岡部「紅莉栖!」千早「はい?」(963)

岡部(β世界線に行けば、まゆりは助かるが紅莉栖が死ぬ)

岡部(α世界線に残れば、紅莉栖は助かるがまゆりが死ぬ)

岡部(どちらかを選ぶなんて、出来るわけないじゃないか)

岡部(…………)

岡部(なんで、こんなことになってしまったんだろうな)

紅莉栖「どちらも救うなんて無理なのよ。だから、まゆりを助けてあげて」

岡部「だがそれではお前が!」

紅莉栖「アンタ、今まで何のために頑張ってきたか分かってるの? まゆりを助けるためでしょーが」

岡部「それは分かっている! だがそのためにお前を犠牲になど出来るはずがないだろう!」

紅莉栖「じゃあまゆりが死んでもいいって言うわけ?」

岡部「そんなことは言っていない!」

紅莉栖「言ってるじゃない!」

紅莉栖「そもそもDメールを送ったりしなければ、私はとっくに死んでいるのよ」

紅莉栖「でも岡部のおかげで死なずにすんで、ラボに誘われて……」

紅莉栖「悪くなかったわ、この二週間。岡部にはすごく感謝してる」

岡部「紅莉栖……」

紅莉栖「私はもう十分幸せだから。だから、まゆりを助けてあげなさい」

岡部「……それしか、ないのか」

紅莉栖「えぇ。まゆりを助ける方法は、それしかないのよ」

岡部「クソッ……なんで俺は、電話レンジ(仮)やタイムマシンなんか作ってしまったんだ!」

紅莉栖「ちょっと……タイムマシンがなかったら、私は7月28日に死んで終わりだったんだけど?」

岡部「そ、そうだったな。すまない」

紅莉栖「ていうか作ったのはアンタじゃなくて私と橋田だし」

岡部「細けぇことは(ry」

岡部(十分幸せ? そんなわけないだろ!)

岡部(紅莉栖はまだ18歳。もっともっと、これから先にいくらでも楽しいことがあるだろうに)

岡部(タイムマシンなど作らなければよかった……)

岡部(って過去を悔やんでも何にもならないだろう)

岡部(考えろ、考えるんだ岡部倫太郎! 何か……何か抜け道があるはずだ!)

岡部(…………)

岡部(ん……待てよ?)

岡部「紅莉栖が科学者じゃなかったらどうなってたんだろうな」

紅莉栖「私が科学者じゃなかったら? いきなり何を言い出すのよ岡部ってば」

岡部「もしかしたら、SERNのタイムマシン研究は完成しないのではないだろうか……と思ってたな」

紅莉栖「はぁ? いや……待てよ」

紅莉栖「えっと、私って未来ではタイムマシンの母って呼ばれてたんだっけ?」

岡部「そうだ……どうやら、気づいたようだな」

紅莉栖「Dメールが察知されたから、SERNによるディストピアが作られた……岡部はそう思っていた」

紅莉栖「でもDメールが直接的な問題なのではなく、Dメールによって変化した世界線で、私が生き残っているという事が問題」

紅莉栖「私がSERNに拉致され、研究に協力させられたせいで……タイムマシンが完成し、ディストピアとなってしまった。そう言いたいわけ?」

岡部「その通りだ。もし実際にそうだとしたら、紅莉栖が死ぬことなくα世界線から抜け出せるかもしれん」

紅莉栖「そこで、私が科学者じゃなかったら……ということね」

岡部「そうだ。だがもしうまく行ったとしても、今のお前とはまったくの別人になってしまうだろう」

紅莉栖「そうね。私にとっての研究は、人生そのものと言っても過言じゃないし」

岡部「それでも俺は、お前に生きていて欲しいんだ……紅莉栖」

紅莉栖「…………」

紅莉栖「分かったわ。その可能性に、かけてみましょう」

岡部「すまない、紅莉栖」

紅莉栖「何で謝るのよ。死なずに済むかもしれないっていうのに」

紅莉栖「それに……科学者じゃない私っていうのも、ちょっと面白いかもね」

岡部「そうだな。例えば……この鳳凰院凶真の第二の弟子になる、とかよさそうだ」

紅莉栖「お断りします。もっと女の子ウケしそうなもの考えなさいよね、まったく」

岡部「ふむ、女の子ウケするものか……では、アイドルなんてどうだ?」

紅莉栖「はぁ?」

岡部「前にカラオケ行った時、紅莉栖の歌は素晴らしかったしな」

岡部「特にあれだ。約束のパラダイムとかいう曲はなんというか、紅莉栖によく似合っていたぞ」

紅莉栖「そ、そう?」

岡部「あぁ。もし紅莉栖がアイドルになったら、俺は全力で応援するぞ!」

紅莉栖「もう、おだてないでよね!」

岡部「おだててなどいないさ。さては褒められて恥ずかしいのだろう?」

紅莉栖「そ、そんなんじゃないんだからな!」

岡部「というわけで幼い頃の助手にアイドルを目指すというメールを送るか」

紅莉栖「おい、勝手に話をすすめるな」

岡部「ダメだったか? 紅莉栖のアイドル姿は楽しみなんだがな、わりと本気で」

紅莉栖「次にふざけたこと言ったら、開頭して海馬に電極ぶっ刺してやるから」

岡部「おぉ、こわいこわい……で、どんなメールを送るんだ。あと一つ気になることがあってだな……紅莉栖は、何歳からケータイを持っているんだ?」

紅莉栖「物心ついた時には持ってたわね。ま、時間の設定は私がやるから気にしないで」

岡部「物心ついた時には持ってたとか……さすがセレブセブンティーンッ!」

紅莉栖「セレセブ言うな! うーん、メールの内容はどうしようかな……」

数時間後――

岡部(結構な時間が経ってるな。まぁ無理も無いんだが、もう夜だ。ホテルに返した方がいいかもしれん)

岡部「なぁ、そろそろ……」

紅莉栖「決めた!」

岡部「っとと……決まったのか」

紅莉栖「それじゃ、岡部のケータイ貸して。Dメール送るから」

岡部「内容は?」

紅莉栖「秘密」

岡部「待て待て待て。どんな人間になるか分からなければ、変動後の世界線で紅莉栖の生存を確かめづらいではないか」

紅莉栖「大丈夫だって。今時、ググれば何でも出てくるでしょ」

岡部「それはお前が目指すものによるだろう」

紅莉栖「大丈夫。名前でググればヒットするたぐいのものだから。まぁ名前が売れてればの話だけどね」

紅莉栖「それじゃ、タイマーをセットするわ」

岡部「今からやるのか? ならばまゆりやダルも呼ばねば……」

紅莉栖「それは駄目」

岡部「なぜだ。今の紅莉栖がみんなに会えるのは、もうこれが最後なのかもしれないんだぞ」

紅莉栖「会ったら、決意が鈍っちゃうかもしれないでしょ」

紅莉栖「それに……成功したとしたら、この世界線はなかったことになる」

岡部「それはそうだが……」

紅莉栖「岡部。目、閉じて」

岡部「? なぜだ」

紅莉栖「いいから、早く閉じて」

岡部「……いいだろう」

岡部(な、なんだ? 紅莉栖は一体何をするつも……っ!?)

岡部(唇に柔らかいものが触れてる。ま、まさか紅莉栖の唇!?)

紅莉栖「……ぷはぁ」

岡部「なっ、ななななにをするんだいきなり……っ!」

紅莉栖「より強烈な感情と共に海馬に記銘されたエピソード記憶は、忘却されにくいのよ」

紅莉栖「童貞な岡部にとってはこれがファーストキスであって、ファーストキスについて精緻化リハーサルがされるはずで……」

岡部「残念だったな。ファーストキスではないぞ」

紅莉栖「なっ、何ですって! おのれ、HENTAI童貞のくせに……!」

岡部「誰がHENTAI童貞だ……ともかくファーストキスではないから、すぐに忘れてしまうかも知れない」

紅莉栖「え……」

岡部「だから、もう一度だ」

紅莉栖「ちょ、顔が近……あんっ!」

岡部「……ふぅ」

紅莉栖「はぁ、はぁ……舌まで入れるなんて、やっぱりHENTAIじゃない」

岡部「顔が真っ赤で可愛いぞ、紅莉栖」

紅莉栖「くっ、覚えてなさいよ……」

岡部「あぁ、絶対に忘れない。ずっと覚えている」

紅莉栖「……ありがと」

岡部「放電現象、始まったぞ!」

紅莉栖「分かった。それじゃ……メール、送るわよ」

岡部「あぁ……」

紅莉栖「送信」

岡部(目の前の光景が歪み、崩れ去っていく)

岡部(そして何もかもがなくなったと思えば、次の瞬間にはまばゆい閃光)

岡部(その眩しさも徐々に薄れ、目の前にあるのは……いつものラボの風景だった)

岡部「リーディング・シュタイナー……」

岡部「紅莉栖はどうなったんだろうか……ググってみよう」

岡部「牧瀬紅莉栖……っと」カチッ

岡部「どうやら科学者である牧瀬紅莉栖はいないみたいだな」

岡部「しかし、今の紅莉栖がどうなってるかが分かりそうなものが見当たらない」

岡部「まさか、消えたりしてないよな……?」

岡部「ってまだこちらの世界線に来たばかりだろう。早合点しすぎだ!」

岡部「しかしどうやって調べればいいのだろう……興信所にでも相談に行ってみるか?」

ダル「オカリン、少し静かにしてくれよ。今いい所なんだからさ」

岡部「いい所……ってなんだこれは」

ダル「ちーちゃんのライブDVDだお」

岡部「ちーちゃん?」

ダル「今微妙にブームになってる、765プロの如月千早ちゃんだお」

岡部「待てよ? この声は……紅莉栖っ!?」

ダル「なんだ、オカリン詳しいじゃん! 下の名前はクリスっていう噂があるのだぜ」

ダル「まさかオカリンがドルオタだったとはねぇ……」

岡部「ダルよ、紅莉栖……ではなく如月千早に一目会いたいんだが、どうすればいいんだ?」

ダル「んーっと……次のライブは秋にやるはずだお」

岡部「秋か……」

ダル「ま、気長に待とうぜ」

岡部「そうだな」

岡部(声が紅莉栖そのまんまである上に、本名が紅莉栖という噂……そして何より、こんなアイドルは元の世界で聞いたことがない)

岡部(間違いないとは思うが、念のために一度会ってみたい所だな)

岡部(とりあえず今日は、ダルと一緒にライブDVDを鑑賞するとしよう)

ttp://www.youtube.com/watch?v=NKZc4iSeTIE

千早『蒼い鳥……自由と孤独、ふたつの翼で』

千早『あの天空(そら)へ、私は飛ぶ。はるかな夢へと』

千早『この翼、もがれては……生きて行けない私だから――』

ダル「やっぱ蒼い鳥はいいっすなー」

岡部「うっ、ううっ……」

ダル「オカリンマジ泣きっすか。ま、気持ちは分かるけど」

ダル「今までは超マイナーだった765プロだけど、最近人気が出てきてるっていう」

ダル「このライブDVDはちーちゃん初めてのソロライブなのだぜ」

ダル「でも急に忙しくなったせいで、765プロは人手不足らしい。今までは弱小事務所だったからなぁ」

岡部(蒼い鳥……もし幸せ、近くにあっても)

岡部(あの空へ、私は飛ぶ。未来を信じて)

岡部(あなたを、忘れない……でも、昨日には帰れない――)

岡部(この歌、まるで紅莉栖そのものを歌ってるかのような歌じゃないか!)

岡部(これも、運命石の扉の選択なのか?)

数時間後――

ダル「んじゃ、そろそろ帰るお。乙」

岡部「待ってくれダル!」

ダル「何?」

岡部「頼む、そのDVDを貸してくれ!」

ダル「顔が必死すぎだろ……ま、いいけどさ。はい」

岡部「ありがとう! さすが我が右腕(マイフェイバリットライトアーム)にしてスーパーハカーッ!」

ダル「はいはい、それ長すぎだから。あとハカーじゃなくてハッカーでよろ」

ダル「あ、もし別の曲や聞きたくなったら、PCの中に入ってるからー」

ダル「あと765プロが全員でやってるライブの動画とかもあるから」

岡部「おぉ……何から何まですまんな」

岡部(よし、まずは765プロ全員のライブDVDを見るぞ!)

三日後――

ダル「なぁまゆ氏、オカリンヤバくね?」

まゆり「うん……そろそろ、止めた方がいいかも。三日も休まずに聞き続けるなんて……」

ダル「さすがオカリン! おれたちにできない事を平然とやってのけるッ! そこにシビれる! あこがれるゥ!」

まゆり「オカリン。ねぇ、オカリン……? そろそろ、お家に帰って休んだほうがいいと思うのです」

ダル「まゆ氏に同意。顔色がかなりヤバいぞ。ほら、ヘッドホン取るぞ」

岡部「あ、待て! 今スタ→トスタ→を……クソッ、ギターソロカモンを聞きそこねたではないか!」

岡部「いや、聞こえる……聞こえるぞ! 今、紅莉栖がギターソロカモンって言ったのがばっちり聞こえたぞ!」

ダル「オカリン、あなた疲れてるのよ……」

>>37
だから疲れてるんだろ

岡部(ラボから追い出されてしまった……)

岡部(フッ、だがこれぐらいで俺と紅莉栖の絆を引き裂けると思うなよ?

岡部(クックックッ……自分の金でCDやDVDを買えばいいだけの話ではないか!)

岡部(さて、財布をチェックするとしよう……)

岡部(…………)

岡部(72円しかないぞ……これでは100円レンタルすら利用できん!)

岡部「ん? 電話……ダルか。ふん、無視してくれる! さっきヘッドホンを無理やり外したことへの復讐だ」

岡部(……電話?)

岡部(そうだ、電話があるではないか! 紅莉栖の生存を確認する方法!)

岡部(紅莉栖の携帯番号が変わってなければいいが……頼むぞ)ピッポッパ

岡部「…………」

千早『あの、どちら様ですか?』

岡部「その声は……紅莉栖!」

千早『な、なぜ私の本名を!? あなたは一体……』

岡部「よかった、本当によかった……!」

千早『ちょっと、聞いてますか?』

岡部「す、すまない。牧瀬紅莉栖が生きているという事を確認できて……つい取り乱してしまった」

岡部「愛してるぞクリスティーナッ!」

千早『ひぃっ! あなた、ストーカーか何かですか? もう絶対に電話しないでください!』ガチャ

岡部「…………」

岡部「やってしまったあああああああああああっ!」

岡部「あっちからしたら俺のことなんて知るわけないじゃないか」

岡部「なのに、俺はなぜ告白などしてしまったのだ」

岡部「ダメ元で、もう一度かけてみるか……」

『この電話はお客様のご要望によりおつなぎできません』

岡部「着信拒否されてる……もうおしまいだ」

岡部「もう、自宅に戻って寝るとしよ……うっ!?」

岡部「な、なんだ? 身体に力が、入らない……」

岡部(そうか。三日三晩何も食わずに過ごしてたから、腹が減って……)

岡部(こ、このままでは餓死しそうだ)

フェイリス「あれ、キョーマ?」

岡部「フェイリス!」

フェイリス「どうしたのニャ、キョーマ! 顔が真っ青ニャ!」

岡部「は、腹が減って死にそうなんだ……」

フェイリス「仕方ないニャあ……メイクイーンで何か食べさせてあげるニャ」

岡部「す、すまん……」

鈴羽「この水瀬伊織って子、なんか気になるんだよねー」
ダル「それ以上いけない」

――メイクイーン+ニャン2

岡部「ふぅ……生き返った! 助かったぞフェイリス」

フェイリス「どういたしましてニャ。でもキョーマ……72円しか持ってないっていうのはちょっとどうかと思うニャ」

岡部「まったくだ……。次のバイト代が入ったら、すぐに返すよ」

フェイリス「ひとつ聞きたいことがあるんだけど、いいかニャ?」

岡部「いいぞ。なんせフェイリスは命の恩人だからな」

フェイリス「ニャッニャッニャッ……汝の命の代償として、その身に起きた悲劇の結末(カタストロフィ)を我に教えるがいいニャ」

岡部「なっ、なんだと!? キサマ、それを知ってどうする……?」

フェイリス「決まっているニャ。世界を、世界を再結合(リユニオン)するのニャ!」

岡部「な、何ということだ! クッ、まんまとはめられてしまったぞ……」

フェイリス「まぁそれは置いておいて……キョーマ、何か悩みがあるニャ?」

岡部「い、いや……俺の悩みである空腹はおさまったぞ」

フェイリス「フェイリスの前で、隠し事が出来るとでも思ってるのかニャ?」

岡部「クッ、チェシャ猫の微笑(チェシャー・ブレイク)……相手の心のすべてを見通す能力(ちから)!」

フェイリス「その通りニャ♪」

岡部「実はだな、牧瀬……ではなく、如月千早という人物に出会いたいのだ」

フェイリス「キョーマの口からアイドルの名前が出るとは意外だニャ」

フェイリス「何で会いたいのかニャ?」

岡部「それは……」

岡部(何で、だろう?)

岡部(この世界において、俺と紅莉栖にはなんら接点がない)

岡部(先ほどの電話で相手にはかなり嫌われてしまっただろう)

岡部(それに、如月千早イコール牧瀬紅莉栖というのは確認がとれた)

岡部(もう、紅莉栖と会う理由なんてないんじゃ……)

岡部(…………)

岡部(でも、それでも……)

岡部「会いたいから、っていうのは理由にならないか?」

フェイリス「ニャニャッ!?」

岡部「会った後のことは、それから考える」

岡部「今は会いたいっていう気持ちが先行してて……何をしたいかなんて分からない」

フェイリス「キョーマがそんな情熱的な台詞を口にするとは……驚きニャ」

岡部「自分でも柄じゃないと思ってるさ」

フェイリス「バイトが終わったら電話するから、それまで適当に時間潰しててくれるかニャ?」

岡部「電話……? 一体どういうことだ」

フェイリス「どこで機関の連中が聞いてるか分からないニャ……チヒャーのことは軍事機密なのニャ」

岡部(チヒャー? 千早のことか? フェイリスは何かしらの情報を持っているということか)

岡部「分かった。フェイリスに無限の感謝を」

数時間後――

岡部「電話……フェイリスか!」

フェイリス『おまたせしたニャ、キョーマ。今から言う住所の場所に来て欲しいニャ』

岡部「……分かった」

岡部(フェイリスの自宅だな)

フェイリス「じゃーん、ここがフェイリスのお家だニャ!」

岡部「あぁ」

フェイリス「あれ?」

岡部(いかん! もう少し派手なリアクションを取らねば!)

