ほむら「あなたにお願いがあるの……さやか」 (277)
改変後ほむら物語、ほむさや風味。原作より今まで読んだ二次の影響が強いです。
大枠としてほむら病室から本編12話を目指して進行します。SSは2本目なので出来は察して下さい。
とりあえず書き溜はそれなりにあるので、上手くペース配分して週一更新くらいで年内完結を目指したいです。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1382711789
私の中の大事なものがぽろぽろとこぼれ落ちていく。
嫌だっ!
でももう何が大事だったのかも思い出せない。ただなくしてしまった何かへの思いが胸を締め付ける。
嫌だ、嫌だ、絶対に諦めたくない。何度でも繰り返してみせるっ!
「はっ!!」
目の前にはもう見慣れてしまった病室。胸に喪失感と何故か止まらない涙。
切なくて耐えきれない胸の痛みに手を押し当てる。
押し当てた手の思いがけないぬくもりに痛みが少しずつ和らいでいく。
それは私暁美ほむらが退院する4日前の目覚めだった。
* * * * * * * * * * * * *
ほむら「暁美ほむらです。よろしくお願いします」
先生に紹介されて自己紹介の挨拶をする。うん。鈍臭い私にしては、あがることもなく上手く挨拶出来たと思う。
でも何だろう。ここで挨拶することになんだか慣れの様なものを感じている自分がいる。
女生徒「ねえねえ暁美さん前の学校では何かやってたの?」
女生徒「それって都内のミッション系のところだよね。すごい~っ」
女生徒「髪長いね~っ編むの大変でしょう」
新しいクラスメイトが次々と質問を投げかけてくる。
ちょっとつまったり、固まったりするのは私らしい気がするけれど、私にしてはずいぶん上手く話せている様な気がする。
ほむら「ごめんなさい。保健室に行って薬を飲まなきゃいけないの」
薬の時間を思い出してクラスメイトにそれを告げる。
あれ?私はこんなに自分の意思をはっきり誰かに告げられただろうか。自分に対して少し違和感を感じてしまう。
女生徒「そうなの。案内するよ」
親切は嬉しいけれどちょっと一人になって落ち着きたい気分だった。
ほむら「あんまり病気のことで迷惑かけたくないから。場所を教えてくれたら自分で行きます」
「じゃあ、あたしが案内してあげる。保険委員だし」
『保険委員』その響きに私の身体はぴくりと跳ねあがる。
振り向いたそこにはショートカットの活発そうな女の子がそこに立っていた。
ほむら「…違う?」
保険委員「はぁ」
保険委員だと言った女の子の顔が「何それ」という顔で私を見つめる。
思いがけず口から出た言葉がその場の空気を少し冷えたものにしてしまう。
保険委員「あ~っ、とりあえずこっちだから」
1人になりたいなと考えていた私は、なぜか気まずい相手と二人で保健室に行く事になってしまった。
* * * * * * * * * * * * *
保険委員「はい」
事務的な口調で水の入ったコップが机の上に置かれる。すごく気まずい。何であんな事言っちゃったんだろう。
自分が何で「違う」なんて言ってしまったのかを考えていくとどんどん気分が落ち込んでいく。
前の学校でもいつもこんな感じで人から浮いちゃってたし、何かをやってしまうとこうやって内にこもって、それを変えたいのにいっつも同じ様な失敗ばっかりで・・・
保険委員「ち・ょ・っ・と・転校生!」
ほむら「はいっ!!」
保険委員「もぅ!!さっきの事はいいからちゃんと薬飲まなきゃだめなんでしょ!」
ほむら「は、はいっ!!」
保険委員「はぁ。もうさっきの事は気にしてないから。というか一応保険委員なんだから病人どうこうする気はないよ」
ほむら「……」
保険委員「もうい~っての。1人の方がいいんだったらあたしはもう行くよ!」
こっちが悪いんだからあやまんなきゃ。そう思いながらも声を掛ける事が出来ない。いつもそうだ。こんなだから友達もほとんど出来ないんだろう・・
保険委員「ちょっと、なんか用?」
ほむら「えっ」
声の方向を見ると保険委員さんがこちらを向いていて、そしてその上着の裾を私が掴んでいるのが見えた。
そんなの掴んだ覚えがない。一体私は朝からどうなっているんだろう。
ほむら「さ、さっきはごめんなさい」
またパニックになりかかった気持ちを落ち着けてさっきの事を謝る。
保険委員「いいよ。別に気にしてた訳じゃないし。」
保険委員「て言うかあんたこの学校に保険委員の知り合いでもいるの?私が保険委員っぽくないってのはみんなに言われるけど、そういうのでもなさそうだったし」
ほむら「ご、ご、ごめんなさいっ。そ、そんなんじゃなくて。この学校に知り合いなんていないんですけど、でも私の知ってる保険委員はあなたじゃなくて・・・」
保険委員「…あんた不思議ちゃんかなんか?」
ほむら「/////っっ!!」
顔が一気に赤くなって来るのがわかる。今日は朝から何回失敗しちゃったんだろう。自分のダメさ加減に気持ちがまた沈んで行く。
保険委員「もぉ~そんなんで落ち込まない」
ほむら「!!」
保険委員「なんでも悪い方に考えると色んな事がそうなっちゃうよ。さっきの事は気にしてないから、もうこれでお終いっ!いい?」
突然の保険委員さんの大きな声に体がびくりとふるえる。
ほむら「は、はいっ!」
保険委員「またいっしょに保健室に行く時、ずっとこんな感じだったらお互い鬱陶しいでしょ」
やっぱり私ちょっと鬱陶しいのかな・・
保険委員「…言い方はきついかも知れないけどそこまで落ち込まないでよ」
保険委員「あたしは美樹さやか。よろしく。」
ほむら「あ、暁美ほむらです。よろしくお願いします。」
さやか「もう硬いなぁ。さやかでいいよ。え~ほむらでいい?」
ほむら「はい。え~と、さ、さ…美樹さん。」
さやか「…やっぱり急には無理かもね。でも気が向いたら何時でもさやかって呼んでよね」
ほむら「…はい。ありがとうございます。美樹さん。」
さやか「よろしくほむら。」
明るくて物怖じしない態度。はきはきした口調。私が憧れ、そして最初から諦めていたものが形になったような人だった。
いつもなら私が下を向いてしまいそして私の前を通り過ぎていたのかも知れない。
でもこの学校に来た時から感じていた何かが少しだけ私を後押ししてくれたのだろうか。
ほむら「よろしくお願いします。美樹さん」
振り絞った勇気は力強くて優しい笑顔で迎えられた。
* * * * * * * * * * * * *
さやか「ほむら、あんたけっこう運動出来るんじゃない?」
私の横を歩く美樹さんが話しかけてくる。
さやか「いやなんか委員長っぽい感じだから勉強は出来るだろうと思ってたんだけど、運動神経も悪くないよね」
ほむら「あ、あははっ//」
私は新しい学校での1日目を終えて3人で帰り道を歩いていた。
仁美「そうですわね。長い間入院されてたと聞いてましたから運動は苦手かと思ってましたけど」
仁美「長距離以外はさやかさんと同じくらいの成績でしたもの」
ほむら「あははっ…ははっ」
この人は志築仁美さん。美樹さんの親友でお嬢様という言葉がとてもよく似合う。
私のことを誉めてくれる二人。でも素直に喜べない私がいる。私ってこんなに勉強も運動も出来たっけ?
今の自分は夢を見ていて本当はまだ病院のベッドに寝ているんじゃないだろうか。そんな不安すら心の中に漂ってくる。
さやか「ねぇ、ほむら」
声をかけられた方向を振り向くと待ちかまえていた美樹さんの指が私の頬に刺さる。
ほむら「み、美樹ひゃん!?」
さやか「あはははっ。嬉しいくらい引っ掛かってくれるよね」
さやか「なんか心配事があるんだったら私に相談しなよ。多分仁美が力になってくれるからさ」
仁美「もうさやかさん。ふざけていると暁美さんが混乱しますわよ」
仁美「暁美さん。転校したてで心配事も多いと思いますが話して頂ければお力になりますわよ」
仁美「さやかさんはこの通りの方ですから私も落ち着いたお話が出来るお友達が欲しいですから」
さやか「なにそれ!何か最近クラスで私をオチつけの担当にしてるけど仁美までっ!!」
ほむら「ぷっ!」
二人の掛け合いについ笑いがこぼれる。
さやか「おっ、ちょっとは元気出て来たな?」
ほむら「あっ!」
気がつくと二人がにこやかに私を見つめていた。
さやか「まっ、不安もあるだろうけどさ。出来ることは何でもするから遠慮なく相談しなよ」
仁美「そうですわ。落ち着いたお話の出来るお友達が欲しいのは本当ですし」
さやか「まだ引っ張るの?」
仁美「いえ。さやかさんは調子に乗ると『嫁になるのだ~』とか言って抱きついてきたりしますから」
仁美「そんな時、止めてくれる友達がいてくれると嬉しいですもの」
さやか「なに『嫁になるのだ~』って私そんなのやって…たかな?」
仁美「そうですわ。確かどなたかに…」
さやか「やっぱりやって…ないよね」
仁美「そういえば…まぁさやかさんはいつかそういうことをされる自覚もある様ですから気を付けるに越したことはありませんわ」
さやか「けっきょく最後までオチ担当!」
二人の掛け合いについ顔が綻んでしまう。こうやって友達とたわいない話をしながら並んで帰る。
病室で長い間、憧れていた光景に自分が参加している。不安より大きな喜びが胸を満たす。
ほむら「…えと美樹さん、志築さん…迷惑かけるかも知れませんけど…よろしくお願いします」
さやか「もちろん。さやかちゃんにまかせなさいっ!!」
仁美「ええ。よろしくお願いいたしますわ」
こうして不安を持って望んだ新しい学校の一日は嬉しい出来事で終えることが出来た。
でも何故だろう。胸の奥に小さな何かが残った様な気持ちが晴れることはなかった。
* * * * * * * * * * * * *
さやか「あれ?ほむら」
ほむら「あ、美樹さん」
それは転校から週を越えた最初の日、志築さんは習い事、私は病院にと3人がそれぞれ帰ってしまったその後だった。
私は病院のロビーで美樹さんと鉢合わせをしてしまった。何で健康の塊みたいな美樹さんがこんな所にいるんだろう?
さやか「あ、あんた今あたしみたいな健康バカがなんでここにいるとか失礼なこと思わなかった?」
そこまで酷いことは思ってないけど…でも表現が違うだけで考えていたことは概ね合ってる気もする。
ほむら「そ、そんなことは思ってません。でもどうして病院なんかに」
さやか「まぁお見舞いなんだけどね。ほむらはここに通ってるの?」
ほむら「はい。最近までここで入院してましたから」
さやか「そうだったんだ。だったら一度くらい擦れ違ってたかもね」
ほむら「美樹さんも良くここに来るんですか?」
さやか「そうだね。あんたも転校してきたんだから関係者だよね。クラスメイト紹介するよ」
ほむら「クラスメイト?あ、確か事故で入院している…」
さやか「うん。クラスメイトであたしの幼なじみなんだ」
その病室は病院の上部階にあった。
知ってる。確かすごくお金持ちしか入れないところだ。
さやか「恭介入るよ」
恭介「あぁ、さやかかい。あれそっちの人は?」
さやか「うん。こないだクラスに来た転校生だよ。暁美ほむら。最近までここに入院してたんだって」
ほむら「あ、暁美ほむらです。この間見滝原中学に転入して来ました。よろしくお願いします」
恭介「上条恭介です。さやかとは幼稚園の頃からの付き合いなんだ。暁美さんもここに入院してたの」
ほむら「はい心臓の病気で1年ちょっと入院してたんです」
恭介「そんなに。たいへんだったろ。僕なんて3ヶ月で気が滅入りそうだよ」
さやか「でもあと少しで退院出来るんでしょ。あせらないあせらない」
ここでは1年ちょっとの入院だったけれど私は生まれて半分近くを病院で過ごしている。
先の見えない入院はお見舞いに対してすら妬みや嫉みの様な感情を抱くことがある。
自分にそう言うことがあっただけに上条さんがもうすぐ退院出来るということにすごく気が軽くなる。
さやか「そういや、ほむらは病気もう大丈夫なの」
ほむら「はい。ここに入院している時に治ったみたいで。奇跡みたいだって言われました」
さやか「そうなんだ。ここやっぱり良い病院なのかな。恭介もそうなんだよ」
ほむら「上条さんもなんですか」
さやか「大きな事故にあってね。もう二度と腕が動かないって言われてたんだ」
恭介「さやか。もうやめてよ。本当に辛かったんだから」
恭介「それにお見舞いに来てくれてた、さやかにもずいぶん酷いこと言ってたからあんまり思い出したくないんだ」
さやか「大丈夫だよ。もう終わったことだし。退院したらまたバイオリン聞かせてよ。酷いこと言ったのはそれでちゃらにするよ」
恭介「ごめんね。さやか。ほんとに迷惑かけたよね」
さやか「あははっ///お礼言われちゃったね。頑張って看病した甲斐があったってもんだよ」
美樹さんがすごく嬉しそうな笑顔で上条さんと話している。なんだか横にいる私まで照れ臭くて落ち着かない気分になってしまう。
恭介「僕がすごく落ち込んでる時、さやかが真剣な目で『奇跡も魔法もあるんだよ。絶対諦めちゃだめだよ』って言ってくれたよね」
さやか「あれ?あたしそんなこと言ったっけ?」
恭介「えぇ、憶えてないの?あんまりさやかが真剣に言うもんだから、なんだか気圧されて頷いちゃったんだよ」
恭介「けど次の日から腕が少しずつ動く様になっていったからね」
恭介「一時は本気でさやかが奇跡を起こしたんじゃないかって思ったんだよ」
さやか「そうだったんだ。そうかやっぱりさやかちゃんの祈りが神様に通じたんだね。もっと感謝して感謝、感謝!」
恭介「もうさやかのそう言うところは変わらないよね」
恭介「けど手が治ったのも本当だし、さやかがずっとお見舞いに来てくれてたのも本当だしね」
恭介「ほんとにありがとう。さやか」
言われた美樹さんの口元がほころぶ。本当に嬉しいんだろうな。
かちゃり。ドアが開けられる音がする。
恭介「あっ、先生」
女のお医者さんと看護婦さんが2人で部屋に入ってくる。
先生「楽しそうなところごめんなさい。検査の時間なの」
さやか「あっ先生こんにちわ。いつも済みません」
さやか「恭介じゃあ帰るよ。新しいクラスメイトも出来たんだから早く帰っておいでよ」
ほむら「お邪魔しました」
恭介「今日はありがとうさやか。暁美さん今度は学校で」
ほむら「はい。学校で」
さやか「じゃあね、恭介」
先生「ごめんなさいね」
私達は病室を後にする。けどこの病院こんな豪華な部屋があったんだ。
* * * * * * * * * * * * *
二人だけのエレベーターで美樹さんが上条さんの話をしてくれる。
さやか「…あいつ天才なんて言われてるけど、本当はバイオリンが好きで好きで溜まらないバイオリン馬鹿なんだ」
さやか「そんな奴が事故で腕が動かないって言われて一時はすごく荒れてたんだよね」
さやか「最近、奇跡的に腕が動く様になったみたいで、それから前のあいつに戻ってきたんだけど一時は見てられなかったな」
さやか「最近やっと前みたいに笑える様になって来てさ」
美樹さんが上条さんのことをすごく親身に考えているのが伝わってくる。
上条さんがケガが治って本当に嬉しいんだろうなぁ。
ほむら「美樹さんほんとに上条さんのことが大好きなんですね」
さやか「な、ほ、ほむら?だ、大好きって、あいつはただの幼なじみで、ピアノ馬鹿で///」
ほむら「それはさっき聞きまし…え?ええっ!?///」
『大好き』ってそう言う意味でなんだ!!
ほむら「ご、ごめんなさいっ!わ、私そう言うの全然分からなくて///美樹さんが上条さんのこと。そ、そんな///」
さやか「いや。だから違うって言うか。あの、その///」
美樹さんの顔がさっきみたいに真っ赤に染まっていく
ほむら「…美樹さん…顔が真っ赤です」
さやか「…し、しまった。まさかほむらからあんな言葉が出るなんて思ってなかったから」
ほむら「ご、ごめんなさい」
伏せていた目を上げてると同じようにこっちを上目遣いで見ている美樹さんがいた。
さやか「あ、あははっ///」
ほむら「す、すみません」
そうか美樹さんは上条さんが好きなんだ。
病室での会話を思い出せば、そうだったんだとなんだか嬉しい気分になってくる。
さやか「あ、あんたさ何か誤解してるみたいだし、ちょっとあたしと恭介のこと説明するよ」
真っ赤になった美樹さんが私をお店に引っ張っていく。
ほむら「はい。よろこんで」
明るくていつも楽しそうで私が憧れるものをなんでも持っている美樹さん。その美樹さんがなんだかとっても可愛く見える。
恋愛なんて考えたこともなかったけど、美樹さん達うまくいったらいいな。
* * * * * * * * * * * * *
さやか「ということで、あいつとあたしはただの幼なじみなんだって」
ファーストフード店で美樹さんが誰が聞いても信じない言い訳を力説する。
ほむら「美樹さん。私、恋愛とかよくわからないですけど頑張って下さいね」
さやか「いや、あんたあたしの話聞いてた?」
ほむら「は、はい。だからやっぱり美樹さんは上条さんのこと大好きなんですよね」
さやか「いや、いや、いや。あたしの話のどこを聞いたらそう聞こえるの」
ほむら「え、えっと。や、やっぱりどこを聞いても上条さんのこと大好きなんだって聞こえます」
さやか「////くっ!最近いじられキャラになりつつあるけど…まさかほむらにまで」
ほむら「そ、そんなんじゃないです。さっき美樹さん達すごく楽しそうに話してたですよね」
ほむら「そのあと美樹さんが上条さんを好きだって聞いて」
さやか「////い、いや、だから」
ほむら「私は恋愛とかよくわからないですけど、美樹さん達がずっとあんな風に楽しそうに話せる関係だったらいいなって」
ほむら「だから美樹さん。上条さんと上手く行ったらいいですね」
さやか「////ちゃかされるのもなんだけど、あんたってすっごいストレートだよね」
ほむら「だって美樹さんは初めての友達ですから。やっぱり良いことあってほしいです」
美樹さんが私をまじまじと見つめる。
ほむら「美樹さん?」
さやか「あんたってほんっとに真っ直ぐなんだねぇ」
ほむら「何がですか?」
さやか「ううん、何でもないよ」
さやか「うん。そうだね……あたしは恭介のこと好きだよ」
さやか「でもまだ照れ臭いしクラスのみんなには内緒にしててよ。実際、あいつから女の子って思われてるのか心配なくらいなんだよね」
ほむら「大丈夫ですよ。二人ともあんなに楽しそうだったじゃないですか」
さやか「…あんたって真っ直ぐよりお子様の方が近いのかもねぇ」
ほむら「?」
さやか「いいよ気にしなくて。あんたのそういうところは良いところだからさ。そろそろ帰ろっか」
ほむら「あっ!もうこんな時間」
さやか「と言うこと。あんたんちは門限とかあるの?」
ほむら「いえ。私独り暮らしなんです」
さやか「へぇそうなんだ。よし。じゃあ明日は仁美を入れてそのこと聞かせて貰うからね」
さやか「そうだ遅くなったついでに近道教えたげるよ」
さやか「大丈夫だって。人通りだってそこそこあるしおかしな道じゃないからさ」
* * * * * * * * * * * * *
ちょっと休憩。10行くらいの方が読みやすいかな?
その道は、確かにショッピングモールの工事のせいで人通りが少なくなってはいたのだと思う。
でも後から考えれば、その時の人通りの少なさは別の原因によるものだったのだろう。
さやか「…ありゃあ。工事中ってのは知らなかったなぁ。けどここまで人がいないってのもなぁ」
美樹さんの声に少し後悔が滲んでいる。
ほむら「…なんだかちょっと気味が悪いですよね」
さやか「ん~悪いねほむら。普段はこんなんじゃなかったんだけどね」
さやか「まぁまだ遅い時間じゃないし変な人はいないと思うから早く抜けようか」
ほむら「そうですね」
私達は少し足を速める。そしてその時私はそれに気付いてしまった。
ほむら「美樹さん…あれ何でしょう?」
さやか「何かあるの?よくわからないけどなぁ?」
それは路地裏の奥に黒いものが吹き溜まっている様に見えた。
私にはそれが何なのか分からない。ただそこだけが周りから切り離された様な、私の知っている何もかもからかけ離れたもののように目に映っていた。
ぶぅぉん。それは不思議な音と共に突然伸び上がる。
ほむら「ひっ!!」
伸び上がったそれは私と同じくらいの背丈の男の人。それはお坊さんの様にも見えるのになぜか人間には見えなかった。
さやか「どうしたのほむらっ!?何かあったの?」
人の様な姿をしたそれは建物の奥の方向を見てただ佇んでいる。
ほむら「ゆ、幽霊!?」
恐怖のあまり美樹さんの手を取って身を寄せる。
さやか「ゆ、幽霊?あ、あんたそう言うの見える人!?」
美樹さんも私の手を強く握って身を寄せてくる。
怖い。何だかわからないそれに足がすくんでしまう。
さやか「何が見えてるのよ。」
ほむら「あ、あそこにお坊さんの幽霊みたいなもの見えませんか?」
さやか「ご、ごめん。あたしには何にも見えない………けどなんかここにはあんまりいない方がいいと思う」
さやか「とりあえずここから出よう」
ほむら「は、はい」
ゆっくりと向きを変えて、入って来た方向に歩き出す。
ぅぉん。ぅぉん。ぅぉん。うぉん。うぉん。うぉん。うぉん。
後ろから地響きともうなり声ともつかない音が聞こえてくる。
さやか「……ねぇ、ほむら。何か聞こえない?」
美樹さんにも何かが聞こえている?早くここから出なきゃ。心とは裏腹に足が止まり視線がついその方向を向いてしまう。
ほむら「ひ、ひぃっ!!」
振り向けばさっきの幽霊は天井にまで届くほど大きくなっていた。
そしてその顔の辺りには四角い光が点滅し、さっきのあの音が漏れ出ている。
さやか「ひっ!!ほっ、ほむら。こ、今度はあたしにも見える」
ほむら「み、美樹さん」
二人で呆然とその幽霊を見上げてしまう。
そして。その幽霊はゆっくりとこちらを振り向く。ぞくり。背中に氷の柱を押し当てられた様な寒気が走った。
* * * * * * * * * * * * *
???(たいへんだ。彼女が魔獣を見つけてしまった)
???「なんですって」
???「ちっ!よりによってあたしら二人がそろってここに来なきゃならない時にかよ」
???「おいキュゥべえ。あいつには魔獣を避ける様に細工しといたはずだぞ。お前なんかやったんじゃないだろうな」
キュゥべえ(君の魔法に問題はなかったよ。ただ彼女のクラスに転校してきた女の子が素質を持っていたみたいだね)
???「くそっ!キュゥべえ、あいつらは何体だ!場所は!?」
キュゥべえ(魔獣は今のところ1体。でも周りの障気が濃いから2桁近くになると思う」
キュゥべえ(場所は病院の近くのショッピングモール付近だよ。全力でだいたい5分くらいだね)
???「あたしはもういいよな」
???「ええ。こっちも後5分くらいで終わるわ。彼を眠らせたら先に行って!」
???「了解っ!キュゥべえ案内しろ!!」
キュゥべえ(わかった。テレパシーで誘導するよ)
???「ええ。私もこれが終わったらすぐに追いかけるから。あの子のことはお願い」
* * * * * * * * * * * * *
さやか「ほむら!こっち」
ほむら「はっ、はっ、はっ、はっ」
私達は先ほどの怪物から逃げていた。幸いなことにあの怪物の動きはそんなに速くはないようだ。
ほむら「あ、あの、か、怪物は?はっ、はっ」
さやか「まだ追いかけてきてるみたい」
確かにあの足下にからみつく様なうなり声がまだ聞こえてくる。
あの怪物の動きは遅い。でもゆっくりと確実にこちらに近づいてくる。
さやか「ほむら。大丈夫?」
ほむら「はい。大丈夫です」
美樹さんが心配そうに私を見つめる。
ほむら「大丈夫ですから。行きましょう」
さやか「…ん、わかった。行くよ」
そしていつ終わるとも知れない鬼ごっこを再開する。
さやか「ああっ!!」
前を走る美樹さんの足が止まる。そこは改装中のフロア。さっきと同じ怪物が数体ゆっくりと立ち上がる。
後ろを振り返るとさっきの怪物のうなり声がこちらに近づいてくる。私達は前後の逃げ道を塞がれてその場に立ちつくした。
* * * * * * * * * * * * *
キュゥべえ(彼女達が魔獣に囲まれた)
???「おいっ!お前まさか!」
キュゥべえ(僕だって姿を見せられない声もかけられないじゃどうしようもないよ)
キュゥべえ(多分、まだ少しは猶予があると思うけど、最悪の場合姿を現して契約を持ちかけることは了承して欲しい)
???「猶予ってどれくらいだ」
キュゥべえ(多く見積もって3分くらいが限界だよ)
???「畜生っ!!死ぬなよ。出来たら契約もすんな。後ちょっとでいいから持ちこたえろ」
* * * * * * * * * * * * *
さやか「ほむら!」
ほむら「はい。美樹さん!」
二人で顔を見合わせるとフロアの右奥を目指して走り出す。非常扉。あそこまでたどり着けば。
ばしっ!!
さやか「きゃっ!!」
声と音のした方向を見ると焼け焦げた地面と倒れている美樹さんが見えた。
ほむら「美樹さんっ!!」
さやか「うくっ!!」
地面に倒れる美樹さん。その後ろには一体の怪物が目の前の空間を押さえつけるかの様に右手を突き出していた。
さやか「ほむら!!先に行って」
ほむら「そんな!美樹さんを置いてなんて」
さやか「違うよ。早く先に行って誰か助けを呼んできて」
美樹さんが落ち着いた声で私に話しかける。でもその目は諦めが色濃く浮かぶ。
ほむら「そんな。美樹さん、そんなの出来ないよ」
さやか「早く!このままだったら二人ともどうにかなっちゃう。だからほむらは逃げて助けを呼んできてっ!」
大声で美樹さんが私に決断を迫る。
そんな。友達をこんなところに置き去りにして一人で逃げるなんてそんなの出来…
どくん。心臓が跳ねる。
『友達をこんなところに置き去りにして』
* * * * * * * * * * * * *
キュゥべえ(杏子。悪いけどもう猶予がない。今から姿を現して契約を呼びかけるよ)
???「もう近くだろうが!!後何秒でそっちにつく!!」
キュゥべえ(後30秒は切ってると思うよ。でもあの子が無事でいられるのはその半分もない)
キュゥべえ(君たちの努力を無駄にしてしまうかも知れないけれど、命を救うにはこれしかない)
???「あの坊やの手ならもう何とかなるんだ。叶える願いもないのに魔法少女になっちまうのか。畜生っ!!」
だからって諦めてたまるか。叫び声を上げると共に体に駆けめぐる魔力を強化する。
キュゥべえ(これは!?一体何が?)
