※盛大な死ネタ盛り込み
※ベルトルトが可哀想すぎる展開
※続きそうだけれど、続かない。ぶちっと切れる
※でも一応完結している
※そして一気に完結させる
※11巻までの展開含む
エレン・イェーガー
彼の母親の死について、僕は知っている
僕が蹴り上げた門の破片が彼の家にぶつかり、倒壊した家は彼の母親の足を潰した
母親が逃げられなくなり――その場に巨人が現れ、その人を捕食
僕が知っている
その人の死に際の情報を纏めると、たったの二行
僕が奪った、何万分の一の命
「可哀想だと、思ったよ」
今、考えてみても
この言葉は、妥当だと思う
だって他に、どう思えばいいと言うのだろうか
いや、僕の感想なんていらない
僕にとって、膨大な罪の欠片でも
彼にとっては、実の母親の死だ
己の無力さを実感したエレンは、巨人への恐怖を乗り越えて
巨人に立ち向かう事を選ぶ
だから
「お前たちが苦しんで死ねるよう、努力するよ」
巨人である僕に向けられた、その言葉は
筋が通っていると思った
その時の事を、僕は思い出しながら地面に横たわる
戦った
僕は戦って、戦い続けた
僕は「超大型巨人」と名付けられた人類の敵に扮し、攻撃を加え
人類は抵抗し続けて、懸命に生きる為に僕を殺そうとした
結果、僕は多くの人類を葬った後に
もう指先の一本も動かしたく無い程に疲弊した体を、ぴったりと地面に添える事となったのだ
色んな箇所から蒸気が出て、僕の体の破損状態を伝える
その割には、蒸気の上がる量がひどく少ない――僕の体の疲弊状態が分かる
そんな僕の目の前に
エレンが破損したブレードを手に、辛うじて立っていた
顔から、頬から、腕から、足から
血が流れている彼は、憎しみを灯した瞳でこちらを睨んでいる
――あぁそんな憎々しげに見なくても、君の気持ちは分かっているよ
体同様に、砕かれた心で淡々と思った
エレンは立っている
僕は伏せている
たったそれだけで
どちらに軍配が下ったのか、わかるだろう
――僕は、死ぬのかな
霞がかった思考は、どんな展開をも受け入れてくれる
僕は今、そんな状態だ
エレンは、一方の手のブレードを杖代わりに体を支え
フラフラになりながらも……一歩一歩と、こちらの方へと体を進めてきた
ふぅ、ふぅぅ
と音を立て、吐き出される息にすら彼の感情があって
なおかつ、向けられている瞳にも殺意が籠っているので
これから僕がされる事は、容易に想像できる
――僕は、彼に惨殺される
出来るだけ惨めに
むごったらしく、バラバラに
――あぁ、これで終わりか
僕はもう、体の痛みすら感じない
頭の中にある血液が、流れすぎてしまったのだろう
あれ、でも巨人の体って肉体が再生するんだから
血も再生するはずなのに、なんでだろう
瞳全体は霞んで、体力も抜け落ちてしまったのに
無駄な思考はゆっくりと回転する
でも、何故か
エレンだけはしっかりと見えた
見えると言っても、足元だけだったり
ブレードの先がチラチラ見えると言う程度だったが
それでも彼の存在だけは、揺れる脳みその中で認識できていた
ざりっと地面を踏みしめる音が、目の前でする
僕の視界の中に、彼の足が揃った
現実味の無い風景は、まるで気が抜けた風景を見る様に無感動だったが
そんな僕が、現実に引き戻される瞬間がついにやってくる
頭の天辺を掴まれ、無造作に持ち上げられた髪の毛
僕の全体重が掛かり、頭皮が痛い
「……ぐっ」
体重が掛かり、頭が痛いのに
体重を軽減させる為、筋肉を動かそうとしているのに
僕の体は自分の意思でピクリとも動かせなかった
そんな僕の前で、エレンは僕に向けて声を放つ
「よぉ、散々皆を殺してくれたな――裏切り者」
僕を嘲笑する様に彼は笑う
今更だが、裏切り者と言う言葉が……僕の心に突き刺さる
そんな僕の髪の毛を持ち上げ、彼は自分の顔の前に運ぶと
ゆっくりと、その唇を動かし始めた
まるで、昔見た猿の人形の様だ
両手を動かして、ネジが回る限り狂った様にシンバルを叩く――あの人形
何故か、そう思った
なぁ、知っているかベルトルト
お前がさっき、最後の抵抗で手を払ったよな
そこにはさ、サシャが居たんだよ――分かるよな、お前が全員薙ぎ払った隊列だ
その時お前の足元にはさ、アルミンも居たんだぜ?
