不良娘「私のことはほっといてくれ」 (29)
──職員室
がらがら。
男「失礼しまーす」
担任「あ、委員長こっちこっちー」
男「いや、だから俺は委員長じゃなくて……」
男「そもそもホームルームの司会進行係ならいますけど」
男「委員長なんて役職はこの学校にないですよ」
担任「普通はあるはずなんだけどねー」
担任「まー私のクラスは特例ってことでいいんじゃない?」
男「いいじゃないかって……そもそも俺は司会進行係じゃないし」
男「委員長の役職設けるなら、今度きちんとクラスで選出しましょう」
担任「あ、ごめん。任命制だから。学生の多数意見を尊重する気ないし」
男「横暴だなぁ……」
担任「教師の特権よ。んで委員長」
男「はあ」
担任「やって欲しい仕事があるの」
男「またですか」
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担任「もちろん、了承してくれるわよね」
男「内容によります」
担任「くー、流れでオーケーしてくれると思ったのに……」
担任「でも、あなたのそういう慎重深いところ気に入ってるわ」
男「別に気に入られたくないですけど」
担任「もう、ツンデレは今時流行らないわよ」
男「いや、本心ですから」
担任「ふふふ」
男「ははは」
担任「……私の担当教科の成績は1と」
男「間違いました、先生にもっと気に入られたいです!」
担任「大人の女性の魅力って罪よね!」
男「はい! 魅力的すぎます!」
担任「さて、本題本題」
男「……ふー」
担任「うちのクラスって、不登校気味の子がいるじゃない?」
男「え? 誰ですか?」
担任「あなたよ!」
男「あははー」
担任「遅刻多すぎだし、サボりすぎだし」
担任「このペースが続くと留年になっちゃうわよ?」
男「まーそうかもしれないですね」
担任「もっと、ちゃんと危機意識持ちなさい」
男「はーい」
担任「……その軽い返事では全くもって納得いかないけど」
担任「もう1人、うちのクラスには問題児がいるじゃない」
男「問題児ですか」
担任「周りに迷惑かけてないだけ、もしかしたらあなたの方がマシかも」
男「…………」
担任「んで、あなたの仕事」
担任「──その子を更生させる、ただそれだけよ」
しりとりしましょ?
しりとりのり
職員室を出て、廊下を歩く。
あの女教師は何かと難題を押し付けてくるが、
今回は学生の領分を大幅に超えている気がする。
男「同い年の生徒を更生ねぇ」
それこそ、本来、教師の仕事だろう。
あの担任のことだから、自分の面倒を
ただ押し付けようとしているだけなのかもしれないが。
男「……やるしかないか」
納得はいかないが、正式な依頼を無下にするわけにはいかない。
帰り際、彼女から手渡された紙切れを開く。
そこに記されているのは携帯の電話番号だった。
男「『問題が発生した時はすぐに連絡するように』か」
何か、きな臭いものを感じずにはいられなかった。
けれど、今の段階では何一つ分かっていないに等しい。
とにかく……一度、会ってみるしかないか。
……………。
ヤリマンか
教室に戻ると、大半のクラスメイトは既に立ち去っていた。
残っている生徒達は幾つかの集団に別れ、談笑を続けている。
クラスの真ん中、とりわけ華やかな女子グループの一人が
教室に入った俺を見つけるなり、近づいてくる。
女「あ、委員長おかえり。先生からの説教どうだった?」
男「勝手に説教だと決めつけないでくれ」
女「んじゃ、なんの用件で?」
男「教えない」
女「えー委員長、つまんなーい」
後ろの方で「そうだ、つまんねーぞ委員長」と非難の声が挙がる。
いや、待て。
俺は委員長じゃねーし。
いちいち否定するのも面倒臭かったので、
目の前でぷくりと頬を膨らませている少女を横目に、
教室に残った生徒の顔を一人一人確認した。
どうやら、目的の女子生徒は既に帰宅したようだった。
女「誰か探してるの?」
男「……まあな」
女「人付き合い悪い委員長にしては珍しいじゃん」
女「だれ? 良ければ一緒に探してあげるよ?」
男「いや、遠慮しとく」
彼女がこの少女と仲良くしている姿を見た事がない。
いや、誰ともか。
目的の相手がいない以上、もう教室にいる必要はないだろう。
男「んじゃ、帰る」
そう言って踵を返そうとすると、ふと右手が掴まれた。
女「ちょっと待って、少し話してこうよ」
女「どうせ、急ぎの用なんてないでしょ?」
男「そうやって勝手に決めつけるのがお前の良くないところだな」
女「じゃあ、急ぎの用あるわけ?」
もちろんあるわけないが、
ここで無駄な時間を過ごしたくはなかった。
男「ええと、今日は妹の誕生日が……」
女「委員長、妹いないじゃん」
男「歯医者の予約が……」
女「ないよね」
男「親戚の不幸が……」
女「それも嘘」
すると目の前の少女はあからさまなため息を一つ吐き、
小動物のような丸っこい瞳を細めた。
