咲インターハイ決勝戦を妄想してみた〜先鋒戦〜 (277)

恒子「まもなくはじまります、インターハイ決勝戦!」

恒子「実況はわたくし、ふくよかじゃないスーパーアナウンサー福与恒子と」

健夜「……すこやかじゃない、小鍛治健夜でお送り致します」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1365424291

恒子「長きに渡ったインターハイもこれで決着がつくと思うと、感慨深いものがありますね?」

健夜「はい。まだ個人戦が残っていますが、この大会を見守ってきた解説者として、またインターハイ経験者として、思うところがあります」

恒子「また小鍛治プロの自慢話が始まりそうなので、脱線する前に出場校の紹介を始めたいと思います!」

健夜「ちょっとっ!?」

恒子「まずはAブロックから。一位通過は果たしたのは何と意外、奈良のダークホース阿知賀女子!」

健夜「ドラゴンロード松実玄選手を擁する高火力なチームで、また先の準決勝大将戦では、高鴨穏乃選手の小技が輝いておりました」

恒子「何ですか、そのドラゴンロードって恥ずかしい称号は?」

健夜「私がつけたんじゃないからっ!」

恒子「続きまして二位通過は、インターハイチャンピオンを擁する白糸台・チーム虎姫! 傷つけられた王者のプライドを、この決勝卓で挽回することができるのか!」

健夜「中継ぎ陣がどういう闘牌を見せるのかが鍵を握ると思われます」

恒子「次はBブロック。準決勝一位通過は臨海女子でも姫松でもない、長野県代表清澄高校! その大将宮永咲選手は、何とあの宮永照選手の妹です!」

健夜「天江衣選手やネリー・ヴィルサラーゼ選手を倒した腕前からも、その実力は折り紙つきです」

恒子「続きまして二位通過は姫松高校! Aブロックで全国二位千里山が敗れてしまった今、大阪唯一の星です!」

健夜「しかしこれも意外ですね」

恒子「と言いますと?」

健夜「いえ、ただ展開からして決勝に駒を進めるのは、すでに二度も手の内を見せている姫松高校ではなく、臨界女子や有珠山高校かと思いまして……」

1「臨界女子と有珠山高校の打ち筋がよくわからず、妄想に限界があるので、準々決勝で打ち筋が明らかになっている姫松高校を採用しました」

恒子「だそうです」

健夜「ええっ!?」

恒子「では対局が始まる前に、各校先鋒選手の紹介を!」

恒子「王者・白糸台からはインターハイチャンピオン、宮永照選手! 今回はいかなる闘牌を見せてくれるのか!」

健夜「宮永照選手の連荘をいかにして止めるのか。それが勝負の鍵になりそうです」

恒子「清澄高校からは自称東風の神・片岡優希選手! 東場に見せる力強さは、はたしてチャンピオンにどこまで通用するのか!」

恒子「阿知賀女子からはドラゴンロード・松実玄選手! 決勝卓でも華麗なドラ爆は見られるのか!」

健夜「Aブロック準決勝では宮永照選手の抑止力にもなっていました。ある意味他の二校にとっては救いでしょうね」

恒子「そして姫松高校からは清水谷竜華選手! 荒川憩選手や江口セーラ選手、愛宕洋榎選手を押さえ、平均獲得素点は関西随一です!」

健夜「……ちょっと待ってください」

恒子「はい? 何でしょう、小鍛治プロ?」

健夜「何で姫松に清水谷選手がいるんですか!?」


健夜「清水谷選手は北大阪代表千里山女子の大将で、先日の準決勝で敗退しました。その清水谷選手が、どうして東大阪代表の姫松の先鋒を務めているんですか!」

1「漫ちゃんや由子、愛宕妹だと力不足な気がしましたので、千里山から何人か選手を引っ張って来ました。本当は荒川憩もいれたかったのですが、打ち筋がわからないので諦めました」

恒子「だそうです」

健夜「そんなの有り!?」

恒子「ともかくインターハイ決勝先鋒前半戦スタート!」

東:タコス 南:竜華 西:照 北:玄

○東一局〇本場 親:タコス

タコス(これが咲ちゃんのお姉さん……インターハイチャンピオン、宮永照!)

タコス(そして北家に座るのが、のどちゃんの昔の友達……松実玄)

タコス(……関係ない)

タコス(いま自分がするのは、一位で染谷先輩に繋げること!)

タコス「ツモ! 2600オールだじぇ!」

恒子「片岡選手、早々に二副露して親の和了り! これは景気がよいぞ」

健夜「しかしヘンですね」

恒子「はい?」

健夜「片岡選手の手牌に——いえ、宮永選手や清水谷選手の手牌にもドラがありました」

健夜「対して松実選手の手牌には、表裏赤含めて、一切のドラがありません」

玄(ドラ来ない……)


穏乃「ドラが集まってない!」

憧「決勝まであんなにたくさん打ったのに……!」

灼「でもドラは一度も来てくれなかった。今回も……」

宥「玄ちゃん……」

レジェンド(やはり間に合わなかったか……クソ!)

タコス(よし、東発もドラも引けたし、調子は上々だじぇ)

タコス(のどちゃんじゃないけど、他家にドラがいかないなんて、それこそそんなオカルトありえ——)

照「————」

タコス・竜華・玄「っ!?」


タコス(いま何かに——)

玄(また何かに——)

タコス・竜華・玄(見られたような……っ!?)

照「…………」

○東一局一本場 親:タコス

タコス(配牌二向聴、ドラが二つにW東が暗刻。今局ももらったじぇ)

照「——ロン。1000は1300」

タコス「!?」

玄「は、はいっ!?」

タコス(臨界の先鋒ですら私を止めるのに五本場もかかったのに、たった一本場で私の、私の大事な親番が……)


○東二局〇本場 親:竜華

照「——ツモ。300・500」

タコス・清水谷(…………)

恒子「宮永選手、早々に副露して、五巡目にしてゴミ手をツモ和了り。これはもったいない!」

健夜「しかし結果的に片岡選手の満貫一向聴、親の清水谷選手の7700二向聴を蹴りましたね」

○東三局〇本場 親:照

タコス「チー!」

恒子「片岡選手、またもや早々に副露。しかしこれももったいないのではないか!」

健夜「宮永選手の連荘を警戒しているのでしょう。それに今回はドラが使えますから、宮永選手の速度も火力も、前回の倍以上です」

恒子「おっと、そう言っている間に宮永選手にタンピンの聴牌が入ったー!」

竜華「——ロン、3900」

照「……はい」

竜華(インターハイチャンピオンだか、照魔鏡だか、連続和了だか、何だか知らへんけど)

竜華(怜を可愛がってくれた礼は、たっぷりさせてもらうで!)

○東四局〇本場 親:玄

タコス「——ツモ。2000・4000だじぇ」

恒子「片岡選手が満貫をツモ和了! 宮永選手の独壇場になるかと思えば、東場は圧倒的清澄のリード! これは面白くなってきたー!」

タコス(これ以上お株を奪われたら、たまったものじゃないじぇ)

タコス(これで東場は終わり……でも、たった二回の和了で満足できるものか——!)

玄(また蚊帳の外……それに、ドラ来ない……)

○南一局一本場 親:タコス

タコス「——ツモ! 2000は2100オール!」

恒子「南場でも片岡選手の勢いは止まらない! 1300オールに続いて2100オール。これはどういうことだー!?」

健夜「片岡選手の成長ぶりには凄まじいものがありますね」

健夜「怪物が集まるエース卓に何度も立たされ、成長したのでしょう。しかし——」

タコス「二本場だじぇ!」

健夜「このまま宮永選手が黙っているとは思えません」

○南一局二本場 親:タコス ドラ:5m

タコス「ポン」

タコス(六巡で南ドラドラ聴牌。ツモれば2600オール。二本場ももらったじぇ!)

照、打5p

玄「——ろ、ロンです! 1300は1900」

タコス(え……)


恒子「松実選手、一飜ながらも片岡選手の連荘を止めたー! しかしこれは……」

健夜「親に対する宮永選手のオリ、そして差し込みですね」

タコス(手牌):345(赤)m99p23s南南南 副露:234p 待ち:14s
照(手牌):123m456p789s西西北北 ツモ:1s 打:5p
玄(手牌):234678m5p234678s 待ち:5p

恒子「しかし松実選手はどうして14萬の両面待ちの平和から、5筒単騎待ちの断ヤオに切り替えたのでしょうか? それに5筒がロン牌だとわかった理由も気がかりです」

健夜「ただの偶然でしょう。しかし松実選手が5筒で待ったのも、また宮永選手が5筒をロン牌だと考えたのにも、おそらく共通の理由があります」

恒子「はい?」

健夜「松実選手の手牌は『双竜争珠』と呼ばれる古役の形で、『竜』と関連します」

健夜「それに5筒は、赤5筒の待ちでもあります」

健夜「松実選手は竜の帰りを待っているのですよ」

照「——ロン。1000」

照「——ロン。2000」

照「——ツモ。1000オールは1100オール」

照「——ロン。4800は5400」

照「——ツモ。2000オールは2300オール」

タコス・竜華・玄(…………)

○南三局四本場

恒子「宮永選手、何と怒涛の五連続和了! 他家はなす術なし!」

健夜「トップはいまだ片岡選手ですが、宮永選手の親がこれ以上続いたら、どうなるかわかりません」

恒子「それもそのはず、ここで親満をツモられたら点差は逆転! 今後のことも考えると、この親は何としてでも蹴りたい!」


玄(ドラは来ないし……そもそも全然和了れないし……どうすればいいの……)

タコス(これ以上はまずいじぇ。でも……)

竜華(怜はこれを止めるのに、ダブルを使った。でも私にはもちろんできないし、怜ちゃんもエネルギーのまま。どうしたらええの……怜……)

照「——リーチ」

タコス・竜華・玄(ダブルリーチっ!?)

竜華(これはあかん。阿知賀の松実玄ちゃんが使えない今、2600オールどころか4000オール、下手したら6000オールまで有りえる!)

竜華(でもどうすればええんや……。親のダブリーなんて逃げるしか……っ!?)

竜華「——九種九牌。流局です」

照「…………」


竜華「——ロン。2600」

照「……はい」

恒子「先鋒前半戦オーラス終了! 九種九牌により流れが変わったか!? その後は片岡選手と清水谷選手の和了で呆気なく決着がついてしまいました」

健夜「どうやら流局を間に挿むと、宮永選手の打点上昇は振り出しに戻るようですね。また清水谷選手の差し込みも絶妙でした」

恒子「しかし他家に花を持たせた分、実りが少ない。——先鋒前半戦の結果が出ました!」

○清 澄:126100
○白糸台:103600
○姫松 :091800
○阿知賀:078500


恒子「前半戦トップは片岡選手の清澄高校! チャンピオンの連荘をかいくぐり、見事な得点を叩き出しました!」

恒子「次点は宮永選手の白糸台! 連荘は強烈でしたが、片岡選手の打点には一歩及びませんでした」

健夜「しかしこーこちゃ——福与アナウンサーのおっしゃる通り、清水谷選手は活躍のわりに報われませんね」

恒子「はい。——そしてツモで削られ続けた阿知賀の松実選手。はたして彼女の許に竜は帰ってくるのでしょうか!」

健夜「松実選手はドラをツモることを前提に打っている節が見受けられますので、このままだと落ちるところまで落ちるかもしれません」

恒子「以上で先鋒前半戦の中継を終えます。チャンネルはそのまま、これからも私の実況と、オンとオフの切り替えができない小鍛治プロの解説をお楽しみください」

健夜「ちょ、ちょっと!」

タコス「東風の神のお帰りだじぇ!」

部長「お疲れ、優希」ワカメまこ「お疲れ」和「お疲れ様です」咲「お疲れ様」京太ry

部長「まったく、大したものね。チャンピオンや千里山の部長を相手にトップだもの」

タコス「ふむ。のどちゃんや咲ちゃんには悪いけど、チャンピオンもドラゴン何とかも私の前では敵じゃないじぇ」

和「え、ええ……」咲「う、うん……」

タコス「というわけで、この調子で後半戦も突っ走るじぇ!」


照「ただいま」

菫「ドラが来るわりに調子が悪いみたいだな」

照「うん、今回も千里山の——姫松の先鋒に邪魔されて……。とりあえずお菓子」

淡「テルー。結局、『ギギギー』って奴は使わないの?」

照「ああ、あれ」

照(打つというより打たされている気がして使いたくなかったけど)

照「後半戦では使ってみる(もぐもぐ)」

菫「……食べながら言うなよ」

恒子「先鋒後半戦スタート! その親番は——」

タコス(……え)

東:照 南:竜華 西:玄 北:タコス


恒子「地区予選からインターハイ決勝戦まで起家を引き続けてきた片岡選手、ここに来て起家に嫌われたー!」

健夜「しかも宮永選手の様子見は前半戦だけです。ですからこの東発は、一波乱ありそうですね」

○東一局〇本場 親:照

照「——チー」

タコス(え?)

竜華・玄(チャンピオンが副露!?)

照「——ツモ。2000オール」

タコス・竜華・玄(なっ……)


恒子「宮永選手、五巡目にして断ヤオドラドラをツモ和了り。これは早い!」

健夜「しかし珍しいですね」

健夜「宮永選手は門前主義で、連荘も一飜から積み上げていくのがほとんどのはずですが」

○東一局一本場 親:照

照「——ツモ。1000オールは1100オール」

タコス・竜華・玄(打点が……下がった!?)

恒子「宮永選手、またもや副露をして早和了り! しかも点数が下がった! これはどういうことだー!?」

タコス(ひょっとして……これって……)

○東一局二本場 親:照 ドラ:1m

照「——ツモ。4000オールは4200オール」

タコス(ツモ表2赤3のドラ爆……)

竜華(それも断ヤオのノベタンを嫌ってドラの1萬の役なし単騎待ち……)

玄(これじゃあまるで……)


恒子「宮永選手、三連続和了! これによって一位の清澄と二位の白糸台が逆転! これがチャンピオンの真の実力なのか!?」

健夜「……気づきました?」

恒子「はい?」

健夜「この局、宮永選手を除いた三人の手牌に、赤ドラも含めてドラが一枚も来なかったことを」

恒子「!?」

○東一局三本場 親:照 ドラ:9p

健夜「『雲外鏡』をご存知でしょうか?」

健夜「近世の妖怪で、照魔鏡に映った妖怪が、その鏡を動かした物と言われています」

照「——リーチ(打:2m)」

タコス・竜華・玄(ツモ切りリーチ!?)


健夜「宮永選手は東発を様子見ることで、他家の本質を見抜くと言われています」

健夜「宮永選手自身を鏡に例え、他家を妖怪に例えた時」

健夜「鏡に映る妖怪とただの妖怪に、はたして違いはあるのでしょうか?」

照「——(一発)ツモ。6000は6300オール」

照(手牌):34m34588p344556s ツモ:5m


玄(これって……園城寺さんの一巡先……だよね……)

タコス(卓の三人だけじゃなく、〇本場と一本場の早和了りも私のコピーなら、マホ以上だじぇ……)

玄(こんなの……どうすればいいの?)


竜華(安目の20符3飜を見逃して、結果的に高目の20符7飜をフリテン一発ツモ)

竜華(これじゃあまるで怜の一巡先……)

竜華(いや、安目の直前にリーチをかけていないってことは、つまり宮永照は、二巡先を見ていた……!?)

竜華(どうすればええんや……怜……)

怜(——竜華!)

竜華(——怜!)

