純一「みんなで、イチャイチャしようよ+!」(353)

【絢辻 詞】

こんこん…

梅原「ん、なんだろうな。こんな時間に…」

純一「さあ? とっくに消灯時間過ぎてるし、高橋先生じゃないかな」

梅原「どうして俺達の部屋に……あんまり騒ぎ過ぎたか?」

純一「それほどまで騒いでないはずだけど……お宝本鑑賞してただけだし」

こんこん…

梅原「…うーむ。ちょっくら開けてくるか」

純一「先生かもしれないよ? まだおきてるのかっー! なんて怒られるかも」

梅原「そんときゃそん時だ。つか、修学旅行で就寝時間きっちり寝てる奴なんて誰も居ねーよ」すたすた…

純一「そりゃそうだけど……」

梅原「はいはーい。今開けますよいっと──うおっ!?」

純一「ん? どうしたんだよ梅原───うわぁあっ!?」

絢辻「──……しぃー! 静かに! 二人共!」ぼそぼそ…

純一「え、ちょ、どうして絢辻さんがここに……というか見回り中の先生達はっ?」

絢辻「……この私を誰だと思ってるのよ? きっちり時間を見ながら巻いてきたに決まってるじゃない」フンスッ

純一「どうして見回りの時間帯を知ってるの……」

絢辻「うん? 企業秘密?」

純一「……なるほど、口には言えないんだね…」

梅原「つか話はそれぐらいにしておいて、とりあえず絢辻さん、中に入ろうぜ?」キョロキョロ…

絢辻「あ、ごめんなさい梅原くん。そうしたらお言葉に甘えて……」そそくさ… ばたん

絢辻「──ふぅーっ。緊張したぁ~……ちょっぴり怖かったわっ…うふふっ」

純一「現れた時、物凄く堂々としてたけど…」

絢辻「だって自信はあったもの。それよりも二人共、急に押しかけてきてごめんなさい」ぺこ

梅原「いいってことよー! こんなむさ苦しい男どもの部屋によくぞ来てくれました! なんて言いたいぜ俺は」

絢辻「あら、ありがと梅原君……何処の誰かみたいに反応が悪いとは大違い」

純一「調子がいいやつめ……」

梅原「そんでもって絢辻さん、今日はどの様な件でこのお部屋に?」

純一「見たところ一人みたいだけど……確か同じ部屋って薫だったよね?」

絢辻「そうね、今回はちょっと棚町さんに手助けしてもらってココに来てるの」

梅原「……ははーん。なるほど~…そりゃまたご苦労さま、絢辻さん」

絢辻「うふふっ、話が早くて助かるわ。梅原君」

純一「……? 二人共、どういうことなの?」

梅原「あーあ、俺もこんな可愛いかわいい彼女が欲しいぜえー……つぅーこって大将!」ばしん!

純一「あいたっ!? なんだ急に…っ!」

梅原「俺はちょいとマサの部屋に用事ができちまった。ということで今からちょっと行ってくる」

純一「……は? ちょ、待ってよ。お前こんな時間に外に出たら…!」

絢辻「今はちょうど交代の時間で、このフロアには先生居ないわよ梅原君」

梅原「さんきゅー絢辻さん! んじゃ橘、あとはよろしくなぁ~」すたすた… 

純一「ま、待てって梅原……!」ばたん

純一「行ってしまった……どうしたんだよ急に、用事なんてさっきお宝本で終わったはずなのに───」

絢辻「──そぉーれっ!」ばっ

純一「え、ちょ、絢辻さんっ…!?」

絢辻「うふふっ……んん~っ」ぎゅう…

純一「ど、どうして急に僕に抱きついてくるの…っ? ちょ、ジャージだから生地が薄くて…そのっ…!」むぎゅむぎゅ

絢辻「むふふっ……ん~? だって当ててるんだもの、わかってるでしょ?」ぐいっ

純一「え、ええっ!? どうしてそんなに積極的っていうか……あわわっ! 絢辻さん、耳元で喋らないでっ…!」ぞくぞく…

絢辻「……橘くんって、耳弱かったのかしら? うん?」

純一「そ、そういうわけじゃないけど……ひぃいっ!?」びくん!

絢辻「ふぅっ~…ふっふ~…ふふっ」

純一「っ~~~~~~!!」ぞくぞく…っ

絢辻「……随分と気持ちよさそうね、そんなにあたしの息……気持よかった?」

純一「はぁっ…はぁっ……うん、気持よかった…」

絢辻「うふっ、正直でよろしい」すっ…

純一(あ、これでオシマイか……もっとして欲しかったな…)

絢辻「そんなに物欲しそうな顔して…本当に貴方って、変態さんよね」

純一「ぐっ……いきなり絢辻さんがそんなことしてくるからじゃないかっ…!」

絢辻「……あら、それじゃあ嫌だったの? してほしくなかったのかしら?」

純一「……いえ、とても良かったです」

絢辻「またまた素直でよろしい。……ご褒美にキス、する?」

純一「い、いいのっ!?」

絢辻「ふふっ、だーめ。そんなにがっついてしてくるのは、あたしは嫌いだもの」くるっ

純一「そうなんだ……」シュン…

絢辻「でも」ちら…

純一「……でも?」

絢辻「──あたしからがっつくのは、とても大好き」

純一「お、おおっ……さらっと凄いこと言うね、絢辻さんは」

絢辻「だってだって……このあたしだもの。貴方の予想通りに行かない女よ?」

純一「ごくり…」

絢辻「………」じぃー…

絢辻「……貴方からしてくれる…?」ぼそっ

純一「う、うん…」

絢辻「じゃあ、お願い……」すっ… ぎゅっ…

純一(お、おお……首に両手を回された……! 顔がお互いにとっても近いよ…!)

絢辻「……」こくん?

純一(首を傾げる絢辻さん可愛い! ……こ、これはもう僕からちゃんとするかしかない…!)

絢辻「……純一くん、あたしに何かしたいの…?」

純一「うん、僕は………絢辻さんに、キスしたい…」

絢辻「そうなんだ……うん、じゃあしていい」

純一「……するよ?」すっ…

絢辻「うん……」すっ…

ちゅっ

純一「──……二回目は?」

絢辻「──んっ……貴方に任せるわ、ふふっ」

数分後

純一「ちゅっ、ちゅ───……はっ!?」

絢辻「──んっ、はあ……え、どうしたの…?」

純一「勢いのままにずっとキスしてたけど、その前に絢辻さん! どうして僕の部屋にきたの?」

絢辻「……」

純一「あ、あれ…? 僕、なんか変なこと言ったかな…?」

絢辻「……今更、そんな疑問なの…?」

純一「う、うん。どうしてなのか気になって……」

絢辻「…はぁ。橘くんって時にとってもかっこ良くて、時にとってもムードを読めないわよね…」

純一「えっと、それって褒めてるの…?」

絢辻「褒めてない」

純一「だ、だよね…あはは」

絢辻「………」じぃー

純一「……すみません、反省してます…」

絢辻「……ここまであたしにキスしておいて、まだ分からないのって言いたいのよあたしは」

純一「…………」

絢辻「…………」

純一「……うーん、と…」

絢辻「………もうっ! どうして貴方って人はそう抜けてるのかしらっ」

絢辻「あ・な・た・に! 会いに来たの!」

純一「ぼ、僕に会いに来た…?」

絢辻「そう! あたしが部屋を抜けだしてまで、橘くんに会いたくて会いたくて仕方なくてっ……
   ……それでここまで頑張ってきたってわけ! わかったっ?」

純一「絢辻さん……そんなに僕に……」

絢辻「い、今更そんな風にしても駄目よ…! もう呆れてるんだから貴方にはっ!」ふんっ

純一「ごめん……だって絢辻さんがそんなにも、僕に会いたがってるなんて思わなくて…」

絢辻「…………」ちらっ

純一「ううっ……」

絢辻「……っ~~~……」

絢辻「……だ、だってしょうがないじゃない…っ」

純一「え…?」

絢辻「きょ、今日は……女子と男子は別で行動する日だったから……橘くんと合えなかったもの…」

純一「え、でもっ…ちゃんと晩ご飯の時とかっ、廊下ですれ違ったときはちゃんと挨拶とかしてたし…」

絢辻「………それで、満足なの?」

純一「ま、まんぞくって……」

絢辻「貴方はそれで、今日は満足できたのっ…?」

純一「……できっこないよ、多分」

絢辻「……記念すべき修学旅行だっていうのに貴方と一緒に行動できないなんて…あたしは耐え切れない。
   だからこうやって少しでも多く、橘くんと同じ時間を過ごしたくて…過ごしたくて、あたしは……」

純一「絢辻さんて……」

絢辻「……あたしは貴方の部屋まで頑張ってきたのよ…?」

純一「そうだったんだね…ごめん、僕ってば無神経で…」

絢辻「……いいの、そんな橘くんを好きになったんだから」

純一「っ……絢辻さんっ……!」ぎゅうぅっ

絢辻「んっ……褒めてくれる? 頑張ったアタシを」

純一「うんっ……頑張ったね、すごいよ絢辻さん…っ!」

絢辻「………」ぎゅう…

純一「………僕も寂しかったよ、絢辻さんと一緒に今日は行動できなくてさ」

絢辻「……ホント? うそじゃない?」

純一「本当だよ。僕だって絢辻さんと一緒に、いつだって同じ時間を過ごしたいんだ。
   ……これは僕の本心からの気持ち、嘘は絶対にないよ」

絢辻「……そっか。嬉しい」

純一「……絢辻さんが嬉しいのなら、僕も嬉しいよ」

絢辻「………」ぎゅっ…

純一「よいしょっと」ぐいっ

絢辻「ひぁっ!? え、なに急に…!」

純一「うん、お姫様抱っこだよ」

絢辻「ど、どうしていきなり…っ?」

純一「かわいくて、つい」

絢辻「か、かわいくてって……ちょ、ちょっと! 下ろして…!」ばたばた…

純一「だめだよ、ほらほら、いくよーそれー!」すたすた…

絢辻「きゃっ! ど、どこにつれていくつもりっ…!」ばたばた

純一「どこって…とりあえずそうだなぁ…ここ、とかかな?」

絢辻「こ、ここって……ベットの、うえ…?」

純一「では、一緒にベット上に……よいしょっとぉー!」どさぁっ!

絢辻「きゃぁー!」ぽすんっ

純一「──あははは! どう、絢辻さん? ちょっとしたスリリングな気分味わえたかな?」

絢辻「っ……こ、恐いじゃないっ! 怪我をしたらどうするつもりなの…!」

純一「でも痛くなかったでしょ?」

絢辻「……ま、まあ…橘くんが下地になってくれたから、痛くなかったけれど…そうじゃなくて!」

純一「あはは、そんなに怒らなくてもいいじゃないか、絢辻さん。気分転換だよ、気分転換」

絢辻「気分転換って……」

純一「ちょっとした遊び心だよ、絢辻さんと一緒に過ごすのなら…こういったこともないとね」

絢辻「……なによ、もうっ」ぷいっ

純一「………」じぃー

絢辻「……ど、どうしたのよ。そんなにあたしの顔見つめて…」

純一「………」じぃー…

絢辻「や、やめなさいよ……まじまじとそんなに見つめないで……っ」もじもじ…

純一「やっぱり絢辻さんって、可愛いよね。改めてそう思った」

絢辻「っ! ……な、なによ。急に…」

純一「うん、こうやって近くで見つめるとほんっと綺麗で、かわいくて……
   ……こんな子が僕の彼女なんて今でも信じられないよ」

絢辻「か、彼女じゃない……実際に!」

純一「……そうだね、絢辻さんは僕の彼女だ。僕の一番大好きな女の子…」

絢辻「っ………」もじもじ…

絢辻「や、やめてよ……改めて言われると、恥ずかしいから…」

純一「どうしてさ、だってもっと言ってあげたいよ絢辻さんに。
   僕が絢辻さんのどんな所が好きなのか、惹かれたの、恋したのか……もっといってあげたい」

絢辻「それが恥ずかしいって言ってるんじゃない…なに、橘くんあたしを虐めたいの…っ?」

純一「そうじゃないよ、虐めるだなんて。そんなこと僕はしないさ」

純一「──ただ、そうやって恥ずかしがってる絢辻さんの表情がとても可愛くて…もっと見てみたいだけなんだ」

絢辻「し、支離滅裂よっ…! 結局はあたしを虐めたいって言ってるもんじゃないのっ」

純一「…僕に好きだって言われるの、嫌かな?」

絢辻「っ…………嫌じゃないけど…」

純一「じゃあ、嬉しいんだ。絢辻さん、大好きだよ?」

絢辻「っ! ……で、でもっ…急に言うのはだめ…っ」

純一「じゃあ何時言うのさ、僕はいつだって絢辻さんのこと好きなのに。
   この溢れかえる感情を……僕はいつ絢辻さんにぶければいいの?」

絢辻「そ、それはっ……その、あれよ……っ…」ちらっ…ささ、ごにょごにょ

純一「………」

絢辻「………………いまが、いいです…」ぼそっ

純一「…………」

絢辻「…………ううっ…」もじもじ…

純一「───絢辻さん、顔上げて」

絢辻「なによっ……んっ」ちゅっ

純一「……今ので三十回目かな? さっきのはちゃんと数えてなかったけれど」

絢辻「……四十三回目、このキスは」

純一「おおう! ちゃんと数えてたんだ、やっぱり凄いね絢辻さんは。
   ……もしかして、今までしてきたキスの回数も知ってたりするのかな」

絢辻「そんなわけ無いでしょう…! ど、どんだけあたしがキスが好きって思ってるのよっ」

純一「……あれ? どうしてそこで焦るの……まさか、本当に───」

絢辻「ち、違う違う! 違うってばぁ…!」あたふた…

純一「ん」ちゅっ

絢辻「んむっ……ん~~~!?」

純一「ん、んっ………ぷは。今のは今までの合計で、何回目?」

絢辻「…………三百二十一回目……はっ!?」

純一「おおっ……!」

絢辻「ち、違うのっ…! こ、これはそういうのじゃなくてっ……ああ、もうっ…ニヤニヤしないっ!」

純一「だって本当に数えてて、僕は嬉しいんだ。ありがとう、絢辻さん」

絢辻「っ~~~~……ど、どうしてお礼をいうのよっ…!」

純一「言いたくもなるよ。最近は何気なくキスするってことが多かったのに、ちゃんと絢辻さんは
   そのキスのことを……きちんと覚えてる。それって何よりも嬉しいことだから」

絢辻「っ~~………」ごそごそ…

純一(あ、毛布をかぶってしまった……でも、顔だけのぞかせてる。可愛い!)

絢辻「ううっ……こ、こんなの……変態じゃないかしら…?」ひょこ…

純一「変態なんかじゃないよ! むしろ淑女だよ!」

絢辻「……それって、いいこと?」

純一「いいことだよ! とってもいいことだよ! どんどん誇っていいことだよ!」

絢辻「……橘くんがそういうのなら、そう思うことにする」

純一「うん! だから絢辻さん……」もぞ…

絢辻「うん…? なに、橘くん?」

純一「もっともっと、僕とキスをしようよ……もう、絢辻さんがきちんと覚えきれないぐらいに。
   沢山キスの思い出をつくって、キスのことで頭をいっぱいにさせようよ!」

絢辻「キスで、いっぱいに…?」

純一「そうだよ! だって絢辻さん、キス好きでしょ?」

絢辻「……………」

絢辻「……………」もぞもぞ…

絢辻「……………すき…」もぞ…

純一(毛布の中に顔を隠した……恥ずかしかったんだね、可愛いなぁ!)

純一「……だからさ、絢辻さん。もっとキスしようよ」

絢辻「………これから、いっぱい?」

純一「うん、いっぱいに。お互いに唇腫れあがるまで、イチャつこうよ」

絢辻「………そしたら明日、みんなにバレちゃうわよ」

純一「ばらしたっていいよ! むしろ魅せつけてやろうよ!」

純一(一昨日のバスの時のことも、普通にみんな噂になってたしね! もう逃げられないし!)