これはまだ、望みはあるけれどさ
だが見渡す限り……生きている人間が見えないんだよ、どう言う事なんだろうなこれは
あとな、三日前の巨人の攻撃
あれは効いたらしい、ジャンとコニーの班が行方不明さ
そして、なぁ……お前
ついさっき、噛み締めた物が何か知っているか?
…………ミカサだよ
すげえなおまえ、主席を倒しやがった、ははは
乾いた様に、壊れたように
回る笑い声
でも僕は、ソレに応える事は出来ない
体も動かないし、心もゆるゆると死んでいくのが分かる
――もうすぐ聞こえなくなる
そう思っていた
でもその一歩手前で
僕の体が、大分修復されていると……唐突に感じる
死ぬと思っていたけれど
もしかして生きられるギリギリのラインだったのか?
どうやら様々な感情によって、高揚した心の所為で
目測が狂っていたらしい
――生きられる、の?
降ってわいたその希望は、恐怖しか与えなかった
僕はもう、諦めたい
この命を惜しむ時間もないまま、諦めたいのに
そんな事を知ってか知らずか、エレンはもう一度笑い声をあげた
アニはまだ水晶の中、ライナーも遠くへ追っ払ってまだ戻ってこない
お前……信用していたか、仲間を
必ず戻ってくるから持ちこたえろよ、とか言ったのか?
それともライナーは、何があってもお前の所に駆けつけるとかでも言ったか?
きめぇ、きめぇよお前ら
何で友情なんか持ってんだよ、巨人は巨人らしくさぁ
知性なんて持たずに野を徘徊するのがお勧めだ
お前らはでっけぇ害虫だ、人間に楯突くだけが取り柄の――ただの癌細胞でしかない
そんなお前に、信用する家族がいると思うのか?仲間が得られると思うのか?
ざーんねんでしたぁ!今ここには誰もいませーん、あはははは
まるで演劇でも演じている様に、彼が両手を広げたので
掴まれたままの髪の毛が、ぐりんと横に移動した
その所為で
僕の体制はうつ伏せだった姿勢から、仰向けへと変わる
たった今まで、血のしみこんだ地面しか見えていなかったのに
今度は空が見えた
地面は黒いし、鉄くさいし
所々が赤黒く、汚い物だったのに
目の前に広がったのは
青々と輝いた、空
青く、ひたすらに青く
しみの一つすらもない
綺麗な青空
雲は一つもなく
その下で戦争を行っていた様には、まるで見えない綺麗な青空
こんなに人が死んだのに、こんな綺麗な空が広がっているだなんて
いささか信じられない
――あぁ綺麗だ、綺麗だ
見えた、視界に余計な物が入っていない青空に心奪われる
僕の心が、少しだけ生きる力を取り戻した
取り戻して、しまった
本当に、この世界は皮肉がお好きらしい
戦争を仕掛けた奴に
こんな綺麗な物を見せて、悲しくさせるなんて
サシャ
この空の上に、もう君はいるのかな
ねぇミカサ
君はまだ昇らずに、エレンの傍にいるのかい?
僕がついさっき、殺してしまった君達は
僕の視界に、黒髪と歪んだ瞳が入り込んでくる
底なし沼の様な、絶望の様な……訓練兵時代に人を前向きにさせていた、あの綺麗な瞳ではない
僕が壊した
僕が歪めた瞳
彼の目が、爬虫類の様にギョロギョロと
僕の顔や体……いや
喉元やうなじ、心臓があるだろう胸の奥
大切な臓器がるだろう腹部を、値踏みする様に見る
その顔が、ニタァと歪んだ
あぁ、何処を掻っ捌くか決めたのか
彼が前に言っていた言葉を、思い出す
――お前たちが苦しんで死ねるよう、努力するよ
そして過去に、刃物が体の中を勢いよく通り抜けた時の事も思い出た
あれはエレンを連れて行こうと、行動した瞬間だったな
ミカサによって、首の三分の一を切断されたのは
あの時は……
…………あぁ、だめだ
あの時の痛みを、思い浮かべてしまった
生き残れるのではと言う望みが、辛うじて得られる辺りまで再生していた僕の体は
未だに再生を続けている
もう、生き残れると思える範囲にまで
生きれるんだ
僕は生きられるんだよ、エレン
その僕を殺すの?