照「————」


○東一局四本場 親:照

タコス「——ツモ。300・500は700・900だじぇ!」

照「…………」

恒子「片岡選手、チャンピオンの連荘を止めたー! しかしどうしたチャンピオン、いきなり制止したぞ!?」

健夜「おそらく清水谷選手から、何かを感じ取ったのでしょうね」

恒子「はい?」

竜華(今の見られたみたいな感じ……助かった……)

竜華(時間を置いたから余力が出たんかな? もっとも、最後まで未来が見えへんかったけど……)

竜華(でもおかげでチャンピオンの連荘は止められた)


竜華(やっぱり準決勝では怜に苦しめられたんやな。おかげで半端な枕神でもチャンピオンの抑止に——私には本来ないはずの未来予知を発揮することで、もう一度照魔鏡を発動させられた)

竜華(せやけど……)

照「——ロン。1000」

竜華(やっぱり止まらんか……)

照「——ツモ。300・500」

照「——ツモ。500・1000」

照「——ロン。2900」

タコス・竜華・玄「…………」


恒子「宮永選手、ゴミツモで調子を狂わされたか。けれど連続和了は止まらない!」

健夜「おそらく東場を終わらせるのが目的でしょうね」

健夜「片岡選手の支配から逃れ、松実選手のドラゴンは復活せず、清水谷選手の策は切れた。速度を気にする必要がない今、雲外鏡を使うのに障害はなし」

健夜「いったいチャンピオンはこの親でどこまで稼ぐつもりなのでしょうか」


○白糸台:150500
○清澄 :110600
○姫松 :076700
○阿知賀:062200

○南一局一本場 親:照 ドラ:9p

照(配牌):135m55(赤々)9p15(赤)79s北北 ツモ:9p


恒子「宮永選手、配牌ドラ5の三向聴。しかし手が重い!」

健夜「二つの照魔鏡を同時に動かせるんですね……」

恒子「はい?」

健夜「しかし宮永選手は未来が見えます。対子手を和了るのも時間の問題でしょう」

恒子「未来って……何のことですか?」

タコス(どうしようもないじぇ……)

タコス(配牌):47m47p149s東西西白中 ツモ:2m

竜華(……あかん)

竜華(配牌):33m58p369s南西白中發 ツモ:西

玄(ドラ……)

玄(配牌):4469m2p35s東南北發中 ツモ:6m

○南一局一本場 親:照 ドラ:9p 9巡目

照(手牌):135m55(赤赤)99p55(赤)77s北北 ツモ:1m

恒子「宮永選手、3萬を切って七対子ドラ5を聴牌! これが決まれば他家は致命的だぞ!」

健夜「5萬待ちは仮聴ではなく本命でしょうね。下手をすれば親の三倍満、数え役満までありえます」


恒子「一方、他家の手は重いまま。しかも片岡選手と清水谷選手の西持ち持ちが痛い!」

恒子「——お、松実選手に久しぶりの聴牌が入りました!」

玄(手牌):4445666m222p35s發 ツモ:4s


恒子「松実選手、安牌に抱えていた發を切って聴牌! それも黙聴! 高目三暗刻に断ヤオの五面張だ!」

健夜「しかし3mは四枚、4mも四枚、5mが二枚、6mが三枚、7mが三枚見えています。良形のわりに和了り牌は四枚しかありません」

健夜「それに宮永選手がドラを従えている今、松実選手はどういうわけかリーチをしません」

恒子「——あー! 松実選手、幸か不幸か、一発で和了り牌をツモってしまったー!」

玄(手牌):4445666m222p345s發 ツモ:6m

玄(ツモ・断ヤオの30符2飜。一本場で600・1100)

玄(迷わずにリーチをかけていれば満貫だったのに……)


玄(——違う)

玄(迷ったのは事実だけど、後悔なんてしていない)

玄(待つ身なのは慣れてる)

玄(だから私はいつまでも待ち続ける)

玄(あの子(ドラ)が帰って来るまで!)

玄「——槓!」

ドラ:9p 槓ドラ:7s

照(手牌):115m55(赤赤)99p55(赤)77s北北
玄(手牌):4445m222p345s 暗槓:6m 嶺上ツモ:3p

玄(大丈夫……来てくれる……!)

玄(現に穏乃ちゃんも憧も、赤土先生も帰ってきてくれた)

玄(お姉ちゃんとも灼ちゃんとも、今まで以上に仲良くなって)

玄(そして和ちゃんとも、またこうして巡り会えた)

玄(だから……大丈夫!)

玄「——リーチ!」

照(……やはりずらせないか)

恒子「松実選手、何と和了りを拒否! しかも打5萬ではなく、嶺上牌の3筒をそのままツモ切り! 三面張も拒否して、35萬の変則両面待ちだ!」

健夜「松実選手からは見えてませんが、3萬は実質空です。つまり私たちから見て、松実選手は5萬の単騎待ちを選択したことになります」

恒子「どうして和了りを拒否、それも槓をして、さらには萬子の待ちに固執したのでしょうか?」

健夜「言うまでもありません」

健夜「ドラゴンの帰りを待っているのですよ」

玄(……おかえり)

玄(おかえりなさい……!)

玄「ツモ!」


玄(手牌):4445m222p345s 暗槓6m ツモ:赤5m

裏:2p 槓裏:2p

玄「リーチ一発ツモ断ヤオ三暗刻赤1裏6。——8000・16000は8100・16100です!」

照「——ツモ。500・1000」

恒子「——先鋒後半戦終了! 数え役満の親ッ被りを食らったものの、残る三局を三連続和了で流し、点棒を守り切った! 各校の点数は以下の通りです!」


○白糸台:139000
○清澄 :100800
○阿知賀:093000
○姫松 :067200

タコス「ただいま……疲れたじぇ……」

部長「お疲れ様、優希。——そんな顔しない」

タコス「だって……」

部長「インターハイチャンピオンを相手にプラス収支、それも放銃はたったの一回。十分な成績よ、胸を張りなさい」

部長「——まこ、頼んだわよ」

まこ「任せときんしゃい!」

穏乃「玄さん!」憧「玄!」宥「玄ちゃん!」灼「玄……!」レジェンド「玄!」

玄「皆……ドラが戻って来てくれたよ!」

灼「でもちょっと遅かったね……」

玄(ズコーン!!)

レジェンド「まあでも、二回戦や準決勝に比べたら十分過ぎる成績ね」

レジェンド「宥、いつものように頼んだわよ!」

宥「はい」

照「ただいま」

菫「思ったより稼げなかったな」

照「大丈夫。皆が抑えてくれれば勝てる(もぐもぐ)」

菫「それは皮肉か……」

照「……(もぐもぐ)」

菫「……まあいい」

菫「準決勝の借りは返す」


竜華「怜ー、疲れたー……。膝枕……」
怜「いや、逆やろ」


■インターハイ決勝個人収支
○照  :+39000
○タコス:+00800
○玄  :−07000
○竜華 :−32800

先鋒戦に続き、次鋒戦も載せていただきます

恒子「インターハイ決勝次鋒前半戦!」

恒子「引き続き実況はわたくし、ふくよかじゃない福与恒子と」

健夜「すこやかじゃない、小鍛治健夜で——」

恒子「さて、次鋒戦が始まります前に先鋒戦のハイライトをお伝えします!」

健夜「最後まで言わせてよ!」


恒子「先鋒前半戦の東発を制したのは、清澄の片岡選手! しかしお得意の連荘は宮永選手によって阻まれました!」

恒子「が、その後も和了を重ね、結果的にはチャンピオンを押さえて+26100点の堂々たるトップ! 片や宮永選手は+3600点に甘んじられました」

健夜「マイナスで終わったものの、清水谷選手の地味なアシストには光る物がありました」


恒子「しかし後半戦では宮永選手の独壇場! 十三局の内、十一局も和了を重ね、その獲得点数は実に+50400点!」

健夜「ただ親番で松実選手に数え役満をツモられたこともあり、最終的な収支は+39000点となりました」

恒子「が、それでも四位姫松との差は71800点! 他の二校はともかく、姫松は非常に厳しい状況です!」

恒子「さて、今のうちに各校の次鋒を紹介致します!」

恒子「白糸台からはSS・弘世菫選手! 鮮やかな狙い撃ちは今局でも見られるのか!?」

恒子「清澄からは染谷まこ選手! 終始場を支配した準々決勝の打ち回しは、記憶に新しい!」

恒子「阿知賀女子からは夏でもマフラー、松実宥選手! けれどクーラーが利いているのか、対局中も寒そうにしています!」

健夜「他の選手が夏なのにセーターやベストを着ているのには突っこまないんですね……」

恒子「姫松からは真瀬由子選手に代わって、元千里山の江口セーラ選手! その火力は姫松次鋒でも発揮されるか!?」

恒子「お待たせ致しました。まもなく次鋒前半戦、スタートです!!」

まこ「キング・クリムゾン!」

まこ「『結果』だけじゃけぇ!! この世には『結果』だけ残るけぇ!!」

恒子「次鋒後半戦終了ーっ!!」


恒子「——という夢を見ました!」

健夜「今まで起きてたよね!?」

恒子「というわけで今度こそ次鋒前半戦スタート!!」


○白糸台:139000
○清澄 :100800
○阿知賀:093000
○姫松 :067200

東:菫 南:宥 西:まこ 北:セーラ

○東一局〇本場 親:菫

宥(皆との最後の大会……)

宥(玄ちゃんも、皆も頑張ってくれた……)

宥(だから何としてでもプラスで終えたい……!)

セーラ「——ツモ。2000・4000!」

菫・宥・まこ「!!」

恒子「江口セーラ選手、早速満貫をツモ和了! この調子で失点を挽回することができるのか!?」

セーラ(竜華は災難やったな)

セーラ(せやから俺が挽回したる……!)


菫(狙い撃ちしようにも、聴牌まであまりに速すぎる。そしてこの火力。このバカヅキが)

菫(……まあいい)

菫(格好の獲物は左ではなく右にいる)

○東二局〇本場 親:宥 八巡目

宥(——聴牌)

宥(白糸台の弘世さんは、千里山——姫松の江口さんを狙っている)

宥(だからこのまま行っても大丈夫——!)

宥「リーチ——」

菫「——ロン。3900」

宥(え……)


恒子「出ました、弘世選手のシャープ・シュート! 両面を嫌って単騎待ちを見事和了!」

健夜「今更ながら、弘世選手の狙い撃ちの正確さには、恐ろしい物がありますね」

宥(たまたま江口さんの余り牌と被ったんだよ……ね? ……)

菫(…………)

○東三局〇本場 親:まこ

菫「——ロン。2600」

宥「!?」

恒子「シャープ・シュート炸裂! 今度は三面張を蹴って単騎待ちを和了! 松実選手はまたまた振り込んでしまいました!」


宥(どうして……)

宥(弘世さんはまた江口さんを狙っていたはず……)

宥(もしかして、癖に気づいた……っ!?)

菫(…………)

○東四局〇本場 親:江口 ドラ:5p

菫(さすがに気づくか)

菫(けれど癖を改善した今、SSを自重する必要はない)

菫(振込マシーンになるならそれでよし、警戒のあまり縮こまるのもよし)

菫(この局ももらった。——2s単騎待ち)

宥(三連続はない……よね?)

宥(打:2s)

菫「ロ——」

まこ「——ロン」

菫・宥「!?」


まこ「1300。——すまんのー、頭跳ねじゃけぇ」

恒子「染谷選手、頭跳ねで弘世選手の連続和了を阻止! これは上手い!」

菫(偶然……? いや、違う!?)

健夜「タンピンから断ヤオのみのノベタンに変更。これは意図的な物ですね」

まこ(事前に二人の打ち筋は再現してもらったけん、先回りは容易いことじゃけぇ)

宥・まこ「聴牌」菫・セーラ「ノーテン」

恒子「次鋒前半戦終了ー!」

恒子「南場はSSも影を潜め、染谷選手が500・10001000・と2000を和了。また江口選手が南三局に跳満をツモ和了りしました!」

恒子「トップは依然として白糸台、続いて清澄! またSSの餌食になったせいもあり、三位の阿知賀と四位の姫松が逆転しました!」


○白糸台:135000
○清澄 :101600
○姫松 :084200
○阿知賀:079200

まこ「すまんのお、対して稼げんかったけぇ……」

部長「なに言ってんの。千里山——姫松の次鋒のバカヅキに削られただけで、場を支配していたのは完全にまこじゃない」

部長「この調子で後半戦も頼むわよ」

まこ「おう!」


照「……清澄の次鋒に流れを奪われたね」

菫「点数はほとんど削られてないだろ。それに、次は清澄も姫松も上回ってみせる」

亦野(弘世先輩の発言ってフラグにしか聞こえないんだよなあ……)


宥「……すみません」

宥「どうやら癖が改善されたみたいで……」

レジェンド「——宥。私に一つ策がある」

東:まこ 南:セーラ 西:宥 北:菫

○東一局〇本場 親:まこ ドラ:3m

宥(配牌):1235m57p11s南北發中中 ツモ1p

恒子「起家は松実選手、配牌ドラ1の三向聴! 形は悪くないぞー!」

宥(…………)

宥(打:3m)

まこ・セーラ・菫・健夜・恒子「!?」

宥(ツモ:9s 打:2m)

宥(ツモ:中 打:1m)

恒子「何と松実選手、ドラ絡みの面子を三連打! これは一体どういうことだ!?」

まこ・セーラ・菫(何を考えているんだ……?)


宥「聴牌」まこ・セーラ・菫「ノーテン」

宥(手牌):567p5557999s中中中

まこ(高目三暗刻・中の6400。高目ツモなら満貫……)

セーラ(にしてもわからん)

菫(萬子の面子を捨てていなければ、結果的には1300・2600の和了、それもリーチをかけていれば満貫の和了じゃないか)

まこ・セーラ・菫(阿知賀女子松実宥……一体なにを考えている?)

○東二局流れ一本場 親:セーラ

宥・まこ「聴牌」セーラ・菫「ノーテン」

宥(手牌):1355(赤)6677p111s中中 待ち:嵌2p
まこ(手牌):345(赤)m55p234s北北北中中 待ち:5p中

まこ(またしても配牌直後に萬子の順子を連打……)

セーラ(ストレートに行けば和了ってるやないか)

菫(……!? これは——)


恒子「松実選手の不可解な打牌を警戒してか、またもや流局! 東三局流れ二本場に移ります!」

健夜「……気づいていますか?」

恒子「はい?」

健夜「松実選手を警戒せず、そのまま素直に打っていれば、東一局は菫選手が松実選手から、東二局は江口選手が跳満をツモ和了ってます」

レジェンド「ノーテン罰符だけで4500点。しかも結果的に江口セーラの跳ツモを防いだ。これはおいしい」

憧「でもさ、やっぱりこの作戦は無理じゃない? さすがに他家もそろそろ気づく頃だろうし」

レジェンド「そうね」

レジェンド「まあそこは、機会が来るまで宥には辛抱してもらいましょう」


菫(絶一門か! しかし——)

まこ(通常の絶一門は時と場合によってどの色を落とすかを選択する)

セーラ(せやけど松実宥は端から萬子を、それも向聴数を落としてまで毎局萬子を手牌から外して行った)

まこ・セーラ・菫(これは誘いだ!)

健夜「松実選手も中々大胆なことを考えましたね」

健夜「どういうわけか、松実選手は特定の牌を手牌に引き寄せる傾向が見られます」

健夜「ですからもし全員が同じ一色を捨てて打ち回せば、必然的に松実選手の方がより多くの特定の牌を引き寄せられます。しかし——」

恒子「松実選手が犠牲にしたのは、何と萬子! これでは他家に速度で負けてしまうのではないかー!?」


○東三局流れ二本場 親:宥 ドラ:6s

セーラ(萬子を犠牲にしないと、他家が乗って来ないと思ったんやな)打5(赤)m

まこ(染め手はわしの十八番じゃけん)打:7m

菫(打牌の選択が限定される以上、必然的に余剰牌を狙いやすくなる。殴り合いならこっちのものだ)打:3m

○東三局流れ二本場 親:宥 ドラ:6s 十巡目

菫(手牌):23344p22666s北北北 打:3p 待ち:2p

恒子「弘世選手、何と四暗刻聴牌を捨てて一盃口の片和了りを選択!」

健夜「皆が同じ絶一門を選択している以上、四暗刻に望みはないと考えたのでしょう。現に2索は河に二枚見えています。それに——」

健夜「松実選手の手が進んだ時、ちょうど二筒が余ります」


菫(江口セーラの仕掛け——一筒と五筒ポンを考慮すれば、この手は黙で十分)

菫(それに理牌を見るに、松実宥が二筒を持っていようといなくても、それが不要牌である可能性は高い——)

まこ(打:赤5p)宥(打:2p)

菫(同巡内フリテン!?)

まこ「——ロン。5200は5800」菫「!?」

まこ(手牌):22234p35(赤)s南南南白白白 待ち:嵌4s

菫(私への放銃を阻止しただけではなく、打点を下げてまで手牌の赤5筒切りだと!?)

まこ(だからその打ち筋はすでに学習済みじゃけぇ)

○東四局〇本場 親:菫 ドラ:5m

セーラ「——(一発)ツモ。2000・4000!」

セーラ(手牌):34m566778p234p南南 ツモ:5m

菫(絶一門はどうしたんだよ……)

セーラ(配牌二向聴でわざわざ順子を落とすわけないやろ)


○南一局〇本場 親:まこ

宥・セーラ「聴牌」まこ・菫「ノーテン」

まこ(親だけん稼ぎたかったけど、振るよりはましか)

菫(危険牌を二つも三つもつかまされたらどうしようもないな)

○南二局流れ一本場 親:セーラ

菫「——ロン。2600は2900」

セーラ(九萬単騎待ち。絶一門はどうしたんや……)

菫(それこそ絶一門の王道だろ)


○南三局〇本場 親:宥

菫(松実宥に聴牌が入れば、余る牌は5索か9索。——9索単騎に取るか)

セーラ「——ロン。5200」

菫(なっ!?)

セーラ(狙い撃ちされるのが自分だけやと思ったら大間違いやで)


健夜「意趣返しですか。今の和了りは上手いですね」

恒子「そしてこの和了りで姫松は93500点! 満貫で文句なしに原点復帰だーっ!!」

○南四局〇本場 親:菫 ドラ:5p

恒子「次鋒戦も残すはこの一局のみ! 削られてはいるものの、トップは依然として白糸台! そして最下位阿知賀女子・松実選手は、焼き鳥を回避することができるのか!」

健夜「個人的には染谷選手の手牌が興味深いですね」

恒子「と、言いますと?」

健夜「見てください。役満が見えています」

まこ「ポン!」

まこ(手牌):22333667s發發發 副露:888s

まこ(鳴かなければ門混發一盃口の満貫)

まこ(しかしこの鳴きに打7索で緑一色聴牌!)

まこ(1索は河に二枚、2索と3索は河に一枚ずつ。少なくとも2索は生きとる!)


