京子「結衣はオオカミ」(94)
朝、結衣宅
京子「結衣~おはようのちゅーして~」
結衣「……おはよう。顔洗ってくる」
京子「ああん、いけずぅ」
結衣「寝起きの口の中って便器より雑菌が多いらしいぞ」
京子「マジ!?」
結衣「まじ」
京子「じゃあ、歯を磨いてからならいいでしょ?」
結衣「遅刻するから無理」
京子「でも、私たちせっかく恋人になったのに、まだそれらしいこと何もやってない……」シュン
結衣「……しょうがないな京子は。ほら、目つぶって」
京子「えっ、ほんとにいいの!?」
結衣「早くしないとしてあげないぞ」
京子「ちょ、ちょっと待って……はい」ドキドキ
結衣「……うりゃっ」デコピンッ
京子「あてっ」
結衣「あはは」
京子「もう……結衣のばか……」
洗面所
結衣(ん? なんだこれ……)
結衣(犬歯が少しのびてる……気がする……?)
結衣(なんかの病気か?)
結衣(犬歯がのびる病気なんて聞いたことないけど……)
京子「ん、どったの、結衣」
結衣「うわあ!」
京子「うおう! なんだ!?」
結衣「急に後ろからはなしかけるなよ、びっくりするだろ」
京子「ごめんちゃい☆」
結衣(まぁ、気のせいだろ)
帰り道
京子「うぅ……さっぶ……」
結衣「ああ、もう冬だな」
京子「うん、まだこんな時間なのに、もうすっかり暗くなっちゃって」
結衣「あ、今日は鍋が食べたいかも」
京子「いいね。私、きりたんぽ鍋がいい」
結衣「じゃあ、それにしよう」
京子「そだ、手つなごうよ」ギュ
結衣「京子、手つめたいな」ギュ
京子「結衣はあったかいね」エヘヘ
結衣「心がつめたいからな」
京子「じゃあ、手をあたためてくれる代わりに、私は結衣の心をあたためてあげよう」
結衣「どうやって?」
京子「ちゅー」
結衣「こ、ここで?」
京子「うん」
結衣「人目があるし」
京子「早く」
結衣「ここではちょっと……」
京子「じゃあ、家に帰ったら、してくれる……?」
結衣「…………」
京子「はやく~ちゅ~」
結衣「ばか、声がでかい!」
京子「ちゅ~ちゅ~」
結衣「わ、わかったから。家に帰ったら、絶対するから!」
京子「絶対だからね?」
結衣「ああ、ゆびきりげんまん」
京子「げんまん」
結衣宅
結衣「ふー疲れた」
京子「結衣」
結衣「ん? なに?」
京子「キス」
結衣「ごはんつくったらしてあげるから、手うがしてきな」
京子「……わかった」
結衣「ほら、できたぞ。食べよう」
京子「……結衣」
結衣「……ほら、冷めちゃうぞ」
京子「……結衣は本当に私のこと好きなの?」
結衣「何いってんだよ。好きに決まってるだろ」
京子「……じゃあなんでキスしてくれないの!?」バンッ
結衣「それは……」
京子「わたし帰る!」ダッ
結衣「おい、京子!」
京子(飛び出してきちゃった……)テクテク
京子(コートもマフラーも忘れてきちゃったし……)テクテク
京子「さっぶ……」ピタ
京子「はぁ……」
京子「……あ、満月」
結衣「京子!」
京子「…………」ダッ
結衣「待ってくれ!」ギュ
京子「やめてよ!」
結衣「…………」ギュウウ
京子「ちょ、ちょっと、結衣、いたいって、いたいいたいいたい」
結衣「京子……京子ぉ……」ハァハァ
京子「結衣? なんかおかしいよ? どうしたの? 大丈夫?」
結衣「京子、好きだ……」バッ
京子「待ってっ、押し倒し……っ、こっ、ここでするのっ?」
結衣「はぁ……はぁ……」
京子「んっ……待ってっ、まだ心の準備が……」
西垣「あぶない!」デュクシ
結衣「!!」バタリ
京子「に、西垣ちゃん!?」
西垣「安心しろ、みねうちだ」
京子「そうじゃないと困りますって」
西垣「危ないところだったな、歳納」
京子「いや、いいところだったんですけど……」
西垣「歳納、船見の口元を見ろ」
京子「口元……? あれ、なんかはえてる。キバ?」
西垣「そう、あれはウェアウルフの牙だ」
京子「ウェアウルフ?」
西垣「人狼のことだ」
京子「人狼!? 結衣は本当は人間じゃなくて人狼だったってことですか!?」
西垣「いや、違う。船見は一時的に人狼化しているだけだ」
京子「え、でも、なんで?」