絢辻「…………橘くん、こっち」くいっ

純一「…うん? こっちって、毛布の中に?」

絢辻「……」こくん…

純一「えっと……そ、それじゃあお邪魔します…」ごそごそ…

絢辻「…………」

純一「よいしょっと……あはは、また顔が近くなったね」

絢辻「…………」

純一「……絢辻、さん? どうかしたの?」

絢辻「…………」ぐいっ

純一「あやつ──……むぐっ!?」ちゅっ

絢辻「んっ…ふっ……ちゅ、ちゅうっ…」

純一「ん、んむっ!? ん、ちゅっ……!?」

絢辻「ちゅ、ろ……ちゅううっ……ぷはぁ……」

純一「んっ……んはっ……はぁっ…はぁっ…あ、あやつじさん…?」

絢辻「……いまので、三百二十二回目……ちゅっ」

純一「あ、ちょまっ……んっ!」

絢辻「────……んっ、今のでっ…はぁっ…はぁっ…三百二十五回目…」

純一「あ、絢辻さんっ…? どうしたの……急に…?」

絢辻「はぁ…はぁ……ん、はぁ……───したい、の…」

純一「え……?」

絢辻「もっともっと……純一くんと、キスがしたいの…」

純一「そ、それは分かってるけど……こんなにもハイペースじゃなくても…!」

絢辻「……キス、嫌い…?」

純一「大好きです!」

絢辻「あたしも大好き……はぁはぁ……だから、純一くん…もっともっと…」ぐいっ

純一「あ、そこは耳だよっ…やめっ───ッ~~~~!」ぞくぞくぞく…

絢辻「ん、ちゅる……はむ…ぷは、もっともっと……ちょうだい、貴方を……あたしに…」もぞもぞ…

純一「っ~~~~!? …だ、だめだよ…! 流石に、そこは…!」

絢辻「───まだ覚えてるから、とめられないの……」

純一「ど、どういうこと……っ? うあっ、だめだって、絢辻さん…!」

絢辻「まだ覚えてる…橘くんとどんなことしたかって、あたしは覚えてる……だから…」

純一「…だ、だから…っ?」

絢辻「あたしを、あたしの頭の中を純一くんで───……いっぱいにしての」

絢辻「はぁ…はぁ……ん、はぁ……───したい、の…」

純一「え……?」

絢辻「もっともっと……純一くんと、キスがしたいの…」

純一「そ、それは分かってるけど……こんなにもハイペースじゃなくても…!」

絢辻「……キス、嫌い…?」

純一「大好きです!」

絢辻「あたしも大好き……はぁはぁ……だから、純一くん…もっともっと…」ぐいっ

純一「あ、そこは耳だよっ…やめっ───ッ~~~~!」ぞくぞくぞく…

絢辻「ん、ちゅる……はむ…ぷは、もっともっと……ちょうだい、貴方を……あたしに…」もぞもぞ…

純一「っ~~~~!? …だ、だめだよ…! 流石に、そこは…!」

絢辻「───まだ覚えてるから、とめられないの……」

純一「ど、どういうこと……っ? うあっ、だめだって、絢辻さん…!」

絢辻「まだ覚えてる…純一くんとどんなことしたかって、あたしは覚えてる……だから…」

純一「…だ、だから…っ?」

絢辻「あたしを、あたしの頭の中を純一くんで───……いっぱいにしてほしいから」

絢辻「……だめ?」ぼそっ

純一「っ~~~~~~」ぞくぞくぞく…

純一「……だ、だめじゃない…よ」

絢辻「……本当に? だめじゃない…?」

純一「うん、駄目じゃない……もっともっと、僕で絢辻さんの頭の中をいっぱいにしてあげる…」

絢辻「あたしが…あたしで居られなくなるぐらい、に?」

純一「うん、普段の絢辻さんとは大違いなほどに……めちゃくちゃにしてあげるよ」

絢辻「……」ドキドキ…

絢辻「………この気持は、嬉しいだと思う。貴方にそう言われて、あたしは嬉しがってる…」

純一「あはは……絢辻さんって、ちょっとMっ気あるんじゃないかな?」

絢辻「………」

純一(あ、殴られるかな…?)

絢辻「……んっ」ちゅっ

純一「んむ…っ」

絢辻「っ……はぁっ…はぁっ…そうかも、しれないわね…うふふっ」

絢辻「今のあたしは本当に変……こんなあたしを見せられるのは、純一くんだけ」

純一「……嬉しいよ、どんどんおかしくなって欲しいぐらいだ」

絢辻「……もっと普段らしくないこといってもいい?」

純一「どうぞどうぞ」

絢辻「………」ぎゅうっ…

純一「っ……ど、どうしたの耳元に顔を近づけて…」

絢辻「うふふっ……そうね、そうしたら……こういってあげようかな」

絢辻「───純一くん、もっとあたしを……めちゃくちゃにして頂戴」

純一「っ………」

絢辻「貴方のキスで、貴方の……身体で、ね?」

純一「──お、お安い御用だよ。つかさ…っ」

絢辻「………ありがとう、純一君」

純一「お礼は…め、めちゃくちゃした後にね…!」

絢辻「…そお? そしたら、そうしとくわ…ふふっ、じゃあ純一君───」

絢辻「───これからもっと、あたしを壊し続けてね?」

後日談

純一「…………」うつらうつら…

梅原「……大将、大丈夫か? 飯が口の端からこぼれ落ちてるぞ…」

純一「…………」ぐらぐら…

純一「はっ!?」びくん

純一「だ、だめだよ…! もう僕、でないからぁ───って、あれ?」

梅原「よう」

純一「え、あ、あれ……梅原…? ここは……?」

梅原「大広場だ。修学旅行組で使われてる食事する場所だぜ」

純一「お、おう……そうか、ごめん…」

梅原「……どうしたんだよ、本当によぉ。朝からずっとそんな感じで…なんかあったのか?」

純一「……う、うん……なんというかその……」

梅原「あーいいって、言いたくないんなら言うな。……こっちが聞きたくねえ話しっぽいしな、うん」ずずっ…

純一「……そういえば梅原、お前って結局朝まで戻って来なかったけど…」

梅原「おうよ、マサとケンで朝までお宝本鑑賞会だったんだぜ~? いやーなんというか、
   ああいうのが修学旅行の醍醐味だよなぁ、うんうん」

純一「そっか……僕もそっちがよかったかもな……」

梅原「……っておい、お前さんがそれを言うなよ。大将こそ、修学旅行の最大的イベントを経験してたじゃねえか!」ぐいぐい

純一「肘で押すなよ……まあ、そうなんだろうけどさ。いや、なんというか…あそこまで行ってしまうと…」

梅原「うん?」

純一「ちょっとした、今後の僕の体力が心配になるっていうか……」

梅原「どういうことだよ? 絢辻さんとなんかあったのか───」

「おはよう、ふたりともっ」

純一「ッ……」びくん!

梅原「──ん、おう! おはようさん絢辻さん、なにやら今日は一段と元気そうで!」

絢辻「──あら、そう見えるかしら? うふふっ」ツヤヤカ

純一「…………」ダラダラ…

絢辻「でもそうね……確かに今日はすごぶる機嫌がいいわね。そう思わないかしら? た・ち・ば・な・くん?」

純一「そ、そうですね……あはは、あっははは!」

梅原「?」

絢辻「さて、今日もはりきって修学旅行を満喫するわよ! 二人共! 朝の朝食はきちんと済ませること!」

梅原「うぃーすっ」

純一「…はい……」もぐもぐ…

梅原「ん、絢辻さんは朝飯食べずにどっかに?」

絢辻「そうなの、ちょっとミーティングにね……言ってるあたしが食べれないようじゃ、身も蓋もないわね」

梅原「あんまり働き過ぎて、倒れないようにしないとな……ほら、橘。お前も一言いってやれって」

純一「……あ、絢辻さん…」

絢辻「うん、なにかな?」

純一「が、がんばってね…!」

絢辻「頑張るわ!」ピカー!

梅原「おおっ…輝いていらっしゃらる。こっちも負けずに、白飯でもおかわりしてくっか。大将のも行ってくるぞ?」

純一「いや、僕のはいいよ…後で自分でつぎにいくから…」

梅原「あいよー」すたすた…

絢辻「………」

純一「……元気そうだね、絢辻さん」

絢辻「当たり前じゃない。委員長が元気なくてどうするの、だって修学旅行だもの」

純一「そっか、そうだよね」

絢辻「……それに比べて貴方は、なんなの? そのクマといい…もっとしゃっきりとしなさい!」

純一「う、うん……」

絢辻「もうっ。───じゃあ仕方ないわね……橘くん、こっち向いてくれる?」

純一「え、なに───」

ちゅっ

純一「──っ!? あ、絢辻さんっ…!? み、みんながいるのにっ…!? 誰かに見られたら…!」

絢辻「……んふふ、元気でた?」

絢辻「それぐらいで恥ずかしがらないの、あれだけあたしを夜に…めちゃくちゃにしたくせに」

純一「こ、声も大きいよ…!」

絢辻「気にしない、あたしは気にはしない」

純一「僕がきにするよ…!」

絢辻「だったら気にしないぐらいに、もっとしてあげよっか?」

純一「……気にしませんっ」

絢辻「素直でよろしい。では、橘くん……最後にもう一つ」

純一「なにかな、絢辻さん…」

絢辻「……今日もまた、ずっと一緒にいるわよ? いい?」

純一「………」こくり

絢辻「返事は口でするものよ、もう一回」

純一「わ、わかったよ絢辻さん! 今日もまた、ずっとずっと……」

純一「一緒に同じ時間を過ごそうねっ!」

絢辻「よろしい!」

裏表さん終わり
絢辻さんが前スレをあたしだけで落としたら許さないって言ったから
こうやってまた書き直してる所存あれ、こんな時間にだれか(ry


前回はすみませんでした
仕事のミスで帰ってこれずに保守ありがとうございました

次はひびきちゃん
四時半に書く

このお話は前スレでの+的なお話です。
気になる方は

純一「みんなと、イチャイチャしよう!」
純一「もっとみんなと、イチャイチャしよう!」
純一「色々みんなと、イチャイチャしよう!」

をググっていただけたら幸いでごわす
うんこいってくる

【塚原 響】
ザァアアアア…

響「───んー、凄い雨ね…」

響(部活終わりに降りだして、どうせ濡れて帰ってもいい。なんて思ってたけど……
  ……ここまで本降りになるなんて、ついてないわ)

響「……これだと、あの子も濡れてかえってそうね」

ザァアアアアア…

響「……今頃、なにをしてるのかしら───…橘くんは」

橘家 玄関

「うひぁあー! すっごい降ってきたよっ……あ~、制服がびちゃびちゃだ…」ぱっぱっ

純一「明日には乾くかな……まあ除湿機にかければ大丈夫だろう」

純一「………それにしても急に降りだしてきたなぁ。これだと先輩──……塚原先輩、無事に帰れてるかな」

純一「……ただいまー」がちゃ

「──ん? あ、にぃにお帰り~」

純一「ああ、ただいま美也って……七咲?」

七咲「どうも」ぺこり

純一「どうして七咲が……」

美也「みゃーがね、途中で雨宿りしてた逢ちゃんを見つけてね~」

七咲「…雨が弱くなるまで家に上がっててもいいといってくれたので」

純一「なるほど、まあ何も無いけどゆっくりしていってよ……って待てくれ七咲!」がしっ

七咲「はい、わかりまし──……はいっ!? な、なんですか急にっ…!?」

美也「ちょ、ちょっとにぃに!? 逢ちゃんになにしてんのっ!」

純一「ちょっと美也は黙っててくれ! そ、それってつまり部活帰りに雨宿りをしたってことだよなぁっ!?」がくがくっ

七咲「は、はははいっ…! 今日は先輩は水泳部のマネージャー休んでたので、知らないと思いますけど…!」

純一「知らないよ! だって補修だったもの! そ、それで! 先輩は!? 塚原先輩はっ!?」がくがく

七咲「つ、塚原先輩ですかっ…? せ、先輩はっ…ちょっと部室に用事で残ってたので、今頃帰宅していると…!」

純一「……今頃、帰宅?」ぴた…

七咲「え、あ、はいっ……!」

純一「………先輩がもしかしたら、困ってるかも知れない」だっ! がちゃ! ばたん!

七咲「え、ちょ先輩……!?」

美也「なんなの、もうっ……ごめんね逢ちゃん? あんな馬鹿にぃにで…」

七咲「うん……別にいつものあんな感じだから、機にはしてないけど…」

七咲(……塚原先輩を迎えに行ったのかな。傘も持たずに)

七咲「……大丈夫かな、先輩」

とある路地

「はぁっ…はぁっ……」ぱしゃぱしゃ…

純一「──ふぅっ……はぁっ…はぁっ…!」ぱしゃっ…

純一(先輩の帰宅ルートはこのへんだったはず……以前に行ったことあるし、間違いは無いと思うけど…)きょろきょろ…

純一「───……あっ、いた!」

響「……ん?」

「──せんぱぁーい! つかはらせんぱぁー!」ぱしゃぱしゃ

響(なにかしら、どこからか声が……この声は橘くんっぽいけれど。まさかね…)

響「…って、橘くんっ!?」

純一「は、はいっ! どうも! こんな所で雨宿りをしてたんですねっ……ちょっと探しちゃいましたっ…!」

響「探したって……傘もささずに、なにやってるのっ」

純一「え? あ、本当だ……あはは。すみません、なんか無我夢中で家を飛び出してきちゃって」

響「どうして家を飛び出してきたのよ……聞く分だと、なにやら私を探しに来たみたいだけど…」

純一「はい! そうなんです……七咲から今頃、塚原先輩が帰宅していると行ってたんで。
   もしかしたら困ってどこかで雨宿りしてるんじゃないと思って…こうやって走って着ちゃいました」

響「きちゃいましたって……そんな格好でどうするの。
  来てくれたことは素直に感謝したいけど、雨を防ぐものをもってこずにどうするつもりだったの?」

純一「あはは、なんにも考えずに来てしまったんです…すみません…」

響「……はぁ。とりあえず中に入ってくれないかしら、風邪を引いてしまうわよ」

純一「あ、ありがとうございます……うひゃー! びしょ濡れだ…!」

響「雨で制服の色が変わっちゃってるわよ。これは乾かすのが大変そう」

純一「まあ何とかなりますって、あはは……へっくしょん!」

響「ま、そうよね。男の子だもの、それぐらい平気よね」くすくす…

純一「……す、すみません。お見苦しいところを見せてしまって」

響「別にいいわよ。きにしてないから」

純一「はい、ありがとうございます……へえええくしょん!」

響「…豪快なクシャミね。本当に大丈夫なの?」

純一「だ、だいっ、大丈夫……でふぅえくっしょん!」

響「大丈夫じゃなさそうね、どれどれ……」すっ… ぴとっ

純一「っ……つ、塚原先輩…っ?」

響「動かないの、ちゃんと熱を測れないじゃない」

純一「は、はいっ…!」

純一(う、うわぁー! 塚原先輩の顔がこんなにも近くにっ…!
   おでこを合わせて熱を測るだなんて、塚原先輩って本当に母親気質だなぁ!)

響「───うん、熱はないようね。 身体も冷たくはないし…
  …だけど後から熱が出るって場合もあるから気をつけるのよ?」

純一「…………」ぼー

響「橘くん、聞いてるの?」

純一「は、はいっ! 聞いてますお母さん!」

響「……お母さん?」

純一(はっ、しまった───…思わずお母さんって呼んでしまったよ!)

純一(これは物凄く失礼なことを行ってしまったのでは…っ!?
   確かに塚原先輩はとってもお母さんっぽくて、優しくて、強くて、凄い人だけど…!)

響「……お母さん…」

純一(あ、ほらやっぱり気にしてる! どうしよう……怒ってしまったかな?
   なんて謝ればいいのだろう、お母さんっぽくて大好きです。とかか…?)

響「………ねえ、橘くん」

純一「は、はい! なんでしょうか塚原先輩…?」

純一(だめだ、怒られる───)

響「───もう一回、言ってくれないかしら、その……」

純一「……え? も、もう一回…?」

響「…うん。もう一回、さっきの言葉を」

純一「………お母さん?」

響「…………」

純一(なんだろう、この間は……)

響「…………ウフフ」

純一(……笑ってる!? え、どうしてっ…なにか僕おもしろいこといっただろうか?)

