※50話までのネタバレを大量に含む
※ベルユミになるかもしれないしならないかもしれない
※黒トルトさん、救いや希望は駆逐されました
※亀亀更新
今は朝なのか、夜なのか。
ここは壁内なのか、壁外なのか。
ぼんやりと定まらない思考で何度同じことを考えただろうか。
窓もない、黴臭い空気の部屋。
感じるものは肌に触れる外気の冷たさと、日に一度の食事の時にだけ外される猿轡に不快感。
そして、両手を拘束する、やけに太い鎖の重量感のみ。
瞼を閉じれば、そこには変わらず金色の女神がいる。
彼女が、彼女さえいてくれれば、それで構わない、と。
ユミル(ん…)
頭上で腕が固定されているせいで、やけに肩が凝る。
しかし揉むことも擦ることも出来ないので、その痛みを治めることは出来ない。
チカチカと瞬く視界の隅に、出て半刻は経っているであろう食事のトレイが見えた。
小さく固いパンと、冷めきったスープ。
兵団にいた時よりも質素な食事ではあるが、何も食べれないよりマシだと既に割り切った。
ユミル「…っ」ガンッ
腕を無理矢理動かし、鎖の音を立てる。
そこまで大きな音ではないが、嫌なほど静かなこの場所ではよく響く。
しばらくすると階段を降りてくる足音と、松明に揺らめく大柄な影。
火に照らされた、少し茶色が混じった金髪の男が、表情一つ変えずに姿を見せた。
ライナー「…起きたか」
ユミル「……」
ライナー「飯は食えそうか?」
ユミル「…」コクリ
小さく頷けば、ライナーの腕が後頭部に回って、きつく締められていた猿轡を解いてゆく。
息苦しさから解放され、知らず、息を吐く。
ユミル「…よぉライナー。今は朝か?夜か?」
ライナー「今は夜だ。月が大体出切ったくらいだな」
ユミル「はっ、お前が月とか言うと似合わねぇなぁ」
ライナー「…飯だ」
ライナーの骨太な指が、小さくパンを千切る。
ベリベリと音がしそうなほど固く見えるそれにももう慣れた。
特に匂いもしないそれを口まで運んでもらい、一口で食べる。
乾燥しきったパンを口に含めば当然口内が渇く。
ユミルは無理矢理パンを飲み込むと、ん、とスープを要求する。
光沢を失ったスプーンが、冷めきったスープをユミルの口に注ぎ込む。
申し訳程度に味の付いたスープが、きっと用意出来る限界のものなのだろう。
食事の質素さに不満を感じたことは、ない。
ライナー「腕は痛くないか?」
ユミル「…痛くねぇと言ったら嘘になるさ。だが、これを解くわけにはいかねぇんだろ?」
あぁ、と頷かれ、すまん、と言われた。
ライナー「今お前を自由にするわけにはいかないからな」
ユミル「そりゃ当然だ。別に文句なんかねぇよ」
ライナー「…俺たちを恨んでいるか?」
ユミル「…別に」
しん、と静かな空間が戻ってきた。
知らぬ間に食事は終わっていたらしく、視界の隅に空になった器が入る。
口の中に貼りついたパンが気持ち悪くて、眉を顰めた。
それを察したのか、ライナーが水を寄越してくる。
水差しを使って飲まされるのは癪に障るが仕方がない。
飲みきれなかった水が口の端を伝い、胸元を濡らす。
生温い水に、ぶるりと身震いした。
ユミル「んっ…悪いな…」
ウトガルド城での惨劇から、もう二週間が経過していた。
クリスタを守る為とはいえ、ライナー達に付いてきて良かったのか。
アイツの傍で守ってやる方が良かったのではないか。
―――私の行動は、クリスタを傷つけたのではないか。
そんな考えが今でも脳内を巡っている。
最後に触れた彼女の髪は、相変わらず柔らかかった。
クリスタの大きな瞳が、白い肌が、―――伸ばされた、腕が。
焼き付いて、離れない。
ユミル(クリスタ…)
壁内で、アイツは無事に過ごせているだろうか。
