盗賊「男らしくないね」 ヒーラー男「よく言われる」(203)

盗賊「あたし、お金なくて困っているんだ」

ヒーラー「そうか」

盗賊「……お金、置いていって貰おうか」

ヒーラー「……こんな子が盗賊やっているなんてなぁ、世も末だな」

盗賊「しょうがないでしょ、親もいない天涯孤独なんだ」

ヒーラー「……」ゴソゴソ

盗賊「おっと、あまり変な動きをしないほうがいいよ?」チャキ

ヒーラー「ほらよ」スッ

盗賊「……は?」

ヒーラー「ほら、お前が欲しがっていた金だよ」

盗賊「……意外とあっさり渡すね」

ヒーラー「無駄な抵抗して殺されたくないしな」

盗賊「情けないね、こんな女の子相手に」

ヒーラー「ああ、俺の職業は医者みたいなものだからな、非力だよ」

盗賊「……男らしくないね」

ヒーラー「よく言われる」

盗賊「まあ、貰う物は貰ったし、見逃してあげるよ」

ヒーラー「ありがとよ」スタスタ

盗賊「……変なやつ」

ヒーラー「またお前か」

盗賊「やあ」

ヒーラー「そうやって誰かが来るまで宿屋の裏側にいるのか?」

盗賊「うん、憲兵には見つからないし仕事が捗るしね」

ヒーラー「……仕事ね」

盗賊「……あんまり、馬鹿にした目で見ないほうがいいよ」ギロッ

ヒーラー「おお、怖い怖い」

盗賊「まあいいや」

ヒーラー「?」

盗賊「ここで会ったのも何かの縁だ、お金よこしなよ」スチャ

ヒーラー「あいよ」チャリン

盗賊「……情けなくないの?こんな女の子に恐喝されて」

ヒーラー「まあな」

盗賊「少しは抵抗すればいいのに」

ヒーラー「刃物持った相手に馬鹿な真似はしたくないからな」

盗賊「つくづく思う」

ヒーラー「?」

盗賊「お兄さん、男らしくないね」

ヒーラー「女でもないけどな」

盗賊「そりゃ見ればわかるよ」

ヒーラー「そうか」

盗賊「まあ、今日はここまでにしてあげるよ」

ヒーラー「……あばよ」スタスタ


盗賊「やっぱり、変なやつ」

ヒーラー「またお前か」

盗賊「やっほー、3回目だねお兄さん」

ヒーラー「ほら」チャリン

盗賊「……まだ何も言ってないよ」

ヒーラー「いらないのか?」

盗賊「貰う物は貰っておくよ」

ヒーラー「お前、ずっとここにいるけど暇じゃないの?」

盗賊「うろうろするより、じっとした方が獲物はくるよ?」

ヒーラー「へー」

盗賊「……暇人とか思ったでしょ?」

ヒーラー「いや?」

盗賊「嘘だね」

ヒーラー「医者は嘘はつかないよ」

盗賊「ふうん」

ヒーラー「もういいか?」

盗賊「うん」

ヒーラー「またな」

盗賊「まだあたしに会うつもりなの?」

ヒーラー「一人で寂しそうだからな」

盗賊「……ギルドに所属しているから独りではないよ」

ヒーラー「じゃあ、心配はいらないな」トコトコ

盗賊「……変人」

ヒーラー「ああ、そうだ」

盗賊「?」

ヒーラー「そのナイフ、綺麗だな」

盗賊「……特注品だからね」

ヒーラー「そういう意味じゃない」スタスタ

盗賊「?」

盗賊「お頭」

ギルド長「……今日の収入はいくらだ?」

盗賊「ざっと、こんなもんだね」スッ

ギルド長「おお!結構な額じゃねえか!でかした!」

盗賊「……で?分け前は?」

ギルド長「ほれ、こんなもんだ」スッ

盗賊「……これ、あたしが渡したお金の2割にも満たないね」

ギルド長「馬鹿か、お前みたいな小娘には大金はまだ早いんだよ」

盗賊「私が稼いだのに?」

ギルド長「稼いではいねえよ、お前は」

盗賊「……」

ギルド長「お前はせいぜい、かつあげ位じゃねえか」

ギルド長「俺くらいになるとな、御偉いさんにちょいっと仕事を貰うんだ」

ギルド長「麻薬販売とか、奴隷販売、殺人とか色々な」

ギルド長「親無しの根無し草のお前を、うちに入れてやっただけ感謝しな」

盗賊「……わかったよ」

ギルド長「それと、敬語使え」

盗賊「……使う理由がないね、舐められたくないし」

ギルド長「ッチ!……早く行け」シッシッ

盗賊「あいよ」スタスタ

盗賊「(別に、好きでこんな生活をしているわけじゃない)」

盗賊「(でも、親も身寄りもないあたしはこうして生きていくしかない)」

盗賊「(……できれば、あんなおっさんの顔は見たくないね)」

盗賊「(……でもギルドを抜けたら、根無し草にはや戻り)」

盗賊「……嫌な人生」

ヒーラー「よう」

盗賊「……よく飽きないね、お兄さん」

ヒーラー「まあな」スッ

盗賊「……まいど」

盗賊「なんか、こんな路地裏でお金のやり取りしてると、麻薬の取引みたいだね」