宥「——ポン」

まこ(あ?)

宥(手牌):■■■■■■■■■■ 副露:777s 打:中

まこ(生牌の中……聴牌、か?)

まこ(ツモ:1s)

まこ(…………)

まこ(普通ならほぼ安全な牌)

まこ(しかし久が言うには、阿知賀の次鋒は赤い牌を引き寄せる……)


まこ(けれどその場合、あるとしたら1索地獄単騎)

まこ(ならば生牌の中で待つはず!)

まこ(それに、そんなちっぽけの可能性のために緑一色は捨てられん!)

宥「——ロン」

まこ「」

宥「混一・対々・三暗刻・中・赤1——16000です」

宥(手牌):1555(赤)999s中中中 副露:777s ロン:1s

まこ(中暗刻……だと……っ!?)


恒子「紅孔雀炸裂! 次鋒戦オーラスを制したのは、阿知賀女子の松実選手だー!」

健夜「一方、先にロン牌をつかんでしまった清澄の染谷選手は不運でしたね」

健夜「ともかく、これで点差がひっくり返りました」


○白糸台:118900
○阿知賀:099200
○姫松 :093500

○清澄 :088400


恒子「トップは変わらず白糸台! しかし弘世選手個人の成績は−20100点! これは先鋒に申し訳ない!」

恒子「次点は阿知賀女子! 倍満出和了りによって点数をほぼ原点の99200点にまで回復!」

恒子「惜しくも姫松は三位に甘んじたものの、江口選手の獲得点数は+26300点! さすがは千里山の元エースと言ったところか!」

恒子「そして最下位は、オーラスで倍満を食らった清澄! しかしトップとの点差は30500点! まだまだ逆転の範疇だー!」

恒子「以上、インターハイ決勝次鋒戦の模様をお伝え致しました!」

まこ「……すまん、最後に欲が出た」

久「ええ、確かに最後のは、らしくもなく温かったわね」

まこ「相変わらず厳しいのお……」

久「まあ大丈夫」

久「私がトップで和につなげるから」


菫「…………」

照(もぐもぐ)

菫「……せめて何か言ってくれよ」

照「……もぐもぐ?」

菫「」

亦野(宮永先輩がお菓子に盲目みたいな風潮)

憧「何だかんだで決勝もプラス収支。さすが宥姉!」

宥「ただ運がよかっただけ。本当はもっと稼ぎたかったのだけれど……」

憧「それは私たちの役目。だから宥姉は控室で温まってて。——お連れ様」


セーラ「後は頼んだで、姫松の主将!」

洋榎「おう!」


■インターハイ決勝個人収支
○照  :+39000
○セーラ:+26300
○宥  :+06200
○タコス:+00800
○玄  :−07000
○まこ :−12400
○菫  :−20100
○竜華 :−32800

続いて中堅戦を載せていただきます

えり「インターハイ決勝中堅戦、実況はわたくし針生えりと」

咏「横浜の星、解説・三尋木咏がお伝え致します」

えり「しかし先鋒戦と次鋒戦を中継していた小鍛治プロと福与アナウンサーはどうされたのでしょうね……」

咏「私たち、副音声じゃないの? 知らんけど?(てかえりちゃんは他局だし)」

えり「ともかく対局が始まる前に次鋒戦のハイライトをお伝え致します」

えり「次鋒前半戦、東発を制したのは、姫松の江口選手。満貫と跳満を和了しています」

咏「でも試合を作っていたのは、清澄じゃないかなー」

えり「はい。清澄の染谷選手は打点こそ低いものの、要所を確実に押さえ、前半戦はプラス収支で終えました」


えり「そして後半戦は、手に汗握る四家絶一門! 変わらず染谷選手の小技や江口選手の和了が目立ちましたが、後半戦の見どころは何と言ってもオーラスの役満対決」

咏「もっとも、紅孔雀はローカルだけどねー」

えり「はい。——今まで焼き鳥だった阿知賀女子の松実選手が紅孔雀を聴牌したのに対し、流れをほぼ支配して来た染谷選手は緑一色の聴牌。しかし染谷選手はロン牌をつかみ、振ってしまいました」

咏「らしくないねー。緑一色にこだわりでもあったのかなー? ——知らんけど」

えり「そしてトップの白糸台・弘世選手はお得意の狙い撃ちを連発するものの、今一つの成績に終わってしまいました」

咏「んー、失点の原因は、思うにその狙い撃ちのせいじゃないかなー。攻撃特化ならそれらしく、打点を下げてまで狙い撃ちなんてしなければいいのに。——よくわからんけど」

えり「続きまして各校中堅選手の紹介」

えり「白糸台からは渋谷尭深選手。オーラスにおける役満は、今日もみられるのでしょうか」

えり「阿知賀からは新子憧選手。その現代的な打ち回しに共感を覚える視聴者は多いと思われます」

えり「姫松からは主将・愛宕洋榎選手。驚くべきことに、地区予選からこの決勝まで、今まで一度も不意の放銃はしていません」

えり「清澄からは部長の竹井久選手。理解し難い悪待ちは今局でも炸裂するか?」

えり「——対局の準備が整いました。インターハイ決勝中堅前半戦、スタート!」

東:憧 南:洋榎 西:尭深 北:久

○東一局一本場 親:憧

えり「さて、三尋木プロから見て、どの選手が活躍しそうですか?」

咏「うーん、まだわかんねー」

えり「…………」


咏「えりちゃん的にはどうなのかなー?」

えり「私ですか? 白糸台の渋谷選手も気になりますが、やはり姫松の愛宕選手が一番かと」

咏「大学も実業団もプロも注目してるもんねー。——って、噂をすれば」

洋榎「——ツモ。1300・2600!」

洋榎「——ツモ。3900オール!」

えり「愛宕選手、またしても和了。この和了りで一位・白糸台との差を3300点にまで縮めました」

憧(千里山の江口セーラといい、この愛宕洋榎といい、どうして大阪の女はこうも高い手ばかり和了れるのよ!)

洋榎(調子がええ。こりゃあ今日ももろたな——)


久「——ツモ! 3000・6000は3100・6100!」

憧・洋榎「!?」

久(今日はこの前みたいにいかないからね)

洋榎(ふん。今日は前よりは楽しめそうやな)

憧(あー、こっちもまたー……!)

○東四局〇本場 親:久 ドラ:1m 六巡目

久「——ロン。2400」

憧「えっ……」

久(手牌):22455m334455p北北


憧(何よ、その和了り)

憧(二重の意味で何で待たないの!? てか姫松といい、連荘するな!)

憧(せっかく渋谷尭深の親を流したのに……。これで九牌確定——)

○南二局一本場 親:洋榎

洋榎「——ロン。3900は4200や」

尭深「はい」

憧(また連荘……!)


えり「愛宕選手、東四局一本場から四連続和了。先の〇本場で逆転した二位・白糸台との点差をさらに広げていきます」

咏「これはオーラスが楽しみだねー」


憧(これで十二牌確定……)

憧(オーラスに渋谷尭深に大物手が入るって、愛宕洋榎は本当にわかってるの!?)

洋榎(オーラスもウチが和了ればええんやろ。なら稼げる時に稼がんとな)

○南二局二本場 親:洋榎

尭深「——ツモ。1300・2600は1500・2800」

憧(渋谷尭深が連荘を阻止!?)

憧(それってつまり……もう仕込みは十分ってこと!?)

洋榎(高目親倍潰されてもうた)

洋榎(ま、これくらい稼げば、前半戦は十分か)

○南三局〇本場 親:尭深

尭深「——ツモ。500オール」

憧「っ!?」

憧(やっぱりまだ狙っている……)

憧(これで十三牌確定……)

憧(無理にでも流して、天和は阻止する……っ!)


○南三局一本場 親:尭深

憧「——ロン! 2000は2300!」

尭深「はい」

憧(よし、流せた!)

憧(でも渋谷尭深が仕込んだ牌は全部で十三牌。その種は——)

えり「長かった前半戦もついにオーラスを迎えます」

えり「今、ラス親の竹井選手がサイコロを振りました」

えり「このオーラス、はたしてどうなるのでしょうか!」

尭深(——ハーベストタイム!)

○南四局〇本場 親:久 ドラ:5m

尭深(配牌):9p東東南南南西西北北北中中 第一ツモ:?

えり「やはり来ました! 面前混一色・七対子・混老頭の二向聴! ——いいえ、もちろんこれは四暗刻・四喜和・字一色の一向聴です!」

咏「うは、やっべー。この大会のルールだとシングル役満でしかないけど」


洋榎(浩子の話通りなら、山は中張牌だらけのはずや)

憧(絶対に流す……!)

久(……ふふ)

久(配牌):8s白6s4m6p4s5p5p8s6s6m5s4p6p4p

えり「——って、親の配牌をよく見てください。これは——!」

久「——ダブルリーチ!」

久(配牌):46m445566p45688s 打:白 待ち:嵌5m

憧・洋榎・尭深(ダブリー!?)


えり「竹井選手、まさかのダブルリーチ! 役はダブリー・断ヤオ・三色・一盃口の跳満確定! これは強烈だ!」

咏「でも待ちはドラの嵌5萬。しかも親のダブリー。これじゃあ他家は差し込みどころか放銃すらできないんじゃないかなー」

えり「さて、その5mの在りかは——あ」

咏「全て他家の手牌の中だねー。しかも持ち持ち」

咏「これは役満確定かなー?」

憧(配牌):1559m35p12369s發發 打:白
洋榎(配牌):2355(赤)m133p99s南北發發 打:白


尭深(配牌):東東南南南西西北北北中中 ツモ:東 打:9p

えり「初っ端から引いて来ました! 渋谷選手、役満をあっさり聴牌!」

穏乃「そんな!」

玄「今までの第一打は『9p東東南南南西西北北北中中』のはずなのに……」

レジェンド「それとは別に、たまたま配牌に『東』が紛れ込んだ。……そういうことだろ」

レジェンド(……憧!)


タコス・京たry「部長!」

和「そんなオカルトry」

まこ(……部長)

まこ(どうしてリーチをかけた?)

えり「いつ役満が飛び出しても全く不思議ではありません! 特にリーチをかけてしまった竹井選手は非常に危うい!」

えり「その竹井選手、いま第二ツモに手をかけま——ああ!」

えり「竹井選手、牌を指でなぞった途端、それを指で天に弾き飛ばしたー!?」

咏「おお!」


久「——ツモ!」バシーンッ!!

憧・洋榎・尭深「!?」

えり「何と竹井選手、ダブリー嵌張待ちを一発でツモ和了り! 奇跡的に渋谷選手の役満を回避しました!」

咏「いやいや、えりちゃん」

咏「確か和了り牌の5萬は空じゃなかったかなー?」

えり「……あ」

久(ツモ:6m)

久「あれ、5萬じゃない」

久「ははは、ごめんなさい。親だから12000の支払いね」

憧・洋榎・尭深「…………」

えり「竹井選手、日頃のマナーの悪さがついに裏目に出ました。何と誤ツモ! ダブリーの興奮のあまり、おそらく盲牌に失敗したのだと思われます」

咏「萬子の識別は玄人でも難しいからねー」

えり「手牌を開いてしまっているため、竹井選手は和了放棄ではなくチョンボ。各他家に4000点を支払い、南四局〇本場をやり直すことになります」


えり「しかし白糸台以外の三校には、ある意味助かった展開かもしれませんね」

咏「うーん、かもねー」


セーラ「アホ。オーラスが再び続くってことは」

竜華「再び渋谷尭深に役満手が入る……!?」


まこ「……部長、ダブリーは偶然にしても、わざとチョンボをしたな」

咲・和・タコス・きょry「え?」

○南一局〇´本場 親:久 ドラ:1s

尭深(配牌):3458m124p258s西西北 ツモ:?

尭深「…………」


菫「普通の配牌だと!? どういうことだ!?」

照「……ある意味当然かも」

照「だって一度撒いた種は、すでにさっきの局で実って、チョンボのせいで一度土に帰ったから(もぐもぐ)」

久(なぜ渋谷尭深はラス親を引かないのか)

久(それはラス親を引くメリットがほとんどないから)

久(優希が高確率で起家を引くのは、起家が優希の能力を一番に活かせるから)

久(その理論を渋谷尭深にも当てはめると、彼女の能力はラス親でもほとんど意味をなさない)

久(つまり渋谷尭深は、オーラスの最初の一局にしか能力を発揮できない!)

久(チョンボのやり直しとはいえ、〇本場と〇´本場では山が異なる)

久(だから理屈上は渋谷尭深の手に役満の種は入らないはず。——そう、理屈上は)

久(まあその確認は、控室でしましょうか)バシュッ

久「——(一発)ツモ! 8000オール!」ドンッ!!

久(手牌):1s12345(赤)6678p西西西 ツモ:1s 裏:1s


○姫松 :114800
○白糸台:100200
○清澄 :100100
○阿知賀:084900

東:尭深 南:洋榎 西:憧 北:久

○中堅後半戦東一局〇本場 親:尭深

洋榎「——ロン。2000」

えり「東発を決めたのは、またしても愛宕選手。しかし地味な和了りです」

咏「個人としては十分に稼いだし、今度はオーラスを警戒してるんじゃないかなー。知らんけど」

洋榎(白糸台もそうやけど、清澄が勢いづいとる。ここは早く流さんとな)

○東二局〇本場 親:尭深 ドラ:2p

憧「チー!」 副露:879m 打:4m

憧「チー!」 副露:978p 打:北

憧(渋谷尭深にだけは連荘させられない!)


憧「——ロン! 3900!」

洋榎「ほい」

憧(連荘阻止成功! しかもデバサイ!)

洋榎(わかりやすくて助かったで)

えり「今のは差し込みでしょうか?」

咏「全国に出場する面子が、それ以外であんな温い牌打つと思う? ——いや、わからんけど」


尭深「…………」(手牌):22234567p44456s

○南三局〇本場 親:憧

洋榎・久「聴牌」憧・尭深「ノーテン」

憧(本来なら形聴を取ってでも連荘したいとこだけど)

憧(渋谷尭深に役満を和了られるよりは百倍マシ)

えり「中堅戦も後一局で終了です。注目の渋谷選手の配牌は——」


○南四局流れ一本場 親:久 ドラ:2p

尭深(配牌):24m36p25s東南西白白發中 ツモ:?

○東三局〇本場 親:憧

洋榎「返してもらうで。——ロン、3900」

憧「!?」

憧(……まあ最初から連荘するつもりじゃなかったから、別にいいか)


咏「やはり姫松の大将は上手いねー」

えり「はい。前半戦では派手な打ち回しが見られましたが、後半戦では安手で見事他家の大物手を潰し、対局の流れを支配しています」

咏「一方で清澄は不気味だねー」

えり「え?」

咏「あの清澄の中堅が、このまま焼き鳥で終わるとは、私には思えないなー。勘だけど」

○南三局〇本場 親:憧

洋榎・久「聴牌」憧・尭深「ノーテン」

憧(本来なら形聴を取ってでも連荘したいとこだけど)

憧(渋谷尭深に役満を和了られるよりは百倍マシ)

えり「中堅戦も後一局で終了です。注目の渋谷選手の配牌は——」


○南四局流れ一本場 親:久 ドラ:2p

尭深(配牌):24m36p25s東南西白白發中 ツモ:?


憧(今までの渋谷尭深の第一打は、国士無双の六向聴)

憧(たぶん大三元を狙っていたんだろうけど)

憧(幸か不幸か配牌で三元牌に恵まれず、こんな国士崩れの第一打になってしまった)

憧(この局は遠慮なく手役を作って和了りに行く!)

洋榎(ダントツでトップやし、オリてもええけど、配牌ドラ3に断ヤオが濃厚か)

洋榎(とりあえず状況を見て判断するか)打:1p


渋谷(打:3p)

憧(ドラ側の3p!?)

憧(もしかしてたった六種で国士を強行するっての!?)

洋榎(えらくめんどうやな)

えり「渋谷選手、六種七牌の状態から国士無双に向かいました」

咏「国士を狙わなくても配牌六向聴だしねー。でもやっぱり苦しいかなー」

えり「あ、また幺九牌が入りました」

○南四局流れ一本場 親:久 ドラ2p 十三巡目

久(打:1s)


えり「渋谷選手、国士一向聴まで突っ張りましたが、ここで最後の1索が河に放たれました。役満は実らず!」

咏「でも今度は面白いのが見られそうだねー」

えり「はい?」

咏「清澄の捨て牌、全部幺九牌だぜ」

憧(やっと聴牌)

憧(てかどうして南家の渋谷尭深はチー入れないのよお——って、国士狙いだから、阻止しようにもできないのか)

憧(手牌):33667788m678p78s 待ち:6s


洋榎(手が重い)

洋榎(張ったのはええけど、和了できんのか?)

洋榎(手牌):55(赤)m222234p35(赤)777s 待ち:4s

○南四局流れ一本場 親:久 ドラ:2p 十七巡目

久「——リーチ」

久(手牌):■■■■■■■■■■■■ ツモ:■ 打:1m

えり「竹井選手、ここに来て動きました。なお流し満貫はいまだ継続中です」

洋榎(白糸台の国士が死んだというのに、また面倒な……あ?)