何処を切られて殺されるの?
それは痛い事なのに、それを他人にするの?
苦しむ様に、内臓を少しづつ破損させていくのかい
それとも顔の皮膚でもすこしづつ削ぎ落としていくつもり
あぁ、怖い怖い怖い怖い
怖いよエレン
体が回復してきた事で、僕の瞳にも光が戻ってきた事だろう
僕の恐怖や絶望を感じ取ったのか
エレンが笑った
「殺されてくれるよなベルトルト、俺たち敵なんだから」
敵同士は、殺しあう物だから
「お前は俺の、仇なんだから」
僕は殺した、たくさんの人を
ぼくはころしました、かれのははおやを
ぼくは
ぼくは、たにんのいしにそうしか、のうがない
だから、すこしでも
かれに、いいことを、してあげたい
「もう……ぼくには、つぐなう、みちしかのこってない……だろう」
声を発する度に、歯がカタカタと鳴る
無くなった歯の間から、息が変な方向に漏れた
せっかく再生したのに、震えるしか能がないなんて
僕の体って、本当に無能だ
「その言葉を聞けて、安心したよ」
そう言うと、彼は優先的に再生させたその腕を振り上げて
僕へと振り下ろした
僕の、足に向けて
まず、骨の辺りまで一気に刃が進む
それが一瞬何かにぶつかった感触がすると、勢いに任せて骨や筋肉を薙ぎ払った
“勢い”が体外に飛び出す
痛みは、最初から
刃がぷつりと、肌を破壊した瞬間から感じた
でも声が出たのは、すべてが終わってから
血が流れ、神経が外気に触れ
鈍痛と鋭痛が同時に押し寄せてきて、ひっと息を飲んだその後
「ぎゃああああああああ!!」
僕は絶叫した、口を大きく開けて
息が体中からなくなる程
開けた口の端が、伸びすぎの所為かぷつりと切れた
「あああああああ、がああああああ!!」
でも声は止まらない
痛い、痛い痛い痛い痛いよ、助けて、痛い痛い
その思考だけが頭の中を占拠する
のたうち回る、と言うのがまさにそうなのだろう
僕は自由になる腕をぶんぶん振りまわして
体制を仰向けからうつ伏せへ、うつ伏せから仰向けへ
そしてもう一度、うつ伏せになり
次いで地面を掴む様に、指を突き立てた
相変わらず、切断された足は痛い
でも声はようやく収まってきた、と思ったその傷口を……エレンはブーツで踏みつけた
「がああああああああ!!」
「これが俺の気持ちだ、ベルトルト」
僕の絶叫に、正気に戻ったのか
エレンは、ぽつりと声を漏らした
「受け取ってくれよ」
そのまま、エレンは踵を返して僕に背を向ける
そしてゆっくりと、歩を進めた
え、あれ、おかしい
その考えが、僕の涙に染まり切った瞳の奥にぽつりと揺れる
でも相変わらず、痛みの所為で声は漏れ続けていたけれど
なんで、足だけしか、切り落としていかないんだ
いたい、いたい、いたい
なんで、ぼくは、いきたい
だれか、たすけて
そばにいてえれん、たすけてよ
ぼくはいきたいんだ、たすけて
えれん
い……
「いかないで」
その声が漏れた瞬間、地鳴りが僕の体を揺らした
え、なに、これ
あぁ、そうだよね
ここは、へきがいだもんね
きょじんのひとりくらい、いるよね
ゆっくりと、巨人が僕の体に近づいてくる
そして美味しそうな餌を見つけた、とばかりににたぁと笑った
えれん
えれん、たすけて
きみならできる、たすけて
それでなければ、そばにいて
ぼくはいきたい
ぼくは………い、きた
声も、想いも
誰にも届く事なく空を切る
巨人が、もう近くに
あぁ、もう
――――駄目だ
ひっ、と喉の奥が痙攣する
恐怖する
よだれが落ちている
あぁ
餌は僕、だ
――捕食される
