第一話「切れるナイフ」
~ 店 ~
店長「……今日も客来ねえな。ウチほど何でも売ってる店もないってのに」
助手「何でもってのが逆によくないんじゃないスかね? 漠然としすぎてて」
店長「そういうもんなのか?」
ギィィ……
店長「お」
店長「いらっしゃいませ~、何でも売るよ~、どんなものでもな!」
助手「何でも売ってますッスよ!」
黒髪女「……本当ね?」ジロ…
黒髪女「……本当に、何でも売ってるのね?」
黒髪女「ウソついたら承知しないわよ?」ジロ…
店長「ああ、できるかぎり何でも売るよ」
助手(なんだか、目つきがよどんだ女性ッスねえ……)
黒髪女「なら、ナイフ……売ってちょうだい」
黒髪女「よぉく……切れるヤツをね」
店長「あいよ~!」
店長「ほれ、ナイフ」
黒髪女「あら、よく磨かれてて、よく切れそうなナイフね……」ニタァ…
黒髪女「ありがと……これであの人を……」スタスタ…
店長「…………」
助手「店長、あんなもん売って、大丈夫なんスか?」
助手「もし、あの人が事件とか起こしたら──」
店長「知るかよ」
店長「俺は何でも売るのが仕事だ。売ったものが何を引き起こそうと知ったことか」
助手「そりゃそうッスけど……」
~ 黒髪女の自宅 ~
黒髪女「刺してやる……」
黒髪女「私を捨てたあの人を、刺して、刺して、刺しまくって──」ギラッ
黒髪女「あら? ナイフに私の顔が映って──」
黒髪女「!」
黒髪女(なんて──)
黒髪女(なんて醜い顔をしているの、私は! 私はこんな顔をしていたというの!?)
黒髪女(赤いものも映って──)
黒髪女(この前、買ったリンゴ……)
黒髪女(リンゴ! このリンゴのなんて美しいこと! 美味しそうなこと!)ジュル…
黒髪女(もう人なんか刺してる場合じゃないわ! リンゴの皮をむかなくちゃ!)
一ヶ月後──
~ 店 ~
黒髪女「こんにちは!」
店長「おお、アンタかい。ナイフの調子はどうだ?」
黒髪女「最高よ!」
黒髪女「あれ以来、料理にハマっちゃって、今日は調理器具を買いに来たの!」
~
助手「いやぁ~、人間変われば変わるもんッスねえ。すっかり明るくなって……」
助手「あの人がくれたこの料理、ウマイッスよ」モグモグ…
店長「あのナイフはよく切れる」モグモグ…
店長「特に人の醜い心、なんてのはな」
助手「店長はあまりウマイこといえてないッスね」モグモグ…
店長「ほっとけ!」
<おわり>
第二話「スカウター」
~ 店 ~
店長「いらっしゃいませ~、何でも売るよ~、どんなものでもな!」
助手「といっても客は来な──」
ギィィ……
店長「来た」
助手「来たッスね」
青年「こんにちは」
青年「表に書いてあったけど、ここには何でも売ってるんだって?」
店長「ああ、できるかぎり何でも売るよ」
青年「ふうん……」
青年「ならさ……」
青年「他人の能力が、自分よりも優れてるか劣ってるかが分かる道具ってある?」
店長「あいよ~!」
青年(……あるのかよ!)
店長「ほれ、人間優劣判定装置」
青年(見た目は、ドラゴンボールのスカウターみたいだな)
店長「これを目につけて操作すると、自分より優れてる奴は赤く」
店長「劣ってる奴は青く表示される」
青年「どれどれ……」カチッ
青年「おお、店長さんは青く、そちらの女性は赤く表示されてる」ピピピ…
店長「…………」
助手「……ぷっ」
青年「これ、ありがたく買わせてもらうよ!」
青年(これさえあれば──)
青年(自分より優れてる奴とは勝負せず)
青年(自分より劣ってる奴とだけ勝負するようにすれば──)
青年(俺は絶対に負けない最高の人生を送ることができる!)
