女神・2 (766)
とりあえず次スレ立てました
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女神
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1337768849(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
新スレ乙!!
続きが楽しみすぐる
「そんなんじゃないよ。部活の後輩」
僕は戸惑いながらもとりあえず母さんのからかい気味の誤解を解いた。それにしても妹が僕の家を訪ねて来るとは予想外にも程がある。以前からいきなり教室に訪ねて来たりしたことはあったけど、まさか休日に自宅に尋ねてくるとは感がえたことすらなかった。
母さんが僕の言い訳をどう思ったかはわからないけど、もう僕をからかうのはやめたようで、じゃあ入ってもらうねとだけ言って再び階下に下りていった。
少しして母さんに案内された妹が僕の部屋に入ってきた。相変わらず気後れする様子がない妹だったけど、かと言って馴れ馴れしい様子もなかった。これなら母さんも彼女に好感を抱くだろう。
「先輩、こんにちは」
「あ、うん」
僕の返事は自分でも予想できていたようにぎこちないものだった。母さんはそんな僕の反応を見て内心面白がっていたようだった。
「わざわざお見舞いに来てくれてありがとう。もう熱も引いてるしうつらないと思うからゆっくりしていってね」
母さんは妹にそれだけ言って部屋を出て行った。
「あ、はい。ありがとうございます」
妹も礼儀正しく返事した。
母さんが部屋を出て行った後、僕たちはしばらく黙っていた。僕は妹の姿を盗み見るように眺めた。学校で見かける制服姿の妹は守ってあげたいという男の本能を刺激するような、女の子っぽく小さく可愛らしい印象だったから、僕は何となく私服の彼女ももっと少女らしい格好をしているのだと思い込んでいた。いくらリアルの女子のファッションに疎い僕でも、さすがにギャルゲのヒロインのような白いワンピースとかを期待していたわけではないけど、妹なら何というかもう少しフェミニンな、女性らしい服装をしているものだと僕は勝手に想像していたのだった。
そんな童貞の勝手な思い込みに反して妹の服装は思っていたよりボーイッシュなものだった。別に乱暴な服装というわけではなく、それはお洒落だし適度に品もあってこれなら服装に関しては保守的な僕の母さんも眉をひそめる心配はなかっただろう。そんな妹は僕の方を見てようやく声を出した。
「先輩、具合はどう?」
それは落ち着いた声だった。
僕は急に我に帰り、自分のくたびれたスウェット姿とか乱れたベッドで上半身だけ起こしている自分の姿を彼女がどう思うか気になりだした。
「うん。明日からは学校に行けると思う。心配させて悪かったね」
僕は小さな声で妹に答えた。妹は僕の具合なんか気にしていなかっただろうけど、それでもやはり心配はしていたはずだった。それは僕が実行を約束した作戦がどうなっているのかという心配だったと思うけど。
「突然休んじゃってごめん。一応、メールはしたんだけど」
そのメールに対して妹は返事をくれなかったのだ。でも僕はそのことを非難しているような感情をなるべく抑えて淡々と話すよう心がけた。
「病気なんだから仕方ないじゃない。先輩が謝ることなんかないのに」
妹はそう言って改めて僕の部屋を眺めた。
「あ、悪い。そのカウチにでも座って」
妹を立たせたままにしていることに気がついた僕は、妹に少し離れた場所にある椅子を勧めた。
「うん」
妹はそう言って、どういうわけかベッドから離れたところに置いてあるカウチを苦労して引き摺って、ベッドの側に移動させてからそこに腰かけた。カウチの位置がベッドの横に置かれたせいで僕の顔のすぐ側に妹の顔があった。
「本当にもう大丈夫なの?」
妹は僕の額に小さな手のひらを当てた。その時僕は硬直して何も喋ることができなかったけど、胸の鼓動だけはいつもより早く大きくなズムを刻み出したので、僕は額に当てられた彼女の手に僕の鼓動が伝わってしまうのではないかと心配した。
「熱はもうないみたい。先輩のお母様の言うとおりもう風邪がうつる心配はないね」
妹はそう言った。
僕の熱を測り終えた妹は、僕の額に当てた手をそのままにしていた。そして不意に小さな身体を僕の方に屈めた。今度は妹の唇は前より少しだけ長い間僕の口の上に留まっていた。
妹が顔を離して再びベッドの側に寄せたカウチに座りなおした。いつも冷静な表情が少し紅潮しているようだった。
「・・・・・・何で?」
僕は混乱してうめくように囁いた。「何で君はこんなことを」
「何でって・・・・・・。風邪はうつらないみたいだし。先輩、そんなに嫌だった?」
「嫌なわけないけど、何で君が僕なんかにこんなことを」
「先輩、あたしのこと気になるって言ってなかったっけ?」
確かに僕は妹にそう言った。恋の告白と同じレベルの恥かしい言葉を僕は前に妹に向かって口にしたのだった。
「・・・・・・でも、君と僕なんかじゃ釣り合わないし、それに君は誰とも付き合う気はないって」
「何で先輩とあたしが釣り合わないの?」
まだ紅潮した表情のままで妹が返事をした。「あたしじゃ先輩の彼女として不足だってこと?」
何を見当違いのことを言っているのだろうか。わざとか? わざと僕のことをからかい牽制しているのだろうか。それともこれは、女に対する作戦に僕が怖気づくことのないようにするための言わば餌なのだろうか。
「彼女って・・・・・・。僕は最初に君に振られたんだと思って」
「そうか。そうだよね」
妹はもう顔を赤らめていなかった。むしろ今まで見たことのないほどすごく優しい表情で僕を見つめていた。
「何であたしに振られたと思ったのに、こんなにあたしのためにいろいろとしてくれてるの?」
僕はどきっとしてあらためて彼女を見た。これは惚れた欲目だ。僕の心の中で警戒信号が鳴り響いた。
・・・・・・妹のような子が僕を本気で好きなるはずがない。これは言わば馬車馬の目の前にぶらさげる人参のようなものだ。あるいはひょっとしたら妹は僕に相談しているうちに、陽性転移を発症したのかもしれなかった。そうであればそれは当初の僕の目的のとおりだった。でもこれまで妹とべったりと時間を過ごしてきて、妹のために無償で、自分を滅ぼしかねない行為を行うことに決めた僕は、今では陽性転移的な妹の感情なんて欲しくなかったのだ。
それとも彼女は陽性転移的な感情ではなく本心から僕のことを好きになったのだろうか。それはいくら言葉を重ねても答えの出ない類いの疑問だった。僕よりももっとリア充のカップルにも等しく訪れることはあるだろう男女間の根源的な問題だったのかもしれない。
「何でって・・・・・・」
僕は再び口ごもった。
「先輩はもうあたしには興味がなくなっちゃった?」
妹の柔らかい言葉が僕の心に響いた。
「女さんとお兄ちゃんのことばっかり気にしてるあたしなんかにうんざりしちゃったかな」
「そんなことはないよ。約束どおり明日から僕は、女さんと兄君を別れさせるために」
「そんなこと聞いてないじゃない」
突然妹が初めて感情を露わにして言った。「女さんとかお兄ちゃんのことなんか今は聞いていないでしょ」
妹は僕の方を見つめた。
「先輩が今でもあたしのことを・・・・・・その、好きかどうか聞いてるんじゃない」
「・・・・・・本当に僕なんかでいいの?」
僕はもう自分自身を誤魔化すことを諦めた。振られて傷付くなら一度でも二度でも一緒だ。僕は心を決めた。一度振られたつもりになっていた僕だけど、ここまで言われたらもう一度ピエロになろう。その結果妹に利用されたとしてもそれはもはや今の僕には本望だった。
「今でも僕は君のことが大好きだけど・・・・・・」
その時、妹の冷静な表情が崩れ彼女は静かに目に涙を浮かべた。
「先輩って本当に女心に鈍いんだね。あたし、手を握ったりキスしたり一生懸命先輩にアピールしてたのに」
「その・・・・・・ごめん」
僕は何を言っていいのかわからなくなっていたけど、期待もしていなかった妹の好意への予感は急速に胸に満ち始めていた。
「女の子にあそこまでさせておいて、何も反応しないって何でよ? 先輩って今までいつも女子にここまでさせてtaの?」
妹は涙を浮かべたままだったけど、ようやくいつものとおりの悪戯っぽい表情になった。
「そんなことはないよ。だいたい僕はこれまでもてたことなんかないし」
「嘘ついちゃだめ」
妹は見透かしたような微笑を浮かべた。
「先輩、中学時代にすごくもてたって。先輩と同じ中学の子に聞いちゃった」
それは陽性転移だ。でもこの場でその言葉を口に出す気はなかった。妹がかつて僕が女の子に人気があったと思い込んでいるなら何もそれを否定する必要はない。
「あと絶対副会長さんって先輩のこと狙ってると思うし。この間だって副会長さん、あたしたちに嫉妬してたよね」
「それはない」
僕は即答した。少なくともそれだけは妹の勘違いだった。
妹が話を終えたせいで、またしばらく僕たちは沈黙した。
やがて妹が再び僕に言った。
「先輩、あたしはっきり返事聞いてない」
「君のことが好きだよ。僕なんかでよければ付き合ってほしい」
僕はもう迷わなかった。例えこれは自分の破滅に至る道だったとしても後悔はしない。
「・・・・・・・うん。これでやっと先輩の彼女なれた」
僕は思わず妹の手を握った。
「ありがとう」僕はようやくそれだけ低い声で口に出すことができた。妹も僕の手を握り返した。
「ありがとうって、何か変なの」
彼女は笑った。そして再び僕たちはどちらからともなくく唇を交わした。そのときふと目をドアの方に向けると、母さんが紅茶とお茶菓子を持って部屋の外に立っていた。
さすがに妹は僕から身を離して赤くなって俯いてしまった。でも母さんはどういうわけか嬉しそうに僕たちに謝った。
「お邪魔しちゃってごめんね。妹さんからお見舞いに頂いたケーキを持って来たのよ。妹さん、お持たせで悪いけど食べていってね」
「はい。ありがとうございます」
さすがの妹も恥かしかったのだろう。母さんの方を見ないでつぶやくように言った。
「じゃあ、ごゆっくり」
母さんはそう言って部屋を出て行った。
「紅茶、どうぞ」
僕はとりあえず妹に勧めた。
ここまで幸せな展開になるとは思わなかった僕だけど、それでも心のどこかには例え妹が本当に僕のことを好きになったのだとしても、それは女と兄君関係の作戦の同志としての感情から始った恋だという考えは拭いきれなかった。もちろんそれでも僕は充分満足だった。きっかけはどうあれ、妹の僕への気持ちが陽性転移でなければ僕はきっかけがどうであろうとその結果には満足していた。
でも、この恋のきっかけとなった女関連の作戦は僕のせいでまだ始ってすらいなかった。僕はもう迷いを捨てて妹のために全身全霊でこのミッションをやり遂げる覚悟ができていた。それで、僕は今日くらいは作戦のことは忘れて妹とお互いに抱いている恋愛感情について甘いやりとりを
したいという気持ちもあったのだけど、無理にそれを抑えて作戦の話をしようとした。それが妹の望むことでもあったのだから。
「それでさ、明日のことなんだけど」
「うん」
いつも活発な彼女らしからぬ大人しい声。
「明日、女さんと兄くんの担任の先生に捨てアドからメールしよう。最初は大人しい方の女神スレの過去ログ、ミント速報のやつだけどそのURLを匿名で先生に知らせよう」
どういうわけか妹は黙ってしまった。
「妹・・・・・・? どうかした」
妹はあからさまに不機嫌そうに僕を見上げた。いったい僕の何が悪かったのだろう。僕は妹の希望通りの言葉を口にしただけなのに。
「先輩、あたしたちって今付き合い出したんだよね」
「う、うん」
「何でこういう時にそんな話をするの? そういうのは明日学校ですればいいじゃない」
妹は可愛らしく僕を睨んだ。
「今はもっと違うお話を先輩としたかったのに」
不意に僕の胸が息もできいくらい締め付けられた。でもそれは僕がこれまで経験のないほど幸せな甘い息苦しさだった。
「・・・・・・もう一回好きって言って?」
妹は僕の方を見上げて言った。
「大好きだよ」
今度は僕の本心だった。妹はようやく機嫌を直したように笑ってくれた。
「あたしも先輩が大好き」
妹が僕に抱きついてきた。僕たちは再び抱き合って唇を重ねた。
本日は以上です
このスレで何とか終らせたいと思いますが、それでも長くなりそう
おやすみなさい
前スレ使いきれよ
乙
会長たちが余計なことしなけりゃ全員丸く収まってたのにな
乙!
本心なら妹は兄に縁切られてもおかしくないな
>>10
残り10レスになるまで使い切ってるのに何を言ってるんだ……?
んな文句つけるくらいなら前スレ埋めればいいのに……
まあ使いきってもいいでしょうなあ
会長たちが余計なことというか女が女神行為しなけりゃもっと丸かったかも
妹はマジキチ
兄が可哀想だなこりゃ
女神よりも妹の方がよっぽどビッチに見える不思議
不思議もなにも、今の段階じゃガチのキモウトじゃねーか
幼馴染も妹も結局は兄に依存してただけなのかもね
本当に好きならこれぐらいじゃなびかないだろ
乙
作者は前スレどうしたいの?
兄友視点になった時が楽しみだ
現状各キャラがぶれまくってる様に見えるけど
これらがどう纏まっていくか
あと女の際登場、タイミングが悩みどころなのかな?
結構あとか、エピローグまで出てこないか……
>>18
埋めがてら
次スレ案内と作者へのエールで消費ってのはどう?
それとも暫く放置して新規さんも読める様にしとく?
990まで行ったスレをさらに使い切れとか鬼畜なこと言ってるやつなんなの?
会長はキモいけどなんか自分を見てるみたいで鬱になってくる。
次スレ移行したんだから前スレはさっさと埋めるなりHTML化依頼しろという事なんじゃないの?
未読の人の為に放置、という考え方はないのか?
その日は遅くなって妹が帰るまで、僕たちはお互いのことを夢中になって語り合った。僕が自分の気持を思い切って彼女に正直に話すのはこれが初めてではないけど、妹が言葉で気持ちを語ってくれたのはこれが初めてだった。
「最初はね、お兄ちゃんのメールを見て女さんがああいうことをしてるってわかったんだけど、自分ではこれ以上どうすればいいかわからなくて、でもこのまま放っておく気には全然なれなくて」
僕たちは僕と妹の馴れ初めから恋人同士になった今に至るまでの心境を語り合ったのだった。僕が話せることはあまりなかった。妹に惹かれて好きになったこと、そのためにはたとえ妹が僕のことなんかに振り向いてくれなくても妹に協力しようと思ったこと。自分ではもっといろいろ複雑
な想いを抱えて悩んできたつもりだった僕だけど、いざ妹に話すとなるとわずか一言二言で僕の話は終ってしまった。でも妹は別にあきれるでもなく微笑みながら僕の話を聞いてくれた。それから彼女は自分の想いを語ってくれたのだった。
「それで自分でもすごく単純な発想だったけど、パソコンの前で悩んだことを解決するんだからパソコン部に入ろうって思ったの」
「それであの日に君はパソ部の部室にいたんだね」
僕は彼女と初めて出会った日を思い出した。遠巻きに見守る部員たちに話しかけてさえもらえず、妹にしては珍しく心細そうな姿で俯いて座っていたいたその姿を。それはついこの間の出来事だったのに、僕には遥か昔のことのように思えた。あの時部室で俯いていた大人しそうな、まるで人形のような少女が僕の彼女になるなんて、あの時は夢にも思っていなかったのだ。まあ、知り合ってみると彼女は決して大人しく儚い少女では全然なく、むしろ物怖じしないはきはきとした性格だったのだけど。でも、そういう新たな発見さえも僕を妹に更に惹きつける一因となったの
だ。
「最初はどうしようと思ったよ。誰も話しかけてくれないし、副部長さんも部長が来るまで待っててくださいって言ってくれただけだったし」
「でもそのおかげで先輩と知り合えたんだもんね。パソ部に顔を出してみてよかった」
妹は微笑んで僕の手を握った。
「うん」
僕もそれには全く同感だった。人生は偶然の出会いに満ちている。そんなありふれた陳腐な言葉がこれほど真理だと思ったのは生まれて初めてだった。
「正直に言うとね。最初は先輩のことあたしの話をよく聞いてくれて相談に乗ってくれるいい先輩としか思っていなかった」
彼女はそう言って、今度は僕の手を自分の指でなぞるように撫で始めた。思わずその感覚に心を取られそうになった僕は気を引き締めて彼女の話に集中しようと努力した。
今でも僕は自分の置かれた境遇を心から信じ切れていなかった。だから僕は自分の心の安らぎを求めるためには妹が今語りだした妹の心境の変化を聞くしかないと思った。それで僕は自分の手に感じている心地よい違和感を半ば無理に意識の外に締め出した。
「でもね。先輩って自分のことはあまり話さないであたしの話ばかりを聞いてくれてたでしょ? あたし、先輩に話を聞いてもらっているうちに自分が本当は何をしたいのかが整理できて、それで先輩には本当に感謝したんだけど」
「そうなの」
「だけどね、自分の気持が整理できたら今度は先輩が何を考えてあたしの話を親切に聞いてくれているのか、それがすごく気になるようになちゃった。ほら、あたし最初に先輩に酷いこと言ったじゃない? 誰とも付き合う気はないって」
それはよく覚えていた。でももともと彼女と付き合えるなんて期待すらしていなかった僕は、その時は妹のその言葉にそれほど傷付くことはなかったのだ。
「おまえ何様だよ? って感じだよね。あんな思い上がったことを先輩に言うなんて。先輩、あの時は本当にごめんなさい」
「・・・・・・無理はないと思うよ。僕なんかに君が気になるとか気持ち悪いこと言われたら、君だってそれくらいは釘刺しておこうって思うのは当然だよ」
「何で先輩って、すぐに僕なんかとかって自分を卑下したような言い方するの?」
今までの優しい表情に変って妹は少し憤ったような顔で僕に聞いた。
「何でって・・・・・・」
「先輩はもう少し自分に自信を持った方がいいと思うよ」
僕は黙って頷いた。妹はもう少し何かを話したそうだったけど結局回想の続きを話し始めた。
「それで先輩にいろいろ女神スレのこととか教わったりパソコンを選んでもらったりしているうちにね、あたし何か、先輩に女さんとお兄ちゃんの話をすることなんかどうでもよくなってきちゃって」
え? 僕はその時妹の言葉に驚いた。僕のことを好きになったのは本当だとしてもその根底には妹の兄君への執着があることについては僕はこれまで疑ってさえいなかった。一番僕にとって望ましい事態は、妹が兄君を助ける同志としての僕を好きになることであって、僕はそれ以上の
ことを考えたことすらなかったのだ。一番最悪のパターンは妹が僕を利用するために僕を好きになる振りをすることで、次に悪いのは陽性転移だった。そんなことを考慮すれば、たとえ目的を同じにする同志としての愛情であっても僕にとってはそれは充分すぎる答えだった。
「その頃からかなあ。あたし自分でも何を悩んでいるのかよくわからなくなちゃって。お兄ちゃんのことを考えてたはずなのに、先輩ってあたしの話を聞きながら何を考えてるんだろうってそっちの方に悩むようになっちゃった」
陽性転移を発症したクライアントは傾聴者が何を考えているのか知りたいなんて思わない。彼女たちが傾聴者に恋するのは傾聴者の中に写った自分に恋をしているのだ。その恋はクライアントにとっては自己愛と同義といってもいい。自分を唯一認めてくれ自分に関心を持ってくれる相手としての傾聴者だけが、クライアントにとっての恋愛対象ということになるのだった。
妹の話はそれを真っ向から崩すものだった。妹は僕が何を考えているのか知りたいという気持ちを抱き、そしてそれが僕への恋愛感情に転化していったようだ。かつて僕の人生の中で唯一僕のことを好きだと言った女でさえ、僕を好きな理由は僕が彼女のことに関心を示し彼女の話をひたすら聞いてくれる相手だったからだった。僕は彼女の承認欲求を満たしてあげる一点だけで、彼女の中で特別な存在でいられたのだった。
でも妹は僕自身に関心を抱いてくれた。そう言えばさっき、妹に愛情を示された僕が気を遣って女と兄君を別れさせる作戦を披露してあげようとした時、どういうわけか不機嫌になった妹の言葉が心に思い浮んだ。
「何でこういう時にそんな話をするの? そういうのは明日学校ですればいいじゃない」
僕を睨む妹の表情。
「今はもっと違うお話を先輩としたかったのに」
そうだ。もう勘違いではなかった。僕には今度こそ本当に僕のことを心か愛してくれる彼女ができたのだった。
長くて読めないから
三行でまとめて
そんな僕の感傷には気がつかず妹は話を続けた。
「この間の朝、副会長さんが先輩を責めてたでしょ? あの時あたし頭が真っ白になって、先輩のことを責める副会長さんが許せなくて・・・・・・あの時にはもう先輩のこと好きになってたのね、きっと」
僕はもう何も言葉にできず黙って僕の手の上で動いていた妹の小さな手を捕まえてぎゅっと握り締めた。
「多分、あたし副会長さんに嫉妬もしてたんだと思う。それで次の日にお兄ちゃんと女さんがいちゃいちゃしてて」
やっぱり辛いのだろう。彼女はそこで俯いて言葉を止めた。
「でもその日も先輩は優しくて、あたしのために自分には何の得にもならないことをしようって言ってくれて」
「・・・・・・うん」
「先輩がお休みしている間、とにかく寂しくて仕方なかった。でも、そのおかげで自分の気持に初めて向き合うことができたの」
「それでメールなんかじゃ嫌だから直接先輩に告白しようって思った。あれだけいろいろアピールしたのに先輩何もしてくれないんだもん」
妹の告白もこれで終わりのようだった。
「先輩、大好きよ。あたしのこと見捨てないでね」
「・・・・・・何を言ってるの。それこそ僕のセリフだよ」
「相変わらず無駄に自己評価が低いのね。あと先輩、あたしのこと過大評価しないでね。あたしは女神でも何でもないんだから」
僕たちは再び抱き合った。人生の絶頂にいたといってもいいその瞬間、さすがの僕ももう疑う必要は何もなかったのだけど、妹が女神という単語を口にしたことが少しだけ僕には気になった。もちろんそれは考えすぎだったのだろうけど。
「あたしそろそろ帰るね。もう遅いし」
もう今日だけでも何度目かわからないほどお互いに抱きしめあってキスしあっていたため、思っていたより遅い時間になってしまったようだった。
「あ、じゃあもう遅いから送っていくよ」
僕は立ち上がろうとしたところで妹に肩を押さえられて再びベッドに座り込んでしまった。
「ずっと学校を休んでいた病人が何言ってるの」
妹が立ち上がったので、彼女の全身が再び僕の目に入った。やはり可愛いな。僕は立ち上がることを諦めた。
「明日は登校するんでしょ」
「うん。もう大丈夫」
「じゃあ朝、先輩の家まで迎えに来ていい? 一緒に学校行こ」
「ああ、いや。僕が迎えに行くよ」
妹が笑った。「あたしんちは学校から逆方向だよ。それにお兄ちゃんが出てきたら何て言って挨拶する気?」
僕は浮かれるあまりいろいろと考えなしに喋ってしまっていたようだった。
「明日は七時半ごろに迎えにくるから。それなら中庭とかで朝一緒にいられる時間があるでしょ」
「待ってるよ」
「じゃあまた明日」
僕は大声で母さんを呼んだ。これまで邪魔しないでいてくれた母さんが待っていたようにすぐに二階に姿を見せてた。
「もうお帰り? また来て頂戴ね。妹さんならいつでも歓迎するから」
「あ、はい。ありがとうございます。明日、先輩を迎えに来てもいいですか」
母さんは笑った。「あら。それじゃ、ちゃんと朝この子を起こしておかないとね」
この話の何がおかしいのか僕にはさっぱり理解できなかったけど、母さんと妹は目を合わせて仲良く笑い合っていた。
今日はここまで
前スレのことはすみませんでした。一応、ぎりぎりまでスレを消費しようとは思ったんですけど、次スレ移行の要望もあったんでスレ立てさせてもらいました
埋まらなければHTML化要望を出すつもりだったんですけど、埋め立てしていただいてありがとうございました
>>26
もはやSSとは言えない有様であることは自分でもわかっていますけど、今さら方針展開もできません。申し訳ないけど忍耐強い方だけお付き合いくださいとしか申し上げられません
ごめんなさい
乙
前スレについては埋めなくても時間おいてHTML化依頼でOk
2ちゃんと違って埋めようが埋めまいが依頼出さなきゃ落ちないんだから
>>30
埋めて1000いったら依頼出さなくても落ちるよ?
>>29
長くていいから、最高に楽しいから続けておくれ
ザッピングのマルチ視点かつなかなかの良作
女は
その翌日妹はきっかり七時半に僕を迎えに来た。玄関まで迎えに出た母さんに礼儀正しくあいさつした妹は、母さんの後ろからぎこちなくおはようと声をかけた僕を見て少し笑った。
「おはよう先輩」
「じゃあ気をつけていってらっしゃい」
母さんはそれだけ行って家の中に入ってしまった。玄関前に取り残された僕たちはしばらくぎこちなく向かい合って黙っていた。
「行こ」
先に沈黙を破ったのは妹の方だった。彼女は少し上気した顔で僕の手を握ってさっさと歩き出した。僕は親に手を引かれる子どものように妹の後をついていったのだった。
まだ登校時間には早かったけどそれでも部活の朝練に向う生徒の姿は結構あって、その中で手を握り合って登校する三年生と一年生のカップルはやはり人目を引いているようだった。
「あたしね」
妹はまだ顔を赤くしていたけど、周囲の生徒たちの視線を気にしている様子は全くなかった。
「今朝お姉ちゃんに電話したの。これからは朝部活があるから一緒に登校できないって」
妹は何かを期待しているかのように僕の方を見上げて言った。そういえば以前副会長から聞いた話では、妹はこれまでは兄君と幼馴染さん、そして兄友君と四人で一緒に登校していたのだった。兄君はいち早くその輪から抜け出して、多分今では女と一緒に登校しているのだろう。そして妹は残った三人と一緒に登校するより付き合い出したばかりの僕と一緒に登校することを選んでくれたのだ。
僕がそんなことを考えながら妹の方を見ると、彼女はまだ何かを待っているかのように僕の方を見つめていた。
・・・・・・ああ、そうか。僕は慌てて妹に言った。
「よかった。じゃあ、これからは二人で一緒に登校できるんだね」
期待通りの反応だったのか妹は僕の言葉に満足そうにうなずいた。よかった。僕は妹の期待を裏切らずに返ができたようだった。僕は何とか正解を答えることができたのだ。
「パソコン部でも朝練ってあるの?」
妹が無邪気に聞いた。
「あるわけないさ」
僕は妹の質問に思わず少し笑ってしまった。「体育系の部活じゃないんだし・・・・・・それにみんな夜中まで家でパソコンの前に座りっぱなしだし、朝早く登校するやつなんていないさ」
「ふーん。じゃあ授業が始まるまで部室で一緒にお話ししない?」
「別にいいけど。まあ確かに朝の部室なんて誰もいないからちょうどいいかもね」
「・・・・・・先輩のエッチ」
妹は何か誤解したみたいで顔を赤くして僕に言った。でも、それは決して怒っているような口調ではなかった。
こうして始った僕と妹との交際は普通の恋人同士が辿るであろう道を模範的になぞっているかのようだった。お互いに甘えあったりお互いに相手に自分を好きと言わせようとしたりすねてみたり、そんな他愛もない駆け引きをしているだけですぐに時間は去っていってしまうようだった。妹は前から他人が僕たちを眺める視線には無頓着だったけど、今では僕も妹に夢中になっていたから、もはや他人の視線を気にすることすらなくなっていた。いくら生徒数の多いマンモス校とはいえ朝からべったり寄り添っている三年生と一年生のカップルは周囲の注目を引いたと思う。昔の僕ならそういう好奇心に溢れた視線にとても耐えられなかっただろうけど、初めて心から僕のことを想ってくれる恋人を得た僕はもうあまり周囲のことは気にならなくなっていた。
妹はあまり兄君と女のことを口にしなくなっていた。もともと彼女が僕に関心を持ったのは自分のことを助けてくれる相手としてだったはずだけど、この頃になると妹が僕に要求するのは自分に対する僕の愛情だけになっていて、女の女神行為についての話題は全く口にしなくなっていたのだった。
朝僕たちは一緒に登校し、誰もいない部室で寄り添って授業開始までの短いひと時を過ごした。その後、僕はもう人目を気にすることなく一年生の校舎の入り口まで妹を送って行った。始業前に駆け込んでくる生徒たちで溢れている校舎の前では、妹も部室に二人きりでいる時みたいに僕に抱きついたりキスしたりすることはなかったけど、別れ際に彼女は名残惜しそうに僕の手を握るのだった。
昼休みと放課後の逢瀬も部室を使わないというだけで僕たちがしていることは同じだった。
僕は幸せだったし妹も同じことを思ってくれているように見えた。でも僕はもっと彼女を喜ばせたかった。そのために僕ができることって何だろう。
何か彼女にプレゼントをすることは真っ先に考えたのだけど、それは僕にはあまりピンと来なかった。二人の交際の記念にアクセサリーそれもペアリングのようなものをプレゼントできないかと思ったけど、いろいろな意味でそれは僕にとってハードルが高かった。まずはどんなものを選べばいいのか見当もつかなかった。それにタイミングということもある。考えてみれば僕には妹の誕生日すらわかっていないのだった。
そう考えて行くうちに僕はふと初心に帰ってみるべきではないかと思い立った。
もともと妹が抱え込んでいた悩みは今でも全く解決していなかった。妹は兄君のほかに気にする相手ができたせいで今では兄君と女の女神行為のことを考えないでいられるのかもしれないけれど、妹が兄君の交際相手の破廉恥な女神行為に心を悩ませていること自体は全く解決していないのだ。
それにプレゼントを買うことなんてお金があればできることだけど、兄君と女を引き剥がすことは僕にとっては大きなリスクを伴うことだった。それは一時は胃が痛くなるほど考えこんだことでもあった。でも、今の僕の幸せに見合うくらいのプレゼントを妹にするのだとすれば、アクセサリーを買うなんてことでは全然引き合わない。むしろリスクを承知で最初に約束したとおり妹の悩みを解決してあげてこそ、僕は胸を張って妹の彼氏だと言えるのではないだろうか。
ここまでの僕の幸せは偶然の僥倖だった。妹は僕のことを好きになってくれたけど僕はそれに対してまだ妹には何もしてあげていない。最近の妹は女さんの女神行為のことを話題にしなくなっていた。妹だって人間なんだから恋人ができた今は恋人である僕のことだけに夢中になっているのかもしれないけれど、いつか冷静になれば兄くんの彼女のことで胸を痛める時が妹に戻ってくることは明らかだった。妹が今では異性として兄君を見なくなっていたのだとしても、仲の良い兄妹であることには変りはないのだ。
僕は考えた。妹が女のことを僕に話さなくなったのは作戦を実施する僕に負わせるリスクのことを妹が考え出したせいのかもしれない。妹が僕のことを本気で好きになっているなら、僕が負うべきリスクのことを気にしてくれたとしても不思議ではなかった。それなら僕はなおさら妹に気を遣わせないよう自分からこれを実行すべきなのだろう。それは僕が今妹にあげられる一番のプレゼントだった。
その朝、早起きした僕はもう迷わなかった。妹が迎えに来るまで一時間くらいは時間がある。僕は昨晩作ったWEBメールの捨てアドから緊急連絡網に記載されている女と兄くんのクラスの担任の携帯にメールを送った。
とりあえず最初は「スレンダーな女神スレ」で女が兄君に自分の女神行為を見せ付けた部分が転載されているミント速報の過去ログのURLを記載することにした。緊縛画像とか兄君が撮影したより扇情的なレスや画像はまだ大事な玉として温存して置いた方がいいだろう。高校二年生の女子がネットで不特定多数の人間相手に下着姿を晒している画像だけでも、最初としては充分なはずだった。
『突然メールしてすみません。御校の二年生の女子生徒である女さんがネット上で破廉恥なヌードを自ら公開していることをご存知でしょうか。こういう行為が健全な青少年に与える影響を考えると看過するわけにはいかないと思ってご連絡さしあげました。しかるべき対応を期待しています。万一必要な指導をしていただけない場合には、この事実をマスコミ等の諸方面に通報せざるを得なくなりますのでご留意ください。それではよろしく対応方お願いいたします』
僕はそのメールを送信した。妹に相談せず自分の一存でこれを行ったことはいい考えだったと僕は考えた。妹は僕にリスクを負わせたことを気にしないで済むし、僕にとっては大切な妹に捧げるプレゼントを彼女に要求されたからではなく自発的に贈ることができたのだから。
僕はパソコンを消して、階下に降りた。今日も妹は僕を迎えに来るはずだった。どのタイミングで妹にこの最高の贈り物を披露しようか。僕はその時これまで感じたことのないくらいの高揚感に包まれていた。
今日はここまで
明日また再開予定です
乙!
そして、会長がゲス過ぎてヤバい
乙
会長が行動したことによって妹に幻滅されないかな?
おつ
会長だけが悪いかというと
まあいろいろ
乙乙
妹の真意が知りたい。会長にマジ惚れしてるのか否か
乙!
何をしたわけでもなく、各キャラのエゴのシワ寄せを全部受ける兄カワイソス
筆者が最初に暗い話になると言っていたのを思い出した。
というか兄が可哀想な話になってきた。
乙
可愛かった幼馴染や妹は何処にいったんやら
乙です
えーと、タイミング的には兄が学校裏サイトを見る前辺り?
妹「フヒヒ 作戦通り」
翌朝も妹は正確に七時半に僕の家に寄ってくれた。僕は玄関先に出て妹が来るのを待っていた。家の前に立っている僕に気づいた妹はすぐに顔を明るくして僕の方に寄って来た。
「おはよ、先輩」
「おはよう」
もう僕たちはそれ以上余計なあいさつをせず、すぐにどちらともく手を取り合って自然に同じ歩調で学校に向った。付き合い出してまだそう日は経っていなかったけど、この程度の日常的な行動を取るにあたり僕たちはもうお互いに言葉を必要としなかった。そのことが僕には嬉しかった。沈黙していてもお互いに不安になるどころか心が安らいでいる。そういうことはどちらかの一方通行の気持ちでは成り立たないことだったから、僕はもう僕の隣で沈黙している妹が何を考えているのか悩むことはなかった。そして、それは多分妹も同じだったろう。
お互いに言葉は必要とはしていなかったけど、僕たちは互いに握り締めあった手の力を強めたり肩をわざと少しぶつけ合ったりという恋人同士ならではのボディランゲージをぶつけ合っていた。手を握るタイミングが偶然一致した時、妹は大袈裟に驚き痛がる振りをしながら僕の方を見上げて笑った。
そんな言葉すら必要のない会話を重ねながら歩いていくとそろそろ校門に近づいていた。その時、妹は同級生らしい女の子に声をかけられた。
「妹ちゃん、おはよ」
校門の前で、ショートカットにした黒髪が可愛いらしい一年生の女の子が妹に笑いかけていた。
「おはよ」
妹は友だちの姿を見つけても僕から離れようともせず、相変わらず僕の手を握りながらショートカットの彼女にあいさつした。
「えーと」
妹の友人が好奇心に溢れた目で僕の方を眺めた。
「もしかして、妹ちゃんの彼氏?」
「うん、そうだよ」
妹は少しだけ顔を赤らめたけど別に否定することもなくさりげなく言った。
「彼、三年生なの。生徒会長なんだけど」
彼女は僕の方を見て人見知りする様子もなく言った。
「あ、あたし先輩のこと知ってます。4月の新入生ガイダンスの時あいさつしてましたよね、まさか妹ちゃんの彼氏だとは思わなかったですけど」
「ああ、うん。そうだね」
妹が落ち着いて僕のことを自分の彼氏だと紹介しているのに、僕はといえば情けないことにこういう時に何を話していいのか全くわからなかった。これでは妹にも恥をかかせてしまうかもしれない。僕は内心焦った。でも、妹の友だちの女の子に何か気の利いた切り返しをしようと考えれば考えるほど何を話していいのかわからなくなってしまった。それで、結局僕はそれだけ言って自分でも意味不明な笑顔を精一杯浮かべて見せた。
「先輩、この子は妹友ちゃん。あたしと同じクラスなの」
「妹友です。よろしくお願いします」
妹友という子ははきはきとあいさつした。「でもびっくりー。妹ちゃんって彼氏いると思わなかったよ」
「・・・・・・どういう意味よ」
妹は軽く妹友を睨みながら言った。「どうせあたしはもてないよ」
「そうじゃないって。妹ちゃんって男の子に人気がある割には誰にも興味なさそうだったじゃん」
妹友は言った。「今までだって告られても全部断ってたでしょ?」
「それでいつもお兄さんとかお兄さんのお友だちの兄友先輩とかと一緒だったじゃん? あたしさ、ぶっちゃけ妹って兄友先輩狙いなのかと思ってたんだけど」
この時、妹はどういうわけかちらっと僕の方を覗ったようだった。
「・・・・・・そんなことあるわけないじゃん。兄友さんはお兄ちゃんの親友だから仲がいいだけだよ」
「うん。今日初めて妹のことがわかったよ。あんたって要するに年上好みだったのね」
「・・・・・・何よ、それ」
「同級生の男の子じゃ満足しないから告られても断りまくってたわけか」
「ちょっと、あたしは別に年上だから先輩とその・・・・・・」
妹は再び赤くなって少しだけ僕の方を見た。
「じゃなくて。あたしは先輩が同級生だったとしてもこの人のこと好きになってたと思うよ」
僕は妹の言葉に幸福感を覚える反面、何かこの場に存在していることが居たたまれないような感情を持て余しながら無意味な笑みを浮かべていた。妹友と会っても妹は僕の手を離してくれなかったのだけど、僕が妹友の前で狼狽していることを察したのかどうか、妹は再び僕の手を握っていた自分の小さな手に力を込めたようだった。
「うわあ。そこまで照れずに堂々と言われるとからかい甲斐がないわ」
妹友があきれたように言った。「あんたって本当に自分に自信があるのね。そうでなきゃそんなこと普通は言わないよね」
それに対して妹は妹友に何も答えなかった。そして妹友の感想にもとり立てて悪意はないようだった。ただ、妹は僕の手を一度離して今度は両腕で僕の左腕に抱きついた。
「邪魔しちゃ悪いみたいね」
それを見守っていた妹友も悪びれずに妹に言った。
「ごめんね。いつも授業が始まるまでは先輩と一緒にいることにしてるから」
妹も別に友人に遠慮することなく言った。
「うん。邪魔してごめん、じゃあ妹ちゃんまた後でね。先輩、失礼します」
妹友が何か颯爽という印象を残して消えていった後、僕たちはいつものとおり誰もいないパソ部の部室に向った。
「先輩、びっくりしたでしょ」
妹が僕の腕から手を離して椅子に座って言った。「あの子って全然遠慮がないから」
「いい友だちじゃない」
僕はようやく落ち着きを取り戻して言った。もう妹の僕への好意、いや愛情は疑いようがなかった。それは自分に対して自信がない僕ににも今では理解できた。そして自分の同級生に向って僕のことを恋人だと堂々と公言した妹の言動を考えると、もう僕の中には妹に対する一片の疑いさえ消えてなくなってしまっていた。
「あたしね。先輩と恋人同士だってこと隠したくはないけど、かと言って自分からぺらペら喋って回るわけにもいかないし。そういう意味では今日妹友ちゃんに目撃されてちょうどよかったかも」
妹は僕の手を引いて自分の隣の椅子に腰掛けさせた。そしてどういうわけか悪戯っぽい笑顔で僕を見つめた。
「先輩、妹友ちゃんって可愛かったでしょ」
「え」
緊張していたためよく覚えていなかったけど、そう言えば妹友さんはショートカットが似合う活発な印象の女の子だった。
「浮気しちゃだめよ?」
妹が言った。「あたしってすごく嫉妬深いんだから」
「そうは見えないけどな。それに浮気されるなら僕の方が君に浮気される確率が高いんじゃないかな」
それは僕と妹との容姿とかリア充率とかそういうことから口に出しただけの何気ない言葉だったのだけど、意外なことに妹はその言葉に過剰に反応した。
「それ、どういう意味?」
「どういうって、別に」
「先輩、あたしのこと信じてないの?」
僕は意図せず地雷を踏んでしまったようだった。
「そうじゃなくて。君のことは大好きだから信頼もしてるよ。でも、君が変なことを言うから思わず」
「あ、そうだね。ごめん。あの子、男の子に人気があるからつい嫉妬しちゃった」
妹の嫉妬じみた言葉さえ今の僕には心地よかったので、この少しだけ険悪になった妹とのやりとりにも僕はあまり動揺しないですんだ。
妹は僕に謝り再び僕に寄り添うように寄りかかった。
「妹友に会ったせいで十分は時間を無駄にしたよね」
妹は甘えるような上目遣いで言った。「もう授業始っちゃうよ」
僕はいろいろな想いが心に浮かんで、でもそれを消化できす結局妹を乱暴に抱き寄せたのだった。妹に対してここまで直接的な行為に出たのは初めてだったかもしれない。でも妹は驚きもせずむしろ自分から僕の方に身体を寄せた。僕たちは深いキスを交わした。
「もう行かないと」
名残惜しげに僕から身を離した妹が立ち上がった。
「今日もお弁当作ってきたから、少し寒いかもしれないけど屋上で待ってるね」
「うん」
僕も妹を追って立ち上がった。
それから昼休みまでの間、授業中も僕は妹のことを考えていた。
その時になってようやく僕は早朝のメールを思い出した。妹友との遭遇があったせいでその件を妹に話すことはできなかったけど、いずれにしても妹にこの僕からのプレゼントを披露するにはまだ早すぎると僕は思った。
妹の望みは破廉恥な女を兄君から引き離すことだったけど、それはまだ成就していない。鈴木先生が今朝のメールに気がつき何か対応をしているのかもしれないけど、それはまだ成果となって現れてはなかった。僕のしたことは単に捨てアドから鈴木先生にメールをしただけに過ぎない。こんな程度のことを得意気に妹に披露したとしてもそれは僕の自己満足だ。僕のしたことはただ行動を起こしたということに過ぎず、妹の望む結果は出せていないのだから。
僕は気を引き締めた。妹の僕に対する気持ちは、今朝の偶然の妹友さんとの遭遇によって奇しくも僕にとって完璧に近い形で確かめられた。僕はもう妹の僕に対する気持ちについて不安に思うことはなかった。
次は僕が妹に対して自分の気持を見せる番だった。それは百万回妹に対して好きだと叫ぶことではない。妹の切ない望みを完璧な形でかなえてあげることこそが僕の妹に対する本当の告白なのだった。
昼休みになり僕は教室を出て共通棟の屋上に向かった。妹とはそこで待ち合わせをしている。お互いに時間を無駄にせず長く一緒にいるためには共通棟での待ち合わせがいいのかもしれないけど、今度は僕の方から妹の教室に迎えに行ってみようか。きっと妹のクラスメートはざわめいて僕たちの仲を噂するだろうけど、妹はそんなことは気にせずに僕の迎えを喜んでくれるだろう。妹はさっきもこう言ったのだった。
「あたしね。先輩と恋人同士だってこと隠したくはない」
今日は女は登校しているのだろうか。それともメールの効果が発現するとしてももっと時間を要するのだろうか。僕は妹へのプレゼントのことを気にしながら共通棟の屋上に続くドアを開けた。
短いですが今日は以上
明日は投下予定ですがそれ以降は新章に突入予定です。それに伴い少しプロットの整理をしたいと思いますので明後日以降の投下予定は今のところ未定です
無駄に長すぎる変則SSにお付き合いいただき感謝していいます
またお会いしましょう
おつおつ
兄友が気になる乙
乙!
乙です。
ありがちな兄Love路線じゃないので、この先も楽しめそう。
乙です。とても続きが気になるので、楽しみに待ってます。
妹はもう先に来て硬い石のベンチに腰かけていた。
「ごめん」
僕は妹を待たせてしまったことに妙な罪悪感を感じて妹に謝った。妹はそれには答えずにでも優しく微笑んでくれた。
その昼休みは妹は珍しく寡黙だった。彼女は僕にお弁当を勧めた。そして僕が妹に勧められるままに手づくりのサンドイッチを食べている間、黙ったまま微笑んで僕を見つめていたのだった。それは奇妙なほど静かな時間だった。
朝、僕が部室で妹を乱暴に引き寄せてキスしたときのような情熱的な感情は今でお互いに収まっていて、それでもお互いをより近くに、まるで自分の分身のように親しく感じている度合いは朝のひと時よりも大きかったかもしれない。妹の沈黙はもう僕を不安にさせることはなかった。
「先輩?」
「うん・・・・・・美味しいよ本当に」
僕はサンドイッチを飲み込んで答えた。小さい頃から料理をしているだけあって彼女の料理の腕前はお世辞でなく確かなものだった。
「ありがと」
彼女は言った。「でもそんなこと聞きたかったんじゃないのに」
「うん? 何?」
「あたしね」
妹は僕の方を見つめた。顔には相変わらず微笑を浮かべていた。
「本当に先輩と出会えてよかったと思う。普通なら一年生と三年生なんか出会う機会って少ないじゃない?」
「まあ、同じ部活とかじゃないと普通はないよね」
僕は答えた。それに同じ部活だったとしても三年生と一年生のカップルはうちの学校でも珍しかった。ほとんど中学生に近い一年生と大学生に近い三年生ではいきなり恋人同士に至るにはギャップが激しすぎるし、少しづつ長い時間をかけてお互いにわかりあうにしても一年と三年では共に一緒に過ごせる期間は短かかった。部活からの引退や受験を考えると長くても半年くらいだったろう。そう考えると僕と妹のようなカップルが成立したのは一種の奇跡だった。
「兄ちゃんと女さんのことがあって、たまたまあたしがパソコン部に入ろうと思ったから、あたしと先輩って知り合えたんじゃない?」
「うん」
本当にそのとおりだった。それに僕が学園祭の準備にかまけていて、パソ部に顔を出さなければ彼女と知り合うことすらなかっただろう。いろいろあって偶然に生徒会に居辛くなった僕が生徒会室を避けて部室に避難したからこそ僕は今妹の彼氏でいられるのだ。そう考えると本当に綱渡りのような偶然が積み重なった、危うい一筋の糸の上で僕たちの儚い恋は成就していたのだった。僕は本当に幸運だったのだろう。
「先輩と知り合う前のあたしと、先輩の彼女になったあたしって別な人間なのかもしれない」
妹は随分と難解な表現で話を続けた。僕との出会いを喜んでくれたのはわかったけど、それにしてもそれは大袈裟な物言いだった。
「いろいろあたしも成長したのかもね」
妹は言った。「あたしって今までお兄ちゃんが大好きで、今までも他の男の子に告白されたこともあったんだけど、いつもお兄ちゃんのことを考えちゃって」
「うん」
妹がブラコン気味だということは妹と知り合う前から副会長に聞いていたので、別にそれは僕にとって驚くほどの情報ではなかった。
「だから、女さんの女神行為を見つけた時は本当にあの人が許せなったし、お兄ちゃんの彼女があんなことをしているなんてもってのほかだと思ってたの」
それは良く理解できる話だった。そして、現に僕はそんな妹のために既に手を打っていたのだから。
「・・・・・・先輩のせいだからね」
その時、妹は微笑みながら涙を浮かべるという複雑な表情を僕に見せた。
「全部先輩のせいなんだから。先輩、責任とってくださいね」
彼女は涙を浮かべつつも幸せそう僕に向かってに微笑んだ。
「責任なんかいくらでも取るさ」
僕は少し驚いて言った。「でも、何が僕の責任なの?」
「これから話すよ。でもその前に一つだけ聞かせて?」
「うん」
「この間、副会長先輩が言ってたこと・・・・・・先輩がお姉ちゃんに振られたって、それ本当なの?」
まずい。僕はそのことをすっかりと忘れていたのだ。妹はあの時僕と幼馴染さんのことを副会長が話しているのを聞いていた。あの時は副会長に責められていた僕を助けようとした妹は幼馴染さんのことを追及しなかったのだけど、普通に考えればそのことを妹が気にしていない方がおかしかった。
僕は迷った。本心で答えるならば僕は幼馴染さんのことは別に好きではなかったと答えればいい。でもその場合は、何で好きでもない幼馴染さんに僕が告白したのかということを説明しなければならない。
本当はそろそろ僕と女のことを妹に告白してもいい頃だったのかもしれない。もう妹の僕に対する愛情には疑いの余地はなかったから、過去の話として僕が女に気持ちを奪われていたことがあったことを告白してもいいのかもしれない。でも、女が妹にとって見知らぬ女性であるならばともかく、女は現在進行形で兄の恋愛の対象らしいのだった。その女に僕までが心を奪われていたことを告白するのは、このタイミングではとてもしづらいことだった。なので、僕はその時まだそこまで割り切れなかったのだ。
「本当だよ。僕は幼馴染さんに告白して振られた。でも、今にして思うと何で僕はそんなことをしたのかわからないんだ」
それは苦しい言い訳だった。
「先輩、お姉ちゃんのどんなところが好きだったの?」
目を伏せた妹が小さく言った。
「いや。多分、キモオタで童貞の僕は焦っていたんだろうと思う。このまま彼女すらできないで高校を卒業すると思っていたところに・・・・・・」
「うん」
妹は僕を責めるでもなく真面目に聞いてくれていた。そのことに僕は胸が痛んだ。
「そんなところに、身近な生徒会で綺麗な幼馴染さんと親しく一緒にいる機会があったから」
「でも今の僕の気持ちはその時とは全然違う。君が僕なんかを好きになってくれたことは今でも信じられえないけど、それでもいい。僕は君を失いたくない」
必死でみっともない姿を晒したことがよかったのだろうか。妹はゆっくりと頷いてくれた。
「あたしとお姉ちゃんとどっちが好き?」
妹はからかうように囁いた。
「君に決まってる」
僕は言った。
「ありがと、先輩」
妹は僕の言い訳を受け入れてくれたようだった。
「あたし先輩とお付き合い初めていろいろわかったことがあるの」
「わかったって・・・・・・何が?」
「うん。人が人を好きになるって理屈じゃないんだって。正直に言うと先輩みたいなタイプの人とお付き合いするなんてあたし、以前は考えてもいなかったし」
先輩みたいな人。僕は妹の愛情に疑いは持っていなかったけど、その言葉の持つ意味にはすぐに気づいた。イケメンでもないしスポーツも苦手。得意なことと言えばパソコン関係くらい。妹のような放っておいてもリア充な男から声をかけられる女の子にふさわしい男とは、僕はとても言えないだろう。
「・・・・・・それは自覚しているよ。僕なんかが君と付き合えるなんて普通じゃないことだって」
そこでまた妹はそれまで浮かべていた優しい微笑を消して僕を睨みつけた。
「またそんなことを言う。何でいつも先輩はあたしに意地悪なこと言うの?」
妹は今にも泣き出しそうな表情で僕を非難するように言った。
「意地悪って・・・・・・正直な気持ちなんだけどな」
「先輩、あたしのこと好きって言ったよね?」
「うん。君のことは誰よりも好きだ」
「だったらもうそういう、自分を卑下するようなことは言わないで」
何か不公平な感じだった。僕みたいなタイプと付き合うなんて考えたこともなかったと最初に言ったのは彼女の方なのに。
「先輩のこと大好き」
不意に再び妹の態度が柔らかくなった。そして彼女は僕に甘えるように寄り添った。僕は自分の肩に彼女の重みを受け止めた。
「先輩も」
「え?」
「先輩も・・・・・・」
「うん。妹のこと大好きだよ」
妹は黙って僕の肩に自分の顔をうずめた。彼女の細い髪が僕の鼻を刺激したため、僕はくしゃみをかみ殺すのに大変だったのだけど。
「あたし、もう女さんとお兄ちゃんの仲を許せると思う」
彼女は僕の肩に体重を預けながら呟いた。
「お兄ちゃんもあたしと一緒なのかもね」
「どういうこと?」
僕は自然に彼女の肩に手を廻しながら言った。
「恋愛って当事者同志じゃなきゃわからないんだよね。あたし、初めて恋をしてよくわかった」
「・・・・・・うん」
「お兄ちゃんが女さんのことを、女さんの女神行為のことを承知していても女さんが好きなら、あたしはそれを邪魔しちゃいけないのかもしれない」
一瞬で僕の思考は甘い感傷から覚醒した。妹の肩を抱いていた手が震えた。
「・・・・・・先輩?」
妹がいぶかしんだように聞いた。
「いや。続けて」
「あたしにはブラコンかもしれないけど、それでもお兄ちゃんの恋を邪魔する資格はないと思う。今ではあたしの一番好きな男の人は、お兄ちゃんじゃなくて先輩なんだし」
「うん・・・・・・」
途方もないほど幸福に思えただろう妹の言葉も、今の僕には全く響いてこまかった。胃の辺りが重く苦しく軋んでいる。
「だから先輩、あたしが前に相談したことは全部忘れて。あたしはお兄ちゃんと女さんのことは邪魔しないし、お兄ちゃんの味方になるの。今ではあたしには先輩がいるんだし、もうお兄ちゃんの恋を邪魔するのは止める」
僕にはもう何も言えなかった。
「それをあたしに気がつかせてくれたのは先輩だよ」
妹は僕の頬に手を当てた。
「大好き」
妹に口を塞がれながら、僕はその甘い感触を感じることすらなく自分のしてしまった早まった行為のことを鮮明に思い浮かべていた。
もう僕には何も考えられなかった。僕は妹のことを思いやる余り先走って女の女神行為のことを鈴木先生にチクってしまっていたのだった。
僕の感覚と思考は戦慄し、震えた。どうしたらいいのだろう。どう行動するのが僕にとって最適解なのだろう。
僕にとってはもう女に制裁を加えるとかその巻き添えで兄君が痛めつけれられとか、そういうことはどうでもよかったのだ。最初は僕を虚仮にした女への復讐が動機の一つだったけど、妹に惹かれ信じられないことに妹に愛された僕にとってはもうこの二人のことなんてどうでもよかった。
ただ、妹の願いをかなえてあげることだけが僕の目的だった。そのために僕は妹に黙って勝手にこの作戦を開始してしまったのだった。
・・・・・・今では妹はそれを望まないと言う。この時素直に妹に僕がフライングしたことを白状して謝っていれば、この後あれほどひどい結末にはならなかったかもしれない。でも、自分に自信のない僕にはそれを選択することができなかった。
結局、僕は妹に自分のしてしまったことを告白しなかった。鈴木先生にメールしただけでは何も起こらないかもしれない。あの画像は本人が白を切ればそのまま通ってしまいそうなほど画質の悪いものだった。現に僕は女がこれだけでは追い込まれないときのための準備をしていたほどっだった。
今ならまだ引き返せるかもしれない。そして引き返せる可能性があるのなら僕のしでかしたことを妹に告白しなくてもいいだろう。
僕はようやく掴んだ自分の幸せを壊したくなかったのだった。
「今日はお兄ちゃん、体調が悪くて早退したみたい」
妹は僕の葛藤には気が付かずに言った。
「お兄ちゃんが心配だから、今日はまっすぐ家に帰るね。先輩と放課後一緒にいられなくてごめんね」
「いや。それは早く帰ってあげないと」
僕はようやく振り絞るように掠れた声で言った。
妹はにっこりと笑って僕の方を見てからかうように言った。
「先輩、あたしとお兄ちゃんの仲に嫉妬してる?」
「な、何で君のお兄さんに嫉妬するんだよ」
「冗談だよ」
妹は再び僕に抱きついて言った。
本日は以上です。プロットの整理ができ次第再開しますけど、とりあえず明日は休載の予定です
ここまで変則SSにお付き合いただいてありがとうございます
おやすみなさい
乙です
おやすみ〜 ノシ
乙です。
うーん、誰か煽ったやつがいるということだな。ひとまず続きを待ちます
よし、そろそろ兄友視点くるかな
うーむ
なるほどなー
どの道会長には相応のダメージがあるっぽいから良しとするにも、なんだかなぁ……
乙!
それぞれ裏目ってるなあ…
女さんの行方がまだ全くわからん
放課後、僕は生徒会室に顔を出すことすらせず部室に向った。今日はもう妹に会えない。彼女は早退した兄君を心配して真っ直ぐに帰宅しているはずだった。
妹ににあそこまではっきりと愛情を示されたのだから普通なら有頂天になっていてもいい状況だったけど、今の僕の心境は全く違っていた。妹の好意はわずかな期間の間に僕が最大限期待していたレベルを簡単に超えてしまったのだ。
妹の兄君への執着について僕は決して軽んじていなかった。だから妹の僕への愛情を信じた後になっても、兄君と女を別れさせることは妹との約束どおり引き続き僕が果たすべき役目だと思っていたのだ。ただ、これは僕自身にもリスクが生じることだったから、僕のことを気にするよう
になった妹が僕のことを心配してそれを実行するよう僕に催促しづらくなるかもしれないということは考えていた。
だから僕は妹には事前に何も知らせずに鈴木先生に女のセミヌードが掲載されているミント速報のログをメールで教えたのだった。
でも、今日の昼休みで事態は一変してしまった。どんなに破廉恥だと思えるような相手であっても、兄君が本当に好きな相手なら妹は許容することに決めたのだと言う。そして皮肉なことに妹が兄君と女のことを認めることに決めたきっかけは僕との交際なのだった。深読みすればこうも
言えるだろう。妹のように可愛い女の子と僕なんかが釣り合わないことは明らかだった。そして僕が自分をそういう風に卑下することを妹は嫌ったけれど、やはり客観的に言えば僕と妹が恋人同士であるということは、世間一般の理解は得づらいだろう。そのことはいくら否定しようが妹に
も無意識にしても理解できているはずだった。
つまり、ある意味兄君と女の交際というのは、妹にとって僕と妹の交際と同じような意味を持っていたのだろう。妹の頭の中では誰にでも裸を見せる女は兄君にはふさわしくないと考えていたはずだった。そしてそれと同様に妹とリア充でもない僕は世間的には釣り合っていない。それでも
妹は僕のことを好きになった。そして好きになってしまえば他人から二人が見て釣り合っているかどうかなんて彼女にとってはどうでもよかったのだ。
そしてそれは兄君が考えていることと同じ思考でもあった。自分に釣り合わない僕を本気で好きになった妹は、そういう理由で兄君の気持ちを把握し女との交際を許容したのだろう。もちろん、僕という存在によって兄君への執着が薄れたということもあったのかもしれないけど。
もう一日早く、妹が兄君と女のことを許容することを僕が知っていれば。あるいはもう一日僕が鈴木先生にメールを出した日が遅ければ。でももうそれを考えても仕方がない。
僕のしたことが妹にばれたらどうなってしまうのだろう。あるいは、妹は当初の自分の願いに忠実に行動した僕を理解し許してくれるかもしれない。それとも兄君の好きな女を社会的に追い込むかもしれないことを、妹に黙って勝手に始めた僕を怒るだろうか。それは考えても結論の出
ることではなかった。
僕は部室のパソコンを立ち上げ先日作成した捨てアドへのメールをチェックした。もうこうなったら鈴木先生が僕の送ったメールを悪質な悪戯だと判断して無視してくれることを祈るしかなかった。
しかしそんな僕の切ない期待を裏切るかのように新着のメールが到着していた。
from :××学園事務局
sub :ご連絡ありがとうございました
本文『当校の生徒の行動に関する情報についてご連絡いただきましてありがとうございました。頂いた情報につきましては慎重に調査させていただいた上で、必要があれば当該生徒に対して指導を行ってまいりますので、ご理解くださいますようお願いいたします』
それは鈴木先生の携帯からのメールではなく、学校のアドレスからの正式な回答メールだった。僕の期待に反して鈴木先生は自分の胸に秘めることをせず、僕のメールに対して組織として対応することを選んだようだった。
でも、そのメールの内容はきわめて事務的なものだった。企業や役所がクレームに対して機械的に送り返す回答のようだったのだ。
僕はそのことに少しだけ期待を抱いた。鈴木先生、いや学校側はあの画像が女のものだと断定するには証拠に乏しいと判断したのかもしれない。慎重に調査するだの必要があれば指導するだのという表現には学校側の混乱が全く伝わって来ない。つまりひょっとしたら証拠不十分で僕のメールを黙殺しようと考えているのではないだろうか。
鈴木先生にメールを出したときも、僕はそういう可能性を考えないではなかった。あの時の僕だったら、この学校のメールに対して更に破廉恥でより女だとわかりやすい画像が晒されているミント速報のログを再び学校側に送りつけていただろう。でも今では事情は一変していた。この
まま事が収まってしまえばいい。僕はそう思った。そうすればメールのことはなかったことになり、僕は何も心配せず妹と恋人同士でいられる。もう僕には過去に僕を裏切った女への処罰感情とか、ことごとく僕が関心を持った女の子を奪っていく(ように思える)兄君への恨みは残っていなかった。
僕はメールに返信しようと思った。前に考えていたような追撃メールではなく火消しメールだ。僕は、僕の苦情メールを学校が気にしすぎて女の行動をより詳細に調査しだすことを防ぎたかったのだ。
とりあえず僕は自分がしつこいクレーマーではなく、学校から返事をもらえただけで満足し矛を収めてしまうような人物であることをアピールし、学校側を安心させようと考えた。
sub :Re:ご連絡ありがとうございました
本文『速やかにご対応いただきありがとうございます。もちろんその画像が女さんのものではない可能性があることは承知しておりますので、慎重に調査していただいた方がよろしいかと思います。その上でその画像が女さんの物であると特定できなかった場合は、一人の女生徒の将来
がかかっているわけですから、無理にそれが女さんの画像だと断定することは公平ではないことも理解しております。』
『前のメールで、万一必要な指導をしていただけない場合にはこの事実をマスコミ等の諸方面に通報せざるを得なくなりますと記しましたが、誠意を持って対応していただいているようですので、今後どのような結果になったとしてもマスコミ等への通報はいたしません。このことについては
撤回させていただきます。この後の処理については学校側に一任いたしますので、慎重かつ公平な判断をお願いしたいと思います』
今の僕ができることはここまでだった。あとは結果を待つしかなかった。同時に自分のした行為を妹に告白出来るチャンスももう失われてしまっていた。ここまで策を弄してしまったら妹には最後まで黙っているしか、嘘をつきとおすしかなかった。仮に女が追い詰められる状況になってし
まったとしても、それが僕のせいであることを妹に告白することはできなかった。
夜自宅で眠りにつく直前に、僕は妹から混乱してるらしいわかりづらいメールを受け取った。
from :妹
sub :ごめんなさい
本文『遅い時間にごめんね。さっきお兄ちゃんに女さんがどんな人であってもお兄ちゃんが好きな人ならあたしももう反対しないよって伝えたの。そして、今日女さんが休んでいることをお兄ちゃんから聞きました』
『女さん、事情がよくわからないけど停学になったみたい。何かすごく嫌な予感がする。あたしたち以外の誰かが同じ事を考えていたのかもしれないね。お兄ちゃんは、明日は学校休んだ方がいいと思ったんだけど言うことを聞いてくれないし、何でお兄ちゃんを登校させたくないか自分でもちゃんと説明できないし』
『先輩ごめんね。明日はお兄ちゃんと一緒に登校するから先輩のこと迎えに行けない。お昼もどうなるかわからないけど、またメールするね』
『女さんに何が起きているのかわからないけど、あたし、今はお兄ちゃんの味方に、お兄ちゃんの力になってあげないと』
『本心を言うと先輩と会えなくて寂しい。でも妹としてお兄ちゃんのこと放っておけないから』
『じゃあおやすみなさい。そしてごめんね先輩。またメールするね。本当に愛してるよ』
女神 第三部おしまい
本日はここまで
また明日できれば投下します
おやすみなさい
おつおつ
男-幼がやはり
乙!
さて、これで本筋が進むか……
乙
犯人は……
女神 第四部
あたしはその日も同じ夢を見たのだった。それはあの日から今までに、寝苦しい夜に繰り返し再生された場面だった。これでこの場面を夢に見るのは何度目だろうか。
『正直、俺だって辛いんだぞ』
あたしはが好意を抱いた男の子の悩ましい声。
『「・・・・・・兄友』
あたしはその場で兄のことに胸を痛めている妹ちゃんがいることさえ忘れて悩ましい声を出したのだった。
『俺さ、おまえのこと好きだ』
あたしの心は一瞬だけ天国に届いたようなひたすら暖かい歓喜に充たされた。でもそれは一瞬のことだった。
兄友は残酷に言葉を続けた。
『けどさ、今、兄に必要なのはおまえなんだよ』
そしてあの時、兄友の言葉に混乱したあたしに追い討ちをかけたのは妹ちゃんだった。それまで黙りこくって兄友の話を聞いていた彼女は、その時顔をあげあたしを見つめて言ったのだった。
『お姉ちゃん・・・・・・あたしからもお願い。お兄ちゃんを救ってあげて』
何度夢に見たかわからない情景を再び再生し終わったあたしは、最近購入したアラーム音の大きな目覚まし時計の騒音に無理やり起こされてベッドに起き上がった。もう起きないと遅刻してしまう。
あたしは最近もはや機械的な手順となった朝の儀式、それはドレッサーの前での身支度や食欲もない朝食のテーブルでの食事や元気を装って行ってきますとお母さんにあいさつするとか、そういう儀式を済ませて家の外に出た。
隣の家に兄友を迎えに行くことはもうできなかった。彼はあたしの気持ちを知ってか知らずか、あたしに兄のことを救うことを託したのだった。実際、夢に見るあの日の場面以降兄友はあたしと二人きりになることを徹底的に避けていたようだった。そしてそれは妹ちゃんも同じだった。
妹ちゃんは兄が女と付き合い出してから数日間はあたしと一緒に登校していた。そのうち妹ちゃんは部活の朝練があるとかであたしと一緒に登校しなくなっていたのだけど、女さんの女神行為が曝露されてからは再び兄を気遣うように兄に寄り添うようになったのだった。
でも、兄友があたしに兄を誘惑するように言った日、そして妹ちゃんがあたしに兄を救ってと思い詰めたように頼んだ日以降は、妹も兄友と同じであたしと一緒に行動することはなくなっていた。
今では将来が見えていなかったのはあたしも兄と同じだった。あたしの兄友への気持ちはどうしたらいいのだろう。兄友はあたしのことを好きだと言ってくれた。そしてその直後にあたしに兄と付き合うようにと言ったのだった。あたしは今では自分の気持ちを悟っていた。あたしが好きなのは兄友だ。
それでもあたしは兄のことが気になっていた。あたしではなく女さんのことを心配している兄だけど、今までずっと一緒に過ごしてきた兄が悩んでいるのに、自分の兄友への想いを優先して兄を見捨てることはあたしにはできなかったのだ。
女さんのことで兄がピンチに追いやられていた当初は、妹ちゃんも兄友も同じ気持ちだったはずだった。女のことで兄を嫌っていた兄友や兄離れするために部活に夢中になっていた妹は、あの朝あたしと三人で兄に寄り添い学内の敵意と好奇心で兄を嘲笑していた校内の生徒たちか
ら兄を守ろうとしたのだった。でも、今では兄友も妹ちゃんもその役目はあたしが果たすべきだと考えているようだった。そして、わざとあたしと兄を二人きりにしようと画策してたようだったのだ。
あたしは隣家の兄友の家を素通りして駅のホームで電車を待った。兄友はホームには見当たらない。電車が到着して昔三人でよく待ち合わせした車両に乗り込むと、兄が一人で車内の吊り輪に掴まっている姿が目に入った。そして兄はぼうっとしているようであたしが車内に入り兄の隣に来たことも気がついていないようだった。
「おはよう」
あたしは兄に声をかけた。兄は考えごとを中断してあたしの方を見た。
「ああ・・・・・・幼馴染か」
それは生気のない声だった。隣には昔はいつでも兄の腕にぶらさがっていた妹ちゃんの姿もなかった。
「何よ、そのあいさつ。おはようくらい言え」
あたしは無理にほがらかに兄に文句を言った。そういうことくらいしか話しかける言葉が思いつかなかったから。
「悪い・・・・・・おはよ」
兄は素直にそう言ったけど、彼の目はあたしの方に向いていなかった。
「妹ちゃんは?」
その後に何を言っていいのかわからなかったので、あたしはとりあえずそう聞いた。部活の話は彼女から聞いていたのだけど、兄本人に妹ちゃんが何を言ったのかは気になるところでもあった。
「部活の朝練みたいだよ・・・・・・何だっけ? 確かパソ部だったかな」
どうでもいいという風に兄が答えた。パソ部なんかに朝の活動があるわけがない。いったい妹ちゃんはあれほどまでに大好きだった兄を放置していったい何をしているのだろう、でも兄は妹ちゃんの不在のことは気にならないらしかった。兄は今でも登校してこない、そして連絡も取れない女さんのことだけを考えているのだろう。
妹ちゃんがこんな時期にうパソ部に入部日したことは、実はあたしは知っていた。兄友と兄以外であたしが最近気にしていたのは、三年生の生徒会長のことだった。あたしはあの日、階段のところで生徒会長の告白を断ったのだった。あの時はあたしは兄を好きなのだと思い込んでいたのだから。そして、あたしは会長を振ったことが気になっていた。あたしが会長を振ったせいで生徒会長は最近生徒会活動にあまり熱心ではなかったとしたら。
でも、副会長が会長を責めた時、会長は新入部員の面倒を見なけりゃいけないからと言い訳していた。そしてその新入部員は妹ちゃんらしかった。
最近身の回りに起きている知り合いの行動には何も法則はないのだろうけど、女さんのこととか兄友の思惑とか妹ちゃんの入部とそのために会長が生徒会に出てこなこととか、その全てのことが結果としてあたしと兄とをふたりきりにする方向に作用しているようだった。
そしてそのことは、兄自身もあたしもお互いに惹かれあっていた以前ならともかく、お互いに違う相手を好きになってしまった今では決して望んでいることではなかったのだった。
「今日はお昼ご飯はどうするの」
あたしは兄に尋ねた。
「わかんねえ」
「今日も女さんがいなかったらあたしのお弁当一緒に食べる?」
あたしは義務的に聞いた。「それとも妹ちゃんは今日はあんたのお弁当作ってくれたの?」
「妹は昼休みも部活だってよ」
どうでもいいといいう感じで兄が答えた。相変わらずあたしと視線を合わせようとはしなかった。
「じゃあ、女さんが今日も登校しなかったら一緒に」
あたしの声は突然兄に遮られた。
「登校できるわけねえだろうが。実名までネット上に晒されてるんだぞ。あいつは」
兄はそこで一瞬言葉に詰まったようだった。
「兄・・・・・・」
「あいつはもう学校になんて来れるわけねえだろ・・・・・・ちくしょう」
兄は初めてあたしの方も向いてくれたけど、その目はあたしの身体を通りこして何か遠くを睨んでいるようだった。
「あいつは何も悪いことはしてねえのに」
正直に言うと兄に言いたいことはいっぱいあった。昨日兄友が兄に諭したように女さんの行動の持つ悪い影響のことも諭せるものなら兄に諭したかった。でも、そんな社会的な影響よりもこのことがあたしや兄友や妹ちゃんの関係に及ぼした影響のことの方があたしには気になっていた。
今のところ兄は自分と女のことしか頭にない。それは無理もないことではあったけど、女さんの考えなしの行為によってあたしの兄友への恋が阻害されたりという影響があったこともまた事実なのだった。でも、今の兄にそのことを責めるように言うことは気が引けた。
「・・・・・・絶対につきとめてやる」
兄は真剣な声で言った。
「女を追い詰めたやつ、絶対に校内のやつだ」
「え・・・・・・、あんた何をしようと」
あたしは驚いて兄の方を見た。兄はただ絶望していただけではないようだった。いいか悪いかは別にして、兄は行動を起こそうとしていたのだ。
「見つけてやる。女を傷つけたやつを。報いを与えてやるよ」
兄はここで初めてあたしの方を見て、そして微笑んだ。
今日はここまで
おやすみなさい
おつおつお
やはり幼馴染しか無いな幼-男
あるいは全員堕ちていくのも一興か
乙
>>85
前から気になってるんだけど、このSSに男という登場人物はいないからな
乙
兄は女に会えない鬱屈を復讐に転嫁か
乙です
兄友の切れ者っぷりが凄い
キーは全部兄友が握っていると見た
あたしはその日の昼休み、相変わらず周囲の生徒たちに無視されていて、でもそんなことはあまり気にならない様子で自分の携帯を覗き込んでいた兄を無理に引き摺るようにして中庭に連れ出した。兄友は、あたしが引き止める猶予すら与えてくれずに昼休みになった途端に教室を出て行ってしまっていた。
中庭のベンチに座ったあたしは、とりあえず誰のためということもなく一人分以上を作ってきたお弁当をそこに広げた。
「・・・・・・食べなきゃ駄目だよ」
あたしは食欲の無さそうな表情でぽつんと座っている兄に話しかけた。
「ああ。ありがと」
兄はそう答えた。「悪いな、弁当まで作ってもらってさ」
女のことしか考えられなかったであろう兄は、あたしのことを気にしているかのような言葉をかけてくれた。もうあたしたちが戻れない日々、兄と妹ちゃんとあたしの三人がいつも一緒に行動していた頃のまだ兄が女さんと知り合う前の兄ならば、そんな遠慮をあたしに対してすることはなかっただろう。かつて他の誰もが邪魔できないほど親密だったあたしと兄と妹ちゃんは、もはやみんな戻れないところまで来てしまったのだった。
兄は女さんのことしか考えられないほど彼女に夢中になっていた。その恋はひょっとしたら破綻したのかもしれないけど、兄はその事実に対して無謀な反撃に出ようとしていた。
『女を追い詰めたやつ、絶対に校内のやつだ』
『見つけてやる。女を傷つけたやつを。報いを与えてやるよ』
あたしはここで変質してしまったあたしたちのことをもう一度振り返ってみた。
兄に対してあそこまであからさまに依存して妹ちゃんは、大切な兄のことをあたしに託したのだった。妹ちゃんが不本意ながら踏み切ったのかそれとも兄への依存から卒業しようとしたのかはあたしにはわからなかったけど、妹ちゃんはあたしの目を真っ直ぐに見つめて言ったのだった。
『お姉ちゃん・・・・・・あたしからもお願い。お兄ちゃんを救ってあげて』
彼女が先輩が部長を務めるパソコン部でいったい何をしたいのか、あたしには全くわからなかった。先輩は学園祭間近の生徒会を放り出してまで妹ちゃんの面倒をみているようだった。それについてはあたしと一緒に学園祭の準備をしてくれている生徒会の副会長先輩が、ある時あたしに吐き捨てるように言った言葉が気にはなっていた。
『あいつはもう駄目だ』
副会長はあたしに言った、
『見損なったよ。あんたに振られてめそめそしているくらいならちっとは慰めてやろうかと思ったのにさ』
『何かあったんですか』
あたしは副会長に聞いた。この人が会長に厳しく当たることには慣れていたけど、その時の副会長は信じられないほど憤っているように見えたから。
『最低だ、あいつ。あんたに振られてさ、自分のプライドを保つために下級生に手を出してたよ』
え? あたしは確かに先輩を振った。振った当時は兄のことが好きだったから。今、自分の中に兄への想いはないのだけれど、その代わりにあたしの中にいるのは兄友だった。つまりどういうタイミングで生徒会長に告白されたりしてもあたしはそれに応えることはできなかった。でも、会長はあたしのことを避けているようだったから、あたしは以前より会長に気安く話しかけ、先輩とはお付き合いできないけど先輩と気まずい仲にはなりたくないということをアピールするようにしていた。それはあたしのせいで先輩を傷つけたくないという想いからの行動だったのだ。
副会長先輩の話では、先輩は意外と簡単にあたしへの想いを忘れ新しい恋のお相手を見つけたことになる。そのこと自体にはあたしには別に異論はなかった。先輩の想いに応えられない以上、どういう形にせよ先輩が立ち直ってくれるのは喜ばしいことだったから。
でも、その相手は妹ちゃんだというのだ。
いったいどういうことなのだろう。突然パソコン部に入部した妹ちゃん。そしてその妹ちゃんを指導するために生徒会を放り出して彼女に付きっ切りになっている先輩。
副会長先輩によるとその二人が人目をはばからないほどの恋仲になっているのだという。
今まで兄以外の異性とのお付き合いに全く興味を示さなかった妹ちゃんとあたしに好きだと告白した先輩。
妹ちゃんと会長。その組み合わせにはしっくりと行かなかったけど、仮に本心から妹ちゃんと先輩が互いを求めているのであればあたしにはそのこと自体に反対する気持ちはなかった。ただ、そのことをあたしに吐き捨てるように話した副会長先輩のことは少し気になってはいた。
副会長先輩はいい役員だった。会長に遠慮はなかったけど副会長としてフォローするところははずさずに、たとえそれが生徒会活動と関係のないプライベートな事であろうとそれが生徒会長を悩まし、ひいては生徒会の正常な運営に影響するようなことであれば、役員の中で副会長先輩だけは会長に強く注意していたのだった。
そういう副会長先輩は生徒会役員の見本のようで、あたしはそういう彼女みたいな役員になりたいとまで思ったのだけど、あの時会長と妹ちゃんの関係を批判した副会長の話にはなぜか心服することができなかったのだ。その時の副会長先輩は、まるで会長と妹ちゃんへの嫉妬心の発露のような言葉を吐き出していたのだった。まさか、副会長は会長のことが好きだったのだろうか。
まるでぐちゃぐちゃだった。これでは本当に誰が誰を好きなのか全くわからない。でも本能的に理解していたこともあったことはあった。
一つは兄の気持ちだった。兄が女さんを好きなことは疑いようようがなかった
もう一つは自分の気持ち。
あたしが好きな人は兄友。その気持ちだけはもう間違いようがなかったのだった。
女さんが本当に好きなのは兄なのだろうか。妹ちゃんが本当に好きなのは兄ではなく会長なのだろうか。そして副会長先輩はあれだけからかっていた会長のことが本当は好きだったのだろうか。あたしには理解できないことが多すぎた。そして、その中でも一番あたしを悩ませたのは兄友の真意だった。
兄友が本当に好きなのは、彼自身が言っていたように妹ちゃんなのか。それとも兄友の不自然な視線が曝露しているように、彼は本当は女さんのことが好きなのだろうか。そして兄友とあたしは偽装カップルに過ぎず、兄友は本心ではあたしのことなんか何とも思っていないのだろうか。でも、そう思うにはあの時の兄友の言葉はストレートだった。その場には妹ちゃんもいたというのに。
『正直、俺だって辛いんだぞ』
『「俺さ、おまえのこと好きだ』
『けどさ、今、兄に必要なのはおまえなんだよ』
あたしはそこで無理に兄友のことを考えるのをやめた。兄は相変わらず食欲がない様子でぼうっと何かを考えているようだった。そしてその間も兄の視線はまるでここにいるはずのない女さんを求めるように周囲を探っていた。
「もっと食べなきゃだめだよ」
あたしはあたしのお弁当に少ししか手を伸ばさない兄に言った。
「あんた朝も食べてないんでしょ? 体壊しちゃうよ」
「悪い」
兄はあたしに謝った。
今日はここまで
また投下します
おつおつ
妹に対して兄がどう動くのかだな
そしてやっぱりあれね
ううむ……
乙!
兄友がラスボスっぽい
予想はともかく、続きが楽しみす
兄はあたしに悪いとは言ったけど、やはりそれ以上は何も食べようとはしなかった。そしてもうあたしもそれ以上兄に何も言う気はなくなっていた。というかあたし自身にさえ食欲のかけらも残っていなかった。結局あたしたちは残りの昼闇の時間を黙ったまま過ごしたのだった。
午後の授業が始ってもあたしは授業に集中できなかった。何か得体の知れない寂しさがあたしを包み込んでいるようだった。兄が好きだという自分の心に気がついた時、そして兄友に惹かれ出した自分を自覚したあの時、あたしはぬるま湯に浸かっているように快適だけど先行きの見
えない四人の関係を壊してみたかった。そして今、あたしの恋は成就しなかったけどあたしたちの関係が壊れることだけは現実になったのだった。それも完全な形で。
今ではこの場所に残っているのはあたしと兄の二人きりだった。兄は女さんを失い、あたしも多分兄友を失った。そしてあんなにも兄とあたしの側ににべったりとくっついていた妹ちゃんも今ではあたしたちと別行動を取っていた。高校に入学した時に戻ったように兄とあたしは二人きりだった。そしてあの時は二人きりでいること自体にわくわくしていたあたしだったけど、今ではただ得体の知れない寂さだけしか感じることができなかった。
これからどうしようか。
あの時あたしは兄友と妹ちゃんの頼みを引き受けた。引き受けざるを得ない状況だったから。女さんは兄を巻き込まないために兄ともう二度と会わない決心をしているのではないかと兄友は言った。それが事実だとしたら、あたしには兄を突き放して兄友への自分の想いを優先させることはできなかった。今まで家族のように親しくしてきた兄を先の見えない苦しみの中に放置して、自分の幸せだけを訴求するなんて論外だとあの時のあたしは思ったのだった。
でも、実際に兄を支えようとしていても、あたしが一緒にいることで兄が少しでも救われているのだろうかという疑問が今のあたしには強く浮かんでいた。兄はあたしのことなんか全く気にしていないようだった。
いや、気にはしていたのかもしれない。ただそれは、精一杯兄のことを考えて兄に話しかけていいるあたしのことを気にしてくれているに過ぎなかった。つまりあたしがしていることは全く兄の役に立っていないどころか、かえって兄の負担になっているのだ。
これからもあたしはこんな誰にとっても救いのない行動を選び続けるしかないのだろうか。あたしは自分の引き受けた役割を後悔し出していたけど、でもそれは自業自得であって決して兄のせいにできることではないことはわかっていた。
少なくとも授業中だけは兄友を見ていることはできた。徹底的にあたしと兄のことを避けているような兄友も授業中は神妙に自分の席に座っていて、落ち着かない様子でノートに目を落としているようだった。
彼は何を考えているのだろう。兄の心の救済なのだろうか。それとも兄友が公言していたように妹ちゃんへの報われない愛なのか。兄友は妹ちゃんが先輩に接近していることを知っているのだろうか。副会長の話してくれたことが本当なら、妹ちゃんと先輩という不思議な関係のカップルが成立しているらしい。それは妹ちゃんを好きだという兄友が許容できるようなことではなかったろう。少なくとも自分に自信がある兄友は、恋の駆け引きで自分が先輩なんかに負けるなんて思ってもいなかったはずだった。
それに、兄友に関してはもう一つの可能性もあった。兄友が彼にしては珍しく粘着質な視線で見つめていた女の子。あたしの知る限りその対象は妹ちゃんではなかった。そしてもちろんそれはあたしでもなかった。あたしは最近よく兄友の視線が向けられていた対象を思い出した。
それは兄君と仲むつまじく振る舞っていた女さんの姿だった。
ようやく午後の授業が終了した。あたしは妹ちゃんと兄友に約束した以上、生徒会活動を放り出してでも兄に寄り添うつもりだったけどそのあたしの申し出を兄は断った。
「学園祭も近いんだしおまえ忙しいだろ」
兄のその言葉は、多分あたしなんかと一緒にいるより一人で女さんのことを考えたいという気持ちから出たものだと思う。でも、兄が形だけでもあたしのことを気にかけてくれたことは、何かあたしにまだ将来のこととか何も考えずにお互いのことだけを考え合っていて、それでも充足していた昔のあたしたちの関係のことを思い浮ばせてくれた。
「ごめんね」
あたしは言った。「学園祭の準備が今佳境になってるから」
「ああ。俺は大丈夫だから」
「・・・・・・本当に平気?」
あたしは思わず本音で兄に聞いた。兄はあたしがかつて好きだった優しい笑顔をすごく久しぶりに見せてくれた。
「おまえに気を遣わせちゃって悪い。何なら朝も一緒に来てくれなくても俺は平気だから」
そういった兄の寂しい表情があたしの胸の中のどこかを柔らかく刺激した。
「そんなこと言うな」
あたしは思わず兄を叱るように言った。「明日も駅にいなよ? あたしを待ち呆けさせたら許さないから」
兄は寂しそうに、でもあたしに気を遣っているかのように笑ってくれたのだった。
兄と別れて生徒会室に向ったあたしは、いつぞや会長に告白された階段の前で足を止めた。人の気配と低い話し声にあたしは気がついた。
あたしは思わず姿を隠すように身を潜めてその会話に聞き入った。
『うん、わかった。とりあえずうまくいったんだね』
『と思うけど。とにかく今朝は女は登校してない。それに、それとなく兄を観察したんだけど、朝のホームルーム前にすごく慌てた様子でどこかに飛び出してったし。学校が動き出していることは間違いないと思うな』
『・・・・・・』
『どうしたの?』
『こんなことしてよかったのかなあ』
『何を今更。自分だって例の下着姿の画像を見た時は、女のこと殺してやりたいとまで言ってたくせに』
『それはまあ、そうは言ったけど』
『当然の報いでしょ。単なるぼっちかと思ったらビッチでもあったとはね』
『・・・・・・それ、洒落のつもり?』
『・・・・・・うるさいなあ。とにかくこれで少し様子見だね』
『ねえ』
『何?』
『こうなったことはあの人の自業自得だとしてもだよ』
『うん』
『これって、あの二人を別れさせることにはならないんじゃない?』
『うん、多分そうだろうね』
『じゃあ・・・・・・いったい何のために学校にこんなことちくったの?』
『これで終わりじゃないし』
『え?』
『学校だって本人に厳重注意して停学くらいはするだろうけど、犯罪を犯したわけじゃないから、今回はそれ以上はね』
『・・・・・・』
『だからさ、校内の生徒全員に女が何をしていたかを知らせなきゃ意味ないと思う』
『まさか・・・・・・』
『うん。やり方はこれからよく考えるけど。そこまでやれば彼女だって、というか彼女の両親だってこのまま何もなかったことにはできないでしょ』
『・・・・・・』
『少なくとも転校、場合によっては引越しするくらいには追い詰められるんじゃない?』
『・・・・・・もう止めようよ。何か怖い』
『あの二人を別れさせたいんでしょ?』
『・・・・・・それは』
『それが兄のためなんでしょ? もう始めてしまったことだし、今更引き返かせないでしょ』
『・・・・・・』
その二人の声には聞き覚えがあった。
そしてこの二人が何のことを話しているかということも、聞き耳をたてているうちに、おぼろげながらあたしには理解できていた。この二人は女さんを陥れることを語り合っていたのだった。
さっき教室で別れた兄は女さんを落とし入れた犯人を突き止めるという意思を口にしていた、あたしは無理もないと思った。兄にとっては生まれて初めて真剣に考えた相手との交際を無残に断たれたのだから。
そして今、それを仕掛けたらしい相手が目の前で無防備にそのことを話し合っていたのだ。あたしは期せずして偶然にも兄が追求しようとしてい犯人を突き止めたのだった。
あたしは身動きできなかった。聞き覚えのある声が会話を続けている。あたしはその会話を必死で記憶しようとした。いずれ兄に説明する時のために。でも今は兄には言えない。勘違いしているのでなければ、この二人は兄と女さんに対して情け容赦のない非情な攻撃を仕掛けているのだった。
そしてあたしにはその二人の声には聞き覚えがあった。
それは兄友と副会長先輩の声だった。
あたしはこの二人は知り合いですらないと思っていた。学年も部活すら異なる二人。でも、兄友と副会長先輩は、あたしに聞かれていることに気づかず兄と女さんを決定的に別れさせるための相談をしていたのだった。
今日はおしまいです
また投下します
乙
兄友ェ
おつちゃん
なんかもう一切帰ってこなさそうね
やっぱり副会長だよなぁ
兄友と副会長か・・・・
これはアツい新展開だ
うわぁ……
乙!
うわぁ久しぶりに戦慄したわ…
怖いなこの展開。ぞくぞくする
会長と妹の会話だと思っていたけど、違ったんだな。
副会長は兄友のセフレ
兄と女が別れた時の副会長のメリットは・・・
妹と生徒会長の共謀が終わって二人の接触が減る
やがて話し合いは終ったみたいで、会談の踊り場から二人が降りてくる足音が聞こえた。あたしはとっさに階段から離れて生徒会室の反対の方へ、校舎の外に向った。いまの話を立ち聞きした直後に副会長先輩と一緒に作業できる自信はあたしにはなかった。
あたしは今起きた出来事を全く整理できずに混乱していたのだけれど、とりあえず乱れまくっている思考を停止して安全な場所に避難しようとしたのだった。無事に校舎から脱出したあたしは足を早めて校門から出て駅に向った。生徒会室に顔を出さなければ今日は副会長先輩とは会
わなくてすむだろうけど、兄友は帰宅部だった。校内でうろうろしていると兄友と出くわしかねない。さっきまでは兄友と会って彼と二人きりで話をしたいと思っていたあたしは、今では逆に彼と顔を合わせたくなかったのだった。
やがて駅に着いたあたしはちょうどホームに入ってきた下りの電車に飛び込んだ。ここまで走ってさえいないけれど相当早足で歩いていたので息があがっている上に汗までかいていた。
電車がドアを閉じホームを離れるとようやくあたしは少しだけ落ち着くことができたのだった。これで兄友とも副会長先輩とも今日は会わずにすむ。あんな話を聞いたあとでこの二人と会って何気ない素振りをするなんてあたしには無理だった。あたしには今はよく考えを整理する時間が他の何よりも必要だったのだ。
帰宅ラッシュの時間にはまだ早かったので車内には空席が目立っていた。あたしは目立たない隅の席に座って震える身体を抱きしめるようにした。さっき聞いた兄友と副会長との会話が再び頭の中で再生されていった。
あたしは何とか冷静さを取り戻そうとした。考えなければいけない。情報を整理しなければいけない。このまま混乱して泣いていても何も救われないのだ。あたしは自分の目を両手でこすった。湿った感触が手に伝わった。あたしは自分でも気がつかずいつの間にか涙を浮かべていたみたいだった。思考は混乱しまだ身体は震えていたけど、しばらくしてあたしは何とか情報を整理しだすことに成功した。
一番の被害者は兄と女さんなのだけど、やはりあたしが真っ先に考え出したのは兄友の真意だった。兄は確かにあたしが守ってあげたいと思う男性だったけど、あたしが本当に好きだったのは兄友だった。だからこれでは幼馴染落第だったけど、少しだけ落ち着いてあたしが最初に考えたのは兄友のことだった。
兄友は兄の親友だった。だからそれが誤解ではないなら兄友が兄を陥れるようなことをするはずがなかった。確かに兄友は兄に対して憤っていた。あたしの好意を知りつつ女さんとの仲を深めて行く兄に対して、兄友はあたしの気持ちを考えて兄に対して厳しい言動を示してくれていたのだった。
その兄友が女さんのことを陥れることはあるいはあり得るのかもしれない。さっきの会話でしゃべっていたように兄と女さんを別れさせることが目的であるとしたら、そしてそのことによって女さんが社会的に抹殺されても構わないと割り切ったのだとしたら。それなら兄友の行動には一応の筋は通る。もちろんそれでも目的に対して行動が過激すぎるという疑問は残る。兄と女さんを別れさせるためだけに、兄友に女さんを社会的に抹殺するほどの行動を取れるのだろうか。それだけではない。彼が本心から好きな相手がわからないということもあった。仮に兄友が好きな相手が妹ちゃんだとしたら兄と女さんを別れさせるほどの行動に至る動機に乏しい。兄に彼女ができれば妹ちゃんはその愛情と忠誠心を向ける相手を別に探さなければならなくなる。それは女に対して自信のある兄友には何の不都合もないことだった。
または兄友は、自分で告白してくれたようにあたしのことを好きだったのだろうか。あたしを気にする余り、あたしの兄への気持ちを成就させようとして女さんを陥れたのだとしたら。兄は女さんと連絡がつかなくなった。そして悩んでいる兄を誘惑して救うよう兄友はあたしに言い、同時に兄の苦悩に悩んだ妹ちゃんもあたしに兄を救うように頼んだ。
その考え方は成り立つのかもしれない。ただ、それにしてもたかが高校生同士のカップルを引き裂くためにこんなことまでするのかという疑問は相変わらず残った。
そしてあたしは最後の可能性を考え出した。兄友が本当は女さんのことを好きだとしたらどうだろう。あたしは兄友が校内で兄と親し気に寄り添っている女さんを見つめていた視線のを思い出した。兄友が女さんのことを好きなのだとしたら、彼があの二人を別れさせたい動機はあたしのことを慮って二人を別れさせたいと考えていた場合よりも説得力のあるものになる。ただ、それだと兄友は結果として自分の好きな女さんの人生を自ら破壊したことになる。兄友が二人を別れさせたいのだとしたらその動機は自分が女さんを手に入れたいからだろう。でも、こんなやり方ではそれすら危うくなる。現に女さんは今では黙って姿を消してしまっているのだ。兄友が自分の恋を成就させたいのならこんな馬鹿げたことをするだろうか。
そして副会長先輩の動機と目的の方は更に謎だった。もしかしたら副会長先輩は会長のことが好きなのかもしれないけれど、今回の行動はその想いを達成することには全く関連がないとしか思えなかった。会長と兄の接点はないし、女さんと会長だって知り合いですらないはずだった。こんなことは考えたくはないけど、副会長先輩が自分の想いを遂げるためには他人が破滅することを厭わないような自己中心的な性格だったとしても、兄と女さんの破滅は副会長先輩の会長への恋の成就には何らプラスにならないのだった。むしろ副会長先輩が気にすべきは先輩と妹ちゃんの関係ではないか。
何を考えても結論には達しなかった。あたしはホームを出て自宅の方に歩き始めた。このことを兄に話すべきなのだろうか。兄は女さんを陥れた犯人を捜すつもりでいる。今ではあたしにも兄の気持ちが理解できた。兄と女さんをめぐる人間関係は複雑で、そして兄と女さんが付き合い出したことは多くの人間を傷つけた。その中の一人にはあたしもいたのだ。でも考えてみれば兄と女さんの恋は誰にも関係のない二人だけの話だったのだ。兄も女さんは誰に対しても直接悪いことをしていない。女さんは女神行為とかいう破廉恥なことをしていたかもしれないけど、それを兄が許容していた以上周囲がそれに対して憤るのは筋違いだった。兄と女さんの交際は妹ちゃんやあたし、それに兄友にも影響を及ぼしたのだけど、そのことに対しては兄にも女さんにも責任を取らされるいわれはないのだ。あたしはこの時になって初めて兄と女さんに同情したのだった。
あたしはとりあえず今日は兄に連絡するのを止めた。兄と女さんが純粋な被害者であることをようやくあたしは理解したのだけれど、それでも今は兄に対して今日の出来事を話すのは早いだろう。あたしには兄友と副会長先輩の目的が理解できていないのだから。そしてここまで考えたあたしは、この先どういう結論が出るにせよ自分がもうお兄友と付き合うことはないだろうと確信した。これまでは何かの奇跡を期待しないではなかったけれど、どういう動機からにせよ兄をここまで追い込んだ兄友と恋人同士になるなんて考えられなかった。でもそう考えた時再びあたしの胸は激しく痛んだ。
帰宅して入浴を済ませたあたしは、忘れてしまう前に今日の兄友と副会長先輩の会話を思い出せる範囲で記録しようと思い立ち、パソコンでワードを起動した。細部は不明確でもいい。大まかにでも思い出せる範囲で記録しておこう。あたしは記憶を辿って思い起こせる範囲で二人の会話を文章にしていった。それは思っていたより大変な作業だった。そしてようやくあたしが会話の最後の方を入力していた時、あたしは大きな矛盾に気がついたのだった。
『こうなったことはあの人の自業自得だとしてもだよ』
『うん』
『これって、あの二人を別れさせることにはならないんじゃない?』
『うん、多分そうだろうね』
『じゃあ・・・・・・いったい何のために学校にこんなことちくったの?』
『これで終わりじゃないし』
『え?』
『学校だって本人に厳重注意して停学くらいはするだろうけど、犯罪を犯したわけじゃないから、今回はそれ以上はね』
『・・・・・・』
『だからさ、校内の生徒全員に女が何をしていたかを知らせなきゃ意味ないと思う』
『まさか・・・・・・』
『うん。やり方はこれからよく考えるけど。そこまでやれば彼女だって、というか彼女の両親だってこのまま何もなかったことにはできないでしょ』
『・・・・・・』
『少なくとも転校、場合によっては引越しするくらいには追い詰められるんじゃない?』
『・・・・・・もう止めようよ。何か怖い』
あたしがこの会話を聞いたのは今日の放課後だった。そしてこの会話から最初にあたしが思ったのはこの二人が共謀して女さんの女神行為を曝露したのだということだった。でもこの会話は時系列がおかしい。
女さんはこの時点で既にネット上で実名バレしていたし、学校の裏サイトにもその情報は書き込まれていた。それなのにこの会話は鈴木先生に女さんの女神行為を記録していたまとめサイトをチクった段階の会話ではないか。
校内の生徒全員に女さんの女神行為を知らせると兄友は言っていた。そしてそのやり方はこれから考えるのだと。その時の彼の非情な冷たい声にあたしは心を奪われて深くは考えなかったのだけど、この会話の時点では既に女さんの女神行為は全校生徒に曝露されているばかりか全国のネットユーザーにまで彼女の実名や住所、それに裸身を写した画像までもが晒されていたのだった。
あたしは呆然とした。この二人が兄と女さんを晒した犯人なら、今日の放課後にこれから犯行に及ぶようなことを話し合うはずがなかったのだ。
・・・・・・いくら考えても今日はもう何も思いつかなかった。とりあえずこんな不確定な段階では兄にこのことを話すわけにいかなかった。
あたしがやろう。あたしはその時決心した。
自分のためか兄のためかは自分でもわからないけど、あたしが真実を突き止めよう。そしてもうこうなると兄への心配だけがあたしの動機ではなった。真実を知らない限りあたしももう安眠できないところまで来てしまっていたのだった。
今日は以上です
また投下します
おつおつ
兄・女が全く悪くないっていうこともないように思えるけどねえ
やはり幼馴染よ
時系列おかしいと思ってたら伏線だったか
期待
不特定多数が見る場所に公序良俗に反する投稿をするのはどうかと思うけど密告をして陥れようと策略するのは人格が歪んでるな。
逸した行為をしようと思うくらいに全員がとても思いつめていたってことなんでしょう
登場人物がみんな少しずつ狂ってる
どうやらそれがこのSSのコンセプトらしいことに、ここまで来て気が付いた
今のところまともなのは兄だけだけど、この先どうなることやら
持ち帰り仕事未着手につき本日は休載
すいません
明日も何とも言えませんができれば再開したい・・・・・・
おつんこ
ゆっくりやー
一晩がたってあたしはだいぶ心の整理がついてきた。真実は相変わらず闇の中だったけど、自分がすべきことやすべきでないと思われることの仕分けについてあたしはだいぶ確信が持てるようになってきていた。 とりあえず真実はまだ何も明らかになっていないのだから、あたしが偶然に知ってしまった兄友と副会長先輩の会話のことを兄に話すのまだ時期が早いとあたしは思った。
そして最初はあたしは自分の疑問を直接兄友を捕まえて糾そうと思ったのだった。兄友とあたしは今まで「戦友」だった。結果として全然うまくはいかなかったけどあたしたちには共通の目標に向って協働していた時期があったのだ。そう考えればまわりくどいことはせず直接兄友にこの会話ののことをぶつけてることもできるのではないか。あの直後は兄友に会いたくなくて学校から逃げ出したあたしだったけど、一番直接的な手段は勇気を出して兄友に真実を聞くことだった。
でもそう考えた瞬間、あたしは手足が震えるような感覚に襲われた。それはまるでPTSDを発症している患者を襲うフラッシュバックのような感覚だった。多分それは自分の好きな兄友の思いがけない行動を知ったことに対するショックだったのかもしれない。時系列の謎を考えると必ずしも女さんと兄を追い詰めた犯人は兄友ではないのかもしれなかったけど、あの会話の兄友の冷静で一種冷酷でさえあった言葉は、それを思い出すたびにあたしの心の中で暴れまわるようにあたしの心のあちこちを傷付け苛むのだった。
『学校だって本人に厳重注意して停学くらいはするだろうけど、犯罪を犯したわけじゃないから、今回はそれ以上はね』
『だからさ、校内の生徒全員に女が何をしていたかを知らせなきゃ意味ないと思う』
『うん。やり方はこれからよく考えるけど。そこまでやれば彼女だって、というか彼女の両親だってこのまま何もなかったことにはできないでしょ』
『少なくとも転校、場合によっては引越しするくらいには追い詰められるんじゃない?』
こんな心の状態で兄友を冷静に問い詰めるなんてあたしにはできないだろう。真実を知るどころか今やあたしは自分の兄友への気持がどうなっているのかさえ整理できていないのだから。
次に考えられる手段は副会長先輩に直接この会話の意味を聞くことだった。もともと生徒会長が半ば学園祭の準備を放り出してパソ部に入り浸っていたこともあって、あたしは逐一副会長先輩の指示を仰ぎながら学園祭の準備を進めているところだった。なのであの会話を聞いたからと言って副会長先輩のことを避けてばかりいるわけにはいかなかった。昨日は生徒会をさぼってしまったけれど、自分に課せられた責任を考えればさすがに今日の放課後は生徒会室に顔を出さないわけにはいかなかった。
その時に何も知らない振りをして学園祭の準備をするのか、それとも副会長先輩にあの会話の真意を聞き出すのか。
あたしは副会長先輩とは気が合ったしうまくやっていたつもりだったので、昨日は反射的に副会長先輩と顔を合わせるのを避けてしまったけれど、一晩が経って落ち着いて考えると女同士の話として副会長先輩がどんな想いでこんなことをしようと思ったのか語り合える自信はあった。いろいろあるけど、あたしは副会長先輩のことはこれまでお手本にするくらい心酔していたのだった。
どっちみち副会長先輩とはこの先も一緒に作業をしなければならない。昨日の会話を聞いてしまったあたしには副会長先輩に気取られずにこれまでどおり普通の態度を取る自信はなかった。
副会長先輩に率直に話しかけてみよう。あたしは結局そう決心したのだった。
昨日までは隣の家のドアから出てくる兄友と偶然会えないかと期待していたあたしは、今日はそれとは全く反対でなるべく早く兄友の家を通り過ぎた。心配するまでなく以前は兄友と待ち合わせしていた時間には相変わらず兄友は姿を見せなかった。昨日までは兄友に会えなくてあんなにもがっかりしてたあたしは今日は逆にほっとしていた。そして駅のホームに入ってきた電車の中には昨日と同様に兄が一人でつり革に掴まっていた。
「おはよ」
あたしは無理に明るい声を出すように努めた。あたしが悩みや疑問を抱えていることを、あたしの態度から兄に感づかれてはまずい。でも兄の方もあたしの態度なんかを気にする状態ではないようだった。
「幼馴染おはよう」
それでも昨日のあたしの注意を気にしたのか一応兄は普通にあいさつをしてくれたけど、相変わらずその目には以前のような生気は感じられなかった。
「・・・・・・女さんからメールとかあった?」
あたしは遠慮がちに聞いてみた。
「ねえよ」
兄はもう激昂することもなく淡々と返事をしてくれた。
「そうか」
あたしももうそれ以上何を言っていいのかわからなかった。「じゃあ、よかったらお昼休み一緒に過ごそう」
「うん。気を遣ってもらって悪いな」
兄はそう言ってくれたけど、その目は相変わらず虚ろなままだった。
今度こそあたしは兄に対して何といって声をかけていいのかわからなくなってしまい黙り込んでしまったのだった。
お互いに沈黙したままで電車は駅を離れたのだけど、そのことを気にしているような様子は兄にはなかった。むしろあたしが黙ってしまったのをいいことに再び兄は自分の思考に閉じこもってしまったようだった。
いったい兄は何を考えているのだろう。もちろん大切な自分の彼女である女さんを陥れた人物に対する復讐だけを思い詰めているのだろうけど、兄にはその相手を特定できるヒントすら知らないはずだった。兄にはまだ黙っていようと決めたあたしだったけど、今のようにひたすら復讐心だけを持て余していて、でも全くその想いを前進させることができないで苦しんでいる兄の気持ちを考えるとあたしの決心も少し鈍ってきた。やはり、どんなに不確かな情報であっても兄にはあたしが偶然知ったこの事実を伝えるべきなのだろうか。
一瞬心が弱った。でもあたしは辛うじて思いとどまった。とりあえず副会長先輩に事実関係を問いただそう。せめてそのくらいのことは試みてから兄に対して話をしよう。
結局兄はあたしの初恋の相手だし大切な幼馴染だった。お互いに違う相手を好きになり、初めて二人きりで登校し出したあの頃からはだいぶ遠いところまできてしまったあたしたちだけど、兄のことを大事に想う気持ちだけは変わっていなかった。そして妹ちゃんまでが兄をあたしに託してこの戦線から離脱してしまっている以上、兄を救えるのはあたしだけだった。
そういう訳で、兄友に対する自分の今の感情は曖昧になっていたし、兄友の本心すらわからなかったのだけど、あたしは兄の味方になることに腹を決めたのだった。たとえどんなにひどい事実が明らかになってあたしの兄友への恋が裏切られることになったとしても。
あたしと兄が校門に入って二年生の教室に向っていた時だった。中庭に面した部室等から親密に寄り添っている男女が出てきた。それは妹ちゃんと先輩だった。あたしと同時に兄もその姿に気がついたようだった。
「あれ、妹だ」
兄は少しだけ驚いたように言った。「一緒にいるの誰だろうな」
「三年生の生徒会長だよ」
あたしは兄の表情を気にしながら言った。
「何か手繋いでるじゃん。会長って妹の彼氏なのかな」
兄は驚いてはいるようだけど傷付いていたり反感を持っている様子はなかった。あたしはとっさにあたしの知っている情報を兄に伝えた。それは多分真実だったし。
「先輩ってパソ部の部長もしているんだけど・・・・・・妹ちゃんがパソ部に入部してから、あの二人って仲良くなったみたい」
「妹って三年生と付き合ってるのか」
兄が言った。「だから最近朝早くでかけたり夜遅かったりしたのかな」
「そうかもしれないね」
あたしは答えた。
「あいつがねえ。あいつ、俺に依存しまくりだったのにな」
兄はその瞬間だけ女さんのことを忘れたように、優しい微笑みを浮かべていた。彼は自分の妹に初めて彼氏ができたことを祝福していたのだ。自らはこんな辛い状況にあったのに。
その時どういうわけかあたしは涙を浮かべた。あたしたちはこれまで妹ちゃんの両親の代わりだったのだ。そのあたしちたちの自慢の娘が堂々と彼氏に寄り添って歩いている。
そうだ。このことだけは祝福してあげなければいけないのだ。あたしは今まで自分が考えていた会長のあたしへの告白とか副会長先輩の嫉妬とかに囚われすぎていたのかもしれない。兄と女さんとのことには関係なく、今本当に純粋に幸せなカップルが誕生していたのかもしれないのだ。
「こう見るとお似合いだね」
あたしは寄り添ったまま周囲を気にせず一年生の校舎の方にゆっくりと歩いていく二人を眺めて言った。
「あいつに彼氏ねえ」
兄が再び微笑んだ。「そんな歳になったんだな、妹も」
「今度、妹ちゃんを問い詰めよう。あたしたちに黙って付き合うなんて水臭いじゃん」
「そうだな」
兄も微笑んだまま寄り添った二人を眺めてそう言った。
とりあえず少ないけど何とか今日も投下できました
明日どうなるかは業務の状況しだいですけど、できれば話を進めたいと思っています
ここまでおつきあいいただいて感謝しています
おやすみなさい
おつかれちゃん
これはやはり回帰なのか……?
兄はメンタルつえーよなあ
早く兄と女が幸せな再会を果たしてほしい
兄ェ……
乙!
