ペトラ 「父さん、私、調査兵団に入る!」 (67)
親愛なるペトラに捧げます。
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あの日、私は父の手伝いで、生まれて初めて壁の上に上りました。
そこから見た外の世界はとてもとても広くて、草も木も青々としていて、
遠く広がった空には雲がかかっていて、その隙間からお日様の光が、
白く輝く道のように何本も伸びていました。
あんまり神々しくて私は胸を締め付けられるようで、
その光の道を上から下までたどってみたのでした。
そこには、人を食べる恐ろしい化け物がいました。
化け物の前には馬にのった人がいて、必死でこちらに向かって走っていました。
その人は何か叫んでいるかのように大きく口をあけていました。
「追いつかれちゃう・・・父さん!あの人、追いつかれちゃうよ!」
「・・ペトラ、見てはダメだ、早くこっちに来なさい」
「だって!このままじゃあの人、食べられちゃうよ!」
父さんやまわりの兵隊さんにどんなに必死に訴えても、みんな諦めたような顔で
何もしてくれない。
「誰かあの人を助けてあげてよーーー!!!」
無理やり父さんに連れられようとしながら、それでも泣き叫んで助けを求めたそのとき。
遠い雲から伸びた白い光の道の、上の方から突然あらわれたその人は、手に持った2本の輝く刀で、
大きな恐ろしい化け物をたったの一撃でやっつけたのです。
白い光に照らされて、刀を払いながら、倒れた化け物を踏みつけ見下ろしていたその人を、
その光景を、ひとめ見た瞬間に、私の心臓はもう永遠に奪われていたのでした。
「・・・父さん・・・・・あの人はだあれ?」
「ああ・・・すごいな・・・。あれは調査兵団の人だよ。巨人をやっつけてくれるんだ。 」
同じように見入っていた兵隊さん達の話に、私は必至で耳をすませました。
「オイ、あれは誰だ? 単独で一撃だったぞ! 」
「ほら、あれだよ、エルヴィンが拾ってきた逸材、期待の新人ってやつ。」
「え? そいつ今日初陣だっただろ! ありえねぇよ・・・」
「名前なんつったかな・・・ そうだ、リヴァイだ!」
調査兵団の、リヴァイ、さん。
「・・・・父さん、私、決めた。 調査兵団に入る。 」
_________
「ダメだと言ったらダメだ!」
「どうして父さん!私もう15才よ、自分のことは自分で決めたいの!」
「ペトラ・・・父さんは武器職人だ。いままで何度も壁に上って、
何人もの人が巨人に食い殺されるのを見てきている。
確かお前が10才の時・・・一度だけ壁の上に連れて行った時に見ただろう、あの化け物を。
人間のかなう相手じゃないんだ。ましてやお前のようにか弱い女が・・・」
「調査兵団には女性だっているわ! 誰かがやらなければ何も変わらないのよ。
父さんが、戦うことを・・武器職人になることを選んだように、
私はそれを使って戦う道を選びたいの!」
「壁があるからたいして役にもたたないって陰口をきく人もいたのに、
巨人を倒すことをあきらめない父さんは、ずっとずっと私の誇りだった。
私は父さんの血をひいてるのよ、ダメだなんていわないで、お願い 」
言葉につまり、かすかに苦笑いを浮かべた父は、諦めたように言いました。
「・・・本当に俺に似て頑固だな。 ・・・では条件付きだ。
これからお前は訓練兵団に入団する。 そこで上位10人に選ばれたなら、
それ以上俺は何も言わない。 それでどうだ?」
「上位10人って、憲兵団になれってこと?! それじゃ約束とちが・・・・」
「違う違う。上位10人に入ればすべての兵団を選べるというだけだ。
お前がその時になっても調査兵団に入りたいのなら、選べばいい。
・・・もちろん俺は憲兵団を選んでほしいがね 」
「ほんとに? いいの?! ありがとう!私、がんばるから! ありがとう父さん!!!」
しぶしぶといった調子で、でも温かい目で私を見ながら、そう言ってくれた父に、
私は飛びついて、力いっぱい抱きしめました。
「教官には思い切り厳しくしてもらうように頼んでおくからな、覚悟しておけよ 」
「望むところよ。 ぜったい1番になってみせるから! 」
そして私は訓練兵団に入団したのでした。
__________
父さんの言葉通り、教官はおそろしく厳しく、訓練も過酷だった。
