竜児「お、おい…ここでなにやってんだ川嶋」 (134)



亜美「…高須くん」

竜児「おうっ!?」

亜美「こんばんわ…」

竜児「お、お前! こんな時間になにやってんだ!? しかも俺んちのアパート前で…びっくりするだろ…」

亜美「…ちょっとだけ、お願いがあるんだよね。イイかな」

竜児「はっ? お願いって、なんだよ、いきなり…」

亜美「お家にあがれせて、くれないかな」

竜児「へっ?」

亜美「だめ?」

竜児「……」

亜美「嫌なら別にいいよ、うん、私もこんな時間にお願いすることじゃないって分かるし」

竜児「…なんかあったのか?」

亜美「……」

竜児「えっとだな、おう、まぁ別に…かまやしねえが…家にアイツ居るぞ、大丈夫か?」

亜美「アイツ? ああ、チビトラのことね。うん、平気だから」

竜児「お、おう」

亜美「ありがと。高須くん」

竜児「…おう」

自宅

大河「ちょっと竜児おそっい! おたふくソース買ってくるだけにどんだけ時間かかってんのよ!」

竜児「近所に売ってなかったんだ、仕方ねえだろ。それよりも、ちょっと大河…」

大河「あん? なによ、え、待ってアンタ……なんでばかちーの匂いしてるわけ? えっ?」

竜児「鋭いなお前! いや、後ろを見てくれれば分かる…」

大河「はぁ? 後ろって………はっ?」

亜美「えへ。こんばんわ、逢坂さん」

大河「ば、ばかちー? え、なんでアンタ居るのよ?」

亜美「……」

竜児「詳しいことはまだわからん。けど、上がりたいって言ってるからあがらせる感じだ」

大河「なになに? どうしてそうなってんの? ちょっと竜児……」グイグイ

竜児「いいぞ上がってくれ」

亜美「…うん」

大河「りゅーぅじぃーってばぁー!」グイグイ

居間

大河「…」ブッスー

竜児「なんか飲むか? お茶ぐらい出すけど」

亜美「あ、うん。ありがと」

竜児「おう。あと大河、おたふくソースは無かったから、醤油で我慢な」

大河「えぇえええええ!?」

竜児「仕方ねえだろ。つか、一週間前にドバドバブニュブニュ使いまくってた奴が悪い! 何処のどいつだ? お前だろ!」

大河「竜児がいっぱい使って良いって言ったでしょ!」

竜児「限度があるだろ限度が! ったく、少し待ってろ…お手製醤油ベースのお手製とんかつダレ作ってやっから」

大河「なにそれ! ちょっと竜児、はじめからそれやんなさいよ!」

竜児「手間がかかんだよ。だからその間、なんだ……えっと、話聞いといてくれ、川嶋からよ」

大河「…やだ、めんどくさい匂い感じる」

竜児「お手製ダレ作らねえぞ」

大河「むぐ」

竜児「ほら行った行った。俺は忙しい、あとは頼んだ」

大河「…あーはいはい、わかったわよ、ったく」

亜美「……」

大河「んで、どーしたのばかちー。アンタこんな時間に出歩いてて言い訳?」

亜美「…駄目って思う」

大河「ふーん、あっそ。じゃあ帰りなさいよ、ちゃんと家に」

亜美「……」

大河「……。帰れ得ない理由とか、あるの?」

亜美「…うん」

大河「なにそれ、だから竜児の家に来たの? なにそれ、意味分かんないから」

亜美「……」

大河「…意味分かんないついでに聞いとくけど、もしかして家出じゃないわよね?」

亜美「……」

大河「…………家出、したの?」

亜美「……家出した」

大河「えっ!? ほんとにっ!?」

亜美「そう、本当に」

大河「アンタ……ばかじゃないの……?」

亜美「馬鹿じゃないわよ、あんな家なんて……こっちから願い下げよ……ッ」

大河「お、おおう……」

竜児「…おい大声出すなよ、大家に怒られるだろ、なんだこの空気」

大河「ばかちー、家出したんだって」

竜児「はぁ!? い、家出ってお前…嘘だろ? なに、北村の真似?」

亜美「…違うわよ、全然違うっ!」

竜児「じょ、冗談だって。いや、本当に家出しちまったのか…?」

亜美「し、したわよ! なに、悪いっていいたいの!?」

竜児「悪いだろ! すげー悪いだろ!」

亜美「べっつに亜美ちゃん、悪い子としてないもん! あっちが悪いんだから、別にいいでしょ!?」

竜児「お、おうぅ…!?」

