~放課後~
向日葵「じゃあ櫻子、私は先に帰ってますから」
櫻子「おー。後で向日葵んち行くね」
向日葵「わかりましたわ」スタスタスタ...
ガラッ ピシャッ
あかり「櫻子ちゃーん」トテテ
櫻子「あかりちゃーん!」
ちなつ「あれ? 櫻子ちゃん、向日葵ちゃんと一緒に帰らなかったの?」
櫻子「うん。今日は生徒会も休みだし、向日葵は用事あるから」
ちなつ「ふーん……?」
あかり「でも珍しいねぇ、ふたりが一緒にいないの。おうちの用事?」
櫻子「ふふふ、知ってるけどヒミツ! ……あと、別に珍しくないもんっ!」
あかり「え~気になるよぉ」
ちなつ「……あかりちゃん、あかりちゃん」ツンツン
あかり「?」
ちなつ「もうっ、今日はバレンタインでしょ? だから向日葵ちゃんは今頃……」ヒソヒソ
あかり「あ、そっかぁ。櫻子ちゃんの為に……」ヒソヒソ
櫻子「」ポケー
あかり「……あれ? でも櫻子ちゃん、「知ってるけどヒミツ」って言わなかった?」ヒソヒソ
ちなつ「そう言われれば……バレンタインは関係ないのかな?」ヒソヒソ
櫻子「あ、ねーねーふたりとも。そういえば昔から気になってることがあるんだけどさ……」
ちなつ「ん?」
櫻子「バレンタインってなんの日?」
あかり「……んん!?」
ちなつ「」ポカーン
あかり「」ボーゼン
櫻子「え、なに、どしたのふたりとも?」
あかり「……ええっと、櫻子ちゃん……?」
櫻子「なに?」
あかり「バレンタイン、知らないの?」
櫻子「うん」
あかり「うぅーん!?」
櫻子「」ビクッ
あかり「どど、どうしようちなつちゃん!? いまさらバレンタインを言葉で説明するなんて逆に難しいよぉ!」
櫻子「えっ難しいの? ひょっとして……テストの名前!?」
あかり「全然ちがうよぉ!」
櫻子「」ホッ
ちなつ「……」
あかり「ちなつちゃん?」
ちなつ「…………」
櫻子「おーい、ちなつちゃーん?」
ちなつ「………………」
あかり「ちなつちゃん、さっきから黙ってどうしたのかなぁ……?」
櫻子「……ま、まさか」ハッ
ミャクッ
櫻子「し、死んでる……!!」
あかり「うそぉ!?」
ちなつ「………………バレンタイン………………」
櫻子「あ、生きてた」
あかり「絶対最初から死んでなかったよねぇ!? ……って、バレンタイン?」
ちなつ「バレンタインとは……」
あかり「ち、ちなつちゃん?」
ちなつ「バレンタインとは…………」
櫻子「おお、バレンタインとはっ?」
ちなつ「バレンタインとは………………」
櫻子「」ワクワク
あかり「」ゴクリ
ちなつ「」クワァッ
ちなつ「女の子が好きな女の子にチョコレートを贈る日なのよーーーーーーーーーー!!!!!」
あかり「あれぇぇぇ!!?」
ちなつ「」フンスッ
あかり「ちなつちゃん! なんか、その説明って、なんか……大丈夫かなぁ!?」
ちなつ「え? 私おかしなこと言った?」
あかり「自覚ナシ!?」
櫻子「……バレンタインは……」
ちなつ「今日は恋する女の子が主役……甘ぁいチョコと一緒に、熱ぅい想いを届けるのよー!!」オイッオイッッッ
あかり「ちなつちゃんの想いが変なゾーンに届いちゃったよぉ!」
櫻子「……チョコレートを贈る日……」
ちなつ「もちろん櫻子ちゃんと向日葵ちゃんにも友チョコ用意してるからね☆」キャピルン
あかり「し、市販品だから心配しなくていいからねっ」アセアセ
櫻子「……女の子が……好きな、女の子、に――~~~ッ///」カァァッ
櫻子「な、なななななななっ……なぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!?!??!?!!!??///」
「「!?」」ビクッ
櫻子「ななななななななななななな///」ガクガクガクガクガク
あかり「さ、櫻子ちゃん!? どうしたの!?」
櫻子「ナーッ! ナーッ!!」ドッタンバッタン
ちなつ「暴れだした!?」
櫻子「ナーナーナナナーナナナーナナナー」ユラユラ
あかり「今度は急に左右に揺れだしたよ!?」
ちなつ「隣に誰もいないのに誰かと肩組んでるみたい!」
櫻子「」ピタッ
「「!?」」ビクッ
櫻子「……」プシュー...