青年「さて、試してみるか」カチッ
青年(お、アイツは赤い。要注意だな、絶対に敵に回さないようにしよう)ピピピ…
青年(アイツは青く表示されてるな。強気に出て問題ないだろ)ピピピ…
しばらくして──
~ 店 ~
青年「うわぁぁぁぁぁんっ!」バタンッ
店長「なんだぁ!?」
助手「どうしたッスか!?」
青年「もう死ぬしかない……安楽死できる道具を売ってくれえっ!」
店長「落ちつけ。とりあえず、なんで死にたいのかを説明してくれ」
青年「お、俺……」
青年「自分より劣ってる奴とばかり勝負するようにしてたら──」
青年「いつからか、周囲のみんなが赤く見えるようになって……」
青年「もう俺……恥ずかしいやら情けないやらで、表を出歩くのも怖くて……!」
青年「これなら死んだ方がマシだぁ~っ!」
店長「…………」
店長「よかったじゃねえか」
助手「え!?」
青年「なんでだよ! なんでそんなこというんだよっ!」
店長「みんな赤く見えるってことは、アンタはどん底、ドベ中のドベってことだ」
店長「──ってことはもう、はい上がるしかねえってことだ」
青年「!」
店長「みんなに期待されてないから気楽な上に、やりがいもある」
店長「こんな美味しいポジション、なかなかねえぞ?」
店長「今まで下ばっか向いてた分、今度は上向いて頑張ってみろよ」
店長「もし、どうしてもダメだったら、そん時は楽に死ねる道具を売ってやるから」
青年「…………」
助手(店長……たまぁ~には、いいこというんスねえ……)
青年「分かったよ」
青年「俺……もう少し生きてみるよ」
店長「おう、その意気だ!」
青年「それじゃせっかくなんで……」カチッ
青年「あれっ、店長さんは表示がまだ青いぞ」ピピピ…
店長「…………」
助手「……ぶふっ!」
さらにしばらくして──
~ 店 ~
青年「うわぁぁぁぁぁんっ!!!」バタンッ
店長「なんだぁ!?」
助手「どうしたッスか!?」
青年「もう死ぬしかない……安楽死できる道具を売ってくれえっ!」
店長(我ながらなかなかいいアドバイスをしたつもりだったが、ダメだったか……?)
青年「あれから俺、自分より優れてる奴にとことん勝負を挑んでたら」
青年「みんな青く見えるようになって……生きがいがなくなってしまったぁぁぁ!」
店長「知るか!」
<おわり>
第三話「需要と供給」
~ 店 ~
ギィィ……
店長「いらっしゃいませ~、何でも売るよ~、どんなものでもな!」
サド女「本当に何でも売ってくれるの?」
店長「ああ、できるかぎり何でも売るよ」
助手(うわぁ、性格キツそうな女性ッスねえ……)
サド女「なら……最高にマゾな男を売ってくれない?」
サド女「最近はアタシの責めに耐えられない、軟弱なオスばかりで困ってるのよ」
店長「あいよ~!」
店長「ほれ、マゾな男だ」
マゾ男「ど、どうも」ハァハァ…
サド女「あら、まさしくアタシの好みのタイプだわ!」
サド女「じゃ、ありがたく痛めつけさせてもらうわね! オ~ッホッホ!」
マゾ男「お、お願いしまっしゅ!」ハァハァ…
店長「…………」
助手「…………」
店長「世の中ってのは、需要と供給がうまくできてるもんだな」
助手「そうッスね……」
15分前──
~ 店 ~
マゾ男「ここは何でも売ってるんですよね!?」ハァハァ…
店長「ああ、できるかぎり何でも売るよ」
助手(うわぁ、いじめられるのが大好きって感じの男性ッスねえ……)
マゾ男「じゃ、じゃあ、最高のサディスト女王様を売ってくだしゃい!」ハァハァ…
店長「すまねえ……! あいにく今、サドな女は在庫がないんだ」
マゾ男「そ、そんなっ……!」ガーン
店長「すぐ入荷できるかもしれないし、よかったら店の奥で待っててくれ」
マゾ男「分かりましたっ!」
<おわり>
第四話「若さ」
~ 老人の自宅 ~
老人「ハァ~……」
老人「昔は筋骨隆々で、精神的にもたくましく、ギャルにモテモテじゃったのに」
老人「今や、髪は白くなり、体には骨が浮き、顔はシワだらけ……」
老人「老いとは、なんともイヤなものじゃのう……」
老人「老いを克服する方法はないんじゃろうか……」
~ 店 ~
ギィィ……
店長「いらっしゃいませ~、何でも売るよ~、どんなものでもな!」
老人「その言葉、本当じゃな?」
店長「ああ、できるかぎり何でも売るよ」
助手「おじいさんは、なにが欲しいんスか?」
老人「若さじゃ!」
老人「ワシに若さを売ってくれ!」
店長「あいよ~!」
店長「ほれ、若さ」
若者「おお……!」ムキムキ…
若者(エネルギーに満ち満ちておる! これが……若さか!)