あたしたちは会長が妹ちゃんを一年生の校舎に送り届けるところまで見届けた。別れ際に妹ちゃんは名残惜しそうに会長の手を握りながら会長を見上げて笑顔で何か囁いていた。始業前だったので周囲には校舎に駆け込んでいく一年生が溢れていて、そんな中で手を取り合って寄り添っている一年生と三年生のカップルはかなり目立っていたけれども、少なくとも妹ちゃんの方は全くそのことを気にしていないようだった。
妹ちゃんの関心が兄から生徒会長に変っても彼女自身の持って生まれた性質は全く変っていない。かつて妹ちゃんは兄に対して同じように好意をむき出しにしてぶつけていたっけ。あたしはこれまでの妹ちゃんのことを思い浮かべた。中学に入学した時も高校に入学した時も妹ちゃんは周囲を気にせず兄に抱きつきべったり寄り添っていたものだった。そして妹に甘い兄の方も別にそれを制止するでもなく妹に付き合っていた。そんな実の兄妹の様子に周囲の生徒は最初のうちこそ好奇心に溢れたぶしつけな視線を向けていたものだったけど、妹ちゃんが堂々とそういう態度を取り続けているうちに逆に周囲がそれに慣れてしまいい、つのまにか周囲の噂も収まったのだった。
相手が兄から会長になっても妹ちゃんは相変わらずだ。そしていつか周りの生徒たちは前と同じくこの人目を引くカップルに慣れて行くのだろう。一年生と三年生のカップルが珍しいといってもあり得ない組み合わせではない。少なくとも実の兄妹がべたべた恋人同士のように振る舞っているよりは当たり前の関係だろうし。
ようやく妹は会長の手を離し小さな手のひらを会長に向けて振ると、足早に校舎の中に吸い込まれていった。あたしたちもそれを期に自分たちの教室に向った。
「いろいろあってあんたも辛いでしょうけど」
肩を並べて歩いていた時あたしは思わず兄に話しかけた。
「妹ちゃんのことだけはよかったよね」
あたしは兄に微笑んだ。「妹ちゃんに初めてあんた以外の彼氏が出来て母親役のあたしも一安心だよ」
「俺はあいつの彼氏なんかじゃなかったって」
兄が当惑したように言った。
「今さら何言ってんのよ。あんたはずっと妹ちゃんの兄兼彼氏だったでしょうが」
あたしはそれに突っ込んだけど、まあ今となってはどうでもいい話だった。とにかくあたしは娘を嫁に出した母親のように寂しいながらもほっとしていた。その感情は兄も共有しているに違いない。そう思って改めて兄の方を見たけど、兄は黙ったまま相変わらず当惑している様子だった。
「・・・・・・あのさ」
兄があたしに言った。
「何?」
その時あたしは自分が自然に兄の手を握っていることに気がついた。さっきから兄はあたしの言葉にではなく自分の手を握っていたあたしの行動に当惑していたのだった。
「あ、悪い。つい」
あたしは慌てて兄の手を離した。
「いや」
兄はそれだけ言ってまた黙ってしまった。
授業が始ったけど今日もあたしは集中できなかった。いったいあたしはどうしてしまったのだろう。兄友が好きになってあれほど思い詰めていたのに、今日は無意識のうちに兄の手を握っていた。
多分、あたしは兄とあたしが協力して守り育ててきた妹ちゃんの成長を悟って感傷的になっていたのだ。あたしはそう思いたかった。そしてそうでないならあたしはただの浮気女だ。兄友と副会長の謎の会話を聞いただけですぐに兄友から兄に乗り換えるようなどうしようもないビッチに過ぎない。あたしと兄は共に妹ちゃんの幸せを望んで彼女の成長を見守ってきた同志で戦友なのだ。。あたしが兄の手を無意識に握ったこともそういう意識の延長に過ぎないはずだった。あたしは混乱している自分の気持をそういう風に整理しようとした。
あたしは先生の目を盗んで兄友の方に目をやった。彼は机に広げていたテキストに目を落としている。彼が考えているのが授業の内容なのか、それとも女さんを陥れる手段なのかはわからなかった。それからあたしは兄を眺めた。兄はもう妹ちゃんのことを目撃した時のような安らかで優しい表情はしていなかった。兄が何を考えていたのかはすぐにわかった。兄の視線はテキストでも黒板にでもなく主のいない机の方に向けられていたのだから。それはもうホームルームで出席を点呼されることすらなくなった女さんの席だった。
とにかくあたしが浮気性のビッチかどうかなんて今はどうでもいい。あたしは割り切ろうと努めた。自分の気持ちがわからなくなることなんかこれまでだってよくあったことだ。それよりも今は、女さんと兄を巻き込んだこの一連の出来事が、いったい誰によって何のために起こされたのかを考えるべきだ。そしてそのことが明らかにならない限り、兄はもとよりあたしの気持ちさえもが救われなくなってしまっていたのだから。
あたしは放課後になったら副会長先輩に対して率直に疑問をぶつける気になっていたけれど、それでももう一度あの時の会話を思い浮かべることにした。寝る前にその時の記憶をメモに残していたこともあり、あたしはその話をかなり正確に思い出すことが出来た。
『うん、わかった。とりあえずうまくいったんだね』
これは副会長先輩の声だった。
『と思うけど。とにかく今朝は女は登校してない。それに、それとなく兄を観察したんだけど、朝のホームルーム前にすごく慌てた様子でどこかに飛び出してったし。学校が動き出していることは間違いないと思うな』
それに対してこう答えていたのは兄友だった。教室での兄の様子や女さんが登校していないことをいち早く掴めるのは同じクラスの兄友だったから、兄友は自分の知った事実を副会長先輩に報告したのだろう。
そしてその兄の言葉に副会長先輩は黙ってしまっていたはずだった。
『どうしたの?』
これは兄友。
『こんなことしてよかったのかなあ』
この時の副会長先輩は自分たちがしたことを後悔し始めているような口調だった。
『何を今更。自分だって例の下着姿の画像を見た時は、女のこと殺してやりたいとまで言ってたくせに』
兄友が答える。でも女さんが女神行為とやらをしたことを知って、どうして副会長先輩は女さんに憎しみを抱くような感情を持つのだろう。二人には接点はないはずだった。
『それはまあ、そうは言ったけど』
『当然の報いでしょ。単なるぼっちかと思ったらビッチでもあったとはね』
『・・・・・・それ、洒落のつもり?』
『・・・・・・うるさいなあ。とにかくこれで少し様子見だね』
この辺の会話からは兄友には女さんへの同情のかけらも覗えない。兄友の女さんへの視線は愛情ゆえではなかったのか。それに先輩である副会長先輩に対して兄友は親しげな溜め口で話しかけ、副会長先輩も当然のようにそれを受け止めていることも気になった。
このあたりで既にもうあたしには何がなんだかわからなくなってしまった。
『ねえ』
『何?』
『こうなったことはあの人の自業自得だとしてもだよ』
『うん』
『これって、あの二人を別れさせることにはならないんじゃない?』
『うん、多分そうだろうね』
『じゃあ・・・・・・いったい何のために学校にこんなことちくったの?』
そして副会長先輩の疑問の声。この二人はどういう意図があってのことかわからないけど、兄と女さんを別れさせようとしていたみたいだった。兄友が女さんを独占したいという気持ちならわかる。でもそれにしてはこれはやりすぎだ。こんなことをしていたら兄と女さんは別れるかもしれないけど、兄友自身だって女さんを手に入れられなくなるではないか。そして副会長先輩は何で兄と女さんが付き合うと都合が悪いのだろう。副会長先輩はもしかしたら妹ちゃんと付き合い出した生徒会長のことが好きなのかもしれない。でも、その生徒会長と女さんには何の接点もないのだ。兄と女さんが別れれば、ブラコンの妹ちゃんが兄の元に戻って会長が振られるとでも考えたのだろうか。いや、こんなに頭のいい人がそんな迂遠な、風が吹けば桶屋が儲かるみたいなことを考えるはずがない。
あたしは考えるのをやめて次のシーンを脳内に再生した。
『これで終わりじゃないし』
『え?』
『学校だって本人に厳重注意して停学くらいはするだろうけど、犯罪を犯したわけじゃないから、今回はそれ以上はね』
『だからさ、校内の生徒全員に女が何をしていたかを知らせなきゃ意味ないと思う』
『まさか・・・・・・』
『うん。やり方はこれからよく考えるけど。そこまでやれば彼女だって、というか彼女の両親だってこのまま何もなかったことにはできないでしょ』
『少なくとも転校、場合によっては引越しするくらいには追い詰められるんじゃない?』
『・・・・・・もう止めようよ。何か怖い』
『あの二人を別れさせたいんでしょ?』
『・・・・・・それは』
『それが兄のためなんでしょ? もう始めてしまったことだし、今更引き返かせないでしょ』
このあたりの会話には、割りと重要そうな、でも今のあたしには全く意味がわからない会話がやりとりされていた。この会話を偏見なしに受け取ると、
?兄友は女さんを破滅に至るまで追い詰めようとしている
?副会長先輩はそこまですることに対して恐怖を感じており、もうやめようよと兄友に訴えている
?「兄のために」、副会長先輩は「兄と女さんを別れさせたい」と思っている、あるいは少なくとも兄友は副会長先輩がそう考えていると思っている
?の理由は前にも思ったとおり意図が不明だ。兄友が純粋に女さんのことを憎悪しているのではない限り理解できない思考だった。そしてあたしは密かに兄友が女さんのことを好きなのではないかと考えていたのだ。そういう視点で考えると兄友の行動の意図は理解しがたい。
?はあるいは常識的な性格である副会長先輩が、何らかの動機によって兄友と共謀して始めてしまった行為を後悔していることを意味するのかもしれない。
?は・・・・・・。これが一番意味不明だった。副会長先輩はどこかで兄のことを知り兄を好きになったのだろうか。でもそんな話は一度も聞いたことがない。あたしには、副会長先輩が「兄のために」何か行動をする理由なんて何も思いつかなかったのだ。
結局この時のあたしの推理は無駄に時間を費やしただけで終った。あたしが酷使して疲労した頭を休めようとした時になって授業の終了をチャイムが告げた。
今日は以上ですが、明日以降の投下は今のところ不明です。つまり残業しだいですね
なるべく早く再開したいと思います
無駄に長いSSで本当にすいません。忍耐強く付き合ってくださる方には感謝しています
おつかれさまん
やっぱり幼馴染はいいものだ
幼馴染は妹-生徒会長もやがて知るのだろうかねえ
話が入り組み過ぎてる感が.....
>>148
エピソードを錯綜させて読者にあれこれ考えさせる作者さんのテクニック。
今はどこに向かっているかわざと判らない様にしている、作者さんの手の平の上で読者が踊らされている状態だと思う。
これが、この話がどう収束していくか楽しみです。
>>146
乙!
あまり自己卑下しないで下さい
あなたの投下を純粋に待ち望んでいる者がいるのですから!
話はおもしれーし完成度高いと思うけど
個人的には横に文が長すぎると思う
ここってせっかく80行まで書けるんだから
もうちっと改行多くして
横を短く縦に長くなっても大丈夫だと思う
>>151
っ 見る側のビューワー設定
JaneでうっかりIDポップアップするとびっくりするわな
作者です今日は投下できません
明日もどうなるか不明ですが、なるべく早く再開したいと思います
妹からのファンだけど楽しみにしてます
無理すんなや
あたしはその時相当緊張して生徒会室のドアを開いたのだった。一度決めたこととはいえ、副会長先輩に兄友と先輩が交わしていた会話の意味を問いただすことを考えただけであたしは相当ストレスを感じていた。
ただ、意味を聞けばいいというものではない。ある程度深いレベルで副会長先輩と会話を交わすためには、兄と女さんの馴れ初めとか今現在二人が陥っている状況とかを説明しなければならないだろう。副会長先輩は兄と女さんのことをどこまで承知しているのだろう。
あの時の兄友と先輩の会話を考えれば何もかも承知しているのかもしれない。それでも副会長先輩はこれまであたしに対して兄や女さんのことをはっきりと口に出したことはなかったから、あたしが副会長先輩にいろいろと質問するに当たっていきなり核心から話し出すわけにもいかないだろう。
いったい何をどこから切り出せばいいのか。恐る恐る生徒会室に入ったあたしにはその時になっても、どう切り出していいのか見当もついていなかったのだ。
「幼馴染」
同じ学年の書記の女の子があたしが入ってきたことに気づいてパソコンの画面から目を離して言った。「遅かったじゃん」
「そうかな。授業が終ってすぐに来たんだよ」
生徒会室には副会長先輩の姿はなかった。書記の子の他に何人か生徒会役員以外で各学年から学園祭の実行委員に選ばれた数人が二人一組になって学園祭のパンフレットの校正をしていた。あたしはほっとした。早く真実を知りたいという気持ちはあったのだけど、同時に今この
瞬間に副会長先輩と対峙しないですんだことに安心したのだ。
先延ばししてもどうせいずれははっきりとさせなければいけないことはわかってはいたのだけれども。
「副会長先輩は?」
あたしは彼女に聞いた。学園祭を直前にして副会長先輩がこの場にいないのはおかしい。本当は生徒会長がこの場にいて陣頭指揮をとっていなければいけないのだけど、彼がこの場にいない理由はあたしにはよくわかっていた。
でも、副会長がいないなんて。
「副会長先輩は今日は放課後の活動はお休みだって」
書記ちゃんが言った。「何か妹さんが急病とかでさ。今日は帰らなきゃいけないんだって」
「そうなんだ」
あたしは先輩から真実を聞く機会が遠ざかったことを知った。残念な気持ちとほっとした気持ちがあたしの中で交錯した。「じゃあ今日は先輩抜きで作業だね」
「うん」
「副会長先輩の妹さんって大丈夫なの?」
「別に命に別状があるとかじゃないみたい」
「そうか、よかった。でも副会長先輩がいないと・・・・・・」
「そうなのよ。先輩がいないとわからないことだらけでさ」
書記の子の愚痴を聞きながらあたしは今日はどうしようかと考えていた。本来なら学園祭の準備に総指揮を執るのは学園祭の実行委員長を兼ねている生徒会長だったけど、今は会長は良くも悪くも妹ちゃんのことだけしか頭にない状況だった。そんな中で会長の替わりに学園祭の指揮を執っていたのが副会長だったのだ。あたしはその副会長先輩の補佐役だったから、副会長先輩がいないと途方にくれるだけでいったい自分が今日何をしていいのかもわからなかったのだ。
「そういや知ってた?」
書記ちゃんがあたしに言った。「副会長先輩って三姉妹の長女なんだって」
「そうなんだ」
あたしは副会長先輩不在の生徒会と実行委員会をどうやって仕切ろうかと考え出していたから、副会長先輩の家族情報にはおざなりに返事をしただけだった。それでもめげずに書記ちゃんは話し続けた。
「三姉妹ってみんな一つずつ年齢が違うんだってさ」
それはそんなに面白い話題ではなかったけど、これまで一人でパソコンの画面で学園祭の当日のスケジュールを組んでいることに飽きたのだろう。書記ちゃんはあたしが話し相手として現れたことで、少し息抜きをする気になったようだった。
「今日お昼ごろに先輩の妹さんが具合が悪くなったみたいでさ」
「そうか」
「あんた知ってる? 先輩の妹って確かあんたの知り合いの妹ちゃんの友だちで、妹友ちゃんっていう子だけど」
あたしはその子のことは知っていた。妹ちゃんと仲のいい友だちだったはずだ。たしか妹ちゃんと同じクラスの一年生の可愛い子だったけど、副会長先輩の妹だとは知らなかった。
「その子が三女なんだって。で次女はうちらと同い年だけどうちの学校じゃないみたい」
「そう・・・・・・それでその妹友ちゃんってどうしたの」
「よく知らないけど貧血で倒れちゃったみたいね。副会長先輩、さっき一度ここに来てさ。これから病院に行くけど心配はいらないからって言ってた」
「そうなの」
あたしは副会長先輩の妹さんのことは気の毒ではあったけど、それよりも先輩の妹さんの病気によってあたしが先輩に問いただそうと思っていたことが延期になったとこの方がより気になっていた。それに先輩の妹さんの症状もそんなに悪くはないようだったこともあったし。
「先輩の妹さん、あ、別の学校に通っている次女の方だけど、さっき先輩を迎えに来ててさ、初めて見たけどすごく可愛いいの。あたしたちと同い年なんだけどね」
他の学校に通っているという先輩の妹さんが、末娘の運び込まれた病院にお見舞いに行く際に副会長先輩を迎えにここに顔を出していたようだった。そういう書記ちゃんのどうでもいい噂話は続いていたけど、あたしはもう頭を切り替えていた。
先輩に真実を問い質すことができない以上、あたしは今日はおとなしく学園祭の準備をすることしかできないだろう。でもあたしはこれまで実務担当ではなく生徒会長不在の状態で、学園祭準備の全体指揮を執る副会長先輩のアシスタントのような役割を果たしていたのだった。本当は
副会長先輩がアクシデントで不在な以上、あたしが代わって指揮するべきなのかもしれないけど、あたしが見たところでは事態はそこまで追い詰められている状態ではなかった。二、三日は指揮者不在でもすべきことはあるようで、副会長が不在で本当に困るのはまだ数日先のようだっ
た。
なのであたしは今日はあたしにすることは何もないと判断した。私的な用件の方は今日は何もできない。生徒会役員としてもまだあたしが副会長先輩の替わりにでしゃばるようなところまで事態は切迫していなかった。
「じゃあとりあえず今日は先輩に指示されたことをやるしかないね」
あたしは書記ちゃんに言った。
「うん。もうみんなそうしてるよ」
「じゃあ、あたしは今日はやることないなあ」
「何言ってるのよ」
書記ちゃんが言った。「副会長先輩がいないからってサボろうとするなよ」
「そんなつもりはないけどさ」
正直に言うとそういうつもりは少しはあった。事態が進展せず、しかも学園祭の準備にも寄与できない状態なら、今頃教室を出て一人で悩みながら帰宅しようとしている兄に寄り添って彼と一緒に帰ろうかという気をあたしは起こしていていたのだ。でも、書記ちゃんはあたしを離すつもりはないようだった。
「スケジュールのチェック一緒にしようぜ。一人でパソコン睨んでるの飽きちゃったよ」
書記ちゃんはあたしに言った。
「しょうがないなあ。付き合ってやるか」
あたしは笑ってパソコンのディスプレイを眺めた。その時、ふと思い出したように書記ちゃんが言った。
「そういやさ。さっき次女さんが副会長先輩を迎えに来た時に」
「うん」
「その子、生徒会長先輩のこと知ってるみたいで、会長はいないの? とかって副会長先輩にしつこく聞いてたな」
「え?」
「その子、会長の中学時代の後輩で中学時代に会長の下で中学の生徒会の副会長だったんだって。副会長先輩も彼女にすごく気を遣ってるみたいだし、その子も何か変な感じだったな」
「変って?」
「何っていうか必死つうかさ。妹友ちゃんの具合が悪いから副会長先輩のことを迎えにきたんだろうに、それより生徒会長先輩のことばっか気にしてさ。泣きそうな感じで生徒会長先輩と会いたいって駄々をこねてさ。副会長先輩も困っていたみたい」
「ふーん」
その時のあたしにはそのことの持つ意味はよくわかっていなかった。
でも副会長先輩と生徒会長のことを考えていた矢先に、別な学校に通っている妹さんが生徒会長のことを気にしているというのは何か意味深ではあった。あたしは副会長先輩が会長のことを好きなのではないかと踏んでいたのだけれど、その彼女の妹までが会長を気にしているということにはどんな意味があるのだろうか。生徒会長先輩って実はあたしが思っていたよりも女の子に人気があるのかな。
とりあえず今日は兄と一緒に帰ることはできそうになかった。書記ちゃんの申し出はもっともでこの時期にあたしは生徒会室を抜け出すと言い張ることは出来なかった。実際に学園祭の準備が切羽詰まっていたわけではないにしても。
だからあたしは兄がどうしているのか気にはなったけど、その日は生徒会の作業の手伝いをして過ごしたのだった。
短いけど今日はここまで
また投下します。おやすみなさい
おつ
更に広げてきますか
おつ
モブだと思ってたら違った登場人物がまた一人、いや二人か
あたしは書記ちゃんと二人で気楽にお喋りしながらも何とか学園祭のスケジュールチェックを終えた。書記ちゃんが組んだスケジュールには致命的なミスがあった。展示や模擬店はともかくイベントのスケジュールがあっちこっちで時間が重複していたため、その修正には大分苦労した。
「会場や器材が被ってなくてもさ」
あたしは飽きれて書記ちゃんに言った。「実行委員の人数は有限なんだから。こんだけイベントを重ねちゃったらスタッフが足りなくなっちゃうじゃん」
「そういやそうか。場所とか出演者が違うから大丈夫だと思ってたよ」
書記ちゃんが悪びれずに言った。
こういう細かいところに今年の学園祭の準備の荒さが出ていた。去年はこういう初歩的な間違いは事前に生徒会長がことごとく潰してくれていたため、本番はすごくスムーズだった。副会長先輩は会長不在の中で頑張ってくれてはいたけど、会長の組織化能力やイベントの進行管理能力はやはり別格だった。その先輩がいないだけで既にこういう綻びが見えている。
「これはやり直しだな」
あたしは言った。
「え〜。最初から全部?」
書記ちゃんはそこでいかにも嫌そうな表情を見せた。「重なるところだけ時間を離せばいいじゃん」
「それで直るならそれでもいいよ。でもイベントを重ならないように最初から時間を直して行くと、最後のイベントはきっと夜中の開始になるよ」
あたしは素っ気無く言った。「時間の無駄だから最初から組みなおそう。文句言われるかもしれないけど、少しづつ各部のイベントに割り当てていた時間を削るしかないよ」
「それって文句言われない? 特にコンサート系のクラブから」
「言われるかもしれないけどこのままじゃ成り立たないんだからしょうがないじゃん」
「割り当て時間はもう各サークルに伝えちゃってあるからさ。時間を削ったら苦情が来るんじゃない? 軽音の先輩とかって怖いし」
「それでもそうするしかないでしょ。他に手段があるの?」
「・・・・・・ない」
結局書記ちゃんは不承不承イベント系サークルへの時間の割り当てのやり直し作業に取り掛かったのだった。
翌日の放課後、相変わらず元気がなく無口な兄に別れを告げた後、あたしは再び生徒会室に向った。
今日こそは勇気を出して副会長先輩とお話ししなければならない。そのことを考えるとストレスからあたしは胃に鈍い痛みを感じた。その痛みは午前中からあたしを襲っていて、そのためあたしはお昼ご飯をほとんど口に入れることができなかった。これでは相変わらず食欲がないらしい兄に対して、もっと食べるように叱ることすらできなかった。
あたしが胃を痛めるストレスを宥めながら生徒会室のドアを開けた時だった。何やら書記ちゃんに詰め寄っている先輩たちとそれに対して一生懸命説明している彼女の姿が目に入った。
今日も副会長先輩は生徒会室にいないようだった。でもそのことにほっとする、あるいはがっかりする余裕はなくあたしはいきなりあたしが部屋に入ってきたのを知って顔を明るくした書記ちゃんに手を引かれた。
「ようやく来てくれた。この人たち言うことを聞いてくれないのよ」
書記ちゃんを囲んでいたのは音楽系や演劇系のクラブの部長だった。先輩たちは許可されていた時間を削減されて憤って生徒会に文句を言いに来たらしい。
「おいふざけんなよ。お前らが時間を割り振ったんだろうが。俺たちはそれに従ってプログラム組んだんだぞ。今になって10分減らせとか何考えてんだよ」
「全部組みなおしになるのよ。台本から書き直しになっちゃうじゃない。ありえないでしょ」
「お前たちから言われた時間をさらに各バンドに割り振ってんだぞ。一週間前に今さら構成やりなおせとか部員たちに言えるかよ」
「何とかならないかな。これじゃ学園祭の出し物中止するしかないのよ」
各部の責任者たちも必死だった。別に生徒会をいじめたいわけではなかっただろう。彼ら自身があたしたちの示した時間を更に区割りして各部員に伝達していたのだろうから、再度の時間の割り振りによって彼らが部員たちに責められることになるのだ。
あたしたちのスケジュール修正は、各部に対して思っていたより深刻な影響を与えてしまったようだ。
書記ちゃんの側に引き寄せられたあたしは、三年生の部長たちの注目を浴びてしまったようだった。
「あんたが責任者?」
演劇部の三年生の部長が言った。美人で有名な先輩だったけど今はその表情はきれいというより怖いと言ったほうがいい感じだった。
「何でこんなことになったんだよ」
軽音部の派手な容姿の先輩も低い声で続けた。「去年まではこんなことなかっただろうが」
「何とかしろよ。今さら全部のプログラムを変えろって言うのかよ」
これはヒップホップ系のダンスサークルの部長だった。
あたしは昨日は気軽に考えていたのだった。今の書記ちゃんのスケジュールが成り立たないのは確かだったから、各部の時間を削って各イベントの重複を無くすしかない。そうしなければイベントを裏から支える実行委員会のスタッフが足りなくなる。その辺のシミュレートが今年の時間割には決定的に不足していた。
あたしは全体の調整をしていた副会長の下で主に全体計画の進行管理とか物品調達を担当していたので、イベントスケジュールがこんな状態になっていたなんて昨日初めて気がついたのだ。イベントの時間割は副会長の承認を得ていたはずだけど、さすがの副会長先輩もここまで細かい問題には気がつかず見過ごしてしまっていたようだった。
あたしと書記ちゃんは周囲を憤っている先輩たちに囲まれてだんだんと萎縮してしまった。それでもスケジュールを修正しなければいけないことには変りはなかった。各部が独力で部室や教室で実施するイベントならば好きに構成を組めばいいけど、野外のステージや学校のメインホールでのイベントのような、実行委員会が運営するイベントに参加するサークルには、こちらの指示に従ってもらうしかない。イベントの裏方を務めるのが彼らではなく実行委員である以上、どんなに責められてもそこは譲れなかった。
もっとも、譲れない事情は先輩たちにとっても同じようで先輩たちは厳しく生徒会の不備を突いて当初どおりの時間を割り振るよう要求した。書記ちゃんに代わって先輩たちに対峙したあたしは一歩も譲らず時間の削減を要求するしかなかった。そうしないと学園祭のイベント自体が成り立たない。あたしにはここで譲歩するという選択肢はなかった。それでもやはり三年生の先輩たちの圧力は無視できないほどのものだった。
今日も副会長先輩が不在なため、気の重い真実を問い質すことが出来なくて複雑な想いを抱いたあたしだったけど、そういうこととは関りなく今はこの場に副会長か会長にいて欲しかった。あたしと書記ちゃんにはこの圧力は重過ぎる。
その時、生徒会室のドアが開き、突然生徒会長が姿を現した。
一目でこの場の不穏な様子を理解したのだろうか。生徒会長はやや戸惑ったようにいきり立っている三年生の部長たちを眺めた。
「君たち、生徒会室で何をしてるんだ?」
生徒会の責任者を見つけた先輩たちは、もうあたしと書記ちゃん何かを相手にせずに直接生徒会長にクレームを付け出した。クレームの内容自体はこれまでと全く同じ内容だった。驚いたことに最近は時たま現れて指示をしていくだけだった生徒会長は、クレームを聞いているうちに問題の根本をすぐに把握してしまったようだった。
騒ぎが収まるまでにはかなりの時間を要した。生徒会長は不満を述べる三年生たちの話を遮ることをせずじっと耳を傾けていた。一瞬、この人はひょっとしたら三年生の先輩たちの味方なのだろうかとあたしが疑うくらいにていねいに。
でも、もどかしいくらいに先輩たちの話を聞き彼らの苦労に共感を示していた先輩は、やがて淡々と実行委員会の事情を話し始めた。それはあたしと書記ちゃんだって今まで必死になって先輩たちに訴えていたことと全く同じ話のはずだったけど、会長が一から冷静に状況説明して行くうちに部長たちの興奮も少しづつ収まっていったようだった。
「会長の言うことはわかるけどよ、何でそんなミスするんだよ。ツケは全部こっちに来るんだぞ」
「最初から無理のない時間を割り当てろよ」
「劇の台本って時間を厳密に計ってるんだから、今後は注意してよね」
「各ユニットごとに5分づつ持ち時間を削るしかねえか」
心からは納得していなかったろうけど、先輩たちは各部への割り当て時間の削減が不可避であることを不承不承了解し、捨て台詞を残して去って行ったのだった。
何とか自体が収まったのは会長のおかげだった。会長は妹ちゃんとの交際に夢中になって、本来すべき仕事を放棄してその責任を副会長先輩に押しつけていたのだけれど、やはりこういう修羅場を収めてくれる力を持ってはいたようだ。
「先輩、助かりました」
書記ちゃんが素直に言った。
「イベントの持ち時間の最初の割り振りを間違ったのはまずかったね」
会長が冷静に言った。「今日はあいつらを何とか宥めたけど、これであいつらは下手すると二、三日徹夜で演目の組み換えになるな」
「ごめんなさい」
偶然にもあたしと書記ちゃんの声がだぶった。少しだけそのことに会長は微笑んだ。
「副会長はどうしたの」
その時会長が言った。
「昨日から生徒会に顔を出してません。何か妹さんが具合が悪いとかで」
あたしは答えた。
今まで自分の失敗が巻き起こした騒動を反省して元気のなかった書記ちゃんの顔がその時ぱっと輝いた。
「それがですね」
彼女は嬉しそうに言った。「先輩、中学の時の生徒会の副会長だった次女ちゃんって知ってますよね」
「え?」
思いがけないことを聞いたというように会長が声を漏らした。
「知ってるけど・・・・・・彼女がどうかしったの?}
「へへ。特種ですよ、先輩。次女ちゃんって子、副会長先輩の妹なんですって」
「あいつが副会長の妹・・・・・・?」
「それだけじゃないんですよ。副会長先輩って妹が二人いて一人が○○高校に通っている次女ちゃんで、一番下の妹がうちの学校の一年生なんですって」
「そ、そう」
「先輩の彼女って一年生の妹ちゃんなんですよね」
今や書記ちゃんは自分のしでかした大失敗のことはすっかり忘れて、会長をからかうことに夢中になっているようだった。
「先輩の彼女の妹ちゃんの同級生が妹友ちゃんなんですよ」
「・・・・・・」
驚くかもしれないけど別にそれは悩むほどの情報ではないはずだった。でも先輩は何か考えこんでいるような表情だった。やはり副会長先輩は会長のことが好きなのだろうか。そして会長も副会長先輩の気持ちに気づいているのだろうか。
そう考えれば妹ちゃんの仲の良い知り合いが副会長先輩の妹だったと知った会長が衝撃を受けるくらいのことはあり得ただろう。
「それでね、次女ちゃんっで昨日ここに副会長先輩を迎えに来たんですけど、その時大変だったんですよ」
「大変って、何かあったのか」
「またまたとぼけちゃってえ。次女ちゃんが会長に会いたいって駄々をこねて副会長先輩が苦労してました・・・・・・会長、次女ちゃんと何かあったんですか?」
「別に。何もないよ」
会長はもう驚きを克服したようでいつものような冷静な表情と口調に戻っていた。「中学時代に生徒会の役員同志だったってだけで」
次女さんは先輩のことが好きだったのかもしれないな。あたしはそう思った。
でも、何年も前にただ好きだったという人の学校を訪れていきなりその人に会わせるよう駄々をこねると言うのも普通ではない。昨日はあまり気にしなかったけど、何となく同い年のその次女さんという子の行動には何か別な理由があるのではないかとあたしは思った。
「あ、そうだ。忘れてたけど次女ちゃんってこんなことも言ってましたよ」
会長の反応が思っていたより薄かったせいか、少しがっかりした様子で書記ちゃんが言った。
「彼女、会長は今いないって副会長先輩に言われたら、今度は女さんに会いたいって言ってました。『女ちゃん』って呼んでたから知り合いなんでしょうね」
書記ちゃんは今度はあたしの方に向って言った。
「女さんってあの噂の人でしょ? 幼馴染ちゃんの同級生だよね」
今度こそ会長の表情は本当に凍りついた。会長は何も言わずに黙ってしまった。
「誰にでも裸を見せるっていう女さんと次女ちゃんってどういう知り合いなのかなあ。そういえば同じ中学だもんね」
会長はようやく視線を書記ちゃんから外して、あたしの方を見た。
「・・・・・・幼馴染さん、ちょっと学園祭の運営のことで打ち合わせしたいんだけど」
「はい」
会長がそんなことを話したがっているのではないということを、その時あたしは直感的に理解した。
「じゃあ、お茶を入れますね。それから打ち合わせしましょう」
書記ちゃんが言ったけど、会長はそれを遮った。「いや。書記さんはもう一度新しいスケジュールを見直してくれるかな。次の失敗は許されないから」
「はーい」
書記ちゃんは噂話を続けるのを諦めたようで素直にパソコンに向った。彼女も多少は自分の失敗を気にはしていたのだろう。
「ちょっと場所を変えようか」
会長があたしに言った。
今日は以上です
可能ならまた明日投下したいですが、無理ンならごめんなさい
おつん
んー妹ねえ
乙
会長は黙ってあたしを共通棟の屋上に連れて行った。まるでまた会長に告白されるみたいな雰囲気だなってあたしは考えたけど、もちろんそんな話であるわけはなかった。でも黙りこくってあたしの先を歩いていく会長の背中からは緊張感がひしひしと伝わってきた。
・・・・・・本当は会長の問題にかまけている時間はないのだ。あたしは考えた。会長と副会長、それに副会長の妹の次女さんとの間にどんな複雑な事情があろうとも、申し訳ないけど今のあたしには関係のない話だった。今のあたしにとっての優先事項は兄友と副会長先輩の関係を解きほぐすことだったのだ。
あたしはさっきまではそう考えていたのだけど、最後に書記ちゃんが明らかにした情報のせいでそうとばかりも言えなくなってしまっていたのだ。
『彼女、会長は今いないって副会長先輩に言われたら、今度は女さんに会いたいって言ってました。「女ちゃん」って呼んでたから知り合いなんでしょうね』
『女さんってあの噂の人でしょ? 幼馴染ちゃんの同級生だよね』
『誰にでも裸を見せるっていう女さんと次女ちゃんってどういう知り合いなのかなあ。そういえば同じ中学だもんね』
女さんを落としいれたこの事態のおおもとには、先輩の中学時代の何らかの出来事が遠因として存在しているのだろうか。今でも何がなんだかわからなくなっていたあたしは更に混乱しているのだった。
とりあえず会長の話を聞こう。あたしは黙って会長について行った。
会長は屋上のベンチに腰かけた。彼が何も言わなかったのであたしは少し迷ったけれど結局あたしは会長の隣に腰かけた。
「書記さんの話ではよくわからなかったんだけど」
会長はあたしの方を見ずじっと前を見詰めたまま言った。「結局何で今日副会長はいないかったの?」
そう言えばさっきの書記ちゃんは生徒会室で起きた次女さんの行動だけを面白そうに会長に伝えただけだったので、何で副会長先輩がいないのかという会長の疑問に対しては答えになっていなかったのだ。
「妹友ちゃん・・・・・・副会長先輩の妹で、えと、妹ちゃんの友だちですけど」
「うん」
「昨日貧血で倒れたそうです。それで昨日と今日は副会長先輩は生徒会に来れないそうです」
「そうか」
それだけ言って会長は黙ってしまった。でもわざわざあたしをこんなところに連れてきたのには理由があるはずだった。副会長先輩不在の訳を聞きたいだけなら場所を帰る必要はない。あたしは黙って会長が話し出すのを待った。
随分長く沈黙が続いたような気がしたけど、やがて会長は口を開いた。
「さっきの書記さんの話だけど」
「はい」
会長の表情は照れているのか何かを恐れているのかはわからないけど、とても複雑な表情であたしを見た。学園祭の運営の相談ではないことはもうあたしには明らかだったけど、単純に妹ちゃんと付き合っていることをあたしに話したいだけでもないことも確かだった。それは会長の緊張した様子からあたしにもわかった。
「まず聞いてもらいたいんだけど、僕と妹・・・・・・妹さんは付き合っている」
会長はそう言った。「とりあえず君には知っておいてもらいたくて」
「はい。というか察してはいました。朝一緒にいる先輩と妹ちゃんを見かけましたし・・・・・・というか隠しているつもりなんですか? あれで」
「そういうつもりはないんだ。彼女も僕たちの関係を周りに隠す気なんかないみたいだし、彼女がそれでいいなら僕だって」
先輩が慌てた様子で言った。「でも、これまではっきり誰かに僕たちの交際を話したのは妹友さんにだけなんだ」
「そうですか・・・・・・でも心配はいりませんよ。あたしも兄も妹ちゃんが選んだ人なら反対はしませんから」
「ありがとう」
会長はそう言ったけど、その表情には嬉しそうな様子は窺えなかった。
「まあ僕たちのことはともかく、さっきの書記さんの話だけど」
「はい?」
「君とか兄君には誤解して欲しくないというか・・・・・・その」
会長はそこで少しためらって、でもその後思い切ったように話し出した。
「僕は中学の頃、次女さんと生徒会で一緒に活動をしていたことがあってね。それで・・・・・・どういうわけか僕は彼女に告白されたことがあったんだ」
やはりそうか。あたしはそう思ったけど正直会長の話は今のあたしにはどうでもよかった。会長にとっては過去の亡霊が再び現われたように感じて狼狽したのかもしれないけど、今あたしが探らなければいけないのは中学時代の会長の恋愛模様とかではなくて、兄と女さんに起きたことの真実だったのだから。だから正直に言って今のあたしには混乱した会長の心の整理に付き合っている余裕はなかったのだ。でもその後に続く会長の話を聞いたときあたしは凍りついた。
「でも僕は次女さんの告白を断った。その時にはもう、僕には女がいたから」
僕には女がいた? ではあの女さんと会長には過去に接点があったのだ。そればかりか次女さんの告白を断る理由が女さんだったと会長は言った。それは中学時代の会長と女さんは恋人同士だったということか。一瞬あたしは混乱したけど次の会長の説明であたしの疑問は完璧に氷解した。
「多分君の考えているとおりだよ。僕は女と中学時代付き合っていた。兄君の彼女である女・・・・・・さん、と」
先輩はそこで取ってつけたようにさんづけをした。多分今までは女さんのことを呼び捨てで呼ぶことに慣れていたのだろう。
「僕と女さんは彼女が中学二年の終わりに転校するまで付き合っていたのだけど、彼女が突然転校したせいで自然消滅みたいになってね」
「・・・・・・そうだったんですか。でも何でそんなことをあたしに話すんですか? だいたい、妹ちゃんはそれを知っているんですか?」
これは大切なことだった。妹ちゃんにとっては女さんは自分から兄を奪っていった女だった。その女さんが今妹ちゃんが付き合っている彼氏の元カノだと知ったらどう考えるだろう。そして先輩がわざわざあたしを生徒会室から連れ出したのは妹ちゃんへのフォローを期待したからなのだろうか。
「妹・・・・・・さんにはまだ話していないよ。そして今の僕にとって一番大切なのは女でも次女さんでもなく妹だけど、だからと言ってそういうフォローを君に頼もうとしたのでもないよ」
会長はあたしの内心を見透かしたように言った。
「むしろ、迷惑かもしれないけど僕のしでかしたことを聞いて欲しいんだ。今の今まで誰にも黙っていようと思っていたけど、次女さんまで出てくると何かいろいろ不安になってきたんだよ」
「意味がわかりません。もっとはっきり話してもらえますか」
「僕の恋愛関係のことを相談したいわけじゃないんだ。僕のしたことで妹に振られてもそれは事業自得だから」
今や会長の顔は真っ青だった。でも言葉の勢いは前よりも激しさを増しているようだった。
「今までは全然気がつかなかったんだ。僕の愚かな行動で兄君と女を破滅させたんだと思っていった。でも、それより僕の知らないところでもっと何かが起こっているみたいだから」
あたしは再び凍りついた。あたしは今まで、会長の個人的な複雑な悩みを聞かされているだけのつもりだった。でも会長が言うにはあたしが真相を突き止めようと決めた、兄と女さんを襲った出来事について言及したのだった。
「聞いてくれるか?」
きっとあたしの顔色が変ったことに気がついたのだろう。先輩は興奮を鎮めるようにそっと続けた。
すごく短いけど今日はここまで
お付き合いくださってありがとうございました
おつぽん
幼馴染が完全にプレイヤーキャラだな
乙
すごく面白いけど今日はここまで?
すいません。やはり本日は休載になります
明日はできれば再開したいとは思いますけど
気をつけて
休息も大事だ
帰宅してベッドの中で寝る前に、あたしはさっき屋上で会長から聞かされた話を思い返した。
生徒会長の話はあたしに兄と女さんを巡って起きている出来事に対する新たな、そして膨大な情報をもたらしてくれた。ただ、その話は断片的で女さんを陥れた本当の原因を明らかにしてくれたわけではなかった。新たに増えた事実はあたしが明らかにしたいと思っている真実からあたしを更に遠ざけてしまったようだった。
あたしはベッドの上で身体を起こした。このまま考え事をしていたら明日の授業はひどい有様になりそうだけど、こういう状態になると眠ろうとしても眠れないことは自分でもよくわかっていた。
寝ることをきっぱり諦めたあたしは最初から会長の話を思い起こすことにした。会長は昨日真っ青になりながらこう言ったのだった。
「・・・・・・君たちの担任の鈴木先生に、女の女神行為を知らせたのは僕だ」
あたしはこれまで犯人を想像しようと無駄な努力を繰り返していた。女さんに横恋慕した校内の男子生徒とか、兄のことを思い詰めるほど好きになってしまった女生徒とか。そして、理由は明らかではないけど最近になって有力な犯人候補として考えざるを得なくなった兄友や副会長先輩
とか。でも、まさか生徒会長が犯人だとは思いもしなかったのだった。
でもその話はそれだけでは終らなかった。
「僕が女と兄君に酷いことをしたという自覚はある。でも、女さんと兄君をここまで追い詰めたのは僕じゃないんだ。それだけは信じて欲しい」
とにかくあたしは鈴木先生に女さんの女神行為を知らせた犯人を突き止めたのだった。それは会長だった。その行為は兄をここまで苦しめているのだからその実行犯である会長に憎しみを感じてもいいはずだったのだけど、驚きのあまり感情までが麻痺して機能しなくなったせいか憎し
みや嫌悪よりはこのことの持つ意味が理解できないもどかしさだけがあたしの脳裏を閉めていたのだった。
「意味がわかりません」
あたしは震える声で聞き返した。「何で先輩がそんなことをする必要があったんですか? それにそれだけのことをしておいて兄と女さんを追い詰めたのは自分じゃないってどういうことなんです?」
「ちゃんと話すよ。迷惑かもしれないけど聞いてくれるか」
会長の顔は青かったけど、もう口調は大分落ち着いてきていた。
「僕が女・・・・・・さんと付き合っていたことは事実だ。そして次女さんを振ったことも事実なんだ」
「そして、女さんが僕には何も言わずに転校して僕の初恋は終った。正直に言うと僕はそのことに悩んでいた。でも妹がパソ部に入ってきて僕に悩みを打ち明けてきて」
「妹ちゃんが悩み?」
「うん。彼女は兄君から卒業しようとしていたんだ。ただ、彼女は兄君の相手の女が女神行為をしていることに気がついてしまった」
「彼女は悩んでいた。そして僕自身も女さんの女神行為のことを知って悩んだ。あいつは何をしているんだ、僕と付き合っていたらそんな破廉恥なことをして自己実現する必要もなかったのにってね」
会長の話は途中に飛躍もありわかりやすいものではなかったけど、あたしは何とか会長の話について行ったのだった。
妹ちゃんが大好きな兄の彼女に対して求める水準を考えると、女神行為をしている女性は論外だったのだろう。あたしは考え違いをしていた。妹ちゃんが部活に入ったのは兄離れをするためだと思い込んでいたのだ。でも妹ちゃんはそんな単純な理由だけではなく、兄にはふさわしくない女さんと兄の関係を何とかしようとしてパソコン部のドアを叩いたらしかった。
妹ちゃんは何を望んでいたのだろう。兄と女さんを別れさせて、自分は兄離れをする。そして一人になった兄にあたしをくっつけようとしたのだろうか。
『お姉ちゃん・・・・・・』
『もうあまりあたしのことは甘やかさなくていいよ』
『お姉ちゃんももう自分に素直になって』
『でないと本当に女さんにお兄ちゃんを盗られちゃうかもよ』
あたしは前に妹ちゃんに言われた言葉を思い返した。
「いろいろあったけど僕は妹とお互いに好きあう仲になって・・・・・・これは正直な気持ちなんだけど僕にとってはもう女さんのこととかどうでもよくなって」
会長は話を続けた。「妹がいてくれれば過去のことなんてどうでもいい、女さんが兄君のことを好きなこととか女神をしていることとかどうでもよくなったんだ」
「じゃあ、何で会長は鈴木先生に女さんの女神行為を知らせるようなことをしたんですか?」
「・・・・・・妹の望みをかなえてあげたかったから。だから僕は妹にも黙ってメールしたんだ。でもそのメールを出した後で妹に言われた」
会長は苦しそうに話を続けた。その話は意外なものだった。妹ちゃんが兄と女さんの付き合いを認めたらしいのだ。でもそれは会長が妹ちゃんに黙って鈴木先生にメールを出した後だった。
『恋愛って当事者同志じゃなきゃわからないんだよね。あたし、初めて恋をしてよくわかった』
『・・・・・・うん』
『お兄ちゃんが女さんのことを、女さんの女神行為のことを承知していても女さんが好きなら、あたしはそれを邪魔しちゃいけないのかもしれない』
『あたしにはブラコンかもしれないけど、それでもお兄ちゃんの恋を邪魔する資格はないと思う。今ではあたしの一番好きな男の人は、お兄ちゃんじゃなくて先輩なんだし』
『だから先輩、あたしが前に相談したことは全部忘れて。あたしはお兄ちゃんと女さんのことは邪魔しないし、お兄ちゃんの味方になるの。今ではあたしには先輩がいるんだし、もうお兄ちゃんの恋を邪魔するのは止める』
その時にはもう手遅れだった。女さんの女神行為は鈴木先生に知らされてしまっていたのだ。妹ちゃんに初めてできた彼氏の手によって。
「全ては僕のせいだ。妹にはこうなった原因が僕にあることは言えなかったけど、仮にばれて彼女に嫌われてもしようがないと思っている」
会長が話を続けた。「でも僕が今日君に言いたかったのはそんなことじゃない」
会長は相変わらず青い表情で、でもしっかりとした視線であたしを見つめた。
「妹と仲のいい君には話しておきたいんだ。さっき書記さんの話を聞いて、この話はそんな僕たちの単純な行き違いから始ったものじゃないみたいだと気がついたから」
ここまでの話だけでも混乱していたあたしは、この話に加えて会長が何を言いたいのか予想も出来なかった。そしてそんなあたしを気遣う余裕すらないように会長は続けた。
「誓って言うけど僕がしたのは最初のメールを出したところまでなんだ。その後の名前バレとか裏サイトの掲示板とかの書き込みには僕は一切関与していないんだよ」
女さんを本当に追い詰めたのは学校側に女神行為が知られたことではなく、広くネット上にその行為が実名付きで出回ったことだった。会長の話が本当だとすると、他に女さんを追い詰めた犯人がいるということになる。
あたしは兄友と副会長先輩の会話を思い出した。やはり彼らが真犯人なのだろうか。まだ真実はわからないけれど思っていたより複雑な動機が絡み合ってこの事態が生じたことは間違いがないようだった。そして会長は真の犯人ではないのだろうけれども、これを始めた犯人の動機に密接に関与しているらしかった。
「そして、副会長と次女さんと妹友さんが姉妹だったっていうことは、僕はさっき初めて聞いたのだけど」
会長が顔を上げた。「これまでそのことを僕が知らなかったこと自体が不自然だと思う」
会長は何を言っているのだろうか。あたしは会長の次の言葉を待った。
相変わらず短いですけど今日は以上です
明日は飲み会なので投下はありません
こんだけ短いと、一週間おきくらいにスレを覗いてまとめ読みした方がいいかも
ではおやすみなさい
おつおつ
おつんぽ
乙です。一気に話が展開していきそうですね。投下されたの読むたびにどんどん引き込まれていきます。
おつん
真相が近づいてきてる
本日も諸事情につき休載です
また明日できれば投下したいと思います
すいません
おう!
今夜これたらおいでやす
「僕は中学の頃それなりに女の子から告白されたことがあるんだけど」
会長は続けた。「まあ信じてもらえないかもしれないけど」
こんな時なのにわざわざそういう余計な一言を付け加えたのがいかにも女性関係に自信が無さそうな会長らしかったけど、そのことに可笑しさを感じる余裕はこの時のあたしにはなかった。
「それにもてたと言ってもほとんどみんな勘違いとか思い込みでね。僕が相談に乗っている相手が自分に親身になっている僕のことが気になるようになったとうだけで、まあ、そういう子はみんな自分が好きなんだよね」
「はあ」
会長の話がどこに繋がっていくのかあたしにはわからなかった。
「そんな中でも次女さんだけはそうじゃなかった・・・・・・生徒会で副会長をしていた彼女は控え目で優しい子だったんだけど、どうやら本気で僕のことを好きになってくれたみたいだった」
「その次女さんの告白を、当時女さんと付き合っていた僕が断ったのは今話したとおりだけど、よくわからないのは次女さんは女さんと同じクラスだったから僕が女さんと付き合っていることは知っていたはずなんだ」
「じゃあ、同級生の彼氏を奪おうとしたってことですか? その控え目で優しいという彼女が」
「そうなるんだ。当時の僕は女、・・・・・・さんに夢中だったから深くは考えなかったのだけど、今にして思えば同級生の彼氏にわざわざ告白するような子には思えないんだ」
しかし、会長の思考能力はすごく高いなとあたしは考えた。今の今まで何年間も忘れていたことや知らなかったことを書記ちゃんに意外な事実を聞かされただけで、すぐに当時の出来事の矛盾点を思いついたのだから。
こういう人が味方になってくれると力強いだろうな。現にさっきあたしたちでは宥められなかった三年生の部長たちを納得させてしまったのも会長だった。
でも、会長が本当に味方になれる立場にいるかどうかはまだわからない。とにかく女さんの女神行為を鈴木先生に言いつけて、兄と女さんの誰にも迷惑をかけていない二人だけの小さな幸せを壊すきっかけをつくったのは会長に間違いないのだから。
「それに次女さんの告白を断った時の女の反応も、今にしてみれば冷たすぎたような気がする。あの当時女に夢中だった僕でさえ違和感を感じたほどに」
会長は必死になって当時を思い出しそして推理しようとしていたから、女にさん付けする配慮にまで気が回らなくなったようだった。
会長が少しづつ思い出して語ってくれたその当時の出来事とは。
『先輩、何であの子の告白断ったの?』
女さんの質問に、当時は女さんにベタ惚れしていた会長が答えた。
『僕は、君のことが好きだからね。副会長と付き合うなんて考えられないよ』
『ふーん。そうなんだ。副会長ちゃん、可哀想』
女さんはそれだけ言って、もう副会長のことはどうでもいいとばかりに、自分が最近考えていることを話し始めた。
その時の女さんの反応があまりにも淡白だったせいで、珍しく会長の中に彼女への反発心が湧き出してきたそうだ。
会長の心の中に副会長の緊張して泣き出しそうな顔を思い浮かんだとか。
これでは、あんまりだ。僕の気持ちも副会長の気持ちも救われない。
会長が思い出した事実やその時先輩が抱いた感情とはこういうことだったそうだ。
「でも違和感と言うのはどういうことなんですか?」
あたしは聞いた。思春期の少女の略奪的な恋愛衝動なんてよくある話だし、女性経験が少ない会長が自分を好きになった次女ちゃんを聖女みたいに祭り上げていたから違和感を感じるだけではないのか。
女さんの冷たい反応だって、普段から他人に関心を抱かなかった女さんの姿を知っていたあたしには別に意外とも思えなかったのだ。
「ここから先は完全に僕の想像なんだけど」
会長が話を再開した。
「僕は妹のためなら自ら泥をかぶろうと決心したんだよ。女の女神行為を晒すっていうことは、万一晒した犯人が生徒会長の僕だとわかったら、晒された女ほどではなくても僕の評判だって地に落ちるだろうとは思ったけれど」
「さっきも言い訳したように僕は女の女神行為を徹底的に晒す覚悟は出来ていたけど、結局途中でそれを止めた。妹が今ではそれを望んでいないことがわかったから」
「・・・・・・でも、ほぼ同じタイミングで女さんの実名とか住所とかが晒されて、それに学校裏サイトにもそのことが載ってましたよね」
それが女さんにとって致命傷となったのだった。女さんの女神行為が学校当局に知られただけなら、広く校内の生徒たちに広まらなかったら、女さんが転校や引越しするほど追い込まれることはなかっただろう。
「そうなんだ。誰か僕の他にそれをしたやつがいる」
「ひょっとしたら学校とか女さんの関係者以外の人かもしれないですね。最初はexifとかっていうデータを解析されたんでしょ? それなら誰でも犯人の可能性はあるし」
あたしはふと思いついて言った。
「それだけならそうかもしれないけど、その画像の主を女さんに結び付けて実名を晒すなんて、知り合いじゃなきゃできないだろう」
「それはそうか」
気が重いけどやはり核心にはこの学校の関係者がいることには間違いがないようだった。それに兄友と副会長先輩の会話のこともある。そして副会長先輩と最初に鈴木先生に対して行動を起こした会長の過去とが今繋がったということもあった。
「僕がしたことを知られれば妹にはきっと愛想を尽かされるだろう。今までは黙って忘れようと思っていた。情けない判断だけど僕は妹に嫌われることだけはしたくなかったから」
会長が続けた。「でも、次女さんとかが登場して僕や女に会いたいって言ったことが本当なら、これは単なる偶然では済ませられないだろ」
「じゃあ、会長の言う違和感って」
「うん。それは女への嫉妬とか全くなかったわけではないけど、基本的には本当に偶然に妹と付き合うようになってこの出来事の関係者になったんだと自分では思ってたんだけど」
「そうじゃないんですか?」
会長の顔が再び青くなった。
「僕は最初から関係者、というかターゲットの一つだったのかもしれないね」
「それは次女さんが出てきたからですか? 考えすぎじゃ」
「今日まではっきりと僕が妹と付き合っていることを知っていたのは妹友ちゃん、あとは副会長が疑っていただけだ」
「・・・・・・はい」
「妹友ちゃんが僕たちの仲を知った日、つまり僕が鈴木先生にメールを出した翌日以降、女はネット上で実名バレしたんだ」
「今までこんなことをするやつは兄君のことが好きだった関係者が兄君と女を別れさせるためにしたんだって僕は無意識に思い込んでいたんだけど」
確かにそれはそうだった。あたしもそれ以外の理由は考えたことすらなかった。ぼっちの女さんをこれ以上陥れるためだけに面白半分でこんなことをする人はいないと。
「君もそう考えてたんじゃないかな」
会長の言葉にあたしはうなずいた。
「でもそうじゃないとしたら。今、女と僕の中学時代の付き合いに密接に関係のあるやつらが三姉妹だとわかった。うち一人は僕に振られた次女さん。もう一人は・・・・・・君も知ってのとおり君に振られた僕が妹と一緒にいるのを見て僕のことをさげずんだように話していた副会長だ」
「そして、タイミング的にはこの出来事が始まる直前に僕が妹と付き合っていることをはっきりと知った妹友さん」
「どういうことです?」
「ターゲットは兄君じゃなかったんじゃないのか。兄君はいわば巻き込まれた被害者なんじゃないのかな」
「じゃ、じゃあ。本当の狙いは誰なんですか」
あたしの声は震えていたかもしれない。推測に過ぎないことはわかっていたけど、自らに何ら非がないのにあんな風に抜け殻のようになっている兄のことを考えると動揺を押さえ切れなかった。
「最初から女さんを陥れるためだったのか、あるいは僕のこともターゲットだったのかもしれないね」
先輩は相変わらず顔を青くしてはいたけど、言葉はしっかりとしていて冷静な口調だった。
短くてすいません。今日はここまで
可能ならまた明日再開したいと思います
もつかれ
ふむふむ
ほほう
楽しくなってきたな
乙
先輩の話を聞いてあたしは再びあの時の会話を思い出していた。その中でも特に最後の部分を。
『あの二人を別れさせたいんでしょ?』
『・・・・・・それは』
『それが兄のためなんでしょ? もう始めてしまったことだし、今更引き返かせないでしょ』
女さんの女神行為が発覚した時、あたしたちはみなそれは自業自得だと思った。誰もがアクセスすることができる掲示板で不特定多数の人たちに自分のヌード画像を公開していた女さん。彼女がいったい何のためにそんなことをしていたのか、その行為によってどんな利益を得ていたのかはわからなかったけど、ただ純粋に高校生が裸を見せるという行為だけでも、彼女が破滅に至るには充分な動機に思えたから。
そして兄はその巻き添えになったのだとあたしや妹ちゃんは考えていた。だから兄までが校内から悪意や好奇心に溢れた視線に晒されるようになった時、あたしたちは結束して兄を守ろうとしたのだった。
でも、あたしが耳にしてしまった兄友と副会長先輩の会話では、この一連の出来事は女さんを陥れること自体が最終目標ではなく女さんが陥し入られ姿を隠すことを余儀なくさせられることによって、兄と女さんを別れさせることが真の目標だというように聞き取れた。
あたしが理解できなくて悩んでいたことの一つに、副会長先輩とこの出来事への関わりが不明ということがあったのだけど、それはすごくおぼろげながら会長の話によって少しだけその姿が見え始めていた。副会長先輩は次女さんのお姉さんだ。そして次女さんは中学二年の時に生徒会長を女さんと取り合ったことがあるらしい。これで副会長先輩と被害者である女さんとの繋がりが見えてきたのだった。
「これは今改めて想像したことなんで証拠も何もないんだけど」
会長が話を続けた。
「次女さんは僕が女と別れる気がないと知って、しつこくすることもなく身を引いた。そしてその後も生徒会では普通に僕と話をしてくれていた」
「でも・・・・・・僕は当時は女に夢中だったから全然気にしなかったのだけど、彼女にしてみれば随分酷いことをされたと思ってたとしても無理はないかもね。何しろ当時の僕は今と一緒で、自分の彼女と過ごす方を優先して生徒会活動の方を後回しにしていたのだし」
あたしはこんな深刻な話をしている時なのに笑いたくなった。結局しっかりしているように見える会長は女さんの時も妹ちゃんの時も同じことを繰り返しているんだ。会長の妹ちゃんに対する愛情はどうやら嘘ではないようだった。そしてこの人が人を愛する時にはここまで全身で愛するということが中学時代から変っていなかったとしたら、次女さんもさぞかし一緒に活動していて辛かっただろう。
「もう一つ久し振りに思い出したことがある。それは僕が高校に合格したことを報告しに母校に行った時のことなんだけど」
「はい」
「その日、二年生の教室には女はもういなかった。二日前に東北の方に転校していたんだ。僕には何も知らせず別れさえ告げずにね」
ではこの人も相当辛い経験をしていたのか。あたしは思いがけない展開に驚いた。会長の中では中学時代の女さんとの恋愛はもう昔話になっているのかと思っていたのだけど、ここまで辛い経験をしたらそれが会長のトラウマになっていたとしても不思議ではなかった。
あたしは自分の中で何となく会長を謎解きの味方のように考えていた気持ちを修正した。こういう経験をした人なら久し振りに再開した女さんを陥とし入れようと考えても不思議はないだろう。
あたしのそういう思考は表情に出てしまったようだった。いきなり警戒するような表情になってしまったあたしに会長は苦笑した。
「いや、確かにあの時は相当堪えたけど。さっきも話したように今は女への未練も憎しみも本当にないんだ。自分でも不思議なくらいにね。多分、いや間違いなくそれは妹のおかげなんだけど」
会長はあたしの視線を忘れたのか、そこで妹ちゃんを思い浮かべているのか幸せそうな表情を浮かべた。
その表情を半ば飽きれ気味に見ているあたしの視線に気がついた先輩は顔を赤くして話を続けた。
「それはともかく。その時女のいない二年生の教室で僕が女が東北に引っ越したことを聞いたのは、次女さんからなんだ」
「その時の僕はショックを受けていたから、その時の次女さんの表情とか感情を観察するような余裕は無かった。でも、今にして考えてみると」
会長は思い詰めたように言った。
「二重の意味で次女さんにはショックだったと思うよ。一つは彼女の純粋な僕への気持ちを僕が断ったのは女が好きだったからだけど、その女が僕に何も知らせずにあっさりと僕を捨てて黙って転校して行ったこと」
「次女さんが本当に僕のことを一時の気まぐれでなくて愛していたのだとしたら、そんな僕が心を奪われていた女があっさりと僕を振ったことはいろいろな意味でショックだったろうな」
「先輩は次女ちゃんが先輩を本当に好きだったと思っているんですね」
あたしは少しだけ意地悪に聞いた。女性関係に自信がない会長にしては随分思い切って断言していたから。
「さっき書記さんに次女さんが僕に会いたいと言っていたと聞いたときにそう思ったんだ」
先輩はそんなあたしのことを気にした様子もなく続けた。
「そしてそんな彼女が女神行為をしている女のことを知ったら。次女さんが何かをしでかしたとしても不思議ではないし」
「それからもう一つは、多分当時の僕は僕のことを気にして慰めてくれた次女さんのことをまるっきり無視するよう態度を取ったんだと思う。記憶にはないけど、僕は女が黙って転校していってしまったことにショックを受けて周囲を気にする余裕なんかなかったはずだし」
先輩は必死に当時の光景を思い出そうとしているようだった。
「じゃあ、先輩は次女ちゃんが女さんを落とし入れた犯人だと言うんですか」
「・・・・・・それはわからない。副会長や妹友さんのこともあるし、そんな単純なことでもないかもしれないね。それに次女さんは女に会いたいとも言っていたらしいし」
「・・・・・・それじゃ何にもわかっていないのと同じですよね」
あたしはついきついことを口にしていた。
「まあ、そうだ。でも、僕にとっては最終的に女のことを追い詰めたのは僕じゃないことを証明したい。それで妹に許してもらえるかはわからないけど、それでも事実が知りたいんだ。本当のターゲットは女なのか兄君を別れさせることなのか」
「先輩はさっき先輩自身がターゲットだったのかもと言いましたよね。それはどういう意味なんですか」
あたしはさっきから会長を問い詰めるような質問をしていたけど、やはり謎を解くには会長の分析能力が必要なのではないかと考え出していた。
「次女さんがあれだけ僕に優しく振る舞ったのに、僕は彼女の気持ちなんか全く考えずにいたわけだけから、彼女が僕を恨んでもしかたないでしょ」
会長が戸惑ったように言った。
「おかしいですよ、それ」
あたしは思わず突っ込んだ。「次女さんが自分に関心がなく自分に冷たくした先輩に復讐しようとしたんだとしても」
「結局、次女ちゃんの妹の妹友ちゃんが先輩と妹ちゃんとの関係を知ってから女さんへの攻撃が始まったわけじゃないですか? 先輩の担任へのメールを別にすれば」
「そうなるけど」
「先輩と妹ちゃんが付き合い出しているなら女さんが晒されて攻撃されたって、先輩が傷付くことにはならないでしょ」
会長は考え込んだ。
「それは・・・・・・そうだね。何しろ一時は僕自身が女を落としいれようと思ったくらいだしな。君の言うとおり女を酷い目にあわせたってそのことによって僕が傷付くことなんてあの時はもうなかったし、僕が妹と付き合っていることを知っていればそのことは次女さんたちにもわかっていただろうね」
会長の困惑した表情を見た時、あたしは心を決めた。間違っているかもしれない。会長がいい人である保証なんて何もない。
でも、あたしは妹ちゃんが愛しているという会長を信じてみようと思ったのだ。兄のためにも、そしてあたしのためにも。真実を知るためにも。
「先輩、実はあたしも知っていることがあるんです。これまで誰にも話せなかったんですけど」
「うん。話してみてくれるか」
「それを話したら・・・・・・先輩はあたしを助けてくれますか。あたしは真相が知りたいんです。兄をここまで苦しめることになった出来事の原因、それに・・・・・・あたしもそのせいで失恋したかもしれないですし」
会長は驚いたようにあたしを見つめてしばらく黙ったいた。その沈黙は案外長く続いたのだった。あたしは会長の返事を待ちながら抜け殻のような兄の姿や、あたしに兄を託して去って行った妹ちゃんや兄友の姿を思い浮かべていた。
「わかった、協力する」
会長はあたしを真っ直ぐ見て言った。「僕の過去のことも関係があるかもしれないし、何より妹とは破局になるかもしれないけど最初のメールを出したのは僕自身だし」
あたしはもう迷わず会長に言った。
「先輩が知らない事実が一つあります。副会長先輩と兄友、兄友って知ってましたよね? その二人の会話を立ち聞きしちゃったんですけど」
あたしは会長に副会長先輩と兄友の会話を明かした。
この時からあたしと会長との犯人探しの共闘が始ったのだった。
今日は以上です
多分、2〜3日の間業務多忙で投下できないと思います
次々回あたりから次フェーズに入ります
ではおやすみなさい
おつ
ふむ
乙
わくてか
ひたすら待機中
会長はあたしが偶然に聞いた副会長先輩と兄友の会話の内容を知り、しかもそれが実際はもう女さんが見バレした後のものであることを知ると再び考えこんでしまった。
きっと副会長先輩たち三姉妹と女さんの繋がりを知った会長は、不十分ながらも謎の解明に至る道筋がおぼろげに見えていたのだろうけど、更に副会長先輩と兄友の繋がりを知った今、もう考えをまとめる気力は尽きたようだった。
「とりあえずもう少し落ち着いて考えてみるよ。今日のところはこの辺にしておこう」
会長が言った。
「わかりました・・・・・・あたしは生徒会室に戻りますね」
「僕は部室に妹を待たしてるんで今日はこれで失礼するよ」
「はい。あ、先輩?」
「うん」
「明日、副会長先輩が出てきたらどうしたらいいでしょう? 直接聞いてみても大丈夫でしょうか」
会長が首を振った。「いや。まるで見通しも立っていない中でやみくもに問い詰めたって答えてくれる訳がない。むしろ警戒されるのが落ちだ。しばらく何も知らない振りをしていよう」
「はい」
やはり会長の判断力は優れているなとあたしは考えた。さすがの先輩も真相に至る端著に取り付けたとはいえないけど、今どう行動すべきかという質問には即座に回答が帰ってきた。あたしは妙な安心感に包まれていくのを感じた。もう一人でこの謎に立ち向かわなくてもいいのだ。
「それじゃまた明日」
先輩は屋上から去って行った。妹ちゃんの待つ部室に向ったのだろう。
あたしは今日の出来事を思い返すことをやめてベッドに横になった。もう既に日付は変わってしまっていた。
翌朝、あたしは話しかければ普通には答えてくれるけど、放っておくとすぐに自分の考えに浸ってしまう兄と一緒に登校した。
あたしにはその朝兄の気持ちを思いやる余裕はなかったので、黙って何かを考えている兄の隣で自分の考えというか感慨にふけっていた。
兄のため、そして自分のために一連の出来事の真相を知ろうと決心したあたしだったけど、その戦いは孤独なものだった。かつていつでも兄とあたしと行動を共にしていた妹ちゃんも兄友も、今では兄とあたしから距離を置いていた。
それどころから兄友には今や犯人である可能性さえ出てきていたのだ。また、今の兄には今では冷静かつ客観的に推理し判断する心の余裕はなかった。そういう意味ではあたしは一人でこの重すぎる荷物を持ち上げようと試みるしかなかったのだ。
そんな時あたしの前に救世主が現われた。それが会長だった。会長の論理的な思考力は頼りになる。一人で混乱した気持ちを持て余しながら必死に考えていてもなかなか結果は出なかっただろう。せいぜい兄友や副会長先輩に勇気を出して直接問い質し、そして会長の言うように無
駄な警戒を抱かれ知らぬ存ぜぬを決め込まれていたかもしれない。
そういう意味では会長の助力は本当に助かったのだけれど、それでも気分の高揚は訪れてこなかった。以前兄友と二人で兄の気持ちを振り向かせる作成を仕掛けたときに感じた、わくわくした感情は一向に感じるができず、重苦しい気分も今までと変わらなかった。
考えてみればこれで真実が明らかになったとしても、兄にとってもあたしにとっても何もいいことはないのだ。兄が復讐心を向ける対象ははっきりするだろうけど、それでネット上に流出した女さんの情報が消えることはないし。女さんが姿を現して再び兄と一緒に過ごせるようになるという
こともない。それはあたしにとっても同じだった。
兄友と副会長先輩の会話を考えれば、兄友が女さんを落としいれた出来事に彼が関係していることに間違いがないだろう。兄を助けてやれという彼の言葉で宙に浮いてしまったあたしの兄友への恋心は、あの二人の会話によって完全に壊されてしまったのだ。
だから真相がどうあれあたしの兄友への想いがかなうことはないだろう。
兄やあたしだけではなく、謎解きに参加してくれた会長にとっても真相が明らかになることによるメリットはないどころか、むしろデメリットしかなかった。妹ちゃんに黙って行動を起こしてしまったことを悩んでいた会長だけど、この先真実が明らかになっていけば当然その中で会長が果たし
た役割だけを伏せておくことは出来ないだろう。だからこれは会長にとっては不幸へと繋がる道なのだけど、それでも昨日の会長は怯んではいなかった。あんなにも愛しているはずの妹ちゃんは失うかもしれないのに、会長は事態を放置するよりは真相を明らかにする方を選んだのだっ
た。
そして同じ理由で、真相が明らかになることは会長を慕っている妹ちゃんにとっても幸福をもたらすことはないだろう。今だけは妹ちゃんは幸せなのかもしいれないけど、それは真相が明らかになるまでの間だけのことだった。
それでももう後へは引けなかった。会長が自分に何が起こるかを承知のうえで協力しようと言ってくれたのだから、あたしも初心を貫徹するだけだった。
「何か最近はお前の方が落ち込んでるみたいだな」
それまで黙っていた兄が突然あたしを見て言った。「何か悩みでもあるのか」
「昨日ちょっと寝不足だったから」
あたしは慌てて誤魔化した。
「そんならいいけど・・・・・・何かあるなら相談しろよ。俺たちの仲だろ」
あたしは兄が昔からこういう性格だったことを忘れていたのだった。いろんな意味で平凡だと言われてきた兄だったけど、あたしと妹ちゃんだけが知っていることがあった。彼は大切な人に対しては自分がどんな状態であっても常に気を配って可能なら援助しようとするのだ。それがあまり
知られていない兄の美点の一つだった。
妹ちゃんに悩みがある時には、兄は自分が風邪で高熱があり気分が良くないにもかかわらず長時間にわたって妹の悩みを聞いて慰めたりということがよくあった。そして今、兄のその性質はあたしに向けられたようだった。兄が一番好きな恋人としての女性は女さんだ。そして意味は違
うけど家族として一番大切にしているのは今でも妹ちゃんだったろう。ではあたしはどうだろう。兄の意識の中ではあたしはどういう位置を占めているのだろうか。
「ありがと。何かあったら相談させてもらうよ」
「そうしろ。俺だって今までおまえには心配かけてるんだしお互い様だろ」
幼馴染としてか。それとも過去にあたしを振ったことが兄の中では負い目となっているのだろうか。
校内に入ったところで半ば無意識にあたしは部活棟の方を眺めた。案の定妹ちゃんと会長が寄り添って部室棟を出て来た。会長は穏やかな気持ちで過ごせているのだろうか。あたしはその時ふと考えた。
久しぶりな上に短い投下ですいません。
明日は休みなので多分再開できると思います
中断してしまってすいませんでした
乙!
あたしが放課後学園祭の準備に向った時、会長は放課後の生徒会室の前で所在なげに立っていた。
「会長、何してるんですか?」
あたしは驚いて尋ねた。学園祭の準備の指揮を執りにきたのではいだろう。多分会長は昨日の話の続きをしようとしてあたしを待っていたのだろうけど、生徒会長なのだから生徒会室の中で堂々と座って待っていればいいのに。
「君を待っていた。昨日の件で」
会長がせわしなく答えた。「少しだけど君に報告しておきたくて」
「それなら生徒会室で待っていてくれればよかったのに」
あたしは少しだけ飽きれて言った。「生徒会長が入り口で突っ立っていたら目立つと思いますよ」
「いや。時間がないんだ」
「妹ちゃんと約束ですか」
あたしはその時ほんの少しだけ会長と妹ちゃんを羨ましく思った。こんなことになってもお互いに共に過ごしたいと思える人がいる二人に対して。でも会長は首を振った。
「今日は一緒に帰れないって妹には言ったよ。それより中学時代の知り合いに連絡を取ったんだ。次女さんは間違いなく、そして多分副会長や妹友さんも僕と同じ中学だろうから何か情報を得られるかもしれないし」
「そうですか。先輩、あたしは何をすればいいんでしょう」
あたしは早速会長に頼り始めていたようだった。
「とにかく学園祭の準備に集中してほしい。またスケジュールのミスみたいなことがないようによく見ていてほしいんだ」
「それじゃ・・・・・・いえ、わかりました。副会長先輩には何も言わず一緒に学園祭の準備に専念します」
「頼むよ。じゃ、僕は中学の時の知り合いに会いに行くから」
そういい残して会長は生徒会室に顔を出すことなく足早に去って行った。
あたしはしばらく会長が消えて行った廊下の先を見つめていた。何だか夕方の日差しがいつも見慣れているのと違う角度から差し込んでいるようだった。
会長が動くと本当に真実が明らかになるかもしれないとあたしは改めて思った。でもそのことであたしたちに何がもたらされるのかはまるでわからなかった。このまま真実が不明の方がいいということすらあるのかもしれない。
あたしはため息を押し殺して生徒会室のドアを開けた。
意外なことに副会長先輩は今日も生徒会室に姿を見せていなかった。というか書記ちゃんによれば授業そのものを休んでいるみたいだった。
「妹友ちゃんは単なる貧血でたいしたことはないって聞いてたのにね」
書記ちゃんがあまり気にしている様子もなく軽い口調で言った。「何で副会長先輩は学校まで休んでるのかなあ」
「さあ」
あたしは会長が現在進行形で副会長先輩たちのことを探っていることを考えた。副会長先輩は何かに気がついて警戒しているのだろうか。
でもその割には一方の主役ではないかという疑惑のある兄友の方は普通に授業に出てきていた。もちろんあたしとは会話をするどころか目すら合わせようとはしなかったけど。それは今はあたしにとって好都合だった。兄友とのコミュニケーションを失って胸にぽっかりと穴が開いているような喪失感を感じていた時期は去り、情けないことに今ではあたしは兄友と会話をしないで済むことにほっとしているのだった。
そして副会長先輩についてもそれは同じだった。会長の指示通り副会長先輩とはいつもどおり接することに決めてはいたけれども、副会長先輩に不審がられず普段どおり接することが出きるか正直とても不安だった。
その意味では副会長先輩が不在と聞いてあたしは気が楽になったのだけど、副会長先輩の不在は生徒会や学園祭実行委員会にとってはあまり望ましいニュースではなかったのだ。
「ねえ。どうしよう」
書記ちゃんが気軽そうな口調を変えて珍しく真面目に言った。「みんな副会長先輩に割り振られた作業が終っちゃいそうでさ。次にどうすればいい? って聞かれてるんだけど」
「一々指示がなきゃ何もできないのかな、みんなは」
あたしは少しイライラして強い口調で喋ってしまったようだった。書記ちゃんが少し驚いたようにあたしを見ている。
「まあ、そうは言ってもスケジュール管理をしていたのは副会長先輩だったから無理はないか」
あたしは取り繕うように言った。「ちょっと副会長先輩のスケジュール表を見てみるよ。それから出せるような指示するから」
「うん、幼馴染ちゃんお願い。それにしてもうちの生徒会長も副会長も責任感全くないよね。学園祭の直前になって職場放棄するなんて」
ふたりともあんたには言われたくないだろうなとあたしは考えたけど、これはまあ書記ちゃんに一理あった。あたしたちは今や責任者不在で学園祭の準備を何とかしなければならなくなったのだった。
副会長先輩はともかく会長が学園祭の準備を放り出して今何をしているのかあたしにだけはわかっていた。そして正直に言うと少し心配にもなっていた。少し会長は性急過ぎないだろうか。
常識的に考えれば今会長にとって今一番大切なことは女さんが何のために誰によって陥れられたのかを解明することではないはずだった。
今の会長にとっては大切なことは女さんを巡るできごとの解明ではなく、学園祭が無事開催されること、それに妹ちゃんを安心させ満足させることのはずだった。それなのに会長は今や事態を解明することを一番の優先事項にしているようだった。
妹ちゃんに断りなく鈴木先生に女さんの女神行為を告げ口してしまった罪悪感からなのだろうか。それともそのことを妹ちゃんに隠しているという罪の意識をこれ以上保っていることに耐えられなくなって、たとえどんな結果になったとしても妹ちゃんに自分のしたことを告白したいと思うようになっていたのだろうか。そしてそのために全容を解明して妹ちゃんにそれを伝えると同時に、自分のしてしまったことを妹ちゃんに伝えようと思い詰めているのかもしれない。
いずれにせよ会長も副会長も不在な以上、これまで副会長先輩の補佐を努めてきたあたしがその代理をするより他に手はなかった。あたしはこの日から謎の解明は会長に任せて必死で学園祭の準備を指揮することになったのだった。
そうして夢中になってスケジュール管理や人員、物品の配分などを行っていると、今さらながらこれまでの会長の仕事の的確さや組織を動かす手際の良さなどが理解できてきた。あたしの目からは副会長先輩もよく学園祭の準備を仕切っているように見えていたのだけれど、実際に副会長先輩の残した書類をチェックしていくと細かな荒や思い込みによる矛盾した計画があちこちで見られた。
前に書記ちゃんが巻き起こした騒動も別に書記ちゃんだけの罪ではなく、副会長先輩が書記ちゃんに与えた指示が大雑把だったことが原因だった。こういう矛盾点を解消しつつ指示を求めてくる実行委員たちに対応するのは楽なことではなかった。
あたしは改めて会長の能力の高さに感嘆しながらふと考えた。次女さんという子は中学時代に会長の下で一学年年下ながら生徒会の副会長を務めていたそうだけど、中学生時代にこれだけ能力の高い会長の姿を身近で見かけていたら会長のことを好きになったとしても不思議はないだろう。
会長は容姿や運動神経や社交性などの点でコンプレックスを抱いていたみだいだけど、女の子は必ずしも全部が全部そういうところに惹かれるわけではない。一般的なアイドルとして人気が高いのはそういうイケメンなのだろうけど、たとえそうでなくても身近でてきぱきと課題を処理する男の子の姿を目前にすれば、その子が会長のような男の子に惚れこむことだって十分にあり得るのだ。
中学時代の会長と次女さん、それに女さんの間には会長が語ってくれたこと以外にも何か事情があるのだろうとあたしは考えた。
でもそれ以上推察にふける暇はなかった。あたしは書記ちゃんの不承不承の協力を得ながら何とか学園祭当日までの間、綱渡りのように必死で準備に努める以外の暇はなかったのだった。
こうしてあたしにとって忙しい一週間が過ぎた。来週の学園祭に向けて準備は佳境に入っていたけれど、学校側の指示で週末の休みの作業は禁止されていたからあたしは土曜日の朝久しぶりに寝坊した。
朝起きるともう十一時近かった。とりあえず着替えようとしてベッドからもそもそと起き上がったところであたしの携帯が鳴り響いた。見知らぬ番号からの着信だったけどあたしは反射的に電話に出た。
「幼馴染さん? 生徒会長ですけど」
会長の声が電話から耳に響いてきた。あたしはこれまで会長から電話を貰ったことはなかったけど、生徒会役員の緊急連絡表には全役員の携帯電話の番号とメアドが記されていたから会長があたしの電話番号を知っていても別に不思議なことではなかった。
「幼馴染です。おはようございます、先輩」
あたしはまだ半分眠っていた心を無理に叩き起こしながら答えた。
「休みの日に悪いんだけど、これから会えないかな?」
会長ははっきりとした声で遠慮することなくあたしに言った。
「これからですか?」
あたしには別に予定はなかったけど、何で休日に先輩があたしを誘うのだろう。例の件のことなら休日に会って打ち合わせするようなことではないだろう。校内で空いている時間に会えば済むことなのに。
その時一瞬すごく傲慢で自分勝手な考えが心をよぎった。まさか会長は女さんの件をだしにあたしをデートに誘う気ではないのか。以前あたしは会長に告白されそれを断った。その後会長は妹ちゃんと付き合い出したのだけど、まさかまだあたしに未練があるのだろうか。
「そんなに時間は取らせないから。君の家の最寄り駅の駅前にマックがあるよね? 一時間後にそこに来れるか」
でもデートに誘うには会長の声には余裕がなかった。とにかくすぐにあたしに話したいことがあるみたいだった。
「わかった。先輩の言うとおりにします」
「ありがとう」
それだけ言って会長はすぐに電話を切った。
あたしが店内に入ると、奥まった席の方からあたしに手を振っている会長の姿が見えた。あたしは注文して受け取ったコーヒーが乗せられたトレイを持って会長の向かいの席に座った。
「いきなりどうしたんですか?」
あたしは会長に聞いた。会長の表情を見て、あたしはついさっき考えた失礼な思い付きを後悔した。会長はあたしをデートに誘ったのではない。何か重要なことをあたしに伝えようとしているのだ。
「今週はずっと中学時代の知り合いに話を聞いていたんだ。思ったより僕のことを覚えていてくれる人がいたんで、結構たくさんの人に会っていたから時間がかかったけど」
会長は疲れたような表情で言った。
ではあの生徒会室の前で別れた後、会長はずっと聞き取り調査を続けていたのだ。それにしてもその間放置されていた妹ちゃんは大丈夫なのだろうか。妹ちゃんが好きな相手に捧げる愛情は無限大だ。それは兄が妹ちゃんの唯一の愛情の対象だった頃から明白だった。
そしてその愛情の分、彼女は相手にも相応の愛情を要求するのだ。でも、それは今あたしが会長に忠告することではなかった。きっと会長だって承知のうえで妹ちゃんを省みずに調査に専念したのだろうから。そして逆説的だけどそれが会長の妹ちゃんへの愛情の深さを表わしているのだろう。でもそれを妹ちゃんが理解するかどうかは別な話だった。
「副会長三姉妹はやはり僕や女と同じ中学だったよ」
会長はいきなり本題に入った。それ自体は予想できていたことでもあったけど。
「そして、彼女たちの家は中学の近くにあるのだけど、その隣に住んでいて彼女たちと仲のいい幼馴染の男の子がいたんだ」
「はあ」
あたしには会長が何を言わんとしているのかわからなかった。
「そしてその男の子は兄友君だ」
周囲から一瞬音声が消え失せた。ではこれで副会長先輩と兄友の間が繋がったのだ。
「でもそれだけじゃない」
会長はあたしの方に身を寄せた。大声を出したくないのだろう。あたしも反射的に会長の方に顔を近づけた。
「それだけじゃないのね。先輩はこの後どんなふうにお姉ちゃんを口説くつもりなの」
それは会長の声ではなかった。すこし離れた場所から狭いテーブルに身を寄せ合った状態のあたしたちを真っ青な顔で見つめていた妹ちゃんの声だった。
涙を浮かべてあたしたちを睨んでいる妹ちゃんの後ろには、何が起きているのかわからずにあっけにとられているような兄の表情が重なって見えた。
本日はここまでです
乱筆長文にお付き合いいただきありがとうございました
おつ
楽しい乙
話が動き出してwwktk
あたしと会長は妹ちゃんの厳しい声にうろたえてお互いから顔を離そうとした。そのせいでかえって密会していた男女が慌てて身を離そうとしていたように見えてしまったかもしれない。まずいことにあたしと会長はその時一瞬お互いに目を合わせてしまっていた。
そんなあたしたちの姿を見つめていた妹ちゃんの表情は更に険しくなった。
「待って。誤解しないで、妹ちゃん」
あたしは呆けたように言葉を失っている会長を横目にしながら妹ちゃんに声をかけた。
その時あたしは妹ちゃんが恋人の浮気現場を見かけて混乱した時に普通の女の子なら取るであろう行動、つまり泣きながらこの場を走り去っていくのではないかと思った。
でもやはり妹ちゃんは芯の強い子だった。相当ショックを受けていたと思うけど、なおこの場に留まって真相を知る方を選んだのだった。
妹ちゃんの顔は青く、華奢な身体はショックに震えてたけれど、彼女はやはり真っ直ぐあたしたちの方を見ていた。
「誤解って何? お姉ちゃんと先輩はあたしに隠れてこそこそこんなところで会ってたんでしょ」
妹ちゃんは会長の方を見た。「最近は生徒会の活動があるからあたしとはあまり会えないって言ってたよね? 生徒会ってこんなところで活動してるんだ」
妹ちゃんの詰問に会長は俯いてしまった。これはまずい。これでは妹ちゃんの疑惑を認めているような態度ではないか。案の定妹ちゃんはそこで黙ってしまい、自分から目を逸らした会長の姿を凍りついたように眺めていた。
でも会長の気持ちもよくわかった。会長があたしと浮気をしているのではないかという誤解を解くために妹ちゃんに真実を伝えるという選択肢は会長にはなかっただろうから。
本来女さんと兄を襲った出来事は会長にとっては人ごとだと妹ちゃんは考えていいるはずだった。そんな妹ちゃんに対して今回の出来事の謎を解くために会長とあたしが共闘していることを説明したって、妹ちゃんに理解してもらえるわけがない。
妹ちゃんにそれを理解してもらうためには最低限二つの秘密を明かす必要があった。それは一つは中学時代に会長と女さんは恋人同士だったということ、もう一つは会長が妹ちゃんに黙って女さんの女神行為を鈴木先生に通報したということだった。
そしてそれらの事実を妹ちゃんに知られることは妹ちゃんにベタ惚れしていた会長には今の段階では耐え難いことだっただろう。
かといってこのまま沈黙していれば妹ちゃんの疑惑を追認するようなものだった。あたしとしてはここに至ってはいっそ全てを妹ちゃんに打ち明け、誤解を解き、そして兄のために始めたこの謎解きに妹ちゃんにも加わって欲しいと思ったのだった。
でも、それはあたしの一存で出来ることではなかったし、この場で会長を説得するわけにもいかなかった。それに当事者の兄が何が起きているのかわからないという表情であたしたちを見ているということもあった。
もう仕方がない。心が重かったけどあたしは何とか適当な嘘で妹ちゃんを宥めることにした。
「ちょっと落ち着いてよ」
あたしは努めて冷静に妹ちゃんに話しかけた。妹ちゃんは会長から目を離しあたしの方を見たけれど、やはりその視線はあたしを見るというよりはあたしを睨んでいるという方に近かった。
「本当に生徒会っていうか学園祭の実行委員会の打ち合わせをしてただけだよ。あたしが妹ちゃんの彼氏を奪うわけないでしょ」
あたしはとりあえずそう言って妹ちゃんの反応を待った。会長を妹ちゃんから奪う意図なんてあたしにはなかったから、少なくともその部分だけは真実だった。
「・・・・・・あたしからお兄ちゃんを奪おうとしたくせに」
妹ちゃんが低い声で言った。
「え?」
「それでお兄ちゃんが女さんに夢中でお姉ちゃんに振り向いてくれなかったからといって、今度はあたしから先輩を奪って行く気なの?」
「ちょっと待って。あんた何言って」
「お姉ちゃん、先輩に告白されて断ったんでしょ? その時はお兄ちゃんのことが好きだったんだよね」
妹ちゃんの誤解を解こうとしていたあたしだったけど、妹ちゃんのその言葉は別に誤解ではなかった。
「そうだよ」
あたしは言った。「それは本当だよ。でもあんたから会長を奪おうなんて思ったことは一度もないよ」
「じゃあ何でお姉ちゃんと先輩が休みの日にこんなところで一緒にいるのよ。打ちあわせなんて学校で、生徒会室で大勢でするものでしょ」
それも正論だった。
何でこんなことになるのだろう。あたしは、あたしと会長は女さんと兄を誰が何のために陥れたかを探ろうとしていただけなのに。そして妹ちゃんが理解さえしてくれればそのこと自体は妹ちゃんだって反対するようなことではないのだ。
あたしは結局苦しい言い訳を続けたのだった。
「先輩から聞いたんだけど、妹ちゃん、副会長先輩と先輩のことで喧嘩したでしょ」
「それ以来先輩は生徒会長室に入り辛くなってるのよ」
「あと土日は校内で準備が禁止されてるしさ」
「本当にそれだけだから。あたしは先輩とは生徒会の役員同士っていうだけだよ」
「そうですよね? 先輩」
あたしは苦しい言い訳を終え最後に会長に念押しをした。
会長はようやく顔を上げて妹ちゃんを見た。その表情がすごく真剣だったからあたしは一瞬会長が全てを妹ちゃんに告白するのではないかと思ってどきっとした。
でも会長は真実は告白するわけでもなく、またあたしの嘘に同調するでもなく黙って妹ちゃんを見つめていた。
すると奇妙なことにあれだけ激昂していた妹ちゃんの表情が次第に和らいでいった。
「前にも言ったとおり僕は君なんかに愛される資格もないと思うけど、君と付き合うことができて本当に幸せだった」
もう会長は目を逸らさず妹ちゃんの方を見つめて言った。もちろんあたしなんかには目もくれず、同じく兄のことさえ気にせずに。
妹ちゃんももうあたしを気にすることなくただ会長の言うことを耳を傾けているようだった。
「いろいろ君にはまだ話していないこともあるのは事実だよ。それは誓っていずれは君に全て話すよ」
「先輩」
妹ちゃんの声音が和らいだ。
「本当に僕には君しかいないんだ。頼むから僕を信じてほしい。幼馴染さんは単なる生徒会の役員仲間というだけだよ」
・・・・・・それはあたしにとっては随分失礼な言葉だったけど、妹ちゃんはようやく会長を信じる気になったようだった。そして一度その気になると妹ちゃんの目にはもうあたしや兄のことなんか目に入らないようだった。
「先輩、ごめんなさい」
妹ちゃんは彼女と会長の間にいたあたしを無理にどかすようにして会長に抱きついた。
「先輩のこと疑ってごめんなさい。大好きよ」
泣きじゃくる妹ちゃんを会長は抱き寄せた。いつも冷静な会長ももうあたしのことは眼中にないようだった。
何とか二人を仲直りさせることができた。でも会長が言いかけた兄友と三姉妹の秘密についてはもう今日は聞くことはできないだろう。
その時になって、あたしは店内の好奇の視線がずっとあたしたちに向けられていたことにようやく気がついた。そして兄は最初からその視線に気がついていたようだった。
「とにかく二人きりにしてやった方がよさそうだな。行こうぜ幼馴染」
ようやくいろいろと理解し始めたらしい兄があたしに言った。そして兄は当然のようにあたしの手を引いて店の外に向って歩き出した。
いつも短くてすいません
今日は以上です
可能ならまた明日投下します
乙!
言っちゃった方が傷浅くて済むのに……
うぅん、もどかしい!
兄がいたのに気づかなかったwwww
申し訳ないが、ここまでくると冗長としか言えない
話の流れは気になるけど、中身がなさ過ぎて読み飛ばしてしまう
それでもちっとも進まないし
前作は好きだったのに
この丁寧にそれぞれの心理描写を書き切る様がとてもいい
複雑に絡み合った話は細部にも伏線がありじっくり読んでしまう
どんどん確信に近づいている
相変わらずの作者の筆力に脱帽です
これは会長が悪いだろ
女を追い詰めるというかそこのところで妹の嫌われたくないから言い逃れようとしているのか
なんにしてもそこだ
おつ
「腹減ったな」
あたしの手を引きながら店外に出たとき、緊張感のない声で兄がそう言った。
「あんたねえ」
あたしは軽く兄を睨んだ。「そんな呑気なこと言ってる場合か」
「何で?」
兄は答えた。「あいつら仲直りしたんだから別に問題ないだろ」
無理もなかった。事情を知らない兄には無事二人が仲直りしたように見えたのだろう。妹ちゃんがあたしと会長を目撃して抱いた疑惑は一旦は晴れた。その意味では兄の言うことも間違いではなかった。
でも会長が妹ちゃんに伏せている秘密は未だに妹ちゃんの知るところにはなっていない。
会長は突然訪れた危機を乗り切ったのだけど、その実以前から抱えていた火種は相変わらず燻っているのだ。
「どっかで飯食わない?」
兄が再び空腹であることを蒸し返した。
そういえば兄が食べようとしていったハンバーガーやポテトは店内のテーブルに置き去りにされていたのだった。
「いいよ。そうしようか」
もうお昼を過ぎていたけど、あたしも朝起きてから何も口にしていなかったことに気づいた。
「そこのモールが近いな。確かパスタ屋があったじゃん」
「うん。あそこ結構美味しいよ」
「知ってる」
いつだったか兄友と二人でその店にいるところを兄に目撃されたことがあった。だから兄もあの店で食事したことはあったのだ。
「じゃあ行こう・・・・・・目立つからそろそろ手を離してくれる?」
「ああ、そうだな」
兄は動じる様子もなくあたしの手を離した。
以前は確か並ばないと座れないくらい混んでいた店だったはずだけど、今日はすぐに席に案内された。
窓際の席におさまった兄はメニューを眺めて困惑しているようだった。
「どうしたの」
あたしは兄に声をかけた。
「いやさ。ミートソースが食べたいんだけど、ここ名前がミートソースじゃないんだよな。どれだったかなあ。写真が載ってないからよくわかんねえや」
「これ」
あたしはボロネーズと書かれた部分を指差した。
「ああ、そうだった」
注文を終えると兄は改めてあたしの方を眺めて言った。
「そういやおまえ、本当は会長と二人で何してたの? 妹の味方するわけじゃないけど学園祭の打ち合わせしてるようには見えなかったぜ」
「本当に先輩とは何にもないよ。先輩は妹ちゃん一筋だし、あたしだって妹ちゃんの彼氏とどうこうなろうなんて思ってないよ本当に」
「それはそうだろうけどさ。何かすごく親密そうに顔を寄せ合ってたからさ。妹みたいな嫉妬深いやつじゃなくなってなんかあるんじゃないかと疑ったと思うよ」
「本当に何でもない。あたしの言うこと信じないの?」
兄は笑った。「俺が信じるかどうかなんてどうでもいいだろ? まあ、妹が納得したんだから別にそれでいいか」
その時料理が運ばれてきた。さっきまで空腹を訴えていたはずの兄は目の前に置かれたパスタに手をつけずに何か考えているようだった。
「食べないの? 冷めちゃうよ」
あたしは兄に注意した。それに答えず兄はぽつんと呟くように言った。
「妹と生徒会長、うらやましいよな」
「え」
「俺も彼女から嫉妬されたり誤解されたりしたい。例えば今俺とおまえが一緒に飯食ってるところを、あいつに見られて罵られたり泣かれたりしたいよ」
「・・・・・・どういう意味よ」
「もう喧嘩したり言い訳したりどころか、もうちゃんと別れることすらできなくなっちゃったからさ。俺と女は」
女さんを陥れた相手に対して激昂したり復讐を誓ったりしていた兄はこれまでこの種の弱音を吐いたことは一度もなかった。暗い顔で悩んでいるところはよく見かけたし、それに対してあたしも胸を痛めたりもしていたのだけど、兄がここまで直接的に切ない心の痛みを他人に吐露した
のは初めてだった。
あたしも食欲をなくした。そして兄に対してどう返事していいのかももうよくわからなかった。
「どうせ会えなくなるならさ。最期に一度でもいいからあいつと会って直接振られたかったな」
兄が微笑んだ。「そういやあいつ、前に俺たちが別れる時は必ず俺が女を振った時だって真顔で言ってたんだぜ。あいつの方からは絶対俺を振らないからって」
それは兄と女さんの短い蜜月の間にやり取りされた甘い会話だったのだろう。兄はこの先ずっとそういう過去の幸せだった思い出を抱きしめて生きていくつもりなのだろうか。
「そういえば前にね」
あたしは思わず兄の表情に引き込まれて兄友の言葉を思い出した。
兄友『最悪の場合さ、多分兄と女ってもう会えないことも考えられるんじゃねえかなと思うんだ』
幼『・・・・・・いつかは噂だって収まるんじゃないの?』
兄友『いろいろ腹は立つけどさ、女さんって兄のこと本当に好きだったのかもな』
幼『何でいきなりそんなことを・・・・・・』
兄友『女から兄に何の連絡もないだろ? 普通なら電話とかメールとかしてくると思うんだよな』
幼『ご両親にスマホとかパソコンとか取り上げられてるんじゃない?』
兄友『それにしたって家電とか公衆電話とか手段はあるはずだよ。女さんが兄と接触を取らないのは、これ以上兄を巻き込まないようにしてるんじゃねえかな』
幼『兄のことを考えてわざと連絡しないようにしてるってこと?』
兄友『何だかそんな気がする』
あたしは兄にそれを伝えようと思った。
「女さんはあんたのことが本当に好きで、それでこの事件にこれ以上あんたを巻き込みたくなくて姿を消したのかもね」
兄はそれを聞いても動じる様子はなかった。
「あいつは身バレしたから姿を消したんだよ。それは間違いない。でも俺に連絡さえしないのはそういうことかもしれないな」
兄も今までいろいろ考えていたようだった。「本当にもう二度と会えねえのかなあ」
兄は無頓着そうに言ったけど、その表情は固かった。今度こそあたしにはもう何も言えなくなってしまった。
兄とあたしをただ寂寥感だけが包んでいた。それはあたしたちだけがこの場所に取り残されたような感覚だった。
そして今ではあたしにできることは少なかった。
たとえ兄と女さんを救おうという意思があたしにあったとしても、それはもう不可能だ。仮にこの悪意に満ちた出来事が誰によって何のために起こされたのかを明らかにすることができたとしても。
・・・・・・それでもせめて真相くらいは明らかにしよう。
あたしは改めてそう考えた。それにより別に兄も女さんも救われはしない。協力してくれている会長だって妹ちゃんとの仲が改善されるわけでもない。
さらにそれは、あたし自身にとっては結果によっては好きになっていた兄友との決別を意味するのかもしれない。それでもこの閉塞感を打破するためには、何の前進にもならないかもしれないけど、あの時何が起きたのかを解明する以外に道はなかったのだ。
女神第四部 おしまい
今日は以上です
次回から第五部です
明日投下できるかは不明ですけどなるべく早く再開したいと思います
あと、ご感想は人それぞれだと思いますけど、?もやもやする、?無駄に長い駄文、?なかなか事態が進行しない、?とにかく暗い! 以上については最後まで変わらないと思います
ですので生意気な言い方ですが合わない方はお読みにならない方がよろしいかと思います
そしてそれでも読んでやるよという方がいらっしゃるようなら頑張りますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです
それではおやすみなさい
乙
乙。
1、3、4はいいけど無駄に長い文章って自分で言っちゃだめでしょ笑
まぁ色々工夫してるみたいですけど
おちゅ
乙乙
さて、ここからどう展開するか楽しみ
また誰かの視点になるのか、セリフ形式に戻るのか
兄と女が再び出会えますように
なんか書き口がバイオ初代の攻略本みたいだ
別視点の動向が気になるね
女神 第五5部
あたしたちの近所の景色はあたしたちが小学生だった頃とは全く違ってしまった。
姉妹みんなで遊びまわっていた広い空き地には今ではマンションが立ち並び、近所の子と一緒に皆で自転車を乗り回していたあぜ道は拡幅され立派に舗装された二車線の道路に変わってしまった。
あたしたちが成長するにつれ近所の景色は変貌を遂げていったけど、あたしたち姉妹や仲のいい友だちはその変化の中でいつまでも変わらず仲良しでいられるのだろうとあたしは思っていた。
あたしは三姉妹の三女として両親だけではなく上のお姉ちゃんたちからも甘やかされて育った。今思うと自分でも本当に心底そう思う。あたしたち姉妹は昔から今に至るまで本当に仲が良かった。
一度ならず次女ちゃんがお兄ちゃんとか欲しかったなあって言うことがあったけどあたしは全くそれには同意できなかった。それには上のお姉ちゃんもあたしと同意見だったみたいで、女の子三人の姉妹だからこんなに仲良くできるんだよって次女ちゃんに言い聞かせていた。
次女ちゃんはあたしたちの中では一番異性関係に興味を持つのが早かったから、そういう感想を小学生であったにも関らず口にしたのかもしれないけど、少なくともあたしと上のお姉ちゃんは男の兄弟なんか欲しいとも思ったことはなかった。
それにお隣には幼馴染の兄友君が住んでいて、あたしたちとは昔から仲が良くあたしたち姉妹が空き地を走り回って遊ぶ時傍らにはよく兄友君の姿もあったものだった。お兄ちゃんとか弟の代わりとしては兄友君で十分ではないか。あたしはそう思って次女ちゃんの要望を聞き流していたのだった。
兄友君は幼稚園の頃からあたしたちのお隣さんだったけど、常にあたしたちの隣に住んでいたわけではなかった。父親が転勤がちな境遇で育った彼は、1年ごとに転校してはまた戻ってきたりということを繰り返していたのだ。彼は上のお姉ちゃんより一つ年下であたしより一つ年上だっ
た。つまり次女ちゃんと同級生だった。
全国各地を無差別に転々とする生活だったら兄友君も辛かったろうけど、彼の父親の本社はこの県にあったせいで異動のパターンは支社のある東北に一年間赴任してまたここに戻ってくるというものだったから、長くても一年間すれば兄友君はあたしたちの隣の家に戻って来たのだった。
兄友君はあたしにとってはお兄ちゃんで、次女ちゃんにとっては仲のいい同級生。そして上のお姉ちゃんにとってはいろいろと心配な弟のようだった。兄友君への見方は三姉妹それぞれ違っていたのかもしれないけど、あたしたちは三人ともみな兄友君とはすごく仲が良かった。彼が地
方にいる間も頻繁にメールをやり取りしていたし、彼がお隣に戻ってからはまるで兄友君が転校していたことなどなかったかのようにしょっちゅう一緒に過ごしていたものだった。
この頃中学一年になってお隣に戻って来た兄友君は上のお姉ちゃんと次女ちゃんと三人で中学に登校していた。あたしはまだ小学生だったから、朝家まで迎えに来る兄友君を真ん中にして上のお姉ちゃんと次女ちゃんが賑やかにふざけあいながら登校して行くのを羨ましく思いながら見送っていたものだった。
それでもその頃のあたしたちと兄友君の関係は仲のいい幼馴染にすぎなかった。今にして思うと次女ちゃんはこの頃から兄友君を独占したいような素振りを見せ始めていたのだけど、それでもそれは恋愛というようなものではなかった。
あたしは早く中学に入学してこの三人の仲間になりたかった。毎朝、三人を見送るのではなくて一緒に中学に登校したかったのだ。そうなった時あたしはどの位置に並ぶのだろう。あたしは時々無益なことを考えた。
いつも兄友君が真ん中で左右をお姉ちゃんたち。あたしが仲間に加わった時には、あたしの立つ位置はどこなのだろう。
でもあたしが中学の制服に初めて袖を通し入学式に望んだ時には、兄友君の姿はなかった。彼はまたいつものパターンに従って東北に転校していってしまったから。
再び兄友君が隣からいなくなったこの頃、一番兄友君を慕っていたのは次女ちゃんで、一番兄友君を気にしていなかったのは上のお姉ちゃんだった。
それはお互いに兄友君からのメールを見せ合った時の兄友君へのメールの数、そして兄友君からの返信メールの数が正直に写しだしていた。兄友君が自分の方からメールをくれることはあまりなかったから、あたしたちへの兄友君の返信メールの数はあたしたちが兄友君に出したメ
ールの数に正比例していた。その数は次女ちゃんが突出して多かったのだ。
次女ちゃんの気持ちにも無理はないところもあった。
中学生になったあたしにもそろそろ理解できるようになっていたのだけれど、同級生の男の子たちと比べても兄友君は一段と格好よかった。運動神経もよく成績もいい。そして何より周囲の女の子から放っておかれないような容姿の持ち主だった。
昔は関係が近すぎてわからなかったそのあたりのことも中学生になって兄友君が離れていると、彼があたしたちの幼馴染ということが信じられないほどのスペックの持ち主だということが理解できるようになった。あたしと上のお姉ちゃんはそのことに少し困惑していたのだと思うけど、次
女ちゃんは素直にその想いを兄友君にぶつけることにしたようで、次女ちゃんのメールは兄友君に対する甘い想いに溢れていたのだった。
といっても兄友君からの返信はその種類の話を軽いなしていたので、彼が本心では次女ちゃんのことをどう思っているのかはわからなかった。兄友君のスペックなら転校先の東北の中学で彼女が出来ていたとしても不思議はなかったろう。彼が中学一年の時は特に彼女を作ろうとした
ことはなかったと思う。当時の中学の校内での様子はあたしにはよくわからなかったけど、毎日仲良く登校して行く三人を見ていた限りでは兄友君には彼女の気配はなかったようだった。
でも今東北で彼が何をして過ごしているのか、彼にももう彼女がいるのかどうかは彼からの短いメールからはよくわからなかった。
当時あたしは中学一年で次女ちゃんは二年、そして上のお姉ちゃんは受験を控えた三年生だった。そして中学二年生の兄友君は東北の方に転校したままだった。その頃兄友君のお父さんが偉くなったとかで今までの転勤パターンが崩れるかもしれないということをあたしたちは両親から聞いていた。なので兄友君は三年生になったらこちらに戻ってくるのか、あるいは高校生になった頃に戻ってくるのかは本人すらわからない状態だった。
そんな中で姉妹の中で一番早く、そして一番強く兄友君を好きになっていた次女ちゃんもその頃になると自分からどんなに甘いメールを送っても素っ気無い返事しか返してこない兄友君に恋し続けることに飽きてきたようだった。
次女ちゃんは学校では生徒会の副会長をしていたせいもあって、校内の知り合いからは物静かで優しい女の子だと見られていたみたいだったけど、それは次女ちゃんの一側面に過ぎなかった。次女ちゃんはよくできた生徒会役員というイメージを自ら作り出してもいたし周囲にもそう目
されていたのだけど、実は異性に対しては積極的な性格だった。これまではその恋愛感情は東北にいる兄友君に向けられていたので周囲の生徒たちはそうは思わなかったと思うけれど。
兄友君が転校していった後も同じ中学に仲良一緒にく通っていたあたしたち姉妹だけど、その頃次女ちゃんに初めて兄友君以外に好きになった男の子ができたのだった。それは生徒会の副会長をしていた次女ちゃんと一緒に生徒会活動をしていた三年生の先輩だった。その人は生徒会長だという。
その頃はまだ何でもお互いに相談しあう仲だったあたしたちは次女ちゃんから恋の悩みを打ち明けられた時驚いたけど、次女ちゃんの奔走な恋愛観をよく知っていたあたしたちはすぐに納得した。次女ちゃんがいつまでも遠距離の関係に満足しているわけはなかったし、何より兄友君
の次女ちゃんへのメールはとても素っ気無かった。そして今では兄友君にも転校先の東北で彼女がいるのかもしれないのだ。
次女ちゃんなら生徒会長へのその恋は成就するだろうなってあたしたちは何となく思っていた。何より彼女は身びいきではなくすごく可愛らしかった。
「先輩ってすごく頭がいいんだって」
次女ちゃんは顔を輝かせて生徒会長の噂をした。「人の相談とかにもよくのってるし、結構女の子に告白されてるみたいだけど一度もOKしたことないんだって」
正直に言うと時たま校内で見かける三年生の生徒会長は次女ちゃんのいうほど格好がいいとは思えなかった。それは同じ学年の上のお姉ちゃんも同意見だった。ただ、会長のことは直接の知り合いではない上のお姉ちゃんは公平にこうも付け加えた。
「確かに会長ってイケメンじゃないけどすごく知り合いは多いみたいだよ。何か男にも女にも妙な人気があるんだよね」
まあ会長がどんな人にせよ次女ちゃんが選んだ人なら別に文句はなかったけど、ただ次女ちゃんの恋はまだ片想いだった。次女ちゃんによれば告白するタイミングを計っているのだとか。
次女ちゃんが言い寄れば見た目はあまり冴えないこの会長は喜んで次女ちゃんと付き合うのだろうなとあたしは思った。
そして実を言うと少しそのことを期待する気持ちもあった。何より次女ちゃんが兄友君離れをすればあたしにも兄友君と付き合うチャンスができるかもしれない。もちろん彼は既に東北の学校で彼女がいるかもしれないけど、でも彼女なんかいないで早くこっちに帰ってきてあたしたちと再び一緒に過ごしたいと思っている可能性だってないわけではない。そうなれば上のお姉ちゃんがあまり恋愛に興味がなく、次女ちゃんに会長という彼氏がいる状態ならあたしにも兄友君に告白する機会が得られるのかもしれないのだ。
そんなある日、次女ちゃんは家であたしと上のお姉ちゃんに言ったのだった。
「会長ってもう付き合っている子がいるんだって」
生徒会長はそういうタイプには見えなかったからそれは結構意外な話だった。
「しかもその子、うちのクラスの女ちゃんっていう子なの」
次女ちゃんにとっては厳しい結末だった。あたしは次女ちゃんを何と言って慰めていいのかわからなかった。でも次女ちゃんはあまりそれを気にしている様子はなかったのだ。もう次の標的を見つけたのだろうか。
「でも女ちゃんって普通に可愛いし評判もいいんだけど、何ていうか余り仲のいい親友とかっていないし。本当は自分勝手な子なんじゃないかなあ」
「だからって先輩がその女ちゃんって子と付き合ってることには変わりないじゃん」
あたしは思わずそう突っ込んだ。次女ちゃんが女さんを誹謗しても別に彼女が会長の彼女でなくなるわけではないんだし、あまり次女ちゃんから見苦しい話を聞きたくもなかったのだ。
「そうなんだけどさ。あたしが告れば勝てるんじゃないかなあ」
「よしなよ、そういうの」
三姉妹の中で一番常識的な上のお姉ちゃんが諌めた。「同級生なんでしょ。たとえうまく行ったとしても後で気まずくなるよ」
「そうかなあ」
次女ちゃんはそこで話を切り上げてしまった。あたしは上のお姉ちゃんと顔を見合わせた。
・・・・・・その時あたしは何だかすごく嫌な予感がしていた。
今日は以上です
また投下します
お付き合いくださっている方、ありがとうございます
おつ
ふぅむ
乙乙
むむむむ、新展開だなあ
55部か
飛んだなぁ……
乙
. : : : : : : : : : : : : : : : :| て 誰
/:: . : : : : : : : : : : : : : : | め だ
/:/: : : : : : : : : : : : : . : : :l | よ
/.:/ : : : : :i: : : : : : : : : : : : : } は
/.:/ . : : : : .:i : : : : :i: : 、: : : :ノへ、 /
/ ,′. : : : : : .:i : : : : :i: :i: '.: : :!::i:l\\ /
/: .′. : i: : :i..::i : : : : :i:斗rヤ笊仄 ハ i>‐----<: ゚.
