お守り代わりのようなものだった。
ラミネート加工して財布に入れておいた『水霊使いエリア』のカード。
今振り返っても、あれ程何かに熱中した時間はなかった。
今更遊戯王をやり直すつもりはないが、これを見るだけであの日の情熱を思い出すことができる。
こんな自分でも、本気になればあれ程の集中力を発揮できる。
その事を忘れないために、当時切り札にしていたこのカードを財布に忍ばせておいた。
忍ばせておいた、のだが——。
まさか、それがこんなことに巻き込まれる原因になるとは思ってもいなかった。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1364460626
◆
「お疲れ様です、お先に失礼します!」
「はいお疲れ様」
まだ残っている店長に声を掛け更衣室に入ると、俺より先に仕事を終えた同僚が着替えている途中だった。
「お疲れ」
「おうお疲れ。この財布、お前の?」
「あーすまん、俺のだ。無いとは思ってたけどそこにだしっぱなしだったか」
「気をつけろよ……で、なんでエリアのカード入ってんの?」
「なっ!?」
同僚が持っている財布を無理やり奪い取る。……しくった。普段カードを入れている部分のフタが半開きになり、そこから見えているようだった。
「……カードゲームはやらなかったんじゃなかったか?」
「昔の話だよ。プレイするのを見てるのは好きだし」
「まあ、じゃなかったらカードショップで働いたりせんわなあ? ……本当にそういう意味での好きだけかねえ」
「当時切り札にしてたんだよ。それに、お客さんとの話題作りにもなるしな。実際この前も遊びに来た子供との話のタネになったし。接客人として当然のことだよ」
「……ま、そういうことにしといてやるよ。お疲れさん」
「……なんか、ひっかかるけど。お疲れ」
そりゃあ確かにエリアのことは気に入ってはいるが……流石に、二十歳を越えたいい大人がいい年して「俺の嫁俺の嫁」言ってられんだろ。流石に。
そんなことを考えながら、店を出て、家に帰る道を歩いていると。
「すみません。もしかして貴方、そこのカードショップの店員さんですか?」
腹に響くような低い声の男性に呼び止められた。
「えっ?」
不意に声をかけられ、なんとも間抜けな声を出しながら振り返る。
そこに立っていたのは、黒いくたびれたスーツに身を包んだ三十路後半の冴えないおっさんだった。
「息子が以前お世話になったようで。あ、立ち止まる必要はありませんよ。ちょうど見かけたので、一言お礼を言いたかっただけなので」
「よく俺——いや、僕だとわかりましたね」
「息子が、話し相手になってくれたのは背が高い方といっていたので」
そういうことか。確かに、あの店では俺が一番背が高い。人目とは言わないが、雰囲気で気づいたのだろう。
「いえ、僕も楽しかったので」
接客モードにスイッチを切りかけ、親御さんの相手をする。営業職か何かにで従事しているのだろうか。
冴えないとは言ったもののこうして改めて見てみると振る舞いには品があり、一つの一つの所作に隙がない。
はっきり言えば、この人は対峙する人間に嫌悪感を与えない人ということだ。
割かし人の選り好みが激しい俺でもこの人に好感を得ているところからその技はそうとうのものと言えるだろう。
彼と会話をこなししつつ、そんなことを考えていると——ふと、彼が立ち止まった。
「おや、いつの間にか、こんなところまで来てしまいましたねえ——ここなら、誰かに見られるということも無さそうだ」
その言葉でふっと我に帰り周囲を見渡す。
人通りが少ない路地裏の真ん中、人通りは少なく表へ出ようにも簡単にはいくまい。
確かに、ここなら何が起きても——例え、殺人が行われようとも、そう簡単にはバレることはないだろう。
瞳に狂気を滲ませ、ポケットから名刺入れを抜き出し、その中から一枚のカードを引きぬいた男が、宣言した。
「汝が主の名に置いて命ずる——『エルフの剣士』召喚」
宣言と同時。逆巻くエネルギーの渦の中から剣を構えた男が現れ、主である男が命ずるままに俺へと襲い掛かってくる。
いや、そいつといったら失礼に値…………するのか、一応。
兜の形が特徴的な緑の鎧と茶色の戦衣。澄んだライトブルーの瞳は静かな戦意を湛え、尖鋭化した耳と頬の刺青が、人ならざる濃密さをもってして放たれる殺気に拍車をかける。
一見容姿端麗ではあるものの、その存在密度そのものが人外の域にあることを端的に表していた。
麗美さと異形——その両方を兼ね備えた姿、一度見たら忘れられるはずもない。
エルフの剣士だ。
カードゲームにしか存在しなかった英雄が、今俺の目の前に存在している。
剣士の魂とも言える剣を、俺に向けて。
「今のをかわすか。身のこなしだけは三流ということか」
「三流って……できが悪い奴のことじゃねえのかよ」
「他は四流ということだ」
クソ忌々しいことに対話までできると来ている。どうやら拡張現実を利用した娯楽のたぐいでは無さそうだ。
その手のゲームで、キャラクターがプレイヤーを不快にする発言をすることは有り得ない。
「なんで俺を狙う?」
「私とて丸腰の人間に剣を向けるのは好みではない。更にお前は気骨もある。私に剣を向けられ、それを避け、更に問答まで交わす人間はお前が始めてだよ。ただ単に命じられたからといってこの剣の錆に散らせるのはあまりにも惜しいが……これも主の命だ。悪く思うな——死にたくなければ、それを抜け」
財布を入れたポケットを指差し、これが最後だと言わんばかりに剣を大上段に向けるエルフの剣士。
「コマンド発動——『渾身の一撃』」
剣士の動きに合わせ、いつの間にかどこかに隠れていたこいつの主である男の声が響く。成程、誇りある英雄の主人を務めるには、あまりにも器が小さすぎる。
こいつを楽しませる——というわけじゃないが……ああもう細かい御託はいい。今は自分の身を守ることだけを考えろ俺!
何をすればいいかは直感でわかる。8年前のあの日、まだ俺が遊戯王をやっていたころに培った感覚がもう一度蘇ってくる。
財布から淡い水色の光を放つ『水霊使いエリア』のカードを取り出し、宣言する。
「……おい相棒。おいしい出番だぜ? 出てこいよ、エリア」
それは、下手したら、俺の勘違いで終わってしまう思いだった。
しかし、それを真実であることを証明するように、取り出したエリアのカードから水が溢れ出す。
天を貫いた水流が螺旋を描き渦を成す。
その中心に立つのは小柄な人影。
後ろからでは顔は見えないが、俺の身体中を奔る倦怠感がはっきりと『彼女』であると確信できる。
茶色いローブと際どい長さのスカートが召喚の余韻に靡きはためいた。
ローブで隠れた純白の指が、エルフの剣士を静かに指し——
「コマンド発動——『アクアジェット』」
川のせせらぎのような透明感のある声でそう宣言した瞬間、指先から迸った高出力の水流がエルフの剣士を吹き飛ばした。
巻き起こされた流水が引き起こした空気の流れが少女の水色のロングヘアを静かに揺らす。
「お久しぶり……いえ、こちらの世界では違いますね、では、改めて」
何事かを呟いた彼女は剣士が戻ってこないことを確認すると、こちらへと振り返り——
「初めまして、マスター。水霊使いのエリアともうします」
とびっきり可愛らしい笑顔で、そう名乗ったのであった。
もうカードだの何だのと言い訳は言えない。
この瞬間、俺は初めて恋に落ちた。
エリア可愛いよエリア
続きは出来れば今夜中
超俺得なスレに出会った!期待!
期待する!
超期待
一瞬FF3かと思ったがたぶんカードの元ネタ自体がそれだよな
>>10
俺も水の巫女エリアだと思った
「え、エリア……?」
なんてこった。マジで出やがった。
水霊使いエリア。遊戯王現役時代の俺の唯一無二の相棒。
当時から切り札にするには貧弱すぎね?って何度も言われてたが俺はこいつをデッキから外すことはなかった。
そりゃそうだ。だって俺は、こいつを有効活用できるようにデッキを組んでたんだから。
デッキの一部がこいつなんじゃない。
こいつの一部がデッキだったんだ。
「はいマスター。エリアはここに」
耳の溶けるような声に鳥肌が立った。
かつて恋焦がれて、今再び心を奪われた女が目の前にいる。
「あー、その、なんだ……」
言葉がうまく出てこない。言いたいことはたくさんあるはずなのに、いざ本人を前にすると口がよく動かせない。
「『エルフの剣士』! ここを離脱します! 素敵なお嬢さん。またお会いしましょう」
俺の思考を断ち切るように男が叫び、そこから二人の気配は一切感じられなくなった。
というかあいつ、誘いこむだけ誘い込んで逃げる時は俺をガン無視しやがった……
「あっ、ちょっと! もう、せっかくマスターを勝たせてあげられると思ったのに……」
拗ねたような口調で文句を言うエリア。俺以外には意外と強気らしい……これ、地じゃないよな?
「ごめんなさい、マスター。折角マスターが呼んでくださったのにお役に立てなくて」
「い、いや……えっとさ、エリアでいいのかな?」
「はい! わたしのことは、エリアとお呼びください!」
初めて名前を呼ばれた犬のような無邪気な笑顔で俺に擦り寄ってくるエリア。
その、なんだ。カードでもやっぱり女の子なんだなーとか、こいつ呼べてよかったなーとかの以前の問題に……その、当たってます、胸が。
「あーと、とりあえずさ。状況説明してくれると嬉しいかな」
「あっ、そうでした! ごめんなさいマスター……わたし、マスターに召喚していただいたのが嬉しすぎてつい……」
顔を真っ赤にしてエリアがうつむく。ああもうなんなんだよ可愛すぎるだろこの生き物。こいつ本当に人間か。
いや、魔法使い族だから人間ではないのか……
「えーっと、どこから話したらいいのかな……」
「む、無理しなくてもいいからな? 帰り道がてらにも」
「あっ、そ、そうですね……え、えっと……ふ、不束者ですが、よろしくお願いします……」
うやうやしく頭を下げながらさりげなく手を繋いでくるエリア。
家へと帰る道を歩きながら、たどたどしい口調で彼女は語りはじめた。
なんか被ると思ったらキャス狐だこれ
続きはまた今夜
なんという俺特SS
ウィンちゃんと一緒にウィンウィンマダー?
