小鳥「はじめての……ちゅっ」 (53)
今日は何日だっけ? 9月8日。
私の誕生日は? 9月9日。
そう、明日。
ていうか、16進法だったらまだ10代だし?
全然焦る必要ないみたいな?
小鳥「……」
この期に及んで現実逃避かよ!
1E歳です。なんて言っても微妙な顔されるだけだよ!
残りは……あと3時間ぐらい。
今日、なにしてたっけ?
2X年間、なにしてたっけ……。
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私と同世代の友達なんて、みんな彼氏がいたり、旦那や子供がいたり……。
せっかくの休日に、辛気臭い喪女なんか誰も構っちゃくれない。
職場の同僚は、みんな平日も休日も無く大忙し。
忙しさは人気のバロメーターだから、アイドル事務所としては喜ばしいことだけど。
労基の限界に挑戦っていうか、とっくに突破してるわよね。
特にプロデューサーさん。
アイドル9人のプロデュース兼マネージメントとか正気じゃないですよ。
今日は、さすがにもうお仕事は終わったかな。
もともと不定期で少なかった休日が、最近はあるのかないのかわからないぐらい。
結果を出してるから、仕事は充実しているのかもしれないけど……。
倒れたりしないか心配してる人だっているんですからね?
誰とは言いませんけど!
やめろ・・・
一緒にお休みを取れるような仕事だったら、こんな日は二人でとか……。
なんてね。休みが別々なのを言い訳にしてるだけよね。
お昼とか、お酒だって何度もご一緒してるんだし。
あと一歩を踏み出す勇気がないだけ……。
でも……彼がどう思ってるかなんて、私にはわからないもの。
この歳で、しかも職場の同僚相手に玉砕なんてした日には……。
ま、おかげでこのザマですけどね。
彼氏いない歴、Ξ○thアニバーサリーとか……ははは。
10年前の自分に教えてあげたら、助走付きで殴られそうね。
あはは…………。
おっと、いけないいけない。
今日はまだ2X年と364日だったわ。
364日と21時間30分。
まだ2時間半もある! 余裕余裕!
♪~~
電話? ……って、プロデューサーさん!?
ちょっ、えっ? マジ?
あわわ……私いま半裸ですよ、半裸!
いくら自宅だからって、これは乙女としてありえないっての。
とにかくなにか着て……いや、落ち着け!
これは電話だ。
半裸だろうがコスプレだろうが、バレなければ問題ない。
今すべきは、急いで電話に出ることではないか?
よし! 理解した。
それじゃ出ますよ? 出ちゃいますよ?
小鳥「も、もしもし」
P『あ、音無さんですか? お休みのところすいません』
小鳥「いえいえ! プロデューサーさんこそ、今日はお仕事は?」
P『さっき終わって、いま事務所を出るところです』
小鳥「こんな遅くまで……お疲れ様です」
P『音無さんに労ってもらうと、頑張って仕事した甲斐があります』
小鳥「え? な、なに言ってるんですか、もう……///」
P『ははは……それでですね』
小鳥「は、はい」
P『今から会えませんか?』
小鳥「そうですね、特に用事は……って、ええ!?」
P『?』
小鳥「今から会うというのは……その?」
P『そのままです。会って話したいな、と』
小鳥「……」
P『どうしました? もし都合が悪いようなら……』
小鳥「い、いえ! さっきまで半裸でグダってただけですから!」
P『は?』
小鳥「なんでもないです! ど、どこかで待ち合わせを?」
P『ちょっと荷物があるので、タクシーでそちらに行きます。たぶん……1時間ぐらいで』
小鳥「1時間ですね。外出の準備をしておいたほうがいいですか?」
P『別に半裸のままでも』
小鳥「」
P『ん?』
小鳥「そういうのは聞かなかったフリをしてください!///」
P「はは、ごめんなさい」
小鳥「もう……/// 外出は無しってことでいいですか?」
P『時間が時間ですからね』
小鳥「わかりました。待ってますね」
P『はい。着いたらまた電話します』
これって……あれよね?
大台目前の崖っぷちで……ついに? ついに!?
私、始まった!?
と、とにかく服を着て……。
外出しないんだし、変に気合が入ってない自然な感じのほうがいいわよね。
下着も……念のためよ、念のため!
だってほら、もしかしてよ?
部屋に上がってもらったりとか……。
……。
あるわね!