キュゥべえが驚いた様な思考が伝わってくる。
???「おい、キュゥべえ!!何が起こってやがる!答えろ」
* * * * * * * * * * * * *
『友達をこんなところに置き去りにして』心の中のどこかのスイッチがかちりと響く音を聞く。
まただ。私は強くなったはずなのに。何があっても助けたかったはずなのに。
『また友達に助けられるの。また誰かの犠牲で生き残るの。また。また。また。また』
頭の中で覚えのない記憶がざわめき出す。もう嫌だ。もう絶対に友達を置き去りになんてしない。
ほむら「美樹さんっ!!」
気がつくと私は美樹さんに向かってかけだしていた。美樹さんの後ろでは怪物のかざした右手が青白い光を帯びる。
さやか「馬鹿っ!!ほむら逃げろっ!!」
美樹さんが叫ぶ。間に合わない?嫌だ私は絶対に諦めない。
あの時くじけなければ違う結果をもたらせたんじゃないか。もう一度。いや私は何度でも繰り返してみせる。
私と美樹さんの間の何もないそこに小さな歪みが出来る。
そうだ。私はこれを知っている。
小さな歪みはひび割れを生み、そしてそのひび割れから淡い藤色の光がこぼれ落ちる。
そう、これは奇跡と魔法のそして破滅に繋がる呪われた光だ。
美樹さんの背後の怪物がかざした右手が禍々しい光を集める。
けれどその奇跡も魔法もその呪いも全て私が望んだものだ。だから私は何度でも手を伸ばす。
そして今度こそ大切な者を守れる私になってみせる。
ほむら「美樹さんっ!!」
さやか「ほむらっっ!!」
左手がその光をつかみ取る。熱いっ!左手が燃え上がる。そして炎は私の体に燃え広がっていく。
今度こそ。絶対に守ってみせる。
* * * * * * * * * * * * *
う゛ぉん!
少女が倒れていた場所を炎とも稲妻ともつかない光の帯が貫く。
怪物は右手をかざしたまま動きを止める。
ががががががあががgっ!!
怪物の右側から響く音に合わせて怪物の体が細かく掻き散らされていく。
ざしゅっ!!
彼女たちを追ってフロアに入った怪物の一体が、さらに後ろから追いかけてきた刃に顔面を貫かれる。
???「おいっ!!無事か」
非常灯の明かりだけが灯るフロアの中には形を失いつつある2体を含む9体の怪物が蠢く。
そんな中、呆然と身を起こす一人の少女とその傍らで機関銃を構える黒髪の少女。
そして怪物を貫いた巨大な槍を引き抜く一人の看護婦。3人はお互いを認識した。
* * * * * * * * * * * * *
私がその手にした光は私の体を炎に包む。身に覚えのないはずの懐かしい感覚が体を満たす。
目の前には怪物のかざす右手からの光に焼かれようとする美樹さんが見える。
この距離ではどこの誰でも間に合わない。でも私には何の問題もない。
がきん!
左手の盾から歯車の噛み合う音が響くと私以外の全てが動きを止める
私は体を起こしかけた美樹さんに飛びつくと彼女を抱えて怪物達から距離をとる。
敵は9体。光線の様なものを発射する。それ以上のことはわからない。
左手にに取り付けられた丸い盾の中からもっとも使い慣れた89式小銃を取り出す。
がきん!
引き金を引き絞ると同時に時間の歯車が噛み合う音が響いた。
* * * * * * * * * * * * *
目の前の怪物が機関銃に削られて姿を消していく。しかし思った以上に弾数が必要だった。
あまりこの怪物には銃が有効ではないのかも知れない。
体を起こした美樹さんが目を丸くしてこちらを見つめている。
ほむら「美樹さん。大丈夫?」
さやか「あ、あ、あんた誰?」
美樹さんは怯えた目で私を見上げる。私がわからない?
看護婦「何とか間に合ったみたいだな」
通路から大きな槍を携えた看護婦が美樹さんの元へと駆けつける。
さやか「えっ?あれ?さっきの看護婦さん!?何そのでっかい槍?」
看護婦「あ~まいったな。急いでたからそのまんま来ちまった」
さやか「いや…その槍…確か」
ほむら「二人とも話は後にして。まだあいつらはこっちを狙ってるわ」
周りを見れば、残りの怪物のかざす右手が淡い光を帯びていた。
看護婦「そうだな。話は後だ。よっと!!」
看護婦は槍を地面に突き立て、両掌を目の前の空間で重ねる。
かしゃん!かしゃん!かしゃん!
美樹さんを中心に格子様の障壁が編まれて、怪物達の放った光の帯は障壁にぶつかり激しい光の飛沫に変わる。
さやか「うわっ!!」
看護婦「安心しなって。そんな簡単には破れないから」
さやか「えっと?看護婦さん…確か…恭介の手……えっ!奇跡?魔法!?何、何?あたしいったい?」
看護婦「…まぁ、あんま深く考えんな。思い出さなきゃそれに越したことはないんだから」
ほむら「先に行くわ」
看護婦「おい、おい、せっかちな奴だな」
話す二人を置いて私は怪物達の前に躍り出る。
怪物達の真ん中に突っ込むと1拍の間、引き金を引き絞り機関銃の反動を利用して重心を移す。
銃撃を免れた怪物達の手が光ると同時に移した重心の方向に体を投げ出せば燻る硝煙を光の帯が突き破る。
看護婦「へぇ~っ!やるじゃん。あたしも負けてらんないね」
私に気を取られた怪物の横に看護婦が回り込み、その巨大な槍で真っ二つに切り裂く。
どうもあの怪物には彼女の槍の方が有効らしい。
* * * * * * * * * * * * *
看護婦「うぉおおお~っ!!」
一直線に突っ込む己の存在を誇示し、相手の攻撃が放たれるその瞬間に一気に方向を変える。
怪物の攻撃から体の軸をずらし、その移動で生じた遠心力を槍に載せて怪物にたたき込む。
がががががががっ!!
黒髪の少女が槍が怪物の体に食い込む瞬間に合わせて、近くにいた怪物2体に機関銃を浴びせる。
看護婦「槍が止まる瞬間に合わせて援護ってか。戦い慣れてるじゃん」
再び銃撃に晒された怪物を盾に別の怪物の死角に回り込む。
看護婦「このペースならここの掃除は早く終わりそだなっと!」
死角から蛇の様に伸びる槍の穂先が怪物の頭らしき部分を貫く。
それに合わせて軽機関銃を両手に持った黒髪の少女が銃声を響かせながら怪物の間を擦り抜けていく。
看護婦「…陽動のつもりか?…けどあの動きって…タイミングもあってる」
遊びも余裕もないが確実にこちらの攻撃や回避に合わせて攻撃を重ねる動きは何故か相棒を思い出させる。
看護婦「まぁ詮索は後だな」
看護婦(おいっ!!残り三匹一気にかたづける。ちょっとの間気を引けるかっ!)
ほむら(わかったわ)
黒髪の少女は戦場全てを掻き回す様な大きな動きを三体の怪物達から距離を保つ様な動きに切り替える。
軽機関銃を響かせながら細かな動きで怪物達の攻撃をかわし続ける様子はダンスを思わせる。
看護婦「あの動き、やっぱマミの知り合いか?まぁ仕事してくれりゃあどうでも良いけどな」
看護婦「よしっ!」
彼女が待ち望んだ瞬間が訪れる。
一体の怪物に突進し遠心力を付けて肩から胸にかけてを全力で切り裂く。
怪物を切り裂いた槍は弧を描き一体の怪物に向けられる直前に多節棍と化して穂先を打ち出す。
ざしゅっっ!!
怪物の体内に食い込んだ穂先は無数の刃を生み怪物の身体を捕らえ、
看護婦「でぇいやぁあああ!」
多節棍に捕らわれた怪物が鈍器としてもう一体の怪物に打ち付けられる。
看護婦「よしっ!やっちまえ!」
多節棍に絡め取られた怪物は機関銃の雨に引き裂かれた。
看護婦「やるじゃん」
ほむら(まだよっ!!)
彼女の後ろ、左肩を切り飛ばされ息絶えたはずの怪物の右手が禍々しく光る。
看護婦「やべっ!!」
がきん!ばしっ!!
何か重いものが噛み合う音に続いて何かが弾かれる様な音が響く。
看護婦「なっ!!」
絶対に間に合わないタイミングで光と看護婦の間に盾を構えた黒髪の少女が割り込んでいた。
ほむら「大丈夫?」
看護婦「お、おう」
最後の電撃ともに怪物は塵の様に消えていった。
* * * * * * * * * * * * *
さやか「は、ははっ。あたしマジで夢でも見てるのかな?仁美に言ったらウケるんだろうな」
槍を持った看護婦と黒髪の少女が倒れている少女のところに歩いてくる。
看護婦「終わったぜ。ケガなんかねぇだろうな」
さやか「は、はい。あたしはぜんぜん…ほむらっ!?ほむらは?看護婦さん。ほむらを見なかった!?」
看護婦「ほむら?誰だそれ?」
さやか「い、いやあたしの友達で、お下げ髪で、メガネで、何か委員長みたいで結構なんでも出来るのに何か残念な奴で」
ほむら「美樹さんどうしたの?」
さやか「あ、あんたでもいいよっ。ほむらを知らないっ?あたしと一緒に逃げてきた子なんだけど」
ほむら「知っているわ」
さやか「ど、どこ?あいつあたしのこと助けようって飛び込んできて……そ、それから火にっ!!」
ほむら「大丈夫。私は無事よ」
さやか「ふざけないでっ!!あんたじゃなくてほむらのことを聞いてるのよ!」
なんで美樹さんは怒ってるんだろう?
さやか「あんた知ってるって言ったでしょ!…ほむらは、ほむらは…どう…なったのよ」
感情を爆発させた美樹さんが泣きそうな顔で尋ねてくる。
美樹さんは私がわからないのだろうか?ふと自らの格好を省みる。
確かにさっきまでの服装と違っている。だけどそれだけで人がわからなくなってしまうものだろうか。
でもそれならばと知らないはずの記憶を探る。
ぱりん!
心の中に張りつめていた厚い氷とともに魔力が光の欠片となって体からはじけ飛ぶ。
さやか「へ?」
美樹さんがあっけにとられた顔で私を見つめる。
なぜだろう。美樹さんの顔を見ているとさっきまでせき止められていた感情がじわじわと熱を帯びてくる。
ほむら「美樹さんっ!私達助かったんだよねっ!よかった!ほんとに死んじゃうかと思った」
やったっ!!美樹さんを助けることが出来たんだ。凍っていた感情が爆発して美樹さんに飛びついてしまう。
ほむら「やった!やった!!よかった!私達助かったんだよ」
さやか「あれ…ほむら…だったの?マジ!?何?それ?あれ全く別人じゃん!!」
美樹さんが何かを言ってた様な気がする。でも私は美樹さんを助けられたことが嬉しくて何にも考えられないでいた。
* * * * * * * * * * * * *
抱き合う二人、いや一方的に抱きつかれる一人を槍を持った看護婦が眺めている。
看護婦(おいキュゥべえ。あいつどうなってるんだ?まるで別人だけどそう言う魔法少女なのか?)
キュゥべえ(僕にもよくわからない)
看護婦(はぁあっ!どういうことよ?)
キュゥべえ(僕は彼女と契約した憶えはないんだ)
看護婦(ふざけんな!お前以外に人を魔法少女に出来る奴がいるのかよ?)
キュゥべえ(僕が知る限りではいないよ。それにひとつ指摘すると彼女は魔法少女じゃない)
看護婦(さっき変身して魔獣倒してただろ。何ふざけたこと言ってんだ)
キュゥべえ(だからさっきまでは魔法少女だったけど今は魔法少女じゃないんだ)
看護婦(んな訳ねぇだろ。そんなに簡単になったりやめたり出来るんだったら私だってこんな苦労してねぇよ)
キュゥべえ(でもそれが事実なんだ)
???「お待たせっ!!佐倉さん」
杏子「マミっ!」
マミ「急いできたつもりだったけど、もう魔獣倒しちゃったの?」
杏子「あぁ。思わぬ援軍があってな。ついでに危ないところまで助けられちまった」
マミ「援軍って!ひょっとして美樹さんが!?」
杏子「いや。あいつは契約してない。あそこでさやかに抱きついてる方に助けられたんだ」
マミ「…えっと……あの眼鏡の娘?」
杏子「そうは見えないってんだろ。あぁ、さっきまではあんなじゃなかったんだ」
杏子「そこの二人、大丈夫か?」
さやか「あっ、はい。ほむら。ほむら。もう大丈夫だから泣き止みなよ」
ほむら「で、でも、美樹さん…死んじゃうかと…良かった…本当に良かった」
さやか「あの看護婦さんありがとうございました」
杏子「違うよ。看護婦じゃねぇよ」
看護婦が右手で大きく目の前を薙ぐと、そこにはラフな格好の少女が立っていた。
さやか「…えっ?…確か…あんたは」
杏子「キュゥべえっ!いいぞ。出て来いよ」
マミ「…佐倉さん。いいの?」
杏子「あぁ、このまま行きたいところだけどここらが潮時だろ」
キュゥべえ「お許しが出た様だね。やあ、さやか。久しぶりだね」
地面にへたり込む二人の前に進み出た白い動物が口を開く。
さやか「……えっ!…キュゥべえ?…あたし…えっ、マミさん!?杏子っ!!」
杏子「思い出したか。まぁ、久しぶりってところだな」
マミ「美樹さんお久しぶり。大丈夫?」
さやか「お久しぶりですマミさん…恭介の手が動く様になったのってやっぱり」
マミ「ええ。元通りとはいかないけど神経は繋がったわ。動かすだけなら何の問題もないわ」
さやか「マミさんありがとう。これであいつもう一度バイオリンが弾けるんですね」
マミ「ええ。でもこれからは彼の努力次第よ。ううん。ひょっとしたらこれからの方が辛いかも知れないわ」
さやか「いいんです。手が動くんだったら、あいつだったら、必ず前よりずっと上手く弾ける様になります。だからこれで十分です」
マミ「美樹さんは相変わらずね」
マミ「そうね訂正するわ。上条君は絶対に前より上手くバイオリンを弾ける様になるわ。これだけ信じてくれる人が側にいてくれるんだから」
さやか「そうですよ。恭介はほんとにすごいんですよ」
杏子「はぁ。ほんとにたいしたもんだよなぁ」
さやか「何?なんか言いたいことあんの」
杏子「別にぃ~」
マミ「あなた達はほんとに息が合ってるわよね」
さやか「何言ってんですかマミさん」
杏子「そうそう、こんなのと一緒にされたら身体中がかゆくなるよ」
さやか「それはこっちのセリフだよ」
杏子(さやか)「けっ!(へん!)」
マミ「はいはい。もういいわよ」
マミ「ねぇ美樹さん。ちょっと遅いけど私の家に来て欲しいの。記憶を取り戻した以上注意して欲しいことがあるから」
マミ「こんなところで話すのも何だからね。少し遅いけど家に寄ってくれない」
さやか「…マミさん…さっきのあれがマミさんが言ってた」
マミ「そう。魔獣よ」
マミ「恐れすぎる必要はないけど知ってしまった以上注意しなければ取り返しがつかなくなるわ」
さやか「わかりました。マミさんの家に寄らせて貰います」
美樹さんとの話しを終えた女の人が私に話しかけてくる。
マミ「初めまして。あなたは美樹さんの友達?」
さやか「そうです。暁美ほむら。私のクラスの転校生なんです」
ほむら「は、はい。暁美ほむらです」
マミ「暁美さん。佐倉さんと美樹さんがお世話になったみたいね。ありがとう」
マミ「私は巴マミ。同じ見滝原中学の3年生よ」
ほむら「よ、よろしくお願いします。と、巴さん」
マミ「こちらこそ。ところで美樹さんと少しお話ししなきゃならないことがあるんだけど。あなたも一緒に来ない?」
ほむら「えっ、あの、その私が行ってもいいんでしょうか?」
マミ「ええ。美樹さんのお友達なら大歓迎よ。ちょっと遅いけど大丈夫かしら」
ほむら「は、はい。お邪魔します」
マミ「そう、よかった。じゃあ続きは私の家で話しましょうか」
第一回投稿終わり。最初の内もっと改行しておいた方が良かったな。次から改行は改善します。
次からはこの四分の一くらいを週一から週二くらいで更新予定。次から説明回
期待
ピアノ馬鹿?
これは良さやほむの予感
期待
乙
叛逆要素はあり?
あと、改行が多すぎる。
会話文の前後に一つの空行以外はいらない。
あってもいいだろ
乙乙!
改行は個人的に今くらいが丁度いいと思う
まぁとにかく
超絶期待
ちょっと用事が立て込んでいて書き込む時間がありませんでした。放置状態になってすみません。
>>56
見直したつもりなのに、そんなミスがあったとは。なんでピアノが混じったんだろ?
>>57
上手くさやほむになると良いのですが。叛逆の影響が悪い方向に出ない様気をつけます。
>>58
本来は要素なしの予定でした。ただ見ちゃったので影響が出てくる可能性が否定出来ません。マミさんフィギュアネタはちょっと被ったかも。
>>59>>60
改行は今から変えるとそれも見難そうなので今の状態で進めることにします。
正直、予想以上にレスがついててちょっと尻込みしてたりしてます。第1話はそれなりに上手く行った方なので期待を裏切らない様頑張りたいです。
とりあえずちょっと短めで誰得の魔獣設定等々説明回です。
巴さんのマンションは病院と学校のちょうど真ん中くらいに建っていた。
さやか「お邪魔します」
ほむら「すみません。お邪魔します」
杏子「まぁ入れよ」
佐倉さんのひと言に美樹さんが眉間にしわをよせる。
杏子「私は家賃払ってここに住んでるここの住人なんだって」
さやか「いやだってやっぱりここはマミさんの家なんだからあんたが言うのはおかしいでしょ」
二人のやり取りを聞いた巴さんがくすくすと笑い出す。
マミ「美樹さんもういいわよ。あなた達前に来た時も同じこと言ってたのよ」
さやか「えっ!そうなんですか」
杏子「あぁそっか。まだ全部は思い出せてないのか」
さっきからの話を聞いていると美樹さんと二人は以前からの知り合いのようだ。
けれどもさっきまで美樹さんはその事を忘れていたみたいだ。
そしてさっきの怪物とあの時の私。私は想像したこともない何かに巻き込まれたのは確かなんだろう。
怖い。でもどこかにそれを自然に受け入る私がいた。
* * * * * * * * * * * * *
マミ「はい。おまちどうさま」
さやか「おぉ!すごい」
ほむら「うわぁ!」
テーブルの上に4人分のケーキと紅茶が並べられる。
私はあまり詳しくないけどティーカップやお皿がシンプルなのにすごく綺麗だ。
さやか「なんか思い出してきた、思い出してきた。このケーキすごく美味しいやつですよね」
マミ「えぇ。以前に美樹さんを招待した時、すごくお気に入りだったみたいだから」
マミ「いろいろ話はあるけれど、とりあえずはお茶会にしましょう」
さやか「やった。ご馳走になろっ!ほむら」
マミ「はい、暁美さんもどうぞ。ここのケーキすごく美味しいんだから」
ほむら「は、はい」
綺麗な器に美味しいケーキと紅茶。手づかみでケーキを食べる佐倉さんとそれに何か言いたそうな美樹さん。
そんな二人を見ながら楽しそうな巴さん。そういえば私、誰かの家によばれるのはこれが初めてだったかも知れない。
さやか「おっ、ほむら。なにニヤニヤしてんの。ケーキの美味しさに感動したか」
ほむら「はい、このケーキすごく美味しいです。こんなの初めてです」
ほむら「でもそれより私、病気がちだったから人の家に遊びに行ったことなくて。だから何だかすごく嬉しくて」
マミ「暁美さんは何か病気を?」
さやか「確か心臓の病気だったよね。最近良くなったって言ってたっけ?」
ほむら「はい、生まれつき心臓が悪くて最近まで何度も入院してたんです」
マミ「やっぱり病気を治すために魔法少女の契約をしたの?」
ほむら「えっ?魔法…少女ってなんですか?」
マミ「えっ?でもその指輪は、」
キュゥべえ「マミ。彼女は魔法少女じゃないよ」
どこから入って来たのか、さっきまでいなかったキュゥべえが巴さんに声をかける。
マミ「えっ?でも佐倉さんを助けたって。」
杏子「そうだキュゥべえ。さっきのはどういうことなんだ?」
杏子「さっきは魔法少女だったけど今は魔法少女じゃないとか言ってたよな」
キュゥべえ「そのままの意味だよ。今の彼女は魔法少女の素質を持った女の子だ。さやかと同じだよ」
杏子「けど確かに魔法少女になって魔獣を倒してたぞ」
さやか「私も確かに目の前で変身して元に戻るのは見た」
ほむら「…え、えっと…そ、その」
キュゥべえ「マミ。見たところ彼女は魔法少女に関する知識を持っていないみたいだ」
キュゥべえ「だったらまずは情報提供からはじめた方がいいんじゃないかな」
マミ「…そうねぇ」
ほむら「お願いします。正直私にも何が何だかわからないんです」
マミ「知らないのなら全く知らない方がいい事なのだけれど、あなた達は知っておいた方がいいのかも知れないわね」
そしてマミさんとキュゥべえは魔獣と魔法少女という私達が知らない世界の話を始めた。
* * * * * * * * * * * * *
あの怪物は魔獣と言って、私達の世界に存在する私達が知ることのない災厄なのだそうだ。
魔獣は、日の光が弱まる時に負の感情の澱みから生まれ、暗がりの中を人の魂を削りながら徘徊する。
そして徘徊する間に生まれた時より多くの負の感情の澱みを残して、日の光に溶けて消えていく。
そして暗がりが訪れると再び澱みから生まれ出て人の魂を求めて徘徊する。
しかし魔獣は普通、人には見えないため一般的にはその事は知られていない。
マミさんは魔獣が活動する階層と人が活動する階層にズレがあるから見えないのと言っていた。
ただ魂を削ると言っても多くの場合はそれが直接死に繋がる様なものではないそうだ。
それが単なる倦怠感で終わることもあれば、犯罪や自殺を誘発するいわゆる魔が差した状態を作り出すことがほとんどで直接的に命に関わる危険ではないそうだ。
キュゥべえは魔獣とは人の天敵というより、お互い何らかの共生関係にある存在ではないかと言いかけていたが、佐倉さんが「うるさい黙れ」と言ったので続きは聞けなかった。
ただ魔獣は明確に人を破滅させるために人を襲うことがある。
それは襲われる人が悲しみや怒り、恐怖といった負の感情に捕らわれた時、まれに起こるそうだ。
魔獣は負の感情を強く持った人間に惹きつけられ。負の感情を持った人間は魔獣のいる階層に近づく。
そして魔獣と人がお互いを認識した時、魔獣は己に向けられた負の感情に引かれて人を襲いその魂を奪い尽くす。
つまり魔獣は人を認識したその時人の魂を捕食する天敵へと変わるのだそうだ。
その為、魔獣による被害を最小限に留める確実な方法は魔獣を認識しないことが一番となる。
巴さんが「知らない方がよい」と言っていたのはそういう理由があるからだそうだ。
そして巴さんや佐倉さんは、その魔獣と戦い狩る者、魔法少女なのだという。
魔獣が人の絶望や負の感情から生まれる存在だとすれば魔法少女は人の希望から生まれる存在なのだそうだ。
魔法少女は、素質のある女の子がキュゥべえと契約することで生まれる。
契約内容は簡単に言うとキュゥべえが女の子の願いをなんでも叶えるかわりにその女の子は魔法少女になって魔獣を狩るというものだ。
契約した魔法少女は、その証しとしてソウルジェムという宝石を与えられ、その願いに応じた魔法を使えるようになる。
例えば癒しを願えば癒しの魔法を変化を願えば何かを変化させる魔法と言った具合だ。
ただ同じ様な契約であっても契約した少女の個性等により異なる魔法が表れるし、自分の魔法を成長させることにより異なる魔法を使うことも出来るのだという。
そして魔法少女はその得られた魔法を駆使して闇に蠢く魔獣を狩っているのだという。
ほむら「それじゃあ魔法少女は人知れず魔獣から人を守ってくれているって言うことですか?」
昔テレビで見た漫画の様な感想が口に登る。
マミ「残念だけど、そんな綺麗なものじゃないの。どっちかと言えば私達と魔獣は共生関係にあるかも知れないわね」
さやか「共生関係?」
マミ「ええ。これから説明していくわ」
マミ「まず、さっきも言ったけど魔獣は自分に向けられた感情にすごく敏感なの」
マミ「例えば魔獣を恐れるものや敵意を抱くものが魔獣が生まれる負の澱みに近づけば魔獣を発生させることがあるの」
マミ「さっき魔獣に追われてたあなた達の行方に魔獣が表れたのは多分それが原因だと思うわ」
ほむら「……」
負の感情に?じゃあ最初に魔獣が見えたのは何故だろう?
マミ「そして私達はいつも魔獣と命をかけて戦っているわ。だからどうしても魔獣に対する敵意や恐怖と無縁ではいられない」
マミ「それに加えて魔法少女は一般人より魔獣に近い位置にいるのよ」
マミ「私達が使う魔法は基本的に魔獣が使うそれと変わらない。つまり魔法少女は魔法を使えるから魔獣を見ることが出来て、そして魔獣からも見えてしまうのよ」
ほむら「…魔獣を見ることが出来る」
魔法少女だから魔獣を見る事が出来る。じゃあ私はどうして今まで見えなくてあの時見えてしまったんだろう?
