女神「よし、君が勇者だ!」(210)

勇者「・・・・・・」キョロキョロ

女神「・・・・・・」チョイチョイ

勇者「・・・俺?」

女神「そうだよ!」

勇者「あー・・・なんで?」

女神「厳正な審査の結果なのだよ」

勇者「審査?」

女神「しっくすせんすって奴?」

勇者「いや、ダメだろ・・・」

勇者「普通こういうのって、神官様通じてお告げるんじゃないの?」

女神「あのエロおやじは嫌!」

女神「それにめんどくさいから直接来ちゃったよ」

勇者「じゃあなんだって急に」

女神「先代の勇者が魔王に負けちゃったからだよ」

勇者「マジか!」

女神「うん、もー惨敗?」

女神「という訳で、よろしくねー!」

勇者「神様が言うなら仕方ないか」

女神「一応装備はこっちで準備したげる」

勇者「1番いいのを頼む」

女神「まかせてよ!1番いい『ひのきのぼう』をあげるからね!」

勇者「・・・・・・」

魔王「・・・・・・」

魔神「よ!魔王、久しぶり」

魔王「む、魔神か・・・」

魔神「どーだい?勇者の相手はもう慣れたか?」

魔王「・・・・・・」

魔神「はっはっは!まぁおいおい慣れるさ」

魔王「そんなものか?」

魔神「先代も最後はそんなもんだと言ってたぜ」

魔王「そうか・・・」

魔王「それで、何の用だ?」

魔神「おっと、そうだったな」

魔神「新しい勇者が生まれた」

魔王「!」

魔神「よかったな、しばらく暇だろうが、また暴れられるぜ?」

魔神「んじゃ俺はもう行くわ」

魔王「・・・何がよいものか」

勇者「・・・ん」

勇者「夢・・・か?」

勇者「・・・・・・」

勇者「どうして枕元にひのきのぼうが・・・」

勇者「『でぃあ勇者』?」

勇者「・・・・・・まじかよ」

女神「おっはよ!」

勇者「うお!いきなり出てくんな!」

女神「へっへー、どうどう?ひのきのぼう気に入った?」

勇者「いや、確かにこんな真っ直ぐなのは珍しいけど」

女神「頑張ったんだよ、褒めて褒めて!」

勇者「んで何の用?」

女神「ひどっ!」

女神「んっとね、忘れてた事があったんだ」

勇者「忘れてた事?」

女神「俗に言う神の加護?」

勇者「へぇ、そんなんあるのか」

女神「この紋章だよ」ポワン

女神「ていっ!」バチン

勇者「いて!」

勇者「い、いきなり何すんだ!?」

女神「はい、これで紋章が額に入ったよ」

勇者「え?」

女神「はい鏡」

勇者「うおおおお!なんかすっげえ恥ずかしい事になってるうう!」

女神「中学二年生みたいでカッコイイよ!」

勇者「やめろおおおお!」

勇者「結局旅に出ることになるのか」

女神「紋章の効果は絶大だったでしょ?」

勇者「お前が神官様通さないせいでさんざん疑われたけどな」

女神「たわしで額擦られてたねっ!」

勇者「まだ痛いよ・・・」

女神「真っ赤だよー」アハハ

勇者「それでも光る紋章恐るべし」

勇者「おらぁ!」バシィ

魔物「ぎゃあ」

女神「おー、強い強い」パチパチ

勇者「まぁな・・・」

勇者「てかいつまで居るんだよ」

女神「居ちゃダメ?」

勇者「ダメじゃあないけど」

女神「たまにちょっと抜けるけど、基本は一緒にいるよ」

勇者「暇人め」

勇者「ここが隣町か」

女神「あっ駄菓子屋!」タタタ

勇者「ちょっと!」

女神「えへへ、お菓子だぁ」

勇者「・・・なんか、買ってやろうか?」

女神「いいの!?」

女神「じゃあこのガブリチュウ・・・は高いから、フエラムネ!」

勇者「中途半端に遠慮しやがって・・・」

勇者「では、西の塔に巣くう魔物を倒せばいいのですね?」

村長「よろしいのですか!?」

勇者「おま――」

女神「おまかせくださいっ!」

勇者「・・・・・・」

女神「じゃあ早速行ってきます!」

勇者「・・・行ってきます」

女神「ねぇ勇者」

勇者「ん?」

女神「他の武器は使わないの?」

勇者「んー、なんかこのひのきのぼうがすげぇしっくりくるんだ」

勇者「まさにおあつらえ向きってやつ?」

女神「ほぅほぅ」

勇者「それにやたら強いし」

女神「まぁ天界のひのきだしね」

勇者「天界の?」

女神「しかも私が削りだしたのだー」

勇者「そりゃ素直にすげぇ」

勇者「ここが最上階か」ギィ

魔物「ゆ、勇者か!?」

勇者「人間の言葉を!」

女神「気をつけてねー、それなりに強いはずだよ」

魔物「お、おれらの住み処を荒らさせるかぁー!」

勇者「この塔は返してもらうぞ!」

女神「結果は辛勝だね」

勇者「なんとかな・・・」

勇者「ん?このステンドグラス・・・」

女神「あ、気付いた?」

勇者「これ、女神か?」

女神「そうだよ」

勇者「・・・付いてる?」

女神「神は雌雄同体で両性具有なの!」

女神「あっ、安心して?今は男女の体使い分けてるから」

勇者「じゃあ男の体もあるのか?」

勇者「見てみたいな」

女神「うーん・・・今はダメー!」

勇者「・・・・・・綺麗だな」

女神「・・・勇者、この塔の名前知ってる?」

勇者「西の塔じゃないのか?」

女神「ううん、ここは神の塔」

女神「世界を創ったときに人間を乗せる方舟にした塔なんだ」

女神「その時にこのステンドグラス作ってくれたんだ」

勇者「そうなのか」

女神「そ、だから結構思い出深い場所でもあるんだよ!」

村長「本当にありがとうございました」

勇者「いえ、できる事をしたまでです」

村長「これでお祈りに行けまする」

勇者「お祈り、ですか?」

村長「はい、あの塔は神の塔でしてね、毎週末お祈りを捧げていたのです」

勇者「そうでしたか」

村長「勇者様と一緒にいた女性、神様にそっくりでしてなぁ」

勇者(その女神様は駄菓子屋で100円分豪遊してるけどな)