岡部「な、なんて豪華な家なんだー!(棒)」

フェイリス「じーっ……キョーマ、全然驚いてないニャ」

岡部「何を言っているのだ! おどきだぞー」

フェイリス「もしかしてキョーマ、フェイリスの家を知っていたのかニャ?」

岡部「…………」

フェイリス「じーっ」

岡部「すまん、その通りだ……」

フェイリス「ダルニャンですら知らないというのに。ま、まさかキョーマはフェイリスのことを愛し……」

岡部「それはない」

フェイリス「ニャッ! 言い切るなんてひどいニャ!」

フェイリス「チヒャーの情報教えてあげようと思ったのに……やめちゃおうかニャ」

岡部「な、なんだと!? それは困る! 何でもするから、機嫌を治してくれ……」

フェイリス「はぁ……キョーマは本当にチヒャーに会いたくてしょうがないんだニャ」

岡部「あぁ」

フェイリス「ねぇキョーマ……何で、チヒャーの本名を知っているのかニャ?」

岡部「それは……ってちょっと待て。そんな事を聞くということは、フェイリスも如月千早の本名を知ってることか?」

フェイリス「ニャニャッ、そこに気づくとは……さすがキョーマだニャ」

フェイリス「実はフェイリスのパパとチヒャーのパパは、お知り合いなんだニャ」

岡部「なるほどな」

岡部(フェイリスの父親は秋葉原の地主……芸能界とつながりがあってもおかしくはない)

フェイリス「それで、なんでキョーマはチヒャーの本名を?」

岡部「言わなければ、駄目なのか?」

フェイリス「ダメニャ」

岡部(フェイリスに嘘は通用しない……話すしかないか。フェイリスなら秘密も守ってくれるだろう)

岡部「分かった。すべてを話そう……」


フェイリス「……そんなこと、が」

岡部「あぁ。お前なら俺が嘘をついてないことが分かるだろう」

フェイリス「この世界線では、マユシィは死なずに済むのかニャ?」

岡部「まだ分からない。明後日になってみなくては……」

フェイリス「明後日になってもマユシィが生き残っていれば、世界線の収束を突破できたということになるのかニャ?」

岡部「そうだ。今までは明日には死んでしまっていたからな」

フェイリス「分かったニャ。フェイリスの方でも注意して見ておくニャ」

岡部「頼む」

フェイリス「チヒャーについての情報は……明日メール送ればいいかニャ? 正直、キョーマの話で頭がパンクしそうなのニャ」

岡部「分かった。それじゃ、頼んだぞ」

フェイリス「バイバイニャー」

フェイリス「…………」

フェイリス「まさか、こんな重い話になるニャんて……」

フェイリス「ごめんね、千早」

次の日――コミマ会場

岡部「さすがコミマ、とんでもない人の数だ。酔いそう……」

ダル「ダメだなぁオカリン。この程度余裕だろ常考」

岡部「キサマのような猛者とは違うのだ」

まゆり「まゆしぃはオカリンがコミマに来てくれて、とっても嬉しいのです♪」

岡部「そうなのか?」

まゆり「うん♪ オカリンはどこか行きたいサークルでもあるの?」

岡部「そういうわけではないが……」

ダル「目的もないのに来たん? ものぐさなオカリンがねぇ……珍しい」

岡部(まゆりの傍にいてやりたいなんて、さすがに言えないな)

まゆり「予定がないなら、まゆしぃと一緒にコスプレしようよー」

ダル「あ、それ面白そう」

岡部「なっ、何を言っているのだまゆり、そしてダルよ!」

岡部「この狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真は人目についてはならんのだ!」

まゆり「えぇー、まゆしぃは鳳凰院何とかさんじゃなくて、オカリンにお願いしてるんだよぉ」

岡部「だから俺はオカリンなどではなく鳳凰院……」

まゆり「オカリン」

岡部「俺は……」

まゆり「お願い、オカリン」

岡部「…………」

岡部「今日だけだからな!」

まゆり「ありがと、オカリン♪」

ダル「これは尻に敷かれるな……」

数時間後――

岡部「ようやく地獄から解放された! もう二度とコスプレなんてしないからな!」

まゆり「えぇー。執事服のオカリン、大人気だったのに!」

ダル「次回はダンボールにGUNDAMって書いたコスプレキボンヌ」

岡部「意味が分からん!」

まゆり「ダルくん……まゆしぃの目が黒い内は、オカリンにそんなコスプレさせないよ?」

ダル「すんませんっした!」

岡部(一瞬、まゆりの目がヤバイ感じになったぞ……怖すぎる)

ダル「あ、僕は今日知り合いのサークルさんと飲み会行くから。それじゃ、乙ー」

まゆり「お疲れ様ー」

岡部「お疲れー」

まゆり「それじゃ、帰ろっか」

岡部「なぁまゆり」

まゆり「んー?」

岡部「まゆりは今から用事とかあるのか?」

まゆり「特にないかなー」

岡部「それじゃ……今日はラボに泊まっていかないか?」

まゆり「え?」

岡部「あっ、そのだな……別に変な意味ではなく」

まゆり「分かってるよ。オカリンは、まゆしぃのことが心配なんだね?」

岡部「ふ……まゆりは何でもお見通しなんだな」

まゆり「今日のオカリン、ずーっとまゆしぃの事見てたからねぇ」

岡部「そんなに見てたのか」

まゆり「うん。それじゃ、お言葉に甘えて……今日はラボにお泊りしようかな」

岡部「すまないな」

――ラボ

まゆり「オカリンと二人っきりのお泊まり会かぁ、なんだかドキドキしちゃうかも」

岡部「ドッ、ドキドキ!?」

まゆり「あはは、顔真っ赤だよオカリン。一体どんなこと考えてたのかなー?」

岡部「お、俺は別にやらしいことなど考えていない!」

まゆり「まゆしぃはいやらしいこと、なんて一言も言ってないよ?」

岡部「ぐぬぬ……まゆりよ、今日は随分と反抗的ではないか」

まゆり「そんなことないよー? そろそろ、寝よっか?」

岡部「そうだな、今日は疲れただろう。おやすみ……」

まゆり「オカリンは寝ないの?」

岡部「まゆりの寝顔を見てから寝るさ」

まゆり「えぇ、まゆしぃの寝顔見るの? 何だか恥ずかしいなぁ」

岡部「写真でも撮っておくかな」

まゆり「オカリーン? そんなことしちゃダメなのですっ」

岡部「冗談さ、冗談」

まゆり「もう……それじゃ、おやすみなさい」

岡部(8月18日、午前0時……まゆりは死ななかった)

岡部(俺は、世界線の収束に打ち勝つことができたのか)

岡部(まゆりも紅莉栖も死なずに済んだ)

岡部(……少し、疲れたな)

岡部(長い間、ずっと気を張り続けてきたからだろう)

岡部(だがそれも、ようやく終わりだ)

岡部(そろそろ、眠りにつくとしよう)





岡部「ふわぁ……よく寝た」

岡部「あれ、まゆり……?」

岡部「まゆり!? おい、どこだまゆり!」

岡部(ま、まさか誰かに連れ去られた!?)

岡部(そんな、そんなことって……!)

岡部「クソッ! 今から追えば間に合うかもしれん……」ガチャ

岡部「あいてっ!」

まゆり「きゃっ!」

岡部「ま、まゆり……一体どこに行ってたんだ!」

まゆり「オ、オカリン……ごめんね、どうしてもお腹が減っちゃったの」

まゆり「オカリンぐっすり眠ってたから、寝かせてあげたほうがいいかと思って」

まゆり「オカリンも起きたらお腹減ってるかなって……」

岡部「まったく、心配したんだぞ」

まゆり「本当にごめんね。まゆしぃが起きてから4時間ぐらい待ってたんだけど……どうにもお腹が空いちゃって」

岡部「まゆりが起きてから4時間だと……? 一体今は……なっ、10時半!?」

まゆり「どうしたのオカリン?」

岡部(昨日来たメールには、今日フェイリスの家に来るように書いてあった)

岡部(指定された時間は13時。大丈夫だ、遅刻の心配はない……)

岡部「少し考え事をな。しかし腹が減った……まゆりが買ってきてくれた物を食べるとしよう」

まゆり「そうだねぇ。まゆしぃもお腹ペコペコなのです」

岡部「食った食った……」

まゆり「お腹いっぱいだねぇ」

岡部「あぁ。なぁまゆり……俺は今から出かけねばならんのだが、まゆりはどうする?」

まゆり「うーん、コミマの戦利品を確認したりしたいし、家に帰ろうかなって」

岡部「そうか。では駅まで送っていこう」

まゆり「え、でも時間は大丈夫なの?」

岡部「大丈夫だ、問題ない……行くぞ」

まゆり「オカリン、手を握ってくれるのは嬉しいんだけれど……ちょっと痛いのです」

岡部「あ……す、すまんな。つい力を入れてしまった」

まゆり「そんなに強く握らなくても、まゆしぃはどこにも行かないのです」

岡部「あぁ、どこにも行かせやしないさ」

岡部(運命の日は超えたのだ。理不尽な理由でまゆりが死ぬことは、もうない)

岡部(やれやれ。俺は本当に心配性だな……)

まゆり「オカリンと手を握って歩くなんて、なんだか久しぶりな気がするなぁ」

岡部「フ、フハッハハ……こ、この鳳凰院凶真と握手できることを光栄に思うがいいぞ!」

まゆり「んー? 何だかオカリン、顔赤いよ?」

岡部「な、なにを言っている! いや、これは"機関"の攻撃を受けているのだ! そうに違いない!」

まゆり「えへへ……変なオカリンだねぇ」

まゆり「それじゃ、また明日ね」

岡部「あぁ、ラボでな」

まゆり「ばいばーい」

岡部「おう」

岡部(さて、フェイリスの家に向かうとしよう)

フェイリス「待ってたニャ、キョーマ」

岡部「早速で悪いが、如月千早についての情報を教えてくれないか?」

フェイリス「うーん……フェイリスに聞くより、本人に聞いた方がいいんじゃないかニャ?」

岡部「本人? ま、まさか……!」

フェイリス「そのまさかニャ。入っていいよ、チヒャー」

千早「えぇ」ガチャ

岡部「紅莉栖!」

千早「はい?」

千早「って、あの……その名前で呼ばないで頂けませんか?」

岡部「な、なぜだ?」

千早「色々とあるんです」

岡部「そう言うのなら了承しよう」

千早「では改めまして自己紹介を。如月千早です、よろしくお願いいたします」

岡部「鳳凰院……じゃなくて、岡部倫太郎だ」

フェイリス「それじゃ、フェイリスはちょっと出かけてくるニャ。ごゆっくりー」

岡部「以前はいきなり電話をかけたりしてすまなかったな」

千早「別に、気にしてませんから」

岡部「なぜ電話番号を知っているのか、とかは聞かないのか?」

千早「聞いたら答えてくれるんですか?」

岡部「そ、それは……答えられない」

千早「…………」

岡部「…………」

千早「あの、なんで黙ってるんですか。何か用があるのでは?」

岡部「そ、そうなんだが、何を話せばいいのか頭がこんがらがってきてな……」

千早「はぁ……もう帰ってもいいですか?」

岡部「待ってくれ!」ピリリリリ

千早「あ、電話……ちょっと失礼します」

千早「どうしました、音無さん?」

岡部(音無? あぁ、音無小鳥か……765プロの事務員で、趣味は妄想だったか?)

岡部(そして以前はアイドルだったな。ラボのPCに歌が入ってたが、かなり上手だった)

千早「え、社長が!? はい、分かりました。すぐに病院に向かいます!」ピッ

岡部「どうした!?」

千早「すみません、急用ができました! 今日はこれで……」

岡部「待て」ピポパ

岡部「あ、すみません……タクシーを一台お願いします」ピッ

千早「岡部さん……?」

岡部「急ぎの用なんだろう。タクシーを使おう」

千早「は、はい!」

――タクシー内

岡部「一体何があったんだ?」

千早「関係者でない人にはお話できません」

岡部「それもそうか……あぁっ!」

千早「どうかしましたか?」

岡部「所持金が72円だということを失念していた!」

千早「72円!?」

岡部「こ、これは……タクシータダ乗りでタイーホ!?」

千早「あの、私が出しますから。そもそも私の用事なんですし」

岡部「す、すまない……」

――病室

千早「社長!」

千早「大丈夫ですか、しっかりしてください社長! 目を、目を開けてください……」

小鳥「千早ちゃん……社長は疲労で倒れただけよ?」

千早「え?」

小鳥「もう、最後まで聞く前に電話を切っちゃうんだから……慌てん坊さんね」

千早「なんだ、よかった……」

岡部(しっかりしてるようで抜けた所もある、やはり生まれ変わっても紅莉栖は紅莉栖か)

高木「心配をかけてしまったな、すまない如月君」

千早「いつ頃に退院できるんですか?」

高木「三日ほどかかるそうだ。私はもう大丈夫だと言ってるんだがね」

高木「ところで如月君、そこの彼は一体何者だね? まさか、彼氏では……」

千早「違います! この人は……秋葉、じゃなくてフェイリスの知り合いです」

高木「おぉ、フェイリス君の……なるほどね」

高木「それにしても何といい面構えだ。ティンときた!」

千早「しゃ、社長? まさか……」

高木「君の名前は?」

岡部「鳳凰院……ではなく、岡部倫太郎です」

高木「岡部君、アイドルのプロデューサーに興味はないかね?」

岡部「はいぃっ!?」

小鳥「あちゃー、社長の悪い癖が……」

千早「ピンときたらすぐ勧誘。本当に強引ですよね……まぁ、私もそれに乗せられてしまったんですが」

岡部「お、俺は一介の大学生に過ぎない男ですよ?」

高木「なに、今は夏休みだろう。大学生なら休みも長いはずだ」

岡部「そういう問題じゃ……俺、プロデューサーなんてやったことありませんし、知識などもありませんよ」

高木「大丈夫だ、懇切丁寧に教えてあげよう。夏休みの間やってみて、適正があるようなら正式採用ということでどうかね?」

高木「人助けと思って、ここはひとつ……頼まれてはくれないだろうか」

岡部(俺にそんな大層な仕事が勤まるとは思えない)

岡部(それに、正式採用となったら大学に通うのは無理になるだろう)

岡部(せっかく入ったというのに、ろくに研究もせずに退学するのか?)

岡部(だが、これはチャンスだ。プロデューサーという立場なら、紅莉栖……じゃなくて千早の近くにいることができる)

岡部(自分の夢を取るか、好きな人の傍にいるか……。またもや二者択一とは、皮肉なものだな)

高木「今すぐに返事をしてくれとは言わない。悩む時間も必要だろう」

岡部(いや、ここで決断出来なかったら……いつまでたっても出来ない気がする)

岡部(…………)

岡部「分かりました、全力を尽くさせていただきます」

高木「君ならそう言ってくれると思ったよ! 頼むぞ、岡部君!」

岡部「はい!」

岡部「でもでもでもでもそんなの関係ねぇ!そんなの関係ねぇ! はい、オッカッピー」

ダル「オカリン壊れた……」

――765プロ

小鳥「……というわけで彼がプロデューサーになったの。見習いとして」

岡部「岡部倫太郎です。若輩者ですがよろしくお願いいたしましゅ!」

亜美「あ、今噛んだ!」

真美「噛んだ噛んだー」

律子「こら、静かになさい」

美希「この人がプロデューサー? なんだか不安なの……あふぅ」

真「そう? 結構カッコイイと思うけどなぁ」

雪歩「ま、真ちゃんの方がカッコイイよ……?」ボソッ

真「雪歩、今なにか言った? こえが 小さくてよく聞こえなかったんだけど」

雪歩「な、何でもないですぅ」

真美「ミキミキの言う通り、ちょっと不安かもー」

春香「でも、社長が選んだぐらいの人なんだし……きっと大丈夫だよ!」

貴音「春香の言う通りです。高木殿が見込んだ程のお方。期待しております、岡部殿」

響「でも変なことしたらだめだぞー。いくら自分が完璧だからってね」

伊織「完璧? それはこの伊織ちゃんの事でしょ!」

響「なんだとー! プロデューサー、自分と伊織……どっちが完璧だと思う!?」

伊織「もちろん私に決まってるわよねぇ?」

岡部「え、えっと……その」

岡部(……どうしてこうなった! あの時の俺に言ってやりたい)

岡部迂闊なことをするなと、軽率なことをするなと、頼まれごとを安易に引き受けるなと……もっと注意を払えと!)

春香「ふたりとも、プロデューサーさん困ってるよ」

響「あ……」

伊織「何よ……こんなことぐらいで困ってちゃ、プロデューサーなんて出来ないわよ?」

律子「伊織、そこまでにしておきなさい。ていうかアンタのプロデューサーは私でしょう」

伊織「分かってるわよ。こんな素人同然の奴にプロデュースされるなんてゴメンなんだから」

律子「すみません岡部さん。今言われたことは、あまり気にしないでくださいね」

岡部「は、はい……」

律子「では私たち竜宮小町は、そろそろ営業の方に行ってきますので」

律子「何かあったら、この番号までどうぞ。私のケータイです」

岡部「ありがとうございます、秋月さん」

律子「そんな、秋月さんだなんて。名前を呼び捨てでオッケーです」

律子「私たち、同年代じゃないですか。誕生日が早いから、私のほうが一つ歳上ですけど」

岡部「あぁ……そうだった。それは改めてよろしく、律子……さん」

律子「さんはつけなくていいですってば」

岡部「律子さんには何だか、自然にさんをつけるオーラがあるんですよね」

あずさ「それ、よく分かります~。私も律子さんって呼んじゃうんですよ~」

あずさ「あ、私は三浦あずさと申します。よろしくお願いしますね」

岡部「よろしくお願いします。あずささん、でよろしいでしょうか」

あずさ「えぇ」ボヨヨン

岡部(こ、これがバストB91、少し見るだけでユッサユッサと!)

岡部(ダメだ、見てはいけない! これは"機関"による精神攻撃なのだっ!)

亜美「あー、あずさお姉ちゃんのおっぱい見てるー!」

真美「んっふっふー。スケベですなー」

岡部「ス、スタイルのよさはアイドルの強みであろう! なにもやましい理由で見ていたわけではない!」

亜美「真美、この兄ちゃんおっぱい見たことは否定してないよー」

真美「これはなかなかの強者ですなー」

あずさ「あらあら、プロデューサーさんったらエッチですね~」

律子「何やってるんですか亜美にあずささん。置いてきますよ」

あずさ「ごめんなさぁい」

亜美「んじゃ、行ってくるねー。あ、亜美の名前は双海亜美! よろしこー!」

岡部「よろしく。元気がいい子だな」

岡部(なんとか乗り切った……ナイス律子さん)

春香「元気なら私も負けてませんよ!」

真「ボクだって!」

響「自分もだぞー!」

やよい「うっうー! 私もですー」

岡部「うんうん、アイドルは元気が一番だな」

雪歩「はぅ……ごめんなさい」

岡部「な、なぜ謝る! 去年のライブでは輝いていたではないか!」

雪歩「見に来てくれたんですか?」

岡部「いや、DVDだ。765プロのライブDVDはすべて見ているぞ」

千早「そうなんですか。少し見直しましたよ」

岡部(紅莉栖……じゃなくて千早目当てに見ていたということは黙っておこう)

岡部(なんだかんだあって全員の自己紹介が終わった。そしてその少し後に雑誌の記者が来た……ってこ、こいつは!)

萌郁「本日はよろしくお願いいたします。あ、私……こういう者です」

岡部(そう言って目の前に居る萌郁は名刺を俺の方に差し出してきた)

岡部「桐生萌郁……」

萌郁「読めるんですか、嬉しいですね。苗字はともかく、名前は読めない方が多いんですよ」

岡部(えらく流暢に喋るな、この世界線の萌郁は……まるで今までとは別人だ)

萌郁「それにしてもプロデューサーさん、随分とお若いんですね」

岡部「何せ見習いなものでして。よろしくお願いいたします」

萌郁「……なるほど、765プロのみなさんは本当に仲がいいんですね」

春香「はい! 昨日も千早ちゃんと真と一緒に買い物に行ったんです」

春香「その時に真の買った服がすっごく可愛くて……。あ、あとそれから……」

岡部(…………)

春香「そういえば、先週やよいと一緒にですね……」

岡部(何だか話がずれていってないか?)

千早「春香、話が横道にそれ過ぎよ」

春香「あ! やだ、私ったら……ごめんなさい!」

萌郁「いえ……仲が良いという感じが、よく伝わって来ましたよ」

萌郁「これはいい記事がかけそうです」

岡部(紅莉……千早はしっかりしてるな。春香と相性がいいんだろうか?)

>>137
そこ頭いいの?

>>139
日東駒専よりちょい上くらいだったハズ

岡部(あれからいくつから萌郁の質問に答えて、インタビューは終了した)

萌郁「本日はありがとうございました」

岡部「こちらこそありがとうございました」

岡部「……ふぅ」

春香「プロデューサーさん、すごく汗かいてますよ。タオルどうぞ」

岡部「ありがとう春香。まったく気づかなかった……春香は周りをよく見てるんだな」

春香「えへへー、それほどでもっ」

岡部「あと千早、さっきはフォローしてくれて助かった」

千早「本来ならプロデューサーの役目のような気がしますけどね」

岡部「すまなかった。次からは気をつける」

貴音「ただいま戻りました」

響「ふぅ……今日も疲れたさー」

真美「たっだいまー!」

岡部「おかえり……っておわっ! 帰っていきなりタックルか!」

真美「んっふっふー、油断大敵だよ兄ちゃん!」

岡部「この鳳凰院凶真が油断などするとでも……? クククッ、キサマは我の掌の上で踊らされていただけなのだよ!」

春香「へ?」

千早「はぁ?」

貴音「め、面妖な……」

響「プロデューサー、なに言ってるんだ?」

真美「兄ちゃんノリノリですなー」

岡部(やってしまったぁああああああっ!)

岡部「ま、待ってくれ。これはだな……」

春香「真美に合わせてあげたんですよね? さすがはプロデューサーさんです!」

響「へぇ……プロデューサー、やるじゃん!」

千早「うーん、私にはそうは見えなかったんだけど」

貴音「私も千早と同じ意見です。非常に言い慣れているように見えました」

岡部(こ、こうなったらやけだ!)

