愛「お邪魔しまーす!」
P「散らかってて悪いけど……」
愛「いえ、おかまいなく!」
P「女の子が泊まりに来てるのに、構わないわけにもいかないよ」
愛「そんなのあたし、全然気にしませんよ?」
P「俺が気にするんだって……」
こんにちは! あたしは日高愛、13歳の女の子です!
背もちっちゃい、胸もちっちゃいとアイドルらしくない体型ですけど、876プロでアイドルやってます!
今日はちょっとした事情があって、765プロのプロデューサーさんの家にお泊まりに来ました!
男の人の家に泊まるのは初めてだから、なんだかドキドキします……!
なんで876プロのあたしが、765プロのプロデューサーさんの家に泊まるのかって?
それは、3日前のコトでした……
【876プロ事務所】
愛「おはようございまーす!」
涼「おはよう、愛ちゃん」
絵理「今日は一段と、元気?」
愛「はいっ! なんと朝の占いが一位だったんですよ!」
涼「へぇ~、珍しいね。いつも悪かったーって言ってるのに」
愛「そうなんです! だから今日はいいことあるかも!」
まなみ「……愛ちゃん、ちょっと」
愛「あっ、まなみさん。おはようございます!」
まなみ「ええ、おはよう。来ていきなりで悪いんだけど、ちょっと会議室まで来てくれる?」
愛「はい……?」
まなみさんは、あたしのマネージャーさんです。
でもマネージャーのお仕事の他にも、色々とお世話になってるんですよ!
それにしてもどうしたんでしょう、まなみさん。なんだか深刻な顔をしてます。
あたしは普段のぼうっとしたまなみさんの方が好きだなぁ。
……なんて失礼なことを考えながら会議室に行くと、石川社長が待ってました。
石川「おはよう、愛」
愛「おはようございます!」
石川「愛。実はあなたに映画の仕事が来てるんだけど……」
愛「へっ……え、映画ですか!?」
すごい! 朝の占いはやっぱり当たってました!
CD出したりCMに出たりって仕事はしてきましたけど、映画は初めてです!
これを機会に、あたしも一躍有名になったりして!
石川「それが、手放しにも喜べないのよね」
愛「……えっ?」
まなみ「実はその映画、恋愛映画なの。しかも愛ちゃんは、幼妻の役で抜擢されてて……」
愛「お、おさなづま?」
石川「妻ってことは、恋愛感情を知ってなきゃいけないってこと」
愛「れんあい……」
石川「愛。ハッキリ言うけど……あなた、恋すらしたことないでしょう」
愛「うっ…………」
ず、図星ですっ。あたし、そんなに男の子で知り合いとかいないし……
仲がいいのは涼さんくらいですけど、そういう目で見たことってないんですよね。
それに涼さんがあたしにだけ教えてくれたんですけど、
涼さんは絵理さんと付き合ってるらしいです。だから今から恋愛対象にするっていうのはちょっと。
石川「おまけに同棲シーンまであるらしいから、あなたには厳しいかもね」
まなみ「残念だけど、今回は見送りの方がいいかもしれないわ」
愛「そ、そんな……」
愛「……でもあたし、やりたいですっ!」
まなみ「愛ちゃん……」
愛「やらせてください! 恋愛でも同棲でも、何でも練習しますから!」
せっかく貰えた映画の仕事、簡単に諦められません!
それに今までだって、前が見えないままでもなんとか進んできたんです。
これくらいで諦めてたらママに怒られちゃいます!
石川「……分かったわ、愛」
まなみ「社長!?」
石川「あなたがそう言うことも考えて、実は準備だけはしてあるの」
愛「準備?」
石川「ええ。あなたが恋愛や同棲を練習するための、準備をね」
そう言うと社長は自分の携帯電話を取り出し、どこかにかけ始めました。
まなみさんは頭を抱えてるし。いったい、準備ってなんなんでしょう?
石川「876プロの石川です。高木社長にお取次ぎ願えますでしょうか」
石川「……あ、高木社長。先ほど依頼した件なのですが……」
石川「はい、はい……ありがとうございます。それでは、3日後からということで」
石川「では、失礼します」
社長は電話を切ると、あたしとまなみさんの顔を見て笑顔を浮かべました。
笑顔っていうか……怪しい微笑なんですけど。
石川「……OKだそうよ、愛」
愛「はぁ……なにがですか?」
まなみ「ほ、本当にお願いするなんて。愛ちゃんに何かあったらどうするんですか?」
石川「大丈夫でしょう。その人には何度か会ってるけどそういう人じゃなさそうだったから」
【3日後 765プロ事務所】
まなみ「では、ウチの愛をよろしくお願いします」
高木「任せておきたまえ。石川社長にはいつもよくしてもらっているし、これくらいはしないとな」
まなみ「ありがとうございます。愛ちゃん……私はもう帰るから、くれぐれも失礼のないようにね」
愛「はい!」
社長から言われた練習っていうのは、765プロのプロデューサーさんの家にお泊まりすることでした!
なんでも、身近に男の人を置くことで異性を意識するようにして、ギジテキに恋愛感情を生み出すそうです。
それにお泊まりする間に奥さんっぽいことをすることで、同棲の感覚も掴めるんだとか。
そんなことを思いつくなんて、やっぱり社長はすごい人ですっ!
高木「……それで、肝心の彼がなぜここにいないのかね。日高くんが来ることは伝えてあっただろう?」
小鳥「飛び入りでどうしても外せない仕事が入ったみたいです。でもさっき、急いで帰るって電話が」
その時、事務所のドアが勢いよく開きました。
そこにいたのは、私が憧れる765プロのアイドル、天海春香さんと……
P「すみません、遅くなりました!」
春香「ただいまー! あ、あれっ? 愛ちゃん、なんでウチの事務所に?」
P「ごめん、待たせたか?」
愛「いえ、全然ですっ!」
この人が、765プロのプロデューサーさんなんですね!
第一印象は、誠実そうな人。あたし、この人の家に泊まるんだ……ちょっとワクワクしてきました!
そんなことがあって、今に至るわけなんです。
プロデューサーさんの家に泊まるなんて彼女さんに悪いんじゃないかなって思ったんだけど……
今はアパートに一人暮らしで彼女さんもいないらしくて、あっさり引き受けてくれました!
プロデューサーさんって、すごくいい人ですね!
P「こんな狭い部屋でごめんな。片付けるからちょっと待ってて」
愛「お手伝いします!」
P「いやいや、いいよ。その辺でくつろいでてくれればいいから」
愛「そういうワケにはいきません! あたし、幼妻ですから!」
P「……そういえば、映画の練習なんだっけ。じゃあ、少し手伝ってもらおうかな」
愛「はいっ!」
愛「これはどこに置けばいいですか?」
P「あっちの棚の上にお願い」
愛「はーい! ついでに棚の上も拭いちゃいますね」
P「助かるよ」
あははっ! なんか楽しいです! うまく表現できないけど……
男の人の部屋を、その人と一緒に掃除する。事務所を掃除するのとはちょっと違う感覚です!
愛「ふんふんふ~ん♪ いーまーめーざーしてーくー♪」
P「ゴキゲンだなぁ、日高さん」
愛「えへへ……あっ、あたしのことは『愛』って呼んでください!」
P「愛か……じゃあ愛ちゃんって呼ぶよ?」
愛「はいっ、どんどん呼んでください!」
その後はプロデューサーさんとおしゃべりしながらお掃除して、終わった時にはもう2時間くらい過ぎてました。
おしゃべりするのが楽しすぎて、途中から全然進んでなかったんです……反省。
P「ふー。おつかれ」
愛「おつかれさまでしたー!」
P「愛ちゃんは元気だなぁ。俺なんかもうヘトヘトだよ……」
愛「あっ、そうだ! 飲み物持ってきます! 冷蔵庫、冷蔵庫っと」
P「……ごめん。飲む物、何も無いと思う」
……ホントだ。一人暮らしの男の人ってあんまり物置かないって聞いてたけど、
冷蔵庫の中まで空っぽだなんて思いませんでした。プロデューサーさん、料理とかしないのかな?
愛「それなら、ちょっと買いに行ってきます!」
P「じゃあ俺も行くよ」
愛「いえっ! プロデューサーさんは休んでてください!」
P「いや……飲み物買うついでに、近場のスーパーとかコンビニとか教えとこうと思って」
愛「あっ、そうですね! そういうことならよろしくお願いします!」
P「オッケー。支度するから1分待って」
愛「はーい!」
プロデューサーさん、疲れてるのに優しいです!
どうしてこんないい人に彼女がいないのか、すっごく不思議です……
というわけで、プロデューサーさんと一緒にお買い物です。
飲み物の他には何を買えばいいのかな?
P「……愛ちゃんにお願いがあるんだけど」
愛「はいっ、なんですか?」
P「さっき部屋を見て分かったと思うけど。俺は炊事も掃除も洗濯も、ほとんどしないんだ」
愛「あ、あはは……そうみたいですね」
P「そこで、愛ちゃんにそれを全部任せたい!」
愛「え……いいんですか?」
そういうのって、なんだかプロデューサーさんに悪いなあ。急にずかずかと上がりこんで、
図々しく身の回りのお世話を始める女の子なんて、迷惑がられないかな……
P「いいも何も、俺が頼んでるんだから」
愛「……わ、わかりました! やらせてもらいますねっ!」
P「うん、よろしくね」
愛「はいっ」
……あっ。もしかしてこれ、幼妻の特訓なのかな?
そうだとしたらプロデューサーさん、あたしの練習のことを気にかけてくれてるんだ……
愛「……えへへっ! じゃあプロデューサーさん、今日は何が食べたいですか?」
P「おっ、リクエストありなの? それなら無難に肉じゃがを」
愛「了解ですっ! おいしいの作れるように頑張りますね!」
1時間後。
色々と買い込んだあたし達はたくさんの食材や飲み物をぶら下げて、プロデューサーさんの部屋に戻ってきました。
お金を払うとき『いいよ、俺が出すから』って言ってくれたプロデューサーさん……かっこよかったです!
P「はぁ、はぁ……疲れた……」
愛「ごめんなさい、いっぱい持ってもらって」
P「気にしないでくれ。女の子にこんなに持たせられないからな……」
愛「はいっ、どうぞ」
P「おっ……気がきくな。いいお嫁さんになるよ、きっと」
買ってきたばかりのポカリをプロデューサーさんに渡しました。
……いいお嫁さんかぁ。幼妻になるための練習、順調かも!
