比企谷八幡「だれかが風の中で」 (480)
「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」のSSです。
主人公である比企谷八幡がひたすら温泉街でのんべんだらりと過ごすだけの内容なので、シリアスどころかコメディもありません。
会話文も一切ない時の文のみの構成ですから、その点はどうぞご了承ください。
最後に、主人公比企谷八幡のキャラクタが完全に別人になっております。ご寛恕いただけますよう、よろしくお願い申し上げます
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カタンコトン、カタンコトン。
規則正しい電車の揺れに、ふと比企谷八幡は目を覚ました。
軽く伸びをする。固めの座席に慣らされた背骨が音をたて、微かな痛みが心地よさをもたらす。声を出さずにあくびをひとつかいて、スマートフォンで時間を確認する。午前9時34分。乗車してから2時間半といったところだ。
窓の外を見る。流れてゆく風景は一面が田園、いくつかの工場が遠くに並んでいる。空は雲ひとつない快晴で、夏の旅に最適の日和だといえる。
車内に目をやる。平日だからか、人は少なく、みな思い思いに過ごしている。外の風景を見る者、寝ている者、友人とゲームをする者、一人読書をする者。こんな時間から酒を飲んでいる者もいる。
なんだか心が弾むのを感じて、柔らかい笑みがこぼれる。乗車前に買っておいたペットボトル飲料を喉に流し込む。ひどく気分がいい。きっと今回の旅は良いものになる。静かな確信が胸によぎった。
比企谷八幡は今年で19になる、大学1回生という身分の青年である。
学内にも学外にも友と呼べる者の少ないひとりぼっちな男で、高校時代に幾ばくか希望を持って培っていた関係も、最悪の形で終わってしまった過去がある。
高校3年の頃にかつての知人の姉に連れられて二人旅に出て以来、すっかり旅が趣味となり、最低限の講義出席数を稼いではこうして平日にも関わらず各地へ一人旅に出るようになった。
元々非常に頭が回り、楽をすることにかけては他の追随を許さぬほどに要領の良い男であるから、単位面には何一つの問題もない。
気楽気儘のひとり旅を満喫するに、誰よりも適正のある男だといえた。
そろそろ目的地だと、八幡は電車を降りる用意に取り掛かった。
とはいえ、荷物と呼べるものなどほとんどない。
スマートフォンにイヤフォン、財布には宿泊費、交通費を除いて数万ほどの金と身分証明書。
そして切符。肩に掛けている鞄にはペットボトル飲料くらいしか入っていない。
八幡が旅に出る時は、いつもこうだ。手ぶらで行って、帰ってくる時には鞄いっぱいの土産を詰めている。
そのくらいが気楽で良いと思っているし、土産が多ければ妹も喜ぶ。妹を溺愛する八幡にとっては、そのくらいの意識が最も良いのだ。
アナウンスが響く。もうすぐ目的地だ。
今回は街中の小さな旅館に宿をとってある。学生向けのプランを申し込んだため、格安な点が嬉しい。
その街は自然豊かで近くには温泉もあるというし、自然に囲まれて湯治と洒落込むのも大変良い。
電車の速度がゆっくりと落ちていく。じきに扉が開く。
一歩踏み出せば、そこが旅の始まりだ。今回の旅は1泊2日で、普段の旅に比べれば期間は短く、小旅行といって良い。
だが、だからこそ一瞬一瞬の価値もきっと高くなるのだろう。八幡はそう信じた。
かつての淀みを感じさせない、穏やかな瞳で。
深呼吸をすると、自然の豊かさを感じさせる清冽な空気が肺に流れ込む。
永く電車に揺られた体にやさしく行きわたり、代わりに古い空気が大気へ放出される。
空気がおいしいとは、きっとこういうことをいうのだろう。
いささか古びた駅を出れば、予想以上に賑わいも豊かな街だと八幡には感じられた。
噴水の横に街の象徴を模したものだろうか、大きな像がある。土産物屋と食事処が立ち並び、人も数人ほどいることが窺い知れる。
車の交通量はさして多いわけでもないが、皆無というわけでもない。気をつけて歩くのが良さそうではあった。
気温は初夏にしては高く、風も生ぬるい。うっすらとにじむ汗を手で拭ったと思えば、またじんわりと汗が浮かぶ。
喉の渇きを感じてペットボトルを取り出す。ぬるい。
とりあえず喉に流し込み、ほぅ、と息をついた。
さてどうしたものかと考える。時間にして10時をすこし過ぎたところだ。
昼には早すぎる。朝は家で食べてきた。やはりここは素直にチェックインを行うべきか。
予約した旅館はたしか、駅から10分ほどの近場だったはずだ。
近くに設置してある地図を見る。
得てしてこの手の地図は劣化が激しく、なにがなにやら、どこがどこやらわからないような代物もあるが、これはきれいで分かりやすい地図だ。
観光街ということもあり、案内にも手を入れているのだろう。
そういった細かな気配りを見落とさない姿勢は、八幡にとって好ましいものだった。
地図で旅館の場所を確認して、八幡はとりあえず歩き出した。
緩やかな坂を下って行けば、楚々と流れる小川を渡れるよう、等間隔で橋が架かっている。
川に沿った道にも土産物屋やら定食屋が並び、標識には川を沿って進めば温泉処があると書いてある。
橋の中央に立ち、スマートフォンの写真機能を立ち上げる。
川と右側の道が対称的に見える位置で、シャッターを切る。
旅館に着いて一息ついたら、きっと妹に添付メールで送ってやろう。
羨むだろうか、土産の催促でもしてくるだろうか。笑顔で返してくれるなら、それが嬉しい。
最愛の妹の反応を想像して、八幡の胸が弾んだ。
橋を渡り、さらに小路をいくらか歩いた末にたどり着いた旅館は木造作りで、写真で見るよりも立派に見えた。
その辺のことにはあまり期待していなかった八幡にしてみれば、棚から牡丹餅といったところである。
中に入ってみるとやはりというべきか、全体的に木造を前面に押し出した、いかにも和風という落ち着いた印象を受ける内観だった。
受付でチェックインを済ませ、部屋へと案内される。
途中幾人かの客とすれ違ったが、いずれも自分と大差ない齢に見受けられ、おそらくは学生なのだろうと八幡には感じられた。
思うように話し、笑い、そして共に行動する。一目見て仲の良いとわかる集団である。
ふと、かつてのクラスメートたちを思い浮かべる。
あの頃はひたすらに欺瞞に満ちていると嫌悪して近寄ろうとしなかった集団だったが、彼らは彼らで、欺瞞すら受け入れてでもその関係を構築して維持していた。
それはおそらく彼らなりの嘘偽りのない本音の関係だったのだろう。
八幡は今でももちろん集団行動が苦手で、あの手の連中に近づくなどまっぴらごめんだと胸を張って宣言できる。
それでも、ああいった関係が決して間違ってはいるわけではないとは思えるようになった。
今の八幡はその事実が嫌いではない。
木造の階段を昇り、2階へと上がる。
案内された部屋はやはり和風で、掛け軸に花瓶、大きな机にポット、茶葉と盆に置かれたいくつかの湯呑が見える。
座布団は部屋の隅に重ねて置かれており、貴重品入れであろう金庫が掛け軸の右隣にある。
金庫の上にはテレビが置かれ、さらに電話が乗せられている。
全体を見渡しても明らかに複数人が悠々と過ごせる大きさであり、学生一人にはいささか過ぎた広さではあった。
ごゆっくり、と仲居が部屋を離れると、八幡は荷を部屋の隅に置き、座布団を机の前に敷いてそこに座る。
とりあえず茶葉を急須にいれ、ポットの湯を入れる。
茶ができあがるまで、少し時間がかかる。その間に先ほど撮った写真を添付したメールを妹へ送り、そういえば、と思い立つ。
ゆっくりと立ち上がり、八幡は部屋の一番奥の大きな窓を左右に引いた。
2階からの風景は見晴らしが良いとは言えないが、伝統を感じさせる街並みに行き交う人々、空を見上げれば眩いほどの青空と、遠くに雄大にそびえ立つ山々が見えている。
一度に飛び込んでくる景色が、まるで洪水のように勢いよく心に流れこむ。
宿について荷物を降ろし、窓を開けてそこからの眺めを目に入れるこの瞬間を、八幡はひどく好いていた。
仮の宿から眺める風景は、日常とは明らかに違う、見たことのない世界を実感させてくれる。
自分は今旅人なのだと、確かに伝わってくるある種の衝撃。
精神が新鮮な刺激に喜び跳ねる感覚は、どれだけ旅を繰り返しても変わらない感動を与えてくれる。
彼が旅を愛する理由の一つは、確かにこの感動に由来していた。
しばらく風景を眺め、頃合を見計らって机にもどる。
湯呑に茶を移せば、ちょうど良いと思える色合いの緑茶が注がれていく。少し冷ましてから静かに啜る。
熱い茶が喉を通り、体全体を暖める。
ここにきてようやく一息つけた気がして、八幡は力を抜いた。
さて、と考える。これからどうしようか。
明日の9時がチェックアウトの時間だから、ほぼ24時間はある。
ゆるりと温泉を回ろうか、いや先に昼を食べようか。
今回の旅館は夕食と明日の朝食を用意してくれる。つまり昼食はどこか定食屋ででも食べる必要がある。
むしろ先に土産物屋でも行ってみようか。そういえば愛しい妹は何か返事をくれただろうか。
スマートフォンを確認する。メールが2件。いずれも妹だ。
1件目は予想通り、土産の催促である。
食べ物から装飾品から、色々と注文してくれている。
全部は買ってやれないぞと苦笑しながら2件目を見ると、一番の土産と前置いて、楽しい思い出、と表示されている。
何年たっても変わらない心根の優しい妹の思いやりに緩む涙腺を自覚しつつ、了解、とだけ返事をしておいてやった。
さしあたっては以上になります。
需要も特にない話になりそうですが、8巻ラストで盛大に曇った心を癒そうと書き始めたらあれよあれよというまに1万5千字を突破し、せっかくなので投稿してみようと思った次第です。
少しでも楽しんでいただけることを願いつつ、続きは1両日中にも投下したく思います。
ありがとうございました。
関西の方?
>>19
ええ、まあ、ずばり
旅行先のモチーフは関西圏の温泉街です。随分と絞られますね。
ただSS上では千葉から電車で3,4時間程度の架空の場所というふうに設定してあります。
ちぐはぐな物言いではありますが、ご理解いただければと思います。
考えた結果、八幡はやはり先に腹ごしらえをすませることにした。
このあたりは温泉街として有名であるが、食事の方はそう特筆するものでもないようで、下調べの際にもこれといった食事は見当たらなかった。
ここはひとつ、後々に控えている温泉や夕食のことを考えて、軽くて消化の良いうどんでも食べようかと考える。
先ほど通った小川を、下流に沿って歩く。
観光客がそぞろ歩く様がいかにも非日常を思わせ、浴衣を着ている人も少なくない。
きっと温泉帰りなのだろう。そういえば部屋のクローゼットの下に浴衣があった。
後で着替えて、それから温泉に行こう。きっと風情があって良い。
そう考えながら歩いていると、ふと定食屋が目に付く。
一軒家にのれんが架かり、門前には花壇が申し訳程度ではあるが花を咲かせている。
見た感じごく普通の店だが、いつまでもとりとめもなく探しているわけにもいかないので入ることにした。
中に入ればやはり変哲のないごく普通のめし処で、いくつかの机に椅子があり、客の入りもそこそこのようであった。
店の奥の厨房には初老の男性が調理をしているのが見えた。
そのうちに男性と同じ年くらいの、おそらくは伴侶であろう女性に案内を受け、椅子に座る。
角ばった木製の椅子で、臀部に座布団が敷いてあるだけのものだから、座り心地は良いものではない。
それでも心地を落ち着けると、氷水の入ったコップが静かに置かれる。
とりあえず一口喉に流し込み、八幡は机に置かれている品書きを見た。丼もの、汁もの、そばにうどん類。
色々あるが、見事に定番の品だけで構成されており、ある種の洗練された美さえ感じられた。
飲み物も同様で、ソフトドリンクやビール、酒を扱っている。
当初の予定通り、うどんを頼む。気温が高いので、ざるを頼んだ。
そういえば、と八幡は思い出す。
かつての知人の姉、今では友人といっていいかも知らないその人いわく、ざるそばに日本酒が合うらしい。
無論八幡は未成年だから酒を頼むわけには行かないが、二十歳を迎えたらざるそばと日本酒の組み合わせというものを試してみるのも良い。
切欠を作り出したあの腹黒い女に、ついでに元恩師でこれまた友人のような立ち位置の教師も巻き込んでやろうか。
心中で企んでいる内に、注文していたうどんが来た。
四角い盆に乗せられた大小の容器。大きめの箱にはざるが敷かれ、その上に瑞々しいうどんが盛られている。
傍には湯呑くらいの椀に蓋がされており、上にはきざみねぎ、わさび、うずらの卵が添えられている。
蓋をかたむけないように水平に取れば、中には黒く艶のあるつゆが静かに揺れていた。
至極一般的なざるうどんである。特筆すべき点などない。
だがだからこそ、不変的な価値があるように思えて八幡には好ましく感じられる。
食事に取り掛かる前に、手を合わせ、いただきます、と呟いて割り箸を割く。
まずはつゆにきざみねぎとわさび、うずらの卵をいれ、ゆっくりとかきまぜる。
しばらくすればおおむね均等に馴染むものであるから、そうした後にうどんを入れることにする。
太くコシの強そうな麺をつゆへとゆっくり浸ける。
白い麺に黒いつゆが絡まっていく。
二度、三度と軽く浸してから、いよいよ口へ運ぶ。
静かに啜れば、口いっぱいにまろやかな甘さとすこしの辛さが広がる。
汁気に負けないほど濃く主張する旨みの刺激が、舌を悦ばせる。
一口分を口に含み、ゆっくりと噛む。弾力のある麺は噛めば噛むほど口中で躍動し、つゆと共に多幸感をもたらす。
時折つん、と鼻を刺激するわさびの感触に、きざみねぎの食感、うずらのぬめりとした舌触りが味に彩りを加える。
満足いくまで顎を働かせれば、なめらかに喉を通り胃へと流れていく。
美味しい。
二口目を啜る。やはり美味い。
この店を選んで正解だった。八幡は思いもかけぬ幸運をうどんとともに噛み締めた。
結局うどんはあっという間に平らげた。
代金を支払い、店を出る。
適当に見繕った店がいわゆる当たりだと確信したときの高揚は、味覚に補正を与えてくれる。
明日の昼もまた寄ってみてもいいかもしれなかったが、やはりそこは旅の路、偶然を頼りに新たな発見にかけてみたくなるのが八幡の性であった。
スマートフォンで時刻を確認する。11時も30分を回ろうかといった頃だ。
日も高い。温泉は午後から訪ねることにして、しばらく散策でもしようかと、八幡は再び小川を沿って歩き出した。
観光客はむしろ今からが昼食時なのか、先程よりは人通りは少ないように見える。
しばらくすればまた活気が戻ることは明らかであるから、今の静けさは貴重なのだろう。
すこし歩くと、道は小川を外れだした。
小さな小道が小川に沿って敷かれているが、その先には明らかな民家が立ち並んでいる。
みだりに観光地の外、特に住宅地や居住区に足を踏み入れることはしない。
八幡の旅における数少ないルールのひとつだ。
今までトラブルに遭ったことはないが、旅の人間が観光地でもない場所にいるなど不審者と取られかねないと判断してのものだった。
八幡は小川を外れた道を進み始めた。
20分かそこら歩いただろうか。緩やかな坂を上り、角をいくつか曲がると、大きな道に出た。
車が2台並んで通れるくらいの広さだが、今は歩行者が思い思いに歩いている。左右には土産物屋が立ち並ぶ。
この道を抜けた先に温泉があるようで、遠く湯気が立っているのが見えた。
この街で一番有名だという温泉だろう。道の左右にも銭湯が点在しており、いよいよ温泉街といった心地を覚えて、八幡は笑みを浮かべた。
