【ガルパン】大洗女子学園戦車隊 軽音楽特別部隊始末記 (109)

・独自設定がてんこ盛りです。苦手なかたは御注意ください。
・長編とまではいきませんが、中編くらいの長さがあります。全4章。

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みほ「何ですか? お話って」

会長「まあまあ、そう焦らずに。干し芋食べる?」

みほ「別に焦ってなんか、ないですけど……。干し芋、いただきます」

小山「はい、お茶」

みほ「ありがとうございます。先輩にそんなことさせて、すみません」

河嶋「気にするな。今日はゆっくり話そうと思って、お前をこの生徒会室へ呼んだんだ」

小山「“気にするな”って……西住さんにお茶を出したのは、桃ちゃんじゃなくて私でしょ?」

河嶋「桃ちゃんて言うな。で、西住。まずは全国大会、御苦労だった」

小山「西住さん、お疲れ様でした」

会長「お疲れさん。そんで、改めてお礼を言うよ。ありがとうね」

みほ「いえ……」

河嶋「どうした? そう堅くなるな」

会長「……西住ちゃん。今、さ」

みほ「今?」

会長「私らのこと、こう考えてるっしょ」

みほ「何ですか?」

会長「“今度は何企んでるの?”って、さ」

みほ「えっ。そ、そ、そんなことは」

河嶋「何を慌てている」

みほ「……」

小山「ふふふ。西住さんって、本当に嘘がつけない性格なのね」

河嶋「順を追って話す。まず、廃校騒ぎの噂についてだ」

みほ「廃校騒ぎ……」

小山「西住さんの周りはどう?」

みほ「はい。すごく、噂になってます。みんな真相を知りたがってます」

会長「結局、戦車道履修生のみんなに箝口令を出しても、ぜーんぜん意味なかったねえ」

みほ「こんなに早く廃校についての情報が漏れて、広まっちゃうとは思いませんでした」

小山「ある程度は仕方ないのよ。全国大会の参加者は何十人もいるんだから」

会長「それに、情報の出元が、大会に関わった生徒とは限らないしねえ」

みほ「どういうことですか?」

会長「例えば、それを知ってる子は生徒会の中にだっている」

みほ「……」

会長「戦車道履修生だけを疑っちゃ、可哀想だよ」

みほ「でも困るのは、その噂のせいで……」

河嶋「西住。やはり、お前にも実害があるか」

みほ「害ってほどじゃ、ないですけど」

会長「西住ちゃんは隊長だから」

小山「一番、大変かもしれませんね。それで、西住さんにはどんなことがあった?」

みほ「この学園を廃校から救ったのは、全国大会で優勝した私たち、ってことになってます」

会長「うん。そこは、この噂の中で正確な部分だね」

みほ「それで、クラスのみんなに話しかけられるようになりました。友達が増えました」

小山「いいことじゃないの」

みほ「だけどもう、質問の嵐なんです。本当にいろいろなことを訊かれて……」

河嶋「どんな内容を訊かれる?」

みほ「戦車道のこととか、大会のこととか……」

会長「いーじゃん。戦車道の認知度は一気に上がったよね」

みほ「でも困るのは、廃校のことを訊かれたときで……」

河嶋「……」

みほ「もう、はぐらかすのが大変なんです」

小山「箝口令が解けたわけじゃないものね」

みほ「私だけじゃありません。大会に出たほとんど全員が、同じ目に遭ってるみたいです」

会長「らしいね。でも、そんな噂を公に認めるなんて、できないからねえ」

小山「ほとぼりが冷めるまで、みんなにはもう少し、我慢してもらうしかないですね」

みほ「しかも……ここまでは、まだいいんです」

河嶋「ふむ。やはり、か」

会長「やっぱり、アレかい?」

小山「今度の創立記念日にやる、イベントのこと?」

みほ「皆さん、知ってましたか」

会長「そりゃあね」

みほ「そのイベントで、私たちが何かする、ってことになってるらしいんです」

河嶋「全く理解に苦しむ噂だ」

みほ「何かする、なんて……どういうことなんでしょう」

小山「単純に言えば、私たちがそこで、何か出し物をするということよ」

みほ「出し物? だってそんな予定、全然ありませんよ?」

河嶋「当たり前だ。噂が一人歩きしていて、その中の話にすぎないんだからな」

みほ「……」

会長「ま、そういう噂になっても、おかしくはないよ」

みほ「え?」

会長「生徒たちは、騒ぎたいんだよ」

みほ「……よく分かりません」

河嶋「その噂が発生した経緯には、こういうものが考えられる」

みほ「はい」

河嶋「我が校のほぼ全員が知らないところで、学園の存続に関わる出来事が進行していた」

小山「でもそれについて、公式の説明が全くない」

河嶋「耳に入るのは本当か嘘か分からない噂ばかり。皆、情報の飢餓状態に陥っている」

小山「でも生徒会は完黙。よって、真相を知ることのできる可能性は皆無」

会長「だからみんな、何らかのかたちで、カタルシスが欲しいんだよ」

小山「それが、イベントでのことね」

河嶋「優勝報告会は開いたが、噂が拡散し始めたのはその後だからな」

小山「もう一回私たちが、みんなの前へ出ていく雰囲気になっちゃったの」

会長「不満が爆発するのと、逆の現象だねえ」

みほ「どういうことですか?」

会長「生徒たちにとっては、廃校になるなんて、本当かどうか分からない」

みほ「……」

会長「でも、すごく不安になる噂だよね。ところが何だか、廃校にはならなかったみたいだ」

みほ「……」

会長「みんな、何だか分からないまま、不安が去ったことを嬉しがりたいんだよ」

みほ「不満を爆発させるんじゃなく、喜びを爆発させたい、ってことですか」

会長「学園を廃校から救ったらしい人たちを祭り上げて、騒ぎたいんだよ」

小山「私たちは何かやらないわけに、いかなくなっちゃった」

河嶋「我々は妙な具合に、追い詰められてしまった」

みほ「あの……」

河嶋「何だ」

みほ「私なんかが皆さんにこんな意見言っちゃ、いけないのかもしれませんけど」

会長「なーに? 西住ちゃん、言ってみ?」

みほ「“廃校の危機は回避できた。学園を無駄に動揺させる情報は必要ない”」

会長「……」

みほ「会長が、廃校の件について私たちに箝口令を出したのは、こういう理由でした」

会長「うん」

みほ「でも今、その情報が漏れて、予想したとおりにみんなは不安になってます」

会長「……」

みほ「いっそのこと全部、話しちゃったらどうでしょう。全部、説明しちゃったら」

河嶋「西住」

みほ「はい」

河嶋「そんなことが、できると思うか?」

みほ「……」

小山「この学園艦にいるのは、私たち生徒だけじゃないのよ?」

みほ「……」

会長「ここに生活の基盤を持つ大人だっている。その人たちに今回の顛末を、どう説明すんの?」

みほ「それは……」

河嶋「全くの無名校が全国大会でいきなり優勝し、強引に実績を作ろうとする」

みほ「……」

小山「頼りは、一人の転校生だけ。その子を無理矢理、救世主に仕立て上げる」

みほ「……」

河嶋「この方法を提案した会長の前で、こんなことを言うのは失礼極まりないが……」

会長「河嶋、気にしないでいーよー。私自身が、河嶋と同じこと考えてるからさ」

河嶋「は。恐縮です……いいか、西住」

みほ「はい……」

河嶋「こんなマンガみたいなやり方を、そのまま説明できると思うのか?」

会長「大人の世界だったら、こういう方法は考えられないからねえ」

みほ「……」

会長「発案者の自分が言うのも変だけどさ、正気じゃないよ」

みほ「……」

会長「こんなのは、リスクヘッジなんていわない。ただのギャンブルだよ、これは」

みほ「説明するなんて、無理……ですか」

小山「ね、西住さん」

みほ「はい」

小山「今のお話のついで、ってわけじゃないんだけど…」

会長「今、河嶋は、私に失礼って言ったけどさ」

小山「この方法が本当に失礼だったのは、西住さんに対して、だったよね」

みほ「……」

河嶋「会長。私もそれは、遺憾に思っています」

会長「一番の被害者は西住ちゃんだよね。こんなやり方を押し付けちゃったんだから」

みほ「いいんです、それは。私なんかが、皆さんの役に立てたんですから」

会長「生徒会の代表として、改めて謝るよ。ごめんね」

みほ「そんなことしないでください。この方法で実際、うまくいったじゃないですか」

会長「西住ちゃんのお陰でね」

みほ「いえ、みんなと一緒だったお陰です。私一人がやったんじゃありません」

会長「……」

みほ「あの……だから、大丈夫なんじゃないでしょうか」

河嶋「何がだ」

みほ「“廃校の危機がありました。こういうやり方で、それを乗り越えました”って…」

会長「……」

みほ「そう説明したって、誰も文句なんて言いませんよ」

小山「うん。私は、西住さんの言うとおりだと思う」

みほ「小山先輩、そう思ってくれますか」

小山「でもね、それは結果論よ」

みほ「……あ……確かに……」

会長「西住ちゃん」

みほ「はい」

会長「私らは、廃校騒ぎなんて存在しなかった、ってスタンスなんだよ」

小山「そんなものは根拠が全くないデマにすぎない、っていう立場なの」

河嶋「生徒会がコメントするに値しない、という姿勢だ」

みほ「……噂は否定どころか、無視、ですね……」

会長「そゆこと」

みほ「……あの」

会長「何だい?」

みほ「じゃあ、廃校の噂は放置、ってことにして……」

会長「うん」

みほ「そして私たちは、訊かれても誤魔化し続ける、ってことにして……」

小山「生徒たちがその噂に飽きるまで、みんなに負担掛けちゃうけどね」

みほ「それは構わないんですけど……。イベントのことは、どうするんですか?」

河嶋「うむ。それが次の話題だ」

会長「私らは噂のとおり、何かやらないわけに、いかなくなっちゃったねえ」

みほ「あの、それって何かおかしくないですか?」

小山「おかしい、って?」

みほ「だって、噂は徹底して放置なんでしょう?」

河嶋「今言ったとおりだ」

みほ「それならイベントのことだって、放置でいいと思いますけど」

会長「うん。普通はそう考えるよね」

みほ「放置しない理由、放置できない理由でもあるんですか?」

小山「それが、あるのよ。西住さん」

みほ「え……」

会長「さっき私は、“不満が爆発するのと逆の現象”って言ったよね」

みほ「はい。生徒たちは不満じゃなく喜びを爆発させたい、ってことでした」

小山「それを爆発させなかったら、どうなると思う?」

みほ「それは……どうなるんですか?」

会長「喜びのエネルギーは不満のエネルギーへ、簡単に変わっちゃうんだよ」

みほ「……」

河嶋「それが喜びのエネルギーであるうちに、発散させてやる必要があるんだ」

小山「要するに、ガス抜きね」

みほ「……」

みほ「じゃあ……さっき小山先輩は“出し物”って言ってましたけど……」

小山「うん」

みほ「何か、やるんですか? やらなくちゃ、駄目ですか……?」

河嶋「西住、何を怯えている」

みほ「だって……私たちにできること、っていったら……」

会長「西住ちゃんの指揮で、練習とか模擬戦の実演でもやるかい?」

みほ「そんなの、戦車道へ興味ない人には、面白くも何ともないですよ」

河嶋「それなら、優勝祝賀会でやった隠し芸でも披露するか?」

みほ「は、はぁ!?」

河嶋「どうした? そんなに大きな声を出して」

みほ「だって、あんなもの……私たちの内輪だから面白がってたものばっかりで」

小山「桃ちゃん、仲間内で見せるから“隠し芸”なのよ?」

河嶋「だから、桃ちゃん言うなと言っとろうが」

小山「大体、桃ちゃんはこの話になると、必ず隠し芸のこと口にするのよね」

会長「河嶋ぁ」

河嶋「何でしょう、会長」

会長「アレ、も一回やりたいの? 32回転?」

河嶋「えっ。い、いえ、そんなことは」

小山「ふふふ。取り乱しちゃって」

みほ「あー、なるほど」

河嶋「……おい、西住」

みほ「そういうことですかあ」

河嶋「何だ、その薄笑いは?」

みほ「やりたいならやりたいって、言えばいいのに」

河嶋「それが先輩に対する態度か? ええ?」

小山「桃ちゃん、顔真っ赤よ?」

みほ「河嶋先輩、そんなムキにならなくても」

河嶋「だだだ、誰がムキになってる。おかしなことを言うな」

小山「私は、あの1回で十分だからね」

河嶋「えっ」

小山「やるなら、桃ちゃん一人でやってね?」

河嶋「あっ……柚子、裏切るのか!?」

会長「ほら。やっぱり、やりたいんじゃん」

河嶋「……」

会長「まあ冗談はさておき」

みほ「はい」

小山「ほら桃ちゃん、冗談にされちゃったよ?」

河嶋「ふ、ふん。私だって最初から、冗談のつもりだ」

会長「実はさ、その“出し物”は、もう決めてあんだよね」

みほ「え……何ですか、それは?」

会長「バンド」

みほ「バンド、って……音楽の?」

会長「イベントで何かやる、ってことになって、私は小山にこういう指示を出した」

みほ「……」

会長「“戦車道履修生の経歴を、特技に関して精査しろ”」

みほ「……」

会長「その結果から見えてくるものが、イベントでの出し物になるかも、ってわけ」

みほ「なるほど……」

小山「西住さん。私も驚いたんだけど、みんなの特技を調べていくと…」

みほ「はい」

小山「何人かをピックアップすれば、バンドを組めることが分かったの」

会長「バンドなら観客の生徒たちが、戦車道を知ってても知らなくても大丈夫」

みほ「そうか……音楽は、大抵の人が楽しめますからね」

河嶋「しかも、戦車道履修生や生徒会が組織立って動いているようには見えない」

みほ「どういう意味ですか?」

小山「ただ単に、戦車道の有志数人がイベントに参加した、という体裁になるの」

河嶋「組織立った動きを見せてしまうと、噂と関連付けて捉えられる可能性が高くなる」

会長「“戦車道のみんなが出てきた。やっぱり噂は本当なんだ”って思われちゃうんだよ」

河嶋「だから、数人だけが自発的に参加したようなかたちを取る」

小山「でも、その噂が原因で、カタルシスを得たい生徒は…」

河嶋「バンドの演奏で、一緒に騒げる。戦車道履修生を、祭り上げられる」

みほ「何だかもう、怖いくらいです……。皆さん、どうしてそんなに知恵が回るんですか?」

会長「西住ちゃん。考えてること、そのまま言っていーよー?」

みほ「え?」

会長「“知恵が回る”じゃなくて、“悪知恵が働く”って言いたいんっしょ?」

みほ「あ。いえ、そんな。とんでもない」

河嶋「バンドの具体的な内容が、今日、最後の話題だ」

会長「面白いメンバーになったよ。小山、こっから先の説明、お願い」

小山「西住さん、順に紹介してくね」

みほ「はい」

小山「中心になるのは、1年生。音楽に関して、この子の右に出る生徒はいない」

会長「バンドに関してはその子がリーダー、ってことにした」

みほ「その子、って……」

小山「ウサギさんチームの、宇津木さん」

みほ「宇津木さん……」

小山「彼女の特技はピアノ。しかもその腕前は、趣味とか習い事のレベルじゃない」

みほ「どういうことですか?」