P「ぷはぁ……愛ちゃんも飲んだら?」
愛「じゃあ、いただきます!」
実はあたしも結構喉乾いてたんですよね。プロデューサーさんってやっぱり優しいなぁ。
断るのも失礼かなって思ったから、プロデューサーさんが置いたペットボトルに遠慮なく手を伸ばしました。
愛「んぐっ、んぐっ……」
うーん……動いた後のポカリはすっごくおいしいです!
あっ、勢い良く飲んでたらあっという間に空になっちゃいました!
P「え……『何か』飲んだら、って意味だったんだけど……」
愛「? はい。だからポカリ貰っちゃいました!」
P「……愛ちゃんが気にしてないなら、いいけど」
愛「?」
どうしたんでしょう、プロデューサーさん。
なんだか気まずそうです。なんで目を合わせてくれないんですか?
P「……まあ、こんな感じなんじゃないか」
愛「へっ?」
P「同棲。俺もやったことないけど。一緒に掃除して、買い物行って、ご飯作って、ってさ」
愛「なるほど! あたし、自然とそんなことしてたんですね!」
P「最初は石川社長もとんでもないこと言うなって思ったけど、案外悪くないみたいだな」
愛「でも、掃除も買い物もプロデューサーさんの提案ですから! プロデューサーさんもすごいです!」
P「はは……ウチのアイドルは型破りなのが多くてさ。これくらいならまだ楽な方だよ」
愛「へー、そうなんですか?」
P「『教科書がすべてじゃない、限界なんてない世界』……まさにアイドルの世界って、そうだと思うよ」
愛「あ…………」
そのフレーズは、あたしのデビュー曲『HELLO!!』の一部分です。
プロデューサーさん。あたしみたいな目立たないアイドルの歌、覚えててくれたんですね……
夕食時。あたしは今、腕によりをかけて肉じゃがその他もろもろを作ってます!
一方プロデューサーさんは、ごろんと横になりながらテレビを観てます。
ああして最近のトレンドをチェックするのも仕事の1つなんだそうです。
愛「BRAND NEW TOUCH はーじーめよーう♪ SAY HELLO~♪」
P「……愛ちゃん、歌」
愛「あっ、うるさかったですか?」
P「いや、上手いなって思ってさ。876もいい子を育ててるなあ」
愛「そ……そんなことないですよぉ。えへへ……」
P「……ところで、ゴハンまだ?」
愛「あっ、はいはい。もうすぐできますよ!」
あはっ! プロデューサーさん、子供みたいですっ!
P「いただきます」
愛「はい、召し上がれ!」
P「…………」
愛「……どうかしましたか?」
P「いや。『召し上がれ』なんて言われたの、どれくらいぶりだろうって……」
プロデューサーさん、長い間1人暮らしだったせいか、ちょっと切なそうです。
ママはあたしを1人で育ててたとき、あたしがいたから寂しくなかったって言ってました。
あたしは生まれてからずっとママがそばにいたけど、誰もいない生活なんて、あたしだったら絶対耐えられない……
愛「……プロデューサーさん。これからはあたしがいますよ!」
P「…………愛ちゃん」
愛「あたしが一緒にいます。プロデューサーさんが、寂しくないように……」
ちょっとしんみりとしちゃいました。
でも、プロデューサーさんは小さな声で『ありがとう』って言った後、食事に手をつけてくれました。
P「……うまい!」
愛「ホントですか!?」
P「うん、マジでうまい。こういうの食べちゃうと、コンビニ弁当食ってるのがバカらしく思えてくるな」
愛「えへへ……これからは毎日作ってあげますよっ!」
P「ぜひ頼む! 今の愛ちゃん、本当に幼妻って感じだ」
愛「お嫁さんにしたくなりますか!?」
P「なるね。俺ならほっとかないな」
愛「もー、プロデューサーさんったら!」
照れ隠しに思わずプロデューサーさんの背中を叩いたら、バンッ、ってすごい音がして。
口に肉じゃがを運んでいたプロデューサーさんは、口の中のじゃがいもを盛大に吹き出しました。
ご、ごめんなさいプロデューサーさん。やっちゃいました……
P「ご馳走様でした」
愛「おそまつさまでした!」
P「あー、幸せだ……俺はこういう生活がしたかったんだよな」
愛「だから、あたしがいるじゃないですか!」
P「でも愛ちゃんも、ずっとここに泊まるわけじゃないだろ?」
愛「あ……そう、ですね……」
あたしはあくまでも映画のための練習として泊まりに来てるだけ。
本当に同棲しているわけじゃないんです。プロデューサーさんとも今日会ったばっかりですし。
……でもプロデューサーさんといる時間は、今までに感じたことのない楽しさがありました。
たったの数時間で『もっと一緒にいたい』って思ってしまうあたしは、どこかおかしいんでしょうか……
P「さて。夕食も食べたし、風呂にでも入るか」
愛「……べ、別々ですよね?」
P「!? あ、あああ当たり前だろ!?」
愛「で、ですよね! 良かった……」
P「いやーないって! 13歳と一緒にお風呂とかないわー! ないない、色々総合的に考えてそれはない!」
あたしだって、いくら同棲(の練習)って言ったって、男の人と一緒に入るなんてできないです。
緊張しちゃうし、プロデューサーさんだってあたしの体なんか見ても嬉しくないと思うし……
愛「……それにしても、人の家のお風呂に入るのって久しぶりです! 忘れ物とかないかなぁ」
P「ちゃんと寝巻きは持ってきてるの? あと風呂で使うシャンプーとか」
愛「はい、ちゃんと持ってきてます!」
P「じゃあバスタオルとかは置いとくから、ごゆっくり」
愛「いえっ、ここはプロデューサーさんが先に入ってください!」
P「え、なんで?」
愛「だってこの家はプロデューサーさんの家じゃないですか。ふつう、ご主人が先じゃないですか?」
P「……そっか、そういう考え方もあるか。でも愛ちゃん、幼妻になりたいんだろ?」
愛「そうですけど……」
P「俺は亭主関白にはならないつもりだから、奥さんにそういうのを強いたりしない……と思う」
愛「………………」
P「ってことで、愛ちゃんが先に入ることに抵抗は無いな。ほら、入っておいで」
愛「……そういうことなら、遠慮なく!」
ありがとう、プロデューサーさん! 奥さんのこともしっかり考えてくれるなんて、
将来プロデューサーさんのお嫁さんになる人はすごく幸せだと思います!
【お風呂】
愛「……はぁ。プロデューサーさん、かっこいいなあ。優しいし、頼りになるし……」
愛「ずっと先の話だけど、あんな人と結婚できたらいいのになぁ」
愛「結婚……きっとパパも素敵な人だったんだろうな。ママ、今でも楽しそうに話してくれるもん」
愛「ふぅ…………」
愛「……よく考えたら、この湯船っていつもプロデューサーさんが使ってるんだよね」
愛「………………」
愛「……ハッ!? だ、ダメダメ! いま匂い嗅ごうとしちゃった……」
愛「うう。こ、こんなのあたし、ヘンタイさんだよぉー!」
お風呂から上がっても、顔はまだ熱いままでした。
あたし、人の家のお風呂でなんてことしちゃったんだろう……
黄色の下地に星柄の模様がたくさん付いたパジャマを来て、
またテレビを観ているプロデューサーさんのところに向かいます。
愛「上がりましたよー!」
P「ああ…………おっ、可愛い」
愛「…………なんですか?」
P「い、いや。お、俺も入ってくるかなー?」
愛「はいっ」
P「あっ、このいい匂い……愛ちゃんって香水付ける派?」
愛「……急になんですか? あたしは付けない派ですよ!」
P「それなら、次の日でもシャンプーの香りが直に楽しめ……って俺は何言ってんだ!?」
愛「…………??」
プロデューサーさんがお風呂に入ってる間に食器は洗っておきました。
明日の準備もできてるし、あとは寝るだけです!
愛「……でも、寝るには早いなぁ」
愛「いつもだったらママのファッション誌とか読んだりするけど、そんなの無いし……」
愛「プロデューサーさんとおしゃべりしたくても、プロデューサーさんはお風呂だし」
と、そこで目に入ったのはプロデューサーさんのパソコン。
ログインしっぱなしになっているので、あたしでもネットくらいならできそうです。
愛「……そうだ! ちょっとパソコン借りて、ネットサーフィンでもしようっと!」
愛「まずは、絵理さんとサイネリアさんのサイトをチェックするよー!」
愛「へー、絵理さん今日はお菓子作ったんだ! あの絵理さんが……」
愛「絵理さん、涼さんと付き合い始めてから色々変わりましたね! すごいです!」
愛「サイネリアさんは相変わらず色々な名前で呼ばれてて、ファンの人に愛されてるなぁ」
愛「そうだ、あたしも『サイサリスさん』って書いておこうっと!」
愛「よし、チェック終わったよー! えーと、またぐーぐるを……」
愛「……あっ、ボタン間違えて履歴出しちゃった!」
愛「………………えっ」
『日高愛 HELLO!! PV』
『日高愛 ALIVE PV』
『876 給料 転職』
『961 給料 転職』
『中学生 接し方』
愛「……これって、プロデューサーさんの検索履歴、だよね……?」
愛「プロデューサーさん。あたしのこと、真剣に考えてくれてる……」
愛「はぁ……」
他にもぐーぐるの履歴を見てみると、
あたしとうまくコミュニケーションをとろうと思って調べたあとが、たくさんありました。
それに比べてあたしときたら、服や日用品くらいを持ってきたくらいです。
なにも考えてないんだなあ、あたしって……
愛「……そうだ! プロデューサーさんを見習って、あたしも調べてみよっと!」
愛「えーっと。『プロデューサーさんと仲良くする方法』っと」
……あれ? なんだか全然関係ないサイトしか出てきません。
調べ方が悪かったのかな。こんな時に絵理さんがいればなぁ……
そんなこんなで30分くらい調べてたんですけど、結局仲良くなる方法は見つかりませんでした。
『同棲の基本』とか『男の人が喜ぶ料理』とかは、結構いろんなサイトがあったのに。
P「ふぅ~。サッパリした」
愛「あっ、プロデューサーさん」
P「……ちょっ、愛ちゃん! 何してんの!?」
愛「えっ?」
P「勝手に人のパソコン使っちゃダメだろ! 履歴とか見られたら困るって!」
愛「あ……ご、ごめんなさい……」
……すごく怒られてしまいました。
あたし、いつもママのパソコン使ってるからぜんぜん気にしてなかったんです。
もしかしてプロデューサーさんに嫌われちゃったかな……
P「……まあ、次から気をつけてくれればいいから。使いたい時はちゃんと言ってくれよ」
愛「はい……あ、あのっ」
P「ん?」
愛「ホントにごめんなさい! でも、あたし謝りますから!」
愛「プロデューサーさんの言うこと、何でもしますから! だから……」
愛「キライに……ならないで、ください……」
やだな。あたし、泣きそう……すっかりプロデューサーさんに依存してる。
よく言われるんです。あたしは元気な分、逆にへこみやすいって。
P「……なるわけないだろ? これくらいのことでさ」
愛「ホントですか!?」
P「お、おう……」
P「愛ちゃんってすっごく元気だけど、へこむ時も激しそうだよね」
愛「えっ? なんでわかるんですか!?」
P「……ついでに、復活も早いって言われない?」
愛「あ、はい! 涼さんや絵理さんにも言われました!」
P「だろうねー」
プロデューサーさんが納得したような顔でうなずいてます。
あたしって、そんなにわかりやすい性格かなぁ?
