい! いいから帰れと言っているだろうが!」
ダル「へいへい。じゃ、またなオカリン」
岡部「ああ、……またな」
岡部(また、か。……俺にも頼れる友人は居たようだな)
岡部(……狂気のマッドサイエンティスト。それを自称する痛い男、それが俺)
岡部(確かに痛々しい、だが……不思議と悪い気はしないな)
岡部(少しずつだが確実に記憶は蘇ろうとしている。……それは間違いないはずだ)
次の日
岡部(……誰も来ないと暇だな)
岡部(そういえば、ルカ子と指圧師の正体は分かった。あと残っているのは……)
岡部(フェイリス、それに助手……いったい、この二人は何者なのか)
「凶真ー!」
岡部「……っ!? だ、誰だ!?」
「凶真……やっと巡り合えたのニャ……長き歳月を越え、ついにこの時が来たニャ!」
岡部「何がなんだかさっぱり分からない……えっと、あなたは誰ですか?」
フェイリス「ニャニャ……凶真、本当にフェイリスのことを忘れたのかニャ?」
岡部「ああ……あなたがフェイリス、納得しました」
ハ{::::::::/::::::::::::::::::辷,_:ヽ:::\:::::::::::::::::::::::::::}/:::::::::::::::人ノ丿
∧/⌒ヽ─-::::::::ユ /^ー-ニ:;_:::::::::::::::::::ノヘ:::::::::::彡::/
/ :∨ ハ ':::::::::爻 { /⌒^'ー--‐¬}弌-ァ<⌒ヽ
/ /ハ l }:::::彡 { { ,リ } {:{::l ヽ ',
. / / ∨ }::リ __ { / / 从:{ ハ} :}
', / ', }::l ⌒^弌、 ヽ / ハ::::}/ }
∨ ,rヘ //∧:l l朷トミ≧ュ_ _,x≦ /ノ乂 /
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ノ「 / ////'  ̄ ̄) / ^¨ ′ '
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_.. -‐'^ / |: l {/ ≠::::; -‐- 、 , : /│
. -‐''^ ││ ./ ∧:/ . - \ ヽ ノ / }| 機関の妨害が入っている!気をつけろ!!
l | ./ // /:::::::ヘ ┘rー- .._ . リ
∧〈 { ' /_,. -─ヘ. `二ニ´ / / 取り合えず、
/ ヽ', '´ ,.‐ァ寸 ; ; / | }/
\ / } / / `ー++チ' │ / このまま観測するとだけ伝えておこう………
\ { { //| | /
\ { }_ _彡 | l } ………エル・プサイ・コングルゥ………!!
フェイリス「凶真……本当に記憶喪失にニャっているとは」
岡部「え、ええ、冗談だったら俺も嬉しいんですけど」
フェイリス「でも仕方が無いのニャ……これは凶真への試練、凶真の運命ニャ!」
岡部「はあ……」
フェイリス「ううー……凶真、ノリが悪いニャ。いつもみたいに乗ってくれニャいと」
岡部「そ、そう言われましても……」
フェイリス「これだと、いつも通りに接しようとしてるフェイリスが馬鹿みたいニャ……」
岡部「俺も、いつもそんな感じだったんですか?」
フェイリス「そうニャ! 鳳凰院凶真としてこの世を混沌に導く……って、言っても無駄ニャのかニャ……」
岡部(そういえば、まゆりの話で聞いたような……。鳳凰院凶――ッ!? こ、これもか……)
フェイリス「きょ、凶真!?」
岡部「はぁ、はぁ……大丈夫だ……気にしないでくれ」
フェイリス「凶真……」
岡部「……せっかくお見舞いに来ていただいたのに、申し訳ないです」
フェイリス「気にしニャいで欲しいのニャ。フェイリスは……凶真を現世に連れ戻すためにやってきた使者なのニャ!」
岡部「な、なるほど……それは、心強いですね」
フェイリス「うニャー……そんニャ年上の余裕とか出さニャいで欲しいのニャ……」
岡部「す、すみません。えっと……じゃあ、この凶真を現世に、えーと……降臨させていただければと思います」
フェイリス「凶真……がってんニャ! フェイリスにお任せニャンニャン♪」
岡部(……本当に任せて大丈夫なのだろうか)
フェイリス「……凶真、疑ってるんじゃニャいかニャ?」
岡部「えっ? そんなことは……」
フェイリス「凶真、覚えておくニャ。フェイリスには……嘘をついても無駄ニャ」
岡部「わ、分かりました……覚えておきます」
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',: :-≦三《 /. :'⌒: . ヽ \\ ', : :l // /. :'⌒: .ハ 》三≧-: :,'
》∧: ; Ⅵ|l | :|: :'⌒ヽ: :ハ \ ',: :l / /:/ :'⌒ヽ |: | l|Ⅳ ; :∧《 出 番 ま だ?
