マミ「おいしい!おいしいわ!」(235)

ジュジュジュジュ…

マミ「……」

マミ「うん、やっぱりこれはいい肉ね」

マミ「……」ジュジュ… ヒョイ

マミ「……」モグモグ

マミ「うん、おいしい肉……いかにもお肉って感じの肉だわ」

マミ「こっちは……カルビかしら。うん、おいしい」ハフハフ

マミ「すいませーん、ご飯もう持ってきちゃってくださーい!」

マミ『瘴気が濃いわね……強力な魔女が出る前触れじゃなきゃいいけど』

ゴオオオオオオ…

マミ『飛行機……』

マミ『この辺りだとずいぶん低いところを飛ぶのね』

マミ『あんなのが魔女の影響でちょっと失敗でもしたら……』

マミ『……』

マミ『いけないわね、こんな想像で気を落としてちゃ』

マミ『元気出さなきゃ。こんな時は何か豪勢なものでも……』


マミ「うん、焼き肉は間違ってなかったわ」モグモグ

マミ(真っ昼間から一人で焼き肉なんて初めてね)ジュジュ-…

マミ「……」ハフハフ

マミ「ふう、暑い」

マミ「上着は脱いじゃいましょう」パサッ

マミ「このミノもおいしそうね」

マミ「まずいミノはゴムみたいだものね」モグモグ

マミ「はやくご飯こないかしら」

マミ「焼き肉といったら白いご飯でしょうが……!」

マミ「……」

マミ「キムチはどうかしら」

マミ「うん、いい味出てる。いい感じだわ」シャリシャリ

マミ「……あらら、またネギ焦がしちゃった」

マミ「どうも野菜を焼くのは苦手ね」ムシャムシャ

店員「お待ちどうさま」カタッ

マミ(あ……きたきた、きましたよ)

マミ(白いご飯……!)ホカホカ

マミ「……」ハフハフハフ

マミ「……ん~~っ! まさにこれよ」

マミ(まるで私の体は魔力精製所)

マミ(ソウルジェムの穢れを吸い取るグリーフシードのようね!)ハフハフ

マミ「すいませーん」

マミ「あと上ロースと上カルビを一人前ずつ。それからサン……えと、サン、サンチュ」

店員「サニーレタスですね」

マミ「……ええ、そう、それそれ」

マミ「あと……この、チャプチュっていうのをひとつお願いします」

店員「ハイ、チャプチュですね」


マミ「……」ジュー ムシャムシャ

マミ(なんだか一人で黙って焼き肉食べてると、次から次で休む間もないわ。忙しいわね)

マミ「これがチャプチュ……」

マミ「炒めてあるけど……スキヤキみたいなものかしら? 具も似てるし、甘辛い匂いがするわね」

マミ「……」モグモグ

マミ(ちょっと味付けが濃いかしら。ハルサメも太めで味が染みてて、食べごたえがあるわね)

マミ(これは否が応にもご飯が進むわ……)

マミ「……」

マミ「すいませーん、ライスもうひとつください。あとウーロン茶も」


マミ「……」ハフハフ モグモグ ムシャムシャ

マミ(うおォン、私はまるで人間ティロ・フィナーレだわ!)

マミ「うー……」

マミ「いくらなんでも食べすぎたわ」

マミ「んんー……苦しい」

マミ「こうしえられないわ、パトロールしないと」

マミ「……」ケプ…

マミ「ダメね、今は頭は回らないわ……公園で一休みしていきましょう……」


≪第6話・了≫

マミ(うう……今日の魔女は手こずったわね)

マミ(長期戦だったからどっと疲れが……)

マミ(何より、お昼をだいぶ過ぎてるからお腹が)キュルルル…

マミ(ん……?)