別に散らかってはいないけど、あんな本やそんなゲームは片付けておいて……。
だって、ここは乙女の部屋ですから!
1時間……ギリギリね。
でも、間に合わせる! なにがなんでも!
── 1時間後 ──
身だしなみ……OK!
部屋……OK!
心の準備……お、OK?
そこはまあ、なりゆきで……ね?
誕生日直前のこんな時間にお誘いを受けて、なにもないなんて……。
私の経験上からはまったくわからないけど、常識的に考えてありえないわね。
小鳥「あとは、プロデューサーさんからの連絡を……」ソワソワ
♪~~
来た!
小鳥「はい!」
P『お待たせしました。今、マンションの前なんですけど』
小鳥「わかりました。迎えに出ますね」
P『お願いします』
鏡、鏡……っと。
大丈夫よね、私?
うん、大丈夫!
── マンション前 ──
小鳥「あ、プロデューサーさん。こんばんは」
P「こんばんは。遅くに押しかけてごめんなさい」
小鳥「そんなこと……わぁ!」
すっごい花束!
私の年齢より……うん、確実に多いわ。
これって、やっぱり……。
P「日付が変わるまで隠しておきたかったんですけどね」
小鳥「それまで気がつかないフリをしておきましょうか?」
P「はは、お願いします」
小鳥「うふふ」
P「それと、ケーキとシャンパンを買ってきたんで……」
小鳥「あ……それなら、私の部屋で一緒に……」
P「そうですね。日付が変わる瞬間を、一緒にお祝いしたいですから」
小鳥「はい……///」
── 小鳥自宅 ──
日付が変わるまで、あと30分ちょっと。
会話も途切れがちだし、二人してソワソワ落ち着かないけど……。
P「……」チラッ
小鳥「……」チラッ
P小鳥「「あ」」
P「あはは……」
小鳥「ふふっ……///」
なにこれ甘酸っぱい。
1時間近く、向かい合ったままこんな感じで……。
じれったいような、いつまでもこうしていたいような……。
いつもと違う、二人の距離感。
P「もうすぐですね」
小鳥「ええ……」
現実逃避してまで無かったことにしたい瞬間だったはずなのに……。
今はちょっとだけ待ち遠しいです……。
── 30分後 ──
P「そろそろですね」
小鳥「ええ……」
P「……」
小鳥「……」
<ドoンゴガ、ゴゼン0ジクライヲ…
P「お、9日になりましたね。誕生日おめでとうございます」
小鳥「あはは……ありがとうございます」
P「えっと、たしか……」
小鳥「1E歳です」
P「……」
ほんとに微妙な顔された!
そこは軽く受け流してくださいよ。
P「それじゃ、1E歳を祝して……」
P小鳥「「乾杯」」
チンッ
小鳥「誕生日なんて、一年で一番ありがたくない日だったんですけどね」
P「どうしてですか?」
小鳥「どうしてって、そんなこと聞いちゃダメですよ」
P「……」
小鳥「女の人に、そういうの……」
P「俺にとっては、音無さんの誕生日は特別な日です」
小鳥「え?」
P「花束を受け取ってもらえますか」
小鳥「あ……はい。ありがとうございます」
P「……」
小鳥「……」
両腕にいっぱいの花束。
あなたのどんな想いが込められてますか?
言ってくれなきゃ、わかりません……。
P「俺は花のことなんてわからないから……」
小鳥「……」
P「大切な想いを伝えるために、ってことで選んでもらいました」
小鳥「はい……」
P「小鳥さん」
小鳥「はい」
P「……」
小鳥「……」
P「好きです」
小鳥「あ……」
小鳥「わた……私も……」ポロポロ
P「……」
小鳥「あれ? なんで……泣いちゃってるんだろ?」ポロポロ
小鳥「嬉しいのに……へ、変ですね……ふふ」ポロポロ
P「小鳥さん……」
小鳥「わ、私も……」グシッ
P「はい」
小鳥「私も……プロデューサーさんが好きです!」
生まれてきたことに心から感謝した誕生日なんて、初めてかも……。
素敵なプレゼントをありがとうございます。
大好きです、プロデューサーさん……。
───
──
─
P「それじゃ、俺は帰ります」
小鳥「え?」
か、帰っちゃうんですか?
