高垣楓「プロデューサー、今夜飲みにいきません?」(234)

P「いいですね、今日はもうこれで仕事終わりですし」

楓「グイグイと速いペースで終わっちゃいましたからね。グイっと一杯いきましょうか」

P「……」

楓「?」ニコニコ

P「ええ……いきましょうか。この前穴場の店を見つけたんです」

楓「まぁ」

P「結構小さいところなんですけど……雰囲気はよくて、出てくるお酒もいいものばかりなんですよ」

楓「それは楽しみです……今からお腹がなっちゃいそう」

P「あまり量は多くないですけど、味は保証しますよ。楓さんの舌にあるものも多いかと」

楓「ふんふん、わくわくしてきちゃいました♪」

P「店長さんも美人ですしね」

楓「……ふーん…」

P「ああ、あと……これを」 っ帽子とサングラスとスカーフ

楓「これは?」

P「楓さんも有名になってきましたし。ちょっとした変装です」

楓「ああ、なるほど……なるほど、こうしてみると私、凄くアイドルっぽいですね♪」イソイソ

楓「どうです? 似合ってます?」

P「ええ、普段と違ってまた格好良いです……しかしこれじゃぁ、変装の意味もないかもですね」

楓「え?」

P「格好良くって。正体は隠せても目立っちゃいますね」

楓「……お上手ですね、プロデューサー♪」

P(楓さんまじ天使)

P「……」

楓「あらら……」

張り紙「申し訳ありませんが、GW中、出かけるので閉店します。」

P「すいません、期待させといた結果がこれで……」

楓「いえいえ……でも、このまま変えるのも勿体ないですよね」

P「うーん……この時間だと、どこも混み始めてるかなぁ」

楓「そうですねー……あっ」

P「?」

楓「折角変装してますし……普段できないこと、しちゃいましょう♪」

スーパー

P「こうして楓さんと一緒に買い物とかするの、初めてですかね?」

楓「仕事の合間に一緒にコンビニとか行くのを除けば、確かに初めてかも?」キョロキョロ

P「はは、これってなんだか…………」

楓「なんだか……?」

P「……いえ、なんでもないです」

楓「?」

P「すんません、ささっと買い物済ませちゃいましょう」

楓「そうですか……あ、この試食品のブドウ美味しい」

楓(……このぶどう、一つぶどうだい?)

楓「……イケル」グッ

P(……お忍びでデートしてるみたい、とか一瞬思っちゃったけど流石に言えないよな)

楓「あれ、いつもここに置いてあるもやし……今日は売り切れてる?」

P「ちょっと前が半額タイムだったみたいですね。凄い勢いで無くなったようで」

楓「あら残念……なんだか、微妙に高い食材ばかり残ってますね」

P「まぁ、予算は気にしなくてもいいですよ。さっきがダメだった分、奮発しますから」

楓「ふふ……それじゃぁお言葉に甘えて」

P「どんな高い肉だってどんとこいですよ。なんなら松阪牛だってどんとこいです」

楓「今からそれ買いに行ったらGW中につき終わっちゃいますよ、プロデューサー」

P「まぁ、気持ちはそれぐらいということで」

楓(もやしを買い占める為に闘志を燃やした子がいたのね)

楓「ええと、お酒は…」コレトコレト……

P「楓さんは日本酒派でしたっけ?」

楓「ええ、ビールも飲みますけど……一番好きなのは、日本酒です」ヒョイヒョイ

P「それなら、ウチにとびっきりのがありますので。楽しみにしててくださいよ」

楓「あら……じゃあ、今度こそ、期待してますね?」クス

楓(こうして買い物を終えて、プロデューサーのお家までやってきたけれど)


楓「……そういえば私。男の人のお家に上がり込むの、初めてです」

P「あはは、狭いとこですいません。あ、袋はそこの机の上に」

楓「あ、はい」

P「それじゃ、料理始めますんで。テレビでも何でも見ながら暇を潰しておいてください
  DVDはそこの棚に入ってますんで……あ、ちなみにそっちの部屋に行くとシャワールームです」