小さなケガなら日常茶飯事で、時にはもう戦うこともかなわないほどの大怪我を負う人もいた。
身体と精神への暴力に耐えきれず逃げ出す人も後をたたなかった。
肉体の疲弊よりも、精神的な暴力がことさら堪えた。
さすがの私も何度か挫折しそうになって、父さんに手紙を弱音の手紙をかいたものだった。
すぐ帰ってこい!と言うかと思った父さんは、こんな返事をくれた。
「教官は厳しいだろう、訓練も辛いものだろう。だがなぜなのか、考えてごらん。
お前たちはこれから巨人と戦わなければならない。
調査兵団は一度の調査で半数以上が死ぬ。
あんなにたくさん訓練して、あんなに強くなったのに。
なぜだかわかるかい? 恐怖で、怯えで、動けなくなってしまうんだ。殆どはそれで死ぬ。
見つけた力を存分に発揮するためには、身体だけでなく心も強くならなければならないんだよ。
教官はそれを直接教えようとしてくれているんだよ・・・お前たちを死なせないためにね。」
「あの日みたあの人のように、巨人を倒したいんだろう? だったらもっともっと強くなれ。
強くなったお前をみて、あの日のお前のように、また誰かがまたに続くんだよ 」
おっとアホなミス。 徹夜明けはダメだな
>強くなったお前をみて、あの日のお前のように、また誰かがあとに続くんだよ 」
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あまりに過酷な日々で、すっかり忘れてしまっていた、あの日の光景。
あの人は、リヴァイさんは、いま調査委兵団の兵団長になっていて、
兵団員が話していたように恐ろしく強いらしい。人類最強、という噂だ。
私の目指す人、目標。いったいどんな人なんだろう?
教官なんかよりもずっと厳しいんだろうな。
あの人が巨人を倒すところを間近で見たい。
一緒に戦えたら、どんなに心強いだろう。
もっともっと練習して強くならなくちゃ。
「父さん、私がんばるよ。ありがとう 」
短すぎる手紙だけど、父さんならきっと私の決意をわかってくれるだろう。
ダメだな・・・眠くて頭がまわらん・・・人狼やりすぎたww
>調査兵団の兵士長
それからの私は死にもの狂いで訓練に臨んだ。
誰よりも早く、誰よりも高く飛ぼうとして。
あの日見た、まるで羽が生えているかのように跳躍していたリヴァイさんのように。
教官の罵詈雑言も、もう怖くなんかなかった。
10番以内じゃあの人とは並んで戦えない。 一番にならなきゃ。
ひたすら前へ、前へ。
私はあの人に会いたいのだろうか?それとも巨人を倒したいのだろうか?
もうよくわからない。
「父さん、ただいま。」
「おかえり、ペトラ。疲れただろう? まずは食事をして、ゆっくり休んで・・・」
「・・・父さん。 まず先にお礼と・・・報告したいの・・・。 」
「・・・お礼って何を。」
「いつも励ましてくれて本当にありがとう。 ・・・主席をとりました。」
「・・・そうか。」
「私、調査兵団に、入ります。」
「・・・約束だからな。 ・・・おめでとう。 主席とはね。さすがは俺の娘だ 」
後ろを向いて、食事の支度をする父。 少し震えているように見えるのは気のせいじゃない。
「父さん・・・ごめん。 でもね、私、絶対に死なないから。 約束するから。」
「お前は何度も約束を守らなかったじゃないか。」
父は泣き笑いのような顔で言った。
「頼んだ買い物も忘れるし、手伝う約束だって何度も友達と遊んでてすっぽかすし・・・」
「・・・ごめんなさい 」
「でも、本当に大切な約束はいつもちゃんと守っていたからな。 ・・・約束だ。絶対に死ぬな。
・・・それから、たくさん巨人を倒してくるんだぞ。」
「はい、約束します・・・」
ふたりで少しだけ泣いて、それから食事をした。
父のつくった食事はとても、とてもおいしかった。
続きwktk
あげ
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「第100期生 ペトラ・ラル、調査兵団への入団を希望します!」
周囲がざわめく。
女の身でせっかく主席で卒業したのになぜわざわざ調査兵団へ入るのか、ということだろう。
なぜ、だって? 笑ってしまう。 何のために3年間も過酷な訓練を積んできたと思ってる?