泊まっていって、その……一緒に朝を迎えたりとか……。
心の準備、できてたんですけど……。
小鳥「でも、もう終電も……」
P「途中でタクシーを拾いますよ」
小鳥「そうですか……」
P「ごめんなさい。俺も小鳥さんと一緒にいたいんですけど……」
P「明日の仕事で、どうしても帰って準備しておきたいものがあるんで」
小鳥「今から帰ってじゃ、休んでる時間が」
P「仕事に支障が出ない程度には、ちゃんと休みます」
小鳥「ほんとですか?」
P「信じてください」
小鳥「……」ジー
P「……」
小鳥「ふぅ……わかりました、信じます」
P「小鳥さん」
ギュッ
小鳥「ふゎ……!」
え、え~と、抱きしめられたときはどうすれば……。
私にわかるわけないっての!
わからないけど……たぶん。
こういう場合は、目を閉じて待ってれば……いい?
小鳥「……」
P「……」
パッ…
私のファーストキ……あ、あら?
プロデューサーさん、離れちゃった?
P「また明日。おやすみなさい」
小鳥「え? あ……」
小鳥「おやすみなさい……」
行っちゃった……。
そりゃまあ、ついさっき恋人同士になったばかりですけど……。
こういうの、男の人から求めてくるものですよね?
私ばっかりその気になってて、バカみたいじゃないですか……。
わからないことばっかり。
恋愛って難しい。でも……。
プロデューサーさんと恋人同士♪ えへへ///
── 翌朝 AM6:00 ──
月曜の朝なのに、なにこの爽やかな目覚めは?
お肌のハリも……やだ! 昨日とは別人みたい!
これならスッピンで仕事に行っても大丈夫かも!
……。
ごめんなさい、言いすぎました。
どんな幸せでも覆い隠せないものって、悲しいけどあるんですね。
小鳥「あ、メール……」
彼からだ。
この時間に起きてて、寝る時間なんてあったのかしら?
2時間もなかったりして……。
同棲とかは……まだ早いかな?
でも、なるべく一緒にいて、もっとしっかり休んでもらわないとね。
その……恋人として。
小鳥「恋人……うふふ///」
おっと、妄想に耽ってる場合じゃなかったわ。
返信……っと。
昨夜はいろいろとお預けになっちゃったけど、今はあれでよかったのかなって思う。
なんたって、恋愛初心者ですからね。少しずつ、ゆっくりでいいんです。
彼と一緒なら……。
── 朝 765プロ事務所 ──
小鳥「おはようございます!」
P「おはようございます、小鳥さん」
音無さんじゃなくて小鳥さん。
昨夜の夢のような出来事が、夢じゃなかったということ。
小鳥「プロデューサーさん……」
P「はい?」
小鳥「いえ、その……///」
P「?」
小鳥「……」
P「……」
P小鳥「「あの」」
P小鳥「「あ……」」
小鳥「ぷっ」
P「はは」
小鳥「いい大人がなにやってるんでしょうね」クスッ
P「お似合いってことじゃないですか、俺たち」
小鳥「ふふっ、そうですね♪」
小鳥「ところで」
P「はい?」
小鳥「昨夜は帰ってからちゃんと休みましたか?」
P「え? ええ……それはまあ」
小鳥「約束しましたよね?」
P「はい……」
信じてください、なんて言っておいて、もう……。
みんなのために頑張るのもいいけど、自分のことも少しはいたわってもらわないと。
小鳥「そういうことだったら、今夜は……」
P「ええ、うちに来てください」
小鳥「そんなこと言っても、約束を守れない人は……え?」
P「え?」
小鳥「あ、いえ。それじゃ、今夜お邪魔します……」
P「ええ。今日はずっと一緒に」
小鳥「はい……///」
P「……」
小鳥「……///」
律子「……」
P小鳥「「!?」」
律子「……」
P「律子!?」
小鳥「いたんですか!?」
律子「ええ。朝からお邪魔しちゃったみたいで」
P「いやいや! おはよう律子!」
小鳥「お、おはようございます、律子さん!」
律子「……おはようございます」
あ……これもうごまかせないわ。
律子さんにだったら、正直に話しちゃってもいいですよね。
律子「まあ、だいたい察しはつきますが、いちおう説明してもらいましょうか?」
P小鳥「「はい……」」
───
──
─
律子「話はわかりました。お二人のプライベートに口出しはしません」
小鳥「さ、さすが律子さん! 話のわかるいい女!」
P「助かるよ」
律子「ただし!」
P小鳥「「え?」」
律子「まだ、みんなには内緒にしておいてください」
律子「あの年頃の子たちは、影響を受けやすいですから」
P「そうだな……」
小鳥「ええ……」
律子「社長には報告しておいたほうがいいと思いますけど」
小鳥「それはもちろん!」
P「わかってるよ」
律子「それと……不本意ながら事情を知ってしまいましたが……」
P小鳥「「……」」
律子「だからといって、私の前ではイチャつかないこと!」
小鳥「え? ダメなんですか?」
P「ダメなのか?」
