男「女が島に戻ってくる?」(65)

母「そー。成人したし今年の夏休みはここで過ごすって」

男「ふーん。いつ来るの?」

母「うれしいくせに興味ないふりしちゃって」

男「うれしくねーよ」

母「明日の朝一の連絡船で帰ってくるそうよ。迎えに行ってあげなさいよ」

男「はいはい」

妹「女さん来るの?やったー!」

母「この島はほとんど子どもがいないからねえ。女さんが帰ってくるのはうれしいわあ」

翌朝

男「うー、まだ眠い」

男「何も朝一の連絡船でこなくても……」

男「まあ一日二本しかないんだけど……」

ブオオオオオオ

女「おーーーーーーーーーい!!」

男「おー、船の上から手振ってら」

女「おーーーーーーーーとーーーーーこーーーーー!」

男「はいはい」

女「よくぞ迎えに来た。ご苦労であったな」

男「腹立つから止めろその口調」

女「いいじゃんいいじゃん。相変わらず魚くさいねーこの島は」

男「お前はちょっとオシャレになったな腹立たしい」

女「そりゃあお母様手作りの服しか着れないこことは違って東京にはなんでもあるもん」

男「東京ねえ、そんなに良いの?」

女「そりゃもう大違いですよ!男も来ればいいのに」

男「これ以上この町を過疎高齢化してどうすんだよ」

女「私もここを出るときすごい反対されたもんなー」

女「でも必死の説得の結果大学へ行けたわけですよ」

男「説得ねえ……」

女「何か文句あるの?」

男「何でもねえよ」

女「あ、そうだ。家に行く前に久しぶりに灯台行きたい!今から行こうよ」

男「オッケー。チャリ置いてあるから後ろ乗れよ」

女「男の自転車に乗せてもらうのも久しぶりだなあ」

男「」ギコギコ

女「あー、潮の匂いがする」

男「海だからな」

女「東京に居るとこういうのもわすれちゃうね。男の背中の匂いも久しぶり」

女「ちょっと加齢臭入ってきたんじゃないの?」

男「やめろそういうの。結構傷つく」

女「よお、おじさん」

男「落とすぞ」

灯台

女「よおー、灯台のおっちゃん久しぶり!」

灯台守「おう!女ちゃん帰ってきたのか」

赤ちゃん「」ムスー

女「あれ?誰この赤ちゃん?」

灯台守「俺の子だよ」

女「えー!?おっちゃん本土の奥さんで離婚しちゃったんじゃなかったっけ?」

灯台守「もらい子だよ。本土の養護施設からもらってきたんだ」

女「そりゃそうか。おっちゃんも子作りできるような年じゃないもんなあ」

女「何かこの赤ちゃん男に似てない?ムスーってしてさ」

男「…………」

男「止めろよそういう趣味の悪い冗談」

女「何本気にしてんのよ?もしかして心あたりあるとか?」

男「はいはい」

赤ちゃん「オギャーオギャー」

女「もー!赤ちゃんも泣いちゃったじゃない」

女「でも新しい子どもが着てよかったね」

女「子どもなんて数人しかいなかったから心配だったんだよ」

男「心配なら…………、何で出て行ったんだよ」

女「それとこれとは話が別でしょ?」

男「何にも別じゃねえよ!この島に赤ちゃん生めるような年の女なんてっ……」

女「…………」

男「……スマン」

女「いいよ、別に」

女「次、お墓行こ。何かここに居る気分じゃなくなっちゃった」

男「ああ」

男「」ギコギコ

女「…………」

婆「あれ?女ちゃんじゃないかい?」

女「あ、婆さま。お久しぶりです!」

婆「よく帰って来たねえ」

女「あれ?婆さま?後ろにしょってるのって」

赤ちゃん「オギャーオギャー」

女「やっぱり赤ちゃんだ」

婆「この子かい?本土の施設から引き取らせてもらったんだよ。」

女「婆さまもですか?」

婆「ずっと子どもが欲しかったのに出来なかったからねえ」

婆「もうかわいくてかわいくて」

赤ちゃん「オギャーオギャー」

女「元気だね」

女「女妹の子どもの頃を思い出すなあ……」

男「もういいだろさっさと行くぞ」