小山「小さい頃、外国から招かれてコンサートに参加したことがある」

みほ「……何ですか、それ? お話がすご過ぎて……」

会長「神童と呼ばれてたらしいよ」

みほ「それなら、音楽が専門の学校……音大附属の学校とかに、なぜ行かなかったんでしょう」

小山「彼女は、勉強の成績もすごく優秀なの」

会長「おたくらの冷泉ちゃんほどじゃないけどね」

小山「本人に訊いてないけど、多分、ピアノより勉強の方が面白くなったんじゃないかな」

河嶋「宇津木の志望進路はだな」

小山「桃ちゃん? あまり詳しいことは駄目よ?」

みほ「あ、大丈夫です。心配しないでください」

会長「さすが西住ちゃん、分かってるね。今してる話で、個人情報の部分は全てオフレコね」

みほ「はい。絶対、誰にも言いません」

河嶋「宇津木は現時点で、理系の大学への進学を志望している」

みほ「ということは、今は、ピアノは……」

小山「弾いてないみたい。でもバンドの話をしたら、すぐにOKしてくれた」

みほ「あ、もう本人へ訊いてるんですね」

会長「あの子は音楽に関することになると、まるで別人だよ。話し方とか」

小山「彼女は何ていうか、独特の感じで喋るよね。それがガラっと変わる」

会長「ま、そんなわけで宇津木ちゃんの担当楽器は、キーボード」

みほ「はい」

小山「ギターの経験者もいた」

みほ「誰ですか?」

小山「アヒルさんチームの近藤さん」

みほ「わあ、カッコ良さそう」

小山「でも、バンドで弾いてほしいって言ったら、意外な答えが返ってきたの」

みほ「何て言ったんですか?」

小山「“ギターでもいいですけど、私の体格なら、ベースじゃないですか?”」

みほ「ベースって、ギターより大きい、低い音の楽器……」

小山「“ベース、一度弾いてみたかったんですよねー”って、言ったの」

みほ「いいですね。どっちでも似合いそうです」

小山「私はよく知らないんだけど、スラップとかチョッパーっていう弾き方があるらしいの」

みほ「全然知りません、私も」

会長「何かさ、弦をバキバキ鳴らす弾き方。音を聞けば“ああ、これか”って思うよ」

小山「近藤さんはそれをやってみたい、って言ってた」

会長「そゆことで、近藤ちゃんの担当楽器は、ベースギター」

みほ「はい」

会長「ドラムを誰がやるか聞いたら、西住ちゃん、びっくり仰天するよ」

みほ「今度は誰ですか? もう、聞いていくのが楽しみです」

会長「カバさんチームの左衛門佐」

みほ「ええっ!?」

河嶋「本当にびっくり仰天したな」

みほ「だって、完全に予想外で……」

小山「実は、ドラムの経験者はいなかったんだけどね」

みほ「あ、そうなんですか?」

小山「杉山さんは、和太鼓の経験者だったの」

みほ「すぎやま?」

河嶋「左衛門佐の本名だ」

みほ「あ」

会長「駄目だよ西住ちゃん、隊長が忘れちゃ」

みほ「本人には悪いですけど、正直、誰?って感じでした」

小山「あの子は本当に多才よ。弓道もやってるしね」

みほ「でも、和太鼓とドラムって、大分違うんじゃ……」

小山「私もそう思ったけど、杉山さんは平然として、こう答えたの」

みほ「はあ」

小山「“和も洋も、拍子に合わせて叩くのは同じでしょう”って」

みほ「……」

会長「で、実際にやらせてみたんだけど」

みほ「……」

会長「“違うのは、足まで使うことだけか”って言いながら、あっという間にマスターした」

小山「バスドラムとかの、ペダルのことね」

みほ「あの、“実際にやらせてみた”って……」

会長「何ー?」

みほ「みんな、もう練習を始めてるんですか?」

会長「そーだよ。一人を除いてね」

みほ「“一人を除いて”?」

会長「ま、とにかく左衛門佐の担当楽器は、ドラム」

みほ「はい」

会長「で、私がギター」

みほ「えええっ!?」

小山「やっぱり、驚くよね」

河嶋「ドラムの担当が誰かを聞いた時より驚いたな」

みほ「ギター、って……弾けたんですか、会長?」

会長「弾けるわけないじゃん」

みほ「あ、あれ?」

会長「私ら生徒会のうち、誰かが、何かやらないわけにもいかないっしょ」

みほ「……」

河嶋「西住」

みほ「はい」

河嶋「我々は、他人に何かを押し付けて口だけは出す、そんな人間じゃない」

みほ「……」

小山「戦車道だって、みんなにやってもらったけど…」

会長「私ら自身も、参加したよね?」

みほ「はい」

小山「みんなには、今回も無理なお願いをするんだもの」

会長「言い出しっぺの私も、加わることにしたんだよ」

みほ「でも、弾いたことがないのに……。どうするんですか?」

会長「いやーそれがさ、何とかなっちゃうもんなんだよね」

小山「会長は元々、すごく器用だから」

河嶋「対プラウダ高の試合を憶えているはずだ」

みほ「はい。戦車に乗り始めて間もない人とは、とても思えない活躍でした。……でも」

河嶋「何だ」

みほ「小山先輩も河嶋先輩も、同じです。あの作戦は、皆さんの活躍があったから……」

河嶋「話の腰を折るな、西住」

小山「今は、私と桃ちゃんのことを話してるんじゃないよね?」

みほ「あ……はい、すみません」

小山「話を元に戻すと……」

みほ「でも、今みたいな場面で、3人の結束を感じますね……」

河嶋「くどいぞ西住ッ。黙って聞けないのか?」

みほ「ご、ごめんなさい」

会長「河嶋ぁ。ま、いーんじゃない?」

河嶋「は。しかし……」

会長「今のは、河嶋が出した喩えが悪いよね」

河嶋「そうだったでしょうか」

会長「あるチームの中で一人だけを褒めるなんて、西住ちゃんの立場じゃ難しいっしょ」

みほ「……」

会長「もちろん、私は楽器演奏の経験なんて全くない」

みほ「……」

会長「自分でも、私みたいなド素人がバンドへ参加するってどーよ?と思ったさ」

みほ「はあ」

会長「でも軽音楽部の人に頼んで、必要最低限のことを教えてもらって…」

みほ「……」

会長「練習してるうちに、自分でも驚くほど早く、何とかなってきちゃったんだよね」

みほ「……さすが会長」

会長「それに、当ったり前だけど、義務教育で音楽の授業を受けてきてるんだ」

みほ「はい」

会長「楽譜に何が書いてあるかは、分かるしね」

みほ「でもギターは、ソロ、っていうんですか? 目立つ機会が多い気がしますけど」

会長「ああ、ボーカルが歌ってない時、つまり間奏でね」

みほ「それです。その時、指をすごく早く動かして、メロディーを弾いたりしますよね」

会長「そういうのは全部、神童に任せるから大丈夫」

みほ「あ、宇津木さん……」

会長「ギターソロがなくても、間奏は全部、キーボードソロにしちゃえば問題無し」

みほ「なるほど」

会長「てな感じで、私の担当楽器は、ギター」

みほ「……」

河嶋「西住、どうした? 急に暗い顔になって」

みほ「……残るパートは、多分、一つ……」

小山「うん、そう。あと一つだけ」

みほ「……一番目立つ、一番大事なパート、ですよね……」

河嶋「そのとおりだ」

みほ「……さっき“一人を除いて”もう練習を始めてるって、言ってましたよね……」

会長「確かに、言ったねえ」

みほ「……私はどうして、今、この生徒会室へ呼ばれてるのか……」

小山「どうしてだろうね?」

みほ「……どうして突然、バンドの話なんて聞かされたのか……」

会長「さーあ? どしてなんだろねえ?」

みほ「……とぼけないでください。その“一人”が誰なのか、分かりました……」

河嶋「さすが西住隊長。優れた洞察力だ」

みほ「……こんなの、誰だって分かります……」

小山「以上、キーボード、ベース、ドラム、ギターの各担当を、紹介してきました」

河嶋「残る、最後のパートについて…」

会長「一応、担当紹介、やってみよっか?」

小山「さあ今度は、どんな意外な人の名前が、出てくるでしょう?」

みほ「……」

小山「残るパートは……ボーカル!」

会長「バンドの中で、一番目立って、一番可愛い子がやるパート」

河嶋「一番、重要なパートだ」

小山「そのパートを担当するのは、この人しかいません!」

会長「そんなわけで、西住ちゃんの担当は、ボーカルっっ!!」

みほ「ええええっ!!?」

会長「……」

小山「……」

河嶋「……」

みほ「……はぁー……」

会長「いやー西住ちゃん、ノリがいいねえ」

小山「見事に、お約束を演じてくれましたね」

みほ「私だって……空気を読む、って言葉くらい、知ってます……」

会長「今くらいの演技力があれば、ステージに立っても問題ないね」

河嶋「はい。“イエーイ”とか、言ってもらわなければなりません」

小山「何それ。“イエーイ”なんて、今時ダサいんじゃない?」

会長「バンドのボーカル、やってくれるよね? 西住ちゃん」

みほ「どうして、私なんですか……」

河嶋「諸事情を総合的に考慮した結果だ」

小山「このパートをやるのはやっぱり、西住さんしかいないのよ」

みほ「私、歌なんて、下手ですよ……」

会長「そんなことないじゃん」

小山「西住さん、上手だと思うけど」

河嶋「一定以上の水準であることは認めよう」

みほ「何言ってるんですか……? 皆さん、私が歌うのなんて聞いたことないくせに……」

会長「あるよ」

みほ「えっ?」

小山「西住さん。これからするお話を、怒らないで聞いてくれる?」

みほ「何ですか?」

河嶋「お前は先週、チームの連中とB街区の総合アミューズメントセンターへ行ったな?」

みほ「は……?」

会長「で、そこにあるカラオケボックスへ入ったよね?」

みほ「な、何ですか? どうして皆さん、知ってるんですか?」

河嶋「西住。我々はこの学園艦で絶大な権限を持つ、大洗女子学園生徒会だ」

会長「プライバシーを侵すことは、絶対しない。でも、必要な調査はするよ」

小山「ね。怒らないで聞いてほしいのは、この後なんだけど……」

みほ「……皆さん」

会長「お……?」

みほ「もう聞く必要、ないです」

小山「西住さん……?」

みほ「もう、どういうことなのか、分かりました……」

河嶋「既に、怒っているのか? 西住……」

みほ「カラオケボックスには、各部屋に防犯カメラが、あります……」

会長「……」

みほ「生徒会の特権で、その記録データを入手。私が歌ってる映像を、見たんですね……?」

会長「ホントに、ごめんねー」

小山「許してねって言っても、許してくれないだろうけど」

河嶋「遺憾ではあったが、必要かつ重要な調査だったんだ」

みほ「皆さん、ひどいです……」

会長「ごめんね西住ちゃん。もう幾らでも、謝るからさ」

みほ「会長」

会長「何だい?」

みほ「私が、会長たちからのお願いを、断るとでも思ってるんですか?」

会長「ん?」

みほ「私って、そんな薄情な女に見えるんですか?」

小山「西住さん……」

みほ「私たち、全国大会で、あんな大変なことを一緒にしてきたんじゃないですか」

河嶋「西住……」

みほ「あれに比べれば、全校生徒の前で歌うことの方が、まだ簡単です」

会長「西住ちゃん……」

みほ「それなのに、私以外の全員からもうOKを取ってたり、隠れて私の歌唱力を調べたり……」

会長「……」

みほ「こんな、外堀を埋めてくようなこと、しなくてもいいじゃないですか」

小山「……」

みほ「面と向かって、頭ごなしに、言ってくれてよかったんです」

河嶋「……」

みほ「歌います。私、歌いますよ。みんなと一緒に、バンド、やります」

会長「……うん。ありがと。ありがとうね、西住ちゃん」

小山「ありがとう西住さん。私、今ちょっと、ジーンとしちゃった」

河嶋「今の西住は、なかなか男前だったぞ」

みほ「全くもう……。やっぱり、何か企んでたじゃないですか」

会長「いやー、さすがにちょっと、気が引けてねえ」

小山「西住さんには今までも、いろいろなことをお願いしてるから」

みほ「自分から、“何か企んでるって、考えてるでしょ”なんて言って……」

小山「とにかく良かった。引き受けてくれて」

河嶋「一時は、どうなることかと……やっぱり隠し芸に変更か、と思ったが」

小山「桃ちゃん、まだ言ってるの?」

みほ「それで私は、どうすればいいんでしょう」

会長「うん。早速、練習に参加してもらう」

みほ「場所とかスケジュールとか……」

会長「まあ慌てないで。場所は第4音楽室」

みほ「第4音楽室……あそこって、艦内ラジオの音楽番組でも使われる……」

河嶋「我が艦で、その種の設備が最も整った場所だ」

小山「音楽室って名前だけど、スタジオよね。本番までは、このバンドの貸切り状態よ」

みほ「そんなことできるんですか?」

会長「ま、特権ってのは、こういう時にも行使すべきものなんだよね」

みほ「“すべき”って……。あと、楽器はどうしてるんですか?」

小山「それは、軽音楽部から借りてるの」

河嶋「事情が事情なので、生徒会の予算を割くことは難しい。既にある備品を使用している」

会長「イベントのためだけに結成、それが終わったらすぐ解散しちゃうバンドだから」

みほ「その理由については、みんなには…」

会長「言ってないよ。これを伝えたのは、隊長の西住ちゃんだけ」

みほ「……」

小山「でもみんな、バンドについてすごく乗り気よ」

みほ「……余計な情報は、必要ない。この場合もそうなんですね……」

会長「西住ちゃんは心配しないでいーよ。私が全ての責任を取るし、みんなのフォローもする」

みほ「あと、ボーカルをやる私にとって、一番大事なことなんですけど…」

河嶋「何だ」

みほ「曲って、もう決まってるんですか?」

会長「3曲か4曲を予定してるんだけどね。選曲はバンドのメンバーと相談中」

小山「取りあえず、1曲だけが決まってる状態よ」

みほ「何て曲ですか? 早く歌を憶えます」

会長「その必要ないよ。西住ちゃんがボックスで歌ってたヤツだよ」

みほ「あの時は、何曲か歌いましたけど」

会長「タイトルは……何だっけ? 出だしのすぐ後に♪空に~災~い♪って、歌うヤツ」

みほ「あ……『DreamRiser』ですね」

会長「そう、それ。みんなで、それの練習はもう始めてる」

小山「あの曲、元気でいい曲ね」

みほ「でも今の、“空に災い”って、何ですか?」

会長「え?」

小山「え?」

河嶋「え?」

みほ「……え? って……」

会長「だって、そう歌ってんじゃないの?」

みほ「そう歌ってないです」

小山「違うの?」

みほ「違います」

河嶋「確かに、歌詞として変だと思っていたが」

みほ「変でしょう? “空に災い”なんて」

会長「じゃあ、何て歌ってんの?」

みほ「そこは、“空にrise & ride”って歌ってるんですけど」

会長「……」

小山「……」

河嶋「……」

みほ「あの……どうして皆さん、黙っちゃうんですか? 何か変でした?」

会長「これは……」

小山「歌詞の、英語部分について……」

河嶋「発音を逐一、チェックする必要がありますね……」

みほ「な、何ですか? どうして3人とも急に、内緒話みたいになるんですか?」

河嶋「西住の奴、思わぬところで……」

小山「仕事を、増やしてくれたよね……」