いやだ、いきたい、ぼくは
僕の体に、巨人の指が巻き付く
餌の事を一切考えていない力加減に、僕の体はへしゃげた
肋骨、肺、内臓
あ、そこあたり、潰れた
だって、僕の口からは、勢いよく血が出て
でも、まだ息はある
しぶといな、きょじんのからだって、やつは
うでが変な方向に痙攣する
痛い痛い痛い痛い
くわれる
絶望に染まった僕の顔は、まるで背中をそらせる様な形で持ち上げられたまま
その口の前に晒される
歯が、みえる
息がかかる
少しでも、楽しい事を考えるんだ
少しの間だけ辛抱しなきゃ
もうすぐだ、もうすぐ痛みが終わる
僕の命と共に、その歯に押し潰され……
パキッ
僕の命が終わる音は
まるで、少し硬いビスケットを割った様な音だった
………………
…………
……
…
「おーい、ベルトルト」
「ライナー、アニっ待って!」
それから
「ベルトルト、ナイフは持ったか?」
「ほら、置いて行くよ」
なんども
「もう駄目だ、これは」
「蘇生できない」
なんども
「ベルトルト」
なんども
「あぁ、死んじゃった」
僕は
――苦しい死を、迎える事になる
言霊、と言う物がある
簡単に言うと声や言葉自体に力が宿り、実現させる力
僕は、エレンの言葉によって
苦しむ死を
何度も、何度も受けてきた
転生を繰り返す度に、その言葉の効力によって
生まれる度に、苦しんで死んだ
ある日は殺人事件に巻き込まれて
ある日は身に覚えのない逆恨みで
ある日は偶発的な天災によって
ある日は難病を発症して
ある日は事故によって
ある日はある日は
あぁ、もう生まれるのが怖い
死ぬ時は、いつも……もう生まれません様に、なんて神様に祈るんだ
けれども、僕はどこかで
どこかの世界で、生き続けている
生まれないと、死なないからなのかな
「これで、47回目だよ」
今回の僕の人生は、幼少からの監禁生活だった
ストーカーに誘拐され、孕まさせられた母の元に僕が生まれ
狭い地下の部屋に、何日も何ヶ月も何年も
そして、僕は生まれた理由を奪われつくして
自由への飢餓を、最大限に感じさせられて死んだ
死んだ後は、僕はこの運命をたどる事となった物を思い出す
あるいは、生きている間にその記憶がある事もあった
僕は、僕は
もう、魂の死を迎えたいと言うのに
いったいどうすればいい
いや、方法はある
この悲運な運命を辿る呪いを、解除する方法は知っている
けれども無理だ、出来ないよ
――抗わなければ、この運命を辿るだけだと言うのに
僕は努力しようとは、どうしても思えない
無理だよエレン
君が僕を見つけたら、君は僕をきっと殺しに来る
だからこの方法を試そうだなんて思えない
――解除の方法は、エレン・イェーガーの魂に懺悔し許される事
君に許されるなんて事、僕は信じられない
そんな事は出来ないんだ、無理なんだ
僕は
でも、だって
弱虫で、僕は
がくん、と体が引っ張られる
――魂とは、地球をめぐる水の様だ
本人の意思とは関係なく
姿を変え、世界をめぐる
あぁ、僕は、また
嫌な運命を……
おぎゃー、おぎゃあ
「元気なお子様ですよ」
また死んだ
死んでしまった
あぁ、48回目の悲惨な人生
今度はヤンデレなストーカーによって、知らない因縁によって刺された
まさかのストーカー連続二案件
――家族は大丈夫かな、家族も巻き込ませてしまっていたけれど
あ、またひっぱられ……
(……あれ)
ふとした瞬間に、僕は思いだした
僕は辛い死を受け続けている、事実を
――でも、なんでこんな日に……いや、こんな日が何であるの?
