ほむら「ここは……汽車の中……?」 (45)
まどか「やっと目が覚めたんだね、ほむらちゃん」
ほむら「!!まどか……?どうして……」
まどか「ほむらちゃん、ずっと眠ってたんだよ」
ほむら「ここは……」
キョロキョロ
ほむら(やっぱり……古めかしい汽車の中にいるようね)
ほむら(でも、どうして……?)
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ほむら(駄目だわ。頭にもやがかかったように、記憶が朦朧としてる……)
ほむら「乗客は……私たちだけ……?」
まどか「クラスのみんなはね、ずいぶん走ったけど追いつかなかったの」
ほむら「そう……なの」
まどか「ほら、ほむらちゃん。窓の外がきれいだよ」
ほむら「!!」
ほむら(ものすごい数の星……。いったいどこを走っているのかしら。都会の夜に、こんな……)
ほむら(!!違う……!私たち……)
ほむら(空の上を走ってる……!?)
まどか「もうすぐ、白鳥の停車場だって」
ほむら「白鳥……?」
まどか「うん。きっとほむらちゃんも、気に入ると思うよ」
ほむら(ああ、どういうことなの。確かに私は今、夜空を走る汽車の中で、まどかと話してる)
ほむら(ずっとずっと昔……)
ほむら(私がまだ子供だった頃、こんなお話を読んだことがあるような気がするわ)
ほむら(でも……それが何だったのか、どうしても思い出せない……)
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
さやか「よっ。ここ、座ってもいいかな?」
まどか「あっ、さやかちゃん」
ほむら「!!」
まどか「さやかちゃんも、汽車に乗れたんだね」
さやか「まどかより先に乗ってたっつーの。まったく」
まどか「ウェヒヒ……」
ほむら「美樹さやか、あなたまで……」
さやか「?ええと、誰だっけ……?」
ほむら「?」
まどか「ああ、私の友達で、ほむらちゃんって言うの」
ほむら(私のことを……知らない……?)
さやか「へえ、そうなんだ。よろしくね」
ほむら「……」
ほむら(……別に不思議なことでも何でもないわ)
ほむら(だって、私の友達は、この世界にまどかだけなのだから……)
まどか「ねえ、さやかちゃんはどこまで行くの?」
さやか「さあ、どこまで行こうかねえ。まどか達は?」
まどか「うーんと、私たちは……」
ほむら「……どこまでだっていいじゃない」
さやか「あはは、そりゃそうだ」
ほむら「……」
さやか「……」
まどか「……さやかちゃんってさ、いつだって、私の行くところについて来てくれるよね。ありがとう」
さやか「まあ、それが私の役目だからね」
まどか「役目?」
さやか「ううん、何でもない。それよりまどか、ほら、窓の外」
まどか「!!うわあ、きれいなお花畑……」
さやか「見たことのない鳥も飛んでるよ」
まどか「ほんとだ……!」
ほむら「……」
ほむら(本当にいつも、まどかと一緒にいるのね。美樹さやか)
ほむら(いつだってまどかは、美樹さやかのことばかり見て……私のことなんて)
ほむら(まどか……)
さやか「……どうしたの?さっきから黙り込んじゃって」
ほむら「別に……」
さやか「あれ?ひょっとして私、お邪魔虫だったかな……?」
ほむら「……」
さやか「あちゃー、図星だったかー」
さやか「……それじゃ、ま、お邪魔虫は消えるとしますか」
まどか「さやかちゃん、もう降りちゃうの?」
さやか「私には、色々やらなきゃいけないことがあるからね。大丈夫、またいつでも会えるよ」
まどか「うん、そうだね……!」
さやか「じゃあね、まどか。それと……」
さやか「……あんたともまた会えるといいな。転校生」
ほむら「!!美樹さやか、あなた……!?」
バッ
ほむら「……?」
シーン
ほむら「美樹さやか……?」
キョロキョロ
まどか「さやかちゃんなら、もうとっくに降りちゃったよ」
ほむら「そんな……」
まどか「もうずいぶんと走ったね、ほむらちゃん。私たち、今どのあたりにいるのかな」
ほむら「……」
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
まどか「ねえ、ほむらちゃん」
ほむら「……何かしら」
まどか「ほむらちゃんはどうして、この汽車に乗ってるの?」
ほむら「私が……?」
まどか「うん」
ほむら「何故って……」