魔神「魔王、元気か?」

魔王「魔神、また来たのか」

魔神「まぁな」

魔神「そうそう、勇者が神の塔を突破したぞ」

魔王「・・・早いな」

魔神「俺もビックリだ!」

魔神「今回ばかりは危ないんじゃねぇか?」

魔王「・・・ふん」

魔神「ん?どした?」

魔王「ワシとしては早く倒してもらいたいくらいだがな」

魔神「はっはっは!いつの間にか魔王らしい話し方になってんじゃねえか!」

魔王「ふん、もう魔王など飽きたわ」

魔神「そうかいそうかい、でも最期までやってもらうぜ」

魔王「ああ、命尽きるまで戦おう」

魔神「頼もしいねぇ、それじゃあな」

魔王「・・・・・・どうせそれしか道はないのだろう」

勇者「おーい、女神!」

女神「お、終わったー?」

女神「あ、はいこれ」

勇者「なんだこれ?」

女神「イカソーメンだよ!」

女神「二本あげる」

勇者「ああ、ありがとう」

女神「どーいたしまして!」

勇者「次はどこへ向かうか」バサリ

女神「あ、地図もらったの?」

勇者「村長が御礼にってな」

勇者「南にある砂漠の国かな?」

女神「馬がいないと砂漠越えはキツイよー」

勇者「そうなのか?」

女神「うん、だからちょっと戻るけど東の村を目指すのが妥当かな」

女神「なんたってその村は酪農が盛んだしね」

これほど外野が静かなSSも珍しい

勇者「ここが東の村か」

勇者「・・・草原ばっかりだな」

女神「裏から入っちゃったみたいだねー」

勇者「立派な壁に騙された・・・」

女神「いやいやー、壁は大切なんだよ?」

女神「酪農が盛んだってことは、牛馬が命綱でしょ?」

女神「でも牛馬は魔物の恰好の餌なのさ」

勇者「なるほど、魔物除けって訳か」

女神「そーそー、傭兵を雇う金もないからね」

>>26ちょっとさびしいです

勇者「やっと居住スペースについた」

女神「お疲れ!」

勇者「お前は疲れないのか?」

女神「そこはほら、女神様だし?」

勇者「そうだったな」

勇者「てか人がいねえ」

女神「時間が時間だし放牧してた馬を戻してるんだよ」

勇者「そっか」

勇者「ここが村長の家?」

女神「良く言えば質素、悪く言えばしょぼいね」

勇者「しょぼいゆーな」

村長「お?そこにいるのはもしかして」

勇者「え?」

村長「おー!やっぱ勇者様だ!」

村長「その紋章は間違いねぇな!」

勇者「ぬぉおお、また恥ずかしくなってきたぁ!」

村長「なるほどなるほど、魔王退治ねぇ」

勇者「はい・・・」

村長「そのくせそんな綺麗な女性連れてんのか?」

勇者「いや、コイツはその・・・」

村長「言わなくてもわかってるって!」

村長「でもあぶねぇこたぁさせんなよ?」

勇者(ぜってぇ何もわかってねぇ)

村長「まぁなんもねぇ村だけどよ、ゆっくりしてってくれや」

勇者「村長わけぇな」

女神「言ったじゃん、傭兵も雇えないって」

勇者「ん?それって・・・?」

女神「魔物が壁を越えて来た時、戦うのは村人なんだよ」

女神「村長は村の長、誰よりも前で、誰よりも勇敢に戦わなきゃいけない」

女神「だから村長は結構すぐ死んじゃうんだ」

勇者「そういうことか」

女神「だから村長は、村一番で強い人がなるしきたり」

勇者「よく知ってんな」

女神「偉いでしょ!」

勇者「あー、ワラのベッドがきもちぃー!」ボフン

女神「ふわー、疲れてるねぇ」

勇者「まぁ、な・・・」

女神「あれだけ歩けばそーなる・・・・・・あ、寝てやんの」

勇者「ぐーぐー・・・」

女神「・・・・・・」ニヤッ

魔王「・・・む、寝ておったのか」

魔神「おっ、おはようさん」

魔王「・・・・・・いつからおった」

魔神「ついさっき来たばっかりだ」

魔神「それにしてもまぁ無邪気な寝顔しちゃってぇ」

魔王「ふん」

魔神「そういうトコは昔のまんまじゃねぇの」

魔王「それでもよかろう」

魔神「はっはっは!悪いとは言ってねぇよ!」

魔王「・・・用事はなんだ?」

魔神「んーにゃ、特にねぇから帰るわ」

魔神「いいもん見せてもらったぜ、じゃあな」

魔王「・・・ふん」

勇者「・・・んぐぅ・・・ぐー」

女神「おっきろー!」バサッ

勇者「んわぁ!な、なんだ!?」

女神「寝てる場合じゃないよ!」

女神「魔物が攻め込んで来たの!」

勇者「まじかよ!」

女神「今村長達が戦ってる、勇者も早いとこ行ってあげないと!」

勇者「わかった!すぐにいく!」

村長「ぐあっ!」

魔物「ヒャハハ!よえぇなぁ、人間!」

魔物「おら、とどめだ!」ブンッ

勇者「ふんっ!」ガッ

魔物「ヒャハ!?勇者か!」

勇者「調子乗んのも、大概にしとけよ!」バキィ

女神「なんとか撃退せいこーう!」

勇者「あー、いてぇ」

女神「まーまー、若いんだしすぐ治るよ」

勇者「でもいてぇモンはいてぇよ」

村長「ありがとうな、勇者」

村長「おかげで村も俺も助かった」

勇者「気にしないでくれ、俺も好きでやった事だ」

村長「とは言われてもなぁ」

村長「なんかしら御礼しねぇと気が済まない」

勇者「うーん、だったらさ」

勇者「一匹だけ馬をくれないか?」

村長「あ?そんなんでいいのか?」

勇者「あとは、朝までゆっくり寝かせてくれ」

村長「はー、なんつーか心が広いなぁ」

村長「わかった!とびきり速い馬を用意しとくぜ!」

女神「うー・・・朝だー!」ガバッ

勇者「うわ!」

女神「おはよー諸君、ねぼすけくんはいないかな?」

女神「さぁ朝の点呼の時間だよ、番号!」

勇者「え、いち」

女神「声がちっちゃい!番号もとへ、番号!」

勇者「いち!」

女神「よし、揃ってるね」

勇者「いや、まぁ・・・」

村長「おう、起きたか勇・・・」

勇者「ん?どうした?」

村長「・・・ほら、鏡」

勇者「な、なんじゃこりゃあ!」

勇者「なぜ俺にこんな立派なおひげが!?」

女神「ふっふーん、自信作だよ!」

勇者「落書きしやがったのかぁー!」

女神「ヒゲだけと思うなー」

女神「額をよくみやがれぇ!」ビシッ

勇者「肉か!?肉なのか!?」

『まおー』

勇者「誰がじゃあ!!」

勇者「・・・・・・どう?」

村長「うん、落ちた落ちた」

村長(ヒゲ以外・・・)

勇者「よかった・・・」

女神「それで馬はー?」

村長「コイツだ」

勇者「赤いな」

村長「レッドラビットって種類の馬だ」

村長「速さも体力も全種類中トップなのさ!」

女神「ほぇ~、おっきぃー!」

女神「すごいすごい!速いよー!」

勇者「確かにこれはすごいな」

勇者「もう村が見えない」

女神「いけいけー!」

勇者「二人乗せてるとは思えないスピードだな」

女神「失礼な、私は人じゃないぞー」

勇者「それはそうだけど」

女神「私には質量なんてものはないのだよ!」

勇者「砂漠暑い、喉渇いたー・・・」

女神「文句言わない」

勇者「ガリガリくん食べたい・・・」

女神「うっ、食べたい・・・」

勇者「アイスボックスもいーなー・・・」

女神「あー、アイスボックスいーねー・・・」

女神「・・・お、城壁が見えてきた」

勇者「よっしゃ!飛ばすぞ女神!」

女神「ぁう!」

勇者「すげー、これがオアシスか・・・」

女神「オアシスってね、実は結構危ない土地なんだよ」

勇者「え、そーなの?」

女神「多雨のオアシスなら問題ないけど、ここみたいな湧水のオアシスは危ないね」

女神「砂漠ってほら、木とか草がないから砂漠なわけで」

女神「それってつまり水の流れを妨げる物がないって事なわけよ」

女神「じゃここで問題です、もしも砂漠で大雨が降ったらどーなる!?」

勇者「みんな喜ぶ」

女神「・・・・・・うん、それも正解」

女神「まぁ用は、その雨が全部!同時に!染み込んでいくんだよ」

女神「そしてそれが地下水脈に流れ込んで・・・」

勇者「流れ込んで?」

女神「地下で洪水はっせい!エマージェンシー!エマージェンシー!」

女神「そしてそれが地上に染み出してきた!」

女神「はい、恐怖の鉄砲水のかんせー!」

勇者「あー、イマイチ怖いのかわかんね」

女神「砂漠の一番の死亡原因は、この鉄砲水による水死でーす!」

勇者「まじかよ・・・」

勇者「なんか居るのが怖くなってきたよ」

女神「まぁそうそう起こることじゃないって!」

女神「それにこのオアシスを直撃する確率なんて茶柱が30本立つようなもんだよー」

勇者「それならいいけど・・・ん?足元がゆるい?」

女神「・・・・・・ぐっどらっく」

勇者「は?」

ドシャァア・・・・・・!

魔神「おい魔王!朗報だぜ!」

魔王「なんだ?」

魔神「勇者がオアシスの国で鉄砲水に巻き込まれた!」

魔王「!」

魔神「全くどうしてこう勇者ってやつは運がないんだろうなぁ?」

魔王「・・・・・・」

魔神「よかったじゃねえの、これで直接手を下さなくて済むかも知れんぜ?」

魔神「はっはっは!ま、そんだけだよ、じゃあな!」

魔王「・・・どうせ助かるさ」

勇者「・・・うっ」

兵士「おぉ、意識が戻られたか」

勇者「ん・・・俺は・・・」

兵士「まだ無理はなされぬよう、あれだけの規模の鉄砲水に呑まれて、生きてるだけでも奇跡なのです」

勇者「そうか・・・」

女神「あ、勇者起きてる!」

兵士「勇者様のお仲間ですか?」

勇者「ああ、連れだ」

兵士「そうでしたか、では私は王を呼んで来ます」

女神「いってらっしゃーい」フリフリ

女神「いやはやビックリですなぁ」

女神「まさかちょうど話してる時とは」

勇者「本当だよ、誰かさんがちゃんと教えてくれればそれなりには動けたものを」

女神「ちゃんと言ったじゃん!」

女神「ぐっどらっくって!」

勇者「それだけじゃあ何もわからんだろ・・・」

国王「ほう、起きたか」

勇者「あ、えと・・・」

国王「そのままでよい、まだ寝ていろ」

勇者(誰?この綺麗な人)

女神(ん、ここの国王様)

勇者(へぇー・・・)

女神(ちなみに、男性だよ)

勇者「男っ!?」

国王「おぉ、よく分かったな」

国王「これはわざわざこんな話し方をするようにした甲斐があったかな?」

勇者「はは、いやども」

国王「まあ体力が戻るまではゆっくりしていってくれて構わん」

国王「ただし、それ以降はお前の飲み食いした分たっぷり働いてもらうぞ」

勇者「うっ・・・まぁ仕方ないか」

国王「それでは失礼する」

女神「御夕飯もらってきたよー!」

勇者「悪いな」

女神「えへへ、勇者のためにいいお肉焼いてくれたんだってさ」

勇者「・・・・・・あの国王、したたかだな」

女神「だったら負けてられないじゃん?」

女神「私、頼み込んで高級ワインも開けてもらったんだー!」

勇者「おまっ!」

勇者「それはめぐりめぐって俺が体で払う事になんだよ!」

勇者「ダメ!そんな泣きそうな目しても許さない!」



勇者「くうぅ、そんな切なげな目でこっちを・・・見るなぁ・・・」

女神「勇者もうすっかり元気だね!」

勇者「おかげさまでなー・・・」

国王「という訳で早速労働だ」

国王「ほれ、これを持て」

勇者「・・・スコップ?」

国王「お前には鉄砲水の時に流れ込んできた土砂の掻き出しをやってもらう」

勇者「それはまた骨の折れる・・・」

魔神「残念だったな、魔王」

魔神「勇者、生き延びたぜ?」

魔王「どうせそんな事だろうと思っとったわ」

魔神「ふーん、つまんねぇ反応だなぁ」

魔王「お前を楽しませる義理などない」

魔神「おいおい、何年の付き合いだと思ってんだよ」

魔王「時の長さじゃない、質が大切なんだ」

魔神「・・・へぇへぇそーですね」

魔神「ったく、興が削がれた、帰る」

魔王「・・・勇者、ここまで来るのか?」

勇者「よっ、ほっ」ザクッザクッ

国王「悪いな、勇者」ザックザック

勇者「ん?」

国王「ここら辺はもともと工業が盛んな地域でな」

国王「若い男の多くが住んでた」

国王「でも今回の鉄砲水で、結構な人数が死んじまってな」

国王「人手不足が深刻なんだ」

国王「本来ならこんなこと、勇者にさせるわけにはいかないけど、非常時だから堪忍な」

勇者「あー、俺は構わんよ」

国王「お?」

勇者「そんな話聞かされたら、むしろ進んで手伝うさ」

勇者「さすがに目の前でこんなんなってんのは、見過ごせな・・・」

国王「・・・・・・」ニヤニヤ

勇者(しまったああああ!)

勇者(この男?のしたたかさを忘れていたあああああ!)

女神「うわ、泥だらけ」

勇者「どこ行ってたんだ・・・?」

女神「噴水広場でやってた地固め祭見てきた」

勇者「祭ぃ?」

女神「そそっ、みんなが地面を力強く踏んで固めるんだよ!」

女神「なんでも鉄砲水の被害があるたびにやってるとか」

女神「歌を歌いながらやるんだよ!一週間くらい続くらしいから、終わったら勇者も見てみなよ!」

勇者「わかったから、とりあえず寝かせて」

女神「はいはい、おやすみなさーい」

勇者「はー!やっと終わった!」

国王「ご苦労さん、おかげで助かったよ」

勇者「ふん、まあそれが勇者としての使命であり、勇者が勇者たる由縁よ・・・」

国王「実はね、よく働いてくれたことだし、御礼の品を用意しといた」

勇者「なんだと!?」

国王「試作品として作った気球をやろう」

国王「さすがに完成品はまだふたつしかないから無理だけどな」

勇者「いやいや、助かるよ!」

国王「それと、今日明日と宿代から食費までなんでもタダにしてやろうじゃないか」

国王「祭もやってるし、楽しんでいってくれよ」

勇者「おー、結構迫力あるんだな」

女神「でしょでしょ?すっごいよねー」

勇者「・・・歌、歌詞が聞き取れんのだが」

女神「仕方ないよ、今は使われてない言語だもん」

女神「多分歌ってる人も意味理解してないんじゃないかなー?」

勇者「お前はわかるのか?」

女神「まがりなりにも神様ですから!」

勇者「訳してもらってもいいか?」

女神「褒めてくれたらいーよ!」

勇者「・・・・・・さすが女神だ、偉いぞ」

女神「よかろう!」

女神『我々が何をしたのか、我々は何をしたのか』

女神『考えてもわからぬ、わからぬから考えぬ』

女神『できる事をただやるだけだ』

女神『男よ、地を踏み仕打ちに耐えよ』

女神『女よ、歌って気を紛らせよ』

女神『いずれか来たる方舟が、我々を救う時までは』

女神「ってところかな?」

勇者「それって・・・」

女神「うん、本来はこんなに楽しんでやるものじゃなかったんだよ」

女神「地面踏むのは男だけ、歌うのは女だけ」

女神「言葉の風化とともに、いろんな物も忘れられたんだよ」

勇者「それをこの人達は?」

女神「知らないでしょ」

女神「知ってたら、笑顔なんかで歌える歌じゃないよ」

勇者「・・・うん」

女神「他に気になる事は?」

勇者「最後の方舟って、神の塔のことか?」

女神「おー!よく覚えてたね」

女神「多分そうだと思うよー」

女神「この歌は創世期の歌だしね、神の塔が伝説として伝わっててもおかしくはないね」

勇者「・・・我々を救う、か」

女神「方舟に乗れば、その先にあるのは新たな世界」

女神「鉄砲水の恐怖からも逃げられる、かもねー」

勇者「ってことなのか?」

女神「たぶん」

国王「いいのかい?こんないい馬もらっちゃって」

勇者「どうせ気球には乗せられないんだろ?」

勇者「だったら連れてけないからな」

国王「そうか、ならありがたく受け取る」

女神「いやー、ちゃっかりこんな気球手に入れるなんて、さっすが勇者だね!」

勇者「別にちゃっかりってわけじゃ」

女神「照れなくていーよ!それじゃいこっか!」

勇者「操縦も慣れれば簡単だな」

女神「西の大陸に行くの?」

勇者「いきなり北の大陸だと、魔物が強いからな」

女神「へぇ、結構考えてんね」

勇者「・・・考えれば、わかる事だからな」

女神(あの歌を引っ張ってんのかな?)

