俺「ただいま…」脳内彼女「おかえりなさい」 (241)

脳内彼女「どうしたの?元気ないね?」

俺「バイトの面接が上手くいかなくってさ…さっきも不採用の電話が来て…」

脳内彼女「今は不景気だからね。仕方ないよ」

俺「でもさっきの面接でも言われたんだ。職歴のない俺みたいなニートは要らないって…」

脳内彼女「大丈夫だよ。俺ならきっといつかいい仕事が見つかるよ」

俺「ありがとう。脳内彼女にそう言って励まして貰えると俺も頑張れるよ」

俺「いつもありがとうな…」

脳内彼女「お礼なんていいのに」

俺「とにかく早く脳内彼女の応援にも応えられるように、明日の面接も頑張るよ」

翌日

面接官「で、志望動機は?」

俺「はい。私はMOSの資格を持っておりWordとExcelの使い方は熟知しており、採用欄にもWordとExcelを使える人を歓迎すると書いてあった為志望しました」

面接官「あのさぁ…」

俺「はい?」

面接官「正直ね、君みたいなの困るのよ」

面接官「あれだよね?事務の仕事なら人と関わらなくて済むとかそんな事思ってここ来たんだよね?」

面接官「君見るからに人と話すの苦手っぽいしさ、目を見ればそういうのわかるのよ。こっちは君みたいの何度も見てきたから」

面接官「大体ね、人と関わらないで済むとかそういう認識でこの業界入られても迷惑なのよ?わかる?」

俺「……」

面接官「あとここには書かなかったけどさ、今女の人しか募集してないの。大体男の事務職をバイトで起用とか有り得ないでしょ?そんくらい考えなくてもわかるでしょ普通」

俺「……」

面接官「じゃあ、結果は追って報告するから。不採用の場合連絡しないからそのつもりで」

俺「……お忙しい所ありがとうございました」

自宅

俺「くそ!くそ!くそ!」

脳内彼女「どうしたの…?」

俺「あの面接官!いい放題言いやがって!」ドンドン

俺「そりゃ人と俺は話すの苦手だよ!コミュ障だよ!ゴミ糞の駄目人間だよ!言われなくってもわかってるよ!」ドンドンドン

俺「ぶっちゃけ確かに事務職ならコミュ障の俺でもこなせるって思って募集したよ!」ドンドンドンドン

俺「だけどな!だからってなんでたかがバイトの面接ごときであそこまで言われないといけないんだよ!」ドンドンドンドンドン

脳内彼女「俺…」

俺「不景気だからって足元見やがってよ!くそ!くそ!くそ!」ドンドンドンドンドンドン

脳内彼女「やめようよ…手、血が出てるよ…」

俺「あ…」

脳内彼女「自分の事、虐めても悲しいだけだよ…」

俺「ごめん…」

俺「やっぱり、俺が仕事を選んでたのが行けなかったのかなぁ」

俺「人と関わるのが嫌とか、体力がないとか、そういう風に言い訳して贅沢言ってたのがいけなかったのかなあ…」

脳内彼女「嫌な仕事を無理に続けていても良い事なんてないよ」

俺「でも今不景気だし、やっぱり贅沢言えないよなぁ…」

脳内彼女「それもそうだけど…」

俺「今までは内勤系の仕事ばかり選んでたけど、もう接客とか体力仕事も視野にいれようかなぁ…」

脳内彼女「大丈夫なの?人と関わるの苦手でしょ?身体動かすのだって…」

俺「そんな事言ってたら仕事なんて見つからないし…」

脳内彼女「本当に大丈夫なの?」

俺「ついこの前までニートだった俺が働くにはそれくらいしかないでしょ…」

脳内彼女「……」

数週間後

俺「やったよ脳内彼女!ついにバイトが受かったよ!」

脳内彼女「本当!?やったね俺!」

俺「正直接客や体力仕事のバイトだけで面接何十回も落とされるなんて思ってもみなかったよ…一体どれだけ不景気なんだって思ったわ」

脳内彼女「でも受かったんだよね?何の仕事?」

俺「近所のコンビニだよ。なんかあり得ないって程あっさり受かった」

脳内彼女「とにかくこれでお父さん達も安心だね!」

俺「そうだな…ただでさえ親に迷惑掛けたんだから少しでも負担は軽くしないとな…」

コンビニ

客「マルボロ」

俺「はい。マルボロですね」

客「馬鹿野郎!マルボロと言ったらメンソールに決まってるだろ!」

俺「す、すみませんでした!」

客「まったく!ここの社員教育は一体どうなってるんだ!?」

俺「……」

客「大体な、お前みたいな奴がいるから世の中どんどん駄目になって行くんだよ!」

客「お前みたいに仕事をなめてかかってる奴が一番迷惑なんだよ!さっさと辞めちまえ!」

俺「…………」

客2「おい!まだか!?早くしろよ」

俺「も、申し訳ありません!」

客「おい!こっちの話はまだ終わってないだろ!いい加減にしろ!」

俺「すみません!」

数時間後

俺(もうすぐ就業時間か…やっと辛い一日が終わる…)

店長「おい俺、上がる時ちょっと後でバックヤードまで来い。話がある」

俺「はい…」

先輩(年下)「あれwww俺また何かやらかしたのwww」

俺「はい…」

先輩(年下)「お前いかにもトロそうだもんなぁwwww」

俺「…………」

先輩(年下)「そういやお前、あれ知ってる?今一番くじでやってる奴」

俺「けいおん…ですか?」

先輩(年下)「あ、やっぱり知ってるんだwwwwいかにもお前アニメとか好きそうだもんなぁwwwww」

俺「と、友達が詳しいんですよ!」

先輩(年下)「友達ねwwwwそっかwwww友達かwwwwww」

就業時間

俺「じゃあ俺、上がります」

先輩(年下)「おうwwww」

俺(そういや店長に呼び出し食らってたなぁ…)

先輩(年下)「そういややっぱあいつあれ知ってるってよwwwww」

先輩2(年下)「いかにもアニメが恋人って感じの顏してたもんなwwwww」

先輩(年下)「しかも友達が好きだって誤魔化してたぜwwwwwww」

先輩2(年下)「マジかよwwww本当は自分で毎日シコってるんじゃねーのwwwww」

先輩(年下)「うわきもwwww彼女いな歴=年齢のキモオタってあんなのでシコるのかよwwwww」

先輩2(年下)「やめろってwwwwwそこまで行ったら流石に可哀想だろwwwwwww」

先輩(年下)「そういうならお前も笑うのやめろよwwwwwwww」

俺(もう嫌…)

バックヤード

店長「お前な、この仕事舐めてるの?」

俺「い、いえ…そんな事は…」

店長「あのさ、お前が入ってから毎日のように苦情来てるの。なんでかわかる?」

俺「わ、わかりません」

店長「馬鹿野郎!

俺「ひっ…」

店長「暗い。不真面目。不清潔。不衛生。煙草の銘柄を間違える。商品の入れ方が雑。これ全部いつも注意してるよな?」

俺「すみません…」

店長「すみませんじゃなくてちゃんと直せよ。いつになったら直せるんだ?バイトと言っても社会人同様に金貰ってる以上ちゃんと真面目に働け。頭湧いてるのか?店長「大体お前さ、親から甘やかされて育っただろ?」

俺「決してそんな事は…」

店長「わかるんだよ。お前みたいなのは目見たら一発でわかる。お前みたいに社会舐めきった奴は皆お前みたいな目をしてるからな」

店長「こっちも辞めさせようにも色々と都合があって一度採用しちまったからもう簡単には辞めさせられないからさ、そこんとこちゃんとしろよ」

俺「……」

自宅

俺「もう嫌だよぉー!」

脳内彼女「そんなに泣いてどうしたの…?」

俺「やっぱり俺みたいな駄目人間が働くなんて無理だったんだよ!毎日のように客からクレームは来るし、年下の先輩には馬鹿にされるし、店長にだって怒られるしもう嫌だぁー!」

脳内彼女「俺…」

俺「俺そんなに怒られるような事した?マルボロって聞いたら普通マルボロだろ?メンソールならマルメンって言ってよ!なんでそれなのにやめろとか怒鳴られないといけないの!?」

俺「けいおん見てたらマズいのかよ!?あずにゃんでシコってたら駄目なのかよ!?彼女いない歴=年齢はやっぱり人としてどうかしてるの!?」

俺「俺だって毎日精一杯頑張ってるつもりなのになんで毎日こんな目に逢わないといけないの!?自給750円でなんでこんな辛い思いしないといけないの!?
  社会舐めるなってこういう事なの!?俺みたいな駄目人間は家に引き籠ってた方がいいの!?」