ヒーラー「……げへへ、早く例の物くだせぇ」ニヤニヤ

盗賊「!?……お…お客さんも悪よのう」

ヒーラー「お代官様こそ」ニヤニヤ

盗賊「(なにこのノリ?)」

ヒーラー「……そういえば、俺があげた金はどこにあるんだ?」

盗賊「うちらのギルド」

ヒーラー「……あー、お前の手には渡らないのか」

盗賊「悪いね、あたしもノルマを達成しないといけないからね」

ヒーラー「……俺に会うまではどんなことを?」

盗賊「……それはお兄さんには関係ないでしょ」

ヒーラー「献上してやってるんだ、教えてくれよ」

盗賊「……いいよ」

盗賊「そうだね、あたしがどんな方法でお金稼いでいると思う?」

ヒーラー「……売春」

盗賊「んー、半分正解」

ヒーラー「……半分も当たっていてほしくないな」

盗賊「まあ、そう言わない」

盗賊「あたしもね、あまり体は売りたくは無いんだよね」

盗賊「だから、本番前にね」

盗賊「睡眠薬を盛るんだよ?お酒にね」

ヒーラー「……そのまま金目の物を持っていくのか?」

盗賊「うん」

ヒーラー「怖っ……そうやって、男の純情を持て遊んで」

盗賊「しょうがないじゃない、女の子の特権だよ?色仕掛けは?」フフン

ヒーラー「……まな板の癖に」ボソッ

盗賊「うるさい!」

ヒーラー「ということは、実は経験無しなのか?」

盗賊「うーん、口を使ったり手を使ったことは」

ヒーラー「えんがちょ!」

盗賊「……」

ヒーラー「悪い、ノリだ」

盗賊「……少し傷ついたよ」

盗賊「まあ、いかにあたしが汚い世界で生きているかは想像ついたでしょ」

ヒーラー「そうだな、俺に想像できんな」

盗賊「馬鹿にしてる?」

ヒーラー「俺は人を騙したりするなんて、全然したことない」

ヒーラー「それに、俺は人を傷付けたくないし」

盗賊「……そんな綺麗ごとは、あたしみたいな子が消えてからいってね?」

ヒーラー「……いいや、お前は優しい子だな」

盗賊「は?」

ヒーラー「少なくとも、お前は優しい」

盗賊「……どういう事?」

ヒーラー「それはだな」


「ヒーラーさーん!どこにいるんですかー?」


盗賊「!?」ビクッ

ヒーラー「おっと、ツレに呼ばれている」

ヒーラー「またな」スタスタ

盗賊「……もう来なくていいよ」

盗賊「で、また?」

ヒーラー「ああ、お前と話していると面白いんでな」

盗賊「……お兄さんこそ暇人じゃないの?」

ヒーラー「いや、俺は人を探しているから忙しいんだ」

盗賊「人?」

ヒーラー「ああ、こんな人だ」ピラッ

盗賊「結構前の写真だね、でも、このおじさんは知らないや」

ヒーラー「この恩人にな、礼をしようと思ったんだ」

盗賊「うんうん」

ヒーラー「そしたらな、ガキから礼を貰うつもりは無いって言ってな」

ヒーラー「どうしてもしたかったら、大きくなったら礼をしに来いってさ」

盗賊「……めんどくさい人だね」

ヒーラー「ははは、俺もそう思う」

盗賊「思っちゃだめでしょ」

ヒーラー「そうだな」

順番間違えた これが先


盗賊「このおじさんはどんな人なの?」

ヒーラー「うーん……俺の命の恩人だな」

盗賊「恩人?」

ヒーラー「ああ、幼い頃助けてもらってね」

盗賊「なんで探しているの?」

ヒーラー「で?金は請求しないのか?」

盗賊「あっ……いつもそっちが勝手に払うからね」

ヒーラー「はいはい」スッ

盗賊「まいど、お兄さんは本当にお金持ちだね」

ヒーラー「まあ……怪我人を治したりするとお礼にな」

盗賊「……いい商売だね」

ヒーラー「いや、俺は金を請求してないんだけどな」

ヒーラー「貰うのを断っても、なぜかバッグに礼金が入れられてんだ」

ヒーラー「流石に処分するのも申し訳ないから、渋々貰うわけ」

盗賊「……とか言って、若干儲かった気はあるでしょ?」

ヒーラー「まあ、無いと言ったら嘘になるな」

ヒーラー「でも、人にお礼を言われるのもいいものだぞ?」

盗賊「うーん、あたしにはよく分からないね」

ヒーラー「……まあ、少なくとも」

ヒーラー「俺は人の役に立っているんだ、って思う」

盗賊「……あたしは、ふざけやがって社会のゴミが!、って言われるよ」

ヒーラー「……ゴミではないね」

盗賊「?」

盗賊「なんかお兄さん、昨日から変なこと言うね?」

ヒーラー「ん?」

盗賊「お前は優しいとか、ゴミじゃないって、哀れみなの?」

ヒーラー「うーん、実際そう思うけどな」

盗賊「なんで?」

ヒーラー「……そのナイフ」

盗賊「これかい?」スチャ

ヒーラー「人や物を切った痕跡はないな」