純一「塚原、先輩…どうかなされたんですか…?」

響「……えっ? あ、うん…なんでもないの。こっちの問題だから…フフ」

純一「は、はあ……」

純一(なんだろう、笑いが堪えられないみたいだけど……やっぱりこれって───)

純一「──……お母さん」

響「っ」ぴくん

純一(あ、反応した! どうしてだろう、お母さんって呼ばれるがもしかして……)

純一「……先輩、あの…」

響「え、あ、ど、どうかしたのかしら?」

純一「………その、先輩って。お母さんって呼ばれるの……けっこう好き、だったりしますか…?」

響「………」

純一「………」

響「……そ、そんなわけないじゃない…」すっ…

純一(そっと目をそらされた…)

響「ば、馬鹿なこと言わないの。それよりもほら、濡れた髪ぐらいは拭いおきなさい」ごそごそ…

純一「え、そ、そそそそれって…先輩が部活で使ってた、バスタオルですかっ!?」ぱさっ…

響「そうよ、それがどうかしたの?」

純一「……」じぃー…

響「…あ。私が使ったあとが嫌だったら…」

純一「そんなことないです! このバスタオルだからこそ良いんです!」

響「そ、そうなの?」

純一「そうなんです! じゃあ早速、このタオル借りますね………」

純一「…………」ドキドキ…

響「…橘くん?」

純一「くんくん……」

響「橘くん!?」

純一「くんか……え?」

響「え? じゃなくてっ…ど、どうしてバスタオルの匂いをかぐの…!」

純一「え、だって普通…嗅ぎませんか?」

響「普通は嗅がないっ」

純一「そうなんですか……でも、良い匂いでしたよ? 塚原先輩のシャンプーの匂いがしましたし…くんくん」

響「か、かがないのっ…! やめてちょうだいっ…!」

純一「え~……じゃあもっとかがせてください、お母さん」

響「っ───……だめでしょ! お母さんの言うこと聞かなきゃっ!」

純一「…………」

響「って、あ……私、いまなんて…!」

純一「…あはは。本当にお母さんに怒られた気分でした、塚原先輩」

響「っ~~~~…こ、これは違うのっ。なんていうかそのっ…!
  ご、ごめんなさい…橘くん…急に変なこと言ってしまって…っ」

純一「僕は気にしてませんから、大丈夫ですよ」

響「で、でも……ああ、もう。私ったらなんてこと口走って…」

純一「……ひとつ聞きたいんですけど、先輩って子供いませんよね?」

響「い、居るわけ無いでしょ!」

純一「あはは、ですよね。すみません…
   …でも、どうしてそんなにも『お母さん』って呼ばれるのが気になったりするんですか?」

響「そ、それは急に言われたら誰だって……」

純一「それはそうですけど、なにやら塚原先輩…お母さんって呼ばれること、好きみたいに思えるんですよ」

響「だからそれも違うって言ってるじゃないっ」

純一「でも、さっきまで笑ってましたよ?」

響「えっ……本当に?」

純一「…気づいてなかったんですか」

響「う、うん…」こくり

響「……笑ってた? 私が?」

純一「はい」

響「………」

純一「あの、塚原先輩…?」

響「……」ずーん

純一(あ、あれ…? なんだか落ち込んでしまっている…?
   さっきはあんなに嬉しそうだったのに……笑ってたって自覚したら急に…)

響「…私って、そんなにお母さんっぽいかしら」

純一「………」

響「…正直に答えて、橘くん」

純一「……ちょ、ちょっとだけ」

響「ちょっとだけ…? 思わずお母さんって呼んだしまったのに…? ちょっとだけ…?」

純一「……とてもお母さんぽいって思います、はい」

響「……そう、そうなのね───わかってたことだったけど、うん……」

純一「で、でもっ…! 僕、そういう風な面倒見がいい母親気質の人って……とても良いって思いますよ!」

響「………」

純一「そ、それに…! 別にお母さんって思われても、特段悪いってことでもないような…」

響「…どうしてかしら? だって…お母さんよ? それって言い換えれば、そう呼んだ人にとってその人は……」

純一「その人、は…?」

響「……何でもないわ、気にしないで」

純一「え? どうして……」

響「気になるかも知れないけれど、この話はここでオシマイにして」

純一「…わ、わかりました」

響「…ありがとう」

純一「………」

響「………」

ザァァアアアア…

純一「…………」

響「……雨、止まないわね」

純一「そうですね……」

響「──橘くん、別に私なんか気にせずにもう帰ってもいいわよ?」

響「ここまで私を探しに来てくれて、大変だったかも知れないけれど…
  …こうやって時間が過ぎていくよりも、むしろ急いで濡れて帰ったほうがマシじゃないかしら」

純一「……」

響「私も様子を見て走ってでも帰るつもり、だから橘くん───」

純一「──いやです、塚原先輩」

響「えっ…?」

純一「僕は帰りません。先輩が無事に家についたと確認するまで……
   その安否がわかるまで、僕はここを動きません」

響「何を意地になってるの…帰ったら電話でも何でもするから」

純一「いやです、絶対に帰りません」

響「……もうっ、なにをいってるのよ。馬鹿な子ね…」

純一「…馬鹿で結構です」

響「…風邪を引いてしまうかもしれないわよ?」

純一「じゃあ先輩がつきっきりで看病してください」

響「それは……無理よ、部活があるんだもの。そして貴方も、水泳部のマネージャーの仕事があるじゃない」

純一「………」むすー

響「意固地にならないの、そうやって意地になっても駄目なものは駄目」

純一「…どうしてですか、僕はただ先輩と一緒にいたいだけなのに」

響「……今日はいられるかも知れない。でも、明日からどっちかが風邪を引いた時、
  もっと長い期間一緒に居ることが少なくなるわよ?」

純一「…そんな難しいことは僕にはわかりませんよ」

響「難しくなんかないでしょう。ただ、君が考えることをやめているだけ」

純一「………」

響「…私と一緒にいたいって思ってくれてることは、素直に嬉しい。実際に……私も同じ気持を感じてる」

響「でも、きちんと現実を捉えてられてないことはいけないことよ」

響「その場の感情に流されては駄目な時もある。今が、その時なの」

純一「………」

響「……わかってくれたかしら?」

純一「………」

響「………君が動かないのなら、私から動く」すたすた…

純一「え、先輩…!」

響「もう帰るわ。ごめんなさい、ここまで来てくれたけど…それは感謝してるから」すた…

響「じゃあね、また明日……橘くん」

純一「……───」

~~~~~
橘家

美也「え? にぃにって彼女いないよ?」

七咲「……え、どうして?」

美也「どうしてって……そりゃあのにぃにだもん。できっこないよ~」

七咲「で、でもっ…最近色々と先輩は仲良くしてる女の人がいて…!」

美也「……あー、もしかして塚原先輩とのこと?」

七咲「あ、知ってたの…? うん、そうなんだけど…」

美也「まあ美也もそうなのかなって思ってたんだけど、どうも違うみたい。
   ……なんだか曖昧っていうか、はっきりしないっていうか…」

七咲「…どういうこと?」

美也「うん、にぃにはすっごく塚原先輩のこと──好きだって思うんだよね、寝言でもゴニョゴニョ言ってたしさ」

七咲「そ、そうなんだ……」

美也「なのに、それにたいする塚原先輩がね…ちょっと一歩引いてるっていうか、近づかないようにしてるっていうか…」

七咲「…塚原先輩は、橘先輩のこと好きじゃないのかな」

美也「う~んっとね……好きだと思うけど、それってちょっと違う好きかもしれないかなって思うんだ、みゃーはさ」

七咲「違う、好き?」

美也「そうそう。塚原先輩ってとっても面倒見がいい人だって思うんだよね。それに比べてにぃにはだらしなくて、
   お馬鹿さんで、頭悪くってしょうがないにぃにだもん」

七咲「……う、うん」

美也「知ってるでしょ? にぃにはそんな性格だから、塚原先輩も……まるで親みたいな感じで接しちゃうんじゃないかなぁって。
   みゃーはそう思ってるんだ、うんうん」

七咲「へぇ~美也ちゃん、何でも分かってる…すごいね。まるで大人の女性みたい」

美也「えっへへ~……まあでもね、これは人から聞いた話だからみゃーが考えたわけじゃないんだー」

七咲「え、そうなの?」

美也「ところどころ、みゃーの解釈も入れて話してたけれど。元の話をしてくれたのは……とある先輩なのだっ」びしっ

七咲「…とある先輩?」

美也「そっだよー! 多分だけど、みゃーが思うに───」

「──その人は塚原先輩、にぃにのことをいろんな事知っててね」

純一「………」

「──その人はお互いの気持ちを、よく理解してる」

響「………」

「──その人は二人の幸せをいっつも願ってて」

純一「──塚原、せんぱい…!」

「──その人はいつも見守り続けてるんだよ」

響「……まだ何か用?」くるっ

七咲「それって……もしかして」

美也「そうだよ、逢ちゃんの想像通りだと思う」

美也&七咲「───森島先輩!」

~~~~

純一「──これ、誰かの置き忘れでしょうか…?」がさ…

響「え…?」

純一「そこに置いてあったんです、綺麗な傘だけど…」

響「それ、私の傘…!」

純一「えっ? 本当ですか? 今日は傘を持ってきてなかったんじゃ……」

響「元々学校においてあったのよ、忘れたままだって言い換えてもいいけれど……
  …今日に限って誰かに盗られちゃったかな、なんて思ってればこんな所に…」

純一「そうなんですか…偶然ですね、どうぞ」すっ

響「ありがと───偶然、そうかしらね」

純一「え? どうしてですか?」

響「…………」

響「……」バッ! くる!

響「………」じぃー

純一「…塚原先輩?」

響「──気のせい、かしらね。誰かに見られてると思ったのだけれど…まあいいわ」

純一「は、はあ…」

響「………」

純一「とりあえず、こうやって塚原先輩の傘が見つかったということで…
   …良かったですね、先輩。僕もこれで安心して家に帰れます」

響「………」

純一「それでは、これで。風邪を引かずに夏の大会、頑張りましょうね」

純一「じゃあこれで───」

響「──ま、まって…!」ぐいっ

純一「……え?」

響「ちょっと……待ってくれないかしら、橘くん…!」

純一「えっと…はい、別に構いはしませんけど」

響「そ、そう……ありがとう、ごほんっ」

純一「…?」

響「……その、ね。橘くん」きょろきょろ…

純一「はい?」

響「…………」じぃー

純一「先輩……?」

響(───ああ、もう! やっぱり私には無理よ…! はるか!)

響(……貴方が言うとおり、まったくもってはるかの言うとおり!
  この子は雨宿りしているところまで私を探しに来てくれた…)

響(そしてこうやって、私のことを心配してくれてて…)

響(しかも私のことをお母さんみたいだと思ってるみたいってことも合ってるし、
  それにこっちが帰りなさいって言ったら、意地を張って帰りたがらなくなった)

響(───すごいわね、はるか…全部あたってる)

響(普段はあれだけ空気を読めないっていうのに…こういう時に限ってあれなんだから…)

響「……はぁ、私もどうしてはるかの作戦に乗っかっちゃったのかしら…」

純一「……え? 今、なんて言ったんですか?」

響「っ……な、なんでもないわ! うん!」

響(ごめんなさい、橘くん。私はそもそも…傘なんて盗られてないの。
  こうやって雨宿りしているのは、全部はるかが考えた作戦……)

響(……君がこうやって私を探しに来てくれるのか。どう普段思っているのか。
  なんてことを図るためにやってしまったこと…)

純一「………?」

響(…言ったら怒るわよね、はるかはバラしても怒らないって言ってたけれど。
  流石にここまでやってしまったら……だめよね、うん)

響(どうしよう……後はこの傘で一緒に帰って作戦は終わるのだけれど。
  ううっ…なかなか言い出しづらいわ…なんて顔をしながら言えばいいのよ…!)

響「………橘、くん…」

純一「……なんですか? 僕になにか言いたいことでも…?」

響(……言いたいことは沢山、ある。君に言いたいことは、いっぱいあるわ)

響(なんだって言いたい、どんなことだって伝えたい。でも…私はそれに躊躇してしまっている。
  君が私のことを……お母さんって呼んでしまったように)

響(……私も、君のことが本当に好きなのかって。きちんと一人の子として……ううん、違うわね)

響(──一人の男性として、本当に好きなのかって。戸惑いが残ってしまっている)

響(……すきだって、もういっかい言ってあげたいなぁ…)

純一「───……」すたすた…

響(でも、それが本当に君のために、自分の本心で言ってることなのか…とてもじゃないけど自信がないの…)

純一「………」ぴた

響(あの時の、私の料理を食べに来てくれた日のこと……私は一日たりとも、今まで忘れたことはないのに…)

響(……どうして、ここまで曖昧なのかしら。最低ね、わたしって……)

純一「……先輩、ちょっといいですか」すっ

響「──……え? どうしたの、たち……」ぴとっ

響「っ~~~~!? な、なにっ? 急にどうしたのっ?」

純一「動かないでください、きちんと体温を測れないじゃないですか…うーむ」

響「測れないってっ……で、でもおでこを当てなくてもいいじゃない…っ」あたふた…

純一「先輩だってやってくれたじゃないですか」

響「そ、それはそうだけどっ……ううっ…」ぷい…

純一「……ちょっと熱っぽいですね、というか先輩。貴方だって雨に濡れてるわけですから、寒いんじゃないんですか…?」

響「……私は、大丈夫。体強いから…!」

純一「でも女の子です。強がっちゃダメですよ」

響「お、女の子……?」

純一「そうです! 塚原先輩は一人のか弱い女の子です!」

響「……でも、お母さんっぽいのでしょう?」

純一「そうですけど、それは別に塚原先輩が強いってことにはなりませんし。
   それに、お母さんっぽいってだけで…僕は塚原先輩を蔑ろにするつもりはこれっぽっちもないですよ」ぎゅっ…

響「っ……」

純一「……ほら、こんなにも手がつめいたい。さっきから変に強がってると思ってましたけど、こんなにも身体冷えてるじゃないですか」

純一「やっぱりダメです。一人で帰らせるなんて、僕には出来ません。
   傘は見つかりましたけど、それでもやっぱり僕は心配です」

響「だ、大丈夫よ…」

純一「だめです。とりあえずここからどっか行きましょう、先輩の家は……遠いからちょっとあれですね」

響「え…まあ、そうね…でも、他に行く場所なんて…」

純一「ありますよ、ここから近くて雨宿りができるところ」

純一「───僕の家です、塚原先輩」

橘家 玄関

がちゃ…

純一(せ、先輩……どうぞ!)こそこそ…

響(こ、ここまで来ておいてなんだけど…やっぱり私は…!)こそこそ…

純一(何言ってるんですか…っ! これから帰ったら、逆にあそこから遠くなってますよ…!
   だからもう雨が止むまで、ここにいてください…!)

響(で、でも…! 七咲だって居るのでしょうっ…? もしバレたら明日どんな顔をすればいいのか…!)

純一(見せつけてやればいいですよ! ほら、はやく上がってください…!)

響(あ、ちょっと…背中を押さないで…!)

自部屋

純一「───ふぅ、なんとかバレずにここまでこれた…」ばたん…

響「…………」きょろきょろ…

純一「あ、すみません。とりあえずなんか拭くもの持ってきますね、先輩」

響「えっ、あ、うんっ…ありがとう、橘くん…」

純一「いえいえ」がちゃ ばたん

響「………」

響「……ふぅ」

響「……勢いで来てしまったけど、まさか橘くんの家にあがることになるなんて」

響「……。これも予測してたのかしら、はるか…」

響「へくちっ……ああ、我慢してたくしゃみが…」

響(あの子を心配させないために、我慢してたけれど…そろそろ限界ね)

響「……それにしても、ここが橘くんの部屋なのね。ふーん、意外に綺麗なものね……」ちらっ

響「ってあれは、なにかしら?」すたすた…

響「……押し入れが半分、開いてる。なにか挟まってるみたい」ずずっ…

響「あ、落ちた……なになに──…雑誌?」

響「なんの雑誌かしら……っ!?」

響「こ、これって……」きょろきょろ…

響「……ごくり」

数分後

純一(やけに美也と七咲に絡まれて少し遅くなってしまった……あれ、なんだか静かだなぁ)

純一(ま、まさか勝手に帰ってしまったんじゃ…っ! くそ、油断していた…!)がちゃ

純一「先輩、ちゃんと部屋にいますか───」

響「………」

純一「あ、ちゃんといた…なにやってるんですか? 押入れの前に座り込んで…」

響「………」

純一「…ん? 先輩、なにをして………」

純一「………先輩? それって僕のお宝本…」

響「っ~~~~!? た、橘くんっ!?」ばっ

響「ち、違うのっ! こ、これは押入れから勝手に…!」あたふたっ…

純一「……か、勝手に押し入れから取り出して読んだんですか…?」

響「そ、そうじゃなくてっ…! 押し入れから出てきて…!」ぶんぶんぶん

純一「…………」

響「ち、違うのよっ……別に興味が惹かれてたわけじゃなくて……そのっ……」

純一「……でも、えらく興味津々によまれてたみたいですけど…?」

響「………ううっ」ぷしゅー

純一「………」じぃー

響「……なにっ…? そんなに見つめて…っ」ちら

純一「……興味があるんですか? 先輩ってそういうの」

響「……きょ、興味があっちゃ悪いっていうの…っ?」

純一「えっ! い、いや…悪くは無いですよ、一応……女子高生ですしね…うん…」

響(……って私ったらなんてことを! 勢いでなんてこと言ってるのよ…っ!)ぷるぷる

響「い、いい今のは忘れて…! 忘れなさい! 橘くん!」

純一「忘れろって……そんな、無理ですよ」

響「無理じゃないのっ…忘れないさいっ」すたっ

純一「えっ…!?」

響「いいっ!? このことは忘れるっ! わかった!?」がしっ

純一「は、はははいっ…! わ、わかりました…!」

響「よ、よろしい……じゃあこれは、私が没収します…」

純一「……。えっ!? なんでですか!?」

響「……橘くんにはまだ、早すぎると思うの。こういうのは」ぱちんっ

純一「かばんに仕舞われた……って塚原先輩!? それってただ自分が読みたいだけなんじゃ…!」

響「ち、違うわよっ。私は別にそんなこと……」

純一「……はぁ、わかりました。じゃあとりあえず、没収という形で…」

響「形じゃなくて、ちゃんとこれは没収…っ」

純一「……わかりました。没収で」

響「うんうん……」

純一(えらく気に入ってるみたいだけど、ジャンルはなんだったのかな……多分、お姉さん系だな。
   昨日、寝る前に読んでたし…)じぃー

響「………な、なに?」

純一「…あ、いえ。なんというかその、先輩も……お姉さんっぽくて良いですよねって思って」

響「……そ、そう?」

純一「はい、大人っぽくて頼り甲斐があって……僕が想像する通りのお姉さん、って感じがしますよ」

響「へぇ~……そう、なんだ……ふ~ん…」

純一(あ、嬉しそう…塚原先輩ってなんだか家族で例えられるの好きなのかな…?)