脳内彼女「……」

俺「もう嫌だ!もう嫌!辞める!あんな仕事辞めてやる!」

脳内彼女「俺がそんなに辛いなら、あたしは止めないよ…」

数週間後

エル・プサイ・コングルゥ
ヨウコソ、ワガジョシュ、マキセクリス
イヤ、クリスティーナ

俺「やっぱりオカリンはカッコいいよなぁ」

脳内彼女「そうだねぇ」

俺「女の子を身を挺して助けるなんて本当凄いよ。俺もあんな風になりたいなぁ」

脳内彼女「じゃあ俺は、あたしがあんな目に逢ったら助けてくれる?」

俺「勿論」

脳内彼女「うれしい、ありがと」

俺「まあ俺には仲間も友達もいないし、物語の主人公みたいに困っている女の子を助けられるみたいなカッコいい事は出来ないんだけどね…」

脳内彼女「……」

ガラッ

父「おい俺、話がある。居間まで来い」

居間

父「お前バイトをやめたらしいな?」

俺「ごめんなさい」

父「なんで辞めた?」

俺「業務が辛すぎて続けられなかったからです」

父「コンビニのバイトくらい誰にでも出来るだろ」

俺「ごめんなさい。俺には無理でした」

父「はぁ…どうしてお前はいつもそうなんだ…」

父「思えば昔からお前は父さんがやらせた習い事や部活をどれもすぐに辞めたよな?
  どうしてお前は昔からそうなんだ?少なくとも父さんはお前をそんな風に育てた覚えはないぞ」

俺(だってどこ行っても虐められたんだもん…)

父「はぁ…他の家の子はもっと出来が良く育ってるのに、どうしてお前はそうなんだ?」

俺(出来損ないでごめんなさい…)

父「隣の佐藤君なんてな、大学出てから無事就職して今じゃ係長だぞ?お前はその間何をしていた?」

父「お前の弟だってな、介護の専門学校に通って資格を取って今は独り立ちして一人で自立してちゃんと働いているんだぞ?」

父「テレビに出ていた石川遼を見て見ろ、お前より年下なのに何億も稼いでいるんだぞ?お前は親の金で飯を食って何をしている?」

俺(毎日アニメ見てネットやってオナニーしてます…)

父「まったく、弟は普通に育ったのにどうしてお前はそうなったんだか…」

俺「わかりません」

父「わからないって事ないだろ。自分の事だろ」

俺(正直こうなった心当たりが多すぎる…)

父「とにかく、いい加減働け。親にいつまでも心配かけさせるな。さっさと就職して孫の顔を見せて親を安心させろ」

俺「はい…」

自室

俺「はぁ…」

脳内彼女「今日もこっぴどく叱られたね…」

俺「いいよ、慣れてるから」

脳内彼女「慣れても辛い物は辛いでしょ…?」

俺「そうだけどさ…」

脳内彼女「何か気晴らしでもしようよ」

俺「じゃあさっきネットで拾って来たきんいろモザイクの薄い本でシコるか。確かシノのでいい感じのが会った筈」

脳内彼女「ごめんね…あたしがちゃんと俺にそういう事してあげる事が出来れば良かったんだけどね…」

俺「気にするなよ。しょうがない事だろ」

脳内彼女「うん…」

プルルルル プルルルル

俺「うわっ!電話が勝手に動いている!?って電話か…誰だよ…」

俺「はい、もしもし」

婆ちゃん「俺ちゃんかい?元気かい?」

俺「あ、うん。まあそれなりには」

婆ちゃん「お仕事の方はどうだい?」

俺「あ…うん…ぼちぼち」

婆ちゃん「父さんから聞かせてもらったけど、この前バイトをやめたんだって?」

俺(知ってたか…)

俺「あ、うん…なんか、合わなくて…」

婆ちゃん「若い時はそういう事もあるもんだよ。若いんだからいくらでもやり直しが効くからね」

俺(そろそろやり直しが効かなくなってきた年齢なんだけどなぁ…)

婆ちゃん「ところで俺ちゃんは何かやりたい仕事とかあるかい?」

俺「やりたいってか、ちゃんと就けれて続けられる所ならどこでも」

婆ちゃん「そういう態度じゃどこも採用してくれないよ」

俺(わかってますよ…)

婆ちゃん「いいかい?若い時はとにかくやる気が大事だから、俺ちゃんが本気でやる気になれる仕事を仕事にするんだよ?」

俺(いつの時代の考えだよ…)

婆ちゃん「そういやさっき新聞で見たんだけどね。俺ちゃんと同世代のある実業家が成功したらしくってね。俺ちゃんにもきっと読んだら為になるから読むと良いよ」

俺(また始まったよ…つーかニートの俺が実業家の成功談を読んだ所で役に立たねえよ…)

婆ちゃん「あとテレビでさっきある芸人の話をしてたんだけどね、
      その芸人も昔は俺ちゃんみたいに虐められていたみたいだけど色々頑張ったら今は立派に成功したらしいのよ。だから俺ちゃんもきっと上手くいくはずだよ」

俺(そりゃその芸人が上手く行っただけで俺には関係ないだろ…)

婆ちゃん「あと俺ちゃんの為になりそうな本を何冊か見つけてね、さっきの芸人が書いた物もあるから今度宅配便で送ってくからね。じゃあね。元気でね」

俺「あ…うん…ありがと…」ピッ

俺(また自己啓発本かよ…何百冊と読んだけど全然役に立たねえよ…)

脳内彼女「お婆ちゃん。なんだって?」

俺「自己啓発本送ってくれるってさ。ってかこれで何冊目だよ…」

脳内彼女「大変だね…」

俺「ニートしてる俺が悪いからしょうがないよ。これ以上こんな生活を続ける訳にもいかないし、明日ハロワ行くか…」

脳内彼女「大丈夫なの?」

俺「大丈夫じゃないけど行くしかないでしょ…」

ハロワ

職員「で、俺さんはどんな職種を希望してますか?」

俺「最低限待遇が良くてちゃんと採用してくれればどこでもいいです」

職員「は、はぁ…」

俺(いかん…言ってから思ったけどこれ一番職員が困るパターンって本に書いてあった…)

職員「何か資格は持ってますか?」

俺「MOSとワープロ検定くらいです…」

職員「それだけだとSEやソフトウェア開発みたいなのはちょっと厳しいでしょうねぇ…」

俺「ですよね…」

職員「とりあえず俺さんはやりたい業種等は決まってますか?」

俺「いえ…」(本当は働きたくないなんて言えない…)

職員「まず自己分析する所から始めてみたらどうですか?」

俺(自己分析か…思えば大学時代の就活で何度もやらされたなぁ…)

職員「とりあえず自己分析の為になんでもいいんで貴方の事を紙に書き留めて今度来るときにまたもってきてください」

俺「はい」

俺「えっと自己分析っと、久々にやるなぁ…」

脳内彼女「そういえば前に就活してた時はどうしたの?」

俺「誇れるような自分が無かったから全部嘘書いてた」

脳内彼女「どんな嘘?」

俺「人と関わるのが大好きだとか、自分は明るいのが取り柄だとか、スポーツが趣味ですとか」

脳内彼女「見事に嘘ばかりだね…」

俺「まあな。そのせいで落ちまくって失敗したし。多分俺みたいな根暗が面接で無理に明るく振舞ってもボロが出るんだろうなぁ」

俺「とりあえずどうしようかなぁ…実際問題、俺って何の取り柄もないんだよなぁ…」

俺「それどころかクズで糞で性格悪くて根暗でネガティブで本当どうしようもないし、自己分析と言われても企業にアピールするような点が全然思い浮かばない…」

脳内彼女「部活とかサークルとかの経験談はどう?」

俺「ねぇよ。そんなの」

脳内彼女「そっか」

俺「とりあえず今までの人生で起きた事を書き留めていくか。もしかしたら企業にアピールできるエピソードの一つでも見つかるかもしれない」

俺「とりあえずざっと思いつく限り時系列順に書いて行くか」

俺「えっと幼稚園時代。殆ど覚えてないなぁ
  そういや同級生から遊具から突き落とされたっけ…
  あとアニメばかり見てたなぁ」

俺「次小学生時代。
  アトピーをからかわれて虐められたなぁ…あとカーチャンが授業参観に参加した時担任から基地外扱いされたっけ…
  あとアニメばかり見てたなぁ」

俺「中学の時は…父親に無理やり入れられた剣道部で酷い虐めを受けたなぁ
  そういやカーチャンが精神病院に入ったっけ
  あとクラスでも虐められてたし
  あとアニメばかり見てたっけ」

俺「高校の時は、野球部のパシリをやらされてたなぁ
  あと学校一のブスと付き合ってるって噂も流されたなぁ
  あとアニメばかり見てたなぁ」

俺「大学はF欄で一応サークルは入ったけど見事に孤立したっけ
  飲み会には毎回参加してたけど浮いてたし、しまいにゃ卒業旅行なんて俺だけ呼ばれなかったし
  あと親戚一人が俺のせいで廃人になったなぁ
  あとアニメばかり見てたっけ」

