伊織「……………………」 (114)


「おっはようございまーすっ!」

バタァンっと壊れる擬音が聞こえてきそうなほど勢いよくドアが開き、

やよいは事務所へとやってきた

「おはよう、やよい」

「伊織ちゃんっおはよーっ」

ああ、元気な声

毎朝これを聞くためだけに早起きしているのは私とうさちゃんだけの秘密

律子のおかげで私は竜宮小町として売れているけれど、

それのせいでやよいとの時間はほとんど取れない

そのせいか、最近は律子に対して苛立つことが多くなってしまった気がする

「今日も早いんだね」

「ええ、まぁ……こういう時しか事務所に来れないし」

非常ベルも真っ青の真っ赤な大嘘だった

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1375108365


そんな理由だけで誰よりも早く、

しかも前日にわざわざ小鳥から鍵を借りておくような面倒なことなんてするわけがない

もちろん、この時間くらいしか早く来るやよいとの会話ができないということもあるけれど、

それよりも重要なことが幾つかある

ひとつは盗撮盗聴データの回収

もちろん犯罪利用ではなく、これはそう、

私のやよいが他の誰かの手で汚されないように、

または汚そうとした愚かな奴を懲らしめるための道具であって、

誰かに見せたりするわけじゃない。

それすらも建前で、本当は私がやよいについて知らないことがないようにするため

もう一つはその機械たちのバッテリー交換

事務所にあるのは事務所の電気からバッテリーはもらっているから問題ないけれど、

ロケバスややよいのアクセサリーなどなどに付けているやつは一日しか持たない残念性能

いや、高音質高画質で記録している分、優秀だって言えるかもしれないわね


「伊織ちゃん?」

「っ!? や、やよい!?」

目の前でじぃっと見つめられていたことに気付けなかったなんて、

相当考え込んじゃっていたみたい

「大丈夫ですかー?」

「や、やよいが心配するほどじゃないわよ」

「それなら良いけど……」

とは言いつつもやよいは心配そうに見つめてくる

でもそれ以上に私はやよいと離れてた空白の時間が恐ろしくて、心配でたまらない

映像も音声もまだ未確認

つまり、昨日のやよいを私はまだ知らない

その分だけ溝ができてしまう

そしてその分だけ、ほかの誰かが距離を縮めてしまっているということ。

そう思うと、妬ましい、憎たらしい……そんなどす黒い感情がこみ上げてくる

「ねぇ、やよい」

「なんですかー?」


「家の方はどう? 楽になっているの?」

「うんっ前よりはだいぶ!」

などと元気に答えてはいるけど、

それは100%やよいの努力のたまものだし、

私から見れば全く変化のない貧乏な生活であることに変わりはない

それもこれも父親の仕事が安定しないせい

本当なら新堂でも遣わせて絞ってもらうべきかもしれないけど、

いなかったらいなかったでやよいがいなかったという事実を踏まえて考えば見逃すしかない

それに、そのおかげで……

「そう、ならいいのよ」

「心配してくれてありがと、伊織ちゃん」

やよいの笑みが私にだけ向けられる

ああ、私にだけ。そう、私にだけ、

私はこの笑顔が好き、大好き、ほかの誰にも渡したくないくらいに……でも


「おはようございまーす」

邪魔な人が来る

「小鳥さん、おはようございまーす!」

「やっぱりやよいちゃんも来てたのね、伊織ちゃんも――?」

小鳥が不思議そうに見てくる

なによ、そんな驚いてどうしたのよ

私の顔になにかついてる?

そんな疑問を言葉にする前に彼女自身が呟いた

「どうかしたの? 伊織ちゃん。すごく怖い顔してるけど……」

「ああ……別に」

思わずそんな声を漏らす

あんたが邪魔したからよなんて本音をぶつけそうだったけれど、

やよいの前ということもありなんとか抑え込めた


私とやよいの2人きりの時間が邪魔された。

小鳥によって邪魔された。ああ、でも良いわ、特別に許してあげる

正直に言ってアンタに時間を使うだけ無駄でしかないし

今日はそう、予定があるんだから。

久しぶりに仕事が早く終わる、だからやよいを誘って夕食を食べに行くのよ、豪華な食事に連れて行くのよ

「やよい、今日の夜なんだけど――」

「ごめんね伊織ちゃん、今日はお母さん達がいるからダメなのっ」

そう言ってやよいは頭を下げてきた

駄目? え? なにが?

私の誘いが? 親がいるなんて理由で?

やよいに無茶させるような両親の方が私よりも優先されているの?

え? あ、そう

「な、何早とちりしてんのよ。誘ったわけじゃあるまいし」

慌てて取り繕ったせいか、私の中の悪いものはどんどん強くなっていっていて、

それを抑えることは、かなり難しくなってきていた


ここで一旦終わり

続きはまた

乙乙
怖い怖い

これは血が流れますな……


「ちょっと、ちょっと……ストップ!」

煩わしい声がレッスン場に響く

「なによ」

「なによって伊織……どうしたのよ」

どうしたのかって?

ただ単に不機嫌なだけだってプロデューサーの癖に分からないの?

ああ、アイドルもどき、事務員もどき、プロデューサーもどきの中途半端なひとだったわね、ごめんなさい

そんなんじゃわかるわけがないわ

やよいと2人きりの時間が邪魔された

やよいとする予定だったものが失くなった

早く帰れるはずだったのがレッスン中

「ほ、ほらぁ、だから言ったっしょ? 早帰りを無くすのはダメだって」

亜美の少し高い声が私の代弁をしてくれた

ありがとう、じゃなかったら怒鳴ってたかも


「なにか予定あったの?」

「は?」

「え?」

「………………」

ああ、ごめんなさい亜美

無理我慢できない、今すぐ怒鳴ってこの人の額を地面に擦りつけた――?

「最近ゆっくりできていませんし~」

私の視界を遮る何かが声を発した。つまりは人間

っていうか知ってる人でしょ、私。

あずさ、そう、三浦あずさよ

「でも」

「今日はもう解散にしましょ? ね? 律子さん」

あずさの声は少し緊張しているような感じだった

おっとりしているくせに私のこの危険な感情を察知したに違いない

貴音同様に厄介な人物としてリストにいれておくべきかもしれない……けど

「……解ったわ。ごめんね伊織、亜美もあずささんも時間貰っちゃって」

悪いって思うならやらないで欲しかったのだけど

まぁ……にひひっ終わったならいいや。ひひっ

昨日のやよいのすべてを見なくちゃ、あ、あとあとリアルタイムでやよいを見るのっ

画面越しなのが殺したいほどに辛いけど、もうすぐそんなことなくなるから許してあげる


帰宅して部屋に引きこもって三つの画面をそれぞれ見つめる

1つ、昨日のやよい

2つ、今日の仕事中のやよい

3つ、リアルタイムの高槻家

その2つ目から誰かが吐く音が聞こえた

『ひ、響さん、大丈夫ですか?』

『な、なんくるないさー』

どうやら失敗だったらしい

私のやよいと共演権を手にしたあいつは少しばかり頑丈すぎる

手加減した毒じゃ無意味だったらしい

忌々しい、憎たらしい……あ、ち、違うの

違うのよ、やよい!