みほ「何か、様子が変ですよ? どうしてこっちをチラチラ見るんですか!?」

会長「ほかの曲が未決定なのは、不幸中の、幸いだねえ……」

河嶋「歌詞に英語がない曲を選ぶ、ということが、可能です……」

みほ「ちょっと、ボソボソ喋るの、やめてください! 不安になってくるじゃないですか!」

会長「いろんな準備、イベントまでに、間に合うかな……」

小山「やるしか、ありませんけど……」

河嶋「最悪の場合、隠し芸に、変更か……」

小山「桃ちゃん、それだけは、絶対にないから……」

今日は以上です。
一日に1章ずつ、投下することを予定しています。

乙でした!
しかし“空に災い”はお約束の空耳ですよねww


西住殿カワイイ

面白い

~~~~~~~~~~



会長「おーっす、みんなー。お疲れさんー」

左衛門佐「会長、こんにちは」

宇津木「こんにちは~」

近藤「こんにちは、会長」

会長「練習のセッティング、大丈夫かい?」

左衛門佐「あとは、会長が準備するだけです」

会長「みんながお待ちかねの人、連れてきたよー」

近藤「あ、遂に…」

宇津木「例の人が、やってきたんですね~」

左衛門佐「真打登場だな」

みほ「……みんな、こんにちは」

宇津木「わ~! 隊長だ~!」

近藤「隊長、待ってましたよー!」

左衛門佐「やっと来たな、隊長!」

みほ「みんな、よろしくお願いします。みんなの足、引っ張らないようにしますから」

宇津木「何言ってるんですか~」

近藤「ボーカルが言うことじゃないですよ」

左衛門佐「私たちこそ、隊長が歌いやすいようにしなくちゃならない」

宇津木「隊長は、カラオケと同じ感覚でいいんですから」

みほ「でも、みんなと一緒に演奏するんだし」

会長「西住ちゃん。今のリーダーは、誰だっけ?」

みほ「あ……そうでした」

宇津木「隊長、よろしくお願いします~」

みほ「こちらこそお願いします、リーダー」

宇津木「えへへ~。隊長にそんなこと言われたら、照れちゃいます~」

みほ「カラオケと同じ感覚で、いいの?」

宇津木「伴奏を機械がやってるか、生身の人間がやってるかの違いだけです」

みほ「それって、かなり違うと思うけど……」

宇津木「やってくうちに、慣れてきます。気楽にしててください」

会長「ほんで宇津木ちゃん、今日は何を?」

宇津木「最低5回は、曲の頭から最後までやりましょう。だんだん音が合ってきました」

みほ「何だか本格的だね」

宇津木「普通の手順ですよ。まだお互いの癖をよく知らないから、曲の節目がズレるんです」

みほ「会長……」

会長「何?……」

みほ「本当に宇津木さん、話し方がガラっと変わりますね……」

会長「でしょ? 怖いくらいだよ。目つきも全然違うしさ……」

宇津木「何か言いましたか~二人とも~」

会長「あっ、何でもないよ。ごめんね、練習中に私語は駄目だよね」

みほ「宇津木さん、私はどうする? 早速歌う?」

宇津木「隊長は聞いててください。私のソロがあったりして、カラオケとかと微妙に違うので」

みほ「あ、そうなんだ」

宇津木「そういう違いを把握してもらってから、隊長には入ってもらいます」

みほ「了解」

左衛門佐「いいですか、会長?」

会長「ちょい待ち……あと、チューニングだけ」

宇津木「じゃあ、Aの音出しますよ。妙子ちゃんもチューニング確認よろしく」

近藤「はーい」

♪~

会長「いーよー、左衛門佐」

左衛門佐「宇津木」チラ

宇津木「…」コク

左衛門佐「1、2、1・2・3」ドドタンッ

♪ダダンッ♪ターララターララー♪ダダンッ♪タラターララータラララタラララ♪

みほ「うわ、すごい……。やっぱり生演奏って、全然違う……」


~~~


♪チャーンチャーンチャーン♪

会長「……ふう」

みほ「すごーい! 練習なのに、拍手しそうになっちゃいました!」

宇津木「……」

左衛門佐「……」

近藤「……」

みほ「あれ? みんな、どうしたんですか?」

宇津木「私のソロが終わって、次のメロディーに移る所」

左衛門佐「やはり、そこか」

近藤「そこですね」

会長「あー、例の、ごちゃっとする所?」

宇津木「左衛門佐先輩は、そこ、どんなことやってます?」

左衛門佐「私は、こうだ」ダンドコドコドコダシャーンダンダダン

宇津木「妙子ちゃんは?」

近藤「えーと、どこから始めればいい?」

宇津木「その辺りを、どこからでも」

近藤「うん」ボンボンボボンボーンブーンドッドッドッボンボボン

宇津木「二人でやってみて」

左衛門佐「近藤、適当に始めろ。私が合わせる」

近藤「はい」ボンボンボボンボーン

近・左「…」ズドダズズンドダシャーンズドドン

宇津木「会長、同じ所を」

会長「あいよ」チャッチャッチャーチャッチャチャッ

宇津木「会長。その刻み方、こうしてもらってもいいですか?」テッテッテテーテッテテ

会長「もう一回お願い」

宇津木「はい」テッテッテテーテッテテ

会長「…」チャッチャッチャチャーチャッチャッ

宇津木「そうです」

会長「おっし。分かったよ宇津木ちゃん」

宇津木「以前の方が、好きだったりしました?」

会長「いや、構わないよ。とにかく新しいのを早く憶えるね」チャッチャッチャチャーチャッチャッ

みほ「……すごい……みんなが何やってるのか、全然分からない……」

宇津木「隊長~さっきから“すごい”しか言ってませんよ~」

みほ「だって本当に、分からないんだもの」

会長「何かさ、演奏しててごちゃっとする所があったんだよね」

左衛門佐「気にせず流してしまえば、どうということはないんだろうが…」

近藤「やっぱり、やってて、気持ち悪いんです」

宇津木「聞いてる方だって、あまり耳触りがよくない部分だと思います」

みほ「それを宇津木さんが、はっきり指摘したってこと?」

宇津木「はい。でも原因が何なのか、分からなかった」

みほ「……」

宇津木「だから一人ずつ、演奏してもらった」

みほ「……」

宇津木「ドラムとベースは問題ない。じゃあ、ギターかもしれない」

みほ「そしたら、ギターが、ちょっと……」

宇津木「そのとおりです。ほかと、特に私のキーボードと、合ってなかった」

みほ「……」

宇津木「だから会長には悪いですけど、私のやり方に合わせてもらいました」

会長「気にしてないよ。バンドリーダーの指示なんだから」

宇津木「はい。こんなことをお互い気にしてたら、演奏なんてできません」

会長「楽譜どおりのつもりだったけど……。いつの間にか、自己流になってたんだねえ」

みほ「楽器の演奏って、こうやって、合わせていくんだね……」

宇津木「それは、違うかもしれませんよ?」

みほ「え? そうなの?」

宇津木「私の専門は元々、クラシック音楽ですから」

みほ「……」

宇津木「ロックバンドの人に、今みたいなやり方を見せたら…」

近藤「“どうしてそんなメンド臭いことするの?”って、言われちゃうかも」

宇津木「うん。もちろん、ロックでもいろいろな理論や方法があるけど」

近藤「もっとアバウトだよね。要するにノリ。ノれればいい、ノせられればいい」

宇津木「私はアンサンブルを確認するのに、こういう方法しか知らないから」

みほ「そういえば、プロの人って実はルーズだって聞いたことある。実は、練習しないって」

宇津木「個人的な練習は、死ぬほどやってると思いますよ。技術的に難しいフレーズとか」

みほ「……」

宇津木「自分ができない箇所を丸一日、繰り返す。できるようになるまで、何日も続ける」

みほ「……」

宇津木「でも、みんなで合わせる練習は本番前の数回だけ。それで十分」

左衛門佐「まあ、プロの話だけどな」

宇津木「はい。私たちは、どっちの練習も死ぬほどやらなくちゃ駄目です」

みほ「……何だか、とんでもないことに、関わっちゃったのかも……」

近藤「隊長、覚悟しといた方がいいですよ? 優季ちゃんは結構スパルタですから」

みほ「分かった……」

会長「あれ? 西住ちゃん、ビビってる?」

宇津木「大丈夫です~。優しくしますよ~隊長には~」

左衛門佐「宇津木。お前のそういう発言には、何か別のベクトルを感じる。自重しろ」

宇津木「やだな~左衛門佐先輩、考え過ぎですよ~」

会長「宇津木ちゃん、今の所からやってみる?」

宇津木「そうしましょう。隊長、入ります?」

みほ「うん。マイクのセッティングしておいたけど、大丈夫だと思う」

宇津木「カラオケとの違いは?」

みほ「多分、問題無し。1回聞けば憶えられる程度だったよ」

左衛門佐「宇津木、隊長が入るなら…」

宇津木「もっと前からの方がいいですね。じゃあ、私のソロからで」

近藤「分かった」

会長「了解」

左衛門佐「行きます。1、2、1・2・3・4」


~~~


♪チャーンチャーンチャーン♪

みほ「気持ちいいー! カラオケよりこっちの方が、歌ってて楽しいです!」

左衛門佐「……」

みほ「みんなの顔を見ながら、演奏してる人を見ながらって、いいですね!」

近藤「……」

みほ「一緒に音楽をやってるって感じがします!」

会長「宇津木ちゃん」

宇津木「分かってます」

みほ「……え?」

宇津木「うーん……どうしようかなあ」

みほ「な、何? どこか、駄目だったの!?」

宇津木「……」

みほ「私の歌、駄目!?」

宇津木「妙子ちゃん」

近藤「何?」

宇津木「隊長に説明してあげて」

近藤「私が?」

宇津木「妙子ちゃんと左衛門佐先輩。二人が一番、分かってると思うから」

近藤「でも、私が隊長に対して、何か言うなんて……」

左衛門佐「近藤、ここはバレー部じゃない。そういうのは無しでいこう」

近藤「あ、そうですね……。じゃあ隊長、失礼ですけど…」

みほ「うん。何でも言って、近藤さん」

近藤「隊長は、私たちの方に気を遣い過ぎです」

みほ「え……」

近藤「今、“みんなの顔を見ながら”って言ってましたけど…」

みほ「うん」

近藤「そうする必要は、ないと思います」

みほ「……」

近藤「私たちを気にし過ぎて、歌い出しがいつも遅いんです」

みほ「あ……」

近藤「バンドでは基本的に、土台を支えるのはリズムを刻むドラムと、低音のベースです」

みほ「……」

近藤「だから左衛門佐先輩と私が、テンポを意識的に早くしました」

会長「西住ちゃんも、分かってたっしょ?」

みほ「そう言えば……途中から、何だか早くなったな、って……」

左衛門佐「私たちがそうしたのは、隊長に、自分が遅れていることを気付いてもらうためだ」

近藤「もっと急いでもいい、ってことだったんです」

左衛門佐「そうしなければボーカルに引きずられて、私たちまで遅くなってしまう」

みほ「……」

左衛門佐「珍しい現象だな、宇津木」

宇津木「はい。大抵の人は、どんどん早くなっていくんですけど」

近藤「私たちと合わせようとしてくれてる。でもそのせいで、周りの音を聞き過ぎてるよね」

会長「こーゆーのって、何回も練習すれば直るもんなの?」

宇津木「うーん……アインザッツがいつも遅い……妙子ちゃんの言うとおり意識の問題かな……」

みほ「あのー、みんなの話に、全然ついていけません……」

左衛門佐「私だって宇津木の言ってることなど、分からないぞ?」

みほ「へ?」

近藤「私もそうです。優季ちゃんが使う、音楽の専門用語なんて知らないのばっかりで」

宇津木「隊長」

みほ「うん」

宇津木「私は最初、“カラオケと同じ”とか、“気楽にしててください”って言いました」

みほ「うん」

宇津木「結局、そういうことなんです。隊長は私たちを、カラオケマシンだと思ってください」

みほ「そんな……だって、一緒に演奏するんだし」

宇津木「本番では隊長が私たちの方を見るなんて、ほとんどないですよ?」

会長「ボーカルが観客にお尻向けて歌うわけには、いかないよねえ」

みほ「あ、そうか」

左衛門佐「私たちは、常に決められたテンポでやる」

近藤「隊長は、そのカラオケに合わせるだけでいいんですよ」

みほ「うん……分かりました」

会長「周りに気を遣い過ぎ。西住ちゃんらしい、悪い癖だねえ」

みほ「だって、私の取り柄っていったら、それくらいで……」

左衛門佐「隊長。過ぎたればなお及ばざるが如し、だ」

会長「ボックスではこんなこと、なかったじゃん。あれと同じでいーんじゃん?」

みほ「はい……」

宇津木「もちろんお互い、機械じゃなくて生身の人間です。不測の事態には対応します」

左衛門佐「生演奏は、何が起こるか分からない」

みほ「どういうことですか?」

宇津木「よくあるのが、歌手の声が出なくなる。又は、歌手が歌詞を度忘れする」

みほ「どうするの? そんなことが起きたら……」

宇津木「決まったやり方は特にありません。ケースバイケースです」

近藤「少なくとも、私たちは機械じゃありませんから…」

左衛門佐「ボーカルへ不具合があったのに、伴奏だけ進行するってことはあり得ない」

近藤「伴奏だけが勝手に進んじゃったら、それは本当にカラオケの機械と同じですね」

宇津木「でも、歌手が声を出せないまま伴奏だけが流れると、応援の拍手が湧くこともあります」

左衛門佐「逆に、盛り上がるのか」

会長「宇津木ちゃん。不測の事態に備えて、対処方法やその合図とか、決めとくべき?」

宇津木「どうでしょうね……。今の段階では、何とも」

左衛門佐「会長。まだやる曲さえ、ロクに決まっていませんよ」

会長「それもそっか」

宇津木「とにかく演奏面は、しっかり準備しておきましょう」

会長「そだね。それ以外のことは、その後で考えればいいね」

みほ「うう……憶えること、たくさんありそう……。前途多難だなぁ……」

宇津木「隊長~」

みほ「何?」

宇津木「今、こう考えてるでしょ~」

みほ「こう、って?」

宇津木「“話が違うんだけど。ただ歌うだけじゃないの?”って~」

みほ「そ、そんなことないよ」

宇津木「だって、顔にそう書いてありますよ~」

近藤「隊長」

みほ「何? 近藤さん」

近藤「戦車道では私たち、隊長のあのシゴキに耐えてきたんですよ?」

みほ「え……? 近藤さん、何を言い出して……」

会長「西住ちゃんは全然、あれをシゴキだなんて思ってなかっただろうけどさ」

左衛門佐「隊長は就任後に一貫して、私たちを隊長が普通だと考えるレベルで練習させたんだ」

近藤「初心者の私たちを、ですよ? あれはまさにシゴキでした」

みほ「……」

会長「ま、そのお陰で私らは短期間に、全国トップレベルへ追いつけたんだけどね」

近藤「だから、優勝できたんです」

宇津木「でもバンドでは、立場が逆ですよ~」

左衛門佐「もちろん今、あの意趣返しなどというつもりはないが…」

宇津木「バンドでは隊長、私たちのシゴキに耐えてくれなくちゃ、困りますからね~」

会長「ね~」

近藤「ね~」

みほ「……さっきは、優しくしてくれるって、言ったのに……」

宇津木「何か言いましたか~」

みほ「えっ。なっ何のこと? なな何も言ってないよ!?」

今日は以上です。
いただいたレスへのお礼などは、4章全てを投下した後としたいと思います。御容赦ください。

乙~