楓「なるほど……つまり『先にシャワー浴びてこいよ』ってことですね。男らしい」

P「……今はオフですけど、アイドルがあんまり男の人にそういうこと言っちゃダメです」

楓「はーい…」

楓(もう、ちょっとくらい乗ってくれてもいいのに……こんなこと、プロデューサーにしか言えないし)

P(やばい凄い言って見たい)

P(楓さんに「プロデューサーのお家、行って見たいです」とか言われた時は焦ったけど)トントン

P(一昨日にいかがわしい物は全て売り払ったから大丈夫……なハズ)グツグツ

P(お腹を空かせて待ってる楓さんの為にささっと済ませちゃおう)シュタタタ

楓(……DVD、映画の他にはアイドルのライブ映像ばっかり)

楓(私たちの事務所のものから、ライバルのところや……名前を聞いたことが無いようなアイドルのDVDもある)

楓(オフの日にも、仕事のことばかり考えているのかしら?)

楓(あ、あっちのドア開いてる)

楓(こっちは……シャワールームか。さっき言ってた通りね)

楓(で、こっちがトイレ……ってあれ)

楓(トイレットペーパー、三角に折られてる)

楓(プロデューサー、以外と几帳面なのかしら?)

楓(それとも……)

P「…っ!?」ゾク

P「今、なんか寒気が」

楓(他にめぼしい物は……)キョロキョロ

楓(あ、あっちに洗濯物落ちてる……このTシャツ、オフの日に着るのかしら)

楓(……匂いは…)クンクン

楓(…当たり前だけど、洗剤の匂いだけね……ちょっと残念かも、なんて)パサッ

楓(あれ?今何か小さいものが落ちて………これは…)

楓「小さい、靴下」

楓(あの人のでは……ないわよね。サイズが合わないし)

楓(そしてこの柄……黄色い縞々で、花の模様がついている)

楓(ちっちゃな女の子が履きそうな……)

楓(誰、だろう)ギュウッ


P「っ!!?」ゾゾゾクッ

P「さっきより遙かに強烈な寒気が……っ」トントン

P「嫌な予感がするしさっさと仕上げないと……って痛!?」ドンドンドンドンザシュッ

\イタァッ!?/

楓「!?」スタタッ

楓「プロデューサー、どうしたんです!?」

P「いや、ちょっと手を滑らせて指切っちゃって……あいたた」ドグドグドグ……

楓「た、大変……!」

楓(血、止めなきゃ――)グイ

P「すみませんが、ちょっとそこの絆創膏をとって……楓さん?」

楓「じっとしてて下さい」

楓(確か、こういう時は――)

楓「――ぱく」チュウゥッ

P「か、かえっ!?」

P(ゆ、指がががが)

楓「…………んー」チュウチュウ

楓「……んっ」ペロペロ

楓「んぅ……」チュパチュパ

楓「……っぷはぁ」

P「 」

楓「……ドラマとかで、ちょっと憧れてたんです、こういうの…」

楓「絆創膏、取ってきますね」

P「 」

楓(やっちゃった………けど、これぐらいなら…)ペタペタ

楓「はい、プロデューサー。絆創膏貼りましたけど、大丈夫です?」

P「 」

楓「……プロデューサー?」ユサユサ

P「はっ!?」

楓「もう、大丈夫ですか? お料理、替わった方が」

P「い、いえ大丈夫ですから!? 楓さんは座って待っててください!」

楓「ダメ、です。全然大丈夫そうに見えませんもん……せめて、包丁は私に握らせて下さいね」

P「はい……すいません」

楓(その後、度々ぼうっとするプロデューサーが火傷とかしそうになったけど、どうにかつつがなく終わって)


