櫻子「なんでこんな日に……」向日葵「ほら、安静になさい」(67)


櫻子「だるい……」

PiPiPi...
向日葵「熱はっと……37度8分、まぁ風邪ですわね」

櫻子「うー、なんでだー……」ノソリ

向日葵「ほら起き上がらないで寝てなさい」

櫻子「うー……」

向日葵「冬の風邪は長引くと言うし、引き始めにぱぱっと治しちゃいますわよ」

櫻子「うん……」


櫻子「向日葵……」

向日葵「とりあえずお粥でもつくろうかしら……っと、なんですの」

櫻子「うぅぅ……あんがと」

向日葵「べつに、かまいませんわよ」

櫻子「朝から、わざわざ……」

向日葵「こうなるような気がしてましたもの」

櫻子「うー、そっかぁ……」

向日葵「クリスマスイブだからって、はしゃぎすぎですのよ……」

櫻子「ちくしょー……」

向日葵「じゃあちょっと離れますわね」

櫻子「んん」


ガチャッ
向日葵「まったく、普段嵐のような櫻子が、とんと大人しく……」

向日葵「バカは風邪引かないと言いますけど……」

向日葵「……」

向日葵「『私がサンタだー!』ってあんな薄着で一晩中騒いでいるからですわ」

向日葵「やっぱり、バカだから風邪引いたんですのね……」

撫子「ひま子」

向日葵「あ、撫子さん、お帰りなさい」


撫子「どうだった、あの子」

向日葵「熱があって……たぶん風邪かと」

撫子「そっか……じゃあこれ、プカリと風邪薬と買ってきたから」

向日葵「ありがとうございます。私もいまお粥を」

撫子「まぁ妹だし。 ……ひま子こそ、ありがと」

向日葵「いえ、櫻子の、ことですから」


撫子「櫻子が風邪なんか引くだなんて、今日の天気は竜巻かな」

向日葵「雪とかじゃなくて!?」

撫子「今日寒いからありえそうだし……それに」

花子「それに?」

撫子「櫻子のおかげでホワイトクリスマスだなんて、なんか複雑な気分なんだよね」

向日葵「あぁ、確かに……」


向日葵「じゃあ櫻子は薬を飲ませて寝かせますので」

撫子「ん、頼んだよ」

向日葵「……そういえば、クリスマスのプレゼントとか」

撫子「ん? あぁ……えっと、ちなみに楓はどうだったの」

向日葵「うちは……今朝、自分よりも大きなぬいぐるみを嬉しそうに抱えてましたわ」

撫子「うん、いいね。ひま子は?」

向日葵「私は、最近寒いから電気あんかを……」

撫子「なんか……現実的だね」

向日葵「まぁ、サンタさんを信じる年頃でもないですし……」

撫子「そうだよね……それで、櫻子なんだけど」


向日葵「はい」

撫子「忘れた」

向日葵「……はい?」

撫子「えっと、昨日、仕込み忘れて、寝ちゃった」

向日葵「……」

撫子「今年は私が妹達の枕元に置くはずでさ」

撫子「……今朝、花子は間に合ったんだ」

向日葵「……」

撫子「櫻子は、そっと覗いたら、もう起きてて……」

向日葵「……」

撫子「……」

撫子「たぶん熱でボーっとしてるからまだ気付いていないかもしれない」

向日葵「……まさか」

撫子「だから、これもお願い」ニコッ


向日葵「今までに見たことないほどの、極上の笑顔ですわね……」

撫子「必殺技だからね。これで堕とした女は……」

向日葵「まぁ預かりますけど」

撫子「なんなら土下座もする?」

向日葵「いいですから!」

撫子「ありがとね」

向日葵「普通に頼んでくれればいいんですけど……」

向日葵「そういえば先ほど櫻子の枕元に靴下があったような」

撫子「空っぽのね。 ……まぁつまりは、そういうこと」

向日葵「じゃあ、行ってきます……」

撫子「……」ゲザ...

向日葵「いりませんから!」


ガチャ...
向日葵「さて……櫻子ー……?」

櫻子「すー、すー……」

向日葵「寝てますのね……?」

櫻子「すー……」

向日葵「よかった、ちゃんと大人しくしてて」

櫻子「んむー……」

向日葵(それに……任務のチャンス)

向日葵(なんだか部屋の外から18歳女子高生の視線も感じますし……)