ちなつ「とうとう頭から煙が……」
あかり「櫻子ちゃん……ほ、ほんとに大丈夫……?」オソルオソル
櫻子「ばれんたいんって」
あかり「え?」
櫻子「……バレンタインって、そーゆー日、なの?」
ちなつ「そーゆー?」
櫻子「ん……その、女の子が、えっと」
ちなつ「好きな女の子にチョコを贈る日☆」キャルルーン
櫻子「っ///」カァッ
あかり「え、えーっと……世間一般では、大切な人にチョコを贈る日、かなぁ?」アセアセッ
櫻子「たいせつ……そっか、知らなかった」
ちなつ「珍しいね、今時バレンタインを知らないなんて」
櫻子「うん……」
櫻子「ずっと古谷家わくわくチョコ食べ放題デーだと思ってた……」
「「むしろそっちが何!!?」」
説明しよう! 古谷家わくわくチョコ食べ放題デーとは――
毎年2月14日に催される古谷家の恒例行事である
向日葵が腕によりをかけて作ったチョコレート菓子を
櫻子が胃袋の限界まで喰らい続けるという、
一年に一度の、まさにチョコの祭典なのだ!
櫻子「てわけ」
あかり「………………」
ちなつ「………………」
櫻子「あれ、あかりちゃん寝た?」
あかり「寝てないよぉ」
櫻子「なんだよかった。ちなつちゃ――し、死んで」
ちなつ「死んでないよ」
櫻子「」ホッ
あかり「ちなつさん、ちなつさん」コソッ
ちなつ「はいはい、なんですあかりさん」コソソッ
櫻子「?」
あかり「あの……あかりの考え違いじゃなかったらなんだけど、えっと……」ヒソヒソ
ちなつ「向日葵ちゃんは正しいバレンタインを知ってて敢えて櫻子ちゃんにウソを吹き込んでチョコを渡し易い状況を作ってるんだと思うよ」キッパリ
あかり「……やっぱり……?」ヒソヒソ
ちなつ「うん、絶対そう」ヒソヒソ
あかり「あかりたち、櫻子ちゃんになんて言ってあげたらいいんだろう……?」ヒソヒソ
ちなつ「んー……ちょっと私に任せて?」ヒソヒソ
あかり「え? う、うん……いいけど……」ヒソヒソ
櫻子「ひとりトントン相撲たのしいな~」トントントントントントントントントントントントントントントントントントン
ちなつ「櫻子ちゃんっ」
櫻子「ごめんちょっと今ひとりトントン相撲いいところだから」トントントントントン
ちなつ「」グシャー
櫻子「あー!?」
ちなつ「櫻子ちゃんっ☆」
櫻子「……はい」グスン
ちなつ「あのね、落ち着いて聞いて欲しいんだけど……」
櫻子「?」
ちなつ「向日葵ちゃんはバレンタインのこと櫻子ちゃんにわざとナイショにしてるよ」
櫻子「向日葵イイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!」ウオオー
あかり「言い方ァー!?」
~しばらくお待ち下さい~
櫻子「ヒッヒッフー……ヒッヒッフー……」
あかり「櫻子ちゃん落ち着いた?」ナーナーナナナー
ちなつ「もう、急に暴れたりしちゃダメだよ?」ナナナーナナナー
櫻子「うん……ありがとふたりとも、もう肩組んでくれなくていいよ」ユラユラ
ちなつ「あ、そ」パッ
櫻子「」ベシャッ
あかり「ああっ櫻子ちゃーん!?」
櫻子「……ちなつちゃん」
ちなつ「なぁに?」
櫻子「向日葵はなんで私に隠し事してたのかな」
ちなつ「……なんでだと思う?」
櫻子「わかんない……向日葵のくせに私に隠し事とか生意気すぎ!」ムキー
ちなつ「うーん、原因はそれじゃない?」クスッ
櫻子「え、どれ?」
ちなつ「そ・れ。櫻子ちゃん、向日葵ちゃんとすぐケンカしちゃうでしょ?」
櫻子「そっ……だって、私達は生徒会福会長の座を争うライバルどうし……」ゴニョゴニョ
ちなつ「うん。だからこそ、ライバルの向日葵ちゃんが」
櫻子「向日葵が?」
ちなつ「『あひィン! 櫻子に私の気持ちを受け取って欲しいですわァン!!』」クネッッ
櫻子「!?」ビクーン
ちなつ「とか言ってきたらどうする?」
櫻子「え……き、きもい?」