女「冷たいなあもう。それじゃ、婆さま。私たちお墓に行きますので!」

婆「気をつけて行きんさいよー」

女「はーい」

お墓

女「お花を添えて……」

男「…………」

女「私さ、女妹の遺体も見てないんだよ?」

男「酷い状態だったらしいからな」

女「それでもさ、見てないからなのかな」

女「今でも信じられないんだ……、女妹が死んだこと」

女「いつかひょっこり出てくる気がして、これまでお墓参りも来れなかった」

女「まだ16歳だったのに」

男「…………もし、妹が生きてるって言ったら、お前はどうするんだ?」

女「止めてよ、そんな意味の無い仮定」

男「死んだ方が良かったって思うような人生送ってるかもしれないんだぜ?」

女「あんた、何が言いたいの?さっきから」

男「…………、スマン」

女「謝る位なら最初から言わないでよ」

男「でも、そういう可能性だってあるんだよ」

男「その位はお前にも分かっておいて欲しい」

女「はあ?」

男「行こう。家まで送るよ」



女「結局何が言いたかったんだろあいつ」

女「全然眠れない、散歩でも行こうかな」



女「全然変わんないなあ。この島は」

女「ここを曲がると島長の家が……」

ヤダ… アン!

女「!?」

女「喘ぎ声!?」

ヤメ… アッ

女(聞き間違いじゃない、島長の家からだ)

イヤアアアアアア

女(明らかに嫌がってる)

女(でもこの島にこんな若い声の女居るはずが……)

タスケテヨオ オネエチャン!

女(!?)

?「あれ?女ちゃんこんなところで何してるんだい?」

女「ば、婆さま……」

婆「女の子がこんな遅くに出歩いちゃいけないよ」

女「す、すいません!すぐ帰りますから」

婆「子どもは夜に歩いちゃ駄目って何回も教えた筈なのにねえ」

婆「東京に行くとそんな事も忘れちまうのかい?」

イヤッ ヤメテッ

女(この声には気づいてない?婆さま耳は遠いし)

女「それじゃ、私もう行きますね」タッタッタ

婆「…………」

モウ ムリデス アァッ

婆「ふむ……」

女の家

女(どういうこと?)

女(聞き間違いじゃない、確かにお姉ちゃんって……)

女(それにあの声は……)

女(有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない)

女父「どこに行ってたんだ?こんな時間に」

女父「子どもは出歩いちゃいけない時間だろう」

女「パパ……」

女父「何だ?」

女「女妹ってさ……」

女父「…………」

女「何でもない……」

女(とにかく事実確認をしなきゃいけない)

女(もしあれが本当にそうだったなら……)

女(パパだって……)

翌朝

女「おはよう、男」

男「ああ……」

男「お前、昨日夜に出歩いたんだってな」

女「!?」

女「何であんたがそんな事知ってんのよ!!」

男「この島の情報の周りの良さはお前だって知ってるだろう」

女(気づかれてる……)

男「子どもは夜に島を出歩いちゃいけないって掟忘れたのかよ」

女「あんただって子どもじゃない」

男「生憎俺は島の大人の仲間入りをしてるからな」

女「大人と子どもにはっきりとした境界があったの?知らなかったけど」

男「それも隠されてるからな」

男「でもお前もこの夏休みでちゃんと大人の仲間入りが出来るよ」

女「それはうれしいわね」

男「それで、昨日のことで聞きたいことがあるんだが」

女「……何よ」

男「昨日、何か聞いたか?」

女「!!」

女「聞いたって何のこと?」

女「そう言えば、この島夜はセミが鳴かないんだね」

女「東京だと夜も鳴いてるから変な感じだったなー」

男「そっか、それならいい」

女(確定だ……)

女の家 夜

女(とりあえず今日忍び込んで確かめる)

女(お願いだから私の勘違いであって欲しいけど……)

女「おいしょっと」

女(もしかしたら家の周り監視されてるかもしれないからね)