P「まぁ、そこがいいんだけど」
愛「……プロデューサーさん、何か言いましたか?」
P「…………なんでもない」
プロデューサーさんと仲直りした後は、また一緒にテレビを観てました。
時代劇の再放送がやってたのでなんとなく観てたんですけど、あたしって結構こういうの好きなんですよね!
愛「あっ、危ない!」
愛「ダメっ、そっちは……あっ、あっ」
愛「お……おぉー!!」
愛「いけー! てやー!」
その時、『ごん!』っていうすごい音がしました。
なんだろー? って思って横を見たら、プロデューサーさんが顔を押さえてうずくまってました。
なんか夢中で拳を振り回してたら、プロデューサーさんの顔に当たっちゃったみたいです……!?
P「うぐぐ……か、顔が……」
愛「ご、ごめんなさいプロデューサーさん! 濡れたタオル持ってきますね!」
水で濡らしたタオルをプロデューサーさんに渡しました。
またやっちゃった……もうやだ! なんでこうなっちゃうんだろう……
P「あ、ありがとう。心配ないよ、意外と丈夫だから」
愛「救急車呼ばなくていいですか!?」
P「呼ばなくていいです!」
愛「……そうですか? はぁぁぁ。ごめんなさい、プロデューサーさん……」
P「もういいって。誰だって調子の悪い日くらいある」
愛「それは、そうかもしれませんけど……」
P「もう今日は寝よう。いろいろあって疲れただろ?」
愛「……そう、ですね」
体はぜんぜん疲れてないけど……なんだか精神的に疲れちゃいました。
だから今日はもう、プロデューサーさんの言う通りおやすみすることにします。
愛「……あれ? そういえばプロデューサーさん」
P「なんだ?」
愛「あたし、どこで寝ればいいんですか?」
P「そりゃもちろん……あ!?」
プロデューサーさん、なんだかすごくビックリしてます。
あたし、またなにか変なコト言ったかな?
P「しまった……愛ちゃんの分の布団、用意するの忘れてた!」
愛「えっ?」
P「……どうしよう」
愛「あたし、床でいいですよ?」
P「ダメだ! 夜は冷えるんだ、床なんかで寝たら風邪ひくだろ」
愛「じゃあ……」
P「俺が床で寝るよ」
愛「それもダメです! そしたらプロデューサーさんが風邪引いちゃいますよー!」
P「でも、それしかないって。愛ちゃんに風邪なんか引かせたら石川社長に殺されるよ」
愛「うう……」
あたし、幼妻の練習をしてるってことは、一応奥さんってことです。
旦那さんを床で寝かせるなんて、やっていいことじゃないですよね……?
愛「……あっ!」
閃きましたー! 1つだけ、2人が風邪をひかなくていい方法がありますっ!
……でも、これってすっごくイケナイことのような気がします。
あたし、ヘンな女の子だって思われないかなあ……
愛「……あの、プロデューサーさん」
P「ん?」
愛「とりあえずお布団は、1つはあるんですよね?」
P「ああ。俺が普段使ってるヤツだけど」
愛「じゃあ……プロデューサーさん」
愛「…………あたしと、寝てくれませんか?」
P「………………」
あれっ。プロデューサーさん、『はとがまめでっぽーくらった』みたいな顔してる。
もしもーし、プロデューサーさん?
P「……ハッ!?」
愛「プロデューサーさん、大丈夫ですか?」
P「あ、ああ……『寝る』ってそういう意味じゃないよな。愛ちゃんの言うことだし」
愛「あーっ! なんだか分からないけどプロデューサーさん、今バカにしたー!」
P「し、してないしてない! 俺が勝手に勘違いしてただけです、ハイ!」
愛「……勘違いって何ですか? あたし、一緒に寝たいって言っただけですよっ」
P「だよなー、俺はうっかり……」
P「……い、いやぁ!? それもまずいんじゃないのかな!?」
愛「だいじょーぶですっ! ママだってお風呂は別々ですけど、たまに一緒に寝てますし!」
P「そういう問題じゃなく、倫理的にだな」
愛「リンリテキ?」
P「……あぁ、もう! どう説明すればいいんだ?」
愛「…………なんだかよくわかりませんけど、早く寝ましょう! お布団はここですか?」
P「いや、そこじゃなくてあっちの押入れ。て、なに話進めてんの!?」
愛「こっちかあー! おりゃー!」
押入れからお布団を取り出すと、ぺったんこになった敷き布団と、薄目の掛け布団が出てきました。
きっとこれ、かなり長い間干してないんだろうなあ。明日にでも干しておこうっと!
愛「ふぁぁ……お布団見たら、急に眠くなってきちゃいました」
P「あ、そう。もういいや……俺は床で」
愛「そうはいきませんよっ! えいっ!」
P「おう!?」
あたしはプロデューサーさんの腕を引っ張って、揃ってお布団に倒れこみました。
これなら意固地になってるプロデューサーさんも、あたしと一緒に寝てくれますよね!
P「ヴォアアァァァ!! ち、近い近い近い!」
愛「なにがですか?」
P「な、なにって……!!」
P「か、顔とか、体とか! くっつきすぎだろ!?」
愛「かお…………」
そう言われて、改めてプロデューサーさんの顔を見てみると。
確かに、すっごく近くって。まるでドラマのキスシーンみたいな……
愛「…………ふぇっ?」
……あ、あれっ。なんだろうこれ。顔、熱くなってきた!?
おっ、おかしいなー!? あたし、一緒に寝るとか全然平気なはずなのに!?
P「……ほら。愛ちゃん、顔真っ赤になってるし」
愛「ぷ、プロデューサーさんだって真っ赤じゃないですかー」
P「いやいや、愛ちゃんの方が……」
愛「いえいえ、プロデューサーさんの方が……」
P「こ、こんな状態で一緒に寝るのか?」
愛「は、はいっ!」
もうここまで来たら引けません!
あたしだって、ちっぽけだけどプライドくらいありますっ!
P「そ、そうか。そこまで言うなら、俺も腹をくくるよ」
愛「それじゃあ……プロデューサーさん?」
P「……ああ。ほら、布団かけるよ」
愛「あ……は、はいっ」
プロデューサーさんが、優しく布団をかけてくれました。
1つ分のお布団に、2人はちょっと入れないです。だから、あたしは……
愛「ぷ、プロデューサーさん……嫌だったら、言ってくださいね?」
P「え…………うぉ」
プロデューサーさんに、ぎゅっと抱きついてみました。
こうすればお布団にも入れますし。何よりも、プロデューサーさんがあったかいから……
P「おいっ、さすがにこれは……」
愛「………………う」
お、落ち着いてみたらすっごい恥ずかしいよー!
なんでいつも勢いでやっちゃうの、あたしのバカぁー!
P「『水平リーベ僕の船』……ぶつぶつ……」
愛「……プロデューサーさん。なにつぶやいてるんですか?」
P「こ、この状態は男にとっちゃ拷問なんだ。煩悩を打ち払うために関係ないことを……」
愛「ぼんのーって……えっ?」
も、もしかしてプロデューサーさん。
あたしに……こんなちんちくりんのあたしなんかに、その…… う、嘘だよね!?
愛「プロデューサーさん、あの……」
P「『なんと立派な平城京』……ぶつぶつ……」
愛「……もー、プロデューサーさんったら。いいもんっ。おやすみなさい!」
なんだか相手をしてもらえなさそうだったので、もう寝ちゃいます。
ちょっとくらいお話してから寝たかったのに……
それにしても。プロデューサーさんはもしかしてあたしのこと、少し意識してたのかな……
P「……え、その体勢のまま寝るの? 俺、抱きつかれてると身動きとれないんだけど」
愛「知りませんっ。あたしの抱き枕になってください」
P「…………まったく」
あ……頭、なでなでされてる。気持ちいいです……
……ぜんぜん違いました。意識してるのは、あたしの方……
一緒に寝るくらいなんでもないと思ってたのに、気がついたら真っ赤になって、こんなことして。
あたし……本当に、プロデューサーさんのお嫁さんに、なりたい、な…………zzz……
―――翌朝。
延々と眠り続けていたあたしは、元気な雀たちの鳴き声で目を覚ましました。
愛「…………ん……っ」
愛「ふぁぁ……あれ? ここ、あたしの部屋じゃない……」
知らない天井が、あたしの目に入ってきました。
……昨日、何かあったんだっけ? 寝起きで頭がボーッとしててよく思い出せない。
それよりさっきからあたし、何か抱き抱えてる。なんだろう、抱き枕かな。
P「zzz……」
愛「………………」
……え? 男の人?
あ、あたし男の人と一緒に寝てるの!?
しかもすっごい抱きついちゃってるし! なっ、なんでぇー!?
P「……ん。あ、おはよ……愛ちゃん」
愛「あ…………」
お、思い出しました!
そういえばあたし、765プロのプロデューサーさんの家にお泊まりに来てたんでした。
しかも一緒に寝ようって言ったのは、あたしだった!
あぁー! 思い出してきた! い、一気に眠気なんか吹っ飛んじゃったよー!