/: : : i:. : : : :i: : ;ャ≦ \::八:人〃斧笊ハ 刈ハ: : : l- 、: : : :|
. /: : : : i:. : : : :iX:八_ \ \:.\ 、 マ) .::i }} }:.:.i.:!h ハ: :. : |
厶 -‐ i:.: : : :∧ .〃斧? \ 、_.:ノ 八ノリ.ソ }: :!: :l
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\: :∧{ マ .:i / }ノ.ノ : |∨
ね 好 .い ヽ: ヘ 弋.:ノ , r<: : :ハ|
| き き ?゚:. /.:.:∧.:{ j
ぞ 勝 な Vi:!:. , ¨フ V.:( )ノ
手 り W八 ー / ∨}
言 現 L__ ` .. / 〉- 、
っ れ √ ¨¨ ¬ ´ /_三二ニ=‐-
て て ; __ハ /. : : : : : : : : : : :
ん / ノ.:r'ヘ /: : : : : : : : :斗ャ≦
じ / /: / / : : : : : : 。≦ニ〃/
物静かで優しい女の子。次女ちゃんは同級生だけでなく校内でもそのように認識されているようだった。いくら容姿が可愛らしいとはいえ何のきっかけもなくそういう評判が広がったわけではなかった。
生徒会の副会長に選ばれた後、次女ちゃんは校内で全校の生徒たちの目に露出する機会が増えたのだ。生徒会役員は普通の生徒より目立つ場に立つことが多かったけど、その役員の中でも次女ちゃんは特にみんなの間で評判になっていた。
容姿はともかく、マイクを通じて生徒に呼びかけるおとなしい静かな声に惚れこんだ男子も多かったみたいだった。そして目立った場所にいるとはいえでしゃばり過ぎず控え目に振る舞うその姿にも密かなファンがついた。
でも決して次女ちゃんはみんながアイドルとして思い込んでいるような性格ではなかった。そのことは身近にいた妹のあたしが一番よく知っていた。次女ちゃんが校内でそういう評判を得られたのはその頃の次女ちゃんの愛情が、その場には不在の兄友君に向けられていたからに過ぎなかった。だから次女ちゃんが生徒会長に告白する、それも女さんから略奪も辞さない形でそれを行ったらどうなってしまうのだろう。
少なくとも次女ちゃんの清楚で控え目な美少女という評判は地に落ちるだろう。あたしはそのことが心配だった。そして逆に言うと、次女ちゃんの告白が報われない結果になる可能性があるとはあたしもお姉ちゃんも考えもしなかったのだ。
身びいきといわれても仕方がないことだったけれど。
次女ちゃんから女さんのことを聞いて以来あたしとお姉ちゃんは女さんの評判をそれとなく聞きまわった。決して示し合わせてしたのではなく二人とも同じことを考えていたいたようだったのだ。
そしてあたしたちが聞きまわった女さんの評判は人によって異なり矛盾するものだった。
『いい子だよ、すごく。いつもみんなの話を聞いてくれて相談に乗ってくれるし』
『優しい人だよね。女さんが人のことを悪く言ったのを聞いたことないし』
『綺麗な子だよ。男の子にも人気あるみたい』
『悪い子じゃないけど・・・・・・ちょっと何考えているのかわからないところはあるよね』
『考え過ぎなのかもしれないけど、上のほうから悩みのある子を冷静に見下してる感じ?』
『うちらと仲良くしている振りしてるけど、本心ではうちらなんか相手にしてないんじゃないかなあ』
『彼女って親友とか本当に仲がいい子っていないしね』
評判を聞く限りは女さんは少し屈折した複雑な性格をしているようだった。彼女に対する知り合いの評価は正反対に二分されていたのだ。そして女さんを誉めている人たちにも貶している人たちにもどちらにも共通していたのは誰も女さんを気遣っている様子を示さないということだった。
客観的に語っているにせよ主観的に語っているにせよ、あたしとお姉ちゃんが女さんの評判を尋ねた人たちはきわめて事務的に回答してくれたのだった。つまり誉めるせよ貶すにせよ女さんのことを感情的に語る人は一人もいなかったのだ。
女さんに親友とか本当に仲がいい子はいないというのはどうやら本当のことらしかった。
でもそれにも例外はあった。女さんが唯一心を許したような微笑みを向ける相手はいたことはいたのだ。それは生徒会長だった。
そのことについては聞きまわったり調べたりするまでもなかった。女さんと生徒会長が付き合っているという話は次女ちゃんから聞いて初めて知ったのだけど、この頃になるとそれは特種というほどのことはなくなり、校内でも広く噂になっていた。
実際、あたしも昼休みや放課後の図書室で二人きりですごしている女さんと生徒会長を見かけたものだった。大抵は女さんが会長に向って何か話しかけていて、会長は時には真面目な顔で時には微笑みながら女さんの話に付き合っているようだった。
客観的には女さんの性格はともかく容姿はすごく可愛かったから、一見するとこの組み合わせは女さんが冴えない会長に付き合ってあげているようにも見えた。女さんが一人で何かを話し続けていて会長がひたすら聞き役に回っていることもそれを裏付ける証拠のようにも思えたのだった。
でも会長はイケメンでもないし運動神経がいいわけでもなく、更に言えば社交的な性格ですらなかったけど、同学年の女の子のみならず年下や年上の女の子たちに人気があるらしい。少なくとも次女ちゃんの話によればそういうことだった。そしてそういう目でこのカップルを改めて観察してみると、実は何らかの理由があって女さんの方が会長に依存しているのかもしれないとあたしは次第に思い直すようになった。
結局それ以上の情報は得られなかったけど、印象としては次女ちゃんがうかつにこの二人の関係に邪魔をするのはどうかというのがあたしの得た結論だった。
あたしとお姉ちゃんは次女ちゃんには内緒でこういう情報を交換し合った。そして出た結論は女さんと会長はどちらが優位ということはなくお互いにお互いを必要とし合っているのではないかということだった。評判の善し悪しに関らず親友がいない女さんはその役割を会長に求めているのではないか。そして会長は今まで数多い告白を断ってきたのだけど、ここに来て本当に手に入れたい相手を見出したのではないか。会長が女さんの中に見出した価値が彼女の容姿なのか内面なのかはわからなかったけど。
「どっちにしたって中学生レベルの恋愛関係を超えてるよ、あいつらは」
お姉ちゃんはため息をついて言った。「そんな関係に自信を持ってちょっかいを出そうなんて次女ちゃんもどうかしてる」
あたしもそれには賛成だった。この間まで小学生をしていたあたしには、一つしか違わない女さんと二つ違いの会長の恋愛はものすごく大人びた関係に思え、あたしなんかがその意味を図ろうとすることすら憚られるようにさえ思えてきたのだった。
「とにかく次女ちゃんが会長に告って、それがうまく行っても行かなくてもいい結果にならないんじゃないかな」
お姉ちゃんは言った。
「次女ちゃんは自信あるみたいだったよ? 自分が告れば会長は女さんじゃなくてて自分を選ぶって言ってたし」
「それはあの子の思い上がりだと思う。それに仮に次女ちゃんの言うとおりになったとしてもそれはそれで問題が起こりそうだし」
あたしたちは次女ちゃんのことが好きだったから、率直に彼女に考えていることを伝えたのだけど彼女はその話をろくに聞こうとすらしなかった。
「女ちゃんの調査とかあんたらのやってることマジキモいんですけど」
あっさりと次女ちゃんは切り捨てた。「中学生の恋愛に何で調査とかするのよ。信じらんない」
「だって。あたしもお姉ちゃんも次女ちゃんのことが心配で」
あたしは冷たくあたしたちの懸念を切り捨てた次女ちゃんに萎縮しながら呟いた。それまで憤っていた次女ちゃんはあたしとお姉ちゃんの方を見て語気を和らげた。
「まあ、お姉ちゃんと妹友があたしのこと心配してくれてるのはわかるけどさ」
ちょっと横を向いて照れているように次女ちゃんは言った。
やっぱり姉妹っていいな。あたしはそう思った。次女ちゃんはあたしたちのした余計なお世話に怒っていたけど、何のためにあたしたちがこんなことをしているのかは理解してくれていたのだ。でも、お姉ちゃんはこの頃になると黙ってしまい時折次女ちゃんを眺めってそっとため息を吐いていた。
その次の日からは、いつ次女ちゃんが会長にアタックするのか気になたけど、結局次女ちゃんは何の行動も起こさなかった。
・・・・・・その原因となったのがこのことのせいかどうかはわからない。でもタイミングとしてはまさに次女ちゃんが会長に告白しようと決めていたこの頃のことだった。
兄友君がおばさんと一緒に東北からあたしたちの隣家に一時帰宅して来たのだった。
今日は以上です
視点は異動しますけど、内容的にはしばらく過去編が続きます
おやすみなさい
乙です。
先読みとか礼儀に反するかもしれないけど、
女の転校先とか兄友の転校先とかで、二人の接点が出来るのかな?
>>266
礼儀に反すると思ってるなら自分の心にとどめておけよ
兄友君のお母さんが時々留守宅を見に戻ってくることは別に珍しいことではなかった。三ヶ月に一度くらいおばさんは隣家に戻って家の面倒を見て次の日には東北の社宅に帰って行くのだった。
「家って人が住んでいないとすぐに荒れちゃうからね」
ママはあたしたちにそう話しながら妙に嬉しそうにおばさんを夕食に招くための準備をいそいそと始めるのだった。
おばさんに会えるのは懐かしく嬉しかったけど、今回はそれとは全く異なった興奮があたしたち姉妹を襲ったのだった。
最低でも一年間、ひょっとしたらそれ以上も兄友君と会えないと諦めていたのだ。その兄友君が数日だけだけどお隣に帰って来ると言う。
この知らせを聞いてから次女ちゃんはそれまで毎晩のようにあたしたちに話していた生徒会長の噂話を全くしなくなってしまった。その代わり、再び再開したらしい兄友君へのメール攻勢に対して兄友君が返信してくれたメールをあたしたちに見せびらかすようになった。
もっともそのメールは次女ちゃんがあたしたちに見せびらかすほどの内容ではなかった。次女ちゃんのことだからきっと熱烈に自分の想いを伝えたに違いないのだけど、兄友君の返信はそれとは対照的に穏やかで次女ちゃんの熱情をいなすようなものだったから。
それでも次女ちゃんは兄友君が律儀に返信してくれているだけでも嬉しかったようだった。何より数日後の週末には本人に会えるということも次女ちゃんの心の高揚に繋がっていたのだろう。
生徒会長のことはもうどうでもいいのかな。あたしはそう考えたけど口には出さなかった。でもあたしは次女ちゃんの心の動きに平静ではいられなかった。
生徒会長を次女ちゃんの同級生の女さんから奪うような真似を次女ちゃんが断念したことには正直ほっとしていた。彼女の評判のためにも女さんのためにも。
でも次女ちゃんが生徒会長のことなんか忘れてしまって前から好きだった兄友君に好意を向けたらどうなるだろう。確かに兄友君は次女ちゃんのメールには素っ気無い返信しかしていないけれど、実際に自分への好意を隠す気すらない次女ちゃんに会ったら。
上のお姉ちゃんは兄友君のことをどう考えているのかよくわからないけど、あたしは兄友君のことが昔から好きだった。
もちろん彼と仲良く出来ているのは幼馴染という特権的な立場が与えられているからに過ぎず、普通ならあたしなんかでは兄友君と知り合うことすら出来なかったかもしれないと考えることはよくあったけど、それでもあたしはずっと密かに兄友君のことが好きだったのだ。
おそらく次女ちゃんはそんな卑屈なことは考えていないだろう。次女ちゃんなら幼馴染という立場なんかなくても堂々と兄友君と友だちになりそして恋人にだってなれるだろうし。妹のあたしから見ても次女ちゃんはそれくらい可愛かったのだから。
それにしても兄友君が帰ってくるといっても本質的な状況は何も変わっていない。彼が東北に住んでいていつこちらに戻ってこられるのかは相変わらずわからないままなのだ。そんな状況に嫌気が差して生徒会長のことを好きになったはずの次女ちゃんだけど、いったいどういう心境の変化が彼女に訪れたのだろう。
・・・・・・おそらく何も考えていないんだろうな。あたしはそう思った。姉のことを悪く言うのは気が引けるけど次女ちゃんには昔からあまり物事を深く考えずその場の感情に流されて行動することがよくあったのだ。今回もきっとそうなのだろう。
あたしはため息をついた。
土曜日に兄友君は自分の家に帰ってきた。
おばさんは帰宅してすぐあたしたちの両親に挨拶しにきてくれたけどその傍らには兄友君の姿はなかった。
「久しぶりなんで照れてるのよ」
おばさんはあたしたちに微笑んでいった。「あの子も年頃だしね」
「今晩はうちにきてくれるんでしょ? 夕食を用意してあるんだけど。兄友君も連れてきてね」
ママが当然のようにおばさんたちを夕食に招待した。
「ありがとう。じゃあ図々しくお邪魔させてもらうね」
「おばさんお久しぶりです」
あたしはママの横に立っておばさんを迎えた。兄友君にはまだ会えないけどおばさんと一緒に確かに兄友君は帰ってきているのだ。
そのことを考えただけでもあたしは気持ちが浮き立つのを感じていた。
「あら妹友ちゃん。元気にしてた?」
おばさんはあたしに優しく微笑んで答えてくれた。
あたしが兄友君は元気か、おばさんに聞こうとしたその時、ママの背中に隠れていた次女ちゃんがひょっこっとママの背後から顔を覗かせた。
「あら次女ちゃん。綺麗になっちゃって」
おばさんはあたしから目を離し、嬉しそうに次女ちゃんを眺めて言った。「ちょっと見ない間にいいお嬢さんになったわねえ」
「お久しぶり、おばさん」
次女ちゃんが挨拶したけれどそれはいささか馴れ馴れしい態度であった。でもおばさんは気にもしていない様子で次女ちゃんのことを誉めていた。
「見かけだけよ。中身は全然子どもなのよ」
ママが満更でもなさそうに言った。
「でも本当に大きくなったねえ。兄友が見たら驚くんじゃないかしら」
おばさんは改めて次女ちゃんを眺めた。
あたしはおばさんや次女ちゃん、それにママの会話を聞いているうちに、それまで高揚していた気分が次第に沈んでいくのを感じていた。
いつもこうなるのだ。あたしは今までずっと自分に対して考えることを禁じて封印していた次女ちゃんへのどす黒い感情が身体に溢れてくるのを感じた。
いつもお互いに助け合う仲のいい姉妹。あたしはこれまで自分たちのことをそう考えていたし、周りからもそう思われていたのだった。あたしはそのことに誇りすら覚えていたのだ。
でもこの時あたしは悟っていた。
これまであたしはずっとお姉ちゃんたちのことが自慢で、そしてお姉ちゃんたちのことが心配の種でもあった。その想いは嘘ではなかったと思う。
・・・・・・今、次女ちゃんが少しおばさんの前に顔を出しただけで、おばさんはあたしへの会話を中断して次女ちゃんを誉めている。あまつさえ兄友君のことまで引き合いに出して。ママも嬉しそうだった。
そして次女ちゃんも嬉しそうにおばさんに話しかけている。次女ちゃんはあたしとおばさんの会話に割り込んだことなど少しも気にもしていないようだった。
あたしが次女ちゃんを想っていたほど次女ちゃんはあたしのことなんか考えてくれていない。いつもそうだ。あたしは一方的に次女ちゃんのことを心配するだけ。生徒会長のことだってそうだった。
これまでここまで次女ちゃんを憎いと感じたことはなかった。そしてそれは次女ちゃんへの醜い嫉妬心を伴ってあたしの心の中にせめぎあっていたのだった。
「妹友ちゃん、あんた気分でも悪いの?」
その時上のお姉ちゃんがあたしにそっと話しかけた。
今日はここまで
短くてすいませんけどしばらくはこんな感じの投下になると思います
お付き合いいただきありがとうございました
次も待っとります!
やきもきする
だがそれがいい
純一とみゃーから応援してます
楽しいのう
その夜あたしたちは久しぶりに兄友君と再会を果たしたのだった。兄友君は別に昼間おばさんが話していたようにあたしたちに会って照れている様子はなかったけど、決して口数が多くもなかった。
前はもう少し色々話していたのに。パパやママ、おばさんたちと一緒に夕食の食卓を囲んでいる兄友君は聞かれたことには答え、でも自分からはあまり会話に加わろうとしなかった。
少し会わない間に兄友君は何か随分大人びたなとあたしは思った。以前はもっと口数が多かったはずだけど。
次女ちゃんは当然と言わんばかりに兄友君の隣に座り兄友君の空いたお皿に料理を取ってあげたりグラスにウーロン茶を注いだりして彼の世話を焼いていた。時折あたしから見ても可愛らしい上目遣いで彼に何か話しかけながら。
ただあたしの精神状態にとって幸いなことに兄友君は彼に身を寄せてベタベタしている次女ちゃんに対して、素っ気無いとは言えないけれどそれほど熱意と関心を抱いているような特別な態度を示していなかった。
彼は次女ちゃんには短く答えながらも、お姉ちゃんやあたしに向って話しかけてくれたのだ。それは幼馴染の最近の消息を尋ねるような社交辞令的なものに過ぎなかったけれども。
やがて夕食を始めて2時間くらいが経ったけれど、パパやママ、それにおばさんまでも久しぶりの再会に浮かれているようでいつまで経っても食卓を立つ様子はなかった。というかお酒も大分入っているようでママたちの会話はますます賑やかになっていった。
明日は休みだ。ママたちは腰を落ち着けることにしたようだった。あたしはお姉ちゃんを見た。お姉ちゃんはうなずいて立ち上がった。
「あたしたち、客間でお話ししていい?」
お姉ちゃんがママに聞いた。「もうご飯は食べちゃったし」
「そうね。あんたたちも兄友君と久しぶりにゆっくり話したいでしょ」
ママが言った。お酒が入っているせいか少しはしゃぎ気味の声だった。「兄友君は迷惑だろうけど、一晩くらいこの子たちに付き合ってあげてね」
「いや俺も久しぶりで懐かしいですから」
兄友君が言った。
「何格好つけてるのよ。今日は次女ちゃんに会えるって先週からそわそわしてたくせに」
おばさんもママと同じで少し酔っているようだった。「本心じゃ嬉しいくせに」
「・・・・・・よせよ」
兄友君が少しだけ顔を赤らめた。
お姉ちゃんが言った客間とは1階の玄関脇にある単なる八畳の和室のことだった。おばさんが腰を据えてママたちと飲み始めたのはいいけど、お姉ちゃんはそれにずっと付き合う気はないようだった。
かといってあたしたちの誰かの部屋に四人で集まるのでは狭すぎる。
なのであたしたちはお姉ちゃんの提案どおり客間にお菓子や飲み物を持って移動したのだった。久しぶりに顔を合わせた女の子三人と一緒に過ごすことに対しては兄友君は別に抵抗はないようで、むしろ酔っ払いの大人たちから解放されてせいせいしているかのようにあたしたちの後に着いてきたのだった。より正確に言うと次女ちゃんに手を引かれて来たのだけど。
「やっと落ち着いたね」
お姉ちゃんが言った。「ママたちはしゃぎ過ぎだよね」
「無理もねえよ。お袋なんか一週間前からここにくるの楽しみにしてたしな」
兄友君がお姉ちゃんに向って苦笑しながら言った。
「そうなんんだ。で、兄友はどうなのよ? おばさんはあんたがあたしたちに会えるんで照れてるって言ってたよ」
お姉ちゃんが兄友君をからかうように言った。
「姉さんまでからかうなよ。あんなのおふくろのガセネタに決まってんだろ」
兄友君は少しむきになったように言った。
「でも兄友も本当は少しドキドキしてるんじゃないの? あたしに久しぶりに会えて」
次女ちゃんが兄友君の腕に抱き付いてからかうように言った。
「バカ言うな。何で俺が次女なんかにドキドキするんだよ」
「無理しなくていいって。でも兄友、格好よくなったね」
お姉ちゃんはそう言って笑った。
「そうかな。兄友って前とあんまり変わらないじゃん」
次女ちゃんがお姉ちゃんに対抗するように強がって見せた。
ここまであたしは会話に全く加われなかった。兄友君に特別な感情のないお姉ちゃんは自然に幼馴染の兄友君と話が出来ている。そして兄友君狙いが明白な次女ちゃんは自然とはいえないけど臆することなく兄友君にアタックする気が満々のようだった。
あたしはと言えば心の底に秘めた兄友君への想いを抱えて動きが取れなくなってしまっていた。何であたしはお姉ちゃんのように、そして次女ちゃんのように自然に兄友君に話しかけることができないんだろう。
少し経つと大人から解放されたせいか、兄友君も少し饒舌になってきていた。
「そんであんた、東北の学校で彼女とか出来たの?」
お姉ちゃんが笑いながら何気なく聞いた。その時次女ちゃんが息を呑み動きを止めたことがあたしにはわかった。でもそれはあたしも同じだった。
「できねえよ、そんなもん。それよか姉さんたちはどうなんだよ。男できたの?」
兄友君があたしたちの交友関係に関心を持つなんて滅多になかったから、あたしはそのことに驚くと同時に次女ちゃんが何て答えるのか気になった(ちなみにお姉ちゃんと次女ちゃんは彼のことを兄友と呼び、あたしは兄友君と呼んでいた。そして彼は上のお姉ちゃんのことは姉さんと、次女ちゃんのことは次女と呼び捨て、あたしのことは妹友ちゃんと昔から呼んでいたのだった)。
「いないよそんなの」
お姉ちゃんが笑いながら言った。そして次女ちゃんはわざとかどうか俯いて黙ったままだった。そのせいでここまで賑やかだった会話に間が空いた。その沈黙を破るように兄友君は突然あたしの方を向いて言った。
「で、妹友ちゃんはどうなの? おまえ可愛いからもてるだろ」
その時、俯いていた次女ちゃんがは自分の意図と異なる反応を示した兄友君を見た。そしてあたしの方にも目を向けた。どういうわけかあたしを責めるような次女ちゃんの視線に、あたしは今まで以上に居心地が悪くなったことを感じた。
「ああ、悪い。言いたくなければ言わなくていいけどさ。俺、引っ越す前は結構大変だったんだよね」
「大変って何で?」
お姉ちゃんが気楽に聞き返した。次女ちゃんは再び俯いてしまっている。
「だってさ。俺、知り合いの野郎どもにいつも言われてたんだぜ。あの妹友って子、お前の何なんだよって」
今ではあたしも俯いて黙ってしまった。とにかくひたすら居心地が悪い。彼は何を話そうとしているのだろう。
「何々? 初耳だよ」
自分の恋愛にはあまり積極的ではないくせにこの手の噂話が大好物なお姉ちゃんが兄友君の話に食いついた。
「妹友って可愛いじゃん? だからお前が付き合ってないなら紹介しろよってやつが一杯いてさ」
あたしはその時狼狽してどう反応していいのかわからなかった。
「なあに。妹友ちゃんってそんなに人気あったのか」
お姉ちゃんがけたけた笑った。
「・・・・・・つうか姉さん、もしかしてそれ酒?」
兄友君の言うとおりだった。お姉ちゃんはいつのまにか缶の梅酒を飲んでいたみたいだった。そのせいでお姉ちゃんはさっきからはしゃいでいたのか。
「あんたも飲む?」
お姉ちゃんが兄友君に梅酒の缶を渡した。「間接キスだけど別にいいよね」
「おいおい・・・・・・ま、いいか」
兄友君はお姉ちゃんから渡されたお酒をぐいって口に流し込んだ。
「そんで、この子のこと何で友だちに紹介しなかったの」
お姉ちゃんが赤い顔で兄友君に詰め寄った。
「何でってさ。妹友ちゃんまだその時は小学生だったじゃんか」
あたしはいたたまれないような、それでいてもっと自分のことを兄友君から聞きたいような複雑な気分のまま黙っていた。そしてお酒の入ったお姉ちゃんと兄友君はそんなあたしの考えなど気にする余裕もなくなったようだった。
「それに大切な幼馴染だしさ。そんなに簡単にあいつらにはくれてやれねえな」
兄友君はそう言って缶の梅酒を飲もうとしたけど、もう中身はなくなっているようだった。
「結構、飲めるじゃん」
お姉ちゃんが笑って新しい梅酒を兄友君に渡した。どうやらさっき食堂から移るときにママのお酒をくすねてきたらしかった。兄友君は平然とそれを受け取り一口飲んだ。
「姉さんも酒飲めるんだ」
兄友君は笑った。そしてどういうわけかすごく自然にあたしの肩を抱き寄せた。
「妹友ちゃん元気だったか? 俺、おまえに合いたくてさ。引っ越した時は毎日妹友ちゃんの夢を見たんだぜ」
突然酔った兄友君の腕に抱き寄せられたあたしは、兄友君に抱かれたまま身を固くして何も話すことすらできなかった。
「よしなよ」
お姉ちゃんが相変わらず笑いながら言った。「この子まだ中一だよ」
「もう小学生じゃないじゃん」
兄友君は抱き寄せたあたしの顔を見た。「妹友ちゃん、俺のこと嫌い? もう中学生同士だし付き合ったって大丈夫なんだぜ」
あたしの顔に兄友君のお酒臭い息がかかった。あたしはもう何をしていいのかすらわからずとりあえず兄友君の腕の中から逃れようとした時だった
次女ちゃんがすっと立ち上がった。青ざめた表情で。
「あたし、先に寝るね」
そう言って次女ちゃんは部屋から出て行った。
「・・・・・・ばか」
お姉ちゃんが言った。
「うん」
兄友君があたしの肩を抱き寄せていた腕を放して言った。その顔は少し青ざめているようだった。
短いですけど今日はここまで
またお会いしましょう
お付き合いいただいている方、感謝です
みなさんレスどうもです。励みになります
>>275
まさかアマガミ二次の頃からの読者さんがいてくれるとは
たまにまたああいうの書きたくなりますね
ご愛読に感謝です!
乙
ああもう
とことんドロドロさせるつもりなのね
このもやもや感がたまらん
そのままお姉ちゃんも兄友君もしばらく黙ってしまった。
あたしは兄友君に抱き寄せられていた肩がひどく熱を持っているようで、そして自分の気持も持て余していたのでお姉ちゃんとも兄友君とも目を合わさず俯いていた。
「とりあえず謝っておいたら?」
しばらくしてお姉ちゃんが兄友君に言った。
「そうだね。妹友ちゃんごめん。俺、酒入ってるし久しぶりに妹友ちゃんに会えて調子に乗っちゃったみたいだ」
兄友君があたしに言った。
正直に言えば突然の出来事に混乱はしていたけど別に嫌なことを無理やりされたわけではないので、あたしには兄友君に対して憤る気持ちはなかった。
「あたしは・・・・・・別にいいけど」
あたしはそう言った。
まだ俯いていたあたしの視界の端でお姉ちゃんが少し驚いたような表情を見せた。
「いや、まあ謝れって妹友ちゃんにというか、まあ妹友にも謝るのはいいんだけど」
お姉ちゃんが言った。
「え?」
兄友君はお姉ちゃんの言葉に戸惑ったようだった。
「あたしが謝れって言ったのは次女ちゃんに対してなんだけど」
「ああ・・・・・・そうか。でもあいつに謝るのはちょっと違うような」
「どうして?」
「どうしてって・・・・・・。今から次女のとこ行って話してきた方がいいかな」
「話すって、あんた」
そこまで聞くとお姉ちゃんは飽きれたように兄友君を見た。
でも今にして思うとお姉ちゃんはこの時少なからず酔っていたのだろう。そして兄友君も。
次女ちゃんが突然席を立ったことはだんだんこの二人の中でどうでもよくなってきたようで、兄友君の青ざめた表情もこの頃になるとまたお酒に酔っている赤い顔に戻ってしまったようだった。
「まあ、今謝ってももう遅いから、明日にでも素面で謝りなよ」
お姉ちゃんは気を取り直したように再びお酒を手に取って言った。
「そんでいいのかな」
兄友君は少し納得がいかないようだったけど、お姉ちゃんにお酒を渡されると今日はお姉ちゃんに従う気になったようだった。
「いいのよ。そんなことよりもっと大事なことがあるでしょ」
「大事なことって何だよ」
結局兄友君はお姉ちゃんに渡された梅酒を再び口にした。
「これからあんたに質問するから」
お姉ちゃんが勢いよく言った。それでさっきまでの意味ありげな沈黙は完全に去り、次女ちゃん抜きではあったけど再び賑やかな雰囲気が戻って来ていた。
「あんたは全部の質問に正直に答えるのよ」
「何で俺がそんなこと」
「何でじゃないでしょ。次女ちゃんを泣かせて妹友の心をかき乱した罰です」
そこでお姉ちゃんはにっこりと笑った。「おわかり?」
「・・・・・・よくわかんねえけど。姉さんはいったい何を聞きたいの?」
「では最初の質問です」
お姉ちゃんは缶入りの梅酒をマイクのように持って言った。
「あんた、彼女はいないって言ってたけど」
「いないよ」
「でも付き合ってなくても好きな女の子はいるんでしょ?」
お姉ちゃんのその質問に、さっきの兄友君の言葉と行動にまだ動揺していたあたしは思わず兄友君の方を見た。
兄友君はちらっとあたしの方を気まずそうに見て言った。
「何でそんなことここで言わなきゃなんないわけ?」
「こら白けるようなこと言うな。いいじゃん、次女ちゃんはいないんだし」
「・・・・・・好きな子はいる」
兄友君はぶすっとして答えて再び持っていたお酒を口にした。
「よし。じゃあ次の質問ね」
お姉ちゃんは梅酒の缶をマイクのように兄友君の口元に突きつけて言った。
「その子は東北の子? それともここに住んでる子かな」
「おい。いい加減に・・・・・・」
「答えなよ」
畳み掛けるように続けたお姉ちゃんの声は今までのような悪ふざけをしているような声ではなかった。突然、お姉ちゃんは真面目に話し出したのだった。
「次女ちゃんを傷付けて妹友まで動揺させたんだから、あんたには答える義務がある」
兄友君ははっとしてお姉ちゃんの方に顔を向けた。そして結局しぶしぶと答えた。
「東北の子じゃねえよ」
「じゃあ今度はイエスかノーで答えなよ。あんたも恥かしいだろうし」
お姉ちゃんはもうお酒を飲んではいなかった。お姉ちゃんの梅酒はテーブルの上に戻されている。対照的に兄友君は追い詰められたようにごくごくと手にした梅酒を飲んでいた。まるでやけになっているかのように。
「あんたの好きな女の子って、うちら三人の中にいるの?」
兄友君は憮然とした表情だった。
「イエスかノーでいいよ」
「・・・・・・イエス」
ようやく兄友君は答えた。
あたしはどきどきしながら二人のやり取りを眺めていた。冷静そうなおねえちゃんと違ってあたしは兄友君の答えを聞きたくないという気持ちと、兄友君の気持ちを知りたいという気持ちがせめぎあっていたのだ。
「あんたの好きな女の子はあたし?」
この時お姉ちゃんは少し皮肉っぽいニュアンスで質問した。
「ノー」
兄友君の答を聞いてお姉ちゃんは笑った。「まあそうでしょうね」
そして改めて質問を続けた。今度はすごくストレートな質問だった。
「あんたの好きな子は次女ちゃん?」
あたしは息を呑んで兄友君の答えを待った。
「・・・・・・イエス」
あたしはそこで失望しても泣いてもよかったのだけどお姉ちゃんが何事もなかったかのように質問を続けたので、あたしには失望して泣く暇すら与えられなかった。
お姉ちゃんは冷静に次の質問を畳み掛けるように聞いた。
「あんたは妹友が好き?」
「・・・・・・イエス」
あたしは戸惑って何が何だか理解できないでいたのだけど、そこでお姉ちゃんはにっこり笑ったのだった。
「まあ今日はこの辺で勘弁してやるか」
お姉ちゃんが言った。「もう少し飲む?」
兄友君もようやくお姉ちゃんに対して笑顔を見せた。
「知ってたんだろ? 人が悪いな、姉さんも」
そしてお姉ちゃんと兄友君は顔を合わせて笑い出したのだった。この話の一方の主人公であるはずのあたしのことなんか放置したままで。
今日は以上
できるようなら明日また再開します
今日はこないのか……
いくらなんでも引き延ばしすぎて、ちょっと飽きてきた
すぐに終わると思ってたら次々に登場人物が出てきて長編になってる
ってのは浦沢直樹っぽいよね
翌朝十時過ぎ、いつまでたっても自分の部屋から出てこないお姉ちゃんをあたしは起こしに行った。土曜日とはいえいくらなんでも遅すぎる。
パパは普通に出社したようだけど昨日飲み過ぎたせいかママはまだ起きてこなかった。今のうちにお姉ちゃんを起こさないとママが先に起きたらお姉ちゃんが二日酔なことがばれてしまう。
昨日はあれからお姉ちゃんと兄友君は何だか訳のわからない話で盛り上がってしまい、兄友君が誰を好きだとかそういう微妙な話はその後は一切話に出なかった。なのであたしは一向に晴れないもやもや感を抱えながらも、「もう寝るね」と二人に断って自分の部屋に戻ったのだった。
もっともその言葉に対する二人からの返事はなかった。お姉ちゃんと兄友君はひたすら二人で盛り上がりながら高い声で笑っていたのだった。
これはパパとママがお酒を飲み過ぎている時と同じ状態だった。
「もういい加減に起きてよ」
あたしは耳を塞いでベッドに潜り込んでいるお姉ちゃんに声をかけた。「そろそろ起きないとママにお酒飲んだことばれちゃうよ」
お姉ちゃんがベッドの中でもごもごと動いた。でもお姉ちゃんが起きる様子はない。あたしは少し焦り始めた。こんなことをしていたらママが起きてきてしまう。
「お姉ちゃん!」
あたしは大声でお姉ちゃんに呼びかけながらお姉ちゃんの身体を毛布の上から揺すった。
「わかったわかった。起きるから」
お姉ちゃんがしぶしぶまだ半分眠っているような声で応えた。
「・・・・・・次女ちゃんは」
お姉ちゃんが目をごしごしこすりながら言った。
「今日は学校だよ。学園祭の準備でしょ」
あたしはママの寝室の方を気にしながら言った。
「そうか」
「ねえお姉ちゃん」
「なあに」
「兄友君って次女ちゃんに謝ったのかな」
お姉ちゃんはベッドの上で上半身を起こした。
「まだでしょ。多分これから謝るつもりなんじゃないの」
お姉ちゃんが言った。
「ママはまだ寝てるの?」
「うん」
「じゃあ、兄友のところに行こう」
「え?」
「いや、間違えた。外にご飯食べに行こうよ」
「何なの? いったい」
「いいから。早く支度しな」
「支度って・・・・・・お姉ちゃんこそ」
「ああ、そうか。ちょっと待って」
お姉ちゃんはあたしが着替えまで済ませていることに気がついたようだった。お姉ちゃんはベッドから出てのろのろと身支度を始めた。
お姉ちゃんには食欲があるのだろうか。この様子ならそれほど二日酔といわけでもなさそうだった。それならママに飲酒を咎められるよりは外出して逃げてしまった方がましだろう。
「出かけるなら早くしようよ」
あたしは緩慢な動作で着替えを始めたお姉ちゃんをせかした。
食事をすると言ってたお姉ちゃんだけど家を出てお姉ちゃんが向ったのはファミレスでもファーストフードの店でもなく、あたしたちの通っている中学校だった。
「ご飯食べに行くんじゃなかったの」
あたしは並んで歩いているお姉ちゃんに皮肉めいた声をかけた。
「自分だって気になる癖に」
「気になるって何が?」
「兄友の気持ちが知りたいんでしょ」
あたしはお姉ちゃんにそう言われて黙ってしまった。あたしの兄友への想いはお姉ちゃんたちには隠せていたはずだったのに。少なくとも次女ちゃんの積極的なアピールの影に隠れてはいたはずだったのに。
昨晩の兄友君の言葉に動揺していたあたしの心中はお姉ちゃんに筒抜けになってしまっていたのだろうか。そして今では次女ちゃんはあたしが酔った兄友君に抱き寄せられて口説かれているような場面を目撃しそのまま退場してしまっていた。なのでその後に兄友君がイエスノーで次女ちゃんのことが好きだということを認めたことすら知らないままのはずだった。
改めてお姉ちゃんの横顔をちらりと眺めると随分気楽そうな表情だった。次女ちゃんとあたしの兄友君への想いはお姉ちゃんにとっては他人事なのだろう。昨日もあたしが部屋に戻る間際にお姉ちゃんは兄友君と楽しそうに世間話をしていたくらいだし。
そして兄友君こそは当事者のはずだったけれど、少なくとも彼はお姉ちゃんと世間話ができるくらいには余裕があったのだろうか。あたしは昨日の会話を思い出した。
『あんたの好きな子は次女ちゃん?』
『・・・・・・イエス』
『あんたは妹友が好き?』
『・・・・・・イエス』
次女ちゃんが好きかと問われてイエスと応えた兄友君にあたしは一瞬絶望した。
でも。その後にあたしが好きかと聞かれてイエスと応えた兄友君。
自分でも自分の考えが整理できないことって本当にあるんだな。あたしは思った。
それにしても、何でお姉ちゃんは今学校に向っているのか。次女ちゃんと話をしたいにしても学園祭の準備をしているところをわざわざ邪魔する必要なんてない。ましてや今晩にでも家で話せることをわざわざ人目につく学校ですることはないだろう。
「何で学校に行くの?」
あたしはお姉ちゃんに話しかけた。
「だって兄友に会いたいでしょ」
「兄友君が学校にいるわけないじゃん。もううちの生徒じゃないんだし」
「いるのよ」
お姉ちゃんが言った。「今頃次女ちゃんの機嫌を取ろうと必死になって次女ちゃんを探そうとしているでしょ、兄友は」
何だかよくわからないまま、あたしたちは学校の校門の前に着いてしまった。
「やっぱりいた」
お姉ちゃんが言った。
「おはよ」
「何でおまえらが」
校門の前で校内を覗き込むようにしていた兄友君は困惑したように言った。
「中学の校門前でうろうろしているなんて、あんた不審者そのものじゃん。通報しようかな」
お姉ちゃんが意地の悪い声で言った。お姉ちゃんは他人に優しい人だけどたまにこういう風に意地の悪いことを言い出すことがある。
「だから何で休みの日におまえらが登校してるんだよ」
予想違いにもほどがあるとか兄友君はぶつぶつ言った。
「あんた、昨日次女ちゃんに謝るって言ってたからさ。多分ここだろうと思ったんだけどまさか校門前で現場を押さえられるとはね」
「姉さん・・・・・・あんたってやつは」
兄友君は憮然として言った。
「あたしにそんなこと言っていいのかなあ」
お姉ちゃんはにやりと笑った。「あんたさ、学校侵入の罪で守衛さんに捕まりたいのかな」
「どうせここまで来たのはいいけど、校内に入るに入れなくてでうろうろしてたんでしょ」
お姉ちゃんは笑った。そしてここまで黙っていたあたしの肩を押して兄友君の方に押し出すようにした。
「あとさ、この子にももう一度謝っておきなよ。中一の女の子を悩ませたのだから」
「お姉ちゃん止めてよ」
あたしは小さい声でそれだけ言って俯いた。なので兄友君がこの時どういう表情をしていたのかはわからなかった。
「わかってるよ・・・・・・妹友ちゃん、俺」
兄友君があたしに何か言かけたその時だった。
「あ次女ちゃんだ」
お姉ちゃんの声が兄友君の言葉を遮った。
「あれ? 生徒会長と二人きりで歩いてるじゃん」
兄友君があたしを構うのをやめ、顔を上げて次女ちゃんの姿を探し出した。
生徒会長と副会長なのだから校内で二人で歩いていても不思議はない。
でもこの時の次女ちゃんは生徒会長に寄り添うというか、生徒会長の手を引っ張ってどこかに向っている様子だった。
今日は以上です。短くてすいません。
またお会いしましょう
あたしたちは三人とも生徒会長と次女ちゃんの姿に目を奪われていたから、結局その時兄友君があたしにどう謝ろうとしていたのかはわからずじまいだった。昨夜のことは酒の上の冗談だよって言おうとしていたのか、それとも。
あたしは兄友君の話の続きが気になったけど同時に次女ちゃんが何をしているのか、これから何をしようとしているのかも気になっていた。それはお姉ちゃんと兄友君も同じようだった。
・・・・・・二人は校門の前に立っているあたしたちには気がつかずに校舎の裏庭の方に歩いて行った。・・・・・・裏庭は人気がないというだけで何があるという訳ではない。向っている場所を考えれば生徒会長と副会長が生徒会活動や学園祭の用事で二人きりで一緒に歩いている訳で
はなさそうだった。
「う〜ん」
お姉ちゃんが兄友君のほうをわりと真剣な顔で見た。「次女ちゃんもついに決心しちゃったか」
「決心って何だよ」
兄友君が答えた。
「何だよじゃないでしょ。あんたが昨晩次女ちゃんを放置していい気になるからよ」
「・・・・・・反省してる」
兄友君がぼそっと言った。
「釣った魚に餌をやらないどころの騒ぎじゃないわよ。あんたが自分に自信があるのはわかるけど、まだ釣れてもいない魚を見事に逃がしちゃってどうすんのよ」
「わかったからもう止めてくれよ、姉さん」
二人の会話はあたしの心を抉るようだった。お姉ちゃんももうあたしのことを配慮しながら兄友君と話すことなんてできない状況に陥っていたのだろう。それは仕方がないことだったけど、二人の交わしている会話はあたしに、あたしはやっぱり次女ちゃんの当て馬だったのだということを思い知らせてくれたのだった。
「どうすんのよ。あれ」
「どうするって言われてもなあ。あいつ誰?」
「うちの学校の三年生。生徒会長だよ。あたしも知り合いじゃないけど。あんたみたいに格好いいというわけじゃないけど評判は悪くないよ」
「そうじゃなくて。あいつは次女ちゃんの何だって聞いてるんだけど。まさか・・・・・・」
「まだ付き合っていないと思うよ・・・・・・まだ」
「何だよ次女のやつ。あれだけ思わせぶりなメールを山ほど送りつけておいて自分は男と二人きりかよ」
「釣った魚に餌を・・・・・・」
お姉ちゃんが兄友君に思わせぶりに言った。それで兄友君はまた黙ってしまった。
この時兄友君は何を考えていたのか。
こういう時に前から無駄に洞察力が高かったあたしの脳が回転を始めた。そしてお姉ちゃんを頼ることなく多分こうだったのだろうという回答をあたしは自ら見出してしまったのだ。
彼は昨晩戯れに幼馴染の年下のあたしを気楽にからかった。自分に自信がある兄友君にお酒が入った状態ならあたしの肩を抱いて耳元で誘いの言葉を囁くくらいはするだろう。
そうして昔から自分に気があることを知っていた本命の次女ちゃんを煽ったのだ。次女ちゃんにヤキモチを焼かせるためか、もっと次女ちゃんに自分への執着を高めさせるためか。
普段の彼ならこんなことはしないだろうけど、昨日は兄友君はお酒を飲んでいた。そういうことがあっても不思議ではない。結局さっき途中で途切れてしまった兄友君のあたしへの言葉は純粋に謝罪だったのだろう。
『酔った勢いでつい思ってもいないことを口にしちゃってごめんな。気に触っただろ』
次女ちゃんと生徒会長のツーショットを目撃しなければ、大方こんな言葉が兄友君の口から出ていたのだろう。
「よし。こうなったら最後まで見届けよう」
お姉ちゃんが勢いよく言った。
「いいよ、もう」
兄友君は珍しく気が弱そうな表情を見せた。
「何言ってるのよ。こんな中途半端な状態じゃあんただって東北に帰りづらいでしょうが」
「だけど」
「行くわよ」
お姉ちゃんはもう兄友君のことは相手にせず校門を入って校舎の入り口の方に向かって歩き出した。
「校舎に入っても次女ちゃんたちには追いつけないでしょ」
あたしは早足で廊下を歩いていくお姉ちゃんに言った。
「次女ちゃんたちと同じ裏庭に行くわけにも行かないでしょ。近くに行けないし、第一それじゃ会話が聞こえないじゃん」
お姉ちゃんは振り向きもせずに言った。
この時あたしとお姉ちゃんは校舎の入り口で上履きに履き替えていたけど、上履きのない兄友君は土足で校舎に入るのをためらい律儀に素足で歩いていた。
「北側の廊下の窓際に屈んでれば裏庭の会話も聞こえるかもよ」
お姉ちゃんは裏庭に面した北側廊下の方に向っているようだった。
やがて北側の裏庭に面して伸びている廊下の前に着くと、お姉ちゃんはそっと窓から裏庭を眺めた。
「いるよ。校舎の側に立って何か話している」
十月の終わりにしては少し気温が高かったせいで廊下に面した窓は全て開け放されていた。これは次女ちゃんたちの話を盗み聞きするには好都合だったけど、逆に言うと話が聞こえるところまでたどり着く前に次女ちゃんに発見される危険もあった。
「よし。見えないように屈んで次女ちゃんたちの横まで行こう。何も話すんじゃないよ。あと足音も立てるなよ」
お姉ちゃんの直情的な行動にはあたしも、そして多分兄友君にも言いたいことはあったと思うけど、喋るなと言われてしまえば反論のしようもなかった。何といってもお姉ちゃんは一番年上で、昔から自分に自信のある兄友君でさえお姉ちゃんには一目置いていたのだ。
あたしたちは開け放されている窓から見えないように腰を屈めながらようやく目標としていた場所まで辿りついたのだった。
「静かに」
お姉ちゃんが囁くように言った。その時、その声さえもが次女ちゃんに届く危険があるほどあたしたちは次女ちゃんと生徒会長のすぐ側まで接近していた。
廊下の窓際に身を屈めて息を潜めていたあたしたちに結構はっきりと生徒会長の声が聞こえてきた。それは戸惑っているような響きを伴ってあたしの耳に届いたのだった。
「君さ。その・・・・・・女さんと同じクラスだったよね」
「はい」
次女ちゃんの聞きなれた声が答えた。「女ちゃんとは友だちですよ」
「あのさ。ひょっとしたら君は知らないのかもしれないけど、そして知らなかったとしたら君には悪いんだけど・・・・・・僕は女さんと付き合ってるんだ」
「ああ、それを気にしてたんですね。別に大丈夫です」
「大丈夫って?」
生徒会長の声は戸惑っているようだった。
無理もない。生徒会長は人気はあるのだけど女性経験が豊富とは言えない。とても恋愛関係の駆け引きでは年下ではあっても次女ちゃんの敵ではないだろう。
「女ちゃんが先輩と付き合っているのは知ってましたから」
次女ちゃんが答えた。
「でも、それでも先輩が好きなんです。せめてこの気持ちだけでも先輩にわかってもらいたくて」
生徒会長は次女ちゃんの意外な反応にさらに戸惑っているようだった。やがて彼が答えた。
「・・・・・・僕なんかのどこがいいの? 格好よくもないしスポーツだって苦手だし」
「そんなこと関係ありません」
次女ちゃんはきっぱりと言い切った。
あたしには目に見えるようだった。うるうるとした大きな泣きそうな眼で生徒会長を見上げている可愛らしい次女ちゃんの姿が。それは全てとは言えないけどほとんどが欺瞞であることはあたしとお姉ちゃんにはわかっていた。
それでもあたしは自分勝手なことに生徒会長が次女ちゃんに陥落しないかと期待しているのだった。次女ちゃんは兄友君に冷たくされた鬱憤や傷つけられたプライドを生徒会長を女さんから奪うことで癒そうとしているだけだ。あたしにはわかっていた。
なので生徒会長と次女ちゃんの恋の成就は女さんも含めて誰も幸せにはならないだろう。それでもあたしは期待していた。兄友君と次女ちゃんの両想いが破綻することを。そしてその結果あたしと兄友君が必ずしも結ばれるわけではないことや兄友君が辛い想いをすることすら理解していたのだったけど。
それでもあたしの肩には昨晩兄友君に強く抱き寄せられた感覚がうずいていて、そのことがあたしの思考を惑わせていたのだ。
「・・・・・・てきぱきと生徒会の役員に指示する先輩は、大人びていて素敵です」
次女ちゃんの声が聞こえる。
「それにあたし、顔とか運動神経とか学校の女の子の評判なんか気にしません。あたしが好きと思うだけで十分なんです」
聞く人によっては随分傲慢な発言に聞こえたかもしれないけど、次女ちゃんの可愛らしい容姿や自分を誉める言葉に戸惑っている生徒会長はそうは受け取らなかったようだった。
生徒会長は心を動かされている。あたしはそう思った。次女ちゃんにここまで言い寄られて平静でいられる男はそうはいないだろう。それでも驚いたことに生徒会長は次女ちゃんの誘惑に陥らずに踏みとどまった。
「君の気持ちは嬉しいけど。僕には女さんがいるから」
先輩はそう言った。
短いけど今日は以上です
また投下します
乙乙。
これはちょっと1スレ目から読み直してみないといけないかも
おーつー
兄友の真意とか現在に至るまでの変遷とかにさして興味を持てないと第五部はきついな…
読んでて、会長の出番自体にほっとするとか我ながら変な感じがした
ワクテカがとまらぬい
会長が去って行った後、しばらく次女ちゃんはその場に留まっているようだった。もちろん姿が見えたわけではなかった。会長の足音が消えていった後、それに続く物音が何も聞こえなかったからそう思っただけだった。
次女ちゃんは兄友君へのあてつけで生徒会長に突然告白したのだろうか。昨晩の兄友君の態度に次女ちゃんがその高いプライドを傷つけられたであろうことは間違いない。そしてその翌日にいきなり恋愛の対象を切り替えてさっさと兄友君以外の男の子に告白したことを考えると、それは兄友君へのあてつけか、それとも兄友君に気がない素振りを見せられて次女ちゃんが自暴自棄になったということを考えざるを得なかった。
でも一方で次女ちゃんは以前から生徒会長のことが気になると公言していたことも確かだった。やけになって誰でもいいから告白したというには当たらないだろう。
・・・・・・あたしはこの時次女ちゃんの心の動きを推察しようとしていたので、兄友君がこの時どう感じていたかについては心が回っていなかった。多分お姉ちゃんもそうだったのだろう。あたしは次女ちゃんがこの場を去った後で次女ちゃんには知られないようそっと消えるつもりだった。そ
してお姉ちゃんもきっとそう考えていたのだろうとあたしは思っていた。
でもお姉ちゃんはもっと違うことを考えていたようだった。
その時、それまで身を屈めて次女ちゃんが自分以外の男の子に告白し、そして自分以外の男の子に振られるのを黙って聞いていた兄友君が突然立ち上がったのだ。
「あ、ばか。あんた何やって」
お姉ちゃんが慌てて兄友君を止めようとしたけどそれは無駄な努力だった。そして今にして思うとこの時お姉ちゃんが本気で兄友君を止めようとしたのかもわからない。
突然校舎の窓に兄友君の姿が現われたのだから次女ちゃんもさぞ慌てたことだろう。実際、一瞬信じられない物でも見たかのように次女ちゃんの驚き震える声がした。
「兄友・・・・・・何で?」
「いや、何でって」
「・・・・・・全部聞いてたの?」
次女ちゃんが半ば泣いているような声を振り絞った。
「悪い・・・・・・聞いちゃった」
「そうか」
次女ちゃんがぽつりと言った。
その時あたしは半ば無意識に自分も立ち上がろうとしていた。兄友君が自ら盗み聞きをばらしたのであればあたしたちだけ隠れていても意味がないと思ったのだ。
でもあたしの肩はお姉ちゃんの手で無言のまま押さえられた。あたしは一瞬びっくりしたけど結局お姉ちゃんの両手に屈して窓の陰に屈んだままになってしまった。
今にして思うとお姉ちゃんの判断は理由があったのだろう。お姉ちゃんとあたしが次女ちゃんに姿を現さなかったことが結果として次女ちゃんと兄友君のためにはなったのだから。
「恥かしいとこ見られちゃったな」
しばらくの沈黙の後、ようやく次女ちゃんは微笑みを含んだ声で言った。
あたしはお姉ちゃんの手に少しだけ逆らって顔を上げ窓の陰から次女ちゃんを眺めた。さいわい次女ちゃんの視線は兄友君に向いている。そして悲しみを抑えて無理に少しだけ微笑む次女ちゃんの表情は妹のあたしでもどきっとするくらい綺麗だった。
「振られちゃったよ」
「うん」
「兄友は何で隠れて見てたの?」
次女ちゃんは兄友君を見上げた。「君は妹友ちゃん狙いなのに、あたしの告白なんて見ていてもしょうがないでしょ」
それは自嘲というより兄友君への誘いのニュアンスが勝っていたように聞こえたのはあたしの僻みのなせる業だったのだろうか。
「違うよ」
兄友君が真面目な声で言った。「それはおまえの誤解だ」
次女ちゃんはそれを聞いてまた悲しげに微笑んだ。あたしには兄友君の表情は見えなかったけど、彼がそういう次女ちゃんの姿に見とれていることは手に取るようにわかった。
「まあ何でもいいや。せっかくここにいるんだから振られた可愛そうな幼馴染を慰めてよ。何でだか知らないけど、盗み聞きまでしたんだからあんたにはそれくらいする義務があるでしょ」
「義務って・・・・・・まあ、いいけど」
「じゃ行こう」
次女ちゃんは兄友君に言った。
「校舎の入り口から外に出るからそっちで待ってろ」
兄友君が言った。
「わかった。待たせないでね」
「おう。・・・・・・ところでどこに行く?」
「カラオケでもどこでも」
「わかった。今日はとことん付き合ってやる」
「・・・・・・うん」
そう言った次女ちゃんの声にはたった今好きな男の子に振られたばかりのような暗さはなかった。むしろこの二人の会話は相思相愛のカップルの会話のようだった。
次女ちゃんはいったい何を考えていたのだろう。
「じゃあ俺は次女と出かけるから」
次女ちゃんが去って行ったのを確認してから兄友はお姉ちゃんに言った。
「ちゃんと慰めてくるから任せてよ」
お姉ちゃんは別に慌てた様子もなく兄友君の方を見た。
「まあ思ってたとおりだから別にいいか。今度おごりなさいよ」
「わかってる。じゃあね」
そう言ってあたしの方は振り向きもせず声さえかけずに、友君は去っていった。駆け出したりはしなかったけど、靴を脱いで置きっ放しにしてある校舎の出入り口の方に一刻も早く到着したいかのような早足で。
あたしたちが兄友君に続いて次女ちゃんに姿を見せなかったことで、次女ちゃんにとっても兄友君にとっても幸せな展開になったのだろう。それはお姉ちゃんが姿を現そうとしたあたしを押しとどめたからだった。
「あんたには悪かったね」
次女ちゃんと兄友君が去っていった休日の校舎に、あたしとお姉ちゃんは取り残されていた。
「あんたも昨日の兄友のバカな行動のせいで期待しちゃったでしょ」
「・・・・・・何の話?」
あたしは必死で冷静を装ったけど、あたしの意思を裏切って声は震えていたはずだった。それにあたしは次女ちゃんと違って自分の感情を素直に見せることもできないけど、逆に自分の感情を偽って冷静に振る舞うことも苦手だった。次女ちゃんならこの両方ができるのだけど。
「あんたには悪いことしたよ。特に昨日のあいつの態度は馬鹿丸出しだったし」
「あたしは別に・・・・・・」
お姉ちゃんはあたしの言葉を気に止めずに話を続けた。
「あんたが気がついていたかどうかは知らないけどさ。あの二人は小さい頃から相思相愛だったし」
あたしは黙ってしまった。もう言うべき言葉なんて思い浮ばない。
そんなことはあたしにもよくわかっていたのだから。
「だからさ。あんたには悪いけど、これでよかったんだよ。生徒会長が女さんを振って次女ちゃんに靡いても、いつか結局次女ちゃんは会長を傷付けることになるんだから」
「・・・・・・うん」
「しかし自分の妹ながら天晴れだな。昨晩の兄友の行動を見てすぐに今日こんな手の込んだことを仕掛けられるなんてさ」
「仕掛けるって・・・・・・こんなの偶然じゃない」
あたしは小さな声で言った。昨晩のあたしに気があるかのような兄友君の意地の悪い態度に自暴自棄になって行った次女ちゃんの告白が、女さん一筋の会長に断られたというだけだ。決して結果まで見通して仕掛けたわけではない。
結果的に兄友君と結ばれるとしても、それは偶然かお姉ちゃんのフォローによるものだろう。
でもそれについてはお姉ちゃんはそれ以上は何も言わなかった。
「じゃあ、遅くなったけどご飯食べに行こう。今日は何でもご馳走してあげる」
お姉ちゃんは立ち上がった。「あと愚痴も聞くし慰めてもあげるからさ」
お姉ちゃんは笑った。
これが中学時代にあたしの初恋が終焉を迎えた日の出来事だった。
今日は以上です
また投下します
はい
おや?多忙なのかな?
こんなに間空けるの珍し
おーい、大丈夫なのかなあ。ちょっと心配
長期休載申し訳ありません
業務が納期を前にしてトラブってましてSSどころではない状況でした。まだ完全に終息はしていないのですけどだいぶ目途が立ってきましたので、今日と明日は二連休でしたので、久しぶりに少ないですけど再開します。
明日も投下したい思いますが火曜日以降は業務しだいで完全に未定です。
それでは再開
その後次女ちゃんと兄友君がどう過ごして何を語らったのかはわからない。その日の夕方、兄友君はおばさんと一緒に東北に帰って行った。
あたしはこれで兄友君への長年の思いに終止符を打たれたのだったけど、自分でも意外なほど冷静にいつものとおりの学校生活に戻って行けたのだった。
あたしに残されたのはあの夜兄友君に抱き寄せられた肩に感じた熱っぽい感覚と、兄友君の言葉だった。
『妹友ちゃん元気だったか? 俺、おまえに合いたくてさ。引っ越した時は毎日妹友ちゃんの夢を見たんだぜ』
『もう小学生じゃないじゃん』
あたしを抱き寄せた兄友君の手。
『妹友ちゃん、俺のこと嫌い? もう中学生同士だし付き合ったって大丈夫なんだぜ』
『あんたは妹友が好き?』
お姉ちゃんの酔った声。
『・・・・・・イエス』
『君は妹友ちゃん狙いなのに、あたしの告白なんて見ていてもしょうがないでしょ』
次女ちゃんの泣きそうな声。
『違うよ。それはおまえの誤解だ』
矛盾する二つの答え。
次女ちゃんが生徒会長に告白した時の兄友君の様子を目の当たりにしなかったらあたしは今頃さぞかし悩んでいただろう。でもあれを目撃した今は悩む余地などなかった。
幸いなことに兄友君は遠い東北にいる。あいつは今では近所に住む憧れの幼馴染としてあたしを悩ませたりすることはない。そういうことも手伝って、あたしは彼のことを考えないように努めそれはかなりうまく行ったのだった。
そしてお姉ちゃんも次女ちゃんも兄友君が戻って行ってからは彼のことには触れようともしなかった。
時折校内で、主に放課後の図書室周辺で見かける生徒会長と女さんの交際も順調のようだった。女さんは滅多に笑顔は見せないけど、それでも生徒会長に寄り添っていつも夢中で会長に何やら長々と話しかけていて、会長もそれに対して真面目な顔で女さんに答えているのだった。
互いに微笑みあって寄り添うようなカップルではなかったけど、そういう二人の姿はそれはそれで長年親しんできた男女のようにあたしには見えた。
それは幸せそうな一組の男女のカップルそのものだった。少なくともそのことだけはあたしもお姉ちゃんも安心してよかったのだろう。次女ちゃんの身勝手な行動によって何の咎もない一組の恋人の幸せを壊さずに済んだのだったから。
あたしは自分の初恋の終焉には思っていたよりダメージを受けなかったようだった。そしてむしろ女さんと生徒会長の恋をあたしたち姉妹のエゴによって邪魔しないで済んだことにもほっとしていた。
・・・・・・今でもあたしの気持ちは宙に浮いたままだったけど、それでも眼を瞑り耳を塞いで思い詰めなければそれですむ。兄友が再び姿を消したことによってあたしにもそういう見かけは平穏な日々が再び訪れたのだった。
次女ちゃんと兄友君の仲がどうなっているのか、この頃のあたしにはよくわからなかった。もともと次女ちゃんは自分の感情を秘めるどころかむしろ楽しそうに自分の恋愛感情をあたしたちに話すことが好きな子だったから、彼女が自分の恋愛感情や現在の恋愛関係を喋らないということはこれまでなかった。
でもあの日以来次女ちゃんはこの種の話を一切あたしたちにしないようになってしまった。だからこの頃の彼女が何を考え誰と付き合っているのか、あるいは誰とも付き合っていないのかはわからない。
・・・・・・多分兄友君と遠恋してるのかもしれない。あたしももうこの頃になるとそのこと自体にひどく悩むことはなくなっていたから、冷静にそう考えることができたのだった。
翌年の四月、お姉ちゃんが××学園に高校進学した。
次の年、次女ちゃんが女子高に入学した。そしてようやく東北から帰ってきた兄友君はお姉ちゃんと同じ高校に入学したのだった。ただ、彼は以前あたしたちの隣で暮らしていた家ではなく少し離れた街に引っ越してきたため、昔のように親しく行き来することはなかった。
更に次の年。あたしはお姉ちゃんや兄友君と同じ××学園に入学した。そしてその学園であたしを待っていたのは、お姉ちゃんと兄友君だけではなかった。
一学年上には女さんと生徒会長がいた。
それでもあたしの平穏な日々が破られることはなかった。高校に入学した女さんと生徒会長にはどういうわけか付き合っている様子や親しげな様子はないようだった。
・・・・・・あれから時は流れているのだし中学時代の恋が永遠に続く保証なんてないのだから、それはそれでそういうものだと納得したのだった。
むしろ、久しぶりの校内で再開した兄友君は新しくできた兄さんという親友やその妹さん、そしてその幼馴染といつも一緒に行動していたのだった。彼らの姿は校内では結構目立っていた。兄友君が女の子の一目を惹く容姿なのはもちろんだけど、妹さんや幼馴染さんも目立つと言う意味ではいい勝負だった。
あたしがこの四人のことを知ったのは校内で見かけたからではなかった。いくら目立つ四人組といってもうちのようなマンモス校ではその印象は薄まってしまう。あたしはこの仲良しグループのことをこの中の一員である妹ちゃんから直接聞いたのだった。彼女はあたしと同級生であたしが最初に仲良くなった友人だった。そして妹ちゃんはかつての次女ちゃんと同じく自分に自信があるせいか、自分の感情を一切隠さずむしろ堂々と喋ってくれるような女の子だったのだ。
こうして妹友ちゃんから得た情報や、たまに校内で見かける四人の姿を見かけるとあたしはたまに不思議に思った。兄友君は何を考えているのだろう。一人女子高に通っている次女ちゃんのことはもう忘れてしまったのだろうか。
・・・・・・この後あたしの平穏な高校生活に波乱を及ぼした出来事は学園祭の前に起こったのだった。
後になってようやく理解できたことだけど、これは中学時代のあたしたちと高校生である現在の兄さんたちの感情の交錯による化学反応だったのだ。
東北 兄友中学二年の頃
「よう兄友」
「ああ」
「おまえ前住んでたとこに行ってたんじゃねえの?」
「昨日の夜帰ってきた」
・・・・・・昨日。
「何か土産あんだろうな」
「何でお前に土産なんか買ってこなきゃいけないんだよ」
次女と二人で過ごした時。
・・・・・・俺、一人の女なんかに夢中になるなんてないだろうと思ってたのにな。次女なんかに俺の方が下手に出るなんてよ。
「おまえ、そういうこと言っていいのかよ」
あいつ・・・・・・あんな男に尻尾を振りやがって。どう考えても俺の方が・・・・・・それとも年上が好みだったのか。
生徒会長で頭が良くて人望に熱く、友だちは少ないかもしれないかもしれないけど、ミステリアスな雰囲気と評判の女と付き合っている一つ年上の男。
「何がだよ」
だがそれがどうしたと言うのだ。俺だって成績はいい方だし、何より友人は男女問わずたくさんいる。ミステリアスかどうかは別にして付き合った女の数なんて大抵のやつには負ける気がしない。
なのに何で久しぶりの故郷での再会で俺は次女に振られて帰って来たのだろう。次女の生徒会長への告白はてっきり俺と妹友ちゃんに嫉妬したあいつの俺へのあてつけだと考えていた。でもあいつが振られた後あいつに誘われて遊びに行った帰り、次女に告白した俺はあいつに振られたのだ。
確かにタイミングがいい告白とは言えないだろう。でもその日の夜には俺は再び東北に戻ることになっていたことを考えると、あいつが生徒会長に振られたその日しかあいつに直接告るチャンスはなかったのだ。
あいつは本当に生徒会長が好きだったのだろうか。
これまで俺は次女のことを思い詰めたことなんかなかった。あいつら、俺の幼馴染の三姉妹に対しては俺には彼女なんていねえよって誤魔化していたのだけど、俺には付き合っているような微妙な雰囲気になっている子は複数いた。
でも俺の心の中では常に幼馴染の次女が本命で、誰と一緒にいる時でもその気持ちが揺らぐことなんてなかったのに。
たかが女の一人に振られただけだと自分を納得させようとしたけど、次女の笑顔や俺を振ったときの申し訳なさそうな表情はいつまでたっても心の中から薄れてくれなかった。
ちくしょう。惚れた方の負けか・・・・・・。
「おまえ、あの子との約束忘れてたろ?」
「あ・・・・・・やべ」
正直、その子のことはどうでもよかったけど正直にそう話して自分の評判を落としてはいけないことくらいは承知していた。
「あいつ怒ってるかなあ? 今日謝っておかないと」
「俺がフォローしといてやったぜ。兄友はどうしたのって彼女に聞かれたからさ、急に親と一緒に前に住んでたとこに行ったらしいよってさ」
「おお、さすがに親友だ」
「・・・・・・で土産は?」
「忘れてた」
その後のことだけど、あいつは俺を振ったにも関らず俺へのメールを止めたりはしなかった。告白前はあいつからのメールはほぼ毎日俺の携帯に送られてきていた。俺はさすがに他の女の子と一緒にいるところで返信するわけにもいかなかったから、夜眠る前にあいつのメールに返信することにしていたものだった。
今でも保存してあるあいつからのメールを見ると、どう考えても俺が振られる理由はないように思えた。結構ストレートな愛情表現に溢れていた次女のメールはとてもその頃一緒に遊んでいた女の子に見せられるようなものではなかったのだ。
釣った魚に餌をやらないとか姉さんはあの日に言っていたけど、多少俺が油断したとしても無理はなかったのではないか。それほど一方的に俺への愛を隠さずに告白しているような内容のメールを一日何通も受け取っていた俺としては。
次女に振られた後に相変わらず俺に送られてくるメールは、さすがに以前のように一日に何度もというわけではなくなっていたけれど、それでもほぼ毎日欠かさずに俺の携帯に届いていたのだった。
ただし、その内容は以前とは全く異なったものだった。俺がいないと寂しいとか俺と早く一緒にいられるようになりたいとかという以前のような甘い言葉は内容は全く記されず、自分が生徒会長に振られたことが女ちゃんに知られていて屈辱だとか、生徒会活動で会長は何ももなかったかのように自分と過ごしてくれるけど、その優しさがかえって今の自分には辛いとかそういう内容がつらつらと書き記されていたのだった。
いったいこの時俺に何ができただろう。こういう屈辱的な仕打ちに一切返信をしないという選択肢だってあったのだ。それでも俺は律儀に返信を続けた。時には考えすぎだとあいつを励まし、時にはやな女だなとろくに知りもしない女のことを貶して。
そんなことまでして自分を振った女と繋がっていたいのか。俺はよく自問したものだった。
そしてその答えは明白だった。簡単には手が届かなくなってしまったからなのかもしれないけど、やはり俺は次女が好きなのだ。次女に振られた今でも、いやむしろ今の方が以前よりもっと俺はあいつのことが好きなのだった。
あいつが相談相手としてしか俺を見ていなくてもいい。それでもあいつからメールがもらえるなら俺は喜んで我慢しよう。
・・・・・・以前では考えられなかったことだけど、今では他の女の子と一緒にいる時でもあいつからのメールが届くと俺は一緒にいる子を放って、その場であいつに返信するようになった。しかもかなりマジで考え込みながら。好きな子の恋愛の相談役とかそんなピエロな役目を自分が演じるとは以前は思ってもいなかったのに。
そういうことが続くとさすがに俺と距離を置く子も出てきたけど、俺はこの頃にはそういうことはあまり気にならなくなってすらなっていたのだった。
短くてすいません
とりあえず明日は投下したいですが繰り返しになりますけど明後日以降は仕事次第です
もうあまり引っ張るつもりはないのでそろそろ終盤だと思います
>>321
訂正
×一学年上には女さんと生徒会長がいた。
○一学年上に女さんが二学年上には生徒会長がいた。
それで俺は今の学校で少しづつ評判を落としながらも次女の愚痴メールに律儀に付き合い返信を続けていたのだった。
もともと人の悩みを聞くスキルなんて丸っきりなかった俺だったので、最初のうちはただ次女の愚痴に対して元気出せとかそんなことねーよとか、受け取りようによっては投げやりに聞こえるような返信しかできなかった。それでも次女は飽きずに俺に相談、というか愚痴を言うことを止め
ようとはしなかった。
多分、姉さんや妹友には言えないのだろう。俺のことが少しでも好きなのかそれともとりあえず相談する相手が俺しかいないのかわからないけど、次女は俺を愚痴相手、相談相手に選んだようだった。
ところでこの頃の次女のメールの内容、というか次女の悩みはこういうことだった。
次女の告白の現場には会長以外には俺しかいなかったはずなのに、いつのまにか校内に次女が生徒会長に振られたという噂が流れている。プライドの高い次女には厳しい状況だっただろう。
俺は相変わらず返信では慰める程度のことしかできなかったけどあいつからのメールが途切れることなく続くにつれ俺はだんだんと不安になってきた。別にすぐに気持ちを切り替えて俺のことをもう一度考えろとか考えているわけではなかったけど、それにしてもこんだけ終った恋に執着
する次女の様子は俺を不安にさせたのだ。
まさかこのままメンヘラ化するんじゃないだろうな。俺は思ったけれど今の俺にできることは律儀にあまりあいつには慰めにならないかもしれないメールを返信し続けることしかなかったのだ。このままあいつを見捨ててて最近は少し減ってきたけどそれでもまだ学校で俺に声をかけてくれ
る女の子と付き合うという選択肢だってあっただろうけど、俺はその気になれなかった。俺は自分を振った初めての女、次女に執着していたのだ。
よく考えるとこれではまるで次女が初めて告って振られた会長に執着しているのと同じだったのだった。
自業自得だということは誰に言われるでもなく自分でよくわかっていたのだ。
もともと兄友が遠くに離れてしまい、あたしがメールでそれっぽいことをいっぱい書いてあげてもあいつからは冷たいおざなりな返事しか来なかったことが発端だった。
生徒会の改選期のことだった。あたしみたいな生徒会役員とはもっとも縁がないと思われていたであろうあたしがどういうわけか副会長にさせられた。本当にどういうわけかとしか言いようがない。成績も良くなく教師の受けもよくないあたしなんかが副会長に推薦されたのは、あたしの見た目が多少一目を惹くというか、はっきり言ってしまえば同学年の他の女の子たちより可愛いということで目立ったからなのだろう。
あたしは面倒くさい生徒会活動なんかに時間を取られるのは嫌だったのだけど、お姉ちゃんがすごいよって誉めてくれたり仲のいい女の子たちが羨ましそうにおめでとうと言ってくれたりするのを聞いているうちに気が変わったのだった。
あたしは容姿は優れているかもしれないけど、校内のステータスというのはそれだけで決まるものではない。もちろん周囲の子たちからちやほやされているのは自分の容姿の可愛らしさのせいだということは理解はしていた。でも校内には別な世界もあって、それは成績優秀な子たちの
集まりだったり生徒会の役員たちの特別な地位だった。
今まではそれはあたしには縁のない世界だと思っていたけど、偶然にもその世界への入り口が開いた。そしてそのことが校内ではステータスであることをお姉ちゃんや周りの女の子たちの反応からあたしは悟ったのだった。
そういうことなら多少は時間を取られるかもしれないけど生徒会副会長になろう。あたしの能力では実務的に役には立たないだろうけど、あたしにはそれをカバーできるだけの見た目の可愛らしさがある。可愛い素直な女の子とだ役員の男の子たちに思わせることだってできるだろう。あたしは自分のステータスを更に高めることになると判断して生徒会に加わったのだった。
そこで知り合った一学年上級生の生徒会長の最初の印象はあまりいいとは言えなかった。少なくともイケメンでもないし爽やかな印象もないし運動も苦手なのだとか。
会長は成績もいいし人望も厚いみたいだったけどあたしから言わせればそれだけの男の人に過ぎなかった。例えば兄友は成績もいいけどそれだけではなくイケメンで遊び慣れてもいる。そういう幼馴染がいりあたしとしては生徒会のトップにいる人とはいえこの人のことを彼氏候補として考えたことは一度もなかった。
それでもほぼ毎日放課後に生徒会活動に参加しなければならなくなったあたしにとって、一番一緒に長い時間を過ごさなければいけないのが生徒会長だった。なのであたしは生徒会長に対して自分の精一杯の可愛らしい表情をいつも向けるようにした。端的に言うと会長に媚びて見せ
たのだ。異性としての魅力は全く感じていなかった会長だけど、一緒に仕事をする上であたしの能力の無さを責められても困る。ここはむしろ少しドジで仕事も遅いけど守ってあげたいというような女の子だと思わせた方がいいとあたしは考えたのだ。
その効果は生徒会役員の他の男の子たちには確実に効果を上げていたようだったし、最初は絶対に仲良くなれないだろうと思っていた成績のいい役員の女の子たちともあたしは仲良くなることができたのだった。
ところが肝心の生徒会長があたしのことをどう考えていたのかはよくわからなかった。あたしは他の役員の子たちのようにそつの無い仕事はできず、あたしの担当の仕事は出来は悪いし時間はかかるという有様だったけど、他の役員の子たちが苦笑しながらフォローしていてくれたため
何とかぼろを出さずに済んでいたのだった。
会長は別にそんなあたしを注意したり叱ったりすることは無かったから目的は達成していたのだけれど、会長はあたしのことを別に可愛い後輩の女の子として意識する様子はなかった。
あたしはこれまでもう少し派手で遊びなれている子たちと付き合っていたから、生徒会みたいな真面目な人たちなんて一緒にいてつまらないだろうなと考えていたのだった。自分のステータスを上げるためにこれまで縁の無かった世界に飛び込んだはいいけど、その世界で自分が満足す
るなんて思ってもいなかったのだった。
でも意外なことに生徒会はあたしにとってそれなりに居心地がよかった。それは期せずしてあたしが生徒会役員の子たちに好かれたということが大きかった。中学生活を送る上でリア充としての自分に自信があったあたしだけど、生徒会といういわば一種のエリートの集まりの中でも自
分に人気があるとは考えたことはなかった。
だけど、いくら生徒会があたしが一緒に遊んでいたこれまでの友だちと違って成績も良く学校の教師たちに受けもいい子たちの集まりであるとはいえ、やはり可愛い女の子というのはそれだけでも好かれるものだということをあたしは発見したのだった。
もちろんあたしもそれなりに努力はした。今までのような派手な行動を慎むとかスカート丈をやや長くするとか一応周囲に溶け込むための手は打ったのだ。その成果かどうか、あたしは生徒会の中でも信頼され人気のある副会長となったのだった。そしてこの頃になるとあたしの元の遊
び仲間の女の子たちはあたしの悪口を言い始めていたようだったけどあたしには気にならなかった。あんな底辺の女の子たちが何と言ったってもう怖くない。あたしは人望に厚い生徒会の副会長なのだから。
この頃になるとこれまであたしのことを注意しかしなかった先生たちもあたしに優しい微笑を向けてくれるようになった。
『よう副会長これから生徒会か』
『次女さん、最近まじめに頑張ってるわね。先生はちゃんと見てるからね』
『副会長忙しいとこ悪いけど、このプリント会長に渡しておいてもらえるか』
生徒会に入るまではあたしはこういう言葉を教師からかけてもらったことすらなかった。
同じ役員の女の子たちと放課後よくお喋りするようにもなった。前の友だちと違ってカラオケやショッピングに行ったりというわけにはいかなかったけど、生徒会室で彼女たちと話をしていると頭のいい女の子たちでもお喋りの内容は前の友だちとあまり変らないんだなとあたしは思った。
「ねえ書記の×君、次女ちゃんのこと好きみたいだよ」
あたしは彼女たちに言われたことがあった。×君は成績もいいし顔も悪くないので結構女の子たちには人気があるようだった。
「次女ちゃんは×君のことはどうなの?」
「あたしは別に・・・・・・」
あたしはそう答えた。成績がいいとか多少顔がいいとかでは兄友の足元にも及ばない。あたしは自分が手に入れたこの新しい環境には満足していたけどそこで彼氏を見つけようとは思わなかった。
その後も生徒会役員とか役員でなくても成績がいい男の子たちがあたしを気にしているよとかいう話を彼女たちに聞かされたし、一度ならず直接告られたこともあったけどあたしはその全てを穏便に断った。まだ男の人とのお付き合いってよくわからないからという理由で。
あたしの前の仲間が聞いたら飽きれて嘲笑するだろうけど、この頭のいい人たちの集まりではこの言い訳は十分通用した。何人かの男の子の告白を断ってもあたしの評判は悪くはならず、むしろ見かけとは違って初心な女の子と認識されたためかえってあたしの評判はよくなったようだった。
このように何の問題もなく過ごしていた生徒会だけど、唯一生徒会長だけはあたしに関心がなさそうだった。といっても嫌われるとか疎まれるとかということはなかった。何といってもあたしは生徒会のナンバー2で会長を補佐する立場にあり、会長もその立場をないがしろにするようなこ
とはなかった。また、あたしの能力の低さについても周囲の役員の子たちが苦笑しながらフォローしてくれているためそのことで会長に迷惑をかけることはなかったはずだった。
それなのに会長はあたしとは必要最低限しか喋ってくれない。あたしの何が悪いのだろう。もしかしてあたしがここにいることが気に食わないのだろうか。会長は成績の悪いあたしは底辺のグループにいるべきだと考えているのだろうか。
あたしは会長以外の役員たちとは完全に打ち解けることができたので、今度は会長を落すことにしたのだ。もちろん恋愛的な意味ではないけど、あたしの可愛らしさにもう少し注目させたいという気持ちはあった。ところがそれからしばらく何をしてもあたしの行動は空振りだった。
お約束だけど会長にお茶を入れたり、スケジュールについて質問する際に会長に身体を密着させることまでしたのだったけど、会長の態度は相変わらずだった。別に冷たくもないけど必要最低限の会話しかしてくれない。あたしのプライドはいたく傷つけられた。こんなイケメンでもないス
ポーツもろくにできない男に何であたしがこんな思いをしなければならないんだろう。
この頃、あたしは会長をよく眺めていたせいで会長の奇妙な習慣に気がついた。会長は生徒会室で仕事をすごい勢いで済ませると、そのままいつも生徒会室を出て行ってしまう。人一倍仕事はできているので何も問題はないのだけど、他の役員たちが下校時間まで仕事をしたり無駄話
をして過ごしているのに。
「ねえ。会長って何でいつも早く帰っちゃうの?」
ある日あたしは書記の女の子に聞いた。
「ああ。副会長は最近生徒会入りしたから知らないのね」
書記の子は仕事の手を休めて言った。「会長はここの仕事を終えると毎日図書室に行ってるのよ」
「はあ。会長もここのみんなも本当に勉強するの好きなんだね。あたしなんかじゃ考えられないわ」
「何言ってるの。放課後まで図書室で勉強したいなんて人が生徒会にいるわけないじゃん」
「じゃあ会長は図書室で何してるのよ」
「何って。そりゃ彼女と会ってるんでしょ」
では会長には彼女がいたのだ。それにしてもこのあたしが可愛らしい後輩を演じたのにそれを無視させるほどの彼女というのはどんな子なんだろうか。
「会長の彼女って誰なの?」
「副会長は知らないの? あんたと同じクラスの女さんだよ」
今日は以上です
また投下します
乙!
次女のスイーツ(笑)臭がすごいな
風呂敷を広げすぎた感が否めない
兄と女が早く出て来てほしい
兄と女の話に戻るまでの外堀もたのしす
Part3まで行ったりして
生徒会に入るまでほぼビッチ扱いされていたあたしは、その頃清楚な生徒会の役員の女の子として扱われるようになっていたので、今ではそういう風に見られている自分に十分満足していた。あたしは成績のいい生徒会の役員たちにも仲間扱いされていたし、生徒会役員や役員以外
でも成績優秀な男の子たちにも何度か告白されるくらいに人気もあった。
だからあたしはもうかつてのような派手なグループに戻るつもりはなかった。あのグループにいた頃のあたしの価値観だったら、自分に振り向かず綺麗とは認めざるを得ないけど印象としては地味な女さんなんかの方に自分の身近な男が眼を向けていたらそのままでは済まさなかった
だろうと思う。
でも今ではそういうことはどうでもいいはずだった。偶然にも学内のエリート層の仲間入りをして教師からもちやほやしてもらえるこの場所に留まるだけでもあたしにとっては十分なはず。まだ付き合っているわけではないけど、あたしには兄友もいた。それに何よりもあたしが自分のプライ
ドから生徒会長を女さんから奪う真似なんかしたら、せっかくのあたしの清純で初心な生徒会副会長としてのイメージが根底から崩れてしまうのだ。
そう考えると別にイケメンでも何でもなく本気で恋愛感情さえ抱いていない生徒会長の気持ちをあたしに振り向かせるためだけに行動を起こすことは、あたしにとってリスキーすぎた。
あたしは自分の中でそういう結論を出していたのだけど、念のために一応もう一つだけ確認しておこうとも考えたのだった。それは生徒会長の、というより生徒会長の彼女になることのステータスについてだった。
あたしから見れば生徒会長はそんなに無理してまで手に入れるほどレベルの高い男の子とは思えなかった。でもあたしは生徒会に入ってから、自分が今まで属していた派手な女の子たちのグループで共有している価値観がここでは通用しないことを知った。そして中学高校くらいまでは
ともかく将来にわたって世間一般でどちらの考えの方が尊重されるのかということが今のあたしにはだんだんと理解できるようになっていた。
あたしもだいぶ新しい世界の友だちたちと考えを共有できるようになっていたのだと思うけど、時折以前の価値観があたしの行動を規制することがあってそういう時には気をつけないと周囲の生徒会役員の女の子たちから不思議そうに見られることがあった。それであたしは、生徒会長
を異性として軽視していることは、実は周囲の新しく出来た友だちの持つ価値観と異なる考えなのかもしれないと考えるようになったのだ。
そういうわけで生徒会長が学内一般でどういう評価になっているのか念のためにあたしは確認しておくことにしたのだった。
生徒会内で会長の評価を率直に聞くわけにも行かなかったので、あたしはお姉ちゃんと妹に聞いてみた。何となく生徒会長が気になっているような振りをして。
「確かに会長ってイケメンじゃないけどすごく知り合いは多いみたいだよ。何か男にも女にも妙な人気があるんだよね」
お姉ちゃんは会長と同学年だったけど直接の知り合いではないそうだ。そしてそのお姉ちゃんの評価は別に驚くほどの内容ではなかった。ただ妙な人気というのがいったいどんな人気なのかは気にはなった。
次女ちゃんはあたしを気にしたのかはっきりとは会長の評価を話してくれなかった。でもはっきりと話さないということが次女ちゃんの会長に対する男としての評価がそれほど高くないことを物語っているようだった。
・・・・・・やっぱり生徒会長はあたしがせっかく手に入れたこの居心地のいい立場を危うくしてまであたしに振り向かせる価値はないようだった。それならば忘れようとあたしは思った。少なくとも会長は表面上はあたしのことを嫌っているわけではないようだったから、会長が女さんよりあたしを選ばないというくらいでむきになることはない。この時あたしはそう考えた。そして割り切ってしまえば会長の態度もあまり気にならないのだった。
数日後、あたしは先生から生徒会長への用件を伝えるために生徒会室を出て会長を探す羽目になった。もう会長のことは念頭にはなかったのでそれは単なる副会長としての用事に過ぎなかったのだけど、この時間には会長は女さんと二人で図書室で過ごしているはずだったので、いく
ら図々しいあたしでもさすがに少しそれを邪魔することに気が引けていた。
なので図書室前の廊下であたしが少しだけ中に入るのをためらっていたその時だった。
「次女じゃん。久しぶりじゃんか」
あたしは一学年上の先輩に声をかけられた。確かに先輩ではあったけど、彼はかつてあたしが派手に遊んでいるグループの子たちと一緒に行動していた頃によく行動を共にしていた男の子だった。当時あたしは先輩を先輩とも思っていなかったので、彼のことは名前で呼んでいたのだ
った。
「あ、先輩」
あたしはとりたてて昔の仲間たちの恨みを買うつもりはなかったから普通に返事をしたつもりだった。でもあたしの声音とか以前は名前で呼び捨てていたあたしが彼を先輩と呼んだことなどが、彼の機嫌を損ねたようだった。
当時だってあたしは彼には特別な想いは抱いてはいなかったのだけど、彼の方があたしに執着していたことはあの頃つるんでいた女の子たちから聞かされてはいた。
「先輩って何だよ。俺たちの仲なのによ」
彼は少しだけ笑いながらも低い声で言った。その時彼の眼は少しも笑っていないことにあたしは気がついた。何か嫌な雰囲気を感じたあたしはなるべく早く彼との会話を切り上げようとしたのだけど、それが悪かったようだった。
「あたし図書室で生徒会長を探さなきゃいけないんでごめんね」
あたしは彼の横を通り過ぎようとした。その時彼の手があたしの腕を掴んだ。
「おまえ、最近いい子ぶって生徒会とか先公たちに尻尾振ってるんだってな」
彼は嘲笑するようにあたしを見た。
あたしの腕を本気で握り潰そうとしているかのような彼の握力が腕に伝わって、あたしは苦痛に喘いだ。
「放してよ。あたしいい子ぶってなんかいない」
「おまえ、今じゃ真面目な副会長様だもんな。いい子のふりしてよ、昔の自分の友だちを見下して気分いいだろう」
「そんなんじゃないよ。いい加減にしてよ」
「どうせ生徒会の僕ちゃんたちも先公たちもお前が一年のときからどんなことしてたのかなんて知らねえだろうな。いっそ俺があいつらにおまえがどんな女か教えてやってもいいんだぜ」
あたしは黙ってしまった。こいつの言うとおりだった。生徒会の役員の子たちに受け入れられたあたしだったけど、彼らはあたしの過去のことは何にも知らないのだ。そしてそれが知られたら・・・・・・。
「・・・・・・放して」
あたしはもう一度弱々しい声で言った。
「そんな真面目な女の子らしい演技することはねえだろ。ここには生徒会のやつなんていねえしよ」
「・・・・・・いい加減にしてよ。いったい何が言いたいのよ」
「怒った? それくらいの方が昔のおまえらしくていいな」
彼は笑った。「久しぶりに付き合えよ。遊びに行こうぜ」
「生徒会活動があるから付き合えません」
あたしは思い切り冷たく言ったけど、腕の痛さは結構限界に近かった。
「じゃあさ、おまえは勘弁してやるから俺に女の子紹介しろよ。俺もたまには頭のいい真面目な子と付き合ってみたいしよ。一年生の書記の子いるじゃん? あいつ真面目そうだけど可愛いよな」
「あんたなんかにあの真面目な書記ちゃんを紹介できるわけないでしょ」
「ほら。やっぱり上から目線じゃねえか。じゃあやっぱおまえでいいよ。おまえは本当は真面目な女でも何でもないただのビッチだし、おまえなら俺と釣りあってるだろ」
その時図書室のドアが開き中から出てきた会長があたしに声をかけた。
「副会長。ここで何してるんだ」
「会長」
不覚にもその時あたしは泣きそうな顔で会長を見た。
「何してるんだ・・・・・・とにかく手を離してやれよ」
「・・・・・・んだと」
先輩は低い声で威嚇するように会長のほうを見た。会長のことなんて少しも恐れている様子はなかった。「手を離してやれって、てめえ誰に向って口聞いてるつもりなんだよ」
「副会長は僕に用事があるんんだろ。君は邪魔しないでくれないかな」
生徒会長は落ち着いて言った。
その言葉に先輩は切れたようだった。先輩は握っていたあたしの腕を離したけど、そのままで終らせるつもりはないようで、先輩はそのまま会長の方に詰め寄って行った。
「自分のことを僕なんて呼ぶやつが本当にいるんだな。おまえ、きめえよ」
腰を沈めた先輩はいきなり生徒会長の顔を殴った。殴られた生徒会長はそのまま床に沈みこむように仰向けに倒れた。
あたしは思わず悲鳴をあげた。その悲鳴に気がついたのか図書室の奥から女さんが出てきて驚いたように床に倒れている先輩を見た。
でも、あたしの悲鳴を聞きつけたのは彼女だけではなかったようで、こちらに駆け寄ってくる足音が響いた。
先生だろうか。あたしは期待してそちらの方を見た。でもこちらに向って来たのはやはり三年生の男子だった。その三年生は倒れている会長を足蹴にしようとしていた先輩を制止した。そればかりか先輩に対して惚れ惚れとするような見事なストレートのパンチを放ったのだった。
「何やってるんだてめえ」
三年生が殴られて床に沈み込んだ先輩の襟を掴んで言った。
あたしと会長にちょっかいを出していた先輩は結局その場に現われた三年生にぼこぼこにされたのだった。
「おまえ大丈夫だったか」
その三年生は、床に這いつくばってうなっている先輩には構わず生徒会長に話かけた。
「助かったよ」
会長がよろよろと身体を起こしながら自分を助けた三年生に言った。
「会長には世話になったからな」
三年生が会長に答えた。
正直この時の会長の姿は格好いいとは言えなかった。もちろんあたしを助けようとしてくれてはいたのだけど、この見知らぬ三年生が駆けつけてくれなかったらあたしも会長もどうなっていたかはわからなかった。
「おい。てめえ、俺がいないとこで会長やこの子に手を出したら」
三年生は倒れたままの先輩を見下ろして駄目押しした。先輩は何か唸った。
「どうなんだよ」
「・・・・・・るせいな。わかったよ」
結局先輩は負け惜しみのようにそう言って立ち上がると、もうあたしとは目も合わそうとせずに去って行った。
こうして見るとこの三年生は会長や生徒会の人たちの仲間のようには見えなかった。どちらかというと先輩の仲間のように見えたけど、それでもこの見知らぬ三年生は迷わず生徒会長を助けたのだった。
あたしは三年生にお礼を言ったけど彼はあたしのことはあまり気にしていないようで、会長に大して怪我がないことを確かめると、じゃあなと会長に声をかけて行ってしまった。
この時ようやく女さんが会長に話しかけた。
「先輩、大丈夫?」
女さんはあたしのクラスメートだったのだけど、この場にいるあたしには関心がないようだった。そして不思議なことに彼女は会長が倒れていたことにもあまり興味がない様子だったのだ。
その夜あたしはお風呂の中でずっと生徒会長のことを考えていた。
先輩の一突きだけでよろよろと倒れた会長の姿は正直見るに耐えなかった。客観的に言うと会長はあたしを助けようとしてくれたのだけど、結局あたしが先輩の手から逃れることができたのは見知らぬ三年生のおかげだ。
でも。あたしは気がついた。あの三年生だって正義感に溢れているような人には見えなかった。それでもあの場に介入してきたのは生徒会長を助けようとしたからだ。
『会長には世話になったからな』
そう彼は言っていたっけ。つまり会長個人は無力でも会長のためには力を貸そうという知り合いが会長にはいるということだ。それはそれで一つのパワーだ。
そして会長の持つその不思議なパワーの源はどこにあるのだろう。
あたしはそれから女さんのことを思い出した。彼女は殴り倒された生徒会長のことを本気で心配しているようには見えなかった。それでも会長は女さんに惚れているらしい。会長はいったい女さんのどこが気に入っているのだろうか。
ぶざまに倒れた生徒会長を目撃した日の夜、あたしは生徒会長のことを初めて本気で気にするようになったのだった。そしてそれは恋愛感情ではなかったはずだった。
恋愛感情ではないと思ってはいたけど、あたしらしくないことに翌日から会長と目を合わせたり会長に話しかけられたりすると、あたしは今までのように活発で無邪気な後輩の演技をすることができなくなってしまった。
あたしは、会長の質問に赤くなったり目を逸らして下を向いてしまったりするようになったのだ。
いったいあたしはどうしたのだろう。これでは本当に恋する初心な女の子ではないか。
あたしが男の興味を持った時はそんな少女漫画のヒロインのような真似はしない。少なくともこれまではそうだった。直接的な誘惑を仕掛けて相手の反応を見る。兄友だけは例外だけど、これまではそういう付き合い方しかしたことがなかったのだ。
あたしはこの時自分でも自分の行動を理解できなかった。そしてあまりこういう状態が続くと周りの生徒会役員の子たちに変に思われてしまうだろう。恋愛経験のない初心な女の子と思われること自体はむしろ望むところだけど、その対象が会長だと思われるのはいろいろな意味でまず
い。
かと言ってこのことを相談できる相手は・・・・・・。
あたしはため息をついた。タイプの全く違う三姉妹だけど、やはりあたしにとっては一番頼れるのはお姉ちゃんと妹友ちゃんだったのだ。
自宅で二人に会長の話をしだすと二人は前にも会長のことであたしに質問されたことを思い出したようだった。
この二人にならどう思われても構わなかった。お姉ちゃんと妹がそのことを口外する心配はなかったし。なのであたしはあえて誤解を解かずに会長のことを気になっているような表情で二人に女さんと会長の情報を話し出した。
「会長ってもう付き合っている子がいるんだって」
「しかもその子、うちのクラスの女ちゃんっていう子なの」
どういうわけか二人は気の毒そうな表情をした。あたしを心配してくれているのだろうけど、その二人の表情にあたしは少しだけプライドを傷つけられた。
「でも女ちゃんって普通に可愛いし評判もいいんだけど、何ていうか余り仲のいい親友とかっていないし。本当は自分勝手な子なんじゃないかなあ」
あたしは思わず女さんを誹謗するようなことを口にしてしまった。
「だからって会長がその女ちゃんって子と付き合ってることには変わりないじゃん」
妹友ちゃんがあたしを諌めるように言った。
「そうなんだけどさ。あたしが告れば勝てるんじゃないかなあ」
この時はあたしも意地を張ってしまっていて、自分でも思ってもいないことを口にすることが止められなくなっていた。
「よしなよ、そういうの」
お姉ちゃんが諌めるように口を挟んだ。「同級生なんでしょ。たとえうまく行ったとしても後で気まずくなるよ」
「そうかなあ」
あたしはようやくそこで話を切り上げることができた。
あたしは何をしようとしているんだろう。自分でも自分の考えがよくわからなくなってしまっている。
会長は見た目は格好よくないし喧嘩も弱いしスポーツも苦手そうだ。話だって面白いとは言えない。
でもあの乱暴そうな三年生の先輩をはじめ、会長のためなら喜んで力を貸そうという人たちが幅広い階層に存在しているようだ。そして会長は成績もよく先生たちの信頼も厚い。
あたしが一番狙っていたのは幼馴染の兄友だけど、彼は遠い東北の学校にいてあたしのことをどう思っているかすらわからなかった。それなら滑り止めの男の子をあたしが確保したっていいのではなか。
そして本当に将来のことを考えれば、頭が悪く遊び方と女の扱いだけはよく知っている男なんかと付き合うより、会長のような男の人のほうがいいのかもしれない。
そういう風に割り切って考えようとしたあたしだけど、これでは自分が最近何で生徒会長の前にいると顔を赤くして俯いて黙ってしまうのかということへの回答にはなっていないことにも気がついていた。
これはひょっとしたらあたしにとって本気の恋なのだろうか。これまであたしが経験してきた恋愛の入り方とは大分違う様相を呈しているようだけど。
本日はここまで
明日は投下できるか不明です
無駄に長くなってすいません。お暇な人だけお付き合いいただければ嬉しいです
乙です。
>>338の「次女ちゃん」は「妹友ちゃん」だよな?
