なの「どうしよう……遭難しちゃった」(196)


――山小屋



ビュオオ…


なの「………」チラッ

なの(駄目だ……まだ吹雪いてる)

ゆっこ「はあ……はあ……」

なの「相生さん……」ピタッ

なの(……熱が下がらない)

なの(このままじゃ……)


なの「……どうしてこんなことに」


―――――――――


――前日 東雲研究所


はかせ「ねーなのー」トテトテ

はかせ「どこー?」キョロキョロ

なの「はいはい、ここに居ますよ」ヒョイッ

なの「なんですか?はかせ」

はかせ「おかし……って、何してるの?」


なの「あー……これですか?」ゴソゴソ

なの「明日の修学旅行の準備ですよ」

はかせ「しゅうがくりょこう? なにそれ?」

なの「言ってませんでしたか? おかしいな……」

なの「保護者の同意書のプリント、渡したじゃないですか」

はかせ「えーっと……なんかそういう紙に判子は押したけど」

なの「読んでなかったんですね……」


なの「まあ簡単に言えば、学校の皆で行く旅行ですよ」

はかせ「旅行……? どこか行っちゃうの?」

なの「はい、今年はスキー場に」

はかせ「えーっ……いっちゃやだー!」ギュムッ

なの「い、今言われても……」アセアセ


なの「阪本さんとビスケットさんが世話してくれますから……」

はかせ「なのじゃないとやだーっ!」

なの(一週間前に聞いた時はあっさり承諾したのに……)

なの(……まあ聞いてなかったんだろうなあ)

はかせ「やだやだやだやだ! 修学旅行行っちゃダメっ!」

なの「えーっと……困ったな」


阪本「まったく……またガキが騒いでんのか?」トテトテ


なの「あっ、阪本さん!……すみません、助けてください」

阪本「おう、何があった?」

なの「それが……」カクカクシカジカ

阪本「……ふむふむ、修学旅行ねぇ」

なの「今から変更してもらうことはできないし……」

なの「どうしましょうか?」

阪本「…………」

阪本「……よし、俺に考えがある! ちょっとまかせろ」

なの「本当ですか!? ありがとうございます!」


阪本「おいガキ! ちょっとこっちこい」チョイチョイ

はかせ「………?」

阪本「良い事教えてやるから、ほら」グイグイ

はかせ「う、うん……」テッテッテッ


――廊下


はかせ「……良い事って何なの?」

阪本「まあ聞けよ」

はかせ「うん……」

阪本「良いか、ガキ……お前は修学旅行を嫌なものだと思ってるだろ」

阪本「……だがそれは間違いだ」


はかせ「どういうこと?」

阪本「考えても見ろ、娘が留守にするんだぞ?」

はかせ「…………」


阪本「……お菓子食い放題だぞ」


はかせ「!!」パアアア

阪本「そりゃあちょっとは寂しいかもしれないが、すぐに帰ってくるさ」

はかせ「そうなの?」

阪本「ああ、修学旅行っていうのはだいたい3日くらいなんだよ」


はかせ「そうなの!? わーい!」ダダッ

阪本(……まあ、出発させちまったらこっちのもんだろ)


――居間


はかせ「なのー! 修学旅行行っていいよー!」ガロッ

なの「えっ! 良いんですか!?」

はかせ「うん!」


なの「ああ……良かった」

なの(……ありがとうございます阪本さん)ヒソヒソ

阪本さん(良いってことよ)ヒソヒソ

はかせ「それでそれで? 何持ってくの? 手伝う?」

なの(なんか急に協力的に……まあ良いか)