俺「やばいわ…ロクな経歴がない…
  思えばアニメ見てた記憶しかないわ…」

脳内彼女「どうする?」

俺「とりあえずこれ出してハロワの人に相談してみるか」

ハロワ

俺「とりあえず書いてきましたが…」

職員「あの…その、こういうのじゃなくてもっとこう…」

俺「どういう意味です?」

職員「その些細な事でもいいんですよ。学校を休まず行ったとか、友達と仲良く遊んだとか。部活動を頑張ったとか」

俺「ないですね。一切」

職員「……」

職員「とりあえず貴方はもっと細かく自己分析をした方がいいと思いますよ」

俺「もっと細かくですか?」

職員「そしたらきっとあなたのいい所が沢山見つかると思います」

俺「はぁ…そうですかねぇ…」(見つかる気がしないんだけど…)

職員「そういえばここのパソコンでアンケート形式の職業適性検査が出来るのでそれも一度試してみますか?」

俺(そういうのあるなら最初から出してよ…)

パソコン『貴方は人と関わるのが好きですか?』

俺『NO』

パソコン『仕事上で一番大切なのは個々の能力ではなくチームワークである』

俺『NO』

パソコン『結果が出ました。貴方に適正のある職業は』

俺「……」ゴクリ…

パソコン『芸術家、作家、ミュージシャンです』

俺「は?」

パソコン『常識に他人の柵に捕われず、自分の道を行く貴方は芸術的でクリエイティブな職種に適性があります。      逆に普遍的な職業だと少々合わないと感じるかもしれません
      ですが貴方のその才能を世に生かせる事が出来れば云々……』

俺(ふざけんなよ…要は普通の仕事をやらせたらクズって事じゃないか…)

自宅

俺「ただいま…」

脳内彼女「おかえりなさい」

俺「はぁ…」

脳内彼女「ため息なんかついてどうしたの?」

俺「ハロワで職業適性検査をやったんだけどさ、俺芸術家の才能以外ないんだってさ…」

脳内彼女「じゃあ作家とか美術家にでもなるの?」

俺「なれる訳ねえだろ!どんだけ狭い門なんだよ!」

脳内彼女「そうだね…ごめん…」

俺「いや、いいよ…俺が悪いんだし…怒鳴ってごめん…」

脳内彼女「うん…」

俺「はぁ…せめて介護とか営業とか接客の適性があったら良かったのに…」

脳内彼女「ない物をねだってもしょうがいないよ」

俺「それもそうだな。とりあえず自己分析でも書くか」

脳内彼女「また?前のじゃ駄目だったの?」

俺「なんかもっと細かく書かないと俺のいい所は見つからないんだってさ」

脳内彼女「いい所ならいっぱいあるじゃない。俺は優しいしいい人だし」

俺「そんな事言ってくれるのは脳内彼女だけだよ…」

脳内彼女「そうかな?」

俺「そうだよ…俺なんて旗から見たらクズでコミュ障でブサイクな糞ニートだよ」

脳内彼女「そんなに自分を傷付けないでよ…こっちまで悲しくなっちゃうよ…」

俺「そうだよな…ごめん」

脳内彼女「……」

俺「ってか、優しいとか以前に企業にアピールできるようなわかりやすいいい所じゃないと就活には役に立たないし…」

脳内彼女「そうだね…」

俺「つーことで書くぞ!」

脳内彼女「おー」

俺「えっと正直幼稚園辺りからっと」

俺「同級生に遊具から突き落とされて大けがをして病院に運ばれる。幸い骨折には至らなかったがその後も虐められ続ける」

俺「家族でプールに行った際俺が溺れてマジで死にかけるも、両親共に俺の事に気づかず見知らぬ外人に救助される。それ以降プールが大嫌いになる」

俺「父から英才教育を受ける。小学校に入ってから習うひらがなや漢字の読み書きを徹底して教え込まれるが、途中で投げ出そうとした為暴力を振るわれる」

俺「俺の人生で数少ないモテ期がやってくる。某カルト宗教の家の娘と親しくなる。だが特に進展なし」

俺「次は小学生だな」

俺「小学生低学年の時俺は一番給食を食べるのが遅かった為虐めの対象になる」

俺「あと当時のクラスメイトのほぼ全員が戦隊ヒーロー離れをしていた為、未だに見続けていた俺は幼稚だと散々馬鹿にされた」

俺「父からの英才教育を受けていた筈だがこの頃から物覚えが悪く、担任からも出来が悪いだの悪い見本だの言われてクラスでよく晒し者にされていた」

俺「以前プールでおぼれた経験から水に顔が付けられなかったので、プールの授業の際教師に無理やり頭を沈められた」

俺「一度水着を忘れてきた事があり、見学しようとしたら教師から『カナズチだからそう言ってサボるつもりだったのだろう』と言われ、パンツ一丁でプールをおよう羽目になる。当然クラスメイトからは笑い者になる」

俺「授業でとある戦争経験者子供の話を聞き、皆が『娘が可哀想』といった感想を言ったのに、
  俺だけが『あれだけ泣き虫だった娘が一人で家事をする程にまでなるなんて成長具合が凄いと思った』等と的外れな回答をしたのを担任に馬鹿にされ、クラスメイト全員に笑われた」

俺「小学校中学年辺りで持病のアトピーが悪化し、特に股間のあれ具合が酷くよくブリーフを血まみれにしていた。あと歩き方もよくぎこちなくなっていた。
  それを当時の担任(女)に咎められ、性器を見せるように要求された。今思うとある種の児童に対する性的虐待に近い行為であった気もしなくもない」

脳内彼女「そんな事あったの!?」

俺「ああ、あった。多分あれ以外で女性に俺のを見せた事はないと思う」

脳内彼女「…………」

俺「次高学年だな」

俺「クラスで孤立していた為、その憂さ晴らしの為にとクラスメイトの発達障害を虐めるようになる。
  様々な嫌がらせや嫌味を言い、周りからドン引きされ余計に孤立するようになる」

俺「父親にサッカー部に無理やり入れられた。
  父親曰く失敗と成功を繰り返したら心身共に鍛えられるとの事らしい。だが俺は一番下手だった。だから皆から嫌われた。そしてそこでもやっぱり虐めを受けた。結局すぐに辞めた」

俺「この時期辺りで母親が本格的に壊れていく。40過ぎてリカちゃん人形遊びをしたり、よその子供相手に本気で怒鳴ったり泣いたりするようになる。
  授業参観中体がなまるといきなりラジオ体操を始めた事もあり、それがきっかけで俺は担任から基地外の子供という評価を受ける
  また母は父に対して過剰な依存感情を向けており、子供に対する愛情など微塵も注がなかった。
  父も母以外に興味がなかったため、それは同じである」

俺「そんな母親に対する反感に反抗期の時期が重なり何かにつけて俺も親に当たるようになる。
  学校でのいじめの件もあるが母はこんな調子で父は放任主義者なので信用できない。
  そして弟に暴力を振るう等してストレスを発散しようと試みる。我ながら最低だった」

俺「そんな時母方の祖母祖母が死に、母が本格的に壊れる」

脳内彼女「ちょっと待ってよ…」

俺「どうしたの?」

脳内彼女「まだ続けるの…?」

俺「ニートを脱するにはこうしないと」

脳内彼女「でも…」

俺「えっと…中学に入り、母親が精神病院で暮らす羽目になる
  俺は学校でもやはり虐めを受けており、家でも家事を担当する羽目になりストレスに悩まされていた」

俺「また、父は母が精神病院で暮らす羽目になった事によって家でも良く荒れるようになり、俺や弟に怒鳴り付けたり家の物を壊す事もよくあり、俺は毎日ビクビクしながら暮らしていた」

俺「そのような事に加えて、俺は母親の任の全てを任されたり学校でのいじめ体験等で精神的にかなり追い詰められており、特に相談できる相手もいなかった為何度か自殺未遂を試みる。今でも手首にはその時切った傷跡が残っている」

俺「そんな中親友が出来る。彼は俺をオタク趣味に引き込んだ張本人である」

俺「彼はアニメが大好きなオタクだった。
  俺も彼の影響でアニメをよく見るようになった。精通も丁度この時期辺りで、初めて抜いたオカズも当然アニメキャラである」

俺「俺は彼に家や虐め等の悩みの全てを打ち明けた。相談できる相手が出来たため俺はかつて程追い詰められなくなり、俺自身の精神も安定して行った」

俺「そんな時、父が俺に剣道部に入るように強要してきた。理由は俺が親友と遊んでばかりで勉学も家事も怠っていたからである」

俺「父が怖かったので俺は嫌々ながらも剣道部に入った。勿論そこでも虐められた。理由は一番下手だったからだ」

俺「毎日毎日先輩に防具無しで竹刀で全身に痣が出来るまで殴られたり、隣のグランドの女子のテニス部員達に放送禁止用語を言う等である
  担当の先生が基本不在だったのをいいことに、先輩たちはやりたい放題であった」