何のために巨人殺しの技術を学び、巨人を恐れない鋼の精神を培ってきたと思ってる?
自分よりも弱いものに巨人を狩らせ、自分だけは安全な壁の中でのうのうと暮らすためじゃない。
こちらが聞きたいくらいだった、なぜ強い者が戦おうとしないのか、と。
とはいえ毎年こんなものだとは聞いていた。
きっと私以外の上位10名の相当数が、憲兵団を希望するのだろう。
養うべき家族がいる者だっているはずだから、仕方ない。
戦えるものが戦えばいいだけだ。
「オレオ・ボサド、同じく調査兵団を希望します!」
・・・訓練兵団2位卒業者のオレオ。
「バルド・アモン、同じく調査兵団希望です!」
・・・訓練兵団3位卒業者のバルド。
「ディータ・ライフ、同じく調査兵団希望です!」
・・・訓練兵団4位卒業者のディータ。
私と同じ意思と希望を持っている、数少ない信頼できる同期。
3年間、互いに励まし合い、時に喧嘩しながらも、同じ目標を目指してきた。
たった3年の付き合いだというのに、まるで昔馴染みのような、気の置けない仲間だ。
ちら、と顔を見合わせ笑い合う。
教官が片眉をあげる。 言葉で褒めることのない教官の、滅多に見せない称賛の表情だ。
「・・・・上位4名が志願か。ちょっとは骨のある奴らが集まってたみたいだな。
まあ死ぬまでに大勢ぶっ殺してこいよ。 」
ぶっきらぼうな言葉に隠れて、死ぬなよ、という声が聞こえた気がした。
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明日、いよいよ調査兵団の宿舎へ移動となる。
調査兵団に入ればそうそう娯楽などはないだろう。
最後の夜ということで、気の合う仲間と誘い合わせて馴染みの店に行く。
店の主人がお祝いに、と振る舞ってくれた果実酒や貴重な干し肉で最高に盛り上がった。
「これうっめぇーーー!!! オイ、ペトラ~、オレにもついでくれよ~!」
「もう、オレオ飲みすぎ食べ過ぎだよ~、でもまあおいしいからしかたないかっ!(笑)」
「ちょ、ペトラ、こぼれてるこぼれてる!!! もったいねぇ!オレオ啜れ! 」
「ん~? オレはなぁ~、調査兵団にはいったら~リヴァイ兵士長のとなりでなぁ~、
巨人だろ~が奇行種だろ~が何でもかんでもこの腕でころしまく・・・ガフっ 」
「!!!!オレオが舌噛んだ!ペトラ、雑巾もってこい!!」
「うわっ! ちょっと大丈夫?!飲みすぎるからだよぉ、仕方ないなあオレオは(笑)」
若干1名のけが人を出しながらも私たちは大いに食べ、飲み、盛り上がった。
そのうちに酒も無くなり、少しずつ酔いがさめるにつれ、みんな静かに語り始める。
「・・・・これでやっと巨人が削げるな。 」
「そうね。 長かった。 」
「入団式にはリヴァイ兵士長もくるのかな? 」
「分隊長、兵士長は全員参加だそうだ 」
「間近で見れるなんて、わくわくするなあ・・・」
「お前、動機が不純だぞ・・・ ・」
「いいじゃない、最強の兵士だよ? 人類の希望だよ? 役得だよ・・・ 」
「ああ、早く一緒に戦ってみてえ・・・ 何か負ける気がしねえよ! 」
「・・・私もだよ・・・。」
「俺たちで巨人を絶滅させて、最高に上手い酒を飲もう。」
改めて誓いをたてる。 またきっと、このメンバーで、存分に飲みかあそうと。
翌日の入団式。 残念ながらリヴァイ兵士長は姿を見せることはなかったが、
幼いころからの念願だった調査兵団への入団に心が躍るのを抑えられない。
心臓を捧げながら、エルヴィン団長の力強いスピーチに包まれ、改めて思う。
ようやく、あの人と同じ道のスタートラインにたつことができたんだ、と。
その時の私は、巨人への恐怖など微塵もなく、ただただ高翌揚感だけがあった。
自分もあの人のように空を舞い、あの人のように巨人を倒せると思っていた。
そして私は、それが 酷い思い上がりだったと、その後すぐに思い知ることになる。