~~~~~~~~~~



左衛門佐「隊長じゃないか?」

みほ「あ……左衛門佐さん」

左「街なかで会うのは珍しいな」

み「うん」

左「いよいよ、明日だな」

み「うん……」

左「まあ落ち着いて、練習どおりでいこう」

み「……」

左「隊長にはこんなこと、言わずもがなだろうが」

み「……」

左「……どうかしたか?」

み「う、ううん。……どうも、しないよ」

左「……」

み「じゃあ、私、こっちだから」

左「ああ。気を付けて。また明日」

み「うん。また明日」

左「……」

み「……左衛門佐さん、行かないの?」

左「隊長こそ」

み「……」

左「なぜ“こっちだから”と言ったのに、立ち止まったままなんだ?」

み「……ね、左衛門佐さん」

左「何だ」

み「今、用事があって、急いでたりする?」

左「いや、暇だ」

み「少し、お話しない?」

左「ああ。構わないが」

み「どこかに座ろうか」

左「ここからだと、左舷の公園が近いな」

み「……ね、今日…」

左「何だ」

み「もっと練習しなくて、よかったのかな」

左「多分、そうしなくても問題ないんだろう」

み「確かに、宇津木さんの指示どおりだけど……」

左「ああ。本番前日の練習は、軽めでいい」

み「……」

左「全曲通しの練習も、本番と同じ条件でやる舞台練習も済ませてる」

み「だから、前日の練習を念入りにやって、もし問題点が見付かっちゃったら…」

左「それまでの積み重ねが、台無しになる可能性がある」

み「……」

左「これが宇津木の指示だ。間違いないんだろうし、実際、合理的だ」

み「……」

左「……あそこのベンチにしよう」

み「夕焼けが綺麗だね」

左「創立記念日の明日も、いい天気になりそうだな」

み「何か飲む?」

左「いや、今はいい」

み「……」

左「隊長が奢ってくれるんだろうが、話の後でも構わないだろう?」

み「そうだね……」

左「隊長」

み「うん」

左「はっきり、訊くが…」

み「……」

左「不安なんだな?」

み「うん……。不安だし……何だか、モヤモヤする気持ち……」

左「不安なのは、私も同じだ」

み「そうなの?」

左「だが隊長にとっては、戦車道と同じじゃないのか?」

み「試合の前、ってこと?」

左「ああ。私たちでさえ、もう何度も経験したんだ。隊長に至っては…」

み「うん。数えるのが嫌になるくらい」

左「いちいち不安になることなど、ないと思うが」

み「でもやっぱり試合の前、緊張はするよ」

左「それだ。不安じゃなく、緊張で済むんじゃないか? 試合と同じに考えれば」

み「試合と同じに、考えられればね……」

左「無理か」

み「難しいよ……」

左「西住隊長から、弱音を聞くとはな」

み「私なんて、いつも弱音ばっかりだよ」

左「まあ弱音を聞くも何も、私たちは今まで話をする機会など、ほとんどなかったな」

み「うん」

左「隊長は少なくとも立場上、全員と会話することがあっただろうが…」

み「……」

左「私は、例えば1年たちと話した経験など、皆無だったといっていい」

み「バンドのお陰で、みんなとたくさんお話できた?」

左「たくさん、じゃないけどな」

み「でも今回のことで、学年やチームが違う人たちとの距離が、近くなった気がするよね」

左「私は…」

み「何?」

左「自分が、自分のチーム以外の人と、こんなに話をできるなんて思わなかった」

み「……」

左「逆にチーム以外の人が、自分へこれほど普通に話をしてくれるなんて、思わなかった」

み「そんなことは…」

左「いや、率直な感想だ」

み「……ね、左衛門佐さん」

左「何だ」

み「私たち、ずっとこのままで、いられないのかな……」

左「どういう意味だ」

み「明日、本番が終わったら…」

左「ああ、そういうことか。このバンドは解散らしいな」

み「解散……」

左「たった1回の舞台。そのために結成されたバンドと聞いている」

み「……」

左「寂しいのか?」

み「左衛門佐さんは、寂しくないの?」

左「寂しいさ」

み「私は最初、義務感だけで、やってたの」

左「……」

み「もちろん、悪い気はしなかったよ」

左「生徒会から、ボーカルをやってほしいと言われた時か」

み「うん。でも同時に、こう思ってた」

左「……」

み「歌なんて、音楽の授業や、カラオケボックスで歌ったことがあるくらいなのに、って」

左「……」

み「どうして自分がそんなことしなくちゃ駄目なの、って思ってた」

左「ほかに、もっと適任な者がいた可能性はあるな」

み「うん。例えば宇津木さん、きっと上手いのはピアノだけじゃないと思う」

左「あんなに才能のある奴だからな。歌だって上手くなければおかしい」

み「でも、生徒会の人たちが、また私を必要としてくれてる」

左「……」

み「こんな私でも、また当てにされてる」

左「……」

み「だから、それに応えなくちゃ、って思ったの」

左「だが……最初は少し、つらそうだったな」

み「リズムを直されて、音程を直されて…」

左「歌詞の中にある英語の発音にも、注文を付けられたらしいが」

み「やっぱり、引き受けるんじゃなかった……。そう思ったこと、あるよ」

左「しかし、今はバンドの解散を寂しがっている」

み「うん。ボーカルをやってるうちに、どんどん、楽しくなってきちゃったの」

左「……」

み「最初は、無理だと思った。みんなが要求するレベルの演奏なんて、不可能だと思った」

左「……」

み「でも、やっと何とかなってきた……そう思えた時は、嬉しかった」

左「“やっと”じゃなかっただろう。隊長は急速に上達した」

み「自分自身だと、そんなの分からないけど。それに…」

左「何だ」

み「宇津木さんやみんなに、初めて褒められた時は、それ以上に嬉しかったの」

左「……」

み「知らない人が聞いたら変に思うよね。1年生に褒められて嬉しいなんて」

左「私だって宇津木に初めて認められた時は、嬉しかったさ」

み「そうなの?」

左「あいつは音楽に関して、学年や年齢に関係なく、私たちよりはるかに上の存在だ」

み「うん。自分よりすごい人に褒められるのって、嬉しい」

左「ああ」

み「今、演奏するのがすごく楽しい」

左「……」

み「みんなとも、仲良くなれた」

左「……」

み「今、仲良しのみんなと、思いっ切り楽しい時間を過ごしてる」

左「だがそれは、明日で終わってしまう…」

み「うん……。終わって、ほしくない……」

左「しかし隊長、バンドは解散しても…」

み「うん。みんなと仲良くなれたことは変わらない。それは分かってる」

左「分かってるなら、バンドにこだわることはない」

み「……」

左「多分、そのことも分かってるんだろうが…」

み「うん、分かってる。バンドにこだわる必要なんてない」

左「……」

み「でも、みんなと一緒に演奏してる時、歌ってる時…」

左「……」

み「その瞬間が、楽し過ぎて……今が、この瞬間が、ずっと続けばいいのにって思うの」

左「だが、そんなことは…」

み「そうだよ。これも分かってる。そんなことは絶対ない。あり得ない」

左「……」

み「ごめんなさい……。こんなの、ただの我儘だし、愚痴、だよね……」

左「いや……。隊長」

み「何?」

左「私も、こう思う」

み「……」

左「なぜ、楽しいことは長く続かないのか、と」

み「……」

左「楽しいことが過ぎ去るのは、早い。長く続かない」

み「逆に、苦しいことやつらいこと、悲しいことは…」

左「ああ。なかなか終わらない」

み「こんなことがいつまで続くんだろう、って思うよね」

左「隊長」

み「うん」

左「明日、泣くなよ?」

み「……」

左「最後の曲で、隊長は泣いてしまいそうだ」

み「……」

左「泣いても、その涙の理由を、集まってくれた生徒たちは理解できない」

み「多分、生徒がたくさん集まって盛り上がってくれたから、とか…」

佐「ああ。それで感極まった、くらいに思われるだけだ」

み「……」

左「隊長が泣く意味など、誰にも伝わらない」

み「……」

左「私だってそうだ。今こうして、話を聞いたから…」

み「私が泣く意味を分かる……って、ことだよね」

左「ああ」

み「左衛門佐さんには、悪いけど…」

左「何だ」

み「私、約束できない」

左「何をだ」

み「泣くな、ってこと。私、最後の曲で自分が泣くかどうかなんて、分からない」

左「……」

み「もちろん、泣かないかもしれない。でもやっぱり、泣いちゃうかもしれない」

左「……」

み「だから、泣かないって……今ここで、はっきり、約束なんてできないよ」

左「……」

み「……」

左「……なあ、隊長」

み「何?」

左「今、私に何か、できることはないか?」

み「できること、って?」

左「無論、今の隊長に私がしてあげられること、しなくてはならないことは…」

み「多分、バンドのこと…」

左「そのとおりだ。バンドの中で自分の役割を果たし、隊長の伴奏を務め上げることだ」

み「左衛門佐さん、そんな言い方しないで。私たちは一緒に演奏するんだよ?」

左「まあ聞いてくれ。それ以外に、何かできることはないか?」

み「何か、って?」

左「いや。何もなければ、いいんだ」

み「……」

左「ただ、今の隊長にはバンドのこと以外に、何か必要なんじゃないか…」

み「……バンドのこと、以外……」

左「今ここにいる私は、その何かを、してあげるべきなんじゃないか…」

み「……」

左「そう、思っただけだ……」

み「ね、左衛門佐さん」

左「何だ」

み「それなら……手を、握ってほしいな」

左「…」ガク

み「え? どうして、ズッコケるの?」

左「……手?」

み「うん」

左「手って……この手か?」

み「うん」

左「意味が、分からないが……」

み「駄目、かな……?」

左「……」

み「駄目なら、別に……」

左「い、いや、私ので良ければ……」

み「いいの?」

左「手を……出していれば、いいのか?」

み「じゃあ…」

左「…」スッ

み「あっ、どうして避けるの!?」

左「す、すまない。反射的に」

み「いいって、言ったのに……!」

左「あのー……隊長」

み「何?」

左「大体、これって、違くないか?」

み「何が?」

左「“握ってほしい”と言っても、握ろうとしてるのは隊長の方だが」

み「左衛門佐さんって意外と、細かいこと気にするんだね」

左「いや、そういう問題か?」

み「握ってくれるの? くれないの? どっち?」

左「えーと…」

み「何?」

左「隊長って、その…」

み「だから何?」

左「アッチの人……なのか?」

み「あっち?」

左「いや、アッチというかソッチというか、その、女同士で…」

み「あっち? そっち? 何それ?」

左「え?」

み「左衛門佐さんが言ってること、全然分からない」

左「ああ……私の、思い過ごしか」

み「どうしたの?」

左「いや、何でもない。……隊長」

み「何?」

左「手……だったな」

み「うん」

左「……ほら」

み「うん……」ギュッ

左「……」

み「あ……」

左「どうした?」

み「柔らかい」

左「手が?」

み「もっと、硬いと思ってた」

左「それは、スティックを握るからだな」

み「うん」

左「打楽器奏者の手はタコやマメだらけ。そう思う人がいるのは知ってる」

み「違うの?」

左「自分のようなにわか仕立てのドラマーが、こんなことを言うのは僭越だが…」

み「何?」

左「手にそんなものがあるドラム奏者は、恐らくあまり上手くない」

み「どういうこと?」

左「もし、手にできているタコやマメの数と、ドラムの上手さが比例するんだったら…」

み「……」

左「プロは全員、手が野球のグローブみたいになってるぞ」

み「あ、そうか」

左「私も太鼓を叩き始めた頃は、手にそういうものができた」

み「……」

左「だがある時、フッと力の抜けることがあった」

み「ある時、力が抜ける……」

左「隊長にも分かるだろう。変に力を入れなくても、演奏ができる…」

み「力まなくても、音量が出る。高い声や低い声が出る。それに気付く瞬間、ってことだね」

左「それだ」

み「そうか。左衛門佐さんは、力んで演奏してないんだね」

左「自分ではそのつもりだ。タコやマメができないのは、その証拠だと思っている」

み「余計な力が、入ってない……」

左「近藤も多分そうだ。あいつの左手はきっと柔らかいぞ」

み「あんなに太い弦を押さえてるのに」

左「指へテーピングしてる時があるのは、バレーボールをやっているからだろう」

み「じゃあ、会長はまだ全然駄目だろうね」

左「きっと、ガッチガチだ」

み「ふふふ」

左「隊長…」

み「何?」

左「手を、撫でないでくれ」

み「え? 駄目? くすぐったい?」

左「くすぐったいし、何か、変だろう?」

み「変?」

左「私はもちろん、隊長にもそのケはないはずだし…」

み「そのけ?」

左「……」

み「どうかした?」

左「隊長はかなりのネンネと聞いていたが、これほどとは…」

み「ねんね?」

左「いや、何でもない」

み「ね、左衛門佐さん」

左「何だ」

み「自分でこんなこと言うの、恥ずかしいんだけど…」

左「……」

み「私ね、すごく甘えんぼなの」

左「……」

み「私ね、すごくお姉ちゃん子だったの」

左「……黒森峰の……」

み「うん。あの隊長が、私のお姉ちゃん」

左「……」

み「小さい頃からずっと、お姉ちゃんの後ばっかり追いかけて……そのせいかも」

左「“甘えんぼ”になった、理由か」

み「うん。優しくしてくれる人がいると、つい縋っちゃう。頼っちゃう」

左「何だか、いろいろおかしいと感じるが」

み「おかしい、って?」

左「つまり、隊長は今…」

み「うん」

左「私に縋っている、ということか?」

み「うん。そうだよ」

左「だが私は別に、隊長へ優しくなどしていないぞ?」

み「左衛門佐さんは、優しいよ」

左「そうなのか」

み「そうだよ」

左「そんなことを言われたのは初めてだ」

み「優しくされてる方が言うんだから、間違いないよ」

左「それから、つい他人へ縋ったり頼ったりしてしまう、ということだが」

み「うん」

左「そんな人が隊長をやっている。何十人もの隊員を率いている」

み「……」

左「全国大会優勝という、成果まで上げている」

み「……」

左「全く矛盾しているように思えるが、これはどうなんだ?」

み「だって、私が隊長をやったり優勝できたりしたのは、私一人でやったことじゃないもの」

左「……」

み「みんなと一緒に、やったことだもの」

左「だが、隊長の任にあることは、ほかの誰でもない、自分自身がやっていることじゃないか」

み「私は一人で隊長をやってるなんて、全然思ってないよ?」

左「どういうことだ?」

み「みんなが支えてくれるから、協力してくれるから、こんな私でも隊長が務まってる」

左「……」

み「私が隊長をやってるのは、みんなと一緒にやってることなんだよ」

左「……」

み「ね? こう考えれば、おかしくないでしょ?」

左「隊長」

み「何? 左衛門佐さん」

左「さっき二人で、ボーカルにより適任な者がいた可能性がある、という話をしたな」

み「うん」

左「だが、生徒会は隊長を選んだ。なぜだと思う?」

み「えーと……それはやっぱり、私が隊長をやってるから」

左「恐らくそれが一番の理由だろう。我が戦車隊の代表で、最も人目につく人物だから」

み「……」

左「その人物がバンドで最も目立つパートを担当する。実に分かりやすい」

み「あとの理由は……歌がそんなに下手じゃない、とか…」

左「ああ。歌唱力が要件であることはいうまでない。それから、本人の見た目も重要だ」

み「……」

左「どちらも、隊長は十分以上に条件を満たしている」

み「そんな……」

左「だが、こうしたこと以外に、生徒会が重要と考える要素がある」

み「こうしたこと、以外?」

左「これら以外に、生徒会が隊長へボーカルをやらせた理由がある。私は、そう思っている」

み「何、それは?」

左「飽くまで、憶測に過ぎないが…」

み「うん」

左「それは隊長へ、人前で喋るのに慣れさせる、ということだ」

み「……」

左「こんなことを言っては、悪いんだが…」

み「何? 言って?」

左「隊長は人前に出ると、妙に慌ててしまう癖があるだろう?」

み「……」

左「おたおたというか、わたわたというか…」

み「……」

左「私たちを前にしても、まだそんな感じだ。ましてや、不特定多数の前では…」

み「うん。人前に出たり、そこで喋ったりするのって、あまり得意じゃない」

左「だが、そうも言っていられないだろう?」

み「……」

左「こんなことは、隊長自身が分かっていると思うが…」

み「うん、分かってる。そんなのじゃ駄目だって」

左「今まで対外的なことは、生徒会がやってくれた。だが、あの3人が卒業したら…」

み「私たち自身が、やらなくちゃならないね」

左「その中心にいるのが、隊長だ。だから今回みたいな機会に、そうした状況へ慣れさせる」