亜美「亜美ちゃんはずぅーと我慢してたの! あんなことも、こんなことも! ぜぇーんぶ我慢ガマンガマン!! もう我慢限界なわけ!!」

竜児「か、川嶋! ちょ、落ち着けって!」

大河「……ねぇばかちー、今日はどうするの?」

亜美「はぁっ!? なによ急に!?」

大河「ばかちーはどうしたいのって、聞いてんの。アンタは今日、どこか泊まれる所あるの?」

亜美「…それはっ…」

大河「無いんでしょ。じゃあ泊まって行きなさい、ここに」

竜児「ん?」

亜美「え、ここにって……ここ?」

大河「そう。ここに」

亜美「………」

竜児「待て大河! ここって何処だ? もしかして、俺んちじゃないだろうなっ?」

大河「そうよ。なにか問題ある?」

竜児「ありまくりだろ! どうして俺んちなんだよ! お前の家に止まればいいだろ…っ?」

大河「だって今、ヤバイわよ。私んち」

竜児「は? なんだよやばいって…………まさか……お前………汚れ、てるのか……?」

大河「うん。こうね、どーんっと氷山の一角ていうの? それが玄関に見えるぐらいに凄いかも」

竜児「お前……っ! お前お前お前! 掃除させろぉー! 洗浄だぁー!」

大河「はいはい。そんなわけだから、私も今日泊まるから」

竜児「はい? お、お前も?」

大河「そもそも、そのつもりでいたしね。ほら、歯磨きとかーシャンプーとかー」

竜児「そのバック、お泊り用具いれだったのかよ……」

亜美(元から…?)

竜児「はぁー…」

亜美「えっと、そのぉ」

大河「良いからつべこべいうな! とにかくばかちーは泊まらせる、わかった竜児!?」

亜美「私の意見はー……?」

数十分後

竜児「はぁ~……」カチャカチャ

竜児(まさか本当に泊まることになるなんてな……泰子が遅番でよかった)

竜児(こんな女子二人を家に連れ込んでるのをバレたら……)

亜美「…なんかごめんね」

竜児「おう? あ、いや別にいい。つか洗い物手伝ってもらってすまねえな」

亜美「ううん。ごれぐらいしないと、ただのお邪魔者になっちゃうから」

竜児「…お邪魔者って」

亜美「だってさ、けっこー辛いよ? 高須くんと逢坂さんの愛の巣の中に居るのって」

竜児「おいなんだそのネーミングは」

亜美「え? だって付き合ってるんでしょ? やっとこさ?」

竜児「…ちげーよ。付き合ってない、勘違いするな」

亜美「えーうそーないない、だって泊まる準備とかしてたよね?」

竜児「…よくわからんが、そういうの一番敏感なのお前だろ。だったらわかんじゃねーか」

亜美「まーね」

竜児「からかうんじゃねえよ。ったく」

亜美「うふふ」

竜児「…水冷たくないか? けっこう肌荒れとかしやすいぞ」

亜美「えっ? あ、うん……平気、そんなのもう気にしないようにしたから」

竜児「え、だってモデルとかそういうの気にしないと駄目だろ…?」

亜美「ねえ高須くん。こういうのって、なんだか夫婦っぽいよね?」

竜児「…露骨にはなし逸らすなよ」

亜美「いいじゃん、ねっ? どう思う? いっしょに皿洗いとか、けっこー夢が広がらない?」

竜児「…ま、まぁちっとは思わんでもない…」

亜美「でしょー? 高須くんってそういう所あるなって思うし」

竜児「そういう所?」

亜美「家事とか、洗濯物とか、お料理とか。夫婦揃って皆で頑張ってやりきって、部屋の中がいつも綺麗に」

竜児「…やべぇいいわ、それ」

亜美「やっぱりね。ま、私が出来るとは言えないけど?」

竜児「駄目じゃねえか…」

亜美「えへへ。…でも頑張るよ。きっと」

竜児「おう?」

亜美「亜美ちゃんは、絶対に好きな人の為になら……その人の思う私って人になるなら、努力は惜しまないと思うから」

竜児「……。なんからしくねえな川嶋、どうした?」

亜美「うん? 亜美ちゃんは亜美ちゃんだよ?」カチャカチャ

亜美「いつもどおり、みんなのアイドルで、みんなの人気者。ファンもいっぱいいる、そんな川嶋亜美なんだもん」

竜児「……」

亜美「変わらないよ。だって、そうやってずっと生きてきたから。今更変わることなんて、出来ないんだよ高須くん」

竜児「…川嶋、お前」

カチャン!

竜児「痛っ!?」

亜美「きゃあ!? ちょっと、高須くん!? 血が…!」

竜児「お、おう……すまん、油断した…絆創膏はどこだったっけか…」

亜美「それよりも流して! ほら、早く血を流して!」ぎゅっ

竜児「おおうっ!?」

亜美「やだやだ…っ! すごく血が出てるじゃん! なにやってるのよもぉー……っ」

竜児「す、すまん。大丈夫だ、そんなひどい怪我じゃない…」

亜美「血が出てるんだよ! 跡が残ったら大変でしょ!」

竜児「別に気にしねえよっ。お前みたいに綺麗な手じゃないからよ!」

亜美「えっ?」

竜児「あ、えっと……なんだ、男だしよ、気にしたりしないってことだ……うん」

亜美「……う、うん、そっか、そうだよね」

竜児「…おう」

亜美「……」

竜児(なんだよこの空気、気まず過ぎる)

亜美「…私の手、綺麗?」

竜児「おうっ!? お、おお……まぁ一般レベルでは到底及ばない綺麗さだとは…」

亜美「ふーん、そうなんだぁへぇー……高須くんがそう思っててくれたなんて、思いもよらなかったなぁ」

竜児「な、なんだよ」

亜美「だってぇ、うふふ。んーん、なんでもない」

竜児「からかってるなら怒るぞっ」

亜美「からかってない、からかってない。ただ…少し嬉しかっただけ」

竜児「ウレシイってお前、こんなこと言われ慣れてるだろ?」

亜美「……嬉しいよ、高須くんから言われたら」ぎゅっ

竜児「あ、俺…?」

亜美「そういうのって、女の子はとっても嬉しい事なんだよ。高須くん」

竜児「そ、そうなのか?」

亜美「…うん」

竜児「……そ、そろそろ収まっただろ」

亜美「……」ぎゅっ

竜児「お、おい? 川嶋、もう怪我の血は収まってるだろうし」

亜美「もうちょっとだけ、こうさせて」

竜児「もうちょっとってお前…」

亜美「お願い。高須くん……だめ?」

竜児「……だめ、じゃねえけど」

亜美「…ありがと」

竜児「………」

亜美「………」


大河「なにやってんのよ」


竜児「おおおうっ!?」

亜美「きゃっ!」

竜児「た、大河!? こ、これはだなぁ!?」

大河「あ。竜児、指怪我したの?」

竜児「お、おう。そうなんだよ、ちょっと馬鹿やってな…」

大河「ん」

竜児「……。なんだ手を差し出してきて」

大河「んっ」

竜児「見せろってか? おう、こんな感じだけどよ…まぁ大した怪我じゃ───」

大河「はむぐっ」

竜児「───ぉおおっ……!?」

亜美「っ……!!」

大河「まぐまぐ」

竜児「お、おい大河! お前なにやって…!」

大河「じゅぞぞぞぞぞぞっぞぞぞっっぞぞ!」

竜児「ぐぁー! す、吸われる! ものすごい吸われてる! やべぇ指が持ってかれちまう…っ!」

大河「ちゅぽん!」

竜児「おうっ!?」

大河「もごもご……ぺっ!」ぴしゃっ!