岡部「フッ、バレてしまってはしかたない……」

岡部「岡部倫太郎は世を忍ぶ仮の姿……」

岡部「そしてその正体は……狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真だッ! フゥーハハハッ!」

春香「…………」

千早「…………」

響「…………」

亜美「…………」

貴音「…………」

岡部(さらば765プロ……短い間だったが、いい経験になった)

千早「あははっ……あっははははっ!」

春香「だ、だめだよ千早ちゃん、笑っちゃ……あはっ、あははっ!」

響「そういう春香だって笑って……ぷっ、あーはっはっはっ!」

貴音「ふふっ……真、面妖ですね」

真美「兄ちゃん最高すぎるよー、お笑い芸人になれるって!」

岡部(何が何だか分からない……が、どうやらクビにならずに済みそうだ)

岡部「ふっ、ここまでだな……流星の双子(シューティングスターシスターズ)よ!」

亜美「くぅっ……何て強さなんだ!」

真美「これが狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真……でも、真美たちは負けるわけにはいかないんだかんねっ!」

亜美「こうなったら最後の手段だ! 出番だよ、ゆきぴょん!」

雪歩「え、えっと……その……」

真美「頑張れ、頑張るんだゆきぴょん!」

雪歩「穴掘って埋まってろですぅ!」

岡部「ぐわぁあああっ!」バタリ

亜美「決まったー、ゆきぴょんのドリルアーム!」

小鳥「こうして地球の平和は守られたのであった。まて、次回!」

伊織「何なのよアレ……」

あずさ「仲がよくていいわねぇ」

律子「それにしても岡部君があんなに変わり者だったなんて……みんなとも打ち解けてるみたいだし、いいかな」

亜美「今度は亜美&真美&ゆきぴょん VS いおりん&鳳凰院凶真でやろーよー」

伊織「はぁ? 何で私がそんなことを……」

岡部「フッ、恐れをなしたか? 閃光のデコ(シャイニング・フォアヘッド)よ」

伊織「ちょっと、変な名前つけないでよ」

岡部「そうか? そのおでこは伊織のチャーミングポイントのひとつであろう? いい名前だと思うが……」

伊織「チャーミングポイント? へぇ、よく分かってるじゃない。だからと言ってそのごっこ遊びには参加しないけどね」

岡部「怖いのか?」

伊織「はぁ?」

岡部「この聖戦(ジ・ハード)には、それなりの演技力が求められる」

伊織「聖戦ってなによ……ていうか、たかが遊びじゃない」

岡部「そうだ。だが、たかが遊びすらできないようでは……アイドルとしての器がしてれているな」

伊織「なっ!」

岡部「まぁ無理にとは言わないさ。台本もなく、アドリブオンリィで進むから難易度も高いしな」

伊織「じょ、上等だわ。やってやろうじゃないの!」

岡部「流星の双子よ……今日は貴様らを倒すべく強力な怪人を用意しているのだ! いでよ閃光のデコ!」

亜美「そんなっ! 凶真一人ですら手ごわかったのに!」

伊織「味わうがいいわ……まぶしいおでこ(フォアヘッドフラッシュ)!」

真美「ま、前が見えないー!」

伊織「今よ、あいつらを片付けておしまい! 我が下僕!」

岡部「なっ!? だ、誰が下僕だ!」

伊織「アンタのことに決まってるでしょ」

岡部「怪人のくせに言ってくれるではないか」

亜美「仲間割れしてる……今がチャンスだよ、真美!」

真美「オッケー! ダブルシューティングスターキーック!」

岡部「ぐわああああっ!」

伊織「覚えてなさいよーっ!」

伊織「どう? 伊織ちゃんの演技は」

岡部「完璧だっ! 素晴らしい……と言いたいが、なぜ俺が下僕なのだ!」

伊織「なに文句言ってるのよ。下僕って言われた時に、顔真っ赤にしてたくせに」

岡部「そ、そそそそんなはずがあるまい!」

伊織「アンタって本当に分かりやすいのね……」

亜美「下僕って言われて喜ぶなんて、変態ですなー」

響「プロデューサー、変態だったのか! 見損なったぞー!」

真「下僕って言われると男の人は嬉しいんだ……」

千早「それはごく一部の人だけだと思うわ。しっかりしなさい真」

春香「それじゃ、お疲れ様でした!」

千早「お疲れ様です」

岡部「お疲れ。気をつけて帰ってくれ」

岡部「さて、みんなも帰ったことだし……よろしくお願いします音無さん」

小鳥「小鳥さんや小鳥ちゃんでもいいですよ?」

岡部「いえ、さすがに目上の人にそれは……」

小鳥「ですよねー。それじゃ、事務の作業を始めるとしましょうか」

岡部「ご指導のほど、よろしくお願いいたします」

小鳥「はい、今日はこれでおしまいです」

岡部「……疲れた」

小鳥「コーヒーでも淹れましょうか? あ、岡部君はコーヒー飲めます?」

岡部「はい。ブラックで」

小鳥「お、しぶいですねぇ。クッキー、食べます?」

岡部「はい。脳が糖分を必要としている……っ!」

岡部「ふぅ……クッキーを食べたら何だかお腹が減って来ました」

小鳥「カップ麺もありますよー。食べますか?」

岡部「アイドル事務所にカップ麺、ですか」

小鳥「あら、イメージ崩れちゃいました? アイドルだって人の子なんですよー」

岡部「いえ、そうではなく……健康面で見てよくないのではないかと思いまして」

小鳥「うーん、それはそうなんですけど……一人、ラーメンが大好きな子がいまして」

岡部「そうか。四条貴音……」

小鳥「アイドルのプロフィールは完全に叩きこんであるみたいですね。さすがです」

岡部(ラボのPCで音楽を聞きながら情報収集してただけです、ごめんなさい)

――萌郁の部屋

萌郁「お仕事、疲れた……」

萌郁「アイドルの子たちと話してる間、すごく緊張した。変な風に、思われなかったかな?」

萌郁「なんで、記者なんて……やってるんだろ。お話するの苦手なのに」

萌郁「はぁ……やめたい、かも。でもやめたら死んじゃう、よね」

萌郁「ケバブも……食べれない。それは、嫌」

萌郁「そういえば、今日あった765のプロデューサーさん……どこかで、あったような?」

萌郁「…………」

萌郁「……気のせい、ね」

数日後――

岡部「今日は876プロのアイドルとの打ち合わせだったな。真が期間限定でユニット組むんだったか?」

真「はい。どんな子なんだろ、楽しみだなぁ」

岡部「相手の情報はまったくなし。親しい関係の事務所とは言え、新人と組むとはなぁ」

真「……と、何だかんだ言ってる間につきましたよ」

岡部「よし、行くとするか」

真「はいっ!」

石川「あなたが765の新しいプロデューサーね。初めまして、876プロ社長の石川です」

岡部「岡部倫太郎です。本日はよろしくお願いいたします」

石川「涼、るか。入っていらっしゃい」

涼「初めまして秋月涼です。よろしくお願いしますっ」

るか「は、初めま……お、岡部さん!?」

岡部「るか子!?」

石川「あら、お知り合い? ……岡部君、ちょっとこっちいらっしゃい。すぐ済むから」

岡部「は、はい」




石川「岡部君、るかのこと……どこまで知ってるの?」

岡部「神社の巫女だとか、だが男だってこととか……ですね」

石川「巫女の方はともかく、男っていう事は他言無用よ。他のアイドルにも誰にもよ……いいわね?」

岡部「わ、分かりました」

真「どうしたんですか、プロデューサー」

岡部「なに、ちょっとした話だ。それじゃ、打ち合わせに行こうか」

るか子「あの、岡部さん……」

岡部「男だということは他言無用だと聞いた。心配するな」ボソッ

真「そういえば、るかとプロデューサーはお知り合いなんですか?」

岡部「まぁな」

真「へぇ。プロデューサーのこと、聞いちゃおうかな」

岡部「へ、変なことは聞くなよ?」

真「変なことってなんですか……趣味とか、普段のプロデューサーはどんな感じか聞こうと思っただけですよ」

るか「普段の鳳凰院さんは……」

岡部「るか子よ、今は岡部と呼んでくれ」

るか「あ、すみません岡部さん」

岡部「涼は律子のいとこだったな」

涼「はい。律子姉ちゃんは765プロに入れようとしたんですけど、いろいろありまして……あはは」

岡部(しかし涼はなかなかいい体格をしているな。女にしてはかなりの図体)

岡部(まさかるか子同様男の娘だったり……なわけないか。考え過ぎだ)

岡部(ん? るか子の胸にボヨヨンが!?)

岡部(パッド、パッドだ……わかってはいるんだ。だが一瞬、女であるるか子の姿が頭をよぎった……)

真「ちょっとプロデューサー……るかの胸、見過ぎですよ」

るか「はぅ……」

岡部「おっとすまん。つい、な……」

真「つい、で胸見ないでくださいよ……まったく、乙女心が分かってないなぁ」

岡部(確かにるか子はどこをどう見ても女の子に見える、だが男だ)

岡部(女よりも女らしい、だが男だ)

岡部(アイドル衣装が似合っている、だが男だ! ていうかこの衣装、勃ったらヤバイだろ!)

涼「真さんってカッコイイですよね。いいなぁ」

るか「はい。羨ましいです……」

真「え? 涼もるかもは可愛らしいじゃないか。ボクは二人のほうが羨ましいよ」

岡部「真も可愛いと思うが」

真「え? おだてないでくださいよプロデューサー。ってそれより、打ち合わせ始めましょうよ」

岡部「こうやって話をするのも打ち合わせのひとつさ」

るか「さ、さすが岡部さんです!」

岡部「それじゃ、そろそろ歌やダンスなどを見ていくか。レッスン場、行くぞ」

真・涼・るか「はい!!」

数時間後――

岡部「みんな、お疲れ様だ。自分がこなすべき課題は分かったか?」

真「はい。頑張りますっ!」

涼「真さんのダンス、すごいなぁ……僕も頑張らないと」

るか「はぁ、はぁ……」

岡部「る、るか子よ……大丈夫なのか?」

岡部(なんだかものすごくエロい)

るか「は、はい……」

真「ちょっと飛ばしすぎたかな。ごめんね」

るか「いえ。ボク、もっと体力つけないと」

真「ボク、毎朝ジョギングしてるんだけど……二人もどうかな?」

涼「あ、いいですね。るかちゃんはどうする?」

るか「ボクもやってみます。足手まといには……なりたくないですから」

るか「あ、岡部さん……」

岡部「どうした?」

るか「この後、少しお時間ありますか?」

岡部「ちょっと待ってろ。えーっと……大丈夫だな」

るか「神社の方に来ていただきたいんですけれど……」

岡部「分かった」

真「それじゃ、ボクは先に事務所に戻ってますねー。ごゆっくり」

――柳林神社

岡部「さて、ここでなら何の気兼ねもなく話ができるな」

るか「はい……。岡部さんが765プロのプロデューサーだなんて、驚きました」

岡部「最近なったばかりだがな。俺もるか子がアイドルをやっているだなんて驚きだよ」

るか「え? ボクがアイドルをやっているのは……岡部さんが後押ししてくれたからじゃないですか」

岡部(なに!? この世界線の俺はなんという事をやっているのだ!)

岡部「あぁ、そうだったな……すまん、最近疲れていて頭がうまく働かないのだ」

るか「大学、やめたんですか?」

岡部「いや、今はまだ……だがおそらく、やめるだろうな」

るか「そうですか。はぁ……岡部さんにプロデュースされたかった、な」

岡部「すまんな、るか子よ」

るか「いえ……むしろこの方がよかったのかもしれません」

岡部「え?」

るか「いつまでも岡部さんに甘えているわけにもいきませんから……それに、新しい友だちもできたし」

岡部「涼のことか」

るか「涼ちゃんだけじゃなくて、愛ちゃんや絵理ちゃん」

岡部「その二人も876プロのアイドルか?」

るか「はい。愛ちゃんはすごく元気な子で、絵理ちゃんはちょっと不思議な子です」

岡部「そうか。るか子、何だかうれしそうだな」

るか「はい。アイドルのお仕事はとても大変ですけど、楽しいです」

岡部「楽しむってのは大事な事だな、うん」

岡部「すまん、そろそろ事務所に戻らないと」

るか「いえ……今日はありがとうございました。また、会えますか?」

岡部「あぁ、もちろんだ。改めてよろしく、るか子」

るか「よろしくお願いします、岡部さん」

岡部「ただいま帰りました」

小鳥「おかえりなさい、プロデューサーさん」

伊織「ちゃんと仕事できたのかしら?」

岡部「あぁ、バッチリさ」

伊織「ふーん……ま、これからも頑張りなさいよ」

岡部「もちろんさ、伊織。さて、次は春香と千早、雪歩のグラビア撮影だったな」

雪歩「よ、よろしくお願いしますぅ」

春香「プロデューサーをイチコロにしちゃいますよ、イチコロ!」

岡部(春香って結構胸だかいよな……生水着か、ゴクリ)

千早「……不潔」

――撮影所

カメラマン「いいよー春香ちゃん! ぐっとくるねぇ、その表情!」

春香「ありがとうございまーす!」

カメラマン「雪歩ちゃんの恥ずかしがってる表情もグッド!」

雪歩「は、はわわ……」

カメラマン「千早ちゃん、ちょっと表情固いよ。リラックスリラックス」

千早「す、すみません……」

カメラマン「うーん、少し休憩しようか」

岡部「どうしたんだ紅莉……じゃなくて千早。調子でも悪いのか?」

千早「撮影は、あまり好きではないので」

岡部「歌を聞いてもらうためにアイドルをやっているから、か」

千早「はい」

岡部「だが千早の写真を見て興味を持ち、歌を聞いてくれる人がいるかもしれないだろ?」

岡部「一人でも多くの人に歌を聞いてもらいたいなら、様々な分野に挑戦するべきだと思う」

千早「そう、ですよね。でも……私の水着姿なんて見ても、誰も喜ばないんじゃ」

岡部「そんなことあるものか! 少なくとも俺はうれしいぞ!」

岡部「俺が喜ぶということは、他にも喜ぶ奴が必ずいるはずだ!」

千早「プロデューサー、本当に喜んでるんですか?」

岡部「俺の顔をよく見てみろ。真っ赤だろ……千早の水着姿にドキドキして真っ赤になってるんだよ」

千早「なっ……! よ、よくそんな恥ずかしい台詞が言えますね」

岡部「フゥーハハハッ! こ、この鳳凰院凶真にとってはこの程度、造作も無いわ!」

千早「困ったときの鳳凰院凶真さんですか。やれやれ……」

千早「もう少し、頑張ってみます……撮影」

カメラマン「お疲れーっした!」

岡部「お疲れ様です」

カメラマン「いやー、休憩の後の千早ちゃんはよかった! 何話してたかしらないけど、やるねぇプロデューサー君」

カメラマン「最近プロデューサーになったばかりなんだっけ? 期待してるよ」

岡部「ありがとうございます」

岡部(休憩後の紅莉……千早は本当にすごかったな。これならファンも増えるに違いない)

――女子更衣室

春香「千早ちゃーんっ!」

千早「きゃっ! 春香ったら、いきなり抱きつかないでよ」

春香「いきなりじゃなければいいのかなー?」

雪歩「二人がそういう関係だなんて……お邪魔しましたぁ!」

千早「ストップ萩原さん。春香も変なこと言わないで」

春香「だって今日の千早ちゃん、すごく可愛いんだもん。あ、もちろんいつも可愛いんだけどね?」

岡部「戻りましたー」

小鳥「おかえりなさいプロデューサーさん。あら、春香ちゃんと雪歩ちゃんは?」

岡部「途中で別れたんですよ。事務所よると遠回りになってしまうので。もう外は暗いですし」

岡部「紅……千早、外はかなり暗いし……一緒に帰るか?」

千早「……ご心配なく。一人で大丈夫ですから」

岡部(うーん……少しは心を開いてくれたかと思ったが、気のせいだったか?)

岡部(いや、万が一があってからでは遅い。多少強引にいくか)

岡部「小鳥さんはどう思います? こんなに遅くに、女の子を一人で返すことについて」

小鳥「あまりよくないですねー。今日は他のみんなはもう帰っちゃってますし」

岡部「そうですよね」

千早「なら音無さん、一緒に帰っていただけますか?」

岡部(そう来るか……どう出る、音無さん)

小鳥「ごめんなさい、まだ書類整理があって。かなり時間かかりそうなのよ」

岡部(ナイス! さすが2X歳……亀の甲より年の功!)

千早「……そうですか。分かりました、行きましょうプロデューサー」

岡部「なぁ紅莉……じゃなくて千早」

千早「なんでしょう」

岡部「俺、千早に何か悪いことしただろうか?」

千早「いきなり何です、藪から棒に」

岡部「一緒に帰るのが、すごく嫌そうだから……さっきかなり否定されたし」

千早「…………」

千早「暗い夜道を男性と歩くことに対して、否定的になるのは別に普通では?」

岡部「それはそうだが、一応プロデューサーなんだし」

千早「プロデューサーだからって必要以上の干渉は避けていただきませんか」

岡部「え……?」

岡部「仕事を円滑にすすめるためには、親しくなった方がいいと思うのだが」

千早「仕事中だけ仲良くすればいいじゃないですか」

岡部「それは変な話だな。千早は事務所のみんなとよくプライベートをすごすのだろう」

岡部「ならば俺ともそうするのが自然だよ」

千早「そ、それとこれとは話が別です」

岡部「なんでさ」

千早「えっと……プロデューサーは男の人じゃないですか」

千早「だから一緒にいるところを雑誌に取り上げられたりでもしたら……まずいですよね」

岡部(それを言われると返す言葉がなくなってしまうな。あまり踏み込むべきではないのか?)

岡部「あぁ……確かにそうだな。すまん」

数カ月後――

岡部(俺は正式に765プロのプロデューサーとなり、大学をやめた)

岡部(765プロのみんなは、なかなか人気のアイドルになっている)

岡部(みんなとの仲もかなりいい。紅……千早だけには、距離をとられているようだが)

岡部(まぁ、近くにいられるだけでいいさ)

――ラボ

まゆり「あ、オカリンだー! 何だかとっても久しぶりな気がするのです」

岡部「あぁ。最近仕事が忙しくてな……すまん」

ダル「これだからプロデューサー兼リア充は困る。マジ爆発しろよ!」

岡部「前に千早のサインもらってきてやったのは誰だったかな?」

ダル「すんません、マジ感謝してます」

まゆり「最近765プロがどんどん有名になってきてるよね。オカリンはすごいなぁ」

岡部「俺なんかちっともすごくない。すごいのはアイドルたちだよ」

まゆり「でもまゆしぃはちょっとだけ寂しいかな……オカリンがどこか遠くに行っちゃいそうで」

岡部「はは、俺がまゆりの傍を離れるわけないだろ」

まゆり「……そう、だよね。まゆしぃはオカリンの人質だもんね」

ダル(すっごく居づらい雰囲気なんですけど。なんなの? 馬鹿なの? 死ぬの?)

一ヶ月後――

ダル「オカリンが来たの、もう一ヶ月も前なんだな」

まゆり「うん……ダルくん、無理してラボにこなくていいんだよ?」

ダル「こんなところに女の子一人だけ置いておくなんてできないっす」

ダル「それに、ここはメイクイーンに近いから結構便利なんだお」

まゆり「ありがと、ダルくん。ちょっとお出かけしてくるね」

ダル「いてらー」

まゆり(オカリンはお仕事で忙しいから仕方ないよね)

まゆり(人気アイドルのプロデューサーなんだもん)

「君ィ」

まゆり(もう、まゆしぃのことなんて忘れちゃってるのかなぁ……)

まゆり(そうだよね。765プロのみんなってすごく可愛いもん。まゆしぃなんかと比べちゃいけないぐらい)

「そこにいる君ィ!」

まゆり「えっ、もしかしてまゆしぃのことですか?」

「そう、そうだよ。君……ネットアイドルのELIEだろう?」

まゆり「それ、誰ですか?」

「む? あ、間違えた! 声が似てて、つい……今のは聞かなかったことにしてもらおう!」

「君は椎名まゆり……だな?」」

まゆり「えっ?」

「自己紹介が遅れたね。私は961プロ社長、黒井崇男だ」

黒井「君はアイドルの才能がある。アイドル、やってみないか?」

まゆり「うーんと……まゆしぃは、そういうのに興味ないのです」

黒井「本当かね? 君の大切な人間である岡部倫太郎……彼はそのアイドルに夢中だろう」

黒井「765プロの連中よりもすごいアイドルになれば、彼も君にメロメロになるはずだ」

まゆり「そんな誘いにはのりません」

黒井「ふぅ、強情だな。ならばいい事を教えてあげよう」

黒井「岡部倫太郎は765プロのアイドル、如月千早にお熱なのだよ」

黒井「その証拠がこれだ」

岡部『俺、千早と親しくなったな』

千早『大好きです、プロデューサー』

岡部『あぁ、俺もだよ』

まゆり「……っ!?」

黒井(偶然外を歩いてる所を見つけた時に録音したものを加工しただけだがな)

黒井(如月千早の方はドラマの音声からも拝借している)

黒井(じっくり聞くとバレそうだが、一度ぐらいなら問題ない。心も弱っているだろうしな)

まゆり「そんな、オカリン……まゆしぃの事ほったらかしして、何で?」

まゆり「まゆしぃ、オカリンに何か嫌なことしちゃったのかな。ごめんね、ごめんね……」

黒井「岡部はお前をほったらかして、別の女といちゃついてたのだよ」

黒井「君はこのままでいいのか? 指を加えて見てるだけで?」

まゆり「まゆしぃは、まゆしぃは……」

ttp://www.youtube.com/watch?v=xPmG8fKtpNs

まゆり『かけがえのないこの世界には、たった一人のあなたがいる』

まゆり『手を伸ばしたら届きそうだよ。この大空に想い飛ばして、笑顔で――』

岡部「な……まゆり!?」

律子「岡部君のお知り合いですか?」

岡部「まゆりは……俺の、幼馴染なんです」

高木「黒井め、一体どういうつもりだ?」

岡部「そうだ、ダルに電話を!」ピポパ

ダル『オカリン?』

岡部「あぁ、俺だ。実はまゆりが……」

ダル『知ってる、アイドルになったんだろ』

岡部「最近、まゆりに何か変わった様子はなかったか?」

ダル『それ本気で言ってるん?』

岡部「こんな時に冗談は言わん」

ダル『まゆ氏、オカリンが全然ラボにこなくて、すっげぇ寂しがってたぞ』

ダル『忙しいのはわかるけどさ、ちょっと顔を出すぐらい出来ただろ……?』

岡部「そ、それは……」

ダル『直接あうのが無理でも、メールや電話ぐらいしてやれたんじゃないのか』

岡部「だがまゆりからはメールも電話も来なかったぞ……」

ダル『僕もまゆ氏に、オカリンにメールや電話連絡しようぜって言ったよ』

ダル『でもそうしたらまゆ氏……オカリンの重荷にはなりたくないから、それはできないって言ったんだよ』

岡部「まゆり……なんで俺は、そんなことに気づかなかったんだ」

ダル『まぁ今更悔やんでも仕方ないし、前向きに考えたら?』

ダル『別にアイドルになったっていいじゃない、ってさ』

岡部「そうだよな……別に、死んだとかいうわけでもないんだ」

ダル『なぜそこで死んだ、ってのがでるんだよ。オカリンの発想ぶっ飛び過ぎ』

ダル『ま……それはともかく、一度話し合っておいたほうがいいと思うぜ。それじゃ』

岡部「まゆりに電話してみよう」ピポパ

『お客様のおかけになった電話番号は電波が入っていないか……』

岡部「だめだ、つながらない。メールを送っておこう……」

律子「心配ですね、その子……」


数日後――

岡部(あれからまったくまゆりから連絡がない)

岡部(何かあったのだろうか……心配だ)

やよい「プロデューサー、大丈夫ですか?」

岡部「やよい? あ、あぁ……大丈夫だよ」

岡部(いかんな、プロデューサーがアイドルに心配されるとは)

やよい「プロデューサー……今日の夜、お暇ですか?」

岡部「ん? あぁ、大丈夫だぞ」

やよい「よかったー。よければ家でご飯食べて行ってくださーい!」

岡部(やよいの家って確か、かなり貧乏だよな……夕飯に人を呼んだりしたら、ただでさえ少ない飯が減ってしまうのでは?)