マミ「自然食……」

マミ(こういうの、あんまり好きじゃないんだけど……)

マミ(この先にお店もなさそうだし、最近は魔女退治続きで不健康だし……たまにはいいかしら)

店員「いらっしゃいませ」

マミ「……」キョロキョロ

マミ(片付いてるけど、飾り気のないお店ね……)

マミ「あ、一人なんですけど」

店員「ハイ、あちらへどうぞ」


マミ「……」

マミ「……」ズズー

マミ「あら……これ、ほうじ茶じゃない」

マミ(なんだか懐かしい感じがするわね)

店員「お決まりですか?」

マミ「あ……」

マミ「えっと、おまかせ定食ください」

店員「ハイ」

マミ「……」

マミ「あ、ワリバシじゃないのね」

マミ「ワリバシは環境破壊ってことかしら」

マミ「調味料もなんだか小さく分けられてる……こういうのも全部無添加なのかしら」

マミ「でも、結局こういうのって高くつくのよね」

マミ(……)

マミ(やっぱりこの手のお店って苦手だわ)

マミ(店員さんもなんだかこっちを見下ろしてるみたい……もっと勉強しろって言ってるような……)


店員「お待たせしました」コト

客「ありがと」


マミ(……あれ、メニューにあったイワシと野菜のカレーね)

マミ(ご飯が玄米かあ……玄米でカレー、しかもイワシ)

マミ(ちょっと無理があるんじゃないかしら)

マミ(そういえば鹿目さんの友達の……志筑さんだったかしら? あの子が言ってたわね)


仁美『ああいう年季の浅い自然食のお店って苦手ですわ』

仁美『なんだかテーブルがペトペトしてる感じがしますの』


マミ(……)キュッキュッ

マミ(……してるかもしれないわね)

店員「お待たせしました」

マミ(……)

マミ(まさに思った通りのメニューってところかしら。少なめで品数は多めだけど地味で)

マミ(玄米ねえ……別にいいんだけれど)

マミ(じゃあ、まずはお味噌汁から……)ズズ

マミ(!)

マミ(おいしい……何これ、味噌が違うのかしら?)

マミ(具の大根の葉っぱもシャキシャキして……)

マミ(油揚げも嫌な油っぽさが全然……)モグ

マミ(!!)

マミ(こ、このほうれん草のおひたし何!?)クキクキ

マミ(固くてクセが強くて、道端の草でも食べてるみたいなんだけど)

マミ(でも嫌じゃない! ううん、おいしい! なんだか懐かしい味だわ!)モグモグ

マミ(ひじきの煮物……これがひじきなの? この歯応え、口いっぱいに香りが広がって)コリコリ

マミ(ポテトサラダもふわふわして、マヨネーズのべたつきが少しもない……)

マミ(……)

マミ(ああ……これって、小さい頃に嫌いだった味なんだわ)

マミ(お母さんが生きてた頃よりもっと昔……おばあちゃんに食べさせてもらったような)モグモグ

マミ(くやしい……けどおいしい! これだけじゃ全然物足りないわ)ムシャムシャ


マミ「スイマセーンッ!」

店員「ハイ」

マミ「追加でイワシと野菜のカレーライスください! 大盛りでね!」


≪第7話・了≫

マミ(ふう……せっかくの休日だけど、魔法少女に休みはないわね)

マミ(ご飯の時間も遅れちゃって困るわ)

マミ(ランチタイム、ギリギリ滑り込みセーフってところかしら)ギイ

店主「……っしゃい」

マミ(カウンター席でいいわね)ストン

店主「おい!」

店員「あ……イラッシャイマセー」コトッ

マミ(ああ、お水……ちょうど喉が渇いてたのよね)

店主「……」サッ

マミ「……?」

店主「ホラ! こんな石鹸の泡のついたコップで水を出しちゃダメだろ!?」ビシャッ!

店員「ハイ、スイマセン……」

マミ「……」


店主「それとお前、50分になったら表の看板引っ込めろって言っただろ?」

店員「あ……スイマセン」チラ

店主「ったく、いちいちそこで時計見なくたっていいだろ」

店員「ハイ、スイマセン」

マミ「あの……いいですよ、また来ますから」

店主「あ、いえ。いいんですよ、まだ。ハイ、お水」コト

ギイ

店主「ああ、もう……いらっしゃい」

店員「あ、あの……看板入れてきます」

店主「待てよ、客の対応が先だろうが」

店員「あ……ハイ、スイマセン」

店主「二人しかいねえんだから考えろよ、ちょっとは」

店員「ハイ」コト


杏子「あ」

マミ「……!」

店主「ハイハイ、お二人とも注文は?」

店主「風見野ハンバーグランチが当店のオススメですが」

マミ「あ……じゃあそれで」

杏子「ん、あたしもそれでいいや」

店主「ハイ、ランチツー入ります」


マミ「……」

杏子「……」

マミ「……久しぶりね。調子はどう?」

杏子「……あたしはいつも通りだよ」

マミ「……」

杏子「……」

マミ(こんなところで会うなんて……間がもたないわ)キョロキョロ

マミ(それにしてもここの壁、雑誌の切り抜きとかばっかりね)