ちなつ「でしょ?」
櫻子「……」
あかり「……」
あかり「(ちなつちゃん似てねぇ~!!)」
ちなつ「そしたら、今度は向日葵ちゃんが言い返して、もうバレンタインどころじゃなくなっちゃう」
櫻子「……かもね」
ちなつ「うん。だから、今日だけは、櫻子ちゃんを騙してでもケンカしたくなかったんじゃない?」
櫻子「向日葵が……そんなこと……」
ちなつ「信じられない?」
櫻子「……」
ちなつ「だ」
あかり「だったら、向日葵ちゃんに直接訊いてみようよっ」
ちなつ「!?」
櫻子「あかりちゃん……」
あかり「ね?」
櫻子「……うん! ありがとっ、あかりちゃん大好き!」ニパー
あかり「えへへ」ニコニコ
ちなつ「(キメ台詞とられた……)」ギリッ
櫻子「ぅーっ、なんか急にムズムズしてきた! 今すぐにでも向日葵んちに殴り込みたい気分!!」ガタッ
あかり「あ、待って櫻子ちゃんっ」
櫻子「どしたの?」
あかり「えと……はい、これっ!」スッ
櫻子「これ……チョコ?」
あかり「チョコだよー」
櫻子「……あかりちゃん、私のこと好きなの!?」
あかり「好きだよ?」
櫻子「えっ好きなの!!?」
あかり「えっダメなの!?」
ちなつ「……あかりちゃん。ちゃんと友チョコって説明しないと」
あかり「あ、そっか。そうだよねぇ」ティヒヒ
ちなつ「……」
櫻子「とも……こ?」
ちなつ「それ私のお姉ちゃんだよ」
あかり「友チョコって言うのはね、友達にあげるチョコのことだよ」
櫻子「へー」
ちなつ「いつもありがとうーとか、これからも仲良くしてねーとか、そういうチョコなんだよ」
櫻子「ふむふむ」
あかり「それを櫻子ちゃんに上げるっ。はい♪」
櫻子「チョコー! あかりちゃんありがとー!」
あかり「えへへ」
ちなつ「あ、私からも。向日葵ちゃんの分もあるから、後で渡してくれる?」
櫻子「うおー! 私一気にチョコ高所恐怖症!」
あかり「え?」
ちなつ「……高所得者層?」
櫻子「チョコ…チョコ………」ジュルリ
あかり「櫻子ちゃんよだれよだれ!」フキフキ
櫻子「」ハッ
櫻子「こうしちゃいられない!」スクッ
ちなつ「!?」ビクッ
櫻子「私もう帰るね! あかりちゃんちなつちゃん、チョコとか色々ありがとっ!」
あかり「え? え?」
櫻子「じゃ! また明日ー!」バッ
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ...
あかり「あっ……行っちゃった」
ちなつ「嵐のように去って行ったわね……」
あかり「ええっと……あかりたちも部室いこっか?」
ちなつ「んー……ねぇあかりちゃん。突然なんだけどさ」
あかり「なぁに?」
ちなつ「麦チョコ食べる?」スッ
あかり「わぁい麦チョコ、あかり麦チョコ大好き」ポリッ
ちなつ「……ねぇあかりちゃん。突然なんだけどさ」
あかり「なぁに?」
ちなつ「バレンタインチョコに大切なのは、値段や大きさじゃなくて気持ちだよね」
あかり「うんっ、そうだね!」ニコッ
ちなつ「……」
あかり「……?」
ちなつ「……麦チョコもっと食べる?」
あかり「わぁい、ちなつちゃんありがとー♪」
ちなつ「どーいたしましてぇ……はあ」
あかり「……?」ポリポリ
~廊下~
櫻子「ウオオオオオオオオオオオオオ」ドドドドド
~校庭~
櫻子「ウオオオオオオオオオオオオオ」ドドドドド
~通学路~
櫻子「ウオオオオオオオオオオオオオ」ドドドドド
~古谷家~
櫻子「ウオオオオオオオオオオオオオ向日葵ぃー!!」ガラッ
向日葵「いらっしゃい櫻子っ♪ 早かったですわね、生憎とまだ今回の目玉であるチョコレートファウンテン向日葵スペシャルの準備が出来」
櫻子「ちなつちゃんからバレンタインの本当の意味きいた!」
向日葵「」
向日葵「 」
向日葵「 」
向日葵「∵」
櫻子「……」
向日葵「え……ぁ、な……ぇ?」
櫻子「向日葵」
向日葵「!」ビクッ
櫻子「……なんで? なんでなの? なんで私にウソついてたの?」
向日葵「あ、の。えと、それは……――」
櫻子「……」
向日葵「――……、さくらこ?」
櫻子「なに?」
向日葵「怒ってませんの……?」
櫻子「は? 怒ってるじゃん。見て分かれよ」
向日葵「で、でも……いつもならもっと、ガーッと……」
櫻子「……これも、ちなつちゃんに聞いたんだけど」
向日葵「え?」
櫻子「向日葵は、私の為にウソついてたのかも、って」
向日葵「!」
櫻子「だから……櫻子様がちゃんと聞いてやるから、ぜんぶ、話せ!」
向日葵「櫻子……」
櫻子「はーなーせ!」
向日葵「……」
櫻子「……っ」
向日葵「わかり、ましたわ」
櫻子「!」
向日葵「確かに、私はバレンタインの本当の意味を知っていましたわ」
櫻子「やっぱし!」
向日葵「ごめんなさい……」
櫻子「ぅ……じゃ、じゃあ、それを私に隠してたのはっ?」
向日葵「……それは、あなたにちゃんとチョコをあげたかったから……」
櫻子「ち、ちなつちゃんの言うとおりだ……」
向日葵「すごいですわね、吉川さん」クスッ
櫻子「で、でもなんで? なんでそうまでして私にチョコなんて……」
向日葵「櫻子……」
櫻子「だってそうでしょ? 私と向日葵はライバルなんだから! だったらバレンタインチョコなんて――」
向日葵「ライバルだからこそ、ですわ」
櫻子「――え……?」
向日葵「……はあ。この際だから言っちゃいますけど」
櫻子「お、おう?」タジッ
向日葵「私こう見えてあなたに、その……感謝……してますの」
櫻子「感謝ぁ?」
向日葵「ちょ、そんなに気味悪がらないで下さいます?」
櫻子「だ、だーって向日葵がヘンなこと言うから……か、感謝とか! きも!」
向日葵「なんですって!? ……って、そうそう、これですわ、これ」
櫻子「へ? どれ?」
向日葵「ですから、こういう風にケンカ出来ることに、感謝しているんですわ」
櫻子「なんだそれ。お前は売れないラッパーか!」
向日葵「関係各所に全力で土下座なさい」
撫子「土下座と聞いて」スッ
向日葵「撫子さんは隣へ帰って下さいまし」
撫子「はい」スッ
櫻子「ねーちゃんどこからいつの間に……?」
向日葵「こほん。話を戻しますけど」
櫻子「あ、うん」
向日葵「……私は、知っての通り真面目で、融通の効かない性格ですわ」
櫻子「」ウンウン
向日葵「いちいち頷いてくれなくて結構ですわ……ですから、心を許せる友人も少なくて」
櫻子「」ウンウン
向日葵「……」
櫻子「あ、続けて続けて」
向日葵「……。そんな私が、唯一遠慮せずにぶつかれるのが、櫻子。あなたですわ」
櫻子「よっ待ってました!」ヒューヒュー
向日葵「黙って聞きなさいな!」ゴシカァン
櫻子「すてまっ!」グハッ
向日葵「続けますわよ」
櫻子「」ピクピク
向日葵「私は、私と全力で衝突してくれるあなたの存在を……た、たまに、ありがたく思ったりもするってことですわっ///」
櫻子「おい向日葵いま絶対にはしょっただろ!?」ガバッ
向日葵「は、はしょってなんかいませんわ! ていうか急に復活しましたわねっ」
櫻子「いーや絶対めんどっちくなった! 本当は櫻子様を褒め称える言葉があと2時間は続くんだろ!」ガー
向日葵「んなわけねーですわ!」シャー
櫻子「オラオラちょっとないくらい美人の櫻子様には敵わないでぶぅって言ってみろよオラー!」シュッシュッシュッ
向日葵「くっ……年に一度くらい平和に過ごさせてやろうという私の長年の配慮を……櫻子ォ……!」ユラリ
櫻子「ひッ」ビクッ
向日葵「いいデすワヨ……アナたがそウイう態度ナら……私ニダッテ考エガアリマスワ……」ゴゴゴゴゴゴゴ
櫻子「ひぃいいっ!?」ガタガタガターッ
向日葵「オオオオオオオオオオ」ズモモモモモモモ
櫻子「ひ、向日葵! これ、これあげるっ!」バッ