P「それじゃ、大きな仕事も終わりましたし」

楓「私たちのがんばりに」

P・楓「乾杯!」


楓(ようやく、食事が始まりました)

ググったら川島さん可愛いじゃないか……

楓さん(25)
川島さん(28)
高橋さん(35)

楓(プロデューサーと私で選んだお肉は、松阪牛とまではいかないけど中々美味しくて)

楓(お酒の効果もあり、ついついペースを考えずにパクパクと)

楓(……体重とか、今は考えないでおこうっと)

楓「肉だけに贅肉が憎い……」ボソッ

P「?」

楓「あ、そういえばプロデューサー」

楓「さっき、あそこに靴下が落ちてたんですけど……」ゴクゴク…

P「あ、すいません散らかってて……なにしろ急でしたから」

楓「いえ、そういうことじゃなくて」ゴクゴク

楓「あの靴下、明らかに女性のでしたよね」

楓(それも、小さな女の子の)

P「……あっ」

楓「ねぇ、プロデューサー」

楓「あれは一体、誰のですか?」

P「……」ゴクリ

楓「………」ジー

P「どうしても言わないと、ダメですか?」

楓「……」ジー

P「……あの」

楓「……」ジー

P「あの、ですね……」

楓「……」ゴクリ

P「……はぁ……それはきっと、莉嘉のです」ポリポリ

楓「……え?」

楓(プロデューサーのお家に莉嘉の靴下? 洗濯物として?)

楓(ここで、莉嘉の服を洗濯するようなことが? あったってこと?)

P「ちょっと前に、撮影がよ夜遅くまで伸びちゃって」

楓(つまり、それって……)

楓(……)

楓「プロデューサー、えっちですね」

P「ええ!?」

楓「だってつまり……その、夜遅くに…」

楓「お家に、あの子を連れ込んで……?」

P「えいやいやいや!! そういうコトは一切してませんから!!」

楓「ふぅん?」

P(楓さんが怖い)

楓「なら、どういう?」

P「いや、この前のテレビの企画をやらせる時、莉嘉が絶対イヤだーって言ったじゃないですか。
  その時に、『何でも一つ言うことをきく』的な約束をしたんですよ」

楓「ああ、そういえば……」

P「それでこの前の仕事の後に、莉嘉がそのことを持ち出してきて……」

楓「あぁ……」

P「どうしてもウチに泊まりたい、とか言い出したんですよ。勿論止めようとしましたけど」

P「莉嘉も何故だか粘ってきて、結局こっちが折れることに」

楓(ちょっと、情けないような)

P「大人はウソツキだーっとか言われたくないですし」

楓「じゃぁ、『そういうことは?』」

P「誓って一切、してないです。ハイ」

楓「そう……」

P「なんとか親御さんに説明して、一晩泊まらせましたけど、流石に手を出したりは……」

楓「彼女、まだ幼いですもんね」

P「ええ……それに、プロデューサーとしてそれは有り得ないですよ」

P「寝る場所が無かったので、俺がソファで寝て、莉嘉がベッドで寝て、それで終わりです」

楓「……」

P(……朝起きたら莉嘉が俺の上で寝てたことは言わない方がよさそうだ)

楓「……わかりました。おかしなことをきいてすいません」

P「いえいえ、きちんと片付けなかった俺が悪いですから………ささ、じゃ、飲み直しの一杯を」トクトク

楓「えぇ……いただきます」

P(それから、楓さんの飲むペースが急激に上がって)

P(秘蔵の日本酒も、あっと言う間に半分ほどに)

P(そして……)


楓「ふふ、プーロデューサー♪」

P「はい?」

楓「呼んでみただけです♪」コツン

P「はは……」

楓「プーローデューサー♪」クイクイ

P「はい?」

楓「呼んでみた、だーけでーす♪」コツン

P「はは……」


P(可愛いけど酔ってる。酔ってるけど可愛い。けど可愛い)