み「……」

左「生徒会には、そんな意図があるんじゃないかと思うんだ」

み「……」

左「明日、私たちの演奏を聞きに集まる生徒の数は分からない」

み「でも多分、大勢だよね。大勢の、知ってる人や知らない人…」

左「ああ。ボーカルの役目は、歌うだけじゃない。その大勢へ語りかけるMCも重要な役割だ」

み「……」

左「生徒会の3人は、それを普通にこなせるようになれ、と考えているんじゃないか」

み「確かに、試合の結果報告とかで、人前に出ていく機会は増えるよね……」

左「隊長。誤解しないでほしいが、私はプレッシャーをかけているんじゃない」

み「うん。今、左衛門佐さんは、私へアドバイスをしてくれてる」

左「アドバイスというほど、大したものじゃないが……」

み「言ってること、分かるよ」

左「……」

み「いつまでも甘えんぼだったり、人に縋ったり頼ったりしてしちゃ、駄目だよね……」

左「いや、それは場合によると思うぞ」

み「え? どういうこと?」

左「例えば、家族にそうしたって、他人は何も文句を言わない」

み「あ、そうだね。それが駄目かどうかなんて、家族の中での問題だよね」

左「ああ。私が言っているのはそうした状況以外の、立場の問題だ」

み「……」

左「隊長は、ある集団の代表だ。集団を率いるリーダーなんだ」

み「……」

左「縋ったり頼ったりするのはむしろ、その集団のメンバーが、リーダーに対してだ」

み「そうだね……」

左「隊長は、そういう立場にいる人間なんだ」

み「だから、それにふさわしい態度を身に付けろ、ってことだね」

左「そのとおりだ。競技の面ではとっくの昔に、隊長はそれをできている」

み「……」

左「それ以外の運営の部分で、隊長としての風格を身に纏え、ということだと思うんだ」

み「うん……」

左「もちろん私は、一介の砲手だ。今回のバンドでは、ドラム奏者」

み「……」

左「それ以上でも、それ以下でもない。隊長へ意見できる立場になど、ない」

み「……」

左「今は戯言を、思いつくまま、口にしたまでだ……」

み「……左衛門佐さんは、やっぱり、優しいね」

左「優しくしているつもりなど、ないんだがな」

み「優しいよ、左衛門佐さんは。今、お話ができてよかった」

左「本番の前日なんだから、もっと穏やかに過ごすべきだったが…」

み「ちょっと重いお話、っていうのかな。そういうのをしちゃった、ってこと?」

左「ああ」

み「でも、話せてよかった。分かったことが、たくさんあった」

左「そうか」

み「うん」

左「手……」

み「え?」

左「手……もう、いいか……?」

み「あ……ごめんなさい」

左「いや……」

み「……」

左「そろそろ、行こう。もう日が沈む」

み「うん。飲み物、奢れなかったけど」

左「じゃあ、次の機会に頼む」

み「分かった」

左「途中まで一緒に行こう」

み「うん」

左「なあ、隊長」

み「何?」

左「いうまでもなく私は、隊長だけへいろいろなものを背負わせるつもりはない」

み「……」

左「生徒会の3人が卒業したら、運営の仕事を、みんなでやらなくちゃならない」

み「……」

左「私自身はもちろん、うちのカエサル、隊長車の五十鈴、アヒルさんチームの磯辺…」

み「みんなで仕事を分担する。私がそのまとめ役になる、ってことだね」

左「ああ。私だけじゃなく、皆も隊長の助けになりたいと思っているはずだ」

み「……」

左「今挙げたような皆に比べて、私にできることは、ごく僅かだろうけどな」

み「そんなことないよ」

左「いや、私が隊長にしてあげられることなど……」

み「ね、左衛門佐さん」

左「何だ」

み「じゃあ、今でもいい?」

左「今?」

み「左衛門佐さんが、私にしてくれること」

左「ああ、もちろんだ。言ってくれ」

み「もう一回…」

左「もう一回?」

み「手を、握ってほしいな」

左「…」ガク

み「ねえ、どうして、ズッコケるの?」

今日は以上です。
明日の投下分で、完結の予定です。

~~~~~~~~~~



近藤「隊長、元気出してくださいよ」

みほ「……」

宇津木「隊長~いつまでも落ち込んでちゃ駄目ですよ~」

みほ「……うー……」

左衛門佐「隊長、いい加減に切り替えろ。若しくは忘れろ。どっちかにしろ」

みほ「……もうやだ……」

宇津木「気にしてるの、あれをやった本人の隊長だけですよ~」

近藤「そうですよ。超ウケてたじゃないですか」

宇津木「バカウケだったの、舞台から見て分かってたでしょ~」

みほ「……やっぱり私には、向いてないんだ……」

近藤「それにしても隊長、どうしていきなり、あんなこと始めたんですか?」

宇津木「MCの練習、何回もしたのに~」

みほ「……訊かないでよぉ……」

左衛門佐「観衆を目の前にして、頭の中が真っ白になってしまったんだな?」

みほ「……左衛門佐さん、分かってるじゃない……」

左衛門佐「それで、何をやっていいか分からないまま、何か始めてしまった、と」

みほ「……分かってるのに、どうして訊くのよぉ……」

会長「おーっす、みんなー」ガチャ

近藤「あ、会長。お疲れ様でした」

宇津木「お疲れ様でした~」

左衛門佐「会長、お疲れ様です」

近藤「もう、生徒会の仕事は終わりですか?」

会長「うんにゃ。あと、実行委員会へ挨拶をしないと」

宇津木「激務ですね~」

会長「今回はそうでもないよ。それよりさ、そこに、ごろんって寝転がってるのは……」

宇津木「会長、何とかしてくださいよ~」

みほ「……」

近藤「この部屋に入ってから隊長は、こっちに背中向けたあの体勢で動かないんです」

左衛門佐「会長、ところで…」

会長「何だい?」

左衛門佐「生徒会の人に案内されて、この部屋に入らせてもらいましたが…」

近藤「ここが、会長の部屋なんですか?」

会長「うん。生徒会の会長室」

宇津木「私なんかが、入っていい場所なんでしょうか~」

会長「何言ってんのさ。いつでも遊びにおいでよ」

近藤「でも会長はここにいる時、お仕事中ってことでしょうから」

左衛門佐「今、会長の机と椅子は端へ移動させてあるんですね」

会長「うん。空いた場所にこうしてカーペットを敷いて、たまにみんなで食事をしたりする」

宇津木「え~楽しそう~」

会長「西住ちゃんは1回、あんこう鍋を食べに来たことがあんだけどね」

みほ「……」

左衛門佐「その本人は今、あんこうみたいにごろんとなったままですが」

会長「あんこうというか、マグロというか」

近藤「お通夜みたいな人が一人いるんじゃ、ライブの打ち上げになりませんよ」

宇津木「揺らしてみましょうか~。隊長~」ユサユサ

みほ「……」

会長「じゃあ悪いけど、私はまた行かないと。今はちょっと、顔出しに来ただけ」

宇津木「またお仕事ですか~早く戻って来てください~」

会長「次の挨拶で最後だよ。あ、それからさ」

近藤「何ですか?」

会長「みんなのリクエストどおり、お寿司、頼んでおいたよー」

近藤「えー!? 本当ですかー!?」

宇津木「きゃ~! 嬉しい~!」

左衛門佐「本当にいいんですか、会長?」

会長「打ち上げだからねえ。パァーっといかないとね」

左衛門佐「じゃあ食器や、お茶の用意をしておきます」

近藤「あそこの専用キッチンを使って構わないんですね?」

会長「うん。あと、冷蔵庫の中にジュースがあるから、先にそれで乾杯しててくんない?」

宇津木「何から何まで、ありがとうございます~」

会長「少しだけどお菓子もあるよ。キッチンの、上の棚ん中」

近藤「それは、我慢しておきます」

宇津木「お寿司が来るんですから~」

会長「そだね。じゃ、後でね」パタン

みほ「……」

左衛門佐「ほら隊長、会長が寿司をとってくれたぞ」

みほ「……食欲なんて、ない……」

近藤「あれ? じゃあ隊長、食べなくていいんですか?」

宇津木「私たちが、隊長の分まで食べちゃいますよ~」

みほ「……」

左衛門佐「隊長。気にするな、と言っても無理かもしれないが…」

みほ「……」

左衛門佐「隊長のやったことは結局、全て観衆にウケたんだ。それでいいんじゃないのか?」

みほ「……だって……」

近藤「隊長。最初はどうして、突然MCを始めちゃったんですか?」

みほ「……」

宇津木「冒頭はMC無しで、いきなり『DreamRiser』ってシナリオでしたよね」

みほ「……だから、訊かないでって、言ってるでしょ……」

左衛門佐「唐突に喋り始めた隊長の様子に、生徒たちは皆、唖然としてたな」

近藤「“このバンドは、マジなのかネタなのか”って、区別がつかないみたいでしたね」

左衛門佐「だが、その区別を決定付けたのが…」

近藤「『DreamRiser』間奏での、隊長の不思議な踊り」

みほ「……」

左衛門佐「あそこはキーボードのソロで、宇津木の見せ場だったはずだが」

宇津木「でも隊長があの踊りを始めて、完全にもっていかれちゃいました」

みほ「……ごめん……」

宇津木「謝らないでください。ウケれば勝ちじゃないですか」

左衛門佐「しかしまあ、そういうネタ要素を挙げていけば切りがないな」

近藤「演奏面はしっかりできたんだし」

宇津木「あの舞台は、大成功でした」

みほ「……」

左衛門佐「だから隊長、元気を出せ」

近藤「いつまでも、落ち込んでちゃ駄目ですよ」

宇津木「早く立ち直ってくださいよ~」

みほ「……」

左衛門佐「今の隊長には何を言っても駄目だな。こうなったら……近藤」

近藤「はい?」

左衛門佐「やれ」

近藤「え? 何を?」

左衛門佐「隊長が起き上がるようなことを、だ」

近藤「起き上がるようなこと……ですか?」

宇津木「左衛門佐先輩、そんなの“無茶振り”ってやつですよ~。妙子ちゃんが可哀想です~」

左衛門佐「まあ見てろ、宇津木」

宇津木「何をですか~」

左衛門佐「“運動部のノリ”の底力だ。どんな無茶振りにも、近藤は応える」

宇津木「……」

左衛門佐「何か、芸をやってくれる。頭で何も思い付かなければ、体を張った芸を見せる」

宇津木「……」

左衛門佐「与えられた場を、常に全力でこなす。それが運動部のノリだ」

近藤「分かりました……」スック

宇津木「あ、立ち上がった~」

近藤「3番、近藤妙子! 芸、いかせていただきます!」

宇津木「お~カッコいい~! 左衛門佐先輩の言ったとおりですね~」

左衛門佐「だろう? でも3番って何だ?」

宇津木「妙子ちゃんが今着てる、バレー部ユニフォームの番号じゃないですか~」

左衛門佐「なるほど」

近藤「隊長のモノマネ、やらせていただきます!」

宇津木「来ました~!」

左衛門佐「これは、予想以上のものが来たな」

近藤「題して『第2射の説教』、いきます!」

宇津木「うわ~。よりによって、隊長が雷を落とした時のモノマネです~」

左衛門佐「無線で全車を怒鳴りつけて、皆がビビりまくった時か」

近藤「“各車、第2射が遅いです!”」

宇津木「ひえ~そっくり~」

近藤「“砲手と装填手、連携を確認しましたか?”」

左衛門佐「気味が悪いくらい似てるな」

近藤「“各チームが個別に練習する時の、課題だったはずです!”」

宇津木「で、この後…」

左衛門佐「怒られるのは、砲手と装填手だけじゃないんだよな」

近藤「“各車、車長!!”」

宇津木「この時、不意討ちを受けた梓は、飛び上がってました~」

左衛門佐「うちのカエサルはリーダーと装填手を兼務してるから、真っ青になってたぞ」

近藤「“連携の監督! 第2射の目標に関する指示! 個別練習の内容とその成果!”」

宇津木「怖いよ~」

近藤「“これらは全て車長の責任です! 今日は練習の後、緊急の車長会議をやります!”」

宇津木「説教部屋への御案内、来ました~」

左衛門佐「車長たちは皆、ゲンナリしてたな」

近藤「“会長。生徒会室を会議で使うの、構いませんね?”“いーよー”」

宇津木「あ、会長のマネも~」

左衛門佐「さすが芸が細かいな」

みほ「……何よ、もう……」

近藤「うわ、隊長が私たちの方を見てる」

宇津木「いつの間にか、首がこっちへ向いてる~」

左衛門佐「背中がそのままで、首だけ180度回転してるように見えるな」

みほ「……みんな、本当は私のこと、嫌いなんでしょ……」

宇津木「そんなことないですよ~」

近藤「みんな、隊長のことを大好きです」

左衛門佐「全員が信頼しているのは間違いない」

みほ「……じゃあ、どうしてそんなに、意地悪するのよぉ……」

近藤「だって隊長、起きてくれないじゃないですか」

宇津木「早く立ち直ってほしいんです~」

みほ「……」

左衛門佐「大体、隊長が大噴火したのは、この時くらいだったと思うが」

宇津木「そうですよ~。鬼みたいに怖かったのは、この時だけです~」

左衛門佐「だから皆が憶えていて、近藤がこうして芸にできるんだ」

近藤「普段は、頼りになって優しい、しかも可愛い隊長じゃないですか」

みほ「……」

宇津木「こんなに可愛い隊長が、どうしてあんなに怖くなっちゃうんでしょう~」ナデナデ

左衛門佐「こら宇津木、隊長を撫で回すんじゃない」

みほ「……」グルン

近藤「あ、首があっち向いちゃった」

宇津木「何だか、余計に不貞腐れちゃったみたい~」

近藤「これじゃ、モノマネは逆効果だったんでしょうか」

左衛門佐「だが甘やかしていると、本人のためにならん。もっと刺激を与える必要がある」

近藤「じゃあ、思い切って…」

左衛門佐「何だ」

近藤「今日の例のヤツ、やります?」

左衛門佐「今日のヤツをか? やれるのか、近藤?」

宇津木「例のヤツをやるの~? 超期待~」

近藤「じゃあ近藤妙子! 再び、いかせていただきます!」

宇津木「待ってました~!」

左衛門佐「よっ、真打!」

近藤「今日のライブ冒頭のネタ! 『勝手に突然MC』!」

みほ「……」

近藤「“わ、わ、わ、わたわたわた私私私私たち大洗女子学園戦車隊は……!”」

宇津木「キャハハハハハハハハ」

左衛門佐「ギャハハハハハハハハ」

宇津木「すご~い! 妙子ちゃん、そっくり~!」

左衛門佐「こんなに笑ったのは久しぶりだ」

宇津木「もう、可笑しくって涙が出そうです~」

左衛門佐「1回聞いただけなのに、近藤はよく憶えられるな」

宇津木「隊長もどうすれば、あんな綺麗に言葉を噛めるんでしょう~」

近藤「ラップみたいだよね。“わ、わ、わ、わたわたわた私私私”」

左衛門佐「ギャハハハ。やめろ、笑い過ぎて苦しい」

みほ「……」ムク

宇津木「あ、隊長がやっと起き上がった~」

左衛門佐「刺激が功を奏したか」

みほ「……どうして、みんな……」

宇津木「何ですか~」

みほ「私のこと、そんなにイジメるの……?」

宇津木「イジメてなんかいませんよ~」

近藤「いつもどおりの隊長に戻ってほしいんです」

左衛門佐「隊長、自分のやったことに向き合え。目を逸らすな」

みほ「……」ゴロン

宇津木「あ、また寝転んじゃった~」

みほ「……」ゴロゴロ

近藤「転がりながら、カーペットの端へ行っちゃった」

左衛門佐「やれやれ」

会長「いやー、やっと終わった。お待っとさんー」ガチャ

左衛門佐「あ、会長。今度こそお疲れ様でした」

宇津木「お疲れ様でした~」

近藤「会長、お疲れ様でした」

会長「お寿司、来たよー」

宇津木「きゃ~! 会長、ありがとうございます~!」

近藤「会長、本当に御馳走様です!」

左衛門佐「御馳走になります、会長!」

会長「みんな、いーってことよ」

左衛門佐「あ。食器とかの準備を忘れてました」

宇津木「ちょっと盛り上がり過ぎちゃいましたね~」

会長「何やってたの? 扉の外まで笑い声が聞こえてたみたいだけど」

近藤「隊長に元気出してもらおうと思いまして」

宇津木「妙子ちゃんが芸をしてくれたんですよ~」

左衛門佐「それで少々、はしゃいでしまいました」

会長「でもさ。肝心の、ごろん、ってなってる人は…」

近藤「何だか、効果はイマイチだったみたいです」

宇津木「私たちには大ウケだったのに~」

会長「西住ちゃん、こっちおいでよ。一緒にお寿司食べよ?」

みほ「……うー……」

会長「ね、左衛門佐。西住ちゃんの声、何だか泣きそうになってない?」

左衛門佐「さあ? いつまでたっても凹んでる人のことは、よく分かりません」

みほ「……会長ぉ……みんなが、私をイジメるんです……」

会長「あんなこと言ってるよ? みんな?」

宇津木「そんなことよりお寿司ですよ、お寿司~」

近藤「あ、インスタントのお吸い物が付いてますね。皆さん、要ります?」

左衛門佐「ここには、お椀なんてあるんでしょうか」

会長「うん、あったはず。でも、この人数分はどうかなー」

宇津木「それならお椀とお湯だけ出しておいて、希望者はセルフサービスですね~」

近藤「お茶は最初から、人数分用意します」カチャカチャ

宇津木「食べ物も来て、打ち上げらしくなってきました~」

近藤「あーお腹空いた」

左衛門佐「私もだ」

会長「そだね。早く食べよ」

宇津木「食べよ~食べよ~」カチャカチャ

みほ「……」