私は響のことなんてどうでも良いの

そいつといるやよいが心配だから一緒じゃ無くなるようにしたいだけなの!

『はーい長介も手伝って~』

『ちょっと待って、あと少し』

「は?」

やよいのお願いより漫画優先?

どこの漫画よ、作者は誰? 出版社は? 潰さなきゃ

『長介~』

『ちぇっ、解ったよ』

……ちゃんと読むの止めたわね。

仏の顔も3度まで。だから2回目までは不問にしてあげるわ、仕方がない


『ハイターッチ』

『いぇい!』

「……ハイターッチ、いぇい!」

ガンッと机が揺れ、オレンジジュースがこぼれてしまった

部屋には私一人なのだから、ハイタッチをしたわけじゃない

机を殴っただけ

だって昨日の仕事中のやよいとハイタッチしてるリボンが視界に入ったんだもの

なら仕方がないわよね?

ええ、だって私なんてもう1ヶ月くらい出来ていないものね

禁断症状が出そうで怖いわ

あぁ、やよいやよいやよい……ってにひひっ

もうすでに私おかしくなってるじゃない

しかたがないわよね? やよいをみんなが取るのがいけない

だから私が我慢できなくなっちゃったんだから

だからどんなことがあっても怒らないで欲しい

どんなことをしたとしても怒らないで欲しい……違った

そんな権利あんたたちにはないんだから


コンコンっと私の時間を誰かが裂いた

イラっとしつつも私の望みが叶ったのかもしれないという僅かな希望に胸が膨らむ

「誰?」

画面をすべて消して訊ねる

部屋に来るのは新堂かほかの使用人が主で、お父様はお仕事だから仕方がないとして、

お母様と呼ぶべきなのか判らない女性……産んでくれた人が母親なのならお母様でいい……

どうでもいいことは置いておくとして、その人も調べた限り放任主義というものらしいから部屋には来ない

「に、兄さんだけど」

「あぁ、お兄様っ」

喜んで扉を開け放つ

「っ……じょ、上機嫌そうでなにより」

あら? あらあら?

どうしてそんなに怯えているの? お兄様

私は女の子でお兄様は男性なのに、なぜ、どうして?

「入って? お兄様」

私のできうる限りの満面の笑みで迎え入れたはずなのに、

お兄様はびくっと震えただけだった

アカン


「じゃ、邪魔した?」

「どうかしら。お兄様の用件が私の機嫌を損ねるものじゃなかったら邪魔じゃないかも」

睨んでいるわけでもないのに、

お兄様は私の一挙一動にビクついている

だらしない……でも、そっか

お兄様に教育を施してたの忘れてたわ、ごめんなさいお兄様

でもあれはお兄様がいけない、10割お兄様のせい

だってやよいのことを低俗な子って言ったんだもの

貧相で汚いって言ったんだもの

「い、伊織、その、えっと……」

「なぁに? お兄様」

「やよいちゃ、やよいさ、いや、高槻さんのことだけど」

どう呼べばいいのかわからなくて戸惑ったらしい

馬鹿にさえしなければなんだっていいのに

しかもやよいのことってことは……


「い、伊織のお願い通りしておいた、から」

「ほ、本当!?」

正直お兄様ごときじゃ無理なんじゃないかって思ってたけれど、できちゃうのね。

紙束って素敵だわ。やよいの足元にも及ばないただの紙切れでも、

束になってれば十分に役に立つのね、お兄様みたいに

「それで、どうなの? 喜んでた?」

「うん、凄く喜んでた。これで高槻さんに楽させてあげられるって」

そっかよかった。

かりそめの幸福感は得られてるのね?

よかった、うん、これで大丈夫。

やよい、私やよいのために頑張ってるわ

もうすぐ、もうすぐだからねっ

にひひっ

ここまでで一旦中断で

いえい

コレ、アカン奴や・・・


「それで、ねぇ。お兄様」

「な、なんだい?」

「私、怖い?」

自分で言って口裂け女みたいだと口元が歪んでいく

やよいも、小鳥も、亜美も律子もあずさも、お兄様も

みんながみんな私から後退る、離れていくような気がしてならない

いや、実際に離れて行ってる

でも別に良いの。やよいだって逃げて良い

逃げることはできても逃げきれるわけじゃないから

か~ごのな~かのと~り~は~……にひひっ

「ひっ」

「怖い? ねぇ、怖い? 私怖い?」

「や、やめ、やめて!」

女の子の悲鳴みたいなの上げてくれちゃって……みっともない

こんなのがお兄様だなんて人生最大の汚点かも


「お兄様には手を出すつもりはないから安心して?」

震えるお兄様の頬をそっと撫でる

そして一際大きく震えた

「ああ、お兄様。強気なお兄様はどこへ行ったの?」

私のやよいを馬鹿にしたお兄様はどこ?

私のやよいとの思い出を踏みにじったお兄様はどこ?

私のやよいをやよいをやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよい――

「痛い痛い痛いっや、やめて、伊織! おね、たのっ……」

「ぁっ……ごめんなさいお兄様」

私のやよいを馬鹿にしてたお兄様を思い出してつい矯正しそうになっちゃったわ

「げほっごほっ……」

首に赤い跡が付いてるとなんだか首輪してるみたいよ、お兄様

あぁ、でもそれも間違ってないから良いかしら

「にひひっ」

やーよーいーまっててーねーっ

すまん中断

…これはヤバい

響がやべぇ


「さて、お兄様はいなくなったし」

お兄様の足音が遠ざかっていくのを確認し、

再びモニターを起動する

リアルタイムな方は先に進んでしまっているけれど、

少しくらいならゆる――……は?