マミ(あそこの胴着姿の写真は……店長さんかしら。お店と関係ないじゃない)

店員「看板、入れてきます……」ギイ

店主「……ったく」

トウルルルル カチャ

店主「ハイ。あ……美国さん」

店主「いいっすよ、ジャンボ三つね。ハイまいど」

店員「……」ギイ

店主「出前入ったぞ、ジャンボスリー」

店員「ハイ、しかし……時間……」

店主「お前がモタモタしてるからだよ。ランチ出るぞ」

店員「……ハイ」


マミ「……でも元気そうで安心したわ」

杏子「……うん、そっちもな」

店員「お待たせしました」コト コト

マミ「どうも」

杏子「おお……!」

マミ(あら……いいじゃない。器の中にハンバーグとスパゲティ、目玉焼きまで)

マミ(ん……あちち。うん、ジューシーだわ)ハフ ムグムグ

杏子「ん、あつ……んんー!」ハフッ モグモグ

店主「おい、洗い物はいいから弁当箱。あとサラダと豆腐」

店員「しかし豆腐……あとひとつの半分しかなくって」

店主「なにィ」

店主「じゃあジャンボなんてできないだろ、お前なんで言わないんだよそういうことを! 注文とれないだろ!?」

店員「スイマセン、スイマセン」

店主「お前が美国さんに電話しろよ、できないって!」

店員「スイマセン……」


マミ「……」ムグムグ

杏子「……」モグ…

店主「呉さんよォ、向こうじゃどうやってたか知らないけどさ。うちじゃそんなテンポじゃやっていけねえんだよ」

店員「ハイ、スイマセン」

店主「こっち来て勉強しながらで、そりゃあ大変だろうがこっちはな!」

店員「ハイ……」

「ごちそうさま」「お勘定」

店員「あ……ハイ、どうもありがとうございました。650円、650円……1300円になります」

店主「人の話をきけ!」ビシッ

店員「うっ」


マミ「……」ムグ…

杏子「……」

店主「ハイ、毎度ありがとうございまーす」

店員「……」

「ごちそうさま」

店主「毎度どうもー」


マミ「……」

杏子「……」カチャ ハア…


ガタン バンッ!

マミ「人の食べてる前で……あんなに怒鳴らなくたっていいでしょう」

店主「え?」

マミ「この子はすごく食べるのが大好きなはずなのに……見てください!」

マミ「これしか喉を通ってない!」

杏子「え……おい、マミ……」

店主「なんだァ? お嬢ちゃん、文句あんのか」

マミ「あるわ」

店主「あんたらがどう残そうが食おうがこっちには余計なお世話だ! 金なんかいらねえから帰れ!」

マミ「……あなたは客の気持ちを全然、まるでわかってない」

マミ「モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず自由で……なんというか、救われてなきゃダメなのよ」

マミ「独りで、静かで、豊かで……」

店主「なにわけのわからないことを言ってやがる。出ていけ、ここは俺の店だ」ズイ

店主「出ていけ!」ドンッ

マミ「!」クワッ


ガシッ バッ ガキイッ


マミ「ティロ・フィナーレ!(関節)」ギリッ

店主「があああああああ!」

>マミ「モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず自由で……なんというか、救われてなきゃダメなのよ」

>マミ「独りで、静かで、豊かで……」

軽く杏子のことを邪魔って言ってるようなもんだよな

店主「痛っ、イイ……」

店主「お……折れるう~~~~」

杏子「マミ! もういいよ、やめてよ!」

マミ「……」ギリリリ


店員「あ……恩人、やめて」

店員「それ以上いけない」

マミ「……」ギリ…

マミ「……」スッ

マミ「……」ハア

杏子「……」

杏子「……なんであんなことやったんだよ」

マミ「……佐倉さん、私は」

杏子「あたしは! マミさんにあんなことされたって、嬉しくない……」

杏子「……っ」ダッ

マミ「佐倉さん……!」

マミ「……」

マミ(あの子、あの目……店員さんも……)