なの「えーっと……着替えとしおりと……」

はかせ「……ぷぷぷ、忘れ物があるんだけど」


なの「え? なんですか?」

はかせ「ふふふ……それはね」


はかせ「スニッカーズ!」ビッ


なの「はかせ!……ってそれはもう良いですよ」

はかせ「? なんで?」

なの「何でって……お菓子は持っていっちゃいけないんです」


はかせ「そうなの? ……学校の先生ってバカだな~」

なの「そこまで言いますか」

はかせ「遭難とかした時に、甘いものを持ってるとすごく便利なんだよ?」

なの「そんなまさか……遭難なんてするわけないじゃないですか」

はかせ「わかんないよ? 山の天候は変わりやすいんだけど」

なの「大丈夫ですって、考え過ぎですよ」

はかせ「むー」


はかせ「まあ、もしそうなっても大丈夫だけどね」

はかせ「……なのにはこれがあるから!」ポチッ

なの「え?」


ウィイイイン…ガコッ


なの「」

はかせ「甘食もあるよ!」ポチッ


ウィイイイン…


なの「や、やめてくださいよ!」


なの「もう……まだ入ってたんですかこれ」スポッ ガション

はかせ「ちゃんと新しいの買ってきたよ?」

なの「そういう問題じゃありません!」

はかせ「えーっ……嫌?」

なの「嫌に決まってるじゃないですか……これは冷蔵庫にしまっときますね」

はかせ「あーあ……何でそんなに嫌なの?」


なの「普通の人は頭の中に甘食が入ってたりしません!」

はかせ「わかんないよ? 入れてる人もいるかも」

なの「わかります!……そもそも、私の頭に入るのも変じゃないですか」

なの「頭にはその、考える所とかが入ってるんですよね?」

はかせ「それも入ってるけどね……色々配置を変えてスペースを作りました」

なの(なんて無駄なことを……)


はかせ「とりあえず思考の中枢は後頭部に配置して……」

なの(……しかもなんか解説始めちゃった)

はかせ「感覚の中枢はまとめて右目の後ろに、他はまとめて左目の……」ペラペラ

なの(ああ……スイッチが入っちゃったのかな)

なの(明日は早いから、早く眠らなきゃいけないのに……)


なの「ふわあ……」


―――――――――――――


――翌日 スキー場



ゆっこ「ひゃー、すっごいなあ……」

ゆっこ「ねえねえ麻衣ちゃん、真っ白だよ!」

麻衣「……? 真っ黒……」

ゆっこ「麻衣ちゃん、それゴーグルじゃなくてアイマスクだよ」

みお「ゆっこ……あんたはしゃぎ過ぎじゃない?」

みお「……中学生じゃあるまいし」


ゆっこ「えー? やだなあ、心が荒み過ぎだよみおちゃん」

みお「だって雪くらいなら普通に見られるし……」

麻衣「……沖縄が良かった?」

みお「当然!」

ゆっこ「ああ、まだそれ気にしてたんだ」

みお「だって沖縄からスキーだよ!? 天と地だよ!」

ゆっこ「仕方ないじゃん、ホテルが燃えちゃったんだから……」


みお「でも……でも……!」

ゆっこ「まあまあ、もう沖縄のことはわすれて楽しみなよ」

みお「スキーでそんなに楽しめるほど純粋じゃない……」

ゆっこ「もう……ほら、見なよあれ」ピッ

みお「?」スッ


なの「…………」ポケーッ


ゆっこ「あんなに感動してる人も居るんだからさ」

みお「……うん、ごめん」


桜井「み、みなさーん……集まってくださーい……」ピョンピョン


ゆっこ「あ、いよいよだね」

みお「……ま、今日は楽しみますか」

ゆっこ「そうそう!……あ、なのちゃんまだぽーっとしてる」

ゆっこ「おーい! なのちゃん、もう始まるよー!」

なの「……へ? あ、はいっ!」タッタッタッ


…………………

――スキー場


桜井「えーっと……初心者コースと、中級者、上級者コースがありますので……」

桜井「自分のレベルに合わせて、コースを選択してくださいね!」


ハーイ


桜井「それじゃあ……自由行動にします!」


ワーイ!


…………………


高崎「さっ、桜井先生!」

桜井「あっ、はい! なんでしょう?」

高崎「えっと、その……ええっとですね」

高崎(落ち着け高崎学……まずは向こうのコースを確認するんだ!)