そこには信じられないものが映っていた

『うっうっー良いんですかーっ!?』

やよいの声がする。心地良い声

でも問題はそのあとの声。

私の弥生の目の前にいる男

『ああ、問題ないよ』

うちの事務所のプロデューサー

みんなと平等に接してるように見せかけてやっぱりこういうことを目論んでいたのね、汚い、穢らわしい

身震いし、気を落ち着かせる

「大丈夫、だってもうすぐやよいは私のモノになるんだから」

誰にも触らせない、私だけのやよい

私だけのために生きて、呼吸して、食事して、食事を作って、寝て起きて笑って泣いて喜んで悲しんで、

立って歩いて座って喋って頷いて、俯いてはしゃいで……ひひっ

「ねぇ、やよい明日も元気に会いましょ? 笑顔を見せて? ね? それでそれで一緒に帰るの」

それでソレで、ソレデ……貴女の絶望する顔を見せてモラウノ

やよい、だーいすき


翌朝、私はいつものように早く出社した

誰もいない事務所。

いつも通りにバッテリーを交換して、データ吸い出して、

付け替えて、位置確認して、たまには増やしてみたり

「これも今日で用無しね」

今までお疲れ様。

でももう必要ないの、だってやよいは私の世界に入るんだから

こんな薄汚い事務所なんかに来る必要はない。

私だって本当は嫌だけど、

やよいのことだからここの人たちのことが心配だったりして泣いちゃうかもしれないし、

もし変なことするようなら教育しなくちゃいけないし、

私だけは居続けなくちゃね

「おはようございまーす、伊織ちゃん? それともプロデューサーさん? それか社長ですか~?」

は? 小鳥?

なんであんたがさいしょにくるのよじゃまするのやめてひどいじゃないああもうなんでこんなやつにじかんつかわなきゃいけないの


「あら、伊織ちゃん」

「…………………」

ああじゃまだなんでここにいるの

なんでだってさいしょはやよいのはずじゃないなんでこいつなのよ

やよいのすべてはけいさんずみなんだから

かならずきてるはずなのになんでだっておかしいじゃない

昨日だって普通に――――あ……

「い、伊織ちゃ――」

「あいつかあいつか、あいつが来たからッッッ!」

イレギュラーがあった。

プロデューサーとかいうやつがやよいの家を侵してた

レイセイニれいせいに、冷せいに冷静にならなきゃ

や、やよ、やよいは今日の夕方にはわ、わた、私の、モノなんだから

そ、そうよ、そう、

プロデューサーがどうあがいたところで――無意味

「い、伊織……ちゃん?」

小鳥の怯えた瞳が視界に映った

どうせ私が怖いんだ、どうせ私が気味悪いんだ。

でもどうだっていい、やよいだけが私を見ていてくれればいい

逃げて、逃げまとっても最終的には私を見てくれるよね? や    よ   い


小鳥とかいう人との無駄な時間を過ごすのもつまらず、

携帯用に圧縮したデータ一覧から見たいものを探していく

やよいの仕事、やよいの買い物、やよいの散歩、やよいの昼寝、やよいの家事、やよいの学校、

やよいのお手洗い、やよいのお風呂、やよいの着替え、やよいの落ち込み、やよいの喜び、やよいの悲しみ、

やよいの迷い……いろんなジャンルでくくられたそれは、

36GBのSDカード30枚分くらいに保存されている

だから、いつもいつでもどこでデモ、私は会えるのよやよい

ねぇ、やよい

私って変? おかしい? 気が狂ってる?

お兄様は気持ち悪いって言ったり、気が狂ってるって言ってたの

新堂もね? 明らかに奇怪なものを見る目だった

ねぇ、だめ?

やよいの着替えをこっそりすり替えて持ち帰ったり、

やよいの飲みかけに私の排泄物混ぜたり、

やよいに薬飲ませて寝てる間にエッチしたり……

私っておかしい? おかしくないよね? ね?


「おはよーございまーす」

「おはようございます」

あ、きた

にひひっ、サクヤハオタノシミで、でで……ふふあはははっ

「伊織ちゃん、おはようっ」

「朝から元気ね、やよい」

いつもと大差ない服装。

でも、今日は新品の綺麗な下着

服は今日買いに行く予定だったのよね、やよい

でもわるいわね、やよい

貴女があの家に帰ることはもう出来ないの

だって、だって、にひひっ

だって、ひひっ、ううん、大丈夫殺したりなんてしないわよ

余計なことしなければ――だけど。

ああ、もうすぐ、もうすぐ……


中断

いおりんはこんな悪い子じゃない!


「お~い、伊織」

忌々しい男が私の名前を汚す

「なによ」

あくまで冷静に対応する

態度を冷たくしてるのはいつものことだし

「どうかした?」

「なにが?」

「いつもより不機嫌な気がする」

「……………」

……プロデューサーのみに集中してるだけあって、

私の微妙な変化に気づけてしまうみたいね

でも、だからって私のこの内に秘め続けた思いを暴くことはできない

つまり私のことを止める事は出来はしない

「別に、私だってたまには不機嫌なのよ」

「そうか……」

彼は簡単に引き下がる。だってそう言う人だもの


だからミスを犯してしまうの

貴方はもうやよいには会えない

やよいの声を聞くことはできない

やよいの姿を見ることはできない……って、

それは会えないのと同義よね、にひひっ

「ふぅ……」

今日も一日頑張らなきゃ

だって今日は素敵なプレゼントが手に入る日

頑張って、頑張って

それから手に入れるほうが嬉しいじゃない

それに

「うっうー今日はよろしくね、伊織ちゃん!」

今日はやよいとの撮影

頑張らないわけないでしょ?

「ええ、宜しく」

撮影も、これからも……ね


「実は、お父さんが長く続けられる仕事を見つけたんです!」

「あら、本当?」

「はいっ!」

本当に嬉しそう

その笑顔が見られただけでもう幸せだった――のは以前の私

今の私はそれじゃダメなの

ごめんね、やよい

もしも私が今までの私のままだったならこんな酷いことなんてしなかった

水瀬と関係ない会社の社長を買収して、そこにやよいの親を就かせて……

そんな幸せをあげるなんてしなかった

「よかったじゃない。もう安定?」

「まだ解らないですけど、でも、多分平気だと思いますっ」

にひひっ

おめでとう、やよい


撮影も難なく終わり、私たちは揃って仕事を終えた

竜宮小町の仕事はもちろんあるけど、

今は久しぶりに休みなのよね

だからこそ、前々から計画を練って着実に進めてきたってわけ

我ながらすごいと思う

やよいをモノにするためだけに人生やら何やらをすべて賭けてるんだから

でも、やよいはそうする価値のある人間

そうまでして手に入れる価値のある子

「伊織ちゃん、今日おうちに来ませんかー?」

「え?」

これも計画通り

やよいの事だからめでたいからっていきなり贅沢したりはせず、

もやし祭りをするということは喉が乾けば水を飲むくらいに必然的なのよ

「おうちでもやし祭りをしようかなーって」

「そうね……まぁ、良いわよ」

表情に出すまいとしたせいか、

ちょっとそっけない返事だったけど、やよいは来てくれるっていうことが嬉しいみたいで、

ありがとう。なんてちょっと特殊なお辞儀を見せてくれた


「戻りましたーっ!」

「帰ったわよ」

とにもかくにも事務所へ帰り、私物をまとめて準備を始める

とりあえず事務所のカメラも盗聴器も回収完了

衣装につけたやつとかも全部回収済み

証拠はすべて抹消でき――っ!?

