P「失った”モノ”」 (105)


朝、目が覚めると

ずしりと重い感覚が体を襲った

二日酔いにでもなったかのような

ぐちゃぐちゃな思考

ボケて見える視界

「くそっ……」

貧血でもないし、初めての経験だ

ただの疲れか?

最近は働き詰めだったからな……

ぐちゃぐちゃの思考回路を整理しながら

次第に普段の感覚を取り戻し、ゆっくりと起き上がる

今はもう

視界も頭の中も何事もなかったかのように静まり返っていく

「疲れてんだなぁ」

かと言って休むわけにもいかず、俺は事務所へと向かった

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期待


「おはようございます、小鳥さん」

「おはようございます。本当に早いですね」

「そうですか?」

「今日はお昼からじゃありませんでした?」

「いえ、今日は……」

いや……今日はお昼からだよな?

何か仕事あったような気がしたんだが、気のせいか

一応スケジュール確認しておくか

「色々と確認したいことがあったんですよ」

「もう、確認程度なら連絡一つで私がしておいたのに」

「いやいや、小鳥さんの手を借りるようなことでもないですし、早く来れば他のアイドルとも話せると思って」


「ん? 誰ですか? 誰が狙いですか?」

「そういうんじゃりませんよ。ただ、体調、気分その他もろもろの把握も必要ですから」

「ふふっ、プロデューサーさんは自分の体調管理して欲しいんですけどねぇ?」

小鳥さんの含み笑い

自分だって二日酔いだとか、寝不足だとか

全く気にしていないくせに

「私は一応、仕事に差しさわりのないやり方ですから」

「いやいや、この前頬にキーボードを模写してたような気がするんだよなぁ……」

「あれは……事故です」

「どっちにしろダメじゃないですか」


とはいえ

俺は今朝まさにその危機感を抱いたわけだけど

「とにかく、お互い気をつけましょうか」

「そうですね」

いつものような他愛ない会話

でも何かがそこには足りない気がした

「雪歩ちゃん、早く来て欲しいですね」

「今日はオフだけど、多分こないと思いますよ」

「そうなんですよねぇ……やよいちゃんはお家のことで来れないだろうし」

みんなはかなりの人気で

普段は仕事であちこちに行き、オフともなれば家でぐったりするくらいで

この事務所もかなり寂しいものになってしまったわけだ

俺達の会話が止めば外の音かキーボードを打つ音しかしない


「常に顔を出してくれるような良い子はいないんですかぁ?」

「俺はいつも来てるじゃないですか」

「そりゃそーですよ。でも、それじゃ代わり映えしないというか。色がないというか」

「そうですか、データ持ち帰って今度から来るのやめ――」

「ごめんなさい」

しがみつくような強さで袖を引かれ思わず笑ってしまうが

独り身な俺もその気持ちはよくわかる

家で独り、職場で独り

これぞ天涯孤独の人間の姿! みたいな感じになるのはなぁ


「プロデューサーさんが来てくれることにはすごく感謝してるんですよ?」

「俺自身、疲れた時にコーヒー入れてくれたり、ココア入れてくれたりする小鳥さんには感謝してますよ」

「あら? ココアなんて入れたことないですよ?」

「そうでしたっけ? 疲れた時には糖分取った方がいいって」

「ふふっそれじゃ年中疲れてる私達は肥満になっちゃうじゃないですか」

それはそうかもしれないけど

平然と肥満になるとか女性が言うべきなのか?

いや、相手を意識していないなら

別に取り繕う必要もないってやつか?

だよな、妄想癖晒してる時点で眼中にあるわけないか


「いいなぁ、プロデューサーさんは」

「いやいや、結構疲れますよ?」

「でも、律子さん含め12人もの可愛い女の子に囲まれてるじゃないですかっ」

「なんでそんな鬼気迫る表情なんです?」

確かに

俺じゃなくてもそんな状況は嬉しい限りだと思う

思う……が

「結構辛いですよソレ。俺が男だからかもしれないですけどね」

「生殺しってやつですか?」

「……もう少しオブラートに包めません?」

「包んだら溶けちゃうんじゃないですか? オブラートが」

「何を包んだかは言わなくていいですからね」


「っていうか、12人って小鳥さん入ってないじゃないですか」

「えっ……入っても、良いんですか?」

目をパチクリとさせ

可愛らさを出そうとしているようだけど……

「妄想癖その他もろもろで落第ですかね」

「そんなっ、プロデューサーさんが入れて良いですかって」

「いや、入ってないって――」

「だ、ダメよそんなっ……2人きりだからって――っ――ぁ」

トリップしてしまった……

まぁ妄想癖とか色々問題はあるけど

一緒にいる分には楽しい相手だよな


しかし……いつも一人、か

そりゃ寂しいよな

みんなにも時間があるときは事務所に来るように頼んでみるか?

いや、それじゃなんか強制してるみたいだよな

小鳥さんが寂しがってるなんて

みんなにとっちゃ効果ありすぎるからな

余計に疲れさせちゃうか

「―――で、――あ――――さ」

「いい加減戻ってきましょうよ……そろそろ千早来ますよ?」

「――はっ」

「お帰りなさい」

「……き、聞かなかったことにしてくださいね?」

少し紅くなりながら、小鳥さんは照れくさそうに笑う

けど、そんな心配は無用

「いや、聞いてませんけど」

「えっ」

「毒されちゃいそうですし」

正直に言っただけなのに、小鳥さんに睨まれてしまった


中断

ほそぼそと続けて100レス以内には終わる予定

期待してるぞ

何を失うんやろ。

なんだか怖いな

既に一人減ってる?

小鳥合わせて13人だし、既に一人居ないね
雪歩やよい律子千早は居るの確定か
続きが気になるな

わた春香さんいなそうですね

展開予測はやめろとあれほど


「……おはようございます」

「おはよう、千早」

「おはよう、千早ちゃん」

あまり明るい挨拶をしないのはいつものことだが

今日はいつもよりも元気がないように感じた

聞くべきか……聞かないべきか

いつもなら……? いつもなら、なんだ?

「あの、プロデューサー」

「どうかしたか?」

「あまり見つめられても困ります」

「わ、悪い」

いつもこうなんだよなぁ

仲が悪いわけじゃないが、どうも話しづらい


とはいえ

千早に悪気があるわけでもなく

ただ千早も話しづらいだけらしい

それも本人からではなく聞いた話なのが

ちょっと情けない

「千早」

「なんですか?」

「いや、いつもより元気がないなと思ってさ」

「……いえ」

千早は少し困ったように答え

小さく頭を振った

「理由がわからないんです。なぜ自分の元気がないのか」

「どういうことだ?」

「在るはずのものが無くなったような。でも、無いことが正しい。というような……」


千早にしては珍しく

要領の得ない答えだった

「良く解らないんだが……使ったアイテムが何故か残ってる。みたいな感じか?」

「何の話ですか?」

「いや、ゲームで例えたんだが……」

「私、ゲームとかはあまりやらないので」

きっぱりと言われてしまった

そういえば

亜美や真美に付き合わされたりしない限りは

基本的にゲームやってる姿は見ないな

家にはゲームとか置いてなかったらしいし

「家に多少の娯楽品でも置いたらどうだ? 家に泊めた時にすることなくて困ったんじゃないか?」

「プロデューサー?」

「ん?」

「家に泊めたって……誰をです? 私、誰かを家に招いた記憶はありません」

メインヒロインの宿命か…


何かがおかしい気がした

いや、おかしいのは俺か?

朝に尋常じゃない気怠さを感じたしな

「すまん、俺の勘違いか」

「いえ、娯楽用の品物がないのは事実です……一人ですから」

「そうか……辛くはないか?」

「特には。最近は家にいる時間も減りましたし、なにより――……」

千早は何かを言いかけ

けど、何も言わずに口を閉じた

「どうした?」

「すみません。ちょっと、言おうとしたことを忘れてしまっただけです」

千早はそれ以降喋ることはなく

予定の時間よりも早く、ボイストレーニングへと向かってしまった


「どうかしたんでしょうか……千早ちゃん」

「小鳥さんは身に覚えあります?」

「体に自信は少し……」

「今の流れでなんでそんな言葉が出てくるのか理解できません」

小鳥さんとの会話を即座に打ち切り

少しだけ考えてみる……が。

違和感の理由も

朝の気怠さの理由も

千早が言いかけたことも解らなかった

「……やっぱ疲れてんのかな」

「そう、なんじゃない……ですか?」

「……寝たら残業で明日に響きますよ?」

「ゎ、解ってますよ! ブラック飲みますか?」

「そうですね……すみません。お願いします」


ブラックコーヒーの苦味が味覚を刺激し、脳を刺激する

それでも、何かを思い出すことはできず

喉を癒すどころか痛める始末

「なにか甘いものが欲しいですね」

「う~ん……昨日もらったクッキーが確か……ない」

「引き出しの中とか入れても、亜美真美が取っちゃいますからね……残念です」

あの2人の悪戯に危険性はないが悪意があるから困る

まぁ、怪我をしたりなんだりなところまではいってないし

2人自身、そこまでやるつもりはないようだから安心だ

「結構楽しみにしてたのに」

「ははっ問い詰めます?」

「いーえ、問い詰めても逃げられますし、また貰えると思いますから」


小鳥さんは嬉しそうに言うが

一体誰から貰ったというのだろうか

昨日貰ったらしいし

また貰えると思うってことは

面識の深い相手ってことか?

「まさか、男の人ですか?」

「皮肉ですか?」

「いえ。ただ、クッキーは誰からもらったのかな……と」

「ふふっ気になります?」

小鳥さんは含み笑いを浮かべ、俺を見つめた

問題にでもしたいんだろうか?

……時間はあるし、少し付き合おう


クッキーを買ってきそうな相手は

小鳥さんの女友達か

うちの事務所だとあずささんと伊織くらいか?

雪歩はお茶請けに洋菓子は選ばないし

美希はクッキーよりおにぎりだし

悪戯したのが亜美、真美である以上2人は除外

千早も買ってきたりはしないだろうし

大穴で律子か貴音だな

「この事務所のアイドルですか?」

「さぁ? 多分そうじゃないですか?」

ヒントは上げるつもりはない……と

なら、候補者全員上げてみるか


「あずささん」

「違います」

「伊織」

「違います」

「律子」

「違います」

「貴音」

「違います」

全員違う……?

予想以上に難しい問題らしい

悩む俺を見かねたのか

小鳥さんは小さく笑ってコーヒーを一口啜った

「……やっぱり、解りません?」

「え?」

「ああ言っておいてなんですけど、私自身解らないんです。そもそも、なぜクッキーだったのかも」


「どういうことですか?」

「甘いもの=クッキーみたいな形だったのかもしれません」

困ったように首をかしげながら

小鳥さんはキーボードを弾いて少しだけ仕事を進めていく

「けど、なんで【貰った】と言ったのか【貰える】と思ったのか」

「そして、【誰に】も解らない。と?」

言葉を代弁し訊ねると

小鳥さんはわずかに首を動かして応えた

「そうなんです。プロデューサーさんに問題として聞けば解ると思ったんですけど」

俺の回答はどうもしっくり来なかったらしい

小鳥さんは残念そうに笑う

「全員違うんですか?」

「ええ、違う……と思います。曖昧すぎて正直そこにも自信持てないんですけどね」


「実は夢だったとか?」

「かもしれませんね……夢でまで糖分取ろうとするなんて。ダメっぽいです私」

「休んだらどうですか? 美希も今日は事務所来ないと思いますし」

「なら……ふぁっ……ぅぅ。少し休みます」

小鳥さんは言うやいなや

トボトボとソファに倒れ込んでしまった

「……お疲れ様です」

仕事が間に合わなくなっても

俺は責任取れませんが……少しだけなら手伝いますよ

小鳥さんの机に置かれた大量の資料

まとめるものはまとめ、

データ化する必要があるものは直接打ち込んでいく

それが終わったらファンレターなどの整理、仕分け、確認をし、そのあと――と、

気が滅入ってしまいそうなほどの仕事がある……

「事務員、雇うべきですよね……コレ」

今度社長に言ってみるとしよう

・・・ん?


今日はここまで

ああ、なるほど…

おつん


「はいさーい!」

「しーっ」

「ん?」

元気よく入ってきた響を呼び

ソファで静かに眠っている小鳥さんを指差す

「なんだ、ぴよ子が寝てたのか……って、いや、それで良いのか?」

「結構疲れ溜まってるみたいだからな。少し位は問題ないさ」

「そっか。普段頑張ってるし仕方ないなー」

呆れたように言うのは

普段の姿勢か、それとも今寝ていることなのか

多分前者だろう

「なぁ、プロデューサー」

「ん?」

「自分に事務仕事教えてくれないか?」

「どうした、急に」


「いや……その」

響の気持ちは解るがあえて聞いてみる

その照れくさそうな表情は

普段の元気良さとは違い

実に良い表情をしてくれる

「自分、家が近いから良くここの前通るんだけど夜でも電気ついてることが多いんだ」

「そりゃ、多分そこで寝てる人だろうな」

「うん……だから、何か手伝ってやりたいなって」

とはいうものの

響は暇な訳もなく

この事務所の前を通るのだって

家の帰りだったり、僅かな休み時間のいぬ美達の散歩

時間があるとは思えない

「でも響はそんな時間ないだろ? いぬ美達の世話もあるんだから」

「うっ……」

「多分、小鳥さんも気持ちだけでって言うと思う。それで心配かけないようにって無茶するぞ。絶対」


「確かに、簡単に想像できるぞー」

「だからあれだ。何か差し入れしたりすればいいんじゃないか?」

「おぉ……そうだな。それならぴよ子も遠慮したりしないずだしな」

小鳥さんの喜ぶ顔でも想像しているのか

響も嬉しそうに笑う

仲間思いの良いアイドルだよな

いや、みんなそうだけど

「プロデューサー」

「どうした」

「今日の帰り、どっかのお店寄って貰っても良いか?」

「ああ、良いよ」

……?

…………?

なんだ? 何かおかしい気がする……いや、何も間違ってない?

俺も疲れてるのか……響達には悟られないように気をつけるか


中断


「おはようございます。プロデューサー、響」

「はいさーい、今日はゆっくりだな」

「おはよう、貴音」

「私とて、ゆっくりと進みたい時もあるのですよ」

響よりも少し遅れてきた貴音は

そう答えて小さく笑う

そんな些細な仕草でも綺麗に見えるのは

やはり貴音の魅力ゆえだろうか

「ん~あと他に来て欲しかったんだが」

「おや、なにか問題でも?」

「ぴよ子がちょっとなー。でも、強制はできないし仕方ないぞ」


「お休みになられていたとは……お疲れなのですね」

「机の上見れば解るが、これをいつもやってるからな」

「なんと」

その山のような仕事には

貴音も驚き、何かを決心したかのように頷く

「今度小鳥嬢を労う会でも行いましょう。可能であればみなで」

「おーっ、賛成だぞー」

「全員……か。全員でのライブのレッスンですら集まれないレベルだからなぁ」

「調整は難しいのですか?」

毎週あるもの、毎日あるもの

取材や撮影、営業、ライブなどなど毎日忙しいのに

全員を夜間だけでも休みにする。という調整は

困難極まりないことだった

「ならばできる限りの人数で」

「そうだな……極少数になるから会とは言えないかもしれないが……何かしよう」


「小鳥さん、すみません。起きてください」

「んっ……春……ちゃん」

「小鳥さん、もう出なくちゃいけないんですよ」

小鳥さんに触れるのは憚られるし

そこは響に任せて揺り起こす

「あれ……プロデューサーさん?」

「すみません、時間なので」

「ぅー……はぃ、行ってらっしゃい。気をつけて下しゃい」

まだ寝ぼけ眼だし半分位寝たままっぽいが

こっちもそんなに時間はない

「ちゃんと起きてくださいね?」

「解ってますよー」

若干の不安要素を残しながらも

俺たちは小鳥さんを残し、仕事へと向かった


響と貴音を連れた仕事は

2人の頑張りもあってか何の問題なく終えることができた

「貴音、寄り道して良いか?」

「構いませんよ? なにかお買い物ですか?」

「実はさ、ぴよ子になにか買っていこうかなって」

「それはそれは……私もなにかご用意しましょう」

バックミラーに映る2人は

何を贈るかで話し合っていた

やっぱり、小鳥さんは大切に思われてるんだな

まぁ、正直765プロの要ではあるよな

小鳥さんが倒れたら周りがそう崩れそうな位置にいる気がする

「出来れば手心も加えたいところですね」

「いやぁ、流石に自分で作って渡すような余裕はないんだよなー早起きすればなんとか」

「おや……? ふむ、いえ、なんでもありません」


「どうした?」

「なんでもありません。ただ、何かが引っかかった気がしたのです」

「なにか?」

「ええ、そこに当てはまる何かがあったような気がする。という程度のでじゃびゅみたいなものです」

貴音は少し考え

やっぱり解りません。と、首を横に振る

何かが引っかかった。か

良く解らないが

特に問題はなさそうだし気にしなくても大丈夫だろう

「あっプロデューサー、あそこのお店とかどうだ?」

「ん、結構人がいるみたいだが……」

「あそこはでざぁとで有名なところかと。随分と前に伊織が買ってきたでざぁとが確かあのお店でした」

「自分覚えてるぞ。美味しかったよなー誰かが転んで1つダメにしてみんなで少しずつ分けたの覚えてるぞ」

「おや、そのようなことありましたか?」

「え? 自分の記憶違いか? 自分、ソレ頭から被ってしばらくいぬ美達にめちゃくちゃにされた覚えが……気のせい?」


「俺も知らないぞ」

「そうかー。じゃぁきっと別のことだな」

「しかし、有名とあっては人も多く、私達が向かっても平気なのでしょうか?」

響は黒い髪だから

髪型変えたりすれば大丈夫だとは思うが

貴音は……なぁ

「カツラでも買ったら良いと思うぞ」

「そうした方が良さそうですね……しかし、今日は無理でしょうか」

「亜美がイタズラで使ったやつならあるぞ。赤い派手なやつだが」

「貴音が赤い髪? そ、想像できないぞ」

「長さが足りないのでは?」

貴音の髪は長いからな……亜美が使う程度のじゃ

いや、できる

「髪を服の下にしまうんだ。その上からカツラをかぶれば首元まではあるし隠せるだろ?」

「なるほど……では。どうでしょう?」

赤いショートボブヘアの貴音

うん、似合わない。どっかのバンドの人に見えなくもないが。

少なくとも貴音だとは思われないな

中断

手心の使い方間違ってなくね?

>>47
自分で作って渡す【誰か】に心当たりがあったけど
その【誰か】が解らなかったんだろ


「ふぅ……無事に買えてよかったな」

「貴音は別の意味ですごく気を引いてたぞー」

「やはり、似合わない髪でしたか……」

「仕方ないさ。もっと普通の色とか、長さ的には千早と同じ青もいけそうだ」

まぁ

それが似合うかどうかは

カツラを被ってみないと判らないけどな

「じゃぁ早速ぴよ子に渡しに行くぞー!」

仕事が終わった時点で夕方

今はお店の混雑もあり19時頃だった

「待った待った。響も貴音も、大丈夫なのか? 時間は」

「自分は深夜ラジオがあるけど、それまでは平気だぞ」

「私はこのあとどらまの撮影があります」

「ならまずは貴音を送ってからな」


現場は結構近くで

すぐに送ることができた

「ありがとうございます、プロデューサー」

「悪いな、買い物が予想以上に長引いたせいで」

「いえ、久方ぶりに響と共に行動することができ真、良き時間でした」

「また一緒に仕事しような。絶対だぞ」

「ええ。いつか、また」

貴音は嬉しそうに手を振り

車から遠ざかっていった

「……プロデューサー」

「ん?」

「仕事が沢山できるのは嬉しいけど……みんなと会えなくなるのは、嫌だな……」

「……そうだな」

響は決して表情を見せはせず

けど、響の気持ちは察することができる

「また今度、なんとか組ませてみるさ」

「絶対だぞー」

そんな響の声は、少しだけ元気がなかった


「戻りましたー」

「戻ったぞー!」

「お疲れ様です、プロデューサー、響」

「お疲れ様! プロデューサー、響!」

珍しく、律子と真が事務所へと来ているらしく

律子の静かな声、真の元気の有り余った声が聞こえた

「お久しぶりです、プロデューサー殿」

「珍しいな、いつもは電話で確認するのに」

「久しぶりに竜宮小町が戻って来てるらしいですよ。こっちに」

「なるほど……で、3人はどうです?」

「事務所に来たいって言ってたんですけどね……結局、伊織の家で3人お休みしてます」

それはそうだろうな……

北海道の方で1週間くらい撮影やらなんやらで

そのあと正反対の長崎の方に行って、そのあとまた――と

移動し続けてたんだもんな。戻っても来る元気はないか


「そういえば、プロデューサー」

「ん?」

「その箱なんなんですか?」

「あーっ! あの有名店のじゃないですか!」

と、

大声で割って入ってきたのは小鳥さんだ

「良いんですかっ? 食べちゃって、良いんですかっ!?」

「うわぁっ、僕コレ食べたかったんです!」

「全員分あるから好きなの食べていいぞ」

「やったーっ!」

「小鳥さん、少し落ち着きましょうよ……」

小鳥さんの子供っぽい騒ぎっぷりに

ツッコミを入れる余裕も律子にはないらしい

「律子はどうする?」

「仕事やりながら頂こうかしら……」


「おっと、律子のデスクは自分が使ってるぞ!」

「は……?」

「いや、だから自分が使ってるんだぞ。どかないからな!」

「響、アンタねぇ……」

いや、

響はふざけたりしているわけじゃなくて

多分、律子に仕事させたくないんだろうな

「律子、食べながらやるとミスするぞ」

「それは……」

「自分はどかないからなー」

「はぁ……響が退く気ないなら仕方ないわね」

直接仕事するな。なんて

響は言いづらかったのかもしれないが

もうちょっとやり方考えような


たった5人でデザートを食べただけ

でも、そのたった5人でも大人数と感じてしまうほど

忙しくなってからは集まることができなかった

「ふふっ、楽しいですね」

「元気出ました?」

「はいっ、これでまた頑張れますよ」

「そうですね……たまには仕事を忘れるのもいいかもしれません」

小鳥さんも、律子も

2人とも元気を出してくれたようで何よりだ

「プロデューサー」

「響、どうした?」

「自分、役にたてたかな」

「ああ、小鳥さんも律子も、真だって喜んでくれてるよ」

「そっか……良かった」


響を家に送り届け

残った真を家まで送ることにした

「真、最近調子はどうだ?」

「良いですよ。プロデューサーがいてくれればもっと良いかもしれませんけど」

「すまん、みんな売れてきた分見てやれる時間が減っちゃってさ」

「へへっボク達みんなもっともーっと頑張っちゃいますよ!」

真の心意気もよし、調子もよし

もっと頑張ればもっと仕事が増えるだろうけど

「あんまり無理はするなよ?」

「解ってます。頑張りすぎて倒れたりしたら本末転倒ですから!」

「なら良し……っとこの辺りか。じゃぁな、真」

真曰く

家の前まで送られると面倒なことになりかねないらしい

仕方なく、家の近くで真を降ろした

「お疲れ様です。プロデューサー。また明日!」

「ああ、真なら平気だと思うけど。寝坊はするなよ?」

「へへっ、プロデューサーこそ!」


1日が終わろうとしている

早く寝なければ明日に響くかもしれない

でも、なんだか寝付くことができなかった

「…………………」

大切なことを忘れているような

でも、忘れていることがなんなのかも

忘れてしまっていて

それがなんだかモヤモヤして嫌な気分になる

「なんだったか……」

今日は一日

全体的になにか違和感があったような、なかったような

……………。

………。

いや、何も問題はないな

さて……もう寝よう


翌朝

「おはようございます。小鳥さん」

「おはようございます、美希ちゃんはまだ来てませんよ」

「美希……ですか?」

「はい?」

あれ……ん?

いや、勘違いか

美希じゃない気がしたが

スケジュール帳には午前中は美希との仕事になっていた

「いえ、なんでもないです」

今日の午前中は美希との仕事

午後①で千早、午後②で雪歩、午後③でやよい

「今日はハードだ……」

「ふふっ、頑張ってくださいね」

「小鳥さんも頑張ってください」

今日も今日で、小鳥さんの仕事は多いらしい

昨日からの持ち越しも少しはあるんだろうけど……ずっと座ってるのも楽ではないよなぁ


今日はここまで


中断します

真も消えたのか……

そして誰もいなくなるんすか


「久しぶりのハニーなの!」

「こらっ、くっつくな!」

「あはっ、そんなこと不可能かな。くっつかないと充電切れちゃうの」

「お前は携帯電話か!」

「ハニーの愛を受信して、ハニーに愛を送信する携帯電話なの!」

会うことや、

仕事を見てあげることは何度かあったとは言え

こういうどうでもいいような会話をしたり

ふざけたりするような余裕は全くなかった

「大目に見てあげたらどうですか?」

「そうは言ってもですねぇ……」

色々な意味で

精神的に来るからなぁ、柔らかさとか、柔らかさとか……


「いいじゃないですかぁ、羨ましい」

「羨ましいって……」

「私なんて仕事の資料にしか抱かれたことないんですよ?」

「崩れるほど高く積み上がったんですか……」

それは想像するだけで恐ろしい

やっぱり事務員は増やすべきだろうなぁ

「プロデューサーさんが手伝ってくれてますから、今はなんとか」

「事務員も、プロデューサーも、あと1人は欲しいですよね」

「新しいプロデューサーなんて要らないの! 要らないものはぽいっなの」

「おいおい……」

でも、俺はともかく

人気アイドル7人分の事務仕事を請け負う小鳥さんには

助っ人が必要だろうなぁ

「とりあえず、小鳥さん。俺達は出ますね」

「行ってくるの!」

「はーい。行ってらっしゃい」


「ねぇ、プロデューサー」

「ん? どうした」

「ミキね、ちょっと気になることがあるの」

赤信号で車を止め

助手席に座る美希へと目を向けると

さっきまでの明るさが嘘のように

美希は暗い雰囲気を醸し出していた

「何かあったのか?」

「ミキ、事務所がなんだか寂しいなって」

「そりゃ、俺と小鳥さんくらいしか――」

「そうじゃなくて、ミキにはね。どうしても負けたくない人がいたの。どうしても勝ちたいグループがあったの」

美希の言葉が終わるよりも早く

信号は青へと変わり、車は動き、わずかに揺れた

「でも、ミキ。それが誰だったか。どんなグループだったか思い出せないの」


「それは……」

「ミキ、アルツハイマー? なのかなってちょっと不安なの」

アルツハイマーって

名前とよく聞く記憶障害であるということくらいしか知らないが

確かに、物忘れが激しくなると

そういう不安や恐怖もあるよな

「最近は歌詞や振り付け、ドラマとかの台本詰め込んでるから、あまり意識しないものは薄れちゃったんじゃないか?」

「そうなのかな……ミキそんな簡単な理由じゃない気がするの」

「え?」

「夢でね、知らない人がたくさんいたの。胸の大きい人だったり、お嬢様な人、真美がね、2人いたの」

「真美が2人? 双子とか?」

「良く判らないけど……たぶん。あとね、リボンの女の子」

俺が知ってる人にはいないな

一応アイドルグループとかは全部調べたりしてるんだけどな……


「プロデューサーも解らない?」

「すまん、俺も覚えがないよ」

「あはっそれならミキは健康?」

「ああ、どこかで見たモデル体型の人とか、可愛いと思った人を無意識に気にしちゃったんだろ」

俺に覚えがないことを棚に上げるつもりはないが

美希を不安にさせるわけにもいかないしな

美希はもうトップアイドルに相応しいレベルだからこそ

一般人に紛れたレベルの高い人を

気にしてしまってるんだろう……そうじゃないと病気だと認めることになる

……今度のドラマとかの仕事の前に

必要なことだって偽って検査を受けさせるか

じゃないともし本当にそうなら大変なことになるからな


美希を送り届け

しばらく仕事の様子を見たあと

千早の待つ事務所へと向かい

千早を連れて次の仕事へと向かう中

念のため千早にも確かめてみることにした

「千早、リボンの女の子とか、胸の大きい人とか、真美に似たアイドル知ってるか?」

「なんですかそれ……そんな人たくさんいると思います」

「だ、だよなぁ」

「それがどうかしたんですか?」

「いや、美希がライバル視するような人でそんな人いないかな。と」

「美希が対抗心燃やすことなんてあまりないと思いますし、いたら覚えてるかもしれませんが……」

千早は一応思い出そうとしてくれたが

やっぱり解らない。と、首を横に振った


「美希が意識するようなレベルにはいないかと」

「じゃぁやっぱり気のせいか」

「美希から聞かれたんですか?」

「まぁ……そんな人がいたような気がするってさ」

「それで答えられなかったから調べようと?」

千早はすぐに察してくれたみたいで

もしかしたらと何人かの名前を上げてくれたが

全員自分の記憶にあるし

どうも美希の意識が向くような相手とは思えなかった


「すみません、プロデューサー。力になれず」

「いや、あんまり気にしなくていいよ」

そんなことより

千早が積極的に協力してくれたことが

驚きだったわけで。

いや、千早だって別に俺のことを嫌っているわけではないし

別におかしいことではないが

普段は冷ややかというか、そういう感じだからか

ちょっとだけ嬉しかった

「ついたぞ、千早」

「ありがとうございます、早く終わると思うので迎えは結構です」

「あ、ああ……解った」

いや、やっぱり少し嫌われてる……?


「いやー車で移動してばっかりだよ」

「そ、そうなんですか?」

「ああ、美希送って千早送って、雪歩送って……てさ」

「ご、ごめんなさいっ私降ります!」

「いやいやいや、いいから、それが仕事だから!」

雪歩も相変わらずだ

助手席ではなく

後部座席しかも運転席とは逆と離れていた

車みたいな密室で近くはやっぱり無理なんだな……

だいぶ慣れたとは思ったけど

それは外でのいつでも逃げられるような状況じゃないとダメか


「うぅっ、ごめんなさい」

「気にすることないよ、そう簡単に慣れるのは無理だろうからな」

雪歩は相変わらずといった感じで

今は俺と車の中で2人きりだからアレだが

気分が悪いわけではなく

やる気も十分あるようだし問題はなさそうだ

「雪歩」

「は、はいっ」

「最近、なにか気になることあるか?」

「気になること、ですか?」

「ああ、例えば夢で知らない人を見たとか。そう言う感じの――」

最後まで言う前に

雪歩の悲鳴が言葉を遮ってしまった


「ゆ、雪歩?」

「そそそそんな怖いことあるんですかぁ~っ!?」

「い、いや……あったかどうか聞きたかっただけで……」

「ないですっ、あったら私っ、私っ!」

「車を掘るなぁ!」

雪歩を言葉だけで止めるのは苦労したが

なんとか落ち着かせることができた

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

「変なことを聞いた俺が悪いんだ。ごめんな」

けど、

そういったことがないならそれはそれで良かった

美希のど忘れ? も病気とかではなく

やっぱり無意識にって感じなのかもしれないな


「プロデューサー! おはようございますーっ!」

「おはようって時間じゃないけどな」

雪歩を送り届け

今度はやよいを送らなくちゃいけない

ちょっと効率が悪いが

スケジュール上、全員を一気に乗せて一人ずつなんてことはできないからな

………ん?

あれ、何か違和感があるぞ

「なぁ、やよい」

「はいっ?」

「いや、いつも首から下げてる奴はどうした?」

「なんですかー? それ」

あれ?

やよいじゃなかったか?