女(このうち裏の塀の穴を使ってっと)

?「おい、何してんだ?」

女「!!」

男「やっぱりか」

女「お、男……」

男「何しようとしてたんだよ」

男「俺とお前しか知らないこんな抜け道使ってさ」

女「あんた……」

男「いいか?悪いことは言わない。昨日の事は忘れろ」

男「お前は何も聞いてないし、この島は何も変わっていない」

女「やっぱり全部知ってたのね」

男「お前さ、犠牲を払ってまで手に入れた自由を無駄にする気かよ」

女「はあ?何言ってんの?」

男「まあそれはいい」

男「とにかく戻れ。俺が以外の奴に見つかったらもう終わりなんだから」

女「どういうこと?全部言いなさいってばっ!!」

男「声がでかい!」

婆「あれえ?どうしたんだい?二人してお話なんかして」

婆「特に女ちゃん」

婆「昨日言ったばかりじゃないかい」

婆「こんな夜に出歩いちゃいけないって」

婆「それにそんなところからコソコソと家を出ようとしたってことは」

婆「やっぱりそういう事で良いのかな?」

男「婆さま、違います。僕が女を呼び出して注意をしようとして……」

婆「注意って何の注意だい?もしかして教えちゃいけないことでも教えようとしたのかな?」

女(どうする?どうする?)ハーハーハーハー

男「いえ、夜に出歩くことの無いようにと」

婆「わざわざこんな夜中にかい?」

男「それは……」

婆「もう庇わなくてもいいんだよ男」

婆「所詮、島を捨てるような娘さ」

女「」ダッ

男「女!?」

婆「ひいっ!」

バキッ

男「なんて事を……」

女「だってさ!」

女「こいつらが妹をあんな風に使ってるんでしょ!?」

女「私もああなるんでしょ!?」

女「なら殺していいじゃない!!」

男「落ち着け、声がでかい」

男「とにかく死体を片付けるのが先決だ」

女「味方に……なってくれるの?」

男「死体を片付けて朝一の便で本土に逃げるぞ」

女「片付けるってどうやって?」

男「そのゴミ箱の中に詰め込んでおけばいいさ」

女「男……、何でそんなに手馴れてるの?」

女「ずっと一緒にいた婆さまの死体を何でそんなに冷静に扱えるの?」

男「殺したのはお前だろうが」

女「違う……、何でそんなに死体の扱いに慣れてるのか聞いてるのよ」

男「それは今必要な情報か?」

女「信じれなくなりそうだから」

男「…………」

男「俺は成人の中でも島長の側近なんだ」

男「一番体力のある男だから」

男「そうすると人が死んだ時にも死体を処理する仕事なんかを任される」

男「この島では医者は形だけだからな」

男「理由はそれだけだ」

女「そう……」

男「とにかく、この死体の入ったゴミ箱は明日中に俺が何とかしておく」

男「お前は船着場のそばで朝まで待って船が来たら帰れ」

男「それで二度とこの島に来るな」

女「待って、男と妹はどうするの!?」

男「妹を助けるのは無理だ、若い男が何人かで囲ってる」

男「俺は逃げようにも家族がいるからな、逃げたら今度はあいつが……」

女「そうだ!私のパパとママはどうなるの!?」

男「もう諦めろよ。お前を大学にやった時点で大分まずいことになってたんだ」

女「ちょっと待って」

男「何だ?」

女「今の時点で私は島からは怪しいと思われてるだけなのよね」

男「婆さまが死んだからな」

男「お前が家を抜け出そうとした事を知ってる奴は誰もいない」

女「それなら、私ここに残る」

女「時間さえあれば私も私の家族も男たちもみんなで逃げられる方法があるかも知れない」

男「親は俺たちが思っている以上にこの島の住人なんだよ」

男「逃げるなんて言ったら逆に島長に突き出される」

男「それに婆さまがいなくなった事で真っ先に疑われるのは間違いなくお前だ」

女「それでも、私一人だけ逃げるなんて……」

男「……何を今更」ボソッ

女「え?」

男「分かった。後悔することになると思うがな」

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