西垣「私のつくった『男はオオカミ(はぁと) 二〇四号』という薬の効果だ」ドヤァ
京子「なんてもんつくるんですかあなたは!」
京子「まったく……」
西垣「それはチョコの形をしているのだが」
西垣「昨日、生徒会室に置きっぱなしにしてきてしまってな」
西垣「まぁ、あらかた、つまみ食いでもしたのだろう」
京子「……そういえば、昨日、生徒会室に用事があるとか言ってたな」
京子「――っていうか、そんな危ないもの置きっぱにしないでくださいよ!」
西垣「はっはっは、悪い悪い」
京子「はぁ……」
京子(ツッコミって疲れるんだな……)
京子「あの、私はどうすれば……」
西垣「大丈夫だ、薬の効果はきょう一杯で切れる」
京子「よかった……」ホッ
西垣「でも、それまでは同性異性かまわず襲いかかるから気をつけろ」
京子「……えっ?」
西垣「本当に狼みたいにむさぼってくるからな」
西垣「あれはすごかったな……なぁ、松本」
りせ「…………///」
京子「……って、会長いたんですか!?」
りせ「…………」コクン
西垣「では、そろそろ貞操の危機を感じてきたので、私たちは帰る」
西垣「また来週学校で会おう!」
りせ「…………」フリフリ
京子「ちょっ、ちょっと!」
京子「…………」
京子(同性異性かまわずって……同性はともかく異性だけはまずい、ゆるゆり的に考えて)
京子「間違いを犯さないためにも、まずは結衣を安全なところに運ばないと」
結衣「んぅ……」ムクリ
京子「ひぃ」
京子「はぁ……っはぁ……」
京子(とりあえず結衣の家まで誘導しないと……)
結衣「はぁ……はぁ……」
京子(追いかけてくる……!!)
京子(……っ、速い!!)
京子(だめだ……追いつかれる……!!)
結衣「京子!!」ガバッ
京子「きゃっ……」ドテッ
結衣「京子」ハァハァ
京子「ゆ、結衣……」ハァハァ
結衣「好きだ、京子」フーッ フーッ
京子「結衣、怖いよ……」
結衣「京子……!!」
京子「――――おりゃ!!」ドカッ
結衣「ぐっ……!!」
京子(痛かったよね。ごめん、結衣)
京子(でも、初めてだけはちゃんとしたいから)
京子(こんな状態でファーストキスなんて絶対嫌だから)
京子「はぁ……はぁ……っはぁ……っ……」
京子(もうダメだ……走れない……)
千歳「……ほんでな、千鶴がな」
綾乃「ふふっ……でもそれって……」
京子(あ、あれは綾乃と千歳……!!)
京子(まずい……)
千歳「あれ、歳納さんやん。どないしたん? そんな急いで」
綾乃「それに顔色が悪いわよ? 大丈夫?」
京子「はぁ……はぁ……逃げてっ……」
千綾「?」
京子「綾乃と千歳、はやく逃げてっ!!」
綾乃「あら、船見さんまで。偶然ね」
京子(やばい!!)
結衣「綾乃……」
綾乃「?」
結衣「綾乃!」ガバッ
綾乃「ちょっ、ちょっと、船見さん!?」
結衣「綾乃、好きだ……」
綾乃「……えっ?」
綾乃「い、いま」カァ
綾乃「わ、わたしのこと、す、すすすす、好きって///」ボンッ
結衣「綾乃……」ジッ
綾乃「ま、まって、わ、わたしは、その……///」
結衣「ねぇ、綾乃……」ジィッ
綾乃「とっ、歳納京子も見てるのにっ……///」
京子「千歳! その尻軽女を止めてくれ!」
千歳「……結綾もありやな!」ダラー
京子「おい」
京子「綾乃から離れろっ、結衣っ」ガシッ
結衣「あっ、綾乃っ」ズルズル
京子(ぐっ、すごい力……こんなの、長時間抑えとくなんて無理だっ……)
京子「綾乃、千歳、今のうちに、はやく、逃げて……っ」
千歳「綾乃ちゃん! ようわからんけど、はよ逃げよう!」
綾乃「…………」ポーッ
千歳「しっかりするんや、綾乃ちゃん!」
綾乃「……はっ! 私はいま何を……」
千歳「ほら、綾乃ちゃん、手!」ギュ
綾乃「あ、待って、千歳」ギュ
京子「結衣のファーストキッスは守ったぞ……」ハァハァ
結衣「京子……」バッ
京子「よし、こっちだ、結衣!」ダッ
結衣「はぁ……はぁ……」
京子「はぁ……はぁ……」
あかり「あ、京子ちゃん、結衣ちゃん。どうしたの? そんな急いで」
京子「はぁ……っはぁ……」
結衣「はぁ……はぁ……」
あかり「無視!? そんなひどいよ!!」
京子(また、前から人がくる……!!)