若者(肉体に、あの頃のような力強さとしなやかさがみなぎっておる!)
若者(精神も、あの頃のようにたくましくまっすぐに──)
若者「…………」
店長「どうした?」
若者「やめだ、やめだ、やめだ!」バンッ
店長&助手「ひっ!?」ビクッ
若者「若さとは、二度と手に入らないからこそ価値があるもの!」
若者「みんな年を取るのに、俺だけこんな手段に頼ってなんになる!?」
若者「俺は老いを受け入れる!」
若者「店長! 悪いが、今すぐ元に戻してくれ!」
店長「え、もう戻すの!?」
老人「いやぁ~世話をかけたのう! ではさらばじゃ!」
老人「よぉ~し、老いたまま頑張るぞい!」スタスタ…
店長「いったい何がしたかったんだ、あの爺さんは……」
店長「ただの冷やかしか?」
助手「きっとそうッスよ」
助手「ずいぶん若々しいおじいさんだったッスし、イタズラ好きなんスよ、きっと」
<おわり>
第五話「サービス期間につき」
~ 店 ~
ギィィ……
店長「いらっしゃいませ~、何でも売るよ~、どんなものでもな!」
美女「ねえ、この店って何でも売ってくれるの?」
店長「ああ、できるかぎり何でも売るよ」
美女「じゃあ……アナタを売ってくれない?」
店長「…………」
店長「あいよ~!」
助手「!」ガーン
店長「ただし」
美女「?」
店長「今はサービス期間中なんで、セットでコイツもついてくる」
店長「それでもよかったら、俺を売るよ」
美女「…………」チラッ
助手「…………」ジロ…
美女「ふふっ、やめとくわ」
美女「この可愛い助手さんには、かないそうもないものね」
美女「面白い看板を見つけて、中に入ったらなかなかいい男だったから」
美女「ちょっとからかってみただけ」
美女「じゃあね」スッ…
助手「店長ぉ~! アタシ、信じてたッスよぉ~!」グスッ
助手「店長はアタシを置いてったりしないって~!」
店長「バカだな、俺がお前を置いていくわけないだろ?」
助手「うおぉぉん、店長は最高ッス!」
助手「そうだ! そろそろお昼ご飯作ってくるッス!」タタタッ
店長「おう」
店長「…………」
店長(ぶっちゃけさっきの女、あんまり好みじゃなかったしな)
店長(それにこれで、当分の間メシが豪華になるってもんだ)ニヤッ
<おわり>
第六話「等身大の思い出」
~ 店 ~
ギィィ……
学生「あの……」
学生「この店は何でも売ってくれるそうですね?」
店長「ああ、できる限り何でも売るよ」
助手「売るッスよ!」
学生「では……思い出を売ってくれませんか?」
学生「ボクは今、大学生なんですが……」
学生「ボクの空っぽな人生を……少しでも実りある豊かなものにしたいのです」
店長「あいよ~!」
店長「一口に思い出といっても色々あるんだが……」
店長「金メダル取ったとか、ノーベル賞受賞したとか、ホスト王になったとか」
学生「そんな大げさなものじゃなくていいです。みじめになるのもイヤですから」
店長「なら、こんなのはどうだ? 助手、スタンバイ」
助手「はいッス!」
『平凡な両親のもとに生まれる』
『地元の幼稚園に入園』
『年長組での学芸会では、桃太郎のキジを演じる』
『地元の小学校に入学』
『大人しいが、素直で優しい子供に成長』
『カードゲームにハマり、お年玉を使いこんで怒られた』
『中学は学区の関係で、多くの友だちと別れてしまった』
『しかしながら、好きな漫画の影響で陸上部に入部』
『目立った成績は残せなかったが、三年間頑張った』
『地元の高校に入学』
『はじめて彼女ができたが、付き合い始めるとまったく性格が合わず、すぐ別れた』