盗賊「……」

ヒーラー「それに、お前の目は死んでないよ」

盗賊「……」

ヒーラー「お前は優しいんだろうな」

ヒーラー「その血も錆びも傷もない綺麗なナイフが語っているよ」

盗賊「……気分が悪い、今日は帰って」

ヒーラー「ん?」

盗賊「帰って」ギロッ

ヒーラー「……怖い怖い」

ヒーラー「またな」

盗賊「二度と来ないで」

盗賊「お頭」スッ

ギルド長「おお、今日も大金だな!」

盗賊「まあね」

ギルド長「お前、ここ最近の成績がよくなってるな」

盗賊「まあ、優秀だしね?あたし」

ギルド長「……このペースでいけば、もう少し上の立場にしてやろう」

盗賊「あー……ごめんお頭」

ギルド長「あ?なんだ?」

盗賊「あたし多分、明日からペースダウンする」

ギルド長「……どうしてだ?」

盗賊「ここ最近は運気が良くてね、でも明日からは悪くなるみたいなんだ」

ギルド「占いか……女や子供がするものだな、流石小娘」

盗賊「うるさいね、ただ風当たりばったりのお頭よりはマシだよ」

ギルド長「ばーか、俺はいつでも運がいいんだ、お前とは違ってな!」

盗賊「……いつか、しっぺ返しを喰らうよ?」

ギルド長「馬鹿いえ、さっさと戻れ!」

盗賊「あいよ」スタスタ

盗賊「……」

盗賊「(あたしが優しい……)」

盗賊「(確かに、このナイフを使ったことはないね)」スチャ

盗賊「(だって、このナイフは)」

盗賊「(顔も名前も知らない両親の形見だもん)」

盗賊「(そんな事に、使えるわけないよ……)」

盗賊「……」

盗賊「……」

盗賊「……今日は来ないのかな?」

盗賊「……まあ、あそこまで言ったら来ないか」

盗賊「……なに期待してんだろう、あたし」


ザッザッ

盗賊「!?」ビクッ

???「おかしいですね、ヒーラーさんが言うにはここに」

盗賊「(……あの装備、剣士?)」

盗賊「(見た感じ、貴族っぽいけど)」

盗賊「(あの耳は……エルフ?)」

エルフ「ん?……そんなところで何をしているんですか?」

盗賊「(嘘っ!?見つかった!)」

エルフ「ああ、貴方がヒーラーさんが言っていた方ですね?」

盗賊「っ!……あまり、舐めないほうがいいよ」チャキ

エルフ「……そんな、指先が震えているナイフなんて怖くありませんよ?」

盗賊「ッチ!……少し痛い目みないと、分からないみたいだね!」バッ

エルフ「!」シャキン


ガキンッ チャリン


盗賊「(ナイフが……弾き飛ばされた!)」

エルフ「っ!」ブンッ

盗賊「ひっ!?」バッ

ピタッ

盗賊「(……止めた?)」

エルフ「……貴方が盗賊さんですね?」

盗賊「(なんなのさ!このエルフ!)」

盗賊「(ものすごい馬鹿力だし!)」

盗賊「……なんの用?お兄さんの知り合いみたいだけど」

盗賊「(まさか、あのお兄さんがあたしを始末しようと?)」

盗賊「(……他人なんて信じるものじゃないね)」

エルフ「ええ、ヒーラーさんに頼まれたんですよ」

盗賊「(……やっぱり)」

エルフ「貴方の話相手になれって」

盗賊「……は?」

エルフ「そうだ、これを」スッ

盗賊「……お金だね」

エルフ「貴方と話すにはこれが必要って、ヒーラーさんが」

盗賊「……まあ、間違っちゃいないよ」

エルフ「受け取ってください」

盗賊「まあ、貰うよ」

盗賊「ところで、君はエルフかい?」

エルフ「ええ、そうです」

盗賊「なんでエルフがこんな所に?」

エルフ「……駄目ですか?」

盗賊「別にいいけど」

盗賊「……でも、エルフって商品でしか見たことないな」

エルフ「……奴隷ですか」

盗賊「まあね、よくお頭が奴隷市場に連れて行ってくれるんでね」

盗賊「よく、奴隷として売られてるのを見るよ」

エルフ「……この地ではまだそんな事を」

盗賊「……そうしなきゃ生きていけない人もいるんだよ」

エルフ「……エルフ側も人間に危害を加えているから文句は言えませんね」

盗賊「そうそう、前なんて子供が誘拐されたしね」

エルフ「……本来、そういう野蛮な方を抑えるのが私の仕事なんですけどね」

盗賊「……貴族の方なの?」

エルフ「……正確には、父親が王なんですけどね」

盗賊「えっお姫様なの?」

エルフ「立場上、そうなります」

盗賊「……そのお姫様が、なんでここにいるの?」

エルフ「……家出」

盗賊「えっ?」

エルフ「家出したんですよ!」

盗賊「……」

エルフ「私だって、普通の暮らしがしたいんですよ!」

エルフ「外で友達と笑いあったり、お酒飲んだり!」