ほむら「……私は、まどかのいるところなら何処へだって行くわ」
まどか「ほんとに?」
ほむら「ええ。私は、まどかと一緒にいるためなら何処へだって行けるし、どんなことだってできる」
まどか「……ありがとう、ほむらちゃん」
ほむら「……」
ほむら(……ええ、そうよ。思い出したわ)
ほむら(私は、神の理となりおおせたまどかを……再び、この手で地上に引き下ろした)
ほむら(まどかのためなら私は、何だって……たとえ、この手を汚すことになろうとも……)
まどか「私、ほんとに幸せだなって、そう思うの。だって、さやかちゃんも、ほむらちゃんも、私のためにそんな風に言ってくれて……」
ほむら「……」
まどか「……なのに、私はみんなのために何ができるんだろうって……いつも、それを考えちゃって」
ほむら「!!駄目よ、まどか!」
ガシッ
まどか「ほむらちゃん……?」
ほむら「まどか……あなたは、そんなことを考えなくてもいいの。あなたは、あなたはもう……」
まどか「ほむらちゃん……」
スッ
まどか「……だいじょうぶだよ。私、意気地なしだから……一人じゃ何もできないから」
ほむら「まどか……」
まどか「……今日だって、勝手に汽車に乗って、こんな遠くまで来ちゃって……。きっとママに叱られちゃうなって、それが心配で……」
ほむら「……」
さやか「だから心配しないで、ほむらちゃん」
ほむら「うん……」
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
ほむら(あら?どこからともなく……)
ほむら(これは、林檎の匂いだわ)
マミ「あら。ここにいたのね、鹿目さん」
杏子「ったく、ずいぶん探したんだぜ」
シャクッ
まどか「マミさん、杏子ちゃん」
マミ「ここに座ってもいいかしら」
ほむら「……」
杏子「騒がしくなっちゃってすまないね。そうだ、お近づきの印に、これ……」
スッ
杏子「食うかい?」
ほむら「……結構よ」
杏子「ふうん。美味いのにな、この林檎」
シャクッ
まどか「マミさんたちは、どこまで行くんですか?」
マミ「そうねえ。まだ、はっきりとは決めていないんだけど」
杏子「あたしはもともと気儘な一人旅だからね」
マミ「最後までは無理だと思うけれど……途中まではご一緒できると思うわ」
杏子「てなわけで、よろしくね」
ほむら「……」
ほむら(まったく……どうして、まどかと二人にさせてくれないのかしら……)
マミ「……それにしても、本当にきれいな眺めね」
杏子「あたしは景色なんかより食い物の方がいいな」
マミ「もう、佐倉さんったら……」
まどか「あっ、ほむらちゃん。見て、ほら。あそこ」
ほむら「……?」
まどか「空の真ん中に、真っ赤に燃える火が……」
ほむら「……!!」
杏子「何だ?あれ……」
マミ「あれは、蝎の火ね」
ほむら「蝎の火……?」
杏子「ああ、その話なら親父の説法で聞いたことあるぜ。昔、他の生き物をたくさん殺して食ってたサソリがいたっていう、あれだろ」
マミ「ええ。でもサソリは自分が食べられそうになった時、井戸に逃げ込んで、そこで溺れ死にそうになったの」
杏子「で、どうせ死ぬくらいなら自分の身を差し出しておけばよかったって後悔するんだろ」
シャクッ
マミ「そうね。そうしておけば、自分を食べた相手はその分長生きできたのに……ってね」
杏子「……何だかよく分かんねえ話だよな」
マミ「あら佐倉さん、あなたはそう思うの?」
杏子「どうして、自分を犠牲にしてまで誰かを長生きさせてやらなきゃなんねえのさ。最後まで自分のために生きて、自分のために死んでいけばいいだろ」
シャクッ
マミ「確かに、そういう考え方もあるわね」
まどか「……サソリはどうなったんですか?」
マミ「サソリの祈りは通じて、今もその身体は空の闇を照らすように、赤く燃え続けているのよ。それがあの、蝎の火……」
まどか「へえ……」
ほむら「……馬鹿馬鹿しい」
マミ「……?」
ほむら「佐倉杏子の言うとおりだわ。自分自身を犠牲にできなかったことを後悔するなんて、馬鹿げてる。そんなこと……」
ほむら(暗い空の片隅で孤独に燃え続ける、自己犠牲の炎……なんて、まるでまどかのことじゃないの。そんなもの、私は認めない)
マミ「……でも、この話に出てくるサソリって、どこか私たちに似ているわ。そう思わない?」
まどか「私たちに?」