俺「部活が辛すぎて俺は父に虐めの事を相談するが、そんな事くらい耐えられない様じゃ社会ではやっていけないと一方的に突っぱねられる。
  確かにその通りだ。現に今こうして社会でやっていけていない。
  結局のところ、俺は担当の先生に虐めの実態を相談し、父に無断で部活を辞めた。
  それを知った父は俺に本気で失望したらしく、もう前みたいに習い事や部活動を強制したり、俺が何か不祥事を起こす度に文句を言う等と言った事はしなくなった」

俺「そして俺は部活から解放されたのをいいことに、親友と一緒にアニメを見て遊びほうけていた」

俺「中学三年になり、俺は進級と共に親友とは別のクラスになってしまったが、未だに親友との交流は続いていた」

俺「そしてある日、あの事件が起きた。ある晴れた夏の日の事だった」

俺「とあるプールの授業の後、男子更衣室にて俺はあるクラスの体育会系の男子に因縁をつけられた
  理由は水がかかったのに謝らなかったとかそんな感じだったと思う
  事なかれ主義の俺は必至で謝り何とか許しを請おうとしたが殴られた」

俺「何度も何度も殴られ、馬乗り状態で殴られた。
  面白がってクラスの他の男子達が俺が殴られていた様子を見て笑っていた。笑っていない奴は全員俺を見て見ぬふりをしていた」

俺「殴っていた連中が満足したようで、俺は解放された。
  だが声が出なかった。まともに歩くことも出来なかった。恐らく骨が何本か折れていた。
  俺は手当をしないとマズいと思い、這いずるように保健室に向かった。必死だった。だがそんな無様な俺の様子を見て笑う皆の声が聞こえた」

俺「そんな時親友が通りかかった
  だが親友は俺を無視した。
  まるで見てはいけないようなものを見てしまったかのような態度を取り、黙って去ってしまったのだ
  訳が分からなかった。
  親友の彼なら絶対に助けてくれると思っていたのに、あれだけ仲良しだった親友に一番困っている時に見捨てられたのだ
  もう何を信じればいいのかわからなくなった
  どうしようもない気持ちになった」

脳内彼女「もうやめようよ…」

脳内彼女「これ以上続けていても辛いだけだよ…」

俺「でも、ニートを脱するにはちゃんと過去と向き合って自分の長所を…」

脳内彼女「こんな事して、本当に長所なんて見つかると思ってるの…?」

俺「……」

脳内彼女「俺が書いているの、さっきから辛い記憶ばかりだよ…?こんな事してても傷つくだけだよ…」

俺「そうしないと俺は駄目人間のままだし…」

脳内彼女「じゃあなんで俺は泣いてるの?」

俺「…………」

脳内彼女「辛いからだよね…?苦しいからだよね…?」

脳内彼女「これ以上続けていても、俺の望む結果は絶対に得られないよ…」

俺「そんなの…やってみないとわからないよ…」

脳内彼女「この後俺はこの暴力の事を教師にも父親にも無視されて誰も信用できなくなる。
   親友とも絶交するし、親だって信じられなくなる」

脳内彼女「友達も作らないし、誰も信用しない。誰も信じられなくなる」

脳内彼女「誰の事も好きにならないし、誰からも好かれないそんな人生。
   ただ辛いくて、苦しいだけの人生をこれから先もずっと続ける事になる」

俺「なんで…わかるんだよ…」

脳内彼女「わかるよ。だってあたし達、この頃から付き合い始めたんだもん」

脳内彼女「俺は一人ぼっちが寂しいからあたしを作ったんだよ?
   悩みをちゃんと聞いてくれる人が欲しくってあたしを作ったの
   親も教師も友達も皆大嫌いになって、それでも俺が好きになれる人が欲しいって思ったからあたしを作ったんだよ?」

脳内彼女「もしもあの時、誰か一人でも助けてくれる人がいれば…
   こんな俺でも誰か一人でも好きになれる人がいれば…
   こんな俺でも優しくしてくれる人がいれば…
   こんな俺なんかでも大事にしてくれる人がいれば…
   もしかしたら、俺の人生は大分マシになってたかもしれない…
   もしかしたら、俺の人生は幸せな物になっていたのかもしれない…」

脳内彼女「そんな俺の願いがあたしを作ったんだよ」

俺「そうだったな…」

脳内彼女「あたしは最初から俺の妄想なの…」

俺「うん…知ってた…」

脳内彼女「あたしは最初から存在しない」

俺「知ってる…」

脳内彼女「それでもあたしは、この世界で唯一俺の味方になってあげれた存在なの」

俺「知ってるよ」

脳内彼女「だからあたしは俺にキスやエッチは勿論だけど、抱きしめたり手を握る事だって出来やしない」

俺「知ってるよ!」

脳内彼女「俺…?」

俺「わかってるよ!この世には俺に優しくしてくれる人なんていない!」

俺「誰も俺の事を慰めようなんて思わないし、どいつもこいつも俺の事を追い詰めるだけで何もしてくれない!」

俺「こんな俺を大事にしてくれる人なんてどこにもいない!こんな俺を必要だと思ってくれる人だってどこにもいない!」

俺「それでも…寂しかったんだよぉ…」

脳内彼女「ごめんね…」

俺「なんで妄想なんだよ!?なんで現実じゃないんだよ!?」

脳内彼女「ごめん…」

俺「なんで抱きしめてくれないの!?なんでキスしてくれないの!?なんで脳内彼女はこの世に存在しないんだよ!?」

脳内彼女「ごめんね…」

俺「なんで謝るんだよ…脳内彼女にはどうしようもない事なのに…」

脳内彼女「あたしには、謝る事しか出来ないよ…」

俺「もう嫌だよ…俺…こんな生活…」

脳内彼女「俺…?」

俺「誰も慰めてくれない。皆俺をぞんざいに扱う。誰も俺を大切にしてくれない…大切にしてくれるのは妄想の中の女の子だけだなんて…」

俺「こんな人生…歩みたくなかったよ…」

脳内彼女「……ねぇ、俺。イマジナリーフレンドって言葉知ってる?」

俺「知ってるよ…脳内彼女みたいな子の事を言うんだろ…」

脳内彼女「子供の頃にはね、空想上の友達と遊ぶってのは結構珍しい事でもないみたい」

俺「じゃあ俺は未だに子供だって言いたいのかよ…」

脳内彼女「そうかもね…俺は子供の時に辛い体験をし過ぎたから、そのせいで大人にならないまま大人になっちゃったのかもね…」

俺「それじゃあ、どうすりゃいいんだよ…こんなの嫌だよ…」

脳内彼女「あたし、考えたの。あたしが俺の為に出来る事」

俺「俺の愚痴を聞く以外に妄想上の存在の脳内彼女が出来る事が他にあるのかよ…セックスどころかキスも手を繋ぐ事だって出来ないんだよ…」

脳内彼女「あるよ、たった一つだけ」

脳内彼女「消えるの」

俺「え?」

脳内彼女「この世界からあたしが完全に消えるの」

俺「は!?だって消えるも何も、脳内彼女は最初からこの世界にはいないじゃん!?」

脳内彼女「そうだね。性格には、『俺の世界』から消えるって言った方が正しいかも」

俺「待ってよ!そんな事されたら俺は…」

脳内彼女「存在すらないあたしが消えたら、俺はどうなるの?」

俺「もう…生きていけないよ…」

脳内彼女「大丈夫だよ。俺ならきっと、あたしの代わりに俺を大事にしてくれる人が見つかるから」

俺「俺には無理だよ…」

脳内彼女「大丈夫だよ。俺は優しくていい人だから、いい相手なんてすぐに見つかるよ」

俺「今までだって一度も見つからなかったじゃないか!?」

脳内彼女「それは多分、あたしがいたせいだよ。
       あたしの存在が邪魔になって俺は他の人に心を開けなかっただけだよ」

俺「違うよ!そんな事ない!」

脳内彼女「俺はあたしの事が好きすぎて、他の人に目を向けれなかっただけだよ」

俺「違う!俺なんかが人を好きになっても拒まれるに決まってる!だから脳内彼女が必要なんだよ!」

脳内彼女「そういう風に考えちゃうのも仕方ないよね…俺はそんな人生を歩んできたんだから…」

脳内彼女「でも大丈夫。あたしがいなっても…ううん、あたしがいない方が俺は上手くやっていける筈だから」

脳内彼女「大人はね、一人で自立した後に誰かと一緒になるんだよ…」

脳内彼女「あたしの事は忘れて、ちゃんと幸せになってね」

俺「待ってよ!俺を一人にしないでよ!」

脳内彼女「じゃあね」


その後、脳内彼女は完全に俺の前から消えてしまった。

数週間後

俺(脳内彼女が消えてしまってからしばらくたったが、俺は相変わらずだった)

俺(というより、依存する対象であった脳内彼女を失った為、以前もにまして生きる気力を失っている)

俺(父の小言も祖母の電話も無視した。今は誰の言葉も俺の耳には届かない)

俺(もう何もかもがどうでもいい)

俺(もともと俺の頭の中にしか存在しなかった脳内彼女が、俺の頭からも消えてしまったのだ)

俺(こうなったら生きていく理由はない。かといって今すぐに死ねる程の度胸も俺にはない)

俺(俺は日課であったネットもアニメもオナニーも全くしないようになり、ただ家でひたすらと眠るだけの生活を送っていた)

俺(脳内彼女が夢に出る事を祈っていたが、残念ながらその些細な夢でさえ叶う事はなかった)


俺(そんなある日だった)

ピンポーン

俺(うるせーな…)

ピンポーンピンポーン

俺(しつこいなぁ…宗教勧誘かよ…眠れねえよ…)

ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン

ガラッ!