気配を感じてばっと振り向けば、

「おや……気づかれてしまいましたか」

詳細不明で、それでいて油断できない四条貴音が佇んでいた

「なに、してんのよ?」

「少し前から不可解な視線を感じていたのですが、今日、不自然に消えたため何事かと調査をしていただけです」

「へぇ……不可解な視線ね」

声色は? 普通。表情は? うん、問題ない

大丈夫、まだバレてない

というよりなんでカメラを感じ取れてるのよこいつはッ!

「伊織は何も感じませんでしたか?」

「ええ、何も」

「そうですか……」

貴音は少し意味ありげな表情を浮かべ、「ふむ」とつぶやきどこかへと消えていく

いずれ処分する必要がありそうね

人を雇って1から100まで貴音のすべての暴かなきゃ……


気を取り直してやよいと合流

「お疲れ様でしたーっ!」

やよいの声が事務所に響く

この元気な声は今日が最後になっちゃうのに、

みんなってば明日も聞けるだろうって安心しきってる

にひひっ馬鹿ね、大馬鹿者ね

「はーいお疲れ様」

小鳥の返事、ほかのアイドルの返事が聞けたところで私たちは事務所をあとにする

「ねぇ、やよい」

「なんですかー?」

「やよい」

「はいー?」

「にひひっ頑張りましょ?」

これから2人で暮らすんだもの

まぁ使用人やらなんやらがいるけど

私の部屋で暮らすから2人きりみたいなものよね

「はいっ、これからも頑張りまーすっ!」

元気いっぱいのその声がもっと元気になるはずの高槻家

でも、家に着いたとたん響いた怒鳴り声に。

やよいは言葉を失ってしまった……にひっ


「すみませんでしたじゃ許されないんだよ!」

「で、ですが――」

「はぁ? なんだよアンタ、口答えできる立場なのか!?」

「す、すみません!」

「だからさぁ……」

家から響く口論。

やよいが知ってるのは父親の怯える声だけだろうけど、

私はみんなの声を知ってる。だって仕掛け人は私なんだから

「やよい……」

それでいて心配そうに私が声をかけると、

やよいは明らかに力のない笑みを浮かべる

「だ、大丈夫……だから、きょうはその……ごめんね?」

そう言うやいなや家へと駆け込む弥生の後ろ姿を見つめながら、

私はきっと気色の悪い笑みを浮かべているんだろうな。なんて嘲笑していた


物語としてはこうだ

父親が会社で仕事し、機材を壊してしまう

もちろん、機材はあらかじめ細工してあったけど、

その機材のことをわからない素人には自分が壊したと思うしかない

そして、その数千万する機材の弁償を迫り……当然だけど、

高槻家にはそんな金額を払うことなんて到底不可能であることは判っている

返済できちゃったらダメだし。

そして、そこにアイドルであるやよいが帰ってくる

そして弁償できないなら、金額分働いて貰うという名目でやよいを貰う。という計画

やよいのことだから頑張るって言って自分自ら来てくれそうだし、

もしも両親が代わりに自分たちがなんて言い出すなら、

また壊すのかって脅してあげればいい

警察? そんなの潰せちゃうし、裁判は言うまでもなく。

「ね、姉ちゃん!」

ふと気がつけば男たちに連れられてやよいが家から出てきていた


「長介、大丈夫だよ?」

怖くて仕方がないはずなのに、

自分を心配して飛び出してきた弟に対して、やよいは笑顔を向けた

申し訳なさそうな役たたずの両親はもはや泣き崩れるしかない

「お姉ちゃん頑張るから。また、また帰ってくるからっ」

泣きたくないというやよいの気持ちがひしひしと伝わってくる

流石私のやよい、とってもつよい子

「あっ……い、伊織、ちゃ……」

そして、私ともすれ違う

「やよい……」

あくまで悲しげな声で名を呼ぶ

連れ去られる親友を無力な私は黙って見ているしかない。なんてベタな展開

「えへへっ……事務所のみんなには、その……ごめんなさいって伝えて欲しいかなーって」

「……………」

答えずにいると、長介が私の服を引っ張った

「ま、待ってよ! 伊織ねーちゃん金持ちなんだろ!? 助けてよ、ねーちゃんを助けてくれよっ!」

「っ……わ、私には……」

「ダメだよ、長介。迷惑かけちゃ……伊織ちゃん大丈夫だから、私のためなんかに無茶はしないでね」

それを最後にやよいは黒光りする車の中へと消えていく

「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」

高槻家の悲鳴が――……堪らなく心地よかった

私だって会えないときはいっつも死にたいくらいに絶望してたんだから。忘れないで、その痛み


ついにやよいを手に入れた。

ついにやよいが私だけのものになった

やよいやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよい

やよいやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよい

やよいやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよい

やよいやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよい

やよいやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよい

やよいやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよい

やよいやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよい

私だけのやよい、だれかに邪魔されるなんてもうないの

  や

              よ

      い

いま、会いにいくから、大丈夫、怖がらないで

連れ去られて不安になってるやよいを慰めてあげるから

まずはどうしようかしら

ちゅーしたり抱き合ったりナデナデしたり……にひひっ

したいこと一杯、いーっぱいあるのよ、やよい

時間は無制限にあるから楽しみましょ、


    ね    ぇ    や   よ   い   ♪


私は期待に胸を膨らませながら家へと戻った


とりあえずここまで

やべえよ・・・やべえよ・・・

貴音ぇぇぇぇ助けてぇぇぇぇぇ!