>>343
ご指摘のとおりです
固有名詞を使用していないので自分でも混乱してます
ごめんなさい
キャラ増やしまくりだからなー
がんばれー
三女から次女
ザッピングうまいなあ
続きが楽しみです。
体調には気を付けてください。
もうあまり考えこんでも仕方がない。
あたしはもともと物事を深く考えるような性格ではない。気になるなら気になるで自分の気持に素直になってもいいのではないか。
期せずして居心地のいい生徒会という場所を見出したせいで学校底辺の頭の悪い仲間と縁が切れたあたしだったけど、いくらこの場所を失いたくないからといって自分の気持を偽って我慢することはない。
あたしはそこに気がついた。
女さんが生徒会長の彼女だということはよくわかったけれど、だからと言ってあたしが周囲の役員の子の視線や噂を気にして行動を押さえ込む必要なんてないんだ。要はきっかけの告白はあたしから仕掛けたとしても最終的に生徒会長があたしを選んでくれればそれでいいのだ。
それならば強引に女さんから会長を奪った女という印象は相当薄まるだろう。むしろ生徒会長があたしに夢中になっているという状態にすればいい。何と言っても女さんは今ではあたしの属する校内のエリート階層の一員ではない。底辺のグループとは縁がないかもしれないけど、女さ
んはどちらかというと一匹狼的な女の子だった。そういうことを考えると、生徒会長はイケメンではないけど生徒会の女の子の中では人気はある。彼女たちだって会長を自分たちのグループ以外の女の子に盗られていることは面白くないに違いない。
要するに会長があたしに執着してくれる状況さえ作ってしまえば、役員の女の子たちは女さんではなくあたしの味方になってくれるのではないかとあたしは考えたのだった。
もちろんそのためにはあたしが強引に女さんから会長を奪ったような印象を与えてはいけないので、あたしにできるのは言外に会長に好意を持っていることを会長に悟らせること、そしてさりげない一回だけの告白で会長の心を奪うこと、それが必要不可欠な条件だった。
・・・・・・お姉ちゃんと妹友ちゃんに話したことは決して強がりではなかった。あたしは自分の容姿に自信を持っていた。かつてのような遊び歩いていたあたしには会長は関心を持ってくれないかもしれないけど、今のあたしは会長の身近にいる生徒会副会長なのだ。
『そうなんだけどさ。あたしが告れば勝てるんじゃないかなあ』
あの時は半ば意地になって言ったセリフだったけど、よく考えればこれは決してあたしの強がりだけではなかった。
こうしてあたしは自分の生徒会長に対する気持ちの正体を未だによくわかってはいなかったのだけれど、半ば見切り発車的に告白を仕掛けようと決心したのだった。何よりもあたしが一番好きな兄友が身近にいないということもあったし。
そう決心したあたしは急に気が楽になるのを感じた。多分もう会長の前にいても会長の顔を直視できずに俯いて赤くなったりすることはないだろう。
あたしは割り切ったのだ。会長に対して本気で恋をしてしまったかどうかは今でもわからないけど、それすらどうでもいいという境地にあたしは至っていた。本気で好きなのか打算的な意味で会長が気になるのかなんて今となってはどうでもよかった。自分の気持がわからないならとりあえ
ず会長の気持ちを自分に向かせることだ。今までだってあたしはそういう恋愛をしてきたのだ。
生徒会役員になったからといって、恋愛に関してはそのやり方を無理に抑える必要はないのだ。そうして会長があたしを求める状態になってから改めて自分の気持ちに向き合えばいい。
結果として会長の気持ちを受け入れたとしても、あるいは会長の気持ちを拒否したとしてもそれはその時に考えればいいことだ。大切なことは会長へのアクションによってあたしが生徒会役員の男女の仲間たちに引かれたり嫌われたりしないようにすることなのだった。
ようやく自分の気持と今後の行動を整理することができたあたしは、もう無駄に待つつもりはなかった。明日にでも会長を誘惑しよう。会長がそれなりに女の子から告られていたことは今ではわかっていたけど、その相手の子の名前を聞く限りでは今のあたしには負ける気がしなかった。
・・・・・・多分一番の強敵は会長の今の彼女である女さんだ。でもその女さんであってもあたしの敵ではない。
あたしはこれまでだって会長を巡る自分の恋のライバルを気にしたことはなかった。単純にこの恋が成就したあと、略奪愛とかって噂され自分のこれまでの恋愛遍歴が晒され今の生徒会の仲間から仲間はずれになることが怖かっただけなのだった。
その悩みがクリアされた今となっては無駄に行動を引き伸ばす理由はもはやなかった。
明日、あたしは会長に行動を起こすことにした。
ところがそう考えていた矢先、出鼻をくじかれるようにあたしはその夜、お姉ちゃんと妹友ちゃんにあたしの決意を邪魔されたのだった。
どうやらあたしの会長への関心を心配したお姉ちゃんと妹友ちゃんが勝手にいろいろと会長と女さんのことを調べたようだった。あたしはこの二人にお姉ちゃんの部屋に呼び出され一方的に説教じみた話を聞かされたのだった。
「あの二人って相当真面目に付き合っていると思うよ。正直、中学生レベルの恋愛関係を超えてるくらいに」
お姉ちゃんが真剣に言った。「そんな関係にちょっかいを出そうなんてあんたもどうかしてるよ」
妹友ちゃんもそれに賛成だった。
「こんなこと言うのも何だけど・・・・・・女さん会長の恋愛って、お姉ちゃんが気軽に邪魔しちゃいけないような気がする」
「とにかく次女ちゃんが会長に告って、それがうまく行っても行かなくてもいい結果にならないんじゃないかな」
お姉ちゃんは言った。
ここまで黙ってお姉ちゃんと妹友ちゃんの話を聞いていたあたしは、ついに我慢できずに言った。
「女ちゃんと会長の仲の調査とかあんたらのやってることマジキモいんですけど」
あたしは彼女たちの心配を切り捨てた。「中学生の恋愛に何で調査とかするのよ。信じらんない」
その時気弱そうにあたしの方を見つめた妹友ちゃんがぽつんと言った。
「だって。あたしもお姉ちゃんも次女ちゃんのことが心配で」
その言葉を聞いた途端、あたしは彼女たちへの憤りが消えていくのを感じた。何も怒ることはないのだ。お姉ちゃんたちはあたしのことを心配してここまでしてくれているのだから。
恋愛に関してはお姉ちゃんたちとは価値観が異なるあたしだけど、そんなあたしのことを二人は理解できないまでも本気で心配してくれていたのだから。
あたしは語気を和らげて言った。「まあ、お姉ちゃんと妹友があたしのこと心配してくれてるのはわかるけどさ」
あたしの言葉にお姉ちゃんと妹友ちゃんはもう何も言わず、ただほっとしたように微笑んでくれた。
こうして余計なお節介をした二人とはなし崩しに仲直りはできたのだけど、あたしの決心は変らなかった。たかが中学生の恋愛に聖域も触れてはいけない関係もあるものか。
あたしを心配してくれている二人を悪く思うのはやめにはしたけれど、それでも自分の決心を翻すことはない。
あたしはそう考えて予定どおり翌日には生徒会長を誘惑する決意を固めたのだ。
だけど。そう決心した翌日、当校前にあたしはママから意外なことを聞かされた。
今週末、兄友がおばさんと一緒にここに戻って来るというのだ。
考えるまでもなくあたしは先輩を誘惑する予定を延期した。中止する気はなかったけど週末を兄友と一緒に過ごせるというのなら話は全く異なる。
あたしの中の男の優先順位は今でも変わっていない。考えるまでもなく兄友が一番あたしにとっては大切だった。
なので、その兄友と一緒に過ごせるのであれば短い間だけでも兄友と一緒に過ごすことを優先しようとあたしは考えた。兄友が東北で誰かといい仲になっていないか。兄友はあたしのことを今ではどう思っているのか。
そういうことを探りつつ、あたしの一番大切な人が兄友であることをアピールしよう。
あたしは気分を切り替えた。兄友はこの週末をこちらで過ごすようだ。だからとりあえず会長の件は兄友が東北に帰る来週まで先送りにしよう。
兄友が戻ってくるという知らせにお姉ちゃんや妹友ちゃんも浮き足立っているようで、随分なはしゃぎようだった。
まあ、彼女たちにとっても仲のよい幼馴染と久しぶりに再開できるのだからその様子は無理はなかった。でも兄友と再会できることに一番喜んでいるのはあたしだ。そして兄友が東北で浮気しているかどうかはわからないけど、少なくともこの家の三姉妹の中で彼が一番会いたいと思っ
ているのもあたしに違いない。
あたしは兄友との再会にはしゃいでいるお姉ちゃんと妹友ちゃんを眺めながら考えた。この子たちにとっては気になる異性との再会ではなく本心から仲のよかった幼馴染との再会なのだろう。
あたしのことを心配してくれるお姉ちゃんと妹友ちゃんですら理解してくれないかもしれないけど、あたしの兄友との再会はあたしにとっては生徒会長を誘惑することなんかよりはるかに意味があることだった。
結局、それはあたしにとっては最悪の週末だった。
久しぶりに会う兄友は以前より大人びていて、あたしは彼と再会した瞬間から生徒会長のことなど頭から吹き飛んでしまった。
あたしは兄友の横にくっついて彼だけを見つめていた。兄友も自分にべったり寄り添うあたしに遠慮することなく普通にあたしに笑いかけてくれたのだった。
お酒が入ってうるさくなったママやおばさんから逃げ出してあたしたちは客間で水入らずで二次会めいたことをすることにしたのだった。
そこから先の記憶はあまり思い出したくない。
「そんであんた、東北の学校で彼女とか出来たの?」
客間に親抜きで集まった後、お姉ちゃんが笑いながら兄友に聞いた。
あたしは思わず息を呑み動きを止めた。
「できねえよ、そんなもん。それよか姉さんたちはどうなんだよ。男できたの?」
あたしは溜めていた息をそっと吐き出した。幸福感が胸に溢れ出して来る。では兄友は未だに特定の彼女はいないのだ。
「いないよそんなの」
お姉ちゃんが笑いながら答えた。
あたしは心の準備をした。次は兄友にあたしの恋愛事情を問い質されるに違いない。しっかりと男なんて誰もいないと答えないといけない。
でも兄友はあたしではなく妹友ちゃんの方を向いて言った。
「で、妹友ちゃんはどうなの? おまえ可愛いからもてるだろ」
あたしは思わず責めるような視線を妹友ちゃんに向けてしまった。妹友ちゃんの表情はあたしの視線と兄友の視線に萎縮しいく。
「ああ、悪い。言いたくなければ言わなくていいけどさ。俺、引っ越す前は結構大変だったんだよね」
「大変って何で?」
お姉ちゃんが気楽に聞き返した。妹友ちゃんは真っ赤になって俯いてしまっている。
「だってさ。俺、知り合いの野郎どもにいつも言われてたんだぜ。あの妹友って子、お前の何なんだよって」
「何々? 初耳だよ」
自分の恋愛にはあまり積極的ではないくせにこの手の噂話が大好物なお姉ちゃんが兄友の話に食いついた。
「妹友って可愛いじゃん? だからお前が付き合ってないなら紹介しろよってやつが一杯いてさ」
兄友とお姉ちゃんが話している間、あたしは何も喋れずに黙って身体を固くしていた。
「なあに。妹友ちゃんってそんなに人気あったのか」
お姉ちゃんがけたけた笑った。
「そんで、この子のこと何で友だちに紹介しなかったの」
お姉ちゃんが兄友君に詰め寄った。
「何でってさ。妹友ちゃんまだその時は小学生だったじゃんか」
「それに大切な幼馴染だしさ。そんなに簡単にあいつらにはくれてやれねえな」
兄友は笑った。そしてあたしには目もくれずに彼は突然妹友ちゃんの肩を抱き寄せたのだった。
「妹友ちゃん元気だったか? 俺、おまえに合いたくてさ。引っ越した時は毎日妹友ちゃんの夢を見たんだぜ」
「よしなよ」
お姉ちゃんが相変わらず笑いながら言った。「この子まだ中一だよ」
「もう小学生じゃないじゃん」
兄友君は抱き寄せた妹友ちゃんを優しい表情で見た。「妹友ちゃん、俺のこと嫌い? もう中学生同士だし付き合ったって大丈夫なんだぜ」
この辺であたしの我慢にも限界が来た。泣くにしてもこの男と妹友ちゃんの前では意地でも涙を見せたくない。
あたしは無理に言葉を胸の奥から引き絞るように声を出した。
「あたし、先に寝るね」
あたしは唖然としている様子の兄友や妹友ちゃんの顔を一瞬眺めたけどすぐに目を逸らした。
あたしが泣きそうな気持ちを必死で宥めながら客間を出て行く一瞬、どういうわけかお酒が入っていたお姉ちゃんがあたしを見て笑っているのが目に入った。
今日は以上です
明日は仕事の関係で投下できません
明後日以降なるべく早く再開します。あとなるべく早く終らせるように努力します
最初はここまで長くなるとは思わなかったです
気にしない、気にしない、おもう存分書いて欲しい。
僕わ、好きだけどなwwwwww
うわあ、追いついちまった。
松。
早く終わらせるなんて気にしなくてもいいと思う。
読みたい人はどれだけ長くても読むだろうし、スレだってまだまだ余裕はあるんだから。
翌朝あたしがベッドの上で目を覚ました時、着替えもせず泣き腫らした顔はぐちゃぐちゃでおまけに無理な体勢で突っ伏して泣きながらいつのまにか寝てしまったためか、体のいたるところが痛んでいた。
あたしはゆっくりと身を起こした、気分も体調も最悪だった。そしてベッド脇の姿見に映った自分の外見さえも。
朝の7時だった。今日は休日だけど学園祭の準備で生徒会の役員と実行委員は全員召集がかかっていた。それはある意味あたしにとっては救いだった。こんな状態でお姉ちゃんや妹友ちゃんと顔を合わす気にはならなかったし、ましてや兄友の顔を見るなど論外だった。
あたしはできるだけ静かに身支度をして密かに家の外に出た。お姉ちゃんも妹友ちゃんも、そしてママさえまだ寝静まっているようだった。当然、自宅の中には兄友の姿もなかった。
学校に向って早足で歩き出しながらあたしは考えた。昨夜、あれからどうなったのだろう。
妹友ちゃんは兄友の告白を受け入れたのだろうか。そして半ば飽きれつつも笑って祝福するお姉ちゃんの言葉に兄友と妹友ちゃんは顔を赤くしながら見つめあったのだろうか。
妹友ちゃんの小柄な体を抱き寄せた兄友の手。
・・・・・・あたしが部屋を出て行ったことさえ気にせずに二人は抱きあい、そしてやっと両想いになれた幸福感に酔いながらも唇を重ねたのだろうか。
これまでだって妹友ちゃんが兄友に対して淡い想いを抱いていることはあたしも何となく気がついていた。でもそのことに対してあたしは全くといっていいほど危機感を覚えたことはなかった。
兄友があたしたち姉妹の中から誰かを選ぶならあたしだろう。そして逆に言えばあたしが兄友に選ばれない時は姉妹の誰も兄友に選ばれることはないのだとあたしはこれまで思い込んできた。
兄友は遠く離れた場所であたしたちの知らない世界であたしたちの関ることのできない日常を過ごしているのだから、兄友が自分の世界で付き合う女の子を選んでいても不思議ではない。多少、いや相当自分の女子力に自信があるあたしにもその程度の覚悟はできていた。
でも、自分の姉妹にあたしが負けることなどあたしは一度として考えたことはなかったのだ。
でも、あたしは昨晩自分の目の前であたしの考えが甘かったことを目の当たりにした。今さらみっともなく兄友に縋ることはあたしのプライドが許さないし、半ば兄友を奪った女として妹友ちゃんを恨んだあたしだけどやはり自分の妹の恋を自分の身勝手な思い込みや嫉妬から邪魔するこ
とまではしたくなかった。
乱れる思考を持て余しながら生徒会室のドアを開けると、生徒会長が一人でパソコンに向って何かをしているところだった。
こんなに早く登校するのはあたし一人だろうと思っていたから、あたしは一瞬戸惑った。
自分の感情を人気のない場所で整理しようと思っていたあたしは自分の考えを邪魔した会長に対して一瞬腹立ちを覚えた。ついこの間まで会長のことが気になっていたことなどこのときのあたしには全く頭に浮かばなかった。
ドアが開く音に気がついて会長がパソコンでディスプレーから目を話して振り向いた。
「おはよう副会長。今朝は随分早いんだね」
会長が微笑んで言った。
「おはようございます」
あたしは何とか笑顔らしき表情を浮かべてあいさつを返すことができた。「会長こそ随分早いんですね」
正直会長との儀礼的なあいさつなどどうでもよかった。あたしは自分の乱れた感情と思考を整理したかっただけなのに。
「ああ。あまり生徒会活動で遅くなれないんでね」
「そういえば会長って、いつも先に帰っちゃいますよね。塾か何かですか」
「ああ、いや。そういうわけでもないんだけど」
今まであたしに対しては、というより女子全般に対してあまり親しげに話したことのない会長にしては珍しく、あいさつと仕事以外の会話をあたしと交わす気になったようだった。以前のあたしならそれは収穫だったのだけど、本命の男の子に失恋したばかりの今のあたしにはそれほど心
を動かされるような話ではなかった。
「じゃあ、何でいつも早く帰るんですか」
あたしはそれほど興味はなかったのだけど会長に儀礼的に返事を返した。
すると会長は赤くなった。
「まあ、待っててくれる子がいるというか」
「・・・・・・女ちゃんですか」
「うん、まあそう。そういや君は女と同じクラスだったっけ?」
「ええ。まあ」
「普段彼女にはあまり会えないんでね。放課後くらいしか」
あたしに対しては事務的なことしか話しかけてくれなかった会長が珍しく少し照れくさそうな表情で親しげにあたしに対して話しかけてくれた。
兄友と久しぶりの再会を果たす前、とりあえず会長に自分の方へ振り向かせようと決意していた頃のあたしだったらそのことに興奮し喜んだかもしれない。でも今は浮気性で気が多いあたしが唯一長年想い続けていた兄友に振られた翌日なのだ。あたしには少しもうれしいと言う感情は沸いてこなかった。それに親しく話しかけてくれるといっても話の内容は女ちゃんへの惚気だ。
あたしはこの時イライラする気持ちを会長から隠すだけで精一杯だった。
こんなスペックの低い男が、多少見栄えがいいだけの不思議系の女ちゃんと付き合えて舞い上がっている話をなぜあたしは聞かされなければならないのか。あたしの本気の恋が終った日の翌日だというのに。
あたしはこの時ちょっと前まで自分に振り向かせようとしていた、そしてスペックが低いと思うどころか将来的には有望な男の子、付き合えれば自分が勝ち組だとさえ考えていた会長に憎しみさえ覚えた。そしてあたしはその想いを会長に悟られないことだけを考えていた。
こいつも自分の幸せに酔っているのだろう。会長にとっては女ちゃん程度が高嶺の花で、その子と付き合えて嬉しくて仕方がないのだろう。その姿は棚から牡丹餅的に突然兄友に抱き寄せられ愛を囁かれた妹友ちゃんに重なった。
今頃は妹友ちゃんだって自分では思ってもいなかった幸福に酔っていることだろう。もうこの時間なら兄友が隣の家から妹友ちゃんに会いに来ている頃かもしれない。
滅多に見られない会長の照れくさそうな表情を苛立ちを隠しながら眺めていたとき、あたしの胸の中で何か黒い物が湧き上がってきた。この感覚には覚えがあった。あたしが遊び歩いて頃にはよく感じていいたもの。生意気な同級生が仲間内で一番いい男をさらって行った時とかによく
感じていた感覚。あたしの中の醜いもう一人のあたし。
昔のグループを抜け出して生徒会役員になった今では感じることもなくなっていたこの感覚。それは自分の妹に対しては向けられないけど、このアホ面で女ちゃんごときのレベルの女の子との付き合いを得々と語っていいるこのバカに対してなら向けることができた。
もう前のように会長を正面から見つめても赤くなることはなかった。まだ他の役員は登校してこないけど、会長の惚気話を聞いているだけで結構いい時間になってしまっていた。
あたしは心を決めた。
「会長」
あたしは会長の話を遮った。
「え?」
「ちょっと付き合ってください」
あたしは会長の手を握り戸惑っている会長の手を引いて生徒会室の外に出た。
「ちょっと君・・・・・・どこ行くんだ? まだ仕事中なんだけど」
「いいから来て下さい」
・・・・・・女ちゃんに個人的な恨みなんか何もない。ただ十年以上に及ぶ長い片想いが終焉した今、あたしは自分の崩壊しそうな自我を保つために、そして自分のプライドを救うために新しい自分の崇拝者を作ることを選んだのだった。
合理的に考える能力があたしにあれば、この時あたしがするべきことは兄友や妹友ちゃんを羨んで泣いて、そして時が自分の心の傷を癒して行くのをひたすら待つことだと考え付いただろう。でもあいにくこの時のあたしにはそんな常識的な考えは少しも考えつかなかった。
乱れた感情の合間に少しだけ冷静な思考が割り込んできた時、いくらあたしでもここまで女ちゃんに夢中になっている会長に告白するなんて無駄だという声も心の中に響いた。
でもあたしはそれに対してこう考えたのだ。
結果として振られてもいい。とにかく自分から行動を起こそう。このあたしに告白されたら会長はとりあえず断ったとしても心を動かされるはずだ。会長にあたしのことを意識さえさせることができれば、会長に振られた後にだっていくらでも勝機はあるのだ。
とにかく今は、微笑みかけても体を寄せてもあたしの行為に気がつかなかった会長に告白するのだ。
そう考えている間だけ、あたしは兄友が妹友ちゃんを抱き寄せた手や微笑みかけた顔、そして赤くなって俯いていた妹友ちゃんに対する劣等感や怒りを忘れることができた。
「君の気持ちは嬉しいけど。僕には女さんがいるから」
先輩はあたしを真っ直ぐに見つめてそう言った。
それは半ば予想どおりの言葉だった。あたしは会長に告白したことによって、今は女ちゃんのことしか考えていないであろう会長の心の中にあたしの姿を焼き付けられればそれで目的は達成できると思っていた。
どうせ冷静に考えた結果の行動ではなかった。兄友と妹友ちゃんのことを忘れるために少し早めにもともと考えていたことを実行しただけだ。
それなのになぜこんなに喪失感が胸の中を占拠して行くのだろう。僅かな間に二回も続けて他の女の子に男を奪われたからか。
あたしは涙を流さなかった。昨夜だって自分の部屋に戻るまで兄友や妹ちゃん、それにお姉ちゃんにだって自分の泣き顔は見せなかったのだから。
「気にしないでください。あたし先輩に振られるとしても自分の気持を伝えたかったんです」
あたしは会長のほうを見上げて微笑んだ。「勝手なこと言ってあたしの方こそごめんなさい」
あたしは何とか予定していた言葉を体から絞り出すことができた。もっとさわやかに微笑んで言うはずだったその言葉は、思っていたより会長の拒絶に心が痛んでいたせいか何かみっともなく涙を抑えた途切れ途切れの言葉になってしまった。
でもそれがかえってよかったのかもしれない。それまで戸惑いながらも少し迷惑そうな雰囲気を醸し出していた会長が真面目な顔であたしを見てくれたのだ。そして会長はあたしに何か話しかけようか悩んでいた様子だったけど、結局それを諦めたのかあたしにさよならといってこの場を去っていったのだった。
思っていたより達成感がないばかりか、この場で一人取り残されたあたしは寂しさすら感じていた。冷静に考えれば会長はあたしを意識し始めたはずだったので仕掛けたことはやり遂げたのだけど、そのことすらどうでもいいというような諦念があたしの中から静かに溢れ出した。
その時、ようやく流れ出した涙でにじんだ視界の端に兄友の姿が現われた。
「兄友・・・・・・何で?」
それだけ言ってあたしは絶句した。
「いや、何でって」
少し照れたように俯く兄友の姿。あたしは恋する余り兄友の幻でも見ているのだろうか。
「・・・・・・全部聞いてたの?」
あたしはな声を振り絞って小さな声で聞いた。
「悪い・・・・・・聞いちゃった」
「そうか」
あたしはぽつりと言った。
今日は以上です
最近は毎日投下は無理な状況です
すいません
乙
長くていい。短くまとめようとして、せっかくの展開を削るなんてもったいな過ぎる
>>1を読めば、長文スタイルってのは理解できるんだから、>>1さんのペースで書いて欲しい
どれだけ長くても読むって前述の書き込みに禿同
二月のある日、午後の最後の授業が終ってしばらくすると、二年生の教室が並ぶ二階のフロアに予想どおり生徒会長が姿を現した。受験期間中は全く見かけなかった会長の姿にあたしは何だかひどく懐かしい感じを覚えた。
会長が現われるのを待ち構えていたあたしは迷わず会長に話しかけた。少し照れたような微笑みを浮かべて。それは半ば演技だったけど全てがそうというわけではなかった。実際、久しぶりに見た先輩の姿にあたしはどういうわけかどきっとしたのだ。
「先輩」
あたしは会長に偶然出会った振りをして言った。「もう会えないかと思ってました」
「やあ。久しぶりだね」
会長はどういうわけかあたしが告白して振られてから見せてくれなかった、いやよく考えるとあたしが生徒会に入って副会長になってから一度も見せてくれなかったような柔らかな表情で答えてくれた。
胸の動悸が高まっていく。あたしが利己的な動機から会長に告白する前、一時会長のことを本気で意識してそのことに戸惑ったことがあった。あれは兄友がこちらに帰宅する前のことだったけど、あたしの感情はその頃の戸惑いを覚えていたようであたしはこの時一瞬だけ自分勝手な
動機を忘れて顔を赤らめた。
「あの。先輩、今日合格発表だったんですよね?」
「おかげさまで、第一志望校に合格したよ。心配してくれてありがとう」
「おめでとうございます。本当によかったです」
あたしは優しく微笑んだ。
「じゃあ、僕はちょっと用事があるので」
でもそんなあたしの感情を考慮する様子もなく会長はあっさりと言った。
あたしは自分でも思いがけないことに会長があっさりとあたしから去って行こうとすることに寂しさを感じた。
でも一応これは想定どおりの行動なのだ。そして既に手は打ってある。
「はい。またです」
あたしは心底名残惜しそうに見えたに違いない。今ではあたしは演技することすら忘れていたのだった。
でも会長をここに長く引き止めるわけにはいかない。
あたしに別れを告げた会長は、ドアが開きっぱなしのあたしたちの教室を覗き込んだ。・・・・・・もちろんそこには女ちゃんはいない。
戸惑っている様子の会長の背中をあたしはしばらく見つめた。
やめるなら今だった。久しぶりに会長に再会した時のこのときめきが本当のあたしの気持ちだとしたら、こんな卑劣な手を使って会長を絶望させていいのだろうか。
その瞬間あたしは一瞬躊躇した。自分が本当に好きな相手が十年来の片想いの相手である兄友でなく、女ちゃんごときに夢中なっているこんな男の子だというのは果たしてあたしの本心なのだろうか。
兄友は自分で言い訳したように酒に酔い妹友ちゃんをからかっていただけなのかもしれない。兄友のその言葉はあたしにとって救いだったけど、あの日の二人きりのカラオケで兄友に謝罪され告白されたあたしはそれを反射的に拒否した。
そしてその後東北にいる兄友のメールで以前とはうって変わってしつこいくらいに愛を囁かれても、あの日会長に振られたあたしの心には救いや安堵は訪れなかったのだ。
もうこれ以上迷っている時間はない。こんなことをしているうちに女ちゃんが戻って来てしまう。
あたしは心を決めた。兄友の告白にも心の平穏や喜びが訪れなかった以上、あたしが好きなのは今では会長なのに違いない。
あたしは不安そうに、そして未練がましそうに教室内をきょろきょろと覗いている会長に背後から話しかけた。遠慮がちな小さな声で。
「先輩。もしかして、女ちゃんを探してるんですか」
「あ、ああ」
会長は途方にくれたように答えた。
「あの、先輩。ご存知ないんですか」
「・・・・・・何が?」
会長は要領を得ないあたしの言葉に少しじれったく感じているようだった。
「女ちゃん、一昨日転校したんですよ。確か、東北の方に転校するって言ってました」
何を言われているのかわからないという表情のまま会長は凍りついた。
「・・・・・・先輩は女ちゃんとお付き合いされているんで当然ご存知かと思っていました」
あたしは会長を気遣い遠慮がちな小さな声を出した。つまりそういう演技をしたのだ。
会長はしばらく沈黙していた。
「そうか」
しばらくして会長は言った。「君は何か事情を聞いているのか?」
「そんなに詳しくは知りませんけど。お父さんの仕事の都合で東北の中学に転校するとだけしか」
本当はあたしはもっと詳しい情報を知っていた。あたしの心を掴むためだろう。兄友からメールで詳しい情報を聞いていたから。
兄友と女ちゃんは面識すらなかったけど、兄友のお父さんと女ちゃんのお父さんは同僚なのだから兄友が女ちゃんの動静を詳しく知っていたのも当然だった。そして女ちゃんの転校先は兄友と同じ学校だったのだ。
「女が転校する学校とか転校先の住所とか君は知っている?」
会長は信じていた彼女に裏切られたからか余裕のない態度であたしの方を縋るように見た。
「ごめんなさい、知らないんです」
あたしは嘘をついた。「まだ転居先とか決まってないんで学校も住むところもこれから決めるんですって。だから先生にもわからないそうです」
「・・・・・・こんなことを聞いて悪いんだけど、君は女の携帯の番号とかメアドとか知ってる?」
「本当に会長のお役に立てなくてごめんなさい。あたし、そこまで女ちゃんとは仲良くなくて」
「誰か女と仲がいい子とか知らないかな」
あたしにも会長の必死さが伝わってきた。でもあたしはもう迷わなかった。決心してついに踏み出してしまった今ではあたしは妙に頭の中が冷静だった。
「・・・・・・言いにくいんですけど、女ちゃんて本当に仲のいい子はいませんでした。だから・・・・・・女ちゃんの携番やメアドを知ってる子はいないと思います」
「・・・・・・そうか」
女ちゃんに親友がいなかったことは事実だった。この時あたしが会長についた大嘘の中にも真実のかけらはある。女ちゃんの携番やアドを知っている子がいないのは事実だった。会長が心の中でどれだけ女ちゃんを美化していたのかは知らないけど、会長が好きになり大切にしていた
子は、本当はぼっちの女の子だったのだ。それだけは掛け値のない真実だった。
馬鹿な男。あたしは思った。でも心配はいらないの。卒業までの一月で女さんを失った喪失感や悲しみはあたしが忘れさせてあげるのだから。
あたしは会長には酷いことをしたのかもしれないけど、結果として会長は女さんよりもっと世間的に評価の高いあたしを自分の彼女にすることができるのだ。
もうあたしを気にする余裕はないのだろう。会長はあたしに頭を下げると黙ってよろよろと教室から出て行った。
ぎりぎりのタイミングだった。
会長が姿を消して数分たったところで女ちゃんが教室に戻って来たのだ。
「ねえ副会長ちゃん」
不審を露わにして女ちゃんがあたしに聞いた。「先生、あたしのことなんて呼んだ覚えないってよ」
「ええ〜。そうなの? あたし確かに誰かから女ちゃんに伝えてって言われたんだけどなあ」
あたしは無邪気に不思議そうな声を出した。
「・・・・・・まあいいけど」
女ちゃんは気持ちを切り替えたようだった。
「それよか女ちゃん、明日の朝には東北に行っちゃうんでしょ?」
「うん。本当は昨日お父さんたちと一緒に行く予定だったんだけど・・・・・・」
そう答えて女ちゃんは教室内を眺めた。
「どうしたの?」
あたしは少し不安そうな女ちゃんの表情に何か快感めいた、嗜虐的な快感を覚えた。「もしかして誰か探してる?」
「ええ・・・・・・まあ」
「女ちゃんの転校って急だったもんね。お別れを言えなかった人もいるんじゃないの」
「あのさ、副会長ちゃん」
普段は人に媚びることのない女ちゃんがあたしに縋るような目を向けた。
「あの。あたしが職員室に行っている間、誰かあたしを尋ねてこなかった?」
「誰かって? 何人も教室を出入りしてたけど」
あたしはぞくぞくしながら言った。「例えば誰?」
女ちゃんはしばらくためらった。女ちゃんがこの時何を考えているのかあたしには手に取るようにわかった。
あたしが会長に告白し振られたことは学内に噂として広まっていた。あたしは随分そのことでプライドを傷つけられたのだ。一時期あたしの兄友へのメールはそのことに対する愚痴で埋め尽くされていたくらいだった。
そんな時でもこの女は会長に愛されているという余裕があるのかあたしに対してそのことを持ちかけてくることはなかった。当然彼女の耳にもこの噂は届いていたはずだけど。
女ちゃんは今そのことを気にしているのだ。本当は会長が自分を訪ねてきたのかどうか知りたくて仕方がないのだろうに。
あたしはそこで助け舟を出してあげることにした。相変わらず女ちゃんに対して優越感を覚えながら。
あたしが兄友から女ちゃんが転校すると聞いて以来暖めていた作戦。その第一段階はうまく行った。会長は女ちゃんが自分に黙って去っていたことに傷付いた。
でも仕上げはこれからだった。この二人を別れさせるためにはまだ手を抜ける状態ではなかった。
「まあクラスの人以外だと・・・・・・あ、そうだ。生徒会長が尋ねてきたよ」
女ちゃんの表情が一瞬明るくなった。
「先輩、志望校に合格したんだって。嬉しそうだったよ」
「それで、何か他に言ってなかった?」
「他にって・・・・・・ああ、そうそう。あんたが転校するってこと会長は知らなかったんだよね。あんたと会長って仲良しなのかと思ってたのに」
あたしは微笑んだ。
「え? 副会長ちゃんあたしが転校するって先輩に話したの?」
「うん。話したけど、何か都合悪かった?」
「・・・・・・引越しの日を遅らせて自分で話そうと思ってたのに」
女ちゃんは低い声で言った。その言葉はあたしにはよく聞き取れたけどあえてあたしは聞き取れなかった振りをした。
「ごめん。今何て言ったの? よく聞こえなかった」
「何でもない。それで先輩、それを聞いて何か言ってた?」
「別に何も。そうなんだって言っただけだったよ」
あたしは自分の一番の微笑みを彼女に向けたのだった。
「あとさ、高校合格祝いに今日からどこかに卒業旅行に行くんだって。しばらく連絡が取れないけど生徒会をよろしくって言われた」
女ちゃんの表情が青くなった。
「副会長ちゃん、会長の携帯の番号とかメアドとか知ってるかな」
女ちゃんのいつもような余裕のある態度は今ではどこかに行ってしまっているみたいだった。
「ええ〜。そんなの知らない。女ちゃんこそ会長と仲良しなのに何でそんなことも知らないのよ」
女ちゃんはそれを聞くともうあたしには話しかける価値がないと判断したようだった。
「じゃあ、あたし帰るね」
「うん。女ちゃん東北に行っても元気でね」
「うん。じゃあ、さよなら」
・・・・・・さよなら。もうあんたは二度と戻ってくるな。何なら兄友をあげるから二人でずっと東北で仲良くしてればいい。
その夜、今まで沈んでいた姿を見せて心配させてしまった姉と妹は、久しぶりにテンションの高いあたしに驚きそれを持て余しているようだった。
本日は以上です
なるべく早く再会したいと思います
ここまで辛抱強くお付き合いいただいた方々には感謝してます
乙乙
衝撃の展開だわ
今までは兄以外の全ての悪意その他が絡んだ結果かと思ってたけど、次女が全ての元凶にして諸悪の根源だったか……
っつーか、ここまで性根のひん捻じ曲がった我儘身勝手自身過剰ド悪女、一体どうやって生まれたやら?
乙!
やっぱ兄友と女には接点ありだったのか・・・
これだから見た目に自信がある女性ってのは
性格歪まされるのは作者の責任
いやいや外見が優越感と自己中につながるのは多くの典型
さあて、誰かが最後に笑えるんだろうか…
まだ誰が女ちゃんを最終的に追い詰めたかは書かれてないから、これからも目が離せないな
翌日は土曜日で休みだったから、あたしたちはここ最近落ち込んでいたくせにその夜だけは異様にテンションの高い次女ちゃんの自分語りに深夜まで付き合わされたのだった。
昨年の学園祭の前に生徒会長に告白して振られた次女ちゃんはそれからずっと自分の恋愛については何も語ろうとしなかった。次女ちゃんが自分を振った会長やその彼女の女さんに対してどう思っていたのか、あの日二人で過ごした次女ちゃんと兄友君に何があったのか、あたした
ちは知らなかった。
あたしたちはそれを知らないまま家では暗い表情でいつも黙りこくっていた次女ちゃんに腫れ物に触るように接してきたのだった。もちろんこちらから次女ちゃんに質問なんてできなかった。
それに次女ちゃんには話したことはなかったけど、一学年下のあたしや一学年上のお姉ちゃんにまで生徒会の副会長が彼女がいる会長に強引に告白し、そして振られたという噂が耳に入るようになっていた。きっと次女ちゃん本人にもその噂は届いていたことだろう。
数ヶ月間次女ちゃんの沈んだ表情を眺めているしかなかったあたしは、プライドの高い次女ちゃんがその噂に苦しんでいるだろうと考えて胸を痛めていた。
と同時にこれだけ沈んでいる次女ちゃんがあの日に兄友君と付き合い出したとも思えなかった。そして正直に言うとその考えはあたしを安堵させたのだった。
あれだけはっきりと兄友君の心を目の当たりにしてもなお、あたしは兄友君のことが好きだったのだ。それは我ながら考えたくないほど利己的な心の動きだったのだ。
その夜、次女ちゃんはあたしたちにあたかも自分の中の心を縛っていた縄が全て解けたかのように、一種清々しいほど明るい表情で会長や兄友君に対する自分の気持を語ってくれたのだった。昔よく過ごした夜のように両親に隠れてお姉ちゃんの部屋に集まったあたしたちは、まるで
無邪気にパジャマパーティーをしているかのようだった。
お菓子やジュース。音量を絞ったお気に入りの音楽。そしてどきどきしながらお互いに正直に告白しあうあの感覚。
あたしは次女ちゃんの話に聞き入った。お姉ちゃんも相変わらず人の色恋沙汰に興味津々な様子だった。
「まあ、お姉ちゃんたちも噂に聞いてるかもしれないけどさ。あたし去年会長に告って振られちゃったんだよね」
次女ちゃんは憑き物が落ちたかのように透明な微笑みを浮べて言った。
あたしはその表情に驚いた。それが次女ちゃんらしくなく本当に清純な美少女の笑みのように見えたからだ。
あたしは次女ちゃんのことが好きだった。でも次女ちゃんに関して幻想を抱いてもいなかった。次女ちゃんは有体に言えばビッチだ。男の気持ちと視線を、まあ全部とは言わないまでも少なくとも自分が気になる男の気持ちは、必ず自分に向かせていないと気がすまないタイプの女の子
だ。
それは次女ちゃんが遊び歩いていた派手なグループの先輩たちと一緒に行動していたときからそうだったし、生徒会入りをして清楚な美少女の副会長として学内で噂になった後でさえ次女ちゃんの本質的な性格は何ら変わっていなかったと思う。
それなのにどうしたことだろう。今の次女ちゃんの陽気な表情にはそういった自分勝手な様子は全くなく、ひたすら気軽な世間話をするかのように辛かっただろう日々を語り始めたのだ。相変わらず思わず引き込まれるような綺麗な微笑みを見せながら。
「それでね。びっくりしたんだけどあたしが先輩に振られたところを兄友が隠れて見ていたの」
「ああ、ごめんね。それ知ってる」
お姉ちゃんが空気を読まない声で気楽そうに次女ちゃんの話に割り込んだ。よく見ると片手に缶入りの梅酒を持っている。どうやらまたママのお酒をくすねてきていたようだった。
「・・・・・・どういうこと?」
「次女ちゃんには黙ってたけどさ、あん時兄友だけじゃなくてあたしたちも廊下に隠れて聞いちゃってたんだよね」
お姉ちゃんのバカ。あたしは一瞬次女ちゃんの怒りの爆発に備えて身を固くした。でも次女ちゃんはやっぱり今まであたしが見たことのないような透きとおった悲しげな微笑みを見せただけだった。
「あんたたちは・・・・・・。まあ心配してくれたんだろうけどさ」
「そうそう。何たって大切な姉妹だもんね。ね? 妹友ちゃん」
「うん」
とりあえずあたしは同意した。
「まあ、それなら話は早いね。それで先輩に振られた後さ、あたし兄友とカラオケに行ってそこであいつに告られちゃったんだけど」
あの夜兄友君があたしを抱き寄せた時、明らかにショックを受けていたはずの次女ちゃんは、そんなことなどなかったかのように軽い口調で言った。
「それであんた、兄友と付き合ってるの?」
どういうわけかお姉ちゃんの手から梅酒が床に落ちた。床に横になったアルミの缶からお酒がこぼれて絨毯の上に黒い染みが広がっていった。
「あ、そうじゃないよ。あたしね、兄友の告白を断ったの」
相変わらず余裕を見せながら次女ちゃんが言った。
「何で?」
お姉ちゃんがゆっくりと床に落ちたお酒を拾いながら言った。「あんた、前から兄友が好きだったんじゃないの?」
お姉ちゃんがお酒を落としたのは別に動揺したせいでもなかったようで、お姉ちゃんは今では落ち着いた声で聞いた。
「うん。好きだった」
「でも、あたし。自分らしくないとも思うし顔とか全然あたしの好みじゃないんだけどさ、何かやっぱり先輩のことが、生徒会長のことが好きみたい」
お姉ちゃんもあたしも戸惑って黙ってしまった。
「だから、兄友の告白を断ったの。本当は嬉しかったけど、あの時気がついた。やっぱりあの時も今も一番好きなのは」
「・・・・・・本当にあいつなの?」
お姉ちゃんが困ったような顔で聞いた。
「うん」
次女ちゃんが真面目な顔でうなずいた。「生徒会長だよ」
その時あたしは思わず口を挟んでしまった。
「次女ちゃん、それ女さんに対してむきになっているだけじゃないの?」
次女ちゃんはあたしを真っ直ぐに見た。
「むきになってるかもね。女ちゃんのことは嫌い。でも自分の心に嘘はついてないよ」
「・・・・・・次女ちゃん」
「妹友ちゃんさ。もうあたしに遠慮しなくていいよ」
「え」
あたしは耳を疑った。
「あんた兄友が好きなんでしょ? もうあたしに遠慮しなくていいから」
心拍数が上昇していく。顔はきっと真っ赤になっていたに違いない。
「あんたそんな気前のいいこと言っちゃって本当にいいの?」
お姉ちゃんが少し真面目な声を出した。「あんたって気が変わりやすいんだから。後になってやっぱり兄友にしたなんて言い出したら結局傷付くのはこの子なんだからね」
「もう迷わないよ。安心していいよ、妹友ちゃん」
次女ちゃんはにっこり笑ってあたしを見た。あたしはこの時相変わらず顔を赤くしたまま俯いているしかなかったのだ。
「ちょっと厳しいこと言うよ? あんたが会長のこと好きだというのが意地とか勘違いとかじゃないとしてもさ、あんたは一度振られてるんだよ」
「うん」
次女ちゃんはお姉ちゃんの言葉に少しも動揺しなかった。
「ということはあんた、女さんって子に負けたんじゃん」
「一度はね。でもあれで先輩はあたしのことを意識したはずだし」
「はあ?」
お姉ちゃんは飽きれたようにそして腹立たしそうに言った。
「いつまで夢見てんのよ。告ってからずいぶんたったけど、会長と女さんって相変わらず仲良いじゃないの」
「今日まではね」
「え」
「今日まではね。今日女ちゃんは引越しして転校しちゃったから、もうそれも終わり」
「・・・・・・マジで?」
「マジで」
それで次女ちゃんは今日こんなに機嫌が良かったのだ。
「それでこんなに機嫌が良かったのか」
お姉ちゃんもようやく次女ちゃんの考えていることに納得したようだった。「これまではずっと落ち込んでたのに」
「それはあたしだって先輩に振られて人並みに傷付いたし」
次女ちゃんが真面目な顔で言った。「それに・・・・・・」
「それに?」
「お姉ちゃんたちだって知ってたんでしょ? あたしが先輩にみっともなく振られたっていう噂が流れてたの」
「知ってたよ」
「あんなこと言い触らされて元気にしていられる訳ないじゃん。さすがのあたしだって超傷付いてたんだから」
「・・・・・・それはあんただって辛かっただろうけど」
「まあ、もうどうでもいいんだけどね。女ちゃんがいなくなった以上、先輩の卒業まで余り時間はないけど何とかするよ」
そう言って次女ちゃんは再びあたしの方を見た。少しだけ面白がっているようだった。
「で、どうなの? 妹友ちゃんって本当は兄友が好きなんでしょ? この間あいつに抱き寄せられてときめいちゃったんでしょ?」
少しだけ意地悪い次女ちゃんの表情が俯いているあたしの目の端に映った。
もう隠せない。あたしがそう思った時、相変わらず呑気そうな声でお姉ちゃんが話に割り込んであたしの危機を救ってくれた。
「でもさ。わかんないなあ。あの時にあそこにいたのは会長とあんた、あとはあたしと妹友ちゃんと兄友だけでしょ」
「え?」
「他に誰かが聞いてたのかなあ。何で次女ちゃんが会長に振られたことが噂になったんだろ」
一瞬であたしは戸惑っていた自分の考えから覚めた。
同時に次女ちゃんもはっとした様子だった。次女ちゃんらしいけど、これまで誰が噂を流したのか深く考えなかったのだろう。
そう言えばいったい誰が噂を触れ回ったのだろう。次女ちゃんの告白を知りえたのは誰だったか。
あの場所にいたのはあたしが知る限りでは、当事者である次女ちゃんと会長の他には、あたしとお姉ちゃんと兄友君しかいなかったはずだった。
会長が自慢気に自分が次女ちゃんを振ったことを話しまわるとは思えない。会長はそういう人格の人ではないと思う。
次女ちゃんを好きだった兄友だってそうだ。しかも兄友はすぐに東北に帰ってしまったのだし。
「女ちゃんか」
次女ちゃんがこれまでのような晴れ晴れとした微笑みを引っ込めて怖い表情で言った。
「やっぱり女ちゃんだったか」
「まだそうと決まったわけじゃないじゃん」
お姉ちゃんが口を挟んだ。
「お姉ちゃんたちのことは信じてるよ。兄友も、もちろん先輩のことも」
次女ちゃんが言った。「残るのは女ちゃんだけじゃん。先輩にあたしのこと振ったって聞かされたんじゃないの? それを得意そうにペラペラ喋ったんでしょ」
お姉ちゃんとあたしは黙っていた。否定するにも同意するにも根拠がなさ過ぎたから。
「まあいいや。もう女ちゃんはいないんだしね」
次女ちゃんは気を取り直したように言った。次女ちゃんの性格なら自分が振られたことを言い触らされるなんて犯人を絞め殺しても飽き足らなかっただろうけど、その相手が会長から離れて転校したこともありあまり気にしないことに決めたようだった。
そして次女ちゃんは再びあたしの方を見た。
「で、どうなのよ? 兄友のこと好きなんでしょ?」
次女ちゃんにはさっきまでの透明感溢れる笑顔はもう面影すらなかった。
「協力してあげるよ」
次女ちゃんがあたしの手を握った。
「あたしはもう兄友なんていらないから。あんたに譲ってあげる」
また缶が床に落ちる音が響いた。
お姉ちゃんはまた梅酒を手から滑らせて床に落としてしまったみたいだった。
今日は以上です
明日の投下は難しそうです
ここまでお付き合いいただきありがとうございます
性格悪すぎワロタンゴwwww
やっぱりお姉さんは兄友が好きなのか
お姉ちゃんからドス黒いオーラを感じる
私、気になりますっ!
あの時俺は酒も入っていたしかなり調子に乗っていたことは自分でもわかっていた。でも酒に酔うこと自体に慣れていなかったこともあり自分でもまずいとは思いつつ自分の行動を制御できなかったのだ。
ただでさえ調子にのって次女を怒らせ妹友を困惑させたその夜だというのに。
次女は当然ながら、傷付いたのか怒ったのかは不明だけど俺が妹友を抱き寄せた後、さっさと部屋を出て行ってしまった。この幼馴染の姉妹限定で言うと俺の本命は次女だからこの時俺は少し狼狽した。きっとそれは顔にも出ていたに違いない。
俺は今さらながら妹友の肩を抱いている手をそっと彼女からはずした。自分では認めたくなかったけどどうも俺は久しぶりに幼馴染の美人の三姉妹と会ったことに舞い上がってしまっていたようだった。
結局この夜はこの後、俺は姉さんに恥かしい告白大会みないなことを強要されたのだ。酒も随分入っていて中学生の俺としてはここまで酔うのは未知の領域だった。でも姉さんはさっきからぐいぐいと梅酒の缶を空にしていて、新しい酒のプルタブを次々に開けては口に運んでいた。そして俺も何となく姉さんのそんなペースに巻き込まれていた。この頃になるといろいろやらかしたことなどどうでもよくなっていたし、目の前の姉さんもいつもより俺に理解があり俺の話を笑いながら聞いてくれていた。
ふと気がつくと妹友がいなかった。次女はさっき部屋を出て行ったから今では俺は姉さんと二人で深夜に酒盛りをしていた状態だった。
俺は缶の梅酒の残り顔を上げて口に流し込んでいる姉さんを改めて眺めた。少しだけ酔いが冷めたような感覚があった。
梅酒をこくこくと流し込む姉さんの白く細い首筋がなまめかし動いている。
そういえば三姉妹の中で、今まで俺に対して直接的にしろ間接的にしろ恋愛的な好意を示さなかったのは姉さんだけだった。俺は姉さんを実の姉貴のように慕ってきたからそのことについてはこれまではあまり気にしていなかった。
正直に言うと俺には東北にも俺のことを好きだと言ってくれる女の子たちもいたし、幼馴染の次女と妹友も俺を好きなようだったからこれ以上はそういう存在は求めていなかった。むしろ男女の好意ではなく純粋に身内として弟として俺を心配して構ってくれる女なんて他にはいなかったから、俺が姉さんに求めているものはその母性のようなものだったのだ。まあ、母というには姉さんは俺に対して少し厳しく辛らつすぎる嫌いはあったけれども。
でもこの瞬間、どういうわけか俺の視線の先には俺に靡いてくれない年上の少女が身近に座っていたのだった。姉さんは俺のことをまるで男としてなんか認識していないだろうけど、その時の俺にとっては姉さんは一人の女として認識されてしまった。酒のせいにできるものならしたかったのだけど。
これは俺の悪い癖だ。俺は必死に自分に言い聞かせた。自分に気がなさそうな女の子ほど俺の興味の対象をそそるという悪い癖はいい加減直さないといけない。それで今だって次女を怒らせ妹友を困惑させたばかりなのに。
「ねえ」
姉さんが俺の方を見て言った。「どうせだからもう少し付き合ってよ。あんた明日は休みでしょ」
姉さんは八畳のこの部屋に敷かれたカーペットの上で足を崩している。年上の姉さんの細っそりとした白いふくらはぎと可愛い膝小僧がさっきから俺の視界に入っていた。
「別にいいけど。でも明日は次女に謝らないと」
俺は自分の欲望を辛うじて隠してかすれた声で姉さんに答えた。
「次女ちゃんは明日は学祭の準備で学校に行くからさ。そこで捕まえて謝るといいよ」
姉さんが言った。酔いが回っているのだろうか。姉さんのいつもの説教じみた声や態度さえ今の俺には悩ましい感情を呼び起こさせるようだった。
正直に言うと次女や妹友は俺の中で性の対象だった。そういう欲望に駆られ辛うじてその衝動を抑えた経験はこれまで数え切れないほど覚えがあった。それもあいつらがまだ小学生の時から。
でも、おれは今まで姉さんを欲情の対象として見たことは一度もなかったのだ。
俺にとっては姉さんは唯一異性を意識することなく何でも話せて何でも相談できる女の子だ。そして俺のような人間にとってそれは恋愛対象を探し出すよりももttp見つけることが難しい貴重な相手だった。
それでも酔った俺の中で何かはっきりとは説明できない感情が沸き起こっていた。自分の保護者めいた振る舞いをする女を自分のものにしたい、征服したいという倒錯した欲求。
俺自身に対して恋愛感情のない相手を振り向かせ屈服させたいという欲望。それはもう押さえきれないくらいに俺の胸を占領してしまっていた。
「よし。そうと決まったらもう少し飲もう。お酒持ってくるからちょっと待っていって」
そう言って姉さんはふらつきながら立ち上がった。
三姉妹の中で一番すらっとした体つき。茶髪の次女やショートカットの妹友とは違って肩の下まで伸ばしたロングの黒髪。俺に靡かないでいつも俺の保護者のように振る舞う世話好きな性格の女。
繰り返すけど酔っていたせいに違いない。俺はふらつきながら立ち上がった姉さんの両足に手を伸ばして絡めた。
「きゃっ」
短い悲鳴を上げて姉さんが体勢を崩して倒れ掛かってきた。俺は姉さんの体を横抱きにするように抱きかかえて姉さんを半ば横たわらせるように座らせた。姉さんの顔は胡坐をかいている俺の膝の上に着地した。姉さんのロングの髪が俺の膝の上に広がった。
「ごめん」
そう俺に謝って起き上がろうとした姉さんの肩を俺は右手で無理矢理押さえつけた。
「ちょっと酔ったかな・・・・・・って、え? あんた何してるの」
姉さんの声が少し震えている。
「危なかったね、姉さん」
俺は起き上がろうともがく姉さんの肩を片手で押さえ、もう片方の手で姉さんの顎を強引に押さえて姉さんの顔を無理矢理上に向かせる。
「ちょっと飲みすぎなんじゃないか」
「・・・・・・うん、そうかも。もう寝た方がいいかな」
そう言って再び体を起こそうともがく姉さんを俺は押さえつけて、上を向かせた姉さんの口にキスした。
「あ、あははははは」
長いキスが終ると唇を奪われた姉さんが壊れたように笑い出した。「何ふざけてるのよ。本当にもう寝ようぜ。あんただって明日は次女に謝るんでしょ」
冷静に言葉を出そうとしていたようだけど声の震えは姉さんの意図を裏切っていた。
俺は姉さんの顎から手を離し、姉さんの細く柔らかな髪の毛を梳るように弄りながら落ち着いて答えた。
「だって姉さんが今日は付き合えって言ったんだろ」
「あんた、わかっててこんなことしてるんでしょうね」
俺に髪を愛撫されながら姉さんは喘いだ。
俺は姉さんの髪と肩から手を離し姉さんの乱れているTシャツの左肩をめくって姉さんの細い肩を剥き出しにしてた。そして剥き出しの肩に口付けする。
「・・・・・・いや」
姉さんはついに俺に、酔って理性を失った俺に屈服した。
いつも俺の保護者だった姉さんに「いや」と言わせることができた。酔っていて冷静な判断ができない俺にとってもそれは目標達成だと理解できたはずだった。悪い悪戯だとしてもそろそろ限度を越えているかもしれない。
・・・・・・俺はそう思ったのだけど。
目の前で服を乱されて白い綺麗な肌を覗かせている姉さん。いつもは強気に俺に説教する姉さん。男女間の噂は大好きなのに自分からはそういう行動を起こさない姉さん。
これはいわゆるギャップ萌えというやつなのだろうか。それとも自分より年上で上位の存在を征服したいという俺の潜在的な欲望の発露なのだろうか。
「兄友・・・・・・もう許して」
姉さんから聞くとは思わなかった懇願の言葉が細い声で姉さんの口を出た。さっきまで未成年の癖に偉そうに酒を飲んでいた姉さんが俺に許しを求めている。それが年上の姉さんから出た言葉とは信じられないけど、その声に俺は僅かに残っていた理性を吹き飛ばされてしまった。
俺は姉さんの服を脱がし始めた。酔っているとはいえ姉さんに抵抗されていたら俺はそこで諦めていたかもしれない。でも俺に許してといった姉さんはもう俺の手に抵抗しようとはしなかった。姉さんを裸にしてその白い裸身を眺めた俺は最後に残った布を姉さんから脱がそうとした。
その時、姉さんは細くそして白く輝くような腰を浮かせて俺の作業を手伝った。
「兄友」
姉さんはそう言って目をつぶった。
今日は以上です
お付き合いいただいた方、ありがとうございます
なんだと…
ついに出た!兄友視点!
でも、これは許せんなあ
やりたい盛りには、理性なんて働かないよな
お姉さあーーーーん!
兄友子ね
兄友は寝取り属性あるのかなと思ってたらやっぱりか
なんというゲス
この夜俺たちの親が酔って盛り上がっていなかったらいったいどんな事態になっていたのか。それを考えるだけでも恐ろしい。でも幸か不幸か久しぶりの再会に浮かれた大人たちはこの時まだダイニングルームで羽目を外していたの
かそれとも酔いつぶれて寝てしまったのか、俺の姉さんへの酷い行為は誰にもばれることはなかったのだ。それは親たちだけではなく次女にも妹友にも気がつかれることはなかった。
俺も姉さんも初めてだったせいもあってことが終った後改めて裸身を絡めている自分たちの姿を見ると、それはひどい有様だった。
姉さんの白い太腿に血が一筋伝わって床にまで到達している。俺が理性を失って撫でまわしたり口をつけたり興奮のあまり思わず噛み付いたりしてしまった姉さんの裸身のあちこちに赤い痣が点々と残っていた。あの時諦めたかのように抵抗せず俺の好きなようにされていた姉さんは、俺が姉さんと一つになろうとするといきなり体をねじって抵抗を始めたのだった。
俺はもう自分の衝動が止まらなくなっていたから、夢中で姉さんの両方の手首を自分の片手で力の加減すらせず思い切り握り締めて床に万歳させるように押さえつけた。そして俺の醜い衝動の証拠は姉さんの細い手首にはっきりと残
されていた。それは姉さんの首筋や胸やお腹や太腿に俺が残したような赤い花のような痕ではなく、内出血した青黒い痣だった。
俺は自分のことを恋愛感情とかに関係なく心配してくれていた姉さんの信頼を裏切り、精神的にも肉体的にも姉さんを傷つけてしまったのだった。
俺はまだ涙が残る目を閉じている姉さんの裸身から自分の体を起こした。きっと今まで姉さんの細い体は男の体重に耐えてきたのだろうから。
「ごめん」
我ながら不様な言葉が口をついた。「姉さん、本当にごめん。俺どうかしてた。姉さんがあんまり可愛かったから」
姉さんは目を閉じたままでのろのろと身体を横向きにして俺の目から裸身を隠そうとしているようだった。相変わらず俺に許してと言ってから一言も口を聞いてくれない。
「何か喋ってくれよ・・・・・・姉さん。俺のこと嫌いになった?」
「・・・・・・らない・・・・・・」
「え?」
「ならないよ。兄友のこと嫌いにならない」
姉さんはそれまでしっかり閉じていた目を開いた。まだ涙を浮べなが。そして俺とは視線を合わせず横向きの裸身を少し屈めるようにしながら小さく言った。
「あんたはあたしの大切な弟だから・・・・・・。たとえあんたにどんな酷いことをされてもあたしはあんたを嫌いにならない」
俺は姉さんの思いがけない許容に呆然としていた。普通なら大声を出して両親を呼び寄せたって文句は言えない状況だったのだ。俺のしたことは強姦だった。そして俺が自分の欲望を一方的にぶつけたその相手は俺のことを唯一心
配してくれていた幼馴染の姉さんだった。
その姉さんが泣き腫らした顔で俺のことを大切な弟だと言ってくれた。
「姉さん、俺」
俺は姉さんの肢体から目を逸らした。「俺」
「いいよ。わかってるから」
姉さんはまだ俺に付けられた痣が目立つ手で涙を拭った。「何があってもあんたはあたしの可愛い弟だから。今日のことはお互いに忘れよう」
「姉さん・・・・・・」
「あんたが昔から次女のことが好きなのはわかっているよ。さっきは告白タイムとかいろいろあんたをからかったあたしも悪かったよ」
「姉さん」
「あんたは明日、学校にいって次女に謝って来な。それでもうあの子に告白しちゃえ」
「でも、俺」
「黙ってればあたしとのことは誰にもばれないって。あんただって年頃の男の子なんだし無防備にお酒とか誘ったあたしも悪かったよ」
好きでもない年下の男に無理矢理処女を奪われた姉さん。
その姉さんがあり得ないくらい限りない許しを俺に与えようとしている。
俺の心の奥に、姉さんの母性に甘えてこのことはなかったことにしようという気持ちが一瞬よぎった。
「親に気づかれなくてよかったね」
俺に与えられた身体中の痛みを感じさせないような姉さんの透明な微笑み。それはすごく綺麗だった。
・・・・・・いかん。だめだ。俺は何回同じ過ちを犯すつもりなのか。
なかったことにして姉さんの言うとおりに次女に告白するという気持ちが急速に失われていく。自分では今まで気がつかなかったけど俺はひょっとしたら年上のお姉さん属性だったのではないか。姉さんを犯した俺は童貞ではなかった。
でもその相手は同級生か後輩の女の子だった。
俺は俺のした仕打ちを完全に受け入れ許容したばかりか、俺に次女に告白するようアドバイスしてくれている姉さんを俺は改めて眺めた。
姉さんは俺の理想の母親のような優しい言葉をかけてくれたけど、その肢体はまだなまめかしい裸身のままだった。姉さんの身体は綺麗だった。細身で色白で華奢な身体。その綺麗な裸身のあちこちに俺の口や歯や手によって無理
に付けられた痕が浮かび上がっていた。俺は再び自分の中に何かの衝動が目覚めたことに気づいた。
「姉さん、ごめん」
俺はその衝動を必死で抑えようとした。でもそれはうまく行かなかったようだ。
俺は姉さんが横向きに横たわっている方に身体を寄せた。
「酷いことして本当にごめん」
俺の手が姉さんの腕に触れると姉さんは裸身をびくりとさせ、警戒するような視線で俺の方を見た。ここで姉さんは初めて俺と目を合わせてくれたのだ。
「何かうまく言えないけど。俺、姉さんのこと大好きだ。こんなことされた後では信じてもらえないかもしれないけど・・・・・・」
「・・・・・・よしなさい。今ならまだなかったことにできるんだよ」
姉さんの目に再びさっき俺に乱暴された時のような狼狽して怯えたような光が宿った。
「俺、好きでもない女にこんなことしないよ。姉さんは俺のこと弟としてしか見れない?」
姉さんは俯いて黙ってしまった。
俺は姉さんとの距離を一気に縮め再び姉さんの裸身を強く抱き寄せた。姉さんは姉さんのことを好きだと言って自分に迫る俺を、さっき単なる欲望の対象として俺に弄ばれたときより激しく拒絶しようともがいた。
「・・・・・・ばか! 次女ちゃんはどうなるのよ」
「わかんねえよ。でも今は姉さんと繋がっていたい」
俺は両手で姉さんの頬を押さえて姉さんにキスしようとした。それは姉さんにキスを無理強いすることになるのだろうと俺は思った。
でも。
「ばか・・・・・・。後悔しても知らないから」
姉さんは細い声でそれだけ言うと俺の首にまだ俺に付けられた痣が残る両手を廻して、自分の方から俺に口付けしたのだった。深く長いキスを。
俺は姉さんを押し倒し姉さんの裸身を手でまさぐった。今度は前のように乱暴な愛撫ではなかった。そして前は身動きせず声すら出さなかった姉さんの可愛い喘ぎ声が俺の耳に届いた。その声は狂っていた俺を更に惑わせた。
カーテンを閉め忘れた客間の窓の奥から夜明けの青い光が灯りを消した部屋の中に射し込み始めた。ではもう朝なのだ。
俺は自分の腕の中で一糸まとわずに眠っている姉さんの方を見た。姉さんの裸の肌がほの白く夜明けの光にぼうっと浮かび上がっている。俺は片手で姉さんの髪を撫でた。そのせいか姉さんは少し身じろぎして目を開けた。
俺と姉さんの視線が絡んだ。
「もう朝?」
そう言った姉さんの表情は俺に甘えているようで、俺はそんな姉さんの可愛い表情を初めて見たのだった。胸の動悸が変な風に打ち始めた。
俺はこの時姉さんのことがいとおしくてたまらなかった。それはこれまでの俺の付き合った女たちには感じたことのない初めての感覚だった。
「兄友、寒くない?」
俺の腕の中の姉さんが俺を気遣ってくれた。
「姉さんこそ大丈夫か?」
「うん」
姉さんは少しだけ笑った。「あんたに抱きしめられてたからかな。男の子って体温高いんだね」
「姉さん」
そんな姉さんの可愛い表情に俺は我慢できずに再び姉さんにキスし姉さんの裸身を愛撫し始めた。
「だめ」
姉さんが平静な声で言って俺の口と手から逃れた。
「姉さん、どうして」
強姦から始まる恋なんてないのだろうけど、俺は昨日の夜姉さんに許されたのだと思っていた。そして俺の中では次女とか妹友とかへの執着は薄れ、今では目の前にいる姉さんを手に入れることしか頭の中にはなかったのだ。
そうだ。何で今までこの姉さんの魅力を見逃していたのだろう。
確かに次女は連れていて自慢できるくらいの美少女だし、俺の一言一言に一喜一憂し顔を赤らめる妹友も幼くて可愛らしい。
でも俺のことを本当に理解してくれているのは姉さんなのだ。姉さんへの情欲から始ったこの一晩の出来事が結果的に俺が一番大切な女の子は誰なのかをはっきりとわからせてくれたのだ。
俺はこの瞬間本気で姉さんに告白しようとした。そうだ、今まで口に出せなかった愛してるという言葉を今こそ姉さんに言うのだ。
その時俺の告白より早く姉さんの明白な拒絶の言葉が俺の耳に届いた。
「あんたとこういうことするのは、もうこれきりだから」
姉さんは俺の手から逃れて冷静にそう言った。俺の気持ちが伝わっていないのだろうか。俺は焦って語気を強めた。
「やだよ。俺が好きなのは、大切なのは姉さんなんだ。ようやくそれに気がついたのに、姉さんは俺のこと嫌いなの?」
姉さんは顔を赤くして俯いた。俺の勘違いでなければその一瞬の姉さんの微笑はすごく幸せそうだったのだ。でも再び顔を上げた姉さんの表情には微笑みも俺への好意の欠片もなかった。
「あんたは次女と付き合うのよ」
さっきまで俺の乱暴な愛撫を許容してくれた時の甘い表情はもうどこにも見当たらなかった。
「それで、あんたが次女を傷付けたらあたしが許さない」
「姉さん・・・・・・」
「妹友のことなら心配しないで。あたしがうまく慰めるから」
そう言って姉さんは俺の腕から逃れて立ち上がった。それは俺に抱かれる前のいつもの姉さんらしい口調だった。
「今なら気がつかれずに家に帰れるよ。寝坊して次女の学校に行くのを忘れるなよ」
俺はこうして姉さんに乱暴して一つになった朝、その姉さんの家から追い出されたのだった。
今日は以上です
また投下します
ここまで長いことお付き合いいただきありがとうございます
>>397
訂正
×俺も姉さんも初めてだったせいもあってことが終った後改めて裸身を絡めている自分たちの姿を見ると、それはひどい有様だった。
○姉さんは初めてだったせいもあって、ことが終った後俺が改めて裸身を絡めている自分たちの姿を見ると、それはひどい有様だった。
兄友は中二の分際でDTではなかったのです
興ざめすいません
もしや中田s……
まさか……まさかな……
もちろん中打
兄友外道
ここまでとは思わなんだ
結局俺はもう完全に明るくなった空の下でお袋に気づかれないようにそっと自分の部屋に戻ったのだけど、その後は全く眠れなかった。
後悔と反省と二日酔気味の体調のせいだ。
後悔と反省は俺のことを男女間の感情抜きで心配してくれ面倒を看てくれた姉さんを、無理矢理衝動に駆られて男女の関係に引きずり込んでしまったことだった。でも俺がその後悔や反省の奥底を勇気出してそっと探ると、そこには今まで感じたことすらなかったような倒錯した途方もないくらいの快楽の記憶が淀んでいるようだった。
「ばか・・・・・・。後悔しても知らないから」
あの時姉さんは俺にそう言って自ら俺に抱きつきキスしてくれた。
夜明けの青い光の中で短い転寝から覚めた姉さんは俺の方を見て微笑んでくれた。
「兄友、寒くない?」
「あんたに抱きしめられてたからかな。男の子って体温高いんだね」
快楽の記憶とは別に、俺は切なくなるような感情を姉さんに対して抱いたのだ。女に対してこんなことを感じたのは初めてだった。性的な快楽の記憶と純愛を予感させるような切なさ。矛盾した二つの感情が、いてもたってもいられないような身悶えするほど混乱した感情が、俺の胸を埋め尽くしている。
昨夜の俺の愛撫と抱擁は姉さんにきっぱりと拒否された。その時の姉さんの表情があまりにも毅然としていて俺を近づけない決意に満ちていたことを感じた俺は、無理矢理姉さんを抱いてしまった行為を再び繰り返すことはできなかった。この時の姉さんの厳しい態度に俺の欲情は萎えてしまったのだ。
「あんたは次女と付き合うのよ」と姉さんはきっぱりと俺に言った。俺の腕の中で可愛らしく悶えていた姉さん。あの時俺を狂わせた可愛い喘ぎ声を出したその同じ口から、姉さんは俺に次女に告白するように厳しく言い渡したのだった。
もう眠れない。とりあえず学校に行こう。そして次女に謝ろう。
きっとあいつは傷ついているに違いない。俺があいつではなく妹友ちゃんにちょっかいを出したことに。姉さんの言うように次女に告るかどうかは別として次女に謝って仲直りはしておきたかったのだ。
妹友ちゃんの肩を抱いて誘いの言葉を囁くなんて、姉さんの身体を半ば無理矢理自分のものにしてしまったことに比べれば大したことではない。万一、このことが次女や妹友に知られたら俺は本当に終わりだ。俺にあれだけ酷いことをされたにもかかわらず俺のことは嫌いにならないいと言ってくれた姉さんが俺のことを庇ってくれたにしても。
もちろん次女には俺が姉さんに対してしてしまったことなど伝えるわけにはいかないし、姉さんもそのことを誰かに話すつもりはないようだった。
姉さんの言うように次女に告白してあいつと付き合うか。
それとも。俺の心に再び未練がましく真っ黒な感情が沸いてきた。
俺と姉さんは身体も心も相性がいいのではないか。その証拠に二度目の時姉さんは乱れて俺に抱きついていた。
・・・・・・例え表立って俺の彼女だと言える子が次女であっても妹友であっても、あるいは東北の女の子たちの誰かだとしても。
俺はこの時自分の願望を正確に理解することができたのだ。
俺はもう姉さんを手放す気はなかった。もちろんもう姉さんを無理矢理どうこうする気はなかったけど、姉さんも妹たちのために自分の心を抑圧しているだけではないかと俺は考えた。
それならば。俺の誘いを姉さんは拒否するかもしれない。でも姉さんが押しに弱いことが今回の出来事でよくわかった。あの調子で姉さんに迫れば、別に力ずくというわけでもなく姉さんは俺にその心と身体を俺に開いてくれるのではないのだろうか。
「おはよ」
姉さんの声がした。
「何でおまえらが」
とりあえず次女に会おうとしてほとんど眠れないまま校門の前でうろうろとしていた俺は、姉さんと妹友が連れ立って校門にやってくるのを見つけて困惑した。
「中学の校門前でうろうろしているなんて、あんた不審者そのものじゃん。通報しようかな」
姉さんが意地の悪い声で言った。でもその声には何か昨日本当に繋がりあった俺に対して半ば甘えながらふざけているような、そんなニュアンスが感じられて不覚にも俺は姉さんの言葉にときめいてしまったのだった。
多分それは妹友ちゃんにはわからなかっただろうけど、昨日抱き合った俺と姉さんの間にはそれだけで何かが通じ合った気がしたのだ。
「だから何で休みの日におまえらが登校してるんだよ」
予想違いにもほどがあると俺は姉さんに強がって見せた。
「あんた、昨日次女ちゃんに謝るって言ってたからさ。多分ここだろうと思ったんだけどまさか校門前で現場を押さえられるとはね」
それは妹友用に出したセリフだった。昨夜俺に次女のところに行けと言ったこと、そしてその前に姉さんが俺の腕の中で全裸にされて悶えたことなど妹友には言えることではなかったろから。
結局その後、俺たちは休日の校内に侵入し次女を探そうとしたけど、その前に姉さんに言われて俺は妹友に昨夜の自分の態度を謝ろうとした。
俺が妹友に昨夜の軽はずみな行動を謝罪しようとしたその瞬間に、姉さんが俺の言葉を遮った。
「あれ? 生徒会長と二人きりで歩いてるじゃん」
俺は妹友から目を離して次女の姿を探した。そして俺の目に次女が俺の知らない男の手を引っ張ってどこかに向っている姿が目に入った。
「う〜ん」
姉さんがどういうわけか俺の方を申し訳なさそうな目で見た。「次女ちゃんもついに決心しちゃったか」
「決心って何だよ」
俺は姉さんに聞いた。
「何だよじゃないでしょ。あんたが昨晩次女ちゃんを放置していい気になるからよ」
「・・・・・・反省してる」
俺にはその時はそれ以外に言いようがなかった。妹友も心配そうに俺の方を見つめていたし。
「釣った魚に餌をやらないどころの騒ぎじゃないわよ。あんたが自分に自信があるのはわかるけど、まだ釣れてもいない魚を見事に逃がしちゃってどうすんのよ」
姉さんは俺のことをもう何とも思っていないのだろうか。俺の愛撫に喘いで乱れた翌日だと言うのに。
「わかったからもう止めてくれよ、姉さん」
「どうすんのよ。あれ」
「どうするって言われてもなあ。あいつ誰?」
この時の俺と姉さんの二人きりだったらもう少し胸襟を開いた話ができたと思うけど、妹友が聞いているこの場ではこういう俺も姉さんも話し方しかできなかった。
「うちの学校の三年生。生徒会長だよ。あたしも知り合いじゃないけど。あんたみたいに格好いいというわけじゃないけど評判は悪くないよ」
「そうじゃなくて。あいつは次女ちゃんの何だって聞いてるんだけど。まさか・・・・・・」
「まだ付き合っていないと思うよ・・・・・・まだ」
「よし。こうなったら最後まで見届けよう」
姉さんが勢いよく言った。
「いいよ、もう」
俺は本心から言ったのだった。次女が誰だか知らない男の手を引いて歩いているのは気になったけど、別にそいつに告白するためとは限らない。その男のことはちらっと見ただけだったけど正直に言うとそいつが俺のライバルになるとは思えなかったのだ。
むしろ今では俺にとっては妹友さえ邪魔な存在だった。早く姉さんと二人きりになりたかった。そして姉さんの手を握り目を見つめ、さっき姉さんに阻止されて口にできなかった求愛の言葉を姉さんにぶつけたかった。
俺らしくもないけど姉さんが不安だというなら将来の結婚の約束だってしてもよかった。どうせ俺たちの両親なら俺と三姉妹の一人が結ばれることには大賛成だろうし。まあそれが次女だと彼らは考えてもいただろうけど。
でも姉さんは相変わらず俺のいいアドバイス役を演じることを止めてくれなかった。
「何言ってるのよ。こんな中途半端な状態じゃあんただって東北に帰りづらいでしょうが」
これが昨夜俺の腕の中で可愛く乱れた姉さんなのだろうか。
「だけど」
俺はこの辺で大分いらいらしてきていた。
「行くわよ」
でも姉さんはもう俺のことは相手にせず校門を入って校舎の入り口の方に向かって歩き出した。
俺は結局この日、姉さんの言いつけどおり次女に謝りそして告白した。
それは次女が生徒会長とかいう男に振られた日の帰り道、慰めてよと、悲しそうでいてそれでいて俺を誘うような笑顔で俺に話しかけた次女の希望どおり二人きりでカ
ラオケに行った時だった。
俺にとってはもはやそれは義務感からの行動だった。俺がその身体と心を酷く傷つけた姉さんから言われたことはしておこうと俺は思ったのだ。同時に姉さんに嫉妬さ
せたいという気持ちも俺の心の中にはあった。次女には悪いけれど、他の男に告白して振られたその日にこの俺が自分を慰めてくれているのだから、次女にとっても光
栄なはずだし、これくらいは許されるだろうと俺は思った。
姉さんはいい姉であろうとし過ぎているのだ。それに対して妹友はともかく次女は基本的には自分勝手な女だった。自分の可愛らしさや目立つところを知り尽くした上
で行動している。
「さっきは残念だったな」
俺は言った。
次女は歌いたいカラオケの曲をリモコンを操作して検索しながら悲しげに微笑んだ。ほとんどの男なら惑わされるうだろうこいつのそういう仕草さえ今は気に障った。
何で俺ともあろう者がこんな外見だけの女に騙されていたのか。見た目の可愛さや派手さでは劣るかもしれないけど、心情まで含めて考えれば本当に俺にふさわしい
のは姉さんじゃないか。
決して姉さん相手に俺が味わった性的な快楽に目を眩まされていた訳ではないと思う。そしてこの時の次女だって俺が手を出せばすぐに落ちそうだった。
告った相手に振られたその直後だというのにカラオケのボックスで俺に身体を密着させるようにしながら曲を選んでいるこのビッチ。
とにかくここは姉さんの言うことに従ってこいつに告白しよう。それで適当な間を見はからって、やっぱり俺が好きなのは姉さんなんだと姉さんに告白して迫れば、姉さ
んだって俺に心を開いてくれるかもしれない。
「次女さあ、俺。お前のこと好きかも知れない」
俺は次女に言った。
ところが。意外なことに次女は俺のことを拒絶したのだった。
「あたし・・・・・・最初は意地から先輩のことをあたしに振り向かせようとしてたんだけどさ」
次女は一応俺のことを傷つけたことを気にするように言った。「でも今ではマジで先輩のこと好きなんだよね」
「でもおまえ断られてたじゃん」
「そうだけど。長期戦で行くつもりだからさ。とりあえず今日は先輩にあたしを意識させればいいかなって。あたし、先輩の彼女には負ける気がしないし」
俺には不本意だったけど、この時俺は次女に気を遣われたのだった。
「ごめんね。兄友のこと傷つけちゃって」
俺は次女に振られることなんか今では大したことではないと思っていた。だからカラオケで次女が自分の好きな男は俺ではなくあの男だと言い切った時も、一緒に次女
の家まで並んで帰った時もこんなに動揺しプライドを傷つけられるとは思わなかったのだ。
さっきまで姉さんのことしか頭になかった俺だけど、ここまで次女に虚仮にされると俺の中で形容しがたい苛立ちが沸き起こっていたた。
・・・・・・ふざけやがって。俺は隣を歩いているこのビッチを恨んだ。どうせ俺への当てつけなんだろうけどほんの僅かな時間すら躊躇わず考えることさえせずに俺を振っ
た次女。
どうせそのうち俺に謝ってくるに決まっていると俺は思った。それは確信に近かったのだけど、だからと言って今この瞬間の俺の傷付いたプライドがそれで救われるわ
けでもない。
「姉さんのせいだ」
俺は思った。これは学校に行って次女に謝れとかいっそ告白しちゃえとか俺に勝手なことを言った姉さんのせいだ。
俺が真面目に姉さんに気持ちを伝えようとした時に、次女のことなんかぐだぐだ言い出して俺の気持ちを拒否した姉さんのせいだった。
その時俺は自分の気持を一気に晴らす方法が頭に浮かんだ。それはいびつに歪んだこの欲望を発散することだ。俺に対して謝る義務がある姉さんの身体で。
俺にはもう時間がなかった。あと数時間もすれば最終の東北新幹線で東北に向けて帰る時間になる。カラオケから帰った俺は姉さんに短いメールを出した。
from :兄友
sub :無題
本文『話があるから今すぐ俺の部屋に来て』
俺はあえて素っ気ないメールを姉さんに出した。今までの姉さんならこんな素っ気ないメールなんかでいきなり俺に呼び出されたりはしないだろう。
でも、昨日俺と身体を重ねた姉さんなら何も聞き返さずに俺の部屋に来てくれるはずだと俺は思った。そしてこのメールだけで姉さんが俺の部屋に来てくれたら俺は再
び姉さんを抱くつもりだった。お袋は近所の知り合い宅を挨拶に回っているのでその時間は十分にあった。
もちろん最後には姉さんに真面目に告白しようとは思ったのだけど、その前に姉さんには少し反省してもらうつもりだった。そしてそう考えると俺は次女に振られた屈辱
を忘れるほど、ぞくぞくするような快感の予感を覚えだ。
数分後に玄関のチャイムが鳴った。玄関ホールで待機していた俺はドアを開けた。
「・・・・・・いきなりどうしたのよ? 人を呼ぶならもっとていねいなメールを出しなさい」
姉さんが文句を言った。でもいつもどおりに振る舞おうとしている姉さんの口調を、その細かく震える手が裏切っていた。
俺は再びぞくぞくした。
「姉さん、俺の部屋に行こう」
俺は躊躇せずに姉さんの手を握って自分の部屋の方に向った。
「そこに座りなよ」
俺は姉さんの手を離してベッドに姉さんを座らせた。
「何の用なのよ。あんた帰り支度しなきゃいけないんじゃないの」
「まだ時間は十分あるさ。それよりこれから姉さんには責任を取ってもらおうと思ってさ」
「・・・・・・責任って?」
姉さんが戸惑ったように言った。相変わらず姉さんの華奢な白い手はぷるぷると震えている。
「姉さんの言うとおりにしたら次女に振られたよ。生徒会長ってやつの方が俺よりいいんだって」
「え? まさか」
「まさかじゃねえよ。どうしてくれんだよ」
俺は次女が俺を振ったと聞いて狼狽してすくんでいる姉さんを抱き寄せた。
「やめなさい」
姉さんが相変わらす俺の保護者めいた口調で言った。どういうわけか俺はその口調に萌えると同時に反発したのだった。
「やめてくださいだろ。それを言うなら」
俺は姉さんの胸を乱暴につかんで言った。
「お仕置きの時間だよ、姉さん」
俺は姉さんを抱き寄せてそのままベッドに横倒しにした。「俺を慰めろよ。全部姉さんの責任なんだからこれから姉さんは俺にお仕置きされるんだ」
「やめて! あんたとはもうこういうことしないって言ったでしょ」
姉さんの怯えた表情を眺めるのは昨晩に続いて二度目だったけど、俺は昨晩より余裕を持って年上の姉さんの表情を観察することができた。もちろん姉さんの怯えた
表情は俺の嗜虐心を満足させたのだけど、それだけではない興奮のような感情が姉さんの表情から読み取れた。怯えているらしい姉さんは今は昨日のように涙を流し
てはいない。
「次女が俺のこと好きじゃないんだから、姉さんも自分の気持に素直になったらいいんじゃないかな」
俺は姉さんの頬を手で挟んで俺の方を向かせた。
「俺のこと嫌いなの? それに可愛い弟の俺にならどんな酷いことをされても嫌いにならないって昨日言ったよな、おまえ?」
年下の俺におまえと呼ばれた姉さんの弱々しい視線が俺に向けられた。姉さんはその視線を逸らそうとしたけど俺はそれを許さなかった。
「俺のこと好きなのか嫌いなのかだけ言えよ」
「嫌いじゃないよ」
姉さんは聞き取れないほど小さい声で俺に言った。俺の勝利だった。俺にそう告白させられた姉さんの目は色っぽく潤んでいってそれはまるで誘っているかのようだっ
た
・・・・・・ひょっとして姉さんは俺が次女に振られたことを喜んでいるのではないか? そしてこの瞬間、姉さんは本心では俺に抱かれたがっているのではないか。
「おまえ、俺にお仕置きされたがってるんじゃねえの?」
俺は姉さんの履いていたキュロットパンツをずり下げて姉さんのその部分を手で確認した。やはりだ。
「・・・・・・いや」
「その気になってるじゃん、おまえも」
姉さんは目を伏せた。さっきから口では抵抗しているけど身体は少しも俺に反抗していない。
俺はこの瞬間自分の勝利を確信した。東北に帰るぎりぎりのタイミングで俺は姉さんを手に入れることができるのだ。身体だけでなくその心も。
「お仕置きなんだから自分で服を脱いで裸になれよ」
俺は姉さんに命令した。
これまで涙を流さなかった姉さんが始めて低い声で嗚咽をもらした。そうして泣きながらベッドに横たわっていた姉さんはしばらくしてゆっくりと身体を起こし、黙って俯い
たまま両手でブラウスの前ボタンを外し始めた。
今日はここまで
また投下します
お付き合いいただきありがとうございます
焦らしますねww
乙です
こ、こいつはなんて鬼畜なんだ
まさに、、、外道
クズばっかで辟易してきた。
早く女に救いを・・・
今のところまともなのは幼馴染だけか
ちょっと惚れっぽいのが難点だけど
二時間後、俺は姉さんを抱く前の昂ぶった気分が落ち込んでいるのを感じていた。
自分が再び姉さんに強要してしまった行為を後悔しながら、涙の跡をその瞳に宿したまま俺の横で裸身を横たえている姉さんを眺めた。
その二時間の間、俺が姉さんにした仕打ちは全てが済んだ今となっては思い出したくなかったけど、その証拠は姉さんの白い肌に鮮明に残されていたのだった。昨夜
の痕跡さえまだ癒えていない姉さんの肌には、たった今再び俺が力任せに残した赤い痕が点々と散りばめられていた。
その時の快感が凄まじかった分、事後の後悔や自己嫌悪も大きかった。
俺は拒否されるかもしれないと内心不安を覚えながら姉さんの背中を撫でた。さっきまでの乱暴な愛撫とは違って、姉さんをいたわるように優しく。
「・・・・・・姉さん」
もう姉さんのことをおまえなんて見下した呼び方をしようとは思わなかった。
・・・・・・何が責任だ。何がお仕置きだ。次女に振られたことなんて自業自得なのにそれを姉さんのせいにして、苛立つ気持ちを姉さんの肉体を責めることで忘れようと
するなんて。
姉さんはゆっくりとこちらを見上げた。背中を撫でられていることにも特段抵抗しようとはしなかった。でもそれは二時間にわたって自分を苛んだ年下の俺を恐れている
のかもしれない。さっきまで興奮に身を委ねていた俺は姉さんが俺に怯えた様子を見せたことにすら嗜虐的な快感を覚えたのだけど、今の俺は姉さんにそう思われてい
るということ自体が嫌だった。姉さんはもう、いつものように俺の保護者として振る舞ってはくれないのだろうか。
俺は姉さんとの関係を徹底的に壊してしまったのだろうか。
「心配しないで、兄友。あんたのことは嫌いにはならないから」
その時、姉さんがゆくっりと言った。意外なことにその視線は俺を恐れている様子はなく、かといって今までのような本当の姉貴のような慈愛に溢れている視線でもなかった。
「姉さん・・・・・・」
俺は絶句した。ここまで酷いことを俺に強要されても、なお姉さんは俺のことを大切な弟だと思っていてくれているのだろうか。
「どうしたの?」
姉さんは涙の残る目をそのままにして俺の方に向かって微笑むという複雑な表情を見せた。どういうわけか俺はその表情にぞっとした。
「もうあたしのことをおまえって呼ばないの?」
「いや。姉さんは何を言って」
「それともあたしのことは名前で呼び捨てにしたいのかな」
「・・・・・・本当に悪かったよ。俺昨日に続いて今日まで、その大切な姉さんを」
「わかってるよ」
俺の言葉は姉さんに遮られた。そして姉さんは俺に剥き出しの白い腕を廻して俺にキスした。
「・・・・・・姉さん」
「あたしね。昨日と今日あんたに抱かれて、本当は嬉しかった」
「だって、姉さん昨日も今日も俺とはもうこういうのしないって」
俺は混乱して言った。
「言ったよ。でもあんたはそれを聞いてもあたしを抱いてくれたでしょ? それであたしも心を決めたの」
「どういうこと?」
「もう自分の心を押さえつけるの止めた。次女にも妹友にも遠慮しない。あと、東北のあんたの彼女にも」
姉さんは俺の両手を握った。
「昨日あんたに言ったことは本心だったよ。あんただって年頃の男の子だし無防備に二人きりでいたあたしが悪いんだって」
「だからあたしは昨日のことは忘れようと思った。それで次女ちゃんとくっつけてあげようと。でもね」
姉さんは微笑んだ。
「でも今日は次女に振られた後だったけど、あんたはまたあたしを呼び出してあたしのことを求めてくれた。だからもうあたしは迷わない」
「どういうこと?」
突然の急展開に俺は付いていけなかった。
「あたし、あんたが好き。あんたが次女への想いを引きずっていてもいい。あたしはあんたが振り向いてくれるのを待つから」
「で、でもさ。俺にあんなことされて姉さん泣いてたじゃんか」
姉さんはそこでくすっと笑った。
「あんたって思ったよりSだったんだね。あたしがちょっと泣いたり許してとか言ったらすごく興奮してたじゃん」
「・・・・・・おい」
「あたしのこと、おまえって呼んだり、あたしにお仕置きしてやるとか自分で言って自分で興奮してたみたいだし」
「・・・・・・演技してたのか」
「あたしたちって体の相性もいいみたいだね」
俺は呆然として姉さんの妖艶な微笑みを見つめた。そんな俺に気がついて姉さんはそこで少し慌てたように言った。
「あ、でも誤解しないでね。あたし本当に処女だったし昨日は少しあんたのことが怖かったのは演技じゃないから」
俺にはもう何が何だかわからなかった。姉さんに告白するより先に姉さんを抱いてしまった俺だけど、そのことを姉さんが許してくれるなら俺は改めて姉さんに告白しよ
うかと思っていたのだった。俺が次女への気持ちを引きずる? 昨日の俺は姉さんのことだけを考えていたのに。
「あんたが誰を好きでもいいよ。それで誰かに振り向いてもらえなくてあんたが辛かったら、あたしでその気持ちを発散しなよ。いつでもあんたに抱かれてあげる」
「ばか言うな」
何を言ってるんだ、姉さんは。
「もちろん、あんたの好みに合わせてあげるから。もっと嫌がった方がいいならそうするし、もっとあたしを乱暴に扱ってもいいのよ」
姉さんは痣が薄っすらと残る自分の手首を俺に見せた。
「あんたにならこれくらいされても何とも思わないから」
俺は姉さんに許されたのだけど、姉さんは昨日の夜のまるで聖女のような限りない許容を示してくれたのではなかったのだ。
これは一種の取り引き、あるいはあえて言えば一種の脅迫だった。
姉さんは俺が誰を好きでも言いという。そして俺に対して、昨日から俺が限りない執着を示した自分の体をいつでも好きにしていいと言っているのだった。
男によってはこれは夢のような条件だと思う奴もいるかもしれない。
でも、微笑みながら俺に都合のいい話を持ちかけてくる姉さんを見ていると、俺にはそんな気楽な考えは浮かばず、これまで俺が悩んでいたことは全く勘違いだという
ことを思い知らされていたのだった。
俺は俺の優しい保護者を自分の欲望の生贄にして、好き勝手に虐め、幼い頃からの俺と姉さんの関係を壊してしまったと思っていた。そして、そう思っていたにも関ら
ず俺は俺によって壊された姉さんとの関係を気にしながらも、姉さんのぐったりとした弱々しく横たわった細く白い肢体に対する執着を捨てられなかったのだ。
でも、俺のしたことは姉さんの精神を少しも傷つけていなかった。むしろ姉さんの方に俺たちの関係の主導権を握られた今、俺は姉さんが怖くなった。
これなら一度振られた次女に執着している方がよほど気が楽だった。
俺が姉さんに心理的に追い詰められ、何と言っていいか混乱していた時に助け舟が入った。
お袋が帰って来たのだった。
姉さんは俺の首に抱きついていた手を解き、さっき俺に命令されて自分から脱ぎ捨てた下着を探し始めた。
「どこに脱ぎ捨てたんだろ・・・・・・あ、あった。あんたも早く服着ないとおばさんに見つかるよ」
「うん」
とりあえず休戦だった。というかもう時間切れだ。俺はこのままお袋と東北に帰るのだから。
「駅まで見送るよ」
着替え終わった姉さんが言った。「ちょっとおばさんと話してくる」
俺が呼び止める間もなく姉さんは俺の部屋を出てお袋の方に向って行ってしまった。
「あら来てたの? 次女ちゃんや妹友ちゃんもいるの?」
「あたしだけです。二人とも学園祭の準備とかあるから」
「そう。兄友は?」
「今、部屋で部屋で支度してます・・・・・・あの、おばさん。あたし駅までおばさんと兄友をお見送りしてもいいですか」
「あら、嬉しい。ちょっと早く出て食事していこうかと思ってたんだけど、一緒にどうかしら」
「いいんですか?」
「何遠慮してるのよ。いいに決まってるじゃない」
「じゃあ、あたし家に電話しておきます」
「そう。もうお父さんとお母さんにはお別れしたんだけど、電話するならよろしく言って置いてくれる?」
「はい」
俺はこの時情けないことに姉さんが怖かった。この姉妹の中から一人選ぶなら何でおとなしい妹友を選ばなかったのだろう。あるいは次女でもいい。あいつはビッチ
だし俺のことを振ったのだけど、振られた女に執着するみっともない俺でいた方が今よりもましだったのではないか。
姉さんは俺のことが好きなのだ。
さっきまでの俺ならそのことを喜んだろう。姉さんが俺の行動や言葉に一喜一憂する年上の可愛い女のままでいてくれたのなら。
でも姉さんはそんなしおらしい女ではなかったのだ。
俺が姉さんを強引に犯した時の姉さんの弱々しい態度はどこまでが本当でどこまでが演技だったのだろう。
今は東北に帰って姉さんと会わなくなることだけが一時の救いだった。
今日は以上です
また投下します
おやすみなさい
怖ろしいなビッチ姉妹。妹友も実はビッチなんじゃないのかな?
多分この物語で一番まともなのは主人公の兄。後は登場人物みんな少しずつどこかおかしい。
乙
まあ兄友は性格がどうしようもないというのは分かった
主人公も惚れっぽいところとか女を容認するところとかおかしいだろ
強姦するやつなんざこんなもんだろうよ
姉はビッチじゃなくて器が大きいんだろ
そしてどこまでも器が小さい兄友
from :姉さん
sub :無題
本文『今さっき数分前に駅でお別れしたばかりなのにメールしてごめん。あたし、うざいでしょ(笑)面倒だったら返信しなくていいからね』
『おばさんが見てる前であんたに抱きついちゃってほんとにごめん!自分でもあんなことするなんて思いもしなかったんだけど、またずっと兄友に会えなくなるんだなって考えてたら勝手に体が動いちゃった。あんたも驚いた顔して何も言葉にできない感じだったけど、おばさんも随分びっくりしてたよね。おばさんはあんたと次女ちゃんが好きあってるって前から思ってたみたいだから無理もないけど』
『本当に悪い。あんたを困らせるつもりなんてなかったの。おばさんに何か聞かれたらあんたは好きなのは次女だよって答えておきなさいね。そうすればおばさんはあた
しが一人勝手に兄友に片想いしてるんだなって考えてくれると思うから』
『今、駅中のドトールでメールしてるんだけど、あんたに抱かれた自分の体が自分じゃないみたいでちょっと怖いの。少し落ち着かないと家に帰ってあの子たちに顔を合わす勇気がないんで、もう少しここにいようと思います』
『あんたが次女のこと好きでもいいの。あんたに都合のいい女であたしは十分幸せだから、あんたはあんまり罪悪感を感じなくていいんだよ。あたしはいつまでも兄友の
いいお姉さんだからね』
『・・・・・・いいお姉さんだけど、今度会った時にあんたがまだあたしを欲しいなら。ね?』
『次にメールする時にはあんたにプレゼントするよ。楽しみに待っててね』
from ::次女
sub :無題
本文『兄友東北で元気にしてる〜?元気なわけないか。せっかくあんたが告ってくれたのに断ってしまってゴメン。うち兄友のこと嫌いじゃないんだよ。これはホント。だか
ら兄友のこと振っちゃって本気で悪いと思ってる。あたしも兄友のこと昔から好きでした。昔、兄友が引越しした日、本気で泣いちゃってお姉ちゃんや妹友をびっくりさせたこともあったくらいに』
『でも兄友には正直に言うけど、うち今は生徒会長のことが忘れられないの。もちろん彼にはっきりと振られたのは事実だから今すぐ彼とどうこうなるってことはないんだけど、この先会長がうちの方に振り向いてくれた時にうちが兄友と付き合ってたらまずいじゃない?それは会長にも悪いしうちの大切な幼馴染の兄友にも悪いことだから』
『だからうちは兄友の気持ちに答えられなかったの。ごめんね。でもあたしたちはいいお友だちではいられるよね?これからもメールするから相談に乗ってね(はあと)』
from ::姉さん
sub :無題
添付:××.jpg(3.36MB)
本文『またメールしちゃった(汗)前にも言ったけど面倒だったら返信しなくていいからね。最初に言っておこう(笑)』
『あんたの部屋に連れて行かれてあんたに無理矢理抱かれてからもう一週間経つんだね。って、ごめん。あたしは本心ではあんたに虐められたとか無理矢理変なことさ
れたとかって全然考えていないの。本当はあんたに求めてもらえて嬉しかったから。でも兄友ってサドっけがあるみたいだから、年上のあたしを好きなように虐めたんだ
って考えた方があんたも興奮するでしょ(笑)』
『前のメールで約束したプレゼントを添付するね。何かカメラのことも詳しくないし添付したらすごくメールが重くなっちゃったし、ひょっとしたら兄友は画像見られないかも
だけど、せっかく苦労して撮影したんで一応送付しときます。恥かしかったんだからね』
『自分の部屋に鍵をかけて裸になって撮影したんだけど、自分を撮るのって難しいんだね。あと、あんたに最初に抱かれた時のポーズを再現してみようと思ったんだけど
、あの時あんたあたしの両手を床に押さえつけてたでしょ? そのポーズを再現するとシャッターを押せないんだよね。だから単なる横になってるヌード写真になってしま
いました』
『ほんと言うと、こんなものいらねーよってあんたに思われないかすごく不安です。あんたには東北に好きにできる女の子がいるかもしれないし。あたしじゃなくて次女ちゃ
んの画像の方がいいのかもしれないしね。だからいらなかったらあたしのことは気にせずに削除しちゃって』
『じゃあ、またね。あと、あんたとのことはうちの家族には誰にも気がつかれていないから安心してね。じゃあ、またメールするね』
from :次女
sub :無題
本文『兄友元気にしてる? 返信ありがとね。うちは兄友を傷つけたと思っていたのだけど、メールでうちのことを心配してくれてありがと。うちの方こそいろいろゴメン』
『それでうちは今ピンチなの。もともと先輩に告ったってすぐに会長と付き合えるなんて思っていなかったんだけど、まあ先輩の彼女はしょせんはあの女ちゃん(笑)だか
ら、時間が経てば先輩もうちのことを気にしてくれるようになると思ってたのね』
『そしたらさ、想定外なんだけどうちが先輩に告って振られたっていう噂が流れててさ。今うちってヤバイ状況?みたいな』
『でもうちが先輩に告ったことを知ってるのってうちと先輩と兄友だけじゃん? 多分先輩が女ちゃんにうちに告くられたって話して、それでうちを恨んだ女ちゃんがみんな
に言い触らしたんだと思うんだ。女ちゃんってぼっちだし性格悪そうだからそれくらいしても不思議じゃないし』
『いろいろ辛いよ。兄友がそばにいて慰めてくれたらいいのに。でも兄友のことを振っておいてそんなことを言うのは兄友に残酷だよね。ゴメン』
『とにかくこんな酷いことまでされたんだからもううちは女ちゃんには手加減しないことにしたの。先輩には恨みはないけどね』
『最近、お姉ちゃんも妹友ちゃんも何かよそよそしくてさびしいよ。いつも兄友に頼って悪いけどよかったら返事してなぐさめてね』
from :妹友
sub :お久しぶりです
本文『兄友君お久しぶりです。兄友君と会ってからもう二月も経つんですね。兄友君は元気にしてますか?』
『いろいろ兄友君にはお話したいことがあります。何であの時兄友君はあたしを抱き寄せて、毎日あたしの夢を見るとか俺のこと嫌いかとか、もう中学生だし付き合って
も大丈夫とか言ってくれたのか、あたしは今でも不思議に思っています』
『ごめんなさい・・・・・・その時に面と向って何も言えなかったあたしが今になってメールでこんなことを言うのは卑怯ですよね。本当にごめんなさい』
『最近、何だかあたしたち姉妹の仲が今までとは違ってきたようでとても不安です。お姉ちゃんは最近自分の部屋にこもっているし、次女ちゃんは何か学校で悩み事を抱
えているみたいだけどあたしたちには以前のようには相談してくれません。今までみたいに夜、姉妹で集まってお喋りすることもなくなりました』
『兄友君には関係のないことなのに愚痴を言ってしまってごめんなさい。あと、あたしはあの夜のことは忘れることにするから、兄友君ももう気にしないでね。あたしは兄友君とぎくしゃくするのが一番嫌だから。じゃあ、元気でね』
from :次女
sub :無題
本文『兄友元気?うちはあいかわらずです。学校では完全にうちが悪者になってて、生徒会長と女ちゃんの真面目な純愛(笑)を邪魔しようとしたビッチ扱いされてるよ。
まあそういう噂してるのってうちの昔の遊び友だちだけどね。生徒会の友だちはこういう噂をうちに向って話したりしないし。やっぱ友だちは選ばないといけないね』
『兄友のメールにはいつも励まされてるよ。本当にありがと。うちはあの日、兄友に酷いことしちゃったと思うけどそれでも友だちでいてくれてありがとね☆』
『やっぱり兄友はうちの一生の親友だと思う。彼氏なら別れてしまえばそれっきりだけど、親友は一生の付き合いだと思うんだ。だから兄友はある意味あたしにとって彼
氏よりも大切な存在だと思う。←これ本気ね』
『うちが先輩と付き合っても兄友はうちにとって特別な人だからね。これはマジ。だから兄友がそっちの学校でどんな女の子と付き合ったととしてもこれだけは忘れないで
ね』
『じゃあ、またメールしてね。おやすみなさい♪』
from :次女
sub :無題
本文『メールありがと。兄友も東北で元気そうであたしも嬉しい。いい友だちがいっぱいいるんだね☆お互いに近ければ兄友の友だちとうちの生徒会の友だちで合コンと
かできるのにね。東北と関東じゃ無理か。残念(汗)』
『うちさ、昨日お姉ちゃんと妹友と夜パジャマパーティーしたんだよ。昨日はパパもママも留守だったから、お姉ちゃんもお酒とか飲んじゃって最初は久しぶりにお姉ちゃ
んたちといろいろ話ができてうれしかったんだけど、途中でお姉ちゃんと喧嘩しちゃってさ』
『あのさ。この前兄友が東北に帰るとき、お姉ちゃんが駅まで見送りに行ったってマジ?うちお姉ちゃんからそれを聞いてキレちゃってさ。だって自分だけ兄友の見送り
に行くなんてずるいじゃん?確かにあの時うちは兄友を振ったけど、うちだって兄友のいい友だちとして見送りに行きたかったんだよ』
『それでね、うちが兄友は一番仲がいい男の子で一生の親友だよって言ってあたしと兄友がこれまで毎日やりとりしていたメールをお姉ちゃんに見せたら・・・・・・。そした
らお姉ちゃん、うちが先輩のことまだ好きなんじゃないかって言うの。それは兄友にとって残酷なことなんだよって泣きながらキレちゃってマジで意味わかんないよ』
『お姉ちゃんには関係ないじゃん?でもひょっとしたらお姉ちゃんって兄友のこと好きだったのかなあ。まあ昔からお姉ちゃんって地味だったし兄友のこと好きだったのに
これまで何も言えなかったのかもね』
『うちはお姉ちゃんが兄友を好きでも別にどうでもいいんだけど、兄友ってお姉ちゃんみたいな地味なタイプの女の子駄目じゃない?そう考えたら何かお姉ちゃんのこと
が気の毒になっちゃって』
『もしお姉ちゃんからメールとか来たら優しく返事してあげてね。うちのことは気にしなくていいからね』
『話は変わるけど。最近、先輩が受験勉強で忙しいみたいであまり生徒会で会えなくて寂しい。役員の男の子が誘ってくれるから付き合ってあげてるんだけどやっぱり兄
友とかと比べると話もつまらないし格好も・・・・・・(笑)』
『じゃまたメールするね。東北って寒いんでしょ?風引かないでね(はあと)』
from :妹友
sub :無題
本文『突然メールしちゃってごめんね。兄友君お元気ですか.ちょっと愚痴を聞いて欲しくてメールしちゃいました』
『昨日、久しぶりに姉妹揃ってお話したの。パパとママが留守だったし久しぶりに夜更かししようかってお姉ちゃんが言い出して』
『それで最初は楽しくお話してたの。お姉ちゃんはママのお酒とか飲み出して次女ちゃんも久しぶりにあたしたちに笑いかけてくれて』
『でも次女ちゃんが先輩のことまだ諦めていないとか、それでも兄友君はあたしの一生の親友だとか話してたらお姉ちゃんが怒っちゃって』
『お姉ちゃんは怖い顔をして、次女ちゃんに先輩のことが好きならもう兄友君に気がある振りをして兄友君を惑わせちゃ駄目って言うの』
『次女ちゃんは友情なんだからいいじゃんって言ってた。そしたらお姉ちゃんが泣き出しちゃって。あたしお姉ちゃんがあたしたちの前で泣くの初めて見たよ』
『東北に帰る兄友君を駅のホームで見送った時、兄友君寂しそうだたってお姉ちゃんが言うの。それは次女ちゃんのせいだって』
『そしたら今度は次女ちゃんが逆に怒り出しちゃって。何で兄友君を見送りに行くのにお姉ちゃんだけ抜け駆けしたのよって』
『その後はもう無茶苦茶でした。次女ちゃんは怒って部屋を飛び出しちゃうし、お姉ちゃんは泣きながら客間で寝ちゃうし』
『今日はお姉ちゃんと次女ちゃんは一言も口を聞いていません。・・・・・・でも、これって全部あたしたち姉妹の問題だよね。兄友君のせいじゃないのにこんなメールしてごめんなさい』
『誰かに話したら少し気が楽になりました。忙しかったら返信はいいです。じゃあ、兄友君元気でね』
from :姉さん
sub :無題
添付:××.jpg(2.76MB)
本文『兄友。あんたの方からあたしにメールをくれるなんて初めてだね。すごく嬉しかった。あんたの言うとおりだよ。あたしはあんたの日陰の女なんだから日の当たると
ころにいる次女ちゃんとかに嫉妬して怒る権利なんてなかったことは自分でもわかってる』
『あんたに迷惑かけてごめん。でもあたし、あんたのことをオモチャみたいに扱っている次女のことが許せなかったんだ。ごめん。自分の立場もわきまえずに勝手なことしちゃって』
『あんたがあたしのしたことに怒っていることはあんたのメールで理解できました。でもこういう時でもあんたはあたしにお仕置きをするとかってメールに書くんだね』
『今なら本当にあんたにお仕置きされても仕方ないことしちゃったって思ってる。だから少しでもあんたの気が晴れるなら、あんたに呼び捨てにされて乱暴にされてもいい
からあんたに会いたい・・・・・・』
『ごめん、また調子に乗ったこと言っちゃたね。あんたの命令どおりに自分で撮影したヌード写真を添付します。兄友が命令したとおりのポーズで撮影したつもりなんだけ
ど。でもあんたがこの画像に満足できないのなら、今度会えたときにあたしを虐めて罰を与えて。あの夜何度もあたしを弄んだように』
『最近あたしもあんたの命令どおり自分のヌードを撮影することに抵抗がなくなってきたよ』
『こういう画像をネットの掲示板に貼ることを女神行為って言うんだね。兄友に聞いて初めて知ったよ』
『あんたがあたしのことを独り占めしたいと思ってくれてるなら嬉しい。でもあんたは『2ちゃんねるにアップしていろんな男におまえの体を見てもらえよ』ってメールに書い
ていたよね?それ本気なのかな』
『兄友が本気で言っているならあたしはあんたに命令されたとおりに女神になるよ。どういう風にすればいいのか教えて』
『今日のあたしは次女ちゃんと言い合ったことがショックだったのか、少し自暴自棄になっています。あんたのメールが冗談でなければあたしに命令してください』
『あたしはあんたの命令なら喜んであんた以外の人にあたしの裸を見せるから』
『しつこいようだけどあたしはあんたの正妻じゃなくていいんだからね。あんたが興奮して喜びを感じるなら、お姉ちゃんはあんたのどんな命令にも従ってあげる。あんたが興奮するなら兄友の命令どおりにネットの掲示板であたしの裸を晒しものにしてもいい。兄友が、あたしのご主人様が決めたことならお姉ちゃんはあたしのご主人様の命令に従いうからね』
『面倒でなかったらまたメールしてね、おやすみなさい、兄友』
『あなたの忠実な奴隷のお姉ちゃんより(はあと)』
本日は以上です
また投下します
こわー
うわー
うわぁ…こんな愛が重い中学生とかこえー
もうやだこのメンヘラ姉妹……
ちょっと病みすぎだろwwwwww
from :次女
sub :無題
本文『あけましておめでとう。今年もつーかこれからもずっとよろしくね。前にも言ったけど兄友はうちの彼氏じゃないけど、それでもうちにとっては一番大切な男の子なんだからね。だからこないだのメールみたいに男らしくない泣き言とか言っちゃだめ!』
『兄友があたしのことをまだ欲しいって言ってくれるのは嬉しいけど、うちらって何て言うかさ、そういうの越えた関係っていうの? そんな感じでこれからも行きたいんだから兄友があたしに俺の女になれなんて言っちゃ駄目っしょ』
『うちはあの時兄友の告白を断ったんだよ? うちはわざと男の子の告白を断って自分に執着させるとかそういう駆け引きのできる女じゃないの』
『だから兄友には悪いと思うけど、でもうちの一番の親友の席を兄友にあげたんだからいい子にしててね(はあと)』
『それに兄友はどうせ東北の女の子に手を出してるんだろうからそれで満足しなさい』
『まあ、そっちには兄友にとってはうちみたいな女の子はいないかもだし不満かもしれないけどね☆』
『こっちはせっかくの冬休みなのに相変わらずお姉ちゃんとも妹友ともあまり一緒に過ごせていないの。あたしは別に仲良くしてもいいんだけど、姉妹といっても嫉妬とかっていう感情があるのかなあ。別に男の子にもてるのなんてうちのせいじゃないのに』
『でもさ。よく考えればお姉ちゃんは受験勉強中なんだよね。お姉ちゃんが受験失敗するのも嫌だし、兄友もたまにはお姉ちゃんにメールして励ましてやってね。ちなみにお姉ちゃんは公立の頭のいい高校が第一志望で私立の××学園が滑り止めなんだって。××学園って先輩の第一志望らしいんだけど、先輩なら公立の方だって十分受かるだろうに不思議』
『じゃあまたね。兄友、あんまりあたしを待たさないで返信してね♪』
from :姉さん
sub :無題
添付:××.jpg(3.64MB)
本文『兄友どうしたの? 何で突然あんなに優しいメールをくれるの?』
『あんたはお姉ちゃんのご主人様なんだからあたしの受験なんて気にしなくていいのよ。それにお姉ちゃんは別に何が何でも第一志望に入らなくてもいいの。どこに入ってもあんたと一緒の高校には入れないんだから、高校なんてどこでもいいよ』
『それより新年になったら女神になれってこの前のメールであたしに言ってたけど、本当に受験終るまで女神行為はしなくていいの?』
『あんたがあたしのことを心配してくれるなんて変な感じだね。あたしはいつだってあんたのことを心配して余計なお世話をしてきた。できるだけあんたには気が付かれないように。でも今ではあんたがあたしのことを心配してくれるんだね』
『この話をするとあたしの大切なご主人様に怒られちゃうかもしれないけど。まあ兄友にお仕置きされるならあたしは全然OKだから言うけど、あたし去年のあの夜あんたにああいうことされて本当によかったと思っています。その瞬間は怖かったし痛かったけど、でも今にして思うと今まで生きてきて一番嬉しかった出来事でした。そのおかげでこんなに兄友に近づけたんだし、今のあたしたちの距離感は次女ちゃんにも妹友にも負けていないよね?』
『あたしはご主人様の二番目、いえ三番目とか四番目の女でもいいの。だからあたしのこと見捨てないでね。あたし、ご主人様に抱かれる前は年上振ってご主人様に偉そうなこと言ってごめんなさい。もうあたしは二度とご主人様に逆らわないから、これからもあたしのことを虐めてね。ご主人様の気晴らしや気まぐれでいいから」
『ご主人様はあたしの受験が終るまであたしに裸の写真を送ってこなくていいと言ってくれたけど、それじゃあたしが嫌なので今日撮った一枚を添付します。ちょっと見た目には裸で後ろ手に縛られて誰かに犯されようとしているみたいでしょ?』
『この時のあたしの中ではあたしはご主人様にお仕置きとして縛られて犯されようとしていたの。この画像を見てご主人様があたしのことを少しでも抱きたいと思ってくれたら嬉しい』
『ご主人様が命令してくれるならあたしはいつでもネットにこの画像をアップするからね』
『じゃあ今日はこれで。返信とか気にしないでください。あとあたしの受験なんかあんまり気にしてくれなくていいのよ』
『じゃあおやすみなさい、あたしのご主人様。ご主人様にとって明日もいい一日でありますように祈ってます』
from :次女
sub :Re:女さんの情報!