岡部(いや、それなら俺が食材を買っていけばいいだけか)

岡部「そうだな、じゃあお言葉に甘えるとしよう」

やよい「こんなにたくさん買ってもらっちゃって……すみません、プロデューサー」

岡部「気にしないでくれ。家族多いんだろう?」

やよい「そうなんですよー。お父さんお母さん、長介にかすみ、浩太郎に浩司、そしてこうぞう!」

岡部「やよいを含めて8人か。すごいな……大変だろう、一番上だと」

やよい「確かに大変ですけど……にぎやかで楽しいですよーっ!」

やよい「ただいまー!」

岡部「お邪魔します」

かすみ「お帰り、お姉ちゃん」

長介「ねーちゃんお帰り……ん? 彼氏!?」

やよい「違うよ。私のプロデューサーの岡部さん」

岡部「こんにちは」

浩太郎「あー、ねーちゃんカレシ連れてきてるー!」

浩司「かれしー?」

岡部(本当ににぎやかだな……)

数時間後――

岡部「やよい、今日はごちそうさまな」

やよい「お粗末さまでしたー。どうでした、プロデューサー?」

岡部「すごく楽しかったよ。大勢での食事はいいものだな」

ダル『まゆ氏、オカリンが全然ラボにこなくて、すっげぇ寂しがってたぞ』

岡部(…………)

やよい「プロデューサー、私バカだから難しいことはよく分からないです」

やよい「でもプロデューサーが、何かで苦しんでるっていうことは分かります」

やよい「だから苦しい時は、誰かに頼って欲しいかなって……」

やよい「頼られてばかりじゃ、そのうち疲れちゃいますよね。私にも、そういう時がありました」

やよい「お姉ちゃんだから頑張らないといけないって思って、無理をしすぎて倒れちゃったんです」

やよい「その時に妹や弟に言われたんです。もっと自分たちを頼って欲しいって」

岡部「…………」

岡部「やよいは、ちっともバカなんじゃないな。俺よりずっと頭がいい」

岡部(俺はそう言いながら、やよいの頭の上に手をのせて優しく撫でた)

やよい「えへへー。プロデューサーに頭なでられると、なんだか嬉しいですー」

岡部(よし……まずはダルと律子さんに相談しよう)

ダル『どうしたオカリン?』

岡部「961プロとまゆりについて調べられるだけ調べてくれ! 頼む!」

ダル『ったく、頼むのが遅いぜオカリン。とっくに調べ始めてるから』

岡部「すまん……何か分かったら教えてくれ」

ダル『おk把握』

岡部「次は律子さんだ」ピポパ

律子『どうしました、岡部君』

岡部「夜遅くにすみません。961プロに関する資料って……」

律子『961プロですか? それなら事務所に大量にありますよ。なんせウチとはライバルみたいなものですからね』

律子『あと社長が、まゆりちゃんのことを調べるために、、今日もいろいろなところに連絡してましたよ』

岡部「そうだったんですか……ありがとうございます!」

律子『いえいえ。あまり、一人で抱え込んじゃだめですよ?』

岡部「さっきやよいにも言われました」

律子『やよいが……あの子、しっかりしてますからねぇ』

次の日――

岡部「社長、いろいろと手を尽くしてくださってありがとうございました!」

高木「いやいや、これは私の責任でもあるからね。黒井との関係はいい加減、何とかしなければ」

伊織「プロデューサー、はい」

岡部「伊織、これは一体?」

伊織「新堂に961プロについて調べてもらっておいたのよ。よかったら使いなさい」

岡部「ありがとう、恩に着るよ伊織」

伊織「ふん、いつか返してもらうからね」

岡部(よし、みんなが集めてくれた情報をまとめた結果、いくつかの事が分かった)

岡部(まずは、まゆりは現在961プロの社員寮で生活してること)

岡部(961プロの社員寮は、セキュリティが非常に堅いらしい。防犯システムに加えて警備員がいるそうだ)

岡部(次、まゆりが元々持っていたケータイは没収され、別のものを黒井から渡されていること)

岡部(これでは連絡が出来るわけないな)

岡部(その次、まゆりは黒井と居て嫌がる様子はない……何故だ?)

岡部(そしてまゆりが外出するときは、ボディガードが付き添っている。徹底しすぎだろう……)

岡部(次。黒井社長は765プロと共演する仕事は完全に拒否している)

岡部(単に嫌っているだけではないだろう。たとえば、俺とまゆりを接触させたくないとか……?)

岡部(……必要な情報をまとめるとこんな感じだな)

律子「これはどう考えても、まゆりさんを岡部君と接触させたくないってことでしょうね」

真「よーし、社員寮に乗り込みましょう!」

雪歩「えぇっ、危ないよ真ちゃん……」

律子「危ないとか以前に犯罪だから。警備員は倒せても、防犯システムはどうしようもないでしょ」

岡部「防犯システムなら何とか出来るかも」

律子「えぇ!?」

岡部「あ、やっぱ無理か……ネットワーク経由のものならともかく、そうではなかった」

岡部「いくらスーパーハカーといえども、スタンドアローンで動いてるセキュリティを潰すのは厳しい」

響「それなら、外出中を狙えばいいんじゃない? 警備員だけなら真が何とかしてくれるさー」

律子「アイドルが街中で暴力沙汰なんて起こせるわけないでしょーが!」

亜美「そうだ、ならスナイパーを雇うとか!」

律子「もっとダメだから! というかさすがに非現実的よ……」

岡部「日本では発砲事件なんて三面記事ものだからな。アメリカならともかく、日本では無理」

律子「そこ、まじめに解説するところじゃありませんから」

春香「外がダメでもテレビ局内とかならどうでしょう?」

真「確かに……局内にまでボディガード連れてくるのは難しい」

雪歩「でも用もないのに局内に入るなんてできないんじゃ……」

亜美「んじゃ、亜美たちも仕事入れればいいっしょ」

岡部「だがそれを黒井社長に事前に知られたらまずいな」

高木「ならば事前に知られなければいい、というわけだ。それぐらいは私がなんとかするよ」

高木「音無君、961プロの次の収録について調べてくれ」

小鳥「はい……あ、次の収録はスルーしたほうがいいかもしれません。961プロとつながりの強い局ですから」

小鳥「でも、これを逃すとだいぶ先になってしまいますね」

高木「ぬぅ、私では厳しいか……」

伊織「なら、水瀬財閥の名前を使いなさい。それならなんとかなるでしょ」

高木「しかし水瀬君……親の力は絶対に借りたくないのではないのかね」

伊織「そうよ。でも、そんな事言ってられる状況じゃないわ」

伊織「下僕が困ってる時に助けてあげるのも……ご主人様の役目だし? これで貸し二つだからね」

岡部「あぁ……本当にありがとう、伊織」

数日後――

ダル『発信機の取り付けには成功した。超小型だからそうそう気付かないはず』

岡部「ご苦労だダル。よし……それではこれよりまゆり奪還作戦(オペレーション・ゲットバッカーズ)を開始する」

真「作戦名、長いですね……」

岡部「我々が収録するスタジオからまゆりが収録するスタジオに行くためのルートは2つ」

岡部「故に部隊を二つに分ける。αチームは俺、響、貴音。βチームは真、やよい、真美だ」

岡部「αチームが目標を発見した場合、俺がまゆりに話しかける。二人は周辺の警戒を」

岡部「βチームが見つけた場合、真美が俺と通話中にしてあるケータイをスピーカーモードにしてまゆりに接触」

岡部「なお真美のケータイは我々が出演する番組が終了次第、常に俺と通話中にしておく」

岡部「間違って切らないように。電話代は当然俺が持つ。何か質問は?」

岡部「……ないようだな。それでは作戦を開始する……諸君らの健闘を祈る」

岡部(しかし取れた番組が関西フレンドパークとは……かなり体力を使ってしまうな)

岡部(できるだけ体力の高い五人を選んだつもりだが……頼むぞ)

司会「おぉっと貴音ちゃんがジャンプ! すごい、揺れてますねぇ」

司会「得点は右手30点、左手20点……合計50点! これは幸先いいですねー」

貴音「む、手が壁から離れませんね……面妖な!」

司会「おぉっと……早い、早いぞ! ネズミを現れた瞬間にパンチしている! さすが真王子!」

司会「やよいちゃんも頑張っているぞー!」

真「無理しないでね、やよい」

やよい「このぐらい平気ですー!」

司会「おっとここで中ボスネズミが二匹登場だ! 殴る、ひたすら殴る!」

司会「ふたりとも汗だくですね。実にいい……おっと、やよいちゃんが先に中ボスを撃破!」

司会「これは予想外ですね……。あ、真君ムキになって強く殴らないで下さいねー」

真「はっ! 危ない危ない……」

数時間後――

岡部(よし、収録が終わった)

岡部「みんな、行くぞ!」

貴音「はぁ、はぁ……この番組の収録はかなり体力を使いますね」

やよい「うっうー……でもまだ、大丈夫ですー」

真「ネズミパンチはしんどかったですけどね、割と本気で」

真美「真美は楽なものが多かったから大丈夫だよ」

響「連絡役が倒れたらまずいしなー」

貴音「橋田殿、発信機の動きはどうなっておりますか?」

ダル『お姫ちんktkr! まゆ氏はまだ収録中かと思われ。さっき全然動いてないっす』

貴音「全然動いていない……?」

ダル『え、僕なにか変なこと言いました?』

貴音「プロデューサー、椎名まゆりは今日何の番組にでているのですか?」

岡部「あっちも俺達同様身体を動かす系統の番組だ」

貴音「……これは、まずいかもしれません」

真美『兄ちゃん! まゆりお姉ちゃん見つけた!』

岡部「なんだと!? すぐにそちらに向かう!」

真美「まゆりお姉ちゃん!」

まゆり「はい? ……あなた達は、765プロの」

真美「スピーカーモードオン!」

岡部『まゆり、聞こえるか? まゆり!』

まゆり「聞こえてるよオカリン」

岡部『心配してたんだぞ……一体何があったんだ?』

まゆり「オカリン……ラボに来る時間はないのに、如月さんといちゃつく時間はあるんだね」

まゆり「でも許してあげる……すぐに分かるよ。まゆしぃと如月さん、どちらが優れたアイドルなのかね」

岡部『いちゃつく? 何の話だ!』

まゆり「この期に及んで言い訳するの? そっか、オカリンは疲れてるから仕方ないよね」

まゆり「すぐに目を覚まさせてあげるから、待っててね。今日はもう、バイバイ」

岡部『待ってくれ!』

真美「ちょ、まゆりお姉ちゃん早すぎっしょ!」

やよい「あっという間に見えなくなっちゃいました……」

真「真美、それ貸して! うぉおおおおおおっ!」

真「追いついたぞ!」ガシッ

まゆり「離してくれないかな? まゆしぃは事務所に戻らないといけないのです」

岡部『はぁっ、はぁっ……!』

真「プロデューサーが来るまで、絶対に離さないよ」

まゆり「それぐらいの力じゃ、止められないよ?」

真「くっ……なんて力だ」

まゆり「961プロの過酷なレッスンに耐えてきたまゆしぃには、その程度の力じゃ通用しないのです」

真「だ、だめだ……もう力が」

岡部『ぐわぁああああっ!』ドンガラガッシャーン

響『プロデューサーが階段から落ちた!?』

貴音『しっかりしてください、プロデューサー!』

まゆり「オカリン!?」

岡部『これぐらい、この鳳凰院凶真にとってはかすり傷同然だ。銃弾や刃物に比べたら大したことない』

貴音『何を言っているのですか。すぐに病院に行かなければ……』

岡部『それはできんな。早くまゆりを追いかけないと』

まゆり「なんで? オカリンは如月さんのことが大好きなんでしょ? なんでまゆしぃのためにそこまでするの?」

岡部『千早が大好きなのは否定せんがな、まゆりのことも大好きだからだよ』

岡部「それに……お前は大事な人質だからな」

まゆり「オカリン……」

岡部「ごめんな、全然ラボに行ってやれなくて。メールや電話もしてやらなくて」

岡部「お前の気持ちに気づいてやれなくて、ごめん」

まゆり「オカリン、オカリン……!」

岡部「おい! 抱きしめるのは構わんが力を入れすぎだ! 痛い、痛ぃいいいっ!」

まゆり「あ、ごめんね……」

岡部「あとな、一つだけ訂正しておくと……俺は千早とイチャイチャなどしていない」

まゆり「え?」

岡部「千早は何だか、俺に距離をおいてるようでな……何か嫌われるようなことをしてしまったんだろうか」

まゆり「でも黒井社長と初めて出会った時に、二人がいちゃいちゃしてる音声を……」

貴音「黒井殿なら、音声の加工ぐらいはやりかねないですね」

まゆり「…………」

岡部「まゆり、気持ちは分かるが落ち着け」

まゆり「ちょっと事務所に行ってくるね」

岡部「落ち着け、まずは冷静になろう……な?」

まゆり「ごめんね。オカリンの頼みでも……それはちょっと聞けないかな」

――765プロ

黒井「こ、この度は……765プロのみなさんに多大な迷惑をおかけして申し訳……えぇい、なぜ私が765プロなどに謝罪せねばならん!」

まゆり「…………」ギロッ

黒井「申し訳ございませんでしたぁっ!」

黒井「お、覚えてろよ高木、そして765プロの諸君! さらばだっ!」ピュー

小鳥「ものすごい勢いで逃げて行きましたね……」

高木「これで少しは懲りただろう、たぶん」

高木「色々迷惑をかけてしまったね、申し訳なかった椎名君」

高木「ところで君は、これからどうするつもりかね? よければ我が765プロに……」

まゆり「うーん、まゆしぃにはラボでのんびりオカリンを待つのがお似合いだと思うのです」

高木「そうか。実に惜しいが……分かったよ」

まゆり「あなたが如月千早ちゃん?」

千早「はい、そうですけれど」

まゆり「…………」

千早「あの、何か……?」

まゆり「どこかで会ったことないかな? 声に聞き覚えがあるんだけれど……」

千早「ごめんなさい、覚えがないわ」

まゆり「そっか。まゆしぃの勘違いかな、ごめんね」

千早「いえ、お気になさらず」

千早(椎名まゆり……)

千早(プロデューサーは、彼女を救うために世界を何度もやり直したのね)

ごめん、キリもいい(?)ので休憩する。スレが落ちたら自分で立て直します
その際のスレタイは 岡部「紅莉栖?」千早「紅莉栖って呼ばないでください」 です
ここまでで全体の3/5ぐらいは終わってる、たぶん。

数日後――

小鳥「プロデューサーさん、前に取材が来た雑誌、買って来ましたよー」

岡部「お、これは萌郁の……」

美希「プロデューサー、前から気になってたんだけれどさ、何でその桐生って言う記者のことを名前で呼んでるの?」

雪歩「確かに……私も気になってましたぁ」

岡部「な、なんとなくさ。そう、なんとなく……」

美希「むー、怪しいの……もしかして、カノジョ?」

岡部「それはないな。断じてないっ!」

美希「言い切ったの……ちょっと可哀想かも」

岡部(以前の世界線で命を狙われた間柄です、とか言えるわけないだろ)

岡部「お、雪歩のことがかなり大きく取り扱われてるな」

雪歩「あ……本当だ。うれしいなぁ」

美希「ふーん。ミキ、この人の書く文章キライじゃないかも」

岡部(この世界線での萌郁は人とも上手に接することができているし……幸せ、なのだろうか?)

岡部「それじゃ、そろそろ帰るとしよう。途中まで一緒に行くか?」

美希「一緒に行くの-!」

岡部「美希、そういう風に抱きついたりするのはアウトだからな?」

雪歩「そうだよぉ。美希ちゃんずるいよ……」

岡部「へ?」

雪歩「な、何でもないですぅ!」

岡部(途中で二人と別れてラボに向かったが、今日は誰も来ていなかった)

岡部(連絡してから来るべきだったな。ま、一人でくつろぐのも悪くはない)

岡部(ラボには765プロに関するものが大量に置いてある。ちょっと高いオーディオセットも買ってしまった)

岡部(さて、一人でのんびりライブのBDでも見るとしよう……最近でた竜宮小町のライブの奴にするか)

伊織・亜美・あずさ『キミが触れたから七彩ボタン』

伊織『全てを花咲かせたよ』

伊織・亜美・あずさ『どんなカナシミも洗い流す強さ、キミがボクにくれた――』

岡部(ライブBDも堪能したし、そろそろ帰るか)

ブラウン「お? 岡部じゃねーか」

岡部「ミスターブラウン!」

ブラウン「最近お前の765プロ……だったか? 大人気らしいじゃねぇか」

岡部「えぇ、おかげ様で」

ブラウン「そこでだ! このブラウン管工房とタイアップでもしてみねぇか?」

岡部(え?)

ブラウン「何鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてんだよ」

岡部(そういえば、この世界にはラウンダーいないんだよな)

岡部(こんな場末のブラウン管工房だけで食っていけるのか?)

ブラウン「何だかものすごく失礼な事を考えてる、ってのは分かるぜ」

岡部「とりあえず社長に相談しておきますね……それでは」

ブラウン「あ、ちょっと待て。やっぱ今のナシだ」

岡部「どうしたんです」

ブラウン「そんな金がないという事に気づいたぜ……」

岡部(ですよねー)

岡部「そこの角をまがって……あいてっ!」ドーン

「きゃっ……!」

岡部「すみません、大丈夫ですか……ってあなたは!」

萌郁「あ、岡部君……」

岡部「萌郁さんじゃないですか」

岡部(本人の前ではさんをつけているが、ものすごい違和感)

萌郁「あの、その……ご、ごめんなさい!」

岡部(やっぱり萌郁はビクビクしてるな……ってあれ?)

萌郁「あ……えっと、これは……と、とにかくごめんなさい!」

岡部「落ち着いて下さい」

萌郁「で、でも……ケバブが岡部君のかばんに」

岡部「落ち着けと言っているだろう萌郁」

萌郁「萌、郁……?」

岡部「ってケバブ? のわあぁああああっ!」

岡部「まぁこれぐらい洗えばなんとかなりますよ」

萌郁「岡部君、さっき萌郁って……」

岡部「あ……すみません呼び捨てにしちゃって」

萌郁「ううん、その方がいい……かも。今仕事中でもないし、敬語も使わない方が……」

岡部「そう言うなら、そうさせてもらうが」

萌郁「近くに私の家あるから、寄っていかない?」

岡部「はい?」

萌郁「かばん汚しちゃったし、お詫びしないと」

岡部(お詫び? まさかアレか、アレなのか?)