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リヴァイ兵長にはなかなか会うことはかなわなかった。
兵士長なのだ、そうそう出歩いたり、私たちのような下っ端とともに行動することもないから
当たり前といえばそうなのだけれど。
ただ遠目に見たり、噂をきいたりして、少しずつリヴァイ兵長のことを知ることはできた。
思っていたよりもずっと小柄で、着やせするのか、華奢といって良いほど細身であること。
度を越した、と言われるほどの綺麗好きであること。
無愛想でぶっきらぼうで、とても口が悪いこと。
ものすごく強いこと。
・・・・・そして、とても仲間や部下や思いであること。
分隊長のハンジさんから、君もリヴァイに憧れて入ってきたの?と聞かれ、即座にうなずく。
色んな噂きいたよね?幻滅しなかった?と重ねて尋ねられる。
とんでもない。 私も下町の武器商人の娘、荒っぽいのは慣れてるし、
ぶっきらぼうは裏表がない証拠、強くて優しい人が多いことを知ってる。
そしてここが重要、私はリヴァイ兵長に負けず劣らず綺麗好きなのだ。
ますます好きになりました!と大きな声で力説し、我に返って赤面した私を
ハンジさんはやさしい目で見て言った。
そうか、それは良かった。 じゃあ、死なないで。
リヴァイは強いから、残された思いを全部背負おうとするんだ。
彼はチビだろう?
だからいつかその重さにつぶされてしまわないか、私はちょいと心配してるんだよ。
本気か冗談か、メガネに隠された瞳からは読み取れなかったけれど。
一緒に戦える日がくるなら、足手まといにだけはなりたくない、と思った私は、
この時はまだハンジさんの言っていることがあまり理解できていなかったのだろう。
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ついに初陣の日が決まった。
私はバルドと同じ班、オルトとディータが同じ班だった。
同じ班に初心者があまり固まると危険なのだろう、かといって一人では心細い。
バルドがいてくれて本当はすこしほっとしていたし、皆同じだっただろう。
そして前日、私たち訓練兵上がりは、初めてリヴァイ兵長に話しかけられたのだった。
夕食を済ませて自室に戻る通路を4人で歩いていた。
緊張と興奮であまり食事が喉を通らず、皆口数が少なかったのを覚えている。
怯えきっていたわけではない、高翌揚している部分も確かにあったのだ。
そんな私たちの前にいきなり姿を見せたリヴァイ兵長は、前置きもなにもなく話しかけてきた。
「オイ、お前ら100期生のガキどもか? ほぅ、上位4名の奴等か、怯えはないな、悪くない。
明日の壁外調査だが、死なないことが最優先事項だ。それを絶対に忘れるんじゃねえぞ。
あとは決められた手順を守れ。 初陣だ、それだけでいい。 」
確かに小柄なのだろうが、それを感じさせないほど圧倒的なオーラに萎縮してしまう。
「・・・わかったのか?」と念を押され、心臓を捧げる敬礼をして、はい、と返すのがせいいっぱいだった。
それを確認すると、リヴァイ兵長はきびすを返し、足早に去って行った。
今思えば、初陣を控えて緊張し、恐怖しているであろう新人兵を安心させるために
わざわざ声をかけてくれたのだろう。
あとで、ほかの同期のところにも来てくれていたということを聞いた。
部下思いというのは本当なのだと、私はリヴァイ兵長をますます好きになった。
********
初めての壁外調査を終えた。
私の目の前で、バルドは化け物に貪り食われた。
私は何もできなかった。
私は無力だった。
私は無能だった。
私は役立たずだった。
私は足手まといだった。
私は弱かった。
私が[ピーーー]ばよかった。
私が[ピーーー]ばよかった。
私が
乙 そりゃ漏らすわな
今更だがオレオじゃなくてオルオじゃなかったか?