人: ; Ⅵ | :| :| :[]: |: |:│ ヽ ',:l / | :| :| :[]: |: |: | Ⅳ ; :人
∨从 人ヽ:_;_;_;_:ノ ノ 〉 ',! 〈 人ヽ:_;_;_;_:ノ ノ 从∨
∨ \ 丶、;_;_;. イ . : : . 丶、;_;_;. イ / ∨
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八: : : :> 、 ,. <: : : :八
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_人_: : : : : :::l l::::: : :>:. ., <二> ,. .:<: : :::l |::: : : : : : _人_
ヽ_《 : : : : ::〈 ̄ ̄`'<三三≧=‐--‐=≦三三>'´ ̄ ̄〉:: : : : : 》_ノ
ヽ》 : : : : : ::乂 ` <三三三三三> ´〃 乂:: : : : : : 《/
ー个ー个⌒\  ̄ ̄ ̄ 〃 /⌒个ー个ー'′
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しばらくして
フェイリス「――あっ、そろそろメイクイーン+ニャン2に行かニャいと」
岡部(……た、助かった。意味の分からん厨二トーク……さっぱりついていけなかった)
フェイリス「凶真、今日はこの辺にしといてあげるニャ♪」
岡部「きょ、今日は? ってことは……」
フェイリス「まだフェイリスと凶真の共鳴は終わっていニャいのニャ!」
岡部「……もう十分話したと思うんですけど」
フェイリス「だーめなーのニャー。こうやって会話をすることで、少しでも鳳凰院凶真に近づけるのニャ!」
岡部「そう、ですか……はあ」
フェイリス「……凶真」
岡部「これ以上話すことは……って、ネコ耳を外して何をする気で」
「凶真……ううん、岡部さん」
岡部(……雰囲気が、変わった?)
岡部「ど、どうしたんですか急に呼び方を変えて?」
留未穂「今日は岡部さんを疲れさせちゃったから……最後に謝りたくて」
岡部「そ、そうですか。いや、わざわざ俺なんかのために来ていただいてありがとうございます」
留未穂「……もし、記憶が戻ったら、今こうして話していることは忘れちゃうのかな」
岡部「それは……俺には分かりません」
留未穂「もし忘れられたら、ちょっと助かるかな。……今の私を覚えていられると、少し恥ずかしいから」
岡部「それなら、今もあのままで放し続ければ良かったんじゃ」
留未穂「ううん、こうやって話せば、岡部さんのことを本当に心配してるって伝わるかなって思ったの」
岡部「……大丈夫です、そんなことしなくても俺を元気づけようってのは伝わりましたから」
留未穂「良かった。でも、それだけじゃないの。……何故かはわからないけど、
岡部さんの前だとこうやって、何も気にせず留未穂になれるから」
岡部(この子は……どっちが本物なんだ? ただ、この姿……どこかで見覚えが)
フェイリス「……よいしょっと」
岡部「ネコ耳……それつけたら変わるんですか?」
フェイリス「そういうことニャ。凶真、焦らず無理せず、ゆっくり思い出していってね♪」
岡部「……あまり、ゆっくりとはいきたくないですけどね」
フェイリス「じゃあ、フェイリスは行くニャ。凶真、また会おうニャンニャーン」
岡部(……不思議な子だった。ただ、俺を心配しているというのは伝わってきた)
岡部(ただ、意味の分からん厨二トークは……キツイものがある)
岡部(……今度は俺にもついていけるレベルにしてくれって頼もう)
次の日
岡部(両親が来てくれるから病院生活に困っている訳では無い……)
岡部(まゆりやルカ子が世話に来てくれるのも助かる。……ただ)
岡部(このまま記憶が戻らなかったら……そう考えると、不安なのは間違いない)
岡部(……いくつかのキーワード、それを口にしてももう頭痛は起きない)
岡部(新しい情報、忘れている情報が必要だ……そのためには、誰か)
紅莉栖「ハロー、岡部。少しは記憶が戻ったかしら?」
岡部「あなたは……牧瀬さん、でしたっけ」
紅莉栖「うっ……寒気がする。そんな呼び方されたこと無いわ」
岡部「では、何と呼べばいいんですか?」
紅莉栖「前みたいにクリスティ――はっ」
紅莉栖(ここで教えなければ、助手とかクリスティーナなんて呼び方はされない……?)
岡部「あの、どうかしましたか?」
紅莉栖「えっ? えっと、私の呼び方よね……その私のことは、く、紅莉栖って呼んで」
岡部「紅莉栖? 呼び捨てでいいんですか?」
紅莉栖「え、ええ。それと、そんな丁寧な言葉遣いじゃなくて、もっと乱暴な感じで」
岡部「では……紅莉栖、これでいいのか?」
紅莉栖(お、おおっ!? な、なんかいい……これは、正直たまらん)
紅莉栖(って、どうして会って間もない男のことでこんな風になるのよ私……)
紅莉栖(そ、それは命の恩人とか、そういうのはあるけど……)
紅莉栖(く、紅莉栖、だって……うひゃー、恥ずかしい……)
紅莉栖(…………何考えてるんだろ、私)
岡部(紅莉栖って呼び方、どうもしっくりこないな……)
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i : : / |: : : :, .:八__ノ刈^刈:..:.│i_ハ イ:... !
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| : : V」 : i: : ノイ 弋__ノ刈: : : .;゜ ・・・駄目だこの私
| : :.:.:| i: :|: :i │ ,.1:/. :, 早く何とかしないと・・・
|: : :.:i | |: :|: :| ′ .′′.′
八 : :| | |: :|: :l\ ‐_ァ . ^:/.: :,
/ . : : ノノr|: :|: :|\\ 1| {: :{:. :/
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/ : : : : ハ V |: :|: :|゚|:|: { i ./リノ′: :) }
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岡部「紅莉栖、一つ聞いてもいいか?」
紅莉栖「へっ? な、何かしら?」
岡部「助手、という名前に心当たりは無いか? その人とだけ、まだ会えていないのだ」
紅莉栖「……ああ、それ、私のことみたいよ」
岡部「助手? 紅莉栖が?」
紅莉栖「そう。秋葉原で再会したときはクリスティーナ、
ラボに案内されたら今度は助手……こっちは何も知らないけどね」
岡部「クリスティ――ッ! こ、これもか……」
紅莉栖「お、岡部!? まさか……記憶が蘇ろうとしてるの?」
岡部「はぁ……くっ……いや、まだだ。まだ思い出すまではいかない……」
紅莉栖「そ、そうなのか。……とりあえず、息を整えて落ち着きなさい」
紅莉栖「どう、落ち着いた?」
岡部「ああ……すまないクリスティーナ」
紅莉栖「……なんで呼び方を変えたのかしら?」
岡部「こっちの方がしっくりくる、気がする」
紅莉栖「変なとこだけ戻りやがって……」
岡部「クリスティーナ、先程言っていたことについて聞きたいのだが」
紅莉栖「ティーナじゃねえっつーの。……そういえば、これも自然と出て来たのよね」
岡部「ん? 何のことだ?」
紅莉栖「気にしないで、こっちの問題だから」
紅莉栖「あんたは私を助けてくれた、それは覚えてる?」
岡部「……いや、覚えていない」
紅莉栖「そう……まあ、それに関しては私も詳しく聞きたいけど」
岡部「……もし記憶が戻ったら、その時の俺に聞いてくれ」
紅莉栖「そうするわ。で、その後私はあんたにお礼を言うために秋葉原に来た」
岡部「そこで再会した、ということか」
紅莉栖「ええ、岡部ったら急に泣き出して驚いちゃったわよ」
岡部「……身に覚えはないが、少し恥ずかしいな」
紅莉栖「そしてラボに案内され、まゆりや橋田、ラボメンのみんなと知り合ったって訳」
岡部「会ってすぐにしては、ずいぶんとフレンドリーだな」
紅莉栖「私もそう思う。でもすぐに打ち解けたし、それが心地よかったのよ、不思議とね」
岡部「……そして俺が記憶喪失になった」
紅莉栖「そういうこと、流れはこんな感じ。OK?」
紅莉栖「さて、と。自分のことに関してはみんなから色々聞いた?」
岡部「ああ、……ずいぶんと痛い男のようだな」
紅莉栖「ええ、街中でも白衣を着たり、繋がってもいない電話に出るふりしたり」
岡部「……典型的厨二病だな」
紅莉栖「まあ、それも個性だから。今は気にしなくてもいいわ。……で、話はここから」
岡部「話?」
紅莉栖「しばらくホテルで考えてみたのよ、そんな簡単に記憶喪失になるのかって」
岡部「簡単にって……俺はメタルうーぱとやらが頭に当たり、そのショックで記憶喪失になったのだろう?」
紅莉栖「でも、たかが小さな鉄製の球体がそこまで脳にショックを与えるかしら?」
岡部「何が言いたい、クリスティーナ。原因が他にあるというのか?」
紅莉栖「ええ、その衝撃は――ただのきっかけだったのではないか、ということ」
岡部「……きっかけ?」
紅莉栖「心的外傷後ストレス障害・PTSDって言って通じるかしら」
岡部「いわゆる、トラウマというヤツか?」
紅莉栖「それは心的外傷の一般的な解釈のこと。私の言っているのはそれによって起こるものの話」
岡部「トラウマによって起こるもの?」
紅莉栖「自分が傷ついたり、衝撃を受ける事件を目撃したり、それによって心的外傷が生まれる」
紅莉栖「起こった出来事が心の傷となった場合、その時のことがフラッシュバックしたりする」
紅莉栖「何度もその時の出来事が脳裏に呼び戻されたり、更にこれらの記憶を引きずり出すような事案に遭遇すると、
極端な恐怖心が起こったりもする。その辛い記憶を呼び戻させてしまうものを特に避けるようになる」
紅莉栖「この避ける行動は、部分的な記憶喪失といった形式で示されることもあるの。
その他、心的外傷後ストレス障害では不眠や、覚醒亢進、感情が麻痺したり、それを失ったりすることもある」
岡部「産業で」
紅莉栖「辛い体験を思い出したくない
岡部を記憶喪失にすれば思い出さない
だから岡部は記憶喪失になった」
岡部とセックス!セックス!
厨二ゆとり短小包茎筆下ろしセックス!
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人 __ ./.:.:.:./.斗-、 / . -‐… 、 ヽ , 厂Y/
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岡部「つまり、俺は……何かを思い出さないために記憶喪失になっている?」
紅莉栖「そういうこと。まあ、これはあくまでも一つの仮定に過ぎない」
岡部「だが、可能性はある……」
紅莉栖「本当にそうなのかは分からないけどね。ただ単純に、受けた衝撃が強かったのかもしれないし」
岡部「それならばいつかは記憶が戻るだろう。だが、お前の仮説が正しければ……」
紅莉栖「そう簡単には戻らないかもしれない……ってことになるわね」
岡部「……その場合、どうすれば記憶が戻る?」
紅莉栖「投薬、心理療法、音楽療法なんてのもある。……ただ、言えるのは」
紅莉栖「その記憶を思い出さないと、根本的な解決にはならない」
岡部「記憶を取り戻すには、記憶を思い出さないといけない……無茶苦茶だな」
紅莉栖「……そうね。まあ、一つはもう心当たりがあるけど」
岡部「何? それは本当か?」
紅莉栖「ええ、一つは……そのお腹の傷、私を助けるために受けた傷」
岡部「この傷か……」
紅莉栖「……ナイフか何かで刺されて、さらに抉ったような傷跡」
岡部「確かに、これ程の傷なら……心的外傷となってもおかしくは無いな」
紅莉栖「……私は、ある程度は覚えている。それを話せば、記憶が蘇るかもしれない」
岡部「……よし、話してくれ、クリスティーナ。記憶を取り戻すためだ、協力してくれ」
紅莉栖「それは……よく考えてからにした方がいいと思う」
岡部「何故だ?」
紅莉栖「この話をすると、もしかしたら……あんたの身体に色々な異常が出てしまうかもしれない」
岡部「身体に異常……?」
紅莉栖「パニックを起こしたり、麻痺したりする可能性もある。
それに、あんたが本当に心的外傷後ストレス障害とは決まった訳じゃない」
岡部「だが、思い出す可能性もある。それならお前の話を聞こう」
紅莉栖「……こういうのは長期的に解決した方が良いと思う、焦るのは危険よ」
岡部「構わん。いつかは思い出さなければならないなら、今聞いても後で聞いても結果は変わらない」
紅莉栖「……後悔、しない?」
岡部「お前は後悔するか?」
紅莉栖「する、かも……」
岡部「ならば任せる。話したくなければ、何も話さなくて良い」
紅莉栖「……分かった。安心しなさい、何かあったら最先端の脳科学チームが結集してあんたを救ってあげるから」
岡部「頭とか開かれたりしそうで逆に怖いな……まあいい、話してくれ」
紅莉栖「いい? リラックスして、余計なことを考えない」
岡部「ああ、……始めてくれ」
紅莉栖「一か月半くらい前……ドクター中鉢のタイムマシン講演会があった」
岡部「ドクター中鉢……」
紅莉栖「そこにあんたは居た。ドクター中鉢に対して質問、というか罵詈雑言?
ともかく、あんたは講演会をメチャクチャにした。その後――」
岡部「……その後」
紅莉栖「私は、ドクター中鉢に……父親に、自分の論文を……」
岡部「父親……論文――ッ!? ぐ、ぐうっ……!」
紅莉栖「お、岡部!?」
岡部「あ、安心しろ……頼む、続けてくれ……」
紅莉栖「私は……父親に首を絞められて……そこにあんたが現れた」
岡部「……俺が、助けに来たのか」
紅莉栖「そう……あんたは私を助けるために……パパに、刺された」
岡部「――ッ! ぐ、ううっ……あ、頭がぁ……!」
紅莉栖「も、もうやめた方が……岡部、無理しちゃ駄目!」
岡部「続けろ……続けてくれ……もう少しで、後少しで思い出せそうなんだ……」
紅莉栖「……あんたは、血だらけになりながらも……私を庇って、パパを脅して……」
岡部「がっ……はぁ、はぁ……! そして俺は……」
紅莉栖「……私は、そこで気絶した。だから、覚えているのは……ここまで」
岡部「俺は……お前の父親を、追い払った……そして、自らの傷に、手を……」
紅莉栖「お、岡部……?」
岡部「傷を、広げ……血を……」
紅莉栖「あ、あんた……思い出したの? でも、傷を広げるなんて……どうして……」
岡部「言ったではないか……お前は、お前は……」
「お前は……俺が、助ける」
紅莉栖「それ……私が気を失う前に、あんたが言った……」
岡部「……ああ、その通りだ助手よ」
紅莉栖「お、岡部……記憶が」
岡部「……思い出したよ。……だが、お前のことだけだ」
紅莉栖「私のこと、だけ……?」
たまには真面目なの書こうとしたらこれだ。そしてもうこんな時間
このスレはなかったことにしよう
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