竜児「おまっ…! いきなりなにやってんだっ!?」

大河「はやくばんそーこー貼りなさいよ」

竜児「貼るよ! つか、いきなり変なことするなよ! びっくりするだろ!」

大河「へいへい…」スタスタ

竜児「な、なんなんだ大河のやつ……あ、そのすまん……」

亜美「…いつもあんな感じなの?」

竜児「いや、全然違うぞ。なんだ今日は変にかまってくるな……」

亜美「ふぅーん…」

竜児「もうこっちはいいぞ。居間でくつろいでてくれ」

亜美「え、でも怪我は大丈夫?」

竜児「大河に一滴残らず吸われたからな…大丈夫だ」

亜美「……」

竜児「…ん、どうした川嶋?」

亜美「ううん、なんでもなーい。ちょっと高須くんが嬉しいそうだとか、そんなこと思ってないよ」

竜児「う、嬉しそうだとかいうんじゃねえ!」

亜美「はいはーい。じゃあ亜美ちゃんは消えまーす」スタスタ

~~

竜児「…あ、そろそろ風呂沸かせるか」

大河「んー」

亜美「お風呂?」

竜児「おう。ま、今回は別にいいか。シャワーで済ませるだろ?」

亜美「……」

大河「ぱぱっとすませるー」

竜児「おう」

亜美「…あのさ高須くん」コソ

竜児「どうした」

亜美「お風呂、だよね。なのにこんな気が抜けた感じで大丈夫なの?」

竜児「気が抜けたって…べ、別に俺は覗いたりしないぞ!?」

亜美「そんなことじゃなくって、実は逢坂さんとお風呂いっしょに入ってるのかなって」

竜児「…まだお前は勘違してるのかよ」

亜美「違うの? まるでそんな感じがしたけど?」

竜児「違う。大河も別に俺んちで入るのは初めてじゃないだけだ、泰子……俺の母親と入ったりするしな」

亜美(人の親と風呂にはいる…)