律子「……正座しますか?」
P小鳥「「ごめんなさい……」」
律子「まったく……」
律子「まあ、みんなの前で気をつけてさえもらえれば……」
ガチャ
春香「おはようございます!」
P「おう、おはよう春香」
小鳥「おはよう、春香ちゃん」
律子「おはよう、春香」
春香「あれ? プロデューサーさんと小鳥さん、また律子さんに怒られてたんですか?」
P「そんな、いつも怒られてるみたいな……」
律子「こっちだって好きで怒ってるわけじゃないわよ」
小鳥「律子さんなりの親愛表現ですもんね!」
律子「はいはい……」
春香「あはは……あれ?」ジー
小鳥「どうしたの?」
春香「ん~……気のせいかな?」ジー
小鳥「なにが?」
春香「髪型もカチューシャも変わってないし……やっぱり気のせいですね」
小鳥「ど、どういうこと?」
春香「小鳥さん、なんだか少し雰囲気変わったかなって」
小鳥「うぇ!?」
P「……」
律子「……」
春香「えへへ、変なこと言ってごめんなさい」
小鳥「う、ううん! 気にしないで!」
こういうことに疎そうな春香ちゃんでも、なんとなく感づくって……。
もし勘のいい美希ちゃんとか、ニュータイプみたいな貴音ちゃんだったら……。
まあ、気をつけてもどうにもならないことだし、なるようになれよね。
───
──
─
── 夜 765プロ事務所 ──
高木「やあ、バースデーパーティは楽しんでもらえたかな?」
小鳥「はい! まさかみんなにお祝いしてもらえるなんて……」
高木「そのみんなのお願いで準備させてもらったんだよ」
高木「ねえ、律子君」
律子「え!? わ、私はみんなを代表しただけで……」
小鳥「ありがとう、律子さん」
律子「やめてくださいって……///」
高木「それにしても、音無君と彼がねぇ」
小鳥「いやぁ、自分でも信じられないですよ」
高木「なんとなくそうなるんじゃないかとは……いや、そうなってくれたらとは思っていたが」
小鳥「……」
高木「音無君のことは、自分の娘のように心配していたからね」
小鳥「あはは……不孝者の娘で申し訳ないです」
高木「彼なら安心して任せられるよ」
小鳥「はい!」
社長が見出して、私が好きになって、私を選んでくれた人ですからね。
ありがとうございます、社長。
高木「ところで、その彼はどうしたのかね?」
律子「遠い子たちの送迎です。そろそろ戻ってくるはずですが」
高木「なら、音無君のことは彼に任せて、私は先に上がらせてもらおうかな」
律子「私もそうします」
小鳥「えぇ!? 律子さんも一緒に帰りましょうよ」
律子「私がいたら邪魔にしかならないでしょ」
小鳥「そういうことじゃなく、夜道の一人歩きななんてさせられません!」
律子「それは、今日に限ったことじゃ……」
小鳥「いつもは、こんなに遅くならないでしょ?」
律子「……」
高木「音無君の言うとおりだ。社用車を使っていいから、一緒に送ってもらうといい」
律子「はあ……社長がそう仰るなら」
小鳥「ありがとうございます!」
高木「では、お先に失礼するよ」
律子「お疲れさまでした」
小鳥「お疲れさまでした~」
───
──
─
── P自宅 ──
律子さんを送ってから私の部屋に寄って、最低限お泊まりに必要な準備はしてきました。
プロデューサーさんの部屋……来るのは初めて。
そもそも男の人の部屋自体はじめてなんだけど。
彼と、朝まで一緒……。
今夜、どこまで進展するかは彼次第。
ちょっとだけ怖いけど……なにもなかったら、やっぱり寂しい。
小鳥「それじゃ、ご飯作りますね」
P「手伝いましょうか?」
小鳥「ダメですよ。今日は私の手料理を食べてもらうんですから」
P「そうですね。期待してます」
小鳥「任せてください」
うちから持ってきたエプロンを着けて……。
これでも、お料理には自信あるんだから。
惚れ直させておげますね♪
小鳥「冷蔵庫の食材を少し使ってもいいですか?」
P「好きなだけ使ってもらっていいですよ」カタカタ…
小鳥「は~い……ん?」
P「ん?」カタカタ…
小鳥「お仕事ですか?」
P「ええ。テレビ局の編成会議で、うちの企画案が好評だったみたいで……」
P「急いで企画書を仕上げていこうかと」
小鳥「そうですか……」
毎日人一倍働いて、結果だって出してるのに、家に帰ってもまた仕事。
アイドルのみんなのことを考えてない時間なんて無いんじゃ……。
プロデューサーさんと同じぐらい、みんなのことも大好きだけど。
みっともないな、嫉妬なんて……。
彼のために初めて作ったお料理は……ちょっとだけ失敗。
味付けを間違えたのか、肉じゃがが少し甘すぎちゃった。
私たちの甘~いイチャラブぶりに、お料理もあてられちゃったのかも。ふふっ。
美味しそうに食べてはくれたけど、私の腕がこんなものだとは思わないでくださいね。
次はもっと美味しいご飯を食べてもらいますから!