マミ「ええ。だってサソリの後悔は、決して叶うはずのない願いに差し向けられた祈りのようなものよ。それは……私たち魔法少女が、叶うはずのない奇跡を願ったことと……どこか違うのかしら」
まどか「……」
ほむら「だとしても……だとしても、やはり祈りは自分自身のものであるべきよ。誰かのために自分を犠牲にするなんて、そんなの……」
杏子「……だよな。あたしは、他人のために命を投げ出すなんてごめんだね」
シャクッ
ほむら「……」
杏子「ん?あたしの顔に何かついてるか?」
ほむら「別に……」
マミ「……そうね。軽々しく誰かのために祈るなんて……おこがましいことなのかも知れないわね。でも……」
マミ「あなたもかつて、そんな祈りをその胸に抱いたことがあるのではなくて?暁美さん」
ほむら「!!巴マミ……?」
杏子「結局、あたしたちってみんな、似たもの同士なんだよ。ほむら、あんたも含めて、ね」
ゴトッ
ほむら「……!」
ゴロン……
ほむら(かじりかけの、林檎だけ……)
まどか「どうしたの、ほむらちゃん……?」
ほむら「巴マミ……それに、佐倉杏子は……?たった今まで、そこに……」
まどか「……?ずっと私たちだけだよ、ほむらちゃん」
ほむら「……」
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
ほむら「……ねえまどか」
まどか「ん?」
ほむら「私たち、ずっと一緒よね」
まどか「……急にどうしたの?ほむらちゃん」
ほむら「この汽車がどこに行こうとしているのか、私には分からないけれど……それが何処であれ、私たちはずっとずっと、どこまでも一緒に行けるのよね、まどか」
まどか「ほむらちゃん、見て。さっきの蝎の火が、もうあんなに遠く……」
ほむら「……」
まどか「ねえほむらちゃん。ほむら、って、素敵な名前だよね」
ほむら「……?」
まどか「燃え上がる炎のような……そう、ちょうど、あの蝎の火のような」
ほむら「!!」
まどか「……さっき、マミさんも言ってたよね。後悔っていうのは、決して叶うはずのない願いを願う、祈りのようなものだって……」
ほむら「まどか、あなた……?」
まどか「ほむらちゃんは、私を救えなかった後悔を祈りに変えて、その祈りでずっと今日まで、自分の身を灼がし続けて来たんだよね。私のために、あの蝎の火のように」
ほむら「あなた、全部覚えているの?全部、何もかも……?」
まどか「私、そんなほむらちゃんを見ているのは辛いよ。だってほむらちゃんは、私の最高の友達なんだよ……?」
ほむら「駄目よまどか!!あなたは、あなたはそんなことを考えなくていいの!!たとえ私がどうなろうとも、まどか、あなただけは……」
まどか「……ここでお別れだね、ほむらちゃん。私はいつだって、ほむらちゃんのことを見守っているから……」
ほむら「!!まどか!お願い、行かないで!あなたに行かれたら、私は何のために……まどか、まどか……!」
まどか「さよなら、ほむらちゃん。さよなら……」
ほむら「まどか……!!!」
パチッ
ほむら「……?」
和子「……ですから、銀河というものは地上からはぼんやりと白く見えるだけですが……」
ほむら(ここは……教室?)
ほむら(今のは全部……夢だったということかしら)
和子「……それを望遠鏡で観察すると、どのように見えるでしょうかはい暁美さん!」
ほむら「え?あ……」
和子「いけませんねえ。では鹿目さん?」
まどか「あ、はい……」
チラッ
ほむら「……」
まどか「え、と……分かりません」
和子「鹿目さんまで……。では答えを言いますと……」
ほむら「……」
―休み時間。
ほむら「あ、まどか。ちょっと話が……」
クラスメイト1「鹿目さん!今夜のお祭り、行くよね?」
まどか「……え?ああ、うん」
クラスメイト2「私たち、今から街に出て、夜まで時間潰すつもりなんだけど、鹿目さんもどう?」
クラスメイト1「行こう,鹿目さん」
まどか「う、うん」
ゾロゾロゾロ
ほむら「……」
ポツーン
ほむら(……これで、よかったのよ)
ほむら(まどかが幸せなら、私は……)
ほむら(私は、自分自身の祈りでこの身体を燃やし続けることなんて厭わない。それが誰に顧みられることのない、暗い夜空の片隅であっても……)
ほむら(その祈りが、決して許されることのない祈りであっても……)
ほむら「まどか……」
――おしまい――
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