俺「ああー!うるせー!」

脳内彼女(?)「あ…」


脳内彼女にそっくりの女の子がそこにいた

はよはよ

俺「え…」

脳内彼女(?)「ここは一体西暦何年の何月何日ですか!?」

俺「の、脳内彼女…?なんで…」

脳内彼女(?)「脳内彼女を知っているんですか!?」

俺「だ、だってお前…完全に消えたんじゃ…!?」

脳内彼女(?)「やっぱり…貴方がそうなんですね…」

俺「ちょっと待て!ってかなんで俺の妄想上の存在の筈のお前がここにいるんだよ!? おかしいだろ!?」

脳内彼女(?)「……単刀直入に言います。脳内彼女は実在します」

俺「は?え?どういう事…!?ってか君は脳内彼女だろ!?」

脳内彼女(?)「あたしは、20年後の未来から来た貴方と脳内彼女の娘です」

まさかの展開

ごめん
風呂入るわ

保守

はよ

娘「脳内彼女は貴方の妄想上の存在じゃない。本当に付き合ってたの!」

俺「そんな馬鹿な…」

娘「あたしの姿を見てもそれが言えますか?」

俺「…………」

娘「あたしは母に良く似ていたと言われてましたが、あなたから見たらあたしはどうですか?」

俺「確かに…似てるけど…」

娘「いいですか?貴方と母は…脳内彼女は本来なら結婚する予定だったんです」

俺「嘘でしょ…?」

娘「本当です」

俺「だって俺、現実じゃ彼女いない歴=年齢だし、童貞だし、女の子とロクに付き合った事すらないんだよ?」

娘「あたしの父は童貞でもなければ彼女いない歴=年齢でもありません」

俺「そりゃ君の親だから当然だろうけど…」

俺「ってか、君が仮に本当に俺と脳内彼女の娘だとして、そもそも何のために来たの?」

娘「貴方は数年後自殺します」

俺「え…?」

娘「あたしはそれを止める為に来ました」

俺「マジで…?」

娘「マジです」

俺「なんで…」

娘「自殺する理由の心当たりは、当の本人であるあなた自身なら沢山知ってますよね?」

俺「…………」

娘「ちなみに母も自殺します」

俺「嘘だろ…」

娘「本当です。証拠の写真もあります」

俺「見せて…」

娘「結構陰惨な光景なんで覚悟して見てください」

俺「……わかった」


その写真には樹海で首を吊りながら腐敗していた俺の遺体が映っていた

娘「信じましたか?」

俺「ああ…」

娘「母のもありますがこっちも見ますか…?母の方は電車に飛び込んで死んでいるのでもっと悲惨な事になってますが…」

俺「いや、いい…もう十分だから…」

娘「わかりました…」

俺「それより詳しく聞かせてくれ、脳内彼女が実在するってどういう事?あの子は俺の妄想上の存在だった筈だよ?」

娘「正確に言うと、脳内彼女は実在はしますが、この世界にはいません」

俺「……どういう事?」

娘「本来貴方と脳内彼女は出会い結ばれるはずでしたが、何らかの要因が生じてそれぞれの存在が同時に存在出来ないように世界が書き換わりました」

娘「貴方がいる世界には脳内彼女が存在しません。脳内彼女が存在する世界には貴方は存在しません。どちらの世界でも貴方達はこの世に絶望して自ら命を絶ちます」

俺「ちょっと待って!本来ってどういう事?俺と脳内彼女は本当は同じ世界にいたって事?」

娘「そうなりますね」

娘「さしずめ本来貴方と母が結ばれる筈だった世界をA世界線とすれば、
  何らかの事情により分岐してしまって貴方がいて母が存在しない世界になってしまった世界はB世界線。
  同様に分岐してしまい母が存在しても貴方がいない世界線はC世界線と言った所ですね」

俺「シュタゲかよ…」

娘「なんですかそれ?」

俺「ちょっと前に流行ったタイムパラドックス物のアニメ」

娘「ああ、大昔のアニメですか」

俺「ってか、未来の世界にはタイムマシンが普通に流通してるの?つーか他の世界線がどうなってるかなんて知りようがないでしょ?」

娘「あたしにタイムマシンをくれた神さまを名乗るオジサンから貰いました」

俺「自称神さまって…胡散臭い…」

娘「といわれても、こんな写真を見せられてタイムマシンまでくれたら信じるしかないでしょ?」

俺「…………」

俺も脳内彼女ほしい

娘「他の世界線で貴方と母が自殺すると言う事もその神さまから説明されました」

娘「貴方達が自殺したら、あたしの存在が消えてしまうと言う事も…」

俺「…………」

娘「元々貴方も母もこの世界には希望を抱いてませんでした。二人ともいつ自ら命を絶ってもおかしくないような人生を歩んでいました」

娘「ですが、そんな二人が、もし出会う事が出来たら…この世に希望を持てるようになったんです…
  であってさえいれば毎日希望を持って生きていくことが出来たんです…幸せになれたんです…」

俺「君の目的は大体わかった…で、俺はどうすればいいんだ?どうしたら皆助かる?」

娘「その自称神さまから対処法を教えてもらいました。ここにそのメモがあります」

俺「見せて」

娘「駄目です。これには本来貴方が送る筈だった未来の日常の事が書いてあります。だから今ここで貴方に見せたら未来が変わる可能性があります」

俺「ああ…そう…」

俺「そういや君は俺と脳内彼女が結ばれるA世界線から来たんだよね?」

娘「はい、そうです」

俺「でも俺のいるこの世界線はB世界線だよね?なんで?世界線移動って君の持ってるタイムマシンで出来るの?」

娘「わかりません。タイムマシンに自動で設定されていた年代にあたしは来ただけなので。
  あと自称神さまにもB世界線に来て父に会いに行けとしか言われませんでした」

俺「じゃあC世界線で脳内彼女に合って止めるって訳にもいかないのか…」

娘「そうです。だから今から過去にさかのぼってA世界線がB世界線ともC世界線とも同期させて二人が出会うようにします」

俺「で、実際どうすんのよ?」

娘「それはこれから説明します」

娘「今からタイムマシンで過去に戻ります」

俺「タイムマシンってどこにあるの?」

娘「これです」

俺「ただのスマフォじゃん?」

娘「スマフォ?なんですかそれ?」

俺「今流通してる端末。未来にはないの?」

娘「未来はデフレが進んでいて、こういう高価な機械の類は裕福層しか使えないんですよ」

俺「夢のない未来だなぁ…」

娘「とにかく、これでここのボタンを押すと過去に行けます。私の手をちゃんと掴んでください」

俺「わかった」

俺(良かった、ちゃんと掴める…妄想じゃない…)

すまん、飯食うわ

バンバンバンバンバンバンバン
バン     バンバンバン
バン (∩`・ω・) バンバン
 _/_ミつ/ ̄ ̄ ̄/
   \/___/ ̄ ̄


  バン   はよ
バン (∩`・ω・) バン はよ
  / ミつ/ ̄ ̄ ̄/
  ̄ ̄\/___/

    ; '  ;
     \,( ⌒;;)
     (;;(:;⌒)/
    (;.(⌒ ,;))'
 (´・ω((:,( ,;;),
 ( ⊃ ⊃/ ̄ ̄ ̄/
  ̄ ̄\/___/ ̄ ̄

数十年前

俺「ここどこ?」

娘「公園のようですが…」

俺「俺の家にいた気がするんだけどなんで場所が変わってるの?」

娘「あたしにもわかりませんよ」

俺(あんま変わっていない気がするけど、微妙に古くなってる)

俺(ってかこれ多分、今はマンションになってる昔よく遊んだ公園よな。多分)

俺(マジで過去に来たのかよ…)