エルフ「でも、何をするも監視が入るわ、調査されるわ」

エルフ「旅はできないし、気ままに動けないし!」

エルフ「……なにより、私には一族を導く力はないんですよ」

盗賊「……苦労はしてるんだね」

エルフ「続けますね」

盗賊「うん」

エルフ「私には、先祖代々伝わる剣技しか取り柄がないんですよ」

エルフ「でも、家出してからは役に立ちましたよ?」

エルフ「お金や食べる物がなければ、指名手配を捕まえればいい」

エルフ「最悪、モンスターの死骸でも食べますよ?」

盗賊「意外と野蛮なんだね」

エルフ「ええ、否定はしません」

盗賊「……実際、お姫様より騎士のほうが似合うんじゃない?」

エルフ「ええ!部屋に引き篭もるより剣を振っている方が好きなんですよ!」

エルフ「あと、私は誰かに守られるより、守るほうが好きです!」

盗賊「……色々あるんだね」

エルフ「ええ」

盗賊「そういえば、あのお兄さんとはどういう関係なの?」

エルフ「んー、簡単に言えば命の恩人ですね」

盗賊「恩人?」

エルフ「はい、私が家出をしてから2ヶ月頃ですかね」

エルフ「依頼で、ある盗賊団を壊滅させるように頼まれたんですよ」

盗賊「……盗賊団ね」

エルフ「あっ……そういえば貴方も盗賊でしたよね?」

盗賊「別に気にしないよ、社会のゴミなのは理解してるし」

エルフ「……そんな事言わなくても」

盗賊「続けて」

エルフ「……私、その盗賊団をなんとか壊滅させましたよ」

盗賊「すごいじゃん」

エルフ「ありがとうございます」

エルフ「で、そこから問題です」

盗賊「うん?」

エルフ「実は、何発か銃弾を打ち込まれたんですよ」

盗賊「……よく生きてたね」

エルフ「タフなほうですから」

盗賊「(そういう問題じゃないと思うけど)」

エルフ「で、血塗れの体のまま街へ向かいました」

エルフ「しかし、途中で倒れました」

盗賊「……その時にお兄さんに出会ったんだ」

エルフ「そうなりますね」

エルフ「倒れていた私にヒーラーさんが寄ってきてくれました」

エルフ「最初は奴隷にでもするのかと思いましたが」

エルフ「実際は、魔法で助けてくれました」

盗賊「ふーん」

エルフ「で、私はお礼をしようかと思ったんです」

盗賊「お金を?」

エルフ「ええ、渡そうとしました」

エルフ「そしたらヒーラーさん、礼はいいって受け取らないんです」

盗賊「(お兄さん、本当に断ってたんだ)」

エルフ「でも、私は一応王族の端くれ、無礼はしたくない」

エルフ「そこから一時間は粘りました」

盗賊「(めんどくさい子だな)」

エルフ「もう埒が明かなそうなので、お金は諦めました」

盗賊「……体で払ったの?」

エルフ「っ!……違います!///」

盗賊「(なんか、面白いな)」

エルフ「ごほん!……護衛ですよ、護衛」

盗賊「護衛?」

エルフ「はい、ヒーラーさんの旅の目的が終わるまでという事で」

盗賊「へー」

エルフ「最初は帰れ帰れ言われましたが、今は認めてくれたみたいです」

盗賊「ツンデレだね、お兄さんは」

エルフ「ですよね!あの人そういう所は素直じゃないんですよ!」

盗賊「多分、優しさじゃない?」

エルフ「……そうですね、ヒーラーさんは優しい人です」

エルフ「決して、私みたいなエルフに軽蔑した目を向けないでくれたり」

エルフ「変なところで気を回してくれたり」

エルフ「本当……優しい人」

盗賊「(まあ、現にあたしにもしてくれてるしね)」

エルフ「でも」

盗賊「?」

エルフ「あの人結構ひどいんですよ!?」

盗賊「は?」

エルフ「聞いてくださいよ!」

エルフ「モンスターが現れたら、ヒーラーさん真っ先に非難するんですよ!?」

エルフ「後ろから、がんばれーって、援護もしないし!」

エルフ「挙句の果てには、力仕事はいつも私に押し付けるし!」

エルフ「女の子をもっとやさしく扱うべきです!がっかりです!」

盗賊「……」

エルフ「さらには、セクハラまがいな事も!」

盗賊「!……なになに?」

エルフ「……なんで、そこだけ食いつくんですか?」

盗賊「続けて!」

エルフ「……この前の宿屋で、お風呂から戻ってきたら」

エルフ「私のパンツを舐めてました」

盗賊「は?」

エルフ「しかも一生懸命に」

盗賊「(なんかお兄さんの評価が落ちた)」

エルフ「最初は何事かと思いました」

エルフ「でも本人はこう言ってました」

エルフ「『うるさい、俺は男だ!しょうがないだろ!』って」

エルフ「さらに『お前がいると、性欲を発散させる時間が無いんだ!』って」

盗賊「(ああ、お兄さんなりにガマンしてるんだ)」

エルフ「……たまにお風呂覗くし」

盗賊「(……襲われないだけマシでしょ)」

盗賊「……誘惑した事はないの?」

エルフ「……一回したことあります」

盗賊「意外だね」

エルフ「一度、下着姿のまま、お礼がしたいって誘惑してみました」

エルフ「そうしたら、ヒーラーさん突然どっかに行ってしまいました」

盗賊「(お兄さん、一線は越えたくないのかな?)」

エルフ「あの人は多分、他人を傷つけたくはないんでしょう」

盗賊「……まあ、分かるよそれは」

エルフ「あっ、話していたら暗くなっちゃいましたね」

盗賊「ん?宿に戻るの?」

エルフ「ええ、早くしないと私の下着が全て唾液塗れになりますから」

盗賊「……早く戻りなよ」

エルフ「ええ、また明日!」トコトコ

盗賊「……来なくていいのに」

盗賊「お頭」スッ

ギルド長「おっ?なんだ、同じ金額じゃないか」

盗賊「どうやら、占いは外れたみたいだね」

ギルド長「だから言ったろ?占いなんか信用するなと」

盗賊「……そうだね」

ギルド長「ほれ、今日の分け前だ」スッ

盗賊「あれ?一割増えた?」

ギルド長「……最近がんばってるからな」

盗賊「……ありがと」

ギルド長「ふん!……さっさっとガキは寝ろ!」シッシッ

ガチャ

部下「お頭!少し話しが!」

ギルド長「騒がしい……なんだ?」

部下「はい、どうやら憲兵が最近、俺達の事を嗅ぎまわっているみたいで」

ギルド長「なんだと……対策でもたてるか」

盗賊「お頭?」

ギルド長「まだいたのか、ガキは寝てろ!」グイッ

盗賊「ちょ!?なにも無理やり追い出さなくても!」

盗賊「(お頭が気前いいなんて珍しいな)」

盗賊「(……まあ、お兄さん達からもらったお金だけどね)」

盗賊「(お兄さん達に会ってからはイイ事が続くな……)」

盗賊「……寝よう」

盗賊「zzz」スースー

__________
_____
__
_

_________

少女「……」

「残念ながら、この子の両親は瓦礫の下敷きになったみたいで」

「かわいそうに、まだこんなに幼いのに」

少女「……」

「でも、うちは家計が苦しいから引き取れないね」

「助けてあげたいけど、うちもね」

少女「(偽善者め)」

少女「(結局、哀れむだけで何もしないじゃないか)」

少女「(汚い奴ら……)」

少女「……」コソコソ

「おいっ、うちの商品を返しやがれ!」

少女「!?」ダッ

「遅いんだよ!糞ガキ!」ガシッ

少女「(しまった!?)」

「ふざけんなよ!」バキッ

少女「ギャッ!?」ドサッ

「この程度済むと思うな!」ドカッ ドカッ

少女「(ガマン、ガマン!)」ドカッ バキッ

「ここまでにしてやる」トコトコ

少女「……」ボロッ

少女「(もうやだ)」

少女「(なんで、こんな目に会わなくちゃいけないの?)」

少女「(……こんな糞みたいな世界)」


ギルド長「あ?なんだこのボロ雑巾は」

少女「……」

ギルド長「邪魔だ、どけ」

少女「……どかせば?」

ギルド長「なに言ってんだお前?」

少女「……世の中、弱肉強食」

ギルド長「は?」

少女「……あたしみたいな弱者は消えるんだ」

ギルド長「……」

少女「……早くしてよ」

ガシッ

少女「痛っ!?……攫う気?」

ギルド長「お前みたいなガキが悟ってんじゃねえ」

少女「……」

ギルド長「なに自分で、弱者とか決め付けてるんだ?」

少女「……」

ギルド長「弱者なら弱者なりに足掻いて、強者になればいいじゃねえか」

少女「えっ……?」

ギルド長「自分で盗りたいものはとればいいじゃねえか」グイッ

少女「痛っ!?」ドサッ

ギルド長「……力が欲しいなら、街のはずれに来い」

少女「はい?」

ギルド長「強者になりたいならな」トコトコ

少女「……」

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_____
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_

盗賊「……懐かしい夢を見た」

盗賊「……変な気分」

盗賊「……宿屋の裏に行こうかな?」

トコトコ

盗賊「……」

盗賊「うん?なに?あれ……」


憲兵隊長「ここら辺付近に、盗賊ギルドがあると聞いている!」

憲兵A「はい、どうやらそのギルドの一員と言う男に金掴ませたら、情報を吐きました!」

憲兵隊長「よし、引き続き捜査だ!」

オォー!


盗賊「……お頭に!」ダッ

憲兵A「ん?そこの嬢ちゃん」

盗賊「ヒッ!?……なに?」

憲兵A「ここら辺で、怪しい集団を見かけたりはしなかったかい?」

盗賊「……知らないや」

憲兵A「そうかい、この辺は盗賊共がいるらしいから、気をつけろよ?」

盗賊「……うん」

憲兵A「止めて悪かったな」スタスタ

盗賊「どうしよう、憲兵がうろついてるから迂闊には戻れないし」

盗賊「……どこか行くまで時間を潰そう」

ヒーラー「よう」

エルフ「こんにちは」

盗賊「……お兄さん、二度と来ないでって言ったよね?」

ヒーラー「聞いてない」

盗賊「……」

エルフ「まあまあ、お話しましょうか」

ヒーラー「ほれ」スッ

盗賊「いつもの倍だね?」

エルフ「今日は二人ですから」

盗賊「……別にあたしはお悩み相談室ではないんだけど」

ヒーラー「そういうな」

盗賊「……まったく」

エルフ「では、どんな事を」

盗賊「ねえ、お兄さん?」

ヒーラー「ん?」

盗賊「今まで、エルフちゃんのパンツを何枚舐めたの?」


男「ん?ああ、それなら

現在 126枚目 その内の34枚は舐めすぎて、破れてしまった

これまでのおパンツ代はおよそ 3150枚

記録は日々更新中である」


エルフ「」

盗賊「流石にないわ」

エルフ「それより今、ちゃんって」

盗賊「……まあ、お前とかよりはマシでしょ?」

エルフ「っ……ううっ」ブワッ

盗賊「え!?どうしたの?」

エルフ「っ!いえ、いままで故郷だと 姫 とか お嬢様としか呼ばれたことが無いんですよ!」

盗賊「……そりゃ苦労したね」

エルフ「ええ!とても嬉しいです!」

ヒーラー「……げへへ、エルフちゃん!」

盗賊「きもっ!?」

ヒーラー「きもいとはなんだ、きもいとは」

盗賊「……なんかお兄さん、最初の時のほうがかっこよかったような」

エルフ「いつも、こんな感じです」

盗賊「……つらいね」

エルフ「……ええ」

盗賊「ん、そうだ!ねえお兄さん、エルフちゃん!」

ヒーラー「どうした?」

エルフ「?」

盗賊「二人は付き合ってるの?」


ヒーラー「それはない」

エルフ「それはないです」


盗賊「……そう」

ヒーラー「こんな暴力女は考えられないな」

エルフ「こんな、他人任せのチキンさんとはちょっと」

ヒーラー「なんだと?」イラッ

エルフ「やりますか?」

盗賊「ベットの上で?」ニヤニヤ

エルフ「なっ!?///」カアッ

ヒーラー「いいぜ!かかってこいよ!」

盗賊「……お兄さんはノリノリだね」

盗賊「というか、お兄さんヤる気はあるの?」ニヤニヤ

ヒーラー「……実はない」

盗賊「……男らしくないね」

ヒーラー「まあな、実際これでもコイツはお姫様だ」

エルフ「……」

ヒーラー「そんなお姫様に、俺みたいな人間が体を重ねてみろ」

盗賊「まあ、種族間で問題にはなるね」

ヒーラー「だろ?面倒事は嫌いだ」

エルフ「……そうですね」

盗賊「あーあー、悲しませたー」

ヒーラー「……悪い、そんなつもり言ったんじゃないんだけどな」

エルフ「……別に分かってますから」

盗賊「二人を遮る壁は種族の違いねぇ」フムフム

エルフ「……」ションボリ

ヒーラー「なぜそこまで落ち込む」

盗賊「お兄さん、理解してよ……」

ヒーラー「ん?こいつの気持ちは理解してるぞ?」

盗賊「は?」

ヒーラー「まあ見てろ」

ヒーラー「……おい、エルフ」

エルフ「……なんですか?」

ヒーラー「顔、あげろ」

エルフ「……?」スッ


チュ

盗賊「」

エルフ「なっ!?/////」

ヒーラー「まあ、こういう事だ」

盗賊「……よく、性欲を抑えられるね」

ヒーラー「……色々がんばってるんだぞ?俺は」

盗賊「ふーん」

エルフ「////」

盗賊「エルフちゃん、動かないよ?」

ヒーラー「頭がショートしたんだろ?」

盗賊「……やっぱり、お兄さん達面白いね」

ヒーラー「そうかい」