全部で10近くあるという温泉を全て廻るなど思っていないのだが、せめて2つ3つくらいは廻れるように動きたい。
そうと決まれば、一旦宿に戻ろう。
仕度して、浴衣に着替えて、下駄を鳴らして湯へ向かおう。
そう決めて、八幡は来た道を引き返していった。
さしあたりここまでです。
続きは翌日にでも投下したいと思っております。
ありがとうございました。
投下したいと思います。
仮宿の部屋に戻ると、すぐに浴衣を引っ張り出す。
丁寧に畳まれたそれを広げれば、青と水色で彩られた、見た目にも涼しげな一品だとわかる。
袖を通し、帯を巻く。薄い生地が心地よい肌触りを生み出し、体をやさしく包んでいるようにも思えた。
時計を見る。12時40分をすこし回ったところだ。
すこし部屋でゆっくりしてから、それから行くことにする。
ふと、友人知人にも土産物を買ってやろうかと思う。
八幡は普段、女神のように美しい妹と天使のように愛らしい友人以外の人間に対してはいい加減で、土産物ひとつとっても、きまぐれで買ってきたものを適当に手渡すくらいが常である。
それについては世界一可愛い妹や面の皮の厚い腹黒女から責められたりもするが、前者はともかく後者に対してはきまぐれでも買ってきてやるだけありがたく思えと高らかに宣言してやった。
もちろん直後に投げ飛ばされ、飯を奢る羽目になってしまったが。
今回はきまぐれを起こしたようで、八幡はメールを打ち出した。
高校時代からなんだかんだと親交のある者たちを宛先に載せていく。
今でもよく小説の出来をみてやる中二病の肥満体に、この世の善を結集させたような天使。
気が強いかと思えば意外にこちらを立ててくる不良娘と、最近ようやくその存在を認めてやっても良いくらいには思えるようになった不良娘の弟。
そして近頃いよいよ女としての自信をなくしてきたらしい元恩師に、最近めっきり丸くなってきた腹黒仮面女。
個性の強い連中だと、八幡はつくづく感じた。
全員が全員、人一倍どころか十倍ほど我が強いのではないだろうか。
かくいう自分自身も結局同じ穴の狢、というか筆頭であるからあまり人のことはいえないが。
ともかくもそういった連中にまとめて、現在地と妹にも送った写真を添付し、土産が欲しいなら返事するようにと打ち込む。
あまり高価なものを頼んだらその辺の葉っぱを毛虫でも添えてお見舞いするぞ、と釘を差すことを忘れずに文章を作成して、送信する。
温泉を巡って戻った頃には一通り返信もあるだろう。なければないで、女神と天使にありったけ注ぎ込むだけである。
そうこうしているうちに13時もしばらく経過している。
よしじゃあ行くか、と八幡は支度を始めた。
タオル、バスタオル、財布をまとめて部屋に備えられてある専用の袋に入れる。
スマートフォンは部屋に置いていく。
こういった時くらい、文明の利器から離れて過ごしてみても良いと思えたから、というわけではない。
おそらくは先ほどメールを送った数人の中の、特に面倒くさい2、3人の相手などしていてはとても湯治どころではないからという理由の方が大きいだろう。
平日だから早々返事は来るまいと油断していると、怒涛の攻勢に遭う。経験上八幡はそのことをわかっていた。
用意も戸締りも万端だ。鞄と部屋の鍵を持って外へ出る。
確かに扉の鍵を閉め、2、3回開かないことを確認して、八幡はいよいよ今回の旅の目的を果たしに出かけた。
間近でみると、煙突から立ち上る煙はまるで雲のように待機中を白く染めている。
先ほどの道を奥まで進み、この街一番の温泉処にたどり着いての、八幡の第一印象がそれだった。
平日にも関わらず盛況な様子で、駐車場には車が多く、親子連れもちらほら見かける。
流石に人気があるようだと感心しつつ、中に入ってみる。
暖色の灯火が施設内を遍く照らしている。
視覚効果は十分のようで、見ているだけでも安らいだ心地を覚えてくる、そんな館内である。
受付を済ませて進んだ先には、均等に並ぶ数多のマッサージチェアにテレビ、飲料売り場などが見え、いずれも人で賑わっている。
後でマッサージチェアを試してみるかと思いつつ、さしあたっては男湯へ向かう。
脱衣所の前へたどり着くと、まずは貴重品ロッカーに財布を放り込む。
指紋認証式のデジタル式と従来のアナログ式の両方がある。
どうにも指紋認証というものが不安に感じられる八幡はアナログ式のロッカーを選択した。
本当に指紋認証してくれるのか、財布を放り込んだは良いものの、取り出すときに万一認証失敗したらどうするのか。
こうした疑り深い性質は高校生活を経て幾分か緩和したように思っているが、やはり根深いものであるのか、根絶は難しい。
この性質のおかげで回避できた危機も少なくないから、積極的に克服しようとする気も、今はもう起きない。
まあ確実だと信じられる方を選べば良いと、八幡は財布をいれたロッカーの鍵を閉め、脱衣所へ足を踏み入れた。
脱衣所もロッカーが立ち並んでおり、小さなロッカーが多いが大きめのロッカーも置いてある。
とりあえずは鍵の開いている小さなロッカーの前に立ち、中身を改める。
何もないことを確認して、八幡は持参したバスタオルを放り込み、浴衣を脱ぎ始めた。
帯を解いて袖を下ろす。下に着けていたシャツとパンツも脱いで、まとめて投げ込む。
タオルだけを持った状態でロッカーの鍵をかければ、準備は整う。
脱衣所内の便所で用を足してから、八幡は温泉への扉を開けた。
さしあたりここまでです。
タイトルについてはご指摘いただきましたとおり、往年の名曲に由来しております。
ありがとうございました。
誤字を発見しましたので一応
>>43
一行目
「待機中を」
正しくは「大気中を」の間違いです。失礼いたしました。
投下したいと思います。
その瞬間、熱気が体を叩く。
白く立ち込める湯気が視界を染める。
少しすれば湯気にも慣れ、温泉の全貌が見えてきた。
大きな湯船がひとつ、白く濁った湯で満たされている。
入浴客もやはり多く、老若問わずみな、思い思いに寛いでいる。
まずは掛湯を被り、八幡は体を洗いに向かった。
椅子に腰掛けて桶に湯を張る。
その中にタオルを入れて水分を吸わせ、その間に備え付けのシャワーで頭から湯を浴びる。
すこし痛いくらいの熱さが逆に気持ち良い。
髪を十分と濡らしてシャワーを止め、桶からタオルを取り出す。
軽く絞って共用のボディソープを数回タオルにつける。泡立ってきたら腕から順に脇、胸、腹と擦っていく。
下半身はもちろん背中も十分に洗う。
隅々まで行き届いたなら、今度は手にシャンプーをつける。
最初は髪にやさしくなじませ、次第に指の腹で指圧するように力を徐々にいれ、揉みほぐすように指先を動かす。
程よい刺激が頭に良いと聞いてのことであるが、なるほどこれは気持ち良い。
頭と体を覆う泡をまとめて湯で流せば、老廃物や汚れを落としたきれいな身を実感する。
タオルを湯で2、3度ほど洗って、椅子や桶を元ある場所に戻すと、いよいよ八幡は湯船に向かった。
白い湯船に足先を浸ける。熱い。
近くの温度計を見れば、50度近い。
江戸生まれではない八幡にはすこし堪えるが、そこは無意味に意地を見せ、一息に、しかしゆっくりと入っていく。
それほど深くはない湯船のようで、立ったままだと腰辺りまでが湯に浸かる。
そこから膝を折り、肩まで身を沈めれば、熱い湯に全身の肌がじわりと染みる。
強い刺激に息を吐く。
何度か深呼吸を行えば、体が馴染み、刺激に心地よさが混じるようになってきた。
タオルを頭の上に乗せて、周囲を見る。
先ほどの八幡と同じように熱さに耐えながら、身体を湯に浸す者も多い。
随分長く入っているのか、目をつぶって静かに佇んでいる人もいる。
それに倣い、八幡も目を閉じる。
心地よさに気がすこし遠ざかる。
余計な力が抜け、温もりの中で筋肉が解れていく感覚はどこかこそばゆい。
そのまましばらく、八幡はたゆたうことにした。
芯から温まった身体を湯から引き上げて、掛湯を被る。
もう少し入っていようかと思ったが、のぼせてしまうのも良くない。
他にも温泉はあるので、適度なところで切り上げようと考えたのだ。
脱衣所へ戻る前に、タオルで最低限身体を拭く。
ある程度水分を落としてから脱衣所へ入ると、涼しい風が身体をなでた。
火照った体にはありがたい。
ロッカーの鍵を開けて中からバスタオルを取り出す。
頭から足から、体中を全て拭く。
洗面台へ向かいドライヤーを手に取る。
濡れた髪に温風を当て、垂れ出す水分を拭えば、そう時間もかからずに体はすっかり乾いていた。
下着をつけて浴衣を羽織る。帯で止めれば来た時と同じ格好だ。
貴重品ロッカーから財布を回収し、脱衣所を出る。
施設内の時計を見れば、もうじきに15時になるところだ。
夕飯は18時だと聞いているので、あと3時間は暇があることになる。
どうしたものか、八幡は考える。
急いで他の温泉に行こうとは思わない。
夕食後にまた行って、後はもう部屋でゆっくりと過ごそうと思う。
土産屋でも寄るべきか。いや、メールを確認してから、明日に見繕うようにすれば無駄がない。
ならば何か軽いものでも食べようかとも思ったが、あまり腹も減っていない。
そういえば、とマッサージチェアを見る。
湯に入る前に、後で試してみようなどと考えていた。
相変わらず賑わってはいるが、いくつか空いているのが見えたので、せっかくだから座ることにした。
大きめのマッサージチェアに腰を下ろし、背を預ける。
黒く革張りのクッションが音を立てて沈み、柔らかい感触が座り心地の良さを伝えてくる。
肩から腰にかけての背中とすねを揉みほぐしてくれるようだった。
硬貨を投入して、まずは弱めの設定で肩をほぐしてみる。
首筋あたりから肩が圧迫される。
決まった場所を心地よく刺激される感覚は快感の一言で、温泉に続き、体のほぐれを感じる。
もう少し強めだと良い塩梅だと、設定を中にする。
今度は腰周りの駆動部も同時に動かせば、背中全体が強すぎず弱すぎずの絶妙な刺激に喜ぶ。
すねあたりも動かせば、まさに極楽といった心地である。
温まって緩んだ身体をさらにほぐされる快楽に耐え切ることができず、八幡を睡魔が襲う。
電車内で2時間ほど寝たが、朝早くからの疲れがここに来て吹き出したようだった。
ならばいっそ、と八幡は目を閉じる。
こういう場合は抵抗するより迎え入れてやれば、逆に軽いまどろみで済むのだ。
万一財布を盗まれやしないかと不安がよぎったが、懐深くに入れて腕を組んで胸元を塞いでいるから、早々やられはしないだろうと思う。
何も問題はない。
堪りかねたように八幡はしばし、マッサージチェアの幸福に身を委ねていった。
さしあたりここまでとなります。
改行位置に違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれませんが、基本的に下書きの時点ではひとつのレス中の文章はほとんど改行をしておりません。
そのまま投稿しようかと1レス目を投下したところ、どうにも体裁が悪く感じたため、急遽改行を入れてみた次第です。
読みにくい箇所も多いと思われますが、何卒ご理解くださいますようお願い申しあげます。
次回の投稿はまた、明日の朝にでも行うかと思います。お時間空きましたならばぜひ、ご覧下さい。
ありがとうございました。
投下したいと思います。
意識が水底から引き上がれば、時刻は17時を回ろうかというところだった。
懐から財布を取り出す。
特に変わりはない。
今更ながら少し不用意だったのではないかと反省を覚えつつ、八幡は完全に目を覚ました。
背を伸ばす。
随分前に停止したマッサージチェアだったが、その効力は如実に表れていて、随分と体が軽い。
カバンを手に取り立ち上がる。
今くらいの時刻ならば、部屋に戻って少ししてから夕食だろう。
そういえば送りつけたメールの返事はどうなっているだろうか。
とりあえず受付で精算を済ませ、外に出る。
辺りはまだ明るいが、夜の気配が漂ってきているのか、空気は湿っぽく、行き交う人の数も目に見えて増えてきている。
混雑がひどくなる前に、宿へ戻ろうと歩き出す。
帰路の途中、小川に沿った道がぼんやりと照っているのが見える。
柔らかとしか形容のできない優しい灯が、観光街に幻想を飾り付ける。
日常とは隔絶された光景が、否応なく胸を打つ。
スマートフォンを持って来ればよかったと、カメラを持たない身に後悔が走る。
夕食後また外に出るのだから、その時はスマートフォンでこの幻想的な光景を写そう。そう決めた。
旅館の受付でタオルとバスタオルを新調してから部屋に戻れば、もう17時40分を過ぎている。
そろそろ夕食の準備が始まるだろうから、邪魔にならないよう、窓際の椅子に座る。
数時間ぶりにスマートフォンの画面を表示すると、案の定ではあるが、メールが山ほど受信されていた。
その数50。
先ほどの幻想的な光景への感動を一瞬で破壊しきった見事なまでの現実に舌打ちをしつつ、中身を確認する。
海も割れんばかりの美貌を持つ麗しの大天使から1件。
土産など良いからと、無事の帰宅を願ってくれていた。
この世に生まれついて、今まで生きていて良かったと心底思う。
不良娘からも1件、家族皆が食べられるまんじゅうのようなものを頼んでいた。
優しい良い娘だと思いつつ、次のメールでその弟が分不相応にも愛しの妹を所望しているのを確認して殺意を覚える。
自称弟分の馬鹿者には土産に熟女系成人雑誌を数冊くれてやろうと心に誓う。
常軌の範囲に留まる連中に返事をしていると、夕食の準備が終わった旨が伝えられる。
考えるだけで胃が重くなりそうな連中を相手取る前に腹ごしらえと行こうか。
八幡は事実上の問題の先送りをして、夕食の卓についた。
膳の上に置かれている各種の椀と皿。
それぞれ白米、味噌汁、漬物、小鍋、刺身が盛られている。
文字に起こせば短く感じるが、実際のところ一人前にしては随分と多いように思えた。
食べ盛りの大学生だと思ってサービスしてくれたのか。
昼を少なめにしておいて良かったと己の判断を褒めたくなる程度には、ボリュームのある夕食だと言える。
手を合わせいただきますと礼をする。
箸を手にとり、まずは白米を口に運ぶ。
ほかほかの粒がそれぞれ上品な甘味を持ち、それは噛めば噛むほど増していく。
次いで味噌汁を啜れば、薄いながらもはっきりと伝わる味の個性が口いっぱいに広がる。
程よい塩分が米と絡み合い、高め合う。
驚く程に美味い。
漬物をひと切れ食べる。
よく漬かっており、歯ごたえもある。
大きな音を立てて噛む喜びを堪能して、茶を一口含み飲み込む。
小鍋の蓋を開ければ、野菜と肉の塊が湯気を立てて鎮座している。
蒸し焼きのようだった。
肉を頬張れば熱い肉汁が口内を飛び跳ね、野菜を頬張れば柔らかな食感から旨味が染み出す。
白米と一緒に噛めば、肉の荒々しい存在感が米のしっかりとした食感によって更なる旨みを口いっぱいに広げる。
刺身はマグロ、エビ、タコの3種類が三切れずつ、ツマの上に置かれている。
マグロを人切れとって醤油に浸す。わさびはあまり好きではないから、醤油だけで食べる。
生臭さをほとんど感じない、鮮烈な瑞々しさを味わう。
醤油の濃い味がほどよく調和している。
全体として非常に満足できる夕食である。
いよいよ昼を軽めに済ませたことを英断に思いつつ、八幡はしばし、食事に没頭していった。
さしあたりここまでです。
次回は本日が終わる前にでもと思います。
ありがとうございました。
間を開けたほうが良いというご意見に関しましては、ありがたく頂戴したく存じます。貴重なご意見ありがとうございます。
ただ、話もある程度進んでおりますれば、途中で形式を変えてしまえばこれまで読んでくださいました方におかれましては逆に読みにくくなってしまうと愚考いたします。
ですので今回のSSにおきましては、最後までこのような形式の改行、間の置き具合で進行させていただきたいと思います。
せっかくのご意見を無碍にする形で心苦しいのですが、何卒ご理解いただければと思います。
それでは投下したいと思います。
実に1時間。
じっくりと咀嚼し、味わい、嚥下する繰り返しをこなしている内にかかった時間だ。
いつにない多幸感を覚えつつ食を終え、再び窓際へ戻る。
仲居が片付けをする間にスマートフォンを再び起動する。
さらに5件増えている。
あまりの面倒くささについ先ほどまでの多幸感が遠くへ飛んでいくやるせなさを覚えつつ、内訳を確認する。
肥満体は意外にメールの数自体は1通のみである。
流石の境遇ゆえか、極端な数のメールを送る行為がどのような印象をもたらすのかを把握している。
惜しむらくは内容面でひたすら鬱陶しい点である。
文面で彼奴の病状と向き合うのは非常に労力のいる作業だ。
暗黒だの天界だのと、悲しくなるほど改善の見えない戯言を流しつつ、文の最後に添えられたカスタードクリーム入りのまんじゅうを所望する内容だけを把握する。
こんな輩でもなんだかんだと頼れる友人であることは認めざるを得ないのが歯がゆい。
とりあえず今度あったらあの腹を殴ろうと心に決めつつ、八幡は次いで、これまでの人生で最も面倒な人物のメールと向き合う。
かつての恩師は当時から相当面倒くさい女ではあったのだが、八幡が卒業して半年、急激に面倒くささを増しつつある。
その面倒くささたるや、この世に怖いものなどないのではないかと思える恐るべき腹黒女が、ついに負けを認めるほどの面倒くささである。
具体的にどういう顛末でそんな訳の分からないことになったのかが見当も付かない。
とにかくかつての恩師は、現在では面倒くささにかけて暫定日本一をひたすら独走しているようだった。
メールの文面は、改行も一切ない、ひたすら全画面が何かしらの文字で埋められている異常さを抜きにすればごく普通の体裁だ。
かつて教え子だった頃に受けたメールでは面倒くさい内容ながらも教師然とした丁寧な文面であったが、最近では何か精神的な開き直りをしたのか、メール上でも常と変わらぬ男勝りな文体で話を詰めてくる。
しかもこれがまた、ひどく要領を得ない。
その上文法や文体自体は流石にきっちりとしているのだから、余計に始末が悪い。
怪文書の山を読むこともせずに削除していく。
所定の動作を繰り返すだけの行為が、ひどく気だるい。
とりあえず帰ったら直接文句を叩き込もうと心に決めつつ、ようやく一番最近のメールを残して全てを消し去る。
この女の分かりやすい点は、肝心要の本題は必ず最後のメールの結尾に短く入れてくる点にある。
かつてはそうでもなかったはずなのだが、いつの間にやらそのような特徴が見て取れるようになっていた。
最後の一通もやはり意味のない話が続いているが、一番下の行まで見ると、端的にせんべいと塩辛を所望する旨が記されている。
選択がどうにも結婚適齢期の女性のものとも思い難い気もしたが、そこは個性というものであるからとやかくは言うまい。
八幡は一言、了解、とだけ返事をしてやった。
最後の最後に取って付けられたような結婚相手、という単語を目の錯覚にしておいてやる優しさで目を遠くしながら、最後の一人からのメールに手をつける。
出会ってからしばらくは誰よりも恐れた女であるが、ある種の開き直りをしてしまった今では大して脅威にも感じなくなった。
そうなってしまったきっかけが、その女当人による贖罪行為が発端なものだから、なんとも皮肉な話である。
度重なる蛮行の数々にとうとう堪忍袋の緒が切れたという元恩師に、鉄拳を以て制裁された。
そういう話らしいが、詳細は八幡も知らないし興味もない。
とは言え相手もさるもの、隙あらば性質の悪いふざけ方をしてくる。
共通の友人である前述の面倒くさい元恩師に言わせればただの甘えた行為だと言うのだが、八幡に言わせればおぞましい怪文書を数十通送りつける行為の方がよほど甘えていると思う。
ともあれ、現在においてはそこそこに良い友人関係を築けている女からのメールを見れば、思うままに動く駒、などと物騒極まる単語がぽつねんと表示されている。
ご丁寧に語尾には音符など添えて可愛らしさを表現したのだろうが、むしろ神経を逆なでされる心地を覚える。
こういった腹黒アピールを受けるのもいつものことであるが、これこそ甘えの象徴であるように思える。
別に誰も気にしてないのに一人思い込んで、己の心中のどす黒いものを小出しにして予防線を張る。
かつて方向性は違えど同じようなことをやっていた身であるから気持ちは痛いほどわかるが、正直に言えばどうでも良い。
以前の強化外骨格ぶりから考えればなんとまあ可愛らしくなったものかと感心を覚えるほどなのだが、いつかこの悪癖も克服してくれるときっとお互い助かるのにとは思うのだ。
何はともあれ返事を送る。
まともに相手されるだろうとは向こう方も思うまいから、犬でも飼ってろ、とだけの文章にしておく。
しかし催促させておいて何も渡さないのも心苦しいから、帰りしなに携帯用の将棋でも買っておいてやろう。
思うままに動く駒がたくさん入っているから、文句も言うまい。
八幡の悪ふざけも大概であった。
以上となります。
次回は少し間をおきまして、明日の夜頃になるかと思います。
お暇頂きますればぜひ、ご覧下さい。
ありがとうございました。
投下したいと思います。よろしくお願いいたします。
一通り返事を終えればもう時刻は19時30分を過ぎる頃で、そろそろまた、温泉へ向かうかと思い立つ。
せっかく新調したタオルとバスタオルもあるから、この際に食後の運動も兼ねて、一風呂浴びに外に出かける。
今度はスマートフォンも持参する。
あの、幻想的な光景を一枚だけでも写しておきたい。
小川を照らす灯火。
薄ぼんやりとした、ふわりとした暖色が、一定の間隔に置かれている。
遠目にはまるで蛍を思わせるそれらを画面に収め、2、3回シャッターを切る。
風景の一部を確かに切り取ったことを確認して、八幡は歩き出した。
写真で撮って後から見ても、目に焼き付ける光景には叶わないのだからと、目いっぱい風情を感じつつ景色を楽しむ。
しばらくして、目的の温泉地にたどり着いた。
先ほど行った温泉よりは少し短い距離で、大通りの途中に点在しているうちのひとつだ。
枯山水を思わせる敷き詰められた砂利にいくつかの石畳の上を通って中に入れば、年季を感じさせる木造の内装が出迎えてくれる。
受付を済ませて脱衣所へ向かう。
こちらはマッサージチェアやテレビなどもなく、本当にただ温泉に浸かるだけの施設のようだった。
貴重品をロッカーに入れて、脱衣所に入る。
年配の客が多いように思えた。
浴衣と下着をさっと脱いで、まだ湿ったタオルを手に温泉へと向かう。
掛湯をしてから、身体を洗いに行く。
ほんの数時間前にも洗った身であるが、なんだかんだと汗もいくらかかいている。
タオルを洗いつつ身を擦る。いくらか簡略化させて頭から湯を被れば、すっかり準備は整っている。
綺麗になった身体を実感しつつ、風呂場へ向かう。
湯船を見る。大きめの湯は透明で底が見えた。
段差が設けられており、中心部の一番深いところはどうにも深そうで、立ち湯であることが伺える。
とにもかくにも、つま先からゆっくりと入る。
温度は40度を少しといったところで、前の温泉に比べれば抵抗なく体全体を沈ませることができた。
そのまま、できるかぎり中心部へと段差を降りる。
一番深い場所から2段ほど手前の位置が、八幡の背丈にちょうど合う位置のようで、肩までしっかりと浸かっている。
息を付きつつ、周りを見ると、意外に若い者も多いことがわかった。
学生の集団が騒ぎながらどこまで深く行けるかを競っている。
元気盛りは勢いで振舞うものだ。
そう思いつつ、喧騒の中でしばし湯の温もりを堪能するのだった。
十分に温まった身体を引き上げて、掛湯を行い脱衣所へ戻る。
バスタオルで身体を拭き、ドライヤーで頭を乾かす。
今日一日は随分な時間、湯に浸かっている。
そのうち海月か何かのごとくふやけてしまいそうだなと笑いながら、八幡は湯を後にした。
精算を終えて外へ出る。
夜風が気持ち良い。
部屋へ戻る前にどこかの店で軽くつまめるものでも買おう。
そう決める。
適当に入った土産物屋で、12個入のまんじゅうと、特性の林檎ジュースを買う。
宿に戻ってからの夜食である。
店員らしい女性が話しかけてくる。
特に急ぐ用もないので、しばし歓談する。
どこから来たのかと問われて素直に千葉と答えれば、随分と遠いところからと驚かれた。
何人で来たのかと問われ、一人旅だと答える。
やはり驚かれる。
旅は気楽な方がいいのだと笑うと、なるほどと納得された。
こういったやりとりは実は今では嫌いではない。
一期一会というが、おそらく人生においてこの瞬間のみ交流を交わす相手である。
欺瞞やら仮面やら、小賢しい理屈などあったものではない。
旅の恥は掻き捨てとも言うのだ、ここはむしろ恥のひとつとっても楽しまねばと、そう思えるのだ。
良い旅を、との言葉を頂いて外を出る。
スマートフォンにて時刻を確認すれば、もう21時を回ろうかという頃合だ。
そろそろ部屋に戻ってゆっくり過ごそうと、八幡の足取りは軽く、宿へ向かっていった。
本日の投下分は以上となります。
次回は明日の夜にでも、と思いますので、お時間をいただけますのならば、ぜひ、ご覧ください。
ありがとうございました。
投下したいと思います。
一通り返事を終えればもう時刻は19時30分を過ぎる頃で、そろそろまた、温泉へ向かうかと思い立つ。
せっかく新調したタオルとバスタオルもあるから、この際に食後の運動も兼ねて、一風呂浴びに外に出かける。
]今度はスマートフォンも持参する。
あの、幻想的な光景を一枚だけでも写しておきたい。
小川を照らす灯火。
薄ぼんやりとした、ふわりとした暖色が、一定の間隔に置かれている。
遠目にはまるで蛍を思わせるそれらを画面に収め、2、3回シャッターを切る。
風景の一部を確かに切り取ったことを確認して、八幡は歩き出した。
写真で撮って後から見ても、目に焼き付ける光景には叶わないのだからと、目いっぱい風情を感じつつ景色を楽しむ。
しばらくして、目的の温泉地にたどり着いた。
先ほど行った温泉よりは少し短い距離で、大通りの途中に点在しているうちのひとつだ。
枯山水を思わせる敷き詰められた砂利にいくつかの石畳の上を通って中に入れば、年季を感じさせる木造の内装が出迎えてくれる。
受付を済ませて脱衣所へ向かう。
こちらはマッサージチェアやテレビなどもなく、本当にただ温泉を浴びるための施設のようだった。
貴重品をロッカーに入れて、脱衣所に入る。
年配の客が多いように思えた。
浴衣と下着をさっと脱いで、まだ湿ったタオルを手に温泉へと向かう。
掛湯をしてから、身体を洗いに行く。
ほんの数時間前にも洗った身であるが、なんだかんだと汗もいくらかかいている。
タオルを洗いつつ身を擦る。
いくらか簡略化させて頭から湯を被れば、すっかり準備は整っていた。
湯船を見る。
大きめの湯は透明で底が見える。
段差が設けられており、中心部の一番深いところはどうにも深そうで、立ち湯であることが伺える。
とにもかくにも、つま先からゆっくりと入る。
温度は40度を少しといったところで、前の温泉に比べれば抵抗なく体全体を沈ませることができた。
そのまま、できるかぎり中心部へと段差を降りる。
一番深い場所から2段ほど手前の位置が、八幡の背丈にちょうど合う位置のようで、肩までしっかりと浸かっている。
息を付きつつ周りを見ると、意外に若い者も多いようだった。
学生の集団が騒ぎながらどこまで深く行けるかを競っている。
元気盛りは勢いで振舞うものだ。
そう思いつつ、喧騒の中でしばし湯の温もりを堪能するのだった。
十分に温まった身体を引き上げて、掛湯を行い脱衣所へ戻る。
バスタオルで身体を拭き、ドライヤーで頭を乾かす。
今日一日は随分な時間、湯に浸かっている。
そのうち海月か何かのごとくふやけてしまいそうだなと笑いながら、八幡は湯を後にした。
ここまで書き込んでおいてなんですが、二重になってしまっていますね。失礼いたしました。
一旦間を空けて、投下します。
1分ほど間をいただきまして、今度こそ投下したいと思います。
例によってタオルとバスタオルを新調してから部屋に戻る。
テーブルが片付けられ、大きめの布団が一式、敷かれている。
窓際の椅子へ座り、まんじゅうと林檎ジュースを取り出し、開ける。
いたってシンプルな小さめの温泉まんじゅうに、やけにレトロ感溢れるラベルが貼られている瓶ジュースである。
とりあえずまんじゅうを一口頬張る。
薄皮のようで、噛めば中の餡子が飛び出てくる。
当たり前ながら、甘い。
とは言えただ甘いだけではなく、和菓子特有の上品な甘さに薄皮の塩がアクセントを加えている。
何度も咀嚼して、ゆっくりと少しずつ飲み込む。
喉元を過ぎたときの、絡みつき焼け付く感覚が強い。
ひとつ食べるだけで喉の渇きを覚える。
瓶ジュースを一口飲む。
りんごの酸味をそのままに残した爽やかな甘さが口に広がる。
さらりとしたのどごしが、喉をやさしく潤す。
これも、美味い。
2つ、3つと食べていく。
喉の渇きを覚えればジュースを呷る。
結局、30分程度で全て平らげてしまった。
大きく息を吐く。
もう時間的には22時、そろそろ寝ても良い頃合だ。
スマートフォンを開く。
メールが1件着信している。
妹だ。無事かどうかを尋ねつつ、お休みと言ってくれている。
先ほど撮った写真を添付して、お休みと返事をする。
1日の終わりをこうして、何よりも可愛らしい我が妹とのやり取りで締める幸福。
もしこれが件の中二や重い女、腹黒だったなら、きっと気分どころか夢見すら悪かったろう。
歯を磨いてうがいをしてから消灯する。
豆電球だけが軽く部屋を照らす。
布団にもぐって、その弾力に心奪われる。
真っ白いシーツの感触が心地よく、掛け布団の程よい重量が身体を軽く圧迫されて、すぐに睡魔が襲ってきた。
明日は9時にはチェックアウトで、朝餉は7時30分だ。
遅くとも、7時には起きよう。
スマートフォンの目覚ましは既にセットしてある。
もしかしたらそれよりも早く起きるかも知れないが、そうなったらそうなったで、それはまた明日の話だ。
とりとめのない思考の渦はいつしか混濁していく。
自由な旅の中、決して悪くない疲れを全身に感じながら、比企谷八幡の1日は終了した。
以上になります。お見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ありませんでした。
次回はまた、明日の夜になります。何卒よろしくお願いいたします。
投下したいと思います。
意識が浮上する。
眠りから覚醒する瞬間はひどくあっけない。
寝返りをひとつ打てば、壁にかかってある時計が目に入る。
6時前。
いささか早すぎるのではなかろうかと思い、いやそれでも8時間は寝たのだなと、八幡はとりあえず身を起こした。
適度な睡眠を取ったためか、ひどく目が覚めている。
はだけた浴衣を整え、洗面所へ向かう。
冷たい水を顔に叩きつけて歯を磨く。
その後に便所へいって用を足せば、すっかり常の状態になっていた。
風呂に行こう。そう思う。
朝食は7時30分と聞いているから、今から温泉へ行ってさっと湯を浴びて戻れば、ちょうどの頃合だろう。
当然ながらこのあたりの温泉施設はみな、朝風呂にも対応している。
タオルとバスタオルを用意する。
充電がとうに完了しているスマートフォンを手に取って、7時にセットしていたアラームを切り、財布とともに懐へやる。
部屋の鍵を取って八幡は、最後の湯浴みに出た。
夏の匂いが漂ってくる今頃では、この時間帯には既に陽が昇り始めている。
濃紺の空が段々と光に染まっていく様に、小川を照らす暖色の灯火がとてもきれいだ。
この風景も1枚、写真に収める。
どれだけ写真を収めても、実際に見て感じる風景には及ばないかもしれない。
それでも、この感動を少しでも形にできるのなら、きっと価値のあることだと信じる。
しばらく歩き、目的の温泉にたどり着く。
大きめの施設で、広告やら旗やらがひしめき合う外観はむしろ、スーパー銭湯らしくもある。
中に入れば受付の男性がひとり、船を漕いでいる。
一言声をかければ慌てたように飛び起きる。
苦笑いしつつ、お疲れ様ですと八幡が声をかければ、顔を赤らめて笑っていた。
受付を済ませて脱衣所へ向かう。
内観としてはやはり外観の印象に違わず、スーパー銭湯の色が強い。
ゲームコーナー、食事処、床屋まである。
早朝であるからいずれも閉まっているが、なるほどこういうものもあるのかと感心しつつ、脱衣所へ向かう。
先例の通り、貴重品はロッカーに入れて脱衣所のロッカーに衣服を放りこむ。
タオルを持って湯に乗り込めば、先だっての2件の温泉地とは趣が違うことに気づく。
湯船がそこかしこに置かれており、ジェットバス風のものやら五右衛門風呂風のものやら、いくつもの種類がある。
いよいよスーパー銭湯だと感心しながら、とりあえず掛湯を行い身体を洗う。
寝ている間にこそ代謝活動は活発になるから、目に見えない汚れもあるのだろう。
なんとなくそのあたりを意識しながら身を洗えば、早朝の静かな雰囲気がなにやら清新な心地をもたらす。
さて、とひとまず風呂へ入る。
浴槽は透き通っている。
底は浅く、実際に入ってみれば、胡座をしてようやっと肩まで身が静まるかどうかというくらいである。
温度もさほど高くはない。
最初に入った50度近い温泉はむしろ、このような明け方に入るほうが良かったような気がする。
もう少し各温泉地の説明を読んでおけば良かったかと自問するも、まああれはあれで気持ちよかったからそれで良いかと自答する。
少ししてから、八幡は浴槽から出た。
掛湯をひとつ行い、次に隣の浴槽、ジェットバスのように水流が勢いよく吹き出す湯に入る。
適当な位置で座れば、ちょうど腰や肩に水流があたる。
少しの痛みとむず痒さが、結果として身体をほぐしてくれる。
そんな印象だ。
身体を動かし、様々な箇所に水流を当てる。
むず痒さも慣れれば快楽を生み出してくれる。ツボと言っていいのだろうか、そのような箇所に当てれば、特に心地よい。
結局背中を一通り刺激してたっぷりとした満足を得てから湯を後にした。
設置されている時計を見れば、まだ7時前だ。
体の水分を拭き取り、髪を乾かして、衣服を着る。
貴重品を取り出して脱衣所を出れば、すぐに精算を済ませた。
なんというべきか、温泉というよりほぼスーパー銭湯のような感じではあったが、気持ち良かったのでよしとする。
さしあたり以上となります。
奉仕部関係については「最悪の終わり方をした」という表現のみにとどめております。
今現在の関係がどうなっているのか、そもそもどのような終わり方をしたのかは、お読みくださった方の解釈に委ねたいと思ったからです。
ただまあ、死んだり殺したりはしていないと思います。
その旨、ご了承くださいますようお願い申しあげます。
ありがとうございました。
言い忘れておりましたが、次回の投下は明日の夜になります。
お暇いただけましたら、ぜひご覧下さい。
投下したいと思います。
部屋へ戻れば、もう朝餉の仕度は終わっていた。
座布団に座れば、目の前には膳が置かれ、椀に白米、長方形の陶器には焼き魚が置かれている。
味噌汁に漬物、海苔、温泉卵。非常に健康的な朝の食事である。
いただきますと呟いて手をつける。
白米に味噌汁の組み合わせは磐石のものであるが、焼き魚と白米というのも良い。
しっかりとした身をほぐして、口に入れる。
醤油で味付けしているようで、香ばしい風味が口に広がる。
続けて白米を食べれば、絡まりあって甘味と辛味がより引き立つ。
ゆっくり噛んで嚥下する。
海苔を白米の上に乗せ、そのまま包むようにつまんで食べる。
磯の味わいが白米の熱気に煽られ嗅覚と味覚を楽しませる。
温泉卵を啜れば、出汁で軽く味付けされた控えめな旨みがまろやかさに調和する。
味噌汁を飲む。
夕べのものよりも味が少し薄めのようだった。
塩分を意識してくれている配慮を好ましく思いつつ、八幡は舌鼓を打つのだった。
朝食を済ませ、宿を発つ仕度に入る。
とは言え、来た時と何も変わらない。
衣服を来て、鞄を肩にかける。
スマートフォンと財布をポケットに入れれば、それで終いだ。
時刻はもう8時40分を過ぎる。
ひと晩世話になった部屋に別れを告げ、チェックアウトを済ませる。
思っていた以上に良い宿だった。
仲居に礼を述べて、八幡はいよいよ帰路に着いた。
駅に向かう緩やかな坂の、その途中の土産屋を何店か訪れる。
まんじゅうからせんべいからキーホルダーまで、様々な特産品が雑多に置かれている。
とりあえず友人たちの注文通りの品を見繕う。
あんこ入りのまんじゅうとロールケーキ、クッキー。
これらは妹用だ。
どうせ自分も一緒に食べるのだからと、半分は八幡の趣味が入っている。
同様に天使な友人に向けて、和菓子の詰め合わせと梅干も買っておく。
甘いものも辛いものも得意だというその博愛主義には身も震えんばかりの慈愛を感じる。
不良娘には36個入のまんじゅうを2箱用意する。
大家族でみな食べ盛りの可愛らしい子達だ。
いくつあっても足りはすまい。
弟の方には帰りのコンビニで適当にマニアックな成人誌を買っておくことにしよう。
肥満児には注文通りにカスタードクリーム入のまんじゅうを1箱と、適当にキーホルダーを買っておく。
まんじゅうは1番容量の少ない、小さな箱を買う。
迂闊に食い物を買い与えてやると、ますます巨大化する。
傍から見ている分には構わないのだが、なんだかんだと行動を共にすることもあり、時折心配になるからだ。
決して金を惜しんでの所業ではない。
元恩師には注文のとおり、せんべいと塩辛を買ってやる。
後はサービスで、美白効果のある温泉の素パックも追加する。
見た目は相変わらず美貌の女教師なのだが、本人はどうも最近肌を気にしているようである。
どうにも神経質なように思うが、当人も必死なのだろう。
腹黒女は最早どうでも良い。
成人誌を買うがてら、携帯用の将棋でも買ってやろう。
そう思っていると、面白いものを見つけた。
手にとってしげしげと眺める。
これは良い。
注文にあった代物であるし、何より馬鹿馬鹿しい。
関連商品をまとめて手にとって購入する。
後は八幡の感性に従って、しば漬けを2箱、クッキーを1箱購入する。
最初に会った友人にくれてやろう。
以上の諸々を精算すれば、財布の中身も程よく減っている。
帰り賃を除けば、後は数千円程度を残すくらいであった。
以上になります。
もうあと1,2回ほどで終わると思いますので、お時間いただけましたら、ぜひ、ご覧下さい。
明日もまた、この時間頃に投下したいと思います。
ありがとうございました。
投下したいとおもいます。
両手いっぱいの紙袋を持って、八幡はいよいよ駅へ到着した。
切符を買って、ホームに入る。
帰郷のための電車は、もう数十分ほどで到着するようだ。
椅子に座る。
紙袋を置いて一息付けば、そう言えば結局、今日の昼は故郷で食べることになりそうだと気づいた。
せめて昼過ぎまでここにいても良かったかも知れなかったが、もう土産も買って、電車を待つ状態である。
まあ仕方ないかと妥協した瞬間、スマートフォンが振動する。メールだ。
確認すれば、元恩師からのものだった。
体調を気遣いつつ、何時頃に千葉に帰ってくるかを聞いてくる。
なぜそのようなことを聞くのか訝しみながら、素直に13時頃には到着すると返せば、気をつけて帰ってくるようにと返事が返ってきて、それきりだった。
そんな殊勝な女だったろうか。
旅行に出ているこの2日の間に、改造手術でも受けたのか。
いつになくしおらしい文面に鳥肌を立てていると、アナウンスが流れる。
もうすぐ電車がくる。
ホームに立って、静かに到着を待つ。
日差しもいよいよ強くなり、地面が焼け付いていく。
生ぬるい空気を肺に入れればほのかな緑が匂い、どこまでも青く澄み渡る空を見上げれば、夏への扉がすぐそこにまできているのを感じる。
草から虫から、生命が鮮やかに脈動する季節の到来を体全体で受け止めれば、汗ばむ体すら、どこか心地よく思えた。
良い旅だった。
心からそう思う。
いつだって、旅は八幡の心を癒してくれる。
あの頃ならきっと、反感と嫌悪と憎悪を感じていただろう素直な感情だって、今なら受け入れられる。
イヤフォンをスマートフォンに繋げる。
最近お気に入りの名曲を聴いて、しばしの時を過ごす。
一人旅を続ける孤独な男の歌に、思いを馳せる。
風のように時に凪ぎ、時に荒れ、時にやさしく、時に激しい、そんな旅路。
けれどもその中では、きっとだれかが待ってくれている。
いつでも、どこかで。
そんな希望を感じさせてくれる歌だった。
ふと、かつての知人たちを思い浮かべる。
終わりこそ最悪といっていいものだったが、今にして思えば、あの日々は決して悪いものではなかった。
このような考えを抱くようになったこと自体が、高校時代にさんざ人をこき使ってくれた元恩師の思惑通りだという点についてはいささか認めがたいものはあるのだが、それすら含めて感謝している。
失敗しても、絶望しても、どん底に落ちても、間違えても。
それでも価値はあったのだと、何度でもやり直せるのだと今なら信じられる。
そんな風に変わった今の自分を、比企谷八幡はきっと、かつての自分と同じくらいに愛している。
ホームから線路を遠く見やれば、電車の灯が見えてくる。
ひとまず旅はこれで終いだ。
数時間後には、変わり映えのない、何よりも素晴らしい日常が待っている。
それがたまらなく嬉しい。比企谷八幡は、そう思うのだった。
比企谷八幡「だれかが風の中で」
これにて全編となります。ご覧くださった方、ご感想くださった方、ご指摘くださった方。
本当にありがとうございました。星の数ほどの感謝の念を込め、お礼申し上げます。
原作はきっと良い方に向かい、きっと雨も晴れ、地も固まるものと信じております。
ですが例え悪い方向に終わることがあっても、幾年月を経れば、そう悪いものでもなかったと振り返られるのではないかなと。
そんな終わり方があっても良いと思い、拙いながらも形にしてみた次第です。
なんだか表現しづらいですが、8巻で盛大に曇った心を満たすだけの作品ですので、あまり気にしないで頂けると嬉しいです。
重ね重ね、ありがとうございました。
あータイトル微妙に回収できてない……
ちなみにこの後の八幡は千葉に帰った直後に当SS内で言うところの、
「元恩師」
「腹黒女」
に誘拐されて夏の午後なのに激辛鍋食べさせられます。
食べさせられて激おこマジェスティックファイナリアリティぷんぷんプリンスブチギレボンバーヒキガヤハチマンさんになります。
一応途中まで書きましたが、キャラ崩壊、全編会話分のみ、「!」「?」多用。
何より当SSとのテンションの落差がひどいにも程があるので投下するかどうかわかりません。
今までのテンションがはぐれ旅なら、上述のテンションとノリは無謀編なので……
ならばお言葉に甘えて投下していきたいと思いますが、今日はとにかくこれにて終いです。
重ね重ねありがとうございました。
番外というかなんというか、とにかく続きは明日の朝にちょっと投下します。
今後投下は不定期になっていくと思いますが、それでも週に2から3度ほどは投下できると思いますので、よろしくお願いします。
おはようございます。
昨日は拙作をご覧頂きまして誠にありがとうございました。
続きというか番外というかな代物を、さわりだけでも投下したく思います。
前にも述べましたとおりキャラ崩壊、完全コメディ等、趣が180度変わっておりますので、ご了承ください。
ある夏の日に、平塚静邸にて
陽乃「静ちゃん静ちゃん、そろそろいい具合じゃないかな?」
静「よしじゃあ入れていこうか。聞くまでもないんだが、抜かりはないな、陽乃」
陽乃「もちろん、一事が万事、オールクリアだよー。……ホントにだいじょぶ? これ」
八幡「…………ちょっと」
静「問題ない問題ない。よしよしよし。それじゃあ手はず通りにやっていこうか」
陽乃「う、うーん……まあいいや、オーケーボス!」
八幡「あのちょっと、おふたりさん」
静「ん? 何か呼んだかね八幡。長旅で疲れてるだろう。少し横になるか?」
陽乃「枕持ってこようか? 今日の主賓だものね、おもてなししちゃうよ!」
静「美人で若々しいお姉さんの匂いの篭った枕だ、興奮するなよ?」
陽乃「やだもー静ちゃんたら、今はまだお昼だよー?」
静「いやいや失敬失敬、ははは!」
八幡「いやあんたらちょっと……おもてなしも何もさあ」
陽乃「え、なに? お姉さんの膝枕が良い? あらやだもー八幡ったら積極的!」
静「おおっ見せつけやがるねお二人さん! 憎い! この世の全てが憎いっ!」
陽乃「あれあれ静ちゃん、そういうなら交代で膝枕してあげよっか。きっと喜ぶよ!」
静「そりゃまたグッドアイディアじゃないか陽乃くん! よしきた、任せろ!」
八幡「んだよさっきからうるっせぇなあんたら! 帰せよいいから俺を家によぉ!」
静「何を言ってるんだ八幡。これからお前の帰郷祝いを始めるところなんじゃないか」
陽乃「主賓が帰っちゃったら今回の私たちの努力とか心遣いとかみんな無駄になっちゃうんだよ? 分かってる八幡?」
八幡「帰郷祝いも何も、あんたら俺はついさっき千葉に戻ってきたんだよ。努力も心遣いもいいから家に帰らせてくれよ」
陽乃「……?」
八幡「おいこら、何不思議そうな顔してる」
陽乃「いやいやだから私たちは今ここでね? ついさっき帰ってきた八幡の帰郷祝いを執り行おうと、今まさに準備の最中に取り掛かってる最中なのだよ?」
八幡「いや、だからそれがそもそもおかしいって言ってんだけど俺はさあ。おい聞けよ」
八幡「とにかく話を整理しよう、今ここに俺が至るまでに何があったのかを改めてキチンと説明するから、ちゃんと耳かっぽじって聞きなさいよあんたがた」
陽乃「なに? 今私たち味付けで忙しいんだからあんま騒がないでね」
静「手短に頼むぞ、この作業はスピードと集中力が命なんだ、ラディカルグッドスピードなんだ。お前の馬鹿みたいな屁理屈聞いてやる暇だって、こっちにはないんだ」
八幡「なんだとおいこの!」
八幡「まあいいよ言うぞおい、俺はついさっきまで温泉街に1泊2日で旅行に行ってたんだよ、湯治の旅だ」
八幡「自然に囲まれた伝統の街で美味いもん食って風呂入って土産だってしこたま買って、そりゃもうゴキゲンな旅行だったよ。最高だった」
陽乃「あーいいよねぇ羨ましい」
静「そこに置いてある紙袋はやっぱり土産か。後でくれよ」
八幡「はいはい後でな。そういう羨ましがられるような旅だったんだよついさっきまでは。そんであれだ、俺は電車乗って故郷の千葉まで帰ってきたんだよ13時過ぎな」
静「30分くらい前だな。おつかれさん」
八幡「どーもどーも、そんで俺は家に帰ろうつって歩き出したんだよ。当たり前だろ、故郷に戻ったんだから。まずは家に帰って羽伸ばそうなんて考えるよ」
八幡「愛する妹の小町ちゃんにも土産渡したいんだからそりゃ帰るよ」
陽乃「相変わらずのブラコンだねぇ」
八幡「そしたらなんだおい、突然現れた2人組の女に俺は車に押し込まれてそのまま今ここだよ」
静「物騒な世の中だなあ、気をつけろよ陽乃」
陽乃「静ちゃんも気をつけてね」
八幡「……そんでその2人組が今何してるかってなんだ、このクソ暑い中クーラーも入れずに鍋グツグツと煮込んでてさ、え?
八幡「やれ帰郷祝いだなんだと訳のわからないことを、1泊2日しかしてない男にのたまってだ」
陽乃「せっかくのパーティなんだから、そりゃ皆で楽しめる鍋でしょ!」
静「安くてたくさん食べられるものな。しかも楽しいんだから、これしかないだろ」
八幡「何が楽しいだよこっちはひとっつも楽しくねえんだよ……誰も頼んでねえんだよこんなもん! 誰が帰ってくるなり誘拐まがいの真似してクソ暑い中鍋作れなんて頼んだよ!」
陽乃「言いだしっぺは私で」
静「主犯は私だ」
八幡「分かっとるわいそんなこと! いいから俺をここから出せ、帰らせろよ俺を!」
このくらいをもってさわりとします。ありがとうございました。
一応友人らしい関係という話なので、歳は違えど三人ともタメで話しております。
会話のテンポを良くするよう目標を立ててやっていきたいと思います。
次回はまた明日の朝にでも投下したいと思います。
ぜひご覧下さい。
帰ってきた八幡が大泉洋みたくなってるwwwww
>>207
そうですね、会話のノリというかテンポはお察しのとおり、北海道のお化け番組を意識してやっていきたいと思っています。
明らかに元ネタがわかるシーンもありますので、ある種のパロディになっています。
何卒ご了承ください。
ご指摘いただきましてありがとうございます。
完全に誤用ですねえ、お恥ずかしい限りです。
>>203
陽乃「相変わらずのブラコンだねぇ」
正しくは
陽乃「相変わらずのシスコンだねぇ」
となります。
申し訳ありませんでした。
それでは改めまして、投下したいと思います。
静「とは言われても、もう鍋できあがるぞ。昼飯まだだろ、食べていけよ」
陽乃「どーせ帰ったってゴロゴロするだけでしょー? いいじゃんちょっとくらい」
八幡「ゴロゴロしたいんだよ俺は!」
八幡「ていうか鍋できるったってあんたこれ、もやししか入ってねえじゃねえかよ!」
陽乃「静ちゃん給料日前だから仕方ないよ。私はこんなことにはびた一文お金使いたくないし」
静「もやしは貧乏人の救世主さまだよ八幡。いいから文句言わずに食べよう。なーっ!」
八幡「なーっもなにも給料日前で金ないならやるなよこんなこと」
八幡「そんで腹黒、てめえはいいから人の心ってのを持てよ。かわいそうだろ、もやししか買えないこと暴露された方も今からもやし食わされる方も」
静「とにかくもうすぐ出来上がるんだ、いいから食べよう、よく噛んで食べよう」
陽乃「なんだかんだお腹減ってるんでしょーいいでしょ別にー」
八幡「たしかに腹は減ってるけどなあ、こんなもやしばっかの鍋食いたかねえや!」
八幡「……ていうかこれなんだ、やたら色が赤いっていうか、なんか目に痛い匂いがするんだけど。あんたがた何入れたこれ」
陽乃「え? あー……あり合わせの激辛調味料を少々」
静「夏こそ健康的に汗をかかんといかんからな。激辛カレールーとかキムチ鍋の素とか片っ端から突っ込んである」
八幡「帰る。俺は帰る。俺は帰って家で小町と幸せラブラブにお昼ご飯食べる」
静「まあそう遠慮するな。超絶美人お姉さん2人を侍らせてラブラブに鍋を食べようじゃないか」
陽乃「やったね八幡! 痛々しい中学二年頃に夢にまで見たであろう、ひたすら都合の良い馬鹿みたいなハーレムだよ!」
八幡「さらっと毒吐くな! ぶっ飛ばすぞクソアマ! つうかもう食えねえだろそんなもん、食えるわけねえだろ!」
静「え? いや、食えるだろ。食えるもん入れるんだから、食えるだろ」
八幡「ああ? じゃあなにか、あんた見本見せてくれんのか? 食えるんだろ、俺より先に食えよ」
静「……いや、お前のために作ったんだから、お前一人で食ってくれ」
八幡「馬鹿じゃねえのかババアてめえ年寄りだからってボケたことぬかしてんじゃいだだだだだだだだ!」
静「んん? 今何か不適切な言葉を聞いた気がするよぉ? おかしいなぁこんなに若々しくて可憐で美しい黒髪ロングの知的美少女を捕まえて、何やら変なこと言ったボウヤがいるよぉ?」
陽乃「わー片手で頭をミシミシ言わせてるー……ていうか、やっぱりそのあたりの単語はタブーなんだね静ちゃん……」
八幡「悪い! 悪かった! 俺が悪かった美人のおねーさん! いいから離せ! 話せばわかる! わかるから!」
陽乃「食べるよね、八幡? 食べなきゃ離さないよこの人」
静「締まっちゃうよぉ。生意気なボウヤはどぉんどん締まっちゃうよぉ」
八幡「なんだその二択! ていうか静さんあんた、そりゃしまっちゃうおばさ……いだだっだだだっだ! わかった! 食べる! ありがたくいただきます美人のお姉さま!」
静「よろしい。では早速椀と箸の準備だ」
八幡「うううう。午前までの清々しい爽快感はどこに……」
陽乃「人生ってね、八幡。理不尽なんだよ……」
八幡「うるせえよ……お前にだけは言われたかないわ……」
以上になります。
次回は明日か明後日かになります。
お暇いただけましたら、ぜひご覧ください。
ありがとうございました。
投下したいと思います。
陽乃「いよーし、じゃあ行ってみよう!」
八幡「食うのか……本当に食うのか、これを。俺が……」
静「男に二言なし! 行けよ八幡、行けばわかるさ!」
八幡「あんた覚えとけよマジで……椀よこせ、あと、箸も」
静「うむ、よかろう……ほら、普段私が使ってる箸だ。舐るなりしゃぶるなり好きにしたまえ!」
八幡「なんならへし折るぞバカ野郎! ……あー、もやし、赤いなあ……」
陽乃「様々な色の香辛料を突っ込んだ割には、奇跡的に普通の赤になってるねえ。うっわぁ……」
八幡「その事実が逆に恐怖を増幅させるんだよ……お前ら本当、何してんだよぉ……」
八幡「はぁ、ふう……食うぞ、食うぞ……!」
静「おおっ、一口に……!」
陽乃「……どう、かな、どうかな?」
八幡「…………意外と食える、気が、する、ん、だけどぉぉぉぉッホ、ッゴッホゴホゴホッ」
陽乃「お、おーう……」
静「ものの十秒もせずに、盛大に咳き込みだしたな」
八幡「ウェッヘ、グホッ! ―――――ァツッウツア、フゥアオゥッ」
静「なんか人間的じゃない発音をしだしたぞ」
八幡「フォアッフォアッ! ……ヌグッヌグウゥ」
静「ヤカンから直に水を飲み出す……だと……」
陽乃「あの、静ちゃん、やっぱりこれ、やばいんじゃ……!」
静「なんだこれしきみっともない。どれ、私も……」
陽乃「えっ?! あ、ちょっ!」
静「ウェェェェッヒ! ガブッ! ゥッゥウウアッアゥ、フォアオゥッ」
陽乃「ああ?! 被害者がまた一人!? ていうかなんで食べるの静ちゃん! 水、水!」
八幡「ゼヒーッゼヒーッ」
静「ヒューッフ、ヒューッフ」
陽乃「ようやっと落ち着いてきたね……救急車呼ぼうか本気で迷ったよ……」
静「……ちょっと、どころでなくやりすぎたようだな……ホントに洒落にならないぞ……」
八幡「こ、このババアッ……冗談抜きでぶっ殺すぞ……凶器ならあんだぞ、そこに……」
静「さ、流石に言い訳できん……ホントに、だめだ、死ぬ……」
陽乃「これは、ひどい……ていうかどうするのこれ。丸々1キロは残ってるんだけど」
八幡「舌の、感覚、ねえんだけど、これ……あと1キロ、とか、死んじまうよ、本当に」
静「と、とり、あえず……煮込んで、水分、飛ばして、次から、次へと、水とか牛乳を、足そうか。いずれ味も、薄まるだろ……八幡、まだ食えるか?」
八幡「薄めたやつならなんとか……あんたはどうなんだよ、食えないとは言わせねえぞ」
静「今すぐには無理だ……ちょっと、時間置かないと」
八幡「俺もだ……よし、援軍呼ぼう」
陽乃「援軍? 誰?」
八幡「決まってるだろ。デブ」
静「……一応聞いておくが、理由は?」
八幡「小町や戸塚にこんなもん食わせるわけにはいかない。川崎姉弟も耐性なさそうだから、本当に病院沙汰になりそう」
八幡「その点あのデブは良心の呵責もないし甘辛両方いけそうだからな」
陽乃「消去法もここまでくると逆にツンデレっぽいねー」
静「それを言うなら捻デレだろう。なんだかんだ相棒みたいな関係だものなあ」
八幡「……ひどく不快な話の流れだが、まあいいや。電話かけるぞ」
八幡「……おう、材木座」
今回は以上になります。
次回は水曜か木曜かくらいになると思いますので、お時間いただけるようでしたらご覧下さい。
ありがとうございました。
乙
ここの材木座はやせて渋かっこよくなってるはず
>>240
個人的に材木座は「汚いダル」のイメージなので、どうしても肥満という要素は外せませんでした。
これに限らず登場キャラは個人的なイメージを前面に押し出しています。
各々方の思い描くものとは違う箇所もあるかともいますが、何卒ご了承くださると助かります。
投下したいと思います。
八幡「うるせえよ中二。相変わらずお気楽な脳みそしやがるじゃねえかてめえ」
八幡「おう、ついさっきな。今? ……家だ。お土産ちゃんと買ってあるぞ、感謝しやがれ」
八幡「ところで今暇だろ、暇だよな。暇だと言え。……そうか暇か。ならちょっと来てくれ」
八幡「駅まで来れば迎えにいくから。どのくらいかかる? 30分? 了解了解」
八幡「ああそうそう、お前昼食った? まだ? なら途中でなんか食ったりすんなよ。いや、マジで。ごちそうあんだよ。洒落にならないほどの至高の絶品が」
八幡「そうそう。だから何も食わずに来いよ。おうおう、じゃーな」
八幡「来るってよ」
静「悪魔かお前」
陽乃「嘘は言ってないところがまた、ひどいねー」
八幡「君たちはいつもそうだ。元はといえば自分たちの所業が原因なのに、すぐに人に矛先をむける」
八幡「まったく、わけがわからないよ。ってことで、静さんちょっと駅まで行ってこい」
静「はあ? なんで私が」
八幡「あんたの家に案内すんのになんで俺や陽乃が行くんだよ、おかしいだろ」
静「えー……というか、ちょっと待て。そうなるとあれか。あいつを家に入れるのか、私」
陽乃「あー、まあ、見た目はちょっと、だからね材ちゃん」
静「う、ううむ。やはりみだりに男を女の家に入れるのはだなあ」
八幡「俺が居る時点でみだりもなにもねえだろ」
静「ぐ、ぐぬぬ。あ、あれだ、元とは言え生徒を教師が家に上げるのは」
陽乃「私も八幡も元生徒だよー」
静「ぬ、ぬぐぐ。お、お前たちはほら、友達だから。あいつは友達じゃないぞ!」
八幡「良い機会だ、この際に友達増やせ」
静「よりによってお前がその台詞を吐くのか!? 選ぶ権利くらい私にだってあるだろ!」
八幡「そう、かんけいないね」
陽乃「ねんがんの、おとこともだちを、てにいれたぞ!」
静「な、なにをいう、きさまらー!」
静「仕方ない、行ってくるが……このことが原因で野獣と化したヤツに寝込みを襲われるようなことがあったら貴様らの責任だからな!」
八幡「俺の知り合いの中で一番腕っ節が強い癖に何言ってんだ。そもそもそんな気も起こさねえよあいつは。最近いよいよ二次元の世界にのめり込んでいってるからな」
陽乃「ある意味この世で最も女性に対して害の無い種類の存在になっちゃったねー」
八幡「高校時代はまだ現実の女性への憧れがあったと思うんだが、何があったのやら」
陽乃「……ごく身近でえらい苦労しちゃってた例を見たからじゃないかな」
八幡「なんのこっちゃ」
陽乃「いやいや別に別にー」
静「うう、ご近所の目が気になる……行ってくる」
陽乃「いってらっしゃーい」
八幡「気ぃつけてなー」
八幡「……つうか普通に考えて、一度案内されたくらいで道覚えられねえだろ。結構入り組んでるぞこの辺」
陽乃「それに元教師の家に気安く通うタイプじゃないよね」
八幡「それ以前に材木座は静さん苦手だからなあ。しかしあの人も大概人間不信だな……」
陽乃「今となっては誰よりも更生が必要な人だから……」
以上になります。
次回は金曜か土曜にでも行いたいと思います。ぜひご覧下さい。
ありがとうございました。
投下したいと思います。
八幡「あーっ、暑い……陽乃、クーラーつけよう」
陽乃「はいはい。ああ、鍋に水も足してくね。牛乳は、あとちょっとだけあるか」
八幡「本当にお前ら何してくれてんだよ全く……」
陽乃「いやー、まさかここまで洒落にならなくなるとは思わなくて。ごめんねー?」
八幡「いいから水足せ水足せ。せめてまともに食えるくらいにしとかねえと、さっきみたいなもん食ったらあのデブ死ぬぞ」
八幡「あー、まだもうちょい薄めないとダメか」
陽乃「結構入れたのにねー……あ、そうそう八幡。お土産ちょーだい!」
八幡「いやに唐突に言うじゃねえかてめえ。ここまでの仕打ちをしておいてよく言えたなおい」
陽乃「でもどーせくれるんでしょ? なら早めに貰っとこうと思って」
八幡「相変わらずまあ面の皮の厚いこと……まあいいや、ちょっと待ってろ」
八幡「ええっと、あ、あった。ほれ、受け取れパース」
陽乃「受け取るキャーッチ……って、は? なにこれ、将棋?」
八幡「思うがまま動く駒だぞ。あと、これも」
陽乃「えっ……えっ? 独楽?」
八幡「大中小の独楽にベーゴマ2つ、あとこれ、ベイブレード」
陽乃「はぁ!?」
八幡「いや最初は将棋だけにしとこうと思ったんだよ、めんどくさかったしな」
八幡「そしたら土産屋で独楽とベーゴマ、ベイブレード見っけてさあ。こらご注文にぴったりやなと」
陽乃「…………」
八幡「これなら技術しだいでいくらでも思うままに動くだろ。いやあ最初にあのメールを読んだ時は何考えてんだこのバカ犬でも飼ってろよとか思ってたけど、さすが俺、機転が利くねえ!」
陽乃「…………お菓子は?」
八幡「へ?」
陽乃「まんじゅうは? クッキーは? カステラにケーキにラングドシャは?!」
八幡「え、いや、お前の分はそれで終いだよ? 当たり前だろ、注文に応えただけなんだから」
陽乃「……見損なったよ、八幡」
八幡「……あ? 何が」
陽乃「八幡のことだからきっと、私のメールの裏を読んで適当に美味しいお菓子を買ってきてくれるって信じたのに……!」
陽乃「最初の将棋は冗談にしても、きっと後からまんじゅうとか甘いものを渡してくれるって……!」
八幡「はあ?!」
陽乃「期待してたのに! 信じてたのに! この、うらぎりものー!」
八幡「……なるほどなるほど、な、る、ほ、どおぉぉぉ」
陽乃「むー……!」
八幡「言いたいこと言ってくれんじゃねえかよぉ、おい……」
陽乃「なにさ!」
八幡「じゃあ言うけどなあ」
本日は以上になります。
短い上にあまりキリは良くないですが、次回は明日の午前中にでも行いたいと思いますので平にご容赦いただきたく思います。
重ね重ね言いますが、キャラ崩壊が激しいので何卒ご留意ください。
ありがとうございました。
おはようございます。
投下していきたいと思いますのでよろしくお願いします。
八幡「お前のさあ、なんだ、アホみてえな悪ふざけのさあ、裏とかこっちは知ったこっちゃねえんだよそんなもん」
陽乃「あ、アホみたいって……」
八幡「アホだろうがよう、ええ? 人が気楽に湯治に行くっておい、俺言ったよなあ」
八幡「土産だって気まぐれで買うかもしれねえつったのもお前、知ってたよなあ」
八幡「そんでお前、人がせっかく気まぐれ起こして土産欲しいか聞いてやったらなんだ、思い通りの駒がどうとかバカ丸出しのメール送りつけやがってよぉ」
陽乃「う、ううう」
八幡「お前がドヤ顔して送りつけてきた悪ふざけの文面に隠された真意をさあ、なんで気楽な湯治真っ最中の俺が考えなけりゃいけないんだよ。探偵じゃねえんだぞこちとらよぉ」
陽乃「ドヤ顔なんてしてないよ!?」
八幡「そんでなんだ人がそれでも頭ひねって洒落た返しを考えて渡してみりゃだ、おい。やれ裏読めだの甘いもん食わせろだの、なんで俺が怒られてんだよ、ええ?!」
陽乃「は、八幡ならそのくらいの意図はわかってくれるって私はですね」
八幡「分かるわけねえだろ聞いたこともないようなそんな意図! エスパーじゃねえんだぞ俺は! 言わなきゃ分かるわけねえんだよそんなもん!」
陽乃「結構友達付きあい長いでしょ私たち!?」
八幡「関係あるかそんなもん! 大体今のこの状況からして俺は怒ってんだよ!」
八幡「なんで気分良く旅行から帰って来たと思ったら誘拐されて激辛鍋食わされてんだよ俺が!」
陽乃「いや、それはその」
八幡「誰も頼んでねえのに帰郷祝いだおもてなしだと息巻いてだ! もやししか入ってねえ鍋食わされてだ! あげくに土産渡したら逆ギレくらう!?」
陽乃「あ、あの、八幡、お、落ち着いて、ね?」
八幡「今時ガキでもやらねえような悪ふざけしやがって、裏の意図読めだわかってくれると信じてたのにだ勝手な屁理屈捏ねてさあ! 分かるわけねえんだよこんなもん! お前の家族だって分からねえよ!」
陽乃「いやいやきっと分かってくれる! 多分!」
八幡「あ!? おおじゃあ送れよあのメールお前の妹に! 返事すら来ねえぞ絶対! まんじゅうどころか独楽の一つも買ってこねえぞあの妹は!」
陽乃「そこであの子引き合いに出すの!?」
八幡「何だったら今からあの妹に温泉街行かせりゃ良いじゃねえかよええ!?」
八幡「飯食って風呂入ってのんびりしてる頃にあのメール送るから訳分かんねえつったらお前の姉ちゃんに言えって言ってやるんだよそしたらさあ!」
陽乃「行くわけないでしょあの子が! ていうかアドレス知らないでしょ!?」
八幡「俺はお前の親兄弟かなんかか? 違うだろ! だったら勝手に思い込んで意味分かんねえ期待すんなよ! 付き合いきれねえよバカ!」
陽乃「さ、さっきから聞いてれば! そこまで言われるとこっちだって黙っちゃいないよ!」
八幡「なんだ!?」
陽乃「なにを!?」
静「おーう戻ったぞー、ほら入れ材木座」
材木座「お、おじゃましまーす…………おお! ファハハハハ!! 待たせたな八幡よぅ!! 剣豪将軍材木座義輝、ここに推・参!」
陽乃「おーおかえり静ちゃん! 材ちゃんもひゃっはろーぅ!」
八幡「でかした静さん! よく来た材木座! ささ、こっち来い!」
静「ああ。ところでお前らまた漫才してただろ。声響くんだから近所迷惑だ。やめろ」
八幡「あいよ」
陽乃「りょーかーい」
材木座「むぅ……相変わらずのコンビネーション! べ、別に八幡と息が合ってるのが羨ましくなんてないんだからね!」
今回は以上になります。
次回は水曜あたりの夜になると思いますので、お時間いただけるようでしたら、ぜひご覧下さい。
ありがとうございました。
投下したいと思います。
材木座「それで八幡よ、さぞかし良い旅行であったろうなあ。土産は?」
八幡「いきなりそれかい。ほれ、カスタードクリームまんじゅうとキーホルダー」
材木座「キーホルダーは頼んでおらぬぞ……というか、小さいなまんじゅう!」
八幡「てめえの健康を案じた結果だありがたく思え。どうだ! 貴重な俺のデレだぞ!」
材木座「キモいわ! ええい、他にないのか他に!」
陽乃「ベイブレードならあるよー」
材木座「むう!? それは昔懐かしの名玩具! 雪ノ下殿、何故これを!?」
陽乃「そこのおバカさんが私へのお土産ってさ」
材木座「お、おーぅ……八幡、喧嘩は相手見て売らなきゃダメだって」
八幡「急に素になるなよな。お前はともかく俺はもう、そこのアホに恐れることはないから無問題なんだよ。つうかおい、せっかくの人の土産を何て扱いだ」
陽乃「つーん」
静「随分と薄まってるな、鍋。これなら食えるだろ。ほれほれ、続きするぞ」
材木座「ほぷん? これなら食える?」
八幡「あっ」
陽乃「あっ」
材木座「……ふぉぅ!? なんぞこれは!? 地獄のような赤さ! ていうか辛い、痛い、匂いが!?」
静「えーいグダグダ抜かすな。これでも当初の十分の一くらいなんだ、食える範疇ではある」
材木座「は? は、は? ……はち、は、八幡? え、何? 謀ったの我を?!」
八幡「何が?」
材木座「いや、お主、洒落にならない至高の絶品がどうとか」
八幡「至高の絶品だぞ実際。辛さにかけては至高の頂だぞ」
陽乃「一口食べたら八幡も静ちゃんも悶絶したよ。洒落にならなかったよ」
材木座「……ふ、ふぉぅぁぁあああぉうぅ!? か、帰る! 俺帰る!」
八幡「あっデブ、てめえ今更逃げんな!」
陽乃「ぃよいしょぉ、居合投げぇ!」
材木座「はぽぉぉぉぉっん!?」
静「投げるな! 埃が立つだろ! 近所迷惑だろ!!」
八幡「迷惑はともかく埃はてめえで掃除しろ! きったねえな!」
材木座「う、ううう。……あっ、そうか! だからあの時、躊躇いがちに家だって……!」
八幡「聞こえるか材木座。聞こえているなら、俺の友人関係の不幸さを呪うがいい」
材木座「何? 友人関係だと?」
八幡「そう、友人関係だ」
材木座「は、八幡、お前は?!」
八幡「君は良い知人だったが、俺の交友関係がいけないのだよ。ふふふふ、はははは……!」
材木座「……八幡、謀ったな、八幡」
陽乃「さらっと私と静ちゃんを不幸扱いしたね八幡。怒るよ」
静「ほれできたぞ材木座。お椀いっぱいの激辛もやしだ。ぜひご賞味あれ」
八幡「このタイミングでかよ、鬼かあんた」
材木座「……我とてお前の唯一無二の親友だ。無駄死にはしない」
八幡「何勝手に親友ヅラしてんだこいつ……」
陽乃「むしろいい加減認めなよ八幡……」
材木座「剣豪将軍材木座義輝に栄光あれーっ! ハムッハフッ! ハフハフッ! ハフッ!!」
本日は以上になります。
次回は金曜の夜にでもと思いますのでぜひ、ご覧下さい。
ありがとうございました。
投下したいと思います。
静「一気にかきこんだ、のか」
八幡「いや、あるいは有効かもしれんぞこれ。辛さを認識するまでもなく飲み込めば」
材木座「ウェェェェェェェェッッッッッフ!! ウェへッ、ヘッフッ、ゴブハァッ!?」
八幡「大して意味はないか」
陽乃「いやいやいやいや水、水」
材木座「ウェッヘエェ……グゥエッフ……」
八幡「なんとか一命はとりとめたか」
静「危ないところだったな……」
陽乃「この分じゃまだ、水足してった方がいいかもねー」
材木座「ひ、人一人死なせかけといて、なんて冷静なんだ主ら……」
八幡「だって俺らその十倍濃いやつ食ってるもん」
静「それで生きてるんだから、お前が死ぬわけないだろ」
陽乃「苦しみ方も材ちゃんの十倍くらいだったけどね」
八幡「しゃあない、もうちっと水足すぞ陽乃。材木座、しばらくゆっくりしとけ」
材木座「できれば今すぐ帰りたいのだが八幡よう……」
八幡「なら今食うか、このもやし。1キロあるぞ」
材木座「どうぞ存分に薄めるが良いぞ! いくらでも我は待とう!」
陽乃「ていうかもう16時だよー……」
静「今から更に水で薄めて、温め直して、食べて……もう夕食だなこれ」
八幡「何が悲しくて昼も晩ももやしなんだよ俺ら……昼に至ってはほとんど食ってねえしさあ」
陽乃「最初にやろうって言い出しといてなんだけど……私もう帰りたいなーって……」
八幡「……ああ? なんだお前、随分とムシの良いこと言うじゃねえか」
静「人の金で遊ぶだけ遊んで飽きたらそれか……? 私はお前がやれっていうからやったんだが?」
静「給料日前で金ないって言ってる私を無理やり丸め込んだのはどこの誰だ? ん?」
陽乃「え、あ、いやー冗談! ただの冗談だよ、うん!」
八幡「……あんまり変なこと言うなよ、そろそろ冗談一つとってもマジにするぞ俺」
静「何年か前にも言ったよなあ……悪ふざけもほどほどにしておけよ雪ノ下陽乃」
陽乃「……メールはマジにとったくせに。静ちゃんもノリノリだったくせに」
八幡「あ?」
静「ああ?」
陽乃「なんでもない! よし、水足そう、水!」
材木座「ううむ、殺伐としてきたぞ。おっかない……」
八幡「ああー……! 家に帰りてぇー!」
材木座「我も帰りたい……」
八幡「ううううー小町ーこまちぃー」
陽乃「禁断症状が出始めたよ……」
八幡「小町ぃーお元気ですかー……今ぼくはー……夏の夕暮れにー……鍋を食べようとしていますうー」
静「うわごとまで言い始めたな」
八幡「誘拐されてー昼から晩までーもやしなのっ! 激辛なのっ!」
材木座「見るに堪えん、むごすぎる……平塚女史、雪ノ下殿、なぜこのようなことを……」
静「私は悪くない! 私は悪くない! 陽乃が、陽乃がやれって言うから……!」
八幡「私は家に帰ります。……ここにいると、バカの悪ふざけにイライラさせられる」
陽乃「逃がさん……八幡だけは」
材木座「あっ詰んだ」
八幡「材木座! この家から脱出できない!」
陽乃「……静ちゃんめ! こんな悪ふざけを実行するなど!」
静「……私を責めることはできまい。最初に言いだしたのは陽乃だ」
材木座「わかっていただろうにのう……八幡」
本日は以上になります。
次回は日曜日の午前中にでも投下したいと思いますので、ぜひご覧下さい。
ありがとうございました。
投下したいと思います。
陽乃「冗談はさておいて、流石にいい感じになってきたねー」
静「コトコト煮込み始めてほぼ4時間、薄め始めて3時間弱……我ながらなんて休日の過ごし方だと思わなくもないが、とにかくどうにか食べられる感じだなあ」
八幡「やっと人間の食えるものになったか……ほれ材木座、行け」
材木座「唯一無二の親愛なる相棒よ、逝く刻は我ら常に共に逝こう。それがかつて交わした悠久の誓いにして永遠の絆」
八幡「クーリングオフしたいのですが、構いませんね!」
材木座「そんな、ひどい……」
静「いいから食うぞお前ら。いい加減食い終えてラーメンでも食いに行きたい」
陽乃「そんなお金無いでしょ?」
静「お前の奢りに決まってるだろ」
陽乃「はいい!?」
八幡「おっ? 奢りってのはいいなあ。そりゃあいいよ陽乃くん。ゴチになるねえ」
材木座「ゴラムゴラム! ならば疾く眼前の邪悪なるもやしを片付けなければな!」
陽乃「いや、私は別に、そんなつもりは一切ないんですけど!」
静「人の休日をくだらないことで潰しといてなんだ、えらく他人事じゃないか陽乃ぉ……」
八幡「俺に至っては再三言ったけど旅行直後の事態だからなこれ。お前ら本当に覚えとけよ」
静「私だって被害者だぞ! 仕返しなら陽乃にだけやれ! こいつだけだぞ何にも酷い目見てないの! もやしも食べてないし!」
陽乃「えっちょっ静ちゃんそれは酷いって! 私だってもう飽きちゃって面倒だから帰りたいのに、みんなしていつまでもダラダラグダグダと食べてくれず帰らせてもらえないっていう被害を」
八幡「いい加減にしろよお前」
静「そろそろ私も冗談じゃ済ませられなくなってきたんだが」
陽乃「分かりました! ラーメンなりなんなりと奢らせていただきます!」
静「いい心がけだ陽乃くん」
八幡「最初からそう言っていればこっちだって変に頑なにならなくて済むんじゃないか」
陽乃「う、うううう。とばっちりだよー……」
材木座「完璧に自業自得だと思いまするが……とにかくそうと決まれば話は早い! ゆくぞ諸君!」
八幡「諸君じゃねえんだよボケ。お前が一番槍なんだよ」
材木座「はぷん!?」
陽乃「いーっき! いーっき!」
材木座「行けぬわ!? く、くう……このもやしを前にすると不思議と身体が震える……! 先ほどの体験が世界でも類を見ぬ程のトラウマになっておるわ……」
八幡「は? それはこれまでの人生が洒落にもならないトラウマばかりだった俺に対する挑戦状か何かですか材木座くん?」
静「まあその鍋食ったところで人格変わって目も腐る程のトラウマ負うことになるとも思えんわな。安心して逝け、材木座」
材木座「グウの音も出ぬとはこのことか……!」
陽乃「えらい言われようですな八幡さん」
八幡「事実なだけに返しようがないがとりあえずデブ、てめえさっさと食え」
材木座「む、むう……ぐぬぬ、南無三!」
陽乃「おっ食べた!」
八幡「どうだ、どうだ?」
静「水道代だってバカにならないんだ、頼むぞおい」
材木座「……ああ、うん。コホッ、普通に辛いっていうのかなこれ。ちょっと喉にくるだけで、食べられなくはないと思う」
八幡「かつてここまで素をさらけ出している材木座を見たことがないんだが俺」
陽乃「ある意味私より分厚い面の皮してるよね材ちゃん、生きててしんどくならない?」
静「よくある話だな、大した設定のないモブキャラと思っていたら実は一番ややこしいっていう」
材木座「主らちょっと酷過ぎやせんか? 至極まっとうに意見を述べただけではないか我」
八幡「んなこと言われても、そんなふっつーにコメントされたらなあ」
静「南無三とか言ってたのにな、せめてハイパー化くらいしろよ」
陽乃「いっそバイストン・ウェル行ってみる?」
材木座「死ねって言ってる?! ねえ俺に死ねって言ってるの?!」
八幡「だから素が出てるんだってばよお前。だがまあそうか……どうにか普通に食えそうだな、その様子だと」
静「ならもう早く食べよう。いい加減この赤いのも見飽きたよ」
本日は以上になります。
次回は早くて水曜、遅くて金曜の夜になります。ぜひご覧下さい。
ありがとうございました。
投下したいと思います。
陽乃「えーとひい、ふう、みい、と。お椀とお箸にお水、三人とも行き渡ったね!」
八幡「おう待てやこら」
静「当たり前のように自分だけ食う気ないなお前」
陽乃「私ラーメン奢る役だしぃー。この位いいでしょーそんなに辛くもなさそうなんだからさぁー」
材木座「うっぜえ……」
八幡「材木座にまで言われて恥ずかしくないのかお前」
陽乃「全然? え、だってほら、私って雪ノ下陽乃だし? むしろこれが本領ですけど?」
静「いっそ清々しい気分にすらさせてくれる性質の悪さだなあ」
八幡「自己申告してくる辺り大分丸くなってるとは思うけどな。もういいや、食おう……」
材木座「おお……八幡の目がかつての濁りを取り戻していく……よかった、ぼっちにあるまじきイケメンの比企谷八幡なんてどこにもいなかったんだね……」
静「こいつのどこがぼっちなんだ? というか八幡、流石に疲れてきてるんだな……無理もない。さっさと食って本当の意味で労ってやろうか……」
材木座「あともう少しだ、気張れよ八幡」
八幡「ああ、ありがとよ、二人共……」
陽乃「あれ、私への感謝は?」
八幡「お前はほんっと覚えとけよ。必ずこの恨み晴らすからな」
八幡「じゃあいただきます」
陽乃「……どう? どう? どうかな?」
静「……ッ、ンンッ、ッフ」
材木座「エフッ、オフッ」
八幡「ッ……スゥ、ハァー」
八幡「……食える。食えるけど、やっぱ辛い」
材木座「舌にいつまでもヒリヒリとした痛みが……」
静「冗談でも美味いとは言えんが、まあ、行けるか……」
陽乃「おお! よしよし、じゃあどんどん行こう!」
静「……食ってもない奴が一番はしゃいでるってどういうことだおい」
材木座「八幡よう、ちょっと本気で友人関係を見直したらどうだ?」
八幡「考えとく……とにかくさっさと食っちまおう……」
静「……あーっ、やっぱきっついなこれ」
八幡「薄くしようが何しようが、辛いもんは辛いからな」
材木座「……フーッ……フーッ……」
陽乃「材ちゃんから表情と言葉が消えてるんだけど」
静「ていうかすっごいな汗! やめろよ人の家で!」
八幡「自業自得だろ! ていうかやっぱ無理なんだって! デブに真夏に鍋食わせるなんてさあ!」
陽乃「いや呼んだの八幡でしょ!」
八幡「見ろよかわいそうに、なんか熱したフライパンの上の牛脂みたくなってるじゃねえかよ!」
材木座「……モフッフーゥ……スゥッハァーア……」
静「流石にラード扱いはやめてやれ……あー、休憩するか。一息入れよう」
陽乃「なんだかんだもう18時だねー……」
静「当初あったもやしも、どうにかあともう少しってところまできたわけだが」
材木座「おかしい……夏の休日とはここまで過酷なものだったろうか」
八幡「なんか塩ぶっかけた蛞蝓みてーになってるけどお前大丈夫かよ……」
静「人の、しかも女性の家でよくもそこまで汗を流してくれたな材木座ァ……」
材木座「無茶言わんでくだされ! クーラーだって大して意味もないこの熱気で一体どうしろと!?」
陽乃「まるでサウナだね……私もちょっと暑くなってきたなあ」
八幡「むしろお前らなんで汗の一つもかいてないんだよ……汗腺ぶっ壊れてんじゃねえのか……」
静「知らんのか? 美人は汗かかない!」
陽乃「およよー? もしかして八幡ってば、汗でしっとりべたついたお姉さん方のえっちぃ姿でも期待してたのかなー? かなー?」
静「えっ……あ、やだ、八幡たら、もう……ちょっとだけなら、見てもいいよ?」
八幡「どうしてそっち方面に話が行くんだよ馬鹿ども! てめえらまだ陽も落ちてないんだぞ! 未成年相手にちっとは自重しろ!」
材木座「哀れなり八幡……大人しくさっさともやし食べてラーメン食いに行こう。我もう疲れたよ……」
八幡「お前に慰められるのが個人的に一番堪える……」
材木座「ひっでぇ」
本日は以上になります。
次の投下は土曜日の午前中にでも行いたいと思います。ぜひご覧下さい。
ありがとうございました。
投下したいと思います。
八幡「さて、いよいよラストスパートと行こうか……」
静「ほんっとうに長かった……お前を拉致ってからもうかれこれ6時間近くになるな……」
材木座「ついに拉致と認めおったな女史……しかしなんだ、この無駄な達成感」
陽乃「力を合わせて一つの目的に向かって邁進する……そうか、これが青春なんだね……」
静「休日になけなしの金使って来たくもない奴呼んで嫌がらせする青春?!」
八幡「まちがっているってレベルじゃねえだろ!」
材木座「我に至っては未だになんでここでこんなことしてるのかが不思議なのだが!?」
八幡「そもそもてめえもやしひとっつも食ってねえだろ! そんでなにが力を合わせてだよ!」
陽乃「だって私は企画立案司会進行役ですしー! こんなん食べてたら命がいくつあっても足りませんしー!」
八幡「あーっこの野郎! ついに開き直ったぞ!」
静「若干キャラ崩壊してるじゃないかおい! そこまでして食べたくないような代物を人に食べさせてるんじゃあない!」
材木座「もう、もうこの人ほんっと怖い……2次元帰りたい、帰りたい……」
八幡「落ち着け材木座、帰るも何も向こう側にはいけない」
静「いよいよ人格崩壊が始まりつつある……食べよう、食べなければ終わらない」
八幡「あー……」
静「……からっ……」
材木座「スゥーッ……スゥーッフ……」
陽乃「相変わらず食べてる間は静かだねー……お行儀いいねー」
八幡「行儀もクソも……喋るといてえんだもんよ……」
静「しかしこれ……もやしでよかったな、味は染み込んでない。絡まってる汁が死ぬほど辛いだけだから……これがもし麸みたいな味の染み込みやすい食材だったら」
八幡「想像するだに恐ろしいんだよもう……黙って食えよもう……」
材木座「……ブモーッ……ブモホーッ」
陽乃「さっきから黙って食べてる人が一人、今にも死にそうな様子ですが八幡さん?」
八幡「ちょっと今後悔してるんだから言うなよ……気安く呼びすぎた……」
静「お前に罪悪感持たせるとか、すごいな材木座……」
八幡「ついに……あと、一口か!」
静「長かったあ……長かったなあ……」
陽乃「もう19時を30分を回ったところだから、かれこれちょうど6時間たってるねえ」
材木座「……」
八幡「もう材木座に至っては喋る気力もないよ。なんか魂抜けてるよおい」
静「水やら勢いやらでごまかし続けてきたが……やっぱり無理があるぞ、これ……」
陽乃「それでもついにあと一口まで食べ尽くした皆様には尊敬の念を禁じえませんの、わたくし」
八幡「……。さて、そろそろ誰が最後の一口を食べるか」
静「誰がこの果てしなく意味のない迷惑行為に終止符を打つか、決めなくてはな。ところで八幡」
八幡「なんだよ」
静「提案なんだが、最後の一口はとある方に食べてもらおうじゃないか」
陽乃「えっ」
八幡「……ふん? 詳しく聞こうか静くん」
静「いやな八幡くん。私も人の子だから、この数時間お前や、まあ途中からだが材木座と共に苦痛を乗り越えてきたのだなあと思ったら、なんだか堪え難い感動がしみじみ湧いてきたのだよ」
八幡「……はあ。ほお。……で、なんだい」
静「たとえこのような、誰も得をしない狂ったイベントだとしても、やり遂げることには価値があると私は信じているのよ。だから、ね。八幡」
静「この悪夢を終えるにふさわしいと思える人に、最後の一口を食べて欲しいの」
陽乃「いや……ちょっと静ちゃん? なにを急にそんな女性口調に」
八幡「……続けてくれ静さん、いや、静」
本日は以上になります。
次の投下は明日の夜にでも行いたいと思います。ぜひご覧ください。
ありがとうございました。
投下したいと思います。
静「私たちのこのどうしようもない半日が、少しでも良い形に終わるように!」
陽乃「待って……待って静ちゃん」
静「今日という一度しかない日を、最高の思い出にするために!」
陽乃「いや、いやいや……この流れはマズイって……マズイんだって!」
静「この場において誰よりもふさわしい人物! すなわち! イベント企画立案司会進行を務め! 何一つ痛い目を見ること無かった雪ノ下陽乃さんに食べていただくのが最も素晴らしい終わりになるのではないだろうか!」
八幡「素晴らしいッ! その提案、喜んで受け入れようッ!」
陽乃「素晴らしくないッ! ダメですッ認めませんッ!」
静「認めないのを認めませんッ! なんなら多数決を取りましょうか陽乃さん!」
静「最後の一口食べる人、だーれ、だ! ……ハイッ、雪ノ下陽乃!」
八幡「陽乃」
材木座「……雪ノ下殿」
陽乃「ああっ!? 活動停止していた材ちゃんまでもが!?」
静「以上! 賛成多数により雪ノ下陽乃さんに決定いたしました!」
陽乃「異議有り! これは不当な数の暴力であります! 裁判長!」
八幡「どうです裁判長」
材木座「……却下」
静「訴えは退けられました! これにて閉廷! 次に刑の執行に移る!」
陽乃「刑って言った! 刑って言ったよ今!?」
静「とは言え最後のたった一口だ、そのまま食うんじゃ芸がない」
陽乃「なくて良いよ、なくて良いから!」
八幡「執行人執行人、そこで取り出しましたるはこちら、床に転がっておりました激辛一味唐辛子にてございます」
陽乃「……ぴぃっ!?」
静「おお、よろしい! どうせ最後だ、華々しくせねばならんな!」
八幡「左様にてございますれば、ご覧あれ。ひとつ振りなばただの粉、ふたつ振りなば彼岸花、みっつ振りなばこれこの通り、血の池地獄にございます!」
静「いやはや天晴れ天晴れ! これぞ最期に相応しき鮮血の色なり!」
陽乃「ま、まっかっか……?! いや、いや、いやいやいやいや!」
八幡「さささ、陽乃殿、召し上がれ」
陽乃「ふぇ、ふぇええええええ」
静「おや何を哭いておられるやら皆目検討もつかぬ。さささ、ほれ、ほれぇ」
陽乃「う、うう、うううううううう」
八幡「ま、マジ泣きしてる……かわいそぉになあ」
静「そう言いつつ必死に笑いを堪えてるあたり相当のサディストだなお前さん」
材木座「そういう平塚女史も満面の笑みではござらぬか……おっかねえ」
八幡「おっ、復活したか。一応聞いとくけど、大丈夫かよお前」
材木座「流石にこれ以上はそんなもん食べられないが大丈夫なり! 心配かけたのう朋友」
八幡「そこまで舐めた減らず口叩けるんなら大丈夫そうだな、一応安心しといてやるよ」
陽乃「八幡……。わ、私も……私も心配してぇ……」
八幡「そこまで舐めた減らず口叩けるんなら大丈夫そうだな、一応安心しといてやるよ」
静「一言一句違わぬ台詞でも、まったく別の意味を持たせるとはな。教師である私ですら感服する次第だよ八幡」
本日は以上になります。
次回は日を置きまして来週末、土曜の午前中にでもと思います。
ふと思い出していただいた折にでもご覧いただければ幸いです。
ありがとうございました。
投下したいとおもいます
陽乃「くぅっ……わかったよ、最後の一口だもん、食べるよ私だって」
静「悪はさった!」
八幡「地球は救われた!」
陽乃「死ぬこと前提に話しないで!」
材木座「往生際が悪いですぞ雪ノ下殿……日本男児たるもの腹の括り時は弁えるもの」
陽乃「いや女だからね私、戸塚くんじゃあるまいし!」
陽乃「……わかった、わかりましたよ。ふんだ、みんなしていたいけな美少女を虐めてさ、良心ってものがないの? 私だってそんな非人道的なこと考えつかないよ」
八幡「考えついた結果が今のこの惨状だろうが」
静「お前に比べたら遥かに良心的だと思う」
材木座「最早開き直りすら通じない状況でござるな」
陽乃「いやもうほんと、まるで私を鬼か悪魔かのように言うね……」
八幡「だからお前自覚しろって。旅行直後の学生拉致して半日拘束して、自分は痛い目見ずに人の苦しむ姿見て愉悦に浸ってるような奴は鬼とか悪魔に分類されるの」
材木座「その内恩師とか手にかけそうであるな。笑いながら」
陽乃「かけないよ! 私どんなキャラなの!?」
静「ううむそうなると陽乃の前では油断を晒せんな……」
陽乃「安心してくれていいよ。静ちゃんを恩師だと思ったことなんて一瞬たりともないし」
静「……普通ならショックを受けるところなんだろうが……私も陽乃を教え子だと思った時期が短かったから特に何も感じるところがないなあ」
材木座「仲が良いというべきかなんというか……」
八幡「歪んでるんだよなあ根本的に」
静「そろそろいい塩梅だ、さあ食え」
陽乃「ううう……ええいままよ! はむっ」
八幡「本当に食いやがったこのバカ!」
材木座「食べると思っての行動ではなかったのか八幡!?」
静「いやあまさか開き直って食べるとはなあ……見くびっていたようだ!」
材木座「雪ノ下殿に負けず劣らずの悪鬼どもがここにおったか……」
陽乃「……グヘェッッッ」
材木座「およそ美人の上げてはならない声が今聞こえた?!」
本日は以上になります。
次回は明日の夜にでも投下したいと思います。
よろしくお願いします。
ありがとうございました。
投下したいと思います。
静「第3部完ッ!」
八幡「雪ノ下陽乃先生の来世にご期待下さいッ!」
陽乃「ウウウッ! ウウウウウゥゥゥ! ウ ボ ァ ー」
材木座「いやなんか悶絶しとるのだが?! これ耐性ないんじゃないの雪ノ下殿?!」
八幡「まあおそらくは人生初であろう地獄級の辛さだろうしなあ。静さん、水の一つもくれてやったらどうだい。まったく気の利かない女だねえ」
静「この私をパシるとかお前も本当に性質が悪くなったよ。やれやれ、仕方ない」
材木座「早くしてやらんとなんかこれ、痙攣し始めたのだが……」
八幡「こんな程度でどうにかなるタマなら数年前にどうにかなっとったわ。おうこら、起きろッ!」
陽乃「うひっ?! ……死に体の、美少女に、蹴り……入れる、フツー!?」
静「文句言える余力があるなら死に体とは言わん。ほれ、水だ。あとで金払えよ」
八幡「どこの世紀末だよ」
材木座「地獄の沙汰もなんとやらだのう」
陽乃「あー、あー。まだ口の中ヒリヒリするー……」
八幡「みんなそうなってるからな随分と前から。他ならぬお前のせいでな」
陽乃「これ舌、血出てない? 八幡見てー」
八幡「知るか、出てねえよ。出てたって飲め」
静「舐めてー」
材木座「ぶふもぅっ?!」
八幡「なにぃ!?」
陽乃「今の私じゃない! 静ちゃん声色真似ておかしなこと言わないで!」
静「男に自分の舌出して見てくれなんてもう舐めてと言ってるようなもんだろ貴様ァッ!」
陽乃「ちょっとしたスキンシップすらそんな解釈しちゃうの?! こじらせすぎだよ静ちゃん!」
八幡「これが魔神アラフォーの実力か……」
静「アラサーだよゥッ! いやしかしな、あの舌出しは邪推するだろ!?」
材木座「いや正直ちょっと同感な部分が」
陽乃「在ちゃんまで!?」
八幡「日頃男を手玉にとってばっかだからそういうオーラが滲み出ちゃってんだよ悪女」
八幡「大学で何人侍らせてんだか知らねえけど俺の前には引き連れてくんなよ。いつぞやみたくアホみたいな勘違いで敵視されたら堪らん」
陽乃「いやーあれから結構、数が減って助かってるんだよねー……というか別に侍らせてはいないからね」
陽乃「私に気に入られたい馬鹿な男たちが周りを飛び交ってるだけで、私はいたって清純だからね」
八幡「馬鹿な男とか言ってるよ。ほらもうこの時点でダメじゃん。性質悪いじゃん」
静「いいなあ、羨ましいなあ。私も欲しいなあ。よこせよ」
材木座「妖怪男おいてけとな」
静「男! 男おいてけ! なあおい!」
陽乃「いやほら、静ちゃん。きっと近い内にでも良い人見つかるって、ね!」
八幡「お前その言葉去年にも吐いてなかったか」
材木座「おそらくは来年も吐くことになるのだろうのう……」
静「うううううう……格差が怨めしい……」
八幡「まああれだ、一歩ずついけ一歩ずつ。大事なのは真実に辿り着こうとする意思だって」
陽乃「静ちゃんはずっと終わりのないのが終わりな感じになってるけどねー」
本日は以上になります。ありがとうございました。
あと一、二回程度の投下で終わると思いますが、ぜひご覧いただければと思ってやみません。
次回は来週土曜の朝になるかとおもいます。
それでは最後によいお年を。ありがとうございました。
誤字発見につき訂正をお願いいたします。
>>403
陽乃「在ちゃんまで!?」とありますが正しくは
陽乃「材ちゃんまで!?」であります。
材木座が在木座になっておりました。申し訳ありませんでした。
明けましておめでとうございます。
予定では土曜の朝としておりましたが、都合により現時刻より投下したいと思います。
勝手な振る舞いをしてしまい申し訳なく思いますが、何卒ご了承くださいますようお願いいたします。
それでは始めます。
八幡「食い終わったなあ……いやもう、言葉が」
静「苦節6時間30分……半日使って何してるんだ本当……悪かったな八幡、材木座」
材木座「まあ喉元過ぎれば何とやらでござろう。中々ない体験であったのう」
八幡「お前らに迷惑かけられるのもいつもっちゃいつものことだしな。別にもういいや」
陽乃「そうそう、大切なのは許容の心、寛大な精神なのだよ八幡くん? 私は今回そのことを伝えたくて」
八幡「あーラーメンじゃなくて回んない寿司とか食いたいなー! どうかな静さんー!」
静「いいねえ私だったら超高級中華とか食べたいなあ! あー友人に懐の深い金持ちの家の令嬢でそこはかとなく世の中舐めきってたけど最近になってようやく改心し始めたバカ女とかいないかなー!」
陽乃「ラーメンで! ラーメンでお願いします! あと静ちゃんすっごい辛辣!」
材木座「基本的にここはアウェイだと思っていただきたい雪ノ下殿」
陽乃「ここにこの面子を集めた立役者なのにアウェイ!?」
八幡「立役者だからアウェイなんだよ! いい加減にしろ!」
静「立役者っていうなら打ち上げだってきちんとしてもらうからなあ。おう行くぞお前ら、これからが本番だあッ!」
材木座「ヒャッハーッ! ステーキ寿司ピザラーメンだぁッ!!」
陽乃「ラーメンだけじゃないのォ!?」
静「なに舐めたこと言ってんだ馬鹿ちんが! いいから片付けろ馬鹿ども!」
八幡「少なくとも俺と材木座はあんたより馬鹿じゃねえだろ馬鹿。おうこら動けデブ、ステーキが待ってるぜおい」
材木座「ぽっちゃり系と言い直せい! そうか寿司か、回らない寿司か! 楽しみだわいのう!」
陽乃「ラーメン! ラーメンだから!! 何勝手に意味不明なメニューを加えてるの!?」
八幡「ここまでの所業がラーメンで贖えると本気で思っとったんかいお前」
静「共犯の私でさえうすら寒い思いがしてくるな……」
材木座「雪ノ下殿、やはり貴殿は人間ではない何か別の冷血動物なのでは」
陽乃「人間だよ!? 何みんなして突然ドン引きしてるの?!」
八幡「ずっと前からドン引きしとったわ馬鹿たれェッ!」
八幡「もういい! いいからさっさと食いに行くぞお前ら!」
静「その前に片付けていけよ。さすがにこのまま放置はまずい」
材木座「むう……終わってみれば行き絶え絶えの4人と殺人現場と見間違うような凄惨な光景……」
陽乃「だいたい静ちゃんと材ちゃんが汚してるよねこれ。あーもう、床にまでこぼしてさあ」
材木座「我は悪くねぇ! 我は悪くねぇ!」
静「陽乃が! 陽乃が食えっていうから!」
陽乃「にしたってこれは無いでしょー……子供が好き勝手暴れたみたいになってるよー」
八幡「つくづく仕方ねえなあ……オラオラさっさと洗うぞ、全部台所持ってけ」
静「よし、元通り!」
八幡「元通りも糞もお前、元々散らかってた衣服やらなにやらまで片付けさせられたんだけどそれは」
静「……元通り! よしじゃあ陽乃の奢りで食事に行こう」
材木座「無理やり話を締められた……もう別に構いもしませぬが……」
陽乃「本当に私がおごるのー? これじゃケチってもやししか使わなかった意味がさあ……って痛い!」
八幡「陽乃くん、もういい。もういいからそのネタは。これ以上俺の拳骨が火を噴く前に降伏しなさい?」
陽乃「こっ……これは弾圧っていうべき暴挙では?!」
八幡「やったらやりかえされるんだよ馬鹿たれ!」
材木座「『撃ってもいいのは……撃たれる覚悟のある奴だけだぜ、レディ』」
静「フィリップ・マーロウ」
材木座「イエス。でも、ノー。正確にはマーロウを模倣した鳴海壮吉」
八幡「アオイくんごっこは流石に若干マニアックだろ」
陽乃「ううう、皆が私を無視して名作アニメごっこを始めている……」
本日は以上になります。
あと一回の投下で終わるかと思いますので、ぜひご覧くだされれば幸いです。
次回は来週日曜の夜にでも投下できるかと思いますが、都合により変わる場合もあり得ます。
ありがとうございました。
投下したいと思います。
静「よし、じゃあいよいよ晩御飯食べにいくか、陽乃の奢りで」
八幡「ちょっと待て……ついでだから、愉快な仲間たちも呼ぼう」
陽乃「えっ」
材木座「なんだかんだ最終的にはいつもの馬鹿騒ぎ集団に行きつくのだのう」
八幡「当たり前だろ。お前らもあいつらも含めての俺たちだ」
陽乃「いやあの、大した更生ぶりだけどちょっとお姉さん的にはポイント低いかなあ!?」
静「お前的ポイントの減少よりも私たち的ポイントの増大の方が明らかに大きいからどうでもよかろう八幡。呼びたまえ。お前が私たちである為に」
八幡「大仰だな……今やっとる」
八幡「……おう沙希。一昨日ぶりだな」
八幡「悪い悪い、今まで厄介なのに捕まっててなあ。いや、いつもの馬鹿二人」
八幡「そんで陽乃が飯奢るつってんだけど、来るか? ん、よし。じゃあ駅前な」
八幡「なんなら家族も連れて来いよ。お前一人ってのも気が引けるだろ」
陽乃「いや八幡!? ちょちょっと待って!?」
八幡「あ? ノイズノイズ、気にすんな。じゃあ30分後に駅前で落ち合おうぜ、土産持って待ってるわ」
八幡「じゃあ次は大天使サイカエルだな」
陽乃「本当に呼ぶの!?」
八幡「彩加呼ばなかったら誰呼べってんだ!? ああ!?」
静「相も変らぬ盲信振り……」
材木座「最近では向こう方も満更ではないようだから困る……」
静「さいはちキテル……」
陽乃「きてない!」
八幡「……もしもし、八幡だ。彩加、久しぶりだなあ」
八幡「ああ、俺も寂しかったよ。今だって声だけじゃ足りない、彩加の存在やぬくもりを体中で味わい尽くしたい」
八幡「冗談なもんかよ! 俺にはお前しか見えない……なあ、今から会えないか? 死ぬほどどうでもいい馬鹿が一匹、殊勝にも日頃の感謝を込めて俺らに奢ってくれるらしい。それすらもどうでもいいんだが彩加、お前に会いたい」
八幡「ああ、来てくれるか! ありがとう彩加。一秒でも早くお前の姿が見られることを楽しみにしてるよ。……ああ、30分後に駅前だ。じゃあまたな。今度会ったら抱きしめるぜ、彩加」
八幡「よしじゃあ彩加を待たせちゃいかん、行こうか……ん?」
材木座「……」
静「……」
陽乃「……」
八幡「……なんだおい。言いたいことがあるなら言えよ」
静「気持ち悪い」
陽乃「地獄に落ちろ」
八幡「ひでぇ!?」
材木座「親友がいつの間にか洒落で済まされないショタコンになっていたでござる」
八幡「彩加は同い年だろ!? 確かに見た感じ10代前半の美少女だけど!」
材木座「言い逃れにすらなってない……だめだ、こいつ……」
本日は以上になります。
今回の投下で終了のつもりだったのですが、最後まで書き終わったらもう少し量が多かったので、もうしばらくだけ続けたく思います。
次回はまた来週末に。時間が余りましたら是非ご覧ください。
ありがとうございました。
投下したいと思います。
材木座「我も最初からずっと友人だと思っているぞ八幡。いまでは心友であるが!」
八幡「黙れぽっちゃり系。貴様の奇行に現在進行形で付き合わされている身にもなれ」
静「それでもちゃんと付き合ってやってるんだな、八幡?」
八幡「……うっせーばか。お前の知ったことか!」
陽乃「わあ顔真っ赤。ほんっと材ちゃんにはツンデレだよねー」
材木座「我もう八幡でいいや。戸塚殿とは違うベクトルで美少年系だし?」
八幡「気持ち悪い!」
陽乃「地獄に落ちて!」
静「もしもし警察ですか! 巨体の不審者が若干美青年を追い回しているんですが!!」
材木座「やめて! マジやめて! 最近よく職質受けるの!」
八幡「もう滲み出てるんだなホモデブ不審者オーラが! ていうか若干ってなんだ!」
八幡「くそっ、俺の貞操が危うい! 早く駅行って沙希に退治してもらおう!」
陽乃「女の子に守ってもらうんだ……いや確かに沙希ちゃん強いけど」
静「ヒーローとヒロインの立場逆だなあ」
材木座「というか退治されるの我!? 川崎女史めっちゃ強いの!?」
八幡「ケン・イシカワ世界でやってけるくらいには強いんじゃね?」
静「人類最強クラスじゃないか……」
陽乃「目とかグルグルしてないよね?」
材木座「その内真理とか宇宙とか生命について何か悟りきったようなこと言い出しそうなのだな……?」
八幡「多分人類以外には容赦ないから頑張れよハチュウ人類。花くらいは添えてやる」
材木座「人間! 人間だから我! 別に宇宙から飛来した謎のエネルギーが弱点とかじゃないから我!」
陽乃「むしろハチュウ人類相手に特攻していくキャラだよね」
静「そして遠い未来に宇宙で侵略の限りを尽くすのか。なんだやっぱり悪じゃないか警察警察」
材木座「俺が悪かったですみなさん! どうもすみませんでした警察だけは勘弁してください!」
八幡「これに懲りたら業の深い性癖とは縁を切れよ」
材木座「ははーっ」
陽乃「……ついさっき彩ちゃんをあれだけ口説き倒した男の言うこととも思えないよね、それ」
八幡「口説いてない。あれは呼吸音だ」
静「息を吐くように男に睦言囁くのか!? 私に囁けよ畜生!」
八幡「彩加に生まれ変わってからならいいぞ」
八幡「……うし、じゃあ行くか。忘れ物ないなお前ら」
静「そもそも夕食に行くだけだから荷物も何もないからな」
陽乃「途中コンビニ寄るよ……貯金下ろさなきゃ……」
材木座「ゴチになりますのう!」
陽乃「こんなことなら八幡拉致しなきゃ良かった……八幡のばか」
八幡「こいつ……」
静「何にも悪びれてないな……」
材木座「ところで八幡よ。妹君は呼ばぬのか?」
八幡「もう家じゃ夕食終わってるだろうしな。それに小町に夜遊びさせられない」
静「流石のシスコンだが……父兄が認めない以上、教師としても認められないからな」
陽乃「……多分大志君来るよ。お姉さんに引っ付いて。いいの静ちゃん」
静「家族の許可は得るだろう? いいじゃないかそのくらい」
八幡「つうか沙希が保護者扱いでいいだろ。……うし、戸締りいいな。行くぞー」
材木座「ヒャッハー暴飲暴食だー!」
静「他人の金で呑む酒はうまい!」
陽乃「やめてー! わ、私の諭吉が泣いているうううう!」
八幡「いい加減あきらめろ陽乃」
陽乃「八幡……私の何が間違っていたのかなあ……」
八幡「間違ってたも何もお前……いや」
八幡「……」
陽乃「? ……八幡?」
本日は以上になります。
後は簡素ながらエピローグ投下して終わりになります。ぜひご覧ください。
次回はまた来週末にでも。
ありがとうございました。
投下したいと思います。
かつて考えられなかった現在。きっと認められなかっただろう関係。
それでも今はこれでいいと信じられる。きっとこれからも信じていける。
多くのことが変わっていった。彼も、多くのことを変えていった。
けれど確かに変わらずにいる想いもある。
それこそが間違っていると言われるのかもしれない。
間違っているからこそ、彼は多くの失敗を引き起こしてきたと言う者も確かにいるのだろう。
だけど間違っている彼が、今の彼へと導いてくれた。
間違っている想いでも、確かに救えた人がいた。
絶望の底にいた彼を助けてくれた縁を繋げてくれた。
その結果今、ここにこうして生きている。
だから比企谷八幡は胸を張ってこう言うのだ。
八幡「……いいじゃねえか、間違ってたって。……これはこれで、いいんだよ、きっとさ」
陽乃「いや……いやいやいや何を神妙に。間違っていたから諭吉さんがですねえ……」
陽乃「……」
陽乃「……うん。まあ、いいか。きっと楽しいもんね。これがいいや」
互いに笑い合う。きっと間違っていなければこんな風な関係にもならなかったのだろう。
こいつとも。あいつとも。そいつとも。誰かとも。
静「おーい行くぞ八幡、陽乃」
材木座「何を笑い合っとるかリア充めが!」
陽乃「……行こ、八幡!」
迷いはある。
失敗も数知れないし、得たものより失ってきたものの方が多い。
これからもきっとそうなのだろう……彼が比企谷八幡である限り。
それでも。
青春ラブコメは間違っていたけれど、歩んできた道はこれで良かった。
そう信じて、これからどんな風にでも生きていきたい。
比企谷八幡は、そう思うのだ。
八幡「……おう!」
いつかまたどこかで、繋がる縁がきっとあるから。
これにて本当に終了になります。至らぬ点の多い駄文ではございましたが、ご覧いただきありがとうございました。
8巻を読んでモヤモヤして、それをどうにかしたくて書き始めました。3か月かかるとは思いませんでしたが、どうにか書き終えて一安心です。
最後の最後なのでチラシの裏ではございますが。
原作で八幡がどのようになるのかは知りませんが、少なくとも私はこれまでの八幡の在り方は別に間違っていると思ってないので、どうにか納得いく描写をしていただきたいなあとか思ったりもします。
もうこの時点で俺ガイルを読むに値しない感性の持ち主だと自覚しておりますが、切に願ってやみません。
それではご覧くださった皆様に心より感謝の念を抱きつつ終わりにしたいと思います。本当にありがとうございました。
2,3日経過した段階でHTML化の依頼を出そうと思いますので、ご意見ご質問ご感想等いただきますればどうかそれまでにお願い申し上げます。
重ね重ね、ありがとうございました。
3か月と勝手に思っていましたが2か月でした。失礼いたしました。
このSSまとめへのコメント
wktr
とりあえず本編しか読んでないが最初は「会話のないやつ見て面白えのかよw」て思ったけど読んでみたらかなり良かった!
温泉街俺も行きてぇ
俺ガイルss結構見てきたけど個人的にトップクラスだわ
2点。
コレは面白い
案外面白かった。
できれば、ほかの連中の様子とか、最近満更でもないという戸塚とか天使の様子が見れたら最高かなと。
最高に面白かったです!ところで真っ赤なもやしって想像できないのですが今度作ってみて(毒味をして)くれませんか?