俺「とにかくこの時代で俺達は何をすればいいの?」

娘「えっとこのメモによると…母のいる世界には貴方は生まれない事になってますね…」

俺「どういう事…?」

娘「貴方は母のいる世界だと生まれませんが、母も貴方のいる世界だと生まれません」

娘「つまり二人が同時に生まれるように過去を改変すればいい…との事です」

俺「で、具体的にどうするの?」

娘「えっと、貴方はこのままだと母親が流産して生まれる前に死ぬことになっています。」

俺「マジかよ…」

娘「それから数十年後孤独に生きてきた母が生きる事に耐えきれなくて自殺すると言う事になっています」

俺「つまり…どういう事だってばよ…?」

娘「お婆ちゃん…つまり貴方の母親が流産しないようにするしかないですね」

娘「貴方の母親は精神病で障害者手帳も持ってましたね?」

俺「ああ、そうだけど…」

娘「マタニティブルーの反動で情緒が乱れて、その結果流産する事になるみたいです。だからそれを止めに行きます。とりあえず今から貴方の自宅に向かいましょう」

俺「わかった」

娘「では行きましょう」

俺(それにしてもこの子、本当に脳内彼女に似てるなぁ…タイムスリップなんてまだ夢を見てるみたいだけど、本当に俺の子なのかなぁ…)

俺「そういやさ、本来俺と付き合う筈だった脳内彼女はなんで俺の妄想って事にになってたの?」

娘「ああ、それでしたら神さまから聞きました」

娘「他の世界線の記憶が無意識中に残っていて、それが貴方の妄想上の彼女の存在を作ったらしいです」

俺「なるほど…別の世界線の潜在意識って事か…シュタゲでも似たようなネタをやってたなぁ…」

娘「さっきも言いましたけどそれ、面白いんですか?」

俺「かなり」

娘「無事に未来に帰れたら見ましょうかね」

俺「俺もそうしようかなぁ」

娘「着きました。どうやら留守みたいですね」

俺「ってか君、未来から来た割にやけに土地感強いね」

娘「神さまから貰った地図がありますから」

俺「神さま万能すぎるだろ…」

娘「鍵がかかってますね…この家の鍵、持ってますよね?」

俺「一応俺の家だから持ってるけど…」

娘「なら早く出してください」

俺「なんか不法侵入みたいだ…」

娘「何言ってるんですか?ここは貴方の家ですよ?」

俺「確か、この時代だとまだ俺って生まれてないんじゃ…」

娘「いいから早く出してください。私と母と貴方の命がかかってるんですよ?」

俺「わ、わかったよ…」

自宅

娘「とりあえずお婆ちゃんとお爺ちゃんが帰ってくる前に事を済ませましょう」

俺「で、どうすりゃいいの?」

娘「貴方が流産されないようにするにはお婆ちゃんの情緒を安定させないといけません。
  どうやら情緒が乱れた主な原因は処方された薬をマタニティブルーで荒れたせいでちゃんと飲んでなかったせいみたいですね」

娘「えっと神さまのメモの指示には、貴方が手紙をお爺ちゃん名義で書いて母の処方薬をちゃんと飲めと書いておけと書いてありますね」

俺「手紙にはなんて書けばいいの?」

娘「えっと、これですね」

娘「『あの女とは完全に縁が切れた。だから信じてくれ。
   妊娠して色々と不安になるのはわかるけど生まれてくる子供の為に薬だけはちゃんと飲んでくれ。母、愛している。』」

俺「ちょっと待てよ!あの女って誰!?」

娘「あたしは知りませんよ」

俺「父ちゃん…浮気してたのかなぁ…」

数分後

俺「手紙書いたよ…」

娘「貴方とお爺ちゃんの筆体は似ているとメモにも書いてありますから、多分これで誤魔化せますね」

俺「こんなので大丈夫なの?俺、流産されない?」

娘「わかりません」

俺「はぁ!?」

娘「このメモには経過と結果をちゃんと確認しろとも書いてあります」

俺「マジかよ…」

娘「とりあえずバレなさそうな所でお爺ちゃんとお婆ちゃんが来るのを待つとしましょう」

俺「そうだな…とりあえず俺の部屋行くか…」

娘「生まれてもいないのに部屋はあるんですか?」

俺「多分あると思う」

自室

娘「物置になってますね」

俺「まあ隠れるには丁度いいでしょ」

娘「臭いんであんまり近づかないでくださいね」

俺「臭い!俺は君の親だよ!?」

娘「少なくとも、あたしの知ってるお父さんはもっと清潔な人です」

俺(そういや脳内彼女と別れてからロクに風呂にも入ってなかった気が…)

俺「ねぇ、未来の世界の俺ってどんな人?」

娘「いい親ですよ」

俺「本当に!?」

娘「やっぱり歩んできた人生が違うのでブサイクで不衛生なニートの貴方とは全然違いますね」

俺「……」

娘「…………」

俺(ってか、娘って脳内彼女と見た目はそっくりなのに脳内彼女と違ってちょっと無愛想だよなぁ…)

俺(かといってお互いずっと黙って待っているのも気まずい…)

俺「ねえ、何かさ。未来の話を聞かせてよ。俺と脳内彼女がどうやって出会うかとかさ」

娘「あんまり答えると未来が変わってしまうので無理です」

俺「じゃあ応えられる範囲で」

娘「そうですねぇ…」

娘「そういえばあたし、中学の時虐められて不登校になってたんですよ」

俺「そうなの?なんで?」

娘「理由は物凄くくだらないです。友達が好きな人がいるのに他の人に告白されてとりあえず付き合って、
  後になってからその好きな人に告白されて別れてその人と付き合い始めて、
  泣いていた元カレを見て不誠実だと問い詰められたら虐められるようになって、それから不登校になりました」

俺「処女厨で変に純愛願望のある俺の娘らしい理由だな…」

娘「貴方なんかと一緒にしないでください」

俺「…………」

娘「でも、ちょっと前に高校に復学するようになってから友達も出来て、最近になって素敵な彼氏も出来ました…」

俺「彼氏出来たの!?」

娘「やっぱり驚くんですか?未来のお父さんも最初は凄く驚いてましたよ」

俺「そりゃ…ねぇ…」

娘「未来のお父さんも、最初は戸惑ってたけどとっても喜んでくれましたよ」

俺(これだけ可愛いんだから彼氏が出来ない方がおかしいか…)

俺「彼氏、どんな人?」

娘「真面目で誠実で…優しくてとってもいい人です…」

娘「でも…彼氏も友達も出来て、ようやく毎日楽しくなるかなぁって思った矢先に変な神さまが現れてこれですよ?本当酷いですよ…」

俺「そっか…」

娘「どうして、こうなっちゃったんだろう…」

俺「なんでだろうなぁ…」

娘「…………」

俺「なあ。君が不登校になった時、君のお父さん…その、未来の俺は君になんて言っていた?
  頑張れとか、世の中に出たら辛い事なんていくらでもあるとか、
  そのくらいでヘコたれたらまともな大人にはなれないとか言ったり、辛い目に逢ってた君を無視したりしてた?」

娘「いいえ、嫌なら別に学校なんて通わなくてもいい。
  無理して通っても絶対にロクな事にはならないって言ってくれました」

俺「そっか…そうだよな…」

娘「お母さんも、無理してあたしを学校に通わせようとはしませんでした」

娘「でも、復学する時は二人とも手助けしてくれました…」

俺「俺と脳内彼女はさ、未来だとちゃんといい親をやれてるかなあ…?」

娘「これ以上なく…いい親でし」

俺「そうか…」

娘「はい」


ガタン

娘「あ、誰か帰ってきましたよ」

父「母ー!母ー!いないのかー!?」

俺「どうやら父さん見たいだな」

娘「そのようですね」

父「おい!母!どこだ!」

娘「なんだか様子が妙ですね」

俺「そうだな…」

娘「何か心当たりでもあるんですか?」

俺「昔さ、母さんがよく自殺するぞって父親や俺を脅して仕事とか学校中に呼び出す事があって、その時の様子とよく似ている…」

娘「色々と苦労したんですね…」

ガタン

母「……」

父「母!今までどうしたんだ!?探してたんだぞ!?」

母「……」

父「お腹の子もいるんだぞ?もっと大事にしないと…」

母「うるさいわね!今まで他の女と会いに行ってた癖に!」

父「あれはもうとっくの昔に終わったってこの前も…」

母「じゃあ今までどこに行ってたの!?私が電話してもすぐに帰ってこなかったじゃない!?」

父「仕事が抜け出せなかったんだよ…」

母「私が大変な時に貴方は仕事をしてたの!?私が死んだらどうするの!?」

俺(…………)

娘(…………)