プロデューサーを監視せよ

これはもうプロデューサーがかなりのハイスペックであることに期待するしか…

期待しなくていいです
ダメブロデューサーであってくださいお願いしますお願いしますお願いしますお願いします

他の連中はどうした
千早とか今何してんだろ

自賠責保険(ボソッ

自動車損害賠償保険(ボソッ

やよい父はどこでも無能扱いなんだな…

この場合ハメられたわけだから、ちょっと違うような

でもやよい父がSSでいい扱いされた事って皆無だよね


まずは直接会わずにモニターで確認

目隠しで連れてきたためか、やよいは現在地が水瀬邸だとは気づいていないみたい

キョロキョロと辺りを見回しながら不安一杯の表情だった

『……みんな』

「……………」

でも、その大半は家族の心配

自分の心配なんてほんの少ししかしてない

『伊織ちゃん……』

「なに? やよい」

モニター越しの返事は届かない

『私なにすれば良いのかな? 誰も来ないし』

そのままでいいの

やよいはそのまま永遠に私のモノでいてくれればいいの

「お嬢様、このあとは……」

「解ってるわよ。人を送って――あぁでも」

言葉を止め、使用人を睨む

「  み て る か ら  」

「ひっ」

「言う必要あるかしら、具体的に」

「い、い、いえ!」

彼女は恐怖に駆られて逃げるように部屋から駆け出す

ごめんねやよい、もう少し――怯えてね?


やがてモニターに映る部屋の扉が開き、

『本当にキミはアイドルの高槻やよいちゃん?』

そんな耳にするのも憚られる気色悪い声と共に、

薄汚い豚みたいな男が私のやよいへと近づいていく

『はうっ……うぅっ……はぃ……』

流石のやよいも、荒い呼吸で舐めまわすような視線を浴びせられては、

萎縮してしまうほかない

かく言う私も、こんな計画を練っておきながら物理的に壊れそうなほどに緊張していた

やよいの恐怖に怯える姿を見るためとは言え、

あんな奴と一緒にしてしまったのだから

『ぐふっ……ひひひっ』

『ぁ、ぁのっな、なにを……したら』

そんな恐怖に怯えながらも覚悟を決めたのか、

やよいは目をそらさずに訊ねた

あぁ、いいっ……やよい、やよいはどんな表情も最高だわ!


『や、やよいちゃんには一生ぼ、僕といて貰うんだ』

『え……?』

こんな人間とは到底呼べないやつと一緒にいなければいけないことにも驚いているだろうけれど、

やよいが一番驚いたのは「一生」というやよいの心を挫くような言葉

『ま、待ってください……私、すぐじゃなくても帰れるって……』

運び屋達にはそう言うように伝えてあったし、

彼らはそこまでしか知らない、知る必要がなかったから余計に信用のある言葉だったに違いない

でもごめんね? やよい

その男の設定はお金で買い取ったっていうものだから

一生家に帰ることが出来ないの

あ、でも。

やよいの家はここだから安心してね?

『か、帰る? ど、どこに? ぼ、ぼ僕がキミを買ったんだからキミの居場所はここしかな、ない、よ』

『そ、そんなの嘘です! あの黒服さん達はこ、怖かったけど、でも、声はずっとずっと優しそうでした!』

あぁ、やよいは優しいものね、自分たちを騙してる人だって、

自分を誘拐してる運び屋のことだって信じちゃってるんだから

もっとも、あの運び屋達はごく普通の一般人でしかないから

優しくて当然なんだけどね。だって本物の悪い人たちにやよいを任せられないもの


『う、嘘じゃない、買取証明書だって、ちゃんと……』

『わ、私は商品なんかじゃ……ない』

それっぽく偽造した証明書を男はやよいに渡し、

絶望して俯き、小刻みに震えるやよいを気色悪い笑みで見つめる

「やよい、だいじょ――あ」

『だ、だか、だから』

モニターの奥の展開はさらに進んでいく

伊織の計画とは違う、許されざる方向へと。

『ゃ、ぃ、ゃ……』

抵抗する気力すら削がれてしまったやよいを、

男はベッドに押し倒し、見下ろし、ニタニタと笑う

服がはだけ、やよいの柔肌を晒す

『き、きき、綺麗だ、よ、や、やよいちゃ……やよい』

『い、嫌です! 来ないでくださいっ!』

じりじりとやよいはベッドの隅へと下がっていき、男はそれを追っていく


そして――モニタールームには誰もいなくなっていた


中断します

お?