オルオだね 言われるまで気づかんかったw
うぉっ、書き溜めてるメモも全部オレオになってる・・・
読み返すとすごい誤字脱字文書間違いの嵐で恥ずかしすぎる
一度冥界に送って上げ直した方が良いんだろうか・・・
とりあえず続きを投下
『・・・・あとは、たのんだぞ・・・!』
巨人に握りしめられながら絞り出した、掠れた声が耳から離れない。
なぜか安らかな、穏やかな笑顔が目に焼き付いて離れない。
おそらくは全身の骨や内臓を潰される激痛のさなかだっただろうに。
逃げるどころか動くこともできずに吸いついたように視線をはずせない私に笑顔を見せると、
彼は、化け物のこぶしから逃れた片方の手に握られていた刀で、自分の喉を掻っ切った。
巨人に食われる苦しみや恐怖から逃れたかったんじゃない。
”生きたまま”巨人に食われる姿を私に見せないようにするためだ。
視線は彼の姿が巨人の中に消える最後まで外せなかった。
目から、鼻から、口から、ダラダラと塩辛い恐怖が垂れ流される。
場違いなほどに優しい温かさが下半身を一瞬つつみ、すぐに氷にかわる。
私は、自分のあらゆる体液にまみれて、汚らしく、みじめに、無力に、そこにいただけだった。
・・・・たのんだぞ・・・・・・
私は、何を、頼まれた? 私は、何を、背負った? 私は、何を、すればいい?
だめだ、無理だ、私には重すぎる。 重くて重くて押しつぶされてしまう
******************
時間の経過を感じない。
かろうじて、必要最小限以下の日常をこなしているだけだった。
たまに誰かが訪ねてきたような気がしたがほとんど記憶にない。
私の記憶の中で、バルドは何度も何度も首を掻っ切り、何度も何度も貪り食われた。
何度も何度も食われるバルドの体と一緒に、私の心も少しずつ、でも確実に、
何度も何度も食われていった。
私は日に日に、心を失い続けていった。
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私の心も残り少なくなったある日。
部屋のドアがノックされた。 誰だろう、と考えるまもなく、誰かが入ってくる。
「オイ・・・綺麗好きが聞いてあきれるな・・・ 」
密かな怒りをにじませた、低い声。
・・・・・リヴァイ兵長・・・・?
「あ・・・・・申し訳ありません・・・・・」
身についた条件反射で起き上がり、身を正す。
リヴァイ兵長を目の前にしても、何も感じない自分は、
何か大切なものを失ったのだとぼんやりと思った。
私の表情を見て、リヴァイ兵長は何かを言いかけてやめると、
私に団服に着替えて出かける用意をするよう命じた。
「・・・まだ歩くくらいはできんだろうな? ちょっとついて来い 」
私はよくわからないまま、考える気力もないまま、操り人形のように動いた。
下に降りるとリヴァイ兵長の馬が用意されていて、2機の立体起動装置が積んであった。
リヴァイ兵長は慣れた手つきで手早く立体起動を装着すると、もうひとつを私に渡す。
「お前も立体起動を装着しろ。 ・・・着け方は覚えてるんだろうな? 」
「・・・・はい 」
なぜ立体起動が必要なのか、どこへ向かい何をするつもりなのか、まったくわからないまま、
この期に及んで尚、私は考えることを拒否して言われるがままに従った。
「もうすぐ日が落ちる。急ぐからしっかりつかまってろ。 」
馬の背に乗った私にリヴァイ兵長はそういうと、壁の方へと向けて馬を走らせた。
着くなり、壁を登る。 何日も訓練もせずろくに動いていなかった私は
息を切らせながらやっとのことで登りきる。
日はまだあるが、あと数十分もすれば沈むだろう。
綺麗な朱色と青と黒に染まった空が広がっている。