マミ「…あなたのことは後にしましょう。キュゥべえが言う様に情報は整理した方がいいと思うから」
ほむら「…」
マミ「大丈夫。暁美さんは佐倉さんを助けてくれたんだから。私はあなたの味方よ」
巴さんが私に優しく微笑みかける。
ほむら「…ありがとうございます」
マミ「じゃあ話がそれちゃったけど続けるわよ」
マミ「私達が人を守っているんじゃないって話だけど、魔法少女はね、魔獣を狩らないと生きていけないの」
さやか「生きていけない?」
マミ「えぇ。魔法少女が魔法を使うと魔法の源であるソウルジェムは汚れをため込む」
マミ「その汚れがたまりきれば魔法少女はこの世から消えてしまうの」
さやか「この世から消える?」
マミ「そうよ。文字通り何も残さずに消えてしまうの」
さやか「なんでそんな?」
マミ「私達が希望を求めた因果は汚れをため込むことで呪いを生んでしまうの。だから呪いを生む前に消えるのが魔法少女の運命なの」
さやか「…」
マミ「奇跡を求めるってそれだけのことって憶えておいて。必要がないなら関わらない方がいい世界なの」
マミ「そしてその汚れを浄化するには魔獣を倒すことで得られるグリーフシードという宝石が必要なの」
マミ「私達は生きるために魔獣を狩らなければならない。それが結果として人を救うことに繋がっているだけなの」
さやか「…」
マミ「そんな顔はしないで。色々思うことはあるけれど、人を守ってるっていうやり甲斐は感じてるし、今の生活が不満だらけって訳でもないから」
さやか「…マミさん」
マミ「大丈夫よ。魔獣や魔法少女についてはこんな所でいいかしら?」
さやか、ほむら「は、はい」
正直、話してくれたことはあまりに現実味がないものだった。
ただそれが現実であり、私がその当事者だということはさっきの出来事で十分実感している。
…私は一体どうなってしまうのだろう…怖い。話をそらしてしまったのは多分現実逃避だったのだろう。
ほむら「そ、そういえば」
マミ「何かしら?」
ほむら「巴さん達と美樹さんは知り合いなんですか?美樹さんさっきまで知らなかったみたいな?」
さやか「あぁ話すと長くなるんだけどさ、あたし魔法少女にならないかってキュゥべえに勧誘されてたんだ」
さやか「あたしは恭介の腕を治すために契約しようかって迷ってたんだ。その時マミさん達が相談に乗ってくれたんだよ」
マミ「話を聞いたら私達でなんとか成りそうだったから魔法で腕の治療をしてみたの」
ほむら「魔法でですか?」
マミ「ええ。私の魔法は繋ぎ止めることを得意としているの。美樹さんが腕の神経がっていってたから、ひょっとしたらって思ったのよ」
ほむら「魔法ってそんなに何でも出来るんですか?」
マミ「実際はそんなに簡単なことじゃないのだけどね。でも今回は上手く行ったみたい」
さやか「マミさんほんとにありがとう。あいつ腕が動くかも知れないっていわれてすっごく喜んでたんだ」
マミ「どういたしまして。でもあんまり気にしないでね。こっちにもそれなりに事情はあったんだから」
ほむら「でもそれじゃさっきまで美樹さんが憶えてなかったのは…演技じゃないですよね?」
マミ「違うわ。ほんとうに忘れていたの…と言うか」
巴さんが佐倉さんにちらりと視線を移す。
杏子「いいよ。どうせ話さなきゃならないだろうから一緒に説明してやってよ」
マミ「…わかったわ。忘れてたんじゃなくて魔法で美樹さんの記憶を封じていたの」
ほむら「記憶を封じる?」
マミ「ええ、佐倉さんは幻とか心に働きかける魔法を使えるの」
ほむら「ひょっとしてさっきの看護婦さん姿の佐倉さんも?」
マミ「そう。佐倉さんの魔法で病院でもあんまり違和感がない格好をしてたの」
マミ「魔法でケガを治せるからと言って怪我人の前や病院の中で大っぴら魔法を使える訳じゃないもの」
マミ「病院に入ったり、カルテを見たり、魔法を治療だと思わせたりは佐倉さんの魔法がなかったら無理だったでしょうね」
さやか「そうだったんだ。ごめん杏子。何かマミさんばっかりにお礼言ってたけどあんたにも面倒かけてたんだ。改めてだけどさ、ほんとにありがとう」
杏子「礼はマミでいいよ。もともとはマミが始めたことだしな」
さやか「…そういやあたし何で突然マミさん達のこと思い出したんだろ?」
杏子「暗示が溶けた理由はキュゥべえだよ。こいつを見れば思い出す様になってたんだ」
さやか「キュゥべえ?」
杏子「そうだよ。あんたには魔法少女や魔獣に関することを思い出さない暗示をかけてたんだ」
杏子「ただ万一あたしらが間に合わない時は契約しなきゃ助からないからな。だからキュゥべえを見れば思い出す様に細工しといたんだ」
さやか「なんかまだ記憶がはっきりとしないんだけど」
杏子「そんなもんだよ。ほっとけば元に戻るから気にしなくていいよ。何か不具合が出たらまたここに来ればいいよ」
さやか「ごめん。なんか杏子にもマミさんにも面倒ばっかりかけてるよね」
マミ「いいのよ。これは私達がやりたいことでもあるんだから」
さやか「私達がやりたいこと?」
マミ「ええ。でもその辺はまたの機会にね」
本日の書き込みはここまでです。
次回は説明会その2、ほむらの現状についてになります。
ここから果たしてどうなるのか
>>81
ほんとにどうなるんだろう?
叛逆見てから、さやかとほむらの会話がささくれてて「お願い」とか言っても「だが断る」と言ってるところしか思い浮かばないんだよなぁ。
巴さんが話を区切って私の方に視線を移す。
マミ「暁美さん。佐倉さんを助けてくれてありがとう」
ほむら「は、はい」
マミ「それで暁美さん。あなた魔法少女なのよね」
ほむら「え、ええと」
キュゥべえ「マミ。彼女は魔法少女じゃないよ」
マミ「でも変身して魔獣と戦ってたのよね。それに左手の指輪はソウルジェムよね」
キュゥべえ「君の言っている事実に間違いはないよ。でもそれと同時に暁美ほむらには魔法少女としての素質を持っている」
マミ「魔法少女の素質?」
キュゥべえ「そうだよ。彼女はまだ僕と契約をしていない」
マミ「でも契約もしていない女の子が魔法少女に変身出来てソウルジェムも持っている。キュゥべえそんなことありえるの?」
キュゥべえ「ボクの知る限りはありえない……はずだったんだけどね」
キュゥべえ「これはボクが知る限り初めての出来事だよ」
マミ「ええと暁美さん。どういうことか事情を説明出来る?」
ほむら「…え、ええと…そ、その」
さやか「マミさん。あんまり責めないであげてよ」
マミ「ごめんなさい。そんな気持ちはないんだけど、やっぱりそう聞こえちゃうかな」
杏子「なあ、ほむら」
ほむら「は、はい」
杏子「さっきのこと憶えてることから話してみなよ」
ほむら「…憶えてることから…ですか?」
杏子「そっ。自分に説明するつもりでね」
ほむら「…ええっと」
杏子「とりあえず学校が終わってからのこと一から話してみなよ。考えを整理するにはいい方法だよ」
ほむら「はい。ええっと今日は病院に行って…」
病院に行って美樹さんと会ったことから話し始める。
上条さんと会ったこと。上条さんの病室で女医さんと看護婦さん(巴さんと佐倉さん)に会ったこと。
それから病院の帰りに寄り道した時に美樹さんが上条さんを好きだって言ったこと
さやか「ちょっとほむらっ!!」
ほむら「はい?」
杏子「ほうほう。このヘタレがそこまで言いましたか」
さやか「いや違う。ほむらの聞き間違い」
ほむら「へ?確か美樹さん言ってましたよ」
さやか「いやだから違わないけど違う。さっきみんなには内緒だって言ったでしょ」
ほむら「大丈夫ですよ。巴さんも佐倉さんもクラスが違うじゃないですか」
さやか「何そのボケ!?絶対わざとやってるでしょ!」
ほむら「何がですか?」
杏子「ほむら。さやかは『クラスのみんなには内緒』って言ってのか?」
ほむら「はい」
さやか「いやクラスのみんなに内緒だったら普通は他のみんなにも内緒だって」
ほむら「そ、そうなんですか!…でも巴さんも佐倉さんも美樹さんが上条さんのこと好きだって知ってますよね」
さやか「いやそんなこと言ってないから。その事は内緒にしてたんだから」
マミ「はいはい話がそれちゃったから。その話はもうお終い」
さやか「でもマミさん」
マミ「そうね。暁美さん。やっぱり誰かに内緒にしたいことは、誰に対してもあんまり口にすべきじゃないわよ」
ほむら「…はい…美樹さんすみません」
さやか「むぅ~」
マミ「あと美樹さん。私達はあなたが上条君のことを好きなのは知ってたからあまり気にしないで」
さやか「へっ!?」
杏子「マミ。そこは知ってても知らなかったことにしてやらなきゃ。いちおう私達には言ってないんだから」
さやか「へっ?知ってた?」
杏子「いや普通、好きでもない男の腕を命がけで治したいなんてありえないだろ」
杏子「言わないからこっちも知らんぷりしてたけど、あれであんたがあの坊やを好きだって気付かない奴はいないぞ」
さやか「//////!!」
杏子「はいはいもういいから。で、ほむら、さやかの愛の告白のあとはどうなったんだ?」
にやにやと美樹さんを見つめる佐倉さんを美樹さんが真っ赤な顔で睨み付けている。
美樹さんに悪いことをしちゃった。あとでもう一度謝らなきゃ。
ほむら「は、はい…ええと」
そう美樹さんとの寄り道したあとの近道で私があれを見つけちゃって。
最初は美樹さんには見えなかったけど、あとで美樹さんも見える様になった時に襲いかかってきたんだ。
そして二人で逃げていたら工事中のフロアに迷い込んでしまって、そこで魔獣に囲まれて。
二人で非常口に逃げようとした時、美樹さんが倒れてしまって。
そうだあの時、美樹さんが魔獣に襲われそうになったんだ。
…その後…光を掴んで…魔獣を倒して…どうして?
マミ「暁美さん。それじゃ、それまでは魔獣のことも何も知らなかったの」
ほむら「はい」
マミ「キュゥべえ。あたなはその時のことは見ていたの」
キュゥべえ「そうだね。彼女が言っていることに大きな間違いはないよ」
マミ「光を掴んだって何のことかわかる?」
キュゥべえ「ほむらが突然彼女の目の前に現れた光を掴んだのはボクも確認したよ」
キュゥべえ「でもそれが何だったのかはわからない。少なくともボクは初めて見る現象だった」
マミ「暁美さんはその光が何だったか知ってる」
ほむら「…いえ」
マミ「う~ん」
マミ(佐倉さん。暁美さんが嘘を言っていると思う)
杏子(いや、そうは見えねぇ)
マミ(そうね。私もよ)
マミ「ねぇキュゥべえ。暁美さんが変身して魔獣を倒したって言うのは本当?」
キュゥべえ「本当だよ」
マミ「魔法少女に変身したの?」
キュゥべえ「魔法少女かそれに近い何かに変身したのは間違いないよ」
杏子「お前の話は周りくどいんだよ」
マミ「キュゥべえ、魔法少女に変身したって言い切れない理由は何?」
キュゥべえ「さっき言ったとおりだよ。暁美ほむらがまだ魔法少女の素質を持っているから。僕と契約していないからだよ」
マミ「…確かに…ね」
キュゥべえ「ただ魔法少女は条理を覆す存在だからね。ボクの知らない方法がないとも言い切れないよ」
杏子「要するに何にもわからないってことか」
キュゥべえ「そう考えた方がいいよ。まだ情報もそろっていないのに何かを予想するのは時間を無駄にするだけだよ」
杏子「だからおまえの話し方はいつも回りくどいんだって」
マミ「う~ん」
杏子「何かめんどくさくなって来たな」
さやか「そんないい加減なこと言わないでよ。あんた、さっきほむらと一緒に戦ってたじゃない。その相手が悩んでるんだよ
杏子「そっか。さっき一緒に戦ってたんだよな。なぁほむら。今、変身出来る?」
ほむら「変身ですか?」
杏子「変身して一緒に戦えるんだったら魔法少女かどうかなんてどうでもいいじゃん」
さやか「それでいいの?」
杏子「まぁマジな話自分で自分の身を守れるかは知っときたい。それでこっちがやることも変わってくるからな」
ほむら「は、はい。その…変身ってどうやるんですか?」
杏子「まぁその答えは予想はしてたんだけどなぁ。う~ん」
マミ「…個人の感覚によるものが大きいから参考になるかわからないけど」
マミ「暁美さん。ちょっと立ってみてくれる」
ほむら「え、えと。はい」
マミ「ちょっと手を貸してね」
巴さんが私の左手を握る
マミ「暁美さん。私の手をよく見てて」
ほむら「これって?」
私の手を握る巴さんの手が柔らかい黄色の光を帯びていた。
マミ「何か感じる?」
ほむら「なんだか暖かくて優しい感じです」
マミ「じゃあこれは?」
ほむら「…何だか暖かい流れが手の周りを回っている様な」
マミ「正解よ。あなたの手の周りで魔力を回しているの」
マミ「じゃあ左手の指輪に力が集まるところを想像して」
ほむら「はい…何だか指輪が温かくなってきました」
マミ「そのままどんどん力が集まって来る」
ほむら「はい」
さやか「あっ!」
いつの間にか左手の指輪にあの時と同じ炎が灯っていた。
マミ「正解みたいね。じゃあ最後は集まった力が指輪から一気に全身を駆けめぐるイメージを」
ほむら「はいっ!」
左手の指輪が燃え上がり、そしてその炎は私の全身を包んでいく。あの時と同じ感覚が身体に駆けめぐっていった。
マミ「…ねえ…あなた暁美さん…よね」
巴さんが私に声をかける。さっきの美樹さんみたいな事を言っている。
ほむら「変身ってこうするのね。巴さんありがとう」
マミ「え、ええと役に立ててうれしいわ」
ほむら「…」
マミ「…」
マミ(佐倉さん。何これ?人が変わったみたいっていうかほとんど別人じゃない)
杏子(いやあたしが最初にあった時はこんな感じだったんだ。それで変身が解けたらしぼんだって言うかああなった)
さやか「ほむら。大丈夫?なんかおかしくない?」
ほむら「ええ。どうかしたの美樹さん?」
マミ(変わり過ぎじゃない。見た目も口調も全然違うでしょ)
杏子(だよなぁ。言われなきゃ完全に別人だよな)
キュゥべえ「やぁ、暁美ほむら。はじめましてなのかな」
ほむら「会ったのは今日が初めてだけど、さっきまで話していたはずよ」
キュゥべえ「ふむ」
キュゥべえ「それで君は暁美ほむらでいいのかな?」
ほむら「質問の意図がよくわからないわ」
キュゥべえ「そのままの意味だよ」
ほむら「私は暁美ほむらよ」
キュゥべえ「君は魔法少女でいいのかな」
ほむら「そうよ」
キュゥべえ「君は自分の願いを憶えているかい」
ほむら「……憶えていないわ」
キュゥべえ「いつ契約したか憶えているかい」
ほむら「…私に質問する意図は何なの。それを聞いてから答えるわ」
キュゥべえ「実のところボクは君と契約した憶えがないんだ。だから君の認識を聞きたい」
ほむら「……そう。はっきりとは憶えていないわ。でも退院する時には魔法少女だったはずよ」
キュゥべえ「なるほど。じゃあ質問だけど君は時間に関係する魔法を使えるんじゃないかな」
ほむら「……ええ。私の魔法は時間を止めることよ」
マミ「時間を止める!?」
ほむら「ええ。私は自分以外の時間の流れをせき止めることが出来るの」
マミ「キュゥべえ。そんなことって可能なの」
キュゥべえ「素質や契約の内容にもよるけど魔法少女になら可能だよ」
さやか「ほむら。あんた自分の見た目とか口調とか違和感感じない」
ほむら「何のこと?」
さやか「あんたさ何だか全然別人みたいになってるんだよ。別に悪くなってる訳じゃないんだけど変わりすぎててなんか心配なんだ」
ほむら「さっきも同じことを聞いた様な気がするけど。よくわからないわ。私はいつも通りよ」
そうさっきも同じことを言われていた。ただ自分では何の変化も感じない。変化といえばいつもより物事を冷静に考えられるくらいだろうか。
さやか「そうだマミさん鏡か何かありませんか?」
マミ「鏡なら玄関のところに」
巴さんが玄関の方向を指さすとそこには全身を写せる大きさの姿見が設置されていた。
そこには私の動きに合わせて動く一人の魔法少女が映し出される。
凛とした佇まい、ストレートの長い髪、冷静、いや冷酷ささえ感じる冷たい視線
…これは誰?…いや私だ…そう何度も…何度も…繰り返して
頭の中で憶えていないはずの記憶が浮かびそしてはじけて消えていく。
さやか「ね、ほとんど別人でしょ。て言うか、なんで残念系のほむらがこんなクールビューティーになるのよ」
さやか「マミさんも杏子もあんまり変わらないのに納得いかないぃ」
後ろで聞こえた美樹さんの声に視線を移す。
…そうあれは美樹さん…美樹さやか…そう…いつもあの子を疎ましく……そして私は
『美樹さん、ごめん』
憶えていないはずの言葉が頭の中に浮かぶ。
ほむら「嫌っ!!」
身体から紫色の光が弾け飛ぶとともに私はその場に膝から崩れ落ちる。
さやか「ほむらっ!ちょっと大丈夫っ!ねぇ、ほむらっ!」
…そうだ…私は…美樹さんを
ほむら「…あ…あ…私は美樹さんを殺したんだっ!」
さやか「ほむらっ!?どうしたの私がなんだって!?」
ほむら「……美樹さん…ごめんなさい…私…美樹さんを…美樹さんを」
知らないはずの記憶が心を蝕んでいく。
マミ「ちょっと暁美さん!?大丈夫?」
心配そうに私に手を伸ばそうとする巴さんの姿に私を縛り上げ銃を向ける巴さんの姿が重なる。
ほむら「嫌だっ!やめて巴さんっ!撃たないでっ!」
体が弾かれるように巴さんから距離をとる。
マミ「っ!」
一瞬、巴さんの表情が歪んで、動きが止まる。
壁に突き当たって逃げ道を失った私をみんなが見つめる。その中に虚ろな二つの赤い瞳。
キュゥべえっ!!おまえがっ!!
罪悪感や怯えに蝕まれた心に、今まで抱いたことのない怒りがそそがれていく。
マミ「何これっ!?呪い!?」
さやか「何っ!?ほむら大丈夫!?」
困惑と怯えが滲む瞳と私の間に佐倉さんの右手が差し出される。
杏子「ほむら。見ろ」
佐倉さんの人差し指と親指の間に蝋燭を思わせる赤い炎が灯される。
ほむら「えっ?」
佐倉さんの指が閉じられると共に炎が消え、そして私の意識も暗い何かに包まれていった。
今回の書き込みはここまで。上げ忘れてたので最後に上げておきます。
最初に書いた様に話が当初の予定どおりに進みそうになくて困っています。まだ多少の書きためがあるので影響が出るにしてももう少し先ですが。
次回は説明回の残りで次回か次次回にマミさんの戦闘が入るかも。
投下します。
さやか「ねぇマミさん。ほむら大丈夫かな?」
マミ「佐倉さんにまかせれば大丈夫よ。あの子こういう時すごく頼りになるから」
暗くなった道をショートカットの女の子と特徴的な髪型の女の子の2人がとぼとぼ歩き、その傍らを他の人に見えない一匹がちょこちょことついてくる。
マミ「ねぇキュゥべえ。暁美さんの言ってた話どう思う?」
キュゥべえ「まだわからないことが多すぎるね」
マミ「仮説でも推測でもいいから聞きたいわ。あなたの目から見て暁美さんの話はあり得る話なの」
キュゥべえ「魔法少女は条理を覆す存在だからね。魔法少女が関係することでありえないことはありえないだろうね」
さやか「キュゥべえ。何かその答えむかつくんだけど」
マミ「美樹さん。いいわよ。キュゥべえっていつもこうだから」
さやか「だからって今の答え方、腹が立ちません」
マミ「今のは私の質問の仕方が悪かったわ」
マミ「そうね。ねぇ、キュゥべえ。あなたが契約した憶えがない魔法少女ってありえるの?その場合どういうケースがあり得るの。いくつか挙げてみて」
キュゥべえ「わかった。僕の知る限り僕との契約以外で魔法少女になるケースはありえない」
キュゥべえ「でもそれを僕が憶えていないケースはいくつか想定出来るよ」
マミ「どんなケース?」
キュゥべえ「ひとつは僕がそれを忘れることだね」
さやか「何よそれ。ばかにしてんの」
キュゥべえ「違うよさやか。僕は人間じゃないから人間と同じ意味で何かを忘れることはないよ」
さやか「あぁ~もう回りくどい。何が言いたいのよ」
キュゥべえ「魔法だよ。杏子が君にやったのと同じ様な魔法を僕にかけた場合、僕が認識していない魔法少女が出来る訳だよ」
キュゥべえ「まぁ杏子よりももっと強く精神に働きかける魔法を使えたらだけどね」
マミ「でも暁美さんの場合は違うわよね」
キュゥべえ「そうだね。彼女はそういう精神に働きかける魔法を使えないか使えてもそこまでの力はないだろうね」
さやか「だったら言わなくていいじゃない」
キュゥべえ「聞かれたからいくつかのケースを言う必要があると判断したんだよ」
マミ「いいわキュゥべえ。確か暁美さんに時間に関係する魔法が使えるかって聞いてたわよね。どういう理由で?」
キュゥべえ「僕が認識していない魔法少女が生まれる可能性として時間に関する願いを叶えた場合があり得るからだよ」
マミ「続けて」
キュゥべえ「例えばだけど、今さやかが時間を遡る願いを叶えたとするよ」
キュゥべえ「その場合、今の僕はさやかが魔法少女の契約を行ったことを認識出来る」
キュゥべえ「でもさやかが過去に戻った時に会う僕はさやかが魔法少女の契約を行ったことを認識していないだろうね」
マミ「暁美さんが時間に関する魔法を使えるとすれば辻褄があう様な気がするわね」
キュゥべえ「そうだね。時間遡航を願った魔法少女が記憶を失えば、今の彼女に似た状況になるんじゃないかな」
マミ「でもキュゥべえはそう考えていないのよね」
キュゥべえ「そうだよ」
マミ「その理由は?」
キュゥべえ「さっきも言ったとおりだよ。暁美ほむらがまだ魔法少女になる素質を持っているからだよ」
マミ「そうなるわよね」
さやか「それってそんなに大きな問題なの?」
キュゥべえ「それは魔法少女の契約と魂の関係からはありえないことだからね」
さやか「契約と魂?」
マミ「キュゥべえ。続きは私から言わせて」
キュゥべえ「どうしてだい?」
マミ「自分で伝えたいから、あなたに私達の魂について話して欲しくないからよ」
キュゥべえ「……わかった。君から話せばいいよ」
マミ「ありがとうキュゥべえ」
マミ「美樹さん、魔法少女の願いは魂と引き替えに叶るものなの」
さやか「魂と?」
マミ「そうよ。ソウルジェムは文字通り『魂の宝石』つまり私達の魂そのもの。言ってみればソウルジェムが私達の本体なの」
さやか「…魂?ソウルジェムが本体?」
マミ「酷い言い方をすれば魔法少女はゾンビみたいなものね。石ころになった魂が動かす生きたふりをした死体なの」
さやか「…そんな」
マミ「…やっぱり気持ち悪いわよね」
マミ「あなたから相談を受けた時止めたのはそれが理由。美樹さんの願いは叶って欲しいけど私達と同じ境遇になっては欲しくなかったの」
マミ「美樹さんが上条くんのことが好きだってわかってたから特にね。そんな体になったって知ったら告白も出来なくなりそうだったから」
さやか「…マミさん」
マミ「そんな顔しないで。私達は人間じゃなくなったかも知れないけどやっぱり人間でありたいの」
マミ「だから私は魔法少女の力を自分が人間として正しいと思えるやり方で使うって決めたのよ」
マミ「私の時は間に合わなかったけど、私が誰かのその時に間にあったら、自分がこうなったことにも納得出来る気がするの」
マミ「だから美樹さんはそんなこと気にしないで。出来れば今までと同じ日常を過ごしてくれた方が嬉しいくらいよ」
夜道を歩く二人の影のひとつが歩みを止める。
マミ「美樹さん?」
さやか「マミさん。本当にありがとう。私マミさんに出会えて本当に良かった」
さやか「マミさんが魔法少女だとか人間だとか関係ない。マミさんは私の大事な尊敬する先輩です」
マミ「美樹さん、ありがとう。そう言って貰えると嬉しいわ」
さやか「だからあんまり無理しないで下さい。マミさんは美人だし、さっきの話もすごく嬉しかったし格好良いけど」
さやか「なんか聞いててすごくつらいんじゃないかって思っちゃった。なんかマミさん達ばっかりが頑張ってるのってなんか悲しいよ」
マミ「そうね。独りだったらそうだったかもしれないわね」
マミ「でも大丈夫よ。今は佐倉さんもいてくれるし、何より美樹さんがそんな風に言ってくれたから」
マミ「感謝の言葉が欲しい訳じゃないけどやっぱりそう思って貰ええるのは嬉しいもの」
キュゥべえ「話は終わったかい?」
傍らの一匹が二人の会話の隙間に滑り込む。
さやか「キュゥべえ!あんた、あたしにソウルジェムのこと言ってなかったでしょ」
キュゥべえ「まだ契約するっていってなかったからね」
キュゥべえ「でも契約する時には必ず『その願いは魂を差し出すに足るものか』って聞いてるんだよ」
さやか「だからって魂を抜き取るとかそういう大事なこと話さないんだったら話してないのと一緒でしょ」
キュゥべえ「魂がどこにあるかなんて大した問題じゃないと思うんだけどな」
さやか「そんな訳ないじゃない!すっごく大事でしょ!!」
キュゥべえ「そうかい?ねえさやか。君はマミの魂がソウルジェムだからといってマミという人間の本質が変わると思うかい」
さやか「…それは…違うけど」
キュゥべえ「魂がどこにあろうともその人がその人であることにはなんの影響もないんだよ」
さやか「……なんか…納得出来ない」
マミ「美樹さん。この件に関してはキュゥべえと話をしても仕方ないわよ」
マミ「キュゥべえの価値観は私達と全く違うもの」
さやか「…価値観?」
マミ「………そうね私が契約してしばらくしてなんだけど……キュゥべえが目の前で死んじゃったことがあるの」
キュゥべえ「どういう理由で死んだかは言わない方がいいかい?」
マミ「……そうして貰えると助かるわ」
さやか「マミさん?」
マミ「……その時ね、どこかからまたキュゥべえが出てきて、そのキュゥべえの死体を食べ始めたの」
さやか「う、うぇええ~!?」
キュゥべえ「そのまま放置するのは衛生的じゃないし、栄養摂取の面からも食べてしまう方が効率的だろう」
さやか「………」
マミ「………」
マミ「……これがキュゥべえの普通なの」
さやか「…マミさん…よくこんなのと一緒にいられますね」
マミ「……美樹さん…背に腹は代えられないっていうか…世の中気にしたらやって行けないことって多いわよ」
マミ「…今私達を助けてくれてることも…私にとって命の恩人であることもまぁ間違いないし」
さやか「…そう…ですか」
キュゥべえ「ところでマミ、暁美ほむらの話はもういいのかい?」
マミ「私の方はね」
さやか「魔法少女の素質を持っているって話ですか?」
マミ「そうよ」
さやか「なんでそれがほむらが魔法少女じゃないって話になるんです?」
マミ「もし未来で契約をして過去に戻ったとしても過去に戻った本人は契約を終えているはずなの」
キュゥべえ「過去に戻ろうが平行世界を渡ろうが、一度契約した本人の素質は魔法少女になることと引き替えに失われるはずなんだ」
マミ「でも暁美さんは魔法少女の素質を持っている。だから願いを叶えた可能性はありえないということね」
キュゥべえ「そうだよ」
さやか「じゃあ魔法少女が条理を覆すっていっても出来ないこともあるってことでしょ」
キュゥべえ「個人単位ならね」
さやか「個人単位なら?」
キュゥべえ「例えば今回のケースも複数の願いが重なれば可能なんだよ」
キュゥべえ「複数の誰かが契約していないほむらに魔法少女の力を与え、記憶を消し、過去に送り込む様に願ったとかね」
さやか「それこそありえないんじゃない」
キュゥべえ「僕もそう思うよ。ただ彼女の現在のあり様に複数の願いが絡まっている可能性は十分ありえる」
キュゥべえ「彼女の話を事実とするなら彼女が何らかの手段で時間を遡航してきたという蓋然性は高くなるね」
さやか「…じゃあほむらが言ってたあたしがほむらに殺された話だとか、マミさんに撃たれそうになったって話も本当にあったことなのかな」
* * * * * * * * * * * * *
杏子「ほい。水だよ。ちょっとは落ち着いたかい」
ほむら「す、すみません」
気まずい沈黙が部屋の中に漂う。
杏子「なぁさっきのあれどういうことだったんだ?」
杏子「突然さやかに謝り出したり、マミを見て撃たないでって怯えたり。挙げ句の果てにキュゥべえにつかみかかろうとするし」
杏子「さやかに会ったのは転校してからだろ。マミに至っては今日初めてあったはずだよな」
杏子「キュゥべえの奴はどうでもいいとして穏やかじゃないよな。何か事情でもあるのか?」
ほむら「…わかりません…いえ、わかってるのかも知れません」
杏子「話したくないことなら無理には聞く気はないんだけどさ、抱え込んでんのもつらいって顔に見えるんだよな。良かったら話なよ」
杏子「あたしはマミほど生真面目じゃないから、細かいことは気にしないよ」
ほむら「……」
杏子「さっき助けられたよな。あんたに何があったのか知らないけどあたしにとってはあれが本当のことだ」
杏子「あたしはあんたの味方だよ。マミだってさやかだってあんたの敵なんかじゃない。大丈夫だ」
ほむら「…わかってます…巴さんも…美樹さんも…敵なんかじゃありません」
ほむら「……でも…さっき美樹さんに言われて鏡を見た時…思い出した…いえ…頭に浮かんだんです」
ほむら「私は何かを望んで魔法少女になったはずなんです」
ほむら「…でも美樹さんとすごく仲が悪くて…そして私が美樹さんを殺した…んだと思います」
杏子「なんか事情はあったのか?」
ほむら「…わかりません……でも私は何かがあれば美樹さんを殺してしまうのかも知れないって」
杏子「マミに撃たれるってのはどういうことなんだ」
ほむら「…たぶん…私が美樹さんを殺した後で………銃の音がして…巴さん泣きながらすごく悲しい顔をしてたんです」
そう、その時確か佐倉さんが撃たれたんだ…だめだそんなこと言っちゃだめだ。佐倉さんからつい目をそらしてしまう。
ほむら「………そして…突然巴さんに魔法で縛られて…撃たれそうになったんです」
ほむら「……多分私が美樹さんを殺したから…巴さんが」
杏子「その話、あたしも関係してるだろ?」
ほむら「っ!!…そ、それは」
杏子「当たりみたいだな。いいよ、詳しくは話さなくていい」
杏子「まぁ、そんな話だったら確かにあたしら、特にマミやさやかの前じゃ言いにくいだろうな」
ほむら「……」
杏子「でも、まぁ気にしなくていいんじゃないかな」
ほむら「…いいって思っちゃったら…私本当に自分のこと許せなくなると思うんです」