竜児「まぁ毎回、強制的に入らされてるだけ、なんだけどよ。さて、じゃあさっそく──」


ピンポーン


竜児「…おう? なんだこんな時間に…」

大河「はぁー誰よこんな時間にぃ…ふわぁー」

亜美「ッ……」

竜児「……俺が出るぞ、いいな?」

亜美「…う、うん」

竜児「おう。はいはい、今あけまーす」

がちゃ

竜児「何方様ですか、おうっ!? お前……!?」

「こんばんわん! いやはや、この匂いはやはり此処に居るね!」

大河「っ!?」びくぅ

「こんにゃろー! 大親友の約束を放っておきやがってぇー! てやんでぇい、お天道様も泣いてやがるぜっ…!!」

竜児「…今は夜だ櫛枝」

櫛枝「あらら、確かにそうでしたわぁ。あははは! どうもどうも、こんばんわ高須くん!」

亜美「実乃梨ちゃん…!?」

櫛枝「おぇえええ!? な、ちょ!? 高須くんハーレム!?」

竜児「ちげぇ! か、勘違いするな櫛枝!」

櫛枝「なにがどう勘違いなのさぁ!? こ、これは……修羅場の時でってやつかい…!?」

竜児「ち、違うんだ。これには深い事情があるんだよ…!」

櫛枝「まっておくんなまし、ああーまっておくなまし」

竜児「お、おう…?」

櫛枝「……高須くん。好きな子は一人だけを選ぶんだよ、ぜったいにだ!」

竜児「川嶋ぁー! 大河ぁー! 助けてくれぇー!」

~~

櫛枝「なぁーんだ、亜美ちゃんが家出したから高須くんの家に居たんだねって、ぇえええええええええ!?」

竜児「忙しやつだなお前も…」

櫛枝「ちょっと大丈夫なのかい? 家出って、そんなの大事じゃん!」

亜美「うん、そうなんだけどね…」

櫛枝「ぐぬぬ。あんまりこういった混みあったことは訊くのはあれだけどね、亜美ちゃん」

亜美「なにかな?」

櫛枝「…今すぐ帰ったほうがよくない? 謝ったりすれば、許してもらえるかもだよ?」

亜美「………」

櫛枝「…そうだよね、了解しましった。櫛枝実乃梨、これから先何にも聞きませぬ! どーぞどーぞ! お好きに!」

亜美「うん、ごめんね実乃梨ちゃん」

大河「みのりん…あのね…」

櫛枝「あぁーそうだぜ大河ぁ? てめーは許されないんだぜぇ? こっちはどれだけ重い荷物背負って探したか、わかる?えぇ?」

大河「…ごめんみのりん…」

竜児「なんだ約束でもしてたのか。それに、櫛枝…その荷物なんだよ?」

櫛枝「これ? これはね、バイト先のあまりもの。捨てるなら貰うって言って、貰ってきた感じかな」

竜児「あまりものか。見てもいいか?」

櫛枝「いいともさ!」

亜美「へぇーこういうの貰ってもいいんだぁ。えーっと、なにこれ、全部ジュース?」

櫛枝「おうよ! よくわからん銘柄の売れ残り商品だぜ!」

竜児「これ全部背負って、大河のこと探してたのかよ…やべぇな櫛枝…」

大河「ううっ」

櫛枝「せっかくそのあまりを、大河にも数本わけてあげよっかなあーって約束してたのに。ったよぉーこの子ってばよぉー」

大河「ごめんなさい…」

竜児「…櫛枝との約束忘れるなんて、お前らしくもないな」

大河「……ちょっと色々あったのよ」

竜児「いろいろ?」

亜美「わ、これってもしかして……」

竜児「ん? どうした川嶋?」

亜美「……。ねぇ実乃梨ちゃん? これ、私がもらってもいいかな?」

櫛枝「お? でぇーじょうぶだぁ~へいきだぁ~」

亜美「ありがとーっ! じゃあじゃあ、みんなでいただこうよ! ね、そうしないっ?」

竜児「お、おおう?」

亜美「ほら実乃梨ちゃんも! 動きまわったから疲れてるでしょ? 喉も乾いてるだろうし、飲もうよいっしょに!」

櫛枝「よっしゃー! いただいちゃう? 私はぜんぜんおっけだぜ!」カシュ

亜美「そしてアンタもいじけてないで飲みなさいって」

大河「……」カシュ

亜美「高須くんも。ほら…ね?」

竜児「…やけに勧めてくるな、この銘柄知ってんのか?」

亜美「…まね、仕事でちょっと」

竜児「…?」

亜美「それじゃあみなさん。ご一緒に、かんぱーいっ」

竜児「……ごくり」

竜児「ッ!? ちょ、これ……オイ川嶋! まさかこれって──」


櫛枝「グブグビグビ」

大河「ぐびぐびぐび」


竜児「ぎゃあ──!! ばっ…馬鹿やめろお前ら! それってもしかしなくても酒なんじゃ……!」

亜美「ぷっはぁー!」

竜児「川嶋……これ、酒だって知ってただろ…っ!」

亜美「え~? うそうそ、知らなかったよぉ?」

竜児「嘘つくな! 明らかに知ってて、俺らにすすめてきただろ! なんてことしやがる!」

亜美「…怒らないでよ」

竜児「お、怒るに決まってるだろ! こんなの、もし学校や両親にバレでもしたら…!!」

亜美「えいっ☆」

竜児「うごごっ」

亜美「飲んで飲んでぇ~」

竜児「ゲホっ! ゴホゴホ! っ……か、川嶋ぁ~……!」

亜美「きゃー! 高須くんが怒ったぁー!」

竜児「お前、いい加減にしないと……っ……おう?」ぎゅっ

大河「りゅーじぃ」

竜児「大河お前……もしかして、」

大河「りゅーじぃいい…えへへ……あふぅ」ぎゅううう

竜児「うだぁー!? 両足でサバッ……折りだと……ッ!?」

大河「うにゃーっ!!」ギリギリギリ

竜児「お、折れる折れる折れる!! た、タンマ大河!!」

大河「にゃ?」ぱっ

竜児「はぁ…はぁ…なんてこと、しやがる……っ」

大河「にゃにゃにゃ? にゃにゅにゃーにゃ!」

竜児「……せめて人語を喋ってくれ」

大河「ん~っ」ぎゅう

竜児「おう!? ちょ、ひっつくな! 虫みたいにひっつくな大河! お、重っ…!」

大河「ぺろぺろ」

竜児「ぎゃああー!! ……あ、あ…?」

櫛枝「…高須くん」

竜児「ち、違うんだ櫛枝! これは大河が酔っぱらってて!」

櫛枝「…」ぐいっ

竜児「え、あっ、ちょっと顔が近いぞ櫛枝…!?」

櫛枝「た、高須くんっ……あのあの、あのね! 私ってばやっぱりうざいかな!?」

竜児「んっ!?」

櫛枝「あのね、そのね、こういった娘はね、男の子に嫌われやすいとかさ、あのね、やっぱりあるのかなって!」

竜児「そ、そんなことないと思うぞ……ち、違う! もしかして櫛枝お前もなのか…っ?」

櫛枝「たっ…たかしゅきゅんはぁ! わっちのことどうおもいやんせっ!?」

竜児「…待つんだ櫛枝…! なにがなんだか俺にはわからん!!」

大河「はむはむ」

竜児「耳を噛むなぁー! 大河ぁー!」

櫛枝「ううっ……ううううううっ……!!」ぎゅうっ

竜児(えっ! 櫛枝が俺に抱き…ついて…!?)