一瞬でもこちらの味方をしたことを責められてはいないだろうか。
クリスタの出生を考えれば、手荒な真似は恐らくされないであろう。
だが、それでも、万が一。アイツが責められることがあるとしたら。
ユミル(私のせいだ)
ライナー「ユミル」
ユミル「…何だよ」
ライナー「その、クリスタのことなら、きっと大丈夫だ」
ユミル「……」
分かっている。ライナーは敵だと。
彼らの言う“故郷”に帰った時、自分の命は彼らの仲間によって奪われるのだと。
おまけにライナーの心が、今どこにあるのかさえ分からない。
今のライナーは兵士なのか、戦士なのか。
きっとそれは―――。
ベルトルト「何を言っているの、ライナー」コツコツ
ライナー「…ベルトルト」
ユミル「……」
この男にさえ、分からないだろう。
燭台を手に階段を降りてきた男は、あの日から変わらない目をしていた。
ベルトルト「何でソイツと慣れあってるの?」
ライナー「…ベルトルト。だが、食事をしなければ死んでしまうだろう?」
ベルトルト「いいじゃないか死んだって」
ライナー「そんなことを言うヤツじゃなかっただろう、お前は」
ベルトルト「そうだね。そんな僕でさえ、そう思うんだ」チラ
ユミル「……」
ベルトルト「死ぬわけないじゃないか。彼女は巨人だったんだよ?」
ベルトルト「ベリックを食べた、あの巨人だったんだ」
ライナー「……」
ユミル「…はっ、お前、何が言いたいんだ?」
ベルトルト「……」
ライナー「ベルトルト。…食事は終わった、上に行くぞ」
決意を秘めたライナーの瞳と対称的に、全く読めない瞳。
兵団当時には見せなかったその瞳に追わず口角が歪んだ。
ユミル(そんな顔も出来るんじゃねぇか)
ライナー「…じゃあな、ユミル」
ベルトルト「……」
ベルトルト「……僕は、絶対に君を許さない」
ライナー「…行くぞ、ベルトルト」
二つの影が炎に揺らめき、見えなくなる。
もしかしたら聞こえてしまうかもしれない。あぁいや、それでも構わない。
ユミル「くっ…かははっ…」
歯を食いしばっても、唇を噛んでも、その笑いを止めることは出来なかった。
腹の底から勝手に漏れ出してくるその笑いは、決して二人を馬鹿にしたものではない。
静かになった部屋に反響する笑い声を聞いているのは、静寂のみ。
ユミル(許さない、か)
あの男は一体何を言っているのだろうか。
誰かを無条件に、本当に、一切の禍根も残さず許すだなんて。
ユミル(人間に出来るわけねぇだろ)
クククと、喉の奥から、また漏れた。
とりあえずここまで
キャラ崩壊が激しくなりそうですが、どうかお付き合い下さい
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※捏造設定注意
亀さん頑張ります
******
彼女のことは、兵団時代から得意じゃなかった。
嫌いと言ってしまっても差し支えはないだろう。
下品で、ガサツで、アニとは大違いだ。
壁内にはこんなのが人間いると知った時は本気で吐き気がした。
極力彼女とだけは関わりたくない。その思いは予想外にも仲間に裏切られた。
一体何故ライナーが壊れてしまったのか。
彼はこの程度のプレッシャーに押し潰されるような男ではなかったはずだ。
責任感が強く、仲間思いで、誰よりも頼りがいがある、
そう、ベリックのような、強い男だったはずだ。
それがどうしてこうなってしまったのか?
壁内の人間なんかに心を許して、恋心を持ってしまって。
最初はライナーの作戦だと思っていた。
壁内の人間を油断させるために。弱みを見つけるために、握るために。
ねぇ、ライナー。
君は一体何をしているんだい?
君は一体誰の仲間なんだい?
君がクリスタなんかと関わるから、僕まで必然的に関わる羽目になってしまった。
だって僕がいなかったら、今の君じゃ何をするか分からない。
クリスタを見つめる君の姿は、まるで僕がアニを見ている時のようだった。
―――君は本当に、クリスタを好きになってしまったんだね。
クリスタと関わるようになって、ユミルと話す機会が増えた。
僕やライナーを馬鹿にするような、軽蔑するような瞳で見てくる女の子。
身長は僕たちよりも低いのに、まるで見下してくるような目をする彼女のことが、僕は大嫌いだった。
その君が、今は自由を奪われて、猿轡をされ、暗く冷たい床に跪いている。
あぁ、ユミル。
とても滑稽だよ。殺してやりたいくらい。
******
殺したいか?私を。
うん。そんな言葉じゃ物足りないよ。
その程度じゃ足りない。君の余裕綽々なその表情が歪むのが見たい。
そうか。
君がいなければ、君さえいなければ。
そうか、じゃあやってみろよ。
出来るものならな。
******
パチンと、頬に走る痛みで目が覚めた。
まだ覚醒しきっていない頭を無理に動かせば、後頭部に鈍痛が走る。
霞む視界を瞬きで誤魔化し、ゆっくりと顔を上に上げた。
いつも着ているセーターを脱いでワイシャツ姿のベルトルトがそこにいた。
ユミル(叩かれたのか)
ベルトルト「おはよう、ユミル。ご飯だよ」
ユミル「おはようベルトルさん。随分過激な目覚ましだな」
ベルトルト「君にはお似合いだろ?」
ユミル「温厚で有名な私に何言ってんだ?」
ベルトルト「…とっとと食べなよ。僕も暇じゃないんだ」
ユミル「今の私が一人で食べれるわけがないだろう?」ジャラ
ベルトルト「あぁそうか。そうだったね」カチャ
ユミル「!?」
ガクンと衝撃が走る。
頭上で固定されていた鎖を外され、頬から床に崩れ落ちた。
あまりに突然な出来事に受け身さえも出来ず、衝撃をもろに食らう。
腕が落ちたとは言え、両手首は繋がったままなので相変わらず身動きは取れないままだが。
ほぼ地に這いつくばった状態で見上げたベルトルトは、いつも以上に大柄に見えた。
切れた頬の内側の肉を舐め、にぃと笑って見せる。
ユミル「おいおいベルトルさんよぉ。金具を外しちまっていいのかい?」
ベルトルト「食事が終わったら元に戻すよ。はは、ユミル随分下にいるね」
ユミル「たまには空を見上げるのもいいだろ。……ぐあっ」グイッ
ベルトルト「…ねぇ、今の君の立場分かってる?君の生死って、僕たちに係ってるんだよ?」
ユミル「はっ、お前馬鹿だろ?」
ベルトルト「は?」
ユミル「係ってるわけねぇだろ?お前らの“故郷”に着いたら、私は死ぬって決まってるんだからよぉ」ニィッ
ベルトルト「…」イラ
ユミル「ぐっ」ガッ
ベルトルト「ご飯、冷めちゃうよ」
ユミル「…そりゃご親切にどーも」
行儀など気にする性質ではないが、全く抵抗がないわけではない。
ユミルは相変わらず固そうなパンに照準を合わせ、口を開く。
ギリギリと歯を動かし、毟る。
首だけを上げて食事をしている為、気道が苦しい。
まるで犬のように食事を取るユミルの前に、ベルトルトが体育座りをする。
その座り方は兵団時代から変わらないなと、スープで口の周りを汚しながら思った。
大きな体躯を隠すように、その存在を守るように、彼はその体を丸めていた。
とりあえずここまでです
明日来れたら来ます
ベルトルさんキャラ崩壊激しすぎぃ
投下します
今回人によっては不愉快になるかもしれない表現があります
すみません
ベルトルト「ユミル、犬みたい」
ユミル「…ふるへぇふぉ」
嘲笑を無視して、食事を進める。
パンを食べるのに苦戦したが、何とか平らげた。顎を伝うスープが気持ち悪い。
そこまで腹が空いていなかったからか、勿体ないという感情は起きなかった。
すると丸まっていた影が突然動き、ユミルの眼前にまで迫る。
ふと顔を上げると、相変わらず真っ暗な瞳にぶつかった。
伸びてきた手に顎を掴まれ、更に首を上げさせられる。
首がものすごく痛いが、そんなことこの男には関係ないらしい。
ワイシャツの袖で乱暴に口周りを拭われ、想定外のことに面食らった。
ユミル「…汚れるぞ」
ベルトルト「別にいいよ」
擦られすぎて、皮膚の薄い個所がヒリヒリする。
まさか痛めつけるのが目的かとまで考え始めた頃、ようやく解放された。