盗賊「おっと、だいぶ暗くなってきたね」

エルフ「////」

ヒーラー「もう帰るのか?」

盗賊「まあね、少し心配事もあるし」

ヒーラー「?」

盗賊「ばいばい」トコトコ

ヒーラー「……来ないでとは言わないのか」

エルフ「////」

盗賊「なに、これ?」


部下「」


盗賊「なんで?皆倒れてるのさ?」

盗賊「なんで?ギルド内もめちゃくちゃだし」

盗賊「お頭の姿も……」

盗賊「……昼の憲兵の話」

盗賊「……やられたの?ここは」

盗賊「……お頭」

盗賊「いつもこの机に足をかけて」

盗賊「私をよく怒鳴ったっけ?」

盗賊「お前は役に立たないグズだって」

盗賊「……大丈夫」

盗賊「あのお頭が簡単に捕まるわけない」

盗賊「お頭は強者なんだよ?」

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______
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憲兵隊長「これより、この街の付近で活動していた極悪ギルドを処分する」

「おいおい、朝から処刑かよ」

「いやーこれからは安心して暮らせるな」

「盗賊なんて、野蛮よねえ」

盗賊「(まさか)」

憲兵A「ほら!早く処刑台へ歩け!」グイッ

ギルド長「……ふん」

盗賊「……お頭?」

ギルド長「はやく始めろ」

憲兵隊長「……意外と潔いな」

ギルド長「別に助けは期待していない」

憲兵隊長「……えーこの者はー、この街の周辺で盗賊ギルドをー」


盗賊「……」

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_______
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_

ギルド長「……長い話は終わりか?」

憲兵隊長「ああ、これからお前を処分する」

ギルド長「……このロープに首をかければいいんだな?」

憲兵隊長「そうだ」


ギッ ギッ ギッ  

キュル

ギルド長「はやくしろ」

憲兵隊長「……ああ」


盗賊「……お頭」

ギルド長「……ん?」チロッ

盗賊「(っ!?目が会った!?)」


憲兵隊長「これより執行する」

ギルド長「……俺は弱者だな」

憲兵隊長「何を言っている?」

ギルド長「よく聞け!俺は所詮、弱肉強食のなかの弱者に過ぎなかった!」

盗賊「(お頭!?)」

ギルド長「だが、弱者は弱者でも!生きていれば強者になるやつもいる!!」

盗賊「!」

憲兵隊長「お前何を!!」

ギルド長「いいか!お前は生きろ!弱者の道には走るな!強者になれ!」

憲兵隊長「だまれ!」グイッ


ガタンッ


ギルド長「」


盗賊「!?」

「うわ!あの憲兵いきなり殺すなよ!ビックリするわ!」


盗賊「っっ!!」ダッ


エルフ「あれ?ヒーラーさん、あれ盗賊さんではないですか?」

ヒーラー「ん、アイツ全力疾走してなにかあったのか?」

エルフ「そういえば、昨日心配事があるとか」

ヒーラー「……」

エルフ「追いますか?」

ヒーラー「まかせる」

エルフ「はい!」ダッ

ヒーラー「……今、処刑されたギルドの長ってもしかして、あいつのギルドか?」

ポツポツ


盗賊「(お頭が死んだ!お頭が!)」ダッダッダッ

盗賊「(嘘つき!なにが強者だ!結局犬死しただけじゃん!!)」

盗賊「(……でも、これであたしは自由なのかな?)」

盗賊「(そうだよ!うざいお頭もいなくなったし!)」

盗賊「(いなく……なって)」ジワッ

盗賊「っうわあああああああああああ!!」ブワッ

盗賊「ああああああああああああ!」ドシャ

盗賊「(親が死んだ時も泣かなかったのに、なんで!)」グスッ

盗賊「お頭あああああああああああああああ!!」

盗賊「(なんで!こんなに悲しいの?)」

ウアアアアアアアアアアアアアアアアア!!