亜美「嬉しそうだねぇー高須くーん」

竜児「…か、川嶋…っ…お前はえらく余裕だな…!」

亜美「だって亜美ちゃん、こういうの慣れてるし☆」

竜児「慣れてるって…まさか常習的に飲んでんのか…?」

亜美「……」ゴクリ

竜児「お前……それって、もしかして仕事と関係有るのかよ…?」

亜美「どーしてそう思うの?」

竜児「だって、嫌になったんだろ…家に居るのがよ、だったらそう思うのおかしいことじゃねえだろ…!」

亜美「…そうなのかな」

竜児「そういった仕事の関係で、酒とか、いろいろな付き合いでやらなくちゃいけないことがあって…」

竜児「お前は……だから家出をしたのか…?」

亜美「…亜美ちゃんはね、お酒が強いだけなんだよ」

竜児「……」

亜美「高須くんがどう察したのかはわかんないよ。けどね、もしかしたら──この世の何処かにいる川嶋亜美って娘は」

亜美「お酒が強くなるぐらいに、いっぱいいっぱい飲んで、それから頑張ってる娘なのかもしれないね」

竜児「川嶋…」

亜美「嫌だなぁ…こんな高校生なんて、今の亜美ちゃんを見たらみーんな失望しちゃうよね、きっと」

ごくごく

亜美「私はどんどんお酒が強くなっていく──このまま、変わらずに永遠に強くなって、肝臓がやられちゃって、ぽっくり死んじゃうんだよ」

竜児「っ…そんな、そんなこと言うなよ! そんな……可哀想な事言うなよ…!!」

亜美「…だったら高須くんが助けてよ」

竜児「えっ…」

亜美「可哀想だって思うのなら、助けてよ。私を新しい亜美ちゃんに、綺麗な亜美ちゃんい変えてよ」

竜児「…っ…」

亜美「どうせ出来ないでしょ? だって重いもんね、私なんて。それに高須くんが背負ってるものも、とっても思いじゃない」

竜児「俺が…」

櫛枝「ううっ…」

大河「にゃーん」

竜児「……確かにな」

亜美「うん。だからそんなこと言わないでよ、心配してくれるのは嬉しいけど……もう言わないでよ」

竜児「…何言ってんだ川嶋」

亜美「えっ?」

竜児「どうってことないだろ、それぐらい。ああ、大丈夫だって」

亜美「高須くん…?」

竜児「バカ言え、こんな重さぐらい大丈夫だ! おう! ついでにお前のことを背負うぐらいに、やってやるよ!」

亜美「………」

竜児「…俺らは別に他人じゃねえだろ。お前の性格だって、辛さだって、わかってやれると思ってるよこっちは!」

竜児「勝手に俺を見くびるな! ちっとは頑張るぞ高須竜児って男はよぉ!」

亜美「…高須、くん……」

竜児「…あーだめだ、頭がくらくらする…すまねえ…こんな酔っぱらいの言葉、聞いても信じてもらえねかもだけどよ…」

亜美「ううんっ…嬉しいよ、すっごく嬉しいよ私…っ」

竜児「そっか…ならよかった…」

亜美「っ……高須きゅううううううううんっ」だきっ

竜児「って、ええええええ!?」ドタリ!

亜美「もうほんっとありがと…! んーんっんっんっ!」ちゅっちゅっちゅっ

竜児「ちょっとまっ! お前! 待て待て待て! もしかして一番酔ってんじゃねぇーか!?」

亜美「んーーーー!!」ちゅうううう

竜児「んなぁー!! 頬が喰われてる!! とれるとれる!!」

亜美「ぷはぁっ…はぁ…はぁ……はれ? にゃんだろこれ、にゃはは! 高須くんがこんなに近くにいる~!」ぎゅうー!