~~~


会長「ね、みんな」ムグムグ

左衛門佐「何でしょう、会長」モグモグ

会長「食べながら、聞いてほしいんだけど」

宇津木「何ですか~」ムグムグ

会長「みんな結局、今回のバンドのこと、何も訊かなかったねえ」

近藤「バンドのこと?」モグモグ

会長「なぜバンドを結成したのか。なぜイベントに参加したのか」

宇津木「……」

会長「そんで、なぜその1回だけで解散するのか。結局、誰も、何も訊かなかったねえ」

左衛門佐「会長。質問に質問で答えて、失礼ですが…」

会長「何だい? 左衛門佐、言ってみ?」

左衛門佐「会長はそれを、私たちに訊いてほしかったんでしょうか」

会長「どっちでもいーよ。訊かれたら、ちゃんと答えようとは思ってた」

左衛門佐「率直に言います」

会長「うん」

左衛門佐「私はそういうことに、興味ありません」

会長「……」

左衛門佐「バンド結成には恐らく、生徒会の深謀遠慮があると思っていました」

会長「……例えば、戦車道を復活させた時、みたいな?」

左衛門佐「そのとおりです。でも、私には興味ありません」

会長「……」

左衛門佐「私は、私のやりたいこと、やるべきことをやる。それだけです」

会長「……」

左衛門佐「Ⅲ突での砲手も、バンドでのドラム奏者も、それに該当しただけのことです」

宇津木「私も、同じです~」

近藤「私もです」

会長「うん」

宇津木「別に、会長たちが何を考えてても構いません~」

近藤「会長たちは、学園のために何が大事かをいつも考えてくれてるって、分かってますから」

宇津木「ひょっとしたら、私たちは生徒会に利用されたのかもしれませんけど~」

近藤「私たちだって、バンドで遊ばせてもらいました。おあいこです」

宇津木「楽器、練習場所、本番の舞台まで用意してもらったんです~」

近藤「これで利用されたなんて言ったら、バチが当たっちゃいますよ」

左衛門佐「背後にどんな事情があるにせよ、準備はうまくいったし、舞台は成功でした」

宇津木「会長。私たちのことを気にしてるんでしたら、そんな必要ないですよ~」

会長「……うん。みんな、ありがとうね。私はいい仲間を持って幸せだよ」

左衛門佐「ただ、問題なのは…」

会長「アレの、ことかい?」

宇津木「はい~」

近藤「アレのことさえなければ、万事うまくいった、って言えるんですけど」

会長「アレ…じゃなかった、西住ちゃん。お寿司食べないの?」

左衛門佐「おい隊長。隊長の分まで食べてしまうぞ?」

宇津木「本気ですよ~」

近藤「私たち、育ち盛りなんですから」

みほ「……」ゴロゴロ

近藤「あ、転がりながらこっちへ来た」

宇津木「立ち上がるのも億劫みたい~」

会長「西住ちゃん。やっぱり、お腹空いてたんでしょ?」

みほ「……はい……」ムク

宇津木「お腹が空いたら戻ってきました~」

左衛門佐「犬じゃあるまいし」

近藤「とにかく、やっとこっちへ来て、起き上がってくれました」

宇津木「はい、隊長のお箸と小皿です~」

近藤「ちゃんと用意しておきましたから」

みほ「……ありがと。……会長、いただきます……」

会長「うん。食べて食べて」

みほ「じゃあ……」スッ

左衛門佐「あ」

宇津木「あ」

近藤「あ」

みほ「……え? あ、って……?」

左衛門佐「今の見たか?」

宇津木「見ました~驚きです~」

近藤「最初に箸をつけたのが、ウニですよ、ウニ」

左衛門佐「やはり隊長は、お嬢様なんだな」

宇津木「名家の生まれですもんね~ウニなんて普通なんでしょうね~」

近藤「会長は何から取りました?」

会長「私は、カッパ巻き」

宇津木「左衛門佐先輩は~?」

左衛門佐「私は玉子だ」

近藤「会長でさえ、カッパ巻きなのに…」

宇津木「同じ学年の左衛門佐先輩は、玉子なのに…」

近・宇「お嬢様の隊長は、ウニ……!」

みほ「……」スッ

左衛門佐「あっ隊長! 何てことするんだ!」

宇津木「一回取った物を、寿司桶に戻すなんて~!」

近藤「汚ーい! 信じらんない!」

みほ「……何よぉ……」

左衛門佐「お、何だ? 逆ギレか?」

みほ「何よもうさっきから!! みんなで私をバカにして!!」

宇津木「隊長~。ウニ持ったまま怒っても、全然怖くありませんよ~」

近藤「いいからそのウニ、食べちゃってくださいよ」

みほ「全くもう……大体、会長も会長ですよ!!」

会長「えっ。な、何? 私が何かした?」

みほ「どうして会長がカッパ巻きから食べるんですか!?」

左衛門佐「何を言ってるんだコイツは」

みほ「私なんて、ウニはこの1個だけで、後はマグロだけ食べてりゃいいんでしょ」ムグムグ

近藤「遠慮した結果が、マグロですか」

宇津木「育ちが違い過ぎます~」

会長「マグロになってた人が、マグロを食うとはこれいかに。なんちて」

近藤「会長、河嶋先輩レベルのギャグなんですがそれは」

会長「とにかく、西住ちゃんが立ち直ってくれてよかった」

左衛門佐「どんなに不貞腐れていても、食い気には勝てなかったようですね」

みほ「もう、何とでも言って」ムグムグ

会長「じゃ、西住ちゃんが復活したことだし……」

宇津木「何ですか~」

会長「ちょっと待ってねー。パソコン起動するから」

左衛門佐「手に持っているメモリーに、何が……」

会長「本当は大画面で見たいんだけどね。この人数だからいいよね」

近藤「あ、じゃあそのディスプレイをこっちへ向けます」

会長「まだ完全に編集してないんだけど、取りあえずデータを借りてきた」

宇津木「立ち上げたのは、動画ソフト……。何かの映像ですか~」

会長「うん。何だと思う?」

左衛門佐「おおっ、これは……」

近藤「これ、今日のライブの映像です!」

宇津木「もう、見られるなんて~!」

みほ「……」ポト

宇津木「あ。隊長が、お箸を落しちゃいました~」

会長「生徒会の子に撮らせたんだ。まだ、編集されてるのは画面の切り替えだけなんだけど」

左衛門佐「隊長」

みほ「……何?」

左衛門佐「正視できるか? この映像を」

みほ「ふ、ふん……みんなにさっきイジメられたから、もう慣れた。平気だよ」

宇津木「お~。隊長、完全復活ですね~」

会長「“みんながイジメた”って……何やってたの?」

近藤「今日のライブで、隊長がやったことのモノマネです」

会長「あー、なるほど……」

みほ「会長、みんなを怒ってくれないんですか? 私を同情の目つきで見るだけなんですか?」

宇津木「あ、私たちが舞台に出てきた~」

近藤「制服着用だったのは、少し残念だったね。学校行事だから仕方ないけど」

左衛門佐「近藤はいつもの、そのユニフォームだったじゃないか」

宇津木「もしステージ衣裳でもOKだったら、露出しまくりの服とか着たのに~」

会長「最後に、ボーカルが登場した」

左衛門佐「この時点で隊長はもう、カチンコチンに緊張していたんだな」

宇津木「直立不動ですね~」

近藤「来ますよ、例のシーン……」

『左衛門佐「1、2、1・2・3」ドドタンッ』

『みほ「わ、わ、わ、わたわたわた私私私私たち大洗女子学園戦車隊は……!」』

宇津木「キャハハハハハハハハ」

左衛門佐「ギャハハハハハハハハ」

会長「ガハハハハハハハハ」

近藤「キャハハハハハハハハ」

宇津木「苦しい~もう今日は、笑い過ぎて駄目~」

左衛門佐「明日、間違いなく腹筋が痛くなっているな」

会長「それにしてもさ、この時みんな、よく演奏をストップできたよね」

近藤「何言ってるんですか。これは会長のお陰じゃないですか」

宇津木「会長は最初の音を弾かずに、ピックを持った右手を横へ突き出しましたよね」

会長「うん。何か異変が起こったと思って、咄嗟にやったんだけど」

近藤「打合せになかったジェスチャーでしたけど、意味は一瞬で分かりました」

左衛門佐「“止まれ”の合図。あれで私たちは演奏をストップできた」

宇津木「あそこで音が出てMCとカブっていたら、事故が発生したと観客に分かってしまう」

近藤「でも、誰も演奏を始めなかった。だから、隊長が喋り始めたのは自然な流れになったね」

会長「あ、やっと曲が始まった……けど、生徒たちがザワザワしてる」

左衛門佐「マジなバンドなのかネタなのか、判断しかねているんですね」

会長「ほんでこの後、その方向性を決定付けることが、起こんだよね」

近藤「優希ちゃんのソロが、始まった……」

宇津木「そろそろかな~」

『みほ「…」スッタスッタスッタ』

会長「出たー!」

宇津木「不思議な踊りキタ~!」

近藤「キャハハハ。可笑し過ぎー!」

左衛門佐「これで観客の誰もが、コミックバンドと認定したな」

宇津木「これって何ていうか~スキップっていうか~」

近藤「踊ってるような、飛び跳ねてるような。謎のステップだよね」

左衛門佐「隊長。ここはどうして、こんなことを始めたんだ?」

みほ「だって、間奏で……手持ち無沙汰、っていうか……」

会長「間奏では、リズムに合わせて体を軽く揺らせてるだけでいい、ってことだったよね?」

みほ「ごめんなさい……」

近藤「でもこれが、妙にウケたんですよね」

宇津木「観衆は爆笑です~」

左衛門佐「この謎ステップに合わせて、手拍子の音が大きくなった」

会長「だって、踊ってる本人がメチャクチャ楽しそうだもん」

近藤「鼻歌でも歌ってそうな雰囲気ですね」

左衛門佐「しかも、動きにやたらとキレがあるのはなぜなのか」

近藤「アドリブの踊りとは思えません」

宇津木「もしかして隊長、普段でもあんなことやってるんですか~」

みほ「嬉しいときにやる、かな……」

会長「そんなこんなで、1曲目、終了ー」

『みほ「え、えーと次のきょ、きょ、曲は……」』

『\ニシズミサーン/\ミポリーン/\カワイイー/』

宇津木「隊長~みぽりんコールが起こってますよ~」

みほ「あれは……同じクラスのみんなだ……」

会長「西住ちゃん、人気者だねえ」

近藤「今回のライブで、違う科とか、違う学年のファンもできるんじゃないですか?」

左衛門佐「間違いないな」


~~~


近藤「とうとう次が、最後の曲です」

会長「この時ってさ、みんなで一旦、舞台袖に引っ込んで……」

左衛門佐「はい」

会長「予定してた曲はアンコールも含めて全部やっちゃった。でも拍手が鳴りやまない」

近藤「そうでしたね」

会長「もう一回『DreamRiser』をやろう、って誰が言ったんだっけ?」

左衛門佐「それは……そういえば、誰だったでしょうか」

みほ「会長じゃなかったんですか?」

会長「実は私、宇津木ちゃんだと思ってたんだけど、記憶が定かじゃなくてさ」

宇津木「私は、隊長が言ったと思ってました~」

みほ「じゃあ本当は、左衛門佐さんとか?」

左衛門佐「私はそんな提案などしない。僭越にもほどがある」

会長「それなら近藤ちゃん?」

近藤「先輩たちや優希ちゃんを差し置いて、私なんかが言えるわけありません」

宇津木「……それは、こういうことですね」

会長「何だい? リーダー」

宇津木「も~リーダーはやめてくださいよ~。バンドは解散したんですよ~」

左衛門佐「いちいち話し方が変わって面倒臭い奴だな。いいから宇津木、言ってくれ」

宇津木「全員が、全員の声を聞いたんです」

みほ「どういうこと?」

宇津木「このバンドの全員が、同じことを考えていたんです」

みほ「じゃあ本当は、誰も、何も言わなかったかもしれない…」

宇津木「はい。みんなの気持ちが一つになるのは、演奏の途中ではよくあることですけど」

左衛門佐「練習でも舞台の上でも、何度もそういう瞬間があったな」

宇津木「この場合は舞台袖に引っ込んでも、それが続いてたんです」

会長「でも誰かが、“もう一回行こう”くらいは言ったよね」

宇津木「多分。でも、どの曲をやろうとか、どういう進行でやろうとか…」