杏子「でも自分を責めてもなんの解決にもならないだろ」
ほむら「…はい」
杏子「あんまり難しく考えんなよ。まず大前提だけどあたしもマミもさやかもみんな今生きてるんだ」
ほむら「…」
杏子「生きてるだろ」
佐倉さんが自分の足をぱんぱんと叩く。
ほむら「…はい」
杏子「それで問題はほとんど解決してるんじゃないか」
杏子「思い出しただか浮かんだだか知らないけど、その記憶に納得がいかないなら今度は変えてみろよ」
杏子「あんたは今日さやかを助けたんだ。少なくともひとつは納得のいかない記憶をひとつはひっくり返せただろ」
ほむら「…」
杏子「まぁ気持ちなんてすぐには切り替えられないもんだよな」
杏子「でも自分で変えようと思って何か行動しない限り、何かが変わっても納得出来ないと思うぜ」
ほむら「…」
杏子「まぁ、あんたがどういう記憶を持っていようが、あたし達はさっきあんたにあったばっかりで助けられたってのが今の本当なんだよ」
杏子「だから自分だけの記憶に引っ張られて、あんまり自分だけで抱え込もうとすんなよ」
杏子「多少心当たりがあるけど、独りで考えて出た正解ってのは、その本人以外の正解じゃないこともあるんだぜ」
ほむら「…ありがとうございます」
杏子「いいよ。お互いろくでもないことに首を突っ込んだ者同士だからな。ちょっとは協力しなきゃやってらんねぇよ」
杏子「で、どうする。居心地が悪いんだったら家まで送るし、なんだったら泊まって行くかい。マミもどっちでもいいって言ってたしね」
ほむら「…とりあえず巴さんに謝ります」
ほむら「さっき私が巴さんを怖がってた時すごく悲しそうな顔をしてましたから」
ほむら「泊まるかどうかはそれから考えてもいいですか」
杏子「そうだな。あいつちょっと打たれ弱いところがあるからそうしてくれるのはありがたいね」
ほむら「あと…ただ待ってるのもなんですからかたづけ手伝っても良いですか?」
杏子「…体動かしてる方が気が紛れるか」
ほむら「はい」
杏子「わかった。食器を台所に運んで運んでくれ。棚に直すのはあたしがやる。あとはちょっと拭き掃除でもでもしてもらうか」
ほむら「はい。ありがとうございます」
* * * * * * * * * * * * *
マミ「わからないわ」
さやか「正直、ほむらが私を殺したとか、マミさんがほむらに銃を向けたとか信じられないんですけどね」
マミ「そうね暁美さんがそんなことするなんて私も思えないわ」
マミ「でも私ならそういうことがあっても不思議じゃない……今はともかく昔の私ならそういうことがあったかも知れないわ」
さやか「マミさんが?」
マミ「美樹さん。人間ってね自分が思っても見ないことがあった時とんでもなく醜い自分が出てしまうことがあるものなのよ」
マミ「別にそんなものは一生見なくてすむならその方がいいんだけどね。私は昔そういう自分に会っちゃったの」
さやか「…」
マミ「今は大丈夫よ。一度キレちゃって自分の弱い部分を見つめることもできたから」
マミ「とりあえず暁美さんが何者なのかはあんまり考えなくてもいいかもね」
マミ「暁美さんが美樹さんと佐倉さんを助けてくれたのは確かなんだから」
さやか「そうですよね。あいつは自分の体をはってあたしや杏子を助けてくれたんですもん」
キュゥべえ「だから僕はそう言ってたじゃないか」
再び二人の会話を遮る様に傍らの一匹から声がかかる
さやか「…マミさん。ほんとによくこんなのと一緒にいられますね」
マミ「ま、まぁ、なれたらそんなに気にはならないものよ」
キュゥべえ「君たちは本当に訳が分からないね」
さやか「それはこっちのセリフだよっ。女の子と話すんならちょっとは気を使いなさいっての」
キュゥべえ「そう言われてもね。僕たちには感情がないから君たちがどんな感情を抱いてるかなんて想像しようもないんだよ」
キュゥべえ「まして感情を持っていてそれをお互いが認識している君たちだって完全にコミュニケーションがとれてないというのに」
キュゥべえ「僕たちにそれを期待するのはいくらなんでも…マミ」
マミ「そうね」
さやか「?」
マミ「美樹さん。ちょっとひと仕事片づけてもいいかしら」
さやか「へっ?まさか」
キュゥべえ「そう魔獣だよ」
見回せば何もいなかったはずの屋根の上に数体の魔獣が立っている。
さやか「マミさん。杏子とほむらの2人がかりでも大変だったのに。あんなに相手出来るんですか」
マミ「ええ。私の魔法は魔獣に相性がいいのよ。問題ないわ」
マミ「そうね。せっかくだから美樹さんは魔法少女対魔獣の観戦ショーに招待しちゃいましょうか」
今回はここまでです。なんとか週一更新に滑り込みました。次回マミさんの戦闘ですが多分あっさり終わります。
本編と映画との齟齬によるプロットの変更は何となくイメージが出来てきました。
ただタイトルが伏線になってたはずなんですが、めがほむ→クーほむが上手く行ってないので最悪タイトル詐欺になるかもです。
明日の夜とか言っててけっきょくその翌朝になってしまいました。すみません。投下します。
ほむら「あれ?佐倉さんこれなんでしょう?」
本棚の中それは不自然な光を放って点滅していた。
杏子「あぁそれはマミの。まぁ魔法の地図みたいなもんだ」
ほむら「魔法の地図?」
杏子「マミはなんか名前つけてたけど、要は見滝原のどこに魔獣が出やすいかがわかる地図だよ」
ほむら「魔法ってそんなこと出来るんですか?」
杏子「あたしには無理。そんな器用なこと出来るのはマミくらいしかないよ。ほら」
本棚から取りだされたそれを撫でてやるとテーブル半分くらいの地図に変わる。
杏子「理屈は、まぁなんだ。マミがリボンで造った花を町中に撒いててだな」
杏子「その花に魔獣が近づくとこの地図に信号が入ってそこと同じ場所が光るってことらしい」
ほむら「へぇ、すごいですね。それに町中なんてそんなこと出来るんですね」
杏子「マミの魔法の特性だって。何かを繋ぐことに特化してるから自分の魔力をその場に繋いでおきやすいんだってさ」
杏子「この家の周りから始まって今じゃ見滝原市を全部カバーしてるんだって」
ほむら「えっとじゃあ、これだとどの辺になるんですか?」
杏子「これだったら確か新しくできたコンビニを西に入った辺りだろうな」
ほむら「これって今魔獣がいるってことですか?」
杏子「そうだよ。まぁこの光り方だったら10匹くらいじゃないかな」
ほむら「ここ!美樹さんの家に帰る途中です。巴さんと美樹さん!!」
* * * * * * * * * * * * *
マミさんは楽しそうな口調で告げると手を額の前にかざす。そして指輪は今までに見たことのない明るい光を放つ。
さやか「えええ!何?何?何~?」
目の前が真っ白になり体が宙に放り出される感覚が思考を混乱させる。
マミ「美樹さん乱暴な案内でごめんなさい。そこにいれば安全だからちょっと見物しててね」
さやか「えええ~?」
気がつけば私は屋根を見下ろす塔のようなものの上に立っていた。
キュゥべえ「大丈夫。これはマミが魔法で作ったものだよ」
さやか「魔法ってそんなことも出来るの?」
キュゥべえ「そうだよ。でも誰にでもって訳じゃないよ。マミは魔法の使い方に長けているからね」
さやか「魔法の使い方?」
キュゥべえ「そうだよ。魔法少女の力は因果がもたらす素質によって大きく上下する」
キュゥべえ「言ってみれば才能で能力の大半が決まってしまう訳だ」
キュゥべえ「でもまれに得られた魔法を最大限に使いこなすことによって素質以上の力を発揮する子達がいる。マミはその代表だね」
さやか「マミさんってやっぱりすごい人だったんだ」
キュゥべえ「まぁそういう認識でいいと思うよ。ほら始まってるよ」
のぞき込めばマミさんは四方から伸びる光の帯ををかいくぐり魔獣への距離をつめていた。
キュゥべえ「魔獣の攻撃は遠距離からの射撃がほとんどなんだ」
キュゥべえ「マミの攻撃は射程も長いし、敵からの攻撃はリボンで防げるから遠間で戦えば負ける要素はない」
さやか「でもマミさん魔獣に近づいて行ってない?」
キュゥべえ「僕は不合理だと思うし、杏子は遊びが過ぎるって言ってるけどね」
さやか「あれマミさんこっち見たよ」
キュゥべえ「観戦ショーって言ってたからね。そろそろ決めるつもりなんだろうね」
マミ(美樹さん。じゃあ行くわよ)
マミさんは身体の回りに銃を纏わせ一気に魔獣との距離を詰める。
それはあの時のほむらを思い出させると共にあれとはまた別次元のものだった。
ほむらの動きを体操選手の演技だとすれば、マミさんのそれはフィギュアスケートの舞。
美しく優雅で、そして体操選手を上回るスピードと繊細で華麗なステップ
離れては銃で相手を撃ち抜き、近づけば銃を剣のように操って魔獣をなぎ倒す。
さやか「ねぇねぇキュゥべえ。なんかマミさんすっごいんだけど」
キュゥべえ「マミの実力は今いる魔法少女の中でもトップクラスだからね」
光線をかいくぐり魔獣の間に滑り込み、回転すると同時に両手で左右の敵を撃ち抜く。
そして一瞬で銃を持ち替え銃把で正面の魔獣の頭と足を挟み込む様に薙ぎ払う。
次の瞬間宙に浮いた魔獣はサマーソルトで上空に蹴り飛ばされ十字砲火により地面に落ちることなく消滅する。
さやか「何今の?すごいっ!!」
キュゥべえ「僕は遠間から一方的に攻撃した方が効率的だと思うけどね」
キュゥべえ「あの時のほむらみたいに陽動なら理解出来るけど、独りで敵と戦っている時に敵の懐に飛び込むのはあまりよい方法じゃあないよ」
さやか「何よその冷めた感想」
キュゥべえ「傷つく可能性は極力低いに越したことはないだろ」
さやか「…そりゃあまあ」
キュゥべえ「武器が剣や槍なら仕方ないけど、銃を持ってるのにあえて敵に近づく必要はないと思うんだけどね」
マミ(聞こえてるわよキュゥべえ!)
さやか「マ、マミさん!!」
キュゥべえ「やぁマミ。あんまり危ないことはやめて遠距離から安全策で戦った方がいいと思うんだけど」
マミ(キュゥべえ、いくら存在の階層が違うって言われても人や家に当たるかも知れない攻撃していいわけないでしょ)
キュゥべえ「だから階層の違う存在への攻撃はそうしようと思わない限り別の階層に影響を与えられないんだよ」
マミ(でも魔獣と同じ階層に引きずり込まれる人もいるんでしょ。私が攻撃した魔獣が何かをそうしてたら攻撃が当たる可能性があるわよ)
キュゥべえ「可能性は否定しないけど僕が知る限り前例はないよ」
キュゥべえ「君の行動は杞憂からくる特に意味のない行動でしかないし、危険性に比べる結果はいわゆる自己満足の域を出ていない」
キュゥべえ「杏子の言葉を借りるなら君の行動は自分に酔っているか」
マミ(キュゥべえ!!)
マミ(佐倉)(さんも)(いろ)(いろ言ってるけど)
テレパシーが途切れるたびに銃が魔獣を捕らえ
マミ(私だって)(周りのこととか)(効率とか)(いろいろ)(考えてるん)(だ)(から~っ!!)
マミさんの雄叫び(テレパシー)を合図に全ての魔獣がリボンで編まれたカタパルトで宙高くに打ち上げられる。
マミ「ティロッ!!」
マミさんの銃が宙を指す動きに合わせてリボンが巨大な銃口が編みこむ。
マミ「フィ」
放り出された魔獣が銃口と天を結ぶその直線に並んだ瞬間
マミ「ナ~レッ!!」
かけ声と共に銃から打ち出された光の柱が全ての魔獣を呑み込み空高くに消えていく。
それと同時に独りと一匹を乗せた塔が吸い込まれる様に地面に消え、マミさんはどこからか取り出したティーカップを優雅に紅茶を口につけた。
マミ「はい、お終い」
キュゥべえ「ねぇマミ」
マミ「なぁにキュゥべえ?」
キュゥべえ「通常はあり得ない確立だけど、今の攻撃、飛行機の羽根に命中したよ」
かしゃ!わずかな震えがティーカップと受け皿に似合わない音を奏でさせる。
マミ「こ、攻撃と飛行機のいた階層は違うから大丈夫よ」
キュゥべえ「もちろんそうだけど、だからこそ普段の闘いでも周りを気にする必要はないんだよ」
マミ「いいのっ!気分の問題なんだから!」
こうしてマミさんによる少し決まり切らなかった観戦ショーは幕を閉じた。
* * * * * * * * * * * * *
杏子「大丈夫って言うか、あたし達が着く頃にはもう終わってるよ」
ほむら「でも10匹ってあの時と同じくらいじゃないですか!一人で美樹さんを守りながらなんて!」
杏子「逆にさやかがいるから安心なくらいなんだよなぁ」
ほむら「でも巴さん一人なんですよ!」
杏子「そうだな。まず安心しろ。魔獣相手を考えるならマミはあたしら二人をあわせたよりも強い」
杏子「そしてさやか。あたしら二人に守られてるよりマミ一人が守ってる方が安全だ」
杏子「マミの場合戦いの最中に要らないことを考えることの方が心配なんだよ」
ほむら「要らないこと?」
杏子「そうだよ。命がけで戦ってる最中に周りのことだ、効率がどうだ、新しい技がどうとか」
杏子「技は兎も角、そう言うのはあたしだって考えない訳じゃないけどあいつのは度が過ぎてんだよ」
杏子「強すぎて危機感がないから余裕があるんだろうし、実際それでもあたしよりぶっちぎりで強いんだけどな」
ほむら「…でもやっぱり」
杏子「今回はさやかがいるから、さやかの安全を一番に考えて戦うだろうからもうすぐ終わるよ」
杏子「ほら、終わったみたいだよ」
手元の地図がさっきとは違う色の光を帯びる。
杏子「さっき言ってた花さ、信号を送るのは一回限りなんだけど魔力を補充したらまた使えるんだよ」
杏子「魔力補充が出来たらこうやってこの本が光る………おおっ!?」
地図からキャンディの包み紙の様な頭をしたピンク色の人形が現れる。
ほむら「わぁっ!かわいい!」
小さな人形は顔を上にあげるとたどたどしい声で話し始めた。
ベベ「サクラサン マジュウハ モウ ヤッツケタカラ シンパイ シナイデ ミキサン オクッタラ スグニ カエルワ」
ベベ「ドウ? コノ シンキノウ カワイイデショ」
杏子「……はぁ、あいかわらずいろんな所にこるやつだよなぁ。研究熱心というか凝り性というか」
杏子「まぁ、つぅことで魔獣のことは心配しなくていいみたいだぞ」
ほむら「…よかった」
杏子「ふふっ」
ほむら「はい?」
杏子「いや、本気で心配してたんだなって」
ほむら「だって、当たり前じゃないですか」
杏子「うん。そうだよな」
杏子「なぁ。寝る前になんだけどマミが帰ったら労いでお茶でも入れてやろうかなって思うんだけどさ」
杏子「どう?マミの受け売りだけど入れ方教えるからやってみるかい」
ほむら「えっ?あ!は、はいっ是非」
* * * * * * * * * * * * *
今回の投下はこれまでです。次回は帰り道の残りで。
すみません最近遅れ気味です。続きを投下します。
マミ「これでいいわ」
マミさんの手から伸びていたリボンが目に収まりきらないないほどの大きな輪となって結ばれる。
マミ「ここから学校と病院までの道のりはリボンで囲ったから寄り道しなければ魔獣にあう確率はかなり少なくなるわよ」
さやか「え?ここから学校と病院の間?全部だったら何キロかあると思うんですけど」
マミ「ええこれくらいなら問題ないわ。そんなに強力な魔法でもないしね。時間を限定するなら市内全域はカバー出来るわよ」
さやか「市内全域っ!?広っ!!魔法ってそんなに広い範囲で使えるんですか!?」
キュゥべえ「並の魔法少女じゃ無理だよ。今いる魔法少女ならマミを含めて10人いればいいところだね」
マミ「ちゃんと魔法を使いこなす努力をしたからよ」
マミ「佐倉さんやキュゥべえは私のこと変みたいに言うけど、色々研究してたからこう言うことが出来る様になったのよ」
さやか「…あはは(やっぱし気にしてるんだ)」
マミ「あともう一つ。指を出して」
さやか「指ですか?」
マミ「ええ………こうやって」
さやか「リボン?」
マミ「このままだったら不便でしょ。だからこうやって、はい」
指に結わえられたリボンを包んだ手が離される。
さやか「えっ?なくなった」
マミ「見えなくなっただけでリボンはそこにちゃんとあるのわ」
マミ「リボンが切れない限り魔獣は美樹さんを見つけられないから、魔獣に襲われる確率はかなり少なくなったわ」
さやか「おおっ!なんか魔法の指輪みたい。って魔獣に見つからないなんて出来るんですか?」
マミ「ええ。前に行ったけど魔獣は人の負の感情に引き寄せられるの」
マミ「そのリボンは、恐怖や嫌悪といった負の感情を繋ぎ止める、つまりは魔獣からは目印となる感情を表に出さないものなの」
マミ「だからそうね、私と美樹さんくらいの距離に魔獣がいたとしても攻撃されることはないわよ」
さやか「あたし、あんなのにそんなに近づきたくもありませんから」
マミ「もちろんよ。そのリボンは負の感情をため込むものだから魔獣と重なったりしたらすぐに焼き切れちゃうわ」
マミ「他にも負の感情をため込みすぎたり、美樹さんがパニックになる様な精神状態になっても焼き切れる可能性もあるの」
マミ「普通に生活していれば問題はないけど自分から魔獣に近づく様なことは絶対にしないでね」
さやか「大丈夫ですよ。魔獣ってモザイクかかってて猥褻物っぽいイメージあるから頼まれても近づきませんよ」
マミ「それなら良いけど、それはあくまで御守りなの。他の誰かを助けられる様なものじゃないんだから忘れちゃだめよ」
マミ「あと溜め込んだ負の感情を消去すれば効果が持続するから学校で声をかけるか、また遊びに来てちょうだい」
さやか「はぁ~っ。魔法ってすごいんですね」
マミ「ええ。けどここまでになるには結構かかったんだから」
さやか「…」
さやか「…ねえマミさん」
マミ「なあに?」
さやか「こんなに色々してくれて本当にありがとうございます」
マミ「気にしないでって言ったでしょ。美樹さんのためでもあるけど自分のためでもあるんだから」
さやか「…うん。でもこれだけして貰ってるんだけどあたしまだお願いしたいことがあるんです」
マミ「…暁美さんのこと?」
さやか「…はい。さっきほむらがマミさんのこと怖がった時、マミさんすごく悲しそうな顔してましたよね」
マミ「……やっぱり顔に出ちゃってたか」
さやか「ごめんなさい。何か勘ぐるみたいなことしちゃって」
さやか「ほむらはマミさんにすごく失礼なことしたって思います。もし気にしてるならあたしがあいつを謝らせます」
さやか「けど、それじゃ足りないかも知れないけど、出来たらあいつの力になってやって欲しいんです」
マミ「…」
マミ「ねえ美樹さん。ちょっと意地悪な質問をしてもいい?」
さやか「意地悪な…ですか?」
マミ「ええ。もともと私は美樹さんと暁美さんの力にはなるつもりだったの。でも、さっき暁美さんに怖がられてちょっとへこんだのも本当」
マミ「だから自分を整理するためにね。意地悪が過ぎるなら怒ってくれてもいいし、どんな答えでもあなた達の力になるのは約束するわ」
マミ「だから私の気持ちの整理のために協力してもらっていい?」
さやか「…責任…重大ですね」
マミ「どうして?どんな答えでもあなた達の力になるのは変わらないのよ」
さやか「違いますよ。あたしマミさん達に守られてばっかりだったでしょ」
さやか「初めてマミさんの力になれるかもしれないじゃないですか。あたしにはすごく責任重大ですよ」
マミ「…ありがとう美樹さん」
さやか「どんな質問でもいいですよ」
マミ「もし暁美さんの言ってることが本当だったら暁美さんの存在は美樹さんの命に関わるかも知れないわ」
マミ「美樹さんはそれでも暁美さんのことを助けたいと思う?もしそう思うならその理由は何?友達だから?命を助けられたから?」
マミ「これが私の質問。意地悪な質問だと思うから答えなくても怒ってくれてもいいわ」
さやか「…」
さやか「……正直わからないです…でも」
さやか「あたし夢を見たんです。キュゥべえと契約して恭介の手を治して貰った夢」
マミ「夢?」
さやか「はい。その中であたし漫画の主人公気分で魔法少女をやってたんです。でもある日わたしが助けた誰かがあいつに告白するんです」
さやか「あたしはその子にすごく嫉妬してその子を助けたことを後悔しちゃうんです」
さやか「いつの間にか『あたしが手を治してやったのに』ってあいつのことまで恨んじゃって」
さやか「そんなあたしを助けようとしてくれる友達もいたのにあたしはその子のことも拒絶してもっと自分が許せなくなっちゃって」
さやか「助けに来てくれた友達を傷つけて、最後まで私を助けようとしてくれた誰かも巻き添えにして死んじゃうんです」
さやか「目が覚めたら枕が涙でぐちゃぐちゃになってました。マミさん達に会うちょっと前の話です」
マミ「…」
さやか「夢の中のあたしは助けを拒んでみんなに迷惑をかけて死んじゃいました」
さやか「でも今のあたしはマミさん達のおかげで願いも叶っていつもの毎日を過ごしていられるんです」
さやか「もし夢の中のあたしが助けてくれたみんなの手を取ることが出来てたら今みたいにいられたのかなって」
さやか「だからほむらも誰かがあいつの手の届くところにいてやれば、いえ誰かがいてやらないと夢の中のあたしみたいになっちゃう気がして」
さやか「だからあたしはあいつを夢の中のあたしみたいにしたくないから、誰かが夢であたしにしてくれたことをあいつにしてやりたいんです」
さやか「それがマミさんの質問に対するあたしの答えです」
マミ「…」
さやか「…でもあたしだけじゃ絶対あいつの力にはなれない。だからマミさん達の力を貸して欲しい」
さやか「こんなに色々して貰って、迷惑をかけて、その上自分がやりたいことを人に頼って、あたしほんとにずるくて」
さやか「…ほんとうはあたしマミさん達に何かをして貰う資格なんてないんだと思います」
さやか「……だけど…だけど、あたしは」
さやか「…」
マミ「…もう良いわ…ごめんなさい美樹さん。嫌な質問に付き合わせちゃって」
さやか「…」
マミ「それからありがとう美樹さん」
さやか「えっ?」
マミ「そんな顔しないで。美樹さんは私の質問に正面から答えてくれたじゃない」
さやか「…でも」
マミ「美樹さんや、暁美さんの力になるのは最初から決めてたの。人間じゃなくなった私が人間であり続けるためにはそうしなきゃってね」
マミ「だけど人間としての私はどうしても感情を振り切れない。だからほんとは自分でしなきゃならない気持ちの整理を美樹さんにおしつけちゃったのよね」
さやか「…」
マミ「ねぇ美樹さん。私美樹さんの答え大好きよ。もしそれが間違ってても助けたくなるくらいにね」
マミ「だからもし良かったら、その答えを叶えるのに私の力が必要ならぜひ私を頼ってちょうだい」
マミ「人間であるためになんかじゃなくて、私が大好きな答えを持ってる人の力になれるって方がやっぱりやりがいあるもの」
さやか「…マミさん。ほんとうにありがとう」
マミ「…こちらこそ。うん、やっぱりこういうのはお互い様だと思うわ」
さやか「…」
さやか「…やっぱりマミさんっ!もう一つ!」
マミ「えっ?」
さやか「あたし、ほむらにさっきのことちゃんと謝らせます。だからもう一回あいつと話してやって下さい」
さやか「あいつ色々ポイント高いのにまとめたらなんか残念で、人付き合いになれてなくて何かずれたところあるけど」
さやか「ちゃんと話したら本当に良い奴なんです。あたしなんかじゃなくてマミさんがあいつの力になりたいってくらいに」
さやか「だから、もう一回ほむらにチャンスをやって下さい!」
マミ「大丈夫よ。さっきへこんじゃったけど暁美さんがパニックになってたのはわかるもの」
マミ「けど、そんなに気にしてたなんて、ほんとうに仲が良いのね」
さやか「…まぁ仲は良いと思うんですけど、それより何かほっとけないんですよね」
さやか「変に真っ直ぐで融通が利かなかったり、基本万能型なのになんか不器用なとこあるし」
さやか「なんであんたそんなに残念なんだ。みたいな感じなんですよね」
マミ「ぷっ!」
さやか「マミさん?」
マミ「あはは…ごめんなさい。佐倉さんが美樹さんのこと同じ様に言ってたからつい」
さやか「へっ?」
マミ「なんであいつはあんなに残念なんだってところ」
さやか「あたしのどこが残念だっ…て……例え残念だとしても残念さの方向はほむらと違いますよ」
マミ「ぷっ」
さやか「マミさんっ!?」
マミ「あはは……ふぅ。ごめんなさい」
さやか「むぅ~っ」
マミ「うん、そうね。明日にでもまた暁美さんと話してみるわ。美樹さんとそこまで仲の良い人が悪い人な訳ないものね」
さやか「なんかごまかされた気もしますけど、それはお願いします」
さやか「自分と仲が良い人同士がわだかまりを持ってるってやっぱりちょっと…ね」
マミ「ええ、そうよね。うん。やっぱり美樹さんに話して良かった」
マミ「また何かあったらお願いしても良いかしら」
さやか「はい。こんなんで良かったらいつでも言って下さい」
マミ「ありがとう。その時のためにも頑張って美樹さん達を守らなきゃね」
さやか「…マミさん」
マミ「お互い様ってこと。だから美樹さんも遠慮なんかしなくて良いんだから」
さやか「…」
マミ「さぁ、すっかり遅くなっちゃったわね。ご家族は大丈夫?」
さやか「はい。うち両親が共働きだから門限緩いんですよ」
マミ「そう。じゃあ遅くまで連れ回しちゃったことは謝らなくてもいいみたいね」
マミ「でも、もうこんな時間ですもの。急がなきゃね」
さやか「はい、マミさん。今日はありがとうございました」
* * * * * * * * * * * * *
今回はなんか捗りませんでした。次回は日常回の予定です。とりあえず少しでも早く仕上げます。
最近なんか煮詰まってます。とりあえず上がったので投下します。
いつもとは違う通学路。私は昨日知り合った先輩と学校に向かっていた。
さやか「おはよう!マミさん!」
マミ「あら、おはよう美樹さん」
ほむら「おはようございます美樹さん」
さやか「あれ?そういやほむら確か家の方向あっちだよね?」
ほむら「は、はい」
マミ「ええ。あの後けっきょく家に泊まっていったのよ」
さやか「マミさんちにお泊まり!?朝帰りとはなんて破廉恥な!うらやまけしからぁ~ん!」
マミ「美樹さん?」
最近は慣れてきたけど、美樹さんは話してる最中たまに叫び出す。巴さんは初めてそれを見て驚いたみたいだ。
さやか「こら、ほむら!昨日マミさん家で何をした!あんなことか!こんなことか!くそぉ!あたしもしてみたいっ!」
ほむら「何をって巴さんに失礼なことをしてすみませんって謝ったくらいですよ」
さやか「羨ましい~!」
ほむら「そ、そうなんですか?」
さやか「当たり前でしょ。先輩の家で一晩中お話なんて。あたしもしたい!」
ほむら「いえ、学校があるから一晩中なんて。謝って少しお茶をしただけでそんなにお話は」
さやか「でもマミさん家に泊まったんでしょ。何か朝ご飯がベーグルと紅茶だったり、お風呂に薔薇の花が浮いてたりしてそうじゃない」
マミ「ちょ、ちょっと待って。私がどういう目で見られてるのか不安になって来たんだけど」
さやか「違うんですか?」
マミ「誰かを招待した時は手もかけるし少しくらい奮発もするけど、やっぱり食事はご飯がほとんどよ」
マミ「それにお風呂に花を浮かべるなんてお金もかかるし掃除も大変じゃない」
さやか「ええ~なんかすごく普通じゃないですか」
マミ「当たり前でしょう。もう」
さやか「いや、それでもマミさん家だもん。杏子もいるからガールズトークとか、湯上がりのマミさんとかだけでも楽しそうですよ」
マミ「湯上がりのって…」
さやか「それよりも一緒にお風呂になんかはいったら」
マミ「一緒に?」
美樹さんがすごく真剣な顔で巴さんの胸元を見つめる。
マミ「…えっ?美樹さん?どこ見て!?」
巴さんの声にも反応しないで、美樹さんは真剣な眼差しを巴さんの胸元に注ぎ続ける。
マミ「み、美樹さん?ねぇちょっと何か視線が恐いんだけど!ねぇ美樹さん、美樹さん!」
マミ「あ、暁美さん!忘れてたわ。私今日当番なの」
さやか「あっマミさん!」
マミ「じゃ、じゃあ暁美さん。昨日言ったとおりまた夕方ね」
ほむら「美樹さん。どこを見てるんですか。巴さん恥ずかしがってましたよ」
さやか「いやぁ、つい。ねぇ、ほむら」
ほむら「なんですか」
さやか「やっぱりマミさんくらいあったらお風呂で浮いたりするのかな?」
ほむら「知りません」
何を真剣に見てるのかと思ったらそんな事考えてたんだ。
さやか「ほむらは浮きそうにないよね」
ほむら「ほっておいて下さい」
* * * * * * * * * * * * *
仁美「さやかさん、暁美さん、おはようございます」
さやか「ああ仁美!おはよっ!」
ほむら「おはようございます志築さん」
仁美「さやかさん、さっき何か叫んでませんでした?ずいぶん遠くから声が聞こえていましたわよ」
さやか「そうそう!聞いてよ仁美っ!」
美樹さんが志築さんを手招きして小さな声で話し出す。
さやか「なんとほむらが朝帰りしたんだよ」
仁美「まあっ!!本当ですか!?さやかさん!」
さやか「そう!しかも今日はその先輩と一緒に登校してきてたんだよ!」
仁美「さやかさんそれは朝帰りじゃなくて同伴出勤というものでは!?それに先輩って見滝原中の方ですの?」
さやか「そう3年の巴って先輩」
仁美「まぁっ!!……巴?…ともえ?…3年の巴って女性の先輩じゃなかったですか?」
さやか「あれ仁美、マミさん知ってるの?」
仁美「ええ、そうですわ。巴マミ先輩ですわ…たしか委員会でお見かけしたと…スタイルがいい方ですよね。髪を二つに分けてこうくるっとした」
さやか「そうそう。多分そのマミさん。って仁美マミさん知ってたんだ」
仁美「だけどその方だとしたら…2人の関係は『禁断の関係』っ!?」
さやか「そう。しかも出会ったその日に朝帰りまで!やっぱり東京は進んでるわよね!」
ほむら「あのぅ、さっきから気になってたんですが」
美樹さんがちょっと悪い笑顔で、志築さんが驚きと期待に満ちた目で私を見つめる。
ほむら「『朝帰り』って何のことなんですか?あと『禁断の関係』って?」
なんとなく3人の間の温度が下がった様な気がする。やっぱり知ってて当たり前のことだったんだろうか?