エルフ「……」

ザアアアアアアアアアアアアアアア

盗賊「(雨……)」

盗賊「……嫌な気分も落ちてゆくね」ポトポト

盗賊「……あたしらしくない」ゴシゴシ

盗賊「……さあ、前向きに!っ!?」グラッ

エルフ「盗賊さん!」ガシッ

盗賊「あっ……エルフちゃん……」

エルフ「ごめんなさい、その、見ちゃいました」

エルフ「ここだと、濡れちゃいますよ?」

盗賊「……構わない」

エルフ「駄目です!ちょっと来てください!」グイッ

盗賊「ちょっと!?引っ張らないでよ!」

エルフ「来なさい!」グイッ

盗賊「!?」

エルフ「ヒーラーさん」

盗賊「……」

ヒーラー「話はだいたいわかるよ」

盗賊「……」

ヒーラー「ここじゃあれだ、宿屋に行こう」

盗賊「……うん」ヨロッ

ヒーラー「……」スッ

盗賊「?」

ヒーラー「疲れてるだろ?手につかまりな」

盗賊「……うん」

ギュ

ヒーラー「……」トコトコ

盗賊「(お兄さんの手、暖かい)」

盗賊「(なんだろ?優しいぬくもり?)」

盗賊「(心の奥に溶けていく感覚)」

エルフ「……」トコトコ

ヒーラー「ほれ、タオルだ」スッ

盗賊「うん」パシッ

エルフ「……大丈夫ですか?」

盗賊「ごめんね?心配かけて」

ヒーラー「大丈夫なら、手を離してほしいな」

盗賊「……ごめん、お兄さん、胸借りるよ」ギュ

ヒーラー「は?お前何して……」

盗賊「…っう……う……う」グスッ

ヒーラー「……ったく」

エルフ「……今は泣いたほうがいいですよ?盗賊さん?」

_____________
_________
____

ヒーラー「で」

エルフ「あの後、盗賊さん泣きつかれて寝たはずなんですけどね」

ヒーラー「あいつ、朝になったら消えたんだけど」

エルフ「ヒーラーさんの通帳と共に朝になったら消えましたね」

ヒーラー「……手紙だけ残してな」

お兄さん。

エルフちゃん。

あたしもうここを出発する。

ここには、あたしがギルドに所属していた痕跡もあるし。

いつか憲兵につかまりそうだからね

じゃあ、またいつかどこかで


後、お兄さん。

お金は貰った。

ヒーラー「ったく、ちゃっかりしてんなアイツ」

エルフ「ふふふ、ですね」

ヒーラー「お前……金盗られたんだぞ?」

エルフ「いいじゃないですか、また稼げば」

ヒーラー「……商売はしないよ」

______
____
__
_

盗賊「ギルドがつぶされて、もう3ヶ月か」

盗賊「時間が経つのは早いねぇ」

盗賊「……今は各地を転々と、旅をしているけどね」

盗賊「たまには、旅をするのもいいね」

盗賊「まあ、お金はお兄さんから盗ったお金があるから大丈夫だけど」

盗賊「……あそこの酒場でもはいるか」

ワイワイガヤガヤ

盗賊「お酒」

店主「嬢ちゃん、そんな歳じゃないだろ?」

盗賊「……」スッ

店主「いっ!?……こんだけの大金だ、いいだろう」

盗賊「お金って素晴らしいよね」

盗賊「……ん?」

ワイワイガヤガヤ

ヒーラー「混んでるな……」





盗賊「あっ、ヒーラーのお兄さんだ!」

ヒーラー「おっ!久しぶりだな」

ねえお頭

あ?なんだ?小娘?

本当の強者ってのは何かな?

……少なくとも、人に言われなくても動けるやつか?

ふうん、あたしもなれるかな?

馬鹿いえ、右も左も知らない糞ガキには無理だ

……いつか見返してやるから

ははは!そうか!小娘にしては面白いこと言うな!

馬鹿にしないでよ!

出来るものならしてみろってんだ!



盗賊「お頭、あたし、お頭がいなくても、生きてゆくよ」

盗賊「お頭がなれなかった強者に、絶対になるよ」


終わり

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