京子(仕方ない、こっちに曲がろう)
京子「って、行き止まり!?」
京子「はっ……」クルン
結衣「…………」ズイッ
京子(うっ……どうしよう……)
結衣「京子!!」ガバッ
京子「うわっ」ドテッ
京子(結局つかまってしまった……)
結衣「…………」フーッ フーッ
京子「ほら見て、結衣。月が綺麗だよ」
結衣「…………」フーッ
京子「……ねぇ、結衣は私のこと好き?」
結衣「…………」
京子「……もういいよ、結衣。私、自信なくなっちゃった」
京子「こんな形でも、結衣とキスできるなら、もうそれでいいや」
京子「…………っ」ポロ
京子「……あれ? なんでっ……」ポロポロ
京子「…………」ゴシゴシ
京子「ほら、結衣、目つぶったよ。早くして。女の子は待ってくれないよ」
結衣「…………」
京子(結衣の息遣いを感じる……)
京子(結衣のにおい……)クンクン
京子(近付いてくる……)
京子(…………)
京子(くる……っ!!)
京子(…………)
京子(…………ん?)
京子「こな……い?」パチッ
結衣「…………」
京子「……結衣、顔赤いよ。耳まで真っ赤」
結衣「…………っ」
京子「……戻ったの?」
結衣「……あ、ああ」
京子「お、おはようございます……?」
結衣「……おはようございます」
京子「今までのこと覚えてる?」
結衣「うん、ごめん……」
京子「なんで謝るの? 結衣は悪くないよ」
結衣「いや、そのことじゃなくて……その……」
京子「…………」
結衣「…………」
京子「……覚えてるっていうことは、意識はあったんだ?」
結衣「そう、意識はあったんだけど、歯止めがきかなくて……」
京子「……じゃあ、綾乃に好きって言ったのは、なに?」
結衣「あ、あれは、綾乃の、もみあげが好きっていう意味だよ」
京子「ふ~ん?」
結衣「ほ、ほんとだって」アセアセ
京子「くるしい言い訳」
結衣「ほんとだってば」
京子「じゃあさ、キスしてよ」
結衣「…………」
京子「ねぇ、結衣! 結衣って、本当に私のこと好きなの!? だって――」
結衣「――――」
京子「――――」
結衣「――――」
京子「――――っ、はぁ……はぁっ……」
結衣「京子……」
京子「……ねぇ、結衣。もっとしてよ」
結衣「……うん」
京子「あ、そうだ。結衣、きのう生徒会室でチョコ盗み食いしたでしょ?」
結衣「なっ、なんでそれを?」
京子「実はね……」
結衣「……そっか、そうだったのか」
京子「結衣が盗み食いなんてするからだよ」アハハ
結衣「自業自得だな」
結衣「人狼化ってことは、満月の光を浴びると、狼になるってことだよな」
京子「うん、たぶんそうだと思う」
結衣「でも、まだ月は出て――」
京子「あ、結衣! 見て! 月食だよ!」
結衣「――そっか、今日、皆既月食だったね。完全に忘れてた」
結衣「もう帰ろっか」
京子「私、もうちょっとだけ、月食みてたいな」
結衣「でも、寒くない?」
京子「大丈夫。こうやって、結衣とくっついてれば寒くないから」
結衣「……ほんとだ」
京子「きれいだね……」
結衣「うん……」
京子「ねぇ、結衣」
結衣「なに?」
京子「……やっぱなんでもない」
結衣「…………」
京子「…………」
結衣「……京子、好きだよ」
京子「ふふっ……私も好きだよ、結衣」
おわり
結衣スレで月食モノが読みたいと言われたので。
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