愛「……お、おはようございますっ」
P「いま何時ぃ~?」
愛「え、えーと。10時半ですね」
P「10時半ね~。10時半……」
P「……え。今日って、平日?」
愛「はい。そうですよ?」
P「うぎゃあああああ!! 遅刻だあああああああ!!」
愛「お、落ち着いてくださいっ!」
P「落ち着いてられないって! 目覚ましかけ忘れてたんだ……早く支度しないと!」
そっか。765プロだとプロデューサーは毎日事務所に行かなきゃいけないんだ。
876プロは結構自由だから、尾崎さんはよく午後から事務所に来てるけど。
P「今からだとどんなに急いでも出社は11時過ぎ……定時の9時から2時間も遅刻だ」
愛「あ、そういえば朝ごはんは……」
P「ごめんいらない! そっちの背広取って!」
愛「はっ、はい!」
壁にかかっていた背広一式を取って、プロデューサーさんに渡しました。
プロデューサーさんは受け取ると同時に寝巻きを脱ぎ始め……
……ちょ、ちょっと! もしかしてプロデューサーさん、ここで着替えるつもりですか!?
愛「きゃあっ!?」
P「あ……ご、ごめん! でも急ぎなんだって!」
愛「あたし、あっち向いてますっ」
P「……助かります。って、愛ちゃんも急がなくていいの?」
愛「今日のお仕事は夕方からなので!」
後ろのプロデューサーさんに元気よく返事するあたし。
夕方からはCMの撮影があるんです。カップラーメンのCMだったかなあ。
P「そっか。それじゃあ留守番頼むな。訪問販売は居留守でいいから」
愛「はいっ、わかりました!」
ドタバタと慌ただしく着替えるプロデューサーさん。
プロデューサーさんが出かけたらあたしも着替えよっと!
P「よし、オッケー! 歯磨きは事務所でいいか……」
愛「忘れ物無いですかっ?」
P「無いと思う……よし、行ってき」
愛「あっ、プロデューサーさん!」
P「なに!? まだ何か……」
急いでるのにごめんなさい、プロデューサーさん。
あたしはプロデューサーさんの首元に手をやり、紺色のネクタイをキュッと締め直しました。
愛「もう、ずれてましたよっ! 気をつけて行ってらっしゃい!」
P「お……い、行ってきます」
愛「はいっ」
愛「プロデューサーさんも出かけたことだし……あたしはお掃除するよー!」
昨日軽くお掃除したけど、実はこの部屋、まだあまり片付いてないんです。
掃除機かけたりお布団干したり、色々やることありそう!
愛「まず窓を開けて、テーブルや棚を拭いて、掃除機かけて……」
愛「それから洗濯もしないと。プロデューサーさんの服、昨日のお掃除で洗濯かごに入れっぱなしだし」
愛「あっ。静かにお掃除しないとお隣りさんに迷惑かかっちゃう……」
あたしは普段、お掃除やお洗濯もママと分担してやってます。
でも一人暮らしだと、お仕事もあるのに一人で全部やらないといけないんですね。
せっかくあたしがいるんだから、ここはあたしが活躍しないと!
愛「この際だからトイレもお風呂もキレイにしちゃいます!」
愛「ごまえー♪ ごまえー♪ がんばーってーゆっきまっしょー♪」
あっ、そういえばお掃除するときって、よくベッドの下に1円玉やなくした本が落ちてるんですよね。
何か見つけたら、分かりやすいようにテーブルの上に置いておこうっと!
【876プロ事務所】
愛「おはようございまーす!」
絵理「おはよう。もう夕方だよ?」
愛「あっ、そうでした。涼さんは来てないんですか?」
絵理「涼さんは……さっき夢子さんに呼ばれて、出ていった?」
愛「夢子さんが来てたんですか?」
絵理「うん。涼さんに大事な話があるって」
愛「えっ!?」
桜井夢子さんは、涼さんのモトカノです。
今はフリーのアイドルやってるって聞きましたけど、なんでウチの事務所に……
もしかして夢子さん、涼さんとヨリを戻そうとしてるんじゃ!?
愛「絵理さん、落ち着いてる場合じゃないですよ!」
絵理「……どうして?」
愛「だって、このままだと涼さん取られちゃいますよっ!」
絵理「あ……それなら、心配ない?」
愛「ええっ!?」
心配ないわけないよー! 夢子さんが今でも涼さんのこと好きだったらどうするの!?
もうっ、絵理さんはぜんぜん分かってない!
涼さんはさっき出ていったばかりみたいだから、事務所を出たところにいるかも!
急ごう、あたしがなんとかしないと!
夢子「はい、涼」
涼「ありがとう夢子ちゃん。わざわざ届けに来てくれて」
夢子「べ、別にいいわよ。他の用事のついでよ、ついで」
いたー!!
涼さんと……夢子さん!!
愛「ダメぇぇぇぇ!!」
夢子「え、なに……ごふぅっ!?」
あたしは、渾身のタックルを夢子さんにヒットさせました!
が、勢いのついたあたし達は、2人揃ってアスファルトの上に叩きつけられて……
愛「うう……い、痛いよー!」
夢子「つぅ……! い、痛いってあんたね! それはこっちのセリフよ!」
涼「愛ちゃん、夢子ちゃん!」
夢子「あたたっ、背中打ってるし……どういうつもりよあんたは!」
愛「うぅ、だって夢子さん! 涼さんを取るなんてダメですよー!」
夢子「……は?」
涼「僕を取るって……何の話?」
愛「……あ、あれ?」
絵理「愛ちゃん。たぶん、誤解してる?」
涼「絵理ちゃん!」
絵理さん。いつの間にか絵理さんも事務所から出てきたみたいです。
あたしが誤解してるって、どういうことだろう?
それから10分後。
愛「じゃあ、夢子さんは涼さんにCDを貸しに来ただけなんですか?」
夢子「だからそう言ってるじゃない」
涼「廃盤になったCDを夢子ちゃんが持ってるって言うから、貸してって頼んだの」
愛「それ、絵理さんも知ってたんですか?」
絵理「うん。涼さんから聞いた」
愛「あう……」
またあたし、一人で突っ走っちゃったみたいです。
アイドルになって色々成長したと思ったのに、どうしてこのクセは治らないんだろう。
夢子「ていうかあたし、どんな女だと思われてんの? そこまで未練がましくないわよ」
絵理「ホント?」
夢子「……たぶん」
涼「た、たぶんって……」
【876プロ事務所】
夢子「あたし、お邪魔してていいのかしら」
涼「いいと思うけど……そういえば夢子ちゃん、何か用事があったんじゃなかったの?」
夢子「へ? 用事?」
涼「ほら、CD持ってきてくれたのは他の用事のついでだって」
夢子「あ……べ、別にいいでしょ。用事はキャンセルになったっていうか」
涼「ふーん、それならいいんだけど……」
絵理「……涼さん、ぜんぜん気付いてないよね」
愛「まぁ、涼さんですから。きっと絵理さんも苦労したんですよね」
絵理「ううん。現在進行形で、苦労してる?」
愛「……涼さん……」
涼「そういえば夢子ちゃん。最近よくウチでお仕事してるよね」
夢子「フリーになってから、石川社長にいくつか仕事回してもらってるのよ」
涼「それならもう、876プロに入ればいいのに」
夢子「……あんたと絵理が仲良くしてんの、見てられないもん」
涼「え? ごめん、途中から聞こえなかったんだけど……」
夢子「なんでもないわよ、バカ!」
涼「え、ええぇぇぇ?」
うわぁ……いくらモトカノとは言っても、夢子さんがちょっとかわいそうです。
涼さん、そんなこと続けてたらいつか刺されちゃいますよ!
まなみ「あ……そういえば愛ちゃん」
愛「はいっ、なんですか?」
まなみ「同棲生活は順調?」
涼「え……!?」
絵理「ど……」
夢子「どどど同棲ィィィィ!? あ、あんたが!?」
愛「はいっ。あたし今、765プロのプロデューサーさんと一緒に住んでるんです!」
涼「あの人!? うわぁ。律子姉ちゃん、愛ちゃんに負けちゃったんだ……」
実際には、恋愛や同棲の練習なんですけどね。
あ、でも……お嫁さんになりたいって思ってるのは、結構ホンキです!
これって恋愛感情? ただ一緒にいたいだけ? その辺はまだよくわかってないですけど。
愛「同棲生活、楽しんでますっ!」
まなみ「そう。最初はどうなることかと思ったけど、それならいいかなあ」
夢子「う、嘘でしょ……あんたがそこまで進んでるなんて」
絵理「ちょっと、意外?」
涼「そもそもアイドルが同棲するのって、876プロ的にはアリなんだ……大変じゃなかった?」
愛「あたしの場合は、社長がいろいろお手伝いしてくれたので!」
涼「社長が自分から同棲の手助けをしてくれたの!? し、信じられないよ……」
絵理「愛ちゃんがアリなら……わたしたちも同棲する? 涼さん」
涼「えっ……い、いいの?」
絵理「わたしは一人暮らしだし。涼さんが望むのなら……いつでも?」
涼「……ゴクリ」
涼さんの生唾を飲む音が聞こえました。もしかして涼さん、結構その気なんじゃ……
同棲っていろいろありますけど、なんだかんだで楽しいですから!
涼さんや絵理さんも、同じように思ってくれるといいなー!
夢子「あああああ!! 人前でイチャイチャするんじゃない!」
涼「ぎゃおおおおおん!! 夢子ちゃん、ほっぺたつねらないで~!!」
愛「もー夢子さんってば、やっぱり未練たらたらですねっ」
夢子「だって……好きな気持ちって、そんな簡単に切り替えられるもんじゃないわよ!」
絵理「新しい恋に、生きて?」
夢子「ぐっ……あ、あんたが言うな!! 飴玉食べさせるわよ!?」
絵理「ひうっ!?」
出ました! あれが多くのライバルを蹴落してきた恐怖の飴玉です!
涼さんに説得されてやめたって聞きましたけど、なんでまだ持ち歩いてるんですか……?
絵理さんは、夢子さんのこと分かっててヒドいこと言ってるような気がしますけど……
三角関係のドロ沼展開にはならないように気をつけてくださいね!
ちょっと休憩
【CM撮影スタジオ】
愛「よろしくお願いしまーす!」
監督「はい、よろしくねー」
まなみ「今日はもう1人アイドルが来ると聞いてるんですけど……」
監督「そっちもさっき挨拶に来たところだから、今は更衣室で着替えてるんじゃないかな」
愛「ちょっとご挨拶してきます!」
まなみ「ああ待って愛ちゃん、私も行くから!」
もう1人のアイドルって、誰だろう。あたしの知ってる人かな?
876プロの誰かじゃないのは分かるけど……
大きな撮影スタジオだと、楽屋、メイク部屋、更衣室がバラバラなんてことがあるんですよね。
あたしもこんなところで仕事できるくらいにはなったんだ……
ちょっと感動しながら、あたしは近くにあった更衣室の扉を勢い良く開けました。
愛「こんにちはー!」
貴音「……ごきげんよう」
愛「わっ……すごい」
そこにいたのは、絵本の中から飛び出してきたような……素敵なお姫様でした。
上も下も下着姿で、ちょっと困ったような顔をしてましたけど。
まなみ「あ、愛ちゃん! いきなり開けちゃダメでしょ!」
貴音「愛……それではあなたが本日共に撮影に臨む、876プロの日高愛でしょうか?」
愛「はい! よろしくお願いしますっ!」
まなみ「あなたも普通に応対してないで、少しは焦ってください!」
貴音「ああ、申し訳ありません。わたくし、なにぶん世俗の常識に疎く……」
貴音「わたくし、四条貴音と申します。日高愛、今後とも良いお付き合いを」
愛「はいっ! って『四条貴音』さん?」
そのお名前、どこかで聞いたことがあります。
それに、この人の特徴。
綺麗な銀色の髪、透き通るような声、男の人並みに高い身長、おっきい胸とお尻……
これも知ってるような気がするよー。どこで聞いたんだっけ?
愛「……あっ! そうだ、絵理さんが言ってた人だ!」
貴音「絵理さん……とは、もしや水谷絵理のことでしょうか」
愛「はい!」
貴音「そうですか、彼女からわたくしのことを……そういえば水谷絵理も876プロでしたね」
愛「あたしと絵理さんは同期なんです!」
貴音「そうでしたか。水谷絵理の同期であるならば、あなたにも期待できましょう。日高愛」
愛「え、ええっ!? あ、あたしなんて微妙ですよ……このお仕事でも四条さんと釣り合うかどうか」
貴音「微妙、とは?」
愛「……会っていきなりなんですけど。あたし、四条さんみたいな人に憧れてるんです」
貴音「わたくしに……」
愛「髪が長くて、声も綺麗で、スタイル良くて。ママもそうなんです。ママは、あたしの目標です」
貴音「……それでは、あなたの母親も」
愛「はい、アイドルでした。それもかなり有名だったみたいで、あたしいつも比較されちゃって」
貴音「………………」
あたしのママ、日高舞。
一児の母になってからはアイドルを引退したけど、アイドルだった頃はもう凄かったみたい。
ママ一人の行動であまりにお金が動くから、その名前を聞けばこの業界で震えない人はいないとか。
そんなママと四条さんのまとう雰囲気が、本当にそっくりだったんです。
愛「……ママや四条さんと比べたら、あたしって……」
貴音「……日高愛。自分を卑下するのは感心しません」
愛「えっ?」
貴音「例えば、髪が短いのはあなたの武器です」
愛「武器……ですか?」
貴音「ええ。わたくしは短髪でより似合う髪型を知らぬ故、長髪にしているだけ」
愛「でも、スタイルは……」
貴音「小さいからこそ、快活な少女といういめーじが生まれるのです。それはあなたの特権ではありませんか」
愛「歌は?」
貴音「練習すれば上手くなりましょう。あなたはまだ若く、伸び白も大きいのですから」
愛「…………四条さん」
貴音「『貴音』と呼んでください。共にトップアイドルを目指して精進致しましょう、日高愛」
……ありがとう、貴音さん。やっぱり今のあたしじゃ貴音さんには勝てそうにないです。
単純に能力や見た目の問題じゃなくて、いろいろと。
でも、がんばりますね! 貴音さんに……そしてママに、いつか追いつくために!
貴音『美味でした……らぁめんおかわり』
愛『たるき亭カップヌードル! 今なら抽選で、日高愛か四条貴音との握手券が付いてくるよー!』
監督「はいオッケイ! 二人とも良かったよ!」
愛「ありがとうございますっ!」
貴音「ありがたきお言葉……」
愛「CM、どんなデキになるのか楽しみですね!」
貴音「まこと、その通りです。ところで日高愛。この後、所用などはありますでしょうか」
愛「いえ、特に無いですよっ。ですよね、まなみさん」
まなみ「ええ。今日はこれだけね」
貴音「では、少しお時間を頂戴したいのですが」
まなみさんと別れた後、貴音さんに連れてこられたのは商店街のラーメン屋さんでした。
店員さん達が腕を組んで並んでるポスターがいっぱい貼ってあります!
店の中に入るとお客さんは一人もいなくて、店員さんが一人いるだけでした。
大将「へいらっしゃい! おっ、貴音ちゃん」
貴音「ごきげんよう。いつものをお願い致します。こちらの方にも、量を4分の1で」
大将「あいよっ」
愛「ここ、よく来るんですか?」
貴音「はい。ここを選んだのはらぁめんが美味なのと、話しやすい雰囲気があるからです」
愛「話しやすい雰囲気?」
貴音「店の方が、わたくしをアイドルとして見ないので」
あっ、それちょっと分かります。でもアイドルの宿命として、ある程度は割りきってますけど。
最初の方は『サインください』『握手してください』って言われると嬉しいんだけど、
ファンが増えてプライベートにも影響が出てくると、ちょっと困っちゃうんですよね……
愛「じゃあ、あたしに何か話が……」
貴音「はい。話と言っても、単に言葉を交わしたいと思う限り。特別な話があるわけではないのです」
へっ?
それって、あんまり大事じゃない話……趣味とか、どうでもいい話がしたいってこと?
貴音「例えばわたくし達の話、音楽の話、らぁめんの話、トップアイドルの話、らぁめんの話……」
愛「ラーメン2回入ってましたよ!?」
貴音「む……面妖な」
貴音さんって見た目は固そうなイメージだけど、ホントは全然そんなことないみたい!
特に、こんなお姫様みたいな人がラーメン大好きだなんて、最初は誰も思わないんだろうなあ。
あ、その意外性で今日のCMにも採用されたのかも?
お店にいたのは1時間くらい。その間、貴音さんとはいろいろな話をしました!
途中でちょっと失敗しちゃいましたけど……
貴音「我が765プロのプロデューサーと同棲、ですか」
愛「はい!」
貴音「……その話、あまり外でしない方が良いかと思います」
愛「えっ?」
貴音「どこに『ぱぱらっち』が潜んでいるか分かりません」
愛「あっ……そ、そうでした! アイドルが同棲なんて知られたら」
そこでハッと気付きました。
今の話、店員さんに聞かれたんじゃ……
大将「うわぁ~、モバマスに夢中になって何も聞こえてなかったぞぉ~」
愛「………………」
貴音「感謝しましょう、日高愛。わたくし達はこういう方々に支えられているのですから」
それって、気を使ってくれるファンってことですか? それとも、オタ……
【プロデューサーの部屋】
愛「ただいまー!」
愛「……あっ、まだプロデューサーさん帰ってきてないんだ。お夕飯の準備でもしておこうっと」
愛「あとは干してあったお布団や洗濯物を取り込んで……」
愛「えっと、プロデューサーさんの服はどこに片付ければいいんだろ?」
愛「…………プロデューサーさんの、服」
愛「………………」
もふっ、と。
プロデューサーさんのワイシャツに、顔を埋めてみました。
時間が時間なのですっかり冷たくなってます。でも……
愛「……これが、プロデューサーさんの匂いかぁ。プロデューサーさんは、いつもこれを着てるんだ……」
愛「お風呂のときもそうだったけど……あたし、やっぱり変な子なのかな」
P「ただいまー」
愛「うっひゃああぁぁぁぁ!?」
さるった
愛「おっ、おかえりなさいっ!」
P「今日の仕事はどうだった?」
愛「はっ、はい! 絶好調でした!?」
P「なんで疑問形なんだ……」
ああっ、ホントだー!? 絵理さんじゃないんだから!
もう、あたしテンパりすぎです!
P「あ、それ……俺のワイシャツ?」
愛「は、はいっ」
P「洗濯しといてくれたのか。ありがとな」
愛「これも妻の務めですっ!」
P「……ちなみにトランクスとかも一緒にあったと思うけど、それも洗ったの?」
愛「いえっ! 色移りしないように分けて洗いました!」
P「いや、そういうことじゃないんだけどね……」
あ……そっか。トランクスって、プロデューサーさんの……
そんなの全然意識してなかったのに。でも、なんだか急に恥ずかしくなってきました……
昨日の夜、一緒のお布団で寝たときもそうでしたけど。
一度意識しちゃうと、もう元には戻れないような気がします。
うう、なんだかモヤモヤするよー!
P「愛ちゃん、顔が赤くなってるけど大丈夫?」
愛「だ、だいじょーぶです!」
P「熱とか出てないか? おでこで測ってみる?」
愛「い、いいれすっ!」
噛んだー!! あたしのバカァァァ!!
でもプロデューサーさんとおでこなんかくっつけたら、顔から火どころじゃ済まないよー!!
愛「あ、あとっ! 他にもお掃除とかもしておきました!」
P「え? そんなことまでしてくれたのか。本当に助かるなぁ」
愛「で、ベッドの下にいっぱい本が落ちてたので、それは本棚に並べてありますっ」
P「…………!?」
愛「え……エッチな本は、まとめて隅っこに置いておきました……」
P「うぎゃあああああ!! お、終わった……」
愛「だ、だいじょーぶですっ! 男の人はそういう本持ってるってママも言ってましたから!」
P「違うんだ……見られたっていう事実が俺には大ダメージなんだ……」
愛「でもあたし、気にしません! プロデューサーさんがひんにゅー好きのヘンタイさんでも!」
P「げぶぁっ」
あっ、プロデューサーさん!? しっかりして、プロデューサーさぁん!
千早「(・∀・)ニヤニヤ」
それからは、少し遅めの夕食を摂りつつ……
あたしはプロデューサーさんに、今日あったことを報告してました。
愛「あたし、ママにコンプレックスがあるのかもしれないです」
P「ママっていうと、日高舞か……あの人は本当に凄かったらしいな」
愛「でも貴音さんが励ましてくれて、これからもっと頑張れる気がしてきました!」
P「そっか。貴音には今度、俺から礼を言っとくよ」
愛「プロデューサーさんから?」
P「『ウチの嫁を助けてくれてありがとう』ってさ」
愛「あ、あぅ……嫁、って……」
ほんとにお嫁さんにしてくれますか、プロデューサーさん?