『部活は運動部ではなく文学部に入ったが、実質雑談部だった』
『成績はまずまず、高校二年の中ごろから予備校に通い始め』
『どうにか第二志望の大学に合格』
助手「──ざっと、こんなとこッス!」
学生「すごくしっくりきました!」
学生「こういうのでいいんです! これでお願いします!」
店長「どうだ? ちゃんとアンタの思い出になったか?」
学生「ええ……なんだか生まれ変わったようだ!」
学生「ところで、お値段は──」
店長「アンタは初めてじゃないし、サービスでタダにしとくよ」
学生「?」
学生「ま、いいや。ありがとうございます!」スタスタ…
店長「…………」
助手「…………」
店長「まぁ……さっきの思い出は、彼自身のものなんだがな」
店長「“こんな平凡な思い出はまっぴらだからなくしたい”」
店長「“大学に入ったのをきっかけに、一から生まれ変わりたい”とかいうから」
店長「社会生活に最低限必要な思い出以外、全部消し去ってやったばかりだってのに」
助手「思い出ってのは、そう簡単に捨てられるもんじゃないんスよ」
助手「アタシも洋服屋でもらったマネキンを、捨てられないッスから」
店長「いや、あれいい加減捨てろよ!」
店長「夜中に見ると小便チビるほど怖いんだよ、あれ!」
助手「いやッス!」
<おわり>
第七話「喧嘩の売り方」
不良「クソが! ──あ~、イライラしやがる!」
不良「どうすりゃこのムシャクシャを解消できんだ!?」
不良「ん?」
不良「こんなところに店があったのか……なんだこれ?」
不良「“何でも売ります、どんなものでも売ってます”……?」
不良「ふ~ん、おもしれぇ……」ニヤッ
~ 店 ~
バンッ!
不良「おう!」
不良「この店は何でも売ってくれるんだってなァ!?」ズイッ
店長「ああ、できる限り何でも売るよ」
助手(うわぁ~……怖そうな人ッス)ビクビク…
不良「だったらよぉ……」
不良「俺に喧嘩売ってくれよ、なァ!」
店長「あいよ~!」
助手(喧嘩を売ってくれって……)
助手(店長はぶっちゃけ弱いッス! どうするつもりッスか!?)
店長「…………」コホン
店長「“上等”だよ!?」クネッ
店長「あんまり“チョーシ”こいてっと、“ヤキ”入れちまうぞ?」クネクネッ
店長「“オモテ”に出ろや、コラ?」クルリッ
店長「あぁ~~~~~ん!?」クネッ
不良「…………」
不良「……ぷっ」
不良「ギャハハハハハッ!」
不良「アッハッハッハッハッハ……!」
不良「いやぁ~、いったいいつの時代のヤンキーのつもりだよ、アンタ」
不良「しかも、顔も全然怖くねえし!」
不良「久々に思いきり笑ったら、なんかスッキリしちまった」
不良「ムシャクシャしてて、誰かと喧嘩したかったんだが、もういいや」
不良「サンキューな!」
店長「人生棒に振りたくなかったら、よほどのことじゃなきゃ喧嘩なんかすんなよ!」
不良「わーってるよ! 当分は思い出し笑いしちまいそうだ! ほれ代金!」チャリン
店長(100円かよ)
助手「いやぁ~、危機一髪だったッスね」
助手「まさか喧嘩を売れ、なんてお客がいるとは」
助手「ところで、なんだったんスか? あの全く迫力のない喧嘩の売り方は」
店長「わざとに決まってんだろ。俺だって殴られたくはないからな」
助手「へぇ~……。じゃあ店長、ホントは喧嘩の売り方上手いんスか?」
店長「当たり前だろ? 俺は挑発の名人だ。試しにお前にやってやろうか?」
助手「もちろんいいッスよ! アタシ、絶対怒らないッスから!」
店長「…………」
店長「ブス」
バキィッ!
<おわり>
第八話「ミサイルは飛んでいく」
~ 店 ~
ギィィ……
店長「いらっしゃいませ~、何でも売るよ~、どんなものでもな!」
眼帯「何でも、といったね……?」
店長「ああ、できる限り何でも売るよ」
眼帯「だったら……核ミサイルを売ってもらおうか」
店長「あいよ~!」
店長「ほれ、超小型核ミサイルと発射ボタンだ」
店長「これを好きなところに備えつけて、ここに撃ちたい場所をインプットして」
店長「このボタンをポチっと押せば、発射できる」
店長「けっこう重いから、この台車で持ち帰ってくれ」
眼帯「まさか、本当に売っているとはな……」ニヤッ
眼帯「ありがとう……」ガラガラ…
~
助手「いやぁ~、ウチの店って核兵器まで扱ってたんスね!」
店長「当たり前だ。どんなものでも売ってるってキャッチフレーズなんだからな」
助手「でも、あんなもん売って大丈夫ッスか?」
店長「もう売っちまったし、あの客が悪用しないことを願おう」
助手「悪用以外に使えるんスか、あれ……」
~ 廃屋 ~
眼帯「ふふふ……これが核ミサイルか」
眼帯(都市一つ軽くふっ飛ばせる威力だっていってたな)
眼帯(恨みのある奴が住んでる地方にぶっ放すのもいいし)
眼帯(ベタに国会議事堂みたいな重要施設をやってしまうのも面白いかもしれない)
眼帯(いや、いっそ私に撃って壮絶な自爆をするのもドラマチックでいい)
眼帯(どうせ、この世に未練などないのだ)
眼帯(まぁいい、これをどう使うかはじっくり考えることにしよう)
眼帯「ふふふふふ……」
眼帯(さて、そろそろ発射する場所を決めるか)
眼帯「む、核ミサイルにホコリがついているではないか。いかんいかん」
眼帯「どれ、手入れをするか。フキンで拭くとしよう」キュッキュッ
眼帯「…………」キュッキュッ
眼帯「…………」キュッキュッ
眼帯「おお、ピカピカになったぞ!」
眼帯「ふふふ……なんだか核ミサイルが愛おしくなってきてしまったぞ」
眼帯「せっかくキレイにしたし、発射するのはもう少し後にしよう」
眼帯「核ミサイルと添い寝をしてみるか」
眼帯「…………」ギュッ…
眼帯(こうやって核ミサイルを抱き枕みたいにすると)
眼帯(金属がひんやりして、気持ちいいな……)
眼帯「ふふふふふ……」ギュッ…
~
眼帯「核ミサイルに、リボンをつけてお洒落をさせよう」
眼帯「おおっ、可愛いぞ!」
眼帯「核ミサイルとて、爆発さえしなければ誰にも迷惑をかけないのだ!」
眼帯「さて、今度はこの高級タオルで優しく掃除してやるからな!」
眼帯「ふふふふふ……」キュッキュッ…
眼帯「ああっ! 核ミサイル! ──いや、お前と呼ばせてくれ!」
眼帯「私がお前が大好きだ! 一生離さないぞ! 絶対発射なんかするもんか!」ギュッ…
眼帯「生まれてから不幸の連続で、仕事先の事故で片目を失い」
眼帯「しかもクビになり、こんな廃屋でみじめに暮らすしかなくなった私だが──」
眼帯「お前のおかげで生きる気力が湧いた!」
眼帯「お前だけは私を裏切らない!」
眼帯「好きだ! 大好きだ!」ギュウッ…
眼帯「核ミサイル、私はお前を愛してるッ!」
しかし、ある日──
シュゴゴゴゴゴ……!
眼帯「!?」
眼帯(なんで発射態勢に入ってるんだ!?)
眼帯「おいお前、どこへ行くんだ!? 私はスイッチを押してないぞ!」
シュボォッ……!
眼帯「あああああ~~~~~~~~~~っ!?」
眼帯「お前まで私を見捨てるのか! 裏切るのか!」
眼帯「お前までぇ~~~~~!」
眼帯「あああっ……」ガクッ…
ラジオ『臨時ニュースです』
ラジオ『各国の宇宙研究機関が全く感知できていなかった巨大隕石が』
ラジオ『あわや日本に激突、というところで』
ラジオ『地上から飛び出した謎の飛行物体によって爆破されました』
ラジオ『なお、この爆発による放射能汚染などの影響はない模様です』
ラジオ『これはおそらく、隕石に含まれる物質によるものと──』
眼帯「…………」
眼帯「もしかして……」
眼帯「お前は私を、守ってくれたのか……?」
眼帯(なら、この守られた命……無駄には、できない……な……)
~ 店 ~
助手「店長、ニュース見たッスか?」
店長「ああ、見た」
店長「あの客がスイッチ押したら、俺にも分かる仕組みになってるから」
店長「スイッチは押されちゃいないだろう」
助手「つまり、核ミサイルが勝手に飛び出したってことスか?」
店長「そういうことになるな」
店長「大切にすれば物にも心が宿る、なんていうが」
店長「核ミサイルも、それは例外じゃなかったってことか……」
<おわり>
第九話「あの輝く星を君に」
男「君は本当に美しいよ!」
女「あなたは本当にかっこいいわ!」
男「そうだ、君になんでも買ってあげよう!」
女「キャ~嬉しい~!」
男「あの夜空に輝く星を、一つ買ってあげよう」キラッ
女「キャ~ロマンチック~!」
ハハハハハ……! キャーキャー……!