高崎「その……桜井先生は、スキーの経験ありますか?」

桜井「はい、ありますよ」

高崎(ホイキタ―――!!)


高崎(経験があるということは中級! これは……行ける!)

高崎「さ、桜井先生!」

桜井「は、はい!」

高崎「その……僕はこれから中級者コースで滑ろうと思うんですけど……」

桜井「そうなんですか?」

桜井「私は前やったときに転んでばっかりだったし、初心者かなあ……」

高崎「!!? ……ぼっ、僕なんかスキー履くと骨折しちゃうんですよ!」


…………………………


ゆっこ「ふう……やっと履けたよ」

ゆっこ「あ、そういえばみんなはどのコースに行くの?」

みお「私は中級かなー」

ゆっこ「やったことあるんだ……良いなあ」

なの「わ、私は初心者で……」

ゆっこ「私も初心者かな」

ゆっこ「麻衣ちゃんは?」

麻衣「……私は上級に」


ゆっこ「相変わらず凄いね……難しそうなのに」

麻衣「……板に足をのせて滑るだけ」

麻衣「簡単」ステステ

ゆっこ「…………」

みお「まあ、慣れれば楽勝だよ……それじゃ」ステステ

ゆっこ「…………」

なの「そ、そうなんですか?」

ゆっこ「なのちゃん……私たちは大人しく初心者コースに行こうね」ポン

なの「あ、はい……・」


……………………………



ボフッ!


ゆっこ「ぶへっ!……あー」ノソノソ

ゆっこ「やっぱり上手く滑れないねー」

なの「そ、そうですね……きゃっ!」ボフッ!

ゆっこ「あ、なのちゃん大丈夫!?」

なの「…………」

ゆっこ「……なのちゃん?」


なの「…………」

ゆっこ「なのちゃん!? どこか痛いの?」モソモソ

なの「……てます」

ゆっこ「え?」


なの「私今……仰向けに寝てます!」パアアア


ゆっこ「え……あ、うん……」


なの「すごい……夢みたいです」

ゆっこ「そんなに?」

なの「はい!」

ゆっこ「そう……」

なの「空ってこんなに青かったんですね……」

なの「良いきぶ……ん……」ウツラウツラ

ゆっこ「ちょ、ちょっとなのちゃん? 寝ちゃだめだよ」

なの「へっ? あ、すいませんつい……」


なの「ふわあ……」ムクッ

ゆっこ「もしかして寝不足?」

なの「あ……はい、ちょっと」

なの「はかせの話が長くて……」

ゆっこ「大変だねー」

ゆっこ「向こうの方で休む?」

なの「いえ、いいです……せっかく来たんだから、滑れるようになりたいですし」

ゆっこ「……そうだね!」


ゆっこ「じゃあ、一緒にがんばろうか!」

なの「はいっ!」


……………………………


――中級者コース


シュウウウ… ビッ!


みお「あー気持ちいいなあ!」

みお「やっぱりスキーは滑ってナンボだよね……」

みお「ゆっこ達、今頃どうしてるのかな?」


みお「その点麻衣ちゃんは心配無いけどねー……」

みお「……お姉と同じレベルだったりして」

みお「…………」ゾクッ

みお「そ、それは流石に無いか……あはは」


……………………


――上級者コース


麻衣「…………」キリッ


麻衣「…………」キュッキュッ

麻衣「…………」クッ クッ

麻衣「……よし」スッ…


ボフッ


麻衣「…………」

麻衣「……ボケだったんだけど」


………………………………


――初心者コース



ゆっこ「……おっ」スイー…

ゆっこ「おっ、おっ、おっ……」フラフラ

なの「…………」ゴクッ

ゆっこ「うあっ!」ボフッ

なの「ああ……残念ですね」

ゆっこ「うへー……やっぱり難しい」


なの「じゃあ、私の番ですね……」モソモソ

ゆっこ「うん、頑張って!」

なの「はい!」ザッ


なの「……よし」グッ グッ

なの「そーっと……」スッ…

なの「……あ」スイーッ…

ゆっこ「おお! 結構安定してる!」

なの「うわ……すごい、滑れてる」スイーッ…


なの(ああ……風が気持ちいいなあ)スイーッ…

なの(このまま……ずっと滑ってたい……くらい……)スイーッ


ゆっこ「おおお……滑れてる滑れてる!」

ゆっこ「……あれ? でも……ちょっとスピード出すぎじゃない?」


なの(あ……なんか、ねむ……く……)ウツラウツラ


スイーッ…


ゆっこ「うわ……どんどん早くなってる」

ゆっこ「もしかして止まれないのかな……なのちゃーん!」ダッ


ボフッ


ゆっこ「ああもう……滑れなかったら邪魔なだけじゃんこれー!」ヌギヌギ



なの「…………」スイーッ


ゆっこ「なのちゃーん! 待ってー!」タッタッタッ

ゆっこ「なのちゃん!? 聞こえないのー!?」


なの「すう……すう……」スイーッ


ゆっこ「なのちゃ……うわっ、やばっ!」


ゆっこ「なのちゃん!!そっち崖になってるよー!!」


なの「……ふえっ? あ……」パチッ


なの「……えっ? あ、うわあっ!」バタバタ

ゆっこ「あ、暴れちゃ駄目だよ、落ち着いて!」

なの「わっ、わっわっ……きゃーっ!」ゴロゴロ…

ゆっこ「落ちっ……こなくそー!」ガシッ!

ゆっこ「掴んだ! セー……」


ボロッ…


ゆっこ「……フ?」グラッ

ゆっこ(あ……ここ、もう……)


ゆっこ「雪だけ……だ」



ズザザザザザザザ……


…………………………………


………………………


――雪山


ゆっこ「……うっ、うあ……?」パチッ

ゆっこ「あ……生き、てる……」

ゆっこ「……そうだ、なのちゃんは?」ムクッ

ゆっこ「なのちゃーん……大丈夫ー?」キョロキョロ

ゆっこ「あれ……居ない?」


ゆっこ「なのちゃん……なのちゃーん」モソモソ

ゆっこ「どこに行っちゃったんだろう……」キョロキョロ

ゆっこ「……あれ?」


キラッ…


ゆっこ「今の……」ザクザク…

ゆっこ「……! やっぱり!」

ゆっこ「なのちゃんのネジだ……!」


ゆっこ「この下に埋まってるんだ……」

ゆっこ「早く掘り返して、助けを呼ばないと……!」ザクザク


……ヒラッ


ゆっこ「………?」ザクザク

ゆっこ「雪……」

ゆっこ「そんな、さっきまで晴れて……って、え?」

ゆっこ「……曇ってる……」



ハラハラハラ…


ゆっこ「うわ……どんどん強くなってる」

ゆっこ「早く……早くしないと……っ!!」ザックザック



ハラハラハラハラ…



フオオオオオ…



ビュオオオオオオオ…



……………………


――山小屋


ビュオオオオ…



なの「う、ううん……」パチッ

なの「……? ここは……」

ゆっこ「あ……なのちゃん」

ゆっこ「目……覚めたんだね」

なの「あ、相生さん?……どうしたんですか!?」


ゆっこ「良かった……本当に」

なの「相生さん……?」

ゆっこ「……ごめん……」

ゆっこ「ちょっと……疲れた……だ、け……」


バタッ


なの「!! 相生さん!」タッ


なの「まさか……熱っ!」ピタッ

なの「すごい熱……!」

なの「早く手当てをしないと……」

なの(……でも、外は……)


ビュオオオオオオ!



―――わかんないよ?