響「そんなことより! 橘くん、そのバスタオルかしてくれるかしら?」

純一「あ、はい! どうぞ!」すっ…

響「ありがと、それじゃあ借りるわね」す、すすっ…

純一「あ、先輩が髪を解くのって初めて見るかも知れませんね」

響「…そうかしら?」

純一「はい、なんだか髪を下ろした先輩って……いつも見ている姿と変わって、ちょっと新鮮ですよ」

響「ふふっ、そういうものかしらね。私にはちょっとわからないけれど……」ごしごし…

純一「……とりあえず、吹き終わったらですね…先輩、ちょっとお願いがあるんですけど」

響「なにかしら?」

純一「えっとその、あれです……制服、脱いでもらってもいいですか?」

響「………」

純一「……あ、いや! 別に変な意味はこれっぽっちもないですよ! ただ、乾かすためにそういってるだけであって…!」

響「ふふっ…わかってるわよ、そんなに慌てないの」

純一「そ、そうですか……」

響「それじゃあそうね、上着をお願いしてもいいかしら」

純一「え、だめですよ。ちゃんとシャツもスカートも乾かさないと!」

響「え、でも……」

純一「着替えは…僕の服を貸してあげます。えっと確か……ああ、あったあった」

純一「ちゃんと洗ってあるので、大丈夫です。ど、どうぞ…」すっ

響「あ、ありがと……」すっ…

純一「………」

響「…そして君は?」

純一「えっ!? あ、そうですよね! 僕がいたら着替えられないですよね…あはは!」

響「……と、とりあえず君も着替えてらっしゃい。私もちゃんと着替えるから…」

純一「わ、わかりました! じゃあまたあとで…!」

響「う、うんっ……」

がちゃ… ばたん

響「……橘くんの服かぁ…くんくん」

響「……洗剤の匂い…って私っ…! これじゃあ橘くんに言える身じゃないわね……」

響「……とりあえず、着替えましょうか」ごそごそ…

数分後

純一「……また、お宝本読んでるってことは無いよね。うん」がちゃ

純一「───せんぱい、着替え終わりましたか…?」

響「…終わってるわ。それとノックはきちんとしなさい」

純一「すみません……─────」じぃ

響「…ん、どうかしたの? 黙りこんで…」

純一(せ、先輩が……ぶかぶかの僕の服を着て……髪を下ろしてベットに腰掛けてる…!)

unnko

響「……?」

純一(どうしよう……とてつもなく無防備だよ塚原先輩!
   ベットに腰掛けるだなんて……もしそのまま押し倒してしまったらどうするつもりなんだろう…!)

純一(…まあ、そんなことはしないけど)

純一「着替えたみたいですね、サイズは大丈夫でしたか?」

響「うーん……意外と着れたわね。身長がキツイかなって思ってたけれど、案外君って身体が大きいのかしら」

純一「あはは、先輩よりは大きいつもりですよ。それじゃあ制服をこっちに…」

響「はい、それじゃあよろしくお願いするわね」

純一「わかりました、それじゃあ乾燥機に入れてきます」

数十分後

純一「だからどうして美也と七咲はやけに僕に絡んでくるんだよ……また時間がかかってしまった…」

純一「せんぱい、すみません……遅くなってしまって…」がちゃ

響「すー……すー……」

純一「……塚原先輩?」

純一「あれ、もしかして……」すたすた…

響「すぅ……すー…」

純一「……先輩、塚原せんぱーい…?」

響「すぅ……」

純一「………」

純一(───え、本当に寝てしまってるのか? 嘘だろ…)

響「すぅすう……」

純一「本当に無防備すぎるっ…先輩、貴方には身の危険というのはないのですか…」

純一(…まるで森島先輩みたいだ…塚原先輩はそういったことはしないって思ってたのだけれど…)

純一「この眠りようだしなぁ……うん」ぎしっ

塚原「すぅー……すー…ん、んんっ…」ごろり

純一(わわっ……胸元がはだけて、中が……見てませんよ! 僕は見てません!)ちらっ

純一「──ぶっはっ!? え、先輩……こ、これって…!」

純一(下着をつけて……ない!)

塚原「う、ううん……」

純一(ど、どうして…あ、そうか! さっきのたたんでいた制服の中に入れ込んでおいたのかな…
   …すると下着まで濡れてたのか…ふむ、なるほど……)

純一(って、なるほどじゃないよ! こ、これは大変なことになった…まさか塚原先輩、なにもつけずに…
   …僕の服を着ているとでもいうのかっ!?)

純一(──この服は、一生洗わずに置いておこう)

純一「……それにしても、塚原先輩。なんでこうも無防備なのだろう…」

塚原「…すぅ…すぅ…」

純一「……僕が、お母さんって読んでしまったからかな。だからこうやって、何も気負わずにできるのだろう…」

純一(それは、僕にとって嬉しいことだけど…だけどやっぱり、そういうのってどうなのかなぁ)

純一「……やっぱり、僕って男して見られてないのかもしれない、のかな」

純一「…………」

塚原「……すぅ……」

純一「──仕方ないかな、僕ってばどうしようもないし……先輩、ほら風邪を引いてしまいますよ」

純一「………」ごそごそ…

純一「──よし、これでいいね。ちゃんと毛布を被せられた」

響「すぅ……」

純一「………」ぎしっ…

純一「───先輩、塚原先輩。僕は先輩のこと大好きです」

純一「あの時に告白してから……ずっと僕は先輩の専属マネージャー、まではいかないけれど。
   水泳部の一員として先輩の側で頑張って来ました」

響「すぅ…すぅ……」

純一「たった数カ月の事だったけれど、この塚原先輩と過ごしてきた日々は……僕にとってなによりも大切な一時でした」

純一「………」

純一「……でも、それも。僕はやめたほうがいいのでしょうか」

純一「こうやって曖昧な関係のまま……側に付き添って行くのは、塚原先輩にとって迷惑ではないですか…?」

響「すぅ……」

純一「貴方がごくまれに、見せる表情で───困った顔をしているのを知っているんです」

純一「僕はそれを知ってながらも、忘れたふりをして側に居続けました……でも、それは」

純一「───やっぱり、無視はしてはいけないことだと思うんです」

純一「僕は先輩のことが好きで、ずっと傍にいたくて……でも、それが塚原先輩にとって迷惑なのなら…」

純一「……僕は、貴方の側から離れても良いと思ってます」

純一「……それはとっても辛いですけど、耐え切れないほどに、泣きたくなってしまうけれど……」

純一「僕は、塚原先輩のためならなんだってするつもりです。だから、だから───」

純一「───僕を嫌いになるのだけは、どうかしないでください……」

純一「………」

純一「………こんなこと、絶対にいえないや。言える自信なんてこれっぽっちもないよ」

純一(だけどこれは僕の本心だ───いつかは言わなくちゃいけなくなるって分かってる。
   きちんと話をして、決心をしなくちゃいけないことだ)

純一「……でも、もう少しだけ…先輩、響先輩……貴方の側にいさせてください」すっ

ちゅっ…

純一「───ごめんなさい、こんな形で奪ってしまって。二度目の…キス、ですけどね」

純一「………本当に、ごめんなさい」

純一(──さて、僕は……ちょっと外に行って雨の様子でも見てくるかな。
   この部屋の窓からでも確認できるけど…あはは、先輩も寝てるしね)

純一「……それじゃあ、先輩。おやすみなさい」

純一「七咲が帰ったのが確認できたら、また起こしに来ますから……では」

純一「よいしょっと……」ぎしっ…

ぎゅうっ

純一「───え、なんだ……うわぁっ!」ぐい

ばたん……

純一「な、なんだ……っ?」

「───行かないで、お願い…」

純一「え、つ、塚原先輩……?」

響「…………」

純一「せ、先輩っ…? 起きてたんですかっ…!」

響「…お願い」

純一「え、ええっと……お願いと言われましても…!」

響「…本当にお願い。行かないでくれたら……嬉しい」ぼそ…

純一「……わ、わかりました。何処にも行きませんよ…」

響「うん……ありがと、橘くん」

純一(う、うわああー! 服越しにっ…柔らかいのが、二つ腰にあたってる…!)ドキドキ

響「………橘くん」

純一「は、はい…なんでしょうかっ?」

響「………」

純一「…………」ドキドキ

響「……私のこと、嫌い…?」

純一「…え、そんなことないですよ…!」

響「じゃあ……言い方変えるわ。私と一緒にいるのは…辛い?」

純一「っ……辛くはない、って言いたいですけど……」

響「………」

純一「……今の関係は、僕にとっては辛いです」

響「…そっか、そうよね」

純一「…はい」

響「…………」

純一「…先輩は、辛くは無いですか」

響「…私は───……うん、辛いわ」

響「君と曖昧の関係のままで……どうしようもなくて、辛くて、わけがわからなくなってる」

純一「…僕もです。先輩とうやむやのままで、どうしたらいいのわからなくて…とっても辛いです」

響「うん、わかってる……わかってるの……ちゃんと、私にも」

純一「………」

響「でも、どうしよもない……考えても、一生懸命に考えても…どうしたらいいのか、全くわからない…」

純一「先輩……」

響「……この気持は、君と一緒。どうにかしたいって思ってるのに、どうにもできない…
  ……だって悩んで考えてることと、思ってることに…とても違いがあるんだもの…」

響「必死に考えても、結局はこうじゃないのって…思ってしまって。最初からやり直し」

響「私は結局───……君のこと、本当に…好きなのかって思ってしまう」

純一「………」

響「……君はなにも悪くない。むしろ私にとってとても良くて、何度も何度も助けられたことだって…
  …この数ヶ月でいっぱいあったわ。だけど…それに答えるほどに…わたしは…君に…」

響「…してあげられることなんて、考えても思いつかなくて……」

純一「………」

響「だから、なにも思いつかない私は……本当に君のことを大切に思ってるのか、不安でしょうがなくて…
  …なにかしてあげたいって思うのに、それなのに……」

純一「……先輩、ちょっといいですか」

響「…なに、橘くん…?」

純一「……この際、はっきりといいますけど……僕はべつに塚原先輩からお返しを欲しがってるわけじゃないです」

響「…そう、なの?」

純一「当たり前です。僕はお返しをして欲しくて…先輩の側にいるわけじゃないです。
   ただただ僕の自己満足を満たすために、塚原先輩に近づいてるだけなんです」

純一「そんな馬鹿で、みっともない僕の行動に……先輩がきにすることなんてこれっぽっちも無いですよ」

響「……でも、君は…」

純一「…たしかに、そうやって僕の勝手に塚原先輩が何も言わないのは……凄く辛いです」

響「………」

純一「でも、ですよ」

響「……でも、なにかしら…?」

純一「でも、僕は───…そうやって先輩が一人で悩まれてるほうがとっても辛いです。
   僕の事で凄く悩まれてること……それは僕にとって一番に辛いことです」

響「私が悩むことが…?」

純一「はい、だって……先輩が僕の事で悩むだなんて」

純一「──とっても苦しくて、悲しくて……そして何よりも嬉しいんですから」

響「……嬉しいの?」

純一「はい、どんな感情よりも…僕はとっても嬉しいです」

純一「だから、そうやって悩まれることは……僕にとって嬉しいことであって。
   先輩にとって……僕にたいするお返しでもあるんです」

響「お返し……」

純一「そうですよ、僕はもうちゃんと貰っていたんですよ……塚原先輩。
   先輩から僕にきちんと返していたんです」

響「…こうやって悩むことが、君にとって嬉しいから。それがお返しになるってこと?」

純一「はい、こうやって先輩が悩んでることを言ってくれただけで……僕はとっても幸せです」

純一「…だから今の僕は、全くもって辛くはありません」

響「橘くん……君は…」

純一「……僕は、そんな奴なんです。きちんとしたお返しがなくても、たったそれだけで嬉しがる馬鹿な奴なんです」

純一「だから塚原先輩………いや、ひびき先輩。僕は貴方の側にずっといたいんだ」

純一「片時も離れず、貴方の側で……同じ時間を過ごしたい。
   そうして響先輩も…いっぱいいっぱい悩んでください、辛がってください」

純一「僕はそれをずっと受け止め続けますから。一瞬も気も抜かずに、これからずっと」

純一「……先輩を好きで居させてください」

純一「お願いします、響先輩……」

響「……これからずっと…」

純一「……はい、これからずっと」

響「わたしは……まだちゃんと自分の思いに収拾がついてないけれど…それでも、いいの?」

純一「いいんです、だったら僕と一緒に見つけましょう。その先に何が待ってるか…僕と一緒に」

響「君と、一緒に……こらからずっと…」

純一「……僕は今、そうしたいって思ってる。響先輩はどうですか?」

響「……私は…」

純一「…今、僕にこう言われて。今思っている気持ちはどうですか」

純一「───嬉しかったのなら、そうしたいって思ってくださったのなら……頷いてください」

響「………」

純一「………」

響「………」

響「………うん、そうしたい」こくり…

純一「……ありがとうございます、嬉しいです僕…」

響「………」ぎゅう…

純一「あはは、先輩……痛いですよ」

響「……たちばなくん…っ…」ぎゅう…

純一「どうかしましたか…?」

響「……ごめんなさい、本当に私は…我侭で…どうしようもなくて…」ぎゅっ…

純一「いいですって。だって僕も馬鹿で、どうしようもないですから……似たもの同士ですよ、僕らって」

響「……うん、うん…」

純一「だから、似たもの同士なら…これからもずっと仲よくやって行けれますって!
   心配なんていりません。反省なんて入りません…だって僕らは似たもの同士だから」

響「お互いに思ってることは……もう、わかってる」

純一「そうです、考えたことも悩んだことも……僕らは言葉にする前にわかってしまっている。
   こんなのって、家族以外にいませんよ。響先輩ぐらいですって」

響「…私も、橘くんぐらいよ…本当に」

純一「あはは」

響「…ありがと、橘くん。感謝してる」

純一「感謝だなんて、大げさですよ」

響「ううん、言わせて欲しい。これは……ケジメだから」

純一「…ケジメ、ですか?」

響「そう、私のケジメ……言葉にすることによって私も君も。
  そうしなきゃいけないってことを決めるための──…けじめなの」

純一「どんな…ケジメですか?」

響「……こっちをむいてくれるかしら、橘くん」

純一「はい…」くる…

響「……」じぃ…

純一「……先輩?」

響「……抱きついてきて」

純一「……え?」

響「~~~……その、私にっ…そのまま抱きついてきて欲しいの」

純一「本気でいってるんです、か……?」

響「…ほ、本気よ。うん…」すっ…

響「ほ、ほら……ね? 私はいいから……君から私に抱きついて…」

純一「っ……わ、わかりました…! じゃ、じゃあ……」ぎしっ…

ぎゅ、ぎゅう……

純一「こ、こうですか…先輩…?」

響「んっ……そう、そんな感じ…」

純一「……あ、暖かいですね…!」

響「そうね…暖かい……」

純一「……そ、それでっ…あの、これはどういった理由で…?」

響「……今、必死になって考えた…君へのお返し、かな」

純一「…お返し…?」

響「そう……君は悩んでくれるだけでいいって言ってくれたけど、私はやっぱり…
  …行動で表したほうがいいって思う。だから…こうやって抱きついてみた感じかな、うん…」

純一(……あ、よくよく思い返してみるとこれって響先輩に没収されたお宝本と同じ展開だ…)

響「……ど、どうかな? 嬉しい、橘くん…?」

純一「えっ、あ、はいっ…! とっても嬉しいです!はい!」

響「そ、そっか……うん、よかった頑張って…」かぁあ…

純一「えっと、それじゃあ先輩……」

響「…うん?」

純一「このあとの展開って……あはは、考えてたりしてます…?」ドキドキ…

響「それは…まだ考えてなかったりする、わね」ドキドキ…

純一「そ、そうですか……だったらその、僕の方で良い展開を思いついたんですけど…」

響「……そうなの? あ、でもまって…私もちょっと思いついたかもしれない」

純一「え、本当ですか…? 奇遇ですね、それじゃあお互いに……思いついた展開を、やってみますか…?」どき…

響「……いい、考えね橘くん。私もいいと思うわ、それって……」どき…

純一「……じゃ、じゃあその…」すっ…

響「……うん、橘くん……」すっ…

純一「──好きです、先輩…」

響「───私も、好き……橘くん」

すすっ……ちゅっ

純一「っ……もっと、しますか…?」

響「……君の展開は、そう望んでるのかしら…?」

純一「それは響先輩と一緒のはずですよ、ちゃんと」

響「ふふっ……そうね、確かにそうだわ」

響「とっても奇遇ね、私も……まだまだ展開が思いついてくるわ…」

純一「凄いですね、もしかしたら僕とまったくもって一緒だったりするんじゃないですか…?」

響「……かもしれないわ、例えるなら……そう、さっきの雑誌みたいな展開、とかかしら?」

純一「っ……な、なるほど。それはとてもいいことですね…!」

響「うふふっ……なるほどね、こういうのって…素直にうれしくて、楽しいわ…橘くん…あのね」

純一「はい、なんでしょうか…?」

響「私は…君のこと大好き。だから、お願いしてもいいかしら───」

響「──これからも、ずっと私のそばに居てくれること。最後まで、ずっとね」

ひびきちゃんおわり!

途中なんども寝落ちすんませんでした
次は安価でもしようかな>>190を書きます

ではうんこ

麻耶

麻耶ちゃんで把握

話のつながりはなく
みんなとイチャコラするのが目的です。それと前回の続きってことで
八時十分に書きます

【高橋 麻耶】

高橋「ごくごく……ぷあぁ…」

高橋「今日も暑いわねぇー……」

純一「……それはもちろん、夏ですからね」

高橋「そうよねぇ、こんな日はクーラーがきいた部屋の中でキーンと冷えたビールを一杯……」

純一「先生、お酒弱いじゃないですか…」

高橋「弱くたって飲みたいものは飲みたいんですっ!
   ですから橘くん、さっささとすませて帰りますよ!」

純一「…はぁ、そうしたいのはやまやまなんですが……終わりそうもありませんよ、これって」

高橋「初めから諦めてかかってはダメです! 始まりがあるものは必ず終わりがある、
   この言葉を忘れてはダメですよ?」

純一「まあ、そうなんでしょうけど……でも」

純一「この量の仕事は……流石に、僕と高橋先生だけじゃ無理ですって…」

高橋「うっ……そ、そう言われると……」

純一「……よくもまあこれほどまで貯めこみましたね、先生…」

高橋「……だってしょうがないじゃない、最近は色々と行事が積み重なって裁けなかった仕事が残っちゃったのよ…」

純一「…まあそうなんだろうと思いますけど、先生…なんというか、その…最近ちょっとだらしなくないですか…?」

高橋「えっ? だ、だらしない…?」

純一「ええ、少しだけそう思ったんですけど……こうやって放課後まで事務室で書類の分担を残してるし。
   それに昨日も僕が手伝わないと終わらなかった仕事が残ってたじゃないですか」

高橋「うっ……」びくん

純一「そんな感じで、最近の高橋先生って…だらしないというか、気が抜けてるというか」

高橋「…そ、そうかな? 自分じゃなんにも気づいてなかったけれど…」

純一「そうでしょうね、というかそれも…だらしないっていうのは普段の授業ではあんまり見せてませんし。
   どっちかというと、僕と一緒にいるときに限ってだらだらしてるというか…」

高橋「そ、そんなことないわよ…! 先生は誰にだって区別なく接しているつもりよ…!」

純一「…じゃあ僕は今日、何時に帰れるんでしょうかね。とっくにもうみんな帰ってしまってるのに」

高橋「そ、それはっ…その………うん……ごめんなさい、橘くん…」

純一「…はぁ。いいですよ全然、僕は気にしてませんし……というか先生がきにしてください」

高橋「私が…?」

純一「はい、そんな風にだらけるのって……大人として、というか女性としてどうなのかなって思いますよ、僕は」

高橋「大人の女性として……」

純一「昔の先生はもっとしゃきっとして、かっこよかったのになぁ~…」

高橋「……今の私って、橘くんから見て…かっこよくないのかしら…?」

純一「…見る影もないですね、はい」

高橋「そんなっ……」ガーン

純一「それはそれで…まあ僕は面白くて好きですけどね」

高橋「えっ……そ、そうなの?」

純一「ええ、そうです。好きです、今の感じの先生も」

高橋「ええ、そんな……もう、橘くんったら……えへへ」もじもじ

純一「…先生、手を動かしてください」

高橋「あ、はいっ…!」びくん

純一(───やっぱり、おかしい!)


高橋「よいしょ…よいしょ……」

純一(な、なんなんだッ───この、先生の優しすぎる優しさは……ッ!
   なんとなくワーワーと言ってしまったけれど、物凄く素直に聞いてくれたし……ッ!)ダラダラ…

高橋「これは、これで……うん?」ちら

純一(しかも僕が先生を窘める展開が普通に起こってしまっている…!
   どうして僕が場の流れの主導権を握ってるのだろう…!なんだこれ!)じぃー

高橋「…」にこっ

純一「…あ、あはは…」

純一(微笑みかけられた……くそ、可愛いからいいか)

純一(って駄目だろ僕! これは駄目なんだ……僕が好きになったのはこういった甘いところがあるから、
   ってのもあるけれど…! それよりも僕は以前までのキリッとした先生も好きだったんだよ…!)

純一(あの頃の先生に戻って欲しい、と。僕は思ってる……また当時みたいに怒ってくれる先生に会いたい!)

純一(僕はまた先生にお尻をはたいて欲しいんだ! だから……くそ、考えるんだ僕…!)

純一「どうしたら……どうしたら、いいんだ…」

純一(──あ、そっか! 先生に怒られるぐらいのことをしたらどうだっ?)

純一(怒られるほどなことをしてしまえば、先生も当時の自分を思い出してくれるかも知れない…ものは試しだ、やってみよう!)

純一「………高橋先生」

高橋「うんしょっと──……うん? なにかしら橘くん」どさっ

純一「ちょっと、失礼します……そこの書類がとりたくて…」すっ…

高橋「え、どこかしら? 先生がとってあげますよ」

純一「いや、大丈夫です。僕が取りますから───」すすっ…

さすり…

高橋「───きゃっ…!」ぴくんっ

純一(ど、どうだ…!? 遠くの物を取ると見せかけ装い、先生の背筋をさするこの行為…ッ!
   ポイントはさり気なさを醸し出しつつ、実は思いっきり狙ってたよと分かる風にすることだ!)

高橋「………」

純一(これなら先生も…流石に怒るに決まっている! さあ! 怒ってください先生!)

高橋「……も、もうっ…くすぐったいじゃない…」ぷいっ…

純一「えっ……?」

高橋「今度から、気をつけなさい……先生、背中弱いんですから……」かああ…

純一「……すみません、でした…」

高橋「い、いいですよっ……先生は気にしてませんから…っ」

純一(いや気にしてください! どうみてもわざとがっつりとさすってたじゃないですか…!
   それにどうして恥ずかしがるだけなんですか……なんなんですか…)

高橋「っ……」もくもく…

純一(……ってあれ? なんだか気まずい雰囲気になってる…?
   先生、本気で恥ずかしがってるじゃないかっ……いや、違います! こんな雰囲気が欲しかったわけじゃないです!)

高橋「……先生は、きにしてませんから…ほら手が止まってますよ」ちらっ

純一「あ、はいっ……ごめんなさい…」

高橋「わ、わかればいいんです…っ」がさごそ…

純一(完全に気まずくなってしまった…恥ずかしがりすぎだよ先生!可愛い!
   くそ、これじゃ駄目だ…もっと強引でわかりやすいようにしないと今の先生にはだめだ…!)

純一(どうすれば、いいんだ……打開策を、なにか……うーん…)

純一「……あ、そうだ。これがあるじゃないか…」

高橋「……ん? どうかしたの?」

純一「えっと、先生……ちょっと言い忘れてたことがあったんですけど…いいですか?」

高橋「いい忘れてたことって?」

純一「えっと、あはは…それはですね」

純一「───僕、明日の提出の課題…まったくやってないです!」

高橋「え……?」

純一(定番中の定番! 課題のど忘れ! この流れは僕が高橋先生が担任になってからずっと行われてきた
   スタンダードな問題だよ! どうだ先生……へっへ、これなら僕のこと怒ってくれるでしょう…?)

高橋「………」

純一「すみません、すっかり忘れてて……あはは」

高橋「………───」ぐぐっ

純一(う、うおおっ……先生が身構えたっ! くるのか、くるのか!? あの一撃が!?)

高橋「…………」ぐぐっ…ぐっ…ぐす…

純一「えっ…?」

高橋「ご、ごめんなさいっ…私が最近、色々と仕事を手伝わせちゃったから……貴方が課題をする暇がなかったのね…」ポロポロ…

純一「え、ええっ……!」

高橋「まさか貴方がそんな風に困ってただなんて……わたし、わたしっ…教師失格よね…っ…ぐしゅっ…」

純一「そ、そんなことないですよ…! 僕がただ、課題のことを忘れてただけで…!」あたふた…

高橋「で、でもっ……ぐすっ…忘れてしまうほどにっ…私が手伝わせてたせいでしょう…?」

純一(違います! まったくもって本当に忘れてました!)

高橋「本当にごめんなさい……私ったらっ…ひっくひっく…」

純一「先生……別に僕は先生のせいだって言いませんよ…?
   僕が好きで先生の仕事の手伝いをしているだけで、なにも高橋先生は悪くありませんから…」ぎゅっ…

高橋「ぐすっ……ほんとうに…?」

純一「ええ、本当です。だから…泣かないでください、どうかお願いします…」

高橋「ぐしゅっ……ふふっ…そっか…うん、わかったわ……ごめんなさい、急に泣き出しちゃって…」にこ

純一「はい…」

高橋「すぐっ…年下に慰められるなんて、先生も駄目ね。えへへ……」

純一(あ、かわいいなぁ……ってちがうちがう! どうしてこうなったんだ!?)

高橋「…ありがと、橘くん。もう離してくれていいわ…先生、大丈夫だから」

純一「あ、はい……」

高橋「…そうね、君も大変だって分かったから。今日はぱぱっと終わらせてしまいましょう、
   仮に終わらなくても先生一人で残って終わらせますから、橘くんは気にしなくて大丈夫よ?」

純一「わ、わかりました……」

純一(……どうしよう、なんだか先生恐いよ…優しすぎるのを通り越して、ちょっと恐怖を感じるよ…)

純一(もう、今の先生になにをしても怒らないんじゃないか……?
   なんかもうどんなことしても平気な気がするよ…)

純一「……先生、あの」

高橋「どうしたの?」くるっ

純一「………」

高橋「うん?」

純一「あたま……撫でていいですか?」

うんこごめん

高橋「え、どうして急に……」

純一「……急に撫でたくなってきてしまって、とりあえず聞いてみようかなって…」

高橋「………」

純一「あはは、困りますよね? すみません変なこと言ってしまって…」

ずいっ

純一「……高橋先生?」

高橋「っ……ほ、ほら…いいわよ…?」

純一「え、」

高橋「撫でたいんでしょう…? だ、だから……ね?」

純一「………」ポカーン…

純一「あ、はい…」なでなで…

高橋「………」ドキドキ…

高橋「ど、どうかしら……満足できたの…?」

純一「あ、はい……もっとなでさせください…」なでなで…

純一「……あ、そうだ。匂いも嗅いでいいですか?」

高橋「……えっ!?」

高橋「っ~~~~……い、いいわよ…!」

純一(いいのっ!? じゃ、じゃあ遠慮なく……)くんかくんか…

高橋「え、あ、ちょ……そこはっ…首だから──んっ…」ぴくっ

純一「……嗅いでいいっていってくれたじゃないですか…くんくん…」

高橋「んっ! 息が首にっ……そ、それは髪の匂いだって思ってたから……っ」

純一「大丈夫ですって……先生、何処を嗅いでもいい匂いですから……」もぞもぞ…

高橋「あっ…そこは、ちが、う……んっ」

純一(凄い! もうなんだってありだよ!)

純一(パッと思ったこと言っても全部思い通りにいってるじゃないか……なんということだろう!
   素晴らしい、素晴らしすぎる……)

純一(……なんかもう当初の目的忘れちゃったな…何がしたかったんだっけ、僕…)

高橋「たち、ばなくん…っ…」じぃっ…

純一「っ……高橋、先生……」ドキドキ…

がたっ……すた、すた…ぐいっ…

純一(勢いで壁に押し付けてしまった……)

高橋「はぁ…はぁ……たちばなくん…?」

純一「…先生、息が荒いですけど…どうかしましたか…?」

高橋「……だって、そんなことするから…」ぷいっ…

純一「そんなことって…なんですか? 言ってくれなきゃわからないですよ…僕」

高橋「……もう、意地悪しないで…」ぎゅっ…

純一「意地悪だなんて、僕はただ……生徒として、先生に質問してるだけですよ」

高橋「そ、それがっ……意地悪だっていってるのっ」

純一「……あはは、そうですかね? だって困ってる先生の顔、可愛いですから」

高橋「………ほんとうに、イジワルね」かぁあー…

純一「先生…顔を、上げてくださいよ」

高橋「…いや」

純一「どうしてですか、僕は上げて欲しいです」

高橋「……キスするつもりなんでしょ、だからイヤ」

純一「ダメですか?」

高橋「………だめじゃないけど、私は顔をあげないの」

純一「……」くいっ

高橋「っ……えっ…たちばな、くん…?」

純一「──じゃあ僕が顔を上げてあげました、ちゅっ」

高橋「んっ……!」

純一「…どうですか、無理矢理されるってのは?」

高橋「──…………」

純一「先生?」

高橋「え、あっ……うん、すっごくいい…と思います…先生は……」

純一「……もう一回したいですか?」

高橋「……」こくり…

純一「じゃあ、お言葉に甘えて……」

ちゅっ…ちゅ

高橋「ふぅ──んっ……たち、ばなくん……」ぎゅうっ…

純一「……良かったですか?」

高橋「うんっ……すっごくいい…先生、とってもキュンキュンしてるから…もっと…」

純一「わかりました、それじゃあもう一回……」

純一(デレデレすぎるよ!!!!!)

うんこいってたすまん

純一(どうしよう……ここまで本当にやってのけてしまった!
   なんということだ、今まで妄想してきたノリを全部実現できてる…!)

高橋「………」じぃー…

純一(どうしてこんなにも先生は素直になったのだろう……わかんないや、これって僕に…惚れてるから?)

純一(……いやいや、確かに僕と先生は付き合ってるけれど。それでも、そこまで行くのはさすがに…)

高橋「……だいすき、橘くん…」ぎゅうっ…

純一(──あり得るかも知れない! どうだろう、またものは試しに……こんな事、言ってみるとかどうだろう…?)

純一「……高橋先生、僕…貴方に言いたいことがあるんです」

高橋「なに、かしら……?」

純一「あのですね……昨日…」

高橋「昨日…?」

純一「……昨日、先生の仕事の手伝いの後…」

高橋「仕事の手伝いの後…何かしら?」

純一「───他の女の子と、一緒にかえゴハァッ!?」ドス!

純一「っ!?……っ!?」がくんっ…!

純一(ボディー…ブロー……っ!? こ、こんな一撃…今まで貰ったことがない…!)

純一「くっ…かはっ…たかはしっ……せんせぇ…っ?」ぷるぷる…

高橋「………」

純一「どう、して……こんなこと、を…?」

高橋「───先生は先生として、不純異性交遊を見逃すわけにはいけません」キリッ

純一「せ、先生が言ってもっ…なんら説得力がないんですけど…っ…」

高橋「口答えは許しません」

純一(暴君だ…)

高橋「……橘くん、君には色々としっかりいって置かなければならないことが沢山あるようね。
   いいかしら、男子高校生たるものきっちりとした生活習慣を身につけなければなりません!」

純一「は、はいっ……」

高橋「それはいずれ大人になる為に──……ってこら、いつまでうずくまってるの! 正座よ正座!」

純一「わかりました……」ささっ…

高橋「よろしい。では話を続けますよ? つまりは───」

純一(う、ううっ……そうだった、先生は自分に甘いくせに…他人のことになると物凄く怖くなる人だった…
   そんな自分勝手なところがあるって知ってたけれど、ううん…違うな。そうだって最近になって知ったんだけど…)

純一(そこがまた、先生の可愛い所なんだってしって……僕はまたさらに好きになったんだった…)

高橋「つまりはです、私が言いたいのは───」

純一(先生はとってもかっこよくて、綺麗で、素晴らしい人だって……そんなことはとっくにわかってる。
   みんが知っていることで、誰にだって周知の事実だ)

純一(……でも、こんなふうに身勝手に振る舞う先生を知っているのは──…僕だけだ。
   僕にだけ、そう先生は僕にだけ勝手を押し付けてくれる)

純一(だからそれは先生が変わってしまったというわけじゃない)

純一(──先生が、僕に対して変わってくれたんだ)

純一(自分の想いを素直にぶつけてくれるんだって、先生として生徒としてじゃなくて。
   ……一人の人間として、一人の女の人として…僕と付き合ってくれてるんだ)

純一「……やっぱり、可愛いな麻耶ちゃんは」

高橋「……なんですか、今ぼそっていったのは! 聞いてるの? 先生の話しを!」

純一「聞いてますよ、麻耶ちゃん。貴方の言う言葉はひとつだって聞き逃さないです」

高橋「まやっ……こらっ! 急に下の名前でよばない!」

純一「じゃあ何時呼んであげたらいいんですか。僕はいつだって麻耶ちゃんって呼んであげたいです」

高橋「そ、それはっ…時と場合で……その、あれよ…」

純一「じゃあ今、僕は呼びたいです。麻耶ちゃん」

高橋「っ……もう、さっきから呼んでるじゃないの…っ」

純一「あはは、そうでした。だからもっと呼びたいですよ、麻耶ちゃん」

高橋「………下の名前で呼びすぎよ、もう…!」

純一「……照れてるんですか?」

高橋「照れてませんっ!」

純一「やっぱり可愛いです、麻耶ちゃん」

高橋「や、やめなさいっ…! ほんっとにもう、やめて…!」ばたばた…

純一「まやちゃーん」

高橋「誰かに聞かれたらどうするんですかっ…!」

純一「………」ぴた

純一「……今は、僕ら二人だけですよ」

高橋「え、あ、そうだけど……それでもっ!」

純一「それでも? なんですか高橋先生…?」

高橋「……それでも、私はそんな風に…」ごにょごにょ

純一「ああ、なるほど。下の名前で呼ばれるのは……もっと大切にして欲しいってことですか」

高橋「そ、そうよっ……あんまりそうやって気軽に呼ぶのは、先生はどうかって思うから……」

純一(名前を呼ぶぐらいで、いちいち気にする麻耶ちゃん可愛い)

高橋「……だ、だから! 先生は…っ!」

純一「──わかりました、先生。僕はこれからそんなに気軽に下の名前で読んだりしませんよ」

高橋「…本当に?」

純一「ええ、本当です。もっと時と場所を選んでいってあげます」

高橋「あ、ありがと……」

純一「───だから、僕は……」ずいっ

高橋「え、なに……急に近づいてきて…?」

純一「先生がいう、その……時と場所をですね」

純一「……この瞬間に、つくろうと思います」

高橋「ど、どういうこと……かしら…?」

純一「……僕が思うに、先生は…イチャイチャしているときに呼んで欲しいんでしょう?
   雰囲気がいい時に、ここぞってときに言って欲しい。そうじゃないですか…?」ぐぐっ…

高橋「そ、それはっ……というか、たちばなくん顔が近い…」

純一「近づけてます。だから、ね……麻耶ちゃん」ぼそっ

高橋「うっ…ひっ…!」ぴくん

純一「───もっと今から、イチャイチャしましょう。仕事なんて放っておいて、僕と一緒に……ね?」ぼそぼそ…

高橋「っ~~~!……だ、だめですっ…先生は、きちんと仕事は…っ」

純一「……仕事と僕、どっちが大切ですか?」

高橋「っ……そ、それはっ……」

純一「大丈夫です、先生がもし教師をクビになっても……僕が養ってあげますから」

高橋「──え、それって……」

純一「……どうとでも受け取ってください。それぐらいに、僕は麻耶ちゃんのこと好きなんです」

高橋「たちばな、くん……」

純一「……いいや麻耶ちゃん、それは違うよ」

高橋「え、え、ええっ…!?」

純一「───純一、じゃないか。ほら、言ってごらん」ぼそぼそ…

高橋「っ~~~……じゅんいち…」

純一「はい、お利口さんですね。頭を撫でてあげますよ」なでなで…

高橋「………」なでなで…

純一「…うん? どうしたの? なんだか嬉しそうだね麻耶ちゃん…?」

高橋「え、あっ、はい……ちょっとうれしくて…」

純一「そっか…それじゃあもっと、撫でて欲しいかな?」

高橋「う、うん……撫でて欲しい…」こくり…

純一「………」なでなで

高橋「………」

純一(すっごい嬉しそうだ……猫みたいだね、猫麻耶ちゃん!)

純一(さて、ここまでやっておいてなんだけど……どう収拾つけようかな…)

純一(仕事サボるのは流石に……うん、どうしよう!)

高橋「……純一、くん……」ポソ…

純一「あ、はい……ごほん。──なにかな、麻耶ちゃん…?」

高橋「そのね…あのね……」ごにょごにょ…ちらっ

純一「…うん?」

高橋「………───」

高橋「───……キス、したいかな?」

純一「…き、キス?」

純一(このタイミングで! いや、いいタイミングではあるのだろうけど…
    …いや、僕はただ怒られるのをやめたかっただけで…!)

高橋「…だめ?」

純一「だ、だめじゃないです! けど…その…!」

高橋「じゃあ……私から、するわ…」ぐぐっ

純一「え、でもちょっと待ってください…! やっぱり仕事とか…!」

高橋「…そんなのもう、どうだっていい。今は君しか見えてないから」

純一「うっ……」

純一(目が本気過ぎる…!)

高橋「…ねえ、こんな風に迫ってくる……大人の女性は、嫌い?」

純一「……き、嫌いじゃないです…はい…」ドキドキ…

高橋「そう、よかった……それじゃあ、いい?」

純一「いい、です………」

ちゅ

高橋「──ふふっ、やっぱり……」

純一「……やっぱり…?」

高橋「貴方とキスするのは、とっても楽しくて……とっても嬉しい」

純一「ぼ、僕もです…」

高橋「ありがとう、ふふっ……もっと、したい?」

純一「もっとしたいです…!」

純一(…あれ? なんだか主導権がいつの間にか───)

高橋「そう、だったらいっぱいしましょう……もう、何もかも忘れるぐらいに。
   仕事とか、課題のこととか……全部、忘れて…」すすっ…

純一「先生が…そんな事言っていいんですか…?」

高橋「うん? いいのよ、だって───」

高橋「───今は貴方の前にだけに居る、一人の女だもの」にこ

麻耶ちゃん終わりなんだ

うんこ長すぎてすまん
便秘野郎なんだ

次はどうすっかな
美也らへんでも書くかな 十二時にかえってくる
落ちたらそれまで

すまん今から書くわ

【橘 美也】

じりりりりいりいりりり……

純一「───う、うーん……」

純一「……もう、朝か…早いな……うぅーん…」ごそごそ…

純一「……」ばん

純一「……もう、あと五分だけ……むにゃむにゃ…」

純一「………」

純一「………ん?」

純一(なんだこれ、暖かい物体が腹の上に……)ごそごそ…

「にゃー」

純一「……にゃー?」

純一「ってまさか!?」ばさぁっ

美也「ぐぅー…ぐぅー…」

純一「美也っ!? またお前、僕のベットの中に潜り込んできやがったなっ…!?」

美也「ぐ、ぐぅー……すやすや…」

純一「……そしてなんだよ、その下手くそな嘘寝は。起きてるんだろう?」

美也「すやすや……オキテナイヨ-……むにゃむにゃ…」ぽそっ…

純一「………」

純一「とぅおりゃっ!」ぐいっ!

美也「──にゃああー!?」がばぁっ

純一「うぉおおおおおー!!」ぐいっぐいっ

美也「にゃあ! にゃああああああー!!」

純一「どうだキツイだろう!? いきなり抱えられたらキツイだろう!?」

美也「にゃああああー!! にぃに下ろしてぇええー!」

純一「あっははははは! どぉーだ朝っぱからのこのハイテンションは!!
   うざいだろうっ!? 面倒くさいだろう!? あっはははは!!」

数分後

純一「おえっ…気持ち悪い……」

美也「みゃーは楽しかったよ? にっししし」

純一(くそっ…最近、こんなノリが多くて慣れてきやがったなコイツ…)

純一「……はぁ、疲れた。もう眠気も収まってしまったよ…」

美也「みゃーのお陰だねっ」ドヤッ

純一「ドヤ顔するなよ……さて、朝ごはんでも食べようかな。ほら、ベットの上からどけって美也」

美也「………ごろごろー」ゴロー

純一「………」イラッ

純一「───ふんふーん、今日はいい天気だから布団でも干そっかなー」すすっ

美也「……え、ちょ、にぃにっ…みゃーはまだお布団の上にいるからっ…畳んじゃだめ、うにゃー!」ばさっ

純一「んー? なんか声が聞こえたかなぁ、わからないなぁ」てきぱき

美也『にぃにー…!』

純一「よいしぉっと、うん?……なんだか近くで美也の声が聞こえた気がする……気がするだけか…」すたすた…

美也『にゃぁああー!!』ばたばた

純一「おかしいなぁ…暴れだすお布団なんてぼくしらないなぁ…」すたすた…

数分後

純一「もぐもぐ……明日は晴れか」

純一「よかったよ、明日はあれだったし───ん?」

ばたばたばた…… がちゃ!

美也「はぁーっ…はぁっー……!」

純一「よっ! 美也、今日は遅かったなぁ~」

美也「はぁっ……はぁ……もう少しで、にぃに…お母さんに本当に干されそうになったんだよ…っ!」

純一「へぇーそっか。大変だったなぁ……もしゃもしゃ…」

美也「大変だったじゃないよっ! もう、ちょっと甘えたらすぐ怒るんだからっ!」

純一「朝っぱらからそうされたら、誰だって怒る」

美也「ふんだッ、にぃにはまったくもってわかってないよ! こうやって妹に起こされる兄が、
   どれだけ恵まれてるかってねっ!」

純一「そっか、僕はそんなこと一生わからなくていいよ、うん」

美也「ぐぬぬっ…にぃにのばかっ!」ばたん!

純一「もぐもぐ……なんだよ、一体…ごくん」

廊下側

美也「……くぅう…最近、にぃにってばちょっとみゃーに冷たい気がするっ…!」

美也「………」

美也(前は──……前の時は、自分に向かってえすこーとしやがれって言ったくせに……なんなのかな、あの態度っ!
   みゃーはみゃーらしく、やってるつもりなのに。当の本人があれじゃ意味ないよ!)

美也「……はーあ。なんでこんな頑張ってるんだろ……みゃー…」

美也「………」いじいじ…

美也「───そんなこと……いまさら考えなくてもわかってるけど、ね」

美也「………」

美也「──とにかく今日も頑張ろぉっと! 元気にね、うん!」ぐっ!

美也「あ、そういえば明日って………」

居間

純一「ごくん……うっし。ごちそうさまでした!」ぱん

純一「今日一日は暇だなぁ~……明日はあれだし、どこかでかけるのもなぁ~…」がちゃ

美也「………」じぃー

純一「おうっ……どうしたんだよ、美也。御飯まだ食べてないのか?」

美也「……もうとっくに食べたよ」

純一「あ、そうなんだ」

美也「………」じぃー

純一「な、なんだよ……とりあえず入って来いって」

美也「………」がちゃ… すたすた…

純一「…どうしたんだよ、まだ怒ってるのか? だったら謝るからさ…うん、面倒くさいけど」

美也「………」

純一(あれ、怒んないや……機嫌が悪いんじゃないのか?)

美也「…あのね、にぃに。ちょっと聞きたいんだけどいい?」

純一「どうしたんだよ?」

美也「……明日、修学旅行だよね。おみやげちゃんと買ってきてくれるんだよね」

純一「……やだ」

美也「えー!? 買ってきてよ!」

純一「……というかなんだよ、そんなことなのか。変な雰囲気出来たからもっと……」

美也「……もっと?」

純一「……なんでもない、おみやげ? ああ、買ってきてやるよ。なにがいいんだ?」

美也「ほんとぉー! そしたらねぇ、にっしし。みゃーは京都版まんま肉まん八つ橋がいいなぁ!」

純一「…なんだそれ、ちゃんとした食べ物なのか?」

美也「ちゃんとしてるよ~! みゃーはそれがいーい!」

純一「わかったよ、まんま八つ橋な。りょうかいりょうかい」

美也「違うよっ! 京都版まんま肉まん八つ橋だよ!」

純一「わかってるって。ごめんごめん、ちょっと間違ったよ」

美也「ものすごく違うからねっ! もう、ちゃんとわかってるのかなぁー……」

純一「大丈夫だって! ……それよりも美也、今日は暇か?」

美也「え、どうして?」

純一「うん、だったらさ───」

公園
純一「やっ!」ぱしん

美也「えいっ!」ぱしっ

純一「おっ、打ち上げたな……そしたらここだぁ!」ぱしん!

美也「──ふっふっふ~、にぃにの癖はわかりきってるんだよ!」ぱしっ!

純一「んなぁにっ! 僕の最高に決まったスマッシュがいとも簡単に…っ!」ぱしっ

美也「にっしし! それぐらい妹のみゃーだったらお茶の子さいさいだよ~?」ぱしん

純一「くそっ…伊達に数年、僕とバトミントンしてるだけあるな……美也!」ぱしん!

美也「なんのっ! にししー!」ばん!

純一「こ、これもだめか……あ、しまった───」ぽすん

美也「いぇーいっ! みゃーのかっちぃー!」

純一「ぐ、ぐううっ……兄であるこの僕が…妹に負けてしまうなんて…っ」

美也「これでみゃーが通算でいうと……勝ち越しだけどね!」

純一「くそうっ……仕方ない、そしたら美也は何が欲しいんだ」

美也「素直でいいね、にっしし!」

純一「罰ゲームだしな、ここは素直に負を認めるよ」

純一「…ちなみに僕がかってたら、修学旅行のお土産は無しだった」

美也「ひっどーい! そんなの罰ゲームにしないでよね!」

純一「冗談だって……それで? 美也はなにを欲しいんだ?」

美也「う~んっとね……えっとね~……あ、そうだ!」ぽん!

純一「あんまり高いものは買わせるなよ……」

美也「ううん、高いものじゃないよ? というか買ってほしいものなんてみゃーないし…」

純一「え? じゃあどうするんだよ、普通にまんま肉まんアイスバーとかでもいいぞ?」

美也「…………えっと、ね。そのぉ~…」そそくさ…ちらっ

純一「なんだよ、はっきりしないなぁ…」

美也「……言っても怒らない、かな?」

純一「怒るものってなんだよ、そんなのが欲しいのか?」

美也「…うん、そんなのが欲しいんだ。みゃーは」

純一「うーん、まあとりあえず聞いてから決めるよ……どんなのが欲しいんだ美也?」

美也「その、ね……にぃにの……」もじもじ…

純一「…僕の?」

美也「……にぃにの、口にね……」いじいじ…

純一「僕の口? なんだよ、タバスコでも塗りたいのか……それはやめてくれ…」

美也「ち、違うよ! そ、そうじゃなくて…そういうことじゃなくて……っ」

純一「じゃあなんだ?」

美也「っ……っ………」もじっ…

純一「…なんだっていうんだ、そんなにも言いにくいことなのか?」

美也「えっ!? ん、まあ…そう、かな…?」

純一「…この際、ハッキリといってくれ。僕までドキドキしてきたから…」

純一(どんな罰ゲームを言ってくるかわかったもんじゃないし…美也は僕の出来る限界を把握してるからな…)

美也「じゃ、じゃあ……言っちゃうよ? いいの?」じっ…

純一「う、うん……」

純一(それにしても…さっきから美也のやつ。顔が赤いな…どうしたんだろう)

美也「──みゃーはね……にぃに…?」じぃー…

純一「お、おう……」

美也「にぃにと……その、ね………」

純一「その……なんだ?」

美也「………………………」

純一「……美也?」

美也「……っ~~~~……にゃあああー!!」ばっ

純一「…え? なに、美也っ! どうして飛びついてきて……!」

かぷっ

美也「んっ、んんんっ~~~!!」

純一「あ、ちょ、こ、こらっ! 美也!? なんでお前、鼻に噛み付いてくるんだ…っ!」

美也「むむむっ! んん! んん~~~!!」

純一「あ、暴れるなって!? 暴れるに決まってるじゃないかっ!? 痛いからやめてくれ…!」

美也「ぷはぁっ……やめてあげないよ! これが罰ゲームなんだからねっ!」

純一「こ、これが罰ゲーム…!?」

美也「そうだよ、これが罰ゲーム……にぃには大人しくみゃーに噛まれてばいいんだよっ」かぷ

純一「ちょ、そこは耳だからっ…! うひゃひゃひゃひゃ!」

美也「もぐもぐもぐ……」

純一「く、くすぐったい! や、やめてくれっ…僕が悪かったから! 本当にやめて…!ひゃひゃひぁ!」

美也「もぐっ……ぷはあ───……最近、みゃーに冷たくてごめんなさいはっ?」

純一「えっ!? 美也、お前何言って……ひゃひゃひゃ! わかった! ごめん美也! 冷たくしてごめん!」

美也「もぐもぐ…ぷは、もうしませんはっ! もぐもぐ!」

純一「も、もうしませんっ! もう美也にはこれからずっと冷たくしません誓います!」

美也「ぷはっ……そ、それじゃあ……にぃには、みゃーのこと……ちゃんと、見てくれてるって…」

純一「ひゃひゃっ……えっ? なんてっ…?」

美也「……がぶうっ!」

純一「痛ぁああああああああ!?」

数分後

純一「いたた……まだ耳がひりひりするよ…」

美也「………」ムスー

純一「…なんなんだよ、一体。これほど好き勝手しておいて、まだ何か不満なのか?」

美也「……べっつにぃ。みゃーは何も思ってないよ、ふん!」ぷいっ

純一「………」

美也(……謝らせたことはできたけど、やっぱりにぃには朴念仁だよっ。
   なーんにも乙女心がわかってない……やっぱりにぃには、にぃにだ)