下を見下ろせば、10体ほどの巨人が無意味に壁をかきむしっている。
ぼんやりとそれを眺めていた私に、リヴァイ兵長が呼びかけた。
「巨人が、怖いか? 」
・・・怖いか? 見ても何も感じることはない。初陣の時でさえ、
緊張はしたが怖いとか恐怖心はなかったように思う。
「・・・巨人は怖くありません 」
正直に答える。
「そうか。 ・・・お前、30メートル地点まで立体起動で下りれるか? 」
「はい。 」
訓練で何度もやったことがある。
誰が一番早く下まで下りれるか、よく競争したものだった・・・・4人で。
「いくぞ 」
それ以上考える暇をあたえずにリヴァイ兵長が飛び降り、それを追って
私も壁から落下する。
一瞬、このまま下まで落ちようか、と考えるが、意に反して体は勝手に
アンカーを射出し、指定された地点で停止する。
「そこで、見てろ 」
短く言うなり、リヴァイ兵長が更に落下した。
おそらく最適な位置に正確にアンカーを打ち込み、私の目では追い切れない速度で
一番近くにいた巨人を一瞬で削ぎ、返す軌道で横にいた巨人を削ぐ。
初めてみた、見たくてたまらなかったリヴァイ兵長の立体起動だった。
あの日と同じように早く、鮮やかで、心を失っていてさえみとれるほどの。
一瞬も停止することなく、少し離れた場所にいる巨人に直接アンカーを打ち込み、
空中で鋭く回転して瞬時に削ぎ、次の瞬間また別の巨人が倒れていく。
巨人の血に塗れることを意にも介さず、リヴァイ兵長は私に見せ続ける、巨人退治を。
私はいつしか倒される巨人に、バルドを食い殺した巨人を重ね合わせていた。
圧倒的な強さで、何度も何度も何度も倒される巨人。 飛び散る血と肉片。
バルドを繰り返しむさぼる幻の巨人の数だけ、巨人が退治されていく。
飛び散る肉片は、巨人に食われた私の心のようだ。
巨人が倒されるたび、舞い上がる肉片とともに、私の心も戻ってくる気がした。
少しずつ記憶が、感情が、鮮明になる。 セピア色だった世界が色づいていく。
リヴァイ兵長が残り少なくなった巨人の1体を削いだとき、すぐ後ろから小型の巨人が
迫るのが見えた。 手を伸ばす巨人に背を向けたリヴァイ兵長の姿にバルドが重なる。
巨人に噛み砕かれる寸前のバルドの姿が。
「・・・・!!!!」
リヴァイ兵長はきっと気づいていただろう、そして自分で十分対応できただろう。
でも、体が勝手に動いた。 もう殺させない。 もう死なせない。
私はアンカーを抜いて一気に落下しながら再度アンカーを射出し、
大きく円をかいて勢いをつけ、自分にできる限りの最速で、最大限の力を込めて、
巨人の項を深く切り裂いた。 どぅっ と倒れる巨人。
振り向いたリヴァイ兵長の顔に、エルドの最後の笑顔が重なり、
・・・・もう、大丈夫だな? ・・・
最後にきいた掠れた声ではなく、いつもの、穏やかな声で、確かに聞こえた。
「・・・やればできるじゃねえか 」
あのときリヴァイ兵長が笑っていたのかどうかは、いまもわからない。
なぜなら、私は次の瞬間、目をぎゅっと閉じて、大声をあげて、子供のように泣きじゃくっていたから。
いつのまにか日は落ち、結局20体以上集まっていた巨人たちは一匹残らず倒れていた。
白く光る月が上り、私がやっと泣き止んで、脱力し座り込むまで、
リヴァイ兵長は黙って待っていてくれた。
気が付くと私は馬の背に乗り、ゆっくりした速度で揺られていた。
「気分はどうだ?」
前を向いたまま、我に返った気配に気づいたらしい兵長が問うてくる。
月明かりに照らされた夜の道に、低く穏やかに響く声がとても心地よかった。
「・・・はい、もう大丈夫です。・・・あの、ありがとうございました 」