ユミル「…ごちそうさん」
ベルトルト「ホント、何でライナーは君にちゃんと食事を出すんだろうね」
ユミル「そんなのライナーに聞けよ」
ベルトルト「ねぇユミル」
ユミル「あ?」
ベルトルト「参考までに教えてよ。どんな気分だった?」
ユミル「…何がだ」
ベルトルト「人間のフリをするの」
ユミル「…」
ベルトルト「ライナーは君たち…ううん、人類に感情移入しすぎて、あんなになっちゃったんだよ」
ユミル「…」
ベルトルト「ライナーはとても真面目で、任務に実直だったからこそ君たちに正体がばれない様に気を付けていた」
ベルトルト「その結果があれだ」
ユミル「…」
ベルトルト「変わってしまうライナーを見ているのは辛かった。まるでライナーが別人になっていくようだったからね」
ユミル「…」
ベルトルト「ねぇ、だから教えてよ」
ユミル「…」
ベルトルト「全ての元凶である君は、どんな気持ちで彼らと一緒にいたの?」
ユミル「…」
ユミル「……」
ユミル「……は」
ベルトルト「は?」
ユミル「くっ、は…はは…」
ベルトルト「…」
ユミル「あっ、ははははは!!!」
ベルトルト「…何がおかしいの?」
ユミル「くっ、くくくっ…かはっ、すまねぇな、いやぁだってさ」
ユミル「お前、他人事みたいに言うんだもんよ」
ベルトルト「…!」
ユミル「逆に教えてくれよベルトルさん。あの時私に怒鳴られて、泣きそうなツラしてたお前はどこに行っちまったんだ?」
ベルトルト「ッ…」
ユミル「あぁ、でも別にまるで他人になっていくようだなんて言わないぜ。そうだろう?」
ユミル「元から他人なんだからさ」ニィッ
ベルトルト「―――ッ!!」ギリッ
また頬に衝撃が走る。
今度は先程のものとは比べものにならない痛み。
蹴り抜かれたのだと気付くのに、さほど時間はかからなかった。
折角治った口内が、また切れた。しかも今度は派手に。
ユミル「カハッ…」グラッ
ベルトルト「君さえいなければ、ライナーはあんな事にならなかった!」
ベルトルト「君がベリックを食わなければ、ライナーがベリックになる必要なんてなかったんだ!」
もう一発、衝撃。
ベルトルト「エレンだってそうだっ、クリスタに会いたいなんて君が言わなければっ、」
ベルトルト「エレンを取り返される事もなかった!!」
もう一発、痛み。今度は、平手。
ベルトルト「座標をエレンが手に入れた事もっ、僕たちがまだ故郷に帰れないのもッ、全部全部、君が…っ!!」
もう一発、痛み。しかし痛くない。
ベルトルト「…ッ、アニ…!!」
ズルズルと巨体が崩れ落ちる。体を震わせている男から洩れる嗚咽が、狭い部屋に響く。
ベルトルト「君がっ、君さえいなければっ…、僕たちはこんなに苦しまなくて済んだのに…!!」
プッ、と、口内にあった違和感を吐き出す。
小さな音を立て、歯が床に転がった。
蹴られた頬よりも、何よりも、目の前の男の泣き声が一番痛い。
ユミル(柄でもねぇ)
泣きじゃくる暗い瞳をした男は、どれだけ図体が大きくても、まだ16そこそこの少年なのだと痛感した。
ライナーと、アニと、―――ベルトルトと。
たった三人の小さな肩に、一体どれほどの重圧を背負っていたのか。
(私は勘違いをしていたんだ)
狂っているのはライナーだと。しかし、違った。
ライナーは狂ってなどいなかったし、それは当然ベルトルトも同じだ。
普通の人間で、普通の少年で、普通に悩み、普通に笑い、普通に苦しんだから。
―――二人とも、心の優しい“人間”だったから。
苦しみから逃げたいと思うのは、人間だから。
ぬるま湯に浸かっていたいと思うのも、人間だから。
あの時エレンを攫ったのは、救いを求めていたからかもしれない。
優しい二人だから、これ以上、人を殺さなくて済むと。
希望のように、贖罪のように。人類の希望であるエレンは、二人の希望でもあったのかもしれない。
ユミル「―――なぁ、ベルトルさん」
私はお前を救ってやれない。
お前らを苦しめる原因を作ったのは、“ユミル”だから。
私は、お前を助けてやれない。
お前の涙さえ拭ってやれない。だから。
ユミル「私を憎んで、許さないでくれ」
それが少しでも救いになるのなら。
今日はここまでです。何を書きたいのか迷走してますね
おやすみなさい
おつです!!