本文『ちょっとマジなの? うちそんなの初耳なんだけど。兄友のお父さんと女ちゃんのお父さんが職場の同僚って?』
『おじさんって製薬会社の研究所で働いてるんでしょ? 女ちゃんのお父さんもそうなん?」
『あんた、まさかおじさんと同じ会社の人の娘だからって女ちゃんの肩を持たないでしょうね? うちはまだ先輩のこと諦めていないんだからね』
『まあいいや。とりあえず情報くれてありがと。また何かわかったら教えてね』
『ああ、そうだ。受験勉強中のお姉ちゃんのこと、少しは気にしてやれってどういうことよ? あんたに言われなくてもテレビの音を小さくしたりとか気を使ってるよ。それにあんたがお姉ちゃんのことを気にするって珍しいよね? まさか兄友って本当はお姉ちゃんみたいな地味な子が好みだったの?』
『そうだとしたら、それ、気の迷いだから。たまたま兄友の中学校に気を惹かれる女の子がいないだけじゃない? だからお姉ちゃんみたいな子が気になるんだよ。あとうちのことを俺の次女とかってメールで言うのも止めてくれる? うちは一途な女だから兄友が何と言ってうちのこと口説いても先輩への気持ちを裏切ることはないんだよ』
『あんたさあ、マジで女つくりなよ。学校にいいのがいないならもう少し手を広げればいいじゃん。あんたもてるからって面倒くさがって手を抜いてるからうちとかお姉ちゃんのことが気になるんだよ』
『じゃあこれで今日は寝るね。返事は明日読むからね』
from :妹友
sub :お元気ですか
本文『兄友君お久しぶり。今日はお姉ちゃんの高校の合格発表日でした。そしてお姉ちゃんは第一志望と滑り止めの両方に合格!』
『一応報告しとこうと思って連絡しました。このメールには別にそれ以外には何の意味もありませんから安心してね』
『当然、お姉ちゃん第一志望の公立に行くと思ってたんですけど、昨日緊急家族会議が開催されました。お姉ちゃんが滑り止めの××学園に行きたいって言い出したからです』
『校風が気にいったとか部活とか課外活動が××学園の方が盛んだからとお姉ちゃんは言ってました。でもパパとママはどうせなら偏差値がより高く進学実績もいい公立に行って欲しかったみたいだけど、結局お姉ちゃんの好きにすることに決めたみたいです。まあ、どっちもそんなに変わらないレベルの学校だしね』
『兄友君は高校はやっぱり東北の学校に行くんですか? こっちの学校に戻ってきてくれればいいのに』
『とりとめのないメールですいません。じゃあおやすみなさい』
from ::次女
sub :無題
本文『女ちゃんが二月になったら東北に転校ってマジなんでしょうね? 適当な噂だったら兄友のこと許さないから』
from 次女
sub :無題
本文『わかったよ。要は女ちゃんのお父さんがおじさんの勤めている研究所に転勤になったということね』
『兄友もそんなにすねることないでしょ。一応念を押しただけじゃん』
『おじさんと女ちゃんのお父さんは仲のいい同僚同士ってことだね。それで女ちゃんとは兄友は同じ学校に転校するというわけね』
『情報ありがと、あたしも少し考えなきゃ』
『今日はこれで。またね』
from :お姉ちゃん
sub :無題
添付:××.jpg(3.64MB)
本文『いろいろ兄友には心配かけたけどおかげさまでやっと受験が終ったよ。受けたところは全部受かったんだけど、あたしは第二志望の××学園に行こうと思います。パパとママも好きなようにしろと言ってくれたし』
『正直、規律にうるさくて自由時間の少なそうな公立よりこっちの方があたしには合っていると思います。それに兄友、ご主人様の命令どおりあたしが女神になるとしたら規律の緩い私立の方がいいと思ったの』
『さああたしはどうすればいい? ご主人様があたしの体を独占したいならあたしはもう生涯ご主人様にしか自分の裸を見せないよ。たとえご主人様が誰と付き合っても誰と結婚したとしても』
『でも、ご主人様の前のメールにあったとおり、不特定多数の男があたしの裸を見ることに主人様が興奮するんなら、あたしはご主人様の欲望にどこまでも従います』
『高校に入学するまでに心を決めて新しい命令やお仕置きをメールで伝えてね』
『あと添付したのは合格記念に発表の夜に自撮りした画像です。こんな恥かしい足を大きく開いている写真を見てご主人様に愛想をつかされなければいいんだけど』
『じゃあまたメールするね。忙しかったら返事はいらないから』
『おやすみなさいませ。あたしの大切なご主人様♪』
from ::姉さん
sub :無題
本文『メールをくれてありがとう。お姉ちゃんはもちろんご主人様の命令には従います。高校の入学式の夜でいいのよね?』
『その夜にご主人様の命令どおりの画像をネット上にアップします』
『でもごめんなさい。中学も今度入学する高校も紺ブレだから、セーラー服は持っていないの。だからご主人様の命令どおりセーラー服のまま犯されているみたいな写真は撮れません。本当にごめんなさい』
『それ以外は全部ご主人様のメールで命令されたとおりにするね。最初はvip、それから女神板というところにスレッドを立てるんだよね。全部言われたとおりにするからね』
『あと、あたしなんかが。ご主人様の奴隷であるお姉ちゃんなんかがこんなことを言ってごめんね。もうご主人様は次女のことは忘れた方がいい。学校の同級生とか周りにいる女の子とか、あるいは妹友ちゃんもいいから次女以外の子を好きになって、お願い。これ以上次女に執着するとご主人様が傷付くと思うから』
『じゃあ女神になるときは事前にメールします。おやすみなさい、あたしのご主人様』
from :妹友
sub :本当にごめんなさい
本文『しつこくメールしてごめんなさい。兄友君には迷惑かもしれないけどあたしどうしても誰かに相談したくて』
『昨夜、珍しく次女ちゃんのテンションが高くて、それでパパもママもいなかったんで久しぶりに姉妹水入らずで過ごしました。こういうのって前にお姉ちゃんと次女ちゃんが喧嘩して以来だったから少しだけ嬉しかったけど、何でこんなに次女ちゃんがはしゃいでいるのか、あたしもお姉ちゃんも不思議でした』
『でもすぐにその理由はわかりました。先輩の彼女の女ちゃんがお引越しして東北に転校したそうです。ひょっとしたら兄友君と同じ学校かもしれないね』
『これは勝手に言っていいのかどうかわかりません。でも、あたしはお姉ちゃんと次女ちゃんの会話を聞いていて、あたしも自分の心に正直にならないとって思いました』
『兄友君、あたしも決心して言います。あの時次女ちゃんはあたしにこう言いました』
『で、どうなのよ? 兄友のこと好きなんでしょ? 協力してあげるよ。あたしはもう兄友なんていらないから。あんたに譲ってあげる』
『もし兄友君が次女ちゃんのことを好きだとしたら、こんな酷いことを伝えたあたしのことを兄友君は許してくれないでしょう』
『でもあたしはその瞬間、もう自分を誤魔化すのはやめようと思ったのです』
『兄友君好きです。幼い頃からずっとあなたのことだけを見つめてきました。兄友君はきっと次女ちゃんのことが好きだと思っていたから、あたしは自分の気持をずっと隠してきたのです』
『去年兄友君に抱き寄せられたこと、兄友君には深い意味はなかったと思うけどあたしにとっては狼狽して何も話せなくなるほどのできごとでした』
『あたしは今日は混乱しています。また自分の心を整理してからメールしますね』
『おやすみなさい』
from :姉さん
sub :無題
本文『ご主人様のメール読みました。お願いあたしのこと嫌いにならないで。あたしなんかが生意気に次女ちゃんとご主人様のことに口を出してごめんなさい。本当に反省しています』
『ご主人様に指図するつもりなんて本当になかったの。あたしはただご主人様が傷付くところを見たくなかっただけです。でも奴隷ごときがご主人様に生意気なことを言ったことは反省しています。今度会えたらご主人様の気の済むまであたしにお仕置きしてね』
from :姉さん
sub :無題
本文『だめ! お仕置きならあたしにして。どんな酷いことをされてもいいから、妹友ちゃんだけは勘弁して。あの子はまだ子どもなの。ご主人様に責められるには幼すぎるわ』
『ご主人様の言うとおりあの子はご主人様のことが好きだと思います。でもそれは単なる憧れで、ご主人様が前にあたしにしたようなことをされたら、あの子は死んじゃうよ』
『本当に何でもするから妹友だけは許してください。あたしのことが、ご主人様の忠実な奴隷のことが、少しでも気になってくれているなら妹友だけは許してあげて・・・・・・』
from :妹友
sub :Re:妹友ちゃんお久しぶり
本文『兄友君からあたしにメールしてくれるなんて夢みたいです。正直前にメールしたことを毎日すごく後悔していました。だから兄友君からメールが来たと気づいたとき、あたしは開くのが怖かった。いっそ読まずに削除しちゃおうかと思ったくらい』
『でも勇気を出してメールを開いてよかったです。もちろん来週は大丈夫です。兄友君があたしのために東北から帰ってきてくれるなんて今でも夢を見てるみたいです』
『兄友君が心配してくれていることはわかりました。兄友君の言うとおり、お姉ちゃんと次女ちゃんには兄友君が来ることは黙っています』
『明日隣の駅のスタバで午後二時に待っています。兄友君と恋人同士として会えるなんて今でも夢見ているみたい』
『本当に楽しみにしています、兄友君。ううん、もっとちっちゃいころはあたし兄友君のことお兄ちゃんって呼んでましたね。これからもあたしのいいお兄ちゃんでいてくださいね』
『あ、でもただのいいお兄ちゃんじゃあたしは嫌かも。彼氏兼お兄ちゃんじゃないと(汗)』
『お兄ちゃん、大好きだよ』
今日は以上です
無駄に長い駄文で本当にすいません
もう少しで最初の頃の時間軸に戻る予定なので勘弁してやってください
はっきり分かった
兄友は鬼畜、長女は変態、次女はドビッチ
そして妹友(三女)は毒牙にかかろうとしている・・・・
男はどこいった…
兄友のメールも見ないといまいちわからんよな…
ぶっちゃけ今までで一番テンション上がってる
ヒャッホウ!
兄友の意図が、野望欲望からきてるのか、自棄になってるだけなのかはハッキリしないけど、
長女にはより壊れて覚醒するように仕向けてるっぽいし、
次女には上辺だけキッチリ慰めつつも憎々しく思ってるし、
妹友にはどうするつもりかはわからないけどたらしこむようなメールを送ってるし、
とにもかくにもこいつらが悪の枢軸か……
from :姉さん
sub :無題
本文『メールありがとね。ご主人様の方からあたしにメールくれるなんて珍しいよね。最近メールが減ってごめんなさい。さすがにお姉ちゃんも高校入学してからいろいろ
忙しかったのよ』
『だからそんなに怒らないで、あたしのご主人様(はあと)。ご主人様も来年高校生になればわかるとおもうけど、入学直後はいろいろ忙しいんだよ』
『とりあえず報告しておくと、あたしは部活には入らなかったけど先輩に誘われて生徒会の役員になることにしました。別に次女ちゃんを意識したわけではないけど高校
の生徒会っていろいろ面白そうだしね』
『それでね、これは次女ちゃんにも話していないんだけど。次女ちゃんが片想いしている会長が高校でも生徒会に入ってきたのね。もちろん彼も新入生だからあたしと同
じで平の役員なんだけど。あたし中学の頃は会長と話したこともなかったんだけど、同じ一年生の役員同士になって普通に彼と話をするとさ、思ってたより普通の人だっ
たな。次女ちゃんの話を聞くと何だか面倒くさそうな人だなあって思ってたんだけどね。まあ、彼がオタクであるのは間違いないみたい。パソコン部にも入ってるし』
『でもあたしの日常なんてご主人様は興味ないんだろうね。それはよくわかってる。じゃあ、とりあえずまずご主人様にお礼を言いますね』
『妹友のこと、何もしないよってメールしてくれてありがとう。あの子はご主人様のこと好きみたいだからあたしが邪魔しちゃったのかもしれないけど、やっぱりあの年のま
だ何の知識もない妹友が、ご主人様が前にあたしにしたようなことをされるのは絶対無理だから。あの子は次女と違って年齢よりもっと奥手なの。それは憶えておいて
ね。あの子は小学生だと思ってもらえばいいと思う』
『正直に言うと、あたしや次女ちゃんに黙ってご主人様が東北から来て密かに妹友を誘ったらどうしようと思っていたんだけど、妹友には別に変った様子はないし安心し
ました。ご主人様が『妹友の幼い体を調教してみたいな』ってメールに書いていたときは本気で動揺したんだけど、きっとあれもあたしを言葉で責めるプレイだったのね』
『じゃあここからが本題です。ご主人様の命令どおり2ちゃんねるの掲示板にあたしは自分の写真をアップしました。あの世界の用語だとうpって言うんだって』
『・・・・・・女子大生を名乗ったんだけど相当無理があったかなあ? スレッドの反応はすごくよくてあたしへの賞賛の嵐だったんだけど、その中におまえ本当に大学生か
? とかって書き込みがあったんで素性がばれていないかちょっと不安』
『うpの途中で『コテつけて』と言われました。固定ハンドルって言うんだけど要は自分のニックネームだね。それであたしは即興で『ユリカ』というコテにしたんだけど、ちょ
っと本名に似すぎているかなあ。まあでも大学生の女神のユリカが高校の生徒会役員の由里子だとは誰も疑わないよね』
『ご主人様の命令にちゃんと従ったよ。あたしのこと誉めてくれるよね』
『じゃあおやすみなさい。あたしのご主人様』
from :姉さん
sub :Re:ふざけんな
本文『メール読んだ。何でそんなに怒ってるの? クソビッチってどういうこと? あたしが女神行為をしたのはご主人様に命令されたことに従っただけじゃない。何でご主人様が怒ってるのか意味わかんないよ』
『うpしたスレのURLを書き忘れたのは悪かったけど、vipなんだからどうせすぐに落ちちゃって見られないんだって。ご主人様はそんなことも知らなかったの?』
『それに貼った画像は今まで撮っていたやつで全部兄友にメールで送付してるじゃん』
『だからご機嫌なおしてね? あたしのご主人様』
from :次女
sub :Re:Re:Re:ふざんけな
本文『あたしを殺すってどういうこと? 何でそんなに怒ってるの? 何がそんなに気にいらないのよ。あたし、あんたにレイプされて処女を奪われた時だって、あと次の
日に無理矢理セカンドレイプされた時だってあんたのこと許したじゃない。それはあんたのことが好きだからだよ。裸の写真を撮れとかそれをネット上にうpしろとか、そう
いう無理な要求にも従ってきたでしょ』
『それに、いくら兄友でもこれだけは許せないけど、あたしが高校で浮気してるんじゃないかってどういうこと? あたしがいつ誰と浮気した? 言えるものなら言ってみな
さいよ』
『何であたしあんたなんかの言うなりになって暴力的に犯されたり自分の裸の写真を撮らされたりしてたんだろ。あんたがこんな余裕のない男とは思わなかったよ。イケメンでクールな男の子だと思ってたのに』
『いいよ、わかった。あたしがあんたに合わせてあげるのももうここまで。兄友おまえ、調子にのっていい気になってるんじゃねえよ』
『これまでご主人様(笑)とかお仕置き(笑)とか命令(笑)とか忠実な奴隷(笑)とか、あたしはあんたのキモイ恥かしい趣味にとことん話をあわせて付き合ってあげた。そ
れはあんたが可愛い弟だったから。でもこれ以上妹友を調教したいとか、あたしが生徒会で浮気してるから生徒会止めろとか、あんたが調子に乗って無茶を言うならもうあたしはあんたのいいお姉さん役をやめるからね』
『マジでふざけんな、おまえ。中学生だったあたしのバージンを力ずくで奪っておいてよくそんな偉そうなことが言えるな』
『何か反論したければこのメールに返信してごらんよ。あんたから貰ったメールは全部保存しているから。あんたのご両親にこれを転送したっていいんだよ』
『今日のあんたはすげえうざい。変態の倒錯者の分際でいい気になるな』
『じゃあね。あたしの大切なご主人様(笑)。ご主人様の忠実な奴隷(笑)より』
from 妹友
sub :お兄ちゃんどうしたの?
本文『メールくれて嬉しいけど、お兄ちゃん何かあったの? すごく不安そうな感情がお兄ちゃんのメールの文章から伝わってきました』
『もしかして、あの日あたしにしたことを後悔しているの?』
『あたしの彼氏になってくれたお兄ちゃんにだから正直に言うけど、あの時のお兄ちゃんはすごく怖かったしお兄ちゃんがあたしの幼馴染でなかったら大声を出して助け
を呼んでいたかもしれません』
『だってひどいよ。あの夜、誰もいないお兄ちゃんの家に呼ばれたあたしはすごく浮き浮きしていました。ようやくお兄ちゃんに会える、それもメールであたしのことを昔か
ら誰よりも好きだったって告白してくれたお兄ちゃんと』
『でも・・・・・・。あたしがまだ子どもなだけかもしれないけど、いきなりお兄ちゃんにあんなことされるなんて』
『今でも後ろ手に縛られた手首には縄の痕が残っているけど、それよりも血は止まったけど両足の間が今でも痛い』
『あの時は本気で怖くて悲鳴をあげたけど、お兄ちゃんに口を塞がれて何も喋ることさえできませんでした』
『しばらくしてあたしに覆いかぶさったお兄ちゃんは苦痛に喘いでいるあたしのことを、まるで人が変ったように優しく慰めてくれました。お兄ちゃんのこと怖くて嫌いになり
かけていたけど、お兄ちゃんに頭を撫でられているうちにやっぱりどんな酷いことをされてもあたしはお兄ちゃんが好きなんだと思ったんです』
『だからあの夜のことでもうお兄ちゃんを責めるつもりはないの。お兄ちゃんはあのことはお姉ちゃんたちに黙っていてくれって言うけど、あんなことお姉ちゃんに言える
わけないでしょ』
『愛しているとメールの中で5回も言ってくれたお兄ちゃんに免じてこの間の夜のことは許してあげる。心配しなくても誰にも言わないよ』
『だからお願い。今度会うときはもっと優しくしてね』
from :次女
sub :無題
本文『兄友元気〜? うちはへこみまくりだよ。結局先輩が卒業するまで何も先輩に仕掛けられなかったしさ。せっかく女ちゃんが自主的にリタイアしてくれたのにね』
『それよか最近あんた、うちに冷たくね? 前みたいにメールもくれないしさ。うちがメールしたときだけ短い気のない返信すだけってどうなのよ』
『兄友〜、うち寂しいよ。慰めてよ、うちらお互いの恋人よリ仲のいい親友同士じゃん』
『ところで兄友って高校どうすんの? やっぱ東北? こっちに戻ってきてうちと同じ高校行こうよ』
『じゃあ今日はこのへんで。うちも少し先輩をどうやって誘うか考えなきゃ。学校が違っちゃうといろいろ不利だよね〜』
from :姉さん
sub :無題
本文『兄友、あんたうざいよ。もうあたしにメールしてくるな。何があたしのことを心から愛してるだよ、ふざけんな。あんたは性欲に負けてあたしをレイプしたんでしょうが。普通に犯罪者だよ? しかも幼い妹友を調教したいとか調子に乗りやがって。自分のしていることちゃんと理解してる?』
『あたしが女神行為をすることなんてあたしの勝手でしょうが。今では別にあんたに命令されたからしてるんじゃないっつうの。正直2ちゃんねるでレスしてくれる人の方が
あんたを相手にしてるより数百倍もましだよ』
『何であたしはあんたなんかに惹かれてたんだろ? 悪いけど今はあんたのきもい性癖を相手にしてるより女神板で光臨している方が楽しいの。女神行為を紹介してく
れたことだけはあんたに感謝するけどね』
『生徒会? あたしが会長と仲良しになるのが気になるんだ。でも心配しないで。あたしは生徒会の男の子より今は女神なる方にはまって夢中になってるんだから』
『これからはあんたに写メを送ることもないんだから、女神板であたしの裸を指をくわえて見てね。もう二度とあんたなんかにあたしの体を触らせることもないしね(笑)』
『じゃあ、おやすみなさい、あたしのご主人様』
『ご主人様の忠実な奴隷(笑)だったお姉ちゃんより』
今日は以上です
また投下します
お付き合いいただいている奇特な方、感謝しています
えげつないな
どうなってるんだ?
三人ともクレイジーだぜ!
四人だろ
乙
兄友は幼馴染を奴隷にしたかったのか…
兄友の主観が見えないから結果はともかく経緯がさっぱりわからん……
乙!
兄友視点は最後のお楽しみだろjk
兄友みたいなイケメンは、モテてつまみ食いしてるうちにこうやって迷って、本命と拗れて、後悔の多い人生を送るのさ
送るのさ…(´;ω;`)ブワッ
あたかも自分がそうであるかのようなレスをなさいますね
今考えてもあたしと兄友との関係が長く続くなんてことはありえなかったのだろう。最初から歪んだ欲望から始った恋愛関係だったのだ。
いや。それは恋愛ですらなかったかもしれない。あたしは妹たちが昔から兄友のことを好きだったことを知っていた。次女は明け広げに自分の好意を示すやり方で、妹
友は恋心を自分の中に秘めるやり方で兄友のことを愛していたのだった。そして、明け広げな想いも秘めた想いも女の子のその種の感情に敏感な兄友にはずいぶん早い段階から悟られていたようだった。多分、妹たちが小学生の頃から。
そして実は妹たちと同じようにあたしも兄友のことが好きだった。年下の自信過剰なでやんちゃな幼馴染のことが。でも、次女や妹友と違ってあたしの兄友への想いは
完璧にあたしの仲でブロックされていて、その秘めた感情を兄友に気づかれることはなかったのだ。
兄友は昔から周囲の女の子たちに好意を寄せられることに慣れていたし、次女と妹友が自分のことを慕っていることは承知していただろうけど彼女たちに手を出すことはなかった。彼にとっては本当は恋愛感情より家族的な親密さをあたしたち姉妹に求めていたのだと思う。兄友は昔から自分の恋愛の相手には不足したことがなかったのだから。
彼は一人っ子な上に両親は留守がちで、そんな彼が本心から求めていたのは全てを委ねられる兄弟的な相手なのだろうとあたしは考えていた。だから兄友のことが
大好きだったあたしは、妹たちのように兄友を自分の彼氏にしようとか考えないようにしていて、むしろ、兄友が遠慮せずに何でも相談できるいいお姉ちゃんであろうとしていたのだ。
それなのにあの日のこと。
お互いにお酒が入って本音が出やすくなったということもあるだろう。あたしが意図したわけではないけど無防備に兄友のすぐ近くに寄り添っていたことも原因の一つ
かもしれない。
それでも、言い訳になるかもしれないけど、一番の原因は兄友の性癖によるものだったとあたしは今でも思っている。
兄友はおじさんとおばさんに大切に育てられた一人っ子で、望むものは常に与えられてきたのだった。そういう境遇の子は普通なら性格がどこか歪んで周囲から敬遠
されるものだけれど、兄友の場合はその外見や成績も含めた頭の良さや、普段は人に気を遣える性格のせいで普通に男女を問わず人気があったのだ。
あの夜、あたしは兄友にほとんど強姦されるように抱かれた。お酒を取りに行こうと立ち上がったあたしは突然兄友に抱き寄せられ唇を奪わた。そして兄友は許しを乞
うあたしを裸にして体中にキスマークや噛み痕を付け、最後にはあたしの処女を奪ったのだった。
この時、必死で兄友の無遠慮で乱暴な手から逃れようとしながら、あたしは兄友の気持ちの動きに気がついたのだ。彼は自分を好きな女の子には余り興味がなく、逆
に自分に関心が無い女の子を自分に振り向かせることへの執着心があるのだった。
特に、あたしのように自分に対して恋愛的な好意はなく保護者めいた感情を持っている相手を無理矢理自分に従わせるということに対して、彼は歪な快感を抱いていたらしい。
もちろんそれは兄友の勘違いで、あたしは兄友を単なる可愛い弟としてだけ見ていたわけではない。彼を恋愛対象としないように心がけて振る舞いながらも、結局あた
しは無意識のうちにその行動が兄友の気を惹く最善の行動だと考えていたのだろう。つまりあたしも妹たち同様兄友のことを愛していたのだった。
その夜、次女も妹友も去っていた二人きりの客間であたしを乱暴に弄んだ兄友は、自分のことを愛してるという言葉をあたしに言わせようとした。兄友の乱暴な行為に
怯え萎縮し混乱していたあたしがそれを拒否すると、兄友はあたしの頬を無表情に平手打ちをした。そして、年下の兄友の行為に戸惑い怯えているあたしの姿にますま
す興奮を深めているようだった。
『姉さん、俺のこと愛してるって言えよ。ちゃんと俺の目を見て言うんだ・・・・・・、これ以上俺に虐められたくなかったら』
そして、今考えても暗い気持になるのだけど兄友の保護者としてのあたしのプライドを、興奮して理性を失った兄友に踏みにじられたあたしは、ついに兄友の命令に従ったのだった。
「ごめん。姉さん、本当にごめん。俺どうかしてた。姉さんがあんまり可愛かったから」
「何か喋ってくれよ・・・・・・姉さん。俺のこと嫌いになった?」
行為の終った後、さっきまでの無慈悲なまでの嗜虐的で残酷な行為とは裏腹に、兄友は卑屈なほどにあたしの許しを得ようとした。
「ならないよ。兄友のこと嫌いにならない」
あたしはその時反射的に兄友を許容した。彼に酷いことをされたという自覚はあった。でもこれまで彼のいい姉として生きてきた過去の自分の感情が、その時感じてい
た自分の心身の痛みを駆逐したのだった。
「あんたはあたしの大切な弟だから・・・・・・。たとえあんたにどんな酷いことをされてもあたしはあんたを嫌いにならない」
あたしは混乱しながらも兄友の女になる道を選んだのはその時だった。
・・・・・・その時はまさかあいつがここまで調子に乗るとは思ってもいなかったけど。
殊勝で後悔し反省している様子の兄友に、あたしは精一杯優しくした。そして、翌日次女に謝り告白することさえ勧めたのだ。
この時のあたしは本当に矛盾していたのだ。兄友が本性では自分に振り向かない女、この場合はあたしだったけど、そういう女を求めていることを理解したのだから、
兄友に尻尾を振るように人目をはばからず甘えや好意を垂れ流しにするようにしていた次女には兄友は食指を動かさないだろうとあたしは思った。
あたしはここまで兄友に酷く蹂躙され傷つけられた今こそ、逆説的だけどあたしが彼に対して長年秘めていた想いを成就するチャンスだということも気が付いていた。
あたしは兄友を許したうえで、彼のことを次女に譲るような言葉を口にしたのだけど、その言葉によってますます兄友があたしの心と体への執着を深めるだろうと思っていたのだった。
そのあたしの判断は正しかったようだ。
「姉さん、ごめん」
兄友は次女の話はスルーして横向きに横たわっているあたしの方に身体を寄せてきた。
「酷いことして本当にごめん」
謝る兄友の言葉と裏腹に兄友の手が再びあたしの裸身に振れ、そしてあたしは兄友に抱き寄せられた。
「何かうまく言えないけど。俺、姉さんのこと大好きだ。こんなことされた後では信じてもらえないかもしれないけど・・・・・・」
「・・・・・・よしなさい。今ならまだなかったことにできるんだよ」
その時あたしはもう落ち着きを取り戻していたけど、彼の乱暴に怯えて狼狽する演技をした。
「俺、好きでもない女にこんなことしないよ。姉さんは俺のこと弟としてしか見れない?」
あたしは兄友に裸身を強く抱き寄せられた。あたしは半ばは本気で半ばは演技から兄友を拒絶しようともがいた。
「・・・・・・ばか! 次女ちゃんはどうなるのよ」
「わかんねえよ。でも今は姉さんと繋がっていたい」
「ばか・・・・・・。後悔しても知らないから」
あたしはそれだけ言うと自ら兄友に抱きつき口付けしたのだった。長いキスを。
兄友はあたしを押し倒してあたしの裸身を手でまさぐったけど、今度は前のように乱暴な愛撫ではなかった。あたしはその手に敗北した。今度は演技ではなくあたしは
喘ぎ声をあげた。
それを聞いた兄友はこれまで以上に興奮したようで、彼はこれまでで一番強くあたしを抱きしめた。
これがロマンティックでも何でもないあたしと兄友の馴れ初めだった。
兄友はその短い滞在期間中に次女に告白して振られ妹友とのことは曖昧にして、そして別れ際の駅でおばさんが見ている中であたしに抱きつかれたことに顔を赤くしながら東北に帰って行った。
結局それからあたしが兄友を振るまでの間、兄友とは実際に会うことはなかったのだ。あたしと兄友はメールでお互いの気持ちをやり取りした。兄友に抱かれる前は
あたしは滅多に兄友にメールしたことはなかったけど、実際に兄友と深い関係になりメールか電話以外には彼と意思を伝え合うことができなくなるとそうも言っていられ
なくなった。
最初は初めて恋人同士になった初心な男女のようなメールのやりとりだった。あたしはそういう異性との甘いやりとりをしたのは初めてだったからそれに夢中になって
しまった。兄友に会いたいとか愛してるとかメールで囁かれるたびにあたしは胸が高鳴り顔を赤らめた。
この頃になると昔ほど姉妹で集まってお喋りをすることもなくなっていたし受験勉強もあってあたしは夕食後は自分の部屋に閉じこもっていた。そして受験勉強の合間
に、たとえ自分のメールにまだ兄友からの返信がなくてもいそいそと彼への愛を綴ったメールを送るのがあたしの新しい習慣になったのだった。
そういう日々が続いているうちに、兄友は普通の恋人同士のやりとりに飽きてきたようだった。実際に会って抱き合えないということもその原因の一つかもしれない。兄
友はこの頃になるとあたしを言葉で責めたり辱めたりするようなメールを送りつけてくるようになった。
普通の恋人同士のようなメールのやり取りで十分満足していたあたしは、兄友の変化が怖かったけどそれを拒否して兄友に捨てられることが怖かった。別に三姉妹の
中であたしが選ばれたからといって、兄友の東北の学校の女の子たちにまで勝ったというわけではないのだ。
兄友に飽きられることが怖かったあたしは、兄友のメールに調子を合わせた。
まず、あたしはメールの中では兄友君のことをご主人様と呼ぶように命令された。そして、次に自分のことはご主人様の忠実な奴隷と呼ぶように強いられた。
兄友はあたしのことを相変わらず姉さんと呼んでいた。そう呼び続けることが彼にとっては快感を感じる呼び方だったようだ。時々彼を怒らせると、兄友はあたしのこと
をおまえと呼んだり由里子とあたしを呼び捨てることもあった。メール以外では今まであたしは兄友に由里子と呼び捨てにされたことはなかったのだけど。
おまえとか由里子とか呼び捨てにされることは兄友が一方的に考えていたようにあたしの中で被虐的な快感を呼び起こすことはなかった。でも あたしは兄友の愛情を失うことが怖かったのでこの程度の彼のプレイに従うことは仕方がないと考えていた。いずれにせよメールだけのことで実際に自分の体に苦痛や屈辱を味わうわけでもなかったし。
ところがある日、それは受験を数週間後に控えていた日のことだったけど、そんなことにはお構いなくご主人様からメールが来たのだった。
from ::兄友
sub :命令
本文『姉さん元気か? 前に命令したとおり毎日俺に虐められることをイメージしてオナニーしてるんだろうな。命令に背けば俺にはすぐにわかるんだからな』
『ところでさ、俺も姉さんの裸が見られなくてもう限界なんだ。姉さんを裏切りたくないけどこのままじゃこっちの学校で俺を誘ってくれてる女の子たちと浮気しちゃいそうで
自分でも怖いんだよね。もちろん俺が一番好きなのは姉さんなんだけど』
『だから俺に浮気されたくなかったらこの命令には絶対従えよ、姉さん。おまえは自分のヌード写真を撮影して俺に送れ。できればいろんなポーズでさ。必ず最初は俺に押し倒されて犯された時のポーズの写真を撮影しとけよ』
『俺に浮気されたくなかったら今夜中に裸になって写真撮って俺に送れ。わかったな』
from :兄友
sub :無題
本文『いい写真だったよ。姉さんって一見地味だけど実はすげえ可愛いよな。確かに体は細いし貧乳だけど可愛い顔してるし結構もてるんじゃねえの? 俺に抱かれる
までも結構男にもてただろ?』
『姉さんの身体って男に結構需要あるんじゃねえの? 俺一人が見てるだけじゃもったいないから、今度ネットに姉さんのヌードをアップしようよ』
『何か姉さんを抱きたくてむらむらしてきちゃったよ。愛してるよ姉さん』
from :兄友
sub :無題
本文『おまえ、ふざけんな。誰に向って口聞いてると思ってるんだよ。俺がネットにおまえの裸を晒せと命令したら、おまえは黙って言われたとおりにするんだよ』
『由里子はまだ自分の立場をわかってないのか? おまえは俺の奴隷だろ? 俺が由里子をレイプした時おまえは怒ったり反抗したりしないで俺を受け入れたよな?』
『それが全てなんだよ。おまえは俺に逆らえないんだ。それを理解しろよ由里子。今はおまえも受験中だから許してやるけど、俺がしろといったら黙っておまえののクソ汚い裸をネットに晒してみんなに見てもらうんだよ』
『次のメールで俺に謝れ? いいな』
from :兄友
sub :無題
本文『ようやく自分の立場がわかったようだな。由里子がそこまで謝るなら許してやる。あと俺に次女とのことを指図するな。次女なんかに俺が傷つけられるわけねえだ
ろ。いらん嫉妬するくらいなら俺のいい奴隷になれるようにもっと色っぽい服買うとかメークを研究するとかしろ』
『俺の奴隷の分際で生意気な口を聞いた由里子にはお仕置きが必要だよな。おまえに俺に逆らったお仕置きをすることにしたよ』
『妹友ちゃんって今十三歳だっけ? あいつ俺のこと慕ってるんだよね。由里子が俺に逆らったお仕置きとして、由里子が俺にされたのと同じことを妹友の体にすること
にした』
『ビッチの次女だと逆に喜んじゃいそうだし、俺も十三歳の妹友ちゃんの幼い体を調教してみたいしな。由里子と一緒で妹友ちゃんだっていつかは女にならないといけないんだしよ、ちょっと早いけど俺があいつを女にしてやるよ』
『妹友の泣き騒ぐ様子を想像するとわくわくするな。妹友も最初はちょっと痛いかもしれないけどすぐに慣れるって。あいつ俺のこと好きみたいだしな』
『今夜中に由里子のいやらしい大股開きの写メと妹友のスナップ写真を俺に送れ。妹友のは普通に服着てるやつで勘弁してやるから』
あたしは兄友の歪んだ性癖を含めて彼のことを受け入れてきたのだけど、そろそろそれも限界のようだった。ぎりぎり匿名でネット上に自分のヌード写真をアップすると
ころまでは彼に従ってもいいとあたしは考えていたのだけど、まだ中一の妹を犯したいとか平然と言うようになった兄友にはもう付いていけなかった。
残念だけどそろそろ潮時だった。兄友にあたしのご主人様(笑)にはそろそろお引取り頂くタイミングかもしれない。あたしはそう思ったけど、一応ネットに自分の写真を貼るくらいまでは兄友に付き合ってあげようと思った。自分の体が不特定多数の男の子たちにどう評価されるのか気になったし、正直に言うと知らない人たちにヌードを見られるということに何か不思議な興奮の様な感覚を覚えてもいたからだった。
兄友に奴隷とかおまえとか由里子とか呼び捨てにされても今のあたしは少しも興奮しなかった。あたしは義務的に兄友にご主人様とか呼びかけ、ご主人様の実な奴隷
とか兄友に返信していたけど、こういうプレイが始った頃のような快感は今では少しも感じなくなっていのだ。
妹友を汚されるのだけは阻止しよう。あたしは思った。でもネットで自分の裸を公開するくらいなら匿名なんだし試してみてもいいなとあたしは考えたのだった。
今日は以上です
また投下します
乙
二人とも歪んでやがるぜ…
兄友がおわっとる
乙
姉さんは普通だろ
あたしは兄友が好きだった。だから最初はレイプから始った仲だったけどそれでも彼が妹たちでもなく東北の女の子たちでもなくあたしを選んだことが嬉しかった。
兄友は自分に虐められているあたしも興奮して快感を感じていると考えていたようだったけど、それは兄友の都合のいい勘違いだった。これだけ女の子に持てる兄友
でも、自分の特殊な性癖に起因する快楽に夢中になると、冷静な判断はできずに自分の幻想に都合のいいようにあたしの行動を理解しようとしていたようだ。
メールでおまえと呼ばれたり名前を呼び捨てにされるくらいはまだよかった。むしろ自分の彼氏があたしのことを姉さんではない彼氏らしい呼び方をしてくれることは嬉
しかったのだ。
でも、性的な快感を初めて兄友に思い知らされた最初の頃はともかく、兄友のことをメールの中とはいえご主人様と呼ばされたり、自分のことをご主人様の忠実な奴隷
とかって呼ぶように強いられたことは内心では嫌でたまらなかった。それでも兄友の言いつけに従っていたのはそれに背いて兄友に見捨てられたくなかったからに過ぎ
なかった。
それももう終わりにしよう。言うに事欠いて幼い妹友を調教するとか言い出すほど兄友を調子の乗せてしまったのはあたしが彼に逆らわなかったからだろう。それに兄
友の性癖がこのままエスカレートしていくことも怖かった。このまま巻き込まれていると、今度兄友と直接会った時に自分の体にどんな酷いことをされても不思議ではない
。肉体的な苦痛を与えられたり、前に彼が冗談めかしてメールで言及していたように兄友の名前を体に刺青しろとか本気で命令されかねない。
だからまだ少し兄友には未練があったけどあたしはもう終わりにしようと決心したのだ。
思い切り冷たく怒っているメール、しかも兄友の性癖を笑いものにしたメールをあたしは彼に出して別れを告げた。
すぐに兄友はあたしに謝りあたしのことを愛しているという言葉を連ねたメールを返信してきた。
調子に乗って悪かったけどあれは姉さんに会えない寂しさを紛らわすためのプレイで、姉さんが嫌ならもう二度と奴隷とかそういうことは言わないし、妹友にも手を出さ
ない。だから俺と別れないでくれ。
あたしは一瞬あたしが大切にしてきた弟のメールにほだされた。彼が反省しているなら許してあげようかという考えが一瞬頭を過った。
いや。彼はこれと同じ後悔した態度をあたしを最初にレイプした直後もあたしに見せたのだ。そして、あたしがそれを許した途端再びその本性を現してあたしの体を弄んだではないか。ここで気弱になっては駄目だ。
あたしは更に酷い言葉を連ねたメールを返し、もう二度とあんたとは付き合わないと宣言したのだった。
その後、兄友からはメールは来なくなったけど、そのことにあたしは安心するどころか、かえって不安を覚えるようになった。
兄友はあたしに情けない態度で許しを求めてきたけど、もともと彼はプライドが高い男の子だった。いくら年上だとはいえあたしにここまで馬鹿にされたら、彼が自分のプライドを保つためにあたしに対して復讐めいた行動を考え出しても不思議ではない。
彼が復讐するとすれば。
あたしは考えた。
怒りに任せてあたしに直接酷いことをするということについては、実はあまり心配していなかった。もちろん兄友が東北にいるから安心していたというわけではない。新
幹線に乗ればすぐに帰って来れるのだし。でも兄友が直接あたしに何かしようとするのは実際問題不可能だろう。兄友があたしの登下校中に待ち伏せしてあたしを自分の留守宅に連れ込めれば、あたしの体力では兄友の力には敵わないから、兄友は自分の復讐心を思う存分あたしの体にぶつけることができるかもしれない。でもそもそもその気のない女の子を家に引き摺り込むなんて人目の多いこの住宅街では不可能だ。あたしが思い切り悲鳴を上げれば周りの家の住人たちが何事かと駆けつけてくるだろうし。
そうなると残る可能性は二つだった。あたしの心や体に直接的に復讐できなければ、兄友は間接的にあたしを傷つけようとするかもしれない。兄友に間接的にされて
あたしが絶望する行為。それは兄友が次女か妹友の心と体を弄び酷いことをするということだった。
次女は兄友はまだ仲のいい親友だと言い、彼を振った後も兄友とメールをし合っているようだった。あたしと違って次女は兄友のことを警戒していないのだから、彼女がこちらに密かに戻ってきた兄友に家に呼ばれれば何も考えずに兄友の家に行きかねない。
妹友は今でも密かに兄友のことを慕っている。前に兄友に肩を抱かれた時、妹友は赤くなって俯いて硬直していた。彼女もまた兄友に呼び出されれば疑問を抱くどこ
ろかどきどきしながら兄友の下へ走るだろう。
この二人の妹のどちらかを、またはどちらか一人でも兄友の特殊な性癖の犠牲にされてしまえば、あたしがどんなに後悔し絶望するか頭のいい兄友なら理解出来てい
ただろう。
あたしは兄友を振ってフリーになったのだけど、その後しばらくは二人の妹の様子を警戒しながら見守っていた。でも兄友からメールが来なくなって数ヶ月がたっても妹
たちには別に不審な様子や悩んでいる様子はないようだった。
考えすぎたかもしれないなとあたしは次第に思うようになった。兄友が選んだあたしへの復讐はせいぜい前にメールであたしに嫌がらせしていた時の言葉のように、東北で兄友のことを好きだという女の子と付き合うことくらいだったのかもしれない。
少し安心したあたしは、もともとは兄友に命令して嫌々始めたのだけど、この頃になると我ながら不思議なくらいに夢中になっていた趣味に没頭するようになった。
高校で部活には入らず生徒会に入ったあたしは会長と知り合いになったのだけど、当然会長はあたしのことは知らないようだった。彼は同じ中学だよねとあたしに言
われても、きょとんとしてそうだっけ? と答えていた。
会長もあたしも一年生の平役員だったからそれほど生徒会は忙しくなかった。その持て余した時間をあたしは女神になることで過ごすようになっていたのだ。
最初はvipの女神スレだった。その時はあたしのご主人様(笑)に命令されたとおり、自分の顔だけ隠した全裸の画像を貼ったのだった。その時の外野のレスはあたし
を興奮させた。正直に言うと兄友に言葉責めされたりしている時よりも、その時のあたしはもっと大きな快感を感じたのだった。
そのレスはほとんどがあたしを賞賛するものだったのだ。
次に兄友に命令されたあたしは、大学一年生と詐称して女神板のスレに光臨した。この板では性器そのもののうpはローカルルールで禁止されていた(というかそもそ
も法律違反なのだけど)。でもあたしは当時兄友に嫌われたくなかったから兄友の命令に従って自撮りした大股開きの画像を顔以外無修正で、スレンダー女神スレにうpしたのだった。
もちろん、画像は5分で削除したし顔も隠したのだけど、やはりあたしとあたしの体に対する賞賛のレスはあたしをぞくぞくさせたのだった。
そこで何度か画像を貼っているうちにあたしに好意的なレスで、コテトリつけてという要望が何度も寄せられるようになった。あたしはその意味すらわからなかったから
そのことを正直にレスすると、懇切丁寧にやり方を教えてくれる人たちがいっぱいレスしてくれた。あたしはそのアドバイスに従った。
ユリカ#Yurikoneesan
そう名前欄に入力して更新すると、ユリカ◆/NX7uuwBWIYSという表示が名前欄に示された。由里子だからユリカ。これがあたしが女神板でユリカを名乗った最初のレ
スだった。
あたしの高校一年の生活は平穏に過ぎていった。友だちもできたし女さんに夢中になって次女ちゃんを振った生徒会長とも生徒会活動を通じて次第に親しくなった。そういえば女さんは兄友と同じ学校に転校したことを、あたしは兄友とあたしが破綻する直前の兄友のメールで聞いていた。でもそのことを生徒会長に伝えて今さら蒸し返そうとは思わなかった。
この頃の会長はそつなく生徒会の仕事をこなしており先輩たちからも次期生徒会長と目されるようになっていた。ただ会長の周辺には彼女らしい女の子はいなかったようだ。
正直に言えば会長からは兄友のあの危険な魅力の欠片も感じなかった。会長は生徒会活動をそつなく済ませると、パソコン部の活動に向って行くのだった。そして噂
ではかなり大人数のパソ部には女の子の部員は一人もいないらしかった。
もちろんあたしだって会長のことを馬鹿にできる立場ではなく、あたしにも彼氏どころか仲のいい男の子すらいなかった。あえていえば普段から世間話ができるのは会
長くらいという有様だった。
あたしは兄友を拒否する道を選んだのだけど、それでも兄友以上に魅力を感じる男の子をこの学校で見つけることはできなかったのだ。それにあたしはどちらかとい
うと地味な方なので、同じクラスの目立っている女の子たちのように誰かに言い寄られたり告白されたりすることもなかった。
そんな一年生の生活は平穏に過ぎ去って行き二年生への進級を控えたある休み、あたしは初めてモモというコテを名乗る女神と、女神板で知り合ったのだった。
その子は、モモ◆ihoZdFEQaoというコテトリを名乗っていて、大して過激でもない下着を着たままの自撮りの画像をアップしているようだった。といってもあたしはこの子の画像を見たことはなかったのだけど。
最初に彼女と知り合ったのは女神板の雑談スレだった。
この頃のあたしは女神板では有名なコテだった。際どい画像を貼って五分で削除する女神板名物の女神として。あたしが画像をうpする気力のない時やそういう気分になれない時に、あたしが雑談スレに出没するとすぐにこの板の住人たちが現われてあたしをちゃほやして相手をしてくれた。だから時々あたしは気分転換にこのスレに出没して雑談を交わすことがよくあったのだ。
そんなある日、あたしがこんばんわ〜誰かいませんか? とレスした時、名無しではなくコテトリをつけた女の子が返事をしてくれたのだ。
それがあたしとモモ◆ihoZdFEQaoとの最初の出会いだった。
短くてすいません。今日はここまでです
もう少しでもとの時間に戻りますのでしばらく過去の話を我慢してください。
無駄に長い変則SSにお付き合いいただきありがとうございます
なんとなく女を破滅させた理由が見えてきたな
乙
俺はまだ分からん
兄友と女が旧知だったのだけ分かる
あと会長と女が次女の陰謀にはまったのは分かるが、女がなぜ会長を見限ったのかがまだ不明
病みすぎ
あたしはこの時自分以外の女神と初めて直接スレで親しくなったのだった。これが雑談スレでなければいくら女神板でもここまでの馴れ合いは許されなかったろう。
最初は少しぎこちないやり取りだった。女神と住人とのレスの応酬には慣れていたあたしも女神同士の会話は初めてだったから。それでもモモは戸惑う様子もなくあた
しに話しかけてくれた。まるでクラス替えの後に隣に座った初対面の同級生のように。
モモと話しているとあたしの戸惑いもいつの間にか消えて、まるで学校の友だちとお喋りしているような感じで、スムースにレスをやり取りできるようになったのだ。
モモは高校を卒業したばかりで四月になると大学に入学するそうだ。年齢を詐称していないとすれば、彼女はあたしより大分年上だった。でも、十八禁のこの板ではあ
たしは大学生を名乗っていた。それももうすぐ二回生になるという設定だったから、設定上はあたしの方が年上になるのだった。
コテトリを付けてやり取りをしている以上、設定を破綻させるわけにはいかないかったのであたしはやむを得ずモモより年上の振りをしなければならなかった。
【女神様も住民も】女神板雑男女【大歓迎】
ユリカ◆/NX7uuwBWIYS『モモ、今度大学生になるんだ〜。あたしより一つ年下かな』
モモ◆ihoZdFEQao『そうですね。実はあたし、ユリカさんがリアルタイムで貧乳スレに光臨しているところを見たことがあるんで、ユリカさんの年齢は知ってたんですけど
ね』
ユリカ◆/NX7uuwBWIYS『おお〜。じゃああたしの恥かしい貧相な体を見られていたのかああああ!!!orz』
モモ◆ihoZdFEQao『ユリカさんの体綺麗だったよ〜』
ユリカ◆/NX7uuwBWIYS『あたしもモモのレス見っけたんだけどさ画像には間に合わなかったよ。即デリ市ね』
モモ◆ihoZdFEQao『あはははは。ユリカさんのほうが画像サクるの絶対早いって』
ユリカ◆/NX7uuwBWIYS『モモっていつも貧乳スレにいるの?』
モモ◆ihoZdFEQao『そこが多いかな。あと最近では緊縛スレとかでもうpしてるけど』
ユリカ◆/NX7uuwBWIYS『え、マジで??』
モモ◆ihoZdFEQao『うん。そうだけど何で? 別に他のスレとそんなに違わないよ、縛られてる振りとかちょっと面倒だけど』
ユリカ◆/NX7uuwBWIYS『そうかあ。じゃああたしも今度そこでうpしてみようかな』
モモ◆ihoZdFEQao『ユリカさんなら絶対行けますよ。あたしだって数十レスくらいは普通に付くし』
ユリカ◆/NX7uuwBWIYS『自慢かよwww モモなら可愛いからそうだろうけど』
モモ◆ihoZdFEQao『可愛いって。ユリカさんあたしのうp見たことないくせにwww』
ユリカ◆/NX7uuwBWIYS『そういやそうだったw でもモモって絶対可愛いと思うな』
モモ◆ihoZdFEQao『ええええw 何でわかるの?』
ユリカ◆/NX7uuwBWIYS『勘だけど。今度絶対モモの裸見てやる、そしてDLして永久保存してやる』
モモ◆ihoZdFEQao『見つけられたらねw あたし予告はしないし』
ユリカ◆/NX7uuwBWIYS『モモの投下パターンなんかもう分析済みだよw モモっていつもうpするの夜の十一時くらいじゃん』
モモ◆ihoZdFEQao『何で知ってるのよおおおおおお! でもユリカさんになら裸見られてもいいかw あたし下着脱がないしw』
ユリカ◆/NX7uuwBWIYS『半端なことをwww でもまあうpなんて人それぞれだしね』
あたしとモモの雑談スレでも文字どおりの雑談も普段は女神には寛容なこのスレの住民たちからも文句を言われても無理はなかったのかもしれなかった。それくらいあたしとモモはいつもひたすらこのスレで雑談するほど仲良しになったのだった。
名無し@18歳未満の入場禁止『チャットでやれ。お前らウザイよ』
名無し@18歳未満の入場禁止『雑談ばっかで全然うpしねえじゃねえか。ユリカもモモももう来なくていいよ』
名無し@18歳未満の入場禁止『おまえら百合なん? いっそ二人で絡んでるとこうpしろよ』
名無し@18歳未満の入場禁止『ミクソでやれ』
名無し@18歳未満の入場禁止『PINKで馴れ合ってんじゃねえよ。死ね』
名無し@18歳未満の入場禁止『女神が雑談してもいいっていうスレなんだからいいんじゃねえの?』
名無し@18歳未満の入場禁止『それにしても二人だけの世界を作るなks。住民のレス無視すんなや』
まあこの頃のモモとあたしはこの雑談スレで二人だけでチャットしているような感じになっていたから、これくらいは叩かれても仕方なかったろう。むしろこの程度で済んだ方が意外なくらいだった。
モモはどうだったかわからないけど、あたしはこの頃は兄友とも別れていたし妹たちとも疎遠になっていた頃だったので、スレの住民たちとのやりとりは結構心の安定
につながっていた。そしてモモのような女友だちが女神板にできたことも嬉しかった。
もしモモが年齢を詐称していないのならモモはリアルではあたしより大分年上のようだったけど、スレの上ではリアルの年齢差なんかあまり意味を持たない。あたしは
この頃モモのことを自分のリアルの二人の妹以上に年下の可愛い妹として見るようになっていた。
そしてモモの方もこの頃になると雑談板であたしのことを見つけると嬉しそうに話しかけてくるようになっていた。
あたしはだんだんとモモに興味を抱くようになっていった。レスの応酬だけがあたしとモモの交流の場所だったのだけど、モモの他人に対する洞察力や他人の悩みを見抜いて相談に乗れる能力が群を抜いていることにあたしは気づいた。
あたしはスレの中ではモモのお姉さん役だったのだけど雑談を重ねるうちにいつのまにかモモにリアルの悩みを相談してしまっているような時があった。そんな時、モ
モはあたしが話しやすいように適度に質問したり同意したりしてくれて、あたしはいつのまにか意図していた以上に自分の悩みを彼女に語ってしまうようにもなっていたの
だった。
こうなったら場所を移動して直接モモとやりとりすればよかったのだけど、あたしは自分からモモにそれを言い出すほどの勇気はなかった。もともと女神同士の雑談所
でのやりとりに過ぎないのだ。真面目な顔でチャットルームとかに誘うのも何か気恥ずかしかったのだ。
そういうわけで女神には寛大な雑談スレの住民たちのあたしとモモのスレの私物化に対する批判レスも次第に目立つくらいに増えてきたのだった。
それは三度目くらいに住人たちに馴れ合いを非難された直後だった。
ユリカ◆/NX7uuwBWIYS『モモ、何かごめん。もうこのくらいでモモに相談とかやめないとスレチになってるかもね』
モモ◆ihoZdFEQao『そうですねえ。これ以上叩かれるのもやだし、投下もしづらくなりますよね』
ユリカ◆/NX7uuwBWIYS『残念だけどモモとここで話すのもやめにするか』
モモ◆ihoZdFEQao『ええ〜? ユリカさんともうお話しできないの?』
不覚にもこの時あたしはすごくモモのレスに萌えを感じてしまったのだ。あたしには女の子にその種の関心を抱く趣味はなかったはずなのだけど。
ユリカ◆/NX7uuwBWIYS『でもここじゃまずいよね。みんながスレチって言うのも無理ないし』
名無し@18歳未満の入場禁止『あのさ。横で割り込んで悪いんだけど、これ以上はもう同性愛板かレズ・百合萌え板でやったらいいんじゃね? 別に二人の関係に
文句を言う気はないけど』
その名無しは言うにこと欠いてあたしとモモのことを同性愛者のように断定したのだった。でもモモはそのレスに特段の動揺をしていないようにレスした。
モモ◆ihoZdFEQao『ユリカさんどうする?』
ユリカ◆/NX7uuwBWIYS『どうするって?』
モモ◆ihoZdFEQao『ユリカさんさえよければ他の板にうつりましょうか? それともチャットかメールでもいいけど』
あたしはモモのそのレスに狼狽した。何でモモはこんなに普通にさらっとあたしとモモの関係を揶揄するような名無しのレスに対応できるのか。モモはひょっとしてレズ
であたしのことを好きなんだろうか。
ユリカ◆/NX7uuwBWIYS『他の板って?』
あたしはとりあえず時間稼ぎのレスをした。
モモ『だから、同性愛とか女同士の愛でも叩かれないところ? ですかね。あたしユリカのこと大好きだし』
ユリカ◆/NX7uuwBWIYS『愛してるとか同性愛板って、あんた何ふざけてんだよ』
モモ『ふざけてないよ。あたしユリカが大好きだから、ユリカのこと抱いて虐めて滅茶苦茶にしたいの♪ 駄目・・・・・・かな?』
あたしは狼狽した。何を言ってるのこの子。まさかこの子はあたしのことが好きなのだろうか。でも、その時あたしの胸の中に兄友に一方的に虐められて興奮を感じた
時の感覚が蘇ったのだった。
・・・・・・あたしはもしかして年下の子に虐められ征服されるのが好きなのだろうか。それがたとえ同性の女性からであっても。
年下で同性のこの子があたしのことを抱きたいとか虐めたいとか言い出したせいで、あたしは混乱した。いやこの子というかリアルではあたしより年上の可能性が高い
のだけど。
その時、本物のモモがレスした。ほっとした気持ちと少しだけ残念な気持ちがあたしの中で錯綜した。
モモ◆ihoZdFEQao『鳥付いてないぞ、なりすましやめろ。ユリカさん今のレスあたしじゃないからね』
危ないところだった。同性のあたしを抱きたいと言ったモモのレスにあたしは本気で萌えたのだけど、多分自分のレスを無視された名無しが成りすましてした仕業だっ
たのだろう。こんな程度のことに騙されるなんてあたしはどうかしている。でもそのレスがモモのものではなかったことにあたしは少しだけ残念に思っている自分を不思議
に思った。
いずれにしてもここではもうモモと会話はできない。
それにしてもモモにこんなに執着するなんてあたしはどうかしている。
成りすましが沸いてくる前のモモの言うとおりここ以外でモモと話せるようにしたい。でもすればいいのか。ここで一方的にあたしの捨てアドを晒したってそれを見た住民
たちがモモを名乗ってあたしにフェイクをかけてくるだろう。
あたしとモモがトリップが付いているこの場で同時に捨てアドを晒しあえばいいのだ。あたしはそう思いついたけど、それを提案する前にモモは事情があったのかこの
場から落ちたようでもはやレスしてくれることはなかった。
本当に偶然だったのだけど次の日の夜の十一時頃、貧乳スレであたしは初めてリアルタイムのモモの光臨に出会ったのだった。
その日あたしも久しぶりに自分の最近撮った画像を貼ろうと考えて貧乳スレを開いたのだけど、画像をロダにアップしたところでスレを更新するとモモのレスが新たに
目に入った。
モモ◆ihoZdFEQao『誰かいるかなぁ』
モモにとっては気の毒なことにしばらくレスがつかなかった。予告投下でない限りこういうこともある。女神板は女神が光臨していない普段は基本的には過疎板といって
もいい。あたしにもこういう経験はあった。意気込んで画像を貼ろうとしても誰もいないというのはテンションが下がるものだ。
モモも気の毒だな。スレでのやり取りだけで彼女がいい子だと断言するのが愚かなことだとはあたしにもわかっていたけれど、それでも最近のあたしはモモと雑談スレ
で世間話をするのが楽しみになっていたのだ。こういう友だちが学校にもいればいいのにと思えるほど。
じゃあ本来は禁じ手だけどモモのことを助けてやるか。あたしは住民に成りすましてモモにレスすることにした。
名無し@18歳未満の入場禁止『いるよ。早くうp!』
モモ◆ihoZdFEQao『人いた。じゃあ写真貼ります。十五分でデリっちゃうけど』
モモ可愛いな。あたしはふと何か暖かい感情が芽生えてくるのを感じた。彼女はその名無しのレスがあたしだとは全然気づいていないらしい。
あたしのレスの後、しばらくして本当の住民たちのレスが続いた。モモはあたしほど長く女神をしているわけではないようだったけど、少なくともモモのことを知っている
人は思ったより多かった。
あたしはもうレスすることなくモモの画像を待つことにした。既に十レス近い期待の言葉が続いていたので、もうあたしが成りすましてレスする必要はない。まあもともと
最初から不要だったのかもしれなかったけど。
モモ◆ihoZdFEQao『この間まで着ていた高校の制服です』
その日あたしは初めて、これまでレスの応酬でだけ親しくなっていたモモの肢体を実際に見ることができたのだった。
モモは高校の制服を少し乱していた。ブラウスの胸元が開かれていて少しだけ綺麗な白い肌を覗かせている。実際、モモの体はほとんど露出がないにも関らず綺麗だった。同性のあたしでも思わず目が釘付けになるくらいに。
モモ自身が言っていたとおりモモの画像は露出は控え目なものだった。モモは高校を卒業したばかりで大学入学を目前にしていると言っていた。でもモモの肢体は中学生かせいぜい高校生のようのもののようにあたしには見えた。
あたしは同性のモモの肢体にときめきを感じていることに戸惑いながらモモの次の画像のアップを待った。
次の画像は前のものより多少過激というくらいの画像だった。
でもあたしはその画像を目にした時。
その目を細い線だけで隠しているモモの顔を目にした時、あたしは別な意味で動揺した。
この子は。
このスレの女神のモモは。
目を隠しているけど多分間違いはない。あたしがネット上でだけ知り合って、自分では認めたくないけどあたしが百合的なときめきを少しだけ感じてしまったモモ。
本人の自己申告を信じればあたしより年上のはずの女の子。
でも目だけ隠されたいるモモの顔は、どう見ても中学時代の生徒会長の彼女で次女の恋愛を邪魔した女さんのように見えたのだった。
本日は以上です
お付き合いありがとうございます
ばれたか
乙
その画像に続いて数枚うpされたモモの画像をあたしは取り合えず保存した。うかうかしていると削除されてしまう。
モモは貧乳スレの住民たちと世間話を始めていた。もううpは終えたらしい。あたしはモモのこの一連の投下のきっかけを作ってあげたのだけど、今のあたしにはこのスレの雑談に加わる気は全く失せてしまっていた。
あたしはレスを追うのをやめ保存した画像を次々に自分の部屋のPCに表示した。
モモの画像は過激さはないけれども乱れたブラウスの間から覗く肌はモモの体全体の美しさを充分に表現しているようだった。あたしは生まれて初めて女性の体に目
が釘付けになったのだ。
モモ綺麗だな。複数の画像を並べて表示すると改めて彼女の肢体の美しさが伝わってきた。といっても別にアイドル的な可愛らしさがあるわけでもなく儚く守ってあげた
いような少女だというわけでもない。その細い華奢な体つきのモモからは何か意志の強い、そしてミステリアスな雰囲気だ伝わってくるようだった。
でもあたしはすぐに考えを切り替えて、モモの綺麗な体よりは目を隠された彼女の顔や表情を改めてじっくりと見たのだった。
やはり間違いない。これは女さんの顔だ。信じられないくらいの偶然だけど、あたしは会長の中学時代の彼女である女さんとネット上で知り合い、仲良くなっていたのだ
った。
女神同士のユリカとモモとして。
同性であるモモに対して抱いたときめきや心の動揺はひとまず置いてくとして、あたしはモモではない女さんに対しては特段、好き嫌いどちらの感情も抱いてはいなかった。
いくら自分の妹だとはいえ次女の恋は横恋慕そのものだったことは否定できない。だから生徒会長が女さんを選んで次女が振られたことに対して女さんに逆恨みするなんてことは考えたこともなかった。むしろ、今では冷めてしまっているけど当時のあたしの恋情が向けられていた兄友と次女の恋を影ながら応援していたことすらあったのだ。
でも女さんの恋を百パーセント応援していたかというと、正直に言うとあたしにはそんな義理はなかったし、何より次女から聞いた女さんの生徒会長への酷い仕打ち
には全く共感も納得もできなかった。
会長が入試で学校に顔を出せなかった間に、女さんは会長には一言も知らせずに黙って転校してしまったという話をあたしは次女から聞いていた。これは仲のいい恋
人同士の別れとしては最悪に近い。善意で考えれば女さんは会長との別れが避けられないものであった以上、それを話しても何の救いにもならないと考えたのかもしれ
なかった。
それでも最近高校の生徒会で先輩たちには信頼が厚いけれども中学時代と比べて精彩を欠いている会長のことを思い出すと、やはりその原因の一端は女さんにあるとしか思えなかったのだ。
だから彼女のしたことを考えると好感を抱く余地はなかったけど、別にあたしに直接関わる話ではなかったので特段の嫌悪も抱いてはいなかった。
その女さんがモモとして女神板でコテまで付けて女神行為をしていることを知ったその日、あたしはそのことをどう評価していいかわからずに混乱した。
まだ高校入学前なのに女神行為をする恥知らずな女と決め付けるわけにも行かなかった。なにせ、あたし本人だって女神をしているのだから。
次にあたしが心配したのはモモに、つまり女さんにあたしのリアルな素性に気が付かれないだろうかという心配だった。モモはあたしの画像をリアルタイムで見たことがあると言っていた。
モモはひょっとしてあたしの画像を保存したりしたのだろうか。モモはあたしのことを綺麗だっと言っていた。モモが本気であたしの体を綺麗だと感じたのならあたしの画像を観賞用に保存したとしても不思議はないのではないか。モモはあたしの肢体を鑑賞しながらどんなことを考えていたのだろう。
男の子が女の子の画像を保存して何度も鑑賞するように、モモはあたしの裸身の画像を保存して何度もあたしを抱いて虐めている想像をしていたのかもしれない。モモにあたしの体をじっくりと眺められていろいろな妄想をされているかもしれないことを想像すると、あたしは体の奥がムズムズとして何か熱いものが胸の奥に浮かんだ。
・・・・・・いけない。こんなことを考えているんじゃなかった。今はモモが、いや女さんがユリカが同じ中学にいたことに、次女の姉であることに気がついていたのかということを考えていたのだった。
あたしはモモよりはずっと身バレに注意していた。顔も目に線を入れるだけではなく顔全体にモザイクをかけていたから、多分女さんには身バレしていないだろう。
自分の身の安全を考えればもうモモと接触をやめ、女神行為も自粛して生徒会活動に勤しむことが最善の道であることはわかっていたのだ。でも二つの理由であたしにはそうする気はなかった。
もともとは兄友に命令されて始めた女神行為だったけど、兄友と別れても女神であることを止める気にはなれなかった。スレの賛美者からの賞賛の声や他人に自分の裸身を晒すことへの快感。あたしはいつのまにか中毒者のように女神行為から離れられなくなってしまっていた。これが理由の一つ。
もう一つはモモに対するあたしの感情だった。あたしはモモより年下だと思っていたけど、モモが女さんだとするとこのスレでの設定どおりモモはあたしより年下の女の子だった。でも、これまでのあたしとモモとのスレでの会話は、どちらかというとモモの方が年上のようにあたしのことを宥めたり諌めたりする関係だった。
あたしはあの時のモモのレスを読んだ時のあたしの中に浮かんだ感情を反芻した。もっともそのレスはモモに成りすました住人の悪意あるレスだったのだけど、あの時あたし前に兄友があたしにしたような行為を兄友によってではなくモモに強要されることを想像し、そのことに戸惑いながらも興奮したのだった。
モモ『ふざけてないよ。あたしユリカが大好きだから、ユリカのこと抱いて虐めて滅茶苦茶にしたいの♪ 駄目・・・・・・かな?』
これが本物のモモのレスだったらあたしはどう答えていたのだろう。
あたしは世話好きなお姉さんキャラだと自他共に考えられていたのだけれど、意外とマゾ気質なのかもしれない。兄友に虐められていた頃は、兄友のことが好きなので嫌々彼の趣味に付き合っていたのだと思っていたのだけれど、実はあたしには他者から虐められる願望があるのではないか。
あたしはかつて兄友にされたことを思い出し、そしてあたしを虐めた相手を兄友からモモに変えてみた。そう想像しただけで胸の動機が高鳴ってあたしは狼狽した。
あたしはモモのことが好きなのだろうか。それも兄友に変るあたしのご主人様として。
その考えの当否はともかくあたしがモモに惹かれていることだけは確かだった。これがあたしが女神板に出入りするのを止められない二つ目の理由だった。
結局あたしは女神板でずるずるとモモと雑談をしたり時々スレに自分のヌードをうpすることを続けた。あたしはもうモモが女さんである可能性については考えないようにしていた。事実なんかどうでもいい。今あたしとモモが女神板の雑談スレで交流できているのだからそれ以上は考える必要はないのだ。
春休み中に時折あたしの画像のうpにモモとリアルタイムで遭遇することがあったみたいで、モモはその後雑談スレで出会うと、ユリカさんこの間の写真きれだったよとか話してくれた。そんな時あたしは、モモにあたしの体を誉められるだけで性的興奮が沸いてくるようになっていた。
どうせ一生リアルでは会えないのだからせめてここではモモと仲良くしたい。この時のあたしはそれだけを考えていたのだ。
そんな時、あたしは未だに兄友とメールのやり取りをしていたらしい次女からある知らせを聞いたのだった。
兄友のお父さんが勤めている企業の東北研究所が閉鎖され、こちらに古くからある研究所に移転統合されるとのこと。それに伴い兄友は来月からあたしと同じ高校に一年生として入学するというのだ。そのこと自体も不安だったけど、さらにあたしを驚かせる言葉が次女ちゃんの口から出た。
女さんのお父さんも東北研究所の閉鎖に伴いこちらの研究所に転勤になる。そして女さんもあたしと同じ××学園に入学する予定だというのだった。
今日は以上です
また投下します
おおう、乙……
こんなとこにも次女の魔手の影響が……
乙
四月になると次女の情報どおり兄友と女さんはあたしたちの高校に入学してきた。あたしはその話をやはり次女から聞いたのだった。
「お姉ちゃん、いいなあ。兄友と同じ学校に通えて」
次女の学力では残念ながらうちの学校に合格するのは無理だったのだ。一応受験したことはしたのだけど、正直に言って結果は前もってわかっていたしそのことを認
めようとしなかったのは次女本人くらいだった。いくら生徒会の役員になって比較的偏差値の高い仲間たちにちやほやされていたとしても、それによってろくに勉強しない
次女の学力が上がるわけはなかったのだからそれは当然の結果だった。
でも次女は不合格という結果を突きつけられても、そうは考えていないようだった。
「あたしも惜しいとこまで行ったんだけどなあ。前の日に眠れなかったのがまずかったな」
「・・・・・・まあ、そういうこともあるかもね」
「落ちちゃったものは仕方ないけど、滑り止めが女子高なのが嫌だなあ」
心底嫌そうに彼女は言った。「入学式も女の子しかいなかったんだよ」
「あたりまえじゃん。女子高なんだから・・・・・・。まあいいじゃん。あんたの学校って勉強するより合コンする子の方が多いみたいだし、あんたならすぐに男の子の友だち
ができるよ」
あたしは次女の根拠のない自信に少し嫌気がさしていたので少し嫌がらせをしてみた。でも、次女はそれを嫌がらせとは受け取らなかったようだ。
「それは心配してないよ。いつだってうざいくらいに男の子が寄ってくるんだし」
次女は真面目に言った。「それでも兄友と同じ学校の方がよかったな」
「それはそうと、本当に女さんもうちの学校に入学したの」
あたしは次女の途方もなく高い自信を崩すことを諦めて聞いた。それにあたしにとって本当に聞きたいことはこっちの方だったし。
「うん。兄友が言ってたから間違いないよ」
「そう」
あたしは考え込んだ。モモがリアルであたしの手が届くところにやってくる。あたしがモモに惹かれているのならこれは大きなチャンスだった。
でも自分の心の中を覗くと必ずしもそうとは言い切れないのだ。スレでの交流は言うまでもなくリアルのものとは違う。女子大生同士のレスの応酬。互いに互いの体を
誉めあうような真面目に考えれば恥かしいことだって、女神板のあの雰囲気だから違和感がなかっただけだ。あたしがモモと付き合いたいと考えていたとしても、実際に
モモと会ったときあたしはモモに何と言えばいいのだろう。
モモにとっては見知らぬ二年の上級生にいきなり口説かれることになる。しかも同性の二年生にだ。どう考えても勇気のないあたしには現実的な話とは思えなかった
のだ。
それよりはモモはあたしのことを知らないのだから、モモが入学してきても女神板の中ではこれまでどおりモモと親しくしていられる方が無難な選択だ。
・・・・・・よく考えれば、雑談スレでだってモモはあたしのことを好きな素振りなんて一度も見せたことがない。スレでだって片想いなのにリアルでいきなりモモを口説くなん
て考えれれない。
あたしはそれについてはもう考えないことにした。スレでの付き合いはスレでだけにしておけばいい。リアルでどうこうしようなんて思わないほうが自分の精神安定上い
いのだ。
「ねえ」
あたしがモモのことを考えていると次女があたしに話しかけた。
「ねえお姉ちゃん。会長って今でも付き合っている子いないの?」
突然次女が話を変えた。
・・・・・・でも女さんの話題から会長の話になるのは無理はないのかもしれない。次女が会長に振られたのは会長には女さんがいたからだったのだから。
「多分ね。あいつには女っ気なんか全然なさそう。つうか中学時代より全然目立ってないよ、彼」
それは本当のことだった。
「何で会長って彼女作らないんだろ? 彼ならその気になれば彼女なんて好きなだけ作れると思うんだけど」
「え? あんた何言ってる? つうか誰の話してるんだよ」
「誰って、会長に決まってるじゃん。会長ってイケメンじゃないけど中学時代はすごく持ててたし、頭もいいし」
「次女ちゃんが会長のことをそんな風に言うの初めてじゃない? 昔、会長のこと誉めてた時だって、会長程度ならあんたが口説けばすぐにあんたのものになるみたい
に言ってたじゃん」
「それはあたしならってこと。普通の女の子なら会長に片想いして告白もできない子がいっぱいいても不思議じゃないのに」
「・・・・・・あんたの昔のいい思い出を壊すようで申し訳ないけどさ、正直あいつって単なるキモオタ扱いされてるけどなあ、うちの生徒会じゃあ。それは先輩たちには能力
とかは評価されてるみたいだけどさ」
これには次女は直接は答えなかった。そしてしばらくして彼女は口を開いた。
「女さんが同じ学校に入学したって聞いたら会長はどう思うんだろ?」
「あたしにはわからないけど・・・・・・。あんたの方がよく知ってるんじゃないの? あの二人の付き合いについては」
これまでの気楽な表情が次女から少しづつ失われていくようだった。
いったい突然どうしたのだろう? 何となくあたしには見当がついた。会長の話をしているうちに女さんが会長と同じ学校に入学するという意味を、これまで考えていな
かった次女もようやく考え始めたのだろう。
ということはこの子が今好きな男は未だに会長のなろうか。あたしは会長が卒業して一年もたつ今、次女はもう会長には未練がないのだと思っていた。むしろ、東北に
いた兄友が戻ってくることにときめいているのではないかと考えていたのだ。
以外にしつこくと言ったら人聞きが悪いけど、浮気性の次女は意外と一途に会長のことを考えていたのだろうか。
あたしだってモモのことが気になっていたから、モモがリアルで会長の取られるのは嫌だった。例え自分がリアルでのモモの恋人になれなかったとしても、目の前で会
長とモモがよりを戻して甘く寄り添うのを見るのは耐えられないだろう。
だから女さんと会長の再会についてはあたしも最初に女さんの入学を聞かされたときから気にはなっていた。でもよく考えているうちに彼らの復縁はないという結論に
達していたので、それ以上は悩むことはなかったのだった。
モモはつまり女さんは転校する際に、これ以上はないというくらいに酷いやり方で会長を振った。会長には何も知らせず黙って姿を消すというやり方で。そんな仕打ちを
したモモが今さら会長に未練があるとは思えないし、会長だってあそこまで自分の想いをコケにされた以上、モモの入学を知ったからといって再び彼女に言い寄るとは
思えなかった。何よりキモオタ童貞の会長にはそんな勇気があるわけがない。
あたしはそう思って安心していた。それで次女がどういう理由で女さんと会長の復縁を気にしているのかはわからなかったけど、そのことを話して安心させてあげようと
したのだった。
・・・・・・それを聞いても次女は一向に安心した様子はなかった。
「女さんがわざと会長に転校を話さなければそうかもだけど、お互いにすれ違って別れたとしたらどうなるのかなあ」
「あんた何言ってるの? 女さんは転校することをいい機会だと思って会長を振ったんでしょ? 転校先も、いえ転校することさえも会長に教えないでさ」
「・・・・・・」
次女にしては珍しく少し青い顔をして俯いてしまった。いったい何なんだ。
「もしさ、もしだよ? もし二人が行き違いでお互いに連絡を取れずに別れてしまったのだとしたら」
「あんた。何か知ってるの?」
あたしは俯いている次女を問い詰めた。心拍数があがっていく。何かこの流れはすごくやばい気がする。何かわからないけどすごくすごくモモと会長が酷い目にあって
いる予感が胸中に溢れて行った。
「あたし・・・・・・」
突然泣き出した次女の姿を見てあたしは呆然としながらも、何となくこの子ならしそうなことを思いついていた。でもそれは最悪の想像だった。事実はこの想像よりは救
いのある話しに違いない。あたしは浮気性の次女のことをそれでも信じていたのだ。
「会長が合格発表を職員室に報告に来た日に」
泣きじゃくりながら話し始めた次女の告白はあたしの甘い想像を裏切った。
悪意に満ちた欺瞞で、モモと会長を誤解させ別れさせたのは次女だったのだ。
あたしが二年生になって最初の生徒会活動で先輩に知らされたのは、会長が上級生の役員全員の一致で次期生徒会長候補として推薦されることになったということ
だった。生徒会長の選出は全校生徒の選挙によって決まるので、理論上は二年生なら誰でも立候補することは可能だった。でも、これまで現役だった生徒会長をはじ
め生徒会役員の推薦を受けている現役の生徒会役員の候補者は事実上次の生徒会長に決定しているのと同じだった。
そしてあたしが引退しようとしている現生徒会長と副会長から言い渡されたのは、その会長とセットで副会長となるようにというお達しだった。
あたしみたいに惰性で投げやりに生徒会に所属している役員が副会長候補として選ばれたのは意外だったけどこれは好都合だった。これであたしは会長の側にいて会長の動向を探ることができる。
次女のしたことへの贖罪を果たそうという気持ちもあった。それは嘘ではない。だから女さんと会長が再会するのであればそれを見守ろうとあたしは一瞬考えたのだけど、女さんというかモモが会長と再会して誤解を解いて抱き合っている様子を想像するともうだめだった。
やはりあたしはモモを誰か盗られたくなかったのだ。それは矛盾した考えだった。このままスレの中でだけモモと仲良しならいいということなら、いつかはモモにだってリアルの彼氏ができるだろう。いやこれだけ可愛い子なら今現在東北に彼氏がいたって不思議ではないのだ。
モモはスレでは彼氏がいない処女だとレスしていたけどそんなものを真に受けるのは女神板に巣食う童貞どもだけだ。冷静に考えればそれはわかっていたことだったけど、でも、スレではあたしもモモのその説明を真に受けていた。あたしの脳裏ではモモは処女で彼氏のいない女子大生なのだ。
その幻想が崩れるかもしれない。あたしは次女のためではなく自分の心の安定のために会長の側にいて会長を監視しようと思った。だからあたしは副会長になることを了解したのだった。
数週間後の生徒会長選挙で会長は生徒会長に選出され、自動的にあたしも副会長となった。
あたしと会長はしばらくは書記や庶務など選挙以外で選ばれる役員を決めることで忙しかった。
その日、あたしは役員希望者である一年生の女の子の面接を控えて、生徒会室で彼女の志望動機が書かれた面接票を読んでいた。その子は幼馴染さんという子で、綺麗な字で真面目に書かれたその面接票にあたしは好感を持った。
この子なら面接するまでもなくOKだな。あたしは思った。
その時あたしの携帯が振るえてメールの着信を知らせた。あたしはメールの差出人を見て眉をひそめた。
from:兄友
to :姉さん
sub :久しぶりだね
今さら何だと言うのだろう、こいつは。
あたしは今では兄友のことなんて少しも恐れていなかったから、むしろあたしと同じ学校に入学したくらいであたしの機嫌をとろうとあたしに図々しくメールしてきた兄友にむっとしていたのだ。
あんなことまでしておいて恥知らずにもまだあたしに謝ってあたしとの仲を修復しようとしているのかあの馬鹿は。
入部希望者の面接までまだ少し時間があった。あたしは兄友のメールを先に読むことにして本文を開いた。
・・・・・・その内容はあたしに謝るとかあたしと仲直りしたいとか、そういう甘いメールではなかった。あたしはそのメールに記された兄友の脅迫に思いもしなかった恐怖を感じ狼狽した。
あたしは結局兄友のことを甘く見て軽んじすぎていたのかもしれなかった。
今日は以上です。最近投下量が減ってすいませんけどしばらくはこんな感じになると思います
それではまた投下します。おやすみなさい。
乙
なんかだんだん怖くなってきた。いろいろと
兄ともが元凶…!
from:兄友
to :姉さん
sub :久しぶりだね
『また姉さんと一緒の学校に通うことになってすげえ嬉しいよ。姉さんにはいろいろ酷いことをしちゃったと思うけど、今では本気で反省している。だからまた前みたいに
姉さんと仲良くなりたいと思って勇気を出してメールしてみたんだ。駄目かな?』
ふざんけんな。と言うのが兄友のメールの最初の部分を読んだときのあたしの感想だった。今さらどんな顔をしてこんな図々しいメールを送ってこれるのだろうか。あた
しは兄友の図太さにかえって感心したくらいだった。
『姉さんに酷い言葉で振られて俺もすごく傷付いた。マジでうつ病になりそうだったよ。でも自分の自業自得だともわかっていたからあまりしつこくしないで一人で耐えてたんだ』
嘘つけ。たとえあたしを失って寂しかったというのが本当だったとても、あいつには絶対東北に女がいてそのかわいそうな子の体で気を紛らわせていたに違いない。
『俺も落ち込んでたけど、姉さんのヌード写真で自分を慰めて何とか辛い時期を乗り切ったんだよ。姉さん、少なくともそんな俺を誉めてくれるよね』
・・・・・・キモイキモイキモイキモイキモイ。
あたしは人気のない生徒会室で思わず叫びだしそうになった。兄友は、あの頃自分の言いなりだったあたしに命令してあたしの自撮りの写真を送らせていた。あたしと別れた後もあいつはあたしに撮影させたあたしの写真で自分を慰めていたと言うのだ。
『あ、言っておくけど姉さんの写真っていっても姉さんが送ってくれたやつだけじゃないからね。姉さんって本当にバカだな。俺があれほどもう女神板に画像貼るのよせっ
ていってやったのに、あれからずっと続けてるんだもんな。しかも律儀に俺の命令どおり顔以外は無修正とかありえないでしょ。あと、規則正しく同じ時間にうpするのもど
うかと思うよ。すぐに画像を削除してるみたいだけど、俺さ、姉さんがスレに現われる時間の見当がついてたから姉さんの画像のほとんどを保存しちゃったよ』
『相変わらず可愛いよね姉さんは。姉さんがスレに貼る写真を見るたびに姉さんをこの手で抱いたことを思い出して懐かしかったよ。姉さんのあの時の反応、すげえ可
愛かったしさ』
うかつだった。あたしが女神行為を始めたのはもともと兄友に強制されて始めたことだった。その後は兄友とは関係なくその行為の愉悦に自ら浸ってしまったのだけれ
ど、そんなあたしの女神行為を兄友はあたしと別れた後も監視していたのだ。
どうしてこんな簡単なことを警戒しなかったのだろう。あたしは後悔した。
ひょっとして兄友はあたしの画像を公開すると言ってあたしを脅迫するつもりなのかもしれない。でも、あたしの画像は顔は完璧に隠してある。兄友が何をしようとリア
ルのあたしが傷付くことはないいのだ。あたしはそのことに気づいて冷静になり、兄友のメールの続きに目を通した。
『誤解するなよ? 別に俺は姉さんが俺と仲直りしてくれなきゃ姉さんの恥かしい裸の画像を実名付きでネット上でばら撒くなんて考えてもいないよ』
『俺は単純に姉さんにまた俺のいいお姉さんに戻ってほしいだけだよ。ちょっと寂しいけど、あれだけ姉さんに酷いことをしておいて、また俺の性奴隷になってくれだとか俺とよりを戻して欲しいとかそんなことは今さら言えた義理じゃないしね。俺、本当に反省してるんだよ』
『だから姉さん、せっかくこの学校で再会したんだから俺と仲直りしてよ。前みたいに一緒に酒飲んだりお互いにアドバイスしたりする仲になろうよ』
『じゃあね。すぐに返信してくれよな。愛してるよ姉さん』
あたしは兄友のメールの続きを読んで不快感を感じたけれども、同時に少し安心していた。兄友も顔を隠したあたしの画像を公開するという脅迫なんかであたしに自分の言うことを聞かせられないことはわかっているようだった。
それでもあたしと図々しく仲直りしたいという兄友のその自信の根拠は何なんだろう。ここは前と同じで少しきつく返事をしておくべきだろう。あたしは当時はともかく少なくとも今では兄友のことを少しも好きだと思っていない。今のあたしには恋愛感情を抱く男の子なんていないのだ。
・・・・・・そう。恋愛感情を抱く男の子はいない。でもモモはどうだろう? あたしの思考はここで少し脱線した。モモは今ではリアルな女さんとして同じ校内にいる。あたしは彼女に一切近づいていなかったけど、何かの偶然で彼女と親しくなり突然彼女から迫られ体を求められたらあたしはどうするのだろう。その時あたしは年上で同性のあたしの身体を求めるモモの手を拒否できるだろうか。
いけない。また妄想が一人歩きしてしまった。モモとのことはスレの中だけのことだ。リアルの女さんは二年生で生徒会副会長のあたしがユリカだってことは夢にも考えていない。そしてモモはスレの中でさえ別にあたしを恋人として欲したことなどなかった。それはあたしの一方的な妄想に過ぎないのだ。その関係を崩してはいけない。
あたしはとりあえずモモのことは忘れて兄友のメールに返信した。
from:姉さん
to :兄友
sub :Re:久しぶりだね
『あんた何様? 何ふざけてるんだよ。仲直りしたい? よりを戻したい? 性奴隷(笑)になってくれとかは言わない?』
『マジで死ね。クソ兄友。これ以上あたしをストーカーするつもりなら警察に相談するから。あたし、あんたから受け取ったきもいメールは全部保存してあるんだからね』
『あたしの画像を公開したいならしてみなよ? 顔だって隠してるんだしあたしがそれで破滅するなんてありえないんだから』
『これ以上あたしを脅迫するなら本気であんたを告発してあんたを破滅させるからね。もう二度とあたしに関るな。あんたの犯罪行為を許してあげただけでも泣いて感謝しなさいよ』
ところが兄友はあたしのメールに全く堪えていないようですぐに返信が来た。
しつこい。正直メールで書いたように出るところに出るつもりはなかった。両親や学校や警察に相談したら、結果として自分が性的に恥かしい思いをすることになるのはわかっていたのだし。
でもこれ以上兄友にしつこく付きまとわれたらそんなことは言っていられないかもしれない。あたしは兄友のメールを開いた。
from:兄友
to :姉さん
sub :Re:Re:久しぶりだね
『ひどいなあ姉さんは。姉さんの恥かしい写真をばらまくなんて考えていないって言ったでしょ。それに最初に俺に抱かれた後、姉さんは俺のこと嫌いにならないって言ってたじゃん。何でころころ気持ちを変えるのさ』
『まあいいや。俺は姉さんのこと好きだから姉さんの写真を公開しようなんて思わないよ。俺はただ姉さんと仲直りしたいだけなんだから。もちろんただの幼馴染としてね。姉さんがまた俺に犯されるんじゃないかって心配しているとしたらそれは誤解だよ。だからよく考えて俺の言うとおりにした方がいいよ』
『あ、あとさ。警察とか言われると俺も一応自衛しとかなきゃいけないんでもう少しだけ話させてね』
『姉さんって本当に考えなしで行動する人なんだね。俺、正直飽きれちゃったよ。まあそこが姉さんの可愛いところなんだけどさ』
『しかし意外だったなあ。姉さんがドMなことはあの夜からよくわかっていたつもりなんだけどさ、まさか姉さんが同性愛もいける口だったなんてね。俺、次女のことは正直ビッチだと思ってたし、俺があの夜犯したのは清純な年上の姉さんだったと思ってたんだけど、まさか姉さんの方が次女よりビッチな女だったなんてびっくりだぜ』
『姉さんはモモ◆ihoZdFEQao(笑)に抱かれたいの? 雑談スレで噂にまでなってたじゃないか。お前ら二人の仲が怪しいって。それで気になってモモっていうコテハンの女神を追ってみたらさ』
『正直驚いたよ。あの生徒会長の彼女がモモ◆ihoZdFEQaoだったなんてさ。ユリカ=由里子なのはよく知ってたけど、女=モモなんて嘘みたいだ』
『モモの画像もほとんど回収できたんだけどさ、彼女のあの制服どこのだかわかる? あれって俺の東北の中学校のブレザーなんだよね。しかもあの顔の隠し方じゃ知ってる人なら誰でもモモが女だって特定できちゃうよね』
『あ〜あ。何で女たちってこんなに情弱で無防備なんだろ』
『姉さん。これが最後のチャンスだよ。姉さんのことをどうこうしようなんて思わないけど、俺は女には何の義理もない。姉さんが俺と仲直りしてくれないなら、女の実名付きでモモの画像をネットに晒すよ。そうなったら女の人生はそこでお終いだよね』
『それともそれは酷すぎるから、それをネタにして女を脅迫して俺の性奴隷にしちゃおうか。次女が会長に振られたのだってあいつが原因なんだし責任を取らせてもいいかもしれないね』
『それにその方が女にとって幸せかもね。あいつも生徒会長みたいな腑抜けじゃなくて俺の女になれるんだしさ。最初は抵抗するかもしれないけど、すぐにあいつを俺に夢中にさせる自信くらいあるぜ』
『姉さんが愛する(笑)モモのことを放っておいてほしければ明日の放課後、俺の教室まで来い。堂々と幼馴染の俺をを迎えに来るんだよ』
『じゃあまた明日、姉さん。明日放課後に姉さんが俺を迎えに来なかったらモモじゃなくて女がどうなるかわかってるよな』
『そうそう。話は変わるけど今日姉さんが面接する幼馴染っていう女の子はいい子だから、生徒会役員に合格させてやってくれよ。それも頼んだよ』
『じゃあな、俺の可愛い姉さん』
今日は以上です
また投下します
乙
だんだん胸糞悪くなってくるな
乙
兄ともマジキチ
暗い感じが終始続くとは聞いていたがなんか違うよこれ
翌日の放課後、あたしは一年生の校舎に初めて足を踏み入れた。校舎内はこの間まで一年生だったあたしには見慣れていたのだけど、周り中にはまだ幼い表情の下級生たちが溢れていた。そのせいでもあって、あたしにはまるで懐かしいという感情は沸かずあたしは何か敵地に赴く兵士のように緊張していた。
自分たちの校舎に上級生が現われることが珍しいのだろう。あたしは一年生たちの視線を感じて更に感情が萎縮していくようだった。
階段を上って二階の教室の前であたしは立ち止まった。兄友に指示されたとおりにここまで来たけれど、いざ教室のドアを前にするとあたしらしくなく足がすくんでドアを
開けることができなかった。下級生の教室の前で立ちすくんでいるあたしに対して、更に下級生たちの好奇の視線が突き刺さるのをあたしは感じた。
モモを守るためなら兄友の言うことを聞くしかない。あたしは昨日そう決心したのだけど、いざ兄友と会う直前になるとあたしはこれまで考えないようにしていた恐怖心
に襲われたのだった。
あたしは兄友と別れる過程であいつの高いプライドをずたずたにしたはずだった。それくらいしなければ別れてもらえないと思ったからした行動だったけど、兄友があ
たしのことをどれだけ恨んだのかは想像に難くない。変態的な性癖をあたしに見せた兄友に対して優位に立っていたから、これまであたしはそのことはこれまで余り考えなかったのだ。
でも。立場が逆転した今、あたしは年下の兄友のことが怖かった。ただでさえ嗜虐的な兄友の嗜好にあたしへの恨みが加わった今、あたしはいったい兄友にどんなこ
とをされるのだろうか。
あたしが立ちすくんでいた時、内側から教室のドアが開いた。
「ああ姉さん、待たせちゃったかな。呼んでくれればいいのに」
兄友が教室から顔を覗かせてあたしに言った。
「あ、うん」
あたしは兄友の顔を直視できずに俯いた。
「わざわざ来てもらって悪かったね」
兄友がさわやかな声で言った。
「じゃあ悪いけど俺は今日は帰るから」
その時兄友の背後に隠れていて姿が見えなかった女の子たちの声が響いた。
「えええ。兄友一緒にカラオケ行かないのぉ?」
「何だ。兄友が来ないなら今日はやめにしようか」
それから自然に彼女たちの視線があたしに向けられた。
「ねえねえ兄友。この人誰?」
「もしかして彼女!?」
「二年生じゃん」
兄友はあたしから目を離して女の子たちに笑いかけた。
「彼女じゃないって。俺の幼馴染で実のお姉さんみたいな人。ね? 姉さん」
あたしは兄友が怖かったので相変わらず俯いて兄友には返事しなかった。それが女の子たちに無用な誤解を与えてしまったかもしれない。
「何か怪しい」
「ひょっとして年上の幼馴染と付き合ってるの?」
「兄友、彼女いないって言ってたくせに。嘘つき」
「彼女じゃねえよ・・・・・・行こう姉さん」
兄友はあたしの手を掴んで女の子たちを振り切るように歩き出した。
あたしはそれに抵抗せず、黙ったまま兄友に手を引かれて一年生の校舎から外に連れ出された。
そのまま兄友は無言であたしの手を引いて学校の外に出たのだった。今日も生徒会に顔を出さなければならなかったけど、それを兄友に言う勇気はなかった。あたし
と兄友の立場は少し前と完全に逆転し、あたしが兄友をご主人様と呼んでいた頃に戻ってしまっていたようだった。
兄友の顔にも今では同級生の女の子たちに見せていたようなさわやかな笑顔はなかった。彼は無言のままあたしの手を引いて駅前の方に足早に歩いて行ったのだった。そして、一年生の男の子に手を引かれて俯いて黙って付いて行く二年生の女子の姿に興味を引かれた下校途中の生徒たちの好奇の視線をまるで気にせず、駅前のスタバにあたしを連れて行ったのだった。
兄友の新しい転居先の家に連れ込まれたらどうしようと心配していたあたしは少しほっとした。少なくとも今すぐ兄友に体をどうこうされる危険はないみたいだった。
「姉さん、あまり俺のこと警戒するなよ。言っただろ? 前みたいに俺の姉さんに戻って欲しいだけだって」
向い合わせで席に着いた時、兄友が優しい口調であたしに言った。
「別に・・・・・・警戒なんかしてないし」
あたしは精一杯強がって見せた。でも震える小さな声があたしの精一杯の威勢を裏切っていたようだ。「それよりこれからあたしをどうするつもり?」
「そんな可愛く震えた声を出すなよ。気の強い姉さんらしくない」
兄友はあたしに向って微笑んだ。「別に何もしないよ。ぶっちゃけ、今好きな子がいるんでさ。姉さんなんかに興味ないんだよね」
「え?」
「あ、ごめん。傷付いちゃった? でもはっきり話したほうが姉さんも安心するだろうと思ってさ」
あたしは思わず声を上げてしまった。姉さんなんかと言われたのは今では別に気にならないけど、好きな子がいるってどういうことだろう。気の多い兄友のことだから気
になる女の子がいるなんて別に不思議ではないけど、わざわざ脅迫してまであたしを呼び出して何でそんなことをわざわざあたしに告げる必要があるのだろうか。
「勘違いしないでくれよ。」
兄友は微笑んだ。「今日は姉さんに謝って仲直りしようと思っただけだから」
「いい加減にして」
あたしは低い声で言った。「それなら何であんなに酷い脅迫メールをあたしに送ったのよ」
「だって姉さんが警察に言うとか言い出すからさ。俺だって自分の身は守りたいし・・・・・・それにぶっちゃけ女をどうこうするとか書かなかったら姉さん、今日来てくれなか
ったでしょ」
「当たり前でしょ? あんた自分があたしに何をしたのかわかってるの?」
「わかってるよ。それは謝ったじゃん」
「あんた、あれが謝れば許されるような程度のことだって本気で思ってる?」
「・・・・・・さっきまで借りてきた猫みたいに大人しかったのに急に強気になったね、姉さん」
兄友は端正な顔を少し歪めた。いけない。兄友はモモの生殺与奪の手段を握っていることをあたしは忘れていたのだった。
兄友はあたしが再び俯いて黙ってしまった姿を見て表情を戻した。
「そんなに怖がるなよ。俺だってこれ以上姉さんが嫌がることをする気はないよ」
あたしは黙っていた。
「たださ、怒らないで聞いて欲しいんだけど。俺、ぶっちゃけそんなに姉さんに酷いことした?
」
あたしが抗議しようと顔を上げたのを無視して兄友は強引に話を続けた。
「まあ聞いてよ。俺は確かに姉さんを虐めたかもしれないけど、あれはもともと姉さんだって承知のうえで始めたプレイだったんじゃないのか」
「あんたねえ・・・・・・」
あたしは平然とそう言う兄友に唖然とした。
「だって実際姉さんだって喜んでたじゃん。あと、最初に姉さんを抱いた後だって俺になら何されても俺のこと嫌いにならないって言ってくれたでしょ? もう都合よく忘れ
ちゃったの」
別に忘れたわけではなかった。そう言われれば兄友の言うことも嘘ではない。あたしはあの当時は彼のことが好きだったから、自らすすんで彼の嗜好にあわせた行動を取ったのだ。
なので冷静に考えれば兄友の言うことにも一理あった。
「最初はそうだったよ。でもあんたの酷い命令に耐えかねてあたしがもう許してって言った時、あんたはどうした?」
それでもあたしは勇気を振り絞って反論した。「奴隷の癖に反抗するなんて生意気だとか、言うことを聞かなかった罰にお仕置きだとか命令をエスカレートさせたんじゃ
ない」
「そのことなら悪いと思ってるよ。姉さんが嫌だと言うのもドMの姉さんのプレイだと思ったんだよ。まさか姉さんが本気で嫌がってるなんて思わなかったんだ」
「・・・・・・あんたって人は」
「俺だって姉さんが本気で俺の命令に従うのを嫌がってると知っていたらあんなメールは出さなかったよ。俺としては虐められるのが好きな姉さんを喜ばせてるつもりだ
ったんだ」
ふざけるな。あたしはそう思ったけど、その時あたしの脳裏にモモを装った成りすましのレスを見た時の奇妙な興奮が思い浮んだ。
あたしのことを抱いて虐めて滅茶苦茶にしたいというそのレスを、あたしは最初モモ自身のレスだと信じて狼狽しそして興奮したのだった。
あたしはやはり兄友の言うように被虐的な快感に溺れる体質なのだろうか。
「それにしてもまだ小さかった妹友を調教したいとか、そんな酷いことを言われてプレイだとか信じられると思うの?」
「あれは悪かったよ。ごめん。姉さんが興奮するかと思って思わず書いちゃったんだけど、本気じゃなかったんだ」
「・・・・・・」
「とにかくお互いに誤解や行き違いはあったみたいだけど水に流そうよ。俺も好きな子ができた以上、これ以上姉さんに付きまとわないよ」
そこで兄友は少し嫌らしい笑みを浮べた。「それに姉さんにも好きな女の子ができたみたいだしね」
あたしはモモへのあたしの同性愛的な興味を嫌味のように指摘した兄友の言葉を無理に無視した。
「あんたの好きな子って、まさか次女か妹友じゃないでしょうね」
「違うって。姉さんも知ってる子ではあるけど」
「誰なの」
「俺のが誰を好きなのか姉さんは気になるの」
あたしはそれには返事をしなかった。
「まあいいや。もったいぶるほどのことじゃないし。姉さんが俺と仲直りしてくれるなら俺、姉さんには何も隠さないよ」
あたしはため息をついた。本気で兄友にはもうあたしへの執着がないというなら、兄友と仲直りしてもいいのかもしれない。それに何といっても兄友はモモの女神行為
の証拠を押さえているのだ。別にあたしにはモモを守る義務なんかないのだし、モモだってあたしにそこまでは期待していないだろう。モモとはスレの中でだけで多少親しく世間話をするようになったにすぎないのだし。
それでもあたしはモモのことが気になっていた。彼女に破滅して欲しくはなかった。
「わかったよ。もうあんたとは恋人同士にもならないし、ああいう変態的な遊びにも付き合わないけど。それでもいいなら仲直りするよ」
兄友はにっこりと笑った。それは女の子に人気があるのもうなずけるようなさわやかな笑顔だった。
「ありがとう。姉さん」
「それであんたの好きな子って誰なの? あたしも知ってる子?」
「まあ、少なくとも今は知ってると思うよ。昨日生徒会役員の面接で会ったでしょ」
「もしかして幼馴染さんとかいう子?」
「うん。彼女、俺の友だちに惚れてるみたいだから今のとこ俺の片想いなんだけどね」
「そう」
あたしは昨日面接したその子のことはよく覚えていた。何より兄友の脅迫メールで生徒会役員に合格させろと迫られたのだし。実際は兄友なんかに命令されるまでも
なく普通に面接しても彼女は間違いなく合格していただろう。それだけ好印象の女の子だったのだ。
「何でかなあ。俺って姉さんの時も次女の時もそうだけど、自分に振り向いてくれない女の子ばっか気になるんだよね」
兄友はそう言った。
「幼馴染ってさ、この学校に入ってからできた俺の親友のことが好きみたいなんだよね、ずっと昔から」
兄友の嗜好はやはり以前と変わっていないようだった。
本日は以上です
もうすぐ最初の頃の時間に追いつきます
駄文長文にお付き合い感謝です
乙
兄ともの行動がわからんなぁ
乙乙
女と兄が幸せに再会するまで耐えてみせるぞ!
おつ兄幼馴染が楽しみ
次の週初めの月曜日、あたしは当校前に兄友と待ち合わせをしていた。兄友の両親は東北から戻って来るに際してうちの隣の家を処分して二駅ほど離れた場所に自
宅を新築して転居していたから、兄友との待ち合わせ場所は兄友の新しい家の最寄り駅だった。
兄友の新しい家の方があたしの家より学校に近かったから、その朝あたしは電車で二つ先の駅に向っていた。
別に単なる幼馴染同士に戻っただけだから一緒に登校する必要なんかないでしょ。あたしは兄友にそう言って兄友の誘いを断ったのだけど、姉さんの意見を聞きたい
ことがあるので是非と言われて結局一緒に登校することに同意したのだった。登校中なら兄友に変なことをされる心配もないだろうし、何よりモモの女神行為の件もあっ
たし。
それであたしはその朝は比較的冷静な気分で待ち合わせ場所に向うことができた。脅迫者への恐怖もなく、もちろん彼氏との待ち合わせのような高揚感もなく。
兄友が指定した電車はあたしがいつも乗る電車より二十分も遅く出る電車だった。
駅に着くとあたしはホームの後方に移動して電車が来るのを待つ人たちの列に並んだ。後ろから二両目の一番後方のドアから乗車。それが兄友が指定した場所だっ
た。いつもより二十分遅いだけで随分とホームには人が溢れていた。こんなに混んでいるんだ。あたしは少し驚いたけれど、電車が着くとあたしは列の前の人たちに続
いて電車に乗り込んだ。
車内の様子もいつもの電車とは異なり混雑していた。いつもだって席に座れるほど空いていたことはないけれど、吊り輪にさえ掴まれないほど混雑した電車で登校す
るのは入学以来初めてのことだった。
あたしは通勤中のサラリーマンや通学途中の高校生たちに混じって吊り輪にすら掴まれずに、隣の人に寄りかかって必死になって何とか電車の揺れをやり過ごしてい
た。
電車の揺れに耐えていると十分もせずに電車は次の駅に着いた。少しは人が降りるかなと一瞬考えたあたしの甘い期待を裏切って、開いたドアからは降りる人はほ
とんど無く逆に通勤通学客が流れ込んで来た。まあ、住宅街の駅なのだから当たり前だった。
あたしは人並みに揉まれてさらに電車の奥に押された。あたしは中年のサラリーマンに寄りかかるようにされて危うく転倒しかかった。周囲の通勤客の汗の匂いが鼻
をつく。
・・・・・・もうやだ。こういのが嫌いだからわざわざ早く登校しているのに何で兄友ごときに誘われてこんな思いをしなきゃいけないんだろう。あたしは混雑した電車に嫌気
がさしていたからこのまま兄友に会ったらモモへの脅迫のことを忘れて兄友に当り散らしていたかもしれない。
でもそうはならなかったのは、その駅で乗車してきた人込みの中に知り合いの姿を見つけたからだった。
その女の子は男の子と一緒だった。その男の子は混みあった電車の中で人混みに翻弄されそうになっている女の子を片手で支え、自分の方に引き寄せた。何か自
然なそのカップルの様子は微笑ましいものだった。電車が走り出すと女の子は男の子の方を見上げて何か話しかけてそっと微笑んだ。そして男の子の方は照れ隠しの
ようにむすっとした顔で自分を見上げる女の子から視線を逸らしたのだった。
その女の子は幼馴染さんだった。あたしが面接した時のしっかりした女の子という印象とはまるで違った様子だったけど、女の子というのはそういうものだ。そして兄友
の親友で幼馴染さんが昔から好きだというのがこの男の子なのだろう。
ということは幼馴染さんと彼はまだ恋人同士ではなく、彼は幼馴染さんの片想いの相手なのか。
もちろん彼の方も幼馴染さんが好きなのかもしれないけど。というよりさっき幼馴染さんを引き寄せた自然な様子を見ていると、少なくても彼の方も彼女のことを大切にしていることは間違いないようだった。
さっきの二人の様子を見ていて、兄友の幼馴染さんへの恋なんて全然見込みがないじゃないとあたしは思った。あたしはため息をついた。あいつは全く何をやっているのだろう。あれだけのイケメンの癖に自分に擦り寄ってくる女の子は適当にあしらうだけで、自分とは縁のない自分には全く振り向いてくれない女の子ばかりを追いかけて。
この時のあたしは幼馴染さんたちの親密な様子を見せ付けられていたせいか(というより自分の方から勝手に観察していたのだけど)、自分の置かれている立場を忘
れて兄友の行動に本当の姉のようにやきもきしたのだった。
走り出した電車の混みあった車内で幼馴染さんたちは身を寄せ合うように話し始めた。これだけ混んでいたらこの二人の小さな世界なんて誰も気にしそうにないような
ものだけど、実際はそうでもないことにあたしは気がついた。
車内には同じ学校の制服を着た生徒たちが結構乗っていて、その生徒たちの好奇に満ちた視線は幼馴染さんたちの寄り添う様子に向けられている様だった。
それに気づいてか気がつかないでかこの二人には周囲を気にする様子はなかった。
あたしは周囲の視線に悪びれず堂々としている二人に感心した。恋人同士でもないのにこれだけ周囲の視線を無視して振る舞えるなんて高校生離れしている。これ
はつまり二人は昔からこういう状況やこういう視線に慣れているのだろう。それは幼馴染という関係にある男女の特権だった。あたしたち姉妹だってある意味で兄友と同
じような状況だったことがかつてはあったのだから、その感覚はよくわかった。
あたしはどういうわけか二人のことを見続けた。混みあった人ごみの中で辛うじてその姿が見えている二人のことを。もちろん二人の会話は聞こえなかった。
初々しい二人の姿に、あたしはかつての兄友とあたしたち姉妹との、まだ素直にお互いに向き合えていた頃の残滓を見出していたせいかもしれない。
あたしたちだってきっとああいう時期はあったに違いない。そしてその関係が今でも続いていたのなら、あたしたちの様子は周囲の友人たちから軽い羨望が込められた揶揄を投げつけられていたかもしれない。からかわれたあたしは少しだけ顔を赤くして、そんなんじゃないよって反論していただろう。そして傍らで照れながらその様子を覗っている兄友は強がって何でもない振りをしているのだ。
それは既に肉体関係を結び奴隷とかご主人様とか女神とかそういう世界に入ってしまったあたしにとって、今では遠い過去の美しい残照に過ぎなかった。そういう不毛
な感傷があたしに幼馴染さんたちの関係に興味を抱かせたのかもしれなかった。
ただそういう感傷込みで二人のことを眺めていたとはいえあたしは二人の仲睦まじい姿に気を惹かれていただけであって、正直に言えば幼馴染さんと一緒にいる男の子の方は最初それほどあたしの興味を引かなかった。年下だからとかあたしが今は同性のモモに気を惹かれているからと言うわけではなかった。
倒れ掛かっている幼馴染さんを黙って支えた彼はいい感じだったけど、彼単体で見るとそれほど格好いい男の子には見えなかったのだ。
格好いい幼馴染である兄友を見慣れているせいかもしれないけど、あたしには彼は特段の取り得のない平凡な男子高校生にしか見えなかったのだ。
兄友が待っているはずの駅が近づいて来た時、電車が急停車した。あたしは何とか体勢を保持できたけど、あたしが眺めていた幼馴染さんは再び転倒しそうになった
。その時彼は再び機敏に腕を伸ばして幼馴染さんの手を掴んで彼女を助けた。彼はぱっと見には運動神経が良さそうではなかったけど連れている女の子の危機には
機敏に反応したのだ。
その自然で機敏な姿にあたしは彼への最初の印象を修正した。これだけさりげなくかつ機敏に女の子をフォローできるとしたら意外と彼は女の子に持てるかもしれない。
・・・・・・あたしが最初に兄君に興味を抱いたのはこの日のことだった。それは結果的に言えば兄友があたしを誘ったおかげとも言えただろう。
兄友は次の駅から電車に乗り込んできた。彼はさらに混雑した車内を強引に人混みをかき分けてあたしの隣まで近づいて来た。
「おはよう姉さん」
隣に立った兄友があたしに言った。周囲の視線なんか全く気にしていない様子だった。「ちゃんと約束どおりいてくれたんだ」
「約束は守るよ。それがあんたみたいなやつとの約束でも」
「・・・・・・まあ、それでもいいや。来てくれて嬉しいよ」
兄友はあたしににっこりと笑った。
・・・・・・こいつは。何でこんなに余裕のある態度を取れるのだろう。あたしの嫌がらせのような言葉もさらっとスルーされたし。兄友の余裕は何となくだけどモモのことであたしの弱みを握っているという理由からだけでもなさそうだった。
でもよく考えれば兄友は昔からこんな風だったことをあたしは思い出した。こういう一種図々しいくらいの性格が、兄友の外見や頭のよさや運動能力と相まって彼を人
気者にしていたのだった。
「で、こんなに混雑した電車の中で何で会う必要があるのよ。何かあたしに相談したいなら学校ですればいいでしょ。それとも、こんなところで話し合いでもするつもりなの?」
あたしは続けて兄友に嫌味を言った。仲直りしたのはいい。だけどあたしに相談したいことが本当にあるとしても、何もあたしが何より苦手な満員電車に呼び出す意味などないではないか。
兄友はそれには答えず車内を見回し始めた。まるで何かを探しているかのように。
あたしには兄友が誰を探しているのかすぐにわかった。彼は兄友が好きな女の子、幼馴染さんを探しているのだ。
「そっちじゃない。あそこ」
「え?」
「え? じゃないよ。そこだって」
兄友はあたしの指差した方を見て初々しいカップルを見つけたようだった。
「おお、いたいた幼馴染と兄だ・・・・・・っておい」
「何よ」
「・・・・・・何で俺が幼馴染たちを探してるって知ってんだよ」
「あんた、あたしのことよっぽど鈍いと思ってるのね。わかんないわけないでしょうが」
黙ってしまった兄友にあたしは再び話しかけた。少し意地悪い気持ちで。
「でもさ。さっきから見てるとあんたの片想いの相手って、あの男の子とラブラブじゃん。あれは諦めた方がいいんじゃない?」
「相談すらする前に結論出すなよ。何のために姉さんに今日来てもらったんだかわかんねえじゃんか」
兄友は不服そうに言った。その少し拗ねたような表情を眺めていると、あたしは兄友の関係が昔のままでいるような錯覚を覚えた。兄友に抱かれたり変態的なことをされたりする前の仲のいい姉と弟の関係。
「とにかく今朝は姉さんにあいつらの登校する様子を見せたかったんだ」
兄友は気を取り直したように言った。「相談は学校ですうるから」
「はいはい」
自分でも意外なことに、あたしは東北から帰ってきた兄友に再会してから初めて兄友に微笑んだのだった。
今日は以上です。
またお会いしましょう
妹友以外みんな移り気だよな
乙
>>525
普通そんなもんだ
現実は釣った魚に餌をやらないやつが多いからな
お互い餌をやりあうのが理想
乙乙
なんか妙に緊張してきてるのは俺だけ?