小鳥「ふぅ……」
私が洗い物をしているあいだに彼にお風呂に入ってもらって、今は私の番。
なにがあってもいいように、念入りに綺麗にしておかないと。
小鳥「今日こそは……かな」
いやいや! 彼は昨夜まともに寝てないみたいだから……。
ちゃんと休んでもらわないと、なんのために私が来たのかわからないじゃない。
だから、焦っちゃダメ。
でも、キスも……まだなんだもん。
そのぐらいは、ね……?
小鳥「お風呂いただきました~……あれ?」
P「zzz……」
机に突っ伏して……寝ちゃってる。
企画書を作ってる途中だったみたいだけど……。
念のため保存、っと。
さて、どうしよう。
起こすのも申し訳ないし、かといって、私の力じゃベッドまで抱えてなんていけなし。
でも、この姿勢じゃ腕が痛くなるわよね。
ん~……あ、そうだわ。
小鳥「ちょっと失礼しま~す」
少しだけ頭を浮かせて……枕替わりにクッションを。
そーっと、そーっと……よし。
それじゃ、もうひとつ椅子を並べて。
添い寝しちゃいま~す。
小鳥「もう……私のことほったらかして、先に寝ちゃうなんてひどいです」
P「ん……zzz……」
小鳥「かまってくれないとキスしちゃいますよ~?」
なんてね、ふふっ。
こんな歳でお恥ずかしい限りですが、私のファーストキスですから。
二人の思い出になるように……お願いしますね?
おやすみなさい……。
── 翌朝 765プロ事務所 ──
朝ですよ、朝! 彼と一夜を共にして、初めて迎える朝!
昨夜はあのまま寝ちゃったけど、今朝こそは……!
……の、はずだったんだけど。
律子「二人揃って、定時ギリギリにご出勤ですか? ふ~ん……?」
P小鳥「「ごめんなさい……」」
二人して寝坊して、このザマです……。
仕事に影響が出ない限りは、社長も律子さんも多少のことは見逃してくれるだろうけど。
律子「私も野暮なことは言いたくないですから、これからは気をつけてくださいね」
P小鳥「はい……」
ずっと年下の律子さんに、こんなことで気を遣わせるなんて……。
無駄に歳を重ねただけの年長者なんて、みっともないだけよね。
はぁ……もっとしっかりしないと。
一昨日からのことも、これからのことも、私にとっては初めてのことばかり……。
恋人らしいことはあまり出来てないけど……どうなのかな?
まだ進展なしって、遅い?