「お前が怖いものは何だ? 」
唐突に尋ねられる。
私が怖いもの。 それは人間が食べられるという、その事実そのものだ。
相手の苦しみや痛みにかまうことなく、ただがむしゃらに人間をかみ砕く、
その行為がとても恐ろしいのだ。
うまく言えない思いを伝えようと、一生懸命説明する。
「父さんは武器職人で、いろいろな本を読んでいて、きかせてくれました。
昔は人間同士で戦い、残酷に殺しあっていたと。 それは広い土地や、
食べ物やなんかを、より多く手に入れるためのものだったと。
人がむごたらしく死ぬのは同じなんですけど、何というか、違うんです。
これなら、”わかる”んです・・・。 でも、巨人が人間を食べるのは、
何というか、違う、と思うんです・・・ 」
「・・・そうだな。 やつらには目的や理由が無い。 腹が減っているわけでもなく、
俺たちを憎んでいるわけでもなく、殺しを楽しんでいるわけでもない。
ただ相手の苦しみなんざおかまいなしに食うだけだ。
要するに・・・奴等には”心”がねえんだ。 」
そうだ。 巨人たちの行動を、私たちは全く理解できないのだ。
だから、怖い。
「俺たちも肉は食うから、生きもんを殺してる。 だが[ピーーー]ときには
なるべく苦しまねえよう、一思いに殺してやるだろう。
俺は知っての通り地下街出身だ。 あそこでは殺しは日常茶飯事だが、
それでもやっぱり目的はあった、金、女、メンツ、あとは異常っちゃ異常だが
[ピーーー]ことそのものに快楽を見出す奴。
共感はできねえが、行動原理を理解することはできるだろう。
巨人どもにはそれが全くない、だから人は奴らを恐れるんだろう。 」
無口な人だときいていたが、兵長は穏やかな声で話し続ける。
「これは持論だがな、恐怖を知ることは大事なことだ。
恐怖心がなければ舐めてかかり、いずれヘマをする。
適度な恐怖心と、それを制圧できるだけの精神力と戦意、あとは当たり前だが技術。
これがあれば、しばらくは生き延びられるだろう・・・ 」
珍しく饒舌な兵長に、勇気を出しておそるおそるきいてみる。
「・・・兵長は、やっぱり怖いんですか? 」
「当たり前だろうが。 奴らのきたねぇ手で触られるってだけでも気持ち悪いのに
その後さらにクソくっせぇ口の中で腐った唾液まみれにされるなんざ、
考えただけでゾッとするじゃねえか・・・ ・」
リヴァイ兵長が身震いするのがわかり、何だか少しおかしくなる。
「・・兵長、それって怖いっていうのとはちょっと違う気がします・・・ 」
「あぁ? 何も違わねえだろ・・・お前は奴の涎塗れんなっても平気なのか? あ? 」
「いえ、それはさすがに嫌ですけど・・・・・ 」
「だろう? 奴らのヨダレにくらべりゃてめぇのしょんべんなんざ綺麗なもんだからな、
こないだ漏らしたことなんか気にするな・・・ 」
からかうような口調にドキリとしかけて、言われた内容を理解して唖然とする。
「へ、兵長~!!! 」
失禁してしまったのは覚えているけれど、なぜ兵長が知っているんだろう・・・
もしかして兵団中に広まってしまっているとか?!
ひとりで赤くなったり青くなったりを繰り返しているうち、宿舎に到着した。
「明日からはまた訓練が始まるからな。 体洗ってゆっくり休め。
体中から奴らの血の匂いがしやがる、全く気持ち悪い・・ ・」
あわてて馬から降りて、心臓を捧げる。
「はい、明日からまた、宜しくお願い致します! 」
兵長はうなずいて厩に向いかけ、思い出したように振り向いて言った。
「・・・言い忘れていたが、お前の巨人殺しは悪くなかった・・・ 」
また心臓がどきりとする。 若干の痛みを伴って。 これは何だろう?