女神「ちゃんと考えるのは偉いよー!」

女神「おー!海!海!」

勇者「そーいや海初めてだな」

女神「じゃあいいこと教えたげる!」

勇者「いいこと?」

女神「あの鳥に、にゃー!って言ってごらん?」

勇者「に、にゃー?」

女神「そーそー、そんな風に」

女神「恥なんか捨てちまえー!どうせ私しか見てないぞー!」

勇者「・・・・・・にゃー」

女神「ちっちゃい!もっかーい!」

勇者「・・・にゃー!!」

勇者「言ったぞ・・・」

女神「うーん、勇者才能ないね」

勇者「んなっ!」

女神「にゃー!」

トリ「にゃー!にゃー!」

女神「・・・ね?」

勇者「と、鳥がにゃーって・・・」

女神「あれは海猫っていってね、猫みたいに鳴くんだ」

女神「うまく真似すると返事してくれるんだよ!」

勇者「はー、なんかすげぇな」

女神「世界はまだまだ君の知らない事で溢れているのだよ、勇者くん」

勇者「さすがです、女神教授」

女神「おっ、海を越えたねー」

勇者「ほんとだ、陸が見える」

勇者「・・・ん?あのでかい木、まさか世界樹か?」

女神「ほうほう、世界樹は知ってるんだ」

勇者「まぁ本で読んだくらいだが」

女神「じゃあ解説はいらないね」

勇者「いや、できればお願いしたい」

女神「しょーがないな、頭撫でてくれたらいーよ!」

勇者「・・・・・・」

女神「えへへ・・・」

女神「あれは世界樹だよ、世界最大の木」

女神「最大だけあって一番長生きしてる生き物でもあるんだよ!」

勇者「いや、それは知ってるからさ、女神くらいしか知らないような事を教えてよ」

女神「うーん、じゃあ」

女神「実はあの世界樹、私が植えたんだー」

女神「最初の世界作ると同時に植えたから、樹齢は世界の年齢なんだよ」

勇者「え、じゃあ樹齢は・・・」

女神「三万年だよ」

勇者「おぉー」

女神「あとは、根本にはエルフが住んでるとか、葉っぱには死者を生き返らせる力があるとかそんな感じ」

勇者「なるほど、ありがとうな」

女神「いやいやどーも」

女神「どうする?よってみ・・・・・・」

勇者「いや、とりあえずは先に・・・って女神?」

女神「・・・・・・」チョイチョイ

勇者「ん?」

勇者「・・・・・・ドラゴン?」

ドガアァァアン・・・・・・

勇者「・・・・・・ん、ここは?」

魔神「おはよう、勇者」

勇者「お前は・・・?」

魔神「俺か?俺は魔神」

魔神「女神が勇者の後見人だとしたら、俺は魔王の後見人といったところだな」

勇者「魔王の・・・!」

魔神「まぁ落ち着け、ひのきのぼうを納めろ」

魔神「それにどうあがいたってお前は俺に勝てねぇ」

魔神「神様はよーく知ってんだろ?」

勇者「・・・・・・ここはどこだ?」

魔神「お前の夢の中、だ」

魔神「神様だしよ、夢枕に立つことぐれぇ簡単なもんさ」

勇者「俺に何の用だ」

魔神「ちょいと様子を見に来ただけさ」

魔神「なかなかいいツラしてやがる」

勇者「用がすんだなら、帰れ」

魔神「おーこわい」

魔神「んじゃ最後にヒントをくれてやる」

勇者「ヒント?」

魔神「世界の真実に関係するヒントさ」

魔神「神は雌雄同体であり、両性具有ってのは聞いたな?」

魔神「雄と・・・雌」

魔神「男と・・・女」

魔神「他にもまだある、例えば俺は両利き、左右も持っている」

勇者「・・・意味がわからないな」

魔神「いずれわかるさ、じゃあな」

勇者「・・・!」ガバッ

エルフ「あら、目が覚めました?」

勇者「こ、ここは?」

エルフ「世界樹の根本、エルフの村ですわ、勇者様」

勇者「エルフの・・・」

エルフ「隣で寝ている女性、つきっきりで看病してくれてましたから、少し寝かせて差し上げて」

勇者「あ、はい」

エルフ「二日も目を覚まさないんですもの、心配しましたわ」

勇者「二日!?」

勇者「そういや、女神が寝るの初めてみるな」

女神「・・・・・・」

勇者「・・・ホントに寝てんのか?死んでるんじゃないだろうな」

女神「・・・・・・!」ガバッ

勇者「うわ!」

女神「あ、勇者起きたんだ」

勇者「ああ、まぁな」

女神「ふむふむ、特に異常なさそうでよかった!」

女神「へー、こんなふうに村が発展してるのか」

勇者「来たことなかったのか?」

女神「うーん、じっくり見るのは初めてかな」

女神「これは勇者のおかげかな!」

勇者「あー、あそこでドラゴンに気球をおじゃんにされたおかげだな」

女神「じゃあドラゴンのおかげだね!」

勇者「そう、なのかな?」

勇者「お?」フラッ

女神「だいじょぶ?やっぱりまだ本調子じゃないみたいだね」

勇者「スマン、宿で休んでるから自由にしててくれ」

女神「りょーかい!」

女神「・・・・・・」

女神「さぁーって、なにしよっかな?」

魔神「魔王さんに、久しぶりの連絡ですよ」

魔神「勇者は世界樹に引っ掛かって一命を取り留めたぜ」

魔王「!」

魔神「残念だったな、わざわざドラゴンまで送ったってのに」

魔王「・・・ふん」

魔神「もう無駄な足掻きはやめろ、見苦しい」

魔神「自分の運命を受け入れろ、俺が言いたいのはこれだけだ」

魔神「じゃあな」

魔王「運命・・・か・・・」

勇者「さて、もうしばらく寝――」

ドォン!

勇者「んなっ!」

エルフ「あら、勇者様、戻られてましたか」

勇者「な、何があったんです?」

エルフ「えっと・・・私達種族と、世界樹を狙う人間の襲撃です」

勇者「人間の、襲撃・・・?」

エルフ「はい・・・あ、でもおいかえしましたから安心してくださいね」

勇者「詳しく聞かせてくれませんか」

勇者「何故人間が、エルフを狙うのか」

エルフ「・・・お気を悪くされます」

勇者「構いません、同族として知りたいんです」

エルフ「・・・・・・」

エルフ「私達エルフは、人間よりも賢く、長生きです」

エルフ「しかもエルフは男女ともに人間の美的感覚の上部に位置する顔立ちをしております」

エルフ「中には私達の知識を求めて来られる方もいますが・・・」

エルフ「ほとんどは、人間とエルフでは子孫をもうけられないという特徴を活かすために来られる方です」

勇者「ひどい・・・・・・」

勇者「性奴隷、かよ・・・・・・」

エルフ「勇者様が気に病む事ではございませんよ」

エルフ「中には対等以上に接してくださる方もいます、勇者様のように」

勇者「でも」

エルフ「いいのです」

エルフ「それがエルフというものですから」

勇者「そんなの、無いですよ・・・」

エルフ「え?」

勇者「エルフさん達は、そんなモノ以下で良いわけありません!」

エルフ「でも」

勇者「でもじゃありません、こんなの絶対にあってはいけない事です」

エルフ「・・・・・・では、何か打開策がありますか?」

勇者「・・・あー」

エルフ「・・・・・・ふふっ、そうです、私達が考えても何も出てこないんですよ」

エルフ「ここでひっそり暮らすほか、ないんです」

勇者「だったらせめて、俺に何かできませんか?」

勇者「罪滅ぼしって訳じゃありませんが・・・いや、罪滅ぼしにはならないと思いますが」

エルフ「そうですね」

エルフ「でしたら、最近世界樹に住み着いてしまった魔物を退治してくれませんか?」

エルフ「私達では倒せなくて」

勇者「わかりました、では今から」

エルフ「ダメです」

エルフ「体の調子が戻ってからですよ」

勇者(・・・人間は、醜いな)

勇者(それに引き換えエルフは・・・)

勇者(・・・・・・・・・)