……わからない。
事務所には、恋愛相談できそうな相手はいないし……。
同世代の友達に、今更こんな相談はさすがに……。
こんなこと、グ○グル先生だって答えてくれない……。
小鳥「はぁ……」
雪歩「はい、音無さんお茶です」
小鳥「え? あ……ありがとう、雪歩ちゃん」
雪歩「どうしたんですか、ため息なんてついて?」
小鳥「この歳になっても、色々と悩みはあるものなのよ……」
雪歩「この歳なんて……音無さん、まだお若いのに」
小鳥「あら……ふふっ。ありがとう」
P「雪歩、ちょっといいか」
雪歩「あ、はい」
P「今日の仕事なんだけどな、ちょっとこれを見てくれるか」
雪歩「はい」
後ろから肩ごしにモニターを覗いて……体がくっつきそう。
雪歩ちゃん、男の人が大の苦手だったのに……ていうか、今でも苦手ではあるみたいだけど。
プロデューサーさんだけは特別みたい。
P「でな」クルッ
ポフッ
雪歩「きゃっ!?」
P「うお!? すまない、すぐ後ろにいるとは思わなかった」
雪歩「いえ、こちらこそ……///」
いま振り向きざま、顔が胸に……うん、当たってた。
いや、わざとじゃないのはわかってるし、こんなことで取り乱したりはしませんよ?
私はまだ、触ってもらってもいませんけどね!
千早「あ、プロデューサー。少し相談したいことが……」
P「ん? 今か?」
千早「はい、できれば」
P「わかった。5分待ってくれ」
千早「ありがとうございます!」
あの気難しい千早ちゃんも、今ではプロデューサーさんを信頼しきってる。
ちょっと依存しすぎで心配なところはあるけど……。
プロデューサーとアイドルの信頼関係が深まるのは、事務所の一員として歓迎すべきこと。
なのに、いつからか素直に喜べなくなってる。
どうしても……恋人になった今でも、誰よりも私があの人にふさわしいと自信を持てないから。
お若いなんて言われても、ここはもっと若くて可愛い娘たちばっかりなわけで……。
プロデューサーさんだって、あずささんや律子さんの方が年齢的にはお似合いだし。
ほんとに私なんかでいいのかな……?
小鳥「……」
律子「どうしたんですか、小鳥さん?」
小鳥「いえ、なんでも……」
律子「?」
私も千早ちゃんのこと言えないか……。
── 昼休み たるき亭 ──
小鳥「恋人が女の子にモテすぎるのも考えものです……」
P「は? 俺のことですか?」
小鳥「他に誰がいるんですか?」
P「いや、俺がモテるって言われても……」
小鳥「えっ」
P「えっ」
小鳥「……」
P「……」
小鳥「はぁ……そうですよね、自覚してないのがプロデューサーさんですよね……」
P「はあ」
ええ、わかってましたよ。
私だって、気づいてもらえなくて悩んだり落ち込んだりしましたから。
そのぐらいじゃないと、アイドルのプロデューサーなんて務まらないでしょうけどね。
小鳥「あの、今夜は?」
P「遅くなると思います」
小鳥「ええと……」
P「たぶん、日付が変わる頃に」
小鳥「お仕事ですか?」
P「ええ」
小鳥「仕事仕事もいいですけど、もうちょっと摂生してもらわないと困りますよ」
P「好きでやってることですから」
小鳥「……」
たぶん仕事に関してだけは、私がなにを言っても聞かないと思う。
仕事に嫉妬してもしょうがないけど……。
今度「私より仕事のほうが大切なんですか!?」ってやってみようかしら。
やめとこ……めんどくさい女だと思われるだけだし。
小鳥「今日は、私も自分の部屋に帰ります……けど」
P「?」
小鳥「私がいなくても、ちゃんと休んでくださいね」
P「ええ、わかってます」
小鳥「そう言って、わかってないから困るんですよー!」
今夜は独りぼっち。
そんな日もあるだろうけど……。
── 午後 765プロ事務所 ──
小鳥「ふぅ……」カタカタ…
律子「……」カタカタ…
小鳥「はぁ……」カタカタ…
律子「……」カタカタ…
小鳥「空になりたいわぁ……」カタカタ…
律子「なに言ってるんですか……」カタカタ…
小鳥「津軽レインボーってなんだよ……」カタカタ…
律子「知らないっての……」カタカタ…
小鳥「……」カタカタ…
律子「……」カタカタ…
小鳥「律子さんをめいっぱい抱きしめたい……」カタカタ…
律子「窓からうっちゃりますよ?」カタカタ…
小鳥「もー律子さんてばツンデレなんだからー」カタカタ…