さやか「お、おう、ベタというか予想通りというかなんというか」
ほむら「…」
さやか「いやっ!ほむらはそのままでいい。知らなくても問題ないし。なんか問題があったらあたしが嫁に貰ってやる」
よくわからないけど教えてはくれないみたいだ。志築さんは
ほむら「…」
仁美「えっ!私!?いえ!私なんて事を考えて!」
ほむら「…」
仁美「わ、わ、私をそんな目で見ないで下さいませ~」
志築さんは振り返ると一目散に学校へと走り出す。え~と?
ほむら「私はよくわからなかったんですけど、美樹さんの話で2人とも逃げちゃったってことですか?」
さやか「原因はあたしにあるけど、仁美にとどめ刺したのはあんただと思うよ」
ほむら「そうなんですか?」
* * * * * * * * * * * * *
仁美「はぁ、お恥ずかしい。そう言うことでしたのね」
志築さんがうつむきながらつぶやく。
志築さんは、巴さん達が考えてくれた言い訳「病院で少し前に知り合ったこと、家の鍵をなくしたので泊めて貰ったこと」を信じてくれたみたいだ。
少し後ろめたいけれども魔獣のことを話せば志築さんにも危害が及ぶかも知れないし、実際信じて貰えるかもわからない以上、本当のことは話せない。
仁美「けれども世の中狭いものですね。身近に同じ病院に通っている人が3人もいるなんて」
さやか「まぁ、ここらじゃ大っきな病院だもん。特に難しい病気とかケガはそうなっちゃうんだろうね」
ほむら「ところで『朝が「ちょっとまったっ!その件については帰りにしよう!」
仁美「そ、そうですわね。あまり教室でお話しすることじゃありませんわ」
…何となく聞かない方がいいことなのかもしれない。
さやか「そ、そうだ!仁美に言わなきゃならなかったんだ。恭介の手。動く様になったんだよ」
仁美「本当ですか!」
さやか「うん!まだ治ったって訳じゃないけど動く様になったんだって。またバイオリンを弾ける様になるかも知れないって!」
仁美「そうなんですか。よかったですわ。それでいつ退院されますの」
さやか「多分来週の終わりくらいになるってさ」
仁美「そうですか。そう言えば私一度もお見舞いに行ってませんでしたわ」
さやか「時間見つけて行ってみる?一時はふさぎ込んでたけど今は元気になったからね。ちょうどいいんじゃないかな」
仁美「…そうですわね…時間がとれれば行ってみてもいいかも知れませんわね」
さやか「あたしも時間が合えば一緒に行ってもいいしさ。病室ならほむらも知ってるよ」
さやか「まぁ退院したらまた3人で、いやほむらも入れて4人で遊びに行ってもいいじゃない」
仁美「ええ。そうですわね」
ふと目があった志築さんが笑う。それはなんだか少し寂しそうに見えた。
* * * * * * * * * * * * *
もう寄り道するのが当たり前になってしまった帰り道。
私は美樹さんが中学生の一般教養と称する『朝帰り』その他についてみっちりと話を聞かされてしまった。
さやか「お~いほむら。立ち直ったか?」
うう。この人が、この人が。
さやか「そんなに睨まないって。ちゃんと知らなきゃあんた教室で『朝がえり』って言っちゃってたかもしれないんだよ」
ほむら「も、もういいですっ///」
そうだったもう少しで教室であんなこと言ってしまうところだったんだ。あぁ、どこかに埋まりたい。
さやか「そういやさ、ほむら今日もマミさん家に行くの?」
ほむら「はい」
さやか「…そっかぁ」
ほむら「美樹さんもですよね」
さやか「ん~あたし行ってもいいのかなぁ?」
ほむら「どうしてですか?」
さやか「いやなんか場違いって言うかさ、あんたも一応魔法少女じゃない」
さやか「魔法少女の集まりにパンピーのあたしが顔出していいのかなってね」
ほむら「巴さんは美樹さんも呼んでって言ってましたよ」
ほむら「それにそんなこと言っちゃったら私なんか魔法少女なんていう自覚なんてないですし」
ほむら「巴さんも佐倉さんもいい人ですけど、昨日会ったばかりですから、美樹さんが一緒に来てくれた方が心強いです」
さやか「…うん。そうだね。あたしマミさんも杏子も好きだし、悩んで遠慮するってのもあたしらしくないしね」
ほむら「よかった。まだ一人でお邪魔するのはちょっと不安ですから美樹さんと一緒の方が心強いです」
さやか「…そういやあんた昨日言ってたことだけど…あんたもう大丈夫なの」
ほむら「…昨日の美樹さんや巴さんとの話ですよね」
さやか「うん。あっ、そうだ。あたしは大丈夫だからね。あたしに変な遠慮とかしないでよ」
ほむら「ありがとうございます美樹さん。昨日そのことは巴さん達と話し合ったんです」
さやか「そうなんだ」
ほむら「はい。って言っても一応心には留めるけど、あんまり気にしない様にって言われただけなんですけどね」
さやか「うん。それでいいと思うよ。それにほむらはあたしを助けてくれたんだよ。そんなこと絶対ありえないって」
ほむら「私自分のこともよくわからないですけど、あの時美樹さんを助けられたことほんとに嬉しかったんです」
ほむら「昨日、巴さんにもその事を話したんです。そしたら巴さんがじゃあそっちを本当のことにすればいいのよって」
さやか「やっぱりマミさんだよね。魔法少女とか関係なしでさ、あんな先輩と知り合えて良かったなって思うんだよなね」
ほむら「そうですよね。なんだかあこがれちゃいますよね」
さやか「なんかほんとに完璧って感じだもんね。それに家に遊びに行ったらすんごく美味しいケーキも食べられるし」
ほむら「あっ、そういえば今日はとっておきのケーキを用意しておくって言ってましたよ」
さやか「おおっ!よぉし、ほむら!マミさん家に急ぐぞ」
ほむら「あっ、美樹さん。ちょっと待って下さい!」
友達と息切れしてたどり着いた先輩の家
呆れた顔で出迎えてくれる先輩といたずらな笑顔で迎えてくれる優しい友達
紅茶の香り漂う居間で待ちきれずにちょっかいを出し合う2人
とめようとしたら、いつの間にか2人からおもちゃにされてしまう私
「ちょっとあなた達」
優しさを隠しきれない叱り声といっしょに部屋に入ってきた甘い香り
今まで食べたこともない美味しいケーキと紅茶に弾む会話
さやか「ほむらどうかしたの?」
ほむら「はい?」
さやか「なんかぼうっとしたっていうか、なんかほわほわしてるって言うか」
ほむら「そうですか?」
さやか「まぁ何でもないならいいんだけどさ」
ほむら「何でもないって言うか…すごく楽しくて」
さやか「楽しくて?」
ほむら「はい。こうやってみんなと一緒にお茶会をしてるのがなんだかすごく楽しくて嬉しいくて」
ほむら「なんだか、今までずっと来たかった場所に来られた様な気持ちなんです」
杏子「ぷっ!」
ほむら「へっ?」
杏子「悪りぃ悪りぃ。なんかそこまで喜んでるの見てたらついね」
マミ「そうね。そんなに喜んで貰えたら嬉しいわ。次も頑張らなくちゃね」
さやか「いやぁ、あたしはてっきりほむらがポエムでも朗読してるのかと」
マミ・杏子「「ぷっ!」」
ほむら「えっ!美樹さん。そんなのひどいですよ」
さやか・マミ・杏子「「「あはははっ」」」
友達や先輩に囲まれた穏やかで賑やかな時間
入院していた時から想像し、憧れていた光景の中に自分がいることを実感する……でも
…でも?
「 」
ほむら「キュゥべえ?」
誰かに声をかけられた気がして振り向けば半分閉まったカーテンに小さな動物の様な影が映る。
さやか「ほむら?どうしたの?」
ほむら「えっ。今キュゥべえがそこに」
マミ「キュゥべえ?」
杏子「おいキュゥべえ。盗み聞きってのは趣味が悪いんじゃねぇか」
カーテンと窓を開いた佐倉さんの動きが止まる。
杏子「ほむら、キュゥべえってこれか?」
マミ「あら!」
さやか「あっ!かわいい」
ほむら「えっ!?……エイミー?」
マミ「あら?この子暁美さんの飼い猫なの?」
ほむら「い、いえエイミーは学校の近くの公園に住んでる猫なんです」
さやか「え?公園って学校から河原に出る所にある?」
ほむら「そうです!あそこのブランコの裏の植え込みに住んでるんです」
さやか「いや、さすがにそこまでは知らないけどさ。確かにあの公園で黒猫見かけたことはあるよ。この子がそうなの?」
ほむら「は、はい」
杏子「へぇ、こいつ野良なんだ。まぁ確かに首輪はないんだけどさ、その割に人馴れしてるよな」
マミ「そうよね、毛並みも綺麗だし人違いってことはないの?」
ほむら「あ、あんまり猫には詳しくないですけどこの子はエイミーです」
杏子「ふぅん。おい、エイミー」
みゃあ。
杏子「呼ばれて返事するくらいの自覚はあるみたいだな」
さやか「へぇ。けどほむらって動物好きだったんだ」
ほむら「動物好きって程じゃありませんけど、この子放っておくと事故にあっちゃうから…」
事故に?そうだ…この子が事故に遭うと……事故に遭うと?何でそんなことが?それに事故に遭うとどうなるの?
不意に思い浮かんだ言葉と思い出せない何かが思考を停止させる。
マミ「ねぇ佐倉さん。私もエイミー抱いてみたいんだけど」
さやか「あっ、あたしも、あたしも」
マミ「えっ、美樹さんちょっと待ってよ。私だって抱きたいんだから」
杏子「ちょっと待てって。こらお前ら、うおっ!?あ痛っ!」
そうだまず最初にエイミーを助けないとあの子が…あの子って誰?
…違う…あの子は私のただ一人の…私はあの子を助けるために…あの子との約束を守るために
さやか「あっ!エイミー!そっちベランダだって!」
杏子「おいっ!落ちたらどうするんだっ!早く捕まえろ!」
…でもどうして私はあの子のことを思い出せないの。…私の一番…いえ…たった一人の…私の
さやか「ちょっとほむらそこ危ない!」
ほむら「えっ!?きゃっ!!」
マミ「動かないでっ!レガーレ・ヴァスタアリ
アッ」
マミ「えっ?あれっ?エイミーは?」
杏子「あれ?あいつどこ行った?まさかベランダから落ちたんじゃ?」
ほむら「んっ!、んむぅっ!!」
さやか「ちょっとそんなどころじゃ、いやそれも大変だけど!マミさん!ほむらがぐるぐる巻きになっちゃってる」
ほむら「むぅ~む、んむ~っ!」
マミ「きゃあっ!!ご、ごめんなさい暁美さん!」
こうしてエイミーの参入によってお茶会はコントの様な終わりを告げた。
その後のことについて少し。
巴さんのリボンはエイミーにかわされ、その先にいた私をぐるぐる巻きに。エイミーはその隙に逃げたみたいだった。
「みたい」と言うのはエイミーがどうなったのかを誰も見ていなかったからで多分ベランダの窓から出ていったのだと思う。
ひょっとして落ちちゃったんじゃという心配は、周りにそれらしき様子がなかったので、多分大丈夫なのだろう。
みんなで周りを探しての結論だけど、みんな少なからずそうであって欲しいという気持ちがあったのは間違いない。
そして巴さんに縛られた私はそれが何かの壺に入ってしまったらしく、軽いパニックに陥ってしまった。
幸い、平謝りする巴さんとフォローを入れる美樹さん達のおかげで、昨日みたいなことはなく比較的早く落ち着くことが出来た。
ただ、それからしばらくの間、私は巴さんを見るとたまに身体が固まってしまう後遺症?に悩まされることになってしまう。
そして、それを見た巴さんが私にぎくしゃくと接してしまう何となく悪い流れが出来てしまった…のだけど、
それをネタに佐倉さんが巴さんいじりを始め、それを咎める美樹さんが佐倉さんが言い合いを始めるという別の流れが出来てしまい、
いつの間にか私と巴さんに協力してそれを止めるまでがワンセットになって、それが何回か続いた頃には、そんな後遺症はいつの間にか消えてしまっていた。
そんなこんなで私達は週に何回か集まってはお茶会を続けている。
そこは温かくて楽しくて、そして優しくて入院していた頃の私が望んだもの全てが詰まっていた。
…でも
私にはあの時エイミー?がこう言った様に聞こえた
「でも、あなたが本当に望んだものはここにないの」
その言葉はまるで胸に見えない棘が刺さった様に今もチクリと痛みが走らせていた。
* * * * * * * * * * * * *
今回の投下を終わります。
なんだか打ち切り最終回の年表エンドみたいになってしまいましたがちゃんと続きます。
投下します。
さやか「はい恭介。頼まれたの持ってきたよ」
恭介「ありがとう、さやか。ついでで悪いんだけど押してくれるかな?」
さやか「わかった。けど良いの勝手に表に出ちゃって」
恭介「一応許可は取ってるよ。裏の公園くらいだったら良いって」
恭介「あそこは日曜日に練習してる人もいるからね。場所としてはちょうど良いからね」
さやか「ふぅ~ん。やっぱり好きなことだと行動力が違うよねぇ」
そして私は恭介の乗った車いすを押していく。
恭介の背中おっきくなったよなぁ。あたしは昔のことを思い出しながら車いすを押していった。
ちょっと格好良くて弱虫な男の子。物心が付いた頃にはもう隣にいたような気がする。
家が近所で母親同士が昔からの知り合いだったのもあってよく一緒に遊んでいた。
でもいつの頃からかその男の子、恭介と遊ぶ回数はだんだんと減っていった。
よくある話だと男の子と女の子の間に何となく壁が出来てなんて所だろう。
けどあたしの場合は恭介がバイオリンの練習を始めるようになって遊べる時間が少なくなったからだった。
あたしはバイオリンに夢中になった恭介に嫉妬?した。でもあたしはそれを口に出すことも態度に表さなかった。
なんでも出来る(当時)さやかちゃんが弱虫な恭介に嫉妬するなんてことが恥ずかしく思えたからだった。
だからあたしは親に頼み込んでピアノを始めることにした。そうすれば開いてしまった恭介との距離が縮まると思って。
さやか「ねえ、きょう介。あたしも今度のはっぴょう会に出るんだよ。だからあたしのピアノ聞いてよね」
きょう介「さやかちゃんほんと?ピアノ習ったのってこの間じゃなかった」
さやか「だってきょう介といっしょにはっぴょう会に出たかったかられん習がんばったんだもん」
きょう介「さやかちゃんはすごいなぁ。なんでもすぐにできちゃうよね」
さやか「えへへ」
そしてあたしは恭介の前でピアノの演奏を披露した。
勘違いをしていたのは間違いないけど、それでも当時としては会心の出来だった。
今から考えても2,3歳年上の子供が弾いたと言っても信じてくれるくらいには上手く弾けたと思う。
きょう介「さやかちゃん、すごい。この間ピアノ始めたばかりなのにあんなにひけるんだ」
さやか「えへへ」
舞台裏で誉めてくれたのはお世辞だけじゃなかったと思う。
あたしは本当に嬉しかった。恭介が誉めてくれたから。離れてしまった距離が縮まった様な気がしたから。
けれどもその時は来てしまった。
拍手に包まれながら舞台に上がる恭介。
すっ。バイオリンを構える音が聞こえるかと思うほどの静寂が会場を支配する。
そしてバイオリンの音が響き渡る。
さやか「………………これが……きょう…介」
ちっぽけなプライドも恭介との距離が縮まった喜びも全てを押し流す程それはあたしの心に響き渡った。
音楽ってこんなにすごいものだったんだ。あたしは純粋に感動した。
その気持ちを伝えるため演奏が終わった恭介に声をかけようとした時、突然涙が溢れて伝えられなかった事を憶えている。
思えばずっと一緒に過ごして来た男の子が住む世界の違うお伽話の王子様の様に遠く感じてしまったのかも知れない。
ピアノはその後すぐに止めてしまった。自分と恭介の距離を映す鏡になってしまうからだ。
それ以来あたしは恭介と恭介のバイオリンに矛盾する気持ちを抱えて過ごして来た。
恭介がケガをした時も心から悲しむと同時に、今までより近くにいられる事を喜ぶあたしを確かに感じていた。
そして、そんな汚さにまた恭介に相応しくない自分を見てしまうのだった。
病院裏の大きな公園。人通りのないところで恭介が話しかけてきた。
恭介「ねぇさやか。ちょっとバイオリンを聞いて欲しいんだ」
さやか「恭介もう左手大丈夫なの?」
恭介の言葉に復帰を望む気持ちと近くにいられる今を望む気持ちが複雑に絡み合う。
恭介「うん。正直何とも言えないんだけどね。そう言うのも含めて聞いて欲しいんだ」
そして広い公園の片隅からバイオリンの音色が響き渡った。
恭介「……ふぅっ」
恭介がバイオリンを弾き終わった。でもこれって。
さやか「……」
恭介「……」
さやか「……」
さやか「……ねぇ、恭介……今の…演奏…」
恭介「やっぱり、わかっちゃうよね。うん多分さやかが思ってるとおりだよ」
さやか「…やっ…ぱり」
恭介「うん。確かに指は治ったんだけどね。小指と薬指が前みたいに動かないんだ」
さやか「……」
恭介「あと、演奏してみてわかったんだけど、あんまり長い時間も弾けないみたいだね。今も少し手が痙攣してる」
さやか「……恭介…せっかく指治ったはずなのに…これじゃ」
恭介「…心配しなくていいよ、さやか」
恭介「二度と動かないって言われてた大ケガだったんだ。少しくらい後遺症が出てもしかたないよ」
恭介「どっちかと言えば、そんなケガをしたのに、ちゃんと演奏出来るまで治ったんだからありがたいくらいだよ」
さやか「…」
さやか「…ねぇ恭介…ほんとに大丈夫なの?」
恭介「何が?」
さやか「…だって恭介…あの時…あんなに」
恭介「…そうだね」
恭介「…さやか。改めてになるけどあの時は当たり散らしてごめん。言い訳にもならないけどあの時僕はどうかしてた」
さやか「…恭介」
恭介「もう大丈夫だよ。ちょっと後遺症は残ってるけど、僕はまたバイオリンが弾ける様になったんだ」
恭介「もちろん前みたいに弾けないのは悔しいよ。でも僕の手は動かないわけじゃない」
恭介「腐ってる暇があったら、前みたいに演奏出来るように少しでも練習するよ。今はそれだけで十分だよ」
さやか「ほんとに…ほんとのほんとに」
恭介「うん。さやか、いろいろ心配してくれてありがとう」
恭介「さやかにはバイオリン馬鹿とかキリギリスとか散々言われたけどさ、やっぱりそれは当たってたみたいだね」
恭介「バイオリンが弾けるってことがわかったらね。今は練習したくてたまらないんだ。だから大丈夫だよ」
笑う恭介の顔が滲んでいく…良かった…事故に遭う前の……無神経でバイオリン馬鹿の恭介だ。
恭介「えっ!さやか!どうしたんだい、さやか!」
…良かった…マミさんありがとう…恭介ちゃんと帰って来られた
…良かった…本当に良かった…マミさん、杏子、本当にありがとう…良かった…本当に良かった。
さやか「ごめんね、恭介。突然泣き出したりして」
恭介「こっちもごめん。僕が当たり散らしたから思ってた以上にさやかに心配かけてたんだね」
さやか「…違うよ」
恭介「えっ?」
さやか「ううん」
さやか「うん、大丈夫。恭介ってほんとのバイオリン馬鹿だからね」
さやか「すぐに元みたいに弾けるっていうか、まだ病み上がりなんだから無茶しちゃだめだよ」
さやか「倒れるまでバイオリン弾いててまた入院とかしないでよね」
恭介「…そんなこと…大丈夫だよ」
さやか「…」
恭介「…たぶん」
さやか「『たぶん』じゃないでしょ!」
恭介「ごめん、ごめん」
さやか「もう」
恭介「あ、そうだ!さやか、あの約束ちょっと待って欲しいんだ」
さやか「約束?」
恭介「ほら、暁美さんと来た時『退院したらバイオリン聞かせてね』って言ってただろ」
さやか「さっき聞かせてもらったのじゃないの」
恭介「違うよっ!」
さやか「えっ…」
身体がびくりと震える。
恭介「あっ…ごめん」
恭介「大声出してごめん。あんなのじゃなくてちゃんとした曲を聞いて欲しいんだ」
さやか「…恭介」
恭介「…うん…あぁは言ったけどやっぱりね。前みたいに弾けないのは悔しいんだ」
恭介「でも努力して乗り越えたいのも本当なんだ」
恭介「だからあの約束はしばらく待って欲しい。僕が納得出来る演奏が出来るようになったら一番にさやかに聞いて欲しいんだ」
さやか「…恭介…うん、わかった」
恭介「それでさ、とりあえず一曲を集中して練習しようかと思ってるんだ。何かリクエストあるかな?」
さやか「…」
さやか「…アヴェ・マリア」
さやか「バッハのアヴェ・マリアがいい」
恭介「うん。わかった。出来るだけ早く聞いて貰える様に頑張るよ」
さやか「うん。でも無理はやめてよ」
さやか「あたしにはケガとか演奏の出来とかわからないけど恭介が誰よりバイオリンが好きなことは知ってる」
さやか「だからあたしは恭介が元みたいに演奏出来るって信じる。っていうか出来るまで練習やめないのが恭介なんだよね」
さやか「だからほんとに無理はだめだよ。また無理して練習してまた入院なんてほんとに怒るからね」
恭介「うん。ありがとうさやか。それも大丈夫だよ。バイオリンが弾けないなんてもう二度とごめんだからね」
恭介「とりあえずしばらくの間はリハビリを兼ねながら気長に練習していくよ」
さやか「うん。じゃあ帰ろっか」
恭介「…うん。そうだね」
あたしは再び恭介の車いすを押して歩き出す。
あたしは恭介が前みたいに演奏出来ることを心の底から望んでいる。
けれども恭介が入院して、あたしの手の届くところにいてくれる事を喜んでいるのも本当のことだ。
あたしがほとんど毎日恭介のお見舞いに来てたのはあたしが恭介の側に居たかったから。多分それだけなんだ。
恭介ごめん。あたし恭介に感謝して貰える様な女の子じゃないんだ。
でも恭介は無理をして練習して、すぐに前みたいな演奏が出来るようになるんだよ。
そしてまたあたしの手の届かないところに行ってしまうんだ。
だから今のこの状態をちょっと喜んでるあたしのこと許してね。
あたしは恭介の背中を見つめながらそんなことを考えていた。
恭介との距離をもう少し縮められたらずっと一緒にいられるようになるんだろうか?