楓「私たちがこういうことするの、プロデューサーだけですよー?」

楓「その辺り、わかってますー?」

P(むしろ他の人たちに見られてたら結構な問題です)

楓「もう、なんかいってくださいよー」

P「ええ、ああ、はい、スンマセン」

楓「もー」ツンツン


P(楓さんのこういう顔、新鮮だな)

楓「大体プロデューサーはですねー変なトコで鈍すぎるんです!」

P「はぁ……」

楓「私も口下手な方ですけど……」

楓「言わずにわかって貰いたいことだって、あるんですよ?」

P「はぁ……」

楓「あともう一つですねー…………」

P(……こうして、彼女の愚痴のようなちょっとだけループしてる話は一晩中続いた)

P(俺がスカウトしたばかりの頃の彼女とは比べものにならないくらい饒舌であった)

ちょっと次から移動しながらもしもしで書く

P(ベロンベロンな彼女をそのまま返すわけにもいかず、泊めていくことになった)



――チュン、チュン……

楓「……んっ…」

楓「……この、ベッド…?」フカフカ

楓「……」クンクン

楓(……)

楓(そういえば、私)

楓「プロデューサーの家に、泊まったんだっけ……」

楓「……」クンクン

P「――あ、起きました?」ガチャ

楓「……ええ。おはようございます、プロデューサー」

楓(プロデューサー…寝癖ついてる……)

P「あれだけ飲んでたからちょっと不安でしたけど……二日酔いの心配もなさそうです?」

楓「ええ……」

P「シャワー、好きに使っていいですから」

楓「はい……」フラフラ

P「シャンプーとか使っていいですから」
楓「はい……」フラフラ

――サァァ……

楓(私…昨日は……)

楓(たしか…プロデューサーと飲んで……)

楓(……)バシャバシャ

楓(プロデューサー…このシャンプー使ってるんだ……)カシュカシュ

楓「あ、シャンプーとボディソープ間違えた……」

楓(少しパサパサする……)

ガチャ

P「あ、さっぱりしました?」

楓「ええ…お陰様で」

P「コーヒーいれてあるんで、良かったらどうぞ」

楓「はい…ありがとうございます」


P(風呂上がりの楓さん…しっとりした髪……上気した頬……気怠げな眼差し……)

P「…ゴクリ」

楓「?」ゴクゴク

楓「ふー……」コト

P「いやぁ、昨日はいい飲みっぷりでしたねぇ」

楓「……飲むのに、最適な気分でしたから」

P「あはは……誰にも言わないで下さいね。莉嘉から『みんなには内緒だよ☆』とか言われてるんで」

楓「妙に意味深な……」

P「それにしても、楓さん」

楓「はい?」

P「やっぱりすっぴんでも凄い美人ですよね」

楓「……ありがとうございます…」

楓(……少し不意打ちだけど、嬉しい)

P(朝起こしに行ったら違うお姉ちゃんが寝てた、とか言われる人もいるこの業界で)

P(この素顔は、もう)

楓「……」

P(まじ女神)

楓「そうだ、プロデューサー……一つ、いいですか?」

P「ああ、はい」

楓「私も、プロデューサーにお願いがあるんです」

P「お願い?」

楓「はい、莉嘉のお願いと、同じような感じで」

P「ええまぁ……あまりムチャなものじゃなければ」

P(楓さんなら余り無茶振りは無いだろ…多分)