そうだよ。あいつらまだ10代のガキなんだよ。
なのにあんな重いもの背負わされたらああなるのが普通だよな……うぅ……
あと
もしかして飲み物3部作の方?
違ったらごめんなさい!
続き楽しみにしてますo(^o^)o
バイト前に投下
もう迷走しきって誰か助けて
>>40 申し訳ないのですが違います。でもあの雰囲気大好きです
******
壁を壊し、壁内の人間を全滅させる。
そうすれば、俺たちは故郷に帰れる筈だった。
ぶち抜いた壁の堅さ。衝撃で飛ぶ破片が顔に散り、落ちる。
とても小さくて無力な人間が、俺の腕の一振りで消し飛ぶ。
強固な鎧の下に、俺は一体どれだけのものを閉じ込めたのだろうか。
話が違うじゃないかと、俺は何度も叫んだ。
「壁内の人間に知らしめろ」
「今の彼らの生活が、一体何の犠牲の上に成り立っているのか」
「お前らなら出来る」
「お前らは戦士なのだから」
「あの馬鹿な連中に、知らしめろ」
何て愚かで、浅慮で、馬鹿だったのだろうか。
馬鹿だったのはどっちだ。俺か、アイツらか。
殲滅させる気だった。でも、もう限界だった。
俺まで―――馬鹿になってしまいそうだった。
戦士としても兵士としても、どっちつかずになってしまいそうだったから。
だから、俺は。―――壁を壊さなくて済むように。
******
ライナー「…おい、これはどういう状況だ?」
ユミルに食事を運びに行ったベルトルトが長く戻ってこなかったことに不安を覚え、
下に降りて来て見れば、そこには蹲っているベルトルトと這いつくばっているユミルの姿があった。
ユミルの左頬には大きな青痣が出来ているし、周りには空になった食器が散らばっている。
ベルトルトはと言えば、頭を抱えて何一つ言葉を発さない。
ユミルもユミルで、表情一つ変えずにベルトルトを見ているだけだった。
その異様な光景に溜息を一つ溢し、先にユミルの体勢を直すことにした。
ライナー「よっ…と。大分派手に痣を作ったみたいだな」ガチャン
ユミル「いいだろ。最近女子の間で流行ってるんだ」
ライナー「嘘吐け。待ってろ、今冷やすもの持って来てやる。…おい、歯まで折れてるじゃねェか」
ユミル「人の口の中見るんじゃねェよ、趣味悪いな」
ライナー「そんだけ軽口叩けるなら大丈夫だな。…さてと、ベルトルト」
ベルトルト「……」
ライナー「…話は上がってから聞く。ちゃんと説明してくれるな?」
ベルトルト「……」コクン
ライナー「よし、行こう」
ベルトルトの腕を掴み、ゆっくりと立たせる。
そのまま階段を上がっていく。
チラリとしか見えなかったが、乱れた黒髪の毛先が濡れている気がした。
ずっと無理な体勢をしていたせいか、特に首が痛い。
切れた内側の肉を舌で弄んでいると、ライナーが言葉通りに桶と手拭いを持って再度降りてきた。
ユミル「ベルトルさんは」
ライナー「とりあえず上で座らせた。…沁みるぞ」ギュッ
ユミル「っ…」
冷たい布が頬に触れ、そこでようやく痛みを感じる。
傷はとっとと再生するくせに、痛みはあるというのが何とも不便だ。
静寂に包まれ、何だかとても居心地が悪い。
ライナー「…何があった」
ユミル「別に。バランス崩してこけちまっただけだ」
ライナー「……」
ライナー「…ユミル。聞きたいことがあるんだ」
ユミル「クリスタの胸の大きさなら教えないぜ」
ライナー「何故俺たちに付いて来たんだ」
ユミル「……」
ライナー「あの時の状況なら、お前もエレンと一緒に壁内に戻れただろう」
ユミル「……」
ライナー「一瞬でもアイツら裏切ったとは言え、お前ならそんなに処罰は受けないはずだ」