移り気というより惚れっぽいというか
それからあたしは不本意ながら兄友の登校に付き合うようになった。兄友はどういう自虐的な趣味なのか兄君と幼馴染さんが一緒に寄り添って登校する電車に合わ
せて登校することに決めていたようで、あたしも必然的に苦手な混雑する電車で登校することになってしまった。しかも兄友と二人きりで。
相変わらず満員電車の人込みにもまれていると気持悪くなりそうだし、途中駅から乗ってくる兄友は兄君と幼馴染さんのカップルを眺めているだけだし、いったいこの
あたしが何でこんな無駄な時間を過ごさなければいけないのかとあたしは苛立ったけど、それでもあたしは律儀に兄友に言われたとおりの時間の電車に乗り、兄君たち
の親密な姿を眺め、そして口数少なく幼馴染さんを見つめる兄友と二人で登校し続けたのだった。
あたしが何で苦手な満員電車に付き合ったのか、自分でもよくわからなかった。誰に聞かれることでもないけれど、仮に誰かにその理由を問われたとしたらあたしはモ
モの身を守るためには兄友の指示には逆らえなかったのだと答えていたかもしれない。でも、それだけの理由ではないことは自分ではよくわかっていた。
今でも不思議に思うけど、兄君という男の子はいたって普通の男の子と言う以外に表現のしようもないのだけれど、あたしは彼からあたしの表現の限界を超えたとこで
何か不思議な印象を受けたのだった。
見た感じだと間違いなく兄君は幼馴染さんに好意を寄せられているようだった。そして兄君の態度も最初は自然に幼馴染さんをエスコートしているように見えた。
でも、毎日彼らを見かけるようになると、兄君は本当に幼馴染さんのことが好きなのか疑問が生じてきたのだった。幼馴染さんのわかりやすい兄君へのアプローチに対して、兄君はそれに応えているように見えて、その実その行動はかなり淡白な反応だった。
本当は兄君は幼馴染さんが好きというわけでもないのだろうか。そしてもしそうだとしたら兄友らしくない幼馴染さんへの遠慮がちな片想いにもチャンスはある。
それとも兄君には幼馴染さんのことは好きだけど、それを真っ向から肯定できない何かの理由があるのだろうか。例えば兄友君が密かに既に誰かと付き合っていると
か、そういうことなら兄君は幼馴染さんとその謎の彼女との間で悩んでいるのかも知れなかった。
認めたくはないけどあたしにはこの手の人様の恋愛に関心を抱く嗜好があることは自分でもわかっていた。そういう関心もあってあたしは毎朝兄君たちと同じ電車に律
儀に乗っているのかもしれない。
・・・・・・そうだ。そうに違いない。あたしが兄君という年下の格段取り得のなさそうな男の子になんか特別に興味を持つ理由はないのだから。
兄友もその頃には自分で約束したとおり、いい弟的な存在としてあたしと仲直りしたことに満足していたようで、あたしが密かに危惧していたように昔彼が自由にしてい
たあたしの体に執着してあたしに迫るとか、モモの女神行為を暴くと言うような言動を全くあたしに匂わせさえしないようになっていた。兄友があたしに相談するのは幼馴染って本当に兄のことが好きなのかなあとか俺って男として兄の奴に負けてるのかなとかそういう相談ばかりだった。
まあ、幼馴染さんだっていつも電車でよろけるわけではない。だから兄君が幼馴染さんを抱き支えるみたいな様子は普段から頻繁にあったわけではないから、ほとんどの日はあたしたちは二人が普通に並んで会話している様子を覗いていただけに過ぎなかった。
学校の最寄駅に着くと、兄君と幼馴染さんは別に手を繋ぐでもなく微妙な距離を保ったままで一年生の校舎の方に向って行った。
兄友はここまで来るとあたしに別れを告げ、いかにも偶然に兄君と幼馴染さんと校門前で出会ったかのように二人に声をかけて二人の側に並んで一年生の校舎の方に歩いて行ったのだった。
兄君と幼馴染さんは兄友に挨拶を返した。ただ、あたしが彼らを眺めていてわかったことだけど、兄友にとって気の毒なことに彼が兄君に声をかけ幼馴染さんの隣に並ぶと、幼馴染さんは兄友が彼ら二人の間に割り込んだことにて微妙に迷惑そうな雰囲気を醸し出していたのだ。
・・・・・・兄友。かわいそうだけどやっぱりあんたの恋は空回りみたいだよ。はっきり彼にはそう言えなかったけどあたしは内心ではそう確信していた。
多分それはあたしの思い込みではなく、やはり兄友の恋には勝算はなさそうだった。
それでも兄友は懲りずに毎朝二人と同じ電車に乗り、そしてあたしもそれに付き合ったのだった。
そしてこういう愚直な行為は兄友らしくなかった。
あたしも兄友にされた酷い行為を心から許したわけではなかったけど、それでもあたしの身内の兄友が、大抵の女の子ならさして苦労せず手に入れられるだろう兄友
が、幼馴染さんにここまで肩入れしてみっともなく彼女にまとわりついている姿を見るのは嫌だった。
確かに幼馴染さんは人気のある美少女なのかもしれない。そういう点では地味なあたしとは大違いだ。
あたしはあんなに簡単に兄友の好意に敗北して一時期は彼に見も心も捧げる羽目になったのに、幼馴染さんは兄友なんか最初から眼中にはないように振る舞っていた。幼馴染さんに思うところはないのだけれど、そういう彼女の兄友への態度はあたしの気に障った。
これではあたしが惨め過ぎる。逆に言うと兄君が兄友どころではないイケメンだったらそんなに悩むことでもないのだけど、あたしの目には贔屓目ではなく兄君が兄友
君より女の子から見て魅力的だとは思えなかった。
そういうあたしの感慨とは関係なく兄友は幼馴染さんに片想いし、兄君を熱心に見つめていた幼馴染さんから気まぐれに声をかけられる程度の幼馴染さんの好意に満足しているようだった。こんなのは兄友らしくない。あたしはそう思った。
そうは言ってもあたしは悩むほど真剣に兄友の片想いについて心配しているわけではなかった。最近、兄友がおとなしく片想いしているおかげで、あたしが兄友に関し
て心配していた事態、その一つはもちろんモモつまり女さんの身バレ、もう一つは妹友の身の安全だったけど、そういう事態に陥ることはなさそうだった。そしてその状態
を続けるためには兄友が幼馴染さんに片想いしていた方がいいのなら、あたしにとってはその方がいい。
とりあえずあたしは兄友にアドバイスした。あの二人の状況を考えるとただ見てるだけじゃ何にも進まないよ。あんたはスペックでは兄君には負けていないんだからもっ
と積極的に幼馴染さんに声をかけないと。
そう兄友に話しながらあたしは何か空しい気分になるのだった。こんな平凡な助言をもらっても兄友だって困るだろう。こういうあたしのアドバイスこそ兄友がこれまで女の子に対して散々仕掛けてきたことなのだったから。
何で兄友が今回に限って今までのように積極的に幼馴染さんに仕掛けようとしないのかあたしには不可解だった。あたしなんかがこんなことを兄友にアドバイスしてい
ること自体がおかしい。
それとも兄友らしくなく親友の兄君に遠慮しているのだろうか。
何か最近、兄友はあたしを犯したり妹友を調教したいといっていた頃のようなアブノーマルで野生的な雰囲気が失われていて、普通の親友思いで自分を振り向いてくれない女の子に密かな恋心を抱いているようなどこにでもいる男の子になってしまったようだった。
別に昔の兄友の方がいいと思っているわけではない。今の兄友の方があたしも妹友にとっても安心できる。モモの身の安全にとってもそうだ。
でも何で兄友がそうなったのかはよくわからなかった。よっぽど幼馴染さんに純愛的な意味で惚れてしまったのだろうか。
それでも最近のあたしにとっては、兄友のことより悩ましいのは妹たちのことだった。
次女の衝撃的な告白は今でもあたしを悩ませていた。幸せなカップルを自分勝手な理由で引き裂いた純粋な悪意。次女の行為はそのくらい酷いものだった。
女さんの家庭の事情によって、普通とは少し異なっているかもしれないけどそれでもそれなりに仲のよかった会長と女さんは引き裂かれたのだった。そのことを転居の時期をずらしてまで会長に自ら伝えようとしていた女さんは次女の悪意によってそれすら果たせなかった。。
ひょっとしたら女さんに会長と話すチャンスが与えられていたとしても結果は同じだったかもしれない。いくら大人びた付き合いだったといっても何といっても中学生同士の恋愛なのだし、女さんが会長に自分が引っ越すことを告げた瞬間に、この二人の付き合いは瓦解していたのかもしれないのだ。
でも、次女はそれすら二人に与えずに、悪意に満ちた欺瞞によって最後のチャンスを潰して二人を会わせないようにした。それも互いの行為を疑わせるようなやり方で。
それでもこのこと自体はもう過去の話だった。女さんは次女の策謀以降、リアルな人間関係を拒否してモモとして女神になることを選んだ。そして女神板の小さな世界
で住人やあたしとのコミュニケーションで人間関係を築くことにし決意しそのことに満足しているようだった。
会長ももう彼女を作ろうとはしていない。彼も生徒会活動での評価や、自らの趣味であるパソコン関係の部長になってそれらの関係での人間関係の中で生きることに満足している。
この変化は全て次女の仕掛けた行為のせいのだったけど、結果としてはそんなにひどいものでもないのではないのだろうか。
あたしはそう考えて次女を慰めのだ。
でもそんな一連の行為を無邪気に無自覚にしてのけた次女が今になって病みはじめたのは想定外だった。
『あたしのせいじゃないよね。同じ学校になったのに付き合いを再開しないなんてもともと相性がよくなかったんだよね』
『女ちゃんだって悪いんだよ。あたしが先輩に振られたことをわざわざ言い触らすなんて』
『先輩って他に彼女とか出来たんじゃないの? だから女ちゃんとよりを戻さないんじゃない?』
あたしに問いかける次女の必死の表情は何か場違いな感じだった。次女のしたことは酷い仕打ちではあるから悩むのは普通なのだろうけど、自分本位に生きてきた
次女がここまで会長と女さんのことを気にするとは正直以外だった。
あたしは次女の相談に乗りながら正直苛々いていた。
この時あたしは次女の相談に親身になっている振りをしたけれど実はそれほど真面目に受け止めてはいなかった。次女に対しては気にすることはないよという言葉は
かけたし次女のメンタルが心配だったのだけど、会長と女さんのことは今ではもうこのままでいいのではないかと思っていたのだから。
女さん、つまりモモはあたしの中では相変わらず気になる存在だった。学園内では滅多に見かけないしモモはユリカが自分の学校の上級生であることも知らない。そ
んな関係であるにもかかわらずあたしはモモに惹かれていた。だから会長と女さんはもう終わりでなければいけないのだ。
そのほかにあたしを悩ませたのは妹友だった。彼女は頭がいいので来年は間違いなく公立のトップ校かあたしたちの学校に入学してくるだろう。その妹友は最近では
あたしに会うと兄友の消息ばかりを気にしてあたしを質問攻めにするのだった。
兄友はプレイだと言っていたけど、あいつが一番調子に乗っていた時、あたしにこういう内容のメールをよこしたのだった。
『俺の奴隷の分際で生意気な口を聞いた由里子にはお仕置きが必要だよな。おまえに俺に逆らったお仕置きをすることにしたよ』
『妹友ちゃんって今十三歳だっけ? あいつ俺のこと慕ってるんだよね。由里子が俺に逆らったお仕置きとして、由里子が俺にされたのと同じことを妹友の体にすること
にした』
『ビッチの次女だと逆に喜んじゃいそうだし、俺も十三歳の妹友ちゃんの幼い体を調教してみたいしな。由里子と一緒で妹友ちゃんだっていつかは女にならないといけないんだしよ、ちょっと早いけど俺があいつを女にしてやるよ』
『妹友の泣き騒ぐ様子を想像するとわくわくするな。妹友も最初はちょっと痛いかもしれないけどすぐに慣れるって。あいつ俺のこと好きみたいだしな』
『今夜中に由里子のいやらしい大股開きの写メと妹友のスナップ写真を俺に送れ。妹友のは普通に服着てるやつで勘弁してやるから』
兄友が妹友の自分への執着に気がつくと、こういうことが実際に起こりかねない。
あたしは二人の妹たちのこともあって、その後しばらく兄友と一緒に登校したり、一緒に昼食を学食で過ごすことにした。それは兄友にはいい姉としてアドバイスしながらも、妹たちとそれからあたし自身への兄友の興味を探るためだった。
そんなことをしているうちに、兄君と幼馴染さんの関係はやがて校内でも噂になり始めていたけど、不本意なことにあたしと兄友の関係も校内で密かに噂になりだしていたようだった。
今日は以上です
また投下します
もう少し我慢してね
次女が自分の近辺に悪意を撒き散らす→触発された兄友が、それ以外の範囲にも悪意を撒き散らす
コレが全ての悲劇のトリガーか……
女の消息がもう少しで…
wktk読んでます
「お姉ちゃん、ちょっといい?」
「次女か・・・・・・どうしたの? こんな時間に」
「女ちゃんてさ」
「またその話か」
「本当は彼氏いるんでしょ?」
「いないと思うよ」
「お願い本当のことを言って。女ちゃんって移り気だから先輩のことなんかどうでもよくなって誰かと付き合ってるんじゃないの」
「だからあたしは知らないって」
「どうして意地悪するのよ。本当のこと言ってよ」
「意地悪って」
「女ちゃんは昔から自分勝手な子だったじゃない。あたしが先輩に振られたことを言い触らしたのだってあの子でしょ」
「・・・・・・」
「あたしが何もしなくても女ちゃんは先輩のことなんか本気で好きじゃなかったんだよ。お姉ちゃんもそう思うでしょ」
「・・・・・・」
「お姉ちゃん、お願いだからもうちょっと真剣に女ちゃんのこと探ってくれない?」
「何であんたそんなに必死なのよ」
「・・・・・・お姉ちゃんがあたしのことを昔から見下して馬鹿にしてたのは知ってるよ」
「あんた、何言ってるの・・・・・・あ、あたしは別に」
「いいよ、気を遣わなくても。お姉ちゃんがあたしのことを成績も悪くて不真面目な女だって思っていたことは知ってるもん」
「・・・・・・そんなこと」
「自分が何をしたのかはよくわかってるの。そのせいで先輩が辛い想いをしているのかどうかだけ知りたいのよ」
「あんた、今では兄友のことが好きなんじゃないの? まだ会長のことを気にしてるのかよ」
「兄友なんてどうでもいいよ」
「どうでもいいって・・・・・・」
「ごめん、ちょっと言いすぎた。お姉ちゃんって兄友に昔から片想いしてたもんね」
「ち、違う。あんた何誤解して」
「とにかくそんなことはどうでもいいよ。あたしが言ってるのは、あたしの失恋をわざわざ言い触らすような性格の悪い女ちゃんがお姉ちゃんが言いように先輩とよりを戻
してないなら絶対他に男がいるんだってことだよ」
「意味わかんないよ」
「女ちゃんが他に男を作ってるようだったら、会長の不幸もあたしのせいじゃないじゃん」
この子は案の定会長と女ちゃんを騙して別れさせたことが気になっているのだった。あたしはこの時になるともう次女には真実を告白できない状態になっていた。
次女の告白とその結末を軽い気持ちで同級生に話してしまったのはあたしの仕業だったのだ。
あの時のあたしは調子に乗っていた。例え歪んだ欲望がきっかけだったとしても結果的に兄友は次女でもなく妹友でもなく年上のあたしを選んだのだ。幼い頃から周
囲の人たちに言われ続けていたこと。
次女は文句なしに可愛い。まるでアイドルみたいだね。彼女は親戚からはそう言われていたし、中学の同級生たちからもよくあんたの妹ってすごく可愛いねってあたし
は言われ続けてきた。
そして妹友。次女と違って恋愛関係には疎いし年齢よりも考え方の方が少し幼い感じだった。でも妹友が中学に入学すると、彼女のその幼さとあいまって清楚な外見は次女とは違った意味で校内で評判になったのだった。お人形さんみたいとか抱っこしてずっと撫でていたいとかそういう意味の噂を上級生たちがしていることをあたしは知っていた。それも男女問わずに。
そんな二人の妹に比べてあたしは地味だった。男の子のようにさっぱりとした性格をしているとかよく下の子の面倒をみるいい子だとか、親戚とかからあたしが評価されるのはそんな程度だった。それは中学でも同じであたしは妹たちと違って女性として評価されたことはないし男の子に告白されたこともない。
・・・・・・今ならわかる。面倒見のいいおおらかなお姉ちゃん。そういう仮面を被っていたその頃のあたしの心中では、自分では認めたくなかったけど妹たちへの嫉妬や
恨みが渦巻いていたのだった。
それは放課後の教室でのことだった。あたしは何人かの女の子の友だちと雑談をしていた。あたしも彼女たちも部活をしていなかったし、早く家に帰ったって別にする
ことがあるわけではなかったし。
「あんたの妹、ああ二年生の次女ちゃんの方だけど」
仲のいい子があたしに話しかけた。それは同級生たちのカップルの噂話にも飽きはじめた時だった。「うらやましいよね。綺麗だし男の子にはもててるし生徒会の副会
長までしているし。ああいう子はこの先の人生も勝ち組なんだろうなあ」
「そうそう。マジでアイドルみたいに人気あるもんね、妹さん」
もう一人の子もそのことに異論はないようだった。「あれだけ可愛ければ誰とだって付き合えるよね。つうか読モとかに応募すればいいのに」
「まあもててはいるみたいだけど」
あたしは最初は余裕でその話題を受け止めていた。次女がもてるとか言われることには慣れていたし、何より今ではその次女が片想いをしている兄友があたしの彼
氏なのだから。
「それでもいいことばかりじゃないみたいだよ。あいつだって普通に振られることもあるし」
「嘘〜。次女ちゃんを振る男なんて普通はいないっしょ」
「そうだよねえ」
「あんたも可愛すぎる妹を二人も持つと大変だよね。たまに妹たちに嫉妬したりするでしょ」
この子たちの言いたい放題の話を聞いているうちにあたしは普段隠しているコンプレックスを強く意識しだして次第に態度や会話に余裕がなくなってきた。兄友のことをこの子たちに自慢できないことがさらにあたしのイライラを増進させた。
「嘘じゃないよ」
ついあたしは言ってしまったのだ。「あいつ、この前振られたばっかだし」
「え? マジで!?」
「誰々? 誰が次女ちゃんを振ったの?」
「それは・・・・・・」
その瞬間あたしは自分の言い出してしまったことに後悔した。
「それは何よ。言えないの?」
「どうせ嘘なんでしょ。あんたさあ、実の妹に嫉妬して嘘までついて恥かしくない?」
普段は仲のいい子たちだったのだけどあたしのもったいぶった言い方が彼女たちの気に障ったのか、あたしの言葉は彼女たちの反感をかってしまったようだった。
「妹に一方的に嫉妬するのってどうかなあ」
「あんたは妹さんたちほど男の子にもてないかもしれないけど、あんたにだっていいところはあるんだよ?」
「そうそう。だから嫉妬とかやめておけ。姉妹の中が悪くなっちゃうぞ」
この時の彼女たちの言葉には棘のようなものが感じられ、あたしはむかついた。確かにあたしはもてないかもしれない。でもそれはあんたちだって同じではないか。
むしろあたしには兄友がいて、狂おしいくらい、あたしが少し怖くなるくらいにあたしのことを求めていてくれている。こんな経験はこの子たちはしたことがないだろう。でもそのことを話せないあたしには欲求不満のようなものが募っていた。イケメンの兄友のことを話せばこの子たちはあたしに感心するだろう。
それができないあたしはつい妹友の会長への告白を話してしまったのだった。
「絶対に内緒だからね」
あたしが真面目に話し出すと、彼女たちは目を輝かせて同意した。
「当たり前じゃん。誰にも言わないよ」
「あたしたちの仲でしょ。信用できないの」
「じゃあ話すけど。次女はね、この間生徒会長に告白して振られたんだよ」
正直に言うとこの時のあたしは、次女の不幸を話していることに快感めいた感情を感じていた。「女さんって二年生の子知ってる? 会長はその子と付き合ってるから次女とは付き合えないって」
「え? マジで会長に振られたの?」
「女さんってあたし知ってるけど、会長が次女ちゃんより女さんを選ぶなんて意外〜」
「だから言ったじゃん。次女にだって次女なりの悩みがあるんだよ。あんたたちはあたしが妹に嫉妬してるとかふざけたこと言ってくれたけど、あたしは次女を一生懸命
に慰めてるんだから」
「うん。悪かったよ。あんたやっぱいいお姉ちゃんなんだね」
「あの次女ちゃんでも振られることがあるんだあ。何かほっとした」
「でも会長って変わってるよね。それは女さんだって可愛いというか綺麗ではあるけど、普通は次女ちゃんを選ぶでしょ? しかも生徒会の会長と副会長なんだしさ」
とりあえずこの時のあたしは次女を貶すことで自分のプライドを守り心の安定を得たのだった。自分を持ち上げるのではなく妹を貶して評価を下げるやり方で。
それは後味のいいものではなかったけど、この話は後味の悪いという程度では終らなかった。
あたしの友だちの誰かが約束を守りきれなかったのだろう。いつのまにか男の子に人気のある生徒会の副会長が会長に告白して手ひどく振られたという噂が校内に
広まってしまったのだった。しかも彼女のいる会長を無理矢理女さんから引きはがそうとした悪女として。
あたしがすぐに次女に自分のしたことを告白して謝っていればこんな酷いことにはならなかったかもしれない。でも、噂が広まって次女が悩んでいた頃のあたしはそれ
どころではなかったのだ。この頃のあたしは兄友にヌード写真を撮るように言われたりご主人様と呼ぶようにメールによって強いられていて、兄友に捨てられることが怖
かったあたしは必死になって兄友の言いなりになり彼の歓心を得ようとしていたから。
その結果、次女は噂を言い触らしたのは女さんであると思い込み女さんに逆恨みしたのだ。
そして会長と女さんを別れさせた次女の酷い行動。でも、噂を言い触らされたという事実がなければいくら次女でもあそこまで酷いことをするなんて考えもしなかっただ
ろう。
つまり会長の不幸も、女さん、いやあたしの好きなモモの不幸も、そして次女の不幸もまた、その原因はあたしにあるのだった。
本日は以上です
また投下します
無駄に長い駄文ですいません
乙ん
姉さん…あんたまで、あんたまで
迷走してるようにしか見えん
ちゃんと各視点から書いてくれてるじゃん
次女に泣きつかれたあたしはできることなら会長と女さん(この頃にはあたしの中ではモモと呼ぶ方がしっくりするようになってしまっていた)について、次女の望むよう
に答えてあげられればよかったのだ。モモに彼氏が出来るなんてあたしには耐えられなかったけど、次女の悩みは会長の方に彼女ができたと報告してあげることでも解消しただろう。
次女が本当にまだ会長のことを好きなのかどうかは彼女の話からはよくわからなかったけど、あたしに確かに理解できたのは彼女が会長のことが好きかどうかはとも
かく、彼女が一番気にしているのは自分の行為によって二人の男女を不幸にしてしまったかどうかということらしかった。こういう純粋な他人への思い遣りを次女に見出すのは珍しかった。
でも残念ながら会長には彼女どころか会長のことを密かに慕ってるらしい女の子すら見当たらなかった。生徒会でもクラスの同級生の中にも。
生徒会の役員たちの間で会長が根暗のオタク認定されていることはあたしにもよくわかっていたけど、あたしの知る限りでは中学生の頃は会長はそれなりにもててい
たはずだった。
モモと付き合っていたこともそうだけど、中学時代の会長は女さん以外でも同級生や下級生にそれなりに人気があったはずだった。もちろんその中の一人には次女も
いた。
それが高校生になった途端に人気がなくなるってどういうことなのだろう。会長としての彼の能力はあたしにもよく理解できるほど高かったし、それだからこそ先輩たち
に生徒会長の後継者として目を付けられたのだ。
・・・・・・思いつくことは一つだった。会長の性格が高校入学と同時に内向的に変化したのだろう。それも女の子たちが声をかける気がしないくらいに。中学高校くらいの恋愛なんて必ずしも外見だけで決まるものではない。面倒見がいいとか能力が高いとか成績がいいとか、そういうことで女の子に人気が出ることだってある。中学時代の会長はその典型だった。
ただし、その場合でも対象となった男の子が自ら女の子を拒否するような態度の場合は、それも当てはまらないのだろう。その男の子が外見的にイケメンンならともか
く内面に惹かれられて人気のある男の子がそのような拒否的な態度の場合は告白する女の子なんていないに違いない。
中学時代と今の会長の差はそこなのだろう。そして会長のその変化はモモに手ひどく振られたという思い込みから生じたものなのかもしれない。
やはり次女の行為は会長の人生を変えてしまったと言っても過言ではないのかもしれない。そしてその遠因はあたしにあるのだった。そう考えるとあたしは会長に罪悪
感を感じた。日頃から日常的に生徒会で会長と事務的に接していても時々あたしは会長の方を直視できなくなった。
それにしてもあたしは本当はいったい誰に対して罪を犯したのだろう。次女に対してだろうか。それとも会長に対してだろうか。
次女の期待には応えられないけどモモに彼氏がいないのも多分事実だったと思う。以前はモモだってこれだけ可愛いのだから東北に彼氏がいても不思議はないと考
えたこともあったのだけど、これだけ長く女神板でモモのことを追っていると、やはり彼女にとって生活の中心は女神行為であり、リアルでは彼氏はいないのだろうとあた
しは思うようになった。
とりあえず校内でモモが特定の相手と親密にしていないことだけは確かだった。次女に言われるまでもなくあたしはモモのことを生徒会活動の許す限りストーカーのよ
うに追い続けていたのだけど、そこで目にした範囲では彼女の周囲には彼氏どころか女友だちさえいるようには見えなかった。つまりモモはリアルの学校生活ではぼっ
ちとして孤立していたのだ。
不思議なことにモモがぼっちでいること対してはあたしは罪悪感を感じなかった。モモが女神になった直接的な原因は確かに会長との仲を引き裂かれたせいかもしれない。
でも、次女が言っていたとおりモモは中学時代だって別に社交的な女の子ではなかった。確かに外見は綺麗だったけど友だちがいっぱいいるとか彼女に告白する男の子がいっぱいいるとかっていう話は聞いたことがなかった。つまりモモは本質的には非社交的な性格なのだろう。そのモモが会長と付き合っていたこと自体が奇跡のようだった。
・・・・・・ところで、この頃のあたしは女神板のスレモモとレスの応酬を重ねる機会が減っていた。馴れ合い死ねとかって住民に言われたこともあったしモモと単純に時間
が合わないということもあった。皮肉にもリアルでは下級生のモモのことをストーカーのように見つめることはできたけど以前のようにスレでモモと親しく話をする機会は
減っていたのだった。
リアルではモモはあたしがユリカだということを知らない。ましてあたしが同じ高校の上級生だとは夢にも思っていないだろう。あたしは一方的にリアルのモモを見つめ続けていたけど、モモはリアルのあたしのことを知らないし女神板のユリカが同じ高校の上級生だとは夢にも考えていなかっただろう。
『ユリカさんはっけ〜ん。こんな平日の昼間から雑談スレにいるなんて珍しい♪』
『モモこんちは〜。今日はオフなんだよ。モモこそ昼間に出没なんて珍しい』
『あたしも今日は学校が創立記念日でお休みなんですよ。ユリカさんに会えて超嬉しい』
それは高校の創立記念日の休日のことだった。だからモモも休みであることに不思議はない。
でも、これでモモが女さんであることはまず間違いないとあたしは改めて思った。わずかしか顔を隠していなかったり制服が兄友と同じ学校のブレザーだったりでもう間
違いはないと思っていたのだけど、創立記念日の休日が重なったことでモモの正体は万が一にも間違いはないとあたしは確信できたのだった。
それにしても可愛いことを言ってくれるな、モモは。モモにとっては何気ない言葉なんだろうけどあたしは胸が熱くなった。
『ユリカさん、今日はうpしないの?』
『うん。めんどいし、せっかくの休みだしゆっくりしたいしね』
『残念。ユリカさんの体見たかったのに』
『あはは。今度貧乳スレにうpするから見れたら見れば』
『だってユリカさんが女神するのって不定期だからいつ光臨するかわからないんだもん。しかもすぐにデリッちゃうし』
『モモだったって十五分ルールを厳しく適用してんでしょうが』
『ユリカさんは絶対もっと早く画像デリってると思う。即デリ死ねよとかよく言われてるじゃん』
『あんただって言われてるでしょ。まあ、あたしはモモのヌード写真集を出版できるくらいあんたの画像を保存してるけどね』
『それ、絶対不公平だよ。あたしにもユリカさんの画像をくれ』
こういうやり取りは楽しかったけど、モモがあたしのことを特別な相手だと思っているということではなかったと思う。それでも。モモが本気で望むならあたしの裸身の画像なんていくらでも提供してもいい。兄友なんかに渡すくらいならモモに見られたほうが全然ましだった。
でも、モモのその言葉は本気ではない。スレでの礼儀に過ぎない。
モモとの会話はあたしを和ませてあたしにモモへの片想いを募らせることになった。そしてモモはスレでのやり取りから推察する限りでは別に会長との別れに傷ついていたり会長に未練があったりするようすはなかった。
それを話すだけでも次女の罪悪感は相当薄められたと思うけど、スレでのことは次女に話すわけにはいかなかったから、あたしは次女の心の安定を与えることはできなかったのだ。
次にあたしを悩ませたのは妹友の切ない訴えだった。
あたしが兄友に抱かれた後、兄友に妹友をどうこうしたいと言ってきたメールはあたしの目を覚まさせ、あたしが兄友と別れるきっかけを作ってくれたのだった。この間
兄友から聞いた話だと、それはあたしを辱めようとした彼のプレイに過ぎず、全て冗談だったと言い訳していたのだけれど。
それは事実だったのだろうけど、それでもやはり兄友がどう思っていたのかは別にして妹友はずっと兄友への恋心を引き摺っていたようだった。
正直に言えば妹友の相談はあたしのキャパシティを越えていた。それはあたしが兄友とは縁を切って、だけど普通のいい幼馴染として付き合い出した時のことだった。
だから妹友と兄友が奴隷とかではなく普通に付き合う分にはあたしには全く異存がなかったのだけど、その時浮気性の兄友は幼馴染さんという新しい標的にターゲット
を狙っていたのだった。
でもそんなことを妹友に放すわけにはいかなかい。
あたしが兄友と付き合い別れそしてモモに気を惹かれるという浮気性な変遷を辿っている間も、次女が会長とモモを引き裂いたことの影響が思ったより彼女自身を苦
しめていることに悩んでいる間も、あたしには思いもよらなかったことに妹友は一筋に兄友のことを思い続けていたようだった。
それは珍しく妹友が進路相談をしてきたことからわかったことだった。
『あたしもお姉ちゃんと同じ学校に行こうかな』
最初は何気なくあたしの反応を見るように妹友は言った。
『何で? ママから聞いたけどこないだの模試も偏差値よかったんでしょ? うちの学校なんかよりもっと上位校狙えるじゃん』
『何でって』
妹友は少し口ごもった。『お姉ちゃんと一緒の学校に行きたいだけだよ・・・・・・だめ?』
『だめって言うか、あたしには人のこと言えた立場じゃないけどさ』
実はあたしも妹友が望んでいることと同じことをしたのだった。だから彼女のことを諌める権利はない。
でも妹友があたしと同じことをしようとすればママは絶対にあたしのせいだと言うだろう。今でもママは本心ではあの時のあたしの選択に納得していいないのだ。
『お姉ちゃんだって両方受かったけど今の学校に行ったじゃない? 多分ママも良いって言うと思うし』
『・・・・・・絶対あたしの影響だって言われるな。つうかあんたは何でうちの学校に来たいのよ』
『・・・・・・お姉ちゃんは何で今の学校を選んだの』
妹友も負けてはいなかった。あたしの選択の理由はともかく、妹友がここまでうちの学校に執着する理由は。
・・・・・・理由は一つしか考え付かなかった。結局、兄友に抱きしめられたあの日以来、いやそれよりももっと前からこの子は兄友のことを一途に慕っていたのだろう。
兄友には今好きな子がいる。でもそのことを妹友に話すのはためらわれた。口の軽いあたしが次女に及ぼした影響を考えるとなおさらだ。
『・・・・・・あんたさあ。まだ兄友のこと好きなの?』
この話題が出ることを妹友も覚悟していたのだろう。彼女は赤くなって俯いたけどその声は震えもせずにしっかりとした声だった。
『うん、好き』
また面倒なことになりそうだな。あたしはそっとため息をついた。
翌年の四月、自分の意思を貫いてママたちの反対を押し切った妹友がうちの学校に入学した。
そしてしばらくして兄友に聞いたところでは、兄君の妹も同じく公立上位校を蹴ってうちの学校に入学したのだった。兄君と幼馴染さんの二人だけの登校は終わり、二人に加えて妹さんが一緒に登校するようになったらしい。
兄友の心の平穏のためにはよかったかもしれない。兄君と幼馴染さんの二人きりの姿を見なくて済むのだから。
同時にあたしと兄友の二人きりの登校もこれで終了した。妹友とあたしが一緒に登校しない理由はなかった。そしてそれを聞いた兄友はどういうわけかこれからは一
人で登校するからってあたしに言ったのだった。
第五部終了
次回、第六部からは最初の頃の時間軸に復帰します
乙
これって本編が終わってから外伝的に兄友サイドを書きつづった方がよさそうだったね
どうだろう
>>1の構想の通りでいいと思うが
そういう評価は全て終わってからするもんじゃなイカ?
これが紙ベースの小説だったら
買ってるしいい感じに仕上がると思われる。
同意
紙媒体だったら執筆ペースは速いほうだろうねえ
第六部
その頃の俺は自分でも何をしているのかよくわからなくなっていた。
とりあえずかつて酷いことをしてしまった姉さんが、これで三度目になるけど俺のことを許してくれたことが俺にはすごく嬉しかった。姉さんが俺の行為を許容して昔のように仲のいい幼馴染として付き合ってくれるのは俺の心の安定につながったけど、そこに至る過程で俺は姉さんを再び脅迫したのだった。それは昔のように姉さんの体に関する直接的な脅迫ではなかったけど。
女、つまりハンドルネーム・モモの女神行為に関する俺の脅迫に姉さんは屈服したのだった。俺の心中は複雑だった。いろいろあったけど、やっぱり俺は姉さんのことが忘れられなかったから。
姉さんが嫌がるなら以前のようなプレイなんかなくてもいい。当面心を惹かれる女がいなかった俺は、久しぶりに再会した姉さん、俺に脅迫され嫌々俺の前に久しぶりに姿を現して姉さんが見慣れない高校の制服に身を包んだ姿にときめいてしまったのだ。
別に俺は姉さんの肢体に欲情していただけではない。俺は姉さんの強気な外見の下に隠れた優しさや男勝りの態度の影に隠れた女性らしさに心を奪われていたのだ。
姉さんは俺がこれまで付き合ってきた女の子と比べても外見は地味な方だったし、姉さんと付き合っているとしてもそれは同級生の間では何のステータスにもならなかっただろう。
でも、周囲の馬鹿な男どもにはわからなかったとしても俺にだけはよくわかっていた。一見地味な姉さんの制服の下に隠された甘い果実のことを。
その姉さんがモモのことを心配して仕方なくかもしれないにせよ、俺の提案に乗ってくれて再び俺のいい姉さんでいてくれると言うのだ。
俺は以前自分の欲望に忠実に姉さんの体を使って好き放題に妄想を繰り広げたことがあった。そこまでは姉さんも俺に付き合ってくれたのだけど、俺が調子に乗って幼い妹友のことをほのめかしたことが失敗だった。その途端に姉さんは手のひらを返すように態度を硬化させ、結局俺は姉さんに捨てられたのだった。
その心配を俺は忘れたこたはなかった。だから高校入学を機会に姉さんに声をかけた
のだって半ばダメモトという気持ちでいた。
その姉さんが俺のことを許してくれた。それだけで当面の俺には十分だったから、最
初は俺もこの高校ではおとなしくしていようと本気で思ったのだ。
確かに俺はモモのことで姉さんに脅迫じみたことを言った。でも本心ではモモいや女
の女神行為なんてどうでもよかった。モモの女神行為を偶然に2ちゃんねるで発見した
時、俺は妙な興奮を覚えたけど、その時はそれを姉さんへの脅迫材料にしようとは夢に
も思わなかったのだ。
でも俺との仲直りを拒否する姉さんに苛立った俺はそのカードを切った。そして効果
はてきめんだった。姉さんが同性のモモに恋愛的な意味で惹かれていたことは、スレで
のやりとりで俺にはわかっていたし、嫉妬すら覚えていた。
だから姉さんが恋しくてどうしようもなくなり姉さんと仲直りしようと決意した時、
俺は女の女神行為という自分が持っていたカードをためらいなく切った。そのせいで俺
は姉さんと仲直りし表面上は仲のいい幼馴染に戻れたのだった。
そういわけで俺が高校に入学して最初に考えたのは姉さんとの仲直りだったのだけ
ど、それは無事に成就したのだった。
無事に姉さんと仲直りした俺が次に気になった女の子は幼馴染という子だった。彼女
はクラスの中でも一番目立っていた女の子だった。試しに何気なく話しかけてみると、
彼女は俺にフレンドリーに対応してくれた。
周囲の男どもが萎縮して幼馴染にろくに話しかけられないということもあったのだけ
ど、入学した頃の俺は幼馴染に一番親しい位置にいるのだという思い上がった気持ちで
いた。
でもその思い上がりはある日の電車の中の光景によって粉々に打ち砕かれた。
その日、混みあった電車に乗った俺の視線には幼馴染が混みあった車内で苦労して立
っている可愛らしい姿が目に入ったのだ。
俺は彼女の側に行って別に変な意味はなく彼女を助けようと思った。幼馴染くらい可
愛い子なら痴漢とかに出くわしても不思議ではなかったし。
でも次に電車が急停車した時、彼女は迷わず隣りに立っていたうちの高校の制服を着
た男にすがりついた。そいつも戸惑ったり迷ったりせずに幼馴染の体を抱きかかえるよ
うにして彼女を転倒から救ったのだった。
幼馴染は少し赤くなった顔をそいつに向けて、照れたように言葉短く礼を言った。男
の方は幼馴染のお礼の言葉には関心がないようで、当然のように彼女の体を抱きかかえ
ているだけだったけど。
その男が同じクラスの兄というやつだということは知っていた。でも、兄は俺が特に
話しかけたいというほどの同級生ではなかったから俺はそれまでそいつと話しをしたこ
とすらなかった。
いったい兄というやつは何なのだろう。幼馴染がとっさにかつ自然に抱きつくような
種類の、つまりスペックの高いリア充にはどうしても見えない。そしてよく考えればそ
れは偶然ではなく幼馴染は兄と一緒に登校していたのだということに俺は気づいた。
それまで地味な兄になんか興味がなかった俺だけど、幼馴染が俺よりも親しげに振る
舞う相手としての兄には俺は興味を抱いた。これは少しこいつのことを知らなければな
らないだろう。
いろいろな事情があってこれ以上姉さんに迫ることができない俺には、姉さんと無事
に仲直りした次の目標は幼馴染を落すことだと思っていたのだけど、この光景を見てか
らは遠回りになるけどとりえず、幼馴染が慕っているように見える、一見冴えない同級
生の兄に接近することにしたのだった。
俺が兄と仲良くなるのにはさほどの時間はかからなかった。
俺と兄と幼馴染は同じクラスだったし、何といっても女と仲良くなるのと違って男の
ダチを作るのには周囲の視線なんかないに等しい。そして仲良くなってみるとこいつは
意外といい奴だった。
しばらくは当初の不純な動機を忘れるくらい俺と兄は仲良くなった。クラスの中では
親友と目されるくらいに。それはかならずしも誇張ではなく、俺は日常生活では常に兄
と一緒に行動するくらいに仲良くなっていたから、お互いにどう思っていたのかは別に
して客観的に見るとそれは親友同士といってもいい関係だったのかもしれなかった。
兄と仲良くなってからいろいろ話を聞いてわかったのだけど、俺にとっては幸いなこ
とに幼馴染と兄は付き合ってはいなかった。
お互いを気にしている様子はあったのだけど何らかの障害があって恋人同士になるに
は至らないようだった。さすがに二人の間にあるらしい障害が何なのかまでは兄には聞
けなかったけど、この二人がまだ付き合っていないなら俺にもチャンスはある。
俺は幼馴染をひたすら見つめていた。多分その俺の視線は幼馴染は気づかれていただ
ろうけど、それは俺の作戦どおりだった。彼女だってまだ高一なんだし俺のようなイケ
メンに見つめられていることを知ったら俺のことを意識し始めるに違いない。それが肯
定的なものでも否定的なものでも最初はどうでもいいのだ。彼女の関心を惹くというの
がこの際肝心だった。
ただ、この時の俺が一番気になっていた女は幼馴染ではなく姉さんだった。
もし姉さんが過去のことを全て水に流してくれて、俺と仲直りしてくれたら。
そうなったら俺は前のように性欲の捌け口みたいに姉さんを扱うことは二度としない。あの頃は恋愛感情と欲情とが俺の中で混在していて、俺にはそれを上手に扱うことがで
きなかったのだ。
今なら違う。姉さんが俺を愛してくれるのなら今度こそ俺は姉さんの優しいいい彼氏
になれる自信があった。でもそれを望むのは当面は無理ゲーと言ってもよかった。あれ
だけ酷いこと俺にをされた姉さんは、表面上はいい幼馴染の姉さんとして振る舞ってく
れていたけど、心の中では俺に対して警戒していることは俺にはよくわかっていた。
となると俺だって高校生の男子に過ぎない。姉さんがと俺とやり直してくれない以上、俺は誰か他の女と付き合うしかないのだ。それにはやはり手の届かない女がいい。一言
二言で落ちそうな女なんかと付き合ったら姉さんにも失礼だろう。
そういうわけで俺は急がず幼馴染を狙って見ることにしたのだけど、そのうちもう少
しいい考えが浮かんだ。
幼馴染への恋のことを姉さんに相談してみよう。俺はそのことを思いついたときわく
わくするような興奮を感じた。姉さんはどう思うだろう。嫉妬してくれたら一番嬉しい
けど、そうも行かないことは俺にだってわかっていた。でも親密にアドバイスはしてく
れるだろう。少なくとも俺は姉さんと恋愛関係の話をすることだけはできる。
・・・・・・心の中ではそんな迂遠なやり方をせず誠意を持って正攻法で姉さんに当たって
みようという考えが浮かばなかったわけではない。
でも二つの理由でそれは無理だろうと俺は考えた。
一つは姉さんがどうやら百合的な恋愛感情を女に対して抱き始めているらしいという
ことだった。それがどこまで本気の思いなのかはよくわからなかったけど。
もう一つはそれより深刻だった。
姉さんに手ひどい言葉で別れを告げられた時の俺は、既に妹友を抱いて彼女の処女を
残酷なやり方で奪ってしまっていた。まだ幼い妹友を自分の部屋に呼び出し、俺に縛ら
れて身動きできなくされて必死に抵抗する妹友を俺は無理矢理に自分のものにしたのだ
った。
その後、妹友は俺を許してくれ、彼女とは未だにメールのやり取りが続いていた。こ
れまでは東北にいたせいでメールでは愛してるとか好きだよとか送っていれば妹友は満
足してくれていたのだけど、俺が転校してからは妹友のメールは「何で会ってくれないの」とか「もう一度兄友に酷いことをされてもいいからまた抱いて」とかっていう内容
になってきていて、俺はそれを誤魔化すのに苦労していたのだ。
だから仮に姉さんが俺とよりを戻してくれたとしてもそれを妹友に知られたらどうな
ってしまうことやら想像もつかなかった。
そういう理由で、当時の俺は姉さんと再び話をしたりすることで満足せざるを得なか
ったし、とりあえず幼馴染を狙うことくらいしかすることがなかったのだ。
それは本当に偶然の出来事だった。別に俺のほうから仕掛けたわけでも何でもなかった。
そしてそれがいいことかもどうかもよくわからない。
何の動きも進展もないまま二年生になった俺の自宅の隣に新築された家に、ある日突
然幼馴染が引越ししてきたのだった。
今日は以上です
また投下します
乙
妹友もびっちかよww
janeタブで長らく放置されてた妹の手を握るまでってスレを読んでからここまでたどり着きました
乙
>>565
さぞかし長い旅路だったんでしょうな
相変わらず鬼畜だのう
10カ月…
それでもたどり着いたんだから迎えてやろうず
作者です
少し最終章(第六部)の整理をしたいのでしばらく休載させていただきます
できるだけ早く再会したいと思います
まってるぞ
楽しみだ
作者です。
今週の土曜日か日曜日は再開できると思います。
そんなに読んでる人はいないかもしれないけど、一応経過報告しておきます。
それではまた。
待ってまっせ
ういうい
おけーり
ある朝俺はいつもより少しだけ遅い時間に家を出たところで、幼馴染とばったり出く
わした。
・・・・・・何でこいつがここにいるんだ? こいつの家は兄の隣だったはずだ。
俺は驚いたけどよく見ると幼馴染の方も相当面食らっているみたいだった。
「よう」
ようやく自分を取り戻した俺は幼馴染に声をかけた。
「おはよう」
少し戸惑ったような幼馴染の声。でもいったいこんな時間にこいつはここで何をして
るんだろう。一瞬、こいつが俺に告白するために俺の家の前で待ち構えていたのではな
いかという考えが脳裏をよぎったけど、もちろんそういうことではなかったみだいだ。
「おはよ・・・・・・って、あれ? おまえの家って兄の家の隣じゃねえの?」
俺は思わず問い質すような口調で幼馴染に質問した。
「昨日まではね。今日からは違う。今はあんたの家の隣みたいだね」
ようやく自分を取り戻したらしい幼馴染が答えた。そういえばこいつが引越しすると
かって話を兄に聞いたような気がする。でもまさかうちの隣に引っ越してきたとは予想
外にも程がある。
「そういや、引越しするとかって聞いたな」
「うん。よろしくね」
「ああ、よろしく・・・・・・ええと」
この時幼馴染の意外な出現に驚いた俺は少し戸惑った。姉さんは今日も俺のことを電
車の中で待っているはずだ。
俺は幼馴染のことを狙ってはいたけれど本命はやはり幼馴染とは比べもにならないほ
ど地味なで、でも比べ物ならないほど大好きな姉さんだった。
俺のキャラ的にここで幼馴染を避けるのはどうかと思えたし、何よりも幼馴染を落と
す気があるならこれは願ってもないチャンスだった。割とマジに俺は悩んだ。
「どうしたの? あ」
幼馴染は何か思いついたように言った。「一緒に行かない? 兄と妹ちゃんとも待ち
合わせしてるんだ」
これだけ気軽に話すくらいだからやはりこいつは今のところ俺には気がないのだろ
う。それにしてもこいつは兄と二人で登校してるんじゃなかったのか。
「妹ちゃん? 幼馴染と兄っていつも二人で登校してるんじゃねえの?」
「妹ちゃんが入学してからは三人で登校してるよ。もともと中学の頃から三人で登校し
てたし。知らなかったの?」
「おまえらいつも二人でいるってからかわれてたから、てっきり今でもそうかと思って
たよ」
何か緊張感のようなものが兄とこいつと妹ちゃんという子の間にあるようだ。俺は直
感的に感じた。兄には仲のいい妹がいることは知っていたし妹の話をするときの兄の幸
せそうな表情を見て、こいつは真性のシスコンなんじゃねえかと思ったこともあった。
でもまさかここまでとは。
それでは兄がこいつを受け入れない理由は妹の存在が原因だったのか。
姉さんが俺を構ってくれない間、幼馴染で面白い暇つぶしができそうだ。俺は姉さん
関連以外では最近では珍しくやる気を出したのだった。今日は姉さんと一緒に登校する
のを諦めよう。どうもその方がいろいろと面白そうだった。
「何だ、そういうことかよ。じゃあ、一緒に行っても大丈夫だな」
「大丈夫って・・・・・・どういうこと?」
「いや。兄の邪魔はしたくなかったんだけどさ、別にそういうことじゃないのな」
それに対して、俺は思わせぶりな口調で幼馴染に答えた。
幼馴染たちと登校すると姉さんとは会えない。それはそれで寂しかったけど姉さんも
最近はだいぶ俺への警戒が緩んできたようで笑顔での会話も増えてきていた。
このまま姉さんとの仲を少しづつ深めた方がいいのかもしれないとは思ったけど、そ
の流れはあまりに単調だった。今でも飽き始めていたくらいなので少しは刺激が欲しい。
この辺で姉さんを寂しがらせた方がいいかもしれない。
それでその朝俺は、幼馴染と連れ立って電車に乗った。そこには兄とそれから兄の腕
にしっかりと抱き付いているやたら小柄で可愛らしい子が待っていた。この子が兄の妹
だった。
学校に着いて幼馴染と二人きりになった時、俺は切り出した。
「おまえ、相当無理してたんだなあ」
「・・・・・・どういう意味?」
やはりか。幼馴染は俺の言葉に狼狽したようだった。
「どうって・・・・・・そのままの意味だけど。おまえもいろいろ我慢してるんだな」
「俺さ」
俺は何でもない世間話をするように続けた。
「そういう幼馴染って可愛くて好きだぜ」
「あんたさあ、いい加減にしなよ。あたしをからかって楽しいの?」
幼馴染は怒ったようだった。でも俺は気にせず話し続けた。
「別にふざけて言ってるんじゃないよ。俺、おまえのことが気になってるんだよね。ま
あ、兄のシスコンって前から感じてはいたけどさ。あんだけ可愛い、つうか守ってあで
たいような女の子が身近にいたら、たとえそれが実の妹だとしても、兄が他の女に興味
がないのも無理ねえよな」
俺は幼馴染を敢えて煽るように言った。
「幼馴染さ、そういうことなら俺と付き合わない?」
「一緒に学食行かねえ?」
俺はその昼休みに幼馴染を誘った。俺の言葉の真意を疑問に思っているだろう幼馴染
がその誘いに乗ってくることを俺は疑わなかった。
案の定こいつは俺の誘いを受けた。
「よかった。さっきの話の続きをしたかったからさ」
俺ははそう言って、幼馴染と連れ立って学食に向かった。
注文したトレイを持って運良く空いていたテーブルに座った俺は、警戒するように向
かいに腰かけた幼馴染に切り出した。
「さっきも言ったとおりだけどさ、おまえ俺と付き合わねえ?」
「それはさっきも聞いたよ。いきなり付き合わねえ? じゃないでしょ――普通はその
前に好きだとか言うのが礼儀じゃないの?」
相当怒ってるなこいつ。でもその反応を含めて幼馴染の言動は全て俺の予想の範囲内
だった。
「ああ、ごめん。普通はそうだよな」
俺は落ち着いて言った。「そういう意味で言うとさ、俺、別に幼馴染のこと好きじゃ
ねえんだよな」
我慢の限界に来た幼馴染が怒鳴りだす前に俺は核心に触れることにした。
「それに、幼馴染だって好きなのは兄のことだろ? だからさ、俺と付き合ってみよ
うぜ」
「・・・・・・ごめん。あんたが何言ってるのか全然理解できない」
幼馴染は一端は怒りを引っ込めて飽きれたように言った。
「俺さ、今日始めて兄と妹ちゃんと一緒に話してて思ったんだけどさ、妹ちゃんって本
当に可愛いよな。何を犠牲にしても守りたくなるような感じがするね」
「妹ちゃんは可愛いよ、確かに。でも」
もう俺は疑問差し挟む余地をこいつには与えずに一方的に喋ることにした。
「あんな子が妹だったら、俺だって妹ちゃんが嫌がることはやりずらいだろうな」
「俺、さっき言ったじゃん? おまえ相当無理してるんだなって。あと、おまえのこと
が気になるってさ」
「だからお節介なようだけど」
「普通に兄のこと好きになっても、妹ちゃんのことを気にしている兄の本心を知るのっ
て難しそうじゃんか? 兄だって、妹ちゃんのことを気にして本心なんてそうそう自由に
言えなくなっちゃってるだろうしね」
そうして俺は話を締めくくった。
「だから俺と付き合ってみようぜ。あ、付き合うって言ったって振りだぞ? 何も本当
に俺と付き合えって言ってるわけじゃねええからな」
「・・・・・・要は兄があんたと付き合い出したあたしを見て、嫉妬するかどうか確かめろっ
てこと?」
ようやく幼馴染も理解し始めたようだった。
「おまえだってそう考えてたから、今朝、俺をあいつらと一緒に登校させたんじゃね
えの?」
「でも何で兄友君があたしに協力してくれるの?」
その時幼馴染は当然の疑問に突き当たったようだった。「あんた、あたしのことは別
に好きじゃないって言ってるのに」
「恋愛感情はないよ。それに、あったとしたら兄の気持ちを知る機会なんておまえに与
えるわけねえじゃん」
「だから、おまえのこと気になるって言ってるじゃんか。それに恋愛感情じゃねえけど、お
まえのこと嫌いじゃないし」
「――あんたの言ってること、全然理解できない」
どうやら幼馴染は思っていた以上に頭のいい女のようだった。今さらながらに俺はそ
う思った。
まるで姉さん相手に駆け引きしているようだ。こういうやり取りに俺は久しぶりにわ
くわくした。
「やっぱりこれじゃ納得しないよな」
俺はわざと困惑したような表情を見せた。
「そうだよ。何をたくらんでるのかさっさと白状しちゃいなさい」
幼馴染が俺に向って微笑んだ。予想よりはるかに面白い女だな。俺はそう思った。姉
さんとの進展しない時間の暇つぶしのために落としてみようかと思った幼馴染だったけ
ど、こいつはそんなことで済ませるにはもったいないくらいに面白い。
本気でこいつと兄をくっつけてやろうかな。
俺はその時思った。ここまで俺に食いついてこれる女にならそれくらい協力してやっ
てもいい。
俺はわざとためらい、そして作り話を真剣に話出した。
「実は、その。俺も好きになっちゃったみたい」
「好きになったって・・・・・・誰が?」
「その・・・・・・妹ちゃんのことが」
俺は小さく呟くように言った。
「え? ええ? ちょっと待ってよ。あんたの噂は聞いてるのよ。これまであんたが女
の子と付き合っては、すぐに他の女の子に乗り換えるようなことを繰り返してきたこと
だって」
すぐに幼馴染と協力体制ができるのかと思っていた俺にとって意外なことに、幼馴染
は必死で俺の妹への興味を攻撃してきた。
そう言えば兄と幼馴染の関係だったこいつにとって、妹は単なるライバルではなくそ
れなりに大切な存在なのだろう。
そう考えた時、一瞬だけ俺の脳裏に三姉妹の姿が浮かんだ。
「おい、ちょっと待て」
でも、ここで言い負ける訳にはいかない。「どこから聞いた話か知らないけど、人聞
きの悪いこと言うなよ」
「俺は女の子を弄んだことなんて一度もねえよ。それは付き合った女の子はそれなりに
いるけど、浮気して一方的に振ったことなんて一度もねえし。それに、妹ちゃんて何て
いうかさ・・・・・・すごく守ってあげたいと思わせるような子じゃん。そんな子を仮にも弄
ぶとか考えられねえよ」
正直に言うと俺は妹になんか何の関心も持っていなかった。それは幼馴染と俺が偽装
カップルをする理由の一つとして後付けしたに過ぎない。
確かに妹は可愛らしい。美少女というにふさわしい容姿には惹きつけられるものがあ
った。でもそれだけでは正直に言って俺にとっては妹友とキャラが被りすぎていた。妹
友の俺への執心も姉さんを今ひとつ積極的に責められない原因の一つなのだ。今さら同
じ過ちを繰り返せるか。
でもこの時にはこれ以上に都合のいい理由は見つからなかった。
「変なこといってごめん」
やがて幼馴染が俺に謝った。「でも、それがあたしと付き合う振りをすることとどう
関係するのよ」
「まあ簡単に言っちゃえば、幼馴染と兄が付き合えば、俺にも妹ちゃんと付き合うチャ
ンスができるかもしれないだろ?」
「・・・・・・何かずいぶん単純に考えてるのね」
「複雑そうな関係だって、本当に突き詰めれば単純な姿が残るものだぜ」
俺は偉そうに言った。こういうときには自信満々の振りをした方がいいのだ。
「結局、おまえたち三人の関係って、安定しているようで、実はそれぞれ違うことを考
えているみたいだしさ。同床異夢っつうの? そこに一石を投じてみればまた何か動き
出すかもしれないじゃん」
何かどこかで聞いたよう状況だった。そう、それは俺と三姉妹との関係とすごく似てい
る状況だったのだ。でも今はそれについては考えまい。
「兄友ってもてるんでしょ? 普通に妹ちゃんに告ってみればいいじゃない?」
幼馴染は嫌がらせのように言った。
「・・・・・・今のままじゃ誰が告ったってだめだろ。兄に依存しまくりだもんな、妹ちゃん」
俺は思わず笑ってしまった。俺がもてるって? そんなにもてるくらいなら今頃姉さ
んは俺の腕の中でいつかのように熱い吐息を吐いて柔らかな肢体を俺に任せているだろう。
俺は自分やこいつが思っているほどにはもてないのだ。だからこういう遊びを繰り返
しているのだ。
「俺は考えていることを全部話したぜ。どうする? 話に乗るか?」
「わかった。やるよ。兄友君と付き合っている振りをすればいいのね」
俺は今日初めて心から笑った。
「それでこそ幼馴染だ。今日からは『君』なしな。よろしく幼馴染」
「こちらこそよろしくね、兄友」
幼馴染もその気になったようで嬉しそうな微笑みを俺に向けてくれた。
今日はおしまい
久しぶりに再開しました
我慢できずにかけもちスレを始めてしまったんですけど女神の終了まではこっちを優先します
駄文にお付き合いありがとうございました
きてたー
乙
おつー
我慢しろよww
>>583
スレタイは?
>>586
ビッチ
>>587
?
俺はその日のうちに姉さんにメールを送信した。ちょっと訳があってしばらくは兄や幼
馴染たちと一緒に登校するからという簡単なメールを。どうせ姉さんは苦手な満員電車で
の通学と何より嫌々一緒に登校していた俺から解放されてせいせいしていることだろう。
姉さんからの返信は早かった。
from :姉さん
sub :Re:無題
『了解〜。頑張りなよ』
姉さんからの短いメールを見て俺はため息をついた。やはりこういう内容か。
姉さんの嫉妬とかを真面目に期待していたわけではないけど、やはり少しは姉さんにだ
って俺に未練があるのではないかと期待する気持ちが俺には残っていた。
でも兄にベタ惚れの幼馴染を俺に惚れさせるこのゲームを始めたのは俺自身だった。今
さら姉さんのことを恋しく思っても手遅れだ。
一瞬、真面目に幼馴染に興味を持ったことを俺は後悔した。やはり姉さんに優しくして
地道に仲直りをしていた方がよかったのかもしれない。また俺の悪い癖が出てしまったみ
たいだ。
とにかく始めてしまったことは今さら仕方ない。俺は次の日から幼馴染と行動を共にす
ることにしたのだった。
翌朝俺が自宅の前で待っていると約束どおり幼馴染が姿を現した。
「兄友、悪い。ちょっと待たせちゃったかな」
昨日の打ち合わせどおり幼馴染は親し気に俺のことを呼び捨てにした。やはりこいつは
思っていたより飲み込みの早い女だったようだ。
「よう幼馴染」
「じゃあ行こう。兄と妹ちゃんの乗っている電車に遅れそうだよ」
その朝、俺たちは無事に兄と妹と車内で合流することができた。
予想どおりと言うべきか。兄は俺と幼馴染が一緒に現われたことを気にしているようだ
った。やっぱりこいつは幼馴染のことが好きなのだろう。幼馴染の恋を成就させてやると
約束した俺にとっても、兄一筋な妹友にとってもこれはいい傾向と言えただろう。
でもここまでわかりやすいとお約束過ぎて面白くない。それに幼馴染が兄と結ばれよう
が、それを仕掛ける過程で幼馴染が俺のことを好きになろうがどっちでもいいと思ってい
た俺だったけど、その前提はやはり俺と姉さんとが少なくとも普通に一緒にいられること
だった。
よく考えたらせっかく姉さんが昔の俺に受けた恥かしい仕打ちを何とか忘れてくれて
(もちろんモモに対する脅迫が功を奏したということはあるけど)、俺と一緒に登校する
ようになったのに、俺は幼馴染の一件のせいで姉さんと一緒に登校する機会を自ら放棄し
てしまったのだ。それも余計なメールまでして。
ちょっとやり過ぎて失敗だったかもと俺は後悔した。いつもなら姉さんとはこの車両の
隣の車両で一緒に登校していたのに。俺はむなしくいつも一緒に乗っていた車両の方を見
た。
・・・・・・見間違いじゃない。
するとそこにはいつもと同じ場所につり革に掴まった姉さんがいた。姉さんはどういう
わけかチラチラとこっちの車両の方を探るように眺めていた。
ちゃんとメールしたのに何で姉さんがここにいるんだ。姉さんは混みあった電車とかが
苦手なので以前はもっと早起きして何本か前の空いている電車で通学していたのだった。
俺と一緒にこの時間の電車で登校するようになってからも、何でこんなに混みあった電
車で登校しなきゃいけないのよとかって、俺は散々姉さんに文句を言われたものだった。
もっともそういう姉さんの文句は俺にとって嬉しかった。そのことを俺は姉さんは俺に脅
かされて怯えながら嫌々俺に付き合ってくれているだけではないという証拠のように受け
取ったから。
いったい今朝、何で姉さんは一人で俺と一緒の時間の電車に乗ってきたのだろう。つい
うっかり習慣で乗ってしまったのだろうか。
それとも。
そう考えると俺はわくわくした。幼馴染なんかどうでもいいと思えるほど。
姉さんは再び俺のことが気になっているのだろうか。そして俺と幼馴染の仲を確認する
ためにわざわざ自分の嫌いな混みあった電車に乗り込んだのか。
俺はもう兄や幼馴染のことは気にせずに姉さんを見つめた。その時一瞬俺と目が合った
姉さんは顔を赤くして俺から目を離した。
きっと姉さんは俺と幼馴染の仲がどうなっているのか気になってわざわざ苦手な混んだ
電車に一人で乗ったのだ。
俺はこの時幼馴染とか兄とかをこの場に放置して姉さんのところに駆け寄って姉さんの
手を握ったり肩を抱いたりしたかった。きっと人混みが苦手な姉さんは一人でこの電車の
中で心細い思いをしているに違いない。
でも再び姉さんが俺のことを気にしているのではないかという期待は大きかったけど、
動機はともかく俺は昨日幼馴染の恋に協力すると約束したばかりだった。いくらなんでも
初日で約束を破るわけにもいかなかった。
それに何よりも姉さんをもっと俺に惹きつけるためにはここは少し姉さんにやきもきし
てもらった方がいい。ここで俺の方から姉さんに擦り寄って行けばせっかく俺の方に向き
出した姉さんの気持ちが再び俺から離れて行きかねない。
正直に言うと俺だってこの時は辛かった。あれだけこの手に収めたかった姉さんがあの
別れの時以来初めて手を伸ばせば触れるところにいるのに。
でもここは迷うまでもなかった。俺は自分に言い聞かして姉さんから目を逸らした。
学校の最寄り駅で降りる時、何気なく姉さんの方を見た。再び俺と目が会った姉さんは
やはり少し赤くなって慌てたように俺から目を離すと改札口のほうに歩いて行ってしまっ
た。
次の日から毎日俺は幼馴染と行動を共にした。朝の登校から昼休みの学食まで。その成
果は明白に表れていた。俺が幼馴染と一緒にいるとちらちらっとこっちを見る視線を感じ
た。それはクラスのやつらの視線だったけど、その中には兄の探るような視線も混じって
いたのだ。
俺と幼馴染の作戦はここまでは順調に進んでいるようだった。
その日は何だか不穏な様子だった。兄と妹と車内で合流して間もなく俺と兄は幼馴染の命令で隣の車両に追い払われた。どうも兄のやつが何かやらかしたらしい。
渋る兄を問い詰めるとようやく兄が白状した。どうやら兄に同じクラスの女が言い寄っ
たらしいのだ。
女、いやモモと言い換えてもいいけど彼女が兄に言い寄るなんて最初は信じられなかっ
た。モモは生徒会長のことを忘れて今は女神となっていることに満足しているはずだ。
そのモモがよりによってこんな平凡な兄なんかに惹かれるわけがない。いったいモモに
何があったのだろう。
兄から昨晩スーパーで偶然にモモと出会った話を聞かされても俺には一向にピンと来な
かった。
とりあえず俺は兄友を煽った。
「ほう。女がおまえともっと仲良くなりたいと言ったわけだ」
「そうじゃねえよ。普通に学校で話しかけてもいいかって聞かれただけだろうが」
「そんなこと一々確認するやつなんていねえよ。わざわざそんなことを言うのには訳があ
るんだよ」
「訳って何だよ」
「おまえに意識させたいんだろ? 自分のことを」
「考えすぎだろ? それって」
「ああ、いいよなあ。持てる男はよ。妹ちゃんからはヤンデレ気味なほど愛されているの
に今度はクラスの謎の美少女から好意を寄せられるなんてよ」
「おまえにだけは言われたくねえよ」
「え? 何でだよ」
「うるせえな。何でもねえよ」
「おまえ何勝手に切れてんだよ。訳わかんねえよ」
「おい駅に着いたぞ。早く降りようぜ」
「誤魔化しやがった、こいつ」
兄を煽ってからかうのはいいけど、俺はそこでもう一つの心配事に気がついた。
姉さんはモモのことが好きみたいだった。もちろん同性同士でしかも掲示板でだけの交
流に過ぎないのでそれはままごとのような恋なのだけど、姉さんがモモに特別な想いを持
っていることだけは間違いない。
そのモモがリアルで兄に惚れたとしたら姉さんのメンタリティはどうなってしまうのだ
ろう。せっかく俺に傾斜しつつあるかもしれない姉さんの気持ちはまた俺を離れてしまう
かもしれない。
かと言って不確かな情報ではこれ以上は動きようがなかった。とりあえずモモのことは
様子見だ。そう思った俺は兄に促されるまま駅を出て学校に向った。
その時だった。いつの間にか近くに寄ってきた幼馴染は兄に言った。
「兄、ちょっとこっちに来なさい」
「・・・・・・何だよ」
警戒するように兄が聞き返した。それには答えずに幼馴染が俺に言った。
「兄友は妹ちゃんを教室まで送って行って。あたしはこいつに少し話があるから」
「話ってもう始業時間まであまり時間ねえぞ」
「すぐ済むよ。あんたはとにかく妹ちゃんを連れて行って」
何だかわからないけど、どうも幼馴染は俺にも相談せずに女とのことを兄に問い詰める
気でいるらしい。俺は幼馴染に協力することにした。
「お、おう。妹ちゃん、教室まで送ってくよ。行こう」
俺は妹に話しかけた。
「はい」
彼女は全て承知していたようですぐにそう返事をした。
今日はここまで
また投下します
乙
乙
兄友の思い付きの行動にみんなが振り回されてるな
その朝起こったことを俺は休み時間に幼馴染に呼び出されて聞かされたのだった。こい
つは相当動揺しているようだった。
でも話を聞いて俺は飽きれた。妹に悪いと思わないのかなんて言って兄を責めるとかっ
てこいつはバカか。
女のことはともかく兄がもし幼馴染のことを気にしていたとしたら、それも俺と行動を
共にしていることを気にしていたとしたら、その幼馴染に妹のことを思いやれとばかりに
女との仲を責められたらそれはいくら温厚な兄だって怒るだろう。
いっそ素直に告ってしまえばよかったのだ。俺は幼馴染を落とそうと考えていたことを
棚に上げて思った。
まあでもこれは幼馴染にとってはいいことではある。
「ああ、よかったじゃん」
俺は落ち込んでいる幼馴染に言った。
「よかったって・・・・・・最悪だよ。あんたの誘いになんか乗らなければよかった」
幼馴染は八つ当たり気味に言った。でも幼馴染を騙していることには変わりないのでそ
う言われても俺には抗議する資格はないのだろう。
「いや、予想どおりじゃんか。兄のやつ、俺と仲が良いおまえに嫉妬してるんだろ?」
とりあえず俺は解説してやった。「要はさ、兄は自分はおまえへの気持ちを、俺への遠
慮とか妹ちゃんへの遠慮とかで自分の中に押さえ込んじゃってるんだと思うよ」
「え?」
「それなのに、自分がクラスメートの女さんと少し話をしただけで、おまえや妹ちゃんか
ら責められたんだろ? そりゃおまえへの気持ちを我慢している兄としては切れたくもな
るし、嫌味の一つや二つは言いたくなるだろ」
「どうしたらいいの」
半信半疑だった幼馴染が次第に俺の話に縋りたいような様子を見せ始めた。俺は畳み掛
けた。
「このまま怒ってる振り、つうか振りじゃないかもしれないけど、とにかく始めたことを
最後までしようぜ。とりあえず、今日は兄を昼休みにぼっちにしちゃえよ。そんだけおま
えも妹ちゃんも怒ってるんだということを兄に気がつかせようぜ」
「・・・・・・よくわからないよ」
「ああ、説明するのも面倒だな。とにかく、昼休みは妹ちゃんと二人で過ごしな。妹ちゃんも兄と
おまえの朝の話を知りたがってたしさ。兄には俺からうまく伝ええておくから」
・・・・・・俺は何をやっているのだろう。
幼馴染に指示しながらも俺はふと考えた。姉さんが俺への好意らしきものを示し始めた
今となってはもう幼馴染を落とす必要はないということを、俺は改めて考えて見た。常識
的に考えればもう幼馴染を構うのは止めにして姉さんを落とすことだけに集中した方が効
率がいい。
でも幼馴染に偽装カップルの話を持ちかけたのは俺の方だった。今さら全てなかったこ
とにするのはいくら俺でも気が引けた。
こうなったら早めに兄と幼馴染をくっつけてしまおう。
俺はそう考えた。それに女と兄のことも少しだけ気になる。女つまりモモが俺の恋のラ
イバルだとしたらモモと兄が付き合いだすことは望むところとも言える。姉さんが知った
らモモのことを諦めるかもしれない。
でも俺はそれほどはモモのことは気にしていなかった。彼女が女神でいようがリアルで
誰かと恋をしようが、姉さんがモモと結ばれることなんてありえないから。
モモは同性愛者ではない。中学の頃生徒会長と付き合っていたことがそれを証明してい
る。それに姉さんの性格ではリアルの女に対してモモと呼びかけることなんてできないだ
ろう。だからモモは俺の姉さんに対する恋愛感情の障害にはなりえないのだ。
そういうことで兄とモモとが付き合い出すことは俺へのメリットでもないんでもないの
だから、俺は安心して幼馴染を応援することができた。
ただ一つだけ誤算があった。それは俺自身の魅力についてだった。俺はまさか幼馴染が
本気で俺にほれ始めるとは夢にも思っていなかったのだ。
もちろん兄と仲違いした幼馴染がいきなり俺に告白してきたとかそういうことではない。
むしろその頃の幼馴染は俺に不信感を覚えているようだった。
何となく感じ取っていたそれを幼馴染から直接ぶつけられたのは、休日に一緒に食事を
しながら今後の作戦を相談しようということになった時だった。
最近開店したそのパスタ屋は幼馴染の指定した店だった。一緒に窓際の席に着いた幼馴
染は自分からこの店をどうでもいいというようにメニューも見ずに何だかよくわからない
パスタを注文してから、俺がじっくりとメニューを眺めているのを苛立った様子を隠しき
れずにいた。
俺がようやくオーダーを済ますと間髪を入れずに俺を睨むように話し出したのだ。
「正直に言いなよ。あんたは兄に彼氏ができさえすれば、その相手があたしでも女さんで
もどっちでもいいんでしょ」
「何言ってるの・・・・・・俺は幼馴染と兄をくっつけようとしてこんなことしてるんだろう
が」
こいつはいったい何を言ってるんだ。一瞬俺には幼馴染の考えていることがわからなか
った。ただ、俺が当初考えていたように幼馴染を助ける振りをしながら、幼馴染の心を自
分に向けさせようとしていたことに気がつかれた訳でもないようだった。
幼馴染に最初に声をかけたときの意図は確かにそうだったから、それを指摘されたら俺
も少しは動揺しただろう。今では原点回帰して再び姉さんのことを何とかしようと思いつ
いた俺だったけど、最初は暇つぶしと言っては悪いけど、その程度の軽い気持ちで幼馴染
を何とかしてしまおうと考えたのは事実だったから。
「でもあんたにとっては、妹ちゃんが兄離れすればいいんだから、その相手は誰でもいい
はずじゃない。その証拠に昨日はどうよ? あんたの言うことに従ったばかりに兄と女さ
んが前より接近しちゃったじゃないの」
ここで俺はようやく幼馴染の考えていたことが理解できた。
正直俺は少し幼馴染の思考力に感心した。ここまで論理だって物事を推察する能力があ
るとは考えもしなかったからだ。彼女だって今は兄に冷たくあしらわれて感情的には相当
落ち込んでいていいはずだったけど、こういう状態でここまで考えつけるとは思わなかっ
た。
もちろんこの推理は全く事実とは違っていた。でも俺と違って幼馴染には情報がない。
幼馴染は俺が妹に一目ぼれしたという嘘を前提に推理するしかなかったのだから。
とりあえず俺は反論することにした。
「それは俺のせいじゃねえだろ。おまえが兄のこと過剰に気にするからこうなったんだ
ろ? 俺は兄はおまえにヤキモチを焼いてるだけだって話したのによ」
「じゃあ、何であたしと妹ちゃんと二人きりで食事させようとしたのよ」
幼馴染はついに声を荒げて俺に詰め寄った。
「それも俺のせいじゃねえだろ。おまえが妹ちゃんを炊きつけようとしたんだろうが。妹
ちゃんがいるのに兄は何を考えてるだの、妹ちゃんは兄を甘やかせ過ぎだのって」
「・・・・・・それは」
「それはじゃねえよ。おまえは兄のこと気にし過ぎなんだよ。一々兄の行動に一喜一憂し
てんじゃねえよ。だいたい、百歩譲っておまえが兄のことを気にするのはわかんねえでも
ねえけど、何で妹ちゃんまで炊きつける必要があるんだよ。おまえのライバルは女さんじ
ゃなくて妹ちゃんだろうが。履き違えてるんじゃねえよ。兄のこと好き過ぎて、不必要な
ほど気にしてるんだろうけど」
そう言いながら俺はパスタ屋に連れ立って入って来た兄と妹のカップルに気がついた。
俺はそれでもその時最善をつくしたのだ。幼馴染との会話をコントロールして俺たちに
気がついてこちらの会話に聞き耳を立てていた兄をさりげなく刺激することすらした。
でも結局幼馴染を宥めることができず、彼女は席を立って出て行ってしまった。俺はた
め息をついて後を追った。
何とか幼馴染を捕まえた俺は兄に仕掛けたことの意味を説明してやったけど、それでも
幼馴染は納得しなかった。
「もうやめる」
彼女が言った。
こうなったら仕方がない。ここまで来たらもう無理に幼馴染を引き止める必要もなかっ
た。
「いいよ、わかった。無理に勧めることじゃないしな」
俺は言った。「でも兄に謝りたいんだろ? せめて最後にその手伝いだけはさせてくれ
よ」
「・・・・・もう、あんたの助けは借りないよ」
「でもさ、さっきの俺たちの会話を聞いて兄が少しはおまえのことが気になってるとして
もだよ、おまえから兄に話しかけるのって辛いだろ?」
最後に少しだけ余計お節介をしてやろう。俺は思った。とりあえず幼馴染と恋人の真似
事をしたおかげで姉さんの気持ちを自分に向けられそうなのだ。感謝の意を込めて幼馴染
のフォローをしてやろう。俺としては兄が誰と付き合おうが今となってはどうでもよかっ
たし。
「俺が週明けに兄におまえと二人で昼休みを過ごしてくれって頼むから」
俺は幼馴染に言った。「もうこれで最後のお節介だからさ。幼馴染に迷惑なことをした
つもりはないけど、おまえにそんなに嫌な思いをさせたのならせめてそれくらいはさせて
くれよ」
幼馴染は戸惑った表情を浮かべた。俺に対する怒りはだいぶ収まってきたようだった。
「つうか、謝るくらいならいっそ告っちゃえよ。そこまでおまえが思い詰めてるならいっ
そ」
無言で考え込んでいる幼馴染に俺は畳み掛けた。
「これはマジで言うんだけど、妹ちゃんのことは気にするな。誓って俺がケアするから」
幼馴染は結局俺に同意した。週明けに兄を説得して幼馴染の話を聞くようにさせよう。
幼馴染についてはもう今日はここまで。ここからが本番だ。
俺はらしくなく少し緊張しながら姉さんにメールを送った。
from:兄友
sub :無題
『幼馴染に振られちゃったよ。俺もうだめだわ』
一瞬ためらって、それから深呼吸して送信ボタンを押した。たかが女にメールするのに
ここまで緊張したのも初めてだったかもしれない。
それから無理に返事のことは考えないようにして俺は場所を移動した。駅から少し歩いた
繁華街の真ん中に小さな公園があった。繁華街の中心という場所柄あまり雰囲気のいい公
園ではないけれど、振られたばかりの男がしょんぼりとしているにはこういう場所の方がいい
だろうと俺はとっさに考えたのだ。それに万一うまく行った場合には周囲にはそういう場所が
いくらでもあるということも、頭の片隅に浮かんだのかもしれない。
from:姉さん
sub :Re無題
『今どこ?』
それほど待たずに短い返信が姉さんから帰って来た。
俺は返信しなかった。返信したい気持ちはあったけど無理にそれを押さえつけた。そし
て姉さんが決断するまでの間、落ち着かない気持ちを逸らすために幼馴染たちのことを考
えていた。
あいつには情報がない。あいつの世界は兄と妹と幼馴染自身、それに俺がいるだけだ。
でも今では俺には見えていた。今起こっていることは、もはや兄たちの間だけの狭い世界
の恋愛感情の葛藤だけではなくなっているのだ。
あいつらの小さな世界は今では中学時代の女や会長、それに姉さんたち三姉妹と俺が繰
り広げた恋愛の葛藤に侵食されつつあった。もはや兄と妹と幼馴染の単純な三角形ではこ
とは収まりそうもない。そしてその原因は幼馴染たちにはなかった。期せずしてそのきっかけ
を作ったのはこの俺だ。そして多分次にこの三人の世界に干渉するのは女だろう。もうすでに
偶然に出会った兄と女はお互いに惹かれあっているのかもしれなかった。
携帯が鳴った。電話に出ると姉さんの声が響いた。
『兄友あんた今どこにいるの』
「・・・・・・何でそんなこと聞くんだよ」
『幼馴染さんに振られたって本当?』
「まあね・・・・・・変なメールしちゃって悪かったね。もう姉さんの邪魔はしないからさ。
じゃあおやすみ」
『待ちなさい。電話切らないで』
それまでの余裕が崩れ姉さんの必死な声が耳に響いた。
「俺・・・・・・これ以上姉さんに迷惑かけたくねえから」
その時電話の向こうで姉さんの泣き声が聞こえた。
『今さら迷惑なんて言うなバカ。あんたは・・・・・・あんたは』
俺は黙って姉さんの乱れた泣き声を聞いていた。
『中学生のあたしの処女を奪ったり、変な写真を撮らせたり、ご主人様とか呼べって言っ
たり、挙句の果てに幼馴染さんとの恋愛の相談に乗れって言ったり』
「悪かったよ。もう二度と姉さんには話しかけないから許してくれよ」
『うるさい、バカ。どこにいるか言え』
姉さんが泣きながら怒鳴った。
三十分ほどした時姉さんが駅の方から小走りに公園に入ってくる姿が見えた。冷静にし
なければいけない場面なのに、姉さんの姿を見た時、電話で動揺していた姉さんと同じく
俺も心が締め付けられるように震えるのを感じた。
「よかった・・・・・・いた」
姉さんが涙の残る顔で笑った。
「そりゃいるよ」
この時は俺も涙を抑えることができなかった。冷静に駒を進めていたはずの俺が泣くな
んて。
でも俺の涙を見た姉さんは迷うことなく俺を抱きしめてくれた。
「ばか。女をとっかえひっかえのあんたが幼馴染さんに振られたくらいで泣くんじゃない
よ」
姉さんが言った。顔は涙でぐしゃぐしゃだ。
「姉さん、顔ひどいことになってるよ」
「誰のせいだよ。あんな―――あんな今にも自殺しそうな暗いメール送ってさ。あんただっ
て情けない顔で泣いてるじゃん」
「自殺なんてするわけねえだろ。それにもう俺は姉さんに迷惑かけないことにしたんだ」
「あんたねえ。今まで散々あたしに迷惑かけてきて今さら何都合のいいこと言ってるんだ
よ」
「だって」
「何よ」
「このまま姉さんに甘えてるとまた迷惑かけそうだし」
「・・・・・・どういう意味」
「意味って」
「どう迷惑かけそうか言ってみなよ。今まで見たいなお芝居とか仕掛けとかじゃなくて」
「幼馴染に振られてショックだったのは嘘じゃねえよ。でも今姉さんを見たら」
「見たら・・・・・・どうしたの」
姉さんの声が震えた。
「見たら・・・・・・その、やっぱあんたのことが好きっていうか」
ここは正念場だった。俺はざわめく心を無理に押さえつけて姉さんを見た。
「あんた全然反省してないな」
「俺が本当に好きなのは姉さんなの! でもあれだけ酷いことしちゃって今さらそんなこ
と言えねえだろ。だから幼馴染と付き合って忘れようと思ったけど忘れられなくてさ。せ
めて相談に乗ってもらうだけでもいいから、あんたと一緒にいたかったんだよ。何か文句
あるか」
その時その恥かしい告白を聞いた姉さんは俺を抱きしめていた手を離して真面目な顔で
俺を見た。
「ほんとバカだよね、あんたもあたしも」
姉さんが俺にキスした。それは随分久ぶりの姉さんとのキスだった。
「あたしもあんたのこと好きだよ、兄友。あれだけ酷いことされても結局あんたのこと忘
れられなかったみたい・・・・・・ちゃんと責任取れよ」
俺は姉さんを抱きしめた。公園灯がぼんやりと周囲を滲ませている。どういうわけか普
段は夜でもカップルで賑わっているこの公園も今日は静まり返っていた。
「あんた、あたしみたいな地味な女で本当にいいの?」
最後に姉さんはそっと付け加えた。
本日はここまで
もう少しで終らせたい
乙乙
うん。全容が見えてきた
だけど女が不遇をかこっている現状を俺は未だに憂いている
いちおつ。
次女と妹友が不発弾なのも気になるな…
乙
その公園の周囲には選ぶのに困るほどラブホが並んでいた。そういうこともあるかもし
れないと思ってわざわざこの場所に姉さんを呼び出したのだから当然といえば当然だ。
でもその時は前に姉さんを無理矢理抱いた時のような無分別で無差別な衝動は全く感じ
なかった。
それよりもむしろ俺は泣き出したい衝動に駆られていたのだ。辛かったからでも寂しか
ったからでもない。以前姉さんを抱いたとき、絶対に姉さんに嫌われたと思っていたたま
れない気持ちで情けなく姉さんにしどろもどろで謝ったとき。
その時の姉さんの限りない許容のような優しさを再び感じ取っていた俺はどういうわけ
か泣きたくて泣きたくてたまらなかった。
この時俺は前とは真逆だけど再び手に入れた姉さんをどうこうしようという気持ちなん
か全く起こらず、ひたすら涙をこらえて身動きもしないまま姉さんを抱きしめていたのだ
った。
この時主導権を握ったのは姉さんだったみたいだ。姉さんは俺に抱き寄せられながら繰
り返した。
「ねえ何か言ってよ。本当にあんた、あたしみたいな女が彼女でもいいの? あんたもっ
と可愛い子とかといくらでも付き合えるのに」
俺は泣き声にならないように必死で頑張った。
「しつ・・・・・・しつけえよ。俺にはもう姉さんしかいねえよ」
「・・・・・・そう」
俺の腕の中で姉さんはようやく納得したようだった。
「じゃあ、これであたしはようやくあんたの彼女だね・・・・・・前は彼女なくて奴隷だったし
ね」
「・・・・・・・よせよ。そんなつもりなんかなかったんだって」
「わかってるよ。ちょっとからかっただけ」
姉さんは少し身じろぎして俺の腕から抜け出すようにした。
「・・・・・・これからどうしたい? 休憩とかしたい?」
俺は迷わず首を振った。したいかしたくないかで言えばもちろんしたかった。けど、何
となく今日だけはそういうことをしない方が姉さんが喜ぶのではないかとぼんやりとだけ
ど考えたのだった。そしてそれは正解のようだった。
姉さんは立ち上がった。
「じゃあ一緒に帰ろう。送ってくれる?」
「ああ」
俺たちはしっかりと手を絡み合わせながら駅の方に向かって行った。
それから俺は再び姉さんと登下校を共にするようになった。幼馴染との恋人ごっこがお
互いの合意の上で終了していったのでちょうどいいタイミングではあった。
校内では学年が違うせいで滅多に会えなかったけどそのせいか俺と姉さんのことが校内
で噂になることはなかった。
下校までの時間、俺はいつも姉さんが生徒会が終るのを待っていた。校内の待ち合わせ
場所に生徒会活動を終えた姉さんが小走りに俺の方に駆けて来るそのすらっとした姿が俺
は大好きだった。
そしてよく噂にならなかったと思うけど、俺は姉さんを半ば抱きしめるようにしながら
校門に向って二人でもつれ合うように歩いていくのが毎日の習慣になった。
姉さんは以前の俺の酷い仕打ちをもう完全に許してくれたようだった。というか、今で
は俺は姉さんに弟扱いされるようになっていた。
姉さんは一緒にる時いつも俺のことを甘やかした。校門を出て駅に向っていると姉さん
は毎日必ず俺が何をしたいかを聞く。俺が姉さんがしたいことでいいよと言うと、俺が遠
慮していると思うのか姉さんはますますしつこくなる。
「あんたのしたいことを言ってよ。何でも言うことを聞いてあげるから」
「姉さんと一緒にいるだけでいいよ」
「もうあたしに遠慮しないで。もう昔のことは忘れたから気にしなくていいのよ」
「うん。ありがと」
そう言うと俺は姉さんに怒られた。
「何でお礼なんか言うのよ、ばか」
姉さんを抱きたい。そう言いたい気持ちはもちろんあったけど、今はそれよりも姉さん
と一緒にいられるだけで満足だった。しかも一緒にいるとき姉さんはこれでもかというく
らいに俺を甘やかせてくれる。
姉さんは幼馴染や妹、あるいは女のように目立つ容姿ではないけど、多分俺にはこの女
が一番似合っているのだろう。中学生の時の性欲の暴発のせいで俺と姉さんはお互いに遠
回りしてしまったのだけど、俺たちはようやく収まるべききところに収まったのだ。
二人で一緒にいるだけでいい。そんな幼稚な付き合いにまさかこの俺が満足するなんて
思ってもいなかった。俺と姉さんのことは全く校内では噂になっていないけど、仮に噂に
なっていたとしたら俺は東北にいた頃のように羨ましがられることはなかっただろう。何
といっても姉さんはそんなに目立つ女の子ではなかったから。
でもそれは周りの男たちに見る目がないだけなのだ。
地味で背の高い真面目そうな副会長。そんな姉さんがどんなにいい女であるかを知って
いるのはきっと校内で俺だけなのだ。
一緒にいるだけで満足しているせいか、前みたいに姉さんの体目当てではないことを姉
さんにアピールしたかったせいか。
いろいろ理由はあったけど俺はしばらくの間姉さんをそういう意味では求めなかった。
その代わりに放課後はずっと姉さんと一緒だった。帰り道に寄り道して時間を潰す。そ
ろそろ帰らないといけない時間になると俺は姉さんを家まで送って行った。
姉さんの家の前まで着いてからが長かった。姉さんは俺を甘やかしていたけれど同時に
俺に甘えてもいた。家の前で何度もキスをねだられた俺はそれに応えた。姉さんには言え
なかったけど、それは実はすごく危険な行為だったのにもかかわらず。
この家には妹友がいる。姉さんには内緒だったけど俺は妹友をこれまでに何度か抱いて
しまっていた。どちらかというとあまり俺には執着を見せず、気まぐれに自分の体を抱く
俺に黙って好きなようにさせてくれていた妹友だったけど、どういうわけか自分の実力相
応の高校に入学せずこの学校に入学したこと頃から、俺は妹友と距離を置くようにしてい
た。
万一俺への執着心から進路を決めたとしたらやばいことになりそうだったから。
さいわいなことに今までは妹友からは当たり障りのないメールをもらったくらいで、特
に積極的に言い寄られてはいない。妹友は以前の俺と姉さんの関係も知らなければ、もち
ろん今俺たちが相思相愛の仲であることも知らない。
そんな彼女が自宅前で自分の姉貴といちゃついている俺を目撃したらどうなってしまう
のか。それは俺にはあまり考えたくないことだった。
それでも姉さんと離れがたかった俺は姉さんに誘われるままに危険を冒して姉さんの自
宅前で甘いひと時を過ごした。理性はこれが危険だと警告していたにもかかわらず、そう
いうことをしている間は妹友のことなんか全く考えられなかった。
その週明けの昼休み、幼馴染と二人で会うことを俺は何とか兄に納得させた。
「今日の昼は幼馴染と二人で食ってやってくれ」
俺は足早に教室を出て行こうとした兄を引き止めた。
「はい?」
「あいつがおまえに何か話があるんだって。だから頼むからそうしてくれ」
「よくわかんねえけど・・・・・・俺、妹を待たしてるんだけど」
そこに抜かりはなかった。俺は午前中に妹にメールして幼馴染のことを相談していたの
だ。
「そこに抜かりはねえよ。妹ちゃんにはさっきの休み時間に了解をもらっているからよ。
さあ」
「さあ、っておまえ」
「あいつもあそこで待ってるから。今日はあいつ、おまえに弁当作ってきてるからさ」
ここまで言ってもまだ迷っている兄に苛立った俺は少し語気を荒くした。
「早く幼馴染のところに行ってやってくれ。あいつも待ってるから」
「おい、ちょっと待てよ。おまえはそれでいいのかよ」
「いいのかってどういう意味だよ」
「だっておまえら付き合ってるんだろ。何で俺と幼馴染を二人きりにしようとする」
「付き合ってなんかねえよ」
いい加減にしろ。
俺は苛立った。これは幼馴染へのアフターサービスなのだ。兄と幼馴染のことなんか今
の俺にとっては心底どうだっていい。
「あいつは兄と仲直りしたいんだろ? 頼むからそれくらい聞いてやってくれよ」
「何か釈然としねえけど、おまえがそこまで言うなら」
「おう。恩に着るよ」
何で俺がこいつに礼なんか言ってるんだ。俺は兄が女と付き合おうが幼馴染とくっつこ
うがどうでもよかったのだ。俺には今では姉さんが隣にいてくれるのだから。
「何でそこまで必死なんだよ」
本気でこいつうざい。
「別に必死じゃねえし。じゃ、俺は妹ちゃんのお弁当を頂いてくるからな」
「おい、ちょっと待て」
「じゃあな」
ようやく兄を幼馴染の告白の場所に行かせることができた俺は心底ほっとした。
これで幼馴染への義理も果たせた。この告白の結果がどうであろうとこれで俺と幼馴染
の偽装カップルは本当に終了だ。
さてこれからどうしようか。俺は時間を持て余していたし昼飯をどこで食うのかも考え
なければいけなかった。
兄にはああは言ったけど本気で妹と一緒に昼を過ごすつもりなんかなかった。自惚れか
もしれないけど、万一妹が俺に惚れても困る。
偽装カップルを幼馴染に持ちかけたとき、俺は妹が気になると言ったけどもちろんそれ
はただのフェイクだった。
今度姉さんに弁当でもねだってみようか。俺はふとそんな考えを弄んだ。
これだけ幸せそうな表情で俺のことを甘やかせてくれている姉さんのことだ。俺が一言
頼めば姉さんのことだから深夜まで張り切ってお弁当を用意してくれるだろう。
でも姉さんだって三年生で受験勉強がある。俺のためにそんなことをさせるわけには行
かない。ただでさえ制度が変わって学園祭までは三年生が生徒会役員を努めることになっ
たのだし。
それに姉さんが無事に卒業して大学生になるまでは校内であまりべたべたするわけにも
いかなかった。いくら学年によって校舎が別れているとはいえ毎日俺と姉さんが昼休みを
一緒に過ごしていたら、噂になってそれが妹友の耳に入るかもしれないし場合によっては
直接妹友に目撃されるかもしれなかった。
妹友が目撃するのが俺と幼馴染の関係だったら、俺には何とかそれを収める自信はあっ
た。
男女には別れなんて付き物だしそれによって妹友が多少傷付いてもそれは仕方がない。
でもその相手が姉さんだとすると話は別だった。妹友も他人に俺を盗られるよりもはる
かに傷付くだろうし、それに姉さんが妹友のことを気にして俺のことを諦めてしまうかも
しれない。
ようやく姉さんを自分の手中に収めることができた俺にとって、それが一番まずい結果
だった。
そうして妹友との清算の仕方をうじうじと考えていた俺に、よりによってその妹友が声
をかけてきたのだ。昼食をとっている生徒たちで溢れている中庭で。
「お兄ちゃん?」
背後から俺に呼びかける声。俺のことをお兄ちゃんなんて呼ぶのは妹友くらいだった。
俺は恐る恐る背後を振り返った。
今日はここまで
また投下させていただきます
おつおつ
乙!男と女は果してHappy Endで終わるのだろうか?
何故そこでアルファベットを使うのか
カタカナでは駄目なんですか?
「こんなところで何してるの。いつもは幼馴染さんと一緒に学食にいるのに」
妹友は無邪気な声で言って中庭のベンチに座ってぼうっと考え事をしていた俺の隣に座
った。
「いや、別に何にもしてねえよ」
「そうなの。幼馴染さんは一緒じゃないの? というかお兄ちゃんご飯食べたの?」
「別に付き合ってるわけじゃねえから。いつもあいつと一緒にいるわけじゃないし」
俺は恐る恐る妹友に答えた。姉さんとのことがばれるよりはましなのだろうけど、かつ
て俺が好きだとか愛してるだとか適当な甘い言葉を駆使して自分のものにした妹友から冷
静な様子でこういう言葉をかけられると、俺は体中から嫌な汗が浮かんでくるのを感じた。
「幼馴染さんと付き合っるんでしょ」
妹友は俺の顔を見上げるようにしてにっこりと笑った。
俺はこの時一刻も早く妹友と別れてこの場から逃げ去りたかったけど、逃げ出すことは
おろか、どういうわけか妹友が微笑みながら俺を見つめている視線から自分の目を離すこ
とすらできなかった。
妹友を自分のものにしたときとは完全に立場が逆転しているようだった。俺は以前中学
一年生だった妹友のまだ幼かった肢体を抱いたことがあった。それも結構手荒いやり方で。
それは俺が姉さんたちには内緒で東北から自分の家に戻った時のことだった。最初から
妹友を抱くと決めて興奮していた俺は、彼女をメールで自分の誰もいない家に呼び出した。
その時の行為は妹友の俺への好意に付け込んだものだった。妹友は泣いて抵抗したのだ
けど俺は「愛してる」とか「本当に好きなのはおまえだ」とか適当な言葉を並べながら、
結局彼女を抱いたのだった。自分のベルトで後手に縛って抵抗できなくするようなことま
でして。
そのことが終ってひとしきり泣いたあと、妹友は俺を許してくれた。普段の俺ならその
後に少なくとも最小限のケアくらいはしただろう。でもその時の俺は東北にいたことをい
いことにその夜以降ろくに彼女には連絡を取らなかった。
今の高校に転校してきた時も、いつあの夜のことやその後の冷たい仕打ちに対して妹友
から責められても不思議ではないと思っていたのだけど、結局彼女は俺を責めるようなこ
とはせず連絡すら滅多にすることはなかった。そしてそれは妹友が実力相応校を蹴ってう
ちの学校に入学した後も変わらなかった。
その後幼馴染や兄たちとのこととか姉さんとのこととかにかまけていた俺は、都合よく
黙っているままでいてくれる妹友のことを次第に悩まなくなった。
そうして俺は少しづつ妹友に対する罪悪感や危機感を忘れていったのだ。
だから妹友に校内で話しかけられ幼馴染のことに言及された俺は本気で狼狽した。
それでも今までの俺なら相当遅ればせながらということになるけど、このときあらため
て妹友を宥めることはできたと思う。適当に機嫌を取って彼女の態度が柔らかくなったと
ころでキスするとか、進展によってはホテルに連れ込むとかそういう対応をすることはで
きたはずだった。
でも今の俺は自分でもどうかしていると思うほど姉さんのことだけを考えていた。以前
ならばれなければ数人の女と同時進行するなんてよくあることだったけど、どういうわけ
か今ではそういうことをする気にはなれなかった。
もちろん妹友とそういう関係に戻ったことを姉さんにばれたら、今度こそ永遠に姉さん
との仲が終ってしまうだろうという危惧も心中にはあった。
でもそれだけじゃない。仮に姉さんにばれずに妹友を誘って彼女を宥める保証があった
としても、俺にはもうそういう姉さんを裏切るようなことをする気がしなかったのだ。
俺らしくないけど姉さんにばれるとかばれないとかではなくて、俺自身が姉さんの信頼
を裏切りたくなかったのだ。
「お兄ちゃんって幼馴染さんと付き合っているわけじゃないのか」
心中ではどう考えていたのかわからないけど、少なくとも表面上は穏やかに妹友が言っ
た。俺に裏切られたとか体を弄ばれたとか、そういう恨みは微塵も感じられないような言
い方だった。
「お、おう。兄とか妹ちゃんとか幼馴染とか、そいつらみんなと仲がいいだけだからな」
「・・・・・・そうだったんだ」
「そうだけど。何か言いたいことあるの、おまえ」
本当はそんなことを言える立場じゃないけど、こういうときは落ち着いて少し強気なく
らいな態度に出た方がいいというのが東北で俺が女たちから学んだ教訓だったから、俺は
思わず今まで散々してきたようにそうした。
でも昔と違うのは俺が当時の女たちのことなんか少しも恐れていなかったのに対して、
今の俺は妹友を恐れていたということだ。
「お兄ちゃん、顔真っ青だよ。どうかした」
「どうもしてないけど」
「で、お昼ご飯は食べたの?」
「いや。何か食欲なくてな」
「そう。でも意外だなあ。あたし妹ちゃんからお兄ちゃんと幼馴染さんが付き合ってるみ
たいだよって聞いてたのに」
そういえば妹ちゃんはこいつと同じクラスだった。そんな話をしてたのか。
「意外だったな」
再び妹友が繰り返した。
「意外って何がだよ」
俺は相変わらず虚勢を張って言った。
「うん。あたしももう昔みたく子どもじゃないから。男女のことだからこういうのって
仕方ないと思ってたんだよ」
「それってどういう意味だ・・・・・・?」
「お兄ちゃんはもともともてる人だから、あたしなんかがいつまでも独り占めできるなん
て思ったことなかったんだ。だから、内心は寂しかったけどお兄ちゃんのこと好きだから
しつこくして困らせるのはやめようと思ってたの」
俺はこの辺で耳を塞ぐか逃げ出すかしたかったけど、どういうわけか体が動かない。
「だから妹ちゃんから幼馴染さんのことを聞いたとき、あの綺麗で人気のある人ならいい
かとも思って諦めもついてたんだけど」
何か不穏な空気が流れてきた。俺はこの時はもう黙って妹友の話を聞く以外にできるこ
とはなかった。
「でもお兄ちゃんの好きな子が幼馴染さんじゃないなら」
このとき初めて妹友の目に涙が浮かんだ。
「ずるいよ、お兄ちゃん。それはだめだよ」
一瞬顔を下げた妹友は再び俺の目を真っ直ぐに見た。相変わらず涙を浮べたままで。
「暗かったから目の錯覚だと思ったけど、家のまでお姉ちゃんにキスしてたのはやっぱり
お兄ちゃんだったのね」
言い訳しようとしたけど何も言葉が浮かばない。俺は青くなって凍りついたままだった。
再び妹友の言葉が俺の耳に届く。
「次女ちゃんが言ってた。お兄ちゃんがあたしたち姉妹の中から彼女を選ぶなら次女ちゃ
んかあたしのどっちかだって。お兄ちゃんは地味なお姉ちゃんは趣味じゃないからって」
「幼馴染さんならよかったのに。何でお姉ちゃんなのよ」
俺は全てがばれてしまったこのときになってようやく声を出すことができた。
「悪い・・・・・・俺だってびっくりしたんだけど。俺、姉さんが一番好きなみたいだ」
ここまできたらもう誤魔化すことは考えられなかった。俺の無分別な行為が仲の良い姉
妹を引き裂いたことに今になって俺は気がつき後悔した。
「・・・・・・もういい」
「妹友」
「幼馴染さんだったら祝福して身を引こうと思ってたけど、お姉ちゃんだったらそうもい
かないね」
「・・・・・・妹友」
「あたしお姉ちゃんと話し合うから。お兄ちゃんのことを責めるつもりはないけど、ここ
まで来たらもう姉妹の問題だし」
もうお終いだった。姉さんがこれを知ったら俺に愛想を尽かすだろうし、そもそも妹思
いの姉さんは自分から身を引きかねない。
「お兄ちゃん、顔真っ青だよ」
妹友が言った。「お兄ちゃんは気にしなくていいよ。これはあたしとお姉ちゃんの問題
だから」
もう俺には何を言っていいのかもわからなかった。
「じゃあまたね、お兄ちゃん。まだ時間あるし学食で何か食べた方がいいよ。本当に真っ
青だし」
そう言って妹友はもう俺の方を振り返らずに中庭を去って行った。
俺が混乱しながら中庭を出て薄暗い校舎内に入ったところで幼馴染と出くわした。兄に
告白した帰りなのだろう。
「・・・・・・屋上で妹ちゃんとお昼食べてたんじゃないの?」
幼馴染はずいぶんと冷たい声で俺に聞いた。
「いや」
でもそんなことを気にしている余裕は今の俺にはなかった。俺にとって今一番気になる
のは幼馴染の告白ではなかったのだ。
「体調でも悪いの? 顔が真っ青だよ」
幼馴染は少しだけ冷たい態度を改めて心配してくれたようだった。
「あ、あんた。まさか屋上で妹ちゃんに迫ったんじゃないでしょうね」
幼馴染は見当違いの心配をしていたようだけど。俺は心を取り直した。
「違うよ。今日の昼は妹ちゃんとは会ってさえいねえよ」
とにかくけしかけた以上結末くらいは聞くべきだった。
「・・・・・・どうだった?」
「はい?」
「兄に告ったんだろ? 兄は何と答えたんだよ」
「保留された。少し考えさせてくれって」
「そうか・・・・・・。まだ脈はあるようだね。よかったな」
「よかったなじゃないよ」
幼馴染は再び恐い顔で俺を睨んだ。
「あんたと仲のいい振りなんかしない方がうまくいってたんじゃないかな。兄はあんたの
こと気にして返事を保留したようなもんだよ」
「そうか。やっぱりそうだよな」
「やっぱりって・・・・・・あんたまさか、知ってて」
「んなわけないだろ。でも結果的におまえの邪魔をしたなら謝るよ」
それでも保留なら幼馴染にはまだ可能性はある。俺の場合は今日妹友が姉さんを問い詰
めた段階で、俺の恋は永遠に終ってしまうのだ。
「もう邪魔はしねえから。もう二人でベタベタするのも終わりだし」
これ以上、幼馴染の相談に乗れる気力は残っていなかった。俺は幼馴染をその場に残し
て教室の方に歩いて行った。
幼馴染は当初の俺に対する怒りを忘れてあっけにとられたように俺の方を眺めているよ
うだった。
短いけど今日は以上です
また投下します
作者です。しばらく間が空いてしまってすいません。
最後は少し慎重に投下したいという気もするので現在書き溜め分を見直しています。
来週中には投下したいと思います。
あとその間は気分転換を兼ねて別スレを進めていますけれど、終了まではこちらを
優先したいとは思っていますでのよろしくお願いします。
まってる
ザッピング王と呼びたいくらいにいい!