伊織がNTRに目覚めたら最悪だな

男の評価が酷い
というかこいつオタクとかニートか?>男


「ぐひっひひ」

男の生声が聞こえてきて思わず口を抑える

「……気持ち悪い」

生で聞いていたやよいはどんな気分なのかなんて考えてしまうほど

私の頭は冷静だった

目の前の扉一枚隔ててやよいとクズがいる

その扉に伸ばした手を、執事が止めたけれど、

「お嬢様、私が――」

「いいから」

振り向かずに返した言葉は、氷柱のように鋭く、冷たく、

執事は黙って手を離した

私は別に無茶をするわけじゃない。できるからやろうとしているだけ

やよいに傷をつけていいのは私だけなのに、

盛った野生の豚は言いつけを守ってくれない

だったら、教育するしかないじゃない

たとえ殺すことになっても――ね


「痛い……痛いよぉ……」

扉を開けた私の耳に、パンッと一際大きな音が聞こえた

「……やよい?」

頬を不自然に赤くしたやよいが視界に映る

涙を零すやよいが視界に映る

手を捕まれ、釣り上げられているやよいが視界に映る

「ぼ、ぼぼ、僕はご主人様なんだぞ!」

「うっうぅっ……ごめんなさい、ごめんなさぃっ」

あ、やよいが泣いてる

クズがやよいを泣かせてる

怖がって――……じゃ、ないじゃない

痛いから――……じ、ゃ、な、い

プツッと音がしたような、しなかったような

気がつけば床に転がる醜い豚を見下ろしていた

「あんたはしぬべきなのしななきゃいけないのりかいしてるわよね? ね?」

「ぁ、ぁぅ……ぃ……」

「あらへんじなんてもとめてないんだけれど? とりあえずしんでくれればそれでいいからはいじゃしんで?」

虫の息のクズを仕留めようと拳を振り上げると、

「駄目!」

やよいの声が私の動きを止め、血染めの穢れた手を掴んだ

ヤンデレ伊織、嫌いじゃない。


「放して、殺さないとダメよ、だってやよいのことぶったじゃない」

「そ、そうだけど、でも、私が悪かっただけだから! だから、駄目!」

やよいは優しすぎる、甘すぎる

自分をぶった相手をかばうなんて

自分を泣かせた相手をかばうなんて

あぁやよいは良い子だものね、そのくらい当たり前か

ふっ……と、どす黒い感情が薄れていく

「仕方ないわね、見逃すわ」

使用人を呼んでひとまず回収し、

渡されたタオルで手を拭いているとやよいが不思議そうに首をかしげた

「あ、あの、ところで……伊織ちゃん」

「ん?」

「助けてくれたのは嬉しいんだけど、どうしてここに居るのかなーって……」

「当たり前でしょ。ここ私の家だし」

「そっか、伊織ちゃんの家だったんだ。よか――……ぇ?」

やよいの明るい表情が固まった


「えへへ……う、嘘、だよね?」

そして直ぐに笑いをこぼす

「本当よ」

だから私は

「だ、だって私知らない人に連れてかれて……」

「雇ったのよ」

答える

「さっきの人が買ったって」

「あの豚を私が買ったのよ」

教える

「だって、だって、でも、え、あれ……えへへ……良く解んないかな」

「全部、私がしくんだことだったってこと」

「ぅ、嘘だよね!? い、伊織ちゃんがそんなことするはずないもん! 」

そして……笑う

「にひひっ」

「い、伊織……ちゃん」

絶望しきって、光を失ったような瞳のやよい

可愛い、スキ、大好き、スキダイスキ、かわいい

どんなやよいも可愛いから大大大好き

受け入れてくれるよね、だって、やよいは優しい子だもの


「……ねぇ、伊織ちゃん」

室内に残った私とやよい

響くやよいの声には元気良さや明るさといった取り柄は全くない

「なに?」

「家に帰してくれないの?」

「うん、返さない」

はっきりと刺を貼り付けた言葉を送る

返すわけないじゃない

弟? 妹? 父親? 母親?

家族なんていうだけで優遇されるなんてずるいじゃない

だから、駄目

「……帰りたい」

「駄目。やよいは一生ここにいるの。じゃないと誰かが奪うじゃない」

あのクズに言わせたのは私の言葉

もう、手放したくない、奪われたくない

「大好き、やよい」

「こんな伊織ちゃんは……私は嫌い」

「え? いまなんていったの?」

やよいをみつめ、わたしはとう

「ねぇいまなんていったのごめんねよくきこえなかったからもういちどいってほしいの」

「っ――い、伊織ちゃんなんてだいっきらい!」

きらい? き   ら   い   ?

だ  れ             が      だ   れを

やよ  いが    わたし      を?

「うそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそ
うそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそ
うそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそ
うそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそ
うそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそ
うそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそ
うそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそ
うそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそ
うそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそ
うそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそ
うそそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそ………」

「ひっ」

「やよいわたしきらいそんなはずないだってやよいやさしいからやよいならわたしのきもちうけとめてくれるはずだものうんそうにちがいない」

「い、伊織ちゃん……」

にひひっやよいはきっとこんらんしてるのよね

だからすこしひとりにしておいてあげるからちゃんとわたしにすきっていってね

わたしはちょっとやることおもいだしちゃったからまたあとでね


ちゅうだん

ジョジョ読んだばかりだから荒木絵(3部時)の伊織が「うそうそうそうそ」と叫びながら連撃する図が浮かんだ

上院議員の車に乗ったDIO様がそっちに行きましたよ

なにこれどうなるの

ひぇぇぇ…

ふぅぅぅ…


「お嬢様」

部屋を出ると使用人が待機していた

「なによ」

「………………」

呼んだから反応してあげたというのに、

彼女は黙って私を見つめるだけ

「言いたいことがあるんじゃないの?」

「………………」

それでも無言。

徐々に溜まる怒りのせいか視界が細く鋭くなっていく

「用がないなら行くわ」

「お待ちください」

「なによ」

「もう、お止め下さい」

……止める? なにを?

ううん、それ以前の問題よね

「アンタ私に指図するつもり?」


「はい、お嬢様がこれを指図というなら指図です」

「はぁ?」

使用人の表情は真剣だっていうのは解る

でもだからどうしたとため息をつく

「高槻さんを返してあげるべきです、今ならまだ――」

「出来るわけないじゃない!!」

「っ……」

できるわけがない

せっかく手に入ったやよいを手放せって?

またあいつらの汚い手で穢せって言うつもり?

あいつらの汚い視線に晒せって言うつもり?