兵長は改めて敬礼した私を一瞥すると、あとは振り向くことなく、夜の中に消えていった。
翌朝。
おなかがすいて、目が覚めた。
食欲を感じるなんて、いつ以来だろうか。
そして何より、体が軽い。
昨日、わんわん泣いている私に、兵長がかけてくれた言葉。
『お前の友達の想いは、いまは俺が預かっておく 。
お前が背負えるようになったときに返してやる。 』
彼の想いは、人類最強がしっかり受け止めてくれたのだ。
それはつまり、彼の魂が人類最強とともに戦うことに他ならない。
それは私の心を随分と軽くしてくれたのだけど、同時に、
ハンジさんの言葉がよみがえり、心が痛みもした。
『いつかつぶされちゃうんじゃないかと思ってね』
だけど今は私にできることをする。 もっと強くなる。
その後で、兵長の背負っているものを一緒に背負えるようになれればいい。
手早く身支度をすませて、食堂に向う。
たぶん、私の発する何かが変わったのだろう、同期や先輩たちが声をかけてくれる。
随分心配させてしまっていたのだな、と、申し訳ない気持ちになる。
適当な席につくと、誰かが正面に座った。オルオとディータだった。
「よう、ペトラ。 もう大丈夫なのか? 」 とオルオ。
「ああ・・心配かけてごめん。 もう、大丈夫。 」
そう答えてふたりの顔を見上げたとき、彼らも何か大きなものを乗り越えたのがわかった。
「ふたりの班は・・・・どうだったの? 」
「俺たちの班は、奇行種の襲撃を受けたんだ。
新兵を含む班は比較的安全な中心部に配置されていたはずだが、
奇行種ってやつはどうやらはじっこより真ん中が好きらしくてな。 」
ディータが乾いた笑いをもらす。
「みんな、俺たち新米を逃がそうとして・・・・リヴァイ兵長が来てくれなければ
俺たちも危なかっただろうな・・・ 」
「あの人はほんとにすげえ。 俺はあらためて思ったんだ。 あの人みたいになりてえってな。
・・・強くなって、俺たちを護って喰われていった先輩達の分まで、巨人を倒すんだってな 」
いつものちょっとおちゃらけたオルオとは違う、初めてみるような真剣な表情。
握りしめた拳がわずかに震えている。
「・・・ペトラ、何か気づかないか? 」
ディータが場の空気を和ますかのように言う。
「・・・え? 何のこと? 」
「オルオみて、何か気づかないか? 」
改めて見る、が、特に何か変わったことは・・ああそういえば髪を切ったのかな?
うーん、でもそんなこと別に普通だし・・・・
「・・・・わかるよ、ペトラ。 俺もオルオに言われるまでわからなかったからな
・・・・あまりに共通点がなさ過ぎてさ 」
「クソが。 どっからどうみてもリヴァイ兵長と同じじゃねえか。 どこに目えつけてやがる 」
・・・・!!ああ。 確かに、サイド残して下を刈り上げ、前髪を分けて額にたらす・・・・
リヴァイ兵長もそんな髪型だった。
でも・・・・・でも・・・・・!
「ちがーーーう!!! ちょっとやめてよオルオ!・・・いや、まさかと思うけど
そのしゃべり方とかももしかして・・・・? 」
「何のことだペトラ? 俺は元々こういう喋りかただが? 」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
ディータと顔を見合わせ、吹き出す。
「な、なんだよてめえら! 」
「まあ、そういうことにしといてやるよ 」
「私はみなかったことにしといてあげるよ 」
久しぶりに笑った。 目じりに涙がにじんだ。
目の前でつかみあってるふたりの顔にも、どこか安心したような色が見えた。
・・・・ありがとう。ふたりとも。 願わくば、これからもずっと。
それから私たちは、今まで以上に訓練に励んだ。
配属されてすぐに初陣だったのは結果的には良かったのかもしれない。
私たちは恐怖を知り、自分たちの実力と限界を知り、より効率的で最大限安全に
巨人を倒すための方法を考察した。
調査兵団ではとかく「討伐数」が重視されがちだ。
もちろん基本的には連携をとるが、チャンスと見れば皆が項を目指す。
その結果として、巨人の気を引き付ける攻撃がおざなりなものとなり、
本来の攻撃が失敗することが多々あった。
だから私たちは、徹底してその役割を厳守することにした。
個人の討伐数が大事なのではなく、より多くを討伐することが最優先なのだから。
あれから宣言通り、オルオはみるみる実力をつけていった。
もともと上位2位の技術に加え、覚悟と明確な目標と、
何より最適な手本の存在を得たのが功を奏したのだろう。
私とディータで巨人の足止めをする。
足の腱を切る、目をつぶす。
ふたりが同時に行えば、一撃でほぼ無力化できる。
その後で、オルオが項を削ぎ落すのだ。
元々気の合う仲間同士だったこともあり、同じ顔を見合すