【俺妹】あやせ「お兄さん、約束は守ってくださいね」 (65)


『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の二次SSです

総合スレでは、1レス劇場でお世話になっています
久しぶりというか、気ままに長めのSSを書きたくなってスレを立てました
お気楽にお付き合いいただければと……

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あやせが交通事故に遭ったと知らせを受けたのは、学校から帰宅した直後のことだ。
桐乃が明らかに取り乱している様子が、携帯を通して俺にも伝わってくる。

「しっかりしろ桐乃! それで、救急車は呼んだのか?」

『う、うん、呼んだ。……ど、どうしよう。あたし、どうすればいいの!?』

こんなときこそ、俺が冷静にならなくちゃいけない。
親友のあやせが事故に遭い、動揺している桐乃をますます不安に陥れるだけだ。

「あやせはどんな具合なんだ? ちゃんと息はしてるんだよな?」

嫌な予感が一瞬俺の脳裏をかすめたが、訊かないわけにはいかなかった。
桐乃との会話に混じってあやせの名を叫ぶ声の主は、たぶん来栖加奈子に違いない。
携帯を通してしか状況がわからないのがなんとももどかしい。

『息はしてる。でも、目を閉じたまま全然動かないの』

「どっか怪我をしてるようなことは? 出血とかしてるのか?」

『わかんないけど、どっからも血は出てない』

怪我をした様子はないが意識がないということは、頭を打っているのかも……。
しかし、俺に医学的な知識があるわけじゃないし確信はない。

「おまえに怪我はなかったのか? 他に誰か怪我をしたヤツはいるのか?」

『あたしは転んでちょっと擦りむいただけ。加奈子も大丈夫』


あやせが路上に身を横たえ、加奈子が叫び、桐乃が携帯にしがみ付いている様が目に浮かぶ。
こんなときに、俺は何もしてやれない己の無力さを痛感するしかなかった。

「あやせは頭を打ってるかもしれねえから、そのまま動かさない方がいい」

『わかった。それからどうすればいい?』

「救急車は、まだ来ないのか?」

桐乃との会話が一旦途切れ、携帯から聞こえるのは周囲のざわめきだけ。

「桐乃? どうかしたのか?」

『ちょっと待って。……あっ、救急車のサイレンかも!?』

携帯越しに微かに救急車のサイレンが俺の耳にも届いていた。
聞き覚えのあるその音は、やがて周囲のざわめきを掻き消し、そして止まった。

救急隊員とおぼしき男性の声がして、それに受け答えをしている桐乃の声が聞こえる。
どうやら、桐乃と加奈子も救急車に同乗して病院へ向かうらしい。

「桐乃、聞いてるか? 今話せるか? 搬送先の病院がわかったらすぐに連絡してくれ」

『うん、わかった。……絶対に来てよね。約束だからね』

「わかった。すぐに駆けつけるから」

『あっ、そうだ。あやせの家の人にも連絡しなきゃ』

「それは俺がやっとくから心配すんな。それよりもあやせを早く病院へ」


桐乃にそう言って携帯を切ったものの、俺は重大なことを忘れていた。
あやせの家の電話番号……。

考えている暇はなかった。こうなったら、一か八かあやせの家に直接行くしかない。
俺は制服を着替えるのも忘れ、携帯を掴んだまま家を飛び出した。



あやせが交通事故に遭ってから丸一日が経過した。
幸いにも桐乃の方は軽傷だったお蔭で、簡単な治療だけでその場で帰宅が許された。
しかし、あやせはいまだに入院したままだ。

自室の椅子に座って考えごとをしていると、階段を上ってくる足音が聞こえて来る。
足音の主は桐乃に違いないが、自分の部屋へ向かうことなく俺の部屋のドアの前で止まった。

「桐乃だろ? 入って来てもいいぞ」

俺の部屋に足を踏み入れた桐乃の顔には、見るからに疲れの色が滲み出ている。
右手の甲と肘、それと両膝にも滅菌ガーゼを貼り、その上からネット包帯を巻いた姿が痛々しい。
俺は、ベッドの上をチラリと見てから桐乃に声をかけた。

「あやせの病院へ寄って来たのか?」

「うん」

「どんな具合だった?」

「あやせのお母さんが付きっ切りで看病してるんだけど、まだ意識が戻んなくて……」

「そっか」


「容態は安定してるって言うし、意識が戻るのも時間の問題らしいんだけど……」

「命に別状がなかっただけでも不幸中の幸いかもな」

「今はそう思うしかないもんね。あたし、明日も学校の帰りに寄ってみる」

桐乃はそれだけ言うと、力なく俺の部屋を出て行った。
俺は静かにそっと椅子から立ち上がり、足音を忍ばせてドアに耳を当て廊下の様子を窺う。
桐乃の部屋のドアが開き、続いて閉じる音を確認して俺はベッドに向き直った。

「どうするつもりなんだよ」

「わたしだって、自分でもどうしていいのかわからないんです」

「取り敢えず、俺のベッドの上で飛び跳ねるのはやめろ」

「桐乃もわたしの姿は見えないみたいですね」

「普通の人間だったら見えないのが当然なんだよ」

「どうしてお兄さんにだけ見えるんでしょうか」

「それは俺の方が知りてえよ」

この状況を誰かが見ていたら、俺がベッドに向かって独り言を呟いているようにしか見えないだろう。
しかし、俺の目に映っているのは、交通事故に遭い今も意識不明のはずのあやせだった。

幽体離脱。まさに肉体と魂が遊離した状態のあやせが俺の目の前にいるわけだ。
あやせは不満そうな顔で床へ飛び降り、そのままベッドに腰を下ろした。


「わたしも午前中に病院へ行って来たんです」

「自分が入院している病院へ自分で見舞いに行って来たわけか」

「そういうことになるんですけど、なんだか不思議な感じでした」

「だったらそのまま体に戻りゃあよかったじゃねえかよ」

桐乃から二度目の連絡をもらい、あやせのお袋さんとともに病院へ駆けつけたのが昨日のこと。
あやせは救命救急センターへと運ばれ、俺も桐乃も会うことはできなかった。

桐乃は動揺が激しく、帰りの道すがら俺がなんとかなだめながら家に帰りつくのが精一杯だった。
あやせの命に別状はないと、あやせのお袋さんから連絡をもらったのが昨夜遅く。
それを聞いて桐乃も安堵したのか、俺が部屋まで連れて行ってやると、そのまま眠りに落ちた。

「それにしても、なんでおまえは選りにもよって俺の部屋にいたんだよ」

「わたし、お兄さんに説明しませんでしたか?」

「おまえの姿を見た途端に気絶しちまったんだよ」

「今朝も説明しましたけど」

「俺は幻聴幻覚だと思って、一切おまえの方は見ないようにしてたんだよ」

俺が朝になって目を覚ましたとき、この部屋にあやせがいたことは確かだ。
しかし、まさかそれがあやせの幽体だなんて考えもしなかった。


「わたしだって、好き好んでお兄さんの部屋にいるわけじゃありません」

「だったらせめて自分の家に帰るとか、棲みつくとかすりゃあいいじゃねえか」

「家の中に入れないんです」

「どういうことなんだよ」

あやせは眉間に少しだけしわを寄せ、忌々しそうに呟いた。

「たぶん御札のせいだと思うんです。わたしの家にある御札がいけないんです」

「御札? 御札って、神社とかでもらう御札のことか?」

「その御札です。いつだったかお父さんの後援会の人が、必勝祈願だと言って置いていったんです」

「選挙絡みってわけか……。ていうか、御札があると家に入れないって!?」

「なんですか? 何が言いたいんですか?」

「いや、そういうのって悪霊の類じゃねえのか?」

「お兄さん、二度とそういうことを言ったらブチ殺しますよ!」

今のあやせなら、本当に俺をブチ殺そうが呪い殺そうが自由自在かもしれない。
はたして、俺の目の前にいるあやせは幽体なのか悪霊なのか……。
唯一の救いは、見た目だけはセーラー服を着た可愛い美少女だということ。


本日の更新はここまでです
次回は、一週間後くらいにできれば……頑張ります

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