マミ「ああ、いけない……いけないわ……」


≪第8話・了≫

ワー パチパチパチ…

≪ただいまより30分間の休憩となります。後半の演奏は11時30分から……≫


マミ「……」

さやか「……マミさん、付き合ってもらってごめんなさい。退屈でしょ?」

マミ「あ、いえ……そんなことないわよ」

マミ「ただ、空調の調子が悪いのかしらね? なんだか暑くって」

さやか「あ、やっぱり暑いですよね? あたしだけじゃなかったんだ……いやー、あたしったらただでさえ緊張で汗びっしょりで」

マミ「……一度出て、飲み物でも買いましょうか」

さやか「賛成です!」

さやか「ふあー、廊下すずしー……」

マミ「明るいところで見ると本当にひどい汗ね……はい、ハンカチ」

さやか「あはは……スイマセン」フキフキ

さやか「変ですよね、あたしが演奏するんじゃないっていうのに」

さやか「恭介が退院して初めての大事なオーディションですから……気が気じゃなくって」

マミ「……」

マミ「行きましょう、美樹さん。そこに食堂があるわ」

さやか「え? 飲み物買うんじゃなかったですか?」

マミ「この暑さにその汗じゃ、飲み物だけじゃダメよ」

マミ「何かお腹に入れておかないと倒れちゃうわ」

さやか「はあ……」

マミ「時間もないんだからほら、急いで」

さやか「わわっ、ハイ!」

さやか「何にしようかな……」

マミ「ん?」

マミ「ウインナーカレー……初耳ね」

さやか「はあ、まあスタミナはつきそうですよね」

マミ「そうね。じゃあこれを二つ……お願いします」チャリン

さやか「えっ、そんなんで決めちゃうんですか!?」

マミ「うーん……この組み合わせは珍しいわね。初めてかもしれないわ、意外にも」

さやか「このウインナー、魚肉ですよ? 皮柔らかいなー」プニプニ

マミ「コラ、食べ物で遊ばないの。時間もそんなにないし、早く食べちゃいましょう」

さやか「はーい」パク

マミ「……」モグモグ

さやか「……なんていうか、普通ですね」ムグ

マミ「……そうね」

マミ「なんとか間に合ったわね」

さやか「そうですね……カレーのおかげで体も中からポカポカして……」

マミ「……」

さやか「……」

さやか「暑い! 余計に暑いですよマミさん!」ダラダラ

マミ「ええ、そうね……」

さやか「うう……これじゃサウナですよ……」

マミ「……」

さやか「……」

マミ「……」

さやか「あ、そうか。脱げばいいんだ」

マミ「ちょ……美樹さん!?」

さやか「大丈夫ですよ、上着だけですって」

マミ「当たり前でしょ」

さやか「マミさんも無理しないで脱いだらどうです? 暗いし、別に目立たないですよ」

マミ「……」

マミ「……」ヌギヌギ

さやか「わ……やっぱマミさん、いい体してますねえ」

マミ「やっ、美樹さん……!」

さやか「シャツが肌に張り付いて、なんとも……」

マミ「やめなさいってば……演奏に集中しなさい」

≪8番、上条恭介くん。曲は『亜麻色の髪の乙女』≫


さやか「あ……」

マミ「上条くんの出番ね……」

さやか「恭介……」


上条「……」スッ

上条「……」


マミ「……構えたのに、なかなか始まらないわね」

さやか「恭介……?」

上条「……っ」グ…


マミ「いくらなんでも構えてから長すぎるわ……どうしたのかしら」

さやか「恭介……もしかして、まだ……」


ザワザワ ヒソヒソ

「やっぱりまだ万全じゃないのよ」「本当は二度と演奏できない怪我だったって?」

「ブランクが長すぎたんだろ」「もう弾き方も忘れちゃってんじゃないの?」

ボソボソ ガヤガヤ

ガタンッ


さやか「……」

マミ「ちょっ……美樹さん、立ち上がっちゃダメよ! 座って」

さやか「……」スゥ…

さやか「頑張れーっ! きょーすけーっ!」

マミ「……!?」


上条「さやか……!?」

さやか「がんばれ! がんばれ恭介っ! ファイトーッ!」


ザワザワ ヒソヒソ

「え……何これ、ドッキリ?」「なんか賑やかしでも仕込んでたのかな」

「それにしちゃ寒くね? 頭おかしいんじゃねーの?」「ねえ、あれって美樹さんじゃ……」

ボソボソ ガヤガヤ


さやか「恭介ーっ! がんばれーっ!」

マミ「……」

カタン


マミ「恭介くん! がんばってー!」

さやか「……!」


マミ「がんばれー! 頑張って、恭介くん!」

さやか「マミさん……」

さやか「そうだよ、恭介。あんたの腕は治ったんだ」

さやか「がんばれ! がんばれ恭介! あんたは弾けるんだ!」


「何あれ、一人増えたんだけど……」「ファンか? 外面はいいもんなー、あいつ」

「でもそれにしちゃ必死じゃない?」「すごい汗……それにあの格好……」


さやマミ「「がんばれーっ!!」」

さやマミ「「がんばれーっ!!」」


ザワザワ ガンヒソ ボソボソ ガヤバレ…


さやマミ「「がんばれっ! 恭介っ!」」


ザワザワ ガンバレ… ボソボソ ガンバレ!


さやマミ「「がんばれがんばれ! 恭介ーっ!」」


ガンバレ ガンバレ! ガンバレ ガンバレ…!

上条「……」フフッ

上条「……」コクン

上条「……」スゥ…


――――――――――――♪――――――――――――








マミ「……すごいわね。あれだけの応援が、少し弾いただけでこんなに静まり返って」

さやか「ハイ……これが、これが恭介の演奏なんです……」

さやか「がんばれ、恭介……もうあんたの演奏を邪魔する奴はどこにもいないよ……!」


ポンポン

さやか「はい?」

警備員「二人とも、ホールから出てもらえる?」


≪第9話・了≫

マミ「……」サラサラ

QB「マミ、もう日付けが変わったよ。まだ寝ないのかい?」

マミ「今日は苦戦しちゃったから、まだ課題がね」

マミ「学生と魔法少女、二足のわらじも楽じゃないわ」

QB「マミは真面目だね」

マミ「普通よ」


マミ「はあ……でも、まだ終わりそうにないわね」

マミ「お腹もペコちゃんだし、夜食でも食べて一息つこうかしら」

店員「いらっしゃいませー」

マミ(深夜のコンビニってなんだかワクワクするわね)

マミ「さてと……何にしようかしら」

マミ「カップヌードルっていう気分じゃないし」

マミ「オニギリだけっていうのも……」

マミ「……うずら卵と牛肉の中華風」

マミ「うん……これ、ちょっといいわね」

マミ「こういう小さなおかずをいくつか買っていって……」

マミ「おしんことか、卵焼きとか」ヒョイ

マミ「となると、このキンピラゴボウも嬉しいわね」ヒョイ

マミ「あら、冷ややっこなんていうのもあるんだわ」ヒョイ

マミ「後輩がおいしいって言うから、馬鹿いいなさいって言って食べたらおいしかったんですよ」

マミ「おいしいわぁ!鹿目さん達にも食べさせてあげたぁい」

「おいお前、さりげなく俺のカゴに入れるんじゃねえ」「えー、いいじゃないケチー」

マミ「……」イラッ

マミ「ううん……そう、カゴね」バサッ

マミ「……こうしてカゴに入れてみると、なんだか寂しいわよね」

マミ「そうだわ、缶詰めなんてどうかしら」

マミ「あら、これがコンビーフ……」

マミ「馬肉入り? へえ、馬肉って食べたことないわ。いいわね」ガサ

マミ「なかなかバランスがとれてきたわね、あとは何が足りないかしら……」

マミ「あら、野菜の煮物!」

マミ「こうなったら汁ものも欲しいわね」

マミ「うーん、豚汁もいいけど……」

マミ「ここはナメコ汁できめましょう!」ガサ

マミ「ふふ、これはちょっとした夜食の定食コースだわ」

マミ「ん? 秋田こまち新米……なるほど、これをレジで温めてもらえばいいのね」

マミ「ここまできたら……当然デザートね!」

マミ「ケーキも、プリンも、あるんだよ」バサバサ

店員「こちら温めますか?」

マミ「ハイ」

店員「お会計先にお願いします、1892円になります」

マミ(ずいぶんいっちゃったわね……)

マミ(……!)

マミ「あ、あとおでん! タマゴとダイコンとシラタキください」

QB「お帰りマミ……スーパーにでも行ったのかい?」

マミ「コンビニよ」ガサガサ

QB「うわあ、なんだか凄いことになっちゃったぞ」

マミ「ああ、お腹すいたわ。いただきま……」

マミ「ん、何か音楽でもかけようかしら」カチャ

サールティー ロイヤーリー タマリーエ パースティアラヤー レースティングァー

マミ「いただきます」

マミ「……」ズズ

マミ「あら、おいしい」

マミ「このおでんの汁があったらお味噌汁はいらなかったわね、失敗したわ」

マミ「……」モグモグ

マミ「ん……これがコンビーフなのね。ちょっと油っぽいけど歯応えもあって、不思議な味だわ」

マミ「……」ハフハフ ムシャムシャ

マミ「……」モグモグ

QB「おでんにうずら、卵焼き……どうして卵がこんなに重なってるんだい? わけがわからないよ」

マミ「……」モグ…

マミ「やっぱり少し買いすぎたかしらね……」

QB「……少し?」

マミ「……」ポリ

マミ「このキュウリ、おいしくないわ」

(ホァ) グーリーーターリーィヤ ピーラーリーフー サーファリーハー

マミ「私って、ほんとバカ……」


≪第10話・了≫

マミ「ん……」

マミ(白い天井……)

マミ「あら……? ここ、どこかしら」

杏子「おはよう」

マミ「……佐倉さん? どうしてここに」

杏子「オイオイ、ボケてんのか? ワルプルギスの夜で魔力使い果たしちまって、あたしたち入院中なんじゃねーか」

マミ「そう……だったわね」

杏子「情けねー話だよな。怪我の回復にあてる魔力も残ってなかったんだからさ」

杏子「おかげでせっかく治したのに、検査だなんだですぐには退院できねーんだから」

マミ「……そう言わないの、心配してくれてるのよ」

杏子「……まあ、わかってるけどさ」

マミ(……夢じゃないのね)

マミ(ワルプルギスの夜を越えて……また、佐倉さんと仲間になれたんだわ)

看護師「巴さん佐倉さん、お食事でーす」

杏子「おおっ、待ってました!」

杏子「入院中だともうこれくらいしか楽しみないもんなー」

看護師「慌てないで……ハイ、どうぞ」

看護師「巴さんも、ハイ。お加減はいかかがですか?」

マミ「あ……ええ、ずいぶんいいですよ」

杏子「すぐにだって退院できるぞ」

看護師「また……佐倉さんは3箇所骨折してたのよ? せめて検査がすむまで待ってね」

杏子「ちぇー」

マミ(わあ……)

マミ(まずはカレイの煮付けから)アム

マミ「うん、おいしい」モグモグ

マミ(なんだろう、食べ始めてるのになおさらお腹が減っていくみたいだわ)

マミ「こっちはおでんね」シャク

マミ「うん……染みてるわ」

マミ(わあ……)

マミ(まずはカレイの煮付けから)アム

マミ「うん、おいしい」モグモグ

マミ(なんだろう、食べ始めてるのになおさらお腹が減っていくみたいだわ)

マミ「こっちはおでんね」シャク

マミ「うん……染みてるわ」

マミ(こういう場所で食べると全然別物に感じるわね……)

マミ(魚にご飯、ジャガイモのお味噌汁……素晴らしい組み合わせだわ)ズズ

マミ(この野沢菜も、マジメな味)シャクシャク

マミ(ああ、ダメよダメよ。焦っちゃダメ……丁寧に丁寧に大切に、よく噛んで味わいましょう)

杏子「ごちそうさまっ!」

マミ「早っ!?」

「じゃあ、味噌汁にもとろみをつけますからね」「……ハイ」

マミ(ん……?)

シャカシャカシャカ…

マミ(何かをかき混ぜる音……?)