萌郁「何だかやらしいこと考えてる……」

岡部「やだなぁ、そんなわけないだろ? ははは……」

――萌郁の部屋

岡部「……カップ麺だ」

萌郁「カップ麺、苦手?」

岡部「いや、好物だ。いただきます」

萌郁「岡部君、気にならないの? いつもとは喋り方が違う、とか」

岡部「色々事情があるのだろう、聞かないさ。仕事の時にはちゃんとしているし、問題ない」

岡部(というか今までずっとそんな感じだったから、全然違和感ないんだよな……)

萌郁「私、人と話すのがすごく苦手……なの」

萌郁「仕事中はなんとか頑張ってるけど、いつ失敗するかって考えると、すごく……怖い」

岡部「それは萌郁だけじゃない、誰だってそう思うことはある」

岡部「俺だってそうだ。特にプロデューサー始めたばかりのころなんて、毎日ビックンビクン怯えてた」

萌郁「岡部君が……? こんなにしっかりしてるのに」

岡部「お前だって仕事中はしっかりしてるじゃないか」

萌郁「でも、仕事でもしょっちゅう怒られるし、私……やっぱり向いてないんじゃないかって」

岡部「今日萌郁が書いた記事を読んだんだがな、ウチのアイドルは喜んでたぞ」

岡部「もちろん俺もいい記事だと思った。だから、もっと自身を持っていいんじゃないか?」

岡部「それに俺だってよく怒られているぞ。主に閃光のデコ(シャイニング・フォアヘッド)からな」

萌郁「閃光の、デコ……? 閃光の……閃光の指圧師(シャイニング・フィンガー)?」

岡部「!」

岡部(まさかリーディング・シュタイナーか? いや、驚くことではあるまい。α世界線において紅莉栖もリーディング・シュタイナーに目覚めた時があった)

萌郁「なんだろ、今の言葉……よく分からないけど、何だか懐かしい」

萌郁「ねぇ岡部君……私達、765プロで会うよりずっと前に、どこかで出会ったことない?」

岡部「……いや、ないな」

萌郁「そう、だよね……ごめんね、変なこと言って」

岡部「いや、謝ることじゃないさ。さて……そろそろお暇するとしよう」

岡部「じゃあな」

萌郁「岡部君! また……会える?」

岡部「そりゃ会えるだろう。また記事を書いてもらいたいしな」

萌郁「そうじゃなくて、その……プライベートでも」

岡部「あぁ。構わないさ……最近立て込んでるから、なかなか時間が作れないけどな」

次の日――

岡部「千早の奴遅いな……もうすぐドラマの撮影に行く時間なのに」

岡部「電話やメールも反応がない」

美希「千早さん、まだ寝てたりして。ミキも眠いの……あふぅ」

春香「さすがに千早ちゃんがまだ寝てるなんて思えないけど……」

千早「ごめんなさい、遅くなりました!」

岡部「千早! 連絡ぐらいは……っておい、どうした!?」

美希「千早さん、顔真っ赤なの」

春香「おでこ、すっごく熱い……」

岡部(おでことおでこで熱を測る……なんてことはなく、普通に手をおでこにあてていた)

千早「大丈夫、ちょっとだけ熱があるぐらいだから」

春香「ちょっとだけ、じゃないよ千早ちゃん! 今日はもう休んだほうが……」

千早「それはできないわ」

千早「エキストラとかなら誰かが代わりなればいいかもしれないけど、名前がついた役をやるのよ。代役なんて出来ないわ」

千早「私一人の都合で撮影のスケジュールを遅らせるなんて、もってのほかだし」

岡部「分かった、行くぞ」

春香「プロデューサーさん!?」

岡部「本人がこう言ってるんだ、やらせるしかないだろう。幸いにも千早は明日オフだし、じっくり休んでもらう」

岡部「明日は一日自宅で休養しろ、守れるか千早?」

千早「もちろんです」

監督「カット! 千早ちゃん、調子がよくないのは分かるけど、やるって言ったからにはしっかりしてくれないか?」

千早「申し訳ございません監督!」

監督「とりあえず少し休憩してて。先に他のシーン撮るから」

千早「分かりました……」

岡部「はい、水」

千早「どうも。ごくごく……ぷはぁっ」

岡部「タオルも」

千早「ありがとうございます」

岡部「しっかり身体を休めておけよ。いつ呼ばれるか分からないからな」

千早「はい……」

千早「今朝、プロデューサーは私を止めると思いました」

岡部「なぜだ?」

千早「プロデューサーってよく言えば優しいですけど、悪く言えば甘いですから」

岡部「……止めて欲しかったか?」

千早「まさか。止めたりしたら反発して、這ってでも行くつもりでした」

岡部「俺は千早を信じているからな。千早がやるというなら、それを手伝うだけだよ」

千早「プロデューサー……」

監督「千早ちゃーん。そろそろさっきのシーン撮り直すから、準備しといてね!」

千早「は、はいっ!」

岡部(撮影は無事に終わった。監督も千早のことを褒めてたし、よかった)

岡部(だが千早はかなり疲弊しており、タクシーで一緒に千早の家に向かうことになった)

千早「ご迷惑おかけしてすみません……」

岡部「気にするな。お互い様だろ」

千早「ここが私の部屋です。今日はありがとうございました」

岡部「上がってもいいか?」

千早「え!?」

岡部「なぜ驚く。今の千早じゃ飯もろくに作れまい。だが何も食べないのはよくない。おかゆでも作ってやろうと思ったんだが」

千早「そんな、別に大丈夫です」

岡部「明後日までには元気になってもらわないと困る。というわけで入るぞ」ガチャ

千早「ダ、ダメですよプロデューサー!」

岡部「慌てふためくから、てっきり汚いのかと思ったら……ちゃんと片付いてるではないか」

岡部「これならいつ誰が来ても安心だな」

千早「よく春香や我那覇さんが来るので……でも男の人はプロデューサーが初めてです」

岡部「ほう、それは光栄だな」

千早「無理やり入った人が何を……」

岡部(無理やり挿入(はい)った人がナニを……?)

千早「鼻の下、伸びてますよ。もし変なことしたら、椎名さんに言いつけますからね」

岡部「それは勘弁してくれ。俺はまだ死にたくないのだ」

千早「未来ガジェット研究所の方には、ちゃんと顔を出してますか?」

岡部「あぁ。ラボでお前たちのライブをみんなでよく見てるぞ。結構いいスピーカーも買ったしな」

千早「そうなんですか? いいなぁ……私、マンションだからあまり大きな音では聞けないので、買っても仕方ないんですよね」

岡部(やっぱり音楽のことになると食いつきがいいな)

岡部「ならば今度ラボにこないか? 千早なら大歓迎だ」

千早「そうですね。機会があれば、ぜひ行きたいです」

千早「でも自分のライブを見るなんて……少し恥ずかしいですね」

岡部(千早の照れた顔……いいなぁ。めったに見られないが。いや、むしろそれがいいのか?)

岡部「おかゆ、できたぞ」

千早「ありがとうございます。いただきますね……熱っ!」

岡部「ぷっ……ほら、水飲め」

千早「ごくごく……はぁ。プロデューサー、今笑ったでしょう」

岡部「そりゃ笑うだろ。あのクールな千早が……おかゆ食べて熱っ! だぞ? あーはっはっは!」

千早「……えい」

岡部「もぐっ!? 熱っ! 水、水! ごくごく……ぷはぁっ!」

岡部「いきなり人の口におかゆを突っ込むな!」

千早「さっきのお返しです」

岡部「意外と子どもなんだな、千早は」

岡部(待てよ? 千早が口に入れたスプーン、そして千早が口をつけたコップ……こ、これでは関節キスではないか! )

千早「プロデューサー、何だか顔が赤いですけど……もしかして私の風邪がうつったんじゃ?」

岡部「あー、違うから気にしないでくれ。さっき関節キ……おっとなんでもない」

千早「……あ」

岡部(口が滑ってしまった)

千早「このHENTAI!」バシッ

岡部「いってぇええええっ!」

岡部「千早のビンタはなかなか強烈だな」

千早「すみません、つい手が……」

岡部「まぁ俺の発言が悪かったな、うん」

岡部「ところで……千早は一人でここに住んでるのか?」

千早「はい」

岡部「家族は……」

岡部(事務所のプロフには家族構成が一切書いてなかったんだよな……ってこれ地雷じゃないのか?)

千早「父と母がいます」

岡部「よかった……」

千早「? もしかして、家族がいないとか思ってました?」

岡部「あぁ。事務所のプロフにも家族構成が書いてなかったんでな……」

千早「せっかくだし、その理由も話しておきます」

岡部「いいのか?」

千早「プロデューサーも、その……それなりに信頼できる人になってきましたし」

千早「今からする話は他言無用ですからね」

岡部「もちろんだ」

千早「私の父は、科学者なんです。でも世間では色物科学者として見られていて……」

岡部「アイドルとしてのイメージが下がる恐れがあるため、か?」

千早「はい……」

岡部「なるほどな」

千早「父の名前はドクター中鉢。あ、本名は牧瀬章一です」

岡部「ドクター中鉢だと!?」

千早「ご存知なんですか?」

岡部(色物科学者ということは、きっとこの世界線でも今までと似たようなものだろうな)

岡部「タイムマシンを作るとか言ってたりするのだろう」

千早「そうなんですよ。最近は全然表舞台にはでてきませんけどね」

岡部「それじゃ、父親とはあまり仲がよくないのか」

千早「いえ、そんなことありませんよ。ライブにも都合がつく限り、母と一緒に来てくれますし」

千早「芸名を使うことを強く勧めたのも父なんですよ」

岡部「そうだったのか」

岡部(α世界線では父親と上手く行ってなかったみたいだが、ここでは違うんだな。よかった)

千早「優にも、見て欲しかったな……」

岡部「優?」

千早「あ……」

岡部「まぁ無理に聞いたりするつもりはないが」

千早「優は、私の弟です。さっき言わなかったのは……もう、亡くなっているから」

岡部「そう、だったのか」

岡部(紅莉栖には弟なんていなかったと思うが。世界線によって家族構成も変動するんだな)

千早「優は私の歌やダンスを聞いて、すごく楽しそうにしてくれたんです」

千早「でもある日、交通事故でなくなってしまって……あれからですね、父親がタイムマシンの研究を始めたのは」

千早「絶対にタイムマシンを作って、優を助けてやるからなって……泣きじゃくる私に何度も言ってくれたんです」

千早「タイムマシンは完成してないけれど、あの時の父の言葉がなかったら、立ち直ることができなかったかもしれないです」

岡部(ドクター中鉢……ただのいやみったらしい親父にしか見えなかったが、裏ではいろいろとあったんだな)

千早「私も、やっぱり科学者になって優を助ける為に父の手伝いをしようと思ったんです」

千早「でも父に止められまして。千早はアイドルになって、生き返った優を楽しませてやってほしい……と」

千早「そういえば優が産まれる少し前に、Dメ……じゃなくて、突然変なメールが届いたんですよ」

千早「信じられないでしょうけど、未来からメールが来たんです」

岡部「ははは。千早は面白いことを言うんだな」

千早「……そうだ。そのメールこそ、私がアイドルを目指すようになったきっかけ」

千早「それからお父さんがもう一人子どもが欲しいって言いだして、優が生まれた……」

千早「科学者としての後を継いでくれる人が、どうしても欲しかったみたいなんですよね」

岡部「さて、そろそろ寝た方がいいぞ」

千早「そうですね。薬も飲んだし」

岡部「俺は床で寝るよ」

千早「えっ、泊まっていくんですか!?」

岡部「夜中に千早の調子が悪くなったら困るからな。」

岡部「あと、もう終電がないんだよ……このままでは俺は野宿することに」

岡部(ラボで寝ればいいというのは内緒だ)

千早「それなら未来ガジェット研究所に行けばいいんじゃ……」

岡部(こいつ、俺の心を読んでやがる! フェイリスと似たような能力の持ち主か……?)

岡部「こんな暗くて寒い中を歩いては、俺まで風邪を引いてしまうぞ。いいのか?」

千早「……分かりましたよ。勝手にして下さい」

千早「でも床でなんて寝ないで下さい。そこにお布団入ってますから」

岡部「本当だ……しかし何故」

千早「春香とかがたまに泊まるんですよ。だから買っておいたんです」

岡部「つまりこれは春香が使った布団……ごくり」

千早「ちゃんと干してありますから。というかこれ以上HENTAI発言をするようなら、追い出しますよ?」

岡部「それはご勘弁願いたいな。いつ"機関"の攻撃を受けるか分かったもんじゃない」

千早「それじゃ、おやすみなさいプロデューサー」

岡部「おやすみ千早」

千早「プロデューサー! 起きて下さい、プロデューサー!」

岡部「Zzz……」

千早「遅刻しちゃいますよ。あなたはお仕事あるんでしょう?」

岡部「あとちょっとだけ……むにゃむにゃ」モミモミ

千早「なっ! どこを触ってるんですかーっ!」バシーン

岡部「げぼぁ!」

千早「次やったら、椎名さんに言いますからね?」

岡部「ごめんなさい。反省してます」

岡部(バスト72ってバカにされてるけど、それはとても柔らかくて、女の子なんだなぁ……って実感させられた)

千早「プロデューサー……?」

岡部「俺は決して千早の胸の感触を確かめたりなどしていないぞ、断じてだ!」

千早「あ、もしもし椎名さん? あのね、プロデューサーが……」

岡部「ストーップ! それはマジでシャレにならんぞ!」

千早「冗談です。ほら、早く支度をしてください」

岡部「あ、あぁ……寿命が十秒は縮まったぞ」

千早「ご飯作っておきましたよ」

岡部「おぉ! 千早、料理できたのか!」

千早「春香や我那覇さんに教えてもらったんですよ。お口にあうといいんですが」

岡部「いただきます」

岡部「…………」

千早「どうですか?」

岡部(なんというか、ものすごく普通。いや、普通ってすごいことなんだけどさ)

岡部(なんせラボメンガールズは料理できない奴らばかりだからな……るか子は料理できるけど)

岡部(だが男だ)

岡部「普通にうまいぞ、うん」

千早「よかった」

岡部「さて、それじゃあ行くとしよ……」ピリリリ

岡部「社長から? 何かあったのだろうか」ピッ

高木『岡部、今日入ってた仕事が急にキャンセルになってしまったんだよ。すまない』

高木『というわけで今日は君はオフだ。疲れをじっくり取ってくれたまえ』

岡部「そうなんですか? 分かりました、失礼します……」ピッ

千早「何の電話だったんですか?」

岡部「今日、オフになった」

岡部(なんかえらく都合がいいな……これも運命石の扉の選択か?)

高木「本当に彼の仕事を代わりにやるのかね律子君。君にも仕事があるだろう」

律子「えぇ。時間はうまくずれてますから」

小鳥「しかし驚きましたね、まさかプロデューサーさんが千早ちゃんの家にお泊りなんて」

春香「今日の朝、千早ちゃんからメールが来て驚きましたよ……」

亜美「兄ちゃんと千早お姉ちゃん、一日中お家で二人っきりか、いいなー」

真美「うんうん。真美、兄ちゃんと一日中ゲームやりたいよー」

亜美「だよねー。兄ちゃんゲーム下手くそだけど、リアクションがすっごく面白いもん!」

美希「ミキ、今から千早さんのお家に行ってきてもいい?」

律子「良いわけないでしょ? 美希、アンタこれから仕事じゃない。サボったりしたら岡部君に失望されるわよ?」

美希「そ、それはイヤなの。ミキ、お仕事行ってくるね!」

岡部「だいぶ顔色よくなってるな」

千早「えぇ……明日には仕事もちゃんとできそうですね」

岡部「さすが千早だな」

千早「…………」

岡部「…………」

岡部(そろそろ話題が尽きそうなんだが。女の子と二人っきりってのはどうも苦手だ)

千早「あの、プロデューサー」

岡部「ん?」

千早「プロデューサーは、何で私にここまでよくしてくれるんですか?」

岡部「そりゃ俺が千早のプロデューサーだからだろ」

千早「でも他の子達とは、どこか接し方が違う気がします」

千早「他の子よりもより厳しく、でもより優しく……そんな風に感じられます」

岡部「それが事実だとして、何か問題でもあるのか? 悪いことではないと思うのだが」

千早「そうですね。でもプロデューサーは私じゃなくて、私の後ろにいる誰かを見ている……そんな気がします」

岡部(……鋭いな)

岡部「そんなことはないぞ。いきなりどうしたんだ千早」

千早「ごまかさないでください」

岡部「ごまかす? 俺はちゃんと千早の事を見て……」

千早「プロデューサーは、私に科学者である牧瀬紅莉栖を重ねて見ているんでしょう!」

岡部「なっ!?」

千早「今まで隠していてごめんなさい。私、聞いていたんです。あなたがフェイリスに全てを話しているのを」

岡部(何ということだ……)

千早「椎名さんを助けるために何度も時間を巻き戻したり、数多くの世界線を渡り歩いた……」

岡部「そうか、迂闊だったよ……。なぜあの場に千早がいるという可能性を、考慮できなかったんだろうな」

千早「あなたが私に積極的に接してきたのは私のためなんかじゃない。全部自分のため」

千早「だから私はあなたとあまり関わり合いたくなかったんです」

千早「なのに、あなたはそんな事は関係なしに、どんどん私に関わってくる。でも次第に、一緒にいるのが……うれしくなって」

千早「その感情は自分に向けられてるのではないと、分かっているのに」

岡部「千早……俺は、プロデューサー失格だな」

岡部「一番近くで見ていると思ってた。一番お前のことを分かっていると思ってた」

岡部「でも、それはただの思い上がりだったんだな」

岡部「お前がこんなに苦しんでいるのに、俺は気づいてやれなかった……すまない」

岡部「千早と出会ったばかりの頃は、確かに科学者である紅莉栖の姿を重ねていた」

岡部「千早のことを、紅莉栖って何度も言いかけていたぐらいだしな」

岡部「でも今は違う。俺は千早に紅莉栖を重ねてたりはしない」

千早「口では何とでも言えます」

岡部「そうだな。だがそもそも、重ねてみるなんて出来る訳がなかったんだよ」

岡部「千早と紅莉栖は元は同じ人間だとしても、成長するまでの過程が大きく異なる」

岡部「幼少期における経験などが、人間としての人格形成に大きく影響を与えると言われているのは有名な話だろう?」

岡部「如月千早と牧瀬紅莉栖では、あまりにも別人すぎるんだ」

千早「それで、別人だと分かったらポイ捨てですか?」

岡部「はぁ? 何を言ってるんだ。俺が千早を捨てたりするものか」

千早「記者の桐生さんと、夜遅くに歩いてたじゃないですか!」

岡部(見られてたのか……)

岡部「桐生萌郁は……詳しくは言えないが、以前の世界線で顔見知りだったんだ」

岡部「それだけの話だ、そこに他意はない」

千早「でもフェイリスとの話には、出て来ませんでしたよ」

岡部「全てを話したとは言っても、本当にすべてを話せるわけ無いだろう」

岡部「俺は何十回……いや、何百回も時間を巻き戻しているんだからな」

千早「確かに……」

岡部「それに、お前をポイ捨てなんてするような奴が、せっかくのオフを潰してまで看病なんてするものか」

岡部「俺は科学者である牧瀬紅莉栖が大好きだ」

岡部「だが、アイドルである如月千早も……大好きなんだよ」

千早「えっ、そそそ、それって……告白、ですか?」

千早「あ、待ってください。椎名さんのことはどう思ってるんですか?」

岡部「まゆりか? そりゃー、大好きだぞ。うん」

千早「ちょっと、それじゃ二股ってことじゃないですか!」

岡部「いや、そもそも俺は恋愛感情としての好きとは一言も言ってな……」

千早「言い訳なんて許しません。誰が一番好きなのか、よーく考えておいてくださいね」

数ヶ月後――

亜美「これが最後の戦いだ! 平たい胸全開!」

亜美・真美「いっけぇえええ! キサラギィイイイッ!」

千早「…………」

亜美「千早お姉ちゃん、無視しないでよー」

真美「そうだよー、真美たちノリノリだったのにナエナエになっちゃうよー」

千早「くっ……なんで私がロボットの声優なの。しかもツルペタ万歳って何よ……」

律子「私もよ。なんなのリッチェーンって……」

伊織「私はなかなかいい感じの役でよかったわ。伊織ちゃんにふさわしいわ、にひひっ♪」

響「自分、ものすごく噛ませ犬っぽいさ……」

ttp://www.youtube.com/watch?v=gF0DON1ExJI#t=0m19s

高木「まさか765プロの皆がメインの映画が、製作されることになるとはね……」

小鳥「台本もらって、みんな楽しそうですねぇ。あら、羨ましそうに見てますねぇプロデューサーさん」

岡部「う、羨ましくなんかないですよ! ハルシュタイン閣下とかかっこいいなーとか思ってません、断じて!」

春香「プロデューサーさんも一緒に練習しませんか?」

岡部「いや、俺は出番なんてないんだが……」

春香「練習なんだし、細かいことはいいじゃないですか。ほら、行きましょう!」

春香「恐れ!」

岡部「ひれ伏し!」

春香「崇め奉りなさいっ!」
岡部「崇め奉るがいいっ!」

亜美「おぉ! 息ぴったり!」

真美「こりゃー真美たちも負けてられないっしょ!」

千早「プロデューサー、今度は私と一緒に……」

岡部「いや、千早はロボの声優だろう。ちょっと無理じゃないか?」

千早「くっ……」

千早(いつまでも……いつまでも、こんな楽しい日々が続くと思っていた)