―――山の天候は変わりやすいんだけど


なの「…………」ヘタッ


なの「どうしよう……遭難しちゃった」



……………………


――山小屋


ゆっこ「はあ……はあ……」

なの「…………」ゴソゴソ

なの「……駄目だ、使えそうなものは何も持ってない」

なの「何か、お菓子とかだけでも……」

なの「……そうだ、抜き取っちゃったんだっけ……」

ゆっこ「はあ……はあ……」

なの「……とりあえず、温めないと」


なの「えーっと……そうだ!」

なの「……虫歯にならないんだから、風邪もひかないよね」ヌギッ

なの「うっ……寒い……」ブルッ

なの「……でも、我慢しないと……」


バサッ


なの「これでちょっとは暖かいかな……」

ゆっこ「……な、なの……ちゃん……?」

なの「相生さん!?」


ゆっこ「どしたの……そんな、薄着で……」

なの「え、あ、えっと……」

ゆっこ「風邪……ひい、ちゃうよ……?」

なの「だ、大丈夫ですから……」

なの「……私は、大丈夫ですから」

なの「安心、してくださいね」ニコッ

ゆっこ「……そう、なの……?」

なの「はい、だから今は静かにしてましょうね……あ、そうだ」


ゆっこ「………?」

なの「……はい、これでよし」

ゆっこ「……ひざ、まくら?」

なの「はい……これで、少しは楽になったら良いんですけど」

ゆっこ「うん、ありがと……」

ゆっこ「……ひんやりしてて、気持ちいい……」

なの「……良かった」

なの(寒い……やっぱり、私の体は寒いと冷たくなっちゃうんだ)

なの(……でも)


なの(今は、役に立ってよかった)ナデナデ


ゆっこ「……すう……すう……」


…………………………………


ビュオオオオオ…


なの(吹雪、ちょっとはマシになってきたかな……)

なの(……でも)

ゆっこ「はあ……はあ……」

なの(相生さんの体調が、どんどん悪くなってる……)

なの(早く、病院に連れていかないと……!)


なの(……そういえば、落っこちてからどれくらい経ったのかな?)

なの(時計は腕に……)シャコッ


なの「……え?」


なの「……っ!」バッ

なの(そうだ……曇ってるから、暗いのが当たり前だと思ってた……)

なの(……もう、夕方だったんだ……!)


なの(どっ、どうしよう……もうすぐ真っ暗になっちゃう)

なの(そしたら、助けなんてこれないんじゃ……ただでさえ吹雪いてるのに)

ゆっこ「はあっ……はあっ……」

なの(……駄目、一晩もつかわからない……!)

なの「……っ」チラッ


ビュオオオオオ…


なの「今なら……かなり、弱まってきてる」


ビュオオオオオ…


なの「…………」

なの(……私はロボットだから、寒さで死ぬなんてことは無いよね)


ビュオオオオオ…


なの(……でも、Tシャツと下着だけで戻ったら)

なの(確実に……人間じゃ無いってわかる)


ビュオオオオオ…


なの「……だけど」

ゆっこ「はあっ……はあっ……」


ビュオオオオオ…


なの「……すみません、相生さん」スッ

ゆっこ「はあっ……はあっ……」

なの「ちょっとだけ、待っててくださいね」


なの「……すぐに、戻ってきますから!」



ダッ!


……………………………………


――雪山


ビュオオオオオ…



なの「はあっ、はあっ」ザッザッザッ…



ビュオオオオオオ…



なの(さむいさむいさむいさむいつめたいつめたいつめたい……)ザッザッザッ…

なの(……でも、止まっちゃいけない……!)ザッザッザッ…

なの「……うあっ!?」ズッ


ドサッ…


なの「いっ……た、い……」

なの「は、早く……立ち上がらなきゃ……っ!」ググッ


ドサッ


なの「……あれ?」

なの「ど、どうして……立ち上が、れない……?」ググッ


ドサッ


なの「っ!?」


なの(関節が、凍りついてる……? いや、違う)


なの(……セーブがかかってるんだ)


なの(人間が痛みを感じるのは、無理しすぎないためだって……聞いたような)

なの(なら……私にそういう機能があるのも)ググッ


ドサッ


なの(こういう時に……壊れないように、動きを制限するため……?)