「ほら、アレだよ、なんだっけ……」

「んー……勘違いじゃないですかー?」

「そう、なのかな……」

本人が言うなら違うのだろう。

けど、少し腑に落ちない

どんなものだったかすら曖昧だが

アレはやよいにとってかなり大事なものだったような……

「えへへっ、それよりもプロデューサー!」

「ん?」

「今日はよろしくお願いしますっ!」

「ああ、よろしくな」


午後③やよいは17時からの収録

そこから最低2時間は現場に拘束される

だから年少組であるやよいの付き添いとして

俺は一緒に残ってあげなければいけないわけだ

「……やよいもドラマに出演。か」

悪いことを言うようだが

演技力はそこまで高くはない

だけど、やよいの個性が当てはまるような役だと

素晴らしいとしか言えないほどうまくいき、

その凄さはそういう役があるからと

オーディションではなくやってくれと指名されてしまうほどだ


「今回もうまくいきそうだな」

NGを出すことなく

すんなりと撮影は進んでいく

そんな撮影を見ている俺の携帯が震えた

「響? どうした?」

『プロデューサー、自分気づいたんだ』

「何がだ?」

『居ないんだ! 自分の家族が!』

慌てた様子の響

だが、響がいぬ美たちに逃げられるのはいつものことだ

「悪いけど、一緒に探してはやれないぞ」

『そうじゃないんだよっ、上手く言えないけど、足りないんだ! 何かが足りないんだって!』

何が足りないんだ?

最初にいないって言ったから家族が逃げ出したとかだろうけど


「おーい、765さ~ん」

「あ……すまん響。仕事があるから」

『まっ』

響には悪いが

電話を中途半端に終わらせ

仕事へと戻ってしまった

そのあとも、

やよいを家に送ったり

事務所に戻って自分の仕事くらいはまとめたりと

色々していたせいで

響への折り返し電話は結局することができなかった


それに気づいた日付が変わるような時間

謝罪だけはしておこうとメールを打っていく

「怒ってるよなぁ……」

逃げられる響が悪いといえば悪いけどさ

話くらいはちゃんと聞いてあげたほうがよかったよな

なんか慌ててたみたいだし……

色々と打っていくうちに

時間は0時をすぎ、日付は変わって

「よし、送信」

けれど、メールはすぐに返ってきた

「あれ、宛名不明ってなんだ?」

よく見ると

宛名の欄には誰の名前もなかった

「……?」

誰にメールしようとしてたんだっけ……


メール文的に

響という子なのだろうけど

そんな名前の人は事務所にいるわけもなく。

「寝ぼけてたかな……」

わけのわからないメールを削除し

大きくため息をつく

明日も仕事があるし、早く寝なくちゃいけないんだが……

何か変だ。

何が変なのかわからないが変だ

明日、一応小鳥さんに聞いてみるかな

うちの事務所は真美と貴音の2人しかアイドルはいないが

もしかしたらその関係で俺が誰かにメールするべきだったかもしれないしな


「さぁ? 知らないですよ。私は」

「んー? 兄ちゃんどうかしたの?」

「いや……」

今朝起きてからも

違和感は拭えない

何かを忘れているような

忘れていることすらも忘れているような

「プロデューサー、少し休まれた方が良いのでは?」

「いや、大丈夫だ。疲れてるとかじゃないんだ」

真美も貴音も

俺のことを心配してる……不安にさせちゃってるか?


「でも、真美もちょっと変な感じはするんだよね→」

「おや、というと?」

「足りない気がする。みんなといるのに、みんなじゃない気がする」

真美はそんなはずないのにねーと笑って終わらせたが

その感覚には一理ある

真美、貴音、小鳥さん、俺、社長

この5人しかいないはずの事務所

これで全員揃っているはずの事務所

だけど、何かが足りない、物足りない

「ふむ……活気が足りないのでしょうか?」

「んっふっふー、ならばこの真美様の悪戯で~」

「おやおや、それではまた怒られてしまいますよ?」

「大丈夫だって~、ぴよちゃんも兄ちゃんも受け入れてくれるし、今、律っちゃんは……律っちゃん?」

減少ペースHAEEEEEEEEEEEEEEEEE

仕事楽になってくな


「誰だそれ」

「誰、だろ……真美、その人が怖いって思ってるけど。でも誰だかわかんない」

「面妖な……まさか妖しの類では!?」

「そ、そんなはずないっしょ→」

狐にでも化かされたか?

なんて冗談でも言おうと思ったが

2人とも怖がっているし自重しておこう

それよりも律っちゃんって誰だ?