美也(……というか朴念仁ってどういう意味なんだろう? なんとなく使ってるけど…うーん)

純一「……美也、ちょっとこっちを向いてごらん」とんとん

美也「…え、なに? にぃに──」ぷにゅっ

純一「やーい! ひっかかったぁ~」

美也「……にぃに?」

純一「あ、こら。ちょっといらってしただろ?
   だめだぞ美也! これは僕からの愛情表現なのだから!」

美也「……こんな愛情表現、みゃーは嫌い」

純一「そう冷たく言うなよ……いくら不死身の僕だって傷つくんだぞ?」

美也「身体は強くても、にぃには心と頭は、お豆腐さんみたいにふっにゃふにゃでしょ」

純一「豆腐メンタルか……これは言い返せないな」

美也「それでなんなの? ただいたずらしたかっただけ?」

純一「うん? いや、まあ、そうだけどさ……ちょっと機嫌は直ったかって思ってさ」

美也「…どういうこと?」

純一「今も機嫌が悪いみたいだけど、さっきとは違った機嫌の悪さだなってことだよ。
   ……いくらか顔色も良くなってるみたいだし、やっぱ外で運動ってのが良かったのかな」

美也「…えっと、さっきとみゃーの機嫌……違うかな?」

純一「全然違うな。それぐらい兄だったらわかるさ」

美也「……気づかなかった、そんなに違ってたなんて」

純一「自分のことなんて、案外自分では気づけなかったりするもんだ。
   むしろ他人のことのほうが上手く気づけたりするもんだぞ?」

美也「それって…にぃにの経験談なの?」

純一「とりあえずね。まあ美也には関係のないはなしだよ、うん」

美也「なにそれー! またみゃーに隠しごとっ?」

純一「またってなんだよ、僕は美也には別に隠しごとなんてしてないだろ」

美也「してるよ! 今も……そして今までもしてるよ!」

純一「今は……まあ認めるけど、今までってのはなんだよ」

美也「っ……だ、だって……」

純一「だって?」

美也「……にぃには、あれから……ずっと何も言ってくれないから……っ」

純一「あれからって……何時のこと?」

美也「っ……そうやって、また隠すんだもん…みゃーはもう…にぃにのこと信用できなくなるよ……」

純一「信用できなくなるって……なにか僕、隠してるかな?」

美也「っ……───」

美也「───もう、もうっ……知らないっ!…にぃにのばかっ…!」

純一「お、おい……泣いてるのか?」

美也「ないて、なんかっ……いないよっ! どうしてみゃーが泣かなくちゃいけないのっ…ぐすっ…」

純一「泣いてるじゃないか…実際に」

美也「う、ううっ……ぐすっ…ばかっ…にぃにのばかっ…すけこましっ…変態さんっ…!」

純一(えらい言われようだ……)

純一「ああ、もう…泣くなって。ほら、好きなもの買ってやるからさ、な?」すっ…

美也「ひっく……ぐすっ……」

純一「なにがいいんだ? 今は手持ち少ないけど、買えるものならなんだって──」ごそごそ…

ばしんっ 

美也「──みゃーは、なにも買ってほしくないっ! いらないよ!」

純一「………」

美也「みゃーはっ…なんにも欲しくなんか無いっ…にぃにから、なんにもっ…!」

純一「………」

美也「そうやって…そうやってすぐにごまかすにぃにからはっ…もう、なにも欲しくない…!」

純一「………はぁ、そっか。わかった、今の僕からは何も欲しくはないんだな」

美也「ひっくっ…ぐしゅっ……けほっ…」

純一「……」すたすた…

純一「だからって、財布をはたき落とすなよな……小銭が散らばっちゃったじゃないか…」ひょい…

純一「───なぁ、美也。ちょっといいか」ひょい

美也「ぐすっ……なに…?」

純一「───僕は別に、あの時のことを忘れてなんかいないよ」ひょい…ひょい…

美也「……え…?」

純一「ちゃんと覚えてるって言ってるんだ。それに、それを隠してるつもりもない」すた…

美也「で、でもっ…にぃには全然……!」

純一「…出すわけ無いだろ、そんなこと。一応、兄妹なんだからさ」

美也「………ぐす…」

純一「僕は僕なりに──考えてやってるつもりだよ、美也。お前がそうであるように、僕もまた…
   …僕なりに考えているんだ。きちんと、ないがしろにせずに」

純一「あの時に行った言葉は──……あの時に伝えた気持ちは、今だって忘れない」

純一「お前を好きになるための準備は出来ている。だろ?」

美也「……うん、にぃには…そういってくれた…」

純一「ほら、ちゃんと憶えていたじゃないか。うん、それでどうしたって話だけど……あのさ、美也」

美也「なあに、にぃに…?」

純一「───僕はきちんと、お前のことを好きになってるよ」

美也「………え、でもっ……えっ…?」

純一「家族とかじゃない、妹だからとかじゃない……きちんと、一人の女の子として。
   僕はお前を好きになってるよ」

美也「にぃに……」

純一「ふっふっふ……どうだ、気持ち悪いだろう? だから言いたくなかったんだ……うん」ぽりぽり…

美也「………」

純一「まあ、お前がそんな風に悩んでたなんて、正直な話……今までわかってなかった。
   こういうことってちゃんと話しておかないといけないんだな、家族だからって甘く見てたよ」

美也「み、みゃーも……そんな風に考えてただなんて…思ってもなかった…」

純一「ははっ、そこは血の通った兄妹だなホント。
   でもいいさ、こうやってまた分かりあえたんだ。きちんと、家族として人としてさ」

純一「心配させてゴメンな、美也。僕はきちんと……お前のことを見ているよ」

美也「っ……本当、に? みゃーのこと、ちゃんと見てる…?」

純一「ああ、見てるよ。僕の前で、僕のために泣いている娘が一人、見えてる」

美也「そ、そうだよっ……みゃーは、みゃーは……にぃにを思って…泣いたんだよ…!」

純一「そうだな、凄いよ美也は。人のために泣くなんて、そうそうできることじゃない」

美也「うんっ……うんっ……ぐすっ…」

純一「……泣くなって、ほら。おいで美也」ちょいちょい

美也「うん……にぃに、にぃにっ……」すたすた…

純一「こっちだこっち──……よし、つかまえた」ぎゅっ

美也「ぐしゅっ…ひっく……」

純一「ああ、ほら…そんなに泣いちゃうと目が腫れるぞ?」

美也「ひっくひっく……けほ、ぐすっ…」

純一「本当に美也は泣き虫だなぁ……昔っから変わんないよ」

美也「……ぐすっ……」ぎゅうっ…

純一「本当に昔から……変わらないな、美也は…可愛い妹だよ、本当に…」なでなで…

純一「──そんなに心配するなって。僕はちゃんと側に居続けてやるから、ずっとな」

美也「……ずっと、ずっとだよっ…?」

純一「ああ、ずっといてやる。美也の側に…こんな僕で良かったら、いてやるよ」

美也「にぃにっ……ひっく…」

純一「…うん? どうした、美也?」

美也「あのね、にぃにこと……みゃーは…本当に、好きだから…っ」

純一「…ああ、僕も美也のこと好きだよ」

美也「ほんとうはねっ……にぃにが修学旅行に行っちゃうの、寂しいんだよっ…!」

純一「…だから今日は布団の中に潜り込んできたのか?」

美也「そうだよっ……昨日の夜、そう思って…忍び込んだんだっ…」

純一「あはは、どれだけさびしんぼうさんなんだよ」

美也「だってだって……五日間もにぃにとあえないなんてっ……」ぎゅっ…

純一「たった数日じゃないか。これまでの時間と比べたら、これっぽっちだろ?」

美也「それでもっ…みゃーは、みゃーは……」

純一「…そっか。寂しいのか、困ったなぁそれは…」なでなで…

美也「………ぐすっ…」

純一「──あ、そうだ! そしたら美也! これなんてどうだ?」

美也「え、どうしたの…?」

~~~~^

「ありがとうございましたー」

純一「……ふぅ、なんとか所持金で買えたなぁ。よかったよかった」

美也「そうだね、意外と安かったってのもあるけど! にっしし!」

純一「それが欲しいって言ったのは美也だろ…」

美也「そうだね、みゃーはこれが欲しかったんだっ」ちゃり…

純一「…猫のキーホルダーか。美也らしいな」

美也「そしてこれがにぃにのだよっ」ちゃりっ

純一「え、いつの間に…」

美也「隙を見て買っておいたの、にぃに貰ってくれる…?」

純一「…ありがとうな。嬉しいよ」

美也「おそろいだね!」

純一「ああ、そうだな……そしてもう寂しくなんか無いな」

美也「本当はもっと大きなぬいぐるみとか買って欲しかったけど……贅沢は言えないよね~」

純一「それは…いくらになるのかわかったもんじゃないからな…」

純一「うむ……まあ、これで満足してくれたのなら。心置きなく、修学旅行にいけるよ」

美也「うんっ! どーんっと行って、みゃーにいっぱいおみやげ買ってきてよね!」

純一「一杯は無理だ……出来れば京都版まんま肉まん八つ橋ぐらいにしておいてくれ…」

美也「あ、覚えててくれたんだ…」

純一「ん? おいおい…当たり前じゃないか、だって買ってきて欲しいんだろ?」

美也「うん……楽しみにしてるからね、にぃに」

純一「ああ、待っとけって」

美也「……にしし、それじゃあ帰ろっかにぃに!」ぐいっ

純一「えっ? あ、こら…こんな町中で腕を組むなよ…!」

美也「これぐらいへーきへーきっ。兄妹なら誰だってしてるよー」

純一「で、でも……ああ、もう!わかった! んじゃ帰るぞ美也!」

美也「おっけーなのだっ!」

すたすた…

とある路地裏

「っち………」

「──橘、さん……どうして君は……」

「……くそっ」がんっ

「……こんなの、絶対に間違ってるんだッ…! 絶対に…!」

翌日 一年教室・放課後

美也「ふんふーん…♪」ニコニコ

七咲「今日は一日、ご機嫌だったね美也ちゃん」

紗江「…なにか、いいことでもあったのかな?」

美也「えー? ごきげんに見えるかなぁ? にっしし!」

七咲「うん、とっても嬉しそうっていうか……良いことがあったみたいな感じで」

紗江「うんうん……あ、そのキーホルダーかわいいね美也ちゃん」

美也「わ、わかるかなっ!? かわいいよねこの猫さん!」

紗江「う、うん…! 最近はやりの、中に磁石が入ってて…もうひとつのキーホルダーとくっつくやつでしょ…?」

とある路地裏

「っち………」

「──橘、さん……どうして君は……」

「……くそっ」がんっ

「……こんなの、絶対に間違ってるんだッ…! 絶対に…!」

翌日 二年教室・放課後

美也「ふんふーん…♪」ニコニコ

七咲「今日は一日、ご機嫌だったね美也ちゃん」

紗江「…なにか、いいことでもあったのかな?」

美也「えー? ごきげんに見えるかなぁ? にっしし!」

七咲「うん、とっても嬉しそうっていうか……良いことがあったみたいな感じで」

紗江「うんうん……あ、そのキーホルダーかわいいね美也ちゃん」

美也「わ、わかるかなっ!? かわいいよねこの猫さん!」

紗江「う、うん…! 最近はやりの、中に磁石が入ってて…もうひとつのキーホルダーとくっつくやつでしょ…?」

美也「え、そうなの? それは知らなかったよ~…ありがと紗江ちゃん!」

紗江「う、ううん……別にいいけど…」

七咲「そういえばそのキーホルダーを見て、ずっとニヤニヤしてたけど…誰からかのプレゼントなの?」

美也「うん? そうだよ! これはねぇ~……にっしし! にしし! 秘密だよっ!」

紗江&七咲(絶対にお兄さんからだ……)

七咲「…そうなんだ、ともあれ良かったね美也ちゃん」

紗江「いいなぁ…私もプレゼントしてもらいたい…」

美也「大丈夫だよ! 紗江ちゃんなら、望めば誰からだってプレゼントしてもらえるよっ?」

紗江「え、ええっ…! 誰からでもって…そんなこと、ないよ…っ」

美也「え~? そんなことあるよね、逢ちゃん?」

七咲「確かに…紗江ちゃんなら、誰だってプレゼントしたくなるかも」

紗江「ええっ…! 逢ちゃんまで…!」

美也「にししっ! それじゃあ逢ちゃん、紗江ちゃん! みゃーはもう帰るね?」

七咲「うん、バイバイ美也ちゃん」

紗江「また明日…っ」

美也「ばいばーい、また明日ね~!」ぶんぶんっ

ぱたぱた…ばたん


「………」すっ…

「………」たったった…

帰宅路

美也「今日も寒いねぇ~……へくちっ」

美也(今頃、にぃにはご飯でも食べてるのかな…好き嫌いが激しいから、
   梅ちゃんに押し付けたりしてるかも…しょうがないなぁにぃには)

美也「さぁーて、早く帰ってまんま肉まん食べながら、ビーバー三国志でもよもっと……」

「あの───」すた…

美也「…うん? 誰だろ──……あっ」

美也「……どうも」

「──久しぶり、って言ってもいいのかな」

美也「うん。二年になってから、まったくお話ししてないし…」

「そう、だよね……」

美也(……以前に、みゃーに告白してきたクラスの子だよね)

男子「その、いきなり話しかけてごめん。迷惑だったかな…?」

美也「ううん、大丈夫。迷惑なんかじゃないから…」

男子「そっか、よかった……」

美也「…それで、私に何か用事?」

男子「……ちょっとそこの公園まで、いいかな」

美也「ここじゃ言えないことなの?」

男子「うん、そうなんだ」

美也「…わかった」

公園 ベンチ

男子「……………」

美也「……それで、話ってなにかな」

男子「…うん、話ってのはもうなんとなく分かってると思うけど」

美也「…………」

男子「もう一度、橘さんに……想いを伝えたくて、こうやって君を呼び止めたんだ」

美也「…………」

男子「しつこいってのはわかってる、わかってるんだ…でも、どうしても諦めつかなくて。
   俺はやっぱり橘さんのこと……とっても好きなんだって、今になって更に思い始めてるんだ」

美也「…………」

男子「この気持は、どうやっても止まらないんだ。橘さん……もう一度だけ、考えてみてくれないかな?」

美也「……私は、あの時から変わってないよ」

男子「………」

美也「貴方のことは色々と聞いてる、すっごく部活を頑張ってるんだってね。
   女の子にモテてるってのも聞いてる」

男子「そ、そんなのただの噂だから! 俺は、橘さんを一目見かけた時からずっと…君のことが!」

美也「そうなんだ、でも…私は変わらないよ」

男子「……あの時と、返事とかわらないってこと…かな」

美也「うん。気持ちはとても嬉しいけど、私は貴方とは付き合えない」

美也「ただ、それだけなんだよ…ごめんなさい」

男子「………」

美也「……私、もう帰るね。これからも部活、がんばって───」すっ…

男子「───めだよ、そんなの……」

美也「え…?」

男子「だめだよそんなのっ…橘さん! それはだめなんだよ…!」

美也「な、なに…? どうしたの急に…?」

男子「っ……ごめん、いきなり大声をあげて。でも、俺は言いたんだッ…」

男子「橘さん、君は…駄目なことをしようとしてるって! だってそれは…」

男子「……橘さんのためには、絶対に成らないよ…!」

美也「…どういうこと?」

男子「昨日、見たんだ。この公園で……橘さんとそのお兄さんが抱き合ってるところを」

美也「っ……」

男子「お互いに浮かべてる表情は……まるで恋人同士のようで、俺はすごく寒気がした」

美也「そ、それはっ……」

男子「それに街で腕を組んで歩いて、お互いに買いあったプレゼントを見せ合ってた。
   ……これは流石に俺も仲のいい兄弟だって思ったけれど、でも…」

男子「…橘さんは、きっとそうじゃないって思ってたはずだ」

美也「…………」

男子「そしてあのお兄さんも、そう思ってるはず。兄妹で仲がいいんじゃなくて、
   その先の関係に歩もうとしているってことを」

美也「貴方に、なにがわかるっていうの…っ」

男子「わかるよ! だって、俺は橘さんのことが好きだから!」

美也「……っ」

男子「好きだから……君がお兄さんに向ける笑顔が、とても輝いてることがわかるんだ」

男子「でも、それは駄目だって思うんだよ! 俺は、俺は…橘さんのことを思って…!」

美也「──黙って、くれないかな」

男子「っ……」

美也「いくら私でも、怒るときは怒るんだよ。だからちょっと黙ってくれないかな」

男子「いいや、黙らないよ! 俺はキチンと話しが通じるまで…!」

美也「………」

男子「通じるまで……っ……」

美也「………」

男子「っ………くっ!」

美也「きちんとお話は、私の耳に届いてる。聞こえてるし、ちゃんと理解もしてる」

美也「でもね? 私はそんな話を貴方から聞きたくないっていってるんだよ」

男子「……そんなに、お兄さんのことを…」

美也「うん、好きだよ」

男子「……一人の男性として…?」

美也「好きだって思ってる。心からね」

男子「そんなのっ、間違ってるよ…!」

美也「わかってる。でもね? とまらないんだよ、このきもちは…」

美也「好きだっていう気持ちは、もうどうやっても止まらない。
   だから私はそれに従って突き進むだけ」

男子「………」

美也「…わかって欲しいなんて贅沢なことはいわないよ。でも、これだけはわかってほしい」

美也「──貴方が私を好きだって言ってくれたのと同じように、私もお兄ちゃんのことが好きなんだって」

男子「っ……」

美也「ただ、それだけなんだよ」

男子「くっ……でも、それでも……俺は、俺は……!」

美也「………」

男子「俺は君の幸せを願いたいんだっ……だからっ!」

美也「…やめて」

男子「っ…橘、さん…?」

美也「そんなの、聞きたくなんか無い…にぃにとみゃーの関係を壊そうとするのなら、本当に怒るよ」

男子「ッ……」

美也「───流石ににぃに以外に本気で怒ったこと無いけど、どうなっても知らないから」

男子「橘、さん…っ」

美也「…でもまだ大丈夫。みゃーは怒ってない、寸前で止まってる」

美也「そもそも怒ることって嫌いだから、したくないしやりたくもない」

男子「………」

美也「……だからね? 今日は大人しく帰ってほしいんだ。そしてもう、これから邪魔をしないで欲しいんだよ」

美也「みゃーはいつだって、にぃにのそばにいることを決めた……だから、そのためにだったら何だってするよ」

男子「っ……そんな怖い表情、するんだ」

美也「するよ、にぃに以外に見せたこと無いけどね」

男子「……にぃに、にぃに…か」

美也「……」

男子「──そうだよ、あの人が悪いんだっ…彼女は、橘さんは悪くなんか無いっ…!」

美也「……何を言ってるの…?」

男子「………」ちらっ

美也「…?」ちゃり…

男子「───そんなものが、そんなものがあるから……君はおかしくなってしまうんだ…っ」すたすた…

美也「っ…な、なに? や、やめてよ…!」

男子「こんなものがっ…あの男がいるから…!」ぎちっ

美也「あ、返して! みゃーのキーホルダー…っ!」

男子「ッ……」ぶんっ!

ぽちゃ…

美也「あ、ああ…!」

男子「はぁっ…はぁっ──……あ、俺なにをして…」

美也「にぃにからもらったキーホルダーが池の中にっ…!」すたすた…

男子「あ、橘さん…!? どこに…!?」

美也「にぃにからっ…初めてもらった…プレゼントなのにっ…!」バシャバシャ…

美也「なんの記念日でもなくてっ……初めて、みゃーの為に買ってくれたっ…!」ばしゃっ…

男子「ぐっ……だめだよ! こんな寒い中で、しかももうすぐ夜になる!」

美也「キーホルダー……みゃーのキーホルダー…っ」ばしゃ…

男子「っ………くそ、俺はどうしたいんだよっ!」ばしゃっ

美也「え……?」

男子「お、俺も探す! 自分でやっておいて何言ってるんだって思うかもしれないけど…っ」

美也「………」

男子「…なにも、言わないでくれ。わかってるから」

美也「…じゃあ貴方はそっち、みゃーはこっち探すから」

男子「…わかった」

二時間後

美也「………………」すたすた…

美也「………………」すた…

美也(見つからなかった──……猫のキーホルダー……)

美也(……確かに池に落ちたと思うのに。どこいっちゃったんだろ…)

美也「………」

美也(……クラスの子、とても反省してたな。悪いのはこっちなのに)

美也(投げられたことは、確かに悪いけど……あんな言い方しちゃったら、誰だって怒るよね)

美也(……彼も、みゃーのことを思ってやったわけだから……ううん、こんなこと考えたって意味ない)

美也「……もう、見つかんないのかなキーホルダー……にぃにから、買ってもらったプレゼントだったのに…」ぽろ…

美也「……あれ? 雨ふってきたかな───あ、そっか…また泣いてるんだ。みゃー……」

美也「えへへっ…本当にみゃーってば泣き虫だなぁ。また買って貰えればいいのに、全然それですむのに…」

美也「……それで、簡単にすむのに」

美也「───ひっく、ぐすっ……でも、だめなんだよねっ…やっぱり…それじゃあ……ひっく…」

美也「あれだったから……みゃーはうれしくって……だから、だからっ……」

美也(……どうしよう、こうやって泣いて帰ったらお母さんを心配させちゃう…っ)

美也(どうにか泣きやんで、赤くなってないか確認してから帰らないと……)

美也「ぐすっ……ずず、っはぁ。にぃにに……会いたいな」

美也(思いっきり抱きついて、今日あったことを話したい…頑張ったんだって、
   にぃにのために辛くても立ち向かったんだって…なでなでしながら褒めてもらいたい)

美也「にぃに……にぃには、いま…どこにいるのかな…修学旅行を楽しんでるのかな…」

「───いいや、お前の後ろにいるよ」

美也「ッにゃあああああああああー!?」

純一「えっ!?な、なんだなんだ!? どうしたんだよ美也!?」

美也「に、にぃに!? にぃになのっ?」

純一「そ、そうだよ。びっくりしたぁー…急に叫ぶなよ!」

美也「そりゃ叫ぶよ! 急に後ろから話しかけられたら、誰だって叫んじゃうよ!」

純一「ま、それはそうか……ふむ」

美也「ふむ、じゃなくて! え、どうしてにぃにがここに……修学旅行はっ? まさか乗り遅れちゃったのっ?」 

純一「バカ言え、ちゃんと飛行機の時間には間に合ったさ。でも中止になったんだ」

美也「ちゅ、中止ぃ? どうしてそんなことに…」

純一「なんだかわからないけれど、飛行機が飛ばなかったんだ。雪が何とか言ってたけど…詳しくはわからん」

純一「だからこうやって、時間だけが過ぎて…今帰宅になったというわけだ」

美也「じゃあ修学旅行は…?」

純一「明日に延期になったみたいだよ。そのぶん、期間が減っちゃったけどね」

美也「そ、そうなんだ……」

純一「それよりも──なんだよ、美也。また泣いてたのか?」

美也「な、泣いてなんかっ……」ごしごし…

純一「泣いてるじゃないか、しょうがないやつだなぁ……ほら、抱きしめてやろうか?」

美也「か、からかってるでしょにぃに…!」

純一「あはは、バレたか」

美也「ぐすっ……もうっ、本当ににぃにってば…!」ぽかぽか…

純一「な、なんだよっ? いきなり殴ってくるなって!」

美也「ばかばかっ! にぃにのばかっ!」

純一「……あーもう、よくわからないやつだなぁ。ほら、ちょっと黙っとけって」ぎゅっ…

美也「っ……ぐすっ、にぃにのばか…」ぽか…

純一「ああ、馬鹿でいいよ」

美也「…………」

純一「……じゃあそんな馬鹿なにぃに教えてくれよ、美也。どうして泣いてたんだ?」

美也「それは……」

純一「どうしたんだ、寂しくなってたのか? キーホルダー買ってあげたじゃないか」

美也「っ……」ぴくんっ

純一「……ん? まさかお前、もう失くしたとか言うんじゃ──」

美也「………」ボロボロ…

純一「──って、どうしてそこで号泣するんだよ…」

美也「に、にぃにっ…あのねっ…」ぼろぼろ…

純一「ああ、うん……聞いてやるからゆっくりと話してくれよ、な?」