……なーんて、言えるわけもないんですけど! えへへ……
P「愛ちゃんは掃除も炊事も洗濯も全部やってくれて、立派に『お嫁さん』してるよ」
愛「……本当に、そう思ってますか?」
P「うん。どこに嫁に出しても恥ずかしくないって」
愛「じゃあ……あたし、お嫁に行こうかなぁ」
P「……え?」
愛「あたし、まだ13歳ですから。あと3年経って結婚できるようになったら、お嫁に行きたいです!」
P「い、いきなりだな。肝心の結婚相手はどうするんだ?」
愛「それは……いるような、いないような……」
P「な、なんだそれ。即答できないくらいならやめておいた方がいい。うん、やめとこう」
……プロデューサーさん、何か焦ってる? 気のせいかなぁ。
P「ち……ちなみに、なんでハッキリしてないんだ?」
愛「今の自分の気持ちが、恋愛感情なのか、ただ信頼してるっていうだけなのか、分からなくて……」
愛「簡単に言うと、ある人のことが好きだって言えるのか、よくわからないんです」
P「……そういうことか。友達や同期に相談してみるとか」
愛「そう、ですね……」
P「……あと、俺とか」
愛「プロデューサーさんに?」
P「何でも手伝うから、相談に乗れることがあったら言ってくれ。複雑な気分だけど……」
愛「……『何でも』ですか?」
P「ああ」
愛「…………あはっ! きっと後悔しちゃいますよ、それ」
P「こ、後悔? なんでだ?」
愛「あはははっ!!」
言った以上は責任取ってくださいね、プロデューサーさん!
あたしがどんな相談をしても、ゼッタイに!
―――同棲生活、三日目の朝。
ちゃんと目覚ましをかけたおかげで、寝坊はしなかったんですけど。
愛「……おはようございます」
P「うん、おはよう……」
またあたし、プロデューサーさんに抱きついてるし……
ほら、プロデューサーさんも気まずそう。
昨日と違うのは、プロデューサーさんもあたしを抱きしめてるってことくらい。
……あ、あれ? これってもしかして……
愛「あの……痛いです、プロデューサーさん」
P「……!? ご、ごめん!」
愛「い、いえっ……」
二人して、ふいっと顔を反らしてしまいました。
な、なんか気まずくも甘ったるい雰囲気っていうか。朝からこんなのでいいのかなぁ……
そういえば昨日、お布団買いに行くって話はまったくしなかったんだっけ。
夜になったら二人とも、自然と同じお布団に入ってたし……もう買わなくてもいいのかな。
プロデューサーさんが着替えている間に、あたしは軽めの朝食を作ります。
昨日の残りのごはんとインスタントのお味噌汁、それにささっと作ったベーコンエッグです。
P「おっ、今日も美味そうだ。いただきます」
愛「召し上がれ! 今日は遅くなりますか?」
P「いや、昨日と同じくらいかな」
愛「じゃあ夕食作って待ってますね!」
P「うん、楽しみにしてる。愛ちゃんも仕事の方、がんばって」
愛「はいっ!」
いいな、こういうの……プロデューサーさんも同棲生活に憧れてたって言ってたし。
でも、これは映画の練習。あたし、あと何日くらいこうしていられるんだろう……
そんな朝の雰囲気を満喫していると。
『ピンポーン』
……と、呼び鈴が鳴りました。
愛「あたし、出てきますね」
P「ま、待てっ!」
愛「えっ?」
P「こんな時間に俺の家に来るヤツは、一人しか考えられない……」
プロデューサーさんの顔が険しくなっていきます。
だ、誰なんだろう。そんな物騒な人が来てるのかな。
愛「こ、怖い人ですかっ?」
P「ある意味怖いな……愛ちゃんは絶対に姿を見せちゃダメだ」
愛「は……はいっ」
あたしは壁に隠れて聞き耳を立てました。ここなら玄関からは見えませんし。
美希「ハニー、おはよう!」
P「あ、ああ。おはよう美希」
美希「最近お仕事が忙しくて来れなかったけど、久しぶりに迎えに来たの!」
今の声……それにプロデューサーさんが『美希』って言ってたから、きっと美希センパイだ!
な、なんか嫌な予感がするよー!
美希「……あれ? ベーコンの匂いがするの」
P「い、今の今まで朝メシだったからな」
美希「ハニー、料理ほとんどできないって言ってなかった?」
P「……さ、最近練習してるんだ」
美希「ふーん……」
P「もういいだろ。すぐ支度するから、早く行くぞ」
美希「ハニー、なんでせかすの? まだ時間あるのに」
P「べ、別にせかしてなんかないぞ」
美希「ハッキリ言って、すっごく怪しいの。さっきから何か焦ってるし。ミキに隠し事してない?」
P「そ、そんなわけないだろ……」
美希「それに、玄関から見えるだけでも前来た時よりずいぶん片付いてるの」
P「それは……お、大掃除をしたんだよ」
美希「……なんとなくだけど、ハニーは女の子を連れ込んでるって、ミキ的には思うな」
み、美希センパイ鋭いです!
そういえば美希センパイ、プロデューサーさんのことが気になるって言ってたような。
あたしがプロデューサーさんと同棲してるなんて知ったら、美希センパイ……
P「な、何を根拠にそんな」
美希「女物のクツもあるし」
P「えっ!? 昨日片付けといたはず……あっ」
またさるった。ちょっと時間あけるわ
美希「『昨日片付けといた』って言った? ハニー」
P「そ、それはだな……」
み、美希センパイ凄すぎるよー!
美希センパイが来ることを見越して、プロデューサーさんはあたしのクツを片付けておいたみたいです。
それだけでも凄いのに、美希センパイはそれを囮に、更にプロデューサーさんをひっかけて……
美希「ハニー。誰なの?」
P「え……」
美希「この奥に……ハニーの部屋に、誰がいるの?」
P「……………‥」
美希「そう。その子を守るんだね。ミキよりその子が大事なんだ」
P「そ、そういう問題じゃないだろ……?」
美希「………………」
美希「えいっ」
P「あっ! 勝手に靴棚を……」
美希「ほら、あったの」
P「ぐ……」
うそ……あたしのクツ、見つかっちゃったみたいです。
でもいくら美希センパイでも、それが誰の物かまでは分かりませんよね……?
美希「……ふーん。ミキ、このクツに見覚えあるの」
P「えっ!?」
美希「ミキ、ファッションにはうるさいから。誰が履いてたかなんてすぐ分かるよ」
P「う、うそつけ」
美希「じゃあ、試してみる?」
美希「……そこにいるんだよね、愛」
バ、バレてるー!?
美希センパイ、ベーコンの匂いからあたしにたどり着くなんて……どこの探偵さんですか!?
美希「間違ってないよね? ハニー」
P「…………愛ちゃん、出ておいで」
……プロデューサーさんが言うなら、と。
あたしはおずおずと、美希センパイの前に姿を現しました。
美希「……久しぶりだよね、愛」
愛「はい……」
美希「いつから住んでるの?」
愛「一昨日から、です……」
美希「ミキがハニーのこと好きだって、知ってるんだよね?」
愛「…………はい」
パンッ!って音。
その音から少し遅れて、あたしの頬に痛みが走りました。
……叩かれた、あたし。あの美希センパイに……
美希「なぁんだ、やっぱり嘘だったんだね....
中 に 誰 も い な い の」
美希「サイテーなの! ミキの気持ち分かっててそういうことするんだね、愛って」
愛「…………」
この同棲はあくまでも映画の練習で、本当の同棲じゃないこと。
プロデューサーさんが選ばれたのは、石川社長と高木社長の意向だってこと。
美希センパイがプロデューサーさんを、そこまで好きだなんて知らなかったこと。
色々言いたいことはあったけど……
その時、あたしが言えたのは。
愛「……ごめんなさい」
……たった、それだけでした。
美希「……謝るくらいなら最初からするなって、誰かに言われなかった?」
愛「………………」
美希「ハニー。今日はミキ、帰るね」
P「え……帰るって、まだ朝だぞ! 仕事は!?」
美希「知らない。ハニーがなんとかして」
P「お、おい!」
プロデューサーさんの静止する声も無視して、美希センパイは走り去っていきました。
あたしのせいだ。あたしが練習とか言って、こんなことしてるから……
あたしが……あたしがプロデューサーさんにも美希センパイにも、迷惑かけてるんだ!!
愛「うぅ……うわぁぁぁぁぁん!!」
P「なっ!? 泣くなよ愛ちゃん!」
愛「だって、だってぇぇぇ! ああぁぁぁぁん!!」
それから30分くらい経って、あたしはようやく泣き止むことができました。
プロデューサーさんはさっきまで横であたしをなだめてくれてましたけど、
あたしが落ち着いたからか、今は事務所に電話をかけてるみたいです。
P「はい、風邪が酷いので今日は休ませてください……はい、失礼します」
P「これでよし……愛ちゃん、もう大丈夫?」
愛「ぐず……は、はいぃ……」
P「765プロと876プロの事務所には電話しておいたから。俺達、今日は休みだよ」
愛「えっ……ぷ、プロデューサーさんまでお休みしなくても」
P「1日くらいなら律子がうまくやってくれる。愛ちゃんもレッスンだったし、1日分なら後で取り戻せるよ」
誰かにそばにいて欲しかった。それは正直な気持ちです。
でもあたし、またプロデューサーさんに迷惑かけてます……
P「それに、俺の嫁をほっとくわけにはいかないだろ」
愛「嫁って……それは、練習で……」
P「練習でも、嫁は嫁だ」
愛「………………」
こんな時でも優しいんですね、プロデューサーさん……
プロデューサーさんは、美希センパイを追いかけずにあたしのそばにいてくれました。
そんなことしたら事務所に行ったとき、美希センパイに何を言われるか分からないのに……
P「無理はしなくていいからな。元を正せば、全面的に俺が悪いんだ……」
P「こんなの償いになるか分からないけど、今日は一日一緒にいるよ」
愛「…………っ!」
『あたしが傷つけば、この人はあたしのそばにいてくれる』
……あたし、今そう考えてた! こんな状況を、あたしは内心喜んでるの!?
嫌、イヤイヤイヤァッ!!
あたし、こんな風に考えたくないのに! こんなのやだ、やだよぉ……
愛「……このままじゃ、ダメ……あたし、今日にでも出ていきます」
P「え?」
あたしの中に、気持ち悪い感情が渦巻いてる。
こんな状態でプロデューサーさんのそばにいたくない!