遊戯王の世界は実在する。
そこにいるモンスターは人間から向けられる感情——親しみや好意、恐怖や畏れを糧にしている。
ある日、モンスターの中で最も人気なのが誰かを決めるという話が出た。
決定方法は簡単。現実世界にいる人間に好きなモンスターを実体化させて戦わせる。
人間がそのモンスターに強い感情を向けていれば向けているほどモンスターは強くなる。
すなわち、もっとも強いモンスターこそがもっとも人気のあるモンスターということになる。
そこまで聞き、俺はエリアの話にはじめて口を挟んだ。
「ちょっと待ってくれ……感情ならなんでもいいんだろ? もしも、だぞ? モンスターが召喚者を暴力で脅したりしたらどうするんだ……?」
……いきなり理論が破綻してんじゃねえか。まあ、確かに遊戯王のモンスターの大半に知性を求めろという方が無理な話ではあるのかもしれないが……
「そうです。だから、わたし達魔法使い族はそういうモンスターの蛮行を阻止するために召喚されたんです。人に限りなく近い知恵と理性を持った私達はその凶行を止めなくてはいけない……姿形は違うとはいえ、彼らは同じ世界に暮らす存在です。身内の問題は身内で片付ける……マスターの世界の表現で言うとこんな感じなんでしょうか」
「……なるほど、大体は理解した」
そして俺がやるべきこともわかった。
彼女とともに戦って、彼女を守る——のは今後の課題として。とにかく、今は意識だけでも彼女と同調しなければいけない。
悪を悪と断ずる意志を。弱者を嬲れるものこそが栄光に近づくという事実がまかり通っている現実を。
変えるためにも、行動を起こさねばならない。
決意を。その意志をもって暗闇を切り開く覚悟を。示して彼女を導かねばならない。
「……ごめんなさい。マスター。マスターに呼んでいただけたのはすごく嬉しい、それは本当です! けど……わたしにはやらなきゃいけないことがある。それに、マスターを巻き込んでしまうことに……」
「だから、理解したっていったろ」
「え?」
もう一度エリアの話を断ち切ってやる。
驚いた彼女に追い打ちをかけるようにもう一言。
「事情はどうあれ、俺は君をここに呼べる資格があったってことだろ? だったらそれなりに義務は果たすよ」
「本当、ですか?」
「ああ……一緒に戦おう、エリア。一度巻き込まれた以上他の奴らが俺を襲ってくるのは間違いない。俺には君が必要だ。力を貸してくれないか?」
「……はい。仰せのままに、マスター」
俺が差し出した右手に彼女の左手がチョコン、と乗せられる。
まるでこれからダンスでも踊るような仕草だったが、あながちそれは間違っていない。
なんせ俺達は、これから悪鬼羅刹が跋扈する戦場へと足を踏み入れていくのだから。
互いが、互いの命を賭けて。
そうやって、決意も新たに互いの想いを通じ合わせたその瞬間——
「コマンド発動——『滅びの爆裂疾風弾 (バーストストリーム) 』」
白き龍の暴虐が、全てを破壊し尽くした。
できるだけ登場するモンスターの種族をバランスよくしたいからエリア以外の霊使いはどうなるかまだ未定
むしろこれ読んでくれてる人がどんなモンスターを出して欲しいかが気になったりする
次回は近日中に
もけもけ
20代ほいほい
魔法&罠とかも使えんのかな?
自由度が高くなりすぎるか
罠使えたらマキュラさん無双やで!
ボスキャラでレダメが出てきたらアツイなー。単体で強いくせにどんどんドラゴン召喚してくる鬼畜仕様(^p^)
超時空戦闘機とか違うゲームになりそうなのはいないのか?
特にないけどカードにストーリーがあるグレファーやガガギゴとか
突撃部隊はかませになりそう……
確かに超時空戦闘機は見てみたい
わたVの使ったダイソンスフィアは凄い事になりそうだな
「アイツ」とか面白そうだよな
>>25
超時空戦闘機と並べたらもっと違うゲームになるじゃないですかー
たい焼きで仲良くなれそう
島亀
僕はドレイクバイスちゃん! と言いたいがそこはかとなく場違い臭がするので
やはりここはモリンフェン様で行こう
このSSまとめへのコメント
my favorite story