千早(しかしそれは儚い幻想だった)

千早(幸せというものは、わずか一瞬で壊れるものなのだ)

千早(私は、身を持ってそれを実感することになる――)

数ヶ月後――

高木「なんということだ……」

小鳥「やられましたね」

岡部(事務所の机に置かれてるのは『如月千早、熱愛発覚!?』という見出しが書かれた雑誌のページ)

岡部(載っている写真は、俺が千早を看病するために部屋に入った時のものだろう)

岡部「完全に俺の失態です。本当に申し訳ございません!」

高木「あの時の如月君を一人で返すのは危険だった。君の判断は間違っていない」

小鳥「でもこれってだいぶ前のものですよね? なぜ今頃になって……」

律子「おそらく765プロが更に人気になると踏んで、そのタイミングを狙っていたのでしょう」

高木「おそらく違うと思うが、念のために黒井に連絡して」プルルルル

小鳥「はい765プロです。あ、黒井社長!」

黒井『今回の件だが、私は何も知らないぞ!』

小鳥「はい、社長もそう判断していますから、落ち着いて下さい」

黒井『765プロに何かしたらあの女が……ひぃいいいっ!』

黒井『む、ななななぜキサマがここにいる!? 今回の件は私ではないぞ!』

小鳥「あの、黒井社長……?」

黒井『ほ、本当だとも! なに? それならなんとかしろ? わ、分かった……出来る限りの火消しをしよう』

黒井『だがこれだけ鮮明な写真があっては、厳しいかもしれんな』

まゆり『あ、765プロさんですか? ダルくんや黒井社長にいろいろお願いしておいたのです。それじゃー』ガチャ

小鳥「切れた……あ、どうやら黒井社長が火消しに強力してくれるみたいです」

小鳥「あとダルって誰だろ? ダルビッシュ……なわけないか」

岡部(クソッ! 俺がもう少し注意してれば……)プルルルルルルル

小鳥「はい765プロです。あ、その件はただいま確認中でして……はい、申し訳ございません」

岡部(大量にある電話が引っ切り無しになり、小鳥さんたちが懸命に対応している)

岡部「そういえば千早は!?」

小鳥「困ったわね。事務所の周り、完全に囲まれてるわ」

律子「千早の自宅も張られているでしょうね。完全に後手にまわってしまったわ……」

千早「遅くなってごめんなさい!」

岡部「千早!?」

萌郁「自宅が囲まれていたから、車で強行突破してきました……危うく引くところだったけど」

岡部「萌郁!」

高木「君は桐生君……助かったよ」

萌郁「765プロにはお世話になっていますので、これぐらいは」

千早「私のせいでこんなことに……本当に、申し訳ございません。謝って済むことでは、ありませんが」

律子「あまり思いつめないで千早。時間が経てば、みんなすぐに忘れるわ」

岡部「今は知らぬ存ぜぬで通して耐えるしかない、か……」

岡部(今日は事件の処理などをして仕事が終わった)

岡部「すっかり遅くなってしまったな……早く家に帰ろう」

「岡部倫太郎だな?」

岡部「!」

「よくも千早を汚してくれたな……死ね!」ヒュン

岡部(ナイフ!? だがラウンダーの連中と比べたら、素人の動きだな。軽くかわせる)

「なにっ!?」

岡部「使い方がなってないな、素人の動きだ」

「くそっ、あたれ!」ヒュンヒュン

岡部(しかし、いつまでもかわし続ける自信はない。手刀でも入れて眠ってもらおう)

岡部「はっ!」ドスッ

「バ、バカめ……」バタリ

岡部「? 負け惜しみか……うぐっ!」ブスリ

岡部(背中からナイフを……? クソッ、一人じゃなかったのか!)

岡部「ガハァッ! ゲホッ、ゲホッ……」

岡部(地面に俺の血がこぼれ落ちていく。だめだ、意識が――)

ごはん。30分ぐらい席を外します
落ちたら>>311のスレタイで立て直します


次の日――

高木「遅いな、岡部君。今の765プロには彼の力が必要だというのに」

律子「どこのニュースも千早のことやってま……え?」

アナウンサー『……において、男性が刺されているのを発見。すぐさま警察に通報したようです』

アナウンサー『なお、死亡したのは芸能事務所765プロ所属のプロデューサー、岡部倫太郎(19)と見られています』

小鳥「嘘……」

真「なんで、なんでプロデューサーが……!」

雪歩「うぅ、プロデューサー……ぐすっ」

あずさ「こんなの、あんまりでしょ……?」

やよい「もう、プロデューサーに会えないんですか? そんなの、そんなの悲しすぎます。うぅ、うわぁああああんっ……!」

真美「兄ちゃん、今度一緒にゲームするって約束したのに……」

千早「私の、私のせいだわ……」

春香「違う、絶対に千早ちゃんのせいなんかじゃない!」

亜美「そうだよ。千早お姉ちゃん、何も悪いことなんてしてないじゃん!」

貴音「自分を追い詰めてはなりません、千早」

響「そうだぞ……そんなことしたら、プロデューサーも悲しむぞ」

伊織「一体どこのどいつが……許せない。水瀬財閥の総力をあげて探して、ギッタンギッタンにしてやる」

美希「絶対に、絶対に許さないの……」

――ラボ

まゆり「なんで、なんでオカリンが死ななくちゃいけないの!? なんで、なんで……」

ダル「やっていいこと悪いことがあるだろ……何でそんなに簡単に人を殺せるんだよ。ちくしょう……ちくしょう!」

るか「岡部さん、岡部さぁん……ぐすっ」

フェイリス「キョーマ……キョーマの仇は、フェイリスが取るからね。どんな手段を使ってでも」

数日後――

高木「あれから、765プロはボロボロになってしまったな……」

小鳥「ショックから立ち直れずに、まともに活動が出来ない子が大勢いますからね……」

美希「おはようございますなのー!」

小鳥「美希ちゃん! もう大丈夫なの……?」

美希「うん、もう休んでる暇なんてないの。だってね、美希にはたくさんお金が必要だから」

小鳥「美希ちゃん……?」

美希「お金集めてね、ハニーを殺したやつを探しだしてもらうの。それで、ミキの手でそいつを……」

美希「あ、今のは他のみんなにナイショだよ?」

真「おはようございます。あ、美希!」

美希「真君、おはようなのー。真君はいつ頃から事務所に来てるの?」

真「おとといだよ。いつまでも落ち込んでたら、プロデューサーに申し訳ないと思って」

真「プロデューサーのおかげでここまで有名になれたんだし、もっと頑張らないと」

美希「さすが真君、強いんだね」

春香「おはようございまーす! あ、来てくれたんだね美希」

美希「春香、おはようなの。昨日までに、他には誰が来てるか分かる?」

春香「律子さんと貴音さんかな」

美希「そう……あんまり来てないんだね」

小鳥「無理も無いわ。あんなことがあったんだもの……」

高木「如月君が特に心配だ。まったく連絡が来ない」

――千早の家

千早「この坂道をのぼる度に、あなたがすぐそばにいるように……感じてしまう」

千早「私の隣にいて、触れて欲しい」

千早「遠いかなたへ旅だった、私を一人置き去りにして」

千早「側にいると約束をしたあなたは……嘘つきだね」

ttp://www.youtube.com/watch?v=4TbCw5_hP8k

千早「プロデューサー、早く帰ってきてください」

千早「あなたがいないと私、何もできないんですよ……?」

千早「大好きって言ってくれたのに……それで終わりだなんて許しませんよ」

千早「プロデューサーが寝た布団……まだ、少しだけプロデューサーの匂いが残ってる」

千早「私に悪いところがあったら直します。言われたことは何でもします」

千早「だからお願い……帰ってきて、帰ってきてよ……!」

千早「…………」

千早「分かってる。プロデューサーは、もう帰ってこないって」

千早「私が殺したようなもの、よね」

千早「あの日、私が熱をだなさければ、熱があるのに仕事に行ったりしなければ……こんなことにはならなかった」

千早「そう。私なんかが、いなければ……」

千早「…………」

千早「今からそちらに行きます、待っててくださいね、プロデューサー」

ダル『オカリン、行け! もうもたねー!』

紅莉栖『あうっ……!』

岡部『紅莉栖!?』

紅莉栖『岡部っ! 本当にいいの!?』

紅莉栖『タイムリープしてもいいの!? ねぇっ!』

岡部『やれ、紅莉栖! マシンを動かすんだ!』

岡部『跳べよぉおおおおおおおおおおっ!』

千早「なに、今の光景……?」

千早「もしかしてこれが、リーディング・シュタイナー?」

千早「タイムリープ、マシン……」

千早「そうだ。時間を巻き戻せば……また、プロデューサーに会える!?」

――ラボ

千早(ここに来るのは初めてね。プロデューサーと一緒に来たかったな)

千早「すみません、どなたがかいらっしゃいますか?」コンコン

まゆり「オカリン!?」ガチャ

千早「椎名さん……」

まゆり「あはは……そんなわけないよね。いらっしゃい千早ちゃん。何かご用かな?」

千早「電話レンジ(仮)を見せてもらえないかしら」

まゆり「なにそれ?」

千早(そうか。この世界線の椎名さんは知らないのね。おそらく橋田さんも……)

千早「とりあえず、上がってもいいかしら?」

まゆり「どうぞ。まゆしぃ以外誰もいないけど……」

千早「橋田さんは?」

まゆり「オカリンがいなくなってから、ずっと来てないんだ……」

千早「そう……。あら、これは……」

まゆり「電子レンジがどうかしたの?」

千早(きっとこれが電話レンジ(仮)……タイムリープマシンはなくても、これを使って世界線を変えれば……)

千早(……駄目だわ。それでは、プロデューサーの今までの苦労が水の泡)

千早(だって、世界線を渡り歩いたプロデューサーはすでに死んでしまっている)

千早(今Dメールで世界線を変更したら、例えプロデューサーが生きていても……

千早(それは、世界線を渡り歩いたプロデューサーではない。おそらく何も知らないでしょうね)

千早(それだけは絶対に駄目。何百回もタイムリープをしてきたプロデューサーの存在を、なかったことにしてはいけない)

千早(ならば、やはりタイムリープマシンが必要になる)

千早(タイムリープマシンで過去に戻り、世界線を渡り歩いたプロデューサーがいる状態で、別の世界線に移動する)

千早(これしか方法はない)

千早(待って。でもこのタイムリープマシンは……SERNが存在したから、使えたんじゃない!)

千早(難しいことはよく分からないけれど、SERNのブラックホールだか何だかを利用して記憶を小さくするのよね)

千早(そして小さくなった記憶を過去に送る……つまりそのブラックホールがないと、タイムリープはできない)

千早(でもプロデューサーの話によればこの世界線にはSERNが存在しな……違う、そんなことは言っていない)

千早(あくまで、SERNがディストピアを築いていないというだけ。ならばまだ可能性は残っているはず!)

フェイリス「チヒャー」

千早「フェイリス……なぜここに?」

まゆり「千早ちゃんが何だか難しそうなことを考えてそうだから、まゆしぃが呼んでおいたのです」

ダル「僕もいるのだぜ」

千早「橋田さん……」

ダル「全部、フェイリスたんに聞いた。これはうじうじしてる場合じゃないっすな」

まゆり「全部って?」

フェイリス「マユシィにも今から教えてあげるのニャ」

千早「橋田さん。ここの回線が……」

ダル「SERNと直接繋がっているかどうか確かめろですね、分かります。さっそくやるとしますか」

千早(お願い、繋がっていて……!)

ダル「ビンゴ! マジで直通じゃん。うはwwwこれやりたい放題じゃねwwww」

千早「橋田さん……?」

ダル「ジョ、ジョークだお。そんなに怖い顔で見つめられるとビクンビクンしてしまいます」

千早「…………」

ダル「反省してます、すんませんっした!」

千早「どう、ブラックホールだか何だかは使えそうなの?」

ダル「うーん、出来ないこともないけど……いくら僕でもかなり時間かかるぜ」

千早「ありがとう、橋田さん!」

ダル「ちょ、いきなり抱きつかれたら胸があたって……あれ、あたってない? あいてっ!」ドゴッ

千早「おだてようとした私がバカでした」

フェイリス「……と、要点をかいつまんで話すと、こんな感じニャ」

まゆり「オカリンが、まゆしぃのために……?」

千早「ちょっと嫉妬しちゃいますね、椎名さんに」

まゆり「えへへ……」

フェイリス「あとチヒャー、チヒャーのパパさんに連絡してくれるかニャ?」

千早「え……なぜ?」

フェイリス「自分のパパの職業を忘れたのかニャ?」

千早「あ……!」

中鉢「なるほどな……まさか、そんなことになっているとは」

中鉢「すまなかった。いくらマスコミが騒いでるとはいえ、すぐに駆けつけてやるべきだったのに」

中鉢「紅莉栖……いや、千早と呼ぶべきか?」

千早「紅莉栖って呼んで」

中鉢「分かった。しかしSERNが見にブラックホールの生成に成功したというのは、以前話題になったが……それを利用するとは大胆な作戦だ」

中鉢「だが待てよ? タイムマシンが完成したら、SERNが未来を牛耳る可能性がでてくるのではないのか?」

フェイリス「キョーマは、世界線変動率が大きく変わる分岐点は2010年にあるって言っていたニャ」

フェイリス「だから今より何年も先にタイムリープマシンを作れば、世界線が大きく変わることはないはず……」

千早「万が一SERNが未来を牛耳るような世界線になったら、その時点でプロデューサーは今までのプロデューサーはなくなるわね……」

ダル「どれだけ世界線が変動すると、個人の脳みそが変わっちゃうんだろうな」

フェイリス「キョーマの話からすれば多少の変動なら大丈夫みたいニャんだけど……具体的な数値は分からないニャ」

千早「そもそも、私達には世界線変動率を確かめる術がないわ」

まゆり「一歩間違えたら、こうやってオカリンの事を考えているまゆしぃ達も、消えちゃうんだね。何だか怖いな……」

千早「そう。私達が今からやることは、世界線を大きく動かしかねない行為」

千早「それでも私は……こんな結末、絶対に認めない」

ダル「オカリンいないと静かすぎてつまんねーしな」

中鉢「紅莉栖が世話になったようだしな、岡部君とやらには」

中鉢「何より娘が助けを求めているのだ。娘を助けるのに理由は必要あるまい」

まゆり「まゆしぃは難しいことは分からないけれど……オカリンと一緒にいたいのです」

数年後――

千早「これが、タイムリープマシン……」

中鉢「フッ、とうとう念願のタイムマシンが出来たのだな」

フェイリス「クーニャンはあっという間に完成したのに……結構時間がかかったニャン」

中鉢「α世界線の紅莉栖が優秀すぎるだけだろう。それに、すぐに作り始めるわけにはいかなかったからな」

ダル「あと、α世界線のマシンとは違って、ニ日しか戻れないという制約がないお。格段にパワーうpしてる」

フェイリス「そうだったニャ。ごめんニャ……」

――事務所

小鳥「はぁ。かつての栄光が懐かしいですね……」

高木「何を弱気になっているんだね音無君。私は信じているぞ。彼女たちなら、きっと再びトップアイドルに戻れると……」

春香「ただいま帰りましたー!」

真「ふぅ、今日も疲れたなぁ」

貴音「えぇ、早くかっぷらぁめんを……」

小鳥「おかえりなさい、みんな」

高木「疲れているだろう。どれ、天海君の肩を揉んであげよう」

春香「きゃっ! くすぐったいですよ社長ったらぁ」

真「貴音? どこを見ているんだい?」

貴音「プロデューサーが居た時の事務所の方を、見ていたのです」

真「懐かしいね。大きなビルだったなぁ。まぁ僕は今のおんぼろ事務所、嫌いじゃないけどね」

春香「前の事務所は……今の私達には広すぎるかな。この事務所でさえ、広く感じるぐらいだもん」

真「みんな、いなくなっちゃったもんね」

小鳥「あの時と比べると、お給料もすごく下がっちゃって……美希ちゃんは別の事務所に行ったわね」

貴音「そして律子は結婚して退社……羨ましいものです」

小鳥「結婚は、もう諦めてるわね……」

高木「まだまだ3X歳ではないか」

小鳥「全然フォローになってませんよ、社長」

貴音「他の皆はどうしているのでしょう……」

真「分からない……。プロデューサーが亡くなった直後は連絡取り合ってたけど、今は音沙汰なし……」

春香「あ、昨日……千早ちゃんにあったよ。何だかすごく嬉しそうなかおしてた」

春香「ようやくプロデューサーに会える! とか言ってたよ。話しかけようとしたんだけど、いつの間にか居なくなってたんだ……残念」

真「それ、かなりヤバイんじゃないの……?」

貴音「プロデューサーは、遠くへ行ってしまいました。私達が会うことは、もう二度とないのです」

小鳥「もしかして千早ちゃん、死ぬつもりじゃ……」

春香「うーん、私もそう思ったんだけどね……千早ちゃんのメはすごく輝いてた。だから、きっと大丈夫だと思う」

高木「如月君と付き合いの長い君がそういうのなら、きっとその通りなのだろう」

高木「そういえば、こんな事を言うのはあれなんだが……なぜ君たちは別の事務所への移籍をしないんだね?」

真「やだなぁ社長、決まってるじゃないですか」

貴音「愚問ですね、高木殿」

春香「そうそう。私たちは……」

真・貴音・春香「この事務所が大好きだからです!」

まゆり「世界線の大きな変動は起きなかったんだね、よかった……」

中鉢「うむ……多少は変化してるだろうがな。そもそも、世界線は常に変動しているもののような気がするぞ」

ダル「あとはこれで過去に戻れば……頼むぞ、ちーちゃん」

千早「えぇ。ありがとう橋田さん」

まゆり「オカリンにボディガードつけてね?」

千早「分かってるわ、まゆり」

フェイリス「仕事、やっちゃだめニャよ?」

千早「そうね。あれが全ての元凶なのだから……」

中鉢「手を尽くしても駄目だったら、おそらく世界線は岡部君が死ぬという結果に収束するだろう」

中鉢「タイムリープマシンの作り方は頭に叩きこんだな?」

千早「大丈夫よ、お父さん」

千早「それじゃ……行ってきます」

数年前――

岡部「千早! 連絡ぐらいは……っておい、どうした!?」

千早「…………」

千早(戻って来れたのね、この日に)

美希「千早さん、顔真っ赤なの」

春香「おでこ、すっごく熱い……」

千早「そうね、ごめんなさい。今日はお仕事、休んでもいいですか?」

岡部「そうだな、先方には俺が謝罪しておく。一人で帰れるか?」

千早「はい。明日はオフですし、じっくり身体を休めることにします」

――千早の家

千早(まずは手はず通りフェイリスさんに連絡を……)

フェイリス『チヒャー? どうかしたのかニャ?』

千早「フェイリス、私……タイムリープで未来から戻って来たの」

フェイリス『ニャッ、ニャんですとー!?』

千早「次にメイクイーンで行うイベントは男装執事喫茶」

フェイリス『ニャッ、ニャぜそれを!』

千早「未来のあなたに聞いたのよ。未来から来たという証拠のためにね」

フェイリス『ニャるほど……それで、チヒャーは何のためにタイムリープをしてきたのかニャ?』

千早「それは……」

フェイリス『そんな、キョーマが!?』

千早「えぇ。だから彼のにボディガードをつけて欲しいの。あと何か起きた時にマスコミを封殺する用意も」

フェイリス『分かったニャ。チヒャーはどうするのかニャ?』

千早「プロデューサーが誰かとふたりきりで帰ろうとしたら阻止する」

千早「とにかくスキャンダルになりかねないことが起きないように、注意するわ」

千早「嫌われるかもしれないけれど……それでプロデューサーが助かるのなら、お安いものね」

数ヶ月後――

千早(プロデューサーは、死んでしまった)

千早(以前殺された時と同じ日に……)

千早(警護は完璧だった。周囲に怪しい人物はいなかった)

千早(スキャンダルなんてまったく起きていない)

千早(でも、交通事故なんて……防ぎようがないじゃない)

千早(ううん、そんなことはない。そうよ、あの日だけ事務所にずっと居てもらえばいい)

千早(みんなに相談して、もう一度タイムリープマシンを作らないと……)

3回目。プロデューサーはすっ転んだ春香にぶつかり、勢い余って机の角に頭をぶつけて死亡。

4回目。プロデューサーにはずっと座ってもらうことにした。しかし春香が料理をしているときに包丁がすっぽ抜け、プロデューサーに刺さって死亡。

5回目。春香には悪いけど早めに帰ってもらった。プロデューサーはもちろん座らせている。
      しかしトイレに行きたいと言い出したプロデューサーを止めることが出来なかった。トイレに行く最中に転んで死亡。

6回目。トイレに行きたいと行った所で尿瓶を渡した。しぶしぶ承諾してくれたものの、
     大きな方がしたくなった時に対処できず、トイレに行かせてしまい……途中で転んで死亡。

7回目。申し訳ないのだけれど、完全に動きを封じさせてもらった。でも……心臓麻痺で突然死。どうやって対処すればいいの!?