洋榎(ツモ:1p)

洋榎「…………」

洋榎(河に見えてる1筒は二枚)

洋榎(この1筒がロン牌であるとしたら、他家は1筒地獄単騎で待っていることになる)

洋榎(清澄ならやりかねん……)


洋榎(せやけど清澄は流し満貫の完成まであと一歩)

洋榎(それに残りのドラ二枚は白糸台の河の中)

洋榎(つまり他家の手牌にドラは一枚もない)

洋榎(しかも1筒ロンなら平和も断ヤオつかへん)

洋榎(ここは打1筒や!)

久「——ロン!」

洋榎「!?」

久(手牌):345m1p344445666s 待ち:1p


洋榎「本当に1筒地獄単騎……それもリーチ・一発のみやとっ!?」

洋榎「何でや! つまりラスヅモが何だろうと、手牌の1筒を切れば流し満貫達成。役無しリーチよりはるかにええやないか!」

久「ええ、確かにそうね。でも万が一にも鳴かれる可能性はあった」

久「それに、はたして本当に満貫より安いのかしら?」

裏ドラ:4s

久「リーチ・一発・裏4——18000は18300!」


えり「竹井選手、親ッ跳ねデバサイ! この一撃で清澄がトップに躍り出ましたー!」

咏「うおー、すげー」

えり「予想以上の盛り上がりを見せた中堅戦も終了です。各校の得点は——」


久「——さて、一本場行きましょうか」

憧・洋榎・尭深「!?」

久(渋谷尭深にオーラス0本場以外は大物手が入らず、しかもこの流れ。和了り止めするわけがないじゃない)

○南四局二本場 親:久

洋榎「——ロン。5200は5800や」

久「…………」


えり「インターハイ中堅戦終了です」

えり「波乱に満ちた中堅戦でした。各校の点数は次の通りです」


○清澄 :112600
○姫松 :108900
○白糸台:090500
○阿知賀:088000

えり「役満が不発に終わった白糸台は玉座から陥落。終始場をリードしていた姫松が一位に収まるかと思われましたが、オーラスの18000直撃により、トップに立ったのは、何と最下位だった清澄!」

えり「阿知賀の新子選手は放銃こそ微々たるものでしたが、自摸で削られ収支はマイナス。チームも四位になってしまいました」

えり「以上、中堅戦の中継をお送りいたしました」

まこ「まったく……相変わらず部長は無茶するのお。チョンボといい、連荘といい」

久「はは……」

まこ「ともかくお疲れ」咲・タコス・和・きょry「お疲れ様です!」

久「和、決勝も頼んだわよ。——姫松の副将には気をつけて」

和「はい」


和(誰が相手だろうと、いつも通りに打つだけです)

和(それにこの決勝を勝てば、今まで通り皆と……)

和(今まで通り咲さんと……)

憧「ごめーん。全然ダメだった……」

灼「そんなことな……」

灼「後は私と穏乃に任せて……」

灼(ハルちゃん……)


尭深「すみません……」

亦野「大丈夫。私が取り返す……!」

照・淡・菫・尭深(ジー……)

亦野「そんな顔しないでくださいっ!」

末原「今大会初の純粋な放銃ですね、主将」

洋榎「せやな」

末原「どこか嬉しそうなのは気のせいですか?」

洋榎「アホ。放銃して嬉しいわけあらへんやろ」

洋榎(まあでも、久しぶりに楽しめたかな……)


■インターハイ決勝個人収支
○照  :+39000
○セーラ:+26300
○久  :+24200
○洋榎 :+15400
○宥  :+06200
○タコス:+00800
○玄  :−07000
○憧  :−11200
○まこ :−12400
○菫  :−20100
○尭深 :−28400
○竜華 :−32800

書き溜めは以上です。
お付き合いしていただき、ありがとうございます。

まとまって書けたので、また載せさせていただきます

恒子「インターハイ決勝副将戦! 実況の福与恒子と」

健夜「解説の小鍛治健夜がお伝え致します」

恒子「その前に中堅戦のおさらいから。三位でバトンを受け継いだ姫松の愛宕選手の怒涛の和了! その獲得点数たるや+51900点! これはあの宮永照選手を上回る数字だ!」

健夜「しかし後半戦のオーラスの放銃でトップの座は保てず、二位に甘んじましたね」

恒子「代わって頂点に立ったのは、竹井選手率いる清澄! 親のチョンボがあったものの、オーラスの18000デバサイによって堂々たる成績を残しました」

恒子「一方、それまでトップだった白糸台の渋谷選手は、役満が不発だったこともあって三位まで落下。また阿知賀・新子選手はツモで削られ続け、現在は最下位!」

健夜「しかし四位・阿知賀と三位・白糸台との差はわずか2500点。トップ・清澄との差も34400点。逆転は十分に可能です」

恒子「では続いて各校副将選手の紹介を!」

恒子「阿知賀女子からはボーリング打法・鷺森灼! 今日もグローブをつけて凛然と登場!」

恒子「清澄からはインターミドルチャンピオン・原村和! さながらコンピュータのようなデジタル打ちは、決勝卓でも通じるのか!?」

恒子「白糸台からはフィッャー・亦野誠子! Aブロックではインターハイでも稀に見る59400点もの失点を許してしまいましたが、その雪辱をはらすことはできるのか!?」

恒子「姫松からは、Aブロック準決勝で活躍した園城寺怜! 一体この副将戦ではいかなる闘牌を見せてくれるのか!?」

恒子「——対局の準備が整いました。副将前半戦、スタート!!」

東:和 南:灼 西:亦野 北:怜

○東一局〇本場 親:和

怜(先鋒から副将に降格。肩の荷は下りたし、準決勝のふがいなさを考えれば当然の判断やけど、それはそれでやっぱりショックやな……)

怜(まあ、出場させてもろただけで儲け物か)

怜(配牌六向聴。さて、どうする……)


○東一局〇本場 親:和 十巡目

亦野「——ツモ。2000・4000!」

恒子「亦野選手、三副露して満貫を和了! しかしこれは……」

健夜「おそらく園城寺選手の援護のおかげでしょうね」

怜(現在一位は清澄で、しかもその大将は宮永照の妹・宮永咲)

怜(せやからこの副将戦で可能な限り削りたい)

怜(インターミドルチャンピオンに親満の聴牌が入るからそれをずらして、親被りを食らわせてもろたわ)

○東二局〇本場 親:灼

怜「——ツモ。1300・2600」

灼・亦野(!?)

恒子「園城寺選手、平和・三色をツモ和了り! 先ほどの失点を取り返します!」

灼(確か直前は自摸切りだったはず……)

亦野(リーチをかけていれば文句なしの満貫、裏ドラが一つでも乗れば跳満じゃないか……。どうしてダマテンに取った!?)

怜(リーチをかけたら清澄の一発消しの恐れがあった。だからここは闇で正解や)


○東三局〇本場 親:亦野 ドラ:5p

怜:打5p

亦野「!? ——ポン!」 副露:555(赤)p 打:4p

怜「——ロン。3200」

怜(手牌):3355(赤)m4p3377s西西北北 ロン:4p

亦野(手出しのドラ五筒切り。やはり聴牌だったか)

亦野(でもだからってその手で引いてきたばかりの4pに待ちを変えるか? 期待値や和了りやすさ、そして何より他家の打点上昇を考えたら、仮聴だったとしても、そこは4筒ツモ切りの5筒待ちだろ!?)

怜(ためしに5筒切りの未来を見たら、白糸台が鳴いて4筒を出す光景が見えた。だからこの選択で間違ってあらへん)

○東四局〇本場 親:怜 ドラ7p

怜「——リーチ!」

灼(ツモ切りリーチ……!)

亦野(誰かが鳴かないと一発ツモ……なのか!?)

和「——ポン」

和(手牌):2223456p發發發 副露:111m 打:5p

恒子「原村選手、1萬をポンして、47筒の両面待ちから14736筒の五面張に切り替えました!」


亦野(ナイス一発消し! この間に副露を重ねてあが——)

怜「——ツモ。4000オール」

灼・亦野(え?)

怜(手牌):234m7p34455(赤)6s南南南 ツモ:7p

怜(14萬のノベタンからドラの7筒単騎に待ちを変えた理由。もちろんそれはドラで待った方が打点が上昇するからやけど、それだけやない)

怜(試しに1萬切りで未来を見たら、同巡に白糸台がドラの7筒をツモ切って清澄のダマテンに振り込む光景が見えた)

怜(せやから私は二重の意味でリーチをかけた)

怜(リーチをかければ清澄は一発消しを兼ねて1萬を鳴き、親の連荘を阻止するためにも、五面張に待ちを変えて追っかけて来るのは自明の理。仮に副露しなくても、親のリーチを警戒して、白糸台はドラをツモ切らない)

怜(そしてこの一発消しによって、白糸台がツモるはずだったドラが私のツモに流れる。——そういうことや)

○東四局一本場 親:怜 ドラ:6p

和「——ロン。1300は1600」

怜「はい(阿知賀が和了るのに比べたら安いもんや)」

灼(…………)

灼(手牌):345m4446666888p 待ち:57p——ダイムストア

○南一局〇本場 親:和

和「——リーチ」

怜「——チー」

恒子「園城寺選手、安牌が無くて突っ張る亦野選手から副露して、一発を消した!」

怜(これで親の一発・ツモ・裏1は消えた)

怜(そして私がツモるはずやった白糸台のロン牌が清澄に流れる——)

亦野「——ロン。3900」

和「……はい」

和(ついてないですね)

和(まあ長いスパンで見れば、こういうことはよくあります)


久「——まずいわね」

咲・タコス「え?」

久「和はデジタルの化身よ。統計学に基づいた牌効率を基本に、長期的に見れば必ず勝てる打牌をする」

久「しかし言い換えれば、一戦ごとに対する反応——特定の相手への対応は全く頭に入れていないというこよ」

久(永水女子の薄墨初美の時は何とかなった)

久(けれど今回の相手は一巡先が——下手をすれば数巡先が見えているとも言われている園城寺怜!)

久(こうも一々ツモを操作されては、話にならない)

久(相性は最悪だわ……)

恒子「園城寺選手、亦野選手から3900を和了り、南三局に移ります」

怜(白糸台が稼ぎすぎるのも面倒だから、削らせてもろた)

怜(この局もできれば白糸台から和了りたいけど、手が重い)

灼「——リーチ」

灼(手牌):23488m2333p234456s 待ち:124p——ワッシャー

怜(……! 高目断ヤオ・三色・平和の三面張を一発でツモやと!?)

怜「——ポン!」

恒子「園城寺選手、またまた向聴数を落としてまで原村選手から副露。一発を消します。が、——」

灼「——ツモ。700・1300」ツモ:1p

怜(せっかくずらせたのに、和了られてもうた)

怜(……まあ、跳満に比べたら大分マシやな)

○南四局〇本場 親:怜

怜(これで……いったん終わる……)打:4m

和・灼・亦野「聴牌」 怜「……ノーテン」

恒子「副将前半戦終了ー!! 園城寺選手、オーラスは他家の猛攻を何とか逃げ切った!」

健夜「手牌七枚全てがロン牌。まるでロン牌を吸収したかのような打ち回しでしたね」

恒子「その甲斐もあってか姫松・園城寺、トップに返り咲きました! 二位の清澄との点差は約三万点! 続いて三位白糸台、四位阿知賀と並びます!」

健夜「清澄・白糸台はともかく、阿知賀は厳しいですね。ウマもオカもない半荘三回で四万点以上もある差をひっくり返すのは、やや厳しいと思われます」

恒子「そんな阿知賀の鷺森選手は半荘一回でどこまで食いつけるのか!? また前半戦はプラス収支で終えられた白糸台の亦野選手ですが、前回の失点を考えたらこれでは不十分なのは明らか! ——二人の活躍に期待しつつ、いったんCMです♪」

健夜「実況が贔屓したらダメでしょ!?」

○姫松 :125900
○清澄 :097200
○白糸台:094800
○阿知賀:082100

和(不用意な放銃は一度もしてないのに、和了は安手の一回のみで、しかもダンラス)

和(まあそういう時もあります)

和(でもこの成績では、皆に会わす顔がありませんね……)

和(…………)

和(——咲さん)


灼(さすが千里山のエース……)

灼(二回戦で玄相手に八万点以上もの差をつけただけはある……)

灼(——そういえば)

灼(この大会が終わったら、ハルちゃんとはさよならか……)


亦野「先輩に皆、園城寺に散々稼がれましたけど、ちゃんとプラスですよ!」

菫「……亦野」

亦野「はい?」

菫「今は前半戦の牌譜を見ない方がよいぞ。——落ち込むから」

亦野「……はい?」


怜「……そろそろ行ってくる」

竜華「怜……頼むから、頼むからもう無茶は……!」

怜「……大丈夫」

怜「あと半荘一回やから……」

竜華「怜……」

○副将後半戦
・東:怜 南:和 西:亦野 北:灼

○東一局〇本場 親:怜

怜「——ロン。3900」

和「はい」

恒子「園城寺選手、原村選手の先制リーチをかいくぐり、和了りにこぎつけました!」

健夜「こうも搾取が続くと、原村選手が気の毒ですね」

恒子「——と、真顔で言う小鍛治プロであった」

健夜「真顔じゃないよ!」

○東一局一本場 親:怜

灼「……ツモ。400・700は500・800」

灼(手牌):344556m45p45699s ツモ:3p——ポイズンアイビー

恒子「鷺森選手、渋々と言った表情で安目をツモ和了り!」

健夜「一盃口への変化と、高目三色の出和了りを狙って黙にしたのが裏目に出ましたね。裏ドラ有りでこの点差なのですから、こういう時は素直にリーチをかけた方がry」

怜(安目で済ませることができたとはいえ、ずらしたのにまた和了られた……)

怜(宮永照ほどではないにせよ、その多面張はやっかいやな……)

○東二局〇本場 ドラ:7p

亦野「——ツモ! 1300・2600!」

亦野(よし、競り勝った)

怜(こっちの方がまだ安い……)

灼(リー棒むだになった……)

灼(手牌):555(赤)m2333345678p 待ち:2584p——バケット

和(また親被り。今日はこればかりですね)

○東三局〇本場 親:亦野

和(リーチをかければ5200確定)

和(でも今回、リーチをかけて和了れた試しがありません)

和(——! いいえ、それこそ、そんなオカルトありえません!)

和「リーチ!」

怜「——ロン、2600」

和(四面張を蹴って単騎待ち……!?)

和(そんな……)


○東四局〇本場 親:灼

亦野「——ロン。5200」

和「…………」

和(またリーチ後に……)


久「……まずいわね」

久「あの和の集中力が切れて来ている」

○南二局流れ一本場 親:和

怜「——ロン。7700は……8000」

亦野(また余剰牌を狙われた……!)

亦野(さっきから何なんだよ、園城寺怜!)

亦野(宮永先輩はこんなのを相手に十万点以上も稼いだってのか!?)

怜(大星淡も危険やからな……。こっちも削っておかんと……)

怜(あと二局……)

○南三局〇本場 親:亦野

怜「……ツモ。300・500」

和・灼・亦野「…………」

怜(あと一局……!)

○南四局〇本場 親:灼 ドラ:南

怜(配牌):124m4489s東南北白發中 ツモ:東

怜(ここに来てこんな配牌……)

怜(もうこれだけ稼いだんや。さっさとドラの南を処分しておきたいとこやけど、……白糸台に鳴かれる)

怜(字牌は様子見やな……)打:1m


○南四局〇本場 親:灼 ドラ:南 九巡目

灼(打:5赤m)

亦野「ポン!」 副露:555(赤)m 555(赤)m

怜(二連続で赤ドラをツモ切り……筒染めか?)

怜(——!?)

怜(この一巡後に6000オールやと!?) 灼予定ツモ:9p

怜「チー!」

怜(これで9筒はずれた。せやけど……)

灼(ツモ:? 打7p)

怜(待ちを……変えた!?)

怜(ダメや……未来を変えたばかりで、新しい未来がまだ見えへん)

怜(さっきの手牌で7筒切りの場合、どんなツモが……どんな新しい待ちが考えられる?)

怜(……くっ、目許が霞んで——あれ?)

怜(さっきの手牌、何やったっけ……)


灼「…………」

灼(手牌):■■■■■■■■■■■■■ ツモ:3p

灼(やっぱり3筒が先に来た……)

恒子「鷺森選手、シャンポン待ちから四面張に切り替えた結果、見事和了にかぎつけました!」

健夜「9筒は園城寺選手のチーで流れてしまいましたが、河を見れば36筒は山に眠っていることがわかりますからね。和了するだけなら先ほどの切り替えは有効でしょう」

恒子「ではリーチをかけなかったのは、他家からの出和了も期待していたからですか?」

健夜「いいえ」

健夜「河を見ての通り、2筒と4筒がほぼ死んでいるからでしょう」

健夜「それに、この手は3筒のツモによってようやく聴牌(完成)しました」

恒子「……はい?」

灼(結果がどうであれ、この決勝が終わればハルちゃんはプロ行き……)

灼(つまりお別れ……)

灼(ようやく憧れの人と堂々と側にいることができたのに……)

灼(——だからこそ)

灼(胸を張ってハルちゃんを送りたい)

灼(ハルちゃんが到達できなった優勝をプレゼントしたい)

灼(だから……!)

灼「——リーチ!」打:4p

恒子「なっ……!?」

健夜「やはりフリテンリーチに来ましたね」

亦野(筒子の染め手を張ったのか!?)

和(————)

怜(まだ未来が見えない……てか、仮に一発ツモだとしても、ずらせない……)


憧「灼……どうして和了らなかったの!?」

穏乃「しかもフリテンリーチって……」

憧・宥「灼ちゃん……」

レジェンド(……灼)

灼(リーチをかけたのは、必ず高目をツモって見せるという覚悟)

灼(たとえフリテンでも、この待ちならまた来てくれるはず)

灼(思えばあの19筒待ちも、そして4筒ツモの打7筒の3691筒待ちも、いま思えば単なる通過点。和了りのための聴牌じゃない)

灼(だってこれこそが私本来の、私らしい待ちなのだから……!)

灼「——ツモ! 16000オール!」

灼(手牌):1123445678999p ツモ:1p——ワッシャー

怜・灼・亦野「!?」

恒子「鷺森灼、親ッ跳ねを拒否してフリテンリーチをした結果、ななな何と役満ツモ! 九蓮宝燈子だーっ!!」

憧・穏乃「やったっー!!」

宥「玄ちゃん!」宥「お姉ちゃん!」

レジェンド(やったね、灼!)

灼(清澄の真似じゃないけど——)

灼「——一本場!」

怜・和・亦野「!?」

灼(姫松にいいように暴れられた分、必ず取り返す……)

灼(そしてハルちゃんに、優勝をプレゼントする……!)


○南四局一本場 親:灼

亦野(役満だけでは飽き足らず、一本場だと……。調子に乗りやがって)

怜(……ツモられたのはしゃーない)

怜(……ここは頭を切り替えて、取り返す)

怜「——リーチ……!」

灼「チー!」 副露:213m 明槓:發

怜(……あ)

恒子「鷺森選手、仕掛けて行ったー! でもこの形は苦しい。和了り牌はあと一枚の上、しかも一飜しか見えていないぞ!?」

健夜「いいえ、この局はたぶん鷺森選手が和了ります」

恒子「え?」

灼「——ロン! 2000は2300!」

灼(手牌):3399p234s 副露:213m 明槓:發 ロン:3p——インザダーク

怜(……裏ドラに期待して、思わずリーチをかけてもうた)

怜(親が連荘するくらいなら、黙でいいから和了りを優先すべきやった……)

灼「二本場!」

○南四局二本場 親:灼

灼「ポン!」

灼「(加)槓!」

灼「——ツモ! 1300は1500オール!」

灼(手牌):123567m5p345s 加槓:南 ツモ:5(赤)p——ダイムストア


怜(……ダメだ、止められへん)

亦野(鷺森灼……こいつ、こんなに副露する奴だったか!?)

灼「三本場!」

○南四局三本場 親:灼 ドラ:7p

灼(配牌):11m27p1349s東南西西北北

灼「ポン!」 副露:111m 打:9s

灼「ポン!」 副露:北北北、111m 打:1s

灼「ポン!」 手牌:27p34s 副露:西西西、北北北、111m 打:南

恒子「何だこの鳴きはー!? 手は進んでいるものの、三副露していまだ役なし! ここから対々はきついぞー! しかもなぜか風牌の打南!」

健夜「いいえ、和了できるかはともかく、他家の手が重いので、少なくとも聴牌までは行くでしょう」

恒子「え?」

○南四局三本場 親:灼 ドラ7p 八巡目

灼「——ツモ! 4000オールは4300オール!」

灼(手牌):2277p 副露:西西西、北北北、111m ツモ:2p——クリスマスツリー

恒子「小鍛治プロの予想が的中! 何とその後に連続で有効牌をツモ、強引に対々和を仕上げて来たー!」


フナQ「……そうか!」

洋榎・セーラ「急にどうたん、浩子?」

フナQ(鷺森灼は聴牌した時、ボウリングの特殊なピンの残り方に類似した待ちになりやすい)

フナQ(言い換えれば、強引に副露したとしても、それに合わせて残りの手牌が例の特殊な待ちに変化していくということ)

フナQ(つまり鷺森灼の支配は速度にも及ぶ……!)

フナQ(せやけど、何で今更それを……)

フナQ(この土壇場で、成長していったということか……!?)

○南四局四本場 親:灼

怜「……ツモ。300・500は、700・900……」

恒子「副将戦終了ー!!」

恒子「鷺森選手の怒涛の連続和了! 最後は園城寺選手に流されてしまったものの、何と最下位からトップへ大逆転! 続いて二位・姫松、三位・白糸台、四位・清澄と続きます」

恒子「しかしトップ以外の三校、特に最下位・清澄にとってこの点差はまずい! ——以上、副将戦の中継をお伝え致しました!」

○阿知賀:147600
○姫松 :116100
○白糸台:077200
○清澄 :059100

穏乃「灼さん、お疲れ様です!」

灼「うん……」

穏乃「後は私に任せてください!」

灼「うん……」

灼(この前みたいに任せたよ、頼れる阿知賀の大将……!)

レジェンド「——灼、お帰り!」

灼(ハルちゃん!)


亦野「…………」

照・菫・尭深「…………」

亦野「何か言ってくださいよ……」

淡「私の為のハンデ付け、お疲れ様です」

亦野「いや、それ前にも……!」

淡(高鴨穏乃……そして、照の妹・宮永咲……)

淡(完全にぶちのめす……!)


竜華「——怜!」

怜「すまん……最後の最後で大コケしたわ……」

竜華「もうえんや! もう……」


洋榎「——後は頼んだで、恭子!」

末原「はい」

末原(宮永咲……)

末原(私はこの怪物に、今度こそ勝てるのだろうか……?)

和(…………)

和(いつも通りに打った)

和(長期的に見れば、このような大敗も大いにありえます)

和(けれど、けれど、けれど、)

和(どうしてこんな時に——!)

和(これで負けたら私のせい。皆の夢が、お父さまとの約束が……!)

和(咲さん……!)

咲「——和ちゃん」

和「!? 咲さん——!」

和「ごめんなさい! 私、こんな大事な時に、こんなにも——」

咲「ううん、大丈夫。だから泣かないで」

咲「必ず勝って、これからも、ずっと和ちゃんと打つんだから」


■総合獲得点
○灼  :+59600
○照  :+39000
○セーラ:+26300
○久  :+24200
○洋榎 :+15400
○怜  :+07200
○宥  :+06200
○タコス:+00800
○玄  :−07000
○憧  :−11200
○まこ :−12400
○誠子 :−13300
○菫  :−20100
○尭深 :−28400
○竜華 :−32800
○和  :−53500

○南四局〇本場 親:灼

灼(手牌):1123345678999p ツモ:1p——ワッシャー

ミスがあったので、今更ながら改めさせていただきます

恒子「インターハイ決勝大将戦! 実況・福与恒子、解説・小鍛治健夜プロでお送り致します」

健夜「よろしくお願いします」

恒子「長きに渡ったこの戦いも、あと半荘二回で終了です! 全国4000校の頂点がいま決まろうとしています!」

健夜「今更ですが、前年度と比べますと、個性的な面子が揃いましたね」

恒子「では早速その選手の紹介を! 現在一位の阿知賀女子からは高鴨穏乃! 前評判を覆しての準決勝一位通過は記憶に新しい!」

恒子「続いてAブロック二位通過の白糸台・大星淡! 準決勝の雪辱を晴らすことができるのか!?」

恒子「Bブロックからは清澄・宮永咲! 数々の名勝負を繰り広げた新星は、何とあのインターハイチャンピオン・宮永照の妹です!」

恒子「続いてBブロック二位通過の姫松・末原恭子! 二連続二位通過に甘んじてきた関西の名門ですが、その実力は折り紙付き! トップとの差30000点は十分に逆転の範囲内です!」

健夜「一方、白糸台と清澄は苦しいですね。半荘二回で70000点と90000点の差をひっくり返すのは、並大抵の打牌では不可能です」

恒子「そういう意味では断然優位に立っている阿知賀女子! はたして大将・高鴨穏乃はこの点棒を守り切ることができるのか!?」

恒子「——それはともかく、今日の末原選手はリボンにスカートですね! 可愛らしい!」

健夜「『ともかく』とか言っちゃダメ!」

末原(善野監督が見とるのに……恥ずかしい……)

恒子「対局の準備が整いました。インターハイ決勝大将前半戦、スタート!!」

東:淡 南:穏乃 西:咲 北:末原

○東一局〇本場 親:淡 ドラ:5m 出目:対7

末原(ついに来た。二年ぶりのインターハイ決勝……)

末原(もっとも、主将——洋榎とは違ってベンチやったけど)

末原(最後の夏が、皆の夏が、うちの手にかかってる……!)

末原(——宮永咲)

末原(洋榎の従姉妹は気づいてなかったみたいやけど、宮永咲の神髄は点数調整能力にある)

末原(二連続±0なら問題ない)

末原(つまり宮永咲は勝つために、地区予選決勝の時のように打ってくる。……昨年度MVP天江衣を倒した時のような打ち筋を)

末原(凡人に過ぎないうちが、はたしてその怪物に勝てるだろうか……)

末原(——ともかく)

末原(今はトップの、同じくらいの怪物である大星淡をどうするかを考えるかや!)

穏乃(配牌):288m147p36s東西白發中 ツモ:?

穏乃(うわ……対子が一つのみで、塔子が一つもない……)

穏乃(これって並の役満より出現率低いんじゃないの!?)

穏乃(天江さんと打った時は二日目の方が調子よかったのに……って、それでも負けたっけ)


咲(配牌):45m26p12555s東西白發 ツモ:?

咲(部長が言っていた通り、やっぱり手が悪い……)

咲(でも……)


末原(配牌):25(赤)67m57p147s東西發中 ツモ:?

末原(断ヤオ・三色・赤1・表1が見える。せやけど五向聴。和了れる確率は低い)

末原(それに賽の目は7。つまり今までの牌譜通りなら、大星淡が暗槓をするのは九巡目。他家はその直後に高確率でロン牌をつかまされる、あるいは結果的に余剰牌がロン牌になる)

末原(それまでにこの五向聴を聴牌させ、和了りにこぎつける。……頭の痛い話や)

○東一局〇本場 親:淡 ドラ:5m 五巡目

淡(この巡目が終われば、絶対安全圏の終了)

淡(でも暗槓まであと四巡。6000オールに問題なし——)

咲「——槓」 暗槓:5s※赤1

淡(え?)

穏乃・末原(え、そんなはずは——いやでも、まさか——)

咲「——嶺上ツモ。2000・4000」

咲(手牌):456m2246p123s 暗槓:5s※赤1 ツモ:5p

恒子「東発を制したのは、清澄の宮永選手! 一方、白糸台・大星選手のダブリーは不発! リーチ棒と親被りで5000点の支払いとなりました!」

末原(配牌からの四連打は全て手出し……)

末原(そして第五ツモは5索ではなかった。せやから配牌五向聴だったのは明確)

末原(つまり配牌の時点で槓材が揃っていた。だから五巡目に和了にこぎつけられた)

末原(初っ端から全力疾走……。まったく、勘弁してほしいわ……)


咲(±0では一位になれない)

咲(和ちゃんのためにも、みんなのためにも、——そして、私のためにも)

咲(あの頃のように、最初から楽しんで麻雀を打つ——!)


穏乃(これが和の新しい友達……清澄の大将・宮永咲)

穏乃(和はこの人のいつも麻雀を打っているのか)

穏乃(やばい……)

穏乃(面白い……!)


淡(これがテルーの妹……宮永咲)

淡(妹のなんていないって言ってたけど、嘘だよね)

淡(…………)

淡(まあいい)

淡(あんたの相手は後回しだ)

淡(まずはこの前の借りを返す!)

○東二局〇本場 親:穏乃 ドラ:7p 出目:左8 三巡目

穏乃(手牌):235678m9p東東中發白白 ツモ:5(赤)m

穏乃(ダブリーではないけど、配牌は五向聴。でもツモが滅茶苦茶いい。これって、どうなのかなあ……)打:9p

淡「——一回目」

穏乃「え……?」

淡「——ロン。8000」

淡(手牌):112233m78p11s南南南 待ち:嵌8p
淡(河):北、4m、8p

恒子「大星選手、高鴨選手から7700を直撃! ダブリーのみを蹴って、強引にチャンタ・一盃口・ドラ1を仕上げて来ましたー!」

末原「…………」

末原(手出しの格好から見て、大星淡の配牌はこんな感じか)

淡(手牌):122334m88p11s南南南北

末原(おそらくチャンタ・一盃口が見えたからダブリーにせえへんかったんやろうけど、高確率で槓裏がもろ乗りするのにダブリーを蹴るか、普通!?)

淡(信じられないって顔してる)

淡(確かにダブリーで高鴨穏乃を沈めたいって気持ちがないわけじゃないけど)

淡(出目は左8。暗槓まで17巡も待つのは退屈だったし)

淡(それに、それだけだと芸が無いからね——高鴨穏乃を100回倒すのに)

○東三局〇本場 親:咲 九巡目 出目:右2

末原「——ロン。3900」

高鴨「……はい」

末原(できれば一位の白糸台から和了りたかったけど、賽の目を考えると、これが限界)

末原(もしダブリーをしかけていれば、二巡後に大星淡の暗槓が入る)

末原(もし一昨日のオーラスみたいに、暗槓と同時にリーチをかけられたら、その直後にロン牌をつかまされる可能性が高い)

末原(せやからもう待てない。これで正解のはず!)

淡(ふふ……いい気味)

○東四局〇本場 親:末原 ドラ:3m 九巡目 出目:対7

穏乃(手牌):333m123567p西西白白 ツモ:7s

穏乃(赤土先生の話通りなら、大星さんに暗槓が入っていてもおかしくない巡目)

穏乃(つまり、その直後に引いたこの牌は、高確率でロン牌)

穏乃(でも大星さんはダブリーも暗槓も、そもそもリーチすらかけていない)

穏乃(それにこの満貫の聴牌を捨てるのは惜しい……!)打:6s

淡「——ロン」

穏乃(え?)

淡「——5200。二回目だね」

淡(手牌):5(赤)67m567p57s西西北北北

末原(大星が直前に河に捨てたのは、ツモ切りの北)

末原(つまり暗槓とリーチをしなかったのは、出和了しやすくするためのフェイク……! あくまで直撃に固執)

末原(可愛い顔して、とんだ狸や……)

穏乃(…………)

淡(ふふ)

○南一局〇本場 親:淡 ドラ:西 四巡目

穏乃:打9p

淡「——ロン。5800」

淡:233445m78p123s西西 待ち:69p

穏乃「え……」

穏乃(大星さんはツモ切りで、9筒は直前に末原さんが切ったはず……)

穏乃(それなのに何で……)

淡(宮永咲からなら山越なんて真似はしなかったけど、山越のデバサイとか、超気持ちいいじゃん)

末原(確かに河を見るに、9筒は山に残っている可能性が高い)

末原(せやけど親の連荘の可能性を低くしてまで山越なんて狙うか?)

末原(なめやがって……)

○南一局一本場 親:淡 十巡目 出目:右6

淡「——ツモ。ダブリー・ツモ・赤1・裏4。8100オール!」

淡(手牌):789m11123p67s 暗槓:北 ツモ:5(赤)s

穏乃・末原「…………」

淡(今度は遠慮なくダブリーさせてもらったよ)

末原(やりたい放題やないか……)

穏乃(まずい……まくられた……!)

恒子「親倍一本場・8100オール炸裂! この一撃で順位が入れ替わりました!」

恒子「僅差ではあるものの、圧倒的リードでバトンを受け取った阿知賀女子、大将前半戦中盤でその座から失墜! 代わりに115500点の白糸台が一位に返り咲きます!」

淡(まだこんなもんじゃ気が済まないからねー)

淡(だから百回失点するまで、何とか耐えてね)

○南一局二本場 親:淡 十一巡目 ドラ:北 出目:自5

穏乃(手牌):2255(赤)m155(赤)9p1199s北 ツモ:北

穏乃(七対子・ドラ4を聴牌。リーチをかけてツモれば倍満)

穏乃(でもそのためには、大星さんが暗槓をかける可能性が高い巡目に引いてきた9筒か、もう一つの余剰牌の1pを切らなければならない)

穏乃(さっきはリーチも暗槓もないから、それに安心して不用意に打って放銃してしまった)

穏乃(もしかして、今回もそのパターン……?)

穏乃(いや、でも今はトップじゃない)

穏乃(取り返すためにも、ここは勝負……!)打:9p

淡(ニヤリ)

淡「——ロン」

穏乃(あ、ああ……)

淡(手牌):111333m1199p888s 待ち:19p

淡「対々・三暗刻。一万二千六っぴゃ——」

末原「——失礼。頭跳ねです」

淡・穏乃「!?」

末原(手牌):9p12345(赤)6678s南南南 待ち:9p

恒子「末原選手、満貫の染め手を蹴って放銃を回避しただけでなく、何と頭跳ねで親の和了を阻止しました!」

健夜「大星選手の一巡前の捨て牌は、槓材の1萬。どうやら今回も出和了を想定していたみたいですね」

末原(本当はもちろん染め手で和了りたかった)

末原(せやけど、大星に暗槓が入ってもおかしくない巡目にツモって来た9筒は、やはり危険牌と言わざるをえない)

末原(何でまた突っ張ったのかは知らへんけど、阿知賀女子がそっちの方の余剰牌を捨ててくれて助かったわ)

末原(……しかし不気味やな)

末原(宮永咲、なぜ動かない……!?)