もしも手放したらまた私と離れ離れになっちゃうじゃない

「やよいは私のモノなのよ! 他の誰でもない、この私、水瀬伊織の!」

「……お嬢様」

そんな悲しげな声を背中に受けながらも……私は振り向かない


やよいは私のものなんだから

誰にも渡さないって決めたんだから

だって、少し手放しただけで少しじゃない間会うことも話すことでさえもできなくなったじゃない

いやよいやよいやよいやよいやよいやよいやいやよいやよいやよいやよいやよ

いやよいやよいやよいやよいやよやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよ

いやよやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよ

いやよいやよいやよいやよいやいやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよ

いやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよいやよやよい……

そんなのもう嫌なの

だから、常に一緒にいられるようにしたんだから

こんな回りくどいことたくさんして、頑張ったんだから

にひひっそう、だからもう手放さない

手放せない、今更私のこの勢いは止められないんだから

私のこの気持ちは止まらないんだから

ごめんね、やよい


『…………………』

モニターを確認してみると、

やよいは膝を抱えて部屋の隅に座り込んでいた

何を思っているのか、何を考えているのか、

私には解らないけど、でも、死んだりするつもりではないっていうのは解る

「……そろそろ夕食を与えてもいい時間よね」

パンッと手を叩くと使用人が扉を開けて入ってきた

「お呼びですか?」

「やよいにご飯を与えて良いから……ちゃんと食べたいものを聞いて最高級の料理を提供するのよ?」

「はい」

……今頃、いつもの私たちだったらもやし祭りでわいわいがやがやって

ため息をつき、一人になった部屋で紅茶をすする

『高槻やよい様』

『……………………………』

『……やよい様、なにか食べたいものはございますか?』

『……………………………』

やよいは暗い表情のままうつむき、黙っているだけだった


『やよい様』

『……一人にしてください』

『やよいさ――』

『一人になりたいんです!』

やよいが怒鳴る

いつもの元気で、明るくて勢いの有り余った大声ではなく、

怒っていて、それでいて悲しんでいる。そんな大声

『……ご用がありましたら備え付けのベルでお呼びください』

使用人が下がろうと扉に手をかける

けれど、一人になりたいはずのやよいが止めた

『伊織ちゃんは』

『………………』

『伊織ちゃんは……大丈夫なんですか?』

『……どう言う意味でしょうか』

『私のために男の人殴って、蹴って……ぁ、でも、あれも自分でしくんだって……』


『ぜ、ぜんぶ、伊織ちゃんが……』

「やよい……」

世界がぐちゃぐちゃになってしまって、

どうしたら良いのか解らない、そんな表情

絶望に打ちひしがれた表情

嘆き悲しみにくれた表情

そんなふうな言葉でも表せないやよいの表情

目を見開き、頭を抑え、小刻みに震えるやよい

『やよい様……』

『解んない、解んないよ……なんで、どうして、だって……』

そのやよいを見つめる使用人はカメラへと視線を向け、

またやよいへと移しため息をついた

『あの男性を部屋に入れること、あの男性の台詞。それはお嬢様の計画の内』

『………?』

『ですが、あの男性の暴力は想定外でした』

使用人は勝手に語っていく

何を勝手なことを言ってるのよ、今すぐ……止めなきゃ

『ですから、あの時やよい様を守ったお嬢様は、間違いなく、貴女の親友である伊織様です』

…………………

動こうとした体は石のように固い

『……………』

『失礼いたします』

使用人が部屋を出ていく

それぞれの部屋に一人残された私たちは、ただ黙りこんでいた


ここまで

これは伊織の改心の可能性が微レ存…?

使用人が邪魔にならず目立ちすぎずで良い場所にいるな

いおりんが改心するのか壊れるのか……今はまだ間に合いそう


「やよいは私のものなんだから、守って当然よ」

「本当にそれだけですか?」

私に対し、不躾な使用人は強く出る

それが腹立たしく

睨みつけた私を彼女は悲しそうに見ていた

哀れんだ瞳で私を見ていた

その表情は後悔に満ちていた

「お嬢様、これ以上はお嬢様自身が傷ついてしまいます」

「もう傷つく隙なんてないわよ!」

傷つき続けた。汚れ続けた

私の心はもうボロボロなのよ

だから、だからこんなことまでして、やよいを……

「……私達が、お父様が、お母様が、お兄様たちが。お嬢様を軽んじていたから。ですか?」

「……違うわ」

「ではなぜ、やよい様を閉じ込めたのですか? 苦しめ、悲しませているのですか?」


「アンタ、クビを飛ばされたいの?」

「……私はお嬢様を信じています」

「はぁ?」

何を言い出すかと思えば、私を信じてる?

「ふざけてるの?」

「いえ」

「ふざけてるじゃない!」

私がどれだけ人を信じてきたと思ってるのよ

私がどれだけ裏切られてきたと思ってるのよ

私がどれだけ我慢してきたと思ってるのよ

「お父様もお母様もお兄様もアンタもあいつらもッ! みんな裏切ったッ!」

授業参観も、運動会も、文化祭も、

ありとあらゆるイベントで私は孤独だった

やよいだけが。私のことを見ていてくれた

やよいだけが。私の救いだった

それなのに……あいつらは傍にいさせてくれることはなかった


「……あいつらも信じてたのに」

最初はいい人たちだと思っていた

だけど、やっぱりだめだった

だんだんと疎遠になっていき、

やがてそばにいてくれるのはやよいだけになって、

それさえも竜宮小町という枷を、

違う収録、違うレッスンという壁を作り、

私たちを阻む

「だから全てからやよい様を奪うのですか? 隔離するのですか?」

「違うわよ。私の世界に来てもらったの」

枷や壁は私に付きまとう

蚊のようにうるさく、しつこく……

そう。

ここはもう私の世界

「お嬢様の世界に。伊織様の望むやよい様は居られますか?」

使用人はポニーテールにした銀髪をなびかせ、私に背を向けた

「きっと居ないでしょう。現に、やよい様は今――泣いているのですから」

それだけを言い残し、使用人は部屋を出ていく


モニターのやよいは俯き、小さく嗚咽を漏らしている

泣いている、悲しんでいる、やよいが。私のせいで。

いや、それもまた私が見たかったもののはず

「それを見て、私はどう思ったの……?」

男に泣かされているやよいを見て、

傷つけられているやよいをみて、私は抑えきれないほどの怒りを覚えた

「………………」

あの使用人がいうことは間違ってはいない

私の世界に私が本当に望むやよいはいない

笑顔のやよい、嬉しそうなやよい

楽しそうなやよい、明るいやよい

それらは全て解放された世界にいてこそのやよい

「やよいを手放す……?」

そんなことできるわけがない

今更……嫌よ。嫌

嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌
嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌
嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌
嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌
嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌
嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌
嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌
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嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌
嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌
嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌



「でも……明るくない、笑顔のない、元気のないやよいは」


もっと……嫌


やよいを開放したらどうなるだろう

やよいは黙っていてくれるかもしれない

けれど……やよいとの関係は終わるだろう

分かっていたこと。こうすることですべてが砕け散るなんてことは

なのに……なんで私は嫌だなんて思ってるんだろう

私みたいなクズがやよいや765のアイドルたちの世界には戻れないことくらい、

一緒にいられるような人間ではないことくらい

解っていたはずなのに

やらなければよかった

ずっと胸に秘めておけばよかった

そんな後悔はもう遅い

子供である自分が憎たらしかった

力も根性もない子供である自分が

浅はかな考えで、

自分の穴だらけのバカみたいな計画にすべてを委ねられてしまった自分が

そんな私の頭に響く、一つの言葉


『死んじゃえば、楽になれるわよ』


にひひっと笑う

そうよね……死ねばもう。苦しむことなんてないもの


ここまで

うわぁ(;´Д`)

救いは…あるのか…

貴音……お前は解っていたんだな

おかしくなってるとはいえ伊織に気づかれないほどの貴音さんの変装スキルぱないわ

乙乙

もしかして>>64
>目の前の扉1枚隔ててやよいとクズがいる

これってやよいと男がいるって訳ではなく
やよいと伊織(クズ)がいるって意味だったのか?


「やよい。ねぇ、やよい」

「伊織ちゃん……」

怯え混じりのやよいの声が、私の心を震わせる

なくなったはずの罪悪感を呼び覚ます

「……………」

「伊織ちゃん?」

開放してあげると。言えなかった

さようならと。言えなかった

だけれど私は体を動かし近づいていた

無言である恐怖はやよいにはないか、

もしくは私自身がもう凄むことが出来なくなっているのかもしれない

やよいは黙って私を待っていてくれた

「伊織ちゃん、私――」

何かを言おうとした。でも、私は言わせなかった

何故か理解できてしまったから。

彼女の唇を、ファーストキスを奪った


ごめんね。やよい

ごめんなさい、やよい

許さないで、やよい

一生恨んで。やよい

「っ……」

私自身もキスは初めてで、

どうしたら良いか判らない、唇と唇を合わせるだけのキスだった

「ぁぃ、ぃぉ……ちゃ……」

いくら純粋無垢なやよいでも、

キスという行為を知っているし、それを図らずとも大切にしてきていると解っていた

だからこそ奪った

「これだけでも、欲しかった」

羞恥に染まるやよいの顔を見つめ、笑う

「にひひっ美味しい」

「いお――……」

やよいには眠ってもらった

私のための特注の強力な睡眠薬

目を覚ましたらまた幸せな家庭よ。やよい

「ごめんね、やよい。ありがとう、やよい」

聞こえない言葉をつぶやいて

「さようなら、やよい」

最後にお別れを告げて……私は部屋を出ていった


ほかのみんなに別れを告げないことは悪いことだろうか

「……いや」

みんなと話してしまっては

私はきっと死ねなくなるだろう

「さようなら、765プロ」

聞こえない言葉をつぶやいて

使用人たちにも黙って家を飛び出す

死ねば苦しむことはない

死ねば辛くない

誰かが私にそう囁いてくる

唇に残る感触だけが、ダメだよと言ってくる

でもごめんねやよい

私はもう、最低で、最悪な人間だから

生きていてはいけないような人間だから

『ほら。早くしなさい』

声が導く。私を導いてくれる


人は本来、自傷しようとすると自制が働き、

リストカットとかでは死ぬことは難しい。

だからこそ抵抗の無意味な首吊り自殺が多いのかもしれない

などと今になって思う

冷たい風が吹き、私の背中を押す

眼下に広がる小さくなった建物を見渡し、

765プロを探す自分に気づき、笑ってしまった

「バカじゃないのアンタ」

「なによ」

「後悔するならやらなければよかったじゃない」

「……一々言われなくても解ってるわよ」

自問自答し、息を吐く

緊張はしていないし怖くもなかった。だからこそ、

961プロのある高層ビルの屋上から私は足を踏み出した――のに

「お待ちください、お嬢様」

「っ!?」

煩わしい声がした

振り向き、視界に入るのは煩かった使用人と瓜二つ。

いや、アイツが使用人になっていただけかしら

「いえ、水瀬伊織。と呼ぶべきですね」

「……四条貴音」

彼女が私を掴んでいた


「死ぬことは償いではありませんよ、伊織」

「ぅっさいわね! そんなこと解ってるわよ!」

「では何故、このような場所で足を踏み出したのですか?」

貴音の鋭い瞳が私を貫く

これだから嫌だった

「アンタには関係ないわよ」

「いえ、わたくしのご友人である以上関係があるのです」

強情で、しつこい

煩く近づく……あぁ、蚊のような人

枷が、壁が、貴音が……煩わしい

私を縛る全てが!

全体重を外に投げ出す

重力を味方に貴音をも引きずり込む

「っ!?」

「私はもう戻れないのよ! アンタはまだ戻れるでしょうが!」

色々な意味で放った言葉

けれど、貴音は首を横に振った

「貴女はまだ戻れますよ。やよいならば赦すでしょう」

「私は許されたくないの!」

「許されるのではなく、赦されるのですよ。伊織」

「……だれがよ」

「やよいが。です」

あれだけのことをした私を赦す?

私の罪をなかったことにする?

「バカじゃないの?」

そんなことあっていいわけがない


悲しませた、苦しませた、傷つけた

そんな私が赦されていいわけない

なのに、貴音は私を睨む

「赦されるか否か。決めるのでは水瀬伊織ではないと解らないのですか!?」

「っ」

普段の貴音からは想像し難い大声

確実に怒っているといった感じだ

「………………」

「貴女がおかしいと気づきながら止められなかったわたくしのミスでもあるのです」

「気づかれてる時点でダメだったのに」

思わず笑う

やっぱり早めに殺しでもすれば良かったと

そう思う一方で、彼女がいてくれてよかったと安堵する自分がいる。

矛盾だらけじゃない

覚悟はどこいったのよ、アンタは何もかも中途半端じゃない

ひとつくらい成し遂げてみせなさいよ

誰かの声……いや、自分自身の言葉が響く


「アンタは私が赦されるべきだって思ってるわけ?」

「……貴女がいなくなっては困る人もいるのです。伊織」

貴音の言葉は何かを隠したような感じがした

けれど、私には気付けず、解らず

自分がしたことが誰にどれほどの影響を与えたのか解らなかった

もしもこの時に戻っていなければ、

もしもこの時に死んでいれば

もしも、私がやよいに対し欲望を出さなければ

『伊織ちゃん』

声が響く

私の声ではない声

だれかのものでもない、知ってる声


自分のミスを思い返すと、

あぁもうバカじゃないのアンタ。なんて叫びたい気分になる

『伊織ちゃん、まだ寝てるの?』

「起きてるわよ」

目を開ける。

回想に浸る自分の脳みそをたたき起こし、

現実を受け入れる

「良かった~、今日も伊織ちゃんの声が聞けました!」

目の前にいるオレンジ色の髪の女の子は

どこか壊れてしまっているのだと

ジャラッと音が鳴る

首に、腕に、足に付けられた鎖

「……………………」

「えへへ、伊織ちゃんはずっと一緒にいてくれるんですよね?」

「……………………」

「邪魔する人はもう誰もいませんから、大丈夫ですよっ」

私は何を解放したのだろう

高槻やよいという優しい子なのか、それとも。

「…………………」

口は災いのもの。悪いわね貴音

貴女がいなければ誤っていたと言ってしまって。

「だいすきだよっいおりちゃんっ」

壊れた言葉で、壊れた笑顔で彼女は言う


私は結局、枷からも、壁からも。

嫌なことから逃げ切ることはできなかった


スレタイ回収終了。そしてこれで終わりです

どういうことかわからなかったらすみません

実によろしい

なるほどまったくわからん

乙乙

スレタイでなにも喋ってないのは監禁されているから

なぜ、誰に? >>1->>103までの回想が過程

>>104が答え

監禁したのはやよい
伊織の暴挙でやよいのなにかが解放された

やめろバカ余計な事すんなお前はホント馬鹿

最後の誤字がもったいない

やよいっち、貧乏だから監禁部屋なんかないでしょ→

おつ

>>1が意図的に解説せずに締めたんだから

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