伊織「……………………」 (114)


「おっはようございまーすっ!」

バタァンっと壊れる擬音が聞こえてきそうなほど勢いよくドアが開き、

やよいは事務所へとやってきた

「おはよう、やよい」

「伊織ちゃんっおはよーっ」

ああ、元気な声

毎朝これを聞くためだけに早起きしているのは私とうさちゃんだけの秘密

律子のおかげで私は竜宮小町として売れているけれど、

それのせいでやよいとの時間はほとんど取れない

そのせいか、最近は律子に対して苛立つことが多くなってしまった気がする

「今日も早いんだね」

「ええ、まぁ……こういう時しか事務所に来れないし」

非常ベルも真っ青の真っ赤な大嘘だった

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1375108365


そんな理由だけで誰よりも早く、

しかも前日にわざわざ小鳥から鍵を借りておくような面倒なことなんてするわけがない

もちろん、この時間くらいしか早く来るやよいとの会話ができないということもあるけれど、

それよりも重要なことが幾つかある

ひとつは盗撮盗聴データの回収

もちろん犯罪利用ではなく、これはそう、

私のやよいが他の誰かの手で汚されないように、

または汚そうとした愚かな奴を懲らしめるための道具であって、

誰かに見せたりするわけじゃない。

それすらも建前で、本当は私がやよいについて知らないことがないようにするため

もう一つはその機械たちのバッテリー交換

事務所にあるのは事務所の電気からバッテリーはもらっているから問題ないけれど、

ロケバスややよいのアクセサリーなどなどに付けているやつは一日しか持たない残念性能

いや、高音質高画質で記録している分、優秀だって言えるかもしれないわね


「伊織ちゃん?」

「っ!? や、やよい!?」

目の前でじぃっと見つめられていたことに気付けなかったなんて、

相当考え込んじゃっていたみたい

「大丈夫ですかー?」

「や、やよいが心配するほどじゃないわよ」

「それなら良いけど……」

とは言いつつもやよいは心配そうに見つめてくる

でもそれ以上に私はやよいと離れてた空白の時間が恐ろしくて、心配でたまらない

映像も音声もまだ未確認

つまり、昨日のやよいを私はまだ知らない

その分だけ溝ができてしまう

そしてその分だけ、ほかの誰かが距離を縮めてしまっているということ。

そう思うと、妬ましい、憎たらしい……そんなどす黒い感情がこみ上げてくる

「ねぇ、やよい」

「なんですかー?」

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