おつー
うーん
そっちのスレが終わったらでいいから教えてほしいな
待ってるぜ
慎重でもいい
逞しいストーリーであってほしい
3週間も間が空いた・・・・・
このままフェイドアウトする嫌な予感・・・・
>>629
作者ですがそれは絶対なです。でき不出来はともかくこれまで完結しなかったSSは一つもありません。
でも少し時間をください。長すぎたせいで兄友三姉妹編の設定と兄女編の設定が矛盾してるんで悩んでます。
繰り返しますけど満足してもらえるかはわからないけど、完結はさせますので
気長にまっとるよー
いつものように姉さんを家まで送って行く勇気はなかった。幸いなことに生徒会のミー
ティングがいつもよりだいぶ遅くなるので今日は先に帰ってというメールが放課後に姉さ
んから送られてきた。
正直俺はほっとした。姉さんを家まで送っていけば姉さんはいつものように自宅前で俺
に抱きついてキスをねだるだろう。妹友が自室の窓からそれを見ていたことがわかった今、
素直に姉さんに応じられる自信はなかった。
それに姉さんは俺が思い悩んでいるとすぐに気がついてしまう。これは昔からそうだっ
た。さっきの妹の会話の後で姉さんに何も気がつかれずに平静な振りをする自信なんて俺
にはなかったのだ。
もちろんこれは単なる逃避に過ぎないことはわかっていた。今日姉さんが帰宅すれば妹
友は俺との仲を姉さんに対して問い詰めるだろう。それがわかっているのだからせめて俺
の口から姉さんに事実を話して謝罪すべきだ。理性では俺にもそのことはよく理解できて
いた。
・・・・・・でも、絶対無理だ。俺が姉さんと復縁できたのだって奇跡のようなものだ。あれ
だけ嫌っていた俺を姉さんは許してくれたのだけど、それだって自殺しかねないような演
技まで駆使した結果なのだ。
姉さんは昔自分を性奴隷のように扱った俺のことは許してくれたかもしれない。そして
最近では改めて俺に惚れ直してくれたような態度を、俺を甘やかし俺に甘える態度を素直
に見せてくれるようにもなっていた。
でも、妹友を抱いてしまったことを知ったら今度こそ姉さんは俺のことを許さないだろ
う。まして、あれは半ば無理矢理してしまったことなのだ。
妹友が姉さんに事実を語ったら姉さんは二つの理由で俺から身を引くだろう。姉さんと
付き合いながら幼い妹友に手を出した俺への嫌悪と、もう一つは自分の妹の気持への遠慮
からと。
姉さんは昔から世話焼きで妹たちのことを大切にしている。妹友の俺への気持ちに気づ
けば自分から身を引くくらいのことはしかねないのだ。
つまり自分で事実を告白して謝っても妹友から事実を聞かされても、姉さんが取るだろ
う行動は想像できた。だからこの日、俺はせめて姉さんに振られる瞬間を先送りにするこ
とにして、一人で家に帰ったのだ。
胃が痛い。体調不良を理由にして夕飯をパスした俺は自分の部屋でベッドで横たわった。
女の女神行為を人質にとるようなことまでして、そして幼馴染に振られたような様子まで
見せてやっと再び俺の方を振り向かせることができた姉さんは、今頃俺に愛想を尽かして
いる頃だ。全部自業自得であることはわかってはいた。
姉さんの最近の言葉が繰り返し俺の胸中に浮かんでくる。
「よかった・・・・・・いた」
夜の公園で涙の残る顔で笑った姉さん。
「ばか。女をとっかえひっかえのあんたが幼馴染さんに振られたくらいで泣くんじゃない
よ」
その時の姉さんの顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
「ほんとバカだよね、あんたもあたしも」
そう言って姉さんは俺にキスしてくれた。
「あたしもあんたのこと好きだよ、兄友。あれだけ酷いことされても結局あんたのこと忘
れられなかったみたい・・・・・・ちゃんと責任取れよ」
抱きしめた姉さんの柔らかな感触。公園灯のぼんやりとした灯り。静まり返っていた夜
の公園。
「あんた、あたしみたいな地味な女で本当にいいの?」
あの時、俺に抱かれた姉さんは涙がうっすらと残った瞳で俺を見上げながらそう言った
のだ。
突然携帯にメールが届いた。姉さんからだ。
俺は恐る恐る本文を読んだ。
『今日は一人で帰らせちゃってごめん。寂しかった?』
『ばか生徒会長が生徒会をサボりやがってさ、この忙しいのに大変だったんだよ〜』
『だからあんたも機嫌なおしてね。あたしだってあんたと一緒に帰れなくて寂しかったん
だよ』
『今日は放課後に一緒にいられなかったから、明日は一緒に登校しようよ。あんたの好き
な遅い時間の電車でいいからさ』
『じゃあおやすみなさい、あたしのご主人様(ハート)』
『あ、今のは別に嫌がらせじゃないからね(汗)。でも、何か少しだけあの頃が懐かしく
なっちゃった。あ、でも勘違いしないでよね! あたしはあの頃のことなんか懐かしくな
いんだからね!(← ツンデレ)』
普段の俺だったらこれほど俺を喜ばせるメールはなかっただろう。でも今日はいろいろ
と無理だ。
このメールが俺にとって意味するのは、今は単に執行猶予中だということにつきる。妹
友がまだこの時間には姉さんを問い詰めていないというだけのことだった。その死刑執行
の予定時間はもちろん俺にはわからない。今この場で行われているかもしれないし、ひょ
っとしたら今夜は見送られるかもしれない。
明日の姉さんとの待ち合わせを考えると俺の気分はさらに暗く落ち込んできた。
妹友が自分の宣言したとおりの行動を実行したら、明日は多分姉さんは姿を現さないだ
ろう。何らかの事情で妹友が今夜は姉さんとは話さないことになったとしても、俺はすぐ
に訪れるだろう姉さんとの別れに怯えながら姉さんと過ごさなければならないのだ。
とにかく姉さんに何か返信しなきゃ。重い気持ちを励まして俺は姉さんのメールに返信
しようとした。
姉さんに振られる最後の瞬間まで、俺は姉さんを大切にしようと心を決めた。いろいろ
と姉さんにひどいことを強要したり彼氏としては不誠実に振る舞ってきた俺だけど、たと
え姉さんからどんなにひどい言葉を投げかけられたとしてもその原因を作ってしまったの
は俺なのだ。
東北にいた頃から姉さんとやり直すことができたとしたら。俺は姉さんに最初に振られ
てから何度となく考えていたことを久しぶりにまた考えた。中学時代の愚行を何とかカ
バーできたと思っていたけど、やはり相応の報いというのは逃れられないらしかった。
その時姉さんのメールが画面が切り替わり電話の着信画面が表示された。それは幼馴染
からの電話だった。
こいつのことをは正直忘れていた。今日、幼馴染は兄に告白して答えを保留された。あ
いつはそのことを俺のせいだと言って怒っていた。
また嫌味を言うために電話してきたのだろうか。最初は幼馴染を落とそうとして始めて
ことだけど、それは結果的に俺と姉さんのよりを戻すことに結びついた。ある意味で俺と
幼馴染はお互いを利用しあったといってもいい。俺はケアするつもりで幼馴染の兄への告
白の場面をセットしたのだった。
もうこれで俺のすべきことは十分にしただろう。俺はそう思った。今は姉さんのことだ
けでも俺の手に余るというのに。でも幼馴染の現在の悩みだって全部がとは言わないけど
俺が原因となった部分もある。
俺はため息をついて電話に出た。これまで自分勝手に生きてきた俺がぎりぎりの瞬間に
なって、姉さんや幼馴染など自分以外の他人の気持ちを優先せざるを得ない心境に陥って
いる。いったいこれは何の皮肉か罰なのだろうか。
「・・・・・・何だ幼馴染か」
俺は幼馴染の電話には出たけれど自分からはそれ以上話す気力もなかった。
『迷惑だった? それなら電話切るし、もう二度とあんたには電話しないけど』
幼馴染はそんな俺にむっとしたように言った。
「別にそんなこと言ってねえじゃん。何突っかかってるんだよおまえ」
とりあえず俺は無難に返事した。「おまえ兄友の返事待ちなんだろ。俺なんかと話して
ていいのかよ」
『・・・・・・そんなの兄にはわからないでしょう。つうかあんたマジで落ち込んでる?』
幼馴染はきっと兄友の気持ちに対する不安や俺への不満を話したかったのだろう。でも
俺の落ち込んだ様子は電話越しに幼馴染にも伝わってしまったようだ。幼馴染は少しだけ
声を和らげた。
「ああ。割とマジでな」
『あたしもさっきは言い過ぎたよ、ごめん。あたしだって納得した上でしたことだったの
に、全部あんたのせいにしたのはフェアじゃなかったよ』
『本当にごめん。あたし自分のことだけ考えてた。あんただって妹ちゃんのとことは全然
進展していないのに、あんたはあたしと兄のことだけを考えてくれてたのにね』
「・・・・・・別にそんなんじゃねえよ。で、どうした?」
妹のことを幼馴染に言及されて俺は一瞬戸惑ったけど、すぐに俺が妹に惚れたいたこと
になっていることを思い出した。とにかくこいつの話をきちんと聞くしかないなと俺は改
めて覚悟した。
意外なことに、このときの幼馴染の悩みは兄のことではなく今日突然自分に告って来た
男を振ったことだった。
『あたしは先輩のこと尊敬はしているけど、恋愛の対象とかには全然考えられないし』
今日の放課後、突然幼馴染は生徒会長に告られたのだと言う。兄のことを好きだった幼
馴染は会長の告白を断った。会長はいかにもあの偽善者らしくすぐに引き下がったのだと
いう。
あの偽善者ならそうするだろうなと俺は思った。あいつのことはそんなによく知ってい
るわけではない。でもぼっちの女なんかに固執して次女のことを断ったことだけは誉めて
やってもいい。もちろん俺は会長の存在のせいで次女への告白は不発に終わったのだけど、
そのせいであの夜俺は姉さんを再び抱くことができたのも事実だった。
会長が次女のような世間的に評判の女の子を断って、見た目はまあまあだけどいかにも
複雑そうで暗い性格の女を選んだのは男としては上出来だと俺は考えていた。
姉さんを選んで好きになって以来、俺は見た目だけで女を選ぶバカどもにうんざりとし
ていたから。
それはともかく会長はすぐに幼馴染の拒絶を受け入れたのだけど、幼馴染の好きな相手
を俺だと決め付けたのだと幼馴染は言った。
まあいいや。会長がどう思おうと俺にはどうでもいいし、幼馴染だって好きでもない相
手が身を引いてくれればそれでいいはずだ。
「だったら悩むことなんてないだろ? 先輩だって納得してくれんだから」
俺は幼馴染に言った。「おまえはもう普通にしてろ。俺と演技でベタベタすることもね
えし、先輩のことも気にするな。そんで兄のことを信じて待つしかねえだろ」
幼馴染は再び黙ってしまった。やはり兄の反応が気になっているようだった。兄のやつ
はどういうわけか俺のことを気にしているのだ。俺の幼馴染への恋を気にして返事を保留
したらしいのだから。
「悪かったと思うよ。兄がそんなにおまえと一緒にいる俺のことを気にしてるとは思わな
かった」
『それはもういいよ。あたしだって納得してしたことだし・・・・・・』
幼馴染に責められることを覚悟していた俺にとっては意外なことに、幼馴染は柔らかい
口調で言った。
「俺、とりあえず俺のことを兄が気にしないように、兄に働きかかけてみるわ。具体的に
どう言えばいいのかはわからんけど」
『・・・・・・だからそういうのはもういいって』
「わかってる。もうお前の邪魔になることはしない。でも、これは俺と兄の間の話だか
ら」
幼馴染はそれ以上は俺に反論しなかった。
『あたし、先輩のこと傷付いたかな?』
兄に関する以外の悩みを俺に相談することなんて初めてだと思うけど、その時幼馴染は
そっと俺にこう言ったのだった。
「そりゃ傷付いてるだろ。先輩、今夜は眠れないかもな」
俺ははっきりと言ってやった。この辺だけは誤魔化しても仕方ない。さっき姉さんは
メールで今日会長が突然生徒会をサボったと言っていたけど、こういうことがあった後な
ら無理はない。あの会長も今頃は久しぶりの失恋に悩んでいるだろう。
「でもそれはおまえのせいじゃねえし、おまえが先輩の告白にOKする気がないなら、こ
れ以上考えたってどうしようもねえことだな」
『・・・・・・うん、わかった。ありがとう』
幼馴染は俺に礼を言った。俺にはそんなことを言われる資格なんてねえのに。その時俺
は姉さんと明日の登校を約束したことを思い出した。
「じゃあな。明日はおまえと一緒に登校しねえから、俺の家に迎えに来なくていいから
な」
「え?」
幼馴染は一瞬戸惑ったようだった。
でも俺は幼馴染の様子には構わずにそう言って電話を切った。
翌朝の混み合った電車の中で姉さんを見つけた俺は、戸惑っている姉さんの手を引いて
一番後ろの車両に苦労して移動した。姉さんに振られるにせよ罵られるにせよ、兄や幼馴
染の目の前でそれをされるのはまずい。
半ば姉さんのことは諦めるしかないかと思い込んでいる俺だったけど、悩んでいる幼馴
染をこれ以上混乱させたくはなかった。
変な話だなと俺は自嘲的に考えた。俺にとっては破滅が目の前に迫っていいる今になっ
て、ようやく俺は他人の心情を忖度することができるようになったらしい。きっと今まで
の俺は性格的に破綻していたのだろう。そしてようやく普通の人並みに配慮できるように
なったこの時が俺の恋の終わりのときなのだった。
「いきなりどうしたのよ」
姉さんが俺に手を引かれながら最後尾の車両に着いた時に戸惑ったように言った。
「兄や幼馴染たちと同じ車両にいたくなかっただけだよ」
俺は目を伏せて言った。今朝のこの瞬間だけは姉さんと目を合わせることができなかっ
た。
「なんだそうか」
姉さんが笑って言った。「そんならそうと言えばいいのに」
その時、電車が急停止した。姉さんは迷わず俺に抱きついて転倒を回避した。姉さんの
柔らかい体が俺に押し付けられていた。
「そういやさ」
姉さんが俺に抱きついたままで俺の方を見た。
「昨日の夜、妹友に怒られちゃったよ。全部話も聞いた」
もう俺は目を逸らしているわけにはいかない。いろいろと覚悟した俺は思い切って姉さ
んと目を合わせた。
「あんたさあ、やっぱり妹友に手を出してたのか」
「・・・・・・うん」
「全くさ。もうあたしには嘘をついていないのかと思ってた。あんたのこと今度こそ信頼
してたのに」
「ごめん」
「ごめんじゃないでしょ。何で嘘ついたのか姉さんに話してごらん」
何か様子がおかしい。姉さんとの破滅はこんな柔らかなかたちで起こるわけがない。
姉さんは相変わらず俺に抱きついているし、自分のことを姉さんとも呼んでいる。姉さ
んがショックを受ければこんな余裕はないはずなのだ。それとも俺にあきれ果ててわざと
嫌がらせでしているのだろうか。
それがどうあれ俺は姉さんの怒りや不信をありのままに受け止めなければならない。そ
れだけのことを俺は姉さんにはしてきたのだから。
「俺、あの頃調子の乗っていて。その・・・・・・」
「そんなんじゃわからないよ。あともうちょっと声を低くしなよ。周りの人に聞こえちゃ
うでしょ」
姉さんは冷静にそう言った。
「悪い」
「全くあんったって子は・・・・・・って何泣いてるのよ!」
姉さんに手を引かれるようにして俺は途中の駅で電車を降りた。
「登校中に泣かれるとは思わなかったよ」
姉さんはそう呟いて俺を駅の外に連れ出した。ぎりぎりの電車に乗っていたので途中下
車した時点で遅刻は確定だったけど、俺の立場で今そんなことを姉さんに言えるわけがな
かった。
「お互い制服だしこんな時間にヤバイかなあ」
姉さんはそう言いながら俺の手を引いたままで駅前のファミレスに入って行った。
住宅地の駅前のその店は随分空いていた。モーニングのセットの他はカフェバーくらい
しかメニューにない時間だ。
「カフェバーを二つお願いします」
姉さんは案内された席につくとウェイトレスにそう言った。姉さんは注文した後も飲み
物を取りに行く様子はなく俺の目を見つめた。
「あんたさあ。もしかしたらあたしに別れ話をされるとでも思ってる?」
「うん。そうされても文句は言えないって覚悟してた」
「あんたあたしと別れたい? つうか妹友の方があたしより好き?」
俺は姉さんの口調に驚いて姉さんを見た。今まで柔らかい口調で姉さんは俺の妹友への
行為を問い詰めていたのだけど、今の姉さんはむしろ縋りつくような目をしている。俺の
ことをからかうまでもなく自分の方が泣き出しそうだ。
「ここまで来ると信じてもらえないかもしれないけど、俺は姉さん以外には好きな女なん
ていないよ」
俺は湿った声でようやく姉さんに言った。そんな余裕のない返事を聞いて姉さんは俺の
手を握った。
「今度こそ本当? あたし、あんたのこと本当に信じてもいいの?」
「うん」
俺はようやくそれだけ答えた。
「わかった。あんたのこと信じるよ」
「姉さん?」
「もともと公園であんたとよりを戻してからはもうあんたとは離れられないと思ってたんだもん」
姉さんはあっさりと俺にとっては重要なことを言った。胸の鼓動が高まっていった。
「昨日ね、あたし妹友と本気で喧嘩しちゃったよ。大人気ないにもほどがあるけどさ」
俺の中でこれまで考えたことすらなかった希望が芽生えた。
「あんたが妹友を無理矢理レイプしたんだったら、あたしはあんたのことは許せなかった
と思うよ」
姉さんが意外なことを言った。
乙
・・・・・・あれはレイプとほとんど変わらなかったのではなかったか。俺は混乱しながら思
った。でも、姉さんはそんな俺の様子には構わず話を続けた。
「あたしね、妹友と次女には昔からコンプレックスを感じてたのね。ほら、妹友はいかに
も可愛らしいって感じでしょ? よくおまえの妹って守ってあげたい感じだなってあたし
の同級生にも言われてたし。あとさ、次女だってすごくもてたじゃない」
確かに二人の妹のいいお姉さんだった姉さんは見た目は地味だった。そして自分のこと
は後回しにして妹たちの面倒を看ていたのだ。
「妹友はね、あんたのことが大好きだからあたしに身を引けって言ったの。お姉ちゃんみ
たいな地味な女の子はあんたの好みじゃないし、あんたにはふさわしくないって」
「それを聞いてあたし思った。今度だけは妹たちに遠慮するのはやめようって。あんたは
昔からもてるしその気になればいくらでも可愛い子と付き合えるのに、それでもあたしの
ことしか好きじゃないって言ってくれたじゃない?」
「それに妹友はあんたのことが大好きみたいだから、あんたは妹友を無理矢理何とかした
わけじゃないみたいだし」
「う、うん」
「だから許すよ、あんたのこと。あたしはあんたのことが大好き」
でもそのとき、突然の僥倖に戸惑っていた俺の様子を姉さんは誤解したみたいだった。
「あ。勝手に盛り上がっちゃったけど、あんたが本当は妹友とかみたいに可愛い子の方が
いいというならあたしはあんたから身を引くよ?」
「姉さん」
「うん」
「姉さんごめん」
謝罪する俺の言葉を聞いて何か勘違いしたらしい姉さんの顔が青くなった。俺が姉さんを振るのだと勘違いしたみたいだ。
今までもこの女のことが一番いとおしいと思っていた俺だったけど、このときの姉さん
は今までで一番俺を萌えさせてくれた。そして姉さんにふられるという不安から解放され
た俺は、思わず姉さんの腕を乱暴に掴んだ。
「姉さんを悩ませちゃってごめん。俺、姉さんと別れたくない。頼むから俺の彼女でいて
くれよ」
突然俺に腕を痛くされても姉さんはそのことには触れず、俺に向かって泣き笑いの表情
を見せた。
「うん。あんたのこと信じるよ。もうあたし誰にも遠慮しないね。妹たちにも幼馴染さん
にも」
「ありがとう姉さん。愛してる」
「うん」
姉さんは突然顔を赤くして言った。「・・・・・・今日学校休んじゃおうか」
「別にいいよ」
「あたしよくわからないんだけど、ラブホって朝からでも入れるの?」
「え?」
「抱いてよ兄友」
「・・・・・・俺、今日金持ってねえんだけど」
「あたしが持ってるよ」
姉さんがテーブルの伝票を掴んで立ち上がった。
「行こう」
「うん」
完全に姉さんに主導権を握られていたけど俺は幸せだった。もうこれで俺と姉さんの間
には何の障害もないのだ。
・・・・・・よく考えたら注文して料金を支払っただけで、そのファミレスでは何も飲んでい
なかったな。そうぼんやりと考えていた俺の腕にレジで支払いを済ませた姉さんが抱きつ
いた。
「で、ラブホってどこにあるの?」
姉さんがのん気な声で、でも甘えるように俺に聞いた。
久しぶりに更新できた。
今日は以上です。
間隔があいてしまってすみませんでした。
乙
ふむふむ。いよいよラストスパートだな
また前のペースに戻ってほしい
そういうわけでそれからしばらくの間は、俺は心に余裕のある状態で日々を過ごすこと
ができた。何といっても妹友に問い詰められた姉さんの反応に怯えていた昨日までとは心
の余裕が全く違う。
は思い出そうとすればすぐに久しぶりに俺に抱かれた姉さんの姿を思い出すことができ
る。それは初めて結ばれたときのようなハプニングの記憶でもなく、姉さんを手荒に扱っ
て倒錯的な快楽を追っていた頃の記憶でもない。それは互いに思いやりながらもお互いの
体をよりよく知ろうとするように愛撫しあいながら気持ちを高めあった愛のあるセックスの記憶だ。
あれは本当に心を許しあった男女の営みだった。俺の下で乱れていた姉さんは本当に可
愛らしかった。何でこんなに姉さんのことが好きなったのだろう。実はここまで姉さんと
親しくなれた今でもそれについては自分でもよくわからなかった。
俺とほとんど変わらない身長ややたらに細い体格。胸だって俺の好みからすれば貧弱だ。
姉さんの目は綺麗だけど一般的な男の嗜好から考えればやや細く小さすぎるかもしれない。
そして唇は薄いけれども口のサイズ自体は少し大きめだ。
どういうわけか俺の知り合いの女の子は容姿が整っている女の子が多い。幼馴染や妹も
そうだし、何よりも姉さんの妹たちだっていつも男の目を惹きつけていた。三姉妹が揃っ
ているときに一番目立なかったのは姉さんだった。それに俺が東北の頃付き合っていた女
だって姉さんよりは目立つ容姿をしていた。
それでも初めて姉さんを抱いたあの夜から俺がことあるごとに思い出していたのは、そ
ういうことをしたときに初めてわかった姉さんの真っ白で綺麗な裸身だった。妹友を抱い
たり積極的に俺に声をかけてきた東北の女だって抱いたときの反応は可愛らしかった。で
もそんな記憶も姉さんをこの手に抱いたときの記憶に比べればすぐに霞んでしまう。
俺は幸運だったのだろう。幼馴染の世話焼きの地味な姉さんが俺にとって一生の伴侶に
したい女だと気がつくことができたのだから。青い鳥とはまさにこのことだ。そして何よ
り俺のこの想いはは一方通行ではない。妹友の件でさえ俺と姉さんの間を引き裂くことは
できなかったのだ。
ここまで理解できれば俺の人生の目標は単純だった。俺の成績はいいのだから社会的な
面で成功を収めることは疑いがない。あとはその俺の伴侶なのだけど、今となってはそれ
は姉さん以外には考えられなかった。
俺は一生姉さんと添い遂げるのだ。姉さんと結婚して子どもを作って姉さんと一緒に育
てる。
かつては人生は先がわからない冒険のようなものだと俺は思っていた。それだからこそ
面白い。女だって同じで、一人に決めてしまうなんて馬鹿げているとも考えていた。でも、
今となっては少なくとも人生の伴侶だけはもう冒険なんかする気にはなれなかった。
姉さんだけいれば俺にはもう他の女はいらない。
心の安定を取り戻したせいもあるし、これからは姉さんにふさわしい男になりたかった
ということもあった。
姉さんは基本的に自分のことは度外視してでも人の世話を焼くタイプだ。それは自分優
先で生きてきた俺とは全く異なった価値観だった。この先姉さんと二人で手を携えて生き
て行くには、俺も姉さんの価値観に歩み寄る必要もあるだろう。
そういう思いもあって俺は少し真剣に幼馴染のこともフォローしようと思った。姉さん
なら自分を頼ってくれる友人のことを突き放したりはしないだろう。たとえ自分が幸せの
絶頂にあったとしても。
それに俺には幼馴染には借りがある。本人は気がついていないだろうけど、姉さんと疎
遠になっていた俺は人気のある幼馴染を狙っていた。結果として姉さんと復縁できたのだ
って幼馴染のことをネタにしたからだとも言えるのだ。
幼馴染は兄に告白して返事を保留されていた。彼女にとっては中途半端で辛い状態だっ
ただろう。
俺はそんな幼馴染を慰めるとともに兄に対しても働きかけた。こいつはどうも俺が幼馴
染を好きだと思い込んで遠慮しているようだったから、そんなことは気にするなと何度も
兄に言ったのだ。それでも兄がうじうじと煮え切らないでいたある朝のことだった。
姉さんと待ち合わせる前の電車の中で俺は目を疑った。朝の車内で、兄とあの女が手を
握って見つめあっていた。
二人は何かを笑顔で話し合っているようだった。
何だこれは。
女は今では会長とも別れて自他共に認めるぼっちとして校内で孤立していたはずだった。
そしてそんな女のコミュニケーションの場所は2ちゃんねるの女神板だけのはずだった。
女子高生の癖に大学生と名乗り恥かしい裸身を晒しては、それに興奮して群がってくる
名無しの男たちにちやほやされることに満足している女神のモモ。
それが今の女の姿だった。その女がどういうわけか兄と仲良く手をつないでいる。俺じ
ゃなくても女が兄に対して気があるのは一目瞭然だった。それに兄の方も満更でもないら
しい。
幼馴染のことはどうするんだよ。
俺は心の中で毒づいた。せっかく俺が幼馴染をケアしてやろうと思った矢先にこれだ。
いったい兄は俺に対して何か恨みでもあるのだろうか。
その時兄が俺を見つけて平然とした声で俺に声をかけてきた。
「兄友、おはよ」
「おう兄・・・・・・え?」
俺はそのとき初めて女と兄との親密ぶりに気がついて驚いた振りをしてやった。
「えって何だよ」
「おまえさ」
「あ、いや」
俺の視線が兄と女が握っている手の方に向けられているのに気がついた兄が狼狽したよ
うに言った。
「・・・・・・おまえ、そういうことだったの?」
「兄友君おはよう」
女が俺にもあいさつしたけど俺はそれを無視した。おはようモモと言わなかっただけで
も俺にしては気を遣ってやった方だ。
「・・・・・・俺がバカだったのかな」
「おまえ、何言ってるんだよ」
兄は明らかに挙動不審だった。身に覚えがあるに違いない。というか手をつないでいる
時点でアウトなのだが。
「俺、おまえのためならあいつのこと忘れようと思って、時間ずらしたりあいつに話しか
けないようにしてたんだけどよ」
今にして思うと俺はよくそんな図々しいことが言えたものだ。でも幼馴染の気持ちを考
えたらそれくらいは言ってやってもいいはずだと俺は思った。
兄が女を好きなのならは幼馴染の告白を保留したりせずあいつを振るべきだったのだ。
変に気を持たせたりせずに。幼馴染は今でも兄のことで悩んでいるはずなのに。
「おまえ、最低だな」
俺は兄に言い放った。
「何か勘違いしてるぞおまえ」
うるせえ。
「幼馴染の気持を知りながら返事もしないであいつを悩ませておいてよ。自分は他の女と
浮気かよ」
「違うって。話を聞けよ」
そう言いながらも兄は女と握り合った手を離そうとはしなかった。
「女さんが好きなら何ですぐに幼馴染のことを振ってやらねえんだよ。おまえ、自分が好
かれてるっていう気持を楽しみたいから幼馴染への返事を引き延ばしてるだろ」
「・・・・・・てめえ怒るぞ」
「怒るって何だよ。誤解だとでも言いてえのかよ。登校中の電車の中でしっかりと女さん
の手を握りやがって」
本当は俺になんかそんなことを言う資格はないのだ。でもこのときの俺は自分のことは
棚に上げて幼馴染の保護者のような心境になっていた。とにかく誰かが気にしてやらなけ
れば幼馴染がかわいそう過ぎるではないか。
「握ってると言うか、握られて」
この期に及んでまだ言い逃れようとしている兄に対して俺は嫌悪感を抱いた。まるで姉
さんに惚れる前の俺自身を見ているようだ。そう考えるとこの二人の前にいることすら疎
ましく感じるようになっていく。
「じゃあな。おまえとはもう話さねえから。あと幼馴染にも全部今朝のこと話すからな。
もうおまえなんかに遠慮したり気を遣ったりするのはやめだ」
俺は兄に言った。兄はもう黙って女の手を握り締めているだけだった。開き直りやがっ
たか、こいつは。
「・・・・・・言い訳すらなしかよ。まあいいや。じゃあな」
俺はもう黙ってその場を離れることにした。
少し落ち着いてくると、また別な不安が脳裏をよぎった。
姉さんは一時期女神行為にはまっていたことがある。もともとそれを姉さんに強制した
のは俺だったのだけど、そのうち俺は姉さんの肢体を知らないやつらに見せることに耐え
られなくなった。しかも姉さんは女神になることにはまったらしく、俺でさえ知らない間
に頻繁に自分の裸身をアップするようにさえなった。
俺が姉さんに女神行為を止めるように言ったのはもう姉さんが俺のことを見限っていた
頃だったから、姉さんは俺を振ってそのまま女神行為を続けたのだった。
その頃そんな姉さんにも俺以外に好きな人ができた。それはモモ、つまり女だった。
俺と姉さんはモモの中の人が女であることを知っている。逆にモモの方はハンドルネー
ム、ユリカが自分の学校の副会長である姉さんであることは知らない。
そういう状況の中で女が兄と付き合い出したことを知ったら、姉さんはどういう反応を
示すのだろうか。幼馴染の兄への恋心を心配するより前に、俺はそっちの方が気になった。
これまで姉さんと女のことなんか真剣には気にしたことはなかった。
確かに俺は姉さんを取り戻そうと足掻いていたとき、姉さんに脅迫まがいのメールを送
ったことはあった。
それは姉さんが俺と仲直りしなければモモの正体が女であることをネット上でばらすぞ
という内容だった。
今改めて送信履歴を見ると、俺はこういう内容の脅迫メールを姉さんに送信していた。
from:兄友
to :姉さん
sub :Re:Re:久しぶりだね
『ひどいなあ姉さんは。姉さんの恥かしい写真をばらまくなんて考えていないって言った
でしょ。それに最初に俺に抱かれた後、姉さんは俺のこと嫌いにならないって言ってたじ
ゃん。何でころころ気持ちを変えるのさ』
『まあいいや。俺は姉さんのこと好きだから姉さんの写真を公開しようなんて思わないよ。
俺はただ姉さんと仲直りしたいだけなんだから。もちろんただの幼馴染としてね。姉さん
がまた俺に犯されるんじゃないかって心配しているとしたらそれは誤解だよ。だからよく
考えて俺の言うとおりにした方がいいよ』
『あ、あとさ。警察とか言われると俺も一応自衛しとかなきゃいけないんでもう少しだけ
話させてね』
『姉さんって本当に考えなしで行動する人なんだね。俺、正直飽きれちゃったよ。まあそ
こが姉さんの可愛いところなんだけどさ』
『しかし意外だったなあ。姉さんがドMなことはあの夜からよくわかっていたつもりなん
だけどさ、まさか姉さんが同性愛もいける口だったなんてね。俺、次女のことは正直ビッ
チだと思ってたし、俺があの夜犯したのは清純な年上の姉さんだったと思ってたんだけど、
まさか姉さんの方が次女よりビッチな女だったなんてびっくりだぜ』
『姉さんはモモ◆ihoZdFEQao(笑)に抱かれたいの? 雑談スレで噂にまでなってたじゃ
ないか。お前ら二人の仲が怪しいって。それで気になってモモっていうコテハンの女神を
追ってみたらさ』
『正直驚いたよ。あの生徒会長の彼女がモモ◆ihoZdFEQaoだったなんてさ。ユリカ=由里
子なのはよく知ってたけど、女=モモなんて嘘みたいだ』
『モモの画像もほとんど回収できたんだけどさ、彼女のあの制服どこのだかわかる? あ
れって俺の東北の中学校のブレザーなんだよね。しかもあの顔の隠し方じゃ知ってる人な
ら誰でもモモが女だって特定できちゃうよね』
『あ〜あ。何で女たちってこんなに情弱で無防備なんだろ』
『姉さん。これが最後のチャンスだよ。姉さんのことをどうこうしようなんて思わないけ
ど、俺は女には何の義理もない。姉さんが俺と仲直りしてくれないなら、女の実名付きで
モモの画像をネットに晒すよ。そうなったら女の人生はそこでお終いだよね』
『それともそれは酷すぎるから、それをネタにして女を脅迫して俺の性奴隷にしちゃおう
か。次女が会長に振られたのだってあいつが原因なんだし責任を取らせてもいいかもしれ
ないね』
『それにその方が女にとって幸せかもね。あいつも生徒会長みたいな腑抜けじゃなくて俺
の女になれるんだしさ。最初は抵抗するかもしれないけど、すぐにあいつを俺に夢中にさ
せる自信くらいあるぜ』
『姉さんが愛する(笑)モモのことを放っておいてほしければ明日の放課後、俺の教室ま
で来い。堂々と幼馴染の俺をを迎えに来るんだよ』
『じゃあまた明日、姉さん。明日放課後に姉さんが俺を迎えに来なかったらモモじゃなく
て女がどうなるかわかってるよな』
『そうそう。話は変わるけど今日姉さんが面接する幼馴染っていう女の子はいい子だから、
生徒会役員に合格させてやってくれよ。それも頼んだよ』
『じゃあな、俺の可愛い姉さん』
あの時のメールを改めて見ると後悔と恥かしさと姉さんへの申し訳なさがごちゃまぜに
なって、いてもたってもいられない気持ちになる。姉さんが俺にとって一番大切な女で生
涯を共に過ごしてもいいと思い始めた今の俺は、こんなひどいメールを送信した当時の俺
をぶん殴ってやりたかった。
でもあのときの俺には余裕がなかったのだ。掲示板でのユリカとモモの絡みを最初に見
つけ、そしてそれが姉さんと女だと知ったとき、俺はショックを受けるよりはこれで姉さ
んを脅迫して再び姉さんに俺を見つめさせる機会を得たのだと小躍りした。
そして姉さんへの脅迫メール。幸い幼馴染とのその後の進展のこともあって姉さんは俺
を許し、再び俺を好きになってくれた。そして姉さんを取り戻した俺はもう二度と姉さん
を傷つけるようなことはすまいと心に誓ったのだ。
今、俺が不安に感じ出したのは全く別次元の話だった。
姉さんと女の子の関係を本気で心配したことなんかなかった。しっかりとしたお姉さん
的なキャラの姉さんが、実は被虐的な嗜好を持っていることは事実だったと思う。
でもその相手は俺以外にはいない。あるいは百歩譲って姉さんが俺以外のやつに虐めら
れたいと思ったことがあるにしても、少なくともその相手は異性である男であるはずだ。
姉さんがド変態のマゾ女であったとしても、さすがにネット上でしかやり取りしたこと
のない、しかもリアルでは高校の後輩の女の子をそういう目で見ることはないだろう。
俺はこれまではそう考えていたので、姉さんを手に入れてから女のことを気にしたこと
はなかった。
実際にモモであるところの女がネットの女神行為では飽きたらず、よりよって兄のよう
な平凡だけれども、どういうわけか周囲の女の子から好意を寄せられている男に言い寄っ
ている。
姉さんがモモのことが気になっていたのは間違いなかった。でもその彼女がリアルでは
人付き合いや異性との付き合いに興味を示さず、女神行為をすることで満足していること
に姉さんは安心していたのだろうと俺は考えた。
それに少なくとも女神板では姉さんのモモに対する恋のライバルはいなかったのだから。
女が兄と付き合っているらしいという事実を姉さんが知ったらどうするのだろう。俺に
惚れている姉さんは微笑んで、モモちゃんもよかったねって言ってくれるかもしれない。
でも。
もし姉さんが女がリアルで兄に対して恋していることに対して動揺したとしたら。
もし姉さんの中にモモに対する執着が残っていたとしたら。
それでももう姉さんに隠し事はできなかった。俺の姉さんに対する気持ちは本物なのだ。
事実を伏せてまで、この先の長い生涯を姉さんと共に暮らしてはいけないのではないか。
今日の放課後には姉さんに女と兄のことを話すしかない。
俺はそう覚悟した。
今日は以上です
明日は別スレのほうを更新するのでこっちの更新はそれ以降になります
無駄に長いSSへのお付き合いいに感謝します
乙
乙
乙だぜコノヤロー⤴
乙ん
夜の公園で今にも自殺しかねないほど落ち込んでいた兄友を抱きしめたあたしだったけ
ど、それが彼の演技であることは少しすると理解できてきた。それでもあたしは兄友との
復縁を後悔はしなかった。彼の演技はあたしを自分のものにするためだったことは疑いな
かったから。
別れた彼から再び脅迫めいた言葉で付き合うように言われあたしは、彼に反発して、た
びたび彼を蔑むような言葉を口にしていた。兄友に不信感を抱いていたからだ。
こいつはあたしに振られたとき、あたしに大恥をかかされたことを根に持っていたのだ
ろう。だから東北からこの学校に転校してきた兄友はあたしに声をかける機会を狙ってい
たのだ。そして偶然かもしれないけど兄友は格好の餌を見つけた。それは女神板にアップ
されたモモの裸の画像だった。申し訳程度にしか顔を隠していないあの画像を兄友が見れ
ばモモが女さんのことであることはすぐにわかったことだろう。何と言っても兄友は中学
生活の最後の一年を東北の同じ学校でモモと一緒だったのだから。
あたしは兄友に脅迫されて嫌々彼を教室に迎えに行った。それからあたしは毎朝兄友一
緒に登校するようになったのだ。
でもあの公園で泣いていた兄友とあたしは再びよりを戻した。
あのときに感じた兄友への愛情は嘘ではなかった。あたしは本気であたしのような地味
な女をつなぎとめるために演技までしてみせた兄友のことを許してあげようと思ったのだ。
それからしばらくあたしたちはお互い遠慮しあいながらも少しづつ仲を深め合っていた。
何といっても前回の失敗のことがあるのだし、すぐに普通の恋人同士のようなわけにはい
かなかった。それに兄友は女の子たちに人気があった。これが次女や妹友にならわかるけ
ど、どうして彼があたしなんかに執着しているのかわからないという不安感もあたしの中
にはあったから。
それでもあたしは次第に再び兄友に夢中になっていたのだ。考えてみれば彼ほど女子高
生にとって理想的な彼氏もいないだろう。見た目はこのマンモス校内の男子の誰にも引け
を取らないし、成績は優秀で部活こそ面倒くさがってしていないけど運動神経だって抜群
だ。そんな彼が彼の周りに群がっている綺麗で積極的な女の子たちのことを見向きすらせ
ず幼馴染で年上のあたしにだけ夢中になってくれていたのだ。
生徒会副会長としての対面もあったし、こんなあたしが年下の兄友の彼女として校内で
目立つのも嫌だったからあたしはぶつぶつ文句を言う年下の彼氏を説得してなるべく目立
たないような付き合いをすることにした。
兄友は以前とは打って変ってあたしに優しかった。たいていのことは口に出して望むだ
けで兄友は優しく笑って理解を示し、あたしの言うとおりにしてくれたのだ。こんなあた
しが兄友のような彼氏をゲットし、彼はあたしの本気で惚れていてあたしのいうことなら
何でも聞いてくれる。こんな関係に不満をもらしたら兄友狙いの同学年の子たちに何と言
って非難されるか想像すらできない。
そういう兄友はあたしにとっても素直にかわいかったから、あたしも随分と彼を甘やか
したり逆に彼に甘えたりもした、
妹友から彼と別れるように責められたときだって、もうあたしはあまり動揺しなかった。
そんなあたしを見て何か今までのあたしとは違う匂いを感じたのだろう。あの子には珍し
く強い口調であたしを責めたばかりかあたしを貶すことすらした。
『いい加減に目を覚ましなよ。お兄ちゃんみたいなイケメンがお姉ちゃんみたいな地味な
女の子にマジぼれするわけなんてないじゃん』
次女ならいかにも言いそうなセリフだけど、これまでおとなしい女の子だと思っていた
妹友の口からこのひどい言葉が吐き出されたときあたしは驚いた。でも、今回ばかりは自
分に素直になろうと決心したのもそのときだった。
あたしに振られると思い込んでいた兄友が登校中に涙を流したとき、あたしは本当に心
を決めた。妹たちと仲違いしてもいい。兄友があたしを求めているのならあたしはこれま
でどおり兄友の女でいよう。
もちろん全く不安がなかったと言えば嘘になる。兄友はある意味ではもっとも信用でき
ない彼氏だった。あれだけもてれば誘惑だって多いだろうし、誘惑が多ければそのうちに
浮気心がわいてくることだってあるだろう。それに兄友の取り巻きの女の子たちには綺麗
な子が多かった。少なくともあたしより地味な女の子はいなかっただろう。
兄友をあたしに引き止める手段って何なのだろう。今のところ兄友は地味なところも含
めてあたしのことを気に入っているようだった。兄友が泣いた日、あたしは恥かしさを押
し殺して彼をラブホに誘った。そのときの兄友はひたすら優しかった。あたしは前に兄友
に乱暴された時との扱いの違いにびっくりしたのだ。
でも今にして思えばあの頃の乱暴な兄友だってあたしは嫌いじゃなかった。あの頃のあ
たしは兄友に求められたときは、縛られたり恥かしい言葉を口にするように強要されたの
だけど、それは決して嫌悪感だけをあたしに感じさせるものではなかったのだ。
兄友が他の女の子に誘惑されたとき、あたしが彼を取り戻すための武器がそこにあるこ
とにあたしは気がついた。どうも兄友には女の子を嗜虐的に苛めたいという性向があるら
しい。そして兄友を好きになるような綺麗な女の子たちはそんな彼の趣味を許容すること
はないだろうし、そういう嗜好の兄友に幻滅するだろう。
今のところは兄友はあたしに限りなく優しい。でも彼の興味が少しでも他の女の子に移
ったのなら、あたしは兄友を誘惑すればいいのだ。年上の幼馴染の女であるあたしをあん
たの好きなように苛めていいよって。
考えてみればこれは女性として限りなく卑屈な考え方だった。いくら女性らしさという
ことに関して劣等感を抱いているあたしにもプライドというものがある。本当に嫌なら兄
友の歪んだ嗜好を受け入れてまで彼を自分にひき付けておこうとすることもないのではな
いか。自分でもそう思わないでもなかった。
夜中に自室のベッドの横たわって無心に自分の心を探って見ると、実はそれは兄友を惹
きつけるための方便ではないような気がしてきた。
きっとあたしは兄友の嗜虐的な嗜好に呼応するように、苛められるのが好きな被虐的な
嗜好を持っているのだろう。そう思うのは初めてではないけれど、ここまで突き詰めて自
分の心の底を探ってみるのは初めてのことだった。
かつて兄友にされた数々のひどい仕打ちはあたしを興奮させたのではなかったのか。
兄友に命令されるまま嫌々するのだと自分に言い聞かせながら、東北にいる兄友にメー
ルを送るときあたしは兄友をご主人様と呼んだ。
それでも兄友があたしを文字で辱めそればかりか、妹友を差し出せと言ってきたとき、
あたしは初めて兄友に反抗したのだった。兄友も自分の嗜好に溺れていた中学生のガキに
過ぎなかったから、あたしが本気で兄友を一喝すると、すぐに態度を翻してあたしに対し
て許しを乞うメールを送りつけてきたのだった。
当時のあたしは調子に乗って処女の妹友を残酷に調教すると言ってきた兄友と別れたの
だけど、実は自分の妹すら兄友に苛められてしまうという想像に身を熱くしていたことも
否定できない事実だった。
あたしは兄友を手に入れた。でもあたしの嗜好は優しいいい彼氏になろうという兄友の
善意の決意に満足していないのだろうか。
ようやくそのことに気がついたあたしは少し憮然とした。全く、地味だということくら
いならまだしも地味な上に変態の女だなんて。
それから不意にあたしはモモのことを思い出した。モモとのスレでのやり取りは兄友と
よりを戻してからは全くなかったので、あたしが彼女のことを思い出すのも久しぶりだっ
た。
モモ『ふざけてないよ。あたしユリカが大好きだから、ユリカのこと抱いて虐めて滅茶苦
茶にしたいの♪ 駄目・・・・・・かな?』
あの時のモモのレスを読んだ時のあたしの中に浮かんだ感情はそのときから何回も反芻
しては興奮していたのだけど、再び兄友があたしの横にいるようになってかっらはモモの
ことを思い出すことも少なくなっていた。
そのレスはモモに成りすました住人の悪意あるレスだったのだけど、あの時あたし前に
兄友があたしにしたような行為を兄友によってではなくモモに強要されることを想像し、
そのことに戸惑いながらも興奮したことを再び思い起こした。
これも以前考えたことだった。あたしは世話好きなお姉さんキャラだと自他共に考えら
れていたのだけれど、意外とマゾ気質なのかもしれない。兄友に虐められていた頃は、嫌
々彼の趣味に付き合っていたのだと思っていたのだけれど、実はあたしには他者から虐め
られたいという願望があるのではないか。
そう考えればその相手は別に兄友でなくてもいいのだろうか。あたしはモモに裸にされ
て縛られて虐られている想像をしてみた。そしてそう想像しただけで胸の動機が高鳴って
あたしは狼狽した。
兄友への想いは嘘ではないけど、このままいつまでも兄友があたしのことをお姫様扱い
して大切にするだけだとしたら、あたしはそれに満足できるだろうか。ラブホで彼に抱か
れたとき、兄友は彼らしくなくあたしと結婚してあたしの子どもが欲しいと言った。その
ときは素直に嬉しくてあたしは自分の体の上にいる彼の頭を抱きかかえたのだった。
・・・・・・でもそれはあたしが本当に望んでいる道なのだろうか。
「おはよ、姉さん」
兄友が朝の電車の中であたしにあいさつしながらあたしの腕を引いて、あたしを片手で
抱き寄せた。つり革を確保できなかったあたしを支えてくれているのだ。
「おはよう」
あたしは寝不足だった。しかもその原因はわいせつとしかいいようのない想像をベッド
の上で巡らせていたせいだった。それでも朝の光の中で兄友の顔を見ていると昨日考えて
いたようなどうしようもない願望は姿を潜めていった。
そうだ。あれは気の迷いだ。兄友が大学卒業後はあたしと幸せな家庭を築きたいと言っ
ているのだ。あたしにとってはこんな幸せなことはない。夜の闇の中で考えた妄想が今で
はひどく恥かしい非現実的なことに思える。
「何だよ姉さん寝不足?」
「まあちょっと昨夜考え事しちゃってね」
気遣うようにあたしの顔を覗き込んでいる心配顔の兄友にあたしは微笑んだ。
「ちょっとって何だよ」
「ちょっとはちょっとだよ。っていうか、あんた何て顔してんの」
兄友の顔を見ていると昨夜の暗い後ろ向きな考えが姿を消していった。あたしは再び笑
った。
「また一人でにやにやしてるよ。気になるじゃんか」
「女の秘密だって。あんたってデリカシーないなあ」
兄友が少しだけあたしの冗談にむっとしたようだった。
「それは好きな女のことだから気になるよ。おかしければ笑えよ」
兄友は完全に拗ねてしまったようだ。こういうところも年下の彼氏らしくて可愛いとあ
たしは思った。
「怒るなよ。冗談だって」
「じゃあ昨日はいったい何考えてたんだよ?」
「あんたのこと」
あたしは微笑んだ。少なくともこれは嘘ではない。
兄友は不意をつかれたらしかった。
「・・・・・・姉さん、本当なの」
「うん。本当」
昨夜の憂鬱がすっかり晴れて行くのを感じる。やはりSMとかは二人の関係の単なるス
パイスに過ぎないのだ。あたしが兄友を愛しているというのは本当の気持ちだったのだろ
う。
「まあいいけど」
自分のことを考えていたと言われた兄友はそれで満足したようでそれ以上の詳細を求め
ては来なかった。
「それよかさ」
真面目な表情に戻った兄友が言った。
「うん」
「ちょっと言いづらいんだけどさ」
「何よ。もったいぶるな」
「いや・・・・・・。あのさ」
兄友が真面目な顔になって口ごもった。
「だから何だよ。早く言え」
「その、女のことなんだけど」
え? あたしは一瞬昨晩の淫らなあたしの思考が兄友にばれたのかと思った。
「あいつさ、何か兄と付き合ってるみたいなんだけど」
一瞬、周囲の世界が静止した。
女さん、つまりモモはリアルでは一切の付き合いを求めないぼっちのはずだった。過去
の唯一の例外は生徒会長だけど、彼女の引越しと次女ちゃんの悪意ある妨害によって二人
は引き剥がされたのだ。
それ以来、モモはもっぱらネットの中で人間関係を築いてきた。女神板ではモモはスレ
住民に崇拝されるアイドルだった。
それだけで彼女は満足していたはずなのに。
しかも相手は冴えない兄君なのだという。いや、兄君といえば兄友から幼馴染を奪って
いったのだから何か魅力がある男の子なのかもしれない。でもその兄君は何でリア充の幼
馴染さんに好かれているというのに、ぼっちの女さんなんかを選んだのだろう。
いや重要なのはそこじゃない。むしろモモは何であんなどこから見ても普通の男である
兄君なんかに惹かれたのだろう。
あたしの胸の中に再び昨晩の妄想が暗い影を落とした。あたしはモモがリアルで彼氏が
できたと聞いたくらいでここまでうろたえるくらいモモに執着したいたのだろうか。
モモと兄君が抱き合っている幻影があたしの目に浮かんだ。二人は相思相愛でモモはあ
たしなんかには目もくれない。あたしは二人が情熱的に愛し合っているベッドのそばに立
って、あたしに見向きもしないモモに恋焦がれている。
・・・・・・何であたしはこんなことを考えているのだろう。すぐ横に誰もがうらやむような
男の子があたしだけを考えていてくれるのに。
「・・・・・・・姉さん、何考えてるんだよ」
あたしの異変に気がついた兄友があたしにそっと声をかけた。
今日は以上です
もうほんの少しだけお付き合い願えれば幸いです
┌(┌^o^)┐レズゥ...
乙!
結局投げたか
まだー?
作者です
投げてないです。ただもう少しお待ちください
今週中には再開したいと思ってます
...| ̄ ̄ | < 続きはまだかね?
/:::| ___| ∧∧ ∧∧
/::::_|___|_ ( 。_。). ( 。_。)
||:::::::( ・∀・) /<▽> /<▽>
||::/ <ヽ∞/>\ |::::::;;;;::/ |::::::;;;;::/
||::| <ヽ/>.- | |:と),__」 |:と),__」
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\ \__(久)__/_\::::::| |:::::::|
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.|| ゙ヽ i ハ i ハ i ハ i ハ | し'_つ
.|| ゙|i〜^~^〜^~^〜^~^〜
年内にはケリを付けようぜ!
そのときはそれほどマジで悩んだわけではなかった。俺に幼馴染のケアをさせておきな
がら、てめえだけ勝手に女と付き合い出している兄にはムカついていたのは事実だったけ
ど。幼馴染をけしかけたのだから俺には最低限彼女をフォローする義務がある。だから俺
は女と手を繋いでいる兄に突っかかった。このとき兄がどう思ったかはともかくあれだけ
兄を責めている俺のことを空気のように無視したまま、女は兄の手を握ったままだった。
普通の女だったら俺にびびって手を離して俯くくらいはしそうなものだったけど。やっ
ぱりこいつはどこかおかしいと俺は思った。そして義務感から幼馴染の味方をしていた俺
だけど最後に兄に捨て台詞を吐いたときは自分でも驚くほどエキサイトしていた。
・・・・・・俺は二人が付き合い出したことを姉さんに話した。黙っているわけにはいかない
と思ったから。姉さんはそれを聞くと蒼白になって黙り込んでしまった。
「・・・・・・・姉さん、何考えてるんだよ」
姉さんの異変に気がついた俺は内心の恐れを必死に隠しながら姉さんにそっと声をかけ
た。
「ああ、ごめん。ちょっと意外だったからびっくりした。女さんは生徒会長と別れてから
は男の子には興味ないんだと思ってたからさ」
姉さんは気軽に笑いながら俺に答えたけど、その笑顔は無理をしている様子がありあり
と伝わってきた。俺だってだてに姉さんと長く一緒にいたわけではない。姉さんが俺に別
れを告げて女神板にのめりこんでいたときに、姉さんが気になっていた相手が誰だけはよ
くわかっていた。
・・・・・・恐れていたとおり姉さんは女が兄と付き合い出したことを気に病んでいるのだ。女
の子に嫉妬するなんて俺にとって初めての経験だ。姉さんは多少Mっ気はあるけど少なく
とも真性のビアンではないはずだった。俺に抱かれているときの反応だって決して嘘では
ないと思う。
もしかして姉さんはバイなのだろうか。
この先大学に入り就職して姉さんと幸せな家庭を築きたいという俺の恥かしい勝手な願
望を打ち明けたとき、姉さんは俺の体の下で幸せそうに微笑んで俺を抱きしめてくれた。
俺はそのとき姉さんの反応に満足して幸福だった。中学時代からお互いにすれ違ってきた
俺たちがここまでわかり合えたのだ。やっとここまで来た。それなのに女ごときに姉さん
の心をかき乱されるのはごめんだった。
俺は必死に自分に言い聞かせた。姉さんは女に彼氏ができたという事実に戸惑っている
のだろう。実際に女が女神行為をしていること自体には姉さんはあまり悩んでいた様子は
なかった。本当に女のことが気になるなら女の女神行為に悩んだっていいはずだ。
ネット上で一時期姉さんが心を惹かれた女が、自分の目の前でリアルに恋人ができたこ
とに対して姉さんは動揺しているだけなのだ。
俺は極力冷静に事を整理して考えようとした。まず一つには幼馴染への義理がある。俺
はあいつに兄との恋愛を応援すると約束した。幼馴染は一向に結果を出さない俺との恋人
ごっこに嫌気が差しているようだけど、それでも約束は約束だ。幼馴染を応援するという
観点からすると、兄と女のことを素直に祝福するわけには行かない。
もう一つは姉さんの気持ちだった。普通に考えれば俺にとって女は姉さんの心を引き寄
せている恋敵だ。ただ、女の方には全くそういうつもりはないし、多分姉さんだって本気
で女に惹かれているわけはない。それにしても少しでも姉さんが女のことを恋愛的に気に
なるのであれば、姉さんと俺の関係を考えれば、女と兄がうまく行ったほうが俺にとって
はありがたい。
でも仮に姉さんがバイで女のことが恋愛的な意味で気になっているとしたら。
その場合の姉さんの女への恋心(と呼んでいいものなら)は非常に変則的なものだった。
女が兄と付き合うことに嫉妬するのはまだしも普通の心理だったろう。だけど実際問題と
してテキパキとした生徒会の副委員長というのは見せかけで、本質的には姉さんは引っ込
み思案だ。その姉さんがリアルの女に求愛するなんて全く持って考えがたい。
そう考えると姉さんにとって一番いい状態は、普通なら考えられないけど女が特定の彼
氏と付き合わず不特定多数の人間に女神として自分の裸身を晒していることなのだ。自分
で姉さんに女神行為を強要しておいて何だけど、女神行為をする女の心理は不思議だ。姉
さんは女が女神であることには全く嫉妬していなかった。そう考えると姉さんが女のこと
を好きだったとしてもそうでなかったとしても、女が兄と付き合わずに孤独に女神になっ
ている状態が俺と姉さんの付き合いが存続する上では正解なのだった。
幼馴染と姉さんの両方の心を安らかにするためには答えはひとつだった。
兄と女を別れさせること。
幼馴染は兄を慰めようとするだろう。兄はすぐには彼女を受け入れられないかもしれな
い。でも女との復縁が絶望的だと理解すれば、自分の傍らで常に自分のことを心配してい
る幼馴染のことを気にするようになるだろう。それに二人はこうなる前は相思相愛だった
のだ。妹とか俺とかのせいでお互いの気持ちを確かめられなかっただけで。
一方、姉さんだって女が自分の目の前で兄といちゃいちゃしなくなるなら、悩むことも
なくなり、再び俺のことだけを見つめてくれるだろう。姉さんにとって女は多分偶像なの
だ。実際に付き合いたいというより手の届かないところにいて欲しいという願望の産物な
のだろう。
すべきことはだんだん俺の中で明白になってきた。女を元の状態に戻してやればいい。
兄と付き合いだす前のぼっちの状態に。それで幼馴染と姉さんも、いや妹さえも幸せな状
態に戻るのだ。
問題はそのための手段だった。いくら俺でも惹かれあっている男女を別れさせるのは難
しい。手っ取り早いのは女のほうに接近して女の気持ちを俺のほうに向けさせるというこ
とだった。自信がないわけではなかったけど、絶対の保証があるかというとそれはない。
兄ごときに女の気を惹く競争で負けるとは思わないとはいえ、相手は変わり者の女だ。必
ずしも俺に惹かれてくれるとは限らない。たいていの相手なら、それが幼馴染でも妹でも
負けるとは思えないけど、それが女相手だと思うと正直俺にも自信はなかった。
そうなると俺が握っている手段はただ一つだ。女の女神行為の証拠。もともと女に気が
ありそうな姉さんを脅迫するために集めていたものだけど、今となってはどうもそれを使
うしか手段がないようだ。
さすがの俺にもすぐには決断できなかった。それは姉さんを脅すための道具であり姉さ
んが俺の女になってくれた以上、道義的には使うべきではない手段だ。
それでも他に手段がなければ俺はその武器を使ってしまうのだろう。
「兄友どうしたの? 何考えてるの」
姉さんが考え込んでいる俺に話しかけた。もう姉さんは自分の悩みから立ち直っている
ようだった。
「いや・・・・・・何でもないよ。姉さんこそ大丈夫?」
「大丈夫って? あたし何か変だった?」
姉さんは無理をしていた。姉さんは俺に微笑みかけたけど、俺にはそれがわかった。本
当に俺が決心したのは姉さんのその微笑を痛ましい思いで見たこの瞬間だった。
「姉さんさ、女と兄のことどう思う?」
決心した以上俺はもう迷わず姉さんにストレートに聞いた。
「どうって・・・・・・別に」
姉さんの女へのこだわりは俺と姉さんの間では別に秘密ではなかったので、そっち方面
から姉さんを攻めることもできたけど、俺はあえてそうしなかった。
「じゃあさ、幼馴染のことどう思う?」
「・・・・・・別にどうも。てかあんた何言いたいの?」
「幼馴染っていい子でしょ」
「・・・・・・何でそんなこと聞くの? やっぱりあの子のことが気になるの」
心なしか姉さんの声が震えた。もちろんそれは姉さんの誤解なのだけど、俺は姉さんが
俺の気持ちに動揺したことに勇気づけられた。
「んなわけねえだろ。俺は姉さん以外の女なんかに興味ねえよ」
「じゃあ何でそんなこと聞くのよ」
「幼馴染は兄のこと好きなんだよね。兄と女が本格的に付き合い出したら、きっと幼馴染
は傷付くと思う」
「そうか、そうだよね」
姉さんの心の平穏のため、俺と姉さんの仲を救うため俺は兄と女を別れさせなければい
けない。でも、その目的を姉さんに悟られてはならない。姉さんだってきっと自分の気持
を明確に理解できずに混乱しているに違いない。だから俺は姉さんの女に対する気持ちの
ことには全く触れずに、兄と幼馴染のためという目的だけを前面に押し出した。
「女には悪いけど、兄は幼馴染と付き合うべきだと思う。ずっと前からお互いに好きあっ
ていたんだし」
「・・・・・・うん」
「兄は今は女のことに夢中になっていると思うけど、いつか絶対に後悔すると思うよ。昔
から好きだった幼馴染を傷つけたことを」
ここからはさじ加減が難しい。兄と女を別れさせる目的は姉さんの気持ちを俺から離さ
ないためだけど、そのためにあからさまに女神行為をしているビッチの女なんか兄にはふ
さわしくないと言うわけにはいかない。俺はかつて姉さんにそれを強要したことがあるの
だから。
「女ってさ、本当はいいやつだと思うよ」
別にそれは嘘ではなかった。あれだけ校内で友人もなく孤立しながらも彼女には全く卑
屈なところがなかったし、拗ねて反抗的な様子を見せるでもなかった。容姿も綺麗としか
いいようがない。見た感じでの雰囲気では、卑屈なぼっちというよりはミステリアスで凡
人を側に寄せ付けない孤高の美少女という感じだ。
彼女はぼっちではあったけど別に虐められたり馬鹿にされたりは全くしていなかった。
なので、たまにお節介な女の子が彼女と仲良くしようと試みたけど、女には全く相手にさ
れなかった。
「でも兄にはふさわしくないと思うんだ。兄って良くも悪くも本当に普通の男じゃん。女
さんみたいにわが道を行くタイプの女の子と付き合っても結局兄が傷付くだけだと思うん
だよね」
「それはそうかもね」
姉さんが俺の垂らした餌に食いついた。
「それにそんな兄を見たら幼馴染だってきっと傷付くと思う。幼馴染は姉さんにとって生
徒会の後輩でしょ? そんなあいつの姿を姉さんだって見たくないでしょ」
女が兄と付き合うことに対する姉さんの悩みを解消する手段を、俺は遠まわしに提示し
たのだ。幼馴染のため、そして兄のため。そういう大義名分のもとに姉さんは女と兄が付
き合い出すことに対して自分でもよく理解できていないであろうもやもやとした悩みを解
消することができる。
「俺は姉さんが何と言おうとあいつらを別れさせるよ。それは幼馴染と兄のためだ。こん
な頼りない俺でも一応あいつらの友だちだしさ。俺にはそうする義務があると思う」
姉さんが少し迷いながらあやふやな表情でつぶやいた。
「・・・・・・兄のためだものね」
「そうそう。そして幼馴染のためでもある」
「でも、どうやって別れさせるの?」
姉さんが真面目に聞いた。俺は緊張していた自分の体の力を抜いた。姉さんを納得させ
ることができたのだ。俺は笑って姉さんを抱き寄せた。電車の中には登校中のうちの生徒
たちで溢れていたのに。
「こら。人目があるでしょ」
姉さんは赤くなって小さな声で言った。大丈夫だ。俺はまだ姉さんに嫌われていない。
手をつけずに放置していたらそうなっていたかもしれない。でも俺はこの短い時間に正し
い判断をすることができたのだ。俺は姉さんを抱きしめた。
「だから目立つって言ってるのに」
姉さんは素直に抱き寄せられながら言った。
「それで別れさせるってどうやってするの?」
もう周囲の人目を気にすることなく俺にべったりと寄り添ったままで姉さんが上目遣い
で言った。
「兄を説得するしかないだろうな。ずっと兄を見てきた幼馴染の気持ちを考えろって」
「そんなのでうまく行くかなあ。好きになっちゃうとお互いに周囲が見えなくなるだろう
し」
全くそのとおりだ。俺にはあの二人を説得して別れさせる自信なんてなかった。ただ一
つ付け込める点があるとしたら、兄は女の女神行為のことを知らないだろうということだ
った。女だって自分の恥かしい行為をわざわざ兄に話すわけはない。黙っていればわから
ないことなのだ。
でもその手段を取ることは姉さんに話すことではなかった。なんと言っても姉さんもま
た女神だったのだから。
このとき俺が考えていたのは女の女神行為を兄に対して匿名で知らせることだけだった。
自分の好きになった女が誰にでも裸を見せるような女だと知れば、あの常識的な兄なら女
に対して嫌悪感を抱くだろう。
この時点では女の女神行為を不特定多数に知られることになるなんて結末は、俺自身に
だって夢にも考えていなかったのだ。
今日は以上です。
更新スピードは前よりだいぶ遅くはなりますけど完結はさせます。ただ年内に終るかどうかはわか
りません。
それではまた。
お疲れさん
乙乙。
待ってたぜ
(;^▽^)
そろそろ続き書かないと落ちそう
...| ̄ ̄ | < 続きはまだかね?
/:::| ___| ∧∧ ∧∧
/::::_|___|_ ( 。_。). ( 。_。)
||:::::::( ・∀・) /<▽> /<▽>
||::/ <ヽ∞/>\ |::::::;;;;::/ |::::::;;;;::/
||::| <ヽ/>.- | |:と),__」 |:と),__」
_..||::| o o ...|_ξ|:::::::::| .|::::::::|
\ \__(久)__/_\::::::| |:::::::|
.||.i\ 、__ノフ \| |:::::::|
.||ヽ .i\ _ __ ____ __ _.\ |::::::|
.|| ゙ヽ i ハ i ハ i ハ i ハ | し'_つ
.|| ゙|i〜^~^〜^~^〜^~^〜
作者です。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい
何とか週末には投下できるように頑張ります
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい
>>678
えたらなければ何の問題もないよ
期待して待ってます
その日の昼休み、俺は久し振りに幼馴染を誘った。幼馴染との偽装カップルを解消して
からは幼馴染と一緒に昼を過ごすことはなくなっていたので、俺の誘いに幼馴染は怪訝な
様子だった。それでも彼女は昼になると俺の誘いに応じて肩を並べて屋上についてきた。
幼馴染の表情が緊張しているような照れているような赤みを帯びていたことに俺は気がつ
いていた。
こいつは今日は随分しおらしいというか可愛らしい表情をしていた。気の強い幼馴染ら
しくない。そのことが少しだけ俺には気がかりだった。これから幼馴染にとっては辛い話
を報告しなければならないのだ。
それでも言わなければならないことには変わりはない。俺は覚悟して兄と女のことを幼
馴染に話し出した。
「話してくれてありがと」
幼馴染が微笑んだ。「そしてあたしのために兄に怒ってくれてありがとう。でも、もう
平気だから、あたし」
「あのさあ。俺の前でまで無理するなって」
こいつが無理をしているのは見え見えだった。
「ありがとう」
そうして幼馴染は何か言おうとしたけど、それは嗚咽に飲み込まれて消えていった。両
目には涙が浮かんでいる。
「・・・・・・それでいいよ。今は好きなだけ泣いてればいいさ」
とりあえず俺は泣きじゃくる幼馴染の肩を抱き寄せた。姉さんに見られたら誤解される
な。一瞬そう思ったけど、さすがにここでこいつを突き放そうとは思わなかった。
「・・・・・・離して」
しばらくして泣き止んだらしい幼馴染みが小さく言った。
「悪い。つい」
「本当に女に慣れてるんだね」
少しだけ笑顔を作って彼女が続けた。「でもありがと。もう平気だし兄のことも割り切
れると思うから」
俺は幼馴染みのためとか口では姉さんに言いながらも本音では姉さんのために、いや、
もっと言えば自分自身のために兄と女を別れさせようとしていた。だけどこのとき幼馴染
の泣き声を見た俺はそのことを後悔した。こいつはこんなに苦しんで、しかも無理をして
こんな俺に気を遣わせまいと笑顔を作ろうとしている。
姉さんと自分のことだけを考えて兄と女の仲を引き裂こうとしていた俺は、どこかで幼
馴染の気持を軽視していたのだろう。これまで彼女を自分のための駒と見なしていたこと
は否定できなかったのだし。
俺が取ろうとしている行動に、利己的ではない目的が追加されたのはこの瞬間だった。
今にして思えば、このときから俺は躊躇することなく行動できるようになったのだ。
「おまえ、絶対に兄を許そうなんて思うなよ。そんなのあいつらの思いどおりになっちま
うだけだからな」
俺は俯いたままの幼馴染に言った。「兄に何て言われても納得するなよ。あんなぼっち
のコミュ障女なんかに負けることはねえんだからさ」
それでも戦意を失ったかのように幼馴染は俺の話に乗ってこなかった。
「もういいよ」
本当にもうどうでもいいと言うように小さな声で彼女が呟いた。
何とか彼女にファイティングポーズを取らせたい。兄が女に愛想を尽かせば幼馴染には
十分すぎるほどチャンスはあると俺は思っていた。もちろんそれを達成するためには単に
兄に幼馴染の気持を力説したってもう手遅れだろう。兄とあのぼっちのビッチ女は既に人
前で手を繋いで一緒に過ごすところまで行ってしまっているのだ。
だけど俺には考えがあった。女に対しては卑劣で残酷な行為をすることになってしまう
のかもしれないけど。ただ、その手段を取るにしても幼馴染をその気にさせないといけな
い。彼女が勝手に兄のことを諦めてしまったら、これから彼女のためにしようとしている
ことの意味が半減してしまう。
それにそんなこと以前に、失恋したことを身を縮めるようにして耐えようとしている幼
馴染がかわいそうだった。これだけ校内で日の当たる場所を歩いてきたこいつなのに。
「妹ちゃんの気持ちはどうなるんだよ。妹ちゃんはおまえになら兄を任せてもいいって、
ようやくそこまで思えるようになったんだろ? 兄と女が付き合うなんておまえが納得し
ても妹ちゃんが納得しねえだろ」
俺は弱りきっている幼馴染を真剣に説得した。「だから、妹ちゃんの気持ちとか考える
とあっさりとおまえが手を引かない方がいいって。だいたいおまえ好きなんだろ? 兄の
ことが。生徒会長の告白だってそれで断ったんだろうが」
このとき幼馴染が俺の方を見た。何か言いたげな表情だ。でも俺はそれに構わずに畳み
掛けた。
「兄もそのうちあのコミュ障女と付き合うなんて馬鹿げてると気がつくよ。友だちすら一
人もいない女なんかとあの兄が学校で付き合えるわけがねえよ」
「だからおまえは兄のこと諦めるな。それが兄のためだし妹ちゃんのためだ」
必死な説得が功を奏したのか、ついに幼馴染はもう少し諦めないで様子をみることに同
意した。でもその表情には全積極的な様子は覗えず、彼女がずっと浮べていたのはむしろ
浮かない表情だった。
兄の行動は思ったよりも早かった。せっかく幼馴染を何とか諦めない気持にさせたにも
関わらず、あの大バカはその日のうちに幼馴染を呼び出してそれまで保留していた幼馴染
の告白を正式に断ったのだ。俺はその夜、幼馴染から電話でその報告を受けた。
「他に好きな子ができたって言ってたよ」
事前に承知していたせいか、思ったよりも平然とした口調で彼女は言った。
「好きな子っていうのが女だってことも言ってたか」
「うん。あとさ、女さんのことを好きになる前は昔からずっとあたしのことが好きだった
よって言ってた」
何かおかしい。いくら事前に情報を得ていたとはいえ直接兄から振られたのだから、幼
馴染だってもっとショックを受けていてもいいはずだ。それなのに幼馴染の声はしっかり
としていて震えてさえいない。俺から兄と女のことを聞いたときには泣き出してしまいそ
うだったのに。幼馴染はこんなわずかな時間でもう立ち直ったとでもいうのだろうか。
「・・・・・・おまえさ。兄のこと諦めるんじゃねえぞ」
俺は念を押した。
「うん。一応、兄のこと諦めない、好きでいることはあたしの自由でしょってあいつに言
っておいた」
「それならいいんだ」
俺は安心して言った。「絶対に大丈夫だから諦めちゃだめだぞ」
「わかってるよ。あんたの言うとおり妹ちゃんのためだもんね」
妹のためでもあることを強調したのは俺の方だったけど、自分の兄への恋心については
何も言わずに妹のためと淡々と話す幼馴染に再び俺は違和感を覚えた。
翌朝、登校するために二階にある自分の部屋を出ようとした俺は、本当に偶然に窓から
外を見下ろした。俺の家の前で制服姿の幼馴染がスクールバッグを持ってたたずんでいる
姿が目に入った。以前の元気そうな様子と異なりそれはずいぶん寂びそうな様子に思えた。
最近は姉さんと登校するためにこいつらより時間の遅い電車に乗っていたので、この時
間に家の前で幼馴染を見かけるのは久し振りだった。
駅の方に向かう様子もなく俺の家の方を眺めている幼馴染の意図は明白だった。彼女も
振られたばかりだし、その兄は女と一緒に登校し出したはずだった。
幼馴染もきっと一人でいるのが寂しいのだろう。あれだけ炊きつけておいてここで幼馴
染を突き放すわけにもいかないだろう。俺はため息をついて姉さんにメールした。姉さん
に浮気を疑われなければいいのだが。今の俺にとってはそれが一番心配だった。
「よう」
「おはよ」
幼馴染が俺を見て微笑んで言った。
「おまえが迎えに来てくれるのって久し振りだな」
「だって兄友って最近あたしと一緒に登校してくれないじゃん」
拗ねたように幼馴染が言った。こういう言葉や整った外見とか可愛らしい仕草を見ると、
やはり幼馴染はレベルの高い女の子だった。多分人気投票をすれば姉さんでは全く敵わな
いだろう。並んで駅まで歩いている間、俺は何となくそんなことを考えていた。並んで歩
く俺と幼馴染は他人から見ればきっと似合いのカップルなのだろう。俺自身だって一時は
そう思っていたくらいだし。
でもこのとき俺の心を占めていたのは姉さんのことだった。突然のメールに姉さんは不
信感を抱かないだろうか。幼馴染の失恋のことは姉さんにも見当がついているはずだから、
彼女を慰めるために今日は姉さんと一緒に登校できないということには理屈が通っている。
でも男女間の感情は理屈で割り切れるものでもないだろう。それでも姉さんから返事がな
いことが俺を不安にさせていた。
俺と姉さんは中学時代からいろいろあってようやくお互いの気持を理解しあったところ
だった。こんなことで姉さんに嫌われるのはごめんだった。いくら幼馴染が美少女だろう
と一緒にいてお似合いだろうと、俺にとって一番大切なのは姉さんなのだから。
それでも兄の心変わりに泣いていた幼馴染を今放置するわけにはいかない。まして諦め
るなと彼女をけしかけているのは俺自身だった。
「兄友と一緒に学校に行くのって久し振りじゃない?」
幼馴染が微笑んでいった。この様子だけ見るとあまり昨日兄に振られたことを悩んでい
るような素振りはないようでもある。
「そうだね。それにしてもおまえと一緒だと男の視線がうざいよな」
それは事実だった。駅前に差し掛かっていたこともあってうちの生徒も含めて高校生た
ちが駅を目指して集まって来ていたけど、そいつらの好奇心というか羨望に満ちた視線が
煩わしかった。特に男の視線が。姉さんと一緒にいてもあまりこういうシチュエーション
には至らないので、こういう感じを受けたのは久し振りだった。
「ふふ。誤解されたらごめんね」
別に自分が人目を集めることを謙遜するでもなく幼馴染は楽しそうに言った。
いつもは俺は姉さんと一緒に最後尾の車両に乗っていた。学校の最寄り駅の出口から遠
いこともあってその車両には同じ学校の生徒が少なかったからだ。でもこの時間のその車
両には姉さんが乗っている可能性が高い。無用な誤解を受けないために俺は幼馴染を促し
て一番前方の車両に乗り込んだ。・・・・・・その車両はうちの生徒だらけで、何人かの知り合
いに挨拶までされる始末だ。結果としてそのために俺と幼馴染が怪しいという噂が再び流
れ出すことになってしまったのだけど。
幼馴染が何を考えていたのかは知らないけど、彼女は以前演技をしていた頃のように再
び俺と行動を共にする気になっているようだった。もともと学校にいる間は俺と姉さんは
あまり一緒に過ごしていなかったから、俺は再び幼馴染と二人で校内で過ごすようになっ
た。そうして休み時間に幼馴染と一緒に校内を移動したりしている間に、俺たちはよく兄
と女のツーショットを見かけるようになった。二人は付き合い出したばかりの恋人にあり
がちな典型的な行動を、誰に遠慮することもなくとることにしているようだった。
この二人は常に二人きりの世界に浸っていて他を全然気にしない様子だったせいで、俺
は女に注目して観察するようにしていた。こうして見ると女は普通にお洒落な可愛い女の
子のように見えた。誰も彼女が女神スレの有名人だなんて思いもしていなかっただろう。
このときの俺は熱心に女のことを観察し過ぎたせいで、幼馴染からあらぬ誤解を受けそう
になったくらいだった。
兄と付き合い出したことがきっかけなのかもしれないけど、女は次第にクラスの連中と
打ち解けていった。俺は兄と女には近寄らないようにしていたけれど、眺めていると女は
クラス女の子たちと普通に喋るようになり、それから男たちも何かに惹かれるように女の
周囲に集まるようになっていた。中には兄のことを無視して女を口説こうとした奴までい
たらしい。
それならそれでいいのにと俺は思った。兄よりも格好いい奴なんていくらでもいる。女
がぼっちではなくなったことにより、他の男に口説かれてそちらに走ってくれるなら俺も
余計なことをしないで済む。女の様子を覗いながら俺は密かに期待した。
でもそういうわけにはいかないようだった。どんなに人気が出ても女が常に一緒にくっ
ついているのは兄だけだったのだ。
正直この頃になると、女を陥れることに対してだんだん気が重くなってきていた。姉さ
んのためにも幼馴染のためにもするしかないことはわかっていたのだけれど。兄に女の秘
密を何らかの方法で知らせるくらいならまだいい。でも、それでも兄が女を諦めない場合
は次の手段が必要になる。そしてそれをすることより、せっかくクラスに溶け込み出して
いる女はもとのぼっちに戻るくらいでは済まないくらいのダメージを受けることになるか
もしれないのだ。
幼馴染と一緒に行動するようになってからしばらくは姉さんと連絡が取れなかった。
メールの返信は来ないし、放課後は姉さんと幼馴染は一緒に生徒会活動をしていたから姉
さんだけを待って一緒に帰るわけにもいかなかった。多分姉さんは学園祭の準備で忙しい
のだろう。俺は不安を押し殺しながら無理にそう考えようとした。
そんなとき、ようやく姉さんからメールの返信があったのだった。
『あんたがしたいようにしていいのよ。あたしのことは気にしないで。あたしも最近生徒
会が忙しいし、逆にあまり一緒に帰れなくてあんたに悪いなあって思ってたくらいだから
ちょうどいいよ。でも寂しいから会えるときは会ってね』
姉さんからの返信は、俺をいてもたってもいられない気持にさせてくれた。そのメール
を受け取ったのは幼馴染と再び行動を共にし出した日の昼休だった。俺は食べかけの昼食
の皿が載ったトレイを持ち上げて学食のテーブルを立った。
「どうしたの? どこか行くの・・・・・・まだ食べかけじゃない」
幼馴染が驚いたように俺を見上げた。
「悪い。ちょっと用事を思い出しちゃってさ。また後でな」
「・・・・・・メール来てたよね? 誰からなの」
どういうわけか居心地が悪い。俺の意図を探ろうとするような幼馴染の視線のせいだ。
自惚れかもしれないけどその視線には何か嫉妬じみた匂いがする。こいつが好きなのは兄
だというのに。東北にいた頃、俺は二股をかけていたことがあった。まるでその頃感じた
ような、浮気しているときの独特な焦燥感のようなものを俺は久し振りに感じた。
「ダチからだよ。ちょっと約束して他の忘れちゃっててさ」
「女の子?」
「違うって。じゃあな」
俺はトレイを返却場所に戻してから学食を出て行こうとした。ふと思いついて幼馴染の
方を振り返った。
幼馴染はその場に凍りついたように動きを止めて俺の方を目で追っているようだった。
俺と視線が合うと彼女はそのまま俯いてしまった。
・・・・・・その姿はどういうわけか彼氏の浮気に気がついていて、でもそれを彼氏に言い出
せない健気な女の子の姿のようにも見えた。
姉さんは教室も含めて三年生の校舎には見当たらない。屋上と中庭にもいない。
俺は思いついて生徒会室に向った。人気のないその部屋を空けると中には姉さんが机に
突っ伏して座っている姿があった。部屋には他には誰もいない。俺は部屋の中に入り姉さ
んの方に向って歩いて行った。
ドアを空ける音が聞こえたはずだけど姉さんは微動だにしなかった。寝てしまっている
のだろうか。俺は隣に座って突っ伏している姉さんを揺すってみた。反応がない。
そのとき俺はすごく小さな声で姉さんが嗚咽をあげていることに気がついた。
「姉さん?」
俺は返事をしない姉さんを抱きしめて顔をあげさせた。姉さんが濡れた瞳で俺から目を
逸らした。
「どうしたの兄友。あんた幼馴染さんを慰めてなくていいの・・・・・・あ」
抵抗しようともがく姉さんに俺はキスした。
最近の姉さんは何でも俺の言うことを聞いてくれていたし、俺も同じだった。それなの
にこのとき姉さんは俺の腕から逃れようと暴れ出した。ここで離してたまるか。俺は姉さ
んの口の中に舌を侵入させた。それが拒否されたとき、俺は本気でもう終わりかと思った。
でもしばらくすると姉さんの身体から力が抜け独りよがりに侵入していた俺の舌に絡み
付いてくるものがあった。
「悲しませてごめん」
五分くらいして俺は口を離して姉さんに言った。俺に抱かれたまま再び姉さんは泣き出
した。
「ごめんね。あんたのこと信じているのに何か不安になっちゃって。本当にごめんね。あ
たしのことは気にしないでね」
「俺、もう絶対に姉さんを悲しませないって決めたてたのにな」
「あんたのせいじゃないよ。たかが朝すっぽかされたくらいで泣き出す女の方が悪いに決
まってるじゃん。あんただって正直うざいでしょ?」
これでは本末転倒だ。姉さんの心の平穏のために女を別れさせようとしているのに、か
えって姉さんを不安にさせてどうするのだ。俺は本当にばかだ。幼馴染の寂しそうな様子
が気にならないと言えば嘘になるけど、自分にとってどっちが大切かは自問するまでもな
いのだ。
「うざくなんてねえよ。姉さんこそ俺を嫌いにならないでくれよ・・・・・・頼むよ」
姉さんを抱きしめながら泣いているのは今度は俺の方だった。こと姉さんに関しては俺
は昔から後悔してばかりだ。
「ごめんね。ごめんね。兄友のこと嫌いになんてならないから。あんたこそあたしを嫌わ
ないで」
それからしばらく俺たちは泣きながら抱き合っていた。
「姉さんを悲しませるくらいならもう俺、幼馴染をフォローするのやめるから」
俺は本気で姉さんに言った。
「ううん。もう大丈夫。抱きしめてくれて嬉しかった。あんたが泣いてくれて嬉しかった。
これだけで何年だってあんたのこと待っていられるよ」
「姉さん」
「あんたのしていること間違ってないよ。最近、幼馴染ちゃんって生徒会に来ても元気な
いもん。あたしは平気。ちょっと悲しくなっただけだから。あんたは幼馴染さんを慰めて
あげて」
俺は心を決めた。姉さんのことだけを考えていればよかったのに、最近いろいろ雑念が
入りすぎていたのかもしれない。
「・・・・・・わかった。もうすぐだよ。姉さんのこと長くは待たせないから。兄と幼馴染をく
っつけてすぐに姉さんと一緒にいるようにする。もう周りに遠慮するのもやめよう。昼も
夜もいつも一緒にいようぜ。もういっそ俺、姉さんと校内中の噂になりたいよ」
「・・・・・・ばか」
姉さんが赤くなった。
・・・・・・だけど、今にして考えれば心が通じ合っているようでいて、このときの会話はお
互いに欺瞞に満ちていた。俺と姉さんの恋人同士の他愛もない感情の行き違いのせいで、
俺と姉さんは暗黙のうちに目標を不明瞭して方向を逸らしてしまったのだった。
本来の目的は兄と女を別れさせることだった。でも今ではそれは手段として卑小化され、
いつのまにか可愛そうな幼馴染のために兄と彼女を恋人同士にすることが姉さんと俺の共
通の目標になってしまっていた。
とにかく急がなくては。俺はそう思った。でも意外なことに自分では何も手を下さなく
てもよくなってしまった。それは数日後の朝、俺が始業前に佐々木先生に職員室に呼び出
されたときのことだった。
今日は以上です。投下が遅れてすいません
この先もきっとこんなペースだと思います
すいませんすいません
今年中に終わりそうにないな
絶筆宣言するん?
作者です。いろいろすいません。
他スレにかまけすぎてましたごめんなさい。
時間はかかっても(つまらなくても)投げ出しはしません。
もう少しお待ちいただけると幸いです。
待ってます乙
あと終わったらでもいいから書いてたスレ張ってくれると嬉しい
>>692
作者ですが他スレのことですか?
それならすでに2スレ目に突入してますが、これです
ビッチ・2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1360764540/)
>>693
サンクス
俺は混乱した思考を持て余しながら佐々木の説得をぼんやりと聞き流していた。
「二年のこんな時期になって理系クラスとかって言われてもなあ」
「いや。だからクラス替えとかいいっすよ。受験する学部を理系にしたいだけで」
「それは絶対無理。二年で文系クラスにいるやつは三年も文系クラスだし。数3を独学で
勉強なんて、いくらおまえでもできないだろ」
「・・・・・・多分、大丈夫です」
「あのなあ。おまえは確かに理系科目も得意だけど、数3は数2Bとは全然難易度が違う
ぞ」
進路指導の佐々木の言葉なんかまともに頭には入ってこなかった。でも、一語一句とま
ではいかないが佐々木が来るまでの間の鈴木の言葉の方ははっきりと覚えている。担任の
鈴木は電話で誰かに話していた。狼狽しているような慌てた様子の早口で。
『当校としてもネット上の誘惑や危険に関しては、これまでも専門家を招いたりして生徒
たちには注意喚起してきましたけど、最近の風潮からして多少のことは見逃してきました。
でも、さすがに今回の件は許容範囲を超えています。他の生徒たちに与える影響が大きす
ぎるんですよ』
『高校生の女子が自分の卑猥な写真をネット上で公開していたわけですから。女さんは学
校では友だちこそ少ないようでしたけど、これまで成績も素行も何も問題はなかったのに。
もちろんいじめられているということもなかったし。いったい何でこんなことをしたんで
しょうね』
『とにかく、ニ通のメールをそちらにお送りします。ご自分の目でお嬢さんかどうか確認
してみてください。まあ、誰が見ても女さんであることは間違いないと思いますが』
『はい。当然校長には報告してあります。ここ数日で続けてニ通も投書メールが来たんで
すから報告しないわけにはいきません。特に二番目のメールが問題です。一通目のアドレ
スはまあお嬢さんの下着姿程度の画像なんですけど、二通目の方はそれどころではない画
像が公開されているページのアドレスが記されていたんです』
『誰が投書したのか? それはわからないですね。というか、私の携帯のメールに投書し
てあったのでうちの学校の関係者、おそらくは生徒だと思いますけど、WEBメールから
のメールだったし、二通とも異なる捨てアドから送信されているし、その生徒を特定する
のは無理でしょう。まあ、特定する必要もないでしょうしね』
『はい。会社のアドレスでいいですか? ああ、携帯に。わかりました。そろそろ女さん
も家を出る時間だと思いますけど、今日は自宅で待機するようにお伝えください。頭ごな
しに怒らないようにしてください。事情を聞く前ですし、何か無茶な行動をされても困り
ますし』
「しかし、なんでおまえいきなり志望を変えたの? 法学部を受験するんじゃなかったの
か」
「・・・・・・親父がメーカーの研究者なもんで」
「そんなのは志望調査をした頃からそうだっただろうが」
姉さんが理系クラスだからなんて言えるわけはない。それに今はそれどころじゃない。
佐々木の話なんてどうでもいい。正直に言うとこのときの俺はひどく混乱していたのだ。
「もう少し考えてみます」
俺の言葉に進路指導の佐々木はあからさまにほっとしたように答えた。
「そうしろ。自分が何で法学部を目指していたのかもう一度よく考えるといい。それでも
どうしても理系に行きたいならまた相談にのってあげるよ」
俺は一礼して席を立った。職員室を出て行くとき再び佐々木の声がした。でもそれは俺
に話しかけているわけではないようだった。
「あれ? 鈴木先生いたんですか。ずいぶん早いですね」
どうやら佐々木は鈴木の電話に気がついていなかったようだった。あれだけでかい声で
俺に説教していたのだから無理はないかもしれない。
「非常事態なんですよ」
鈴木の落ちつかない声がした。
「どうしたんです?」
「どうもこうも。嫌だなあ。もし彼女の身元がばれでもしたら苦情電話が鳴りまくりです
よ、これは。考えただけでも憂鬱になりますよ」
佐々木の問いかけに担任の鈴木が苦い声で答えた。
「だからいったい何があったんですか」
俺は職員室の外で耳をすました。佐々木は俺がまだ立ち去っていないことに気づいたよ
うだった。
「用は終ったんだから早く教室に行け」
「はい」
これで鈴木の携帯に寄せられた二通のメールのことはこれ以上は聞けなくなってしまっ
た。それでもさっき盗み聞きしだけでも相当の情報は得ている。俺はその内容を思い出し
ながら整理しようとした。幸いにも朝早く呼び出されたせいで、教室にはまだ誰も登校し
ていない。少なくとも三十分くらいは静かな環境で考えることができるだろう。
佐々木のせいで今朝は姉さんと一緒に登校できなかったけど、その損失に見合うだけの
メリットはあったようだ。でもそれが俺にとって、俺と姉さんにとっていい情報なのかど
うかはまだわからなかった。
鈴木の電話相手が女の親であることは確かだった。あの会話の中で鈴木ははっきりと女
の名前を出していた。
間違いなく女の女神行為がばれたのだ。それも誰かが担任に送付したちくりメールによ
って。
最近の俺が考えていたこと。
姉さんの同意を得た俺がしようとしていたことは、女を退学、あるいは転校させること
だった。そのために取ろうと考えていた手段は、女の女神行為を学校に通報すること、そ
れが第一段階。そしてそれでも退学や転校にならないなら、第二段階は女神行為の証拠、
つまり女のヌードの画像を生徒たちにばらまく。俺が考えていた筋書きはそういうことだ
った。
姉さんの女への不健全な執心を逸らすためには、女を姉さんの前から排除するしかなか
った。それも姉さんの承認の元で。そして、その過程で結果として兄は女と別れることに
なる。
とは言っても女神行為をした女に対して、兄がショックを受けて自発的に女と別れるな
んてことはあまり期待していなかった。そんなことは不用意にもミント速報に残されてい
る画像のexifデータを眺めればわかる。
最初の頃のスマホ画質の画像にも、きわどくも美しい女の画像のデータにも入力機器等
の情報が残されていた。
そのexifデータには、不用意にも女自身のスマホの情報が開示されてしまっていた。
女のスマホの機種名称、実名、自局電話番号、メアド、それに撮影情報。極め付けにG
PSの位置情報まではっきりと。誰かがそれに気がつくのも時間の問題だろう。
そして、誰が見てもスマホ画質ではなく、わかる人間には撮影者の技術まで他の画像と
全く異なるとわかる質の高い画像がある。共通点としては女のヌードが被写体だというこ
と。その画像にもexifデータが消去されずに残っていた。それによるとそれらの画像は兄
がいつもカバンに入れていたデジカメによって撮影されていた。妹を撮るためだって、そ
ういう恥かしいことをあいつは以前真顔で言っていた。
つまり兄は女のヌード写真を撮影していて、女の女神行為には兄も加担していたという
ことだ。なんで兄みたいなどこから見ても普通としかいいようのない男がそんな大胆なこ
とをしでかしたのかはわからない。今となってはどうでもいいことだ。問題は、そんなこ
とを女と二人でしていた以上、女の女神行為が公になったくらいでは兄は女のことを諦め
ないだろうということだった。
別に兄の恋愛を邪魔するために始めたわけじゃないけど、兄と女がはっきりと別れた方
が姉さんの気持はすっきりするだろう。姉さんは幼馴染のためだと自分に言い訳している
だろうけど、本心では女に恋人がいることには我慢ができないはずだ。
だから、女が学校から追放されるだけでなく、女を兄と別れさせなくてはならない。姉
さんの心の平穏のために。女がこの学校から姿を消せば姉さんは女に対して何もできなく
なる。せいぜい今までのように想像の中で女に抱かれるくらいしか。
それに加えて女と兄が別れれば、姉さんのしょうもない嫉妬心も消えるかもしれないの
だ。ただ女が消え去るだけでなくはっきりと兄と別れさせる方が望ましいというのはこう
いう理由からだった。
そこまでできれば姉さんのことは俺が引き受ける。姉さんは女と俺との間で揺れ動いて
いるはずだけど、女が兄と別れて姿を消してしまえば、その先はもう二度と俺のことしか
見ないだろう。それくらいの自信は俺にもあった。
ただ、それを俺が一方的に仕掛けてはいけない。女を失った姉さんの思考を万一にでも
俺への憎しみに転化させてはいけない。だから俺は姉さんを説得して共犯者にすることに
したのだ。
それにしても鈴木にメールを出したのはいったい誰なのだろう。鈴木の緊急連絡用のメ
アドを知っているということは俺のクラスメートなのだろうか。
誰がメールを出したのかはわからない。俺がわかったことは鈴木の携帯に時間差で二通
のメールが届いたということだけだった。鈴木の話から推察するに、一つ目には多分ミン
ト速報でまとめられている「貧乳女神」のURLが、そして二通目にはもっとハードな
「緊縛女神スレ」のURLが記されていたのだろう。
ふと気がつくと教室には登校した生徒たちの話し声が溢れていた。考え事をしている間
にいつのまにかこんな時間になっていたらしい。
「おはよう」
幼馴染が俺の隣に来て言った。
「・・・・・・ああ」
「ああじゃないでしょ。ちゃんとあいさつしなよ」
「ああ」
「・・・・・・どうかしたの」
幼馴染は俺に密着して俺の顔を覗き込むようにした。
こいつは本当に俺に惚れているのだろうか。俺は近くに寄ってきた幼馴染の華奢でいい
匂いのする肢体を身近に感じた。でも、今はそんなことを考えている場合ではない。
「何でもねえよ」
視界の端に一人で登校してきた兄が教室に入ってきたのが見えた。女は一緒ではない。
近くの席の女たちが兄をからかっている声が聞こえてきた。
「今日は女さんお休みなの?」
「いや、どうなんだろ」
兄が同級生の噂好きな女に答えた。
「どうなんだろじゃないでしょ。いつも一緒に登校してるのに」
「いや、今日は俺、遅刻しちゃってさ。女とは会ってないんだ」
「まさか、女って駅で兄君のこと待ってるんじゃないでしょうね」
「それはないだろ。あいつ、待ち合わせ場所にはいなかったし」
「じゃあ体調でも悪いのかな」
「う〜ん。あとでメールしてみる」
「つうかメールすんなら今しろよ」
「だってもうホームルーム始るじゃんか」
「本当に使えないなあ兄君は」
「何でだよ!」
「あ、先生来ちゃった。ちゃんと女に連絡しておきなよ」
鈴木が教室に入ってくるのを見て幼馴染は俺を問い詰めることを諦め自分の席に戻って
行った。何か言いたげな表情を残して。
二通のメールによって鈴木に女の女神行為をちくったやつが誰なのかはわからない。俺
は犯人探しをする気はなかった。女はぼっちだしそんな女を陥れたいやつなんて山ほどい
るだろう。そういうやつが偶然に女神板かミント速報を見てそれが女だと気がつけば、こ
れくらいの嫌がらせをするやつだっていても不思議はない。自分の匿名性に自信がもてれ
ば、面白半分に、それこそ受け狙い程度の目的で卑劣なことを仕掛けるやつなんて、クラ
スの中には山ほどいるに違いない。俺はこの学校の生徒たちの人間性を性善説で捉えたこ
となんか一度だってなかった。
初心に帰って考えればこれでは不完全だった。学校側に知られても事の性質上隠匿され
てしまうのは確かだ。俺の作戦はこんなところで終る予定ではなかった。女を退学や転校
に追い込むにはこれでは不十分なのだ。俺は決心した。
続きをやろう。出鼻はどこの誰かわからないやつにくじかれたけど、こんなことで計画
を邪魔されるわけにはいかない。
休み時間。とりあえず俺は何か言いたげに俺の方を眺めている幼馴染を放っておいて、
久し振りに兄に話しかけた。
「あ、兄友・・・・・・」
俺が話しかけると少し戸惑ったように兄は答えた。喧嘩中なのだから無理もない。
「ちょっと話があるんだけどよ」
「話って何だよ」
兄は反抗的で不機嫌そうな態度だった。
「ここじゃちょっとな」
「・・・・・・おまえ、俺とは話しないんじゃなかったのかよ」
「俺だっておまえなんかと話なんかしたくねえよ」
「何が言いたいの? おまえ」
「いいから喧嘩腰になるなよ。大事な話なんだって」
「今まで俺のこと嫌ってたおまえが何でそんなに必死なんだよ」
「話聞きゃわかるよ。屋上行くぞ」
「屋上って、昼休みじゃねえんだぞ。そんな時間あるか」
「授業なんてどうだっていいよ。とにかく一緒に来い」
「おい」
兄は本気で戸惑っているようだった。
短い休み時間なので屋上に予想どおり他の生徒たちの姿はなかった。
「おまえ、来るの遅せえよ」
「てめえ、ふざけんな。何日も無視してたくせにいきなり声をかけて授業までサボらせや
がって」
「そんなことはどうでもいいんだよ」
「何言ってるんだよ」
「・・・・・・俺さ、今朝授業開始前に佐々木に呼び出されてさ」
「またかよ。おまえ前から佐々木に何注意されてるんだよ」
「うるせえよ。俺と馴れ合ってるような口きいてんじゃねえよ」
「・・・・・・いったい何なの? おまえ」
「おまえが勘違いしないように言っておくけどよ。俺は幼馴染の気持ちをあれだけひどく
弄んだおまえのことを許したわけじゃねえんだぞ。だからおまえと女のことなんかどうな
ってもいいって思ってたんだけどよ」
「今日、朝の結構早い時間に佐々木に呼び出されてよ。そしたら担任が職員室の片隅でひ
そひそ電話してたんだけどよ」
俺は鈴木の盗み聞きした電話の内容を兄に説明した。ただし、より過激な画像をちくっ
た二通目のメールのことはなかったことにして。これは重要なことだった。最初からあれ
だけのヌード画像が学校にばれたとわかってしまうと、兄は本気で女と接触しようとする
かもしれない。こんな初期の段階で二人が打ち合わせをして、心が通じていることを確認
されるのは面白くない。むしろ、最初は下着姿程度が学校にばれているだけだと兄に考え
させておく方がいいだろう。兄はこの事態を甘く見るだろうし打つ手だって後手に回る可
能性が高くなる。
それに少しだけ安心したところに更なる爆弾を投下する方が、兄にショックを受けさせ
るにはいい。
「今日、朝の結構早い時間に佐々木に呼び出されてよ。そしたら担任が職員室の片隅でひ
そひそ電話してたんだけどよ」
俺は鈴木に匿名のメールが届いたことを兄に話した。そしてそれに女の下着姿の画像が
掲載されているサイトのURLが記されていたことを。
「そんで、教室に戻ったら女が来てないじゃんか。いったいあいつ何をしでかしたんだよ。
下着姿ってまさか・・・・・・」
「ああ」
「ああじゃねえよ。俺はおまえらなんか大嫌いだけど、でも何つうかよ。女も大変なこと
になりそうだから」
「・・・・・・悪い」
「おまえらのしたことを、別に許したわけじゃねえぞ。それにまあ、ネットとか下着とか
ってだけでも、何が起こってるのか察しはつくけどな」
「今は俺の口からは言えねえけど」
「別に聞きたかねえけどよ、そんなどろどろしてそうな話。でも、おまえら何馬鹿なこと
やってんだよ」
「悪いな、兄友。俺、女の家に行くから」
「え?」
「今日は学校サボるから」
ようやく兄も女が危機に陥りそうだと感じたようだった。てめえは気がつくのが遅えよ、
何もかも。今さら慌てたってもう遅い。今夜には俺が行動を起こすのだから。
「じゃあ、俺はこれで」
「・・・・・・しょうがねえなあ」
「何だよ」
「しょうがねえから担任にはおまえも体調が悪くなったって話しといてやるよ」
「・・・・・・兄友、悪い」
「うるせえ。黙って早く行けよ。きっと女も悩んでると思うぜ」
「ありがとな」
「俺に礼を言うな。助けたくてしてんじゃねえよ。でも、おまえが落ち込むと幼馴染とか
妹ちゃんが悲しむんだよ。察しっろよクズ」
「ああ。じゃあな」
でも今さら察したって遅い。てめえが幼馴染や妹ちゃんじゃなくて、よりによって女な
んかに手を出したせいで姉さんはぐちゃぐちゃなんだぞ。幼馴染はてめえを見限って俺に
色目を使い出すし、迷惑なんだよいろいろと。今さら女に訪れるだろう不幸や女との別れ
の予感にびびったってどうしようもないんだよ。
でもそう言いたい気持を押さえつけて俺は兄に声をかけた。
「おう。気をつけて行けよ」
放課後になると、俺はこちらをちらちら見ている幼馴染を無視し、本当なら生徒会の終
了を待って一緒に帰るべき姉さんのことすら放置して、真っ直ぐに帰宅して自室のパソコ
ンを起動した。ブラウザにブクマしてあるミント速報を開き、女の緊縛姿のスレのログが
保存されているページのURLをコピーする。
次に2チャンネル用の専ブラを起動して、俺は久し振りにVIPにスレを立てた。
スレタイ:『高校2年の女の子が女神行為で実名バレwwwww』
『ちょwwww。ミント速報に貼られてた女神画像のexifを見たら、女神の個人情報だだ
もれwwwwwww』
ここまでしないと計画は完結しない。
さすがにVIPのスレの反応は早い。しばらくして自分で立てたスレを更新してみるとも
うレスがついていた。
『通報した』
『まじなら晒せ』
『画像もなしにスレ立てとな』
『exifってどうやって見るの』
『情弱乙』
『とりあえず魚拓とれ』
俺はexifの内容とミント速報の画像のURLを貼ってレスした。
『ミントのウラル貼るwwwww』
『画像はここねwww』
『釣りだと思ったらマジだった』
『exifの内容。機種名称:○○のスマートフォン、実名:女、自局電話番号:090-×
××―○○○○、メアド:×××.ne.jp』
『この子かわえええええ』
『実名携番キタああああ』
『けしからんおぱーいだな』
『これは全力で祭りだな』
『よく気がついたな>>1超乙』
『お前ら全力で凸するぞwwwwwww』
これでいい。流れの早いスレを時々監視しながら俺は久し振りに買い置きの酒を取り出
して口にした。やることはやった満足感はあったのだけど、隣に姉さんがいないことが何
だか無性に寂しかった。でもこれで放置しておいても女の身元特定とか学校凸とかの流れ
になるのは確実だった。
明日、学校の裏サイトにここのURLを貼ってやろう。それでうちの生徒たちにも女の女
神行為が知れわたるのだ。緊縛スレの方だってすぐに探し出されて晒されるだろうし、同
時に女はVIPで特定されるだろう。うちの悪気のない野次馬根性丸出しの生徒の誰かによ
って。
翌日、自宅を出たところで俺は家の前で待っていた幼馴染に捕まった。
「おはよ」
「よ」
寝不足だったことや昨日は姉さんに会えていなかったこともあって、俺のテンションは
だださがりだった。スレ立てしたときの興奮は既に俺の中から消え去ってしまっていた。
自分のしたことを後悔はしなかったけど、妙に興奮したせいか何だか寝不足で頭痛がする。
今はとにかく姉さんに会いたかった。
「何で昨日は勝手に帰っちゃったのよ」
「別に」
俺の素っ気ない返事に幼馴染が俯いた。こいつうざい。これまで俺と幼馴染は戦友だっ
たし、演技にしてもこいつと二人でいることは不快ではなかった。でも今は違う。俺が一
緒にいたいのは姉さんだけなのだ。幼馴染のような美少女ではないし妹のように守ってあ
げたいというタイプでもないけど、俺が会いたいのは細身で背の高い地味な姉さんなのだ。
俺たちが電車の車内に入ったとき、既に車内にいた妹の声がした。
「あ、お姉ちゃんおはよう」
「妹ちゃんおはよう」
「よ、よう」
久し振りに妹と一緒に登校していた兄が掠れた声で誰にともなくあいしつした。
「よう、じゃないでしょ。やりなおし」
幼馴染が兄に言った。
「お、おはよ」
「それでいいのよ。おはよう兄」
今度は笑顔を兄に見せて幼馴染が言った。こいつマジで何考えてるかわかんねえ。兄に
見せた幼馴染の笑顔は可愛らしかった。ひょっとして、こいつ俺に当てつけてるつもりな
のか。
「兄友さんおはようございます」
そんなどうでもいいことを考えている俺に妹が挨拶してくれた。
「おはよう妹ちゃん」
それからしばらく沈黙が続いた。
「あんたたちさあ」
幼馴染が呆れたように言った。
「二人ともあいさつくらいしたら?」
妹も俺と兄を軽く睨んだ。
「そうだよ」
「・・・・・・よ、よう」
「・・・・・・お、おう」
「あんたたちはまた。・・・・・・ちゃんとあいさつしなよ」
幼馴染が怒ったように口を挟んだ。
「まあいいじゃん、お姉ちゃん。照れ屋の男の人なりの精一杯のあいさつなんだよ、きっ
と」
妹の取りなしに幼馴染が少しだけ微笑んだ。
校内に入って妹と別れた俺たちは教室に入った。
何か教室内の反応がおかしかった。
昨日、兄に女がいないことを親しげに責めていた女の子たちが兄のあいさつを無視した。
そして俺と幼馴染には普通におはようと声をかける。
俺が裏サイトにチクる前に校内の誰かが、俺がVIPに立てたスレに気がついて裏サイト
に広めたのだろうか。どう考えてもこいつらは兄のことあからさまにをディスっている。
そして相変わらず女の姿は教室にはなかった。
まさか授業中に裏サイトを覗くわけにもいかない。とりあえずクラスのこの雰囲気の悪
さが持つ意味を兄に教えてやろう。親切な俺はそう決めた。やると決めた以上はもうとこ
とんやるまでだった。俺は幼馴染に捕まる前に昼休に兄を中庭に誘った。
兄は俺が昼飯に誘うと腑抜けたようについて来た。俺たちは中庭のベンチに並んで腰か
けた。この時期の屋上や中庭はリア充ご用達の場所なので、カップルじゃなく男二人で並
んでいると結構目立つ。声を少し潜めた方がいいのかもしれない。
「とりあえずよ」
「ああ」
「おまえが幼馴染にした仕打ちは腹立つけど」
「・・・・・・ああ」
「でもよ、幼馴染も妹ちゃんもおまえのこと悪く思ってないようだし、このままじゃ俺だ
け馬鹿みたいだからよ」
俺は兄を懐柔するように話しかけた。
「・・・・・・それで?」
「だから、とりあえず休戦にしようぜ」
「・・・・・・おまえはいったい何と戦ってたんだよ。俺は別におまえと戦ってたつもりはねえ
よ」
兄は生意気なことを口にした。俺だっててめえなんかと本気で戦っているつもりなんか
あるか。俺はただ姉さんのことだけを考えているのだ。
「とにかくそういうことだから」
「ああ・・・・・・わかった」
「そんで本題なんだけど」
「本題?」
「何か教室の雰囲気、変じゃねえか? みんながっつうわけじゃねえけど」
「変っていうより、俺が話しかけても無視するやつが結構いたな。全員に無視されたわけ
じゃねえけど」
「それだよ」
「朝は気のせいかなって思ったんだけどよ。休み時間中もずっと無視されていたような」
「絶対、女の停学と関係あると思うぜ」
「女がああいうことして停学になったっていうのは、学校側しか知らないはずだろ?」
「ああいうことって一体何をしたんだよ。女さんは」
兄は少しためらうように俺の方を見た。
「・・・・・・ここだけの話だぞ?」
「ああ」
「女神行為をしてた」
「何だって?」
「だから女神行為だよ。おまえ、ネットとかそういうのに詳しいだろ?」
「女神って、あの2ちゃんねる的な意味の女神か?」
やっぱり兄は女の秘密を知っていたのだ。というか加担していたに違いない。
俺もかつて半ば無理矢理抱いた姉さんに女神行為を強制したことがあった。主に自分の
性的な興奮を高めるためだ。でもあのとき俺は、姉さんが自分にとって本当に大切な存在
だと気がつく前だった。兄が女を性的な道具として見ているとは思えない。それなのにこ
いつは女の女神行為を容認するばかりか撮影者という立場でアシストしていたのだ。今の
俺には、姉さんに純愛を捧げている俺には兄の行動は全く理解できなかった。
「ああ」
「・・・・・・鈴木が女の親に話してたのってそういうことだったのか。そういや下着姿がどう
こう言ってたもんな」
「まあ、そういうことで、女は多分停学で自宅謹慎になったんじゃないかと」
「ないかとって、おまえ女さんと連絡取れてねえの?」
「あいつ、電話もメールにも返事しねえよ。女の家に行ったけど、誰もいないっぽい」
「そうか・・・・・・。まあ、おまえも女さんのことは心配だろうけどさ。でも、女さんの停学
が何日間かわかんねえけど、停学期間が終ったらまた女さんと会えるさ」
実際は二度と女には会えないんだけどな。下着じゃなくて裸の画像をここの生徒たちに
知られたら。
「うん。俺も自分にそう言い聞かせてる」
「それにしても変だよな」
「変って何が?」
「おまえは昨日のホームルームの時、教室にいなかったから知らねえだろうけどさ、鈴木
は女さんは家庭の事情でしばらく学校を休むってみんなに説明したんだよ」
「うん、そりゃ鈴木だってとても本当のことは言えないだろうからな」
「そんでみんな一応は納得してたみたいなのによ、今日になっておまえと話をするのを避
けるやつが出てくるって、おかしいだろ」
「まあ、そう言われりゃそうだな」
「何か嫌な予感がするな」
「どういうことだよ?」
「・・・・・・どっかから女の女神行為の噂が流れてるとしか思えねえじゃん」
「まさか・・・・・・いったい誰が」
「鈴木にチクったやつじゃねえの。そいつくらいしか、真実を知ってたやつはいないはず
だし」
「どうしよう」
兄が今日初めて本気で狼狽した表情を見せた。
「俺が探ってみる。俺はおまえと違ってシカトされてるわけじゃねえし」
「兄友、悪い」
「女子高校生の女神行為とかって、正直俺には理解できねえけどよ。女が傷付くとおまえ
も傷付くだろ。そうすっと幼馴染とか妹ちゃんも辛い思いをするからな」
「・・・・・・悪い」
「だからおまえとか女さんのためにするんじゃねえよ」
そこまで話した時にはもう昼休は終りそうだったので、俺たちは急いでパンを飲み込む
ように片付けて教室に戻った。兄は昼休前とは一変して深刻な表情をしていた。ようやく
事態の深刻さに気がついたようだった。
・・・・・・今さら気がついてももう遅い。もっとショックなことが待ち受けているのだし。
本当に久し振りに更新しましたけど今日は以上です
乙。
兄友、なんというクズwww
兄友のクズさが止まるところを知らず、独善ぶりに虫唾ダッシュ!
乙!