千早(心臓麻痺。これはもう……打つ手なし、ね)

千早(プロデューサーの死は、確定事項だと認めるしかないわ)

千早(ならばもう、世界線を大きく移動するしか……方法はない)

千早(でも、それをするということは……)

千早(プロデューサーと私達との思い出が、なかったことになってしまう)

千早(でも、それしかプロデューサーが助かる道がないのなら……)

千早(…………)

千早(それに、プロデューサーだけは覚えていてくれる)

千早(例え私達がすべてを忘れたとしても)

千早(プロデューサーに私が体験してきた全てを話しましょう。再びタイムリープをして……)

岡部「この世界線では俺がその日に死亡するということが、確定しているんだな?」

千早「はい。何度も、何度も時間を巻き戻したけれど……駄目でした」

岡部「だが、俺が死ぬだけで済むのなら……」

千早「プロデューサー。それ、本気で言ってるんですか!?」

千早「私はあなたを死なせないために、何度も過去に戻ってきたんです」

千早「今のあなたの発言は、その想いを踏みにじる言葉ですよ……」

岡部「……!」

岡部(俺は何てことを言ってしまったんだ)

岡部(千早同様、俺も大切な人を助けるために何度もタイムリープしてきたというのに)

岡部(なぜ、その想いを踏みにじるようなことを……)

岡部「すまない。軽率な発言だった……」

千早「次に言ったら、許しませんからね」

岡部「この世界線もダメなのか……どうすればいいんだ」

千早「何か抜け道があるかもしれない。諦めるのは早いですよ」

岡部「早い? 俺はな……数えきれないほどタイムリープをしてきたんだぞ」

岡部「それなのに、このザマなんだ。全員の身に何も起こらずに済むなんて、望みが高すぎたんだよ……」

千早「…………」

千早「岡部さん、教えてください。あなたが体験してきたことのすべてを」

岡部「フェイリスから聞いたのではないのか?」

千早「えぇ。でも全てを話せたわけではないと、未来のあなたは言いました。言っていない所に、何かヒントになるようなものがあるかもしれません」

岡部「……いいだろう」

岡部「すべての始まりは、ラジ館……秋葉原のラジオ会館だ」

岡部「俺はそこで行われる、ドクター中鉢のタイムマシン記者会見を見に行った」

千早「お父さんの……」

岡部「だが彼の会見は正直、残念なものだった。だから俺は途中で席を外した」

岡部「その後、何者かの悲鳴が聞こえた。俺は急いで悲鳴の方向へ向かったんだ」

岡部「そうしてそこで見たのが、血にまみれて倒れる牧瀬紅莉栖だった」

岡部「恐ろしくなった俺は急いでラジ館から逃げ出した。そしてダルにメールを送ったら、その瞬間……眼の前の景色が消え去った」

岡部「そして、気づいたらラジ館の外に居たんだ」

千早「それが初めてのDメール……」

岡部「あぁ」

千早「ひとつ気になることがあるわね」

岡部「ん?」

千早「私って、本当に死んでたのかしら?」

岡部「あれだけの血が出ていたら、まず死んでいると思うが……」

岡部「いや、恐ろしくなってすぐに逃げたから……絶対に死んだとは言い切れないな」

千早「それなら、私が死んだように見せかければ……」

岡部「見せかける?」

千早「確定した出来事は変えられない。でも、β世界線で私が死ぬことは確定事項ではない」

千早「血まみれで倒れていた……確定してるのはそれだけ」

岡部「つまり、何らかの小細工をして……紅莉栖を死んだように見せかけ、それを俺に目撃させる……ということか!」

岡部「しかしそれは無理だ」

岡部「世界線を超えて記憶を継続できるのは俺一人」

岡部「だがそれでは、紅莉栖に細工をすることが出来ない」

岡部「Dメールを使えば過去に干渉できるが、使ったらα世界線に戻ってしまう」

千早「それなら、タイムマシンを使えばいいんじゃ。タイムリープマシンじゃなくて、正真正銘のタイムマシンを」

千早「タイムマシンを用いて、未来から過去に直接干渉する」

千早「エシュロンとかいうのは通信傍受システムよね。それなら、物理的なタイムトラベルを監視するのは無理じゃないかしら?」

岡部「待ってくれ。タイムマシンなんて、どうやって作るというのだ」

千早「私、α世界線ではタイムマシンの母って呼ばれてるんでしょう?」

岡部「それはそうだが、だが今のお前は科学者ではない」

岡部「タイムリープマシンを作ったとは言え、α世界線の紅莉栖ほどの能力があるかは分からない」

岡部「それに、β世界線ではお前の力なんて借りれないじゃないか。だってお前は……」

千早「そう。だから岡部さんと橋田さんに、タイムマシンを作ってもらわないといけない」


千早「幸い、時間は無限にあるのだし……今からありとあらゆる学問について学ぶとしましょう」

岡部「時間だと? この世界線では俺の命はさほどないだろう……というか、いきなり勉強の話ってどういうことだ?」

千早「プロデューサーには寿命ぎりぎりまで勉強してもらって、タイムリープで戻ってきてもらいます」

千早「そしてひたすら勉強をする。もちろん、たまには息抜きも必要ですが」

千早「何度繰り返すことになるかは分かりませんが、なんとかして物理的なタイムマシンを創り上げる」

千早「タイムマシンを作ることができたらα世界線へ戻り、β世界線に行きましょう」

千早「β世界線についたら、再びタイムマシンを作ってください」

岡部「そんな無茶苦茶な……」

千早「無茶苦茶じゃありませんよ。α世界線では遅くとも、2036年にはタイムマシンが完成しているんですよね」

千早「無限に時間があれば、何とかなると思いませんか?」

岡部「だが俺は素人もいい所で……」

千早「最初は誰でも素人です。プロデューサーは明日死ぬ、というわけでもないんですし」

千早「正直嫌ですけど、SERNに入社して最先端の科学を学ぶ……そういった手段もありますね」

岡部「フッ、なかなか言うではないか千早。そうだな……では、再び終わりの見えない旅を始めるとしよう」

岡部(俺は、何度タイムリープを繰り返したのだろう)

岡部(最初は回数を数えていたが、千を超えたあたりで数えるのをやめてしまった)

岡部(ある時は大学で学び、ある時は研究所で学んだ)

岡部(SERNにも非常に長い間、勤めていたな……)

岡部(吐き気がする行動だったが、SERNに勤めなければタイムマシンは完成しなかっただろうな)

岡部(まぁこの世界線のSERNはディストピアなんて作ってないんだが、やはりα世界線でのことを考えると嫌悪感を抱いてしまう)

岡部(…………)

岡部(千早にはどれだけ世話になったか分からないな)

岡部(休むことも必要だからと、彼女と様々な場所にでかけたりもした)

岡部(しかし……その生活にもとうとう終止符を打つ時が来たようだ)

千早「タイムマシン、完成したのね……」

岡部「あぁ……気の遠くなるほどの時間をすごして、ようやくたどり着いたのだ」

岡部「やっと……悲しみのない世界に行けるんだ!」

千早「ねぇ、プロデューサー。最後にひとつ……お願いしたいことがあるの」

岡部「何だ? 何でも言ってくれ!」

千早「その……デート、してくれますか?」

岡部「千早?」

岡部「そうか、これでお前とは……」

千早「そんな悲しそうな顔をしないでください。これは、私が望んだことなんですから」

岡部「…………」

岡部「どこに、行こうか?」

千早「今までお世話になったみんなに、お礼を行って言いに行きましょう」

岡部「それは果たしてデートと言えるのだろうか?」

千早「デートで一番重要なのは……どこに行くかじゃなくて、誰と行くかですよ」

岡部「なるほど……確かに、その通りだな。千早と二人で行くなら、どこへ行くとしても楽しいに違いない」

千早「プロデューサー」

岡部「ん?」

千早「今日だけ、岡部君って呼んでも良いですか?」

岡部「……っ!」

千早「嫌、でしたか……」

岡部「フ、フッハッハ! そ、そんなワケがないだろう。ちょっとドキッとしたとかそんなんでもないぞ!」

千早「……ぷっ! 本当にプロデュー……じゃなくて、岡部君は分かりやすいですね。最初の頃と全然変わってないです」

岡部「フッ……今も昔もぶれぬ男、それがこの鳳凰院凶真だッ!」

岡部「なぁ、俺もひとつ頼みがあるんだが……」

千早「なんですか?」

岡部「岡部君って呼ぶなら、敬語はやめてくれ。違和感が半端ない(ヘァンパない)のでな」

千早「へぁんぱって何ですか?」

岡部「なぜそんな微妙なところに齧り付くのだ。とにかく、違和感があるということだ」

千早「なるほど……でも、今まで男性と親しい仲になったことがないんです。どうやって話せばいいんでしょう……」

岡部「ふむ……そうだな、俺を春香だと思ってはどうだ?」

千早「春香だと思って……そうね、やってみます」

千早「春香、まずは事務所に行きましょう。私達が一番お世話になったところだし」

岡部「カット! カットカット! 春香じゃなくて岡部君で頼む」

千早「あ、そうでした……じゃなくて、そうだったわね」

岡部「よし、さっきの台詞をもう一度だ」

千早「別にその必要はないのでは……」

岡部「この世に必要ないことなどないっ! そして物事は最初が肝心なのだ!」

千早「はぁ……岡部君ってたまに変なこと言うわよね」

岡部「それは違うな千早よ。たまにではなく、常に……だ」

千早「…………」

岡部「む、無視はいけないな。俺のガラスのハートがブロークンしてしまう」

千早「やれやれ……本当に変な人。でも、そんなところも嫌いじゃないかも」

――事務所

岡部・千早「おはようございます」

小鳥「あら? 二人とも今日はオフのはずじゃ……」

岡部「今日は事務所の皆にお礼を言いに来たんですよ」

小鳥「お礼……? も、もしかして二人とも……事務所をやめちゃうんですか!?」

千早「結果的には、そういうことになりますね」

岡部「散々お世話になったのに、それを仇で返すような形になってすみません」

高木「君たちがどういう経緯で、やめるという決断を下したかは分からないし、無理に聞こうとも思わない」

高木「だが君たちの顔は非情に晴れ晴れとしている。実にいい顔だ」

岡部「社長……」

高木「君たちの未来に良きものとなるように、祈っているよ」

岡部・千早「今まで、本当にありがとうございました!」

小鳥「綺麗に締めた所でアレなんですけど、もうすぐ他の皆も帰ってくると思います。だから、少しだけ待っていてくれると嬉しいです」

岡部「はい、もちろんですよ。ちゃんと皆に別れを告げるつもりですから」

千早「あら、大勢の足音が……噂をすればなんとやらですね」

春香「ただいま帰りましたー……ってあれ、千早ちゃんにプロデューサーさん。今日はオフだったはずじゃ……」

岡部「お帰り、みんな。実は俺と千早は、本日をもって765プロを辞める」

春香「えぇっ!?」

真「いきなり何を言ってるんですかプロデューサー。冗談にしても笑えないですよ」

伊織「ははーん、ドッキリか何かでしょ。この伊織ちゃんには全てお見通しなんだからね」

雪歩「ということは事務所のどこかにカメラが? 何だか恥ずかしいですぅ……」

響「なんだ、ドッキリか。自分、見事に騙されちゃったぞ!」

千早「いいえ。これは、ドッキリなんかじゃないわ」

小鳥「二人は、本当に765プロを辞めるの」

「えぇええええっ!」

貴音「プロデューサー、そして千早……これは一体、どういうことなのですか?」

律子「そうですよ。納得の行く説明をお願いいたします」

亜美「兄ちゃんと千早お姉ちゃんが居なくなるなんてやだよー!」

真美「そうだよ。今度なんとか研究所に行って、一緒にゲームやるって言ったじゃん!」

やよい「うっうー……すごく寂しいです」

美希「なんで千早さんと一緒にやめるの? すっごくアヤシイの……」

あずさ「もしかして、結婚するのかしら?」

雪歩「それとも、駆け落ち……?」

岡部「そういう類のアレではない」

残念だが既にバカップルだ

響「じゃあ何でなのさー! 自分、プロデューサーや千早と離れ離れになるなんて絶対に嫌だぞ!」

伊織「ていうかプロデューサー……私に借りがあることを、忘れてるんじゃないでしょうね?」

岡部「忘れたりなんてしていないさ、一秒たりともな。あの時は本当に助けられたからな、伊織に」

伊織「な、なに真顔で言ってんのよ! まったく……」

美希「あぁ、デコちゃんの顔……真っ赤なの」

伊織「うるさいわねっ! そういうアンタはどうなのよ。あんなにプロデューサーにベッタリしてたくせに」

美希「えっとね……悔しいけど、プロデューサーと千早さんはお似合いだと思うの」

千早「やだ、美希ったら……」

春香「そうだ、みんなで写真取りませんか?」

高木「ほう、いいね……ティンときた! すぐにカメラを持ってくるとしよう」

高木「四条君、もう少し真ん中に……そうそう、その辺りだ」

高木「寂しいのは分かるが、涙を拭いてくれたまえ萩原君。そう、いい笑顔だ」

高木「よし……タイマーを押すぞ」カチッ

小鳥「ゆっくり慌てずに来てくださいね、社長」

高木「はぁっ、はぁっ……」

春香「大丈夫ですか社長?」

高木「なんのこれしき。まだまだ若い者には負けんよ」

岡部(たかが数メートルだろうというツッコミは野暮だな)

パシャッ

1. 初恋ばれんたいん スペシャル
2. エーベルージュ
3. センチメンタルグラフティ2
4. Canvas 百合奈・瑠璃子先輩のSS
5. ファーランド サーガ1、2
6. MinDeaD BlooD
7. WAR OF GENESIS シヴァンシミター、クリムゾンクルセイド
SS誰か書いてくれたらそれはとってもうれしいなって

QB「うううっ……マミ、どうして、死んじゃったんだよ、マミを蘇らせて欲しい」
まどか「私の願い事はマミさんの蘇生。叶えてよインキュベーター!」
こんな感じのキュゥマミ誰か書いてくれたらそれはとってもうれしいなって

QB「魔法少女は産む機械」

マミ「あなた誰なの?」
QB「確かに “この僕” は、三時間ほど前まで君のそばにいたのとは別の個体だよそちらは暁美ほむらに撃ち殺された」
黒い魔法少女。暁美ほむら。あの女だけは、絶対に許さない。
まどか「わたしの願いでマミさんのそばにいた子を蘇生すれば、ほむらちゃんのこと許してあげられませんか?」
こんな感じの旧QB蘇生キュゥマミ魔法少女全員生存ワルプルギス撃破誰か書いてくれたらそれはとってもうれしいなって
マミ「今日も紅茶が美味しいわ」

で誰かスレ建てて下さい…

小鳥「デジカメって便利ねぇ。すぐに見れるんだもの」

亜美「おぉ、いい感じですなぁ」

伊織「ふふん♪ やっぱ私が一番ね!」

響「いや、一番は自分さ!」

あずさ「何だか前にもありましたねぇ、こんなやりとりが」

伊織「プロデューサー!」

響「どっちが一番だと思う!?」

岡部「どっちも一番さ」

伊織「上手いこと行って誤魔化そうったってそうはいかないんだから! ねぇ響……ってあら?」

響「自分はこれで満足だぞ。だって自分、大人だもんね」

伊織「むっきー! 何だか負けた気がするわ……」

美希「ふたりともまだまだ子どもなの、あふぅ」

岡部(この写真も、世界線が変われば消えてしまう)

岡部(だが俺は絶対に忘れないぞ。この目にしっかりと焼き付けておかねば)

春香「あ、今日クッキー作ってきたんですよ。作りすぎたのでどうぞ! 餞別っていう程のものでもありませんが」

岡部「ありがとう春香。大切に食べるからな」

やよい「何かあげたいのに、何も持ってないです……」

千早「その気持ちだけで十分よ。ありがとう、高槻さん」

岡部「それじゃ、そろそろ……」

真「プロデューサー、また会えますよねー!?」

雪歩「もし近くに来たら事務所に顔を出して欲しいです」

岡部「あぁ、必ずまた会えるさ! なぜならそれが……」

亜美・真美「運命石の扉の選択だからだー!!」

岡部「おい、流星の双子よ! 人の決め台詞を取るとは……まさに外道!」

岡部「これはこの狂気のマッドサイエンティスト兼プロデューサー、鳳凰院凶真による説教が必要だな!」

千早「もう、バカやってないで行くわよ岡部君」ズルズル

岡部「おい! 服を引っ張るな! 歩く、自分で歩くから!」

小鳥「チッ」

>>723やめてくれ

――ラボ

岡部「鳳凰院凶真、ただいま帰還したっ! さぁ、ラボの主を盛大に迎え入れるがいい! フゥーハハハッ!」

千早「お邪魔します……」

ダル「生ちーちゃんktkr! うは、こんな間近で見れるとは……感動したっ!」

岡部「俺は無視か!」

ダル「あー、ちーちゃん連れてきたオカリンGJ!」

岡部「あくまで千早にこだわるんだな……」

ダル「当たり前だろ常考。ちーちゃんのためなら死ねる」

まゆり「ただいまー……ってあれ、オカリンに千早ちゃん?」

フェイリス「ニャニャッ、チヒャーがラボにいるなんて珍しいのニャ」

るか「お、お邪魔します……」

千早「椎名さんにフェイリス……それに、漆原さんだったかしら。こんにちは」

>>725
はい

千早「なんだか一気に人が増えたわね……」

岡部「うむ、まぁ丁度いいな」

ダル「ん? なんかやるん?」

千早「えっと……みなさん、今まで本当にありがとうございました!」

岡部「俺からも礼を述べよう。ラボメン諸君、今まで実にご苦労だったな!」

ダル「おいオカリン。まさか、ちーちゃんと結婚するのか?」

岡部「はぁ? なぜそうなる……」

フェイリス「私たち結婚します! のノリとしか見えないニャ……」

まゆり「うんうん。でも、千早ちゃんならオカリンをお願いできるかな。ちょっと羨ましいけど」

るか「その……おめでとうございます」

千早「あの、私達は今までお世話になった人達にお礼を言っているだけなんだけど……」

岡部「千早の言う通りだ。結婚するわけでもなんでもない」

千早「そこまで言い切られると腹が立つわ」

岡部「いや、決して千早と結婚したくないわけではないのだぞ?」

岡部「しかしだな、やはり結婚というのは二十歳過ぎてからでないとだな……」

千早「それ以上言わないで。恥ずかしいから」

ダル「うん、もうお腹いっぱいだから。ご馳走様です」

フェイリス「ラブラブすぎて見てるこっちがもたれてきそうニャン……」

萌郁「お邪魔、します……」ガチャ

千早「桐生さん?」

萌郁「動かないで」

岡部「……っ!?」

!?