カッ カッ カッ

杏子「隣のじーさん、スプーンで砕いたりしてもらわねーと食えねーんだな……」

シュコ… ジュル… ズズ…

マミ「……なんだか弱々しい音ね」

杏子「……」

杏子「……それでもじーさん、一人で食ってるんだな」

マミ「……」

杏子「……なあ、マミ」スッ

マミ「どうしたのよ、ソウルジェムなんて出して」

杏子「あたしたちの本体ってこっちでさ、体は作り物みたいなモンなんだよな」

杏子「だったらさ、あたしたちって本当は食わなくていいんだよな」

マミ「……そうなるわね」

杏子「ソウルジェムの穢れってのはさ、グリーフシードじゃねーと取れない」

杏子「でもさ……最近ちょっと、本当にちょっとだけ」

杏子「ものを食うとさ、ソウルジェムも綺麗になる気がするんだ」

杏子「なんていうか、救われてるっていうのかな……」

杏子「生きてるってのはさ、体にものを入れてくってことなんだな」

マミ「……」

杏子「あんたが前に言ってたのはさ、こういうことなのかな……?」

マミ「……」

マミ「ええ、きっとそう……そうだと思うわ」

マミ「……」

マミ「ん……ふわ」

マミ「病院だと夜は長いわね……お腹すいちゃうわ」

マミ「あら……佐倉さん?」

マミ「……トイレかしら」

杏子「……」

杏子「ソウルジェム」

「グリーフシード」

杏子「デミ」

「マブ」

杏子「よしよし、例のものは持ってきたんだろうな?」

QB「大丈夫だけど……今のやり取りには何の意味があるんだい? わけがわからないよ」

杏子「バカお前、こういう時は合言葉って決まってんだろーが!」


マミ「へえ……その合言葉の意味するところを説明してもらえないかしら? 詳しく」

杏子「」

マミ「……カレーパンに牛乳?」

杏子「ご、後生だマミ……それはあたしが苦労して手に入れたとっておきの」

QB「持ってきたのは僕じゃないか。それに買ってきたのはまどかだよ」

マミ「病院にこんな油ものを持ち込むなんていい度胸ね……」

杏子「だってさ、病院のメシって少ないじゃねーか! あたしが生きてるのを実感するには少ないんだよ!」

マミ「そうやって生を求めて人は退院するのよ」

杏子「そんなの絶対おかしいよ!」

マミ「そういうわけだからキュゥべえ。それは退院後に受け取ることにするから、鹿目さんの家に戻りなさい」

QB「それは構わないけど、僕の報酬のチーかまは誰がくれるんだい?」

マミ「聞こえなかったの? 戻 り な さ い ?」

QB「きゅっぷい」

杏子「……」

マミ「佐倉さん、おはよう」

杏子「……」

マミ「佐倉さん?」

杏子「……ハラヘッタ」

マミ「……ちゃんとゆっくり味わって食べないからよ。これに懲りたら朝ごはんは大事に」

看護師「巴さん佐倉さん、お食事でーす」

杏子「待ってました!」ガバッ

杏子「おおお! 今朝はパンか……あたしの気分わかってるな!」

マミ「もう……まるで犬ね」

マミ「……」キュルルル

マミ「人のことは言えないかしら」

マミ「……」モグモグ

マミ(ん……バナナと牛乳を口の中でよく噛んだらバナナジュースになるかしら)

マミ(デザートにやってみましょう)