けれどもその思いはピアノの時の様に裏切られることが恐くて表には出せなかった。
* * * * * * * * * * * * *
なんだここ???バレーボール???あれはマミとほむらだよな??え~と夢かこれ?
マミ「暁美さんっ!!これくらいでへばってどうするのっ!!」
ほむら「巴先輩っ!!私はまだ大丈夫ですっ!!私をもっと鍛えて下さいっ!!」
……なんだこのスポ根
マミ「それでこそ暁美さんよ。さあ!あなたの秘められた全力見せてみなさいっ!!」
ほむら「巴先輩っ!!これが私の全力スパイクですっ!必殺ひぐま落としっ!!」
ほむらは上空で一回転し、反動でボールを打ち下ろす。
がおー
打ち下ろされたボールは羆に姿を変えてマミに襲いかかる……って、おいっ!!あたしはどっから突っ込んだらいいんだ?
やり場のない突っ込みが霞がかった頭をゆっくりと覚醒させていく。
杏子「…え?あぁ寝ちまってたのか」
…えっと確かバイトの後…マミとほむらの特訓に付き合って…それからマミがほむらに魔法講座みたいなの始めて
それで寝ちまったのか…えっと毛布が掛かってるってことはマミが
マミ「あら佐倉さん目が覚めた」
杏子「…あぁ悪い寝ちまったみたいだな…ほむらは?」
マミ「送って行ったわ。泊まって貰っても良かったんだけど遠慮されちゃったの」
マミ「最近、訓練厳しくしてるからやっぱり怖がられてるのかなぁ。なんだか暁美さんとは上手く距離が取れてない気がするのよね」
杏子「違うよ気にすんな。ほむらはさやかに遠慮してるんだ。マミん家に泊まったことすごく羨ましがられたとか言ってたしな」
杏子「魔法少女ってだけで自分がここに入り浸ってあたしらとさやかに壁が出来るのが嫌なんだよ」
マミ「そうだと良いんだけど」
杏子「けどそんなに気にすんならもう少し訓練を緩くしてやったら良いんじゃねぇの?」
杏子「たしかに眼鏡の時はあれだけど変身した時はあたしとだって互角に戦える腕だし」
杏子「それに加えて時間停止って反則魔法だぜ。その気で戦ったらマミだって勝てるか怪しいんじゃないか?」
杏子「てかなんでほむらにあんな訓練してるんだ?そういやあいつの魔法調べたりもしてたけど、なんかあるのか?」
マミ「…暁美さんのことはわからないことが多すぎるの…正直何でって言われると答えがないのよね」
杏子「だからってマミだって必要ないと思うことはしないよな」
マミ「…佐倉さんは暁美さんの魔法についてどれくらい知ってる?」
杏子「時間停止だろ。自分と自分に触れているもの以外の時間を止める」
マミ「そうね。それでどうやって時間を止めてるかだけど暁美さんの左手の盾が砂時計になってるのよ」
杏子「砂時計?あの砂が落ちていくやつ?」
マミ「ええ。暁美さんのは光る砂が落ちてるんだけど、その流れを堰き止めると時間が止まるの」
杏子「へぇ。そんな仕組みだったんだ」
マミ「最初に会った時、砂は9割くらい残ってたの。でも今はもう6割くらいしか残ってないのよ」
杏子「んっ?最初9割で今が6割?砂がなくなって行ってるのか…おい、まさか!」
マミ「…わからないわ。意外と砂がなくなったらひっくり返ってもう一度使える様になるのかも知れないわね」
マミ「けれども砂がなくなったら時間を止められなくなる可能性の方が高いと思ってるの」
マミ「以前暁美さんが時間を遡ってるって話をしたと思うけど、もし砂のなくなった砂時計をひっくり返したらどうなるのかしら」
杏子「過去に遡るっていうのか」
マミ「ええ。最悪、私の予想が当たったとしてもクールな暁美さんなら魔法なしでも何とかやっていけるとは思ってるのよ」
マミ「でも時間停止が使えない、クールな暁美さんになれないことがあれば、それを乗り越えなきゃならないのはあの暁美さんなのよ」
杏子「あぁ」
マミ「どっちにしても暁美さんは魔法少女に関わり過ぎてるわ。関係した以上力がなきゃ生きては行けないのよ」
杏子「だから訓練が必要ってことか」
マミ「ええ」
杏子「くそっ!!けどなんでだ。そりゃあ時間停止なんて強すぎだけど期間限定なんて使い物にならねぇじゃんか」
マミ「普通に考えればそうなんだけどね」
杏子「普通じゃないだけの理由があるのか?」
マミ「これもわからないわ。けど『時間停止なんて魔法が必要なくらいの何か』があったとしたらどうかしら」
杏子「なんだよそれ」
マミ「悪い想像なんだけど聞いてくれる」
杏子「ああ」
マミ「未来、または平行世界で暁美さんは大きな何かに巻き込まれた」
マミ「それを乗り越える、またはそれによる被害を回復するために暁美さんは契約して過去に戻った」
マミ「そしてその何かを乗り越える過程で私達と関わりを持った。けど目的を果たせずに何度も同じ時間を繰り返している」
マミ「今現在の暁美さんの現状についての私の予想よ」
杏子「まぁ説得力はあると思うぜ」
マミ「ええ…けど」
杏子「それだと、あいつがまだ魔法少女の素質を持っている説明にはならないって訳だ」
マミ「そうなのよね。ほんと、暁美さんについてはわからないことが多過ぎるのよね」
杏子「ただまぁ悪い想像ってのは何となく予想がつくな」
杏子「つまりはほむらの砂時計が尽きる頃にその何かが起こる訳だな」
マミ「…そう言うことだと思う」
杏子「6割って言ってたけど見立てで何日くらいだ?」
マミ「2週間ちょっとね。実際にどうなるかわからないけど、そのころには動きがあると思うわ」
杏子「それまでには色々やらなきゃならないことがありそうだな」
マミ「そうね。声をかけようと思ってたんだけど佐倉さんもいっしょに訓練する」
杏子「そうだな、ちょっとは顔出しといた方がいいかもな」
杏子「……そうだな…マミ。あたし明日風見野に行ってくるわ」
マミ「…ご家族のところ?」
杏子「まぁそんな話を聞いちゃうとな。しばらく顔出してないし、何かがあったら行けるかどうかもわからないしなぁ」
マミ「どうする?手がいるなら手伝うけど」
杏子「う~ん。今回は止めとく。そうだな一ヶ月後くらいにもう一回行くつもりだからその時頼むわ」
マミ「ええ、わかったわ。じゃあ一ヶ月後にね」
杏子「あぁ一ヶ月後にな」
今回はこれで終了です。次回は杏子のエピソードで。
今回の話が捗らないうちに結構書きためが進んだのでそんなに遅くならない…と思います。目処は土曜日前後のつもりです。
投下します。やっぱり予定よりは遅くなるなぁ。
杏子「おい。何してんだおまえら?」
突然かけられた声に心臓が跳ね上がる。
さやか「うわあっ!」
ほむら「ひゃいっ!」
振り向けばそこには両手に紙袋を手にした佐倉さんが立っていた。えっ!?確か前を歩いてたはずなのに??
さやか「きょ、杏子!?なんで?確か前に!?」
杏子「は~ぁ。やっぱりかよ。あたしのことつけてやがったんだな」
さやか「えっ!やばっ!え~と」
ほむら「す、すみません。悪いとは思ったんですけど」
さやか「こらっ!違うほむら。偶然だよ偶然」
杏子「偶然なわけねぇだろ。自分で『確か前に』とか『やばっ!』って言ってただろ」
さやか「そ、そんなこと言ってたっけ?」
杏子「誤魔化さなくてもいいって。どうせ荷物抱えたあたしを見かけて普段何してんだろ、ちょっとつけてみようってそんなところだろ」
ほむら「はい。全くその通りです。ごめんなさい」
さやか「ほ、ほむらっ!ちょっと……い、いやぁ、その」
杏子「あったく」
さやか「あはは…ごめん」
杏子「お前ら本っ気で暇なんだな」
ほむら「いえ、そんなことはないんです」
ほむら「明日までの課題があって今から美樹さんと図書館に行かなきゃならないんですけど」
さやか「ほむら、ちょっと待ってよ。ねぇ杏子。杏子はなんか用事があるの?」
杏子「用事?なんでだ?」
さやか「いや手伝える事だったら手伝おうかなって思ってさ」
杏子「お前らこれから図書館じゃなかったのか?」
ほむら「そうですよ美樹さん」
さやか「いや、あたしってさ追い込まれないと勉強とか出来ないんだよね。朝から勉強ってなったらかえって捗らないと思うんだよね」
さやか「だったら朝だけでも別の事したいんだよね。さすがに遊ぶのはどうかと思うけど手伝いとかだったらいいじゃん」
さやか「ほむらだってマミさんや杏子には助けられてるでしょ。だったらこの機会に何か手伝ってもいいんじゃない」
杏子「要するに朝から勉強はしたくない、あたしのプライバシーに興味があるからついてきたいってことだな」
ほむら「ああっ!なるほど!」
さやか「な、なに言ってんのよ杏子。人の善意は疑っちゃだめだよ」
杏子「ふむ。確かに人手はあった方が助かるんだよな」
さやか「へ?」
杏子「やる事は掃除と雑用。遅くても午前中には終わる」
杏子「それでいいんだったらいいぜ。ついて来いよ」
さやか「いいの?」
杏子「何が?」
さやか「いや、一緒に来るかとか言われると思ってなかったから」
杏子「まぁ、見せびらかすもんじゃないし、そんなに楽しいもんじゃないんだけどな」
杏子「けど、こっちに関わるならいつかは向き合わなきゃならない話だからな。ちょうどいいんじゃね。来いよ」
さやか・ほむら「「?」」
* * * * * * * * * * * * *
そこは隣町の外れにある静かな森の中だった…来た事はないはずなのに…この道は
ほむら「…この先を曲がったところ…確か…教会?」
杏子「へぇ。来たことあんのか?」
ほむら「…いえ…なんとなく」
杏子「時間を繰り返す…か。結構マジかもな。当たりだよ。その教会が目的地だ」
さやか「へぇ、杏子が教会ってなんか意外かも」
杏子「……まぁそうだろうな」
杏子「あぁ、そうだほむら。あたしここじゃ佐倉杏子じゃなくて巴杏子で通ってるからな」
杏子「『佐倉さん』ってのは止めてくれよな」
ほむら「え?巴杏子?」
杏子「あぁ。事情は後で説明するから『佐倉さん』って呼ばないことだけ少し気に留めてくれりゃいいよ」
その教会は森を入って少しのところ、木々が途切れるそこには私の知らない綺麗な花に囲まれた教会が建っていた。
「杏子お姉ちゃん!!」
教会の前で花に水をやっていた女の子が嬉しそうにかけてくる。私達より少し年下の女の子だった。
杏子「よう、モモ。元気してたか?」
モモ「うん!」
杏子「そっか。ほい、これは土産だよ」
モモ「杏子お姉ちゃん。いつもありがとう」
杏子「良いって。いつも頑張ってんだからたまにはご褒美がなきゃ寂しいじゃん」
佐倉さんは普段とはまた異なる優しい顔で女の子と話をしている…なんだか姉妹みたい。
姉妹?何かが引っ掛かって考え込んでしまう。気がつくと女の子が私の顔をのぞき込んでいた。
モモ「杏子お姉ちゃん。この人たちは」
杏子「あたしの知り合いだよ。こっちの背が高いのが美樹さやか。こっちの眼鏡でお下げが暁美ほむらって言うんだ」
さやか「こんにちわ。モモちゃん」
ほむら「はじめまして。暁美ほむらです」
モモ「こんにちわ。佐倉モモです」
さやか・ほむら「「!!?」」
私達の視線はその名前に弾かれた様に佐倉さんに集まってしまう。
杏子「モモ。今日はこの2人も手伝ってくれるんだ。神父さんに今日の用事聞いてきてよ」
モモ「うん。わかった。お父さぁ~ん!杏子お姉ちゃんがきてくれたよぉ~っ!」
元気な声が教会の中に駆け込んでいく。
杏子「まぁ詳しい説明は後でするけどさ。この教会はもともとあたしん家であいつはあたしの妹……だった」
杏子「今は町はずれに住んでるお人好しな神父さん一家と教会に良く来るお姉ちゃんって関係だけどね」
さやか「…なんで」
杏子「話すと長くなるからな。事情は後で説明するよ」
杏子「教会の掃除やら手伝いが終わってからな。興味本位でついて来たんだからその分くらいは働いて貰うからな」
* * * * * * * * * * * * *
教会での掃除や草刈りが終わると神父さんの家でお昼をよばれることになった。
そこで私がミッション系の学校に通っていたことが話題に出て、そこから奥さんの伴奏でモモちゃんと私達4人で賛美歌を歌うことになった。
モモ「お姉ちゃんたちまた来てね~」
元気な声が聞こえなくなったころ美樹さんが口を開いた。
さやか「ねぇ、杏子」
杏子「事情の説明だったな。と言ってもそんなに大層な話じゃないんだけどな」
杏子「見ての通りあたしの親父は教会の神父なんだけど、あの教会どう思った?」
さやか「あたしは教会とか詳しくないからよく分からなかったなぁ」
ほむら「綺麗な教会でしたよね。でもあんまり人がいなかった様な」
杏子「うん。あたしもあの場所は気に入ってるんだけどね。でも人が来るには不便だと思わないか?」
さやか「そう言われてみればそうだよね。なんであんな所に?」
杏子「うちの親父はわりと大きな教会で神父をやってたんだ。まぁ人望もあったみたいだし有望株ってやつだったみたいだね」
杏子「けどある時、新しい時代を救うには新しい信仰が必要だって考えてさ、教義にない事まで説教する様になったんだ」
杏子「それで胡散臭い新興宗教扱いされて、本部から破門されちまったんだよ」
ほむら「それであそこに?」
杏子「あぁ。そりゃあ胡散臭い新興宗教の教祖に教会を貸してはくれる宗派なんてないだろうな」
杏子「まぁそれでも救いの手を差し伸べてくれる人もいて、何とか住まわせて貰えたのが、あの教会なんだ」
杏子「……教会の植え込み結構綺麗だったろ」
ほむら「はい」
杏子「こんな教会まで来てくれた人に少しでも喜んで貰おうって親父と母さんと私とモモの4人で造ったんだ」
杏子「まぁ、そういう事もあって、生活は苦しくなったけどあの教会に住むことはあたしもモモも喜んでたんだ」
杏子「でもあたしは親父の言う事を誰も聞いてくれないことには納得出来なかった。なんで正しい事を言ってるのに誰も聞いてくれないんだろうってね」
杏子「そんな時あいつがあたしの所にやってきたんだ。僕と契約して魔法少女になってってな」
杏子「それであたしはあいつに頼んだんだ。みんなが親父の話を真面目に聞いてくれます様に、って」
さやか「…でも、じゃあ何であんたはあそこにいないの?お父さんのために祈ったあんたが家族と離れて暮らしてるの?」
さやか「そんなんじゃ願いなんて全然叶ってないじゃない」
杏子「願いは間違いなく叶ったよ。けどそれがあたしや家族の幸せには繋がらなかったんだ」
さやか「それじゃわかんないよ」
杏子「……あたしの願いのおかげで翌朝には教会は人でごった返してた」
杏子「生活も楽になったけど、あたしは親父の言う事をみんながちゃんと聞いてくれる事が嬉しくて仕方なかった」
杏子「…けれどある時カラクリが親父にバレた。それから親父はふさぎ込む様になったんだ」
さやか「杏子は悪くないでしょ。人を騙したんじゃない。正しい事を聞いて貰いたかっただけでしょ」
杏子「あたしもそう思ってた。それで親父に全部話した。契約の事、願いの事、魔獣の事全部ね」
杏子「…たぶん親父はあたしの言ったことを分かってくれたと思うよ」
杏子「でも親父はこうも言ったんだ『魔法で全部解決するのなら私達のしてることって一体何なんだろうね』ってね」
杏子「親父はあたしを責めなかった。けどあたしの願いは親父がやってる事を無意味なものにする類のものだったんだろうな」
さやか「…そんなのって」
杏子「それでも親父は教会での説法は続けてたんだ。魔法が切っ掛けでも正しい事を伝える意味はあるはずだって自分に言い聞かせて」
杏子「でも内心いろいろあったみたいでさ、ある日親父は魔獣に魅入られちまったんだ」
杏子「部屋を開けたら魔獣が運んできた負の感情と酒の臭いがきつかったな。その時親父に『お前は人の心を惑わす魔女だ』って罵倒されたんだ」
ほむら「…でもそれは魔獣のせいです…お父さんはそんなこと」
杏子「まっ、あたしの家族に手を出した魔獣はそっこーでバラしてやったんだけどさ」
杏子「けど、素面になった親父があたしを罵倒した事を憶えててね『私は何て事を』ってまた落ち込んじまったんだよな」
ほむら「…」
杏子「それから親父は罪の意識に苛まれて酒に溺れるようになっちゃってね。ある時あぁもうこれは持たないなってね」
杏子「それで家族から関係者全員の記憶を消してマミんところに転がり込んで今に至るってのがあたしの事情だ」
さやか・ほむら「「……」」
杏子「はぁ。やっぱり不幸自慢みたいになっちまったなぁ」
私達の間を沈黙が漂う。森の木々が切れる頃、美樹さんが口を開いた。
さやか「ねぇ、杏子。人のために何かを願う事って間違っているのかな?」
杏子「あたしは自分の願いが悪い事だとは思ってないよ」
杏子「でも他人の都合を知りもせず、自分の正しさを押し付ける様な願いは、どっかに『間違い』があるんだろうな」
さやか「…」
杏子「そんな顔すんなよ。あたしは間違った、あんたは間違わなきゃ良いんだよ」
杏子「あんたの坊やのケガは全快とはいかなくても確かに治ったんだ。奇跡や魔法に頼らなくても出来る事はいくらでもあるさ」
さやか「…それを話すためにここに呼んでくれたの?」
杏子「…どうだろうな…正直わかんね」
杏子「ただ、まあ魔法少女になって願いを叶えてそれが幸せに繋がったしても魔法少女としての運命は変わらないよ」
杏子「もし親父があたしを受け入れてくれたとしても、魔獣とは戦わなきゃならなかったし、今頃消えちまってたかも知れないんだ」
杏子「そうなってたらあたしの家族は今より辛い気持ちで過ごしてたかもしれないな」
杏子「魔法少女になるってそういうことなんだよ」
さやか「…」
さやか「…杏子は魔法少女になったこと…後悔してるの」
杏子「…全く後悔してないって言ったらまぁ嘘だろうな」
杏子「あたしの願いはあたしが願った幸せに結びつかなかったし、契約が原因で家族と暮らせなくなったんだからな」
さやか「…」
杏子「でも、あたしの家族があの時より楽に暮らせてるのも確かだし、あたしは家族と暮らせなくなったけど家族をなくした訳じゃない」
杏子「魔法少女としての暮らしに満足も感じてるし、お人好しな同居人付きの家にも転がり込めたしな」
杏子「あたしがあの時に戻ったとして契約するか悩むくらいには魔法少女になって良かったと思ってるのも確かだよ」
さやか「…」
杏子「まぁ、あんまり深刻に考えんな。奇跡に頼る前に出来る限りのことをしてりゃ大概はなんとかなるもんさ」
杏子「奇跡や魔法なんてその後にどうしようもなくなってから考えりゃ良いんだよ」
さやか「…うん」
杏子「あ~あっ」
佐倉さんが突然大声を出す。
杏子「なんか湿気った空気になっちまったな」
杏子「よしっ!今日はあんたらに色々手伝って貰ったからな。あたしもあんたらを手伝ってやるよ」
さやか「手伝う?何を?」
杏子「確か図書館が何とか言ってなかったか?」
さやか・ほむら「「あ~っ!!」」
さやか「やばっ!!もうこんな時間じゃん」
ほむら「だ、大丈夫です。図書館が閉まるまでまだ2時間くらいあります」
さやか「けど図書館まで20分くらいかかるよ」
ほむら「で、でも佐倉さんも手伝ってくれるって」
美樹さんがすがる様な目で佐倉さんを見つめる。
さやか「…杏子、ひょっとして勉強得意?」
杏子「んな訳ないじゃん。こう見えて小学校中退なんだぜ。あんたらがサボらない様ちゃんと見張っててやるから思う存分頑張ってくれ」
さやか「なによそれ!そんなの手伝いでも何でもないでしょ!」
杏子「追い込まれた方が捗るんだろ。逃げられない様に見張っててやるよ」
さやか「何?何で?さっきまでのマジな空気はどこ行ったのよ」
杏子「あきらめろ。今のあんたらにはそんな空気にひたるより、課題を済ませる方が大事ってことだ」
さやか「うぅ~こんな事になるんだったら後なんかつけなかったのに~」
杏子「嘘つけ。つける気満々だったじゃねぇか。」
その後私達は鬼佐倉の監視の下、私の家で膨大な課題に取り組む事になってしまった。
課題は夜7時前に終わった。
思った以上に早く終わったのは佐倉さんが何か魔法でサポートしてくれていたからだろうか。
後日、美樹さんにそのことを話すと
さやか「あ~、ありそうだよね。確かにあの時あたしにしたら出来過ぎだったんだよね」
さやか「けどどっちにしても杏子は絶対認めないだろうなぁ」
真偽のほどはわからないので、巴さんの家に遊びに行く時に二人でアップルパイを買って行った。
巴さん達二人に少しでもお返ししなきゃという流れだったのだが、その日はいつもの倍のお菓子を食べることになってしまった。
苦しかった。みんなは何で平気なんだろう?
今回の投下は終了です。次は年明けの土日くらいに間に合わせたいなぁ。日常編か戦闘回のどちらかの予定です。
投下します。
* * * * * * * * * * * * *
河を横切る道路の下で向き合う2人の女の子。あれは巴さんと私?
私が知っているより険しい表情の巴さんがきびきびとした動きで銃を構える。
私はおどおどとぎこちなくその動きをなぞっていく。
銃口を低くく構えたまま走り、立ち止まると同時に銃を構えて激鉄に指をかける。
激鉄から指を外すと共に走り出し、立ち止まると同時に方向を変えて再び両手で銃を構える。
走っては銃を構える動きの連続、巴さんは時折ぶれた銃身を私の身体の中心にそろえる。
単純だけどその時の私には複雑で理解出来なかった動きが何度も何度も繰り返されていく。
際限なく続くかと思われたそれは巴さんの一言により終わりを告げる。
マミ「良いわ、暁美さん。終わりにしましょう」
ほむら「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……はぁ……………はぁ」
ほむら「…………はぁ…………はぁ………巴…さん……どう…でしたか?」
マミ「はっきり言ってまだまだよ」
ほむら「………そう………ですか」
マミ「もっとペースをあげて行かなきゃ。まだ基本中の基本の段階なんだから」
マミ「…でも、最初に比べればだいぶ形になってきたわ。大丈夫。少しずつだけどちゃんと前進してるわよ」
ほむら「………ありがとう…ございます」
そうだ私は巴さんの特訓を受けたことがあったんだ。
……あの時………美樹さんを巻き込まない様に銃を使うことにして。
……………でもあの時………誰かと…巴さんに…
覚えのない記憶に感じた違和感は、その場にいたもう一人によって確定される。
「マミさんっ!ほむらちゃん!お疲れ様っ!!」
2人の訓練を見ていた『私』が駆け寄って巴さんと私にスポーツドリンクを差し出す。
………私が?……私に?……違う………これはあの時いた誰かの視点なの?
マミ「ありがとう。 さん」
ほむら「……はぁ…ありがとう…ございます…… さん」
その名前はそこだけが抜け落ちたかの様に聞こえない。
「大変な時にごめんなさい、マミさん。ほむらちゃんに銃の使い方を教えてくれてありがとうございました」
マミ「…良いのよ、 さん。美樹さんに言われて、暁美さんが頑張ろうって思ったんでしょ」
マミ「先輩だもの。後輩が頑張ろうって時に休んではいられないわよ」
「私がもっとしっかりしてたら良かったんですけど、私じゃ本物の銃の使い方なんてちょっと」
マミ「良いのよ。あんまりふさぎ込んでても気分は晴れないし」
マミ「どっちかと言えば暁美さんとの特訓で汗をかいたらちょっとすっきりしたもの。誘って貰って良かったくらいよ」
「……マミさん……ほんとにありがとうございました」
ほむら「すみません。巴さん」
マミ「だから良いわよ。2人とも」
「……ねぇ、マミさん」
マミ「なあに さん」
「私、絶対全部上手く行くと思うんです」
「さやかちゃんも杏子ちゃんも意地っ張りだから喧嘩になっちゃったけど2人とも悪い子じゃないです」
「だから、絶対全部上手く行くと思いますす」
マミ「……そうね。きっと上手く行く。そうよね」
マミ「ありがとう。 さん」
「はいっ!マミさんっ!」
……これは夢……違う……多分、私が繰り返した時間のひとつ。
じゃあ、私と巴さんと話してる『私』は誰なの?