淡(ふーん)

淡(姫松の大将も中々楽しめるじゃん)

○南二局〇本場 親:穏乃 ドラ:9m 一巡目

咲「——槓」

淡・穏乃・末原(え?)

咲「——嶺上ツモドラドラ。2000・3900」

咲(手牌):99m234p45566s 暗槓:2m ツモ:7s

恒子「槓頭和炸裂! たった一巡で南二局を終わらせてしまいました!」

末原(第一ツモで暗槓ってことは、天和もありえたってことやないか。この怪物が……)

末原(てか今局、どうして配牌が普通なん!?)

淡(意表を衝こうと思って、あえて絶対安全圏を切ったらこの始末。高鴨穏乃を騙すためにわざわざこうしたのに)

淡(これがテルーの妹・宮永咲……ふん!)

穏乃(親番が……)

○南三局〇本場 親:咲 四巡目

咲「——大明槓嶺上開花ツモ。12000」

咲(手牌):1112m999s 暗槓3p 明槓:2p ツモ:2m

穏乃「はい……」

淡(まだ四巡。絶対安全圏の内なのに)

末原(いや、おそらく宮永咲も五向聴スタート)

末原(たぶん直前の手牌は、こんな感じの1向聴やったはずや)

咲(手牌):112m2223333p999s 嶺上ツモ1:1m 嶺上ツモ2:2m

末原(清澄との点差は30000点以上。まだまだ安全圏やけど)

末原(この流れはまずい……)

○南三局一本場 親:咲 ドラ:5s 出目:右10 一巡目

咲:打9p

末原:打9p

淡(あら)

淡「——槓」 暗槓:東

穏乃(え?)

末原(大星淡が槓をするのは、今までの牌譜通りなら十六巡目のはず!?)

淡:打5m

末原(手出しの5萬でリーチはかけず。……ダブリーが入らなかったと言うことか?)

穏乃(でも配牌は相変わらず五向聴)

穏乃(配牌):19p12379s南南西白發中 ツモ:4m

穏乃(配牌で見える役は南のみの1000点。点差もあるし、ここは欲張って染め手だ!)打:4m

淡「——ロン」

穏乃(はあっ!?)

淡(手牌):455(赤)66m99p北北北 暗槓:東 待ち:47m

淡「一盃口・赤1。70符2飜——4500は4800(ニヤリ)」

穏乃(なんで……)

恒子「またもや一巡で決着がつきました! 大星淡選手、何と嶺上牌でツモって来た赤5萬を手牌に組み入れ、打4萬の四暗刻聴牌ではなく、手牌の中の5萬を切って一盃口の片和了りを選択! それを見事に和了しました!」

健夜「9筒が枯れていなかったら、あるいは四暗刻に取ったかもしれませんね」

末原(東を槓せず、打東でダブリーをかければ、場合によってはダブリーのみ。そして東とは別に北の暗刻があるから、十六巡目に槓は可能。一応今までのセオリー通りではあるんやな)

末原(そして残りの6萬二枚は私の手の中。狙い撃ちに固執してるのなら、結果的には片和了りの一盃口で正解か)

○南四局〇本場 親:末原 出目:対7

末原(一応7700を和了れば点差はひっくり返る)

末原(せやけど、こんな手の早い奴を相手にどうすれば高い手が作れるんや……)

末原(……え?)


○南四局〇本場 親:末原 十八巡目

淡・咲「聴牌」穏乃・末原「ノーテン」

穏乃「ありがとうございました」

恒子「大将前半戦終了!」

恒子「まさかのまさか、阿知賀女子・高鴨穏乃が大炎上! 吐き出した点棒の総計は、何と六万点近く! 最下位はいまだ清澄であるものの、これはきつい!」

恒子「一方トップに立ったのは、四万点近く稼いだ白糸台・大星淡! 続いて僅差で姫松が続きます」

恒子「残るはあと半荘一回のみ! ——以上、インターハイ決勝大将前半戦の模様をお伝え致しました」


淡(おかしい……)

咲(やっぱりヘン……)

末原(これが阿知賀の大将の支配……なのか?)

末原(配牌):124m23488p34s東南西 ツモ:7m——三向聴

末原(これまでずっと配牌五向聴やったのに、一気にいきなり好配牌)

末原(危険牌つかまされたからオリたけど、返って不気味や……)

淡・咲(…………)

淡(手牌):456m123p789s北北北白 待ち:白
咲(手牌):2224466888s 副露:中中中 待ち:46s

淡・咲(槓できないなんて……)


○白糸台:119800
○姫松 :109600
○阿知賀:089200
○清澄 :081400

■インターハイ決勝大将後半戦

東:末原 南:淡 西:咲 北:穏乃

○東一局〇本場 親:末原 ドラ:3p 出目:右2

淡「…………」

淡(前半戦オーラス……またあの時みたいに、槓できなかった……)

淡(テルが見出してくれた私の支配があんなのに破られるはずがない……!)

淡「——ツモ。3000・6000!」

淡(手牌):12345678m55s 暗槓:1p ツモ:3m 槓裏:1p


恒子「またしてもダブリー・裏4炸裂っ! 暫定トップ白糸台、その点差をさらに広げます!」

健夜「二位・姫松にしてみれば二重に悔しい状況ですね。親被りのせいもあり、トップとの点差が三万点近く。残り七局でこの差は苦しいかと」

恒子「それでも三位・阿知賀、四位清澄に比べれば大分マシ! はたして両校は四、五万点もの差を逆転できるのか!?」

穏乃「…………」

○東二局〇本場 親:淡 ドラ:7p 出目:対7

末原(配牌の親被りやと……くそ!)

末原(しかもまたしても五向聴スタート。さっきのは何やったんや……)

末原「——え?」


淡(まだ高鴨穏乃に百回放銃させてないけど、六万点も吸い上げたんだから、もう十分かなあ)

淡(それに、テルの妹もぶちのめさないといけないし)

照『私には、妹なんていない』

淡「…………」

淡(テルにあんな顔をさせる妹なんて必要ない)

淡(だから絶対に許さない……!)

淡(だから私があんたの代わりにテルの妹になって、テルを——)

淡「え?」

淡(配牌):112399m123p123s西北

淡(一向聴!? それも暗刻なし!? 何で!?)

穏乃「…………」

○東二局〇本場 親:淡 ドラ:7p 三巡目

末原「——リーチ」

淡(!?)

恒子「末原選手に聴牌が入りました! はたしてこの選択は幸と出るのかー!?」

淡(絶対安全圏なのに……一切手を抜いているつもりもないのに……何で!?)

淡(……っ!?)

淡(ここに来て今更反撃のつもり? 高鴨穏乃!)

穏乃「…………」

淡(ツモ:西)

淡(また西か……さっきもそれ切ったよ)

淡(あるとしたら地獄待ち。でもその場合は聴牌即リー、断ヤオも平和もつかない。)

淡(安牌ないし、これでいいよね。良形なら聴牌即リーの西地獄待ちなんてしないだろうし)打:西

末原「——ロン」

淡「!?」

末原「リーチ・一発・裏1——5200」

末原(手牌):455667m456p567s西 待ち:西 裏ドラ:4m

淡(何、その待ち?)

淡(一発をつかまされて、かつ裏ドラが乗ったからこそ5200だけど、それなら少し待てば断ヤオも平和も三色も表ドラも見えるのに、何で——!?)

末原(そりゃあ私だって、できればドラを絡めたタンピン系で待ちたかった)

末原(せやけど賽の目は対7。今までの牌譜通りなら最速の十巡目ぐらいに和了される。確かに惜しいけど、中張牌が引けるかどうかわからん時に悠長なことはしてられない)

末原(とはいえ、すぐに他家が西をつかんでくれたのは幸運やったな)

末原(ともかく、これでトップと二万点以下——!)

末原(阿知賀の支配だか何だか知らへんけど、五向聴スタートはたぶん途切れた。だから——行ける!)

レジェンド「よし、ようやくギアが上がって来たか」

憧「でもトップの点差は依然として約六万点。しかも姫松の大将に速さで負けた」

憧「いくらシズが玄みたいに特定の牌——山を支配できると言っても、配牌から王牌にかけて全ての牌を支配できるってわけじゃないんでしょ?」

レジェンド「そりゃあそうでしょ。もしそんなことができたら私だって敵わないわ」

憧「だったら……」

玄「——大丈夫」

玄「穏乃ちゃんの顔を見て」

玄「あの時みたいに、穏乃ちゃんはまったく諦めてない」

玄「だから私たちも穏乃ちゃんを信じようよ」

宥・灼「玄(ちゃん)……」

憧「——あ、また姫松に和了られた」

○東四局〇本場 親:穏乃 出目:右2 六巡目

末原「——ロン! 8000」

末原(手牌)555(赤)m3455(赤赤)67p1s發發發 待ち:1s

穏乃「はい」

恒子「末原選手、三連続和了! トップ・白糸台との差は何と五千点以下! 逆転に満貫は必要ありません! 親の三飜で十分だー!!」

末原(いける……!)

○南一局〇本場 親:末原 ドラ:5p

末原(わかる……まるで牌が透けているように、他家の手がわかる……!)

末原(相手の打牌、理牌、視線——それらから浮かび上がる山に眠った牌)

末原(こっちかて伊達に関西最強の高校で三年間打っていたわけやない。普通の麻雀なら、こんな滅茶苦茶な打牌ばかり繰り広げて来るやつらに負けるわけない)

末原(だから……いける!)

咲「——槓」 暗槓:2p 打:西

末原・淡・穏乃「!?」

末原(嶺上牌をツモ切り……やと!?)


末原(…………)

末原(前にもあったな、こんな状況)

末原(確かあの時は点数を調整するために、わざわざ私の打点を上げやかった)

末原(ということは今回も……?)

末原(いや、それはない)

末原(今回清澄は±0では勝てない。仮にそれとは無関係の点数調整だったとしても、一位と僅差の親に稼がせる理由はない)

末原(ということは、他家のアシスト……?)

末原(——わからん)

末原(とにかくせっかく槓ドラが二枚も乗ったんや。ここは好機と見て、白糸台を突き放すつもりで行く——!)打:1pツモ切り

咲「——ロン」

末原(え?)

「メンホン・西・ドラ2——12000です」

咲(手牌):345(赤)678p西西西 暗槓:2p 待ち:1p

恒子「地獄単騎一閃! この和了りによって三位・阿知賀と四位・清澄の順位が逆転! 一方、この放銃によって二位・姫松は一気にトップとの差を広げてしまいます! 白糸台としては救われた形かー!?」

末原(河を見た限りでは染め手かどうか判断できない。せやから染め手に振ってしまったのはしゃーない)

末原(でも何で……何で1p単騎やねん!?)

末原(宮永咲はツモってきた2pで暗槓をしかけた。つまり直前の手牌は次のようになる)

咲(手牌):22/123/456/78/西西西 待ち:369p

末原(つまり宮永咲は高目一気通貫ツモ和了りの倍満を張っていた……)

末原(それなのに何で点数と和了牌を減らしてまで槓したんや!?)

末原(狙い撃ちにしてもわけがわらない……)

○南二局〇本場 親:淡 七巡目

「——ツモ。断ヤオ・三色・赤1——2000・4000」

咲(手牌):333345(赤)6m345p345s ツモ:6m

末原・淡・穏乃「…………」

恒子「宮永選手、連続和了! 高鴨選手と大星選手のリー棒提供もあり、ほぼ原点にまで回復! これは面白くなってきたー!!」

健夜「最初は絶望的かと思われた清澄ですが、ここに来て追い上げて来ましたね。6000オールで文句なしに逆転です」

タコス「やったぜ咲ちゃん!」

まこ「あと少しじゃけぇ!」

和「咲さん……」

久「……ねえ、まこ?」

まこ「何じゃ?」

久「どうして咲は槓をしなかったのかしら?」

まこ「三色が消えるからじゃろ? 大体、あのタイミングで暗槓をしたら一向聴に戻るけぇ」

久「……そうね」

久(結果的に槓をする前にツモちゃったから確かめようがないけど)

久(だったらどうして、咲はさっきの局、2筒を槓しておいて、嶺上牌の北でさらに北を暗槓しなかったの?)

久(いや、結果的には二回目の槓はしなくて正解だったけど……)

久(……何かヘンだわ)

穏乃「…………」

○南三局〇本場 親:咲 ドラ:西 出目:左12

咲「…………」

咲(配牌):11m1244669p東西北北中

恒子「注目の宮永選手の配牌は三向聴! そしてドラが一丁! これはどう打って出るか!?」

健夜「七対子の二向聴でもありますね。赤ドラが表ドラを重ねられれば9600点。リーチをかけてツモれれば逆転条件の跳満は達成できますね」

恒子「しかしそのドラ西は西家の末原選手の手牌の中! こちらはデバサイでトップをまくれるぞー!!」

末原(配牌):167889m357s西西西北 ツモ:?

末原(……焦ったらダメだ)

末原(幸い配牌はいい)

末原(ここは息をひそめてデバサイで和了ってみせる……!)

咲(打:西)

恒子「え?」

末原「っ……っ!!」

恒子「何と宮永選手、いきなりドラ西を捨てました!! これは一体どういうことだ!?」

末原(あぶなっ……思わず鳴いてまうところやった)

末原(跳満ツモれればそれでええけど、現状ではこれ以上の役は見えない。ここはやはり黙々と聴牌を目指して、一人知れずデバサイを狙うべきや……!)

末原(しかし、宮永咲)

末原(何でドラを捨てた!? まさかタンピン形の高い手なんか!?)

末原(……いや、縮こまっている場合やない)

末原(何にせよ、これは問題ないはず)ツモ:2p 打:1m

咲「——ポン」 明刻:1m 打:東

末原(……え?)

末原(西を切っておいて1萬をポン!? 染め手や対々やとしても、明らかにヘンやで!?)

末原(ほんま何考えとるんや……)

○南三局〇本場 親:咲 ドラ:西 出目:対3 八巡目


咲(手牌):■■■■■■■ 副露:北北北、111m

淡(手牌):55(赤)m1255(赤々)p55(赤)s 白白發發南 ツモ:南

淡(……聴牌)

淡(これで南を使った対々和は消えた。三元牌も死んでいる。おそらくドラも一枚もない)

淡(つまり宮永咲の手は、聴牌していてもただの対々和——3900点のみ。まくり条件の親満デバサイには到底届かない)

淡(いや、そもそも私は無理をする必要がない。他家の和了りを防ぐだけで勝てる)

淡(でも、それは悔しい……!)

淡(でも肝心の槓ができない。それじゃあ裏ドラが乗らない……!)

淡(……とりあえず、聴牌は取ろうか)打:2p 待ち:1p

末原(……よし、聴牌)

末原(手牌):67889m34577s西西西 待ち:辺7m

末原(待ちは少ないけど、仕方ない。必ずデバサイで和了ってみせる……!)

末原(そしたら逆転……優勝まで後一歩や!)

淡(つかめば皆から出るのに……王牌に紛れてるのかなあ……)

淡(——え?)

淡(ツモ:5m)

淡(ここで5萬が来る意味って……)

淡(打:1p)


恒子「大星選手、何と七対子・ドラ4の聴牌を蹴って向聴数を戻りました! しかしこれは欲張りすぎではないか!?」

健夜「おそらく大星選手には、さらなる大物手が見えているんでしょうね」

恒子「はい?」

淡(——やっぱりだ)ツモ:5s 打:發

淡(——やっぱり来てる)ツモ:白 打:發

淡(——張り直し完了)

淡(手牌):555(赤)m55(赤々)p555(赤)s南南白白白 待ち:5p南

淡(対々・三暗刻・白・赤4——安目10飜——高目ツモり四暗刻聴牌……!)


恒子「何と大星選手、あっという間に七対子を四暗刻に進化させました! リーチはかけておりません!」

健夜「残りツモが少ないですからね。そもそも黙でも三倍満、防御も考えればここはリーチしなくて正解かと」

恒子「はたしてこの対局を制するのは誰なのか!? いずれにせよ、あと三巡で南三局の決着がつきます!」

○南三局〇本場 親:咲 ドラ:西 出目:左12 十五巡目


淡(……来た)

淡(やっぱり来た)

淡(手牌):555(赤)m55(赤々)p555(赤)s南南白白白 ツモ:白

淡(左12でセオリー通りに十五巡目に槓子が入った。つまり、この直後に私の和了牌が出現する!)

淡(黙でも倍満なのだから、普通はリーチはいらない)

淡(そもそもトップ目の私が槓ドラを増やすなんて愚行極まりない)

淡(けど、これまでの他家の打ち筋を見るに、ダマテンでも警戒を怠るとは思えない)

淡(だからここはやはり槓とリーチでしょ!)

淡(槓とリーチで他家を完全にオリに回し、四暗刻をツモって、高鴨穏乃に槓裏を見せつける)

淡(この前の雪辱を晴らすためにも、私の支配の方が上だということを教えてあげる……!)