女神「勇者、寝てるのかな?」

勇者「ん、起きてるよ」

女神「だいじょぶ?すっごい怖い顔してたよ」

勇者「そうか・・・」

女神「・・・エルフと人間のこと、聞いた?」

勇者「・・・ああ」

女神「そっかぁ」

勇者「よっしゃ!世界樹の魔物、倒してくっか!」

エルフ「お願いしますね、勇者様」

勇者「任せてください」

女神「いってきまーす!」

エルフ「温かいスープを用意しておきますねー」

女神「罪滅ぼしだなんて、お人よしだね」

勇者「そんな大層なもんじゃないよ」

女神「そだねー、勇者やるほうがよっぽど大変か!」

勇者「まぁな」

勇者「・・・・・・なぁ」

女神「エルフのこと、知りたいの?」

勇者「・・・ああ」

女神「どうせ魔物は1番上だろうし、いーよ!」

テンポ良すぎるな

女神「エルフは魔法に秀でた種族で、人間との二種族で地上を治めるために作ったの」

女神「でもひとつだけ人間と根本的に異なる部分ができちゃったんだ」

女神「なんだと思う?」

勇者「・・・寛容さ?」

女神「ぶー、エルフにも短気はいます」

女神「正解はね・・・エルフには性欲がないんだ」

>>110よくも悪くもそれがウリです

女神「性欲ができなかったエルフと、性欲ができた人間」

女神「いったいどこで差がついたかわからない」

勇者「性欲って・・・」

女神「かなり重要なんだよ?」

女神「性欲のある人間は、爆発的に個体数を増やした」

女神「対するエルフは、必要最小限の個体数を保ち続けてる」

女神「性欲がなければ性行為なんて疲れるだけだろうからね」

女神「儀式として行ってるだけなんだよ」

女神「その個体数の差が、今みたいな状況を生んでるの」

勇者「なるほどな・・・」

女神「勇者にも性欲はあるはずなのになー」

勇者「宦官って知ってるか?」

女神「知ってるけど・・・・・・・・・まさか」

勇者「元々俺は宦官だ」

女神「・・・・・・ホントだ」ペタペタ

勇者「触るな・・・」

勇者「ん、話してる内にそろそろ1番上か」

女神「うわぁ、葉っぱの絨毯だー!」

勇者「おい、遊びに来た訳じゃないんだぞ」

女神「わかってるよ!」

勇者「まったく」

魔物「お転婆も過ぎると大変だねぇ」

勇者「ええ、本当で・・・・・・」

魔物「ん?おぉ!勇者だったか!」

勇者「そぉら」バキィ

女神「余裕だったね」

魔物「人間は久しぶりに見たもので、つい声を掛けちまったら、よもや勇者とは」

女神「あ、生きてた」

勇者「ふんっふんっ」ビシッビシッ

魔物「いたい、いたい」

勇者「えい、えい」ドスッドスッ

魔物「ちょ、突きはだめ!突きは!」

女神「勇者、うぃん!」

勇者「何だったんだ、あのふざけた魔物は・・・」

女神「あ!勇者勇者、景色きれーだよ!」

勇者「おぉ・・・!」

女神「あそこの地平線らへん、あれ魔王城だよね」

勇者「あれが・・・」

女神「あそこが勇者のゴールだね」

勇者「・・・ああ」

エルフ「まぁ、本当に倒してくださったの?」

勇者「はい」

エルフ「さすが勇者様です」

エルフ「御礼といっては何ですが、気球を直しておきました」

女神「すごい!ちゃんと直ってるよ!」

勇者「そんな!御礼なんて」

エルフ「勇者様みたいな人もいる、それがわかっただけでも私達には大きな希望です」

勇者「エルフさん・・・」

エルフ「今晩やすんだら、すぐにでもおいきなさいな」

エルフ「あなたの役目をまっとうしに」

勇者「あれでいいのかな?」

女神「いいの、他人の強がりをほじくっちゃダメだよ」

勇者「強がりっていっちゃってるし」

女神「それ言ったら勇者だって強がってるじゃん」

女神「本当はここに残ってエルフ達を守りたいんでしょ?」

勇者「うっ、それは・・・」

女神「ほら、強がってた!」

勇者「う、うるさい!おやすみ!」

女神「ふふっ、おやすみぃ!」

魔神「ついに勇者が世界樹を後にするぜ」

魔神「次に来るのは、ここ、魔王城だろうな」

魔王「そうしたら、ワシは勇者と戦う」

魔神「そうだな、けど正直今の勇者じゃあ、お前を倒すのはきついかもな」

魔王「・・・・・・」

魔神「はっはっは!せいぜい足掻いてみろよ」

魔神「本気のお前が勇者に負けるところ、俺に見せてみろ!」

魔神「じゃあなぁ」

魔王「・・・・・・言われるまでもないわ」

魔王「そうしなければならんのならな」

女神「おっきろーぃ!」バサリ

女神「なに!?枕だと!」

勇者「甘いな女神、いつまでも起こされ続ける俺じゃないぜ」

女神「勇者、その服後ろ前」

勇者「なにぃ!?」

女神「うっそだよ!寝ぼけてるから騙されるのだー!」

勇者「ぐっ・・・・・・」

エルフ「では勇者様方、頑張ってくださいね」

勇者「はい」

女神「おっけー!」

勇者「・・・・・・また、ここに来れるかな」

女神「勇者次第、だねぇ」

女神「とにかくまずは魔王を倒さないとね!」

勇者「だな」

勇者「そろそろ海、か・・・」

女神「あ、やっぱり海猫がいるよ!」

女神「にゃーにゃー!」

海猫「にゃー!にゃー!」

勇者「・・・・・・」

勇者「にゃー!」

海猫「・・・・・・」

女神「・・・・・・」

勇者「・・・・・・なんか言ってくれ」

女神「たこやき」

勇者「そうじゃなくて・・・」

女神「魔王城が近づいて来ましたなー」

勇者「ああ、気を引きしめていくぞ」

女神「お?魔王城からなんかくるよー?」

勇者「なんか?」

女神「魔法の類じゃないけど・・・」

勇者「・・・・・・もしかして?」

女神「あ、ドラゴンだ!」

勇者「やっぱ――」

ゴゥッ!・・・

女神「うひゃーぁ!速いよ速いよ!」

勇者「こいつ!どこにつれてく気だ!?」

女神「あっ!勇者、あれあれ!」

勇者「北の大陸に・・・村ぁ!?」

女神「あそこに向かってんじゃない?」

勇者「まさかな」

ブンッ!