律子「デレてないデレてない」カタカタ…
小鳥「……」カタカタ…
律子「……」カタカタ…
小鳥「ふぅ……」カタカタ…
律子「……」カタカタ…
小鳥「律子さんのメガネになりたい……」カタカタ…
律子「ウザい……」カタカタ…
── 夜 765プロ事務所 ──
小鳥「私は先に上がりますけど……」
P「はい」カタカタ…
小鳥「くれぐれも無理だけはしないでくださいね?」
P「わかってますって」カタカタ…
小鳥「……」
全然わかってない。
ちゃんと聞いてるのかも怪しいんですけど……。
P「あ、小鳥さん」
小鳥「はい?」
P「明日の夜は、今度は小鳥さんの部屋に行っていいですか?」
小鳥「そんなこと言って、また……」
P「約束します」
小鳥「ほんとですか?」
P「ええ、俺だって……」
ガチャッ
高木「やあ、君たち。遅くまでご苦労様」
小鳥「あ……社長、お疲れ様です」
P「お疲れ様です、社長」
高木「ああ、君。ちょうどよかった」
P「はい?」
高木「急で申し訳ないんだが、明日朝から出張で名古屋まで行ってもらえないか」
P「出張ですか? もちろん行かせてもらいますが」
高木「すまないね。私が行くつもりだったんだが、事情があって行けなくなってしまったんだ」
P「いえ、構いませんよ」
小鳥「……」
高木「君なら安心して任せられるよ」
P「ははは、光栄です」
高木「そうそう、任せられるといえば……」
P「?」
高木「出張を頼んでおいて、言えた義理ではないが……」
高木「君の仕事に対する熱意には感心するがね、可愛い恋人に寂しい思いをさせてはいかんよ」
小鳥「えっ?」
P「それは……」
高木「ははは、差し出口だったかな」
P「いえ……」
小鳥「……」
そんなことないですって、どうして言えなかったんだろ……。
……ううん、自分でわかってるでしょ。
自分に嘘をついたってしょうがないよね……。
── 翌日 765プロ事務所 ──
プロデューサーさんは、早朝から出張。
結局、戻ってこれるのは明日になるとか。
今夜の約束も、なくなっちゃった……。
また仕事に彼を取られちゃった気分……。
もちろん、私のわがままで引き止めるなんて出来っこない。
そのぐらいはさすがに弁えてますよ、ええ……。
律子「小鳥さん」
小鳥「……」
律子「小鳥さん!」
小鳥「は、はい! なんですか律子さん?」
律子「今日は私も一日外での仕事になるんで、事務所のほうはお任せします」
小鳥「えぇ!? 律子さんまで私を置いていっちゃうんですか!?」
律子「はあ?」
小鳥「一人ぼっちは寂しいですぅ……」
律子「だから、プライベートを仕事に持ち込まないでくださいと……」
小鳥「わかってますよぉ……」
律子「わかってないから困るんですよ」
うぅ……どこかで聞いたようなこと言われちゃった……。
そりゃ、公私の切り替えができない私が悪いのはわかってますけどね。
寂しいものは寂しいんですよー!
── 夜 小鳥自宅 ──
また独りぼっちの夜……。
私なんて、半裸で手酌酒がお似合いよね……ふふ。
こんなお酒、少しも美味しくないけど。
小鳥「プロデューサーさんのバカぁ!」
電話ぐらい掛けてきてくれたっていいじゃないですか!
ふーんだ! もうプロデューサーさんなんか知りませんですよーだ!
♪~~
小鳥「ぅひゃっ!?」
電話!? って……プロデューサーさん!?
あわわ! 早くなにか着て……って、それはいいから!
落ち着いて……取り乱しちゃダメ。
深呼吸よ、深呼吸。
スゥ~~~…ハァ~~~…
よし、出るわよ!
小鳥「も、もしもし……」
P『小鳥さんですか? 遅くにごめんなさい』
小鳥「いえ……」
P『もうお休みでしたか?』
小鳥「まだ起きてましたよ」
P『よかった。いま大丈夫ですか?』
小鳥「え?」
P『今、マンションの前です』
小鳥「えぇ? 帰りは明日になるんじゃ……?」
P『その予定だったんですけどね。なんとか早く終わらせて、急いで帰ってきました』
小鳥「そ、そうですか」
P『今夜一緒に過ごすって、約束だったでしょ?』
小鳥「え、ええ。それじゃ今、下に迎えに……」
って、うわぁ……。
空き缶ぐらいは片付けておかないと、さすがにドン引きされるわ、これ……。
小鳥「ご、5分だけ待ってもらえますか?」
P『ええ、いいですよ』
うん! まずなにか着よう、私!
部屋の惨状より、半裸のほうがまずいよね!