淡「——槓」 暗槓:5(赤)m

淡(ツモ:4p) 槓ドラ:中

淡(4筒は生牌。でも、ドラは全て見えている)

淡(姫松と高鴨穏乃にはほぼ安全)

淡(宮永咲にはわからないけど、仮にロン牌だったとしても対々和のみ——3900点)

淡(まくり条件は親満直撃だから、仮に当たっても全然足りない)

淡(ならいける!)

淡(テルが見出してくれた私の支配——私とテルの絆を見せつけてやる!)打:4p

咲「……私」

淡「え?」

咲「私、前にお姉ちゃんに会いに、一人で東京に行ったことがあるの」

咲「でもダメだった。お姉ちゃん、私には会ってくれなかったの」

咲「本当は会いに行く前からわかってたんだ。お姉ちゃんが私を許してくれていないのは」

咲「だから私はもう一度麻雀を始めた」

咲「麻雀とならまたお姉ちゃんと話せると思ったから」

咲「私にとって麻雀は、お姉ちゃんとの絆だから——!」

淡「何言って……」

咲「——槓」 明槓:4p

淡(ロンじゃなくて大明槓……だって……!?)

咲(手牌):6666p 嶺上ツモ:5p 大明槓:4p 明刻:1m、北

久「役無し聴牌、対々和の一向聴をどうやって満貫に、それもデバサイにするのか」

久「そんなの一つしかない」

咲「——槓」 暗槓:6p

淡(符が上がって……行く!?)

恒子「宮永選手、暗槓を選択して単騎待ちを選択! こ、これは——!」

健夜「ここでツモれば11600点の責任払い——逆転ですね」

淡(20符(副底)+4符(1m明刻)+8符(4p明槓)+4符(北明刻)+16符(6p暗槓)+2符(単騎待ち)+2符(ツモ符)=56符⇒60符)

淡(嶺上開花・対々和——60符3飜——11600点!)

淡(ここでツモられたら逆転……)

淡(何で……!)

咲「……嶺上開花ツ——ッ!!??」


まこ「まさか——!?」

タコス「どうして……!?」

和「咲さん……!」

久「…………」

咲(な、何で……)

咲(手牌):5p 嶺上ツモ:2s 暗槓:6p 明槓:4p 明刻:北、1m

咲(嶺上開花は、私が初めて知った役)

咲(私とお姉ちゃんの絆……なのに……)

咲(何で……5筒じゃないの?……)

咲(打:2s)

穏乃「——ロン」

末原・淡「!?」

咲「…………」

穏乃(手牌):23344778899s東東 ドラ:西、中、9s、9s

穏乃「メンホン・平和・二盃口・ドラ4——24000です」


憧「やったー!」

玄「お姉ちゃん! 穏乃ちゃんがやったよ!」

宥「うん!」

灼「ハルちゃん……!」

レジェンド「うん、わかってる」

レジェンド(あともうひと踏ん張りだよ、シズ——!)

恒子「槓振り・三倍満炸裂ーッ!! 何とこの南三局を決めたのは、阿知賀女子・高鴨穏乃! 清澄と点数を交換するような形で一気に原点近くにまで回復!」

健夜「そしてオーラスを迎えます。その親は、阿知賀女子・高鴨穏乃!!」

健夜「親満デバサイか6000オールできっちりまくりですね」

恒子「そういう意味では二位・姫松も条件は同じ! 満貫デバサイ、跳満ツモでまくりです!!」

健夜「しかし清澄は……」

恒子「はたしてこのオーラスを制するのは誰なのか!? 今、高鴨選手がサイコロを振ります——!」


○白糸台:120600
○姫松 :106800 ※満貫デバサイ、跳満ツモ、倍満出和了でまくり
○阿知賀:098200 ※満貫デバサイ、跳満ツモ、倍満出和了でまくり
○清澄 :074400 ※役満ツモ、デバサイで二位

淡(…………)

淡(危なかった……)

淡(宮永咲が嶺上開花に成功していれば、11600直撃——1000点差でまくられていた)

淡(いくら南三局一本場とオーラスが残っていると言っても、どう転ぶかわかんない——そういう状況だった)

淡(だから結果的には助けられた——高鴨穏乃の支配に)

淡(準決勝で私に槓裏が乗らなかったように、山の奥底にある嶺上牌すらも高鴨穏乃は支配した……)

淡(…………)

淡(悔しい……)

末原(嶺上開花の出現率は0.3%以下)

末原(だから普通は驚くべき結果ではないんやけど、やはり異常事態と言わざるを得ない)

末原(これが準決勝で白糸台をほふった阿知賀——高鴨穏乃の支配なんか!?)

末原(……ともかく、これで清澄の勝ちはほぼなくなった)

末原(誰かがリーチをかけなければ、清澄が役満和了ってもまくりにはならない。それは他家もわかっとるはず)

末原(だから今局で清澄にできることは、ラス親の阿知賀が連荘し、同時に白糸台の点数が下がるのを祈ることのみ)

末原(だからこの局は清澄を意識しなくていい)

末原(大事なのは白糸台に和了させないこと)

末原(満貫デバサイ、跳ツモで逆転——姫松の優勝や!)

穏乃(やっと、やっと思うように打てた)

穏乃(でもやっぱり、この失点は皆に申し訳ないなあ……)

穏乃(——けれど)

穏乃(親満デバサイか、6000オールでまくることができる)

穏乃(そうすれば、うちの勝ち——!)

穏乃(阿知賀の皆、そして和——)

穏乃(私は今、あの頃のように楽しんで打ってるよ——!)


淡(……許さない)

淡(私の支配が——テルと私の絆がこんなので砕けるはずがない)

淡(満貫も跳満も、普通にありえる)

淡(逃げてるだけじゃ勝てない)

淡(だから全力でぶちのめす——!!)

○オーラス〇本場 親:穏乃 ドラ:4m 出目:左4

穏乃(配牌):58m14p112389s東南西北——配牌五向聴
末原(配牌):3579m1488p東南西北中——配牌五向聴
咲(配牌):58m279p東南西白白白發中——配牌五向聴

末原(ここに来て……)

穏乃(この配牌かあ……)

淡(————)

淡(配牌):22266m12355789s——聴牌 待ち:6m5s


恒子「絶対安全圏復活! 大星選手以外の配牌が五向聴! トップを狙う三校とってこれは厳しいぞー!!」

健夜「大星選手はダブリーチャンスですが、リーチをかければ清澄にも逆転のチャンスが生まれます。ですからいったんは黙聴のままにして、手変わりを待つでしょうね」

穏乃(ラス親だから、一発で決める必要はない)

穏乃(でもそうなると、宮永咲さんや他家にチャンスを与えてしまうことになる)

穏乃(それにこの配牌——大星さんはまだ死んでない)

穏乃(だから一発で決めてみせる……!)打:8m


末原(こんな大事な時に配牌五向聴か……)ツモ:七

末原(まあ、配牌五向聴はよくある)

末原(問題なのは跳満どころか満貫すら見えへんことと)

末原(大星淡がダブリーかもしれへんこと)

末原(ダブリーをかければ清澄にもチャンスがあることは、大星淡もわかっとるはず)

末原(そして出目は左四。鳴きが入らなければ十巡目に槓が入る)

末原(——ともかく)

末原(何としてもそれまでにまくってみせる——!)打:1p

淡(やっぱり来てくれた……!)ツモ:8s

淡(ダブリー聴牌。待ちは6萬と5索)

淡(雰囲気からして、他家はきっと五〜六向聴)

淡(順調なら、十一巡前後に私の和了牌が出現する)

淡(——でも、とりあえずは様子見)打:8s

淡(ダブリーをかけないのは、別に逃げたからじゃない)

淡(リーチをかければ、宮永咲は役満デバサイで私をまくれる。だからリーチをかけないのは当然の判断。手変わりだって見える)

淡(それに最終的に私が和了れば問題ない)

淡(そうすれば正真正銘私の勝ちだ——!)

咲「——槓」 暗槓:白 新ドラ:1m

穏乃・末原・淡(槓!?)

末原(宮永咲は何考えとるんや!?)

末原(他家がリーチ棒を出さないのは、宮永咲だって十分に承知しているはず。だから役満を和了っても逆転できない。しょせん二位止まりや!)

末原(せやから宮永咲に出来るのは、この局が大星淡以外の聴牌連荘になるか、高鴨穏乃が大星淡から安手を和了って連荘になるのを願うしかないはず)

末原(それなのに暗槓——他家の打点を上昇させて何の得があるって言うんや!?)

末原(——ともかく、ドラが増えたのは大助かりや)


穏乃(ツモ:? 打:5m)

末原(ラス親の高鴨穏乃は萬子を二連打。——染め手か)

末原(できればドラを絡めたタンピン形を張りたいところやけど、正直言って両面待ちの聴牌すらきつい)ツモ:8p

末原(まあでも、何とかするほかない——!)打:北

○オーラス〇本場 親:穏乃 ドラ:4m、1m 三巡目

穏乃(ツモ:? 打:4筒)

末原(親の高鴨穏乃は索子の染め手か。——まずいな)

末原(断ヤオや赤ドラ絡みの清一色なら鳴いても跳満、そこに対々も加えれば倍満までありえる。倍満なら誰から和了ってもまくりやから、私まで防御を意識しなければならない)ツモ:8p

末原(四枚目の8筒? これって……)

末原「——槓」 暗槓:8p ドラ:4m、1m、8p

穏乃・淡(!?)

末原(来た来た来た、来た!)嶺上ツモ:4m

末原(一か八かの賭けやったけど、まさかのもろ乗り——!)

末原(そして一番の難所やったドラの嵌張が入った!)

末原(手牌):345779m4p東南西中 暗槓:8p

末原(後は断ヤオか役牌を張れば十分。断ヤオ(役牌)・ドラ5の跳満——直撃でもツモでもまくり)

末原(——それに、実現するとは思えへんけど、これで四槓子も消えた……!)打:西

淡(まさかのドラ爆! こんな時に……)

淡(どうする、オリる?)ツモ:7s

淡(ううん、ドラ4確定なんだから、跳満を張るのは難しくない)

淡(つまり、いつツモられても不思議じゃない——!)

淡(とりあえず、行けるところまで行く!)打:7s


咲(ツモ:中)

咲(…………)中ツモ切り


健夜「大星選手以外の三人。いずれもツモがよいですね」

恒子「はい。二位・姫松はどんどん断ヤオに、一方、三位・阿知賀は強引に索子を引き寄せています!」

恒子「しかし四位・清澄——宮永選手は何を考えているのか!? このままでは今局で決着がついてしまうぞー!」

○オーラス〇本場 親:穏乃 ドラ:4m、1m、8p 八巡目

穏乃(手牌):11234568999s東発 ツモ:東


恒子「高鴨選手、混一色の一向聴! 満貫が見えて来ました!」

健夜「しかし東は末原選手の河に一枚。最後の一枚は宮永選手の手牌の中。たとえリーチをかけて一発で宮永選手から出ようと、裏ドラが2乗らなければトップをまくれません」

健夜「ですから高鴨選手は、さらなる高みを目指すでしょう」

恒子「はい?」


穏乃(打:發)

咲「——ポン」 明刻:發

穏乃・末原・淡(また清澄——ッ!?)

咲(手牌):■■■■■■■ 明刻:發 暗槓:白 打:8s

穏乃・末原・淡(大三元!!??)

穏乃(……でも、三巡目の時点で中を切ってる)

末原(そもそも清澄は和了った時点で負ける)

末原(まさか……安手を和了って自爆するつもりなんか!?)

咲(…………)

○オーラス〇本場 親:穏乃 ドラ:4m、1m、8p 九巡目

穏乃「…………」ツモ:1s

穏乃(手牌):11234568999東東 ツモ:1s

恒子「高鴨選手、8索を捨てれば聴牌! 待ちは147索と東の変則四面張! 高目の東は依然宮永選手の手の中ですから、リーチをかけて白糸台から直撃しなければまくることはできません!」

健夜「裏ドラや次局に期待するという方法もあります」

健夜「ですがこの手には、まだ別の可能性があります」

恒子「え?」


穏乃(リーチをかけて、裏ドラが乗れば6000オール。逆転勝利の手……)

穏乃(でも、槓裏は大星さんに乗る可能性が高い)

穏乃(そもそも大星さんに槓が入るまで時間がない……)

穏乃(ここは一か八かに賭けるのが正解なの?)

穏乃(——いや、自分を信じろ)

穏乃(山は私の領域だ!)

穏乃(だからここは——!)打:東——一向聴戻し

末原(手牌):3457779m24p中 暗槓:8p ツモ:5p

末原(無駄ヅモのせいで序盤ほど手が進まんかったけど、やっと一向聴……!)

末原(せやけど大星淡に槓が入るまで、後二巡半——間に合うんか?)打:中

咲「——ポン」 副露:中中中、發發發、■白白■——大三元

穏乃・末原・淡(……え?)

末原(中は序盤に捨てていたはず……てか、役満和了る意味なんか——っ!!!!)

穏乃・末原・淡(そういうことか、宮永咲——!!)

恒子「宮永選手、一度は暗刻を放棄した中を副露! 明刻にしまた! しかしこれは一体!?」

健夜「考えましたね」

健夜「最下位清澄・宮永選手とトップ白糸台・大星選手との点差は46200点。役満直撃なら白糸台をまくれますが、一方で姫松には400点届かず、自動的に姫松の優勝が決定します」

健夜「ですから清澄には、自力優勝の可能性はまずなかった」

健夜「けれど一つだけ——正確には三つだけ方法があります」

健夜「四槓子、大四喜、大三元。そのいずれかの役満のパオ——責任払いです」


末原(……しまった)

末原(リーチ棒が出なければ清澄に自力優勝の目は無い。だからこの局に限り、清澄は一切警戒しなくてもよい。その判断が私を曇らせた)

末原(せやけど考えるか、大三元のパオなんて——!?)

淡(私の絶対安全圏は間違いなく働いていたはず……)

淡(ということは、宮永咲の配牌はおそらくこんな具合の五〜六向聴!)

咲(配牌):■■■■■■■■白白白發中 ツモ:白

淡(三巡目に河に中をツモ切ったということは、嶺上牌は發か中)

淡(二巡目には残りの三元牌を対子にして、三巡目にこの状態からあえて中をツモ切った!)

咲(手牌):■■■■■■發發中中 暗槓:白 打:中

淡(つまり宮永咲は最初から大三元のパオを狙っていた)

淡(もしこの大三元に私が放銃したら、大三元を確定させた姫松と、放銃した私との責任払いで、清澄にまくられる……!)

一位・白糸台:120600→清澄 :106400
二位・姫松 :106800→白糸台:104600
三位・阿知賀:098200→阿知賀:098200
四位・清澄 :074400→姫松 :090800

淡(宮永咲はすでに六度も手出しをしている)

淡(聴牌している可能性が高い……!)

咲「…………」

咲(手牌):■■■■ 明刻:中、發 暗槓:白
咲(河):8m、5m、中、2p、北、南/西、8s、7p

○オーラス〇本場 親:穏乃 ドラ:4m、1m、8p 十巡目

穏乃(振ったら役満……責任払いで16000点の支払い)ツモ:7m

穏乃(でも私が振ったところで、白糸台のトップは変わらない)

穏乃(だから仮にこの7萬がロン牌だったとしても和了らないはず!)打:7m


末原(——間に合った、聴牌!)ツモ:6p

末原(手牌):3457779m245p 暗槓:8p ツモ:6p

末原(2筒を切って聴牌! 役無しドラ5の89萬待ち!)

末原(7萬は私から四枚見えているから、他家にとって89萬が不要牌である可能性は高い)

末原(ならリーチか……?)

末原(——いや、後二巡で大星淡に槓が入る。とりあえずここは黙で通す)

末原(清澄に勝つチャンスを与えてしまったのは失敗やけど、おかげで大星淡がオリに回る可能性が高まった)

末原(さあ、大星淡。清澄の危険牌をつかめ! そうなれば暗槓を気にする必要もない。ツモれば私の勝ちや!)打:2p

淡(……とりあえずこれは通る)ツモ:2p

淡(暗槓が入るまで後二巡……)

淡(お願い……早く、早く暗槓が入って……!)打:2p


咲:ツモ?

咲(…………)

咲:東手出し


恒子「……はい?」

清澄・阿知賀・姫松・白糸台一同「……え?」

恒子「何ですか、この待ち?」

健夜「と言いますか、これでは一向聴ですね」

咲「…………」



穏乃・末原・淡(手出しの東!?)

穏乃(四枚目の東は私が持っているから、シャンポン待ちはありえない)

穏乃(そして河に散らばった中張牌の数々。ツモ次第でいくらでも順子が作れるはず)

穏乃(つまり、単騎待ちってこと……?)

穏乃(——ともかく、来た!!)ツモ:7s

穏乃(手牌):111234568999s東 ツモ:7s

穏乃(純正九蓮宝燈聴牌——!)

穏乃(索子が出れば私の——阿知賀の勝ちだ!!)打:東

末原・淡(こっちも手出しの東!?)

末原(何や……つまり阿知賀は、わざわざ自風の東の対子を落として行ったってことか?)

淡(たぶん今のツモで清一色を張った……!)