櫻子「むにぃ……」


向日葵「靴下は……と、これですのね」

向日葵「じゃあ中に……あら? 何か、紙が……」

向日葵「…………『サンタさんへ』」

向日葵「ふぅ、中は見ないでおきましょうか……あとで撫子さんにでも」

櫻子「ふにゃ……」

向日葵「かわりに、プレゼントを中に……よかった、靴下に入る大きさで」

櫻子「ふぁ……ん?」

向日葵「よいしょ……へ?」

櫻子「あれ、ひまわりぃ……? どしたぁ……?」

向日葵「」


櫻子「あれ、なにして……」

向日葵「え、いや、べ、べべ、べつにこれはなにも」

櫻子「え、まさか、向日葵がサンタさん……!? な、わけないよね」

向日葵「あったりまえですわ!」

櫻子「あそこまでふとっちょじゃないもんね……でも、靴下の中に、……あれ?」

向日葵「?」

櫻子「今日、靴下の中にある、ってぇことは……え、え!? あ、でもそそそ、そにゃっ!? そにゃことないよね!?」

向日葵「ど、どうしましたの……?」

櫻子「それじゃ、どうして……はっ、もしかして、向日葵がプレゼントを!?」


向日葵「バレたのなら仕方ないですわ……」

櫻子「私の、私のプレゼントを勝手に見るつもりだなー!?」

向日葵「私が持ってきて……え?」

櫻子「はっ!? し、しかもあわよくばそのまま横領……!?」

向日葵「へ、いや、そんなことしませんですって」

櫻子「ぐぬぬぬ……おっぱい! きん! ……しぃぃ……」パタン

向日葵「ちょっと櫻子!?」

櫻子「うー…………だるい」

向日葵「……はぁ、いきなり騒ぐからですわ」


櫻子「だってだってー……」

向日葵「ほら、横になってちゃんと布団に入って」

櫻子「むぅ……」

向日葵「また熱があがりますわよ……早く治さないと」

櫻子「おなかすいた……」

向日葵「食欲があるのなら上々ですわ、はいお粥とプカリ」

櫻子「あんがと……」

向日葵「冬休みは短いですし……って櫻子、食べないんですの?」

櫻子「……」

向日葵「櫻子?」


櫻子「横になって、ちゃんと布団に入ってるんだもん……」

向日葵「? えぇ、そうですわね」

櫻子「自分じゃ動くのだるいし……」

向日葵「はぁ」

櫻子「布団から顔だけ出してたら、自分じゃ食べられないし……」

向日葵「……え」

櫻子「だから……」

向日葵「まさか」

櫻子「食べさせてくれると、いいんだけど……」

向日葵「」


向日葵「…………じゃ、じゃあ、いきますわよ」

向日葵(どうしてこうなった)