なの「…………」

なの「……あはっ」

なの「あは、は、あはははっ……」

なの「そんな……バカなことって……」

なの「無い……ですよね、はかせ……!」ググッ


ドサッ


なの「私は……ロボットなのに!」

なの「人間を死なせて……自分は生き残るなんて!」ググッ


ドサッ


なの「そんなこと……無いですよね……?」


なの「……駄目、動かない」

なの「助けがくるまで……このままだったら」

なの「私は……生き残るのかな?」

なの「でも、相生さんは……」

なの「…………」


ホロッ…


なの「嫌……そんなの……」

なの「私……相生さんが居ない世界で生きたくない……っ!」


なの「……あ」

なの「………っ」ズズッ… ガシッ

なの「何これ……折れた、ストック?」

なの「…………」ジーッ

なの「……これで」


なの「これで、首のあたりを刺せば……私でも、死ぬのかな」


ビュオオオオオ…


なの「…………」ジーッ

なの「…………」

なの「……違う」

なの「死ぬんじゃなくって……壊れるんだよね」

なの「……でも、それでも良い」ググッ


なの「……うあああああああっ!!」ブンッ



ザクッ!


なの「っあ……う、ああ……」ボタボタ

なの「たり、なかったかな……」ググッ


グイッ!


なの「ひっ……っあ! っうあああっ!!」

なの「くううっ……! 右目の……」


――感覚の中枢は、まとめて右目のうしろに……


なの「……うしろっ!」グイッ!


メキメキメキッ…!


なの「っああああああ……っ!」ググググッ…


……ピシッ!


なの「っ!……はあっ、はあっ……」ズボッ…

なの「……良かった、目も、耳も、動いてる」ググッ


フラッ…


なの「もう、何も痛くないし……寒くない」


なの「まだ……走れる!」


タッ タッ タッ タッ タッ タッ タッ タッ


なの「はあっ、はあっ…・!」

なの「早く……早くしなきゃ……!」


タッ…


なの「……崖だ!」

なの「結構、急斜面だけど……」

なの「……登るしかない」


ググッ


ガシッ!


なの「はあっ、はあっ……」グググッ


ガシッ!


なの「はあっ……うあっ!」グググッ…


ズザザザッ…


なの「くっ……ああ、あああっ!」グググッ


ガシッ!


なの「はあ……はあ……」

なの「これ以上、進めない……何か、使えるものは……」ゴソゴソ

なの「……あれ?」

なの「左の、指……折れてるや」プラッ

なの「やだ……このままじゃ、先生たちの所まで……辿りつけない」

なの「なにか、無いのかな……手足以外で、折れそうな所」

なの「……こんな、こんな所で終わりたくないのに……!」


ピカッ…


なの「……今のは」


ピカッ…


なの「懐中、電灯……?」



…オーイ


なの「………っ!」


シノノメー… アイオイー… ドコニイルー…


なの「……ここです!!」

なの「ここに居ます!!」


ム、ムコウノホウカラ… ソウカ! チョットミテクル…


ザッザッザッザッザッザッ!


高崎「東雲! ……そこにいるのか!?」ザッ


なの「はい! ここです!」

高崎「……手、掴めるか!?」ググッ

なの「……はいっ!」ガシッ


グイッ… ドサッ


高崎「おお、良かった……って東雲! お前その格好はどうしたんだ!?」

高崎「スキーウェアは……いや、それよりその目は何があった!」

なの「私のことはいいんです!」


なの「そんなことより……相生さんが」

なの「相生さんが、大変なんです!」

なの「すぐに、助けに行ってください! お願いします!」

高崎(……あっ)

高崎(右目から……殆ど血が流れていない……)