ライナー「エレン以外に巨人化出来る人間なんだからな」
ライナー「…何故、俺たちに付いて来た?」
ユミル「…何でも教えてくれってのは、ガキがすることだぜ?」
ユミル「大人だったら少しは自分たちで考えな」
ライナー「…俺たちは、大人なんかじゃ、なかった」
ユミル「そうかい。だったら足掻いて足掻いて、大人になれよ」
ユミル「まぁ特に理由はねぇかもしれないけどな」ニッ
ライナー「…本当、お前と話していると調子が狂うな」ガシガシ
とりあえずここまで
多分>>100までには余裕で終わります
投下します
今回捏造激しいです
ユミル「あぁそうだライナー。私も一つ聞きたいんだが」
ライナー「教えてくれってのはガキがすることじゃなかったのか?」
ユミル「バーカ。それは自分で答えが出るかもしれない問題の時だ」
ライナー「…で、何だ?」
ユミル「ベリックってのは、どんなヤツだったんだ?」
ライナー「……お前が、それを聞くのか?」
ユミル「申し訳ないことに私はソイツを食ったことを覚えていない。…あぁ、気を悪くしないでくれ」
ユミル「何も知らないってのも気分が悪いんだ」
ライナー「…ベリックは、とても正義感の強い男だった」
ライナー「俺たちの面倒をいつも見てくれて、兄貴分みたいな存在だった」
ライナー「あの時…あの時も、本当だったらお前に食われていたのは俺だったんだ」
ユミル「…!」
ライナー「……俺を庇って、アイツはお前に食われた」
ユミル「…そうだったのか」
ライナー「今のお前は、ベリックの犠牲の上に成り立っているんだ」
ライナー「それを、忘れないでくれ」
ユミル「……」
ライナー「…少し、話し過ぎたな。俺は戻る」
ユミル「…あぁ、ライナー。その、ベルトルさんを怒らないでやってくれ」
ユミル「アイツは悪くないんだ」
ライナー「…」フッ
ライナー「…ありがとな」
******
僕たちは悪くない。
悪くない。だって言われた通りにしていたのだから。
こうする事が、僕たちの為になるのだと言われたのだから。
悪くない。頼む、助けてくれ。
助けて、誰か、僕たちを助けて。
ライナー「…説明してくれるな?ベルトルト」
ベルトルト「……思わずカッとなって、ユミルに暴力をふるってしまった」
ライナー「そうだったとしても、やり過ぎだ。…歯まで折れてたじゃないか」
ベルトルト「…それは、反省してる」
ライナー「…行為については何も反省してないんだな」
ベルトルト「……」
ライナー「反省と言うか、自己嫌悪はしてるみたいだな」
ベルトルト「……」
ライナー「なぁ、ベルトルト。お前はとても優しいヤツだ。それは俺が知っている」
ライナー「だから、俺のことを守っていてくれたんだろ?」
ベルトルト「え…?」
ライナー「すまない。俺が現実逃避なんてしていたから、お前に余計負担がかかっていたんだろ?」
ベルトルト「ち、違…」
ライナー「お前を守って、助けてやるつもりが、…俺にはそれが出来なかった」
ベルトルト「…っ、ち、がう」
ライナー「お前がどれくらい苦しんでいたか。俺が、お前にどれだけ迷惑をかけていたか」
ベルトルト「違う!」
ライナー「……ッ」
ベルトルト「ライナーは悪くない、ライナーが僕やアニを精一杯守ってくれていたのは知ってる!」
ベルトルト「僕がっ、僕が頼りないから…!」
ベルトルト「僕が、ライナーにばっかり頼って、ライナーを苦しめていたから!」
ライナー「…ベルトルト…」
ライナー「…はは、俺は駄目なヤツだな。…俺は、ベリックにはなれないんだろうな」
ベルトルト「…っ、ライナーは、ライナーだ…!」