末原(いや、うちが和了れば済む話や。……来い!)ツモ:6m

末原(手牌):3457779m456p 暗槓:8p ツモ:6m

末原(来た、断ヤオへの張り替え! それも五面張!)

末原(これでリーチをかけなくても白糸台から和了れる!)打:9m

恒子「こ、こ、こ、これは……!」

健夜「凄まじいことになりましたね」

健夜「大星選手の手牌十三枚——その全てがロン牌です」


淡(手牌):22266m12355789s
→26m:末原に跳満を放銃
→12356789s:穏乃に役満を放銃

淡(……今更手出しの9萬)

淡(姫松が断ヤオを目指していたのは明らかなのに……)

淡(それってつまり、その辺の萬子の中張牌で待っているってこと?)

淡(そして高鴨穏乃は、おそらく清一色を聴牌)

淡(これじゃあ萬子も索子も出せないじゃない!)

淡(——槓まで後一巡)

淡(これさえ乗り切れば、私の勝ち……!)ツモ:9p

淡(っ!?)

淡(何でここで8筒の壁——生牌の9筒なの……!?)

淡(姫松と高鴨穏乃にはまず通る)

淡(けど宮永咲にはまずい!)

淡(仮にロン牌じゃなかったとしても、生牌だから槓の可能性だってある)

淡(それでもし大明槓嶺上開花を食らわされたら、今度こそまくられる……)

淡(でもだからって、何を切ればいいの?)

淡(萬子は姫松に危ない)

淡(索子は高鴨穏乃に危ない)

淡(大体、放銃しなかったとしても、いつ他家に和了られるかわからない)

淡(どうすればいいの……テル……?)

——昨夏・東京

照「——今日はどこだっけ?」

菫「南日ヶ窪中だよ」

菫「まったく、インターハイが終わったばかりだというのに、どうして私たちが中学生の引き抜きなんてやらなければならないんだ?」

照「特待生制度が問題になっているからね。大っぴらにスカウトできないんでしょ」

菫「それで、生徒自らがスカウトってわけか」

照「表向きには中高生の交流ってことになっているけどね」

照「何にせよ、来年に向けて補強は必須」

菫「先輩が抜けて、チーム虎姫は照と私の二人だけ。有望な一年生が何人かいるが、確かにこのままだと心もとないな」

菫「でもどうして監督は南日ヶ窪中なんて選んだんだ? この学校、団体戦は地区の初戦で敗退しているし、牌譜を見る限り、有望そうな奴なんて一人もいないぞ?」

照「——菫」

菫「ん?」

照「まだ約束まで時間があるし、そこの喫茶店でお茶にしよう」

菫「…………」

照「——ツモ。12300オール」

部員A「…………」

部員B「宮永さん凄い! 親の三倍満……それも七連続和了だなんて……!」

部員C「さすがインターハイチャンピオンです! 私、憧れちゃいます!」

部員D「宮永さん! もっとインターハイの話してくださいよ」

部員E「これ、宮永さんのために用意したカステラなんです。もしよかったら食べてください!」

照(もぐもぐ)

菫(さすがと言うか、当然と言うべきか……やはり人気者だな)

菫(しかし、ぱっと打って見た限り、有望そうなのはいない)

菫(ここは外れかな……——ん?)

菫(何だあいつ、隅の方に一人で?)

淡「…………」

菫(内履きの色からして、あいつも三年生か?)

菫(しかしヘンだな、団体戦にも個人戦にも出場してないだなんて……)

照「……ねえ、そこにいる子——そう、君」

淡「?」

部員「!?」

照「よかったら、一緒に打って見ない」


菫(珍しいな……照の方から言い出すなんて……)

菫(東発はいつも通り様子見——下手なスカウトよりよほど正確だな)

淡「——ロン。5200」

部員「…………」

菫(三巡目か。早いな)

菫(けど二局目から、照は容赦しない)

菫(配牌六向聴。連続和了の第一とはいえ、照らしくないな)

菫(しかし——)

照「——ツモ。300・500」

淡「……!」

菫(照は強引にツモって来る)


照「——ロン。2000」

照「——ツモ。700オール」

照「——ロン。5800」

照「——ツモ。2600オール」

照「——ツモ。4000オール」

部員(…………)

菫(圧倒的——というより、大人げないな)

菫(中学生たちが引いてるぞ)

菫(でもどうして配牌がずっと五向聴以下なんだ?)

菫(それも照以外の二家も——あの金髪以外が七連続五向聴以下だなんて……)

部員C「——やっぱり大星さんでも無理かー」

部員D「——いやいや、インターハイチャンピオンに勝てるわけないでしょ」

淡「……!」

菫(何だ……この雰囲気?)

部員E「でも宮永さんはやっぱり凄いよね。毎回あんな配牌なのに手を仕上げて来てるし」

部員F「要するに大星より宮永さんの方が強いってことでしょ」

淡「……!」

淡「——リーチ!」

菫(ダブルリーチ!?)

照「——ロン。18000。——トビだね」

淡「…………」

菫(槓振りか。現状ダブリーのみだから槓したくなる気持ちも分かるが、親の追っかけにそれは無謀だな)

淡「……!」ダッ

部員A「あ、大星さん、帰っちゃったー」

部員B「もう、宮永さん、容赦なさすぎですよー」

照「…………」

照「——菫」

菫「何だ?」

照「帰ろうか」

菫「南日ヶ窪中。——どうやらここも外れみたいだな」

照「…………」

菫「さっきから黙ってばかりいてどうした?」

照「……一人、気になる子がいた」

菫「ひょっとしてあの金髪か?」

照「——金髪」

照「うん、その子」

菫「と言うと何か、あの配牌はあの金髪の支配だったのか?」

照「うん、鏡で見た限りは」

照「それに、たぶんあの子の力はそれだけじゃない」

菫「?」

——翌日

菫「照。早速今日も回るぞ」

照「待って。今日はバウムクーヘンを持ってきたから、それを食べてから行こう」

菫「ったく、お前というやつは……」

亦野「——部長、お客さんです」

菫「客?」

淡「————」

菫「お前、昨日の……」

淡「私と打って」

照「…………」

淡「あんなバカヅキ私は認めない。だから打って」

菫「おい、お前——」

照「いいよ、打っても。でも——」

照「先にカステラ食べさせて。——あなたも食べる?」

淡「……フン」

菫(まったく、照は何を考えているのやら……)

菫(しかし、また五向聴)

菫(これじゃあ狙い撃とうにも速度で照に負ける)

菫(照の言う通り、金髪の支配は本物なのか……?)

淡「ツモ! 2000・3900!」

菫(五巡目……相変わらず早いな)


淡「リーチ!」

照「——ロン。1300」

淡「……!」

菫(始まったか)


照「——ツモ。500・100」

照「——ロン。3900」

照「——ツモ。1300・2600」

照「——ツモ。4000オール」

淡・亦野「…………」

菫(照のやつ。今日はいつも以上に調子がいいな)

菫(これでは速度が売りの亦野もどうしようもないか)

菫(——で、この金髪は、何を見せてくれるんだ?)

照「——ねえ?」

淡「……?」

照「どうしてあなたは、全中に出なかったの?」

淡「…………」

照「あなたの支配なら、全中制覇だって無理じゃないだろうに」

淡「…………」

菫(全中制覇? いくらなんでも買い被りすぎじゃないか?)

淡「……出させてもらえなかったの」

菫「え?」

淡「私と打っても楽しくないからって……」


淡「そんなのむしろこっちの台詞だから」

淡「毎回配牌が悪いからって勝てないだとかずるいだとか、そんなの関係ないじゃん!」

淡「私はただ強い人と打ちたいだけなのに……」

淡「部の輪が乱れるからって、先生まで私を仲間外れにするし……!」

菫(それはお前の態度が生意気だからじゃないのか?)

照「——そう」

照「だったらうちに来ればいいよ」

淡「え?」

照「ここは完全実力主義だから、強ければ何をやっても許される」

照「もっとも、今のあなたではレギュラーに入れないだろうけど」

淡「……!」

照「ねえ、見せてよ」

照「あなたの力——支配は、まだこんなものじゃないでしょ?」


淡「…………」

淡(私が、レギュラーに入れない……?)

淡(……悔しい)

淡(……そんなわけない)

淡(インターハイチャンプだか何だか知らないけど)

淡(私がこんなやつに負けるはずがない——!)

淡「——リーチ!」

菫・亦野(またダブリー!?)

照「…………」

淡「——槓!」

淡「——! ろ、ロン!」

照「…………」

菫(役はダブリーのみか。照の奴も命拾い——!)

淡「裏4! 12300!」

菫(もろ乗りだと!?)

菫(もしかして、照が鏡で見た正体は——)


淡「どうだ、インターハイチャンピオン! これが私の力だ!」

照「……とりあえず座ったら?」

照「それに、まだ勝負はついていないし」

淡「……フン!」


照「——ツモ。8000オール」

照「また私の勝ちだね」

淡「…………」

淡「……一回」

照「?」

淡「もう一回! 今の一回で負けを認めるわけないでしょ!」

照「うん、いいよ」

照「だから何回でも相手になってあげる」

照「——宮永照」

淡「え?」

照「私の名前。——あなたは?」

淡「……大星淡」

照「じゃあまた一緒に打とうか。——淡」

淡「…………」

淡「——宮永照!」

淡「——宮永先輩」

淡「——テルー」



淡(…………)

淡(——そうだ)

淡(私の支配——テルと私との絆は絶対だ)

淡(宮永咲は手牌から三枚目の東を捨てた)

淡(もし聴牌なら、単騎待ちの可能性が高い)

淡(そして四枚目の東は高鴨穏乃の手牌の中)

淡(結果的に待ちを変えて正解だったわけだけど)

淡(その字牌以上に有効な単騎待ちがあるとは思えない)

淡(しかし一つだけ、宮永咲には必ず和了れる待ちがある)

淡(それはもはや待ちとは言わないけど)

淡(自分の支配に絶対の自信があるのなら、必ずこの待ちを取るはず——!)

淡「……私は」

穏乃・末原「?」

淡「私は……負けない!」

淡「私とテルとの絆が砕けるはずがない!」

淡「だからこの牌を捨てて、終わりにさせる!」

咲「……うん」

咲「私も、私も負けられない」

咲「だってこの勝負に勝って、またお姉ちゃんと——家族四人で麻雀を打つんだから……!」

淡:打9p

咲「——槓」 明槓:9p

咲(手牌):發 明槓:9p 明刻:中、發 暗槓:白 嶺上ツモ:5p

咲(これで一向聴から聴牌。待ちは5筒。後は——)

咲「——槓」 加槓:發 ドラ:4m、4s、8p、1m、8p

穏乃・末原(四枚目の槓!? それも嶺上牌じゃなくて手牌からの加槓!?)

穏乃・末原(確かオーラスの途中流局って……)

淡(やっぱりそう来るよね、宮永咲——!)

恒子「宮永選手、大明槓からの連槓を選択! ここで嶺上開花を決めれば清澄の優勝です!」

健夜「しかし決まらなければ四開槓。大会の規定で、オーラスの途中流局は連荘になりませんから、もしこの嶺上開花が決まらず、宮永選手が誰にも放銃しなければ、自動的に白糸台の優勝になります」


末原(アホ! 何でここで槓なんや!? あえて途中流局の危険を冒す必要がどこにあるっていうん!?)

穏乃(何にせよ、これで勝負が決まる。宮永さんが索子をつかめば——)

末原(けどこれで断ヤオ・ドラ9の倍満! 25836萬をつかめ! そうすれば——)

穏乃・末原(槓振りでうちの勝ちだ!)


淡(ツモれるはずがない)

淡(南三局で宮永咲は高鴨穏乃の支配に敗れ、嶺上開花に失敗した)

淡(一方、私は高鴨穏乃の支配に打ち勝った!)

淡(後半戦で一度も嶺上開花に成功してない宮永咲が、今更高鴨穏乃の支配を打ち破れるはずがない)

淡(そもそもそんな偽物の支配——宮永咲とテルに絆なんて物があるわけがない!)

淡(だから私たちの勝ちだ!)

咲(…………)

咲(お姉ちゃん、私、覚えているから)

咲(嶺に咲く花のように——)

咲(どんなに険しい山奥だろうと、関係ない)

咲(だってそこだけは私の領域——私とお姉ちゃんとの絆なんだから……!)

咲「——ツモ!」

穏乃・末原・淡「……っ!?」

咲(手牌):5p 明槓:9p 明刻:中、發 暗槓:白 嶺上ツモ:5(赤)p

咲「嶺上開花・大三元。大三元と嶺上開花のパオで、南家と西家——両者16000の責任払いです!」

○清澄 :106400
○白糸台:104600
○阿知賀:098200
○姫松 :090800

恒子「インターハイ大将後半戦決着ッ!!」

恒子「何と優勝したのは、逆転不可能と思われた最下位清澄!! 役満の責任払いで強引に優勝をもぎ取りました!!」

健夜「近年稀にみる逆転劇でしたね。役満直撃でまくりという状況ならよくありますが、実際に役満を決めてみせるのはほとんど無い——それも今回は、本来は役満でも逆転できない状況でした」

恒子「これより団体戦の表彰に移ります! 表彰式までは本日のハイライトをご覧ください!」

咲「ありがとうございました」

穏乃・末原「…………」

穏乃・末原「ありがとうございました」

末原(槓が入らなければ、一巡後の大星のツモは……二萬。暗槓か)

末原(次いで宮永咲のツモが5索。これは阿知賀と大星淡の当たり牌)

末原(次に阿知賀のツモが6萬。これは私と大星淡の当たり牌)

末原(そして私のツモがドラの4萬。黙の倍満を狙ったら、もしかしたら6萬を払ったかもしれへん)

末原(…………)

末原(中を鳴かさなければあるいは……って、それやと大星淡がゴミツモだっけ)

末原(何にせよ、私の負けか……)

末原(……ああ、悔しい。——でも)

末原(皆には怒られるかもしれへんけど、楽しかったなあ)

末原(…………)

末原(——優勝をプレゼントできなくてごめんなさい、善野監督)

穏乃(——憧、玄さん、宥さん、灼さん、赤土先生)

穏乃(あんなにリードをもらったのに、勝てなくてごめん)

穏乃(でも皆も楽しめたよね?)

穏乃(——和、またどこかで一緒に楽しもうね)

穏乃「…………」グス

咲(…………)

咲(ちゃんと、ちゃんと来てくれた)

咲(お姉ちゃんとの絆は、今も続いている)

咲(……お姉ちゃん、見てくれたよね?)

咲(個人戦で待ってるよ、お姉ちゃん——)

和「——咲さん!」

咲「和ちゃん——!」

淡(…………)

淡(何で……何で……)

照「——淡」

淡「! ……テル!」

淡「ごめん、テル! 私……私……」

照「大丈夫。皆、淡を責めたりしないから」

淡「違うの! ——ううん、もちろんそれもあるけど、私が……私がテルの本当の妹なのに……!」

照「……え?」

淡「それなのに、宮永咲なんかの嶺上開花に負けた……私の支配の方が——私とテルとの絆の方が強いはずなのに……なのに……!」

照「…………」

照「——2萬」

淡「……?」

照「5索、6萬、6萬」

照「2萬、2萬、2萬、2萬」

淡「……テル?」

照「次巡に淡がツモるはずだった牌。それが2萬。槓は間違いなく入っていた」

照「5索、6萬、6萬はその後に他家がツモるはずだった牌、もしくは河に放たれるはずだった牌」

照「そして槓裏は全て暗槓の2萬。さっき映像で確認したから、間違いない」

照「だから淡の支配は破れていない」

淡「テル……」

照「それに——」

照「淡の仇は、私が個人戦で討つ——」

■インターハイオーラス牌譜
○親:穏乃
○表ドラ:四、一、�、一、�
○裏ドラ:�、二、二、二、二
○嶺上牌:發、四、�、�(赤)
○出目:左4 槓:10.5巡 ※副露で巡目が変化

穏乃(配牌):五八��112389東南西北 配牌五向聴
ツモ:265發499東1七7
河:八五��北西/南東七東
穏乃(聴牌):1112345678999 待ち:123456789

末原(配牌):三五七九����東南西北中 ツモ:七 配牌五向聴
ツモ:七��四(嶺上)七�西���六
河:�北西�西東/南�九
末原(聴牌):三四五六七七七��� 暗槓:� 待ち:二五八三六


淡(配牌・聴牌):二二二六六12355789 ツモ:8
ツモ&河:8北727南/九��

咲(配牌):五八���東南西白白白發中 ツモ:白 配牌五向聴
ツモ:白發(嶺上)中中�北8�發(穏乃からポン)中(末原からポン)發
河:八五中�北南/西8�東
咲(手牌):發��� 暗槓:白 明刻:發、中

■総合獲得点
○灼  :+59600
○咲  :+47300
○照  :+39000
○淡  :+27400
○セーラ:+26300
○久  :+24200
○洋榎 :+15400
○怜  :+07200
○宥  :+06200
○タコス:+00800
○玄  :−07000
○憧  :−11200
○まこ :−12400
○誠子 :−13300
○菫  :−20100
○末原 :−25300
○尭深 :−28400
○竜華 :−32800
○穏乃 :−49400
○和  :−53500

妄想は以上です。

お付き合いいただきありがとうございました。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom