エレン「大丈夫だ!」(28)
ミカサ「大丈夫」
エレン「大丈夫」
アルミン「大丈夫」の続き的なもの。
電車に揺られ考えていたありがち話…かな。
多分これで最後。
さらにほとばしる蛇足感。
―――ン…
――――レン…
誰かが何か言っている。
―――――エレン…
ああ、俺の名前を呼んでいるのか。
重い瞼を開いた。
「おはようエレン」
目に入ったのは仰向けになった俺の顔を覗き込んでいるミカサだった。
どうやら俺は眠っていたらしい。
「…おはよう…」
体を起こし伸びをした。
「どれくらい俺は眠ってたんだ?」
「結構長い時間…と思う」
ここはどこだ?
記憶がない。
辺りを見回すと何もないただ白い空間が広がっていた。
「…ここはエレンの夢の世界」
俺の言いたい事を察したミカサが口を開く。
「夢?」
夢なのにおはようなんておかしな話である。
でもなんとなく納得してしまう。
こんなに何もない空間なんてあるわけないよな。
どこまでも白くて…壁がない。
「なんで俺はこんな真っ白な夢を見てるんだ…」
「ここはエレンにとって都合のいい夢の世界。壁がなくてただ自由な広い場所。
白いのはきっとエレンの想像力が足りないんだと思う」
「…なんだそれ」
「エレンの壁の外のイメージが出来ていない。多分、壁の外を探検したら景色が完成する…と思う」
「そうか、じゃあはやく巨人を駆逐して壁の外を見たいな」
少しだけわくわくした。
「壁の外を見たら景色が出来ていくって事はおまえも壁の外を見る事が出来るな」
…あれ?おかしい。どうして俺はこんな言い回しをするんだ?
まるでミカサが一緒に行けないみたいな…
「そう。楽しみにしてる」
ミカサが微笑む。
少しドキドキしてしまう。
ミカサ相手に何考えてんだよ俺は。
―よっと…
そんな思考を誤魔化すように俺は立ち上がった。
「!」
急に頭がクラクラして地面に倒れ込みそうになる。
そんな俺をミカサが抱きとめた。
「急に立ち上がってはだめ…エレンは今血を失っている」
「え?」
今気付いたが俺の服は自分の血で染まっていた。
夢とはいえ、全く気付かなかった。
「なんで俺は血まみれなんだ?」
「エレンは今死にかけている」
…この量の血を流しているなら俺は相当危ないんじゃないか?
「はやく元の場所に帰った方がいい。あっちに帰り道がある」
ミカサの指差した方を見る。
ただ真っ白な空間が広がっているだけだった。
「本当にあっちに進めばいいのか?」
「ええ」
「じゃあはやく行こうぜ」
そう言ってミカサの手を掴んだ。
「…私は行けない」
「…なんで」
心臓がドクンドクンと存在感を増す。
俺はミカサの『行けない』理由を知っている。
さらにドクンドクンと心臓がうるさくなる。
…ミカサはどうしてマフラーをしていない?
…どうして掴んだ手がこんなにも冷たい?
「私の手…冷たいでしょう?」
今度は遠慮がちにミカサは笑った。
「関係ねぇだろ…」
もう一度強くミカサの手を握る。
そうすれば暖かくなるような気がした。
「エレン…痛い…」
なんで暖かくならないのに痛いのは感じるんだよ…おかしいだろ…
ミカサと目を合わせられなくなる。
目から零れ落ちる涙を見られたくない。
「なんで…なんで…今更俺の夢に出てくるんだよ…!!」
歯を食いしばりながら言葉を紡いだ。
「…ごめんなさい」
俺が勝手に見ている夢の中でミカサは謝る。
俺がミカサを鬱陶しがって文句を行った時にする表情に似ていた。
「エレンが心配だった…やはり私がいないと早死にしそうになってる」
「…おまえにだけは言われたくねーよ」
ぶっきら棒に言ってしまう。
違う。
そう言う風に言いたいんじゃない。
俺はミカサが死んで後悔した。
もう二度と後悔しないように、そして自己満足の償いに女の子に優しくした。
…どうしてその優しくがこいつには出来ないんだ…
「エレン、そろそろ行かないと帰れなくなる」
「…また、会えるのか?」
「わからない。これはエレンの都合のいい夢だから」
「…そうか」
「…でも私は、遠い未来にずっと一緒にいられると思ってる。
エレンが巨人を駆逐して壁の外を探検してしわくちゃのお爺さんになったらまた会おう」
「奇遇だな。土産話は聞かせてやるつもりだったよ」
「やはりエレンは優しい」
「しかし…しわくちゃの爺さんなんて嫌だろ」
「私はどんなエレンでも…いい」
「そうか。変わった奴だな」
にこっとミカサは笑う。
「じゃあな」
そう言うと俺はミカサに背を向け一歩踏み出した。
「………………」
「エレン?」
そのまま歩きださない俺を見つめるミカサの視線を感じた。
もう一度ミカサに向き直る。
ミカサの姿を目に焼き付けよう。
…俺とミカサの背丈は同じくらいだった。
昔はそれが少しだけ悔しかった。
でも今は見下ろすほど背が伸びた。
都合のいいよう夢を見ているだけかもしれないが。
よし。
男の威厳を保てた気がする。
俺はミカサの腕を掴み抱きよせた。
懐かしい匂いがする。
予想以上にミカサの体は俺の腕の中に収まった。
優越感を感じてしまう。
ミカサを見ると頬を赤らめ固まっている。
こいつもこんな風になるんだな。
…もっと早くこうすればよかった。
「エレン…これは…」
「おまえが死んだ後こうすれば女が喜ぶって知ったんだ。
…知ってるか?今俺結構モテるんだぞ」
「…そう。少しだけ嫉妬してしまう。でもその女の子達は見る目が無い」
「なんでだよ」
「こんな事しなくてもエレンはいつだって素敵だった。…多分私しか知らない」
そう言って俺の服を掴んだ。
今度は俺が顔を赤らめる番だった。
…平気でそんな恥ずかしい事言うな。
しばらくそのまま二人で固まっていた。
「エレン、…名残惜しいけどそろそろ行かないと」
「わかった」
そう言うともう一度だけミカサを強く抱きしめた。
腕の中でくぐもった声が聞える。
なんだかミカサの体が暖かい気がした。
「それじゃあエレン」
「あー、別れの挨拶は無しだ」
「…わかった」
「マフラー…また会った時に巻いてやるからこれは俺が預かっておく」
「うん」
「じゃあ、またな」
「道に迷わないように気をつけて」
「大丈夫だ!」
全く、ミカサは変わらないよな。
…安心した。
――
―――
――――ン…
―――――レン…
――――――エレン…!!
…既視感を感じる。
俺は重い瞼を開いた。
「よかったエレン!!」
目に入ってきたのは俺の顔を覗き込むアルミンの瞳だった。
「このまま目を覚まさなかったらどうしようかと思った!」
「…ここは…?」
「壁の中だよ。あ、あんまり動かない方がいい。傷が開くかもしれないから」
服を見ると大量の自分の血で染まっていた。
…よく助かったな。
「すごい出血で危なかったんだよ…もしかしてミカサが助けてくれたのかな?」
そう言ってアルミンは微笑む。
俺は自分の服を撫でた。
「いや、なんかすっげー長い夢を見ていた気がするんだけど……なんだったっけ。思いだせねぇな」
「! どうして泣いてるの?」
「え…!?」
気付くと一筋の涙が流れていた。
「本当だ。なんでだろ?」
「もしかして悲しい夢でもみたんじゃない?」
「覚えてない。 …覚えてないけど…」
「なんだか暖かい夢だった」
風でマフラーが揺れる。
懐かしい匂いがした。
おわり
おまけ
http://i.imgur.com/WxdV2Lc.jpg
なんか長々とすいませんでした。
これで終わりだと思う。
このSSまとめへのコメント
良ーーーーーーーーーーーー作ーーーーーーーーーーー乙ーーーーーーーーーー!!!