高崎「…………」

高崎「……わかった、場所は?」

なの「後ろの崖を降りて行って、まっすぐ行った所にある小屋です……!」

高崎「よし……他の先生に伝えてくる」


高崎「ちょっと寒いが……ここで待っていられるか?」

なの「はい……全然平気です」

高崎「……よし、わかった」

なの「先生……」

高崎「ん?」

なの「相生さんのこと……お願いします」

高崎「…………」


バサッ


なの「……え?」


高崎「……上着一枚じゃ大して暖かくないだろうが、無いよりマシだろ」

なの「……あの、私は……」

高崎「じゃあ行ってくる」スック


高崎「……安心しろ、絶対に相生を連れてきてやるから」


タッ タッ タッ タッ タッ…


なの「…………」


なの「…………」フラッ


ドサッ


なの「……あれ」

なの「もう……寒くも痛くもないけど」


なの「眠くなってきちゃった……」


なの「相生さん……きっと、助かりますよね」

なの「すみません……それまで」

なの「ちょっと、だけ……」


なの「すう……すう……」



ビュオオオオ…


………………………………………



―― 一週間後 東雲研究所


はかせ「なのー、どこー?」トテトテ

なの「はいはい、ここに居ますよ」ヒョイッ

なの「何ですか?はかせ」

はかせ「……また、なのに電話が来てるよ」

なの「っ!……あー」

なの「すみません……今は、まだちょっと出られないって、伝えてください」


はかせ「いいの?……学校の先生だけど」

なの「……すみません」

なの「今は……その、学校に行き辛くて」

はかせ「……わかった」トテトテ…

なの「…………」

なの「……はあ」

なの(もう、何日くらい行ってないんだっけ……)


なの(高崎先生は心配して毎日電話かけてくれるけど……)

なの(……でも、こんな顔だし)サワッ


コツッ…


なの「…………」

なの(……あの後、感覚を直すことは簡単に出来たけど)

なの(私の目は特殊な素材が必要とかで……)

なの(今は、この四角い代用カメラが付いてる)

なの(そこまで大きいわけじゃないから、眼帯で隠すこともできるけど……)


なの(……多分、もう知られちゃってるよね)

なの(片目がぐしゃぐしゃになってるのを見た生徒も居るかも……)

なの「…………」


なの(……気持ち悪いって、思っただろうな)


なの「…………」

なの「ふふ……当たり前か」

なの(でも良いや……ロボットだったおかげで、相生さんを助けられたんだし)

なの(相生さんが幸せにしてくれれば、それで……)


カンカン


「ごめんくださーい」


なの「あ、はーい!」

なの「……? 宅配便かな」


テッテッテッ… ガロッ


なの「はい、なんでしょう……」


ゆっこ「あ……良かった、元気そうだね」


ガロロロロ ピシャッ!


ゆっこ「えーっ!?」


――玄関 内側


なの(えーっ!?)

なの(ま、まあ……そうくるとはなんとなく予想してたけど)

なの(こんないきなり……!)

なの(どうしよう……帰ってもらおうかな?)

なの(でもなんて言おうか……)

なの(……それにしても、相生さん元気そうでよかったなあ)


ガロッ


ゆっこ「あ、こっち側から入れるんだね」

なの「えーっ!?」



――居間



なの「ど、どうぞ……」コトッ

ゆっこ「あ、どうも」

なの(……やっぱり追い返せないよ……)