乙
というかすっかり話の流れを忘れちゃったよ
ようやく放課後になった。俺は急いで教室を抜け出すと、中庭の隅の人目につかない場
所で自分のスマホを取り出し、ブラウザのブクマから裏サイトを立ち上げた。やっぱりだ。
予想どおりそこにはミント速報の女のことがいち早く話題に上っていた。結局、このとき
も俺は自分の手を煩わせるまでもなかったようだ。
『××学園の生徒集まれ〜』
『おい・・・・・・2年2組の女のやつ、ミント速報ってとこで裸の写真をアップしてるぞ』
『マジだ! これ、女子大生とか言ってるけど、どう見ても女じゃん』
『釣りだと思ったらマジじゃんか!』
『これはアウトだろ』
『つうか、うち2組だけど今日担任が女はしばらく休みだって言ってた』
『学校にばれたんじゃねえの?』
『ぼっちかと思ったらびっちだったでござる』
『これはきついわ。兄もショックだろうな』
『変な女だと思ってたけど、ここまで酷いとは』
『前にさあ、援交がばれたやついたじゃん? あれより酷いよね』
『しかも何、この媚びたレス』
『手っ取り早くミントの女のレス張っておくね』
モモ◆ihoZdFEQao『こんばんわぁ〜。誰かいますか』
モモ◆ihoZdFEQao『人いた。最近恋に落ちたせいか痩せてますます貧乳になりました
(悲)』
モモ◆ihoZdFEQao『画像は15分で削除します。ごめん』
モモ◆ihoZdFEQao『あと乳首はダメです。需要ないかなあ』
モモ◆ihoZdFEQao『リクに応えてみました。乳首はダメだけどM字です。15分で消しま
す』
モモ◆ihoZdFEQao『ほめてくれてありがとうございます。じゃ最後は全身うpです。乳首
なしですいません。15分で消します』
『うわぁ・・・・・・』
『・・・・・・きも』
『まじかよ・・・・・・俺、結構あいつのこと好きだったのに』
『兄もかわいそうだよね。初めてできた彼女がこれじゃさ』
『だから幼馴染にしときゃよかったのに』
『幼馴染には兄友がいるからなあ』
『うち、もう女と普通に話す自信ないよ』
『あたしも。つうか目も合わせられない』
『俺もそうだな』
これで今朝の教室の雰囲気の説明はつく。この段階に至るまで、俺はVIPにスレ立てを
した以外は自分の手を汚さずにいたのだけど、これで終らせるわけにはいかなかった。こ
れも全ては姉さんのためなのだし。
学校の連中とか教師たちに関してはこれだけでも十分だっただろう。この噂が拡散すれ
ば、いくらぼっちとか陰口に耐性のある女でも間違いなく登校できなくなるに違いない。
でもこれだけで十分ではないかもしれない。校外の不特定多数の人間たちにこの情報が
拡散していることを、生徒や教師たちに知らせる必要はやはりある。この地方の公立上位
校に進学実績で勝って志願者数を伸ばそうとしているうちの学校にとっては、生徒の不名
誉な情報が拡散することは望ましくないはずだ。学校の不名誉な噂を恐れる教師たちなら
女の行為を隠匿し、結果として女は退学までには追い込まれない可能性がある。
それにこの程度の噂であれば女は兄と別れないかもしれない。もともと兄は女神行為を
承知のうえで女と付き合っていたらしいのだから。女に兄との別れを決意させるにはもう
一押しが必要だと俺は考えた。
ここからはVIPのスレの盛り上がり次第だった。ここで拡散すれば学校がこの事件を隠
匿することができなくなるし、女にとっても兄とこれまでどおり付き合うなんていう選択
肢は消えるはずだった。俺はVIPのスレをチェックした。
思ったとおり俺が立てたスレはもう1000に達してDAT落ちしていた。検索してみると俺
の立てたスレは勝手にパート化されていて、現在は三スレ目が賑わっている状態だった。
これで勝利だ。俺の手を煩わせるまでもなく祭りは勝手に拡大し継続している。スレを
開くと随分と盛りあがっているようだ。
俺は迷わずに裏サイトにコメントした。
『おい。女のことでVIPにスレ立ってるぞ』
放課後だったせいもあるけど裏サイトを見ている生徒たちの反応は早かった。まるでVI
Pのスレのような勢いだ。
『マジで? URL貼ってくれ』
裏サイトにURLを貼って誘導した三スレ目の内容はこんな感じだった。
『【祭りに】高校2年の女の子が女神行為で実名バレwwwww3【乗り遅れるな】』
『今北用ガイド』
『女神板にjk2が緊縛画像をうp』
『即デリ安心(はあと)って思っていた情弱()なjkの甘い考えを裏切り、この子のレス
と下着緊縛画像がミント速報に転載』
『暇なやつがその画像のexifデータを解析』
『携帯に登録されていたプロフィール情報がexifに記録されているのを発見、vipに
スレ立て』
『流出したプロフィールは次のとおり』
『機種名称:○○のスマートフォン、実名:女、自局電話番号:090-×××―○○○
○、メアド:×××.ne.jp』
『その後現在までに判明した女のプロフ:××学園2年2組』
『××学園のホームページに、問い合わせ用の電話番号とメアドが乗ってるな』
『学校に電凸していいか』
『今日はもう遅いからな。明日朝一斉にやろうぜ』
『女のメアドにもメールしたけど反応なし』
『女の携帯電話もつながんねえな』
『誰か、××学園の関係者いねえのかよ』
『いるぞー。俺、××の3年だけど。こいつ知ってるよ。この前までぼっちだったけど最
近彼氏ができたんだぜ』
『スネーク発見。自分が実名バレしてること、こいつもう気づいてるのか?』
『つうか女休んでるみたいだ。もう学校にバレてるんじゃね?』
『おい、まずいぞ。学校がこのことを知ってるとすると、もみ消しに走るぞ』
『これって最終目標は? 停学に追い込むでおk?』
『甘い。こんな破廉恥なことをしてたんだ。退学に追い込んでこそメシウマ』
『情弱ってだけで別に犯罪をしてた訳じゃないんだし、凸る必要なくね?』
『確かにな。飲酒喫煙とかじゃねえもんな』
『黙れ。こういう破廉恥な行動で未成年に衝撃を与えた影響は大きいだろうが』
『おまえらって、自分たちは女神を煽ってなるべくうpさせようとするくせに、こういう
時だけ態度変えるのな』
『彼氏がいるリア充jkに嫉妬してるんだろ。このスレの童貞どもは』
『まあ、彼氏が可愛そうだから、女を追い詰めて別れさせてあげるのが俺たちのジャステ
ィス』
『明日一斉に学校に抗議メールと抗議電話で凸るでおk?』
『おk。それで行こう。急がないともみ消されるぞ』
『××学園のやつ、スネークよろ』
裏サイトにVIPのスレへのリンクを貼り終えた俺の肩に、突然誰かが手を置いた。こん
な親しげな行動を取る女なんて姉さんしかいない。そう期待して振り向くと、幼馴染が俺
の肩に手を置いて俺を見つめていた。
「何だ。おまえか」
俺は思わず心無いことを口にしてしまっていた。
「誰だと思ったの? 妹ちゃんじゃないかって期待しちゃった?」
幼馴染が少しだけ笑ってそう言ったけど、その表情は暗かった。
「そんなんじゃねえよ」
少なくともそれだけは嘘じゃない。
「本当かなあ」
「本当だって」
俺はそのときこの一連の出来事を彼女に説明しておいた方がいいということに気がつい
た。女はともかく兄のその後のケアは必要だ。そして幼馴染の気持も兄の方へ誘導してや
らなければいけない。幼馴染は今は俺のことが気になっているのかもしれない。でも冷静
に考えれば、それは吊橋効果のようなものだ。彼女の俺への想いは兄と女の関係を何とか
しようと互いに協力して気にし合っているうちに生じた泡のような恋なのだ。
兄なんかどうだっていい。だけど、協力者である幼馴染のケアは必要だ。昔の俺と違っ
て姉さん一筋と決めた今、幼馴染と兄をくっつけてやるのがベストなのだ。
「見てみるか」
俺は幼馴染に自分のスマホを見せた。
裏サイトのログを読み終わった幼馴染は身体を震わせるようにした。女の緊縛裸身を見
た幼馴染はちょっとごめんって言ってトイレの方に走っていってしまった。優等生っぽい
幼馴染にはちょっときつい画像だったのかもしれない。
「わずか数分でこれだよ。見るか・・・・・・?」
涙目で戻って来た幼馴染に俺は追い討ちをかけた。VIPのスレを直接彼女に見せたのだ。
VIPのスレを見終わった幼馴染は放心しているようだった。
「大丈夫か」
俺は幼馴染に問いかけた。
「うん・・・・・・何とか」
幼馴染みの様子は全然大丈夫そうには見えなかった。
「冷たいようだけど、女のことは自業自得としか言いようがない」
幼馴染は俯いて震えたままだ。
「でも兄は純粋に被害者だろ、これは」
兄が女の女神行為に加担したことを伏せて俺は言った。
「うん」
相変わらず俯いたままだけど、ようやく小さな声で幼馴染が返事をした。
「俺たちまでうろたえている場合じゃねえよな。おまえや妹ちゃんは、女に巻き込まれて
悩んでいる兄を支えてやらねえと」
幼馴染の目に光が戻ったようだった。どうやら食いついたらしい。
「・・・・・・うん。そうだよね。女さんが自分のバカな行為で破滅するのは、あんたの言うと
おり自業自得だけど、巻き込まれた兄には何の責任もないもんね」
多分兄は女の女神行為を知っているばかりか、むしろそれに積極的に加担しているであ
ろうことを、俺は幼馴染に黙っていた。
「それだよ。明日から俺とおまえと妹ちゃんは兄を守ってやらなきゃいけないと思う。俺
たちは兄の友だちなんだからさ」
「わかった。兄友の言うとおりにする」
「妹ちゃんにも連絡して言っておけ。明日からはまた四人で登校するぞ」
明日の朝も姉さんを放っておくことになるけど、俺にとってそれは払うべき犠牲だった。
「うん」
「どうせ校内じゃ兄はハブられると思うけど、俺たちは兄のそばにいてやるんだ。できる
よな?」
「もちろん。兄友になんか言われるまでもないよ。あたしはあいつの幼馴染なんだから」
「悪い。そうだったな」
「・・・・・・兄友も協力してくれるんでしょ?」
「ああ」
俺はそう言って幼馴染の目を見た。意志の強いしっかりとした視線で彼女は俺の方を見
返した。
大丈夫だ。これは今までみたいに俺に恋しているだけの腑抜けた目じゃない。自分の大
切な幼馴染である兄を守ろうとする決意がその眼差しには現われていた。
出だしは完全にイレギュラーで計画外のところで始まったけど、今のところは俺はうま
く予想外の状況をコントロールできているようだった。
「じゃあ、俺はちょっと用があるからこれで」
「うん。明日は兄友の家に迎えに行ってもいい?」
「もちろんだ。兄と一緒に登校してやらねえとな」
幼馴染は真面目な表情で俺の方を見た。
「ちょっとあんたのこと誤解してたかも」
「・・・・・・何だよ、いきなり」
少し微笑んだ顔で幼馴染は怪訝そうな俺に答えた。
「あんたってやっぱいいやつだよね。あたし、こういう状況になったらあんたは兄なんか
見捨てて、妹ちゃんを口説きに走るかと思ってたよ」
「そんなことしてる場合かよ」
「うん。ちょっと誤解されてるかもしれないけど、あんたって本当は友だちのことを大事
にしてるんだね」
何か勘違いされているらしい。幼馴染の気持を兄に向けることが目標なのだから、ここ
で俺がいい子になってどうする。でもこれ以上幼馴染との会話に深入りすべきじゃないと
いう気もした。
「んなわけねえだろ。俺は女みてえなぼっちの癖に勝手なことして、周りの人間を巻き込
んで傷つけるようなやつが大嫌いってだけだって」
「女さんってそこまでひどい人には見えなかったけどなあ」
「変な同情は禁物だぞ。女より兄のことを考えてやらねえと」
「わかってるよ。じゃあ、明日またね」
「おう」
俺は幼馴染の姿が消えたことを確認してから兄にメールした。
from:兄友
sub:人に聞かれるとまずいからメールで
『やべえよ。女さんの女神行為もろにばれてるつうか、どんどん知ってるやつが増えてる
ぜ』
『まとめサイトの画像の場所がみんなに知られちまってるぞ』
『おまえ、うちの学校の裏サイト知ってるか? URL貼っておくからとりあえず見てみ
ろ』
『いいか、落ち着けよ。慌てたって何の解決にもならねえんだからな』
『また、家に帰ったら電話する』
兄からの返信はなかった。今頃は裏サイト経由で緊縛スレの女の画像に辿り着いている
頃だろう。
そして兄はその後、3スレ目に入ったVIPのスレも最初から見ることになるだろう。そ
して今や学園の関係者のみならず不特定多数のチャネラーにまで女の個人情報が流出して
いることに気がついて狼狽することになるのだ。
翌日の登校時間から俺は幼馴染と妹と一緒に兄のそばを離れなかった。登校中の無口で
青い顔で何かを考えている兄の手を、久し振りに一緒に登校する妹は片時も離そうとしな
かった。そして兄の手こそ妹に譲ったものの、幼馴染もいつもより兄に密着して寄り添っ
ていた。そんな三人を俺は間近で見ながらも、主に周囲の生徒の反応の方を探ろうとして
いた。
そう言えば兄が女と二人で登校したりしていた頃、妹はどんな思いで過ごしていたんだ
ろう。幼馴染に対しては妹が好きなことにしていた俺だけど、本気で妹のことなんか気に
していなかった俺はこれまであまりそのことを考えたことはなかった。兄が女と付き合い
出してからしばらく、俺は幼馴染と二人で登校していた。姉さんを放っておいて。
その頃の妹は一人で過ごしていたのだろうか。今、目の前で以前のようにしっかりと兄
の手を握って寄り添う妹の姿を見ていると、妹が兄と女の交際に騒がなかったことが不思
議に思える。
そのときの俺は少しだけ妹の態度に悩んだのだけど、すぐに忘れてしまった。今はそれ
どころではなかったからだ。
校門をくぐって二年生の校舎の前まで来たとき、妹は名残惜しそうに兄の手を離してそ
の手を幼馴染に託した。
「お姉ちゃん、お願い」
幼馴染もためらうことなく妹に譲られた兄の手を取った。「うん、わかってる。任せ
て」
「じゃあ、あたし行くね。兄友さんもお願い」
妹はそう言い残して一年生の校舎に向かって去って行った。
「じゃあ行こうぜ」
俺は、幼馴染が兄の手を握っていることに言及せずにさりげなく言った。
一時限目の授業が始まる直前に学年主任が息を乱して教室に駆け込んできた。
先生は教室の無秩序ぶりに一瞬苛立ったようだったけど、特に声を荒げることもなくみ
んな席につけと言った。慌てた生徒たちが自分の席に戻ったころを見計らって先生は出席
を取り始めた。途中で、女の名前が呼ばれずに飛ばされたことに俺は気づいた。
「鈴木先生はちょっと急な仕事があるので、先生が代わってホームルームに来ました。あ
と、そういうわけで一時限目の鈴木先生の授業は自習になります。みんな真面目にやれ
よ」
慌しく事情を説明すると、学年主任は質問を受け付けずに再び早足で教室出て行ってし
まった。
昼休みになると俺は幼馴染と一緒に兄を中庭に連れ出した。あらかじめ幼馴染と打ち合
わせしていたのだろう。少しすると妹が兄の分の弁当を持ってそこに姿を見せた。四人揃
って昼を過ごすのは久し振りだった。こんなときだけど少しだけ感慨深い。
とは言っても兄はいつも以上に無口だったし、購買のパンを食っている俺が見てもうま
そうな妹手づくりの弁当にもあまり関心がないようだった。機械的に口に運んではいたけ
れど。
「お兄ちゃん、食欲ないの?」
「いや、そんなことないよ。おまえの弁当久し振りだけど、やっぱりおまえ料理上手だ
な」
棒読みのようなセリフもいいところだ。
「今更何言ってるの。妹ちゃんは今すぐ結婚して奥さんになっても大丈夫なほど昔から料
理は上手だったじゃない」
幼馴染がフォローした。
「お姉ちゃん、やめてよ」
「・・・・・・いや、それは本当にそうだし、俺も前からよく知ってるけど。何か、最近妹の弁
当とか食ってなかったから新鮮で」
「妹ちゃんに惚れ直したか」
嫌がらせには取られなかっただろう。俺は場の雰囲気を読めない人を装って無邪気に口
を挟んだのだから。でも俺の言葉で三人は再び沈黙してしまった。
「あんたはこんな時に・・・・・・ばか」
幼馴染が顔を赤くして言った。受け取ろうと思えば兄に対する愛情の発露の照れ隠しと
も受け取れるような口調で。いい傾向だった。
「悪い。変な冗談言ってすまなかった。今はそんなこと言ってる場合じゃねえよな」
「いや、俺は別に」
「謝るよ兄。悪かった」
「もうわかったって」
「気にしないで、兄友さん」
妹がそう言ってくれた。それは思ったより淡白な口調だった。兄好きな彼女ならもっと
顔を赤らめるとかしても不思議ではないのに。今朝の彼女からは兄を守ろうとしている意
思は十分に感じていた。今朝だって兄の手を握って離そうとしなかったし。それでもこの
ときの妹の様子を見て、俺はふとついに彼女にも兄以外に好きな男ができたいるのではな
いかという気がしてきた。それなら兄と女の交際に取り立てて異議を唱えなかった妹の行
動も理解できる。
「ああ。もう言わねえよ。それよかさ、女さんのことだけど」
「兄友、それは・・・・・・」
幼馴染が曇った声で言った。
「うん。そんなに気にしてくれなくていいよ。みんな知ってるんだろ?」
兄は無理をしていることが丸わかりな口調で言った。
「・・・・・・うん。裏サイトに書かれてたし。2ちゃんねるでも」
妹がはっきりと兄に答えた。
「あたしも読んだ」
幼馴染もそれに続いた。
「っていうか今日の教室の雰囲気だと、大部分のやつらが既に知ってそうだな」
俺は何気なく付け加えた。
「・・・・・・言い難いんだけど、一年生の教室でも噂になってる。というか女さんの、その」
妹が気まずそうに言った。
「お兄ちゃんごめん。女さんの下着だけの写真とか」
「妹ちゃん・・・・・・」
「女さんが縛られてるみたいなポーズの写真とか、男の子たちが携帯で見せあっ
て・・・・・・」
「・・・・・・妹ちゃん、泣かないの」
「・・・・・・ごめん」
このとき幼馴染と妹のやりとりを無視するように兄がうめくように言った。
「・・・・・・ちく」
「兄?」
「・・・・・・ちくしょう。どうして女だけがこんな目に会わなきゃいけないんだよ」
「・・・・・・お兄ちゃん」
「あいつは誰にも迷惑なんてかけてなかったんだよ。何も悪いことなんてしてなかったの
に。何で女がここまで追い詰められなきゃなんねえんだよ」
「兄、落ち着いて」
幼馴染が小さな声で言った。
「あいつの生活を・・・・・・あいつの人生を壊す権利なんか誰にもねえはずなのに」
「おまえの気持ちもわかんないわけじゃねえけどよ」
俺は兄に言ってやった。欺瞞と作戦で兄同意してやろうとか考えないでもなかったけど、
このときの俺の言葉は本心からのものだった。
「・・・・・・え」
「女さんが何にも悪いことをしなかったっていうのは、おまえの惚れた欲目じゃねえか
な」
「・・・・・・何だと」
「ちょっと兄友、何言ってるの」
「ここの生徒の大半は、特に一年生の女子は、女さんがしていたことを知ってショックを
受けたはずだぞ。女さんがしたことは普通の高校生のすることじゃねえよ。どうしておま
えはそこを考えねえんだよ。女さんの女神行為でトラウマになるほど傷付く子だっている
んだぞ。女さんのことを心配するのはいいけど、女さんのしたこと矮小化しようとするな。
女さんはそれだけのことやらかしたんだってことをちゃんと見つめろ」
「・・・・・・それは」
「・・・・・・あたしもね」
幼馴染も静かに口を挟んだ。兄は驚いたように俺から彼女に視線を移した。
「女さんと兄のことすごく心配だし気の毒だけど」
「お姉ちゃん・・・・・・」
「本当はあたしも兄友の言うとおりだって思う。っていうかあたし自身今だに信じられな
いし、最初に女さんのああいう姿を見た時、トイレで吐いちゃったくらいショックだっ
た」
「・・・・・・お姉ちゃん、何で今そんなこと」
「ごめん妹ちゃん。でも、あたしも兄には嘘はつけない」
「そういうことだ。厳しいこと言ってるみたいだけど、それくらいのことを女さんはやら
かしたんだよ」
俺はそう言ったけど、同時に自分が姉さんに女神行為を強いていたことも思い出した。
俺と違うのは兄は女に女神行為を強いてはいないということだけだ。俺が姉さんにしたよ
うには。それでも女を制止しないばかりか、自ら女の女神行為を撮影と言う形で後押しし
たのは兄だった。
多分兄だって女のその行為に興奮したはずだ。そういう感情がなければ普通なら独り占
めにしたいだろう恋人の裸身を露出させる行為になんか加担するはずがない。そういう意
味では兄も俺と同じ穴の狢なのだ。
「それをちゃんと認めたうえで、どうするか考えないと、おまえらまた間違うぞ。こんな
時に厳しいこと言って、悪いとは思うけどよ」
「お兄ちゃん?」
「・・・・・・すまん」
ようやく兄はぽつんと言った。
教室に戻ると、主を失った女の机に、何かの文字がマジックのような物で黒々と記され
ていた。
『モモ◆ihoZdFEQao(笑)』
その文字を見て俺が呆然としてクラスの連中を眺めた時、どこからともなくクスっと嘲
笑うような悪意のある声が俺の耳にも届いた。そのとき兄があざ笑いしたらしいやつの方
に向おうとしたことに俺は気がついた。怒っているからか悲しかったからなのか、そのと
きの兄は無表情だったのでよくわからなかった。とにかく兄は笑ったらしいやつのところ
に向おうとした。俺は兄がそいつを殴る前に兄の体を羽交い絞めにして制止することに辛
うじて成功した。
「落ち着け。こんな低級な嫌がらせに反応するな。おまえが反応するとこいつらますます
いい気になるぞ」
俺を大きな声でそう言って、周囲の生徒を睨みつけた。教室内の生徒たちは一様に下を
向き、俺と目を合わせないようにしていたが、その時でもまたクスクスという笑い声がど
こからか小さく響いた。
どこかからか雑巾を持ってきた幼馴染が、女の机の文字を拭き取り始めた。油性のマジ
ックのような物で書かれたらしく、その文字は汚れを広げるだけで一向に消えようとはし
なかった。それでも、一生懸命に女の机を拭き続けている幼馴染の目には、涙が浮かんで
いた。ようやく兄の体から力が抜けた。
「すまん」
兄は掠れた小さな声で俺に言った。
「俺、今日は家に帰る。これ以上ここにいると自分でも何をしでかすかわかんねえし」
「・・・・・・その方がいいかもしれねえな。わかった。鈴木には俺から話しておくから」
「一緒に付いていってあげようか?」
幼馴染が目に浮かんだ涙をさりげなく拭きながら言った。
「おう、それがいいよ」
俺もそれに同意した。「気分の悪くなった兄を幼馴染が送って行ったって、鈴木には言
っておけばいいな」
「・・・・・・いや、いい。家に帰るだけだし、お前らを付き合せちゃ悪いしな」
兄が幼馴染の付き添いを断った。
「大丈夫か」
「ああ。平気だよ。じゃあな」
兄はカバンを取り上げた。
「二人ともいろいろありがとな」
兄が教室を出て行く時、再び小さな嘲笑めいた声が教室の中から響きだしたけど、俺が
教室内を睨みつけるとその嘲笑はいつのまにか静まっていた。
そろそろ幼馴染を煽って本格的に追い込みをかける時期だった。女のことはもう大丈夫
だ。VIPのスレがあそこまで盛り上がればもう俺自身が何かをする必要はないだろう。ネ
ットの恐いところはこれだ。放っておいても情報は拡散していく。多分、今では女の名前
で検索してみれば数多くのサイトがヒットするだろう。まとめサイトやアンテナサイトだ
って、女のことを取り上げているであろうことはもはや疑いようはない。
これから俺がすべきなのは幼馴染や姉さんに対しての「仕上げ」だった。
そのための舞台は期せずして放課後に訪れた。
兄が途中で帰宅してしまったことを、俺は鈴木に報告しようとした。でも鈴木の姿は職
員室にも見当たらなかったので、とりあえず学年主任に兄のやつが気分を悪くして中退し
たことを伝えた。俺が兄の早退を報告したのは放課後だった。逆に言うとそれまでは誰も
兄の早退のことなんか気にしていないということだった。女と一緒にハブられている状態
とはいえ、同級生はともかく教師たちまで俺が報告するまで兄の早退のことなんか気がつ
いてさえいないようだ。
俺が職員室を出ると幼馴染が廊下に立って俺を待っていたようだった。
「帰るか?」
「うん」
俺と幼馴染はそのまま二年の校舎を出た。そこに妹が立っていた。彼女もまた浮かない
表情だった。
俺は妹に、兄が途中で帰宅したこととその原因を説明した。それを聞かされた妹は何も
言わずに節目がちに下を向いて唇を噛んでいた。
このままここにいても好奇の視線に晒されるだけだった。そう思った俺たちは校舎を出
て校門のところまで来た。
今がそのときなのだろう。俺は校門の前にたたずむ幼馴染と妹に向って口を開いた。何
度もシミュレーションしていたせいで、言いたいことは滑らかに伝えられたと思う。。
「あのさ、ちょっと話が、つうか頼みがあるんだけどさ」。
「・・・・・・うん」
「最悪の場合さ、多分兄と女ってもう会えないことも考えられるんじゃねえかなと思うん
だ」
「・・・・・・いつかは噂だって収まるんじゃないの?」
「いろいろ腹は立つけどさ、女さんって兄のこと本当に好きだったのかもな」
「何でいきなりそんなことを」
「女から兄に何の連絡もないだろ? 普通なら電話とかメールとかしてくると思うんだよ
な」
「ご両親にスマホとかパソコンとか取り上げられてるんじゃない?」
「それにしたって家電とか公衆電話とか手段はあるはずだよ。女さんが兄と接触を取らな
いのは、これ以上兄を巻き込まないようにしてるんじゃねえかな」
「兄のことを考えてわざと連絡しないようにしてるってこと?」
「何だかそんな気がする」
「・・・・・・兄がそれを知ったら余計に苦しむね」
「あいつにはとても話せねえよ」
「それで頼みって?」
「おまえ、兄のそばにいてやってくれ」
「そんなことは言われなくたってそうするよ」
「そんで、兄の気持ちをおまえの方に向かしちゃって、女のこと忘れさせてやってくれ」
「・・・・・・どういうこと?」
「女さんから兄を奪っちゃってくれってこと」
「・・・・・・何でそんなこと言うの?」
「女さんはもう兄の前には現れねえと思う。あんだけ意志が強くて頭のいい子がそう決心
したら、必ずそれを貫くよ」
「兄が女のことを忘れるには新しい恋人ができる以外にはないと思う」
「兄には、妹ちゃんがいるのよ」
「もちろん、妹ちゃんの存在が兄の心の安定に繋がっていることは間違いないけど」
「女さんと付き合う前は、兄はおまえのことが好きだった」
「おまえが兄のこと好きだったのも間違いないよな」
「兄友・・・・・・待って」
「そのおまえなら兄の気持ちを惹きつけられるよ。兄だって弱ってるし、女の記憶だって
薄れていく時だって来るし」
「正直、俺だって辛いんだぞ」
「・・・・・・兄友」
「俺さ、おまえのこと好きだ」
「けどさ、今、兄に必要なのはおまえなんだよ」
「お姉ちゃん・・・・・・あたしからもお願い。お兄ちゃんを救ってあげて」
驚いたことに妹までが俺に同調した。
やれるだけのことはやった。あとは放置しておけば勝手に事態は進行していくだろう。
もうすることはあまりない。
自宅に帰って放心したままベッドに横たわって俺はそう思った。明日からすべきことは
二つだけだった。一つは兄と女の状況確認。そしてもう一つは姉さんへのケア。特に姉さ
んのことは今の俺にとって最重要事項だった。こんなことを始めたのだって姉さんのため
なのだ。それなのにここ数日、兄のことにかまけたせいで姉さんのことを放置してしまっ
ている。姉さんのため、自分のために俺はここまで頑張った。誰だかわからないやつから
鈴木にメールされて出鼻をくじかれたけど、何とか俺は流れを取り戻して思うような結果
を出せた。少なくとも今のところは。
今日はこれから姉さんと会おう。
少し用事があると言った俺を幼馴染は未練ありげに眺めたけど、結局妹と連れ立って下
校して行った。だから今の俺には行動の自由と時間があった。俺は生徒会室の方に向った。
生徒会室のドアをそっと開けると、室内には姉さんが一人でぶつぶつ言いながらパソコ
ンに向っていた。姉さんの他に役員の姿はなさそうだ。俺はそっと室内に入って背後から
姉さんに抱きついた。
「きゃあ・・・・・・え、何々?」
姉さんは文字どおり飛び上がって振り向いた。
「悪い。そんなに驚くとは思ってなかったよ」
姉さんは驚いたように俺を見ていたけど、すぐには言葉も出なかったらしい。どうやら
俺は本格的に姉さんを驚かせてしまったみたいだ。口をぱくぱくしていた姉さんはやがて
振り絞るように声を出した。
「あ、あんたねえ。何すんのよ。びっくりしたじゃん」
「ごめんな。あんまり姉さんが可愛かったんで少しだけ驚かせようと思ってさ」
本心からそう言ったのだけど、姉さんは俺が期待していたような可愛らしい反応を見せ
てくれなかった。
「ふざけんな。ああ、ただでさえむかついてんのにあんたまであたしを苛々させるのね」
「悪い。ちょっとした悪戯のつもりで・・・・・・。姉さん、本気で怒ってる?」
俺は姉さんの真面目な顔に少しびびって言った。
「・・・・・・まあ、あんたのせいばかりじゃないけどさ」
ようやく少しだけ姉さんの表情が柔らかくなった。
「何か嫌なことでもあった?」
姉さんはため息をついた。
「まあね。学園祭の前だって言うのに幼馴染さんも書記ちゃんも無断でサボるし、生徒会
長のアホにはむかつくし」
幼馴染が今日いないのは俺のせいだ。あいつは俺に示唆された言葉を受け入れて兄のケ
アをしに帰ったのだから。今日はどうせ女に対して仕掛けたことを姉さんに報告するつも
りだったから、幼馴染が無断でサボったという誤解も解けるだろう。
でも、俺がその話を切り出す間もなく、姉さんは話を続けた。
「まあ、幼馴染ちゃんは真面目な子だし、来なかったのには何か理由があるんだろうけど
さ」
「そうなんだよ。実はさ」
「そんなことより会長のアホだよ、アホ」
姉さんは俺に喋る暇を与えずに話を続けた。ここしばらく俺は姉さんのことを放置して
いたのだけど、姉さんにはそんなことよりむかつく出来事が訪れていたようだった。とり
あえず俺の報告は後回しだ。姉さんの彼氏として姉さんの悩みを聞いてあげよう。
「いったい会長がどうしたんだよ」
「ああ〜、思い出すだけでもむかつくわ」
「今日先輩と何かあったん?」
「今日じゃないけどさ」
姉さんが話し出した。どうも誰かに聞いてもらいたかったみたいだ。最近、俺が姉さん
のことを放っておいたせいで、愚痴の聞き役がいなかったせいかもしれない。
「会長のやつさ。こないだ幼馴染ちゃんに告って振られたんだけどさ」
「ああ」
俺はその話は幼馴染から相談されていたので知っていた。だから俺の反応は淡白なもの
だった。でもそれがいけなかったみたいだ。
「ああって。ああそうか。あんたは幼馴染ちゃんをフォローしてたんだもんね。とっくに
彼女から相談されていたのね」
「相談されただけだぞ。変な意味に取るなよ」
俺は慌てて言いわけした。
「誰もそんなこと言ってないでしょ」
姉さんが冷たく俺に言った。
「・・・・・・で?」
「そしたら会長のやつ、拗ねちゃってさ。生徒会に顔を出さなくなっちゃったのよ。情け
ない。振られるなんて誰にだってあることだし全然恥ずかしいことじゃないじゃん?」
「まあ、そうだね」
俺にはあまり告った女に振られた経験はなかったけど、ここは姉さんに無難に同調して
おく方がいいだろう。
「でもさ、振られたことを根に持って生徒会活動をサボるとかどうなのよ? 幼馴染さん
に会いづらいんでしょうけど、責任放棄もいいとこじゃん」
「それで姉さんがいらついてたわけか」
「そんだけじゃないよ」
「まだ、あるの」
「あのアホ、幼馴染ちゃんに振られたら早速女を乗り換えやがった」
「え?」
あの真面目な会長にそんな甲斐性があるとは思わなかったので、俺は少し驚いた。それ
にしても、浮気とかではなくちゃんと振られたあとに次の相手に乗り換えているのだから、
姉さんが怒るほど生徒会長が不誠実だは思わなかったけど。
「何で姉さんがそんなことを知っているの」
「それがさ」
姉さんはもう全部俺に話して気晴らしをすることにしたようだった。
その朝、始業前に一人で登校している生徒会長を見つけた姉さんは会長に説教を始めた。
『こら。あんた何で昨日話の途中で生徒会室から逃げ出したのよ。あの後、幼馴染が落ち
込んで大変だったんだよ』
『悪い。部活があったから』
『本当に情けないなあ、あんたは。別に生徒会の役員の子に告るのは自由だけど、告られ
た幼馴染さんに生徒会をやめるとか言わせるなよ』
『僕はそんなつもりは』
『じゃあ何で生徒会室に来ないのよ。何で幼馴染さんをあからさまに避けて彼女に気を遣
わせてるの? あんた彼女が好きなんでしょ。振られたとしても彼女の気持ちを考えてあ
げなさいよ、先輩なのに情けない』
『君には悪いと思っているけど・・・・・・』
そのとき一人の下級生の女の子がいきなり会長の片腕に抱きついた。そして、会長を更
に責めたてようと意気込んでいたらしい姉さんに、落ち着いた口調で話しかけたらしい。
『先輩は何も悪くないです』
『あんたは・・・・・・たしか、幼馴染さんの知り合いの妹さんだっけ』
妹だって? 姉さんの話に俺は混乱した。あいつはずっと兄だけを想い続けてきたので
はなかったのか。混乱はしたけど、姉さんの話が気になった俺は表情を押さえて話の続き
を待った。
「妹って、兄友も知っているでしょ」
「兄の妹だろ? よく知ってるよ。そんで妹は何だって? つうか会長と妹って付き合っ
てるの」
『先輩は悪くないです。あたしがパソ部に入部して、それで何もわからないでいることを
心配してくれて面倒見てくれてるだけで』
妹は堂々と姉さんに反論したそうだ。
『あんたさ・・・・・・』
姉さんはとりえず妹を相手にせず会長に向かって吐き捨てるように言った。
『やっぱり女を乗り換えてたのか。幼馴染さんに振られたからって、すぐに下級生に言い
寄るとか最低だね』
会長は姉さんの詰問に対して何も答えなかった。
『言い訳もなし? あんたいっそもう生徒会長やめたら?』
その時、会長の腕に抱きついていた妹はそのままの姿勢で姉さんに言った。
『副会長先輩って、もしかして会長のことが好きなんですか』
『あ、あんた、何言って』
「姉さん、まさか」
俺はそのとき本気で狼狽した。会長にはかつて次女を取られた因縁がある。まさか、姉
さんの心まで奪われたのだろうか。
そう口にした結果、俺は姉さんに本気で殴られた。非力な姉さんのパンチも無防備な状
態でまともに受けると結構痛い。
「んなわけねえだろ。兄友、あんたあたしを信用できないの?」
「ごめん。そんなことはない」
姉さんは疑り深い目で俺を睨んだけど、結局続きを話し出した。
『あたしに嫉妬してるんですか? だったらお姉ちゃんのことを心配してるような振りを
するのはやめて、先輩に「あたしとこの子とどっちか好きなの?」ってはっきり聞けばい
いんじゃないですか』
『あと、副会長先輩は勘違いしてますよ』
妹は平然と続けた。『先輩はお姉ちゃんに振られたからあたしに乗り換えたわけじゃな
いですよ』
『先輩があたしのことを好きだとしても、それはお姉ちゃんとは関係ない先輩の純粋な気
持ちでしょ。そのことを非難する資格が副会長先輩にあるんですか』
妹は堂々と会長が自分のことを好きだと匂わすようなことを言った。姉さんは頼りなげ
な外見の、か弱そうな一年生の女の子に言い負かされそうで、このときは本気で狼狽した
そうだ。だから、普段の姉さんなら言わないようなことまでつい口走ってしまったらしい。
『・・・・・・あんたさあ。調子に乗ってるんじゃないわよ、ブラコンの癖に』
追い詰められた姉さんの言葉がそれなりに効果があったようで、妹はそれを聞いてこれ
までの元気を失ったようにうつむいてしまった。
『・・・・・・それこそ、君には関係ないよな』
会長が妹を庇った。会長の援護に元気を取り戻したのか、妹が再び姉さんに反撃し出し
た。
『とにかく、先輩が生徒会に出ないことと、先輩がお姉ちゃんに振られたこと、それに』
『・・・・・・それとあたしと先輩の仲がいいことを一緒にしないでください。もし先輩とあた
しが恋人のように見えるとしたら、それは先輩じゃなくてあたしのせいですから』
『そんなことを言ってると、それこそ副会長先輩があたしに嫉妬してるようにしか見えな
いですよ』
『もういい。あたしはこれからはあんたのことには関らないから』
姉さんはもう妹とは目を合わせず、会長に向かって捨て台詞のような言葉を吐き捨てて
去って行ったのだそうだ。
今日は以上です
もう少しこちらの投下を続けたいと思います
「ビッチ」の再開はその後になります
ご愛読感謝です
乙乙
ああ、だいぶ思い出してきたわ。ちょうど1年前ぐらいに書いてた部分の種明かしに差し掛かってるんだな
兄が黒幕への復讐を誓うとこまでだっけ? を各自の視点から追ってるんだったか。
その後どうなるやら?
乙!
続ききてたか
乙
妹が兄以外の男を好きになるというのはにわかには信じがたい。兄と妹の関係を知らな
いやつらなら、例えば姉さんならそれが別に可笑しいことだなんて思いもしないだろう。
でも俺は身近な位置であの二人を眺めてきた。小さい頃から一緒に過ごしている幼馴染ほ
どではないにしても。
あれだけ兄だけを見ていた妹に彼氏ができた? それもこう言っては悪いけどその相手
が生徒会長だというのだ。妹のような可愛い女の子なら何もわざわざ生徒会長なんかと付
き合うことはないのに。
もちろん、兄だって特筆すべき点なんて何もない平凡な男だ。客観的に見れば妹ほどの
美少女が惚れるようなスペックなんて何も持ち合わせていない。それでも俺には妹がそん
な平凡な兄に対して執着する理由はわかるような気がしていた。
以前、幼馴染から聞いたこと。
妹は両親が不在がちの家で育った。彼女は兄しか頼る家族がいない状態でずっと暮らし
てきたのだ。
そういう生活を強いられてきた妹は、唯一自分のそばにいつもいてくれた兄に対して過
度に依存するようになった。そしてそれは、世間一般で言うようなブラコンとか、異性と
して兄を愛する近親相姦とか、そういうステレオタイプな言葉ではくくれないような関係
だったに違いない。
兄が平凡で取り得がないとか、実の兄だから彼氏として付き合うことができないとか、
そんなことは妹にとってどうでもいいことだったのだろう。
寂しかった妹が、兄を独り占めしたい、自分が兄の一番でいたいという気持ちを強く抱
くようになってしまった、そのことに対して非難できるやつなんていない。俺は今までは
そう考えていた。でも姉さんの話だと、妹は兄以外に好きな男を見つけたらしい。相手が
妹の兄への思慕さえも凌ぐほどのイケメンならそういうこともあり得るのかもしれない。
例えば俺が本気で妹を誘っていたら、ひょっとしたら妹は兄を見捨てて俺に靡いていたか
もしれない。でも、相手があの生徒会長だというのだから、そういうことは考えにくい。
でも、本当にそうだろうか。俺は昔、次女の気持ちを会長に持って行かれたことがあっ
た。それに兄に言い寄って兄の気持を自分の方に向かせた女だって外見はいい女だ。その
女が兄に真剣になったのだ。ひょっとして生徒会長は意外と女性を惹きつけるのだろうか。
俺は兄が女と付き合い出してからというもの、兄を邪魔することもなく俺と幼馴染と一
緒に登校するでもなく一人で過ごしていた妹のことを考えた。あのとき感じた違和感、つ
まりひょっとして兄以外に好きな男ができたのではないかと感じたことは正しかったのだ
ろうか。
考えていてもよくわからない。それにわかる必要もないのかもしれない。妹が兄の争奪
戦から撤退すれば幼馴染にとっては状況が有利になる。幼馴染になら兄を譲ってもいいと
言った妹は、辛い決断をしたのでも何でもなくて、実は自分に気になる男ができたから幼
馴染を兄にあてがおうとしただけなのかもしれない。
まあ、そのことはもういい。それよりも女が今陥っている状況を姉さんに説明し、目的
を改めて姉さんと共有しておかなければならない。
俺はそう思ったのだけど、妹と生徒会長との腹立たしい会話を俺に説明し終わった姉さ
んは、ようやく気が済んだのか再び仕事に没頭したがった。
「悪い。今日は一人で帰ってくれる?」
姉さんがパソコンの画面から目もあげずに言った。
「仕事が終るまで待っていようか」
「ううん。今日はいいや。あんたに愚痴を聞いてもらってちょっとすっきりしたよ」
「ならいいけど」
今日はもう説明をあきらめた方が良さそうだ。
「明日は一緒に登校できる?」
姉さんは驚いたようだった。
「幼馴染さんのフォローとかもういいの?」
「ああ。詳しくは明日話すけど」
「じゃあ、いつもの時間に待っているよ」
姉さんは再びパソコンの画面に没頭し始めた。
俺は今日の出来事を思い返すのをやめて寝ることにした。混んだ電車が嫌いな姉さんは
早い時間に登校する。久し振りに俺も明日は早く起きなくてはならない。一瞬、寝る前に
2ちゃんねるの例のスレを少し覗こうと思ったけど今日はやめておこう。明日、学校でま
とめて読めばいいのだし。俺は部屋の電気を消して目を閉じた。
翌日の朝、俺はいつも幼馴染や兄たちの乗る電車より早い時間に、久し振りに姉さんと
登校できることに不覚にも少しだけときめきながら、待ち合わせ時間の電車に乗り込んだ。
・・・・・・でも、そこには姉さんの姿はなかった。
遅刻でもしたのだろうか。それとも久し振りで待ち合わせの電車の時間を勘違いしたの
か。俺は少しがっかりして、たまたま空いていた座席に力なく腰かけた。
これまでは一人で寂しいと思ったことなんかなかった。特定の女がいたときだって、四
六時中その子と一緒にいたいなんて考えたことはなかった。それがどうしてだろう。女の
女神行為の見バレ以降は何だか落ち着かない。もう放っておいても勝手に事態が計画どお
りに進行して行くのだと確信した今でも、得体の知れない不安が常に俺を包んでいるよう
だ。
それだけ姉さんに惚れているということか。姉さんがそれだけ特別なのかもしれない。
俺は自分に言い聞かせるようにそう心の中で繰り返した。そうだ。女と兄の中を引き裂こ
うとしている行為にプレッシャーを感じているわけではない。ただ姉さんが恋しいだけな
のだ。
最近、あまり睡眠が取れていなかったせいもあったのだろう。今朝は普段より早起きし
たということもあった。車内の暖かく淀んだ空気や、規則正しい振動が心地よい。いつも
はまず座れない座席に腰けてしまった俺はいつのまにかうとうとしてしまったようだった。
「・・・・・・兄友」
身近に柔らかい感触といい匂いがした。耳をくすぐるように優しい声がする。
「何やってるの? 学校遅刻しちゃうよ」
俺は瞬時に覚醒した。何か違和感を感じる。ここはどこだ。車窓に映っている景色は見
慣れないものだ。
「何であんたがいるの?」
隣に座っていたずらっぽく俺の方を覗き込んでいたのは次女だった。
「え? 次女かよ」
「次女かよじゃないでしょ。失礼だなあ」
「・・・・・・ここどこだ?」
「どこって。ひょっとして寝ぼけてる?」
さっきまで学校に向っていたはずなのに、本当に一瞬自分がどこにいるのかわからなか
った。外の景色はいつも見ている街中の景色とは全く違う。違和感の正体はそのせいなの
だろう。
「次があたしの学校の最寄り駅だよ。何で兄友が反対方向の電車に乗ってるのよ」
それでは転寝している間に電車は終点まで行って折り返してしまったのだ。姉さんとの
待ち合わせ時間はいつもより早い時間だったけど、さすがに折り返した挙句自宅前の駅を
通り越してしまったのでは、次の駅で再び折り返しても始業時間には間に合わない。
「やっちまったか」
「寝過ごして折り返したの?」
次女が笑い出した。
「おまえちょっと笑い過ぎ」
「久し振りに兄友に会ったけど、あんた相変わらずだなあ」
「昨日夜更かししちゃってさ。それでたまたま今朝は電車で座れちゃったから」
「ふ〜ん」
次女がからかうような微笑みを浮べた。考えてみればこいつと顔を会わせるのも本当に
久し振りだった。
「お姉ちゃんは何であんたを起こさなかったのかな。ひょっとしてお姉ちゃんと喧嘩し
た?」
「おまえ、何言ってるの」
俺は不意打ちを食らって本気で狼狽した。
「誤魔化すことないじゃん。あんた、お姉ちゃんと付き合ってるんでしょ」
俺が姉さんと付き合っていることは校内はもちろん、姉さんの家族にだって秘密にして
いたはずだ。唯一の例外である妹友を除けばだけど。
あのとき、かつて興味本位で弄んだ妹友によって、俺は不意打ちを食らったのだ。その
ときの俺には妹友への優位性なんか何もなかった。ただ、ひたすら恐かった。かつて俺に
ひどいやりかたで弄ばれたにも関わらず。今だに俺に好意を持っているらしい妹友のこと
が。
俺は妹友との邂逅を思い出した。
『お兄ちゃんって幼馴染さんと付き合っているわけじゃないのか』
あのときの妹友の声は俺に裏切られたとか体を弄ばれたとか、そういう恨みは微塵も感
じられないような言い方だった。
『お、おう。兄とか妹ちゃんとか幼馴染とか、そいつらみんなと仲がいいだけだからな』
『・・・・・・そうだったんだ』
『そうだけど。何か言いたいことあるの、おまえ』
本当はそんなことを言える立場じゃないけど、こういうときは落ち着いて少し強気なく
らいな態度に出た方がいいというのが、東北で俺が女たちから学んだ教訓だったから俺は
迷わずに今まで散々してきたようにした。
でも昔と違うのは俺が当時の女たちのことなんか少しも恐れていなかったのに対して、
今の俺は妹友を恐れていたということだ。
『お兄ちゃん、顔真っ青だよ。どうかした?』
『どうもしてないけど』
『で、お昼ご飯は食べたの?』
『いや。何か食欲なくてな』
『そう。でも意外だなあ。あたし妹ちゃんからお兄ちゃんと幼馴染さんが付き合ってるみ
たいだよって聞いてたのに。意外だったな』
『意外って何がだよ』
『うん。あたしももう昔みたく子どもじゃないから。男女のことだからこういうのって
仕方ないと思ってたんだよ』
『それってどういう意味だ・・・・・・?』
『お兄ちゃんはもともともてる人だから、あたしなんかがいつまでも独り占めできるなん
て思ったことなかったんだ。だから、内心は寂しかったけどお兄ちゃんのこと好きだから
しつこくして困らせるのはやめようと思ってたの』
『だから妹ちゃんから幼馴染さんのことを聞いたとき、あの綺麗で人気のある人ならいい
かとも思って諦めもついてたんだけど』
何と返事をしていいのか全くわからない。こんなことは初めてだった。
『でもお兄ちゃんの好きな子が幼馴染さんじゃないなら』
あのときの妹友の目に浮かんだ涙は今でも忘れられない。
『ずるいよ、お兄ちゃん。それはだめだよ』
『暗かったから目の錯覚だと思ったけど、家のまでお姉ちゃんにキスしてたのはやっぱり
お兄ちゃんだったのね』
『次女ちゃんが言ってた。お兄ちゃんがあたしたち姉妹の中から彼女を選ぶなら次女ちゃ
んかあたしのどっちかだって。お兄ちゃんは地味なお姉ちゃんなんか趣味じゃないからっ
て』
『幼馴染さんならよかったのに。何でお姉ちゃんなのよ』
『悪い・・・・・・俺だってびっくりしたんだけど。俺、姉さんが一番好きなみたいだ』
ようやく搾り出すように俺はそれだけ言うことができた。
『・・・・・・もういい』
『幼馴染さんだったら祝福して身を引こうと思ってたけど、お姉ちゃんだったらそうもい
かないね』
『・・・・・・妹友』
『あたしお姉ちゃんと話し合うから。お兄ちゃんのことを責めるつもりはないけど、ここ
まで来たらもう姉妹の問題だし』
『お兄ちゃん、顔真っ青だよ。お兄ちゃんは気にしなくていいよ。これはあたしとお姉ち
ゃんの問題だから」
やはり次女に俺と姉さんの関係をばらしたのは妹友なのだろう。あれだけ俺を心理的に
追い詰めておいて、結局あいつがしでかしたのは次女に俺と姉さんの関係をちくることだ
けだったのか。あのときの次女からは何をしでかすかわからないような奇妙な圧迫感を感
じた。姉さんと話し合うとまで脅かされたのだ。俺はそのことに恐れすら感じたのだけど、
結局あいつがしたことは、俺と姉さんの関係を次女に相談しただけだったようだ。
俺は妹友のことを不必要なまでに恐れただけだったのだ。しょせんあいつはただの女の
子に過ぎなかったのだろう。俺は自分があいつの処女を奪って弄んだことへのひけ目を考
えすぎて、妹友の姿を実像より大きく感じてしまっていたのだろう。
「おまえ、それ妹友から聞いたのか」
「そうだよ。別にいいじゃん、隠すことないよ。お姉ちゃんみたいな地味な女の子と付き
合っているのは、兄友だってちょっとだけ恥かしいかもしれないけどさ。どっちにしても
あたしは何とも思わないよ。あたしが好きなのは生徒会長だけだしさ」
「おまえ、マジで言ってるの」
こいつは本当にあれから二年間会長のことを想い続けていたのだろうか。何年越しの片
想いだよ。そんなのおまえのキャラじゃねえだろ。それにしてもこいつは聞き捨てならな
い言葉を口にした。
「姉さんみたいなって、恥かしいってどういう意味で言った?」
俺の顔が真剣な表情に変わったことに次女も気がついたみたいだった。
「あ、ごめん。ちょっと言いすぎた。でもさ、自分のお姉ちゃんだけど、ぶっちゃけそん
なに美人でも可愛くもないじゃん? あんたがあたしとか妹友ちゃんを好きならわかるん
だけどさ」
「何言ってるんだ?」
「あ、違うのよ。あたしは会長一筋だからあんたの気持ちには応えられないし。兄友には
悪いけど」
「何言いたいのか全然わかんねえんだけど」
本当に何言ってるんだこいつ。
「妹友ちゃんならまだわかるよ。あの子はおとなしいけど見た目は可愛らしいからさ。そ
れにあいつ、兄友のことが好きみたいだし。あんた一筋なんて健気じゃない。だかたあた
しも妹友ちゃんのこと応援してたんだ。少なくともお姉ちゃんよりはあんたにふさわしい
思うしね」
「何言ってるのかわかんねえけど、大きなお世話だよ。おまえなんかに姉さんの良さがわ
かってたまるか」
「無理してるでしょ。負け惜しみ言ってるみたいだよ」
「してねえって」
「隠したってだめだよ。どうせ遊び半分でお姉ちゃんに手を出したら、執着されて逃げら
れなくなっちゃったんでしょ。兄友ってもう少し女に慣れてると思ってたのになあ。お姉
ちゃんなんかと一度でも関係を持ったら、必死になってあんたにしがみつくに決まってる
じゃん」
「はあ?」
「ただでさえ、お姉ちゃんって男に慣れていないのにね。そんな女に遊び半分で手を出す
なんて、兄友も勇気あるよね」
「おまえ、何か勘違いしてるよ」
「正直面倒くさいでしょ? いかにもお姉ちゃんに束縛されてそうだしね、あんた」
寝起きにも関わらず俺は本気で姉さんのことを誹謗する次女に対して、だんだんと腹が
立ってきた。偉そうに言うがこいつだって兄に失恋しているくせに。
「お姉ちゃんって、何で兄友と付き合っていることをあたしたちに秘密にしてるのかな
あ」
少しだけ不思議そうに次女が言った。そんなことは大きなお世話だ。妹友ならともかく
おまえには全く関係ないだろう。
「姉さんのことより・・・・・・おまえはどうなんだよ」
「え?」
「会長もおまえなんかより好きな相手がいるらしいけどな」
「何? 何言ってるの?」
よほど自分に自信があったのだろう。俺の言葉に次女は戸惑ったようだった。
「会長って。まさか、まだ女ちゃんのことを?」
俺は思わず笑ってしまった。
「いったい何年前のこと言ってるんだよ。おまえも脇が甘いな」
「・・・・・・どういう意味?」
「会長だって今では可愛い彼女がいるんだよ。もちろん、女なんかじゃねえぞ」
「・・・・・・うそ」
「本当」
姉さんと俺とのことなんか頭か吹き飛んでしまったようだ。今までの余裕の表情が消え
次女は必死な表情で聞いた。
「誰なのよ。会長が好きな女って」
「俺の同級生の妹。妹ちゃんって可愛い子なんだ、これが」
「妹って、あたし知ってるかも」
「何でおまえが知ってるんだよ」
「妹友の親友だって女の子じゃないかな。前に妹友から聞いたことある」
「・・・・・・そういや妹友と同じクラスかもな」
「会長とその子って付き合ってるの?」
「俺もよく知らないけど、付き合っていても不思議はないな」
それを聞いて次女は恐い顔で黙ってしまった。
電車が次女の通っている女子高の最寄り駅に着いた。
「じゃあな」
「じゃあなじゃない。あたし、今日は学校に遅れて行くことにしたから兄友も付き合っ
て」
「え? 何で」
「どうせここで折り返したって遅刻でしょ、あんた」
姉さんのことを貶められたせいもあって、俺は言わなくてもいい余計なことを口にして
しまったみたいだった。次女の表情を覗うと、こいつにはどうやらこのまま俺を解放する
気はないみたいだった。
結局、俺は次女にファミレスに連れて行かれ生徒会長と妹のことを洗いざらい白状させ
られた。と言っても姉さんから聞かされたことくらいしか、俺が次女に話せることはなか
ったのだけど。
何で俺が次女に責められなきゃいけないのだ。そう何度も考えたくらい次女の俺への追
求は厳しかった。別に俺が会長と妹をけしかけたのでもなんでもないというのに。そして、
これ以上俺なんかから得られる情報がないとわかると、次女はあっさりと俺を解放した。
「まあいい。家に帰ったら妹友を問い詰めるから」
次女は青い顔をして俺に言った。どう考えても俺には関係ないじゃんか。少なくとも俺
が次女に睨まれる筋合いはない。
「・・・・・・もう学校に行ってもいいか」
俺はうんざりとしてクソまずいコーヒーを飲み干して聞いた。
「あたしも会長のこと、少し放っておき過ぎたかもしれないな」
こいつは俺の言うことなんか何も聞いていないようだった。それにしても会長が卒業し
てから高校三年になるまでの間、こいつは何もせずに会長のことを放置していたことにな
る。そんだけ放っておいて、会長に彼女ができることが心配にならなかったのだろうか。
「三年間だぞ。おまえだってこれまで男がいたことだってあるんだろうが」
「何人かはいたけど。あたしだってそれなりにもてるし。でも、会長への想いは特別なん
だよ」
こいつはバカだ。これが初めてではないけど俺はこのときそう思った。こいつを何とか
しようとか考えていた中坊の俺はいったい何者だったのだろう。軌道修正を果たして姉さ
んに目を付けた自分のことをほめてやりたい。
「はいはい。俺にはこれ以上何も言えることはねえし」
「兄友?」
「何だよ」
「会長と妹のこと、何かわかったらまた教えてくれる?」
正直面倒くさい。それに中学時代の俺とは違ってもう会長と次女のことには何の関心も
ないのだし。でも、それを言い出したらまた長くなりそうだ。
「ああ、いいよ」
仕方なく俺はそう言うしかなかった。それを聞いて次女は可愛らしい笑みを俺に向けた。
「うん、ありがとう。あんたが昔からあたしのことを好きなことは知ってた。兄友の気持
に応えられなくてごめんね」
俺にはもうこいつに返事をする気力は残っていなかった。
「それでもあたしのことを気にしてくれるんだね」
もう俺に向って寂しげな微笑みを向けなくてもいい。こいつはこういう表情を作るのが
昔から得意だった。
「あたしさ、絶対に会長の気持を取り戻して見せるから。お互いに頑張ろうね。お返しに
あんたと妹友のこと、あたしも応援するからね」
それこそよけいなお世話だった。おまえにできることは俺と姉さんの仲を認めてくれる
ことだけなのに。いや、それすら無理ならせめ俺たちのことを放っておいてくれればいい。
それに、会長が誰と付き合おうがどうでもいいのだけど、妹と付き合ってくれたほうが幼
馴染と兄のためには好都合なのだ。
でも、俺と姉さんの仲を次女が認めてくれるなら、次女と会長が付き合ってくれても別
に問題はない。
「まあ、よくわからないけど次女も頑張れよ」
これでようやく俺は次女から解放された。次女と別れて反対方向に向かう電車の乗った
俺が、坂道を登って学校についたときには既に昼休に近い時間になってしまっていた。
放課後、俺は急いで生徒会室の方に向った。ちょうど階段のところで姉さんを捕まえる
ことができた。
「よう」
「ああ、兄友」
「姉さん、何で今朝いつもの電車に乗ってなかったの?」
「ああ、ごめん。最近、あんたとは一緒に登校していなかったからさ。つい待ち合わせし
てること忘れてて、別な電車に乗って一人で登校しちゃった」
「何だよそれ」
「ごめんね。ご機嫌なおして?」
姉さんは周りを見回して階段の踊り場付近に人目がないことを確認してから、俺にキス
した。
・・・・・・こんなことで、俺はもう機嫌を直してしまっている。男女の仲って惚れた方が負
けなんだな。今は俺の方が姉さんに惚れてしまっているのだし。
でも今はそんな話をしている場合ではない。
「姉さん?」
「なあに」
俺は姉さんに女が今陥っている状況を完結に伝えた。この情報だけは姉さんと共有して
おかなければならない。俺の説明を姉さんは少し青い顔で黙って聞いていた。そして話が
終ると姉さんは言った。
「うん、わかった。とりあえずうまくいったんだね」
「と思うけど。とにかく今朝は女は登校してない。それに、それとなく兄を観察したんだ
けど、朝のホームルーム前にすごく慌てた様子でどこかに飛び出してったし。学校が動き
出していることは間違いないと思うな」
姉さんはそこで少し考え込んだ。
「どうしたの?」
「こんなことしてよかったのかなあ」
小さな声で俯いたまま姉さんはそう言った。
「何を今更。自分だって例の画像を見た時は、女のこと殺してやりたいとまで言ってたく
せに」
「それはまあ、そうは言ったけど」
「当然の報いでしょ。単なるぼっちかと思ったらビッチでもあったとはね」
こんな段階で姉さんに後悔されてはたまらない。俺はあえてひどい言葉を使うことをた
めらわなかった。
「・・・・・・それ、洒落のつもり?」
ようやく姉さんは顔を上げてくすっと笑った。
「・・・・・・うるさいなあ。とにかくこれで少し様子見だね」
「ねえ」
「何?」
「こうなったことは女ちゃんの自業自得だとしてもだよ」
何を言い出すのだろう、姉さんは。俺は少し身構えた。
「これって、あの二人を別れさせることにはならないんじゃない?」
姉さんはことの善悪ではなく、兄と女の関係が終るのかどうかを気にしていたようだっ
た。これはいい傾向だった。
「うん、多分そうだろうね」
「じゃあ・・・・・・いったい何のために学校にこんなことちくったの?」
ちくったのは俺じゃない。でも、今それを姉さんに話しても混乱するだろう。それに事
態はもっと進んでしまっていて、もはや女には何の救いも残されていない段階だった。今、
なし崩しにそこまで進んでしまっていることを姉さんに話したら、俺が手を下していない
分他人事のように感じてしまうかもしれない。それではだめだなのだ。女の転落に対して
は姉さんも共犯者になってもらわなければいけない。俺と姉さんの共通の認識の下で行わ
れなければいけないのだ。
俺は時点と事実を捻じ曲げた。そして実際には既に行われてしまっていることを、これ
から行うかのように偽って、そのことに対する姉さんの認識を問い質そうと思った。つま
り今さらだけど姉さんに覚悟を決めさせ、姉さんを真の意味で俺の共犯にさせることにし
たのだ。
「これで終わりじゃないし」
俺は静かに言った。
「え?」
「これだけなら学校だって本人に厳重注意して停学くらいはするだろうけど、犯罪を犯し
たわけじゃないからさ』
姉さんは黙ってしまった。
「だからさ、校内の生徒全員に女が何をしていたかを知らせなきゃ意味ないと思う」
「まさか・・・・・・」
「うん。やり方はこれからよく考えるけど。そこまでやれば彼女だって、というか彼女の
両親だってこのまま何もなかったことにはできないでしょ。少なくとも転校、場合によっ
ては引越しするくらいには追い詰められるんじゃない?」
「・・・・・・もう止めようよ。何か怖い」
姉さんが不意に弱気な声で言った。
冗談ではない。ここで日よられてたまるか。それに姉さんの意図がどうあれ、もうその
作戦は実行されてしまっているのだ。
「あの二人を別れさせたいんでしょ?」
「・・・・・・それは」
「それが兄と幼馴染のためなんでしょ? もう始めてしまったことだし、今更引き返かせ
ないでしょ』
俺はあえて女のためとは言わなかった。本当は姉さんの心の安定のために、女を兄と別
れさせるためにしたことだったけど。
この段階で姉さんが校内の噂を耳にしたり裏サイトを見れば、俺の嘘はすぐにでも見破
られてしまうだろう。もともと姉さんは聡明な性質に似合わず噂好きでもある。だから姉
さんが噂を耳にするのは時間の問題だった。でも、ほんの少しだけ時間が稼げればいいの
だ。姉さんが同意すれば俺はすぐにでも行動を開始したことにして、姉さんに結果を報告
できる。姉さんは今、会長不在の生徒会を指揮して学園祭の準備に専念している。一日や
二日間で女の噂を耳にする心配はないだろう。
結局姉さんは俺の説得に耳を貸し、俺の意見に同意した。
翌朝、俺は早い時間の電車で久し振りに姉さんと二人で登校することができた。早朝の
電車はまだラッシュ前で空いていたので、俺は姉さんと隣り合って座席に座ることができ
た。
「俺、昨日この電車で座ったまま寝ちゃってさ」
俺は昨日寝過ごして終点で折り返した結果、遅刻してしまったことを姉さんに話した。
姉さんは笑い出した。
「ばか・・・・・・。眠ってしまいそうなときは座っちゃいけないんだよ。駅までたかだか二十
分くらいなのに」
「それはわかってるけどさ。昨日は姉さんに会えなくて気落ちしちゃって」
「ごめん。あたしが一緒だったらあんたのこと起こしてあげられたのにね」
「まあ、寝不足を取り戻せたからいいんだけどさ」
姉さんと一緒にいるだけでこんなにも落ち着く。俺たちはお互いにもう女のことは話題
にはしなかった。少ないとは言え周囲にはそれなりに生徒の姿もある。それにもうこの件
でグダグダと話し合う必要なんかなかった。昨日の姉さんとの決め事が全てだ。手段は全
面的に俺に任されていて、姉さんがそれを気にして質問するような必要はなかったのだ。
「なんだったら寝てもいいよ。今日は起こしてあげるから」
「やだよ。せっかく久し振りに姉さんと一緒に登校してるのにもったいない」
「・・・・・・ばか」
姉さんは少し赤くなった。
「何時くらいに学校に来たのよ」
「昼休くらいかな」
「何で? 乗り過ごして折り返したくらいでそこまで遅れることないでしょ」
姉さんは驚いたようだった。「いったいお昼まで何してたの」
次女に捕まっていたのだ。そして次女の生徒会長への執着振りを思い知らされていたの
だ。そのことを話していいのかおれは一瞬ためらった。でも、もう俺と姉さんの間には隠
し事はなるべく少なくしたかった。今現在、最大の欺瞞と嘘を姉さんに対して抱えている
俺は、せめて女関連以外のことで姉さんに対して隠しごとを作りたくなかった。
「実は・・・・・・電車の中で次女に起こされた」
俺は思い切ってそう言った。今さら次女との仲を疑われることはないだろうけど、姉さ
んだって人並みに嫉妬はするのだ。
「へ? 次女ちゃんに会ったの?」
「うん。折り返してあいつの学校のとこまで行っちゃったみたいでさ。いきなり登校中の
あいつに起こされた」
「あんた、最近あの子とは会ってなかったんじゃない?」
「すげえ久し振りだったよ」
「次女に会ったのはわかったけど、それにしても昼休まで何してたのよ。学校に来るまで
時間かかり過ぎでしょう」
「次女に絡まれてた」
「何だって?」
姉さんの表情が変わったの見て俺は慌てて言葉を繋いだ。
「いや。絡まれたって言うか、妹友と会長が付き合っているみたいだって話をしたら、付
き合えって言われてさ。ファミレスに連れて行かれた」
「・・・・・・あんた、次女ちゃんに話しちゃったの!?」
「ああ。まずかったかな」
「次女ちゃんの様子を見てわからなかった?」
確かに、いつも強気で自信に溢れている次女にしては珍しく慌てていた。
「なあ。あいつさ、本当に何年間も黙って会長のこと想い続けていたのかな」
「黙ってっていうか、付き合ってた男は何人もいたけど・・・・・・でも会長のことがずっと好
きだったのは嘘じゃないと思うよ」
「男が何人もいたか。まあ、確かに次女もそう言ってたけど。男がいながら会長も好きっ
て、ずいぶん軽い恋愛だな」
「あんたにはそう言う資格はないんじゃないかな」
皮肉っぽい口調で姉さんが言った。まあ、昔の俺はそう言われてもしかたなかった。
「それは昔の話だよ。高校生になって姉さんと付き合い出してからは、姉さん一筋なの
に」
「わかってるよ。でもあんたに口に出してそう言ってもらえるとうれしい」
「姉さん」
「ちょっと、人前で肩を抱き寄せるのはやめて。そうじゃなくて、そういう過去をもつ兄
友なら次女の気持ちもちょっとはわかるんじゃないの」
そう言われてみれば姉さんにはそう見えるかもしれない。でも、あの頃の俺と次女とは
違う。以前の自分を擁護する気はないけど、それでもあの頃の自分が今の次女と同じだと
はどうしても思えない。恋は多かったかし泣かした女もたくさんいた。自分では遊びだと
粋がっていたけど、そいつらを本気で好きになった瞬間は確かにあったはずだ。だから姉
さんが言うように次女の行動に共感できるかというと、それはちょっと違う。
会長のことがずっと好きだったというのなら、その間に付き合った男には本気で好意な
んか抱いていなかったということじゃないか。姉さんと付き合うまでは確かに移り気だっ
たけど、それでも付き合っているときは俺がその相手のことを好きになっていたのと違っ
て。
俺はそれを姉さんに話してみた。
「そう言えばそうかもね」
姉さんはあっさりと認めた。「次女ちゃんの元彼たちには悪いけど、あの子は移り気と
いうよりはずっと会長一筋だったのね」
「まあ、一筋と言うのはちょっと違うと思う。他の男と付き合った時点で。一番好きなの
が会長だっていうのは確かなのかもしれないけどさ」
「ふふ」
姉さんは意味ありげに笑った。
「何だよ」
「そういう意味では妹友は今だに誰とも付き合おうとしないよね。何年間もあんたのこと
を眺めているだけで」
「よせよ」
「ごめん。でも妹友みたいなのを一筋って言うのね」
もうその話は聞きたくない。いつまでもそのままにしておくわけにはいかないことはわ
かっていたけど。
「まあ、そういわけで昨日は大遅刻したんだよ」
「今日さ。一緒にお昼食べない?」
姉さんが突然話を変えた。
「いいけど。学校じゃべたべたしないんじゃなかったの」
「昨日すっぽかしちゃったんでお詫びにお弁当作ってきたの。今日のお昼、どこかで一緒
に食べようよ」
「いいの?」
「それくらいはいいよ。遅刻させたお詫びもしたいしさ」
何だか今日はいい日になりそうだった。
今日は以上です
もう少ししたらビッチの方も再開します。理想としてはこっちが終了するまでは、交互に投下できたら
いいのですけど
訂正
>>733
× 偉そうに言うがこいつだって兄に失恋しているくせに。
○ 偉そうに言うがこいつだって生徒会長に失恋しているくせに。
他にもあるだろうけど、誤字゙脱字だらけですいません
乙!
渦の中心たる兄と女に焦点が当たるのも近いか?
結局俺はその日、初めて味わえたかもしれない姉さんの手づくりの弁当を食べることは
できなかった。
認めたくはないけど、最近では珍しく姉さんと放課後や登下校以外の時間を共有するこ
とにわくわくしながら二年の校舎を出たところで、誰かにぶつかった。
「ごめんなさい」
小さい声だけど慌てたようにその誰かは俺に声をかけた。俺にぶつかった小さな姿は妹
だった。
「妹ちゃんじゃん。どうした、そんなに慌てて」
「妹友ちゃんが・・・・・・。あ、妹友ちゃんってあたしの友だちなんですけど、突然教室で倒
れちゃって。声をかけても全然返事しないの。あたし、先生を呼びに行かないと」
この子は本当に会長と付き合っているのだろうか。正直に言えば、妹の印象は兄しかそ
の目に入らない女の子という印象しかなかったのだけど、会長や自分の友だちに夢中にな
るような一面も持ち合わせているらしい。でも、そのときはそんなことを悠長に考えてい
る余裕はなかった。
「どうしよう。早くしないと妹友ちゃんが」
妹が狼狽して何かを訴えるように俺を見上げた。
「俺が先生を呼んでくるよ。その方が早いし。妹ちゃんは妹友のところに戻っていろ」
「でも」
「任せとけ」
「はい」
妹ちゃんが教室に戻ろうとする姿を見送る余裕もなく、俺は職員室に駆け込んだ。妹の
クラス担任が誰だかわからなかったので、俺はとりあえず身近な教員に事情を話した。
その先生は俺の話を聞くとすぐに行動を開始してくれたので、いきなり俺にはすること
がなくなってしまった。
職員室では俺の報告を聞いた教員を中心に、保健室に連絡したり、教室に駆けつけよう
と慌しく職員室を出て行ったりして騒然となった。もう誰も俺のことなんか気にしていな
いようだった。
そうだ。姉さんに知らせなきゃ。今となっては俺にできることは何もない。妹友のこの
学校内で唯一の身内は姉さんだった。姉さんは中庭で弁当を用意して俺のことを待ってい
るはずだ。俺は全速で中庭に向って走り出した。
姉さんは中庭のベンチの一つを占領して腰を下ろした自分の横に小さな弁当箱をいくつ
か広げているところだった。俺が姉さんの側まで駆け寄ると、少し驚いたように姉さんは
俺を見て微笑んだ。
「いくら遅くなったからって走ってくることはないのに」
それどころではない。俺が妹から聞いた話を姉さんに話すと、姉さんは真っ青になって
立ち上がった。
「どうしよう」
姉さんは取り乱した表情で言った。
「とにかく保健室行けよ。多分次女はそこに運び込まれているはずだからさ。俺もここを
片付けてからすぐに行くから」
途方にくれたように姉さんは俺を見た。
「早く行けって」
ようやくすべきことを理解した姉さんは、共通棟にある保健室に向って駆け去って行っ
た。
取り残された俺はベンチに空しく広げられていた姉さんの手製の弁当をしまった姉さん
の手提げ袋に戻した弁当を抱えながら途方にくれた。これからどうしたものか。
妹友のことは心配だったけど、今さら俺にできることは何もない。姉さんを慰めように
も俺は医者じゃない。むしろ俺の方がおろおろしてしている状態なのだ。それでも俺は姉
さんの側にいるべきだ。姉さんが妹友に付き添って病院に向うのなら、俺の姉さんに付き
添いたい。
俺は自分が間抜にも手に提げていた手提げバッグを眺めた。何やらカラフルな花とか果
物とかのアップリケが施されている。姉さんのキャラには似合わない。もっとも後生大事
にそんなものを下げている俺の方が似合っていないのだろうけど。
こんなときだけど腹は減るときは減る。でも幼馴染の妹友が倒れて、姉さんがそれに付
き添っているときに、姉さんの手作りの弁当を俺が一人で食べるわけにはいかないだろう
し、今はそんな場合じゃない。可愛らしい手提げバッグを持て余したまま、とりあえず保
健室に向おうとしたとき、目の前に現われた妹が俺に話しかけた。
「妹友ちゃん、大丈夫かな」
「俺にははわからないよ。倒れたところだって見ていないんだし」
「あたしのせいなのかなあ」
どういうわけか妹が思い詰めたような顔で呟いた。
「何だって?」
俺は驚いて妹に少し荒い口調で問い詰めてしまったようだった。妹が俺の剣幕に怯える
ように後ずさったため、俺はすぐにそのことを後悔した。
「あ、悪い。でも、何で妹ちゃんのせいになるんだよ」
「わからないんですけど」
俯いたまま彼女は言った。
「あたし、お昼休みにちょっと妹友ちゃんに愚痴を言っちゃって」
「どういうこと?」
「ちょっと、いらいらしたことって言うか悩みがあったんで妹友ちゃんに聞いてもらおう
として」
「ん? それが妹友の倒れたことと関係あるのか?」
「・・・・・・わかりません」
妹が暗い表情で答えた。
「いったいあの子に何を話したんだよ」
「それは・・・・・・」
妹は少しためらった。
「兄友さん、副会長先輩って知ってますか」
姉さんのことだ。妹とかにはまだ知られていないはずだけど、実は姉さんは俺の彼女だ。
「ああ。知ってるよ」
「あたし・・・・・・この間、副会長先輩と喧嘩しちゃって」
妹が俯き加減に話し出した。
「副会長先輩って、あたしは別に知り合いでも何でもなかったんですけど」
まあ、そうだろう。妹に限らず兄だって姉さんのことは知らないはずだ。俺と兄の仲間
内では、姉さんと接点があるのは生徒会の役員をしている幼馴染だけのはずだった。
「でもこの間、副会長先輩があんまり理不尽にあたしの彼氏を責めたんで、あたしもつい
かっとなって」
「彼氏って?」
「あ、まだ誰にも言ってないんですけど。あたし、生徒会長先輩とお付き合いしてるんで
す」
「妹ちゃん、彼氏いたの?」
姉さんにそのときの話は聞いていたから、本当は知っていたのだけど。このあたりで俺
には妹が言いたいことが理解できた。姉さんとこいつの喧嘩・・・・・・三年生の姉さんを相手
にした妹の喧嘩について、俺は姉さんから聞いていた。妹と会長の朝のデートを姉さんは
果敢に攻撃し会長を非難しようとして返り討ちにあったのだ。妹によって。
「それで?」
「それでって・・・・・・。なんかむしゃくしゃしてたから、今朝妹友ちゃんに愚痴を聞いても
らったんです」
「愚痴って?」
「はい。副会長先輩があたしと会長の仲を責めたんです。そんな資格はあの人にはないの
に。絶対、副会長先輩って会長のことが好きですよね」
俺は不覚にも妹の話に動揺した。姉さんの気持のことになると俺は無条件で心配になる
ようだ。
「そのことを妹友ちゃんに愚痴ったんですね。あたしと会長先輩のことを副会長先輩が嫉
妬して嫌がらせするのって。あたしは別にそういうのは気にしないけど、会長先輩が気に
してそうでかわいそうだったから」
妹はやはり勘違いしているらしい。姉さんは幼馴染のことを気にして生徒会に顔を出さ
なくなった不甲斐ない会長を責めただけなのだ。姉さんは別に会長になんか好意はない。
それにしても妹ちゃんが堂々と俺に対して会長との付き合いを認めるとは思わなかっ
た。
「妹友は何だって?」
「え?」
妹は少し驚いたようだった。
「え? って何で」
「そう言えばさっきも呼び捨て・・・・・・。兄友さん、妹友ちゃんのこと知ってるんですか」
妹友を呼び捨てにした俺の言葉に妹は驚いたようだった。そう言えば俺と三姉妹が幼馴
染だということは、兄と妹、それに幼馴染さえ知らないのだった。今となっては別に隠す
こともないだろう。
「知ってるよ。副会長と妹友とは小さい頃から幼馴染だったし」
「知りませんでした・・・・・・ひょっとして、副会長先輩と妹友ちゃんもお互いに知り合いな
んですか?」
妹は驚いたようだった。
「知り合いどころか姉妹だよ。苗字が一緒でしょ」
「・・・・・・知らなかった。何で黙ってたの?」
「別に理由はないよ。妹ちゃんがあの姉妹と親しいなんて知らなかったしさ」
「そうか。もしかして妹友ちゃんもお姉さんの副会長先輩と同じで、会長のことが好きな
のかな。ひょっとしてあたし、妹友ちゃんに悪いこと言っちゃったの?」
それはない。妹も自意識過剰もいいところだ。自然にそういうことが言えるのは妹らし
い。それでもそれは明らかに妹の勘違いだった。姉さんも妹友も俺のことが好きなのだか
ら。妹友がショックを受けたとしたら、自分の姉が俺ではなく会長のことを好きなのかも
しれないと知って動揺したせいなのだろう。でも、妹友の俺への執着を考えると姉さんが
俺ではなく会長のことを好きなのだと考えてしまったにせよ、喜びこそすれ別に悩むよう
なことではないはずだ。
妹の話は妹友が倒れるような話だろうか。妹友はやはり単純に体調不良なのかもしれな
い。
妹友と姉さんのことは心配だったけど、いい機会なので俺は妹が何を考えているのか知
りたいと思った。こいつの兄への想いや幼馴染に兄を託したときの心境とか、いろいろと
知っておきたいことはあった。
「妹ちゃんってさ、兄のことが一番大切で好きなのかと思ってたよ」
俺は真面目に言った。兄と女のこととは別に、このことは一度ちゃんと聞いてみたかっ
た。下世話な好奇心がないといえば嘘になる。俺は一人っ子だったから、異性の兄弟がい
るやつの気持ちは想像できなかった。それでも妹の兄への依存については幼馴染からよく
話を聞かされていたものだ。二人が育って来た境遇を知ったら、そういう妹の兄への依存
心は誰にも非難できないってあいつはよく話していた。
「お兄ちゃんは大切な人ですよ」
妹は顔色も変えないで即答した。何でそんなことを聞くのかということさえ口にせず。
「でもさ、今妹ちゃんの一番大切な人って彼氏の生徒会長なんじゃないの」
「何でそんなこと聞きたいんですか。兄友さんには関係ないでしょ」
妹の言うとおりだった。今の俺には妹が誰を好きだろうが関係ない。さいわい今まで何
とか状況をコントロールできているとはいえ、ただでさえ面倒くさい状況なのだ。これ以
上手を広げる必要なんかない。妹が誰を好きでもいい。彼女は幼馴染に兄のことをよろし
くと頼んだのだ。それで十分だった。
「何でもないんだ。今の忘れて」
「・・・・・・いったいどうしたの」
「本当に何でもないよ」
「わかった。あたし、次は移動教室なんでもう授業に行きますね」
「引き止めちゃって悪かったね」
俺に頭を下げて立ち去ろうとした妹は、一瞬俺の方を再び見た。
「兄友さんが何を言いたいのかわからないけど、一応これだけ言っておこうかな」
「どうしたの?」
「あたしね。お兄ちゃんより大切な男の人なんか、この世の中にはいないから」
妹はぽつりとそう言った。
その言葉に驚いた俺が、生徒会長はどうなんだと聞き返す間もなく彼女は共通棟の方に
早足で去って行ってしまった。
保健室に行くために共通棟に向おうとしたとき、俺は意外なやつに話しかけられた。
「あ、兄友がいた」
うちの学校のブレザーとは異なる制服。女子高のセーラー服に身を包んで俺に陽気に話
しかけてきたのは次女だった。
当然だけど普通ならまだ授業がある時間に、それも他校の制服姿でうちの校内をうろう
ろしている次女は相当目立っていた。特に男たちの視線は次女の見かけだけは無駄に端正
な容姿に集中している。そんな次女に突然話しかけられた俺にも、校内の男女の好奇の視
線が向けられてしまっていた。
次女の学校は今は授業中のはずじゃねえか。いったいこいつはここで何をしているのだ。
妹友が校内で倒れたことを連絡されて、ここに駆けつけたのか。俺はそのことに思い当た
った。
「探す手間が省けちゃった」
でも、それにしては自分の妹が倒れたことへの危機感とかがこいつからは全く感じ取れ
ない。
「おまえここで何してるの」
「兄友を探さなきゃって思ってたけどいきなり会えちゃった。授業中だと思ってたんだけ
どもう授業終ってるのね」
「今日は五時限で終わりだからな。つうかおまえこそまだ授業中なんじゃねえの」
「今日は午前中でサボっちゃった。それよかさ、生徒会の部屋ってどこ?」
「何だって?」
「だからさ。生徒会長先輩がいる部屋ってどこ?」
俺はあきれて次女を見た。
「おまえ、いったい何しに来たの」
「会長先輩に会いにだよ」
「・・・・・・おまえ、何考えてるんだよ」
「ちょっと反省したの。少し彼を放置しすぎたかなって」
「いい加減に諦めたら? おまえがつらい思いをするだけだぜ。会長にはもう妹ちゃんっ
ていう可愛い彼女がいるんだから」
俺の言葉に動じることなく次女は笑った。
「心配性だなあ、兄友は。昔からあんたはあたしのことになると過保護だよね。心配して
くれるのはわかるけど、ちょっとその心配の方向はずれているから」
何でこいつはこんなに自信満々なんだ。それに思考の方向がずれているのはむしろおま
えの方だ。
「でも、あたしを心配してくれてありがとね」
そうじゃねえ。
「とにかく生徒会の役員がいるとことに連れて行ってくれないかな」
俺の思いを知らないで次女は言った。
「それよか妹友のところに行かなくていいのかよ」
「うん・・・・・・何で?」
俺は妹友が学校で倒れて保健室に運ばれたことを説明した。
「姉さんが付き添ってるよ」
「何だ、その話か」
「知ってたの、おまえ」
「ついさっき、お姉ちゃんからメールが来たから。貧血みたいだから心配いらないって。
念のために検査入院するかもしれないから、今晩は一人で夕食食べろって言われたけど」
「おまえさ。せっかくうちの学校にいるのに保健室にお見舞いに行かなくていいのかよ」
それにしても姉さんは俺には連絡してくれないのだろうか。俺だって妹友のことは心配
していたのに。確かに俺と姉さんの間では彼女の話題は微妙ではあったけど。やはり姉さ
んはまだ気にしているのだろうか。それで妹友の安否を俺に連絡することをためらってい
るのだろうか。
「早く行こうよ」
次女がもう妹友の安否のことなんか忘れたように催促した。
俺は、仕方なく次女を連れて生徒会室に向った。それにより大分評判を落としたかもし
れない。こんな時間に他校の、それも女子高の制服を着ている次女を二人で校内を歩いて
いるのだから。
どうやら生徒会長に会いに来たらしい次女は、いかにもこいつらしく偶然に出会った俺
にもご褒美をあげようと考えたらしかった。つまり、俺の片腕に抱きついてきたのだ。次
女の頭の中ではそれは俺へのご褒美だったのだろうけど、それをもらう方の俺にとっては
苦行もいいところだった。姉さんとの関係はまだ校内ではおおっぴらになっていないし、
俺が誰と一緒に歩いてたとしても構わないといえば構わないのだけど、これまで幼馴染と
いつも一緒に行動してたため、そういう噂が広まってしまっていた。このうえこれ以上の
悪い風評が広がるのは避けたいところだった。
俺はそう思ったのだけど、ここで次女の願いを断ったとしたら・・・・・・。次女は俺に自分
のお願いを断られるなんて考えてもいないだろう。気にいらないことがあったときの次女
の行動は思い出したくもない。俺はこんな女と十年以上も付きあってきたのだ。一時は惚
れてさえいたし。
そういうわけで俺は生徒会室まで次女を案内した。多分、生徒会長はいないだろう。妹
にかまけて最近は全然顔を出さないって姉さんが怒っていたのだし。
生徒会室のドアを開けるとき、俺は少しためらった。ここに姉さんがいないことはわか
っている。姉さんは保健室で妹友と一緒なのだし。俺には姉さんと幼馴染以外の役員に知
り合いなんかいない。このドアを開けるのはいいけど、見知らぬ役員に他校の制服を着た
次女と二人で彼らにどんな態度をとったらいいのだろう。たいていのことには対人耐性が
できている俺にだって、いったいどう対処すればいいのかよくわからない。でもここまで
次女を案内しておいて回れ右をするわけにもいかないので、俺は覚悟を決めてそのドアに
手をかけた。
意外なことに姉さんが俺たちの方を見た。
「あ、兄友・・・・・・って、何であんたがいるのよ」
姉さんは俺の顔を見て少し明るい表情になってくれたのだけど、すぐに隣にいる次女に
気がついた。後半は次女に向けられた言葉のようだった。
「別に」
次女が言った。「お姉ちゃんこそ、何で保健室で妹友に付き添っていないの? 同じ学
校なのにずいぶん冷たいじゃん」
おまえがそれを言うか。さっきまで妹友のことなんか心配することもなく、会長に会う
ことだけに必死になっていたくせに。
「姉さん、妹友は?」
俺は呆れたように次女を見つめている姉さんに聞いた。
「これから担任の先生が車で病院に送っていくって。保健の先生の話だと単純な貧血みた
いだけど、念のためってことで」
「姉さんは付き添わなくていいの?」
「もちろん、一緒に行くよ。ちょっと荷物を取りに来ただけだよ」
「俺も一緒に行こうか」
姉さんは少しだけ厳しい顔で俺の方を見た。
「いいよ。あんたがいたって邪魔なだけだし」
次女の前で、俺に甘えるわけにはいかないのはわかっていたとは言え、それはずいぶん
と連れない言葉だった。俺は姉さんのその口調に少しだけ傷付いた。
「そんなことはいいんだけどさ。生徒会長はどこにいるのよ」
次女が全く妹友のことなんか気にせずに言った。
「おまえさ、少しは妹友のことを気にしたら? おまえの妹なんだろ」
「当たり前じゃん、そんなこと。でも単なる貧血なんでしょ」
「会長ならここにはいないよ」
姉さんが素っ気なく言った。
「じゃあ、どこにいるのよ」
「おまえいい加減に」
俺の言葉を遮るように姉さんが穏かな口調で次女に言った。
「わからないのよ。最近は会長ってあんまりここに顔を出さないし」
「ふざけんなよ」
次女がそう言った。言葉はきつかったけど顔は今にも泣き出しそうだ。
「あんたは自分が兄友といちゃいちゃできてさ。もう妹のことなんかどうでもいいんだろ
うけど。でも、それって姉としてひどくない?」
「・・・・・・どういうことよ」
姉さんが青い顔で次女を眺めた。
「あんまりあたしや妹友をなめんなよって話だよ」
「あんた、何言ってるの」
「おまえはいったい何を言ってるんだよ」
期せずして俺と姉さんの発言が被った。
「わからない振りするんじゃねえよ。勝手に兄友とくっついていちゃいちゃしてるくせに。
そんだけのことを妹たちに隠してしてるくせに。何で生徒会長の居場所ぐらい素直に教え
てくれないのよ。あたし、お姉ちゃんに何か悪いことしたの?」
今まで気がつかなかったのだけど、部屋の置くに一人の女生徒がいた。面識はなかった
けど、多分生徒会の書記をしている、俺とは同級生の女の子だった。
突然、その子がおずおずと口を挟んだ。
「あの・・・・・・、副会長先輩の妹さんですか?」
「そうだけど、あなた誰?」
邪魔するなと言わんばかりに次女が彼女を睨んだ。
「副会長先輩の後輩です。生徒会の書記をしてます」
次女だけではなく、俺と姉さんも突然この子が何を言い出したのかわからなかった。
「よけいなお世話かもですけど、生徒会長って幼馴染さん、あ、彼女あたしの友だちでこ
この役員なんですけど。その幼馴染にこの間告って振られてからはあまりここには顔を出
さないですよ」
「・・・・・・どういうこと」
幼馴染への告白は初めて聞いたのだろうから、次女が混乱するのも無理はない。
「それだけじゃないんですよ」
自分の話によって次女が驚いたことに気をよくしたのか、書記は嬉しそうに話を続けた。
おずおずとしていたように見えたのは見かけだけで、実は単なる噂好きの修羅場好きのよ
うだ。
「振られてすぐに妹ちゃんっていう一年生の可愛い子と付き合い出したんですよ」
それを聞いても次女には新たな驚きとはならなかっただろう。既に知っているのだし。
その次女の反応の薄さにがっかりしたのか、彼女はここで新ネタを投入した。
「それで今は妹ちゃんと副会長で会長を取り合ってるんですって」
そこまで言って書記はあっという顔をした。本人が目の前にいることに気がついたのだ
ろう。それにネタの仕入れ元は姉さん本人の愚痴なのかもしれない。「副会長先輩、ごめ
んなさい」
もちろんもう遅かった。
「どういうこと?」
次女が凄い顔で姉さんと俺を交互に睨んだ。
今日は以上です
次回から別スレの更新を再開するので、少しこちらの投下が遅れますが、もう長期休載はしませんので
ご容赦ください
これは時系列的にどのあたりの話なんだろうか。それとも先に進んでるのかなあ
病室の前で俺は少しためらった。姉さんには来るなとはっきり言われていたのだ。だか
ら二重の意味で俺にとってはこの病室への訪問はリスキーだった。
妹友が意識を取り戻していたとしたら、俺とこの部屋で彼女に付き添っているだろう姉
さんとのツーショットは妹友にとっては刺激的過ぎる。入院している妹友にとってはいい
ことなんか何もない。
姉さんだって俺がのこのここんな場所に姿を現すことを許してはくれないだろう。それ
でも俺は、次女を振り切って職員室で何とか妹友の運ばれた病院を教えてもらってここに
かけつけた。正直に言うと妹友の容態が心配だったからというよりは、さっきの生徒会書
記の女の話が気になったせいだ。
姉さんが会長と妹とトラブルを起こしたことは聞いていたから、そのことで今さら俺が
不安になることはない。それでも俺は第三者から改めて姉さんと会長との話を聞かされた
ことに動揺した。
少なくとも次女は今日、姉さんが会長に執着しているのではないかという情報に取り乱
したのだ。恋する次女の直感は馬鹿にすべきではない。
入るべきかどうか。ドアの前で悩んできた俺は、病室の中の話し声に気がついた。その
病棟が静まり返っていたせいもあって、その声ははっきりと俺の耳に入ってきた。俺は黙
ってドアの前でその会話を盗み聞きした。
『それはないんじゃない? いくらなんでもひどいよ』
『そうかな。本気だったとしたらしようがないんじゃない?。もっとも悪いけど無駄な努
力ではあるんだけどね』
『・・・・・・本気ならどれだけ人を傷つけてもいいの?』
『あれだけ気の多い人がそんなに傷付くと思う? それに会長への気持だって決して嘘じ
ゃないんと思うしね』
『じゃあ、お兄ちゃんの気持はどうなるの』
『さあ? でも妹友ちゃんにとっては好都合じゃん』
俺は少しためらったけど、結局その病室のスライドドアを恐る恐る開いた。姉さんに会
いたい気持がためらいに勝ったのだ。
「兄友さん」
妹友が横になっているベッドサイドに寄り添っていた妹が、驚いたように俺に声をかけ
た。
「え?」
俺は妹友に付き添っているのは姉さんだとばかり思ってた。けれど、そこにいたのは姉
さんではなく妹だった。
妹と妹友が寄り添っている姿に驚いている俺を、ベッドで横になっていた妹友が見た。
「・・・・・・お兄ちゃん。何で?」
「具合はどう?」
俺は病室に入った。六人部屋のようだったけど、その部屋には妹友以外には患者はいな
いようだった。一番奥の右側に妹友が寝ていて、それ以外のベッドは綺麗に毛布が畳まれ
ているところを見ると、この部屋の入院患者は妹友だけなのだろう。
「来てくれたんだ」
妹友がそっと言った。妹がそんな彼女の表情をじっと見ていた。
「いきなり倒れたって妹に聞いたからさ」
「・・・・・・嬉しい。お兄ちゃんが来てくれるとは思ってなかった」
妹友が顔を赤くした。この様子では妹友の体調は心配するほどではないのかもしれない。
姉さんを追い駆けてきたなんて言えなかった。でもこれでまた妹友には余計な期待をさせ
てしまったかもしれない。
「心配だったしな。そういや姉さんが付き添って来たんだろ? 姉さんはいないのか」
それを聞いた妹友は、赤くなっていた表情を曇らせた。
「・・・・・・着替えとか家に取りに行ってくれた。あとでお母さんと一緒にまた来るって」
「そうか」
「お兄ちゃん・・・・・・。お姉ちゃんと生徒会長先輩のこと妹ちゃんから聞いたんでしょ」
「うん? ああ、そのことね。聞いたよ、つうか妹ちゃんの誤解だと思うよ」
後半はこれまで黙って聞いていた妹ちゃんへの言葉だった。このとき俺は相当無理をし
ていたと思う。
「何で誤解だって言い切れるんですか?」
妹が静かに言った。
「何でって・・・・・・」
「もう何も誤魔化さないでください。あたし、妹友ちゃんから聞いたんですから。兄友さ
んって副会長先輩と付き合ってるんですってね」
では妹友は妹に話したのだ。入学以来この二人の仲がいいとは聞いてはいたけど、ここ
まで何でも話をするほど仲がいいとは思わなかった。
妹は真剣な顔で話を続けた。
「副会長先輩は会長のことが好きなのだと思います。そうでなかったらあのときあんなに
あたしと一緒にいる会長のことを責めたりしないと思うし」
「・・・・・・あいつが生徒会活動とか学園祭の準備とかを放棄して、妹ちゃんとイチャイチャ
していることに腹がったっただけだと思うよ」
それは姉さんが俺に話した言い訳そのものだったけど、それ以外に妹に反論する材料は
俺にはない。
「兄友さん」
俺の言葉には直接反論することなく妹が言った。
「実際に見ていないから無理もないけど、あのときの副会長先輩はあたしへの嫉妬心を丸
出しでしたよ。もう、何だかこんな人がうちの学校の生徒会役員なことが恥かしくなるく
らい」
俺は言い返そうとしたけど、妹は俺に口を開かせずに話を続けた。
「だいたい無駄なことをしても仕方ないのに、何で副会長先輩にはそんなことがわからな
いんでしょうね」
「無駄って・・・・・・何で?」
「だって、彼にはあたしがいるんですよ?」
そういうことか。こいつは清楚な美少女である自分が、地味な姉さんなんかに負けるな
んてほんの一瞬だって考えたことがないのだろう。そういう妹の考えに俺は苛立った。お
まえなんかに姉さんの何がわかるって言うんだろう。
「それに」
妹の自信に満ちた態度を粉々にしてやろうと思った俺が口を開く前に、再び妹が機先を
制した。
「そもそも副会長先輩とか女さんとか、ああいう性に対する価値観が緩い人たちは普通に
恋愛しちゃいけないと思いますよ。相手を傷つけるだけですから」
「何だって?」
俺は驚いた。何を言っているんだ妹は。姉さんと女とは全くタイプが違う。奔放な女な
らわからないでもないけど、姉さんは真面目だし性に対して奔放なタイプではない。
「ああいう人たちはあたしたちとは価値観が違うんだと思います。ネットで誰にでも裸を
見せているくせに、自分の手元にあると思い込んでいた玩具が他の人に奪われそうになる
と大騒ぎするような人たちなんですよ。子どもと同じですね」
ネットで裸?
俺は唖然とした。妹は姉さんや女の女神行為を知っているのだろうか。思わず問い詰め
ようとして俺はかろうじてそれを自制した。まだ確証はないのに、自分からばらすような
ことをするのは愚の骨頂だ。
「兄友さんもいい加減に目を覚ましたら? このままじゃお兄ちゃんと一緒で、どうしよ
うもないビッチに惹かれて身動き取れなくなっちゃうよ」
「妹ちゃんの話って意味がわかんね」
俺は慎重にそう言った。
「目の前の幸せに何で気がつかないのかなあ。兄友さんてお兄ちゃんなんかより恋愛経験
が豊富だと思ってたのに。実際にしていることはバカなお兄ちゃんと一緒じゃない」
「何言ってるんだ」
「そんなに副会長先輩が好きなの? 誰にでも裸を見せるような女のことが。それにその
女は図々しくあたしの彼氏のことが好きみたいなんですよ」
俺は何も言い返せなかった。
「兄友さんの目の前には、一途にあなたのことだけを見ている妹友ちゃんがいるじゃない。
何で目を覚まそうとしないの?」
「何言ってるんだよ。妹友には関係ないだろ」
「妹友ちゃんのこと抱いたんでしょ? 嘘つかないでよ、あたし聞いたんだから。兄友さ
んって姉妹両方に二股かけてたんでしょ? 最低じゃん」
「やめてよ、妹ちゃん」
病室のベッドに横たわってこれまで静かに妹と俺の話を聞いていた妹友がそう言った。
「だってそうじゃん。妹友ちゃんと副会長先輩のことを弄んでいるんだよ? 身体だけじ
ゃなくて心まで。最低じゃん」
「・・・・・・お兄ちゃんはわざとそんなことする人じゃないよ」
妹友が援護してくれたけど、その口調は弱々しく無理をしていることが丸わかりだった。
「偉そうに言うんじゃねえよ」
俺は思わず妹友を無視して妹に言ってしまった。
「え?」
「え、じゃねえよ。てめえこそどうなんだよ」
「どうって?」
「てめえの方こそ兄と会長と二股かけてるようなもんじゃねえか」
「お兄ちゃんはあたしの大事な兄だよ。でも、付き合うとかそんなことあるわけないで
しょ。血の繋がっている家族なんだから。あたしの彼氏は生徒会長先輩だけだよ」
妹は怒りを露わにしながらもはっきりとそう言い切った。
「・・・・・・あんだけ兄にベタベタくっついておいてよ、幼馴染に嫉妬するは女へも嫉妬する
は。あんだけみっともなく騒いでおいて今さら何言ってるんだよ。何が生徒会長だ、おま
えはいったい何考えてるんだ」
「兄友さんこそ人のこと言えるの? お姉ちゃんに気のある素振りを見せ付けておきなが
ら、実は前から妹友ちゃんと副会長先輩にも手を出してたんでしょ」
妹はあからさまに俺を嘲笑するように言った。
「ああ、そうだよ。確かに俺はクズかもしれないけど、お前だって人のことは言えねえだ
ろうが。兄貴のことをあんだけ縛り付けながら、今になってあたしの彼氏は生徒会長だよ
ってよ。よく恥かしくもなくそんなこと言えるよな」
「うるさい。あんたには関係ないでしょ」
睨み付けてくる妹はとても校内で評判の美少女だとは思えないほど、表情をぐしゃぐし
ゃにしていた。やっぱりこいつは兄貴と会長と二股かけていたのだろうか。
「もうやめてよ」
小さな声が弱々しく俺と妹の言い合いに割って入った。
「妹友ちゃん・・・・・・」
「妹友・・・・・・」
「もうよしてよ。あたしの病室であたしに関係のない言い争いはやめてよ」
貧血かどうかはわからないけど、確かに学校で倒れて病院に運ばれた妹友の病室でする
話じゃなかった。俺は一瞬で血が上っていた頭を冷やされ冷静になっていくのを感じた。
「ごめん」「ごめんね」
俺と妹の声がくぐもるような声が重く重なった。
「あたしには会長も副会長も関係ないのに。幼馴染先輩だってあたしにとっては他人な
のに・・・・・・。そんな話はどっかほかでやってよ」
「関係あるじゃん」
妹がすまなそうな表情のまま小さく言った。表情はそうでも妹友に謝ったときの申し訳
なさそうな口調ではなかった。
「何言ってるの」
「他人じゃないでしょ。副会長先輩は、あなたのお姉さんはあなたのライバルじゃな
い」
「・・・・・・やめてよ」
妹友はちらりと俺の方を眺めて俯いてしまった。何だかとても気まずい。
「まあ、あなたのお姉さんは生徒会長先輩が好きみたいだけど、そのことにあまり安心し
ない方がいいよ。だってあなたのお姉さんのライバルはあたしなんだしね」
妹は顔を上げた。その姿にはもう申し訳なそうな様子は微塵も感じられなかった。
「あ、あとさ。幼馴染先輩もある意味ではあなたの敵かもね」
「どういうこと」
「兄友さんは幼馴染さんといつも一緒だったしね。妹ちゃんだって知ってるはずだよ」
「・・・・・・よせよ」
「よせって何でよ? 兄友さんは二股かけてたんでしょ・・・・・・ああ、違うか。三股だよね、
副会長先輩とお姉ちゃんと妹友ちゃんとね」
聞いていて俺は段々と腹が立ってきた。妹友を追い詰めた責任は俺にはあるのだけれど、
少なくともそれをこいつに責められるいわれはない。俺はさっきの言葉を蒸し返した。こ
いつがこんなに俺を攻撃しなければ言い出す気はなかったのだけど。
「近親相姦嗜好のキモイ女の癖に、その上兄を裏切って会長と浮気しているおまえにそん
なことを言う資格があるのかよ」
俺の言葉は思ったより妹にダメージを与えなかったようだった。妹は狼狽することもな
く普通に反論した。
「浮気じゃないもん。近親相姦ってあなた頭沸いてるの? あたしはお兄ちゃんと仲のい
い妹ってだけじゃない。あたしが異性として好きなのは生徒会長先輩なの。だいたい、あ
たしは生徒会長から告白されてお付き合いしているんだから」
「だからもうよして。さっきから二人で喧嘩してるだけじゃない。あたしのことなんかど
うでもいいんでしょ。やっぱりあたしには関係ない話だよ」
妹友がいらいらしたように言った。
俺と妹は申し合わせたように目を合わせて話を止めた。
面会時間が終了したため、俺と妹はしぶしぶと肩を並べて病院から出て行った。もう周
囲は薄暗くなっていた。病院の前のバスの停留所で、俺たちは駅前と病院とを循環して結
んでいるバスを待っていた。
結局面会時間の終了までに姉さんは姿を現さなかったのだけど、これだけ病室で修羅場
のような言い合いを繰り広げたのだから、姉さんと遭遇しなかったことはかえってよかっ
たのかもしれない。姉さんとは明朝の電車できっと会えるだろう。他愛もない会話を交わ
していちゃいちゃできれば、きっとこんな重い気持ちも晴れるに違いない。
お互いにこれ以上一緒に過ごしたい気持ちなんかなかったけど、最寄り駅に向う唯一の
交通手段がバスしかない以上、俺と妹には一緒にここで待つ以外に選択肢はなかった。
「俺、思うんだけどよ」
「何ですか」
妹はさっきの言い争いの余韻を引きずっているようだった。兄と幼馴染を含めた四人で
いつも一緒にいた頃のような親しげな様子はもう全く残っていなかった。
「俺たちって何で喧嘩してんだろ」
「何言ってるんですか。兄友さんが不誠実で妹友ちゃんは泣かすからじゃないですか」
妹が吐き捨てるように言った。
自分でも意外だったけど、俺はそのときの妹友の尖った言葉に反発心を覚えなかった。
よく考えれば俺と妹がお互いに潰しあうことはねえじゃないか。
妹友の件で妹が俺に対して嫌悪感を抱くことは仕方がない。でも、妹だって兄をあれだ
け束縛しながら自分は生徒会長とよろしくやっているようだ。つまりある意味どっちもど
っちじゃねえか。
俺はそう思った。俺が妹友を抱いたことに対して妹から嫌悪感を抱かれたり、そういう
俺の性格を疑われたりするのは仕方がない。それだけのことをしでかしたのだから。
あえて言い訳すれば俺はあの頃は何も理解していなかったのだ。言い寄ってくる女たち
を抱いたことでトラブルになることはなかったし、そもそも女たちの方から誘ってきたの
だし。
ただ、東北でのその経験を幼馴染である姉さんと妹友に対してぶつけてしまったことは
俺の過ちだ。
遊んでいた昔の女たち対するのと同じように、まじめに俺のことを考えてくれていた二
人に対して、東北で経験していたことと同じ行為を半ば強要するように押し付けてしまっ
たことが。
妹だって同じなのかもしれない。
幼馴染は兄妹が寄り添って暮らしてきた二人の家庭事情を知っていたから、妹の兄に対
する異常なほどの執着を正当化しようとしていた。でも、そんなものは幼馴染の妄想に過
ぎないのではないか。妹は彼女が美化しているような可愛そうな少女ではない。むしろ兄
を翻弄し、生徒会長を惑わせる自分勝手な美少女なのだろう。
そんな妹に対して俺は嫌悪感を感じなかった。あれだけ言い争いをしたのに、妹に対し
てはむしろ親しみのような感情さえ覚えた。
他者に対する気持を気軽に考えて扱ったという意味ではきっと俺と妹は同類なのだ。
もちろんそれは恋愛感情ではない。俺が好きなのは姉さんだけなのだから。でも、妹に
対する憎悪が心の中から消えて行っていることも確かだった。
「おまえは会長が好きなんだろ?」
「だから?」
「俺は姉さんが好きだ。姉さんは会長のことなんか何とも思ってないと思うけどよ。でも、
仮にそうだとしたって俺たちが言い争いする必要なんかないんじゃね?」
「・・・・・・どういうこと?」
「よく考えればお互いに味方じゃねえか。会長と姉さんが付き合わない方が俺たちにとっ
て都合がいいんだから、利害は一致してるよな」
妹は少し考え込んだ。
「そういう風に言えばそうだけど。でも、あたしは別に副会長先輩なんか気にしてないし。
それにあなたが副会長先輩と付き合ってたら妹友ちゃんがかわいそうじゃない」
「そういう奇麗事はやめようぜ」
いつの間にか雨が降り出していた。停留所の屋根の下には俺と妹友しかいない。病院の
前庭を照らす照明が小雨が降る路面をぼんやりと照らしていた。
「奇麗事じゃないよ」
「奇麗事だろ。おまえが生徒会長のことが好きなら」
「むしろ副会長先輩の気持を生徒会長先輩に持っていかれて必死なのは兄友さんの方でし
ょ。あなたの言っていることこそ奇麗事というか、自分への誤魔化しなんじゃないの」
「俺は自信あるからさ。姉さんは俺に惚れてるって」
「あたしだってそうですよ。会長はあたし以外の女なんか見えてないもん」
俺と妹はお互いに見つめあった。それから同時に苦笑を浮べた。
「まあ確かに妹ちゃんはもてるだろうし、会長もおまれだけを見ているのかも知れねえ
な」
俺は譲歩してそう言った。
「うん」
照れることもも謙遜することもなく妹がうなずいた。
「まあ、兄友さんは外見だけは格好いいしもてるしね。それは認めてあげる」
「じゃあ、お互いに喧嘩することねえじゃん。おまえと会長、俺と姉さん。今のままで何
の問題もないよな」
「だって・・・・・・妹友ちゃんかわいそう」
「それは姉妹と俺の問題だ。たかだか高校生になって妹友と友だちになったおまえが首を
突っ込むことじゃねえよな」
「・・・・・・それを言うなら兄友さんだって同じでしょ。なんでこの前、お姉ちゃんにお兄ち
ゃんのことを救ってやれなんて言ったの? たかだか高校生になってお兄ちゃんと友だち
になった兄友さんが首を突っ込むことじゃないでしょ」
俺はそれには反論できなかった。正論そのものだったからだ。俺の行動を正当化しよう
とすれば、女のことに触れざるを得ない。それだけはしてはいけないことだった。
そのとき小雨の中を駅前の方から来たバスが目の前の薄暗い停留所に辿り着いて停車し
た。車内から雨の降る車外を照らし出す照明の中から乗客が一人降車した。
「姉さん」
俺は思わず声をかけた。姉さんは驚いたような表情で並んで立っている俺と妹の方を眺
めた。それから姉さんは俺に対して何も話しかけようとせず、大き目のバッグを抱えたま
まで病院の夜間で入り口の方に去って行ってしまった。
「本当に副会長先輩に惚れられてるの?」
妹が悪意というよりは憐憫の混じったような声で小さく俺に話しかけた。
今日は以上です
次回から第七部に入ります。もう少しでおしまいの予定
次の投下は別スレのビッチの更新後となります
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2日ほどつぶれたぜ!
リアル大事に 乙
コテつけてないから証明の手段はないんだけど作者です
30日ルールに抵触しそうなんで更新なしだけどレスだけ。別スレがもう少し進んだらここの投下を再開します
せっかくここまできたんでできればHTLM化は避けたい。もう少し待っていただけると嬉しいです
>>764
どうもありがとう。全部ってまさか、アマガミ二次から読んでくれたのかな
二日も時間を潰させちゃってすいませんでした
コテじゃなくて酉付ければ読んでる方は助かると思う。嫌なら別にいいけど
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