本人は睨め付けているつもりなのだろうが、
俺にはただ眠そうにしている中学生にしか見えなかった。
女「知ってるはずでしょ。私に嘘は通用しないって」
男「もちろん知ってる」
女「だったら、なんでそんな見え透いた嘘ばっかつくの?」
男「想いが伝わればいいなって」
早く帰りたいって想いがね。
けれど、目の前の少女はその意図を汲み取れなかったようで、
「んー」と言いながら首を傾げている。
女「委員長、時々、訳分かんない事言うよね」
男「理解されないって辛いな」
女「そうやって、はぐらかすから悪いの。大体、委員長は……」
話の流れが悪くなってきたので、早々に退却することにしよう。
男「んじゃ、本当に今度は帰るわ」
女「もう委員長、往生際悪いよ」
女「少しぐらい時間潰すぐらいいいじゃん」
男「いや、急ぎの用があってさ」
女「もう、だから私に嘘は……」
女「──って、あ、あれー? ほんと……?」
男「てなわけで、また明日」
少女はぽかんとした表情でこちらを見つめている。
それに軽く手を振って、俺は教室の扉を閉めた。
嘘はついてない。
ただ、なかった用事を無理矢理作ってみただけだ。
……………。
男「ここ……か」
目の前には二階建ての古びた木造アパートがあった。
耐震に不安を覚える程の老朽化した建物だ。
法律を守っているのか極めて怪しい。
男「ここに住んでるってことは、問題児の家、金ないのか」
俺は進むたびに軋む階段を登り、
最も奥に位置されている部屋の前へと辿りついた。
咳払いを一つした後、おもむろに部屋をノックする。
もちろん、インターホンなんてものは設置されていなかった。
声をかけるしかないな。
男「あのーすみませーん」
?『あ、はーい! 少しお待ち下さい』
すぐさま部屋の中から返答が聞こえた。
問題児の声を聞いた事はなかったが、
ここまで高く可愛らしいものとは思わなかった。
いやはや、人はイメージで判断してはいけない。
がちゃ。
扉が開き、中から出て来たのは……
少女「えっと、何の御用ですかっ?」
男「へ?」
──目的の人物とは似ても似つかない、とても小さな女の子だった。
……いや、そんなことだろうとは思っていたけど。
……………。
少女「少し待ってて下さいねっ!」
男「おう!」
俺は見知らぬ家の真ん中にあるちゃぶ台の前で、
お茶をすすりながら寛いでいた。
いや、なんでこんなことになったんだっけなー。
さきほどから、少女は台所で調理をし続けている。
コトコトといい音を奏でる鍋からは
空腹を刺激する匂いが立ち込めていた。
男「もしかして、今日はカレーかな?」
少女「そうです、当てられちゃいましたか!」
男「ははは、俺カレー凄い好きだから」
男「ルー入れてなくても分かっちゃうんだよねー」
少女「でもごめんなさい」
少女「お肉が牛じゃなくて鳥なんですけど、大丈夫ですか?」
男「いいじゃん! 俺チキンカレー大好き!」
少女「それは良かったです!」
あーなんか安らぐなー。
俺が感じる幸せって、
こういう何気ない日常だったりするんだよなー。
こんな幸せが毎日続けばいいのになー。
──と。
男「いや、待て待て」
少女「え?」
立ち上がった俺はそそくさと台所の少女の元へ向かい、
ガスコンロの火を切った。
少女「えっと、どうしたんですか?」
男「いや、どうもこうも……」
男「いつから夕飯を食べる流れになってたっ?!」
確か、問題児の家に訪れたものの、目的の人物は不在で……。
少女「でも、カレー好きなんですよね?」
男「そりゃ好きだけど」
少女「なら、ご馳走させてくださいっ」
男「あ、うん。ありがとう……」
何か言いくるめられた感は否めないが、
空いた腹はぐーと至福の声を上げていた。
少女「それにしても……」
少女「お姉ちゃんのお友達が家に来てくれるなんて今までなかったから」
少女「……すごく嬉しいです」
男「そうか……」
今更、『友達どころかまともに会話したことがない』
なんて口が裂けても言えないな。
ちゃぶ台の前の座布団に座り直し、
俺は思考を整理する。
問題児と今日の間に会うという用事を作った俺は、
学園を出た後、早速、教えてもらった電話番号を使って担任に連絡し、
彼女の住所を教えてもらった。
理由は何だって良かった。
委員長と呼ばれるお節介な生徒が
昨日学園を休んだ彼女に善意でプリントを持ってくる、
そんな筋書きを適当にでっち上げた。
なぜ今日の学園で渡さなかったのかとか、
どうせなら授業ノートも持ってこればいいのにだとか、
いろいろ不備はあるが、そんな些細な欠陥はどうでもいい。
会うことに意味がある。
正確には、会おうとすることに意味があった。
少女「るんる、るん、るー♪」
鼻歌を歌いながら台所に立つ少女を見つめた。
まさか、妹がいるとはな。
……………。
ほほう
少女「遅くなりましたが、出来ましたよー」
しばらく経って、少女はカレーが盛りつけられた皿を
テーブルへと持って来た。
男「うおぉぉー、美味そうー!」
少女「ふふ、お世辞でも嬉しいです」
少女「冷めないうちに食べて下さいね!」
男「よし、なら早速……って、これ一皿しかないぞ?」
少女「あ、ごめんなさい」
少女「私も食べようと思ったんですけど」
少女「やっぱりお姉ちゃんが帰るのを待とうと思って」
男「……そうか」
本当に良く出来た妹のようだ。
男「だが、俺だけ先に食べさせてもらうのは申し訳ないな」
少女「いえ、本当に気にしないで下さい!」
少女「美味しくないかもしれませんけど、もし良ければ……」
男「なら、お言葉に甘えて」
もぐもぐ。
………え、うま。
男「美味すぎだろっ!」
少女「へ?」
誰かの手料理なんて久しぶりだった。
もしかしたら、俺は人の温もりを心の底で求めていたのかもしれない。
この手料理らしい素朴感が、今は最高のスパイスに感じられる。
少女「喜んでもらえたようで、本当に良かったですっ!」
カレーにがっつく俺を見ながら、少女は満面の笑みでそう言った。
男「あ……」
なんて癒しなのだろうか。
少女の笑みが俺の凍てついた心を
静かに溶かしていくようだった。
男「ふぅ、ごちそうさま」
気がつけば、ものの五分でカレーを完食してしまった。
早食いは早死にと言われるけれど、
今日ばかりは仕方がないと自分に言い聞かせる。
「どういたしましてです」と微笑む少女は
空になった俺のコップにお茶を注いだ。
少女「そういえば……」
少女「委員長さんはお姉ちゃんと同じ学校なんですよね?」
男「あれ、まだ説明してなかった?」
クラスメイトでもない少女に自然と委員長と呼ばれているのは
極めて謎であったが、この子なら許そう。
手料理によって俺は懐柔されつつあった。
少女「いえ、一応の確認みたいなものです」
少女「委員長さんも凄い人なんですね!」
男「凄い?」
少女「だって、学園の生徒ならそれだけの才能を持っているってことですよね」
それは例えば、『嘘を嘘である』と
見抜くことができる能力のことを言っているのだろうか。
確かに、皆が彼女のような特殊な力を持っていれば
そう言い換えることはできたのかもしれない。
能力を才能と。
けれど──
男「いや、人によるよ」
それが紛れもない事実だった。
少女「でも、普通の人は入れないです」
男「逆に、少しだけでも普通じゃなければいい」
意味が分からないのか、少女は首を傾げた。
男「んーそうだなー」
分かりやすい例でもあげようか。
男「例えば、こんな能力なんてどうだろう」
男「機械を使わずに体温を正確に測れる」
少女「体温計みたいにですか?」
男「その通り」
少女「でも、それもやっぱり凄いことです」
男「なら、こんなのはどうだろう」
男「目視だけで女性のスリーサイズを当てることが出来る」
少女「え、スリーサイズって……」
男「才能というより、特技に近いような感じがしないか?」
少女「確かに……そうですね」
男「手から炎を出すとか、時間を戻すとか、空を飛ぶことが出来るとか」
男「明らかに人から逸脱する力なら、そりゃ凄いことなんだろうけどな」
男「現実は、学園の生徒の大半が少し特別であるに過ぎない」
もちろん、俺の知る限りの話ではあるけれど。
すると、少女はふと思いついたような表情でこう言った。
少女「ちなみに委員長さんは、どんな才能……」
少女「じゃなくて特技を持っているんですか」
男「俺?」
少女「はい、良ければ教えてくれると嬉しいです」
男「そうだなー、俺は……──パズルが得意」
少女「へ?」
男「人より早くパズルを解くことが出来るって能力かな?」
男「難しいジグソーパズルでもすぐに完成できる」
少女「それは凄いことです!」
男「え、マジで? そのリアクションは予測してなかったわ」
男「いつも、人に話すと『へー』ぐらいで終わっちゃうし」
入学当初の苦い記憶が俺を襲う。
いつの日か、自分の能力については他人に話さないと決めていた。
だから、今回のようなケースは非常に珍しかった。
少女「実は私、パズルが苦手で……」
少女「いつもどの辺から進めていいのか分からなくて」
少女「ものすごく時間がかかっちゃううんです」
男「は、はは」
それは、初めに角から作っていくというコツを
知らないのではないだろうか。
いや、可愛らしいことだ。
機会があれば手取り足取り教えてあげたい。
──と。
男「そういや、君のお姉さんって、どんな能力だったっけ?」
少女「お姉ちゃんですか?」
男「なんか聞いたことあったと思うけど、ごめん忘れちゃった」
少女「そうですねー、お姉ちゃんは……」
そして少女は言った。
少女「──凄く強くて、無敵なんです」
……………。
今日はここまで。又来ます。
進行が遅くて申し訳ないです。
乙でした
おつ
乙
アイリスゼロみたいだな
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