≪第11話・了≫

マミ「……寒っ」ブルルッ

マミ「年も暮れると見滝原も冷えるわね……」

マミ「大晦日の夜って嫌ね、どのお店も閉まっちゃって」

マミ「開いてるのはお酒を飲む店ばっかりだわ」

マミ「立ち食いそばのお店でも開いてれば、そこで年越しそばが食べられるのに」

マミ「……早く帰りましょう」

マミ「えーと……確かこの辺りに」ゴソゴソ

マミ「あったわ……そば!」

マミ「ソーメンみたいな乾麺だけど、ゆで麺よりずっといいわよね」

マミ「お湯もそろそろ沸いたかしら」

マミ「おつゆも温めておかないと……」

マミ「いけない、具の準備がまだだったわ」

マミ「ネギだけは切って冷凍しておいたわ! 暁美さんに自炊のコツを聞いておいてよかったわね」

マミ「エビ天もスーパーで半額になったのを死守できたし」

マミ「そばに入れるのはカマボコ? ナルトはラーメンだったかしら……まあ、どっちでも大丈夫よね」

マミ「できたわ。我ながらおいしそうじゃない」

マミ「いただきます」ズズ…

マミ「うん、出来合いだけどいい味のつゆだわ」

マミ「麺も歯応えがちゃんとあって……ゆで麺とは違うのよ、ゆで麺とは」ズルズー

マミ「……」シャクッ


マミ「天ぷら、少し温めた方がよかったわね」

マミ「衣はふやけてるのに、エビが冷たくて固いわ……」

マミ「ネギも、すぐに溶けるって聞いてたのに」

マミ「これじゃシャーベットじゃない」シャリシャリ

マミ「……」ズズ

マミ「ナルトってあんまり分厚いと邪魔なのね」

マミ「……」ズ…

ピンポーン


マミ「あら……?」

マミ「何かしら、人がせっかく年越しそばを満喫してる時に」


ピンポーン ピンポーン


マミ「私が食事を邪魔されるのが一番嫌いって、わかってないのね」トン


ピンポンピンポンピンピピピピピピ


マミ「はいはい、今でまーす!」

ガチャ


杏子「やっと出てきやがった」

さやか「マミさーん、こんばんは!」

まどか「えへへ……突然押しかけちゃってごめんなさい」

ほむら「……もしかして、食事中だったかしら」クンクン


マミ「あなたたち、どうしたの……?」

さやか「まどかの家で年越しパーティーをやることに決まったんで、お誘いにきたんですよー!」

ほむら「佐倉杏子も運よく掴まったことだし……巴マミ、あなたもどうかしら?」

まどか「マミさん受験生で忙しいとは思ったんですけど……」

杏子「んなことねーって。どうせ暇だろ? なあマミ」

マミ「……」

マミ「……そうね」

マミ「年越しそばは出るのかしら?」

ほむら「意外と図々しいわね巴マミ……佐倉杏子のがうつったのかしら」

杏子「ちょっとほむら、どういう意味だよ?」

まどか「もちろん出ますよ! パパ特製で、毎年麺は手打ちなんです!」

さやか「しかもしかも! 新年と同時にお餅も食べれるんですよ!」

マミ「……」

マミ「……」フフッ

マミ「それは参加せざるをえないわね!」

知久「みんな行き渡ったかな? それじゃあ」


「「「「「「「「「いただきまーす!」」」」」」」」」


杏子「う……うまっ!? 何だこれ、これそばじゃねーだろ!? 何か知らねーけど、そばより美味い何かだ!」

ほむら「同意せざるをえないわ……この世にどんべえ以上のそばが存在したなんて……」

知久「はは……褒められてるのはわかるんだけど、ねえ」

さやか「スイマセンおじさん、一人暮らし組なんで勘弁してやってください」

詢子「それにしても、まどかがこんなに友達連れてくるなんて成長したもんだ……来年は賑やかになりそうだね」

タツヤ「おそばー!」

まどか「もう、ママったら……ほらたっくん、ふーふーして食べようねー?」


マミ「……」ズズ… ズルズー

マミ「……うん、おいしい。おいしいわ」

QB「ずいぶん楽しそうだね、マミ」

マミ「……ええ、そうね」

QB「なんだか変わったね。前までの君なら、こんな賑やかな場所で食事を摂っているのも考えられないくらいだよ」

マミ「そうね……ワルプルギスで歯車が狂ったかしら」


マミ(モノを食べる時は、誰にも邪魔されず自由で……救われてなきゃダメだわ)

マミ(今の私は、ここにいる人を誰一人として邪魔だと思ってないの)

マミ(みんなで、賑やかで、豊かで……)

マミ(私もう、一人ぼっちじゃないのね)


≪最終話・了≫

第1話「夢の中でも食べてた、ような……」

第2話「それはとっても、もどかしいなって」

第3話「もう人間じゃない」

第4話「不幸も、老後も、あるんだよ」

第5話「後悔しかない」

第6話「こんなの絶対おいしいよ」

第7話「本当の味と向き合えますか?」

第8話「わたしって、ほんとバカ」

第9話「そんなの、あたしが許さない」

第10話「もう誰とも食べれない」

第11話「最後の一滴まで残さない」

第12話「わたしの、最高の友たち」


≪孤独のマミさん・劇終≫

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