そして巴さんが帰った後、私と『私』で再び教えて貰った動きを何度も繰り返していた。
目を覚ますと病院でのあの朝の様に涙が止まらなくなっていた。
* * * * * * * * * * * * *
河を横切る道路の下、2人の少女が滑らかな動きでめまぐるしくその位置を入れ替えていく。
杏子「……へぇ」
さやか「……」
互いに相手が伸ばす手を払い、正面を避け側面に回り込む。
相手の意図を挫こうとする協調性とは無縁の動きは何故か息のあった社交ダンスの様にも見える
マミ「暁美さん、本気で行くわよ」
ほむら「はいっ!」
言葉を境に動きは加速し始め、円の動きから前に出る直線的な動きの比重が増えていく。
そしてそれは最高速の中2人がお互いを指さした時、唐突に終わりを迎えた。
ほむら「………はぁ…………はぁ……はぁ」
マミ「……ちょっと恐いくらいね」
マミ「文句なしよ。休憩にしましょう」
ほむら「……っ…はい」
さやか「お疲れ。マミさん、ほむら」
ほむら「……はぁ…ありがとう……ございます」
マミ「ありがとう美樹さん」
労いの言葉と共にスポーツドリンクが差し出される。
夢の中の「私」を思い出して何故か胸がちくりと痛む。
杏子「1週間だったか?」
マミ「明日でね。佐倉さんがついて来れる様になったのが10日と少しだから、相当に早いんだけど……ねぇ」
杏子「何か問題でもあるのか?」
マミ「身体の使い方に関しては文句なしなんだけど魔法の方がちょっと伸び悩んでるのよ」
さやか「そうなんですか?ほむらって意外に体育会系なのかな?」
ほむら「……あの……巴さん……美樹さん……えっと、佐倉さんも」
マミ「何かしら暁美さん」
さやか「ん?」
杏子「なんだ?」
ほむら「……あの…ここにいる4人を知っている共通の友達……ひょっとしたら魔法少女って心当たりありますか?」
マミ「?」
さやか「?」
杏子「……ほむらの記憶の関係か?」
ほむら「はい」
そして、ここでの特訓を受ける様になってから見る様になった夢のこと、その中で私達4人の共通の友人らしい『私』について説明を始める。
マミ「う~ん」
さやか「ちょっとわからないなぁ」
杏子「魔法少女ってのは確かなのか?」
ほむら「…それは…ちょっと」
マミ「ねぇ。その『私』の特徴で憶えてることないかしら?」
ほむら「…それが自分だから髪型とかよくわからなくて」
ほむら「…見滝原の制服だったから同じ中学校で…多分私より背が低かったと…それから」
マミ「例えば、話し方とか、口癖とかならどうかしら?」
ほむら「…口癖?」
杏子「じゃあ、その『私』はあたしらのことどう呼んでた」
ほむら「あっ!」
さやか「なんか思い出したの?」
ほむら「いえ、その巴さんのことは『マミさん』って呼んでたんですけど、私のこと『ほむらちゃん』って」
さやか「中学校で『ちゃん』付け?けっこう珍しいかもね」
ほむら「そうです!美樹さんのこと『さやかちゃん』、佐倉さんのことも『杏子ちゃん』って呼んでました!」
さやか「…杏子ちゃん?あはははっ」
杏子「あぁっ!何がおかしいんだっ!」
さやか「あ、ごめん、ごめん。なんか響きが予想外に可愛くってツボにはいっちゃった、ごめん」
杏子「ったく」
さやか「ていうか杏子のこと『杏子ちゃん』って呼べるって、その『私』かなり天然か、大物かもしれないね」
杏子「あたしをそう呼ぶのが、何で天然とか大物になるってんだ?ひょっとして喧嘩でも売ってるのか?」
マミ「けどそれは特徴として絞りやすいかも知れないわね」
マミ「美樹さん、佐倉さん。あなた達の周りでだれかを『ちゃん』付けで呼ぶ知り合いっている?」
さやか「う~ん?」
杏子「あたしはいないぞ。幼稚園やら小学校に入り立てくらいならいたけど、今じゃ一人も付き合いないしな」
ほむら「美樹さんは?」
さやか「う~ん?なんか心当たりがある様な気はするんだけど、今はいないなぁ」
マミ「心当たりって何かあるの?」
さやか「…いや…確か昔、仲が良くて…アメリカかどこかに転校した子が『さやかちゃん』って…え~と」
杏子「思い出せないのか?薄情な奴だな」
さやか「ええっ?なんでだろ?確か、え~と?え~と?」
けっきょく誰もその『私』に心当たりがないことだけしかわからなかった。
今回はこれで終わりです。
散々遅れたあげく短くてすみません。次は土~月くらいに何とかします。
投下します。
マミ「そんなに緊張してたら魔獣と戦う前に倒れちゃうわよ」
ほむら「は、はい。で、でもやっぱり魔獣と戦うって考えるとちょっと怖くて」
マミ「だったら変身しておく?」
ほむら「そ、それが緊張しちゃって変身出来ないんです」
マミ「困ったわねぇ」
杏子「ほむら、ほむら。いっぺん深呼吸してみな」
ほむら「え、は、はい」
杏子「息を吐くと同時に力を抜いて」
ほむら「は、はい」
ふぅ~~っ。全身の力と空気がゆっくりとはき出される。
杏子「よし、息を吸う時に力がみなぎってくるイメージでもう一回深呼吸」
ほむら「はい」
杏子「それを3回くりかえして」
ほむら「はい」
杏子「よし!変身!」
ほむら「はいっ!」
杏子「ダメもとだったんだけどな。なぁ、ほむら。普段、素直過ぎっていうか、ちょろすぎとか言われたことないか?」
ほむら「……そうね……気をつけるわ」
マミ「あら素直って大事な事よ。佐倉さんも昔はもっとかわいかったのになぁ」
杏子「聞かなくていいぞ、ほむら。素直は大事だけど相手は選べって話だからな」
マミ「あら聞き捨てならないわね。師匠の言うことくらい」
ひゅぅぅぅぅぅぅぅぅ
突然、三人の足下に冷たい障気が流れこむ。
杏子「…おい」
マミ「ええ、佐倉さんお願い」
杏子「「「あぁ」」」
金髪の少女を中心に2本のリボンが地面に渦を書き、三人に分かれた赤髪の少女が正面と左右に展開する。
マミ「暁美さんは後方をカバーして。えっ?」
突然突き出された手に戸惑いの声が漏れる。
ほむら「手を掴んでいて。異常があれば時間を止めるから」
マミ「わかったわ。でも本当に危険な場合は自分の安全が最優先よ。フォローはするけど絶対なんて言えないから」
杏子「「「おいっ!!何か近づいて来る。気ぃつけろっ!」」」
気配は時が過ぎると共に大きくなっていく。
しかし辺りに立ちこめる陰はわずかな揺らぎも見せず、音は陰に吸い込まれ物音ひとつ聞こえない。
ただ暗く冷たい障気だけが気配を感じた時と同じに足下に流れ込む。
杏子(ちくしょう。気配は大きくなってるのに全く姿が見えねぇ。どこだ、どこから来やがる)
………足下に………流れ込む!?
目を移せば足下は一面に広がる障気の海に姿を変えていた。
杏子「「「マミッ!!下だっ!!」」」
叫び声と共に水面下から禍々しい光を帯びた無数の手が三人に伸ばされる。
マミ「暁美さんっ!」
三人を取り巻いていたリボンが黒髪の少女を宙に跳ね上げると同時にそこは炎と爆音に包まれた。
杏子「なんだっ!!」
マミ「佐倉さんストップ!ストップ!!大丈夫!暁美さんの魔法よ!」
リボンで編まれた中空に浮かぶ足場の上、1人の少女が2人の少女に抱きかかえられていた。
杏子「あっ?…あぁ、ほむらの時間停止か…って魔獣はどうなったんだ?」
ほむら「わからない。一応、爆弾で攻撃したけど…っ!!」
広がる爆煙の中に無数の青い光が浮かび上がる。
がきん
光の帯が三人に届く寸前世界が停止する。
杏子「……時間停止ってまじで反則過ぎんだろ、これ」
マミ「私も佐倉さんに反則だって言われたけど、これはちょっとそれどころじゃないわよね」
ほむら「便利なだけじゃないし、この魔法がなければ私は無力よ……話は後にしましょう……ちょっと数が予想以上なのだけど」
杏子「あぁ。なんか池の鯉みたいに群がってんな……全部禿頭のおっさん顔だぜ。おえっ」
マミ「そうね。のんびりしてる場合でもないわね。足場を移動しながらのヒットアンドウェイで様子を見ましょう」
マミ「とりあえず三人ひと組で行動するわ。二人ともこのリボンから手を離さないで」
杏子・ほむら「「わかった」わ」
マミ「暁美さんは移動途中の時間停止をお願い。タイミングは単調にならないようにね」
ほむら「ええ」
マミ「佐倉さんは幻影での撹乱と射程内の魔獣への攻撃」
杏子「おっけ!」
マミ「じゃあ行くわよっ!!」
暗い海の上に浮かんだ足場を3人の少女が跳び回る。
誰もいなかった足場に3人が表れると同時に出現した無数の銃が密集する魔獣を打ち抜く。
3人を補足した魔獣が数に任せた雷で彼女らを貫く。しかしそれは何の影響も与える事なく宙に消えていく。
その光景に戸惑ったのか動きを止めた魔獣の周囲に突如多数の爆弾が現れ、次の瞬間炎と鉄の嵐が周囲を引き裂く。
暗い海から際限なくわき出る魔獣を3人の少女が一方的に殲滅していく。
しかし波の様に押し寄せる魔獣の勢いは止まらない。
杏子「なぁマミ」
槍の一薙ぎが2匹の魔獣を切り裂く。
マミ「何かしら佐倉さん」
答える言葉と共に無数のマスケット銃から発射された銃弾が壁となって魔獣を押しつぶす。
杏子「こいつら、元から断たなきゃ際限なく涌いてくるんじゃないかな」
マミ「奇遇ね。私もそう思ってたところよ」
どうっ!!
爆発音が響くと同時に3人の少女が障気の海から離れたアスファルトの上に姿を表す。
そして彼女たちを見失った魔獣が再び彼女たちを補足し動きを変えたその時世界が動きを止めた。
ほむら「どうする。焼き払うならガソリンがあるわよ。テルミットもあるから火力的には多分問題ないと思うけど」
マミ「……やっぱり暁美さんとは一度魔法少女って言葉について話し合いたい気がするわね」
杏子「無駄口叩いてる場合じゃないだろ。どうする?最悪逃げる事も考えた方が良いと思うぞ」
マミ「逃げるのは最後の手段よ。こんなの街中に出す訳にいかないもの」
杏子「ああ。出来ることはなんだってするさ。でも無駄死にはごめんだし、させる気もないぞ」
マミ「もちろんよ。ちょっとリスクがあるんだけど方法はあるの」
杏子「わかった。あたし等は何をすれば良い?」
マミ「これからあれを元から断つ下準備をするわ。でもその間私は身動き出来。お願いするのはその間の牽制。頼める?」
ほむら「それじゃ私が」
マミ「そう。じゃあちょっと離れて」
マミ「暁美さんお願い」
時間が動くと同時に広げた両手の指先の延長線上に左右10丁の銃が現れる。
障気の海が3人を補足し動き出したその瞬間、左右に広げられた両手が一気に身体の中心に振り下ろされる。
マミ「レガーレ・ヴァスタアリア・リンヴォルトラーレ!!」
両手の動きに合わせて10丁の銃口が前方の障気の海の中心に向かって火を噴く。
そして10発の銃弾は一点に命中した次の瞬間、10本の光の帯に分かれ走る。
ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃっ!!
光の帯は金属を掻き毟る鈎爪の様に火花を散らしながら障気の海の外周を削って行く。
そして10本の光の帯が、最初の一点から最も遠い一点で再び集中したその時
マミ「はっっ!!」
合わせられていた両手が光る帯を引き絞る。
ぎしり
目の前の空間から小さな、それでいて骨に響く様な低い音が響く。
杏子「……おいまさか」
白い手がリボンを引き絞る動きに合わせて障気の海が地面から刮ぎ捕られ、その面積を狭くしていく。
杏子「………これも十分反則だろ」
ばしっ。ばしっ。障気を囲むリボンの所々で魔獣が生み出す鈍い光が閃く
マミ「暁美さん、お願い」
ほむら「わかった」
返事と共にほむらの姿が消え、そして複数の銃声が同時に響き渡り魔獣の姿を消していく。
障気の海は拘束から逃れようと魔獣を生み出す。しかしそれは生まれると同時に銃声に掻き散らされる。
障気の海は光の帯が引き絞られるたびにその面積を狭める。
マミ「暁美さん、ありがとう。後は」
マミ「一気に行くわっ!」
ぎちり
マミ「はっ!!」
光る帯は一気に引き絞られ、障気の海は蠢動を繰り返す一軒家ほどの暗い塊へと姿を変えた。
マミ「ふぅ」
杏子「……あれを……マジかよ」
マミ「さてと」
マミ「佐倉さん、とどめをお願い出来る?」
杏子「いいぜ。面白いもん見せて貰ったしな。あたしもとっておきを披露してやるよ」
槍の穂先がくるくると軽快に円を描き身体の後ろへの位置を変える。
そして一瞬の間をおいて、
杏子「ふっ!」
槍の穂先が攻撃とは思えない力感のない大きく柔らかい円を描く。
ひゅん。
魔獣だった塊に向かって振り抜かれた切っ先から朧に光る斬撃が走り、光は吸い込まれる様に暗い塊に呑み込まれる。
一拍おいたその瞬間、塊の内部から花火の様に無数の槍が四方八方に突き出される。
そして突き出された先の空間から突如槍が生まれ、今度は外から塊の中心に向かって槍が突き出される。
ほむら「?」
何の音せず、塊に何の影響もない事をいぶかしんだその瞬間、
ずぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞっ
塊と槍が接触している所に傷が穿たれ、傷から紫色の炎が噴き出し塊を包む。
おおぉぉおぉおぉぉぉぉぉぉ
呻き声の様な地響きの様な低い音を残して、暗い塊は炎に焼かれて消えていった。
マミ「なんとかなったみたいね。二人とも大丈夫?」
杏子「あたしは問題ないよ」
ほむら「……こっちも大丈夫……さっきの槍、佐倉さんの魔法?」
マミ「あの槍、幻?だったわよね…それを後から実体化させたの?」
杏子「ひと目でかよ。ちぇっ。当たりだよ。幻を後で実体化したんだ」
ほむら「幻を実体化?」
杏子「あぁ。あたしやマミは武器を実体化させてから攻撃してるわけだ」
ほむら「ええ」
杏子「さっきのはその順番を変えたんだよ。先に攻撃の幻を創って、後からそれに実体を与えたんだ」
ほむら「そんなこと出来るの?」
杏子「まぁ、あたしの魔法は人を惑わせることから始まったからな。そういうのに向いてたんだろ」
マミ「さっきのあれ普段の幻の間にも使えるの?」
杏子「さっきのは火力重視だったから幻を集中させたけどな。普通の攻撃の間にも使えるぜ」
マミ「…じゃあ攻撃の手数を増やした時の発動時間と実体化までの時間が課題ね」
杏子「……欠点までわかんのかよ」
マミ「当然よ。伊達にあなたの師匠はやってないわよ」
杏子「ちぇっ」
マミ「……ねぇ、佐倉さん」
杏子「!!」
子「おい、先に言っとくけど名前なんてつけなくて良いからな」
マミ「えっ?私、まだ何も言ってないわよ」
杏子「あたしも伊達にマミの弟子はしてないんだ。言いそうなことくらいわかるぞ」
マミ「でもせっかくすごい魔法が出来たんだから」
杏子「魔法に名前なんていらねぇっての。なぁ、ほむら」
ほむら「そうね名前は特に必要ないと思うわ」
マミ「!?」
ほむら「……」
マミ「………」
ほむら「私のは全部本物の銃器だから特に名前を付ける意味はないと思うわ」
マミ「………」
ほむら「……」
マミ「………」
ほむら「……イタリア語だったらベレッタがあるけど……使う?」
マミ「………」
杏子(そんな目でこっち見んなって)
マミ(……私やっぱりこの暁美さん、ちょっと苦手かも……そっかっ!)
マミ「ねぇ、暁美さん」
ほむら「何かしら、巴さん?」
マミ「変身しているとそれだけで魔力を消費するわ。必要ないなら変身は解除した方が良いわ」
ほむら「…そう。ありがとう」
マミ(……)
マミ「暁美さん。自分から魔獣と戦うのは初めてだけどどうだった?」
ほむら「巴さんっ!!あのリボンすごかったです!魔法ってあんな事も出来るんですか!」
マミ(あぁ。やっぱりこの暁美さんの方が可愛いわよね)
マミ「ええ。私達が最初に得た魔法は限られたものだけど、創意工夫と努力でいろんな事が出来る様になるものよ」
マミ「暁美さんももっと頑張らなきゃね」
ほむら「はいっ!よろしくお願いします巴さん」
マミ「ええ」(うん、うん)
杏子(……マミ…なんかセコいぞ……けど、ほむら…お前実は根っからちょろいんじゃないか?)
マミ「なんだったら暁美さんの魔法にも名前を付けましょうか」
ほむら「良いんですか。お願いします」
杏子(しかし、人間これだけ性格が変わるもんか………まぁ、人のことは言えねぇか)
杏子(……けど今日の魔獣……なんか焦臭ぇ感じだな)
杏子(ほむらの事もだけど、やっぱりなんかが始まってやがるのか)
投下終了です。
本スレでスレイヤーズの話が出てたので読み直してたらこんな感じになってしまいました。
次の書き込みがいつなんて言えない状態ですが、今週末は時間が取れないので2週間以内を目処にします。
勝手に魔法に名前つけられたことの報復として変身後ほむほむにおしおきされるまみまみが見たいな
いつもながら遅くてすみません。投下します。
* * * * * * * * * * * * *
あの後、私は「私」の夢を見る様になっていた。
「私」の家族は両親と弟の4人。キャリアウーマンの母親に専業主夫の父親、そしてひとまわり年下の弟。
ちょっと変わった家族構成だけれども、みんな「私」の自慢の家族だった。
勉強は苦手でなんとかクラスの真ん中くらい。
運動はそんなに好きじゃないけどクラブに入ってない割には頑張ってる……様な気がするくらい。
自分にとりえがないことを少し気にしてしまう。そんな普通の女の子だった。
さやか「おはよっ !」
仁美「あら さん、おはようございます」
「さやかちゃん、仁美ちゃん、おはよう」
夢の中の「私」は小学生の頃から美樹さんと志築さんの友達だった。
仲の良い友達、そして自慢の家族。「私」の世界はかけがえのない平凡な幸せで彩られていた。
そして「私」は与えられた幸せに感謝し、そして与えられた幸せに答えるかの様に優しく世界と向き合っていた。
世界に陰りが見えたのはクラスメイトの事故だった。
「上条くん」
「さやかちゃん」の幼馴染みで将来を嘱望されているバイオリニスト。
その彼が交通事故にあった。それを知った時の「さやかちゃん」の取り乱し様は普段からは想像も出来ないものだった。
でも命に別状がないことが判って、「さやかちゃん」が毎日お見舞いに行って、手術が無事終わって、まだ日常は、幸せはその手の内にあることを信じていられた。
けれどもある日を境に世界は決定的に姿を変えてしまう。
私が転校して来たのだ。
その日から平凡でかけがえのない日常に異物が混じり始める。。
魔法少女の契約を持ちかける白い獣、キュゥべえ
暗闇に潜み人を襲う魔j……名前の聞き取れない魔獣ではない人の敵
そして何もかもを諦めた様な眼をした転校生
その日から「私」の日常は目の前に現れた異物によって傷つけ呑み込まれて行く。
……そして
自己嫌悪と罪悪感がまどろみを苦い目覚めへと導く。
ほむら「……私は」
「私」の夢で見る私はそう成れたら良いなと思っていた理想の私のはずだった。
けれども私は「私」の夢に出て来た私を好きになれなかった……いや嫌いだった。
近づく人には冷淡に、そして必要があれば躊躇なく銃を向ける。
……それが魔法少女の私……そうだ……私はこうやってみんなの手を振り払い……そして銃を向けて来たんだ。
思い出した訳じゃない。でも「私」の夢に映るそれが本当にあったことだと私は知っている。
そう、私は何かを求めて独りで歩いて来た。いったいそれは何のためだったんだろう?
もし今、それを思い出したら私はまた美樹さんや巴さんを切り捨てるのだろうか?
……
胸が痛みが「私」の目に映ったあの私の気持ちを少しだけ教えてくれる。
あぁ、あの私はこの痛みが恐くて、辛くて、だからみんなを拒絶しているんだ。
「私」の眼に凛々しく映った私は今の私と同じ臆病な私だった。
けれども、私にはあんな風にみんなを切り捨てることなんて出来ない
でもあの私は全てを拒絶して、みんなを傷つけて、見殺しにして独りで歩いていたんだ。
ほむら「……嫌だ……あんな私になるくらいなら……みんなを見殺しにするくらいなら何も思い出さなくても良い」
それは紛れもなく私の本心だった。
でも、言葉にしたそれはみんなを切り捨てる想像と同じくらい痛かった。
どうして?……私はみんなと一緒にいたい……なのに……どうして?
……私は本当にみんなと一緒にいて良いんだろうか?
* * * * * * * * * * * * *
昨日の夢のせいかその日は少し憂鬱だった。でもここに来る日はそれだけでちょっと幸せな気持ちになれる。
もういつもの行事になった巴さんの家でのお茶会、けれども
さやか「はぁ~~~っマミさん。聞いて下さいっ!」
マミ「どうしたの美樹さん?」
その日のお茶会は美樹さんの愚痴で始まった。
さやか「恭介の奴、手が動く様になったら本っ気でバイオリンのことばっかりなんですよ」
さやか「やっと退院して学校には来たんですけど、暇を見つけてはバイオリンばっかり弾いてるし」
さやか「今日からまた検査で2日間、入院するんですけど病院で練習するからって音の出ないバイオリンまで買って」
さやか「そりゃ前から知ってましたけど、どう思いますあのバイオリン馬鹿」
杏子「別に良いじゃん。さやかの彼氏って訳じゃないんだから」
さやか「ぐはっ!!」
佐倉さんの容赦のない言葉が美樹さんを貫く。
杏子「単に坊やにとっては、さやかよりバイオリンが大事ってことなんじゃねーの?」
さやか「ぐおうぅぅっ!」
ほむら「そんなんじゃないです!」
ほむら「上条さん手がまだ完全には動かせないんですけど、納得出来る演奏が出来るようになったら一番に美樹さんに聞かせたいって」
ほむら「だから、上条さんは美樹さんのために練習してるんです」
杏子「へぇ、そうなんだ」
さやか「……ほむらぁ。この血も涙もない人の心もわからない冷血動物の杏子にもっともっともっと言ってやって」
杏子「んっ?てことは、さやかは坊やが自分のために練習してるのに相手してくれないからって愚痴ってんのか?」
ほむら「…え~と…そうなん…ですか?」
さやか「へっ?」
杏子「はぁ、そんなんで愚痴ってるから進展しねぇんじゃねぇの」
さやか「えっ?」
杏子「それこそ手作りのお菓子とか差し入れでもして『恭介あんまり無理しちゃダメだよ』とか言ってたらちっとはさやかこと意識すんじゃねぇの?」
さやか「えっ?えっ?」
杏子「なぁ、あたしだってこれくらい思いつくんだぞ。ひょっとしてあの坊やがさやかの方むかないのって、さやかの気の利かなさが原因じゃないのか?」
さやか「……ひょっとしてあたしの女子力って杏子以下?」
杏子「坊やの見舞いの時も確か揉めてたよな」
さやか「……あった……腕が動かないって……恭介が一番落ち込んでた時にCD持ってって」
杏子「……さやか、まぁなんだ……人間誰だって苦手はあるし……やけ食いくらいは付き合ってやるって」
さやか「……ううぉぅぅぅぅぅ」
佐倉さんの言葉に美樹さんが崩れ落ちていく。
ほむら「み、美樹さん!」
杏子「……ほむら…放っといてやれ。その方が面白いし」
ほむら「佐倉さんっ!え~と巴さん……巴……さん?」
マミ「…そうよね………美樹さん……ずっと……少しくらい」
ほむら(佐倉さん。巴さんが何か独り言言ってますけど)
杏子(あぁ、あれは何かめんどくさいこと思いついた顔だな。ほら鼻の穴が広がってるだろ)
ほむら(あっ、ほんとだ)
杏子(いいかほむら。マミが何か言ってきても相手になるなよ。9割方ろくでもないことだから)
マミ「ねぇ佐倉さん」
杏子「なんだ?今ロッキー食べるのにいそがしいんだけど」
マミ「9割方ろくでもないことって何?」
杏子「聞こえてたのかよ」
マミ「わざと伝わるようにしてたんでしょ!」
杏子「どうせ要らないおせっかいだろ。あたしは手伝う気ないからな」
マミ「そんなことないわよ。ちょっと協力して欲しいことがあるんだけど聞いてちょうだい」
杏子「えぇ~」
巴さんが佐倉さんの耳元に口を近づける。
杏子「…やっぱりおせっ……まぁ確かにそれは……う~ん……おっ、そうだ!!」
佐倉さんがとっても悪そうな笑顔を浮かべて巴さんの耳元に口を近づける。
マミ「…ええっそんなの……確かに心配だし……そうね暁美さんもちょっと元気……そうね、じゃあそうしましょう」
そして鼻の穴を広げた巴さんと悪そうな笑顔の佐倉さんが同時にこっちを向く。
杏子「ということでほむら」
マミ「来週の土日は開けといてね。ちょっと用事が入ったから」
ほむら「はい?」
力尽きた美樹さんと何が何だかわからない私の知らないところで何かが決まった様だった。
* * * * * * * * * * * * *
土曜日の朝9時30分、見滝原駅から約20分の某遊園地前
ほむら「あれって美樹さんですよね」
マミ「そうよ」
ほむら「……なんだか見たことがないくらい……嬉しそうな?……あっ!今日はみんなで遊園地に行くんですね!」
杏子「うん、うん、ほむらはやっぱり期待を裏切らないよな」
杏子「まぁ、その答えは半分正解だな。多分想像してるのとは違うかたちだけどな」
ほむら「?」
マミ「佐倉さん、焦らさなくても良いでしょ。もう美樹さんは来てるんだし上条君ももうすぐ付くんだから」
ほむら「上条さん?」
マミ「ええ、そうよ。今日はね、美樹さんと上条君がここでデートするの」
ほむら「えっ?えっ?デート?デートってあのデートですかっ!?」
マミ「ええ、そうよ」
ほむら「えっ?じゃあ上条さんが美樹さ……えっと美樹さんが上条……え~と」
杏子「……ほむら的にもあの2人は脈なしか告白出来ないヘタレ認定されてんのかよ」
ほむら「えっ?でも、だけど、それじゃあ?」
マミ「ええ。この間のお茶会の翌日なんだけど私と佐倉さんでちょっと病院に行って来たのよ」
ほむら「病院?」
マミ「ええ、私達、お医者さんとしてあの病院に出入りしてたでしょ。それでね
* * * * * * * * * * * * *
マミ(女医)「上条君、左手の調子はどうかしら?」
恭介「はい、バイオリンは弾けるくらいには回復しんですけど」
恭介「ただ演奏中に薬指と小指に違和感があるんです。あと長時間弾くと少し痙攣するみたいな感じです」
マミ(女医)「そう。ちょっと様子を見てみましょうか。えっと演奏の時の手の動きして見せてくれる」
恭介「それならバイオリンがありますから」
マミ(女医)「それって何かしら?なんだか変わった形のバイオリンね?」
恭介「電子バイオリンです。これなら音も抑えられるし、手入れにも気を使わないからここではこれを弾いてるんです」
杏子(看護婦)(だからって普通は病院に持ち込まねぇし演奏もしねぇよ。まぁさやかが愚痴るのもわかるよなぁ)
マミ(女医)「じゃあ演奏の動きをゆっくりとしてみて。そうそのまま。ちょっと左手に触るわよ」
恭介「どうでした」
マミ(女医)「そうね。何とも言えないけど特に問題はないと思うわ。でもその分あなたの言ってる症状の原因もわからないわね」
恭介「…そうですか」
マミ(女医)「でもわかったこともあるわよ。上条君、あなたかなり無理して練習してるでしょう」
恭介「えっ?」
マミ(女医)「この間診た時に比べて相当筋肉が張ってるわよ。無理は止めたはずだけどどうして?」
恭介「……」
マミ(女医)「不安なの?」
恭介「……はい……腕が動く様になった時は動かせるだけでも嬉しかったのに……今はどうして前みたいに動かせないんだって」
恭介「……練習すれば前みたいに動かせるんじゃないかって思ったらどうしても止められなくて」
マミ(女医)「練習と同じくらい休むことも大事なのよ」
恭介「…わかってはいるんですけど」
マミ(女医)「時間があったらバイオリンを弾いてないと不安になるのね」
恭介「…はい」
マミ(女医)「そっか上手く気分転換する方法を考えなきゃね……ねぇ、そういえばお見舞いに来てくれてた女の子。え~と?」
恭介「さやかですか?」
マミ(女医)「そう、そう、さやかさん。ちゃんとお見舞いのお礼はしたの?」
恭介「さやかには心配かけたし、ずっとお見舞いに来てくれてましたから」
恭介「ちゃんと演奏出来る様になったら一番にバイオリンを聞いて貰おうと思ってるんですけど」
マミ(女医)「じゃあ、まだってことよね」
恭介「はい」
マミ(女医)「そう。じゃあこれあげるわ。○○パークの入園券。よかったらお礼に使ってちょうだい」
恭介「えっ?そんなの貰えませんよ」
マミ(女医)「いいのよ。このチケット次の日曜日までのチケットなの。私は時間が取れないから良かったら使って」
恭介「次の日曜まで?」
マミ(女医)「私も人から貰ったんだけどね、この遊園地四半期毎にプールみたいな季節限定のチケットが付いてるのよ」
マミ(女医)「その期限が次の日曜までだから金券ショップもあんまり高く引き取ってくれないの」
マミ(女医)「私が持ってても無駄になるだけだからよかったら使ってちょうだい」
恭介「でも」
マミ(女医)「さやかさんは私が上条君の担当になる前からずっとお見舞いに来てたんでしょ。ちょっとくらいお礼をしても罰はあたらないわよ」
恭介「……わかりました。チケットは頂きます。あしたさやかが来るって言ってましたからその時渡します」
杏子(看護婦)(おいマミ。こいつ殴って良いか?さすがにさやかが気の毒に思えてきた)
マミ(女医)「ダメよ(ダメにきまってるでしょ)。あなたのお礼なんだからちゃんとあなたが誘ってあげなきゃ」
恭介「えっ?僕がさやかと遊園地に行くんですか?」
マミ(女医)「そうよ。あなたのお見舞いに来てくれてたお礼だもの。あなたが連れて行ってあげなくてどうするの?」
恭介「……僕がさやかとどこかに行くなんて……あんまり考えたことなかったんで……なんかデートみたいでちょっと」
マミ(女医)「別にデートでも良いんじゃない?」
恭介「えっ!?無理、無理、無理です」
杏子(看護婦)(可哀想に。さやか、そこまで脈ないらしいぞ)
マミ(女医)「どうして?」
恭介「……僕なんかとデートしてもさやかは喜ばないですよ」
マミ(女医)「そんなことないわよ。昔から仲良いんでしょ」
恭介「さやかも遊びに行くんだったら絶対友達同士の方が楽しいですよ」
恭介「……それに正直、自分が誰かとデートするなんて考えたこともなかったんです」
マミ(女医)「上条君はさやかさんがお見舞いに来てくれたことどう思ってたの?」
マミ(女医)「『手が治ったのも本当だし、さやかがずっとお見舞いに来てくれてたのも本当だしね』『ほんとにありがとう。さやか』」
マミ(女医)「この間、さやかさんが友達を連れてお見舞いに来てくれてた時、そう言ってたでしょ」
マミ(女医)「あの時あんまり嬉しそうに言ってるから入るの遠慮しちゃったのよ。さやかさんがお見舞いに来てくれたこと嬉しかったんでしょ」
恭介「…はい……腕が動かないって言われた時、八つ当たりしちゃったりもしましたけど」
恭介「やっぱりさやかがお見舞いに来てくれて嬉しかったです」
マミ(女医)「じゃあ、なおさらよ。お礼とお詫び。ちゃんと気持ちを行動であらわしてみたら?」
恭介「……でもデートなんて」
マミ(女医)「デートなんてちゃかして言っちゃったのはごめんなさい。でもさやかさんに感謝してるならちょっとだけ考えてあげて」
マミ(女医)「さやかさんだってあなたのためにお見舞いに来るのは恥ずかしかったかもしれないのよ」
杏子(それはねぇだろ。てか、そんな奴は毎日見舞いに来ねぇ……てかこの坊やはなんであれで気付かねぇんだ?)