萌郁「くっつき虫、取れた」

岡部「驚かせるなよ……」

フェイリス「心臓が止まるかと思ったニャ」

千早「えぇ……」

ダル「なんでみんな、そんなにビビッてるん?」

まゆり「不思議なのです……」

岡部「まぁ色々とあるんだよ……萌郁、なぜここを知っているんだ?」

萌郁「高木社長に教えてもらった。765プロに行ったら大騒ぎしてて、何があったか聞いたら……岡部君がやめるって」

萌郁「本当、なの?」

岡部「あぁ。萌郁にも随分とお世話になったな。今までありがとう」

千早「ありがとうございました、桐生さん」

岡部「よし、大勢集まったことだし……写真を取るか!」

ダル「ちーちゃんと写真とか……駄目だ、今夜は眠れそうにない」

千早「あの、橋田さん……ちょっと近いです」

まゆり「ダメだよダルくん、千早ちゃん怯えさせちゃ」

ダル「まゆ氏の一見ただの細い腕にしか見えない中に、秘められている怪力の方が怖……」

まゆり「何か言ったかな?」

ダル「何でもないでござる! ってこの記者さんもかなりの美人! オカリンマジ爆発しろ!」

萌郁「美人? 私が……?」

るか「萌郁さんはとっても綺麗ですよ……スタイルもいいし」

萌郁「るか君も、とっても可愛い……と思うわ。また記事を、書かせてね」

岡部「タイマー、セーットォ! 行くぞ、とぉっ……ってしまった、身体のバランスが!」ドンガラガッシャーン

千早「岡部君っ!?」

ぱしゃっ

くっつき虫「ククク……奴は四天王の中でも最弱」

ダル「これはひどい」

まゆり「見事にずっこけてるねぇ」

フェイリス「カッコ悪いのニャ……」

るか「岡部さん、大丈夫ですか?」

岡部「これぐらい大したことないわ、フゥーハハhッ!」

千早「もう、本当に心配したんだからね! バカッ!」

ダル「ちーちゃんに怒られるオカリンマジ裏山」

萌郁「橋田君って……変態?」

まゆり「その通りなのです☆」

千早「ラボは本当に騒がしいわね。でもラボのみんなには、本当にお世話になったわ」

岡部「あぁ。みんながいなければ……ここまでたどり着くことはできなかった」

千早「えぇ……」ピロリロリン

岡部「メール?」


From:フェイリス
Subject:運命石の扉の選択
――──────────
キョーマとチヒャーなら、絶対
にみんなが幸せな世界線へと
辿りつけるって信じてるニャ。

さようならは・・・言わないのニ
ャ。


千早「フェイリス……ありがとう」

岡部「さようならは言わないぞ、フェイリス……」

うわっ!熱っ! なんだこれ

岡部(新幹線に揺られることおよそ三時間……)

岡部「ついたな、青森」

千早「うん。最後は……私のお父さんに会いに行きましょう」

岡部「まるで娘さんをくださいと言わんばかりだな」

千早「違うの?」

岡部「いや……間違いではないな。では、道案内を頼むぞ」

千早「分かったわ」

――中鉢の家

中鉢「ほう、君が紅莉……ではなく千早のプロデューサーか。いつも娘がお世話になっている」

中鉢「それで、私に何の用だね?」

岡部「あなたにお礼を言いに来たのですよ」

中鉢「? どういう意味なのだ」

千早「お父さんがいなかったら、今の私達はないの。本当にありがとう……」

中鉢「ま、まさか……結婚するのか!?」

中鉢「娘の幸せを願うのが親の役目……しかし、娘にくっつく悪い虫を追い払うのも親の役目」

中鉢「悪いが、君を少し試させてもらうよ」

岡部「ほう……面白い。受けて立ちましょう」

中鉢「き、君は一体何者なのだね……?」

中鉢「プロデューサーなどではなく、どこかの研究員じゃ……」

岡部「俺は狂気のマッドサイエンティスト兼プロデューサー……鳳凰院凶真ですッ!」

千早「ちょっと、親の前でそれやらないでよ……」

中鉢「何を言ってるのかよく分からないが、君には娘を任せられそうだ」

岡部「はい、お任せ下さい!」

千早「お父さんもやっぱりどっか変よね……こんな厨二病に娘を任せるとか」

千早「今日はありがとう。すごく楽しかった」

岡部「俺もだよ。ドクター中鉢はなかなか手ごわかった」

千早「岡部君、少しあのベンチで休まない?」

岡部「そうだな。今日は随分とはしゃいでしまったし」

千早「ふふ、そうね」

千早「もう、悔いはないわ」

岡部「千早……」

千早「駄目じゃないですか、そんな顔しちゃ。朝も言いましたよね、プロデューサー?」

岡部「そう、だったな……。しかしそういう千早も、敬語に戻っているぞ」

千早「うーん……私達はこっちの方が自然かな、と思いまして」

岡部「はは、それもそうだな。タメ口の方が何だか堅苦しい気がする……変な話だが」

あおいーとりー

千早「プロデューサー、この世界線での私や765プロの皆、そしてラボメンの事……忘れないで下さいね」

岡部「あぁ。俺は、この世界線で起きたことを……ずっと覚えている」

岡部「だめだ……こういう時こそ、笑わなくてはならんと言うのに。涙が、止まらん……」

千早「本当に長い間……ありがとうございました、プロデューサー」

岡部「こちらこそありがとう、千早……」

千早「プロデューサー、寝ちゃったのね。無理もないか、本当に長い間頑張ってきたのもの」

千早「…………」

千早(消えたく、ない。ずっと、プロデューサーと一緒に居たい)

千早(でも、それは叶わぬ夢)

千早(駄目。これ以上一緒にいると……私の決心が鈍りそう)

千早(寝ている内に立ち去りましょう。最後に一曲、送って……)

千早「いつまでもこのままでいたいね。ずっとずっと一緒にいられたらいいね」

岡部(Zzz……ん? 歌が、聞こえる……)

千早「元気が戻ってきて良かった。フタリでがんばってきたよね。でも、それも終わり……」

岡部(これは『フタリの記憶』……?)

千早「何も言わずにさよならするよ。キミと出会えて、すごく嬉しかったな……」

岡部(千早……ごめんな。俺は如月千早というアイドルを、助けることが出来ない)

千早「いつまでも忘れないでいるよ。ずっとずっと空で見守っているよ――」

千早「さようなら、プロデューサー」

ttp://www.youtube.com/watch?v=36YdEUjiWDQ

かなしみのーむこうへとー

岡部(……行ったか)

岡部(ようやく、誰も悲しまずにすむ世界線に行けるんじゃないか)

岡部(なのに、なぜだ?)

岡部(なぜ、涙が止まらんのだ!)

岡部「千早……」

岡部「千早、千早……! ちくしょう……俺は、俺は何て無力なんだ!」

岡部「うわあああああああああああああっ!」

――ラボ

岡部「まずはタイムリープで、この世界線に来た日まで戻ろう」

岡部「この時点でDメールを送り、α世界線に戻ったらどんな状況か分からないからな」

岡部「…………」

岡部「さようなら、如月千早」

岡部(タイムリープ完了)

岡部(…………)

岡部(今なら、まだ引き返せるんじゃないのか?)

岡部(何も知らないフリをして、千早に会いに行けば)

岡部(また一緒に、765プロの皆と笑い合ったり、デートしたりする日々が……)

岡部(……弱気になるな、それはただの逃げだ)

岡部(俺の主観からすれば、タイムリープを繰り返すことで俺は死なないように見える)

岡部(だが千早や他の皆からすれば、俺の死は絶対的なものだ)

岡部(それに千早は自分の気持ちを犠牲にして、俺をここまで連れてきてくれたのだろう)

岡部(俺は、何があろうとも前に進まねばならんのだ……もう、迷いはない)

岡部(Dメールの準備を始めよう)

岡部「電話レンジ(仮)セット完了」

岡部「紅莉栖が送ったDメールを打ち消す」

岡部「…………」

岡部「送信!」

岡部(リーディング・シュタイナーが発動した)

岡部(戻ってきたんだな、α世界線に)

紅莉栖「はぁ、はぁ……舌まで入れるなんて、やっぱりHENTAIじゃない」

岡部(なっ!? こ、これはDメールを送る直前の……)

岡部(α世界線に戻って来る前に行ったタイムリープ、時刻調整を少しミスったようだ!)

紅莉栖「……岡部?」

岡部「ただいま、紅莉栖」

紅莉栖「へ? ま、まさかアンタ……」

岡部「お前がDメールを送った先の世界線に行ってきたぞ。まさか本当にアイドルになるというメールを送るとはな……」

紅莉栖「な、なななななな! うぅ、穴掘って埋まりたい……」

岡部「アイドルの紅莉栖も可愛かったぞ」

紅莉栖「馬鹿! それ以上恥ずかしいこと言うなーっ!」

紅莉栖「へぇ、タイムマシンを……」

岡部「あぁ」

紅莉栖「何だか悔しいわね。あの岡部がタイムマシンなんてものを作り上げるなんて……」

岡部「フッ、嫉妬するなよ」

紅莉栖「嫉妬するに決まってんでしょーが。でも、アンタって本当に強いのね」

岡部「俺が、強いだと?」

紅莉栖「タイムマシンを作り上げるほどの知識なんて、いくらSERNなどを利用したとしても……想像もつかない時間がかかるでしょ」

紅莉栖「人の一生よりも遥かに長い時間でしょう……発狂してもおかしくはない」

岡部「俺一人だったら、くじけてたかもな」

岡部「だが俺は一人ではなかった。お前やダル、まゆり、フェイリスに萌郁、るか子……そして、765プロのみんなが居てくれた」

岡部「だから俺は、ここまで来ることができたんだ」

岡部(ドクター中鉢の名前は出さないでおこう……こっちの世界線では険悪だからな)

よーい

ドン!

岡部「さて、名残惜しいが……そろそろβ世界線へ行かねばな」

紅莉栖「まだまだ折り返し地点だからね、岡部からしたら」

岡部「あぁ。タイムマシンを作るのには、それなりの設備と時間が必要だ」

紅莉栖「アテはあるわけ?」

岡部「とりあえずフェイリスに頼み込む。今の俺の叡智を持ってすれば説得は容易だ」

紅莉栖「否定出来ないのがムカつくわね……」

岡部「フッ……では、ラボに戻るとしよう。ダルとまゆりがまだいると良いんだが……」

紅莉栖「橋田が居なかったらエシュロンのデータベースにアクセスして、最初のDメールを削除することが出来ないからね」

紅莉栖「……ってそんな訳ないか。今のアンタならそれぐらい余裕じゃない?」

岡部「まぁな。だが、門出を祝う際にはラボメン全員居たほうがいいだろう」

岡部「ようやく、すべてを終わらせることが出来るのだ……」

紅莉栖「ま、岡部がそういうなら好きになさい」

岡部「これより現在を司る女神作戦(オペレーション・ベルダンディ)最終フェイズを開始する!」

ダル「オカリンの話、正直眉唾ものだけど……牧瀬氏が言うなら本当なんだろうなぁ」

まゆり「オカリンは誰も知らない所で、一生懸命頑張っていたんだね……」

岡部「だがそれも、あと少しで終わる。ダル! 始めてくれ」

ダル「ぶっちゃけオカリンがやったほうが早くね?」

岡部「そのマシンはお前が一番触っているだろう。お前の方が使いこなせるはずだ」

ダル「やれやれ、タイムマシンを作っちゃうような人間にそこまで言われたら……やるしかないっすなぁ」

ダル「SERNのデータベースにマジであったぞ、オカリンのメール!」

岡部「よし……!」

ダル「Enterキーを押せばメールは削除される。その儀式は、オカリンに任せるぜ」

紅莉栖「岡部」

岡部「なんだ?」

紅莉栖「あと少しだから……頑張ってね」

岡部「無論だ」

岡部「勝利の時は来た! この俺はあらゆる陰謀に屈せず、己の信念を貫き、ついに最終聖戦(ラグナロック)を戦い抜いたのだ!」

岡部「この勝利のため、我が手足となって戦ってくれた仲間たちに感謝を!」

岡部「訪れるのは、俺が望んだ世界なり! すべては運命石の扉(シュタインズ・ゲート)の選択である!」

岡部「世界は、再構築される――!」

\オッカリーン/

プサイ

岡部「ここが、β世界線……」

岡部「まゆりは死なないが、紅莉栖が死んでしまう世界線」

岡部「…………」

岡部「まずは、フェイリスに会いに行くとしよう」ピリリリリ

岡部「電話? ……非通知か。もしもし?」

『ラジ館屋上に来てくれるかな、オカリンおじさん』

岡部「その声は……鈴羽?」

鈴羽『あったりー』

岡部「お前がタイムマシンを持ってきてくれたのか」

鈴羽『そういうこと。じゃ、待ってるよー』

岡部「うまくやってくれたみたいだな、未来の俺は」


――ラジ館屋上

鈴羽「久しぶり、なのかな? オカリンおじさんからしたら」

岡部「!?」

鈴羽「全部聞いたよ、α世界線とかのことも。未来のオカリンおじさんからね」

岡部「そういうことか……やれやれ、未来の俺は随分とお喋りなんだな」

鈴羽「うーん、あまり変わってない気がするなぁ」

岡部「そうなのか?」

鈴羽「うん、見た目はかなり変わってるけどね」

鈴羽「それじゃ、必要なものを揃えたら行こう。すべての始まり、2010年7月28日へ――」

鈴羽「ついたよ、オカリンおじさん」

岡部「ここからすべては始まったんだな……」

岡部「これが俺の最後のミッション……過去を司る女神作戦(オペレーション・ウルド)だ」

岡部「鈴羽はどうするんだ」

鈴羽「タイムマシンに人が近づかないように見張ってるよ」

鈴羽「あ、いい忘れてた。中鉢を逃がすな……とか言ってたよ、未来のオカリンおじさんが」

岡部「中鉢?」

岡部(おそらくドクター中鉢だろう。しかしなぜ彼の名前がでてくる?)

岡部(ここが、紅莉栖が血まみれになって倒れていた場所)

岡部(がらくたやダンボールが大量に置いてあり、隠れる場所には困らない。さて、身を潜めるとしよう)

岡部(…………)

岡部(足音が近づいてくる……来た、紅莉栖だ)

岡部(どうやら誰かを待っているようだな)

岡部(再び足音が近づいてくる。ドクター中鉢……なるほど、そういうことか)

紅莉栖「話があるの、パパ」

中鉢「その封筒は何だ」

紅莉栖「私もタイムマシンが作れるかどうか考えてみたの。だからパパの意見を聞いて、手直しして……学会に発表しようと思ってるの」

中鉢「見せてみろ」

中鉢「…………」

中鉢「悪くない内容だ」

おかべー

紅莉栖「本当? それ、私とパパの共同署名でもいいと思ってるの……」

中鉢「学会には出すな。この論文は私の名前で発表する!」

紅莉栖「私の論文、盗むの……? そんなことだけはしない人だと思っていたのに!」

中鉢「親に対してなんという口の聞き方だ!」

中鉢「私はお前が憎い、憎くて仕方がない! お前など、お前などいなければ……っ!」

紅莉栖「っ!」

岡部(なんていうことだ……今までいた世界線の中鉢は、あんなにいい人だったのに)

岡部(娘が天才すぎるあまり、嫉妬する気持ちは分かるが……限度があるだろう!)

中鉢「お前など、首を絞めて……殺してやる!」

紅莉栖「パパッ……! やめて……苦し、いっ!」

岡部「やめろ中鉢!」バキッ

中鉢「がはぁっ!」

紅莉栖「はぁ、はぁっ……!」

中鉢「貴様は……私の会見をメチャクチャにした若造ではないか! そうか、やはり紅莉栖とグルだったのだな」

紅莉栖「私、その人とは今日あった……げほっ、げほっ! 今日あったばかりだよ……」

中鉢「どいつもこいつも、私をバカにしおって……」

岡部(……ナイフ。そんなもので俺を止められると思っているのか)

岡部(中鉢を逃がすなと言っていたな。ならばとりあえず動きを封じ込めるとしよう。紅莉栖は後回しだ)

中鉢「うぉああああっ!」ヒュン

岡部「当たらんな」

岡部(腕の一本でも折ればおとなしくなるだろう。紅莉栖の目の前であまり乱暴なことはしたくないが、あまり時間もない)

岡部「これも未来のためだ、許せ」バキッ

中鉢「あぎゃぁあああああああああああああああああああっ!!!!!」

紅莉栖「パパ!? やめて、パパに乱暴しないで」

岡部(逃げられると厄介だ。ロープでがんじがらめにしておこう)

岡部「さて、次は紅莉栖……お前の番だ」

紅莉栖「やだ、来ないで!」

岡部(鈴羽が持ってきた未来のダルお手製スタンガン。人を気絶させるには十分な威力を持っている)

岡部「ごめんな、紅莉栖……」バチィ

紅莉栖「あっ……」バタリ

Dr.中鉢を拉致調教か.……

岡部(あとは倒れた紅莉栖に、鈴羽が持ってきたサイリウムセーバーver3.16を使う)

岡部(こいつは剣のような形をしたサイリウム。血糊がでる機能付きだ)

岡部(よし、これで血まみれで倒れた紅莉栖……あの時見た光景が再現できたな)

岡部(とりあえず屋上まで中鉢を引っ張っていくか)

――ラジ館屋上

鈴羽「おっ、上手く行ったみたいだね……って、それ誰? 何で口にガムテープ貼ってるの?」

中鉢「もご! もごごごご!」

岡部「騒ぎになっても困るからな」ベリベリ

中鉢「ぷはぁ! 貴様、こんなことをしてタダで済むと思うなよ!」

岡部「それはこっちの台詞だ! 実の娘によくもあんな真似ができるじゃないか、えぇ!?」

中鉢「黙れ! 貴様に私の気持ちなど分かるまい! 優秀すぎる実の娘と比較され、馬鹿にされ続けた私の気持ちなど!」

岡部「分かるわけないだろう、人の気持ちなんて。だが……あなたが本心から紅莉栖を嫌っていないということは分かる」

中鉢「は! 何を甘っちょろいことを。私は紅莉栖が大嫌いだよ」

岡部「あなたは知る由もないが……別の世界線のあなたは、紅莉栖を本当に愛していた」

岡部「紅莉栖のために必死でタイムリープマシンを……何度も作り上げた!」

岡部「この世界線とあの世界線の分岐点は紅莉栖が小さい頃。既に大人であるあなたの人格はさほど差がないはずだ」

中鉢「何をわけのわからないことを……うぐっ!?」

岡部「下の口は正直ではないかフウーハッハッハ!」

中鉢『すまなかった。いくらマスコミが騒いでるとはいえ、すぐに駆けつけてやるべきだったのに』

中鉢『何より娘が助けを求めているのだ。娘を助けるのに理由は必要あるまい』

中鉢『フッ、とうとう念願のタイムマシンが出来たのだな』

中鉢『娘の幸せを願うのが親の役目……しかし、娘にくっつく悪い虫を追い払うのも親の役目』

中鉢「はぁ、はぁ……! な、なんだったんだ、今のは……?」

中鉢「娘を助けるのに理由はいらないだと? 私が、そんなことを考えるはずが……」

中鉢「それにタイムマシンが完成したとは一体……?」

岡部「見えたんですか、あの世界線のあなたが」

中鉢「…………」

岡部「今からでも遅くはない。まだ、やり直せますよ」

中鉢「はっ。娘の首を絞めた親が、やり直せたりできるものか」

岡部「できますよ。諦めなければ、必ず」

中鉢「…………」

中鉢「この論文は、燃やしてしまおう」ボッ

岡部「いきなり何を……!?」

中鉢「先程、いくつも妙な光景を見た。その中の一つに、タイムマシンを狙い……紅莉栖が狙われる光景が見えた」

中鉢「私のこれまでの全てを否定することになるが……タイムマシンなど、あってはならないのだろう」

鈴羽「オカリンおじさん、そろそろ戻らないと」

岡部「あぁ」

岡部「さようなら、ドクター中鉢」

中鉢「小僧、名前は?」

岡部「狂気のマッドサイエンティスト兼プロデューサー……鳳凰院凶真」

うむ

岡部(鈴羽のタイムマシンで元の時間に戻ってきた)

岡部(しかし目を開けると、そこにタイムマシンなどなかった)

岡部(どうやら上手く行ったようだ)

岡部(あぁ……なんだか、とても疲れた)

岡部(少しだけ、ここで眠ってしまおう……)




寝たら死ぬうううう

数日後――

岡部「ふぅ、やっぱり765プロは最高だぜ!」

ダル「まさかオカリンがドルオタとはね……いい趣味してるぜ、アンタ」

まゆり「ダルくんは誰が好きなんだっけ?」

ダル「そりゃ、もちろんいおりんだお! 罵られたい! 踏まれたい!」

まゆり「ダルくんはエッチなのです……」

岡部「自重しろ、このHENTAIめ!」

ダル「オカリンは誰が好きなん?」

岡部「俺か? それは……秘密だ」

ダル「えー! なんでだよー」

岡部「少し出かけてくる」

岡部(765プロのみんなと再び出会えて、よかった)

岡部(もちろん以前とは違い、俺はただのファンだが……)

岡部(そしてみんなとは言ったが、一人だけいない)

岡部(そう……アイドル、如月千早はもういないのだ)

岡部(ググッてみたのだが、彼女の持ち歌である『蒼い鳥』も、この世界線には存在していないようだ)

岡部(俺の一番好きな歌だったんだがな……)

メカご飯

岡部(千早と、別れた公園に来てしまった)

岡部(感傷に浸っても何の意味もないんだけどな……)

岡部(…………)

岡部(ん? 歌が、聴こえる……)

岡部(この声、そしてこの歌は……!)

紅莉栖「蒼い鳥……もし幸せ、近くにあっても」

岡部「あの空へ、私は飛ぶ……未来を信じて」

紅莉栖「なっ!? あ、あなた……なんでこの歌を?」

岡部「どうした、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして……らしくないじゃないか、紅莉栖」

紅莉栖「あの……紅莉栖って呼ばないで頂けませんか、プロデューサー」

紅莉栖「ってあれ? 何で本名で呼ばれて困るのかしら」

紅莉栖「そもそもプロデューサーって一体……うーん、何だか今日は脳が上手く働いていないわね」

紅莉栖「……って何ニヤニヤしてるんですか、人の顔を見て。気持ち悪い人ですね」

岡部「すまないな。嬉しくて、つい……」

岡部(これが、運命石の扉の選択だよ――)





                                                          おわり

良くやった! 乙!!

まさかこんなに時間がかかるとは思わなかった。長時間ありがとうございました
シュタゲ要素が強すぎるかもしれない。もう少しアイマスを目立たせてあげたかった
あと>>36でギターソロカモーンをスタ→トスタ→って書いたのは、意図的なものじゃなくて本当にミスししてしまった。>>38がナイスフォローしてくれてるが

ものすごく今更だけど>>514で岡部が19歳になってるのは2011年だから

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