勇者「――は?」

魔王「魔神、勇者はそろそろか」

魔神「お、来訪に気づいて貰えるとはな」

魔神「でも、残念」

魔神「勇者はまだしばらく来ないぜ」

魔王「む?なぜだ」

魔神「やっぱり魔王と勇者の戦いっつったら、死闘だろ?」

魔神「今のままだと魔王の圧勝だ、そんな展開つまんねぇ」

魔神「だから勇者にはもうちょい強くなってもらうことにした」

魔王「それで、勇者は今どこに?」

魔神「奴隷の村」

魔王「!」

魔神「おや?目論みに気付かれちゃったかなぁ?」

魔神「まぁとにかく、ここに来る頃には勇者も強くなってるはずだ」

魔神「じゃあ俺は用事があっから、またな」

魔王「・・・・・・外道めが」

勇者「・・・・・・んかっ!」ガバッ

勇者「あー、気絶ばっかだな俺」

老人「おやおや、起きましたか」

勇者「あ、はい」

老人「驚きましたぞ、空から降ってくるのですから」

勇者「あはは、まあ・・・」

老人「外の霧が晴れるまでは休めます、その間だけでもお休みください」

勇者「あの、ここは?」

老人「・・・この村は、奴隷の村」

老人「魔王の奴隷として働く者の村です」

勇者「奴隷・・・だって?」

老人「そうです・・・・・・おっと、霧が晴れます」

老人「仕事の時間ですぞ」

魔神「いいよじいさん、そいつは俺がもらってく」

勇者「お前は!」

老人「わかりました、受領様」

魔神「という訳だ、来い勇者」

勇者「嫌だね」

魔神「てめぇに拒否権はねぇよ」

魔神「この村の連中・・・人質だ」ボソッ

勇者「!」

魔神「勇者様は素直でいいねぇ!」

勇者「こいつ・・・!」

魔神「まぁ座れよ」

勇者「・・・何の用だ?」

魔神「答には辿り着いたか?」

勇者「・・・あんなヒントじゃ、何もわからないな」

魔神「んじゃあもう一個ヒントやるよ!」

魔神「俺ぁ、生と死も両方持ってる」

勇者「何が言いたいんだよ」

魔神「それを考えろよ」

魔神「答が出れば、後々楽になるかも知れないぜ?」

勇者「楽に・・・?」

魔神「精神がブッ壊れないくらいには楽になるさ」

勇者「・・・・・・?」

魔神「まぁせいぜい考え・・・・・・ちっ、女神が近づいてやがる」

勇者「!」

魔神「んじゃあ、俺はこれで」シュンッ

女神「――勇者!」バンッ

勇者「女神・・・」

女神「今魔神いなかった?」

勇者「いた、けど」

女神「やっぱりかー、そんな気配したからまさかとは思ったけどね」

勇者「魔神って何なんだ?」

女神「魔神も神様だよ、私と一緒」

女神「魔神に変なこと言われなかった?」

勇者「世界の秘密のヒントだとか言われた」

勇者「俺は両利きだとか、生も死も持ってるだとか」

女神「なんだそれ」

勇者「知らねえよ・・・」

勇者「ここって、奴隷の村らしいな」

女神「うん、魔王の奴隷の村」

勇者「・・・・・・行こう」

勇者「見ていたくない」

女神「どうかーん、あんまりいい気しないんだよねー」

女神「さっさと出発しようか!」

老人「行かれるのですか?」

勇者「はい、魔王城まではもう少しですから」

老人「・・・お願いです、勇者様」

老人「どうか魔王を、倒してください・・・!」

老人「もう、こんな生活は耐えられないのです・・・・・・」

老人「またかつてのように、自由になりたいのです・・・・・・!」

女神「・・・勇者、正直さ」

女神「さっきまであんまり魔王倒す気なかったでしょ」

勇者「は?お前、何を言って・・・」

女神「神様を騙そうなんて考えないことだよー!」

女神「ちょいちょいって読めちゃうんだから!」

勇者「・・・・・・むぅ」

女神「エルフに優しい世界を作る事を約束して、魔王に負けちゃおうかとか考えてたよね」

勇者「まぁ・・・」

女神「・・・そういう訳にも、いかなくなったよね?」

女神「エルフもだけど、あの村も助けたくなったでしょ」

勇者「・・・うん」

女神「エルフ達は強いよ」

女神「自分で自分を守れる」

女神「でもあの村の人達は、そうはいかないよ」

勇者「わかってる」

勇者「何が正しいかはわかんねえけど、あの人達は助けたい」

勇者「俺は、魔王を倒す」

勇者「何としてもな」

女神「うん、そうだよ」

女神「じゃあもーっと強くなんないとね!」

勇者「えっ!?まだかよ!」

女神「まだまだ全然よわーい!」

女神「魔王倒すにはもっとレベル上げなきゃね!」

勇者「うわー・・・」

勇者「そろそろいいんでない?」

女神「この辺の魔物が余裕ならそろそろおっけぃかなぁ?」

勇者「あくましんかんなら目を突けば確実に勝てる」

女神「勇者のセリフじゃないねぇ」

勇者「なりふり構ってられないの」

女神「ま、そろそろいいと思うよ」

勇者「よし、じゃあ魔王城、行くか」

勇者「これが、魔王城か・・・」

女神「門がでっかいねー!」

ゴォォ・・・ン

勇者「ぅお!勝手に開いた!」

女神「誘ってるねぇ、魔王」

勇者「・・・待ってろよ、魔王」

勇者「すぐに行ってやる!」

執事「そんな決意表明に水を差すようで申し訳ありませんが」

勇者「なっ!」

執事「そうさせないのがわたくしめの仕事でしてね」

執事「はじめまして、わたくし、魔王様に仕えるしつ――」

勇者「えい」ドスッ

執事「・・・自己紹介くらいはさせていただきたいですね」ギリギリ

勇者「止めた!?」

執事「わたくしをその辺のザコと一緒にはしないでいただきたい」

執事「せっかちな勇者様が待ちきれないようなので、始めましょうか」

執事「凍結魔法!」

勇者「あっぶね!」バッ

勇者「おらぁ!」

執事「ふっ」ガッ

勇者「素手で・・・!」

執事「雷撃魔法!」

勇者「ぬお!」

執事「つかまえましたよ」ガシッ

勇者「がっ・・・!」

執事「おや、大して力がないんですね」

執事「このまま首をへし折るとしますか」ググッ

勇者(これで奴の両手が塞がった・・・)