ライナー「……!」
ベルトルト「ライナーはベリックじゃない!そんなの、当たり前のことじゃないか!」
ライナー「っ、ベルトルト…」
ベルトルト「…ごめんっ、僕、少し、一人になりたいんだ…」フラッ
ライナー「! 待て、ベル…!!」
ベルトルト「……ごめんね」コツコツ
ライナー「……ッ」
ライナー「…クソッ…」ガンッ
今夜はここまでです
ユミル出番少ないなぁ
投下します
今日でラスト
******
人を食った感触なんて、思い出したくて思い出すものではないと思う。
出来ることならばずっと思い出したくない。
皮膚を突き破り、骨を砕き、口の周りを血で濡らし。
ゴワゴワした髪が頬に貼りつき、歯に絡まり。
口内から脳内へ、直接響く断末魔。
生臭く、気持ち悪い臭いがした。
きっとあの時も、そうだったのだろう。
こんな感情、くそ食らえだ。
******
去ったと思った超大型巨人が帰って来たかと思えば、また目の間で体育座りを始めた。
話しかけると厄介な事になりそうな気がしたので黙っていたが、さすがにもう一刻半は経っている。
別に先ほどの事が尾を引きずっているわけではないが、話しかけづらかったのは確かだ。
ライナーが迎えに来るかと多少期待したが、どうやらこの様子だとそれもないらしい。
はぁと聞こえないであろう大きさで溜息を吐き、姿勢を気持ち正した。
ユミル「…おい、ベルトルさんよぉ」
ベルトルト「……」
ユミル「ライナーに苛められたか?」
ベルトルト「……」
ユミル「あれだ、さっきの事なら私は全く気にしていないから」
ベルトルト「……」
ユミル「むしろ、ほら、私も少し言い過ぎたよ」
ベルトルト「……」
ユミル「……何とか言えよ」
ベルトルト「……」
ユミル「……ガキかよ」
ベルトルト「…そうだよ」
ユミル(お、喋った)
ベルトルト「どうせ、僕は子供だよ」
ユミル「……」
ベルトルト「僕たちが世界を変えれるって、真剣に信じてたんだ」ギュゥッ
ベルトルト「アニは、エレンを攫うのを本当に頑張った」
ベルトルト「ライナーだって、僕やアニをずっとサポートしてくれてた」
ベルトルト「じぁあ僕は?僕は一体何をしたの?」
ベルトルト「僕は兵士じゃない。…戦士でさえないかもしれない」
ベルトルト「本当の僕は、一体どこにいるの?」
ベルトルト「僕っていう存在は、一体何なの?」
ユミル「……なぁ、ベルトルさんよ」
ベルトルト「なに」
ユミル「本当のお前、とか、そんな小難しいことは知らないさ」
ユミル「でもよ…お前をお前自身が否定するってことは、さ」
ユミル「お前と一緒に頑張ってきたライナーやアニを裏切る事にはならないか?」
ベルトルト「!」
ユミル「アイツらがお前の存在を意味がないと判断して見切りを付けてたら」
ユミル「…多分お前、今生きてないよ」
ユミル「お前の巨人って、多分三人の中で一番“弱い”だろ」
ベルトルト「……! なん、で」
ユミル「自力で立てない奴が、何言ってやがる」
ベルトルト「……」
ユミル「…お前の存在を確立させる事、私になら多分出来るよ」
ベルトルト「え…」
ユミル「私を殺しちまえばいい。そうすれば、お前は多少なりとも生きていた意味を見い出せる」
ユミル「私の事許さないんだろ?死んだっていいんだろ?」
ユミル「お前にしか、出来ないよ」
ユミル「“親友”の仇討だ。ベリックとやらの、昔のライナーとやらの」
ユミル「あーでもやっぱ悩むな」
ベルトルト「は?」
ユミル「クリスタのこと、もう一回抱きしめたいなぁ」
ベルトルト「……ぷっ」
ユミル「……」