竜児「川嶋っ! 正気に戻れ!」

櫛枝「なんでうちはひとりぼっちなーん! びぇええええ!」

大河「りゅうじぃ…りゅうじぃ…じゅぞぞぞぞぞぞっぞぞぞっっぞぞ」

竜児「ん───!!!?」

亜美「あー!? ちょっとちびとらぁ!! アンタ勝手になにちゅーしてんのよぉ!!」

大河「ぎしゃー!」

亜美「あん? なぁによそれ、喧嘩うってんの? 来なさいよゴラァァァアアアアア!!」

櫛枝「ファイ!」

竜児(助けてくれ)

数十分後

大河「むにゃむにゃ」

櫛枝「すーすー……はっけよい、お残しはゆるしまへんでぇ……」

亜美「くーくー」


竜児「…はぁ」

竜児(なんとか皆寝たか。明日が休日で良かった、とりあえず櫛枝は大河の家に泊まると事前に連絡してたみたいだしな…)

竜児(…あのカバンの中に、お泊りセット入ってたし。頼む、本当に問題にはならないでくれよ…)

竜児「しっかし、大変だった。色々ともう、マジで」

「…高須くんは眠らないの?」

竜児「おう…っ?」

亜美「えへへ」

竜児「…なんだよ寝てなかったのか」

亜美「うん」

竜児「……。なんで毛布から顔出さないんだ」

亜美「……」

竜児「おいって」

亜美「…み、見れないからっ」

竜児「どういう意味だよ。俺の顔が怖いってか、今更だろ」

亜美「違うの、全然違う、そうじゃなくって……あーもう、逆にどうしてそんな普通なのよ高須くんはっ」

竜児「へ?」

亜美「だって! だって……す…しちゃったから」

竜児「え、あっ…ああ! あーうん、でもあれはノーカウントだろ。事故だ事故」

亜美「事故ぉ!? そんなのありえなくないっ!?」がばぁ!

竜児「おうっ!?」

亜美「あ…」カァアア

竜児「…よ、よお」

亜美「っ…!」

がばっ!

竜児(また毛布の中に戻った…)