勇者(くらえ、滅武士!)注:ただの目潰しです ドスッ

執事「!?」

執事「くっ、目が・・・!」

勇者「せい!」ズドッ

執事「ごがっ!」

勇者「喉さえ潰せば、魔法は使えねえだろ」

執事「お゛、まえ゛・・・」

勇者「なんて言ってるかわかる?」

女神「お前それでも勇者かー!って感じのこと言ってる」

勇者「そっか」

勇者「悪いな、もうなりふり構ってらんないからさ」

勇者「それじゃあ、な」

勇者「そろそろか?」

女神「うん、そろそろ玉座の間だよー」

勇者「無駄に広いな」

女神「罠いっぱいだしね」

勇者「・・・やっぱメイドさんとかいるのかな」

女神「魔王の趣味は知らないよー」

女神「・・・あ、ここだよ」

ギィ・・・バタン

勇者「・・・お前が、魔王か」

魔王「ああ、いかにも」

魔王「待ち侘びたぞ、勇者」

勇者「お前に言いたい事はたくさんあるが・・・・・・」

勇者「俺がお前を倒す」

魔王「期待しているぞ」

魔王「お前がワシを倒せるだけの力をもっている事をな!」

勇者「はぁぁあ!」ブンッ

魔王「ふん」キィィン

勇者「なっ!?」

魔王「はっ!」ゴゥッ

勇者「ぐあっ!」ドサッ

魔王「なんだ勇者、その程度の力なのか!」

勇者「う、るせぇ!」ガバッ

魔王「業火魔法!」

勇者「うわぁ!」

勇者「っと、あっぶねぇ」

魔王「凍結魔法!」

勇者「ぬお!」

勇者「あ、やべえ・・・・・・逃げ道、が・・・」

魔王「・・・雷撃魔法!」

勇者「ぐっ・・・・・・がはっがはっ!」

魔王「ここまでか、勇者」

勇者「勝手に、決めんなよ・・・」

魔王「そんなんで何ができる」

勇者「お前を・・・倒せる」

魔王「どれ、やってみろ」

魔王「好きな所に打ち込むがよい、そのひのきのぼうでな」

勇者「後悔すんなよ・・・・・・神聖魔法!」

魔王「!」

魔王「魔法で、ひのきのぼうを強化したか!」

勇者「おらぁ!!」ドスッ

魔王「くっ、・・・だが、もう食らわなければ!」

勇者「はっ!」ヒュッ

魔王「この程度防げるわ!」

勇者「フェイントだよ!」ズドッ

魔王「ぐおぁぁ!」

魔王「ぬぐぅ、目が・・・!」

勇者「なりふり構って、やれないからな!」ズドドド

魔王「ぐ、がっ!・・・ごぁっ!」

勇者「これで・・・」

勇者「ラストォ!!」ズドォン

勇者「はぁっ!はぁっ!・・・・・・」

勇者「終わった、か・・・?」

魔王「・・・暗黒魔法」ズォ

勇者「しまっ――」パキィィン

魔王「ふん、魔法同士が相殺されたか」

魔王「だがこれで互いに互角」

勇者「だったらなんだ!」タタッ

魔王「こい!次で終わらせてやる!」

・・・
・・

魔王「・・・ぐっ!」ガクッ

勇者「何か・・・言い残す事は・・・?」

魔王「・・・・・・」

魔王「ありがとう、勇者」

勇者「え?」

魔王「俺を苦しみから救ってくれて、ありがとう」

魔王「そしてすまない」

魔王「次は・・・お前だ・・・・・・」

勇者「・・・・・・」

女神「勇者ー!やったね!!」

勇者「女神・・・」

女神「魔王倒しちゃうなんてすごいよ!」

女神「たわしで額擦られてた頃とは大違いだねー!」

勇者「それはお前が・・・」

女神「うんうん、めでたいから、早速始めよっか!」

ズズズズ・・・

勇者「――え?」

魔神「継承の儀をな」

勇者「え、めが・・・み・・・・・・え?」

魔神「おいおい、顔が変に固まってんぞ」

魔神「なんだ?結局気付かなかったのか」

勇者「なんで・・・・・・?」

魔神「なんで、はこっちのセリフだよ」

魔神「あんなにヒントあげたのによぉ」

魔神「あまつさえ女神の時には答もちゃんとあげたじゃねぇか」

魔神「『私と一緒』ってな!」

勇者「どういう、事だ」

魔神「ん?しょーがねぇな、頭撫でてくれたら教えてやるよ」

勇者「ふざっ――」

ズズズズ・・・・・・

女神「――けてないよ?」

勇者「っ!」

女神「まぁ可哀相だから教えたげる!」

女神「言ったよね、私は雌雄同体で両性具有」

女神「右も左も、生も死も持ってる」

女神「もいっこ言うと、善も悪も持ってる」

女神「そんな両極を持つのが、神様・・・つまり私であって魔神」

女神「そして勇者を生むのが私で、魔王を生むのが魔神なの」

勇者「・・・じゃあ、継承の儀って・・・・・・」

女神「そっ!勇者を魔王に変える儀式だよ!」

勇者「そんなこと!魔王になるくらいなら・・・」

女神「死なせると思う?」

女神「別に死んでもいいよ、生き返らせるから」

女神「体から離れた魂が体に戻る苦痛、味わってみるのもアリだよね」

勇者「・・・・・・なんなんだよ・・・」

勇者「俺には選択肢はないのかよ!」

ズズズズ・・・

魔神「その通りさ」

勇者「ぅう・・・!」

魔神「はっはっは!そんな嫌な顔すんなよ」

魔神「今のは冗談だ」

魔神「ひとつだけ選ばせてやるよ」

勇者「ひとつ・・・だけ・・・・・・」

魔神「そうだ、解答権は一回のみ」

魔神「間違えんなよ!」

勇者「それは・・・?」

魔神「魔王になってこの世界を続けるか、魔王にならずにこの世界を滅ぼすか・・・だ」

勇者「魔王にならないと、世界が滅ぶ?」

魔神「わかんねぇか?」

魔神「お前が魔王にならなきゃ、俺が世界を滅ぼすっつってんだよ!」

勇者「そんなっ・・・!」

魔神「正確には、作り直すが正しいか」

魔神「神の塔に、必要なだけの人、魔物、動植物を詰め込んで」

魔神「洪水と津波で地上をまっさらにするのさ」

勇者「もしそうなったら、俺は殺されるのか?」

魔神「そんなんしねぇよ」

魔神「お前には、世界樹になってもらう」

勇者「・・・は?」

魔神「お前には世界樹になって、世界の滅びまで生きてもらう」

魔神「世界を滅ぼした罪としてな」

魔神「言っただろ?世界樹の場所に来れるかは『勇者次第』だってな」

勇者「だったら、仕方ないじゃないか・・・・・・」

勇者「魔王になるしか・・・」

魔神「先に釘を刺してやるよ」

魔神「さっさと勇者に負けちまおうとかしてもダメだ」

魔神「額の紋章、こいつが少しでも手抜きを感知したら・・・」

魔神「その時点で世界の滅びがスタートだからな」

勇者「・・・くっ!」

ズズズズ・・・・・・

女神「さ、選んで!勇者!」

女神「魔王になる?それとも世界樹?」

勇者「俺は・・・・・・」

女神「まぁじっくり考えるといいよ」

勇者「・・・魔王になったら、どうなる?」

女神「魔王になるよ!・・・っていうんじゃないよね」

女神「ある程度は自由に動けるよ」

女神「勇者の成長に影響を及ぼさない範囲ならね」

女神「つまりはあの国から魔王城までに立ち寄ったところ以外には基本自由だよ」

勇者「それじゃあ、エルフは」

女神「あ、エルフの村と奴隷の村はイレギュラーだからおっけーだよ」

女神「さて、そろそろ決まった?」

勇者「・・・・・・ああ」

女神「それで、君の答は?」

勇者「俺は、魔王になる」

勇者「この世界を滅ぼすことが正解だとは思えない・・・」

勇者「それに、エルフを救えるかもしれない・・・」

ズズズズ・・・

魔神「もう、変えさせねえからな」

魔神「始めるぞ」

勇者「最後にひとつ、教えてくれ」

勇者「どうしてこんなことを?」

魔神「そんなん簡単だろ」

魔神「退屈だからだよ」

魔神「ただただ長い時間を過ごすってのは退屈なんだ」

魔神「その退屈凌ぎに適当な人間を魔王と勇者にして戦わせる事にした」

魔神「そしたらこれが中々面白くてな、この世界ではもう三万年も続いてるのさ!」

勇者「そう、か・・・・・・」

勇者「じゃあ、始めてくれ」

魔神「あいよ」ペタ

魔神「多分意識飛ぶだろうけど、気にすんなよ」

バチィッ!

勇者「!!・・・・・・」ドサッ

魔神「さぁて、一丁上がり!」

魔王「・・・・・・」

魔神「はっ!シケたツラしてんなぁ」

ズズズズ・・・

女神「んー、結局今回も気付かなかったかー」

女神「『最初の世界』を創ったのが三万年前で、この遊びが『この世界』では三万年も続いてる」

女神「要は、一度も世界は作り直されてないんだよねー」

女神「さぁて、どれだけ先の勇者は気付くのかな?」

女神「そこに気付けたら、この遊びもおしまいにしてあげるのになー!」

女神「・・・まぁいいや、次の勇者探しに行こーっと!」


-END-

お疲れ様でした
読んでくれた方、ありがとうございます

矛盾はないよう頑張ったつもりです
尻すぼみになるのが俺のSSの特徴ですww

一度も作り直されていない世界
作り直されていない世界樹の人柱とは
使われていない方舟とその伝承は

面白かった、乙

>>199
世界樹の人柱は神様のおどし

神の塔は、過去に人間が異様に発展したときがあって、そのときに使われた
だから歌の言語が廃れたっていう裏設定です

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