~~~~

純一「…ふーん、なるほど。元同じクラスの男子にね」

美也「……そうなの。その子も一生懸命探してくれたんだけど…見つからなくて…」

純一「そっか、そこの子も探してくれたんだ。いい子じゃないか」

美也「それは、そうだよ…みゃーの事を思って言いにくいことを言ってくれたほどだもん…」

純一「えらくカッコいい奴に好かれたじゃないか。どうなんだ、実際のところは? ん?」

美也「……みゃーはにぃにのものだから、だめ」

純一「お、おう……そ、そっか…」

美也「今更照れないの、こんなことこれから先…もっと言っちゃうよみゃーはさ」

純一「…そうか、ならだんだんと慣れていくよ。いきなりは流石に無理だから」

美也「そっか、そうだよね。今までだってそうだったし」

純一「そうだよ、それが僕達が進んでいく道なんだから」

美也「……でも、にぃに。ごめんね、せっかく買ってくれた猫さんのキーホルダー…」

純一「良いってば。仕方ないことだったんだよ、僕らにとってはさ」

美也「……うん」

純一「…どうしたんだ? やっぱり気になる?」

美也「……………うん」

純一「うーん、でもなぁ…美也とその子で二人がかりでも見つかんなかったんだろ?
   それをどうやって探せばいいのか───あ……」

美也「……どうかしたの? にぃに?」

純一「……出来るかも知れない、見つけるの」

美也「えっ…本当っ!? 猫さんのキーホルダー見つけられるのっ!?」

純一「うん、飛行場で気づいたことがあったんだけど……これはまあいいや」

純一「とにかく、その池に落ちたっていう美也のキーホルダーを見つけられるかも知れないぞ!」

美也「どうやって見つけられるの!?」

純一「──それはだな、ちょっとばかし人の手助けが必要だな」

美也「人の、手助け…?」

純一「ああ、そうだ。こんな時間に呼び出しても引き受けてくれる……お人好しで、面白くて、
   なのに全然モテないかわいそうな奴がね!」

美也「……誰だろう、そんな人居たかなぁ…」

純一「お前も知ってるやつだよ、ああ、そいつの名前は───」

数十分後

「───待たせたな、大将」

「───いや、時間ぴったりだ梅原」

純一「流石は梅原、時間にうるさいだけはある」

梅原「ったりめーよ。寿司は時間が命だぜ? いつだってー俺は時間を守るナイスガイだ!」ぴしっ

純一「流石だよ…それしか言えないぐらいに流石だよ梅原…!」がしっ

梅原「ああ、大将こそな…あの飛行場での、暇を持て余すクラスメイト共を沸かした…最強のギャグ、
   俺は一生忘れないぜ…」

純一「忘れてくれお願いだ……それよりも梅原、例のブツは?」

梅原「バッチリよ。ここにきっちり持ってきておいたぜ」

純一「すまん、本当にありがたいよ。こんな時間に親父さんにバレずに来るのは大変だったろ…ほら、報酬だ」がさ…

梅原「……うほっ。これお前、秘蔵中の秘蔵の…!」

純一「それぐらいの仕事をこなしてくれたってことだ、対価に見合った報酬だよ」

梅原「……なるほどな。大将、これから男を磨きにかかるってワケか?」

純一「ご想像にお任せするさ」

梅原「おう、大将……俺は何時だてお前の味方だ。どんな道を歩もうとも、俺はその背中を見守るぐらいはしてやっからよ」

純一「…ありがとう、恩に着るよ」

梅原「ばーろぅ。このお宝本の前にして、感謝の言葉をくちばしんじゃねーよっ」

純一「うん、それじゃあ梅原。また明日に」

梅原「おうよ! ソレはそんまま大将の家に置いといてくれ!
   修学旅行の帰りにでもとりくるからよっ! んじゃまったなー!」

純一「ああ、それじゃあ……」

美也「……お話、終わった?」

純一「終わったよ。どうだ? 最高のやつだろ、僕はアイツ以上の最高のやつを知らないよ」

美也「まあ梅ちゃん、にぃにのこと大好き過ぎるからね……ちょっと心配になるぐらいに」

純一「え? どういうこと?」

美也「なんでもないよーだ、それよりもにぃに……その梅ちゃんが持ってきたのってなんなの?」

純一「これか? これはだな、ふふっ……」すぅー……

純一「……釣竿だよ、美也!」

美也「つりざお…? どうして釣竿なんか梅ちゃんに借りたのって……まさかキーホルダーを釣るつもりなのっ?」

純一「うむ、実にその通りである!」

美也「……みゃー、にぃにがばかだって言ってるけど。本当にお馬鹿さんだったんだね…」

純一「お馬鹿さん言うなっ! でもたしかに、美也の考えもわかる。普通は釣れないよな?」

美也「うん、そう思ってるけど……違うの?」

純一「大丈夫、僕に任せるんだ美也……なんてたって、この思いの強さには自信がある!」

美也「…想いの強さ?」

純一「そうだ! 僕が美也に対して…想ってる、この強さだよ」

美也「っ……きゅ、急に変なこと言わないでよ…!」

純一「照れるな照れるな、さて……作戦開始だ」

純一「作戦名『猫大好きホールド』だ!!」

美也「……にぃにってセンス悪いよね」

純一「う、うるさいっ!」

公園

純一「それじゃあ行くよ、美也」

美也「うん、というかにぃに…その釣り糸の先に何をつけてるの?」

純一「これか? これは───…美也が買ってくれた、猫のキーホルダーだよ」

美也「えっ? どうしてそんなことするの!」

純一「怒るなよ…きちんと説明するからさ」ひゅんっ ぽちゃ

美也「ああっ…! せっかくにぃにのために買ってあげたのに…っ!」

純一「美也に僕が買ってあげた奴と、同じやつだろ?」

美也「そうだよっ! なのに、にぃにはそんなぞんざいに扱うんだ……そうなんだ……」

純一「ああ、もう泣きそうになるなって! 違うよ!」

純一「あのキーホルダーにはだな! 特定の磁気に反応する、小さな磁石が入ってるんだよっ」

美也「…磁石?」

純一「そう、それが飛行場の検問所で反応しちゃってさ…色々と大変だったんだけどね」ひゅんっ

純一「…そんなことはどうだっていいんだ。その磁石ってのが意外と優秀でさ、同じキーホルダーに
   入ってる磁石にしか反応しないっていうシロモノなんだ」

美也「そ、そうなの…? あ、でも紗江ちゃんもそんなこと言ってた気がする…」

純一「そんな訳で、こうやって釣り糸に垂らして頑張ってれば…釣れるんじゃないかって…おっ?」くいっ

純一「なにかに反応したな……よいしょっと」くいっ ぱしゃっ

美也「───あっ…! に、にぃに…!」

純一「うん、そうだね。ちょっと汚れてしまってるけど…僕が美也に買ってあげたキーホルダーだ」

美也「ほん、っとに…見つかった…もう見つからないって思ってたのに…!」

純一「バカ言え、どんなことをしたって僕が見つけてやったさ」

美也「うんっ、うんっ……ありがとにぃに…!」

純一「ううん、いいんだ。むしろお礼は梅原に言っておいてくれよ」

美也「梅ちゃんにも後で、きちんとありがとうっていうよ…!」

純一「よし、お利口さんだ。それじゃあほら……後で洗ってあげろよな」

美也「綺麗に洗ってあげるよ…大切だからね、にぃにから…買ってもらったものだから…っ」

純一「うん、ついでに僕のキーホルダーも洗いっこしてもらってやってくれ」

美也「……じゃあ、にぃにもついでに洗いっこする?」

純一「ぼ、僕はいいよ…! またあとで一人で洗いっこするから…!」

美也「みゃーが……ごしごしってにぃにの背中を洗ってあげるよ?」

純一「それは良い提案だけど、今日はとりあえず…そのキーホルダーたちを洗ってやってくれ」

美也「…わかった、でもにぃにの背中はいつかみゃーが洗うからね!」

純一「お、おう! いつだってかかってこい!」

美也「かかってこいってなんなのさ……」

純一「あはは……って、あれ…? これって…?」

美也「え……あ、雪かな…?」

純一「………ホワイト修学旅行か。そりゃ飛行機も飛ばないよ」

美也「…明日、つもったりするのかな」

純一「うーん、どうだかな。積もられるとこっちはちょっと困るけど」

美也「……みゃーは積もって欲しいな、雪」

純一「ん、どうしてだ?」

美也「だって……積もったらにぃに、また修学旅行延期になるんでしょ?」

美也「なら明日だってまた───……にぃにのお布団の中に、潜り込めるかも知れないしねっ! にっしし!」

みゃー終わり


では次、という感じで生きたいのですが
お仕事の時間です。すみませんがここまでで

出来なかった娘は次スレを建てようと思う
このようなながらクオリティでよろしかったら次もまた出会うことを

ご支援ご保守ありがとう
次は森島先輩でもかきたいな

ではではノシ

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