春香「永遠に」(302)
この作品はフィクションです。
実在の人物、団体、場所、事件とは一切関係ありません。
十二月に入ってから、街は唐突に慌ただしくなった。
十一月の、ぼんやりとした年末への待ち遠しさが充満した空気は消え去り、誰もが焦り出している。
既に一ヶ月を切ったクリスマスのために、若い人達が恋人探しにやっきになっているからだろうか。
アイドルである私も例外では無い。
恋人と過ごす聖夜に憧れない女の子はいないのだ。
私の場合は、恋人候補は一人きりだけど。
私は学校が終わって事務所に行く途中だった。
冬のこの時間では日は沈みきっていて真っ暗だ。
それでも、私の気分は晴れやかで清々しい。
思わず、スキップしたくなるほどに。
私は、またカバンの中に入った紙袋を確認してしまった。
手芸屋で買った毛糸と編み棒が入っている。
プロデューサーさんのためにマフラーを編んであげるつもりだった。
プロデューサーさんへのクリスマスプレゼントだ。
今年に入ってまだプロデューサーさんがマフラーをしているのを見ていない。
渡した時の喜んだ顔が浮かび、また嬉しくなる。
自然と笑みがこぼれる。
きっと、ありがとうって言いながら私の頭を撫でてくれるだろう。
最近のプロデューサーさんは忙しく、ほとんど事務所にいない。
私の仕事についてきてくれることも前より少なくなった。
事務所にいる時は、山のような書類を片付けている時なので、話しかけられないのだ。
ドアを開けて事務所に入る。
挨拶をしようと思って口を開いた時、ある光景が目に飛び込んだ。
「プロデューサーお茶ですぅ」
「ん?雪歩か……ありがとう。そこに置いておいてくれ」
「ダメですよプロデューサー」
「ずっと働きっぱなしなんですから、そろそろ休みましょう?」
「分かったよ、雪歩。ありがとうな」
「えへへ」
この光景を見るのも久しぶりだ。
プロデューサーさんが雪歩の頭を撫でている。
以前ならなんでも無い光景だ。
しかし、頭を撫でられている雪歩の嬉しそうな顔とプロデューサーさんの優しい笑顔を見てもやもやした気持ちになる。
「……おはようございます」
「おお春香か、おはよう」
「春香さん、おはようございます」
事務所には雪歩しかいないようだ。
みんなトップアイドルになってからは、事務所で他のアイドルに会うことのほうが珍しくなった。
今ここで言っとかないとあとで誰か粘着なやつが言いそうだから指摘しておくが
春香「ちゃん」だぞ
>>18
悪い
この後も間違ってたら脳内補完してくれ
それでも、プロデューサーさんほどじゃない。
プロデューサーさんにあったのは19日ぶりだ。
今日も机の上には書類が溢れかえっている。
また、話をしてもらえないと思い、気分が一気に落ち込んだ。
「春香、ちょっといいか?」
「は、はいっ。なんですかプロデューサーさん?」
「ちょっと話がある。こっちに来てくれ」
プロデューサーさんの机の前まで行く。
「なんですか?」
私が尋ねると、プロデューサーは少し悩んだ様子で言った。
「社長も帰ったし、社長室でいいか……」
「春香、一緒に社長室に来てくれ」
「はぁ、分かりました」
プロデューサーさんと一緒に社長室に入る。
プロデューサーさんは応接用のソファに腰を下ろすと早々に切り出した。
「俺が最近忙しいのは気付いているな?」
「ええ、事務所にもほとんどいませんし……」
「……実はな、俺765プロを辞めるんだ」
「……え?」
頭が真っ白になる。
プロデューサーさんが辞める?
「それ本当なんですか!?なんで、なんで辞めちゃうんですか!?」
「落ち着け、声を抑えろ」
「すっ、すみません……」
「辞めるというか、新しくプロダクションを作ることになった」
「それって、独立するってことですか?」
「形式上はな。でも、実質765プロの別部門みたいなものだ、アイドル事務所じゃない。アーティスト専用の事務所だ」
「アーティスト……?」
「ああ」
アイマスSS書くのは始めて
モバマスは2個ぐらい書いたが
「アイドルのプロデューサーとして手に入れたコネクションを使って、今度はミュージシャンのプロデューサーをやることになった」
「前からやりたかったんだが、社長が協力してくれてな。だから、今忙しいんだ」
「それって……ですか?」
「ごめん春香。聞こえなかった」
「私も連れていってくれるんですよね……?」
「……春香のプロデュースは律子に引き継ぐことにした」
「そんな……どうして……」
「さっきも説明した通りだ。春香はアイドルで売り続けていく。だから、765プロのほうがいい」
「……誰を連れていくんですか?」
プロデューサーさんに尋ねながらも、私は既に答えが分かっていた。
「千早は新プロに移籍する」
なんか勘違いさせたみたいですまん
下手くそだが楽しんでくれたら嬉しい
ほら、なんかあるだろ
断りを入れたほうがいいかなっていうような感じ
自分に合わないと思ったら見るのをやめてくれよ
「千早は本格的に歌手として売ることになった」
「……」
私は何も言えなかった。
プロデューサーの疲れきった顔の中で、目だけは期待に輝いていたから。
社長がみんなにプロデューサーさんのことを発表してもあまり騒ぎにはならなかった。
勘のいい数人は既に気づいていたし、新プロに移籍と言っても実際は765プロであることが理由だった。
社長の発表の翌日に、プロデューサーさんの私物は新しい事務所に運ばれて行った。
そして、それと入れ替わるように、新しいマネージャーが三人増えた。
社長がスカウトして来たらしい。
小鳥さんは、年が近い女性が増えて嬉しそうだった。
「もうこんな時間……」
マフラーを編んでいるといつの間にか時間が立っている。
時計を見たら、既に午前4時だ。
明日、というか今日は朝からバラエティの収録があるのに。
早く寝なくちゃ、と思うのに手が止まらない。
布団に入った時には既に5時近かった。
頭が重い。
胃がむかついて、気持ち悪い。
無理やり目を瞑ると何時の間にか眠りに落ちていた。
「お疲れ様でしたー!」
バラエティ番組の収録が終わった。
「お疲れ様、春香」
律子さんが労いの言葉をかけてくれる。
私はそれに答えようとするけど、口がうまく動かなかった。
「春香?大丈夫!?春香!」
視界から色が消えていき、灰色の世界に変わっていく。
本当に辛い時は体が自分のものじゃないみたい。
そんなことを思っている内に意識は途切れた。
頭の上で誰かが話している。
この声は律子さんとプロデューサーさん?
「医者はなんて?」
「寝不足とストレスだろう、って言ってました」
「そうか……」
「すみません。私の注意不足でした」
「いや、律子のせいじゃない」
「春香は……春香だけはギリギリまで俺が見るよ」
「ご迷惑をおかけします……」
「だから、律子のせいじゃないって」
再び意識が戻った時、まず目に入ったのは、プロデューサーさんの顔だった。
「お、春香。気づいたか?」
「プロデューサーさん……?」
「なんでここにいるか分かるか?」
ここって……病院だろうか。
「分かりません」
「バラエティ番組が終わってすぐ倒れたそうだ」
そうだ。
終わったら、頭がフラフラして……
「律子さんは……?」
「律子は帰った。点滴して貰ったから明日には退院できるだろう」
「あと、お前はやっぱり俺が担当するからな。安心しろ」
「だから、もう一度眠れ」
「分かりました……」
「あ、あのプロデューサーさん?」
「なんだ?」
「手、握って貰ってもいいですか?」
「ずっと握っててやるよ」
「ありがとうございます」
目を瞑る。
プロデューサーさんの手の温かさを感じる。
私はまた眠りへ落ちていった。
朝日が眩しい。
カーテンの隙間から日差しが差し込んでいる。
私の左手を握ったまま、プロデューサーさんが椅子を並べて寝ていた。
安らかな寝息を立てている。
プロデューサーさんの顔をじっくり眺めると、疲れた顔をしている。
何日も寝ていなかったのだろう。
このままでは、プロデューサーさんが壊れてしまう。
それもこれも全部……
「んぅ……はあぁ……ん?春香起きてるのか?」
「はい、プロデューサーさん」
「体調はどうだ?」
「昨日よりは全然いいです」
「そうか……」
「あのお父さんとお母さんは……」
「昨日春香が寝ている間にご両親がお見えになってな」
「そうなんですか?」
「ああ」
「病院に泊まるとおっしゃられたが俺の責任だから俺に面倒を見させてくれるよう頼んだんだ」
「そんな、プロデューサーさんのせいじゃないです!」
「私が夜更かししたから……」
「あまり気にするな」
「朝食を食べて、診察を受けて問題なければ退院だ」
「ところで……」
「はい?何ですか?」
「手を離してもいいか?」
「は、はい、あの、ありがとうございました」
病院の朝食は思っていたのよりも美味しかった。
昨日の朝から何も食べていなかったのもあるかもしれない。
お母さんが届けてくれた私服に着替えて、病院を後にした。
「千早ちゃん。一つ聞いていい?」
「何かしら?」
「千早ちゃんはプロデューサーさんのことどう思ってるの?」
事務所で偶然千早ちゃんに会った時に尋ねた。
「……どうって、尊敬してるけど」
「……そういう意味じゃないって分かってるでしょ?」
「そうね、恋愛感情はないわ」
「今は一番大切な時期だから、スキャンダルは困るもの」
「ふーん、そうなんだ」
「なんだか、プロデューサーさんが千早ちゃんだけ大切にしてるから」
「そんなことないわよ、春香」
「プロデューサーさんが一番大切にしているのは春香よ」
「その証拠に倒れてからの一週間はずっと春香と一緒でしょ?」
「それは春香のことを気遣ってるからじゃないかしら?」
「それに言動に春香への好意が見え隠れしてるし」
「えへへ、千早ちゃんもそう思う?」
「ええ。春香はプロデューサーに告白しないのかしら?」
「えっ?」
「も、もうすぐクリスマスだから、その時にしようかな」
「ふふふ、がんばってね」
「プロデューサーならきっと受けいれてくれるわ」
「そ、そうかな」
「そうかも。ありがとっ、千早ちゃん!」
「プロデューサーさんっ!クレープですよ!クレープ!」
「春香、クレープを食べるには寒くないか?」
私が倒れてから、仕事がある日は毎日プロデューサーが付き添ってくれるようになった。
だから、帰りはちょっとしたデート気分だ。
「じゃあ、暖房が効いたプロデューサーさんの部屋でたべましょうよ!」
「全く、仕方が無いな」
プロデューサーさんは優しい。
私にだけ優しいのだ。
「はい、どうぞ」
「お邪魔しまーす」
「プロデューサーさんの部屋、結構片付いてますね」
「私、もっと汚いかと思ってました」
「ははは、元々物が少ないからな」
「その分、片付いて見えるんじゃないか?」
「それじゃクレープを食べましょう」
「今、紅茶をいれるから少し待っててくれ」
テーブルにつきながら、ベッドの下にいかがわしい本とか無いか調べる。
「ん?見られてやましい物は無いぞ」
「それとも春香はそういうのが見たかったのか?」
「もう、プロデューサーさんったら!」
「はは、悪い悪い。はい、紅茶」
「ありがとうございます」
「いただきまーす。あ、これすごく美味しいですよ!」
「お、そうかそうか」
「プロデューサーさんは何にしたんですか?」
「俺は、抹茶だな」
「あーん」
「どうした?雛みたいに口を開けて」
「もう、わかってるくせに、一口下さいよー」
「はい、どうぞ」
「そうじゃなくて、食べさせて下さい!」
「分かった、分かったから睨むなよ」
「あーん」
「はい、あーん」
「あ、抹茶も美味しいですね!」
「そうなのか?」
「プロデューサーも私の食べて下さい!」
「え、なんか恥ずかしいな」
「しかも、間接キス……」
「いいから、口開けて下さい」
「分かったよ……あーん」
「はい、あーん」
「どうですか?」
「どちらも甲乙つけがたいな」
「本当ですよね」
「甘いのはあまり好きじゃないが、これは程よく甘くておいしいな」
「また、一緒に食べましょうね!プロデューサーさん!」
ため息を一つ吐く。
明日は遂にクリスマスイブ。
マフラーはすでに編み終えている。
プロデューサーさんに似合うように青いマフラーだ。
明日は午前が雑誌のインタビューで、午後はバラエティ番組の収録。
プロデューサーさんとはバラエティ番組の収録が終わったら、デートする約束をしている。
千早ちゃんに言ったように、私は明日プロデューサーさんに告白する。
もう、この気持ちは抑えきれない。
他の何を引き換えにしても、私の思いを伝えたい。
アイドルであることでさえ……
チャンスはもうほとんど残されていない。
今はまだ、プロデューサーさんは私の側にいてくれる。
千早ちゃんに言ったように、私は明日プロデューサーさんに告白する。
もう、この気持ちは抑えきれない。
他の何を引き換えにしても、私の思いを伝えたい。
アイドルであることでさえ……
チャンスはもうほとんど残されていない。
今はまだ、プロデューサーさんは私の側にいてくれる。
でも、この状況が永遠に続く筈はない。
本当に忙しくなったら、プロデューサーさんは私を見捨ててしまうかもしれない。
私がどんなに愛していても、プロデューサーさんにとっては担当アイドルの1人にすぎない。
そう、ただの仕事の道具。
これはなるべく、考えないようにしていることだった。
プロデューサーさんが私を好きじゃない可能性があるということ。
765プロはアイドル事務所だ。
プロデューサーさんの周りには可愛い女の子で溢れている。
例えば、千早ちゃん。
本人は気にしてるみたいだけど、あのスレンダーなボディは魅力的だ。
そして、他のアイドルでは太刀打ちできない歌唱力。
私とは比べ物にならないぐらい才能がある。
確かに、千早ちゃんは私を応援すると言ってくれた。
それでも、プロデューサーさんは分からない。
態度に出さないだけで、本当は千早ちゃんが好きなのかもしれない。
それに、千早ちゃんだけ新プロに連れていくのも怪しい。
私じゃなく、千早ちゃんを選ぶなんて……
私が一番プロデューサーを愛してるのに。
他のアイドルの中でなら美希が一番可能性が高い。
あのルックスは人の目を引く。
髪も含めてとにかく派手だ。
個性のない私とは違う。
多少問題なのは性格だけど、プロデューサーさんはなんだかんだ言いながらも美希と関わるのが嫌いじゃないようだ。
美希のほうはプロデューサーさんをハニーって読んだりして、あからさまにアピールしている。
プロデューサーさんはおそらく気づかないフリをしているだけだ。
他のアイドルたちも、みんなプロデューサーさんが好きなのはバレバレだ。
私は勝てるんだろうか。
私が他の人に勝ってることってなんだろう?
……何も思いつかない。
アイドルとしてだって、はっきり言って微妙だ。
個性がないことを正統派という言葉で誤魔化してるだけだ。
こんな私をプロデューサーさんは選んでくれるだろうか。
胸が締め付けられる。
涙が頬を伝って落ちた。
もう、こんな悲しい思いをし続けたくない。
だから、私はマフラーを編んだ。
会えなくなる前に、せめて気持ちだけでも伝えるために、マフラーを編んだ。
明日も早いから。
不安を無理やり抑えつける。
プロデューサーさんはきっと受け入れてくれる。
そう自分に言い聞かせ部屋の電気を消した。
しかし、布団に入って目を閉じても、睡魔はなかなか訪れなかった。
「プロデューサーさん!どうでしたか?今日の私!」
「ああ、いつもより気合入ってたな。ディレクターもほめてたぞ?」
「ありがとうございます!だって、これから……///」
「……分かったから、早く着替えておいで」
「はい!ちゃんと待ってて下さいね?」
「分かった、分かった」
私は楽屋に向かって走る。
一分でも一秒でも早くプロデューサーさんとイブを過ごしたい。
外れにくい衣装のファスナーがもどかしい。
気が急いて、手が震える。
ようやく、着替え終えると急いでプロデューサーのところに行く。
しかし、プロデューサーは話をしていた。
千早ちゃんと。
思わず立ちつくしてしまう。
頭の中を駆け巡るのはどうしてばかり。
どうして?
どうして千早ちゃんがここに?
どうしてプロデューサーさんと話してるの?
どうしてそんなに楽しそうなの?
どうしてプロデューサーさんは嬉しそうなの?
どうしてプロデューサーさんは私以外の女の子に笑いかけてるの?
どうして?
「あ、春香」
千早ちゃんが私に気づいた。
「それじゃ、プロデューサー、私はこれで」
「ああ、頑張れよ」
千早ちゃんが私のほうに歩いてくる。
すれ違う時に声をかけてくる。
「頑張ってね。春香」
「……ありがと」
私も小声で返す。
やっぱり、千早ちゃんは私を裏切らない。
千早ちゃんは私を応援してくれている。
だって、千早ちゃんは私の友達だから。
「春香、行こうか」
「……はい!プロデューサーさん!」
「と、言っても予約してないからなー」
「終わる時間も分からなかったし」
「……実は私、行きたいところがあるんです」
「ん?どこだ?行ける範囲なら行ってやるぞ?」
心臓の音がうるさい。
頸動脈を血液が流れていくのが聞こえる。
「……プロデューサーさんの部屋……です」
「…………分かった」
私とプロデューサーさんは途中でチキンとケーキを買った。
少しでも、クリスマス気分を味わうために。
「……どうぞ」
「お邪魔します!」
プロデューサーさんの部屋に入るのは二度目だ。
「プロデューサーさん……早く食べましょう!」
「落ち着けって……」
「……なぁ、春香……」
「なんですか?」
「今なら、まだ戻れる」
「家に帰るなら送っていくぞ……?」
「……プロデューサーさんが何言ってるのか分かりませんけど?」
私はニコニコしながら答えた。
「……そうか……いや、なんでもない」
「じゃあ、早く食べましょうよ!」
食事の準備を整える。
高級なレストランでも夜景が綺麗なレストランでもない。
普通のマンションの一部屋でのクリスマスイブ。
でも、私にとって重要なのは、プロデューサーさんの部屋であること。
それだけだ。
食事が終わったら、プロデューサーさんの部屋にあったアイドルのライブDVDを見て過ごした。
お前らのパンツは既にやよいの弟達に寄付した
お前は何故アブノーマルへ走りたがるんだ
普通にイチャつかせろよ
なにはともあれ乙、病んでる感じ嫌いじゃない
前書いたのが知りたい
教えろください
>>251
両方モバマスたて逃げのっとりのはず
プロデューサー「杏、働け」杏「(……帰って寝たい)」
P「かな子、お前ちょっと太っただろ」
このSSまとめへのコメント
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