愛「短い間でしたけどっ、お世話に」
P「ダメだ!!」
愛「えっ……」
なんで。
なんで止めちゃうんですか、プロデューサーさん。
あたし、もう……
あたしが出ていこうとすると、プロデューサーさんが
背中からぎゅっと……あたしの小さな体を抱きしめました。
P「バカなこと言うな。勝手にいなくなったら俺も困る」
愛「……ほんと、ですか?」
P「嫁に出せるくらいだって、昨日言っただろ?」
愛「はい……言われました」
P「たった数日だけど、一緒にいて楽しかった。俺の支えになってくれてた」
愛「あたしも……あたしもですっ。プロデューサーさんに、いっぱい助けられました……!」
P「もう俺、愛ちゃんのいない家なんて考えられないよ」
愛「……それじゃあ、あたしここにいてもいいんですか?」
P「ずっといればいい」
愛「プロデューサーさん……」
P「あと、だらしない俺の面倒見てくれる人、他にいないし」
愛「…………」
さ、最後のはちょっと余計です、プロデューサーさん。
あたし、せっかく感動してたのに……
愛「でもプロデューサーさん。美希センパイのことは……」
P「俺は美希が好きなわけじゃない。あいつは俺が面倒を見てるアイドル、それだけだよ」
愛「……美希センパイに好きって言われて、プロデューサーさんも好きになったり」
P「ならないって。俺が好きなのは……」
愛「…………」
P「……言うとまずいような気がするから、やめとく」
愛「え、えぇー!?」
プロデューサーさん、ここまで来てそれはあんまりですよー!
そこが肝心なんじゃないですかー!!
P「いや、さすがに13歳は……」
愛「……じゅうさんさい?」
P「あっ」
愛「そ、それって……もしかして」
P「……ていうか『ずっといればいい』って言っといて、隠す意味もないな、これ」
愛「うそ……嘘ですよね」
P「嘘じゃない。俺、愛ちゃんのことが……好きだ」
ずっと。
ずっと聞きたかった言葉。
一生あたしに向けられることなんて無いって、思ってた言葉。
愛「……プロデューサーさん。あたし、こんなのですよ?」
愛「涼さんや絵理さんみたいに、デキる人じゃないし……」
愛「貴音さんみたいな魅力もなくて、美希センパイと違って何度も失敗して……」
愛「プロデューサーさんがいれば何でもいいって思っちゃう、汚い子ですよ……?」
P「いいじゃないか、人間らしくて。完璧超人なんてつまらないだろ?」
愛「……プロデューサーさん」
もし、嬉しい時に一緒に喜びたいって思える人がいるのなら。
もし、つらい時にそばにいて欲しいって思える人がいるのなら。
愛「あたしプロデューサーさんのこと、すっごく信頼してます」
その人がきっと『好きな人』なんだよね。
あたし、同棲だけじゃなくて……恋愛もいつの間にか練習できてたんだ。
愛「プロデューサーさんもあたしのこと、頼ってくれてる……と思います」
お嫁さんになりたい。それって、ただ頼るだけで生まれる気持ちじゃない。
だとしたらあたし、そう思った時からずっと……
愛「でもあたし、もう一歩先の関係に進みたい!」
愛「プロデューサーさん!! あたし、プロデューサーさんが大好きですっ!!」
P「……愛ちゃん」
愛「あたし! 自分の気持ちに気付いてませんでした!」
P「あの」
愛「プロデューサーさんと一緒にいて、毎日楽しかったのに!」
P「ちょっ」
愛「好きって気持ちが分からなくて、ずっと悩んでたんです!」
愛「でも分かったんです! どろどろで暗い気持ちになったとき、ずっと、ずっと」
愛「あたし、プロデューサーさんのことを考えていたんです!」
愛「プロデューサーさんと一緒にいたい……これまでも、これからも!」
愛「あたしを……プロデューサーさんのお嫁さんにしてください!!」
P「……先に言われた」
愛「えっ?」
P「俺が『嫁に来てくれ』って言うつもりだったのに……」
愛「え……えええっ!?」
あぁぁぁ!! こんな時まであたし、何やってるんだろう……
プロポーズしてもらうチャンスも、プロデューサーさんの見せ場も、一緒に潰しちゃったよー!
P「……まあいっか。こっちの方が愛ちゃんらしいし」
愛「そ、その言われ方は複雑ですけど……」
P「これで、俺もいずれは妻帯者になるのか。節約して金貯めるかぁ」
愛「えへへ……あたし達、結婚するよー!」
P「あと3年経ったらな」
愛「いっぱい子供作るよー!」
P「……絶対それ外で言うなよ。俺捕まっちゃうから」
【同棲生活4日目 876プロ事務所】
高木「はっはっは……いやあ、また1つ876プロとの繋がりが強くなったね」
石川「そうですね。ある程度予想はできてましたけど」
まなみ「もう、社長! そんな軽い話じゃないですよ!?」
P「………………」
愛「………………」
次の日。
あたしとプロデューサーさんは、876プロの事務所に一部の人を集めて、あたし達の関係を話しました。
予想通り、まなみさんは怒ってましたけど……
社長は意外と冷静だったっていうか、何も言ってこなかったんです。
石川「まあ男と女だから、そういうこともあるわよ。涼と絵理みたいにね」
あれぇー!? 涼さんと絵理さんのこと、社長知ってたんですか!?
じゃああの二人ってうまく隠してるつもりで、実は社長に弄ばれてるだけってことに……
石川「とにかく、ファンや記者にバレないように。デートしたいなら変装してやりなさい」
愛「はいっ」
石川「バレたら即クビよ。知ってると思うけど、私は身内でも容赦ないから」
愛「は、はいぃ……」
男の子の涼さんが無理やり女の子アイドルにされたことを考えると、
たぶん、バレた時にはあたしも一瞬でクビにされちゃうと思います……
まなみ「社長……はぁ、もういいです。社長命令なら従いますっ」
石川「それが懸命よ、決定事項を覆す気もないし。あと、他に知らせておくべき人はいないの?」
P「それが……1人だけ、大ボスがいるというか……」
高木「むぅ。確かにかなり手ごわいと思うが、怪我だけはしないようにな」
P「はは……状況次第ですね」
愛「………………」
【765プロ事務所】
P「おはよう、みんな」
真「おはようございまーす」
P「あれ? 今日は真だけか?」
ソファに座って雑誌を読んでいたのは、765プロのアイドル、菊地真さんでした。
美希センパイ、来てないのかな……
真「あっちの仮眠室で美希がフテ寝してますよ。昨日無断欠勤して、さっきまで社長にお説教されてたんで」
P「ちょうどいい。真、悪いんだが1時間ほど、外で時間潰してきてくれないか?」
真「……大事な話ですか? 愛もいるところを見ると、愛絡みの何かなんでしょうけど」
真さんがあたしとプロデューサーさんの面持ちを見て、急に真剣な顔になりました。
本当なら久しぶりに会った真さんにご挨拶したいところなんですけど、今日は……
真「……分かりました。その代わり、今度のステージはフリフリの衣装でお願いしますね!」
P「か、考えとく……」
真「やーりぃ! じゃ、行ってきまーす」
一転、破顔して意気揚々と出かける真さん。
この空気を少しでも和らげるために、わざとテンションを上げてくれたのかもしれません。
でもあたし、『考えておくわ』って言われたものの、
希望が叶わないままズルズルと女の子アイドルやってる人、一人知ってますけど……
それは言わぬが花、ってやつだと思います。ありがとう、真さん!
仮眠室の前まで来て、ちょっと緊張してきました。もしかしたら、取っ組み合いのケンカになるのかも。
……でも。
愛「プロデューサーさん。あたし、一人で行ってもいいですかっ」
P「な……なんで急に」
愛「……女の子って、男の人の前では飾る生き物なんです。もちろん、あたしだってそうです」
愛「美希センパイと本心で話すには、あたしが一人で話さないとダメだと思うんです」
P「…………決意は固いみたいだな。分かった、ここで待ってる」
愛「ごめんなさい、ワガママ言って」
P「俺こそ、全部愛ちゃんに押しつけて……」
愛「そんなこと、いいんです。それより、無事に帰ってこられたら……キスしてくださいね!」
P「!?」
愛「約束ですよー!」
あたしは、声にならない叫びを上げているプロデューサーさんを尻目に、仮眠室の扉を開けました。
あはは……どうなっちゃうのかな、あたし。
仮眠室に入ると、中は真っ暗でした。
電気をつけて、扉に鍵をかけます。誰も入ってこられないように。
美希「………………」
……いました。美希センパイ、うつ伏せで寝てます。
美希「……何の用?」
愛「起きてたんですね」
美希「昨日あんなことがあったのに、グースカ寝てられるほど図太くないの」
愛「さっきまでフテ寝してたって聞きましたけど」
美希「……真くんのバカ。もうカワイイ服の売ってるとこ、教えてあげないもん」
愛「美希センパイ。起きてください」
美希「やなの」
愛「大事なお話があるんです」
美希「聞きたくないの」
愛「美希センパイ!」
美希センパイの腕を掴んで、無理やり引き起こします。
こんなお話、寝転がりながらじゃできないです……!
愛「…………あっ」
美希「ッ! 見ないでッ!!」
……美希センパイは、目の下が真っ赤でした。それに、ずいぶん顔色も悪いです。
寝不足とか寝過ぎとかじゃなくて、きっと一晩中……
美希「やだ……やだ、見ないでよ……」
愛「美希センパイ……」
美希「だって美希、ハニーが好きなの……愛に取られたくないんだもん……」
愛「あたしだって! プロデューサーさんが好きなんです!」
美希「……っ!!」
ぺちん、と。
また、美希センパイに叩かれました。あの時とは違って、弱々しい手で……
美希「なんで? ミキの何がダメなの?」
愛「………………」
美希「腕組んだり、毎日会いに行ったり、色々アピールしたのに! なんで!?」
美希センパイにぐいぐいと詰め寄られてます。
だ、ダメ! ここで引いたらダメです! あたし、プロデューサーさんのお嫁さんになるんだから!