ここは結婚式の会場だ
綺麗に着飾った花嫁さんは……僕のお嫁さん
僕は
人並みの、幸せな人生を送っていた
あぁ、でも駄目だ
言霊は絶対だ
きっと僕は、この生活を壊してしまう
僕はこの人を不幸にしてしまう
幸せにする、なんて言ったのに
「え、どうしたの」
「ごめん」
席を立つ、駆け抜ける
幸いにも式はまだ始まっていない、籍もまだ入れていない
僕は堅実に貯蓄もしていたので、賠償などの足しにでもして貰えるだろう
走らなきゃ、走らなきゃ
僕の酷い「死」が、僕を捕まえるまでに
それまでに
「なぁ」
走り抜けていた途中、誰かに擦れ違い
その誰かに声を掛けられた
「死にたいのか?」
その言葉に惹かれ、僕の足はピタリと止まる
その人をじっと見返してみると、その人もジッと僕を見つめていた
「死にたいのか?」
「そうだけど」
再度、聞かれて僕はゆっくりと返答をする
――なんで分かったのだろう、なんで理解できたのだろう
唐突に、掛けられるはずの無い言葉を掛けられた
僕の奥を、見透かした様な言葉
彼は、ゆっくりと踵を返しながら
こっちに来い、とだけ呟いた
――誰だろう
体格はいいけれど、普通のサラリーマンの様に見える
僕は彼を観察しながら、ゆっくりと彼の後を追った
大きめの背広をピシッと来たその人は、裏路地を進んで行く
その途中で、この沈黙の間を埋める様に話し始める
「驚いたぞ。俺は取引先に勤めている、あんたの結婚式場に向かっていた所だったんだ」
取引先、だったのか
僕は「せっかく来てくれたのに、申し訳ありません」と言おうとしたが
申し訳なくさそうな「あぁ」と間の抜けた相槌しか漏らせなかった
「でも、あなたは見た事が無かったと思うのですが」
「まぁお前と良く会っていたのは俺の親父だ、かなりよぼよぼだからな――代わりに俺が来た」
そうだったのか
と返した時だった、前を歩く彼の足がピタリと止まる
僕の足も、ピタリと止まった
彼は――ゆっくりと視線を下に向けて、そこに無造作に置いてあった木箱を見降ろす
僕もそちらに視線を向けると
彼は無造作に、その木箱の蓋を蹴り飛ばした
蓋は勢いよく飛んでいき、壁にぶつかって大きな音を立てる
中に、入っていたのは
ロープ、アイスピック、包丁
睡眠薬、それに――拳銃
それらが無造作に詰め込まれていた
僕の目が、大きく見開かれる
その僕にを目の前に、彼はゆっくりとその木箱の中に手を突っ込んだ
びくり、と僕の体が動く
「どれがいい、絞殺か、銃殺か?それとも手を切り落として、失血死でもするか?あぁ――その前に」
自殺と他殺、どっちがいい?
普段使わない、そんな単語が僕の前に羅列する
そんな事を言われても、急には理解が出来なかった
「あなたは……殺し屋か何かですか?」
「いや?俺はな――ただのしがない、自殺志願者だ」
自殺、志願者
その単語が、僕の脳裏に浮かんだ
同時に、出会ったばかりの僕に
そんな事を言う彼が、信じられないと思った
まだ、その筋の人と言われた方が信憑性がある
「俺の今回の人生はほぼ決まりだな、お前を殺して俺は捕縛される」
「え?」
貴方が、僕を殺す?