亜美「…ばか」

竜児「すまん」

亜美「…ばかばかばか、ばか」

竜児「すまん、本当に」

亜美「ぐす…ファーストキスなんだからね、私の大切な…キスなんだよ…っ」

竜児「……ホントにすまん」

亜美「んもう知らないっ。ばーか!」

竜児「……」すっ

ぽんぽん

竜児「その、なんだ。あの時の言葉は……事故だとか、ノーカウントだなんて言わないからよ」

竜児「お前を背負ってやる、なんて大げさなこと言っちまったけど。ん、本気だからよ」

ナデナデ

竜児「色々と頑張ろうぜ。川嶋」

竜児「んー……じゃあ俺は自分の部屋で寝るわ。明日早朝に起こすから、櫛枝と大河に謝罪の言葉を考えておけよ」すっ


「──待って」

ぎゅっ  ぐい…


竜児「っ…!?」


どさ…  


竜児「おう…っ!」

亜美「……」ぎゅっ

竜児「か、川嶋…っ…なんだ、手を離せって…!」

亜美「…高須くん」

竜児「っ…!」

亜美「私はあなたのこと、本気で信用しちゃうかもだよ」

竜児「…な、なんだよ急に…」

亜美「お願いだから聞いて。私はあなたのために、努力をしちゃうかもなんだよ」

竜児「なんだ、まだ酔がさめてねえのか…?」

亜美「………」

竜児「…川嶋?」

亜美「そうかもね、私はまだ酔いが冷めてないのかもしれないね。だから、だから──」

すっ

亜美「──亜美ちゃんはもっと凄いこと、したくなるのかもしれない」

竜児「ちょ、待て…!」

亜美「高須くん」ぎゅっ

竜児「抱きついて、本当になにしてるんだっ」

亜美「好きだよ」

竜児「っ…───…え…?」

亜美「私は高須くんのこと好き。本当に好き、なにもかもが好きで、言葉に出来ないぐらいに…」

亜美「大好き」

竜児「…川嶋…?」

亜美「高須くんは私のこと、嫌い?」

竜児「嫌いなわけ…」

亜美「じゃあ好き?」

竜児「……っ…」

亜美「んふふ」

竜児「…からかってるわけじゃ、ないよな」

亜美「本当はとってもからかってあげたい。けどね、うん、本当に思っちゃってるの」

亜美「川嶋亜美は、あなたのことが大好きなんだって」

竜児「……どうしていきなり」

亜美「もう、変わらなくちゃいけないから。昔のあたしは、もう乗り越えなくちゃ駄目なの」

竜児「それが……俺に告白する理由なのか?」

亜美「ううん、これはただの我侭だよ。あたしの勇気付けのためのわがまま」

亜美「高須くんに告白できる勇気があれば、変わるための勇気も持てるって、そんな都合のいい考えなだけ」

亜美「だけどね、本気だよ」

亜美「逃げなくなったわたしは、繕うことをしなくなったわたしは、完璧超人だから」

亜美「高須くんがどんな好きな子ができても、亜美ちゃんだけを見てられるほどに──」

亜美「──わたしは強くなる」

竜児「……」

亜美「…だから返事は言わないで。次また会う時に、わたしは強くなってるから」

亜美「──その時なら、どんな答えでもわたしは……受け止められるはずだから」

次の日

竜児(朝起きると、川嶋の姿は無かった。書き置きあり、大河と櫛枝に向けた謝罪が書かれていた)

竜児(大河は憤慨していたが、持ち込んだ私が悪いと櫛枝は反省していた)

竜児(今朝がたに帰ってくる泰子から難を逃させる為に、二人を大河マンションへと送り出し)

竜児「……川嶋」


夕方


竜児「買い物行ってくるからよ。留守番頼んだ」

大河「あいよ」

竜児「なんか買ってきて欲しいもんあるか?」

大河「……」

竜児「なんだよ?」

大河「あんた、ここに痣ができてるわよ」

竜児「どこだよ? ここ?」

大河「ここ」

竜児「いや何処だよ。もうちょっと詳しく指差せって」

大河「ここだってば!」ぐいっ

ちゅっ

竜児「おうっ!? お、お前…!?」

大河「っ……なによっ!?」

竜児「い、今の……なに?」

大河「せ、せんせんふこく…!」

竜児「だ、誰に?」

大河「はやくいけっ!」げしげしっ

~~~

櫛枝「よーっす!」

竜児「お、おお。なんだもうバイトしてんのか」

櫛枝「あったりまえよー! たかが炭酸の強いジュースでへばってらんねぇぜ!」

竜児「おう。やっぱ凄いなお前は」

櫛枝「んーん、そんなことねーさね」

竜児「お? どうした?」

櫛枝「…高須くん」

竜児「おう?」

櫛枝「…悲しませるぐらいなら、櫛枝実乃梨だけを悲しませるんだよ」

竜児「…それどういう意味だ?」

櫛枝「んー? わっかんね! そんじゃ、まったねー!」だだだだ

竜児「お、おう…」

~~~~

竜児「……お」

亜美「ん? あれ高須くんじゃん」

竜児「おう。どうだ調子は」

亜美「なにそれ~? 変な聞き方、今日の朝までいっしょに居たじゃない」

竜児「そりゃそうだが。色々とどうなったと思ってな」

亜美「うん。終わらせたよ、踏ん切りつけたから。ぜーんぶ、おしまいにさせた」

竜児「…モデルやめたのか?」

亜美「やめたよ。やめてやったった、あーこれで体重気にしなくてすむ~きゃー! もしかしてバイキング行き放題? マッジで!? やっべー!」

竜児「はは、なんだよ。いきなり飛ばすなぁ」

亜美「あったりまえ! だって、今まで我慢してきたこといっぱい出来るんだよ? じゃあするに決まってるじゃない!」

竜児「おう。そっか、そうだよな」

亜美「うんっ!」

竜児「…それでだな」

亜美「うん」

竜児「返事…だけどよ」

亜美「…うん」

竜児「俺は……」

亜美「──高須くん」

竜児「…おうっ?」

亜美「あたしは大好きだよ。高須くんのこと、一番誰よりも好き」

亜美「こんなあたしを認めてくれた人の為に、あたしは生きていくと信じても、絶対に後悔しないと思う」

竜児「お前、川嶋……卑怯だな本当に」

亜美「そお?」

竜児「…くっそ、なんだよ、なんかもう…」

竜児「俺はお前のこと───」

ここで終わり
告白の答えはご想像に任せる

支援ありがと
ではではノシ

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