~ 店 ~
ギィィ……
男&女「アロ~ハ~」
店長「いらっしゃいませ~、何でも売るよ~、どんなものでもな!」
男「なんでも売ってくれるのかぁい?」
女「なんでも売ってくれるのかしらぁ?」
店長「ああ、できる限り何でも売るよ」
助手(なんだかすごいテンションのカップルッスね……)
男「なら、星を一つ売ってくれないかい? ぜひ彼女にプレゼントしたいんだ」キラッ
女「キャー、ステキ~!」キャッキャッ
店長「あいよ~!」
店長「まもなく迎えが来ると思うから、ちょっと待っててくれ」
男「迎え?」
ギィィ……
宇宙人「お待たせいたしまシタ」グジュ…
宇宙人「我らの星をお買い上げいただき、ありがとうございマス」グジュルジュル…
宇宙人「ぜひご招待したいので、さっそく宇宙船へドウゾ」ニュルニュル…
男「え? え? え? 触手が伸びてきたぞ?」
女「キャ~、なにこれぇ~!?」
助手「さ、宇宙の旅を楽しんできて下さいッス!」
~ どこかの星 ~
宇宙人「ここが我らの星デス」ウジュルグジュル…
男「地球からどのくらい離れてるのかな?」
宇宙人「ざっと10億光年デス」グジュグジュ…
女「キャ~、10億光年ですってぇ!」
女「ねえねえ、ヨーロッパより遠いのぉ?」
男「もちろんだとも!」キラッ
男「なにしろ、10億光年っていうぐらいだからね!」
女「キャ~!」
ハハハハハ……
宇宙人(今まで地球人はあの二人以外、我らの姿を見たとたん失神してイタガ……)グジュ
宇宙人(なんか調子狂ウナ)グジュグジュ…
二日後──
店長「あの二人はどうなってる?」
助手「モニターを見ると──」
助手「宇宙人さんの星で、変わらずあのテンションで楽しんでるッスよ」
助手「もうすぐ三連休終わるからお土産買わなきゃ~とかいってるッス」
店長「ったく、そこらの観光地に遊びに行ってるわけじゃねえんだぞ」
店長(正直いって、あのテンションにイラッときたから)
店長(ビビらせるためにあの星を売ったって部分もあったんだが──)
店長(バカップル恐るべし、だな)
<おわり>
最終話「店長と助手」
~ 店 ~
客「──まさか、これが手に入るとは思わなかったよ! 半ば諦めたとこだったんだ!」
客「本当にありがとう!」スタスタ…
店長「毎度~!」
助手「また来て下さいッス!」
店長「もう客も来ないだろうし、そろそろ店じまいするか」
助手「そッスね!」
店長「それにしても、お前はいつもよくやってくれてるな」
助手「どうしたんスか、急に!?」
店長「なに、俺もたまには気まぐれに人を褒めたくなる時があるんだよ」
助手「なぁんだ、気まぐれッスか」
店長「…………」
店長「どうだ、お前は何か欲しいもんとかないのか?」
助手「欲しいものッスか?」
店長「ああ、できる限り何でも売ってやるよ」
助手「う~ん、そうッスねえ……」
助手「だったら──」
助手「長めの休暇が欲しいッス!」
店長(なにぃ!? その間俺が一人でこの店を切り盛りしろってか!?)
店長(商品の整理とか、コイツがいないとどうにもならねえぞ!)
店長(しかし……何でもっていっちゃったしなぁ……うぐぐ……)
助手「もちろん、店長も一緒に!」
店長「へ?」
助手「店長もちょっと長めの休暇をとって、ふたりで旅行でも行くッスよ!」
店長「ふん……そんなんじゃ、いつまでたっても独立できねえぞ?」
助手「アタシはずっと店長と一緒ッス!」
店長(た、助かった……)ホッ…
店長「よし、じゃあ休暇を売ってやる」
店長「なお休暇中、給料は出ないからな。それが代金代わりだ」
助手「そんな殺生な!」
店長「俺の店に、有給休暇なんてもんはねえんだよ」
店長「さぁ~て、んじゃさっそく旅行プランでも立てるか」
店長「これをドアにぶら下げてきてくれ」スッ
助手「はいッス!」
── 都合により、当分の間休業いたします ──
<おわり>
このSSまとめへのコメント
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