ピタッ
向日葵「……これ、は」
櫻子「わ、私からの、バレンタインチョコ。お小遣い足んなくて、コンビニのナモルチョコだけど……」
向日葵「これを、私に? 櫻子が?」
櫻子「……うん」
向日葵「ぁ……」キュンッ
櫻子「……っ」フイッ
向日葵「あ……ありがとう、櫻子。うれしいですわ、とっても」
櫻子「ほ、ほんとっ……?」
向日葵「ええ、本当に……こんなに小さくても、あなたが私に買ってくれるなんて……」ギュッ
グニュッ
向日葵「……え?」ドローリ
櫻子「あー……買ってから今まで握りっぱなしだったから……」アチャー
向日葵「………………サクラコ……」
櫻子「ひィッ」
向日葵「今度こそ、覚悟は出来てますわね……?」ユラァリ
櫻子「ぅ、ぁ、ぃ……ふ、ふははははー!」
向日葵「……?」
櫻子「ひ、向日葵のばーか! 今のはちまたでうわさの友チョコだ! べつに、深い意味とかなんもなかったんだからなっ!」
向日葵「な、何を今更……そんなこと、言われなくても分かってますわ!」
櫻子「わかってないもん! 私だって向日葵と同じだもん!」
向日葵「……え?」
櫻子「今のは、いつもケンカしてくれてありがとーって、ただそれだけなんだもんっ!!」
向日葵「!」
櫻子「だ、だからっ、それは全然ほんめーとかじゃなくって、ほんめーならもっとちゃんとしたのにするし、ああそうじゃなくてっ」アセアセ
向日葵「……ぷっ」
櫻子「っ!」カァッ
向日葵「ぷ、くふふっ……」
櫻子「わ、笑うなー!」ウガー
向日葵「ご、ごめんなさい。でも、櫻子……」クスクス
櫻子「くぅ~……! 向日葵なんて、向日葵なんて仮に本命でもやっすいナモルチョコがお似合いだよー!」
向日葵「なんですって!? 私はそんな安い女じゃありませんわよ!?」
櫻子「どーかなー。だって向日葵、さっき超うれしそうにしてたじゃーん? こんな安物で~」ヘラヘラ
向日葵「そ、それは……」
櫻子「私はあかりちゃんとちなつちゃんから友チョコもらって、すぐ本命じゃないって分かったけど、向日葵はなぁ~?」アハーン?
向日葵「ぐっ……本気でむかっ腹が立ちますわね……」
櫻子「やーいやーい、妖怪おっぱいバーゲンセール~」
向日葵「」ブヂッ
向日葵「切れた! たった今堪忍袋の緒が切れましたわ! 櫻子、表に出なさい!」
櫻子「おーいーよ、いくらでも相手になってやるよっ!」シュッシュッ
向日葵「よく吠えましたわね……。……でも、その前に」
櫻子「……うん、その前に」
向日葵「今日は――」
櫻子「年に一度の――」
「「古谷家わくわくチョコ食べ放題デー!!」」
おしまひ
遅筆でもいいじゃない、即興が好きなんだもの・3・
~おまけ①~
櫻子「あ、そういえば向日葵の分も友チョコ預かったよ」
向日葵「本当ですの? じゃあ早く下さいな」
櫻子「食った」
向日葵「は?」
櫻子「帰り道に小腹が空いて食ったった」
向日葵「くたばれ」
~おまけ②~
櫻子「向日葵! 来月の14日って向日葵が私にいつもの3倍服従する日って聞いたんだけど!?」
向日葵「やっぱり櫻子はバレンタインを知らないままで良かったんですわ……」
~おまけのおまけ~
撫子「はい、それじゃあ今からチョコレートを作りまーす」
楓「わ~」パチパチ
花子「わーし」チパチパ
撫子「と言っても二人はまだ子供だから、危なくないように簡単なやつね」
花子「花子もう子供じゃないし!」
撫子「子供は誰でもそう言うんだよ」
楓「楓はまだ子供だから、むずかしいのはこわいの……」
撫子「楓は素直でいい子だね」ナデナデナデシコ
楓「えへへ……」
花子「ぐぬぬ……」
撫子「まずはチョコを細かく刻む。指を切らないように慎重にね」
花子「料理のお手伝いしてる花子にはちょろいもんだし!」ストトトトトト
楓「んっしょ……んっしょ……」ストン、ストン