昨日の響っていう子となんか関わりがありそうな気がするが……

「……もしくは、前世の」

「いや、それはないだろ」

「前世の記憶かぁ、前世だとなんとっ! 私は双子だったんだよ」

双子か……

真美みたいなのが2人もいたら手がつけられないぞ


「前世……ふむ。私が夢で見た765プロは、もっと大人数で楽しく活動していました」

「もっと大人数かー、それも良いね。兄ちゃんなんとかできない?」

人数を増やすくらいならできなくもないだろうけど

ちゃんとしたアイドルで

尚且つってなるとそう簡単には集められないな

「……しかし、なぜ見知らぬ名や、人物を夢に見るのでしょうか」

「やっぱり→前世?」

「それはないって……デジャブだろ」

「デネブ?」

「それは星座ですよ。真美」

知らない名前

知らない人物

なんなんだろうな……




ぬ、天丼


「なんだか、あのゲームみたいね」

「ゲームってどういうこと、ピヨちゃん」

「ほら、秋葉原がメインの時間遡るやつよ」

「あーっリーディングシュナイツァー?」

なんだその発音しにくい名前は

いや、真美のことだから間違ってるだけなんだろうけど

「実は私たちみんな過去に来た未来人で、未来のことをかすかに覚えてるとか!」

ないな。

そもそも、未来人という時点でおかしい

そんなSFチックなことがあってたまるか


「……ふむ。しかし、いささか異常だとは思いませんか?」

「何がだ?」

「たとえば、窓の外の景色が全く変わらないことなど」

「え?」

貴音が窓の外を指差し

みんなでその先を見てみると

車どころか、人っ子一人通らない

それはある意味、画像といってもおかしくないものだった

「ぐ、偶然っしょー……ね、ねぇ? ぴよちゃん」

「え、ええ。偶然よ。偶然」

みんなで偶然だと割り切るが

それが偶然なんかではないことは明白だった


「に、兄ちゃん……」

「真美、大丈夫だから落ち着け」

とはいえ

こんなわけわからないことで落ち着いてられるわけないか

「プロデューサー、外へ出てみても?」

「ダメよ、貴音ちゃん。危ないわ」

「……しかし、出なければ確かめられないこともあります」

貴音は一人ででも出て行くつもりらしい

「解った。俺も一緒に行こう」

「プロデューサーさん!」

「大丈夫ですよ、危なそうならすぐに戻ります」

そう返して

俺達は2人で事務所を出ていった


「……なにも、ない?」

「面妖な……何事です?」

真っ白な世界

いや、空間

事務所を一歩出ただけで

世界がガラリと変わってしまったかのように

真っ白で何もない世界

「……貴方様」

「どうした?」

袖を引かれ、貴音の視線を追う

「………………」

「………………」

「………………」

その先には、何もない

出てきたはずの、扉も……なかった


「ど、どうなってるんだ!?」

「……私にも何がなんだか解りません」

「さっきまでそこにあったじゃないか!」

「貴方様、落ち着いてください」

「けど――」

「プロデューサー!」

「っ…………」

貴音の力強い手が腕を握り

僅かな痛みが一気に熱を冷めさせていく

「すまん……取り乱した」

「無理もありません。私とて驚きは隠せませんから」

その割には、

貴音は妙に落ち着いていた


「貴音、何か知っているのか?」

「いえ……それよりもそこに何があったか覚えていますか?」

貴音が指さした空間

そこにあったのは扉だ

「ドア、だよな?」

「はい。では、その扉はなんの扉でしたか?」

何を聞きたいのかがよくわからない

「部屋の扉だろ?」

「……部屋、ですか?」

貴音は怪訝な表情で俺を見つめ

わずかに首を横に振った

「どうした?」

「いえ……その部屋には、誰かいましたか?」

「いや、俺と貴音が出てきたんだから。誰もいないだろ」


何が言いたいんだ?

こいつだってそのことは知ってるはずだ

「何が聞きたいんだよ」

「……私は、そこに何があったか。誰がいたか。思い出すことはできません」

「どういうことだよ」

「そこに何かあった。と、曖昧なのです」

曖昧って

ついさっきのことじゃないか

なのになんで忘れるんだ?

「頭の中を弄られているのかもしれません」

「ば、馬鹿なこと言うなよ。そんなことあるわけないだろ」

「そうでしょうか……私は、何か大切なことを忘れてしまっているような気がするのです」


「忘れたってなにをだよ」

「何を忘れたのかさえ、忘れてしまいました」

わけの解らないことを言ってくれるな……

こんな何もない世界で

良く解らないことを言われてもただイライラするだけだ

「……ところで、お訊ねしたい事があります」

「またわけ分からないことは言うなよ?」

「私の名を、ご存知ですか?」

「は?」

「なぜ、私と貴方は共にいるのでしょう?」


「なぜって……」

「このような何もない世界にいること自体理解しがたいことですが……」

銀髪の女の子は

困惑したまま首を振り俺をまっすぐ見つめてきた

「貴方と共にいることもまた、理解しがたいのです」

「そんなこと俺に聞かれても困るんだが」

「そうですか……」

女の子は残念そうに答えると

一転して微笑んだ

「では。ここで出会えたこともまた運命。共に行きませんか?」

「行くってどこにだよ」

「どこか、この白い世界ではない場所へ」


「良いのか? 俺と一緒でも」

「ええ。孤独より恐ろしいものはありません」

彼女は人と会えたことが嬉しいのか

笑顔のままだった

「解ったよ。ならよろしく頼む」

「よろしくお願い致します。私は四条貴音。貴音とお呼びください」

俺は貴音と一緒に白い世界をさまよい続ける

途切れることのない白

どこへ行こうとも白しかない世界

空腹や、疲れも感じないこの世界

俺たちはただ歩いていく

いつかまた、白以外の何かと出会うために


終わりです


何が言いたいかというと
書き溜め飛ぶとその世界自体が消えるよねって話

消えていったのは書いてたSSの登場人物順
貴音メインだったので、貴音とPのみが残って
また1から始まるという意味で白い世界


セーブしよ!(予備も)

なんかオチがよくわかんないけど面白かったよ

なるほどそう言うことか……
書き溜め飛んだならそれ書けよwww

乙です
なんか生き残りサバイバルみたいだな


うん、ドンマイ

書き溜め消えたのか…
お姫ちんとこういうよくわからん空間でうろつくSSは好きだ


怖かったけどまず書き溜め復旧させろよwwww

空恐ろしい展開になって救いはあるのかと思ってたらそういうオチかwwww

書きためをどうにかしろよwwwwwww

いやある意味書き溜め飛んだからこのSSができたことをGJと呼ぶべきだろ

じゃあ次は書きための復旧だな

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