ベルトルト「も、ホント、君って馬鹿だね」
ユミル「うるせぇよ、ったく」ケラケラ
ユミル「な、ベルトルさん」
ベルトルト「ん?」
ユミル「…ごめんな」
ベルトルト「…何が?」
ユミル「色々だよ、色々」
ベルトルト「まさか、まだ何かあるの?」
ユミル「そんな怖い顔すんなよ。…いつか、教えるから」
ベルトルト「今じゃ駄目なの?」
ユミル「あぁ。お前らの故郷に行くか、ヒスト…クリスタを手に入れてからじゃないとな」
ベルトルト「…まだクリスタに拘るの?」
ユミル「エレンに座標が渡った以上、お前らにとってもクリスタの存在は必要だろ」
ユミル「どうせ、クリスタの正体は知っているんだろう?」
ベルトルト「…まぁ、ね。でもそれと君のさっきの話に何の関係が」
ユミル「しっ」
ベルトルト「…?」
ユミル「頼むよベルトルさん。私にはまだ、これ以上憎まれる勇気はない」
ベルトルト「…あまりいい内容じゃなさそうだけど、分かったよ」
ユミル「ありがとな」
ライナー「……」コツコツ
ユミル「!」
ベルトルト「ラ、ライナー…」
ライナー「うじうじ悩むのは止めだ、性に合わん。…行くぞ」
ユミル「どこに、行く気だ?」
ライナー「クリスタを奪いに行く。エレンを攫うより、そっちの方が現実的だ」
ユミル「…まぁ、今のエレンを私らがどうこうできるとは思えないしな」
ベルトルト「行くんだね、ライナー」
ライナー「あぁ、ベルトルト。…必ず、故郷に帰ろう」
ベルトルト「アニも取り返さなきゃ。三人で来たんだから」
ライナー「そうだな」ガチャン
ユミル「…! 私の手錠を取ってもいいのか?裏切るかもしれないぜ?」
ライナー「そうしたら躊躇いなく殺す。例えクリスタの目の前であってもだ」
ユミル「…怖い怖い。そんな脅迫、聞いたことねぇよ」
ベルトルト「…さぁ、行こう」
“ユミル”という言葉の本当の意味を知った時、コイツらは今までのように殺意を向けてくれるだろうか。
分からないことは、とても怖い。
闇の中を手探りで歩いているかのようだ。
ようやく触れたものが何かも分からない世界に、私は、いる。
どうかどうか、“彼ら”が安らかに眠れるように。
世界中から敵視され、憎まれたあの恐怖を、コイツらの為ならもう一度味わってもいいんじゃないかと、考える。
その時ヒストリアはどう思うだろうか。
きっとその時が来たら、彼女が安心して暮らせる世界になっているだろう。
(隣に私がいなくても)
(どうか泣くな、ヒストリア。私はお前を思っている)
彼女の笑顔に、声に、温もりに、たとえ二度と届かないとしても。
(許してくれ、ヒストリア)
この“世界”が終わった先に、お前はきっとそれを取り戻すから。
その“世界”に、私や、ライナーや、ベルトルさんがいなくても。
(違う、消えるのは“ユミル”一人で十分だ)
瞼の裏には、金色の女神が。眩しすぎて、目を開けていられない。
どうかどうか、彼らを救ってくれ。
悲しいほどに優しい“人間”である彼らを。
願わくば、彼らを許してやってくれ。
“ユミル”がいなければ生まれてこなかった、罪の結晶よ。
(すまない、ヒストリア)
私はお前を、助けてやれない。
終
以上です
最新号で「あれ?ユミルがクリスタに会いたいって言わなきゃとりあえず無事だったんじゃね?」
って思ったらこうなった
黒トルトさんって言うかチョロトルトさんになった
お付き合い下さりありがとうございました
また見かけたらよろしくお願いします
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