楓「それじゃ、言いますね」

楓「今度、私のCDのランキングが一位になったら」

楓「一緒に温泉に行きませんか?」

P「温泉?」

楓「ええ、いいところがあるんです」

楓「そこで温泉たまご、作るんです」

楓「温泉たまご作るの、結構大変なんですよ?」

楓「そして、勝負するんです……どっちのたまごの方が美味しいか」

楓「ね、どうでしょう」

P「それなら勿論……というか、俺からお願いしたいくらいですよ」

楓「ふふ……良かったです」

P「それでは、ちょっとした決意表明を」
楓「?」

P「不肖、プロデューサー! 今度のCD、全力を持って応援する次第であります!」ビシイッ

楓「……なんですか、それ」クスッ

P「あはは…楓さんが可愛くてつい」

楓「……もう」

楓「……それじゃ、私はそろそろ」

P「はい、お疲れ様でした……っとコレ、忘れないで下さいね」っ帽子とサングラスとスカーフ

楓「あ、忘れてた」

P「ファンが見たら、CDで一位を取るどころじゃなくなりますからね」

楓「それは困っちゃいますね……では、また職場で」

P「はい、お疲れ様でした」

楓(――そして、数ヶ月経って)

楓「……デビューしたての新人アイドル達が、トップアイドルを目指しながらアイドル力を高めるべく、精一杯頑張る番組」

楓「目指せ、シンデレラNO1」

楓「皆様の応援もあって、久しぶりに私がパーソナリティを勤めさせていただくことになりました」

楓「――ありがとうございます」ペコリ

楓「皆様の期待に応えられるよう精一杯やるので、よろしくお願いします」

楓「それでは、早速……本日は、お便りが来ているみたいですね」

楓「ペンネームは『MIKI』さん」

楓「『こんばんは。シンデレラNO1、いつも楽しく聴いてるよー』――ありがとうございます」

楓「『最近……ミキね、悩みがあるんです』」

楓「ふむふむ、悩み……ですか」

楓「『リンスとシャンプー、二つ使ってるのに無くなるタイミングはいつもバラバラ』」

楓「『別々に買いに行くのは何かスッキリしなくてイヤなの』」

楓「『何かいい方法ないかなーって』――ふむ、なる程」

楓「確かに、そういうのってありますよね」

楓「別にいいかなーって思ってる時は何も問題ないのに」

楓「いざ必要になると無くなってたり」

楓「とりあえず、リンスinシャンプーを使ってみるとかどうでしょう」


楓「それでは次の――ってあら、このお便り。まだ続きがありました」

楓「『あともう一つあって』」

楓「『最近ね、ある人のことを考えてると、胸がドキドキするの』」

楓「『苦しいのにイヤじゃないの……どうすればいいかなぁ』……おお」

楓「青春、してますねー……」

楓(学生時代、思い出すなぁ)

楓「……MIKIさんが、きちんとその人のことを見ているなら、答えはきっとすぐに出ます」

楓「大事なのは、今すぐどうこうしようってことじゃなくて……」

楓「その気持ちを長く持ち続けることが、解決への近道……なのかな?」

楓「自分でも何言ってるのかよくわからなくなってきたけど――そういうものなんです!」

楓「コホン、それでは、次のお便りです」

楓「ペンネームは『ののワ』さんですね――こんばんは」


楓(こんな感じで)

楓(入ってきた仕事を成功させたり失敗させたりで、中々似忙しくアイドル生活を続けてる)

楓(そうそう、ランキングの結果は――)

社長「それでは、プロデューサー君、高垣君……一週間、ゆっくりと楽しんできてくれたまえ」

社長「あとくれぐれも、マスコミには気を付けるように……」

P「わかってますって社長。ウィッグもサングラスもバッチリです」

楓「ええ……なんだか、スパイになった気分です♪」

社長「頼んだぞ、人の目はどこにでもあるからな……」

P「それじゃあ、社長」

楓「いって、きますね」

社長「ああ、お土産も頼んだぞ――」



P「道案内はお任せしましたよ」

楓「ええ、今日は私がプロデューサーをガイドしますね」

楓「どーんと、大船に乗ったつもりでいてください」

楓「温泉たまご、一緒に頑張りましょうね」

P「楽しみです」

楓「のぼせない為のコツがいくつかあってですね……」

P「ふむふむ……」 ピラッ

楓「まず、汗の出方が――」

楓(ってあれ、プロデューサー、今何か落とした……?)ピタッ

P「楓さん……?」

楓(えっと、確かそこら辺に……)テクテク

楓(………)ピタッ


P「楓さん……?」

楓「……プロデューサー」

楓「このハンカチ、誰のですか?」

楓(レースの可愛らしいハンカチ)

楓(絶対にプロデューサーの物じゃないし、莉嘉の趣味でもなさそう)

楓(あとは……?)

P「あ、これは……」

楓「……」

P「――確か、幸子に貰ったやつだ」

楓「その話、詳しく聞いても……?」

P「ええ、確かあれは――」


幸子『プロデューサー……納得がいきません』

P『ん?』

幸子『高垣さんと莉嘉は確か、今日は水着を着て写真撮影でしたよね?』

P『うん』

幸子『――だったら』

幸子『だったら何で!ボクだけ朝の四時から!!タケノコ掘りなんですか!?』

P『いやだってそういうオファーが来たし』

幸子『断って下さいよそんなの!』

P『いやでも意外と多いみたいだぞ、この声』

幸子『……え?』

P『いつも自信満々な幸子が苦労しながら頑張る姿を見たい!っていう声』

幸子『はぁ……』

P『幸子が裏でいつも悩みながら必死に頑張ってるのは知ってるけど』

幸子『なッ!?』

P『だけど、視聴者はいつものSっ気たっぷりな幸子しか知らない』

P『気になるあの子の意外な姿を見てみたい!って思うのは当然なんじゃないかな』

幸子『それにしたって……』

P『それにさ』

幸子『……なにか?』

P『幸子はどんな姿でも魅力的だから、で土に汚れた姿も様になると思うんだ』

幸子『えぇー……』

P『意味も無くこんなことを言ってるんじゃない』

P『幸子のあらゆる表情を見てみたい。俺はその全てが魅力になるって信じてる』

P『だから、今回のロケでその証明をしたいんだよ』

幸子『……まぁ、プロデューサーさんがそこまで言うなら、特別に出てやらなくもないです』

幸子『頑張ってボクの魅力を引き出して下さいね♪』

P『(チョロい)』

P『ロケ当日』

幸子『うう……』ゴシゴシ

P『眠そうだけど、大丈夫か?』

幸子『ちょっと昨日、近所がうるさくて……』シパシパ

P『……大丈夫か?』

幸子『問題ない……です』カクン

P『(ちょっとこれはマズいかも……)』

スタッフ『ここら辺、滑りやすいから気を付けて下さいねー』

幸子『(何でこんな日に限って……)』フラフラ

幸子『(今頃、あの二人は布団の中……)』フラフラ

P『幸子、ちゃんと足元見ないと足元傾斜だから――』

幸子『絶対理不尽でっ、つうわぁ!?』ツルッ

P『危なっ!?』
ガシィッ

幸子『うわわわわわっ!?』ズザザザザ

P『……』

幸子『あいたたた……ってプロデューサーさん!?』

P『……お…おう。無事か?』ダラダラ

幸子『こんなの掠り傷です! それよりプロデューサーさん!頭!血!血が!』

P『あつつ……切ったみたいだな』

幸子『は、はやく!はやく止めなきゃ――!』

ロケ終了後

P『幸子、お疲れ様』

幸子『……』

P『ロケは良い画が撮れたって……スタッフの人、喜んでたよ』

幸子『……でも、プロデューサーさんが…』

P『これは名誉の負傷って奴。それに撮影にアクシデントはつき物。幸子のハンカチのおかげで止血も出来たし』

幸子『……』

P『ああもう!』グイッ

幸子『!?』ビクッ

P『気にしない気にしない!次から気をつければいいの!』グワシャグワシャ

幸子『ちょ、プロデューサーさん!?』

P『そらそらそらー!』グワシャグワシャワシャワシャ

幸子『ちょ、ちょっま――』

P『ほれほれほれー!?』グワシャワシャワシャ

幸子『――止めてくださいってば!』

幸子『なんなんですか!人がせっかく――!』

P『だから心配し過ぎだって。そういう幸子も可愛いけどさ』

幸子『茶化さないで、くださいよ!』

P『本心本心。今回の失敗は次の機会に活かせばいいさ……それにちょっとぐらいハプニングがあった方が番組は盛り上がるって』

幸子『もう……呆れました』

P『そんな幸子も、可愛いけどな』

幸子『……もう、何も言いません』

幸子『ですけど!今度埋め合わせはさせて貰いますからね!』ガシッ

幸子『覚悟しておいて下さいね? ボクの本気は凄いですから』

P『お、おう……あ、ハンカチは今度洗って帰すな』

幸子『いや、いいです』

幸子『それ、持ってないときっとプロデューサーさんは怪我だらけで死んじゃいますから』

幸子『……プロデューサーさんはボクたちの玩具です。だから、そんなのは許しませんからね』



P「……という、ことがありまして」

楓「はぁ……」

楓(とりあえず、私の心配は杞憂だったのかしら……?)

楓(なんだか普通にいい話だったような……?)

楓「というかプロデューサー……随分はっちゃけてませんでした?」

P「ええまぁ、幸子が相手だとついなんか、こう」

楓「まぁ確かにその気持ちはちょっと……」

P「ですよね」


楓(やっぱり要チェック、かしら)

P(その後も、俺の荷物から色々出る度に楓さんから色々問い詰められて)

P(温泉旅館につく頃には、ぐったりと疲れていた)

P(楓さんは、機嫌が良いのか悪いのかよくわからないけど)チラッ

楓「箱根の旅館で下駄を履こうね……クッ」

P(まだまだ元気があるみたいだ)

P「それじゃ、楓さん。また後で」

楓「ええ……プロデューサーの温泉たまご、楽しみにしてますね♪」


カポーン

P(俺は楓さんに勧められた露天風呂へ)

P(少し狭いけど、時間帯の割に客が俺しかいない)

P(くつろぐには、最適な湯だ)

P「ふー……」ポカポカ

P「温泉たまご、2時間くらいかかるんだっけか?」バシャ

P「長いけど、楽しみだなー」ツンツン

楓「ええ、本当ですね」ツンツン

P「まったくです……ってえぇえ!?」ドバシャァッ

楓「浴槽で騒ぐのはマナー違反ですよ?」

楓(あ、卵ひっくり返った)

P「かかかか、楓さん!?どうしてこっちに!?」

楓「知らないんですか? プロデューサー」

楓「ここの旅館のこの露天風呂、予約を入れれば貸切に出来るんです」

楓「つまり、今ここに入れるのは、私たちだけなんですよ」

P「な、な――」ズルリ

楓「……プロデューサー?」

P「 」バシャン

楓「……気絶しちゃった」

P「――は!?」

楓「あ、起きました?」パタパタ

P「ここは……」

楓「予約してた部屋です……プロデューサー、いきなり倒れちゃうんだから」パタパタ

P「あ、すんません……って!?」

P(この状況は……)

P(楓さんの、膝枕……!!)

楓「あ、あんまり動かないで下さい……」

楓「……もうすぐ夕飯ですけど…その様子じゃ、もう少し時間を置いた方がいいですね」

楓「私、夕飯を遅らせられないか、少し聞いてきますね」スッ

P「ああ……はい、すいません。お願いします」


楓「――ああ、それと」

P「?」

楓「莉嘉が、プロデューサーのお家に泊まったのも」

楓「幸子が、プロデューサーにハンカチをあげたのも」

楓「私が、ああいうことをしたのも」

楓「全て意味があってのことですから」

楓「ちゃんとその意味――考えておいて下さいね」スタンッ

カポーン


P(結局あの後、少し遅めの夕飯を食べて、寝た)

P(今は、楓さんにお勧めされて朝の男湯に浸かっている)

P(意味……)ツンツン

たまご()


楓「プロデューサー……」ツンツン

たまご(……)

楓(たまご……)

楓「……たまごを作るのに、まごついている」

楓「……これはダメ、ね」フルフル

P(……そして、最終日)

楓(……私たちが、東京に帰る日)

楓「温泉たまご、美味しかったですね」

P「ええ……楓さんのには、適いませんでしたけど」

楓「だてに温泉巡りしてませんから♪」

P「また、来ましょうか」

楓「そうですね、みんな連れて……」

P「……」

楓「……」

P「……行きましょうか」

楓「……はい」

東京駅

楓「お疲れ様でした……とても、楽しかったです♪」

P「ええ、こちらこそ」

楓「では、私の電車はあっち方面なので……」

P「あの、楓さん」

楓「はい?」

P「この後、ウチに来ませんか? 車回しますので」

楓「……あら」

楓「お邪魔しまーす……っと、ここに来るのも久しぶりな気がします」

P「二回目ですしね……あ、俺はちょっと腹ごしらえになるもの作ってるんで」

P「楓さんは、先にシャワー浴びてて下さい」

楓「はい、それではお言葉に甘えて……」

楓(あれ、今のどこかで……?)

P「……」

――サァァ……

楓(プロデューサー、雰囲気がちょっと変……?)

楓(……)バシャバシャ

楓(こっちはシャンプー、ね)カシュカシュ

楓(……見えないところまで、よく洗っておかないと)

楓(もしかしたら……)

ガチャ

楓「ふぅ……お待たせしました」

P「さっぱりしたみたいですね」

楓「ええ、あんなこと言われたら」クスッ

P「……楓さん」

楓「もしかして――意味、わかりましたね?」

P「……はい」

楓「もう……あまりに遅いじゃないですか」

P「…すいません、自分、鈍いもので」

楓「あはは……でも、それでこそ」

楓「私のプロデューサー、ですね……」 ギュッ

P「楓さ――んむ!?」

楓「楓って。呼んで下さい。じゃないと嫌です」

楓「私、ずっと我慢してきたんですから」

楓「温泉にいって。露天風呂にいっしょに入った時も」

楓「私、待ってたんですよ?」

楓「答えを出すの――こんなに遅いなんて」 チュッ

楓「信じられないです」 クスッ

楓「でも、それで良かったのかもそれませんね」

楓「じゃなかったら取られちゃったかもしれませんもん、他の子に」

楓「みんな狙ってたの、気付かなかったんですもんね」

楓「だから、もういいんです――こうして私に、触ってくれてれば」

楓「もっと、触ってください――もっと、私の深いところまで」

楓「こんなこと言えるの、プロデューサーだけですから」

楓「きてください――私の中に」


……
………
…………
……………
………………
…………………
……………………

パーフェクトコミュニケーション!!!!!

楓(それの次の日、プロデューサーと私は体調不良ということで仕事を欠席)

楓(腰が痛くて、ダンスなんて踊れそうになかった)

楓(その後も色々致して、結局一週間後から仕事に復帰したんだけど……)

楓「おはようございます」

莉嘉「……おはよー」ジトー

幸子「おはよう、ございます……」ジトー

楓(空気が、なんだかおかしい)
楓(プロデューサーも、なんだか居心地が悪そうだ)

社長「ウオッホン」

楓「あ、社長」

P「……」

社長「君、これを見たまえ」

楓「――え?」

『高垣楓に熱愛発覚!? 相手は一体ダレだ!?』
『朝帰りの真相は!?』
『人気アイドルに一体ナニが!?』


社長「一応、詳細は知られていないようだが」

社長「私たちには、この写真の男性に非常に見覚えがあるのだが……」チラッ
莉嘉「……」チラッ
幸子「……」チラッ

P「……」ダラダラダラダラダラ

楓「あ、あははー」タラー

幸子「ねぇ、高垣さん」

幸子「 こ の 男 性 、 ダ レ で す か ? 」

おしまい

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