撫子「そうそう、もっとゆっくりでもいいからね」
楓「うんっ。んっしょ……ん、しょ……」ストン、ストン
花子「……。楓」
楓「? なぁに、花子ちゃん」
花子「包丁。花子に貸すし」
楓「……? はい」スッ
花子「ん」
ストトトトトト
楓「わぁ……花子ちゃんとっても上手なの!」
花子「ふ、ふんっ! こんなのちょろいもんだし……えへ、えへへ――痛っ!?」サクッ
楓「花子ちゃん!?」
撫子「花子!」
花子「っつつ……やっちゃったし」ジワッ
撫子「どれ、ちょっと見せて――ああ、傷は浅いね。良かった」
花子「おねーちゃんごめん、花子……」
撫子「……大事がなくて安心した。絆創膏取ってくるから、じっとしてなね」
タッ
楓「……花子ちゃあん」グスッ
花子「ちょ、どうして楓が泣いてるし……」
楓「でもぉ」
花子「こんなのツバつけてりゃ治るし!」
楓「ほ、ほんと?」
花子「ほんとだし!」
楓「ぁぷっ」ハム
花子「に゛ゃーーーーーーーーー!?」
楓「」チュピチュピチュピチュピ
花子「かかかかか楓ー!? な、ななな、ナーナーナナナーナナナーナナナー!?」
楓「だっへ、つあつへほへははほふっへ……」チュッパチャップ
花子「それは花子のツバだしー!」
楓「そうなの?」
花子「そうだし! と、とりあえず、抜くし!」スプッ
楓「楓、早とちりしちゃった。ごめんなさいなの」
花子「わ、わかればいいし……」ハッ
花子「(この指……楓が、なめ、な、ナーナーナナナーナナナーナナナー……)」
花子「……」チラ
楓「?」キョトン
花子「……」
花子「……」ソローッ
撫子「花子、絆創膏もってきたよ」
花子「ぎにゃあ!?」ビクーン
中略
撫子「じゃあ最後、型を逆さにして中のチョコを外して」
花子「トントントンと……取れたし!」ポロン
楓「とんとんとん……わぁ、取れたのっ」ポロン
撫子「はい、じゃあ完成ね。ふたりともご苦労様」
楓「撫子お姉ちゃん、教えてくれてありがとうございますなのっ」
撫子「いいっていいって、上手に出来て偉いね楓」ナデナデナデシコ
楓「えへへ……」
花子「おねーちゃん、サンクし」
撫子「花子はもう少し正しい日本語を覚えた方がいいと思う」
撫子「ところで二人は誰にあげるの?」
花子「は、花子はナイショだし!」
撫子「ふーん……楓は?」
楓「うんと、楓はねぇ……」
トコトコトコ...ピタ
花子「え?」
楓「はいっ、花子ちゃん。楓からのバレンタインチョコなの♪」
花子「うぇっ!? は、花子に!?」
楓「うん! でも花子ちゃんにいっぱい手伝ってもらっちゃったから、もらってもうれしくないかな……?」シュン
花子「そ、そんなことないし! すっごいうれしいし!」
楓「本当……?」
花子「当たり前だし! ……だから、これ!」スッ
楓「チョコ……?」
花子「……花子から、楓に。最初から、あげるつもりだったし」
楓「……えへへ。ありがとうなの花子ちゃん♪」
~おまけのおまけのおまけ~
撫子「もしもし? うん、私」
撫子「ね、今日が何の日か知ってる? ……だよね」
撫子「あのさ、今からうち来ない?」
撫子「うん。そう。そう、チョコ――の、後片付けが残ってて」
撫子「え? ああ、今の今まで下の妹とその友達がチョコ作ってたの」
撫子「二人してチョコより甘い空気を作り出してたから、隣の家に放り捨ててきたところでさ」
撫子「……ちょ、電話口で泣くの止めて。本気か冗談かわかりにくい」
撫子「わかった、わかったって……私も手伝ったし、余り物で良かったらあげるけど」
撫子「はいはい。じゃあ待ってるから、うん。急いで事故に遭うとかナシでお願いね。はい、はーい」
ピッ
撫子「……」
撫子「さて、まずはチョコを細かく刻んでっと……」ストトトト...
以上・3・
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