会長「……」

宇津木「そういう具体的なことを言ったかどうかは、分かりません」

近藤「何も言わなくても、全員が何をやるのか、何をすべきかを分かってた、ってことだね」

会長「そんな状態の私らが、もう一回、出てきたよ」

『みほ「皆さん」』

左衛門佐「隊長の、最後のMCだ」

『みほ「こんなに多くの皆さんが集まってくれて、ありがとうございました。

    私たちの演奏を聞いてくれて、本当にありがとうございました。

    私たちのバンドには、名前がありません。

    今回のイベントのためだけに、結成したバンドだからです。

    戦車道の仲間たちで、楽器ができる人たち。そういう人たちが集まったバンドです。

    戦車道の仲間たちは、全国大会で優勝できました。

    優勝するまでの道程は、すごく大変でした。練習を、たくさんやりました。

    試合では何度も、絶体絶命になりました。でも全員で、それを乗り越えました。

    それができたのは、みんなで、仲間を信じあったからです。

    戦車道の仲間たちには、いろいろなチームがあります。

    趣味が同じ人たちが集まったチーム。同じ部活の人たちで結成されたチーム。

    学年が同じで統一されたチーム。いろいろです。

    今、このステージに立っているのは、そういうチームではありません。

    楽器ができる人たちが、ただ集まっただけ。そんなバンドです。

    だけど、戦車道のチームでも、バンドでも、やることは一つだと思っています。

    それはやっぱり、仲間を信じること、仲間同士で信じあうことです。

    どんな困難があっても、それさえできれば、乗り越えられると思っています。

    私たちのバンドは、次の1曲で解散します。

    でも、最後の瞬間まで、私たちは仲間を信じて演奏します。

    そして、それを聞いてくれる皆さん。皆さんという仲間を信じて演奏します。

    じゃあ最後に、もう1回『DreamRiser』を……本当に最後の曲を、聞いてください!

    皆さん、本当にありがとうございました!」』

『左衛門佐「1、2、1・2・3」ドドタンッ』

『みほ「♪I just feel my wind♪I just feel my shine♪」』

近藤「隊長、カッコいい……」

宇津木「惚れ直しちゃいました~」

会長「最後、バッチリ決まったね。西住ちゃん」

近藤「それまでギャグ路線だったから、シリアスな雰囲気とのギャップがすごいですね」

会長「だから一層、観客は話に引き込まれたんだよ」

左衛門佐「そして来るのが、宇津木の最後のソロ」

近藤「今度は隊長、踊らなかったんですね」

みほ「この時のこと、はっきり憶えてる。宇津木さんのソロに聞き入っちゃったの」

宇津木「……」

みほ「でもすぐに気付いた。自分がステージの上で、お客さんみたいになっちゃ駄目だって」

会長「このソロを聞けば無理ないよ。ほら始まった……神技だもん、これ」

近藤「指や手の動きが早過ぎて、目で追えない……」

みほ「練習では全然、やらなかったことだよね」

会長「宇津木ちゃん。この時のは全部、アドリブなんでしょ?」

宇津木「ちょっと気分がのっちゃいました。最後ですし」

左衛門佐「宇津木、本気出したな?」

宇津木「昔、リストやプロコフィエフを弾かされたことがあったんですけど…」

左衛門佐「……」

宇津木「難易度としては、それと同じくらいですかね」

会長「とんでもないことを、サラっと言うねえ」

近藤「優希ちゃんのソロが終わって…」

左衛門佐「少しの間があって、大拍手」

会長「演奏がすご過ぎて、みんな、拍手するのを一瞬忘れたんだね」

近藤「今度は、会長が踊りだしました」

会長「宇津木ちゃん、ごめんねー。つい、はっちゃけちゃったわ」

宇津木「いえ、良かったと思いますよ」

近藤「そうですよ。やっぱりギターは、このくらいパフォーマンスをしないと」

宇津木「会長はルックスがいいんですから、視覚効果は絶大だったと思います。それに…」

会長「何ー?」

宇津木「あれだけ踊ってても、会長はきちんと楽譜どおりに弾きましたよね」

会長「そりゃまあ一応ね。最低限、しなくちゃいけないことだもん」

宇津木「左衛門佐先輩も、もっと何かやってよかったんじゃないですか」

左衛門佐「私は、普段入れてるフィルを、少し派手なものに変えた程度だったな」

近藤「シンバルを1枚か2枚、割っちゃうと思ってましたけど」

左衛門佐「冗談を言うな。楽器は全部借り物なんだぞ」

宇津木「妙子ちゃんこそ、会長と一緒に踊ればよかったのに」

近藤「私のレベルだとそんな余裕ないよ。たまにスラップのアドリブ入れるのが精一杯」

会長「西住ちゃんも、アクションが大きくなってきた」

みほ「この時は、何だかもう、体が勝手にステージの上を動き回ってる感じでした」

左衛門佐「宇津木の超絶技巧がまだ続いているな」

近藤「私はこれ聞いて、“あれ? こんな打ち込みの音、あったっけ?”って思いました」

会長「機械がやるような複雑なことを、実際に手で弾いちゃうんだからねえ」

宇津木「最後の曲に関しては、私、リーダー失格だったかもしれませんね」

会長「どして?」

宇津木「みんなを引っ張っていったのは、左衛門佐先輩と妙子ちゃんだったから」

みほ「……」

宇津木「ほかの3人が好き放題にできたのは、二人が音の土台を支えててくれたからです」

近藤「だってそれが、ドラムとベースの役目じゃないの」

会長「私みたいな素人が言うことじゃないけどさ、いい態勢だったと思うよ」

左衛門佐「それにしても、隊長」

みほ「何?」

左衛門佐「さっきは、どうしてあんなに落ち込んでいたんだ?」

みほ「だって……それは、やっぱり……」

左衛門佐「最後のMCは、何の準備もしていなかったんだろう?」

みほ「うん」

左衛門佐「それでも、あれだけ喋れるんだ。私が昨日言ったことは的外れだったか?」

みほ「あのMCを喋った時のことも、よく憶えてる」

左衛門佐「……」

みほ「ものすごく緊張して、でも、ものすごく集中してた」

左衛門佐「……」

みほ「まるで、全国大会の試合の時みたいだった」

左衛門佐「それなら、やっぱり戦車道と同じじゃないか」

みほ「……」

左衛門佐「隊長にとって、試合と同じに考えれば済むことじゃないか」

みほ「……自分だと、そんなの分からないよ……」

左衛門佐「……」

みほ「とにかく、この時は……これで最後、だったもの……」

左衛門佐「……」

みほ「最後、だったから……」

♪チャーンチャーンチャーン♪

近藤「終わった……」

宇津木「終わった~」

左衛門佐「終わったな」

会長「終わったねえ」

みほ「……」

近藤「……隊長?」

みほ「……う……」

宇津木「隊長~?」

みほ「……ぐすっ。ううっ……」

会長「ありゃ。西住ちゃん……」

みほ「ぐすっ。ううっ。ぐす……」

近藤「隊長が、泣いてる……」

みほ「うう。うぐっ。ぐすっ」

会長「決勝で勝っても、表彰式でも、泣かなかったのにね」

みほ「ぐすっ。ううっ」

宇津木「隊長~泣かないでください~」

みほ「ううっ。ひぐっ」

宇津木「私が、抱き締めてあげますから~」ギュッ

左衛門佐「何をやってるんだお前は」

宇津木「何って~隊長を抱き締めてるんですよ~」

左衛門佐「宇津木」

宇津木「何ですか~」

左衛門佐「隊長に、泣かせてやれ」

宇津木「どうしてですか~」

左衛門佐「隊長は、涙をずっと我慢していたんだ」

近藤「ずっと我慢……どういうことですか?」

左衛門佐「昨日の夕方に偶然会った時、隊長が話していたんだ」

宇津木「何をですか~」

左衛門佐「最後の曲で、泣いてしまうかもしれない、と」

宇津木「……」

左衛門佐「私は、泣くなと言った。泣いてもその意味は、生徒たちに伝わらない」

近藤「バンドの解散が悲しい、っていう意味……」

左衛門佐「そうだ。今の私たちは、その涙の意味を分かる」

宇津木「……」

左衛門佐「でも生徒たちは、泣く理由を理解できないだろう」

近藤「……」

左衛門佐「だから泣くな、と言った。隊長は、それを約束してくれなかったけどな」

宇津木「でも隊長は、最後の曲で泣きませんでした~」

左衛門佐「ああ。だから、もし約束をしていれば、隊長はそれを果たしたことになる」

宇津木「……」

左衛門佐「だから、泣かせてやれ。涙をずっと、我慢していたんだ」

みほ「ぐすっ。うう。ううっ」

左衛門佐「だが、隊長」

みほ「ううっ。ぐすっ。ひぐっ」

左衛門佐「いつまでも泣いているんじゃない。すぐ切り替えるんだ」

みほ「……み、みんな、は……ううっ。どうして、そんなに……平気、なんですか……?」

近藤「平気って、何がですか? 隊長」

みほ「か、悲しく、ないんですか……? ぐすっ。バンドが、解散、しちゃうのを……」

宇津木「それは、悲しいですよ~」

近藤「私だって悲しいし、寂しいです。隊長と一緒ですよ」

みほ「それなら、どうして……私みたいに、泣かないん、ですか……?」

宇津木「泣いちゃうくらい寂しいのは、私も同じです~」

近藤「でも……隊長にこんなこと言って、いいのかどうか分かりませんけど……」

会長「近藤ちゃん」

近藤「はい」

会長「今の西住ちゃんに、そういう気の遣い方は意味ないよ。言ってみ?」

近藤「あ、はい……。だって、隊長…」

みほ「……」

近藤「泣いてたら、先へ進めないじゃないですか」

みほ「……」

近藤「うちのキャプテンが、戦車道の試合の最中に、こう言ったことがあるんです」

みほ「何……?」

近藤「“泣くな。涙はバレー部が復活した、その日のためにとっておけ”」

みほ「……」

近藤「キャプテンはきっと、涙は嬉しいときに流すものだ、って言いたいんだと思います」

みほ「でも…」

近藤「はい。確かに、悲しいときやつらいときには、どうしても涙が出ちゃいます」

みほ「……」

近藤「だけど、泣いたままでいることは、悲しさをもっとひどくすると思うんです」

みほ「……悲しさを、もっと、ひどく……」

会長「近藤ちゃんの言うとおりだねえ」

みほ「会長……」

会長「西住ちゃん」

みほ「はい」

会長「私ら3年は、そろそろ引退すっから」

みほ「……!」

会長「生徒会も、戦車道も。戦車道は授業だから、参加しなくなるってことはないけど」

みほ「……」

会長「練習はこれから、今後の試合や大会に向けたものになってくと思うんだ」

みほ「……」

会長「そういう練習の主流から、もう、私らを外してもらった方がいいよね」

みほ「……と、いうことは……運営も……」

会長「もちろん。西住ちゃんや左衛門佐の学年が、やってくことになる」

みほ「……」

会長「西住ちゃんを中心にして、ね」

左衛門佐「来るべき時が来たな、隊長」

みほ「……」

宇津木「泣いてる場合じゃないですよ、隊長~」

近藤「私たちが、全力で支えますから」

みほ「……」

宇津木「それに、バンドが解散しても、私たちのつながりが消えちゃうわけじゃないです~」

近藤「これから何回だって、この5人で集まりましょうよ」

宇津木「今度は、戦車道や楽器の練習とかじゃなくて…」

近藤「どこかへ遊びに行ったり、しませんか?」

みほ「……」

左衛門佐「名案だ、近藤。打ち上げの第2弾といくか」

みほ「……うん……分かりました!」スック

宇津木「おわっ」ドテ

会長「おっ、西住ちゃんが立ち上がった」

左衛門佐「仁王立ち」

近藤「でも、その勢いで…」

左衛門佐「抱き付いていた宇津木が跳ね飛ばされたな」

みほ「ごめんなさい宇津木さん、大丈夫?」

宇津木「へ、平気です~」

みほ「みんな!」

会長「うん、何だい? 西住ちゃん」

左衛門佐「何だ、隊長。言ってくれ」

宇津木「隊長、指示してください~」

近藤「私たちは何をすればいいですか?」

みほ「今度の帰港日、この5人で、遊びに行きます!」

会長「お。いいねえ」

近藤「やったー! 行きましょー!」

左衛門佐「そういえば、大洗への帰港日がもうすぐだな」

宇津木「何をしますか~」

みほ「みんなで、ドライブです!」

近藤「えっ? だって私たち、免許も、車も……」

みほ「私が車を出します!」

左衛門佐「どういうことだ?」

会長「西住ちゃん、あの免許を使うんだね」

みほ「やっぱり会長は、私がそれを持ってるのを知ってましたか」

会長「そりゃあね」

近藤「“あの免許”って?」

会長「西住ちゃんはね、公道を戦車で走れる特殊な免許の保有者なんだよ」

みほ「戦車道の競技者は、学校や警察が指定した区域内を、戦車で走行できます」

近藤「学園艦の場合は丸ごと学校だから、全部の区域ですね」

宇津木「その範囲なら、免許なんて要りません~」

左衛門佐「だが隊長が持っているという、その免許は?」

みほ「陸地の、指定された区域外でも、自由に走れるんです」

近藤「それって、普通の車と同じじゃないですか。そんな免許があるんですね」

みほ「黒森峰にいた時、取得させられました。元々は緊急時の移動や輸送用なんです」

会長「でも走るとき、制限が厳しいんでしょ?」

みほ「はい。今、近藤さんが言ったとおり、普通の車と同じ交通ルールに従いますし…」

左衛門佐「主砲や機銃を使うなど、とんでもないな」

みほ「弾薬と火器には全て封印が必要。方向指示器を取り付けなくちゃいけません」

会長「事前の許可申請や、ナンバープレートってどうすんの?」

みほ「どっちも要りません。お巡りさんに停められたら、免許を提示するだけで大丈夫」

宇津木「どの戦車を使うんですか~」

みほ「あんこうチームのⅣ号にします。私が一番操縦しやすいから」

近藤「Ⅳ号なら、天気がよければ、ハッチを全部開けて…」

みほ「はい。快適に走れると思います」

宇津木「気持ち良さそう~ワクワクしてきました~」

みほ「練習中じゃないから、音楽でもかけながら走りましょう」

宇津木「それなら、私が担当します」

近藤「どうするの?」

宇津木「ポータブルのキーボードを持っていく」

会長「宇津木ちゃんが、万能のジュークボックスになるんだね」

宇津木「ジュークボックスでも、カラオケでも。知らない歌でもすぐに伴奏しますよ」

左衛門佐「そんなことができるのか」

宇津木「即興演奏、即興伴奏、初見は基本ですから」

みほ「宇津木さん、キーボードの電源は?」

宇津木「丸一日くらいだったら内蔵バッテリーで大丈夫です」

みほ「分かりました。じゃあそれを担当してください」

宇津木「喜んで~」

左衛門佐「私は、糧食を担当しよう」

近藤「糧食……お弁当ですか?」

宇津木「左衛門佐先輩が~? 大丈夫ですか~」

左衛門佐「バカにするな。このくらい普通にこなすのが、女の甲斐性というものだ」

宇津木「左衛門佐先輩って、古い女なんですね~」

左衛門佐「そういう場合は“古い”じゃなく“古風な”と言え」

みほ「じゃあ左衛門佐さんには、それをお願いします」

左衛門佐「了解」

近藤「あの、私は何を……」

みほ「近藤さんはナビを担当してください」

近藤「あ。通信手の席に座って、ですね」

みほ「うん。それと、ハッチから頭を出して、目視で周囲の警戒をしてほしいの」

近藤「走るのは、競技のために交通が制限されてる場所じゃないから…」

みほ「ほかの車はもちろん、歩行者や自転車だっている。私も気を付けるけど」

近藤「背の高い私が、いつも周りを見てた方がいいわけですね」

会長「西住ちゃん、私は?」

みほ「会長は、一番大事な役目です」

会長「何だい、それは?」

みほ「常にキューポラから頭を出して、周りに会長の顔が見えるようにしてください」

左衛門佐「なるほど……。うまいやり方だな、隊長」

宇津木「どういうことですか~」

左衛門佐「冷静に考えてみろ。この計画は、微妙な行動といえなくもない」

近藤「あ……それもそうですね。学園の備品を私用で持ち出すなんて」

宇津木「それに、ほかのみんなが知ったら、いろいろ言われちゃうかもしれません~」

近藤「“あの子たちだけ、何やってるの?”って、ね」

左衛門佐「でも、やりたいだろう?」

宇津木「もちろんですよ~」

近藤「こんな機会、滅多にありません」

左衛門佐「だから、会長……生徒会長には、周囲からよく見える場所にいてもらうんだ」

近藤「そうか。この5人以外には、生徒会の活動だって思わせるんですね」

左衛門佐「会長は学園艦の中だけじゃなく、大洗でも顔が売れている」

宇津木「会長が乗ってるなら、この戦車は生徒会の仕事中って、誰もが思いますね~」

近藤「音楽を流しながら公道を走っても、広報や宣伝活動くらいに思われるだけです」

会長「何だよー。私ゃ、公務を偽装するためのお飾りかよー」

左衛門佐「会長、拗ねないでください。これは極めて重要な役割です」

宇津木「この5人以外、戦車道のみんなにさえ、勝手に誤解してもらうんですから~」

左衛門佐「会長が乗っていたことが明白なら、公務だったことを誰一人疑いません」

近藤「隊長。生徒会の活動を偽装できるなら、いっそのこと……」

宇津木「私服でも、いいんじゃないですか~」

みほ「はい。そのつもりです」

宇津木「やった~! 私服で戦車です~!」

左衛門佐「パンツァージャケットや制服以外の格好で戦車に乗るのは、新鮮だな」

近藤「ラフな私服の方が意表をついてて、宣伝活動らしくなりますね」

みほ「通りかかった人に、私たちの写真を撮ってもらいましょう。これで完璧だと思います」

会長「アリバイ作りが、だね? 西住ちゃん」

みほ「もし後で何か問題が起こったら、私が責任を取ります」

会長「そんな必要あるかい?」

みほ「え……どういうことですか?」

会長「西住ちゃん。目の前にいるこの私を、一体誰だと思ってんの?」

宇津木「おお~会長、カッコ良過ぎます~」

近藤「万事、生徒会長に任せとけ、ってことですね」

左衛門佐「後光が差して見えますよ」

みほ「会長……ありがとうございます」

会長「いーってこと。みんなには今回、無理なお願いをしたんだから」

近藤「だから、そんなことありませんって」

左衛門佐「もし、私たちへのお礼だと考えているのなら、そんな必要ありません」

宇津木「そうですよ~。こうして、打ち上げまで開いてもらってるんですから~」

会長「じゃあ、この計画のフォローが、私からの最後のお礼だね」

みほ「でも、会長にそういうことをしてもらうのは、そろそろ終わりにしたいと思います」

左衛門佐「そうだな。会長たちの持つ政治力に、いつまでも頼ることはできない」

みほ「私、これから、いろいろなことを憶えます」

会長「……」

みほ「生徒会の皆さんと同じくらい知恵が回るようになるとは、とても思えませんけど」

会長「何言ってんのさ。もう西住ちゃんは、それをできてるじゃん」

みほ「今回の、この計画ですか? 会長はやっぱり分かってましたか」

会長「とーぜん。これは、私たちがやった方法の応用でしょ?」

みほ「はい。“余計な情報は、必要ない”」

会長「自分たちからは余計な情報を何も与えない。何も語らず、何もコメントしない」

みほ「そして、周りの人たちには全員、こちらに都合のいい誤解をさせたままにしておく」

会長「くっくっく。西住ちゃん」

みほ「何でしょう、会長」

会長「おぬしも、なかなかワルよのう」

みほ「いえいえ、会長にはかないませぬ」

会・み「むっふっふっふ」

左衛門佐「何をやっとるんですかアナタたちは」

会長「何だか西住ちゃんは、一気に逞しくなっちゃったね」

左衛門佐「素早い計画立案、その計画の巧妙さ、メンバーへの矢継ぎ早の指示……」

会長「遊びの計画ではあるけどね。立派になったよ。もう私は、何も心配してない」

左衛門佐「でも逆に、このくらいじゃないと困りますよ」

会長「それは、そのとおりだねえ」

左衛門佐「隊長が元から持っている純粋で素直な性格は、そのままでしょうから」

会長「うん。左衛門佐もそう思うかい?」

左衛門佐「相変わらず、誰かが手を握っていてやらないと、駄目でしょうね」

会長「手?」

左衛門佐「いえ……。とにかく隊長は、競技以外でも風格、貫禄が身に付いてきました」

会長「そーだね。これなら、私ら3年がいつ引退しても大丈夫だねえ」

みほ「会長と左衛門佐さん、二人だけで何話してるんですか?」

左衛門佐「あっ、何でもありません、隊長!」

会長「……左衛門佐、どうして敬語になるの?」

左衛門佐「……何となく」

みほ「じゃあ今度の帰港日! この5人で…」

近藤「普段は走れない、公道上を…」

宇津木「音楽を流しながら…」

左衛門佐「弁当を持って…」

会長「ジャケットでも制服でもなく、自由な私服で…」

みほ「戦車に乗って、お散歩です!」


以上です。

レスをくださった皆さん、ありがとうございました。
こんな、ただ長いだけのようなSSでも読んでくださるかたがたがいると分かり、
励みになりました。

そして、これを読んでくださった全ての皆さんに、お礼を申し上げます。
ありがとうございました。

数日後にhtml化申請をしますが、その際に「なぜ、この5人なのか」ということを
中心に、少し解説のようなものを書いてみたいと思います。

乙でした。

乙~

今、おいついたー、乙
すごく珍しい組み合わせで、みんないきいきしてて楽しかった!

>>1です。

皆さんが既にお気付きのとおり、この5人の組合せには元ネタがあります。
それは、『メガミマガジン』2013年7月号の付録ポスターです。

このポスターが公になった際、描かれたキャラクターの人選について少し話題に
なりました。これは、延べ人数でいうと車長、砲手、通信手がそれぞれ二人ずつ、
操縦手がいないというメンバーです。こうなった理由についていろいろな
推測がなされましたが、私は、その時に出された「最初期の各車から一人ずつ
ではないか」という見解が妥当だと思っています。

人選の理由が何にせよ、ポスターはいわゆる版権絵なので、この組合せは
公式なものです。私は、それならこの5人でSSを一本書いたれ、と思いました。
このポスターにある状況、つまり私服の5人が戦車とともに公道上にいる、という
場面を可能にする物語を考えていったのです。

そこに、バンドという要素を絡めました。学園コメディの定番テーマには、文化祭、
体育祭、修学旅行、卒業式などの学校行事、バレンタインデー、夏祭り、海水浴、
クリスマス、初詣などのいわゆる季節ものに加え、野球、バンド、主要キャラの
退部騒動、些細な誤解をきっかけとした友情崩壊の危機などがあります。今回は、
バンドというテーマを使ってみたのでした。

訂正とお詫びを申し上げます。
第4章において宇津木ちゃんの名前を3か所、「優希」と誤表記しています。
正しくは「優季」です。申し訳ありませんでした。特に宇津木ちゃんファンの皆様に、
深くお詫びを申し上げます。これを読んでくださった数少ないかたがたの中にいるか
どうかは分かりませんが。

最後にもう一度、これを読んでくださった全てのかたがたにお礼を申し上げます。
ありがとうございました。

今更だが乙!

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年03月22日 (火) 00:11:45   ID: DE7Ae0Q1

相当面白い

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