愛「……あたしバカだから、よくわかんないですけど」
愛「あたしは、プロデューサーさんを頼りにしてます。プロデューサーさんもあたしを頼りにしてくれてます」
愛「……たぶん美希センパイは、一方通行なんです」
美希「一方通行……?」
愛「プロデューサーさんの支えになるようなこと、一度くらいしてあげましたか?」
美希「………………」
愛「プロデューサーさんがいつも寂しがってたって、知ってましたか?」
美希「え……そ、そんなこと、ハニーは一度も……」
愛「好きな人に、好き好きってアピールするだけでいいわけないじゃないですか!」
愛「なんでその人のことを知ろうって……好きになってもらおうとしないんですか!」
美希「……う……うう……」
愛「最初は、映画の練習でした。でも恋愛も同棲も、気が付けば練習じゃなくなってました」
愛「あたし、プロデューサーさんにどんどん惹かれていきました」
愛「一度は迷惑かけてる自分が嫌になって離れようとしましたけど、プロデューサーさんが止めてくれました」
愛「あたしが必要だから、ずっといればいいって言ってくれました」
愛「だから、美希センパイには悪いけど……あたし、プロデューサーさんだけは譲れません!」
美希「………………」
愛「………………」
うう、沈黙が怖いよう……
美希センパイ、何か言ってくれないかなあ。
美希「……愛」
愛「はいっ!?」
美希「ハニーは……愛に告白したの?」
愛「は、はいっ。好きって言ってもらえました」
美希「……そのときハニー……ミキのこと、何か言ってた?」
愛「え? あ……」
1つだけ、ありました。
でも、これは……
美希「言って。そうでないと、ミキ……」
愛「…………」
『俺は美希が好きなわけじゃない。あいつは俺が面倒を見てるアイドル、それだけだよ』
美希「……そう、なんだ。あは、アハハハハ」
愛「美希センパイ!?」
美希「ミキ、バッカみたい……一人でその気になって、ハニーの奥さん気取って」
美希「もう、サイアク……ひくっ、えぐっ……」
愛「……美希センパイ」
美希センパイみたいに強気に生きてる人でも、やっぱり悲しいと泣いちゃうんだ。
その美希センパイを泣かせたのは……あたしなんですね。
愛「……ごめんなさい」
美希「あっ、謝るくらいならするなって、ひっく、言ったのに……愛の、バカァ……ぐすっ……」
愛「美希センパイ」
美希「うぐっ……ちょっと、一人にして……お願い」
愛「でもあたし、今の美希センパイを……」
美希「だいじょうぶ……死んだりしないから。ね……?」
愛「…………はい」
外に出ると、プロデューサーさん……だけじゃなくて、765プロのセンパイ達も集まってました。
それに、事務の人も、765プロの社長さんも。
P「……お、おかえり。ケガは無いか? 刺されてないか?」
愛「はい、平気ですっ! 無事に帰ってきましたー!」
真「あぁー、良かった……」
愛「……なんで真さんや、他のみんながいるんですか?」
真「気になって戻ってきちゃったよ。美希は美希で、なんか思いつめてる様子だったし」
伊織「仕事が終わって事務所に戻ったら、なんか大変なことになってたんだもの」
やよい「うっうー! 二人が付き合ってるって聞いてびっくりしました!」
愛「……え? どうして知ってるんですか?」
P「……すまん、愛ちゃん。追及に耐えきれず……」
愛「えぇっ!?」
なんでプロデューサーさんから喋っちゃうんですか! さっきバレたらクビって話したとこなのに!
社長やまなみさん相手ならともかく……そんなにポンポン喋ってたらスキャンダルになっちゃいますよ!
春香「美希、大丈夫かなぁ」
千早「美希のプロデューサーへの依存は相当なものだったから、心配ね……」
愛「あ……あたしのせい、ですよね……」
律子「……そんなことはないわ」
貴音「ええ。あなたが良心に苛まれる必要はありません。この勝負を判定したのはプロデューサーです」
愛「あっ、貴音さん……」
貴音「プロデューサーが星井美希ではなく日高愛を選択したのです。誇りこそすれ、責められる謂われなどありましょうか」
愛「でも、あたし……」
その時……再び、仮眠室のドアが開きました。
美希「……愛。ミキ、大丈夫だよ」
愛「美希センパイ!」
良かった、美希センパイ……
あんなこと言ってたけど、ほんとは死んじゃうんじゃないかって、あたし、あたし……!
愛「う、ううっ……うぇ、えぇぇぇぇぇん」
美希「あはっ、なんで泣くの……泣きたいのはミキの方なの」
響「美希! お、お前……ひどい顔だぞ!」
あずさ「あらあら~、綺麗な顔が台無しよ~?」
亜美「ミキミキ、そんなのでトップアイドルになれんの→?」
P「お、おいお前達……なんてこと言うんだ!?」
765プロの皆さんが、美希センパイを囲んで……すごく簡単に言うと、バカにしてます。
でも、今の美希センパイにそんなこと言ったら……
美希「……みんな、ありがとなの」
愛「…………え?」
真「へへっ。プロデューサーにべったりじゃなくても生きていけそう?」
伊織「凹んだくらいでレッスンが疎かになるようじゃ、アイドルとしてオシマイなんだからね!」
美希「大丈夫なの! でも響、ひどい顔は言い過ぎだってミキ思うな」
響「な……なんくるないさー!」
……そっか。これがあの有名な、765プロの『団結』なんですね。
失恋したら……優しい言葉をかけるだけじゃ立ち直れないって、みんな知ってるんだ。
こういうとこ、あたし達はまだまだダメだなぁ……
P「……そういうことだったのか」
愛「プロデューサーさん……輪に入れてないですよ」
P「男には分からないモノもあるんだよ……」
美希「ねぇ、愛」
愛「はいっ」
美希「ぜったいに、ハニーと別れたりしないでね。別れたら、ミキが貰っちゃうから」
愛「わっ、わかりましたっ!」
美希「ハニ……プロデューサー!」
P「はい!」
美希「この子にもしも飽きたら、すぐに呼び出してね?」
P「そ、そんなところで持ち歌を使うな!」
美希「私のものにならなくていい、そばにいるだけでいい……」
P「や……やめろ!」
美希センパイ。元気なフリしてるけど、強がってるだけです。
あたし、ぜったいプロデューサーさんと幸せになります。美希センパイの分まで……
【プロデューサーの部屋】
P「今日は大変な1日だったな……」
愛「はいっ。でも、事務所のみんなに認めてもらえて良かったです!」
P「特に……美希にな」
愛「……はい! そ、それでプロデューサーさん」
P「なんだ?」
愛「約束。覚えてますか?」
P「約束?」
愛「美希センパイと話す前に言った、アレです!」
P「アレ…………あっ」
『それより、無事に帰ってこられたら……キスしてくださいね!』
愛「あれ、無かったことにしてください!」
P「はっ!?」
愛「プロデューサーさんも、あたしみたいな子供にはそういうことしづらいだろうし。あたし、16歳になるまで待ちます!」
P「……愛ちゃん」
愛「あ、あたしはいいんです。ホントはしたいですけどガマンします!」
愛「それにもしかしたらプロデューサーさん、あたしに愛想が尽きて心変わりしちゃうかもしれないし……」
愛「だからプロデューサーさん。これからは……んんっ!?」
………………
…………
……
P「……心変わりなんか、するわけないだろ」
愛「そっ、そうですかっ? ふっ、ふひひひっ……」
P「愛ちゃん愛ちゃん、アイドルにあるまじき顔になってる!」
き、キスしちゃった……!
しかもあたしからじゃなくて、プロデューサーさんから!
だ、だめだよぉ。だめなのに、ニヤニヤしちゃうよぉ……
愛「えへ……大好き、プロデューサーさんっ」
P「んぐっ!?」
今度はあたしから、お返しのキス。
難しいキスの仕方とかは分からないから、唇を重ねるだけの簡単なキス。
これだけでもあたし、プロデューサーさんと繋がってるって思えるから……
P「……むぐ」
愛「ぷは! い、息ができないですっ!」
P「……鼻ですればいいだろ?」
愛「あっ、そっか。あたしバカだなぁ……」
P「……ところでさっき、何言おうとしたんだ? 『これからは』って」
愛「あ、それは……キスもしないのなら『これからは別々のお布団で寝ましょう』って」
P「はい却下ー」
愛「……えっ」
P「愛ちゃんは俺の嫁なんだから、同じ布団で寝ないのはおかしい」
愛「あ、あれ? プロデューサーさん?」
な、なんかプロデューサーさん、目が据わってますよ?
あたし、何か変なスイッチ踏んじゃった!?
,イ
{ /::| ,, -....――........、
ヽ:{:::;!z_ _>'"::::::::::::::::::::::::::::::::::\
ィ⌒ヽ(;;; )⌒ヽヽ::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
/::::/,イ⌒Y、:/´⌒ヽ::::ヽ::::::::::::::::::::::::::::::) ち
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署 ト.、{ ,,ィ=ミ \ト、:::ト.、:::::::::::リ ょ
|ヽ::{ 〃 __ ` \{ \::::::::i:
ま !:::N. ,イんハ ,ィ⌒ヾヽノ っ
ヽ;rヽ 圦ゝrリ |
で , 、 ヽ「ハ `¨´ ' ノ 小 と
ヽ ヽ \ ` ̄ /:从
来 } >'´.-! >―ァ‐ァ― <イ ̄ヽ,
| -! \` ー一'´丿 \
い ノ ,二!\ \___/ /`丶、
/\ / \ /~ト、 / l
その夜。
いつものように、プロデューサーさんと一緒にお布団に入ったんですけど……
P「愛ちゃん。かわいい、かわいいよ」
愛「う、うう……」
P「愛ちゃんはかわいい」
愛「わかりましたからぁ……」
P「キスしたい」
愛「は、はい。んっ……もう、プロデューサーさんっ」
あの時から、すっかりプロデューサーさんがおかしくなっちゃいました。
特にお布団に入ってからはずっと、かわいいって言われて、抱きしめられて、キスされて……
ぜ、ぜんぜん悪い気はしないんですけどね。
むしろ嬉しいっていうか! もっとして欲しいっていうか!
愛「プロデューサーさん……こ、これ以上はダメですよっ!」
P「16歳になるまで?」
愛「そうです! そ、その代わり……」
P「その代わり?」
愛「……今日は、いっぱいキスしていいです。何回でも、どこにでも」
P「へぇ……キスして『いいです』?」
愛「……うう。キスして、ください! あたしだってガマンしてたんですからっ!」
P「ごめんごめん。それじゃ、朝まで……する?」
愛「……はいっ! いっぱいしましょう!」
……最初は、ただの映画の練習でした。でもその練習で、プロデューサーさんに会って、一緒に過ごして……
ようやく、分かったんです。恋愛も、同棲も……幸せも!
プロデューサーさんのお嫁さんになって、プロデューサーさんと一緒にいられて……
愛「あたし……ホントに幸せだよー!」
終わりだよー!
悲しいのは、俺が美希以外の女の子をメインに書くとほぼ確実に美希が不幸になるということ
この間書いた響とPが沖縄行くやつもそうなったしな……
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