「本当は――結婚式会場に乗り込んでお前を殺し、大量殺人犯になるのもいいかと思っていたが」
運命ってのは分からないな
と呟く彼
分からないのは、君の方だよ
「なんで」
「少しでも幸せを感じる死が、必要なんだ」
お前には、そう言って彼は、僕にアイスピックを手渡した
そして
「お前の好きなタイミングでいい、俺の心臓はここだ。ひと思いに頼む」
胸に、そのアイスピックの先をピタリと合わせて呟いく
その位置は、彼の言うとおり
心臓があるであろう、場所で
途端、その行動の意味が分かり
僕の手がガタガタと動き出す――のに、彼の会わせた照準は全然動かさせてくれない
「な、んで」
付いて出たのは、疑問
その疑問に、彼は疑問で返す
先程と同じ質問で
「――お前は、死にたいか?」
彼の眼が、僕を捉えた
恐怖を絡め取り
行動を制限させる様な、威圧感のある瞳
その瞳で、じっと僕を見つめると
呆れた様に息を吐きだしてから、拳銃へと手を伸ばした
「お前、死のうとしていたんだろ――なんだ、今までの死でも思いだしたのか?」
なんで分かるの
声は、声にすらならなかったが……理解して貰えたらしい
彼はふっと笑うと「わかるさ」と呟いた
「相変わらずだな、ベルトルト。まだお前は自分で決断できないのか?」
そう言いながら、もう隠す必要は無い
と言う様に
満面の笑顔でこちらへと顔を向けた
あぁその顔
その表情
思いだした
「俺もな、一緒のくだらない輪廻を繰り返してきた。この輪廻はまだ続くだろう――そこで仮説を立ててみたんだ」
どんな運命にも、正面から取り組むその姿勢
それが弱さでもあるし、彼の強さでもある
変わらない、彼らしさを前に
僕は嬉しさを、あまりにも感じすぎて
だからこそ、悲しくなる
「一度でもいい、僅かでもいい――幸せな死を迎えようベルトルト。そうしたら俺たちは、言霊の効果では無い死を得る事になる」
そこから少しでも、運命が歪むかもしれない
だがこれは、仮定ですらない
言うならば思いつきだ
「俺は運命を変える機会を、待っていたんだ」
でも、希望があるのなら
さぁ
「もう一度言う、お前のタイミングで良い。俺を殺せ。俺はどんな痛みにも耐えて、お前を一撃で殺してやる」
「ラ、ぃナー」
涙で、視界が良く見えない
また手が震える
でも
そうだ
僕は一人じゃ無かった、彼もまた僕と同じ――
「あ、あぁああぁあああ!」
ぐさりと、不快な弾力が僕の手に伝わる
倒れゆく彼の顔が、ちらりと見えた――その瞳は笑っていた
「また……あおぅ」
ガウン!
僕の今回の人生は、ここまでだ
今回の人生は
僕はライナーに出会えた、と言う「一人では無かった」と言う幸せの中で死んだ
エレンの「苦しんで死ね」とは違う死だ
ねぇエレン、僕は少しだけ君の言霊から外れたよ
これから、どんな人生が待っているのかな
僕は初めて
この暗い呪いの中に、希望を見る事が出来た
49回目の人生は終わった
次の、記念すべき50回目の人生はどうだろう
ベルトルト「君の願いが、叶ったよ……エレン」【終】
エレンの「お前達が苦しんで死ねるように……」のくだりで思いついた
カルラさんの苦しい死に方を、味あわせる為に頑張ったエレンの話
からの、輪廻転生の業に苦しむベルトルトの話
簡潔に書いているので、おかしい部分があっても気にしないで下さい
乙
アルミンとミカサがやられたらエレンさんは執念深そう
輪廻して苦しみ続けるってかなりきついな。
エレンにとっては憎い敵だが、報われて欲しいと思ってしまった。
乙、面白かった
G・E・Rみたいだな
怖い
乙よかった。
何となく文体に見覚えがある気がするんだが、他に何か書いてる?
>>46 元に戻れないくらいに、敵に執着しそうですね
>>47 50回も転生させておいてなんですが、かなりきついかと
>>48 G……?後半部分は天使禁漁区からヒントを貰いました
>>49 乙をありがとうございます!作品は下に書きますね
しがない文字書きなので
見覚えあるんだったら、それは他の人の可能性が大じゃないかと思う
書き散らしているので、とりあえず完結しているの書いていきます
上が新たに完結した物
○ベルトルト「君の願いが、叶ったよ……エレン」
○「ベルトルトとユミルの……」
○ライナー「俺はクリスタと結婚したい」
○ベルトルト「いっただっきまーす」
○エレン「俺はユミルが好き」
○ユミル「ミドルなライナー」
○エレン「短編を」ライナー「三編」ベルトルト「纏めて載せるよ」
○リヴァイ「大人しくしろ」ユミル「嫌だぁ!離せよ!!」
○ユミル「は?人が二人に分裂する薬……?」
見てくれていた作品があったら、PCの前で喜ぶ
!!
上げてしまっている、ごめんなさい
…えーと、全部読みました。でもってどれも保存済みだったりする自分がいます…
ガウンが銃声なのはわかるけどなんか負けたwww
解脱は無理そうな感じが良かった。乙!
このSSまとめへのコメント
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