母「大体貴方はいつもそう!私が大変な時に限っていつもいないし、こんな貴方との間に生まれるなんて子供も可哀そうよ!」

父「なんて事を言うんだ!」

母「私みたいな精神障害者と結婚して今更後悔したの!?貴方がお情けで結婚した癖に!?だから今更仕事や他の女の所に逃げるの!?」

父「俺がいつそんな事をしたっていうんだ!?」

母「いつだってそうだったじゃない!今日だってそうよ!」



娘「あの…お爺ちゃんとお婆ちゃんって、いつもあんな感じだったんですか…?」

俺「荒れてる時は…大体あんな風…」

娘「本当に大変だったんですね…」

俺(母親に至っては、俺が中学上がる時に檻の付いた立派な精神病院に閉じ込められる羽目になったしなぁ…)

娘「あ、どうやらお婆ちゃんがさっき書いた手紙に気付いたようです…」


母「あ…これって…貴方が書いてくれたの…?」

父「は?なんだそれは…」

母「『あの女とは完全に縁が切れた。だから信じてくれ。
   妊娠して色々と不安になるのはわかるけど生まれてくる子供の為に薬だけはちゃんと飲んでくれ。母、愛している。』って…」

父「お、おう?」

母「ごめんなさい!私、貴方がこんなに私の事を思ってるのに沢山酷い事言って!」

父「あ、ああ?わかればいいんだよ」

母「これからはお腹の子の事も大事にするわ…愛してるわ貴方」


娘「これで良かったんですかね…?」

俺「…………」

娘「とりあえずこっそりとここから出ましょう…」

俺「ああ…」

屋外

娘「神さまのメモ曰く、これで貴方が流産する世界線への分岐はなくなるそうです」

俺「そうか…」

娘「やっぱり、辛いですか…?」

俺「まあね…閉鎖病棟に入ってから母さんとは全然会ってなかったんだけど、久々に見たら相も変わらず酷くって…」

俺「ただでさえ酷かったけど、婆ちゃんが死んだり俺が反抗期になったり色々あってさ、母さん本当におかしくなって結局は一生出られなくなったんだよね…」

娘「…………」

娘「母に、会いに行きましょう」

俺「え…?」

娘「メモに書いてあります。母が死ぬ分岐を無くすには、今からとある病院に行く必要があるそうです」

娘「神さまの地図によるとこの病院、結構距離が遠いみたいですね」

俺「タイムマシンでそこまでワープ出来ないの?」

娘「残念ながら、そこまで設定されてないみたいですね」

俺「どこでもドアみたいな便利アイテムは?」

娘「そんなのある訳ないじゃないですか」

俺(ってか未来人でもどこでもドアは知ってるんだ)

娘「仕方ないです。タクシーで行きましょう」

俺「待って。君この時代のお金持ってるの?」

娘「大丈夫です。ちゃんと野口の1000円を持ってきました」

俺「この時代じゃ野口の札は使えないよ!」

娘「え…本当ですか…」

俺「どうしよう…旧札なんて財布にあったかなぁ…」

病院

俺「冷静に考えたら、バスなら硬化で済むから旧札とか関係ないじゃん…」

娘「そうですね」

俺「で、この後どうするの?」

娘「えっと、お母さんはこの時期既にもう生まれた後で、この病院にいるみたいですね」

俺「脳内彼女って俺より誕生日早かったんだ…知らなかった…」

娘「あとどうやら未熟児だったみたいですね」

俺「え?そんな設定俺は付けた覚えないよ?」

娘「設定じゃなくて事実です。脳内彼女は貴方の妄想上の存在ではないと言う事を忘れたんですか?」

俺「あ…そうだったな…」

娘「なんでもお母さんはここで栄養剤の投与ミスのせいで死ぬことになってるみたいですね」

俺「なんだよそれ!いくらなんでも酷過ぎるだろ!」

娘「母が死ぬ世界線だと一応ニュースにもなったらしいです。もっとも医師が謝罪しただけで済んだみたいですけど」

俺「そんなのってないだろ!人の命を何だと思ってるんだ!」

娘「落ち着いてください。今はここの病院の医者に文句を言ってもしょうがないです」

俺「そんな事言われても…」

娘「あたしだって納得いきません。でも今から変えれるんです。だから落ち着いてください」

俺「…………」

娘「貴方のいた世界のお母さんの死亡原因はそうなりますが、今からあたし達が行動したら変わるんです」

娘「とにかく、お母さんを救う為にもあたし達は行動に移りましょう」

俺「わかった…」

俺「で、どうするの?」

娘「まず病院に忍び込みます」

病院内

俺「なあ、忍び込んだのがバレたら大変じゃない?」

娘「これも人命救助の為です」

俺「君未来から来たんだからさ、光学迷彩とかそういう便利アイテム持ってないの?」

娘「未来がそんなに便利になってる訳ないじゃないですか」

俺「本当未来って夢がないなぁ…」

娘「何言ってるんですか?未来を勝ち取る為にあたし達は今こうしているんですよ?」

俺(なんか今、ちょっとカッコいい台詞言ってた…)

娘「ありました!母のいるベッドです!」

娘「ここに書いている栄養剤投与の為の書き間違えた用紙を、神さまに渡されたメモ用紙に書いてある通りに訂正します」

俺「ああ…」

娘「書き終えました。長居は無用です。帰りましょう」

俺「ちょっと待って…」

はよ

娘「どうかしました?」

俺「…………」

脳内彼女「くー…くー…」

俺「…………」

俺「この赤ちゃんが、将来俺の彼女になって、結婚して、お嫁さんになってくれるのか…」

娘「そう…ですね…」

俺「この子が大きくなったら俺と付き合って、デートして、手を繋いだりキスとかするんだ…」

俺「俺、ちゃんといい彼氏になれるかなぁ…」

娘「なれますよ。いい旦那にも、いい親にも」

俺「そう…だよな…」

屋外

娘「これで貴方もお母さんもどちらも死なない世界線への可能性が構築されました」

俺「じゃあ、俺と脳内彼女は二人出会って幸せになれるのか?」

娘「ええ、そうです。あたしもちゃんと生まれてくることが出来ます」

俺「そうとわかったら早く未来に戻ろう!」

娘「そうは行きません」

俺「どうして!?」

娘「神さまの書いたメモ用紙に書いてありました。この二人が同時に生きる事が出来る世界線が構築されたとしても、二人が出会わなければ同じ事になってしまうと」

俺「それなら、どうしろと…」

娘「見届けるんです」

十数年前

俺「ここは…」

娘「学校…ですね…」

俺「暑いな…」

娘「どうやら夏のようですが…」

俺「…………」

娘「どうかしましたか?」

俺「今、カレンダーの日付を見た…」

娘「そうですか…」

俺「あの日だ…」

娘「貴方の気持ちもわかりますが、万が一昔の貴方と今の貴方が出会ったらタイムパラドックスが起きるので今は隠れましょう…」

俺「あ、ああ…」

娘「メモには『三限目の後の休み時間、男子更衣室の前、見届けろ』としか書いてありませんが、貴方には意味がわかりますか?」

俺「ああ…わかってる…」

娘「……そうですか」

娘「授業が終わった後の男子生徒達が来ましたね」

俺「ああ…あの中に俺もいる…」

娘「いましたね…」


俺(中学時代)「……」


娘「何事もないようですが…」

俺「いや、ここからだ…」

体育会系「おい俺!てめぇふざけんなよ!?」

俺(中学時代)「え?な、何が…?」

体育会系「調子こいてんじゃねーぞ!てめぇのせいで水がかかっただろうが!」

俺(中学時代)「あ、ごめんなさい…すみません…」

体育会系「ふざけんなよ!」ボカッ!

俺(中学時代)「痛っ!」

体育会系「いたっ!じゃねーよ!」ボカッ!

俺(中学時代)「い、痛いよ…やめてよ…」

体育会系「ぎゃはははwwww皆聞けよwwww痛いよwやめてよだってさwwwwww」ボカッ!ボカッ!

「だせぇwwwww」「きめぇwwwww」「ウケルわーwwwwww」「あははははwwwwwww」

俺(中学時代)「うぐっ…」

娘「酷いです…」

俺「ああ…」

娘「見届けるって、この事だったんですか…?」

俺「…………」



俺(中学時代)「やめて…お願いだから…」

体育会系「おいお前らwwwwやめてほしいってさwwwwwどうする?wwwwwww

「やめるとかねーわwwwwww」「もっとやれよwwwwwww」

体育会系「だってよwwwwwwwオラッ!」ボキッ!

俺(中学時代)「あ”あ”ー!」

体育会系「あれ?wwww今いい音なったんじゃねwwwwww」

「いいぞwwww」「もっとやれwwwww」「ぎゃはははwwwwwww」

体育会系「おらよっwwwwww」

俺(中学時代)「うぐ…」

体育会系「あーあ、殴ってたら疲れたわーwww」

俺(中学時代)「ううっ…」

「見ろよこいつwwwうずくまって泣いてるぞwwww」「だっせぇwwww」「死ねばいいのにーwwwwww」

俺(中学時代)「ぁ…はぁ…はぁ…」

「這いつくばって歩いてるよwwwww」「みっともねぇwwwww」「気持ちわりぃーwwwwwww」

俺(中学時代)「うっ…うっ…」




娘「なんですかこれ…」

俺「…………」

娘「なんで誰も助けようとしないんですか…?」

俺「関わりたくないからだよ…」

娘「どうしてあんな事を皆平気で出来るんですか…?」

俺「楽しいからだよ…多分…」

娘「だからって、こんな事…」

俺「人に傷付けられるのは凄く辛い事だけど、自分は傷つかないで人を傷付けるのは楽しい事だから…」

俺(中学時代)「はぁ…はぁ…」 ズルズル

親友「あ…」

俺(中学時代)「た…タス・・・け…」

親友「……」

俺(中学時代)「たす…けて……」

親友「…………」

俺(中学時代)「たすけて…」

親友「…………」スタスタ

俺(中学時代)「…!?」


俺「……」

娘「泣いて…いるんですか…?」

俺「…………」

娘「友達…だったんですか…?」

俺「親友…だった…」

娘「…………」

俺「もう…帰ろうよ…」

娘「え…?」

俺「こんなの見て…なんになるんだよ…」

俺「悲しくなる、だけじゃないか…」

娘「でも…」

俺「辛くなる…だけじゃないか…」

娘「待って…ください…」

俺「帰ろうよ…」

娘「まって!」


脳内彼女「あ…」

俺(中学時代)「うぅ…うぅ…」

脳内彼女「大丈夫…?」

俺(中学時代)「うぅ…ううう…」

脳内彼女「どうしたの?どこか痛いの?」

俺(中学時代)「ぁぁ…ぅぅ…」

脳内彼女「待ってて!今すぐ保健室に連れてくから!」

俺(中学時代)「ぁ、ああ…」



俺「なに…これ…」

娘「お母さん…」

俺「俺…こんなの知らないよ…」

俺「なんだよ…これ…」

娘「お父さんがよく言ってた…自分が本当に辛い時に、お母さんが助けてくれたって…」

俺「……」

屋外

娘「お父さん、ちゃんとお母さんと出会えたね…」

俺「そう…だな…」

娘「お父さんね、あれからお母さんの事好きになるみたい…」

俺「そう…か…」

娘「信じていた親友にも見捨てられて、辛くて辛くて堪らなくてどうすればいいかわからない時に、お母さんだけは助けてくれたって…」

俺「…………」

俺「あの後さ、誰も俺の味方をしてくれなかったんだよ…」

娘「え…?」

俺「一応俺を殴りつけた奴の親が俺の家まで来て謝りに来たんだけどさ、父さんは『所詮は子供のやった事だ』って言って、全部流しちゃって」

俺「俺がもう学校なんて行きたくないって泣きながら言うと、『世の中に出たら辛い事なんてもっといっぱいある!』って、
  俺を殴った奴にもその親にも監督不届きだった教師にも怒鳴らなかったのに、俺だけには怒鳴りつけてきて…」

俺「嫌々学校に通い続けたんだけどさ、卒業するまでずっとこの事を馬鹿にされ続けて、親友とも結局絶交して、教師にも事を荒立てたくないからって無視されて…」

俺「誰かに慰めてもらいたかったのに、誰も慰めてくれないで、一人で毎晩泣いて…」

俺「あの時もし誰かが『大変だったね…』『辛かったね…』って、慰めてくれればよかったなって…
  ずっと後悔し続けて生きてきて…」

俺「何か、誰か、とにかく一つでもいいから、誰かの好意に触れたかったんだ…
  一番辛い時に支えてくれる誰かの存在が欲しかったんだ…」

娘「でも…お母さんだけはお父さんの味方をしてくれたよ」

俺「俺にはその記憶がないよ…」

娘「これから出来るんだよ」

俺「本当に…出来るのかなぁ…」

娘「行こう。次で最後だよ」

十数年前

娘「ここも…学校?」

俺「俺が通っていた高校だ…」

娘「放課後…みたいだね…」

俺「ああ…」

娘「メモには屋上に行けって書いてあるけど、鍵とか掛かってないかな?」

俺「行こう…」

屋上前

娘「鍵、開いてるね…心当たり、ある?」

俺「いや、ない…」

娘「まって、誰かいる…」



脳内彼女「どうしたの?こんな所に呼び出して。まさか愛の告白とか?」

俺(高校時代)「…………」

脳内彼女「ちゃんと言ってくれなきゃわからないよ」

俺(高校時代)「俺…その…」

脳内彼女「うん」

俺(高校時代)「ずっと、脳内彼女にお礼を言いたかった…」

脳内彼女「お礼?」

俺(高校時代)「あの時、助けてくれたお礼…」

はよ

脳内彼女「あんなの別にいいのに」

俺(高校時代)「良くないよ…」

脳内彼女「困ってる人がいたら助けるのが当然だよ」

俺(高校時代)「俺にはその当然の事すらやってくれた人が一人もいなかったんだよ…脳内彼女以外は…」

脳内彼女「…………」

俺(高校時代)「俺、多分脳内彼女がいなかったらロクな人生を歩んでなかったと思う…」

俺(高校時代)「誰も俺の事なんて構ってくれなかった、誰も俺の事を大事にしなかった…辛い時に誰も俺を慰めてくれなかった…」

俺(高校時代)「親友にも見捨てられて、教師にも親にも無視されて、自分も皆の事も大嫌いになりそうだった…」

俺(高校時代)「でも脳内彼女は違った。俺の事を慰めてくれた。大事にしてくれた…こんな俺なんかでも、優しくしてくれた…」

俺(高校時代)「だから…大好きです…」

脳内彼女「そっか…」

俺(高校時代)「俺、脳内彼女の事が大好き」

脳内彼女「うん」

俺(高校時代)「もし、脳内彼女がよかったら…付き合って欲しい…」

脳内彼女「いいよ」

俺(高校時代)「本当に…いいの?」

脳内彼女「いいよ、俺となら。あたしも嬉しい」

俺(高校時代)「俺なんかでいいの…?こんな俺なんかで本当にいいの…?」

脳内彼女「いいよ。あたしだって、俺の事が大好きだもん」

俺(高校時代)「本当に…本当にいいの…?」

脳内彼女「もう…泣かないでよ…」

俺(高校時代)「だって俺…今までずっと一人ぼっちで…ずっと寂しくって…

脳内彼女「これからは、ずっと一緒だよ」



俺「……」

娘「この日から、二人は付き合い始めるんだね…」

俺「うん…」

娘「二人は付き合って、結婚して、あたしを生んで、幸せな家庭を作るんだ…」

俺「うん…」

娘「二人とも、幸せそうだったね…」

俺「うん…」

娘「帰ろうか…」

俺「うん…」

娘「貴方の世界線はこれで完全に改変さて元あった形へと変わった。だから家に帰ったらお母さんが貴方の事を待っている筈だよ」

俺「うん…」

娘「元合った形へと改変された世界線では貴方もお母さんも死ななくて済む。生まれる前や生まれてすぐに死ぬこともない」

娘「貴方とお母さんが出会って一緒に幸せになる世界線は完全に同期されたの」

俺「なあ…俺達、ちゃんと俺の世界線でもちゃんと結ばれるかなあ…?」

娘「結ばれるよ。きっと」

娘「だって貴方は、あたしの存在も救ったんだもん」

俺「そうだったな…」

支援

現代
娘「あ…」

俺「どうした?」

娘「さっきまであんなにやつれてたのに…今はもう清潔感のある顔立ちになってる…」

俺「え?本当?」

娘「ほら」 つ鏡

俺「うわっ!誰これ!」

娘「これもきっと、世界が元の形に戻ったお蔭だよ」

俺「そうか…俺達、やり遂げたんだな…」

娘「そろそろお別れだね…」

俺「うん…」

娘「名残惜しいけど、この時代に留まってる訳にはいかないから…」

俺「お父さんとお母さんによろしくな…あと彼氏とも仲良くな…」

娘「うん。じゃあね」

娘「未来で会おうね。お父さん」

そうして娘は未来へと帰って行った

そして俺は…

俺「ただいま」

脳内彼女「おかえりなさい」

俺「脳内彼女…」

脳内彼女「どうしたの?しんみりした顏して」

俺「本当に脳内彼女なんだよな?」

脳内彼女「何言ってるの?あたり前じゃない?」

俺「妄想じゃないんだよな!?ちゃんと生きてるんだよな!?」

俺「何言ってるの。あたしはずっと俺と一緒だよ」

俺「そうだよな…そうなんだよな…」

俺「そうだよ。だから安心して」

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年08月27日 (水) 23:09:19   ID: UgGrFjBt

バ、バッドエンドだと……

2 :  SS好きの774さん   2016年05月31日 (火) 14:01:04   ID: DaASMu3R

良かったけどとりあえずいじめっ子は死ね。粉々になれ

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