P「怒ってます?」
小鳥「別にー」
P「怒ってますよね?」
小鳥「怒ってませんよーだ」
P「困ったな。どうすれば許してくれますか?」
小鳥「えー」
チョロい女なんて思われたくないですからね。
簡単には許してあげません。
小鳥「朝まで一緒にいてくれたら、気が変わるかもしれませんけど……」
P「もちろん! 帰れって言われたらどうしようかと思ってました」
小鳥「言いませんよ、そんなこと……」
P「ええ」
小鳥「帰ったりしたら、今度こそほんとに許しませんからね?」
P「わかってます。隣にいっていいですか?」
小鳥「いいですよ……」
ま、まだ許しませんよ。
恋人として、そのぐらいは当然なんですから。
P「今度の日曜日、なんとか休みをもらえました」
小鳥「え?」
P「その分、前倒しで仕事を進めなきゃならなかったんですけど」
小鳥「最近、仕事が立て込んでたのって……?」
P「ええ、そうです。これで一日一緒にいれますね」
小鳥「は、はい」
P「二人でどこか出かけましょう」
小鳥「お任せします……///」
ずるいですよ……。
そんなこと言われたら、許したくなっちゃうじゃないですか……。
P「俺ね……」
小鳥「?」
P「仕事が大変でも頑張ってこれたのは、小鳥さんのおかげなんです」
小鳥「私の……?」
P「初めて小鳥さんに会ったとき、すごく綺麗な人だと思って……」
小鳥「へ?」
P「一緒に仕事をして、すごく優しくて素敵な人だとわかって……」
小鳥「え? え?」
P「でも、すごく可愛らしい人で……すぐに好きになりました」
小鳥「ぅぁ……///」
P「全然気づいてくれなかったですよね」
小鳥「それはお互い様ですよ……」
P「はは、そうですね」
小鳥「ふふっ」
P「ほんとは、もっと早く告白したかったんですけど……」
小鳥「……」
P「少なくとも、自分の仕事に自信を持てるようになるまでは、と……」
小鳥「自信を……」
私は、こんな歳になっても自分に自信を持てなかった……。
どうすれば自信を持てるかなんて、たぶん考えたこともなかった。
でも、まだ手遅れなんかじゃない。
あなたがいてくれれば……。
P「やっと結果が出せるようになって……自信があるなんて、まだ胸を張って言えないですけどね」
小鳥「……」
P「アイドルプロデューサーとしてやっていく覚悟は出来ました」
小鳥「はい」
P「それに……」
小鳥「?」
P「迷ってるあいだに、他の誰かに小鳥さんを取られたら困りますからね」
小鳥「そんなこと……!」
P「……」
小鳥「いつまでだって……プロデューサーさんを待ってましたよ。きっと……」
P「ええ……」
小鳥「だいたい、他の誰かにって……それはこっちのセリフですよ」
P「はい?」
小鳥「わからないなら、それでいいです!」
P「そうですか」
P「小鳥さん……」
グイッ
小鳥「あ……」
今度こそ……ですよね?
チュッ
P「……」
小鳥「……」
ファーストキス……。
プロデューサーさんと……。
P「……」
小鳥「……///」
ああ、もうチョロくていいです……。
P「許して、もらえましたか?」
小鳥「許しました!」
P「はは、よかった」
小鳥「ふふっ///」
ずっと一緒にいたい。
大好き……。
P「こんな奴だから、また小鳥さんを怒らせることがあるかもしれないけど……」
小鳥「……」
P「悲しませることだけはしません」
小鳥「はい。嘘だったら許しませんからね?」
P「ええ、絶対に」
大丈夫です。
私があなたのそばにいれば、嘘にはなりませんから。
だから、ずっと一緒にいてくださいね。
大好きです!
P「もう一度、キスしていいですか?」
小鳥「次は私からです♪」
おわり
おつおつ! あなたのモノローグ読んでて楽しくて好きだ
>>12
あの時報って数秒遅れてるんだぜ…
ピヨちゃん、誕生日おめでとう!
2XのXはいくつなんだろー謎だわー
まあ、いくつだろうとピヨちゃんは可愛いから問題ない
それじゃ読んでくれてありがとう
おっつおっつ
ピヨちゃんとバースデーケーキ食ったぜ
よし、乙だってば!
乙 リアルタイムで歳重ねてたらピヨちゃんアラフォーなんだよなぁ……オレも歳とった訳だわ
ピヨちゃん誕生日おめでとう!
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