マミ(女医)「でも、さやかさんは、あなたのためずっとお見舞いに来てくれてたのよ」
マミ(女医)「だからもしあなたがお見舞いのこと嬉しいと思っているならさやかさんのこと誘ってあげてちょうだい」
恭介「……先生はどうして僕にそんなこと」
マミ(女医)「私の場合、お父さんとお母さんなんだけどね。あの時すぐに気持ちを伝えてたらってことがあったの」
マミ(女医)「あなた達のこと見てたらちょっと思い出しちゃって。お節介だとは思うけどつい……ね」
恭介「……」
マミ(女医)「押しつけがましいかも知れないけど、チケットは上条君が持ってて。後はあなたにまかせるわ」
恭介「……」
マミ(女医)「じゃあ今日はこれで終わり。そうそう、さっきも言ったけど今度の土日、どちらかはちゃんと手を休めること」
マミ(女医)「放っておいたらどっちも練習しちゃうでしょ。だからどっちかは誰かとお出かけするのをお薦めするわ」
マミ(女医)「上条君、ちゃんとお礼が出来るって本当に贅沢なことなのよ。おぼえておいてね。それじゃ」
* * * * * * * * * * * * *
マミ「ということがあったのよ」
ほむら「えっ!?じゃあそれで上条さんが美樹さんを!?」
杏子「う~ん、そう言っちゃあそうなんだけどなぁ」
ほむら「えっ?だって巴さんがチケットを渡して?……そうじゃないんですか?」
マミ「まぁ上条君から美樹さんを誘ったのは確かなんだけど」
杏子「けっきょくその翌日は誘えなかったんだよ。そんで今と似た様な事をもっかいやってや~っと誘いやがったんだ」
杏子「脈がないというかヘタレ同士お似合いというかとりあえずここまで来んのがどんだけめんどくさかったか」
ほむら「は、はぁ」
杏子「まぁ、こんだけ手間かけたんだから今日はたっぷり楽しませて貰おうじゃないか」
マミ「えっ?美樹さんが心配だから来たのよね?」
杏子「………あぁ……そう、そう、そうだぞあの二人放っておいたら心配だしな、うん、うん」
マミ「……じゃあ楽しませて貰うって?」
杏子「そりゃあ、いくらあいつらが心配だからってせっかく遊園地に来たんだから楽しまなきゃ」
マミ「……う~ん?」
ほむら「あ、あれ上条さんじゃないですか」
杏子「……」
マミ「……」
杏子「なぁマミ、あいつが持ってるのってさ」
マミ「多分、あの時のバイオリンよね」
杏子「おい、おい、あの坊や遊園地にまであんなもの持って来んのかよ、おい!」
マミ「もう、1日は手を休めなさいって言ったのに」
杏子「いや、突っ込むのそこじゃないだろ!」
ほむら「あ、美樹さんが上条さんに気付きました」
杏子「……固まったな」
杏子「……あんだけにやけてやがったのに……柄じゃないけど、なんかマジで気の毒になってきたぞ」
今回の投下分は終了です。サーバーやPCトラブルなどもありましたが間が開いてすみませんでした。
とりあえず恭介とさやかをデートさせてみたいなと思いついてのイベントです。
けっこうあっさり終わる予定です。
乙でーす
>>232
いや、性格が変わってる間も記憶が連続してるからさ、どちらかと言うと、
まどか「ほむらちゃんはメガネを付けると気弱になるんだよね!」
ほむら「私が弱虫だったのは眼鏡のせいだったのよ!!」
みたいなイメージ?
………………………………………………2ヶ月半
/ ̄ ̄ヽ ̄ ̄\
∠ レ | ⌒ヽ
\__ノ丶 )|
(_と__ノ⊂ニノ
恭介(デートじゃない。これはお礼なんだ。デートじゃない、デートじゃない、デートじゃない)
恭介(さやかは女の子じゃなくてさやかだからデートじゃない。デートじゃないから恥ずかしくない。よしっ!!」
恭介「ねぇ、さやか」
さやか「どうかしたの恭介?」
恭介「え、えっとさ、お礼のことなんだけど」
さやか「うん、恭介が納得出来る演奏が出来たら教えてよ。でも無理はダメだからね」
恭介「あ、いや、そ、そうじゃなくて」
さやか「?」
恭介「ちょ、ちょっとまって」
ふぅ~~
恭介「……さやか……お見舞いの……お礼の件なんだけどさ」
恭介「あ、明日の土曜……時間取れるかな」
さやか「うん、空いてるよ」
恭介「……あ、あのさ、そ、その土曜日……一緒に遊」
さやか「……えっ、何?」
恭介「い、いやあの……お礼の演奏なんだけどさ……もうちょっとかかりそうなんだ」
恭介「……それでさあんまりお礼が遅くなってもなんだからさっ!」
恭介「そ、その遊園地のチケットもらってさ!!……あ、明日、お礼に……一緒に遊園地……行か……ない?」
さやか「……えっ?……うん」
恭介「……」
さやか「……恭介?」
恭介「あ、あの、じゃあ!明日朝の10時に○○パークの前で!!」
恭介「ご、ごめん、今日もこれからレッスンがあるんだ。また夜にメールするから。え、えっと、じゃあっ!!」
さやか「……えっと……お礼の演奏は時間がかかりそうで……恭介が遊園地のチケットをもらって」
さやか「それで明日あたしと一緒に遊園地に……行く!?あたしと恭介が一緒に!!!」
さやか「えっ!?えっ!?え~っ!?」
* * * * * * * * * * * * *
さやか「……夜にメールするって言ってたのに……あははっ!まだ8時だよね!……あっ、そうだ!明日何着てこう!」
さやか「……来てないか。あいつバイオリン弾き始めたら止まらないもんなぁ……まぁ、お風呂でも入くか」
さやか「……もう10時まわったのに……恭介確かに遊園地に行くって言ったよね」
さやか「……忘れてるってことは……ありそうなんだよなぁ」
さやか「……ひょっとしてどっきり……まっ、それはないない。なんだかんだ言って恭介だし」
さやか「……あたしが聞き間違えたってことは……確かに聞いたはず……なんだけど」
さやか「……あの恭介があたしのこと……誘ってくれるなんて……お礼だからかな?」
さやか「……けどもし聞き間違いだったら」
ばっ!着信音が聞こえたと考えるより早く手が携帯に伸びる。
by恭介『遅くなってごめん。練習してたら、つい。土曜日10:00に○○パークの入口で。今さらだけどお礼、遊園地で良かったかな?』
byさやか『あたしもやることあったからちょうど良かった。あんまり無理して練習はだめだよ。あたし遊園地久しぶりだから楽しみだよ』
by恭介『良かった。じゃあ明日』
byさやか『じゃあ明日。ほんとに無理はだめだよ』
さやか「……やっぱり聞き間違いじゃない。あたし明日恭介と遊園地に行くんだ」
だめだ。心臓がばくばく言ってる。ほんとうに恭介があたしを誘ってくれたんだ。
多分、本気でお見舞いのお礼なんだろうな。それでお礼だからデートじゃないとか思ってるんじゃないかな。
さやか「えへへっ////」
でもやっぱり嬉しい。
* * * * * * * * * * * * *
そして恭介がやってきた。右手にバイオリンケースを持って。
これから遊園地だよね。でもなんで遊園地にバイオリン?
恭介「さやか。どうかしたのかい?」
さやか「あ、あのさ、それバイオリンだよね?」
恭介「ん?そうだよ」
さやか「いや、そうじゃなくて。恭介なんでバイオリン持ってるの?これから遊園地に行くんだよね?」
恭介「えっ?ああ、大丈夫だよ。ちゃんとロッカーに預けるから」
さやか「……いや……だったら最初から持って来なきゃ良いじゃん……なんでバイオリンなんか持って来んのよ」
恭介「あぁっ、そういうことか。この遊園地6時までだよね。終わったらレッスンに行こうと思ってさ」
恭介「家に帰ってからだったら間に合わないからね。これくらいの気候だったらロッカーに入れても大丈夫だし」
さやか「……うわぁ……人を誘っておいて…………ほんっとにバイオリン馬鹿」
恭介「んっ?何か言った?」
さやか「……なんでもないけどさ……あっ、そっか!!」
恭介「どうしたんだい。さやか?」
さやか「んっふっふっ、でも今日はあたしへのお礼なんだよねっ!」
恭介「えっ?そうだけど」
さやか「よし。じゃあ遊園地が終わったらどこにも行きたくないくらい全っ力で楽しませてもらいますから!」
恭介「えっ!……あはは……お手柔らかに」
さやか「じゃあ行こっ!恭介!」
* * * * * * * * * * * * *
さやか「……えっと……ごめん……ちょっと調子に乗りすぎちゃった……かな?」
恭介「……大丈夫……ちょっと地面が揺れてるだけだから……ちょっと休んだら、うくっ!」
さやか「恭介っ!えっと何か飲み物買ってくるね!スポーツドリンクとかお茶の方が良い!?」
恭介「……じゃあ、お茶で」
さやか「ごめん!すぐに買ってくるから!ちょっとだけ待っててね」
恭介「……はぁ…もうちょっと体力があったらなぁ……けど、さやかはなんであんなに元気なんだろ?」
さやか「お待たせっ!」
恭介「……早いね……ありがとう」
さやか「ごめんね。ちょっとテンション上がり過ぎて周りのこと見えてなかった」
恭介「……ううん……さやかのせいじゃないよ」
恭介「……リハビリしてた時も思ったんだけど、僕はもうちょっと体力つけた方が良いかもね」
恭介「昔から運動じゃあずっとさやかに勝てないもんね」
さやか「……はぁ、それいつの話よ。もう追い付かれてるよ」
恭介「えっ?」
さやか「こないだ体力測定あったでしょ」
恭介「うん」
さやか「50m何秒だった?」
恭介「えっと何秒だったかな」
さやか「自分のタイムくらい憶えておきなよ。7秒4。クラスで9番目だよ」
恭介「そうなんだ」
……興味がないから男子のやっかみとか女子の黄色い声とかも聞こえてないんだろうなぁ。
さやか「そんであたしが7秒3、クラスなら8番目で女子なら2番」
さやか「まだ0.1秒あたしが早いけど、恭介まだ背も伸びてるでしょ。来年には抜かれてるんじゃないかな」
恭介「……」
さやか「どうしたの?」
恭介「そうだったんだ。なんかさ、さやかにはずっと追いつけない気がしてたんだ」
さやか「そんな訳ないでしょ。男と女ってそれくらい体力差があるんだよ。てか、そういうことは身長追い越した時に考えなよ」
恭介「……ほんとうだよね」
さやか「さぁ、ちょっと元気出て来たみたいだね。じゃあ次行こうか」
恭介「えっ!……いやまだジェットコースターとかは遠慮したいんだけど」
さやか「大丈夫、なんか射撃っぽいやつとかゲームみたいのがあったからそれだったら良いでしょ」
恭介「まぁ、そんなのだったら」
さやか「もう激しいのはだいたい乗っちゃったしさ、午前中に行けるところは全部回ろうよ」
* * * * * * * * * * * * *
さやか「……くぅっ、なんでだ。なんで勝てない?」
恭介「これで四戦全勝だね。さやかって昔から肝心なところで躓いたりけっこうあるからね」
さやか「言うなっ!もう一回っ!」
恭介「そうやってムキになって負けを繰り返すのも変わらないよね」
さやか「うっさい、勝つまで止めないからね。それから「だからって手を抜いたら許さない……だよね」
さやか「当然でしょ。じゃあもう一回だかんね」
恭介「はぁ、別に良いけど……けどちょっとお腹空かない」
さやか「あれ、そういや今何時だっけ?」
恭介「もう一時半過ぎだよ」
さやか「えっ、もうそんな時間?」
恭介「あれだけ夢中になってたらね。とりあえず先にお昼ご飯に食べない?」
さやか「……ごめん……また周りが見えなくなってた」
恭介「ううん、良いよ。どっちかって言うとそれだけ楽しんで貰えた方が嬉しいよ。それじゃ、何食べに行く?」
さやか「……それなんだけどさ」
さやか「じゃん!!」
恭介「へぇ!!」
さやか「サンドイッチだけどね。ちょっと前に先輩に習ったんだ。けっこういけそうでしょ」
恭介「ひとつずつラップでくるんでるんだ。何かキャンディみたいだね」
さやか「うん、パンが乾燥すると味が落ちちゃうからね」
さやか「えっと、恭介。確か生たまねぎダメだったよね」
恭介「えっ?なんで知ってるの?」
さやか「……へぇ、忘れちゃったんだ。あたしが作ったツナサンド、タマネギが入ってるからって一口も食べなかったこと」
恭介「えっ?あっ!?……あ、あの時はごめん」
さやか「いや、もう良いんだけどね。あの時も謝って貰ったし。ただ忘れられるとちょっとねぇ」
恭介「えっと、ほんとにごめん」
さやか「あの時はけっこうショックだったけどね。てことで今日はリベンジも兼ねてるんだ」
さやか「何種類か作って来たから全部ダメってことはないでしょ。じゃあ食べよ」
恭介「うん。じゃあ、いただきます」
* * * * * * * * * * * * *
* * * * * * * * * * * * *
さやか「恭介、今日は誘ってくれてありがとう」
恭介「ううん。こっちこそ。ずっとお見舞いに来てくれてありがとう」
恭介「僕なんかと一緒に遊園地に行ってもあんまり楽しくないかなって思ってたんだけどね」
恭介「さやかがこんなに遊園地が好きだってしらなかったよ」
さやか「……はぁ……違うよ」
恭介「何が?」
さやか「恭介さ、今日はお見舞いのお礼だからデートじゃないとか思ってたでしょ」
恭介「えっ!?」
さやか「やっぱりそっか」
恭介「えっと、けど!」
さやか「ううん、責めてるんじゃないよ。ちゃんとお礼がしたいんだ」
恭介「えっ?」
さやか「あたし今日すごく楽しみだった……うん、すごく楽しかった」
さやか「……お見舞いのお礼をしてくれたからとか遊園地が好きだからじゃないよ……まぁそれもあるんだけどさ」
さやか「楽しかったのは、恭介と一緒にいられたからだよ」
恭介「……さやか」
さやか「昔はけっこう一緒に遊んでたのに最近は学校に行く時かクラスでしか話すくらいになっちゃったもんね」
さやか「お見舞いの時は話せたけど、やっぱり落ち込んでる恭介見てるのはつらかったしさ」
さやか「今日さ、久しぶりに恭介と一緒に笑えて本当に楽しかった。誘ってくれてありがとう」
恭介「……さやか」
さやか「……」
さやか「でもデートだって誘ってくれたんだったらもっと嬉しかったかもね」
恭介「……えっ?」
さやか「何でもないよ。帰ろ恭介。レッスンあるんでしょ?」
恭介「……」
さやか「どうしたの恭介?」
恭介「……さやか、家まで送るよ」
さやか「どうしたの?この後レッスンなんでしょ」
恭介「うん、誰かさんのおかげで疲れちゃったからね。今日はやめとくよ」
さやか「……え、あたし「ごめん、ごめん」
恭介「もともと今日は休まなきゃ駄目な日なんだ。けどどうしても落ち着かないからレッスンに行くつもりだったんだ」
恭介「けど久しぶりに疲れるくらいに遊んだからね。良い気分転換になったよ」
恭介「バイオリン、せっかく持ってきたけどさ、今日は先生に言われたとおり手を休めることにするよ」
恭介「ありがとう。さやか」
さやか「えっ///っと、ど、どういたしまして……じゃなくて、先生に止められてたのにレッスン行くつもりだったの!?」
恭介「うん、少しでも弾いてないと落ち着かなくてさ、夕方からだったら良いかなってね」
さやか「だめに決まってるでしょ!先生の言うことはちゃんと聞かなきゃ!」
恭介「うん、今日はもう行かないよ」
さやか「『今日は』じゃなくて『これからも』だよ!休む時はちゃんと休まなきゃ」
さやか「ど、どうしても落ち着かないって言うんだったら、気分転換くらいまた付き合ってあげるから///」
恭介「そうだね。じゃあその時はお願いしようかな?」
さやか「うん。あたしじゃ恭介になんにもしてあげられないからさ、それくらいいつでもつきあうよ///」
さやか「……ねぇ、恭介。左手出して」
恭介「うん。えっ!……さやか///」
さやか「今日はありがと。けど、あんまり無理しちゃ駄目だよ」
さやか「指が本調子じゃないから焦っちゃうかもしれないけどさ、恭介だったら絶対前みたいに弾ける様になれるよ」
さやか「あんまりいい加減なことは言っちゃダメだけど、あたしの言った奇跡も魔法もあったでしょ。だから今度もあたしのこと信じてよ」
さやか「もし信じられなくても、悪いことばっかり考えてるより良くなるって考えた方が絶対良いはずだよ」
さやか「あたしは気分転換くらいしか力になれないけどずっと応援してるから」
恭介「ほんとにそうだよね……でも、そんなことは自分で気付かなきゃだめだよね」
恭介「今回ケガをして、自分がどれだけ色んな人に甘えてたか実感したよ。さやか、ほんとにごめん。それとありがとう」
さやか「えへへっ///」
さやか「じゃあ、帰ろ」
さやか「……恭介?」
恭介「……さやか……このまま帰らない?」
さやか「……えっ?」
それはどっちからだったんだろう?
ためらって、離れようとして、それを追いかけて、そして繋がって。
帰り道、心臓の鼓動と右手の暖かさが気になって何を話したかあまり憶えていない。
ただ夕日に染まった町並みが見たことがないくらい綺麗だった。
* * * * * * * * * * * * *
* * * * * * * * * * * * *
「でも恭介がこんな風に誘ってくれるなんて思ってなかった」
「うん、僕が思いついたんじゃないよ。人からさやかを誘ったらって言われたんだ」
「正直、僕一人じゃお見舞いのお礼に遊園地に誘うなんて考えつかなかったと思う。実際、遊園地のチケットもその人に貰っちゃったんだ。今度お礼をしなくちゃね」
「へぇ。けど、恭介にそんなこと言ってくれる知り合いって思いつかないなぁ。親戚の人?でもそれって女の人だよね。そんな人いたっけか?」
「親戚じゃないけど、さやかも知ってる人だよ。ほら僕の手を担当してくれたあの女の先生だよ」
「……ふぇっ!?」
さやか(あれってどう考えてもマミさんのことだよね。てことはマミさん達あたしが恭介とデートしてたこと知ってたんだよね)
マミ「美樹さんどうしたの?」
さやか「えっ!いや、なんでもな……」
さやか「………えっと、マミさん聞きたいことがあるんですけど」
マミ「上条君のことね」
さやか「……やっぱりそうなんですか」
マミ「ええ。そうね、ほんとなら最初に美樹さんに話さなきゃならなかったわね」
マミ「ごめんなさい美樹さん。なんの相談もなく先走っちゃって」
さやか「ううん、そんなことないです」
さやか「……ほんとのところを言うと頭のどこかに放っておいて欲しかったって格好つけてる自分もいるんです」
さやか「でも今だからわかるんです。今回のことがなかったらなんにも出来なかっただろうって」
さやか「ちょっと悔しいですけど、それはマミさんじゃなくてなんにも出来なかったあたしのせいですから」
さやか「マミさん、ありがとう。おかげで久しぶりに恭介と笑えてほんとに楽しかったです」
マミ「……ごめんなさい。やっぱり今回のことは私のおせっかいだったわね」
マミ「だって、今の美樹さんを見てたら思えるもの。私が何もしなくても上手く行ったって」
さやか「そんなことないですよ。もしそう見える様んだったら、マミさんのおかげですよ」
マミ「そう。じゃあ私はおせっかいのお詫びにケーキを、美樹さんにはそのお礼にデートの話をして貰いましょうか」
さやか「えっ!ちょっとそれは」
マミ「あら、上手く行ったんでしょ。それは是非とも聞かせて欲しいんだけどなぁ」
さやか「え~っ///ま、まぁ、仕方ないかなぁ///あはは///」
杏子「あ~っ、やだやだ、鼻の下伸びまくりじゃん」
さやか「誰の鼻の下が伸びてるって……ふっ、まぁ今のさやかちゃんはそんなお子ちゃまな煽りじゃ微動だにしませんけどね」
杏子「へぇ~大人なんだ。あ、でもわかるかも」
さやか「ん?」
杏子「なんか二人っきりになったら激しいことしてそうだもんなぁ。あたしお子ちゃまだから何してんのかわからないけどさ」
さやか「///杏子っ!!!///」
杏子「うわぁ~い!大人が怒ったぁ~!!」
マミ「ちょっと2人ともっ!!あんまり騒いだら下の人の迷惑に、ちょっと!」
マミ「どうしたの暁美さん。?激しいこと?いいのよ世の中知らなくて良い事っていっぱいあるんだから」
マミ「ちょっと2人ともっ!」
キュゥべえ「やぁ、今日はずいぶん賑やかだね。とりあえず君達が無事で何よりだ」
マミ・さやか・杏子・ほむら「「「「キュゥべえ!?」」」」
今回はここまでです。
仕事も入るし、書けない期間が長くなるに連れて続きも書けなくなる悪循環に陥るしと正直エタり寸前でした。
ついでに中学生同士のデートなんて思い付きもしないし。
もう少し編集したかった気もしますがこれ以上伸びると本気で投稿出来そうにないので投稿しました。
次の予定は立っていませんがべえさんメインの俺設定回みたくなると思います。
このSSまとめへのコメント
良かった
未完なのがおしまれるなぁ
でも面白かった
乙