ゆっこ「…………」ズズー

なの「あ、あの……それで、今日は何の用で……?」

ゆっこ「ん? ああ……色々、話したいことがあったからさ」


なの「話したい、こと?」

ゆっこ「うん……まずは、お礼が言っときたくて」

なの「え……」

ゆっこ「その、助けてくれてありがとうね!」

なの「そんな……あんなことになったのは、私のせいなのに……」

ゆっこ「でも、なのちゃんが頑張ってくれたから私は生きてるんだよ?」

ゆっこ「だからありがとうって……どうしても言いたかったんだ」

なの「…………」


ゆっこ「それと……学校のことなんだけどさ」

なの「っ!……そ、それは」

ゆっこ「あんまり色々言えないから、はっきり言うけど」


ゆっこ「……学校、来てよ」


なの「その……えっと」

ゆっこ「目のこととか、体のこととか気にしてるのはわかるよ」

ゆっこ「でも……それでも、なのちゃんが来ないと嫌だよ」

ゆっこ「……寂しいよ」

なの「……っ」


ゆっこ「だから……明日は来てね」

なの「…………」

ゆっこ「今日はそれを言いに来たから……もう帰るね」スクッ

ゆっこ「お茶美味しかったよ……じゃあね」ステステ

なの「…………」


ガロロロロロ… ピシャッ


なの「…………」

はかせ「……なの?」

なの「……すみません、すぐに、行きますから」

なの「ちょっと……待っててください」

はかせ「うん……」


阪本「…………」


…………………………


――翌日 朝 東雲研究所



なの「…………」ボー…

はかせ「……あれ? なの?」

なの「へ?」

なの「ああ、はかせ……もう起きてきたんですか?」

はかせ「うん……」

はかせ「……ねえ、学校行かなくていいの?」

なの「……それは、その」

はかせ「ゆっこが来いって言ってたよ……?」


なの「そうですけど……でも」

はかせ「………?」

なの「…………」

阪本「……おい、娘」トテトテ

なの「あ、阪本さん……」

阪本「その……何だ」ポリポリ


阪本「行ってやれよ、あいつの所に」

阪本「……自分の体よりも大事な奴なんだろ?」


なの「………!」

阪本「だったら行けよ……俺からも頼む」ペコッ

なの「…………」


なの「……わかりました、ちょっと、行ってきます……」


……………………………



――時定高校 教室前



なの(……ついに来ちゃった)

なの(どうしよう……今更引き返せないし)

なの(でも……)


麻衣「……何してるの?」


なの「ひっ!……み、水上さん?」


なの「えっと、これは、その……」アタフタ

麻衣「…………」

麻衣「……ねえ」ズイッ

なの「は、はい!」


麻衣「……ありがとう」


なの「……へ?」

麻衣「友達を……助けてくれたから」

なの「あ……」

麻衣「…………」スッ

なの「え? あの……」

麻衣「……握手」

なの「え、あ……はい」ギュッ

麻衣「………」ニコッ


麻衣「……じゃあ、そろそろ教室に入ろうか」グイッ

なの「えっ……ちょっと、あの……」ズルズル


――教室


麻衣「……おはようございます」

高崎「ん? 水上、お前遅刻……って、東雲?」

なの「あ……えっと」

ザワザワ… ザワザワ…


なの(ううう……やっぱり来るんじゃなかった……)

みお「……ねえ!」

なの「え」

みお「な、なのちゃん……」


なの「長野原さん……」

みお「…………」

なの「あ、あの……」


みお「……本当に、無事だったんだね」ブワッ


なの「……えっ?」

みお「ご、ごめんなんか……安心、しちゃって……」ホロホロ

なの(……泣い、てる……・)

田中「っていうかお前、本当にもう平気なのか?」

なの「え……あ、はい」


中之条「見たところ目にケガをしたままみたいだいし……」

中之条「何か手伝って欲しいことがあったら、遠慮なく言ってね?」

なの「……はい」

安中「ぐすっ……みんな、心配してたんだよ?」

なの「はい……すみません」

高崎「……もう、二度とあんな無茶するなよ」

なの「は……はい」ウルッ


ホントシンパイシテタンダゼー ダイジョウブー マアゲンキダセヨ…


なの「………っ」ホロッ…

なの「皆さん……ありがとう、ございます」ホロホロ


なの(私……なんてバカだったんだろう)

なの(みんな、こんなに私のことを……)


……ギュッ


なの「!?」

ゆっこ「……だーれだ」

なの「……相生さんですか?」

ゆっこ「えへへ、正解」


なの「……相生さん」

ゆっこ「何?」

なの「私……傷のこと、もう気にしないことにしました」

なの「というか、嬉しいんです今では」

なの「相生さんのために……この傷を負ったこと」

ゆっこ「……それでいいの?」

なの「はい……相生さんは、私の一番大事な友達ですから」

なの「だから……もう二度と悩んだりしません」



なの「これからも……ずっと一緒にいてくださいね、相生さん」



ゆっこ「……うん、そうだね」




以上 軽い気持ちで立てたスレがここまで長引くとは……もう寝る

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