櫻子「う、うん、お願い……」

向日葵「えっと、口開けて……はい」

櫻子「……これ、熱くない?」

向日葵「へ? あ、あぁまぁ、冷ましたほうがいいかもしれませんわね」

櫻子「ん」

向日葵「まさか」

櫻子「それも、お願い……」


向日葵「ふ、ふぅー、ふぅー……」

櫻子「そんくらいでいいかも……」

向日葵「じゃあ、……あ、あ~ん……」

櫻子「あ~ん……んむっ」

向日葵「ど、どうですの」

櫻子「んむんむ……んくっ。 お、おいしいよ……」

向日葵「そうじゃなくて温度とか……まぁいいですわ」

櫻子「あ~ん……」

向日葵「あぁ、次ですわね……ふぅー、ふぅー……」

櫻子「向日葵……かわいい」

向日葵「ぶふぅっ!?」

櫻子「飛んできた!?」

向日葵「ご、ごめんなさい! でも、急に変なこと言うから……!」

櫻子「別に……変なことじゃないよ」


向日葵「……きっと熱のせいですわねはいあーん」

櫻子「んむっ!? むぐむぐ……」

向日葵「早く治しませんとねはいあーん」

櫻子「ひょっほ、ひま……んむっ!?」

向日葵「プカリもありますし、お薬も撫子さん買ってきてくださいましたのよはいあーん」

櫻子「まだ、くちに……ちょ」

向日葵「はいあーんはいあーん……」

櫻子「熱い! 熱いって!」

向日葵「まだお粥半分も減ってませんわよほらほらほらほら……」

櫻子「ちょ……やめい!」

向日葵「はっ!?」


向日葵「わ、わたくしは、なにを……?」

櫻子「やっと落ち着いたか……こっちはだるいのに」

向日葵「えっと……ごめんなさい」

櫻子「……まったく、せっかくこっちがお返しのプレゼントを……」ブツブツ

向日葵「櫻子?」

櫻子「なんでもない! あとは自分で食べるから、あんがと」

向日葵「え、えぇ……でも、もし辛いのなら」

櫻子「ちょっと楽になったしだいじょぶ。それにあんま一緒にいると伝染るかもしんないし」

向日葵「そう言うなら……はい」

櫻子「ん。 ……んむんむ、やっぱ、おいしい」

向日葵「櫻子のために作りましたもの」

櫻子「んん゛っ!? げほっげほっ!」

向日葵「ちょっと、大丈夫!?」

櫻子「むせた……急に変なこと言うから」


向日葵「櫻子だって……変でしたから」

櫻子「むむ……こっちは病人だぞ」

向日葵「それは大変」サラリ

櫻子「……やっぱさっきのは気のせいだったな」ボソ

向日葵「?」

櫻子「なんでもないっ! ……ごちそうさま!」

向日葵「全部食べられましたのね」

櫻子「おいしかったし……」

向日葵「よかった……じゃあこれ、薬とお水」

櫻子「ごくっ」

向日葵「じゃあ後はしっかり寝るのが一番!」

櫻子「うん」


向日葵「それじゃ私は戻りますから、なにかあったらまた」

櫻子「ま、待って!」

向日葵「撫子さんでもいいですけど……なに?」

櫻子「えっと、その……あんがと」

向日葵「別に……これくらいいですわよ」

櫻子「でも、その……年に一度だしさ」

向日葵「……今日のことですの? 昨日のことですの?」

櫻子「えっと……そっか、昨日もあるのか」

向日葵「はしゃぐにも程がありましたわ。 ……今日のことですのね」

向日葵「今日は昨日充分楽しみましたし、ゆっくり過ごすつもりでしたし」

向日葵「……それに、こんなことになるような気もしてましたし、構いませんわ」


櫻子「それでも、一年に一回だもん」

櫻子「……実はさ、ちょっと、ドッキリしたんだ、今朝」

櫻子「まぁ最初に起きたときはプレゼントの存在なんてすっかり忘れてたんだけど」

向日葵「プレゼント?」

櫻子「だって、クリスマスの朝って、プレゼントが靴下の中に入ってるんでしょ?」

櫻子「枕元で、向日葵が靴下の中に手を突っ込んでいて」

櫻子「向日葵が……プレゼントが、靴下の中に入っているのかとおもって」

向日葵「な!?」

櫻子「……」

向日葵「櫻子……」


櫻子「それもあって、お返しのプレゼントには釣り合わないかもしれないけど」

櫻子「私も、向日葵のプレゼントになって、何か出来たらと思ったけど」

櫻子「あはは、なかなかむずかしいね……」

向日葵「……だから色々おかしかったんですのね」

櫻子「……そんなにおかしかったかなぁ?」

向日葵「ふふ、それこそ一年に一回しか見れないくらいに、ですわ」


櫻子「むぅ……」

向日葵「でも……ありがとう」

櫻子「私、なんもできてないよ?」

向日葵「いいんですのよ。 ……そうですわね」

櫻子「?」

向日葵「今は、早く治して、また元気な姿を見せてくれること」

向日葵「それが、一番のプレゼントですわ」

櫻子「向日葵……」

向日葵「ほら、早く寝ないと治るものも治りませんわよ」

櫻子「うん! ……向日葵、やっぱりありがと」


櫻子「いつも……ありがと」

向日葵「あなたがそういうのも一年に一回かしらね?」

櫻子「ぬぬ……いつも思ってるもん」

向日葵「はいはい。 ……私も同じですわ」

櫻子「……うんっ」

向日葵「じゃあ」

櫻子「うい。 ……おやすみ、向日葵」

向日葵「おやすみなさい、櫻子」


ガチャッ
向日葵「じゃあ私、今日はどこにも出かけませんから」

櫻子「へいきだって」

向日葵「……早く良くなってね」ポツリ
ガチャ

櫻子「ふぅ……」

   「なな、な……こさ……!?」

櫻子「ん? なんか聞こえたような……気のせいか」

櫻子「まーちょっとよくなったとはいえ素直に寝ますかねー」

櫻子「……」


櫻子(一年に一度っきりの、クリスマス)

櫻子(風邪ひいちゃったけど)

櫻子(プレゼント、もらえたし……)
櫻子(プレゼント、あげられたし……)

櫻子(……)

櫻子(これからも、ちょこちょこ向日葵のこといたわって……)

櫻子(あぁでも、こういうのはたまにのほうがいいのかな……?)

櫻子(……)

櫻子(まぁいいや、よくわかんないし、寝ちゃおう)

櫻子(起きたら、きっと具合もよくなって)

櫻子(きっと、もっと……頭もすっきり……して……)

櫻子「……おやすみ、ひまわり…………」


――完――



※後日櫻子ちゃんは向日葵ちゃんのクリスマスプレゼントに嫉妬して人間湯たんぽになりました。

文学少女「ひまさくくん、今日のお題は『竜巻』『風邪薬』『一年に一回』よ!」
ttp://shindanmaker.com/14940より。

短編に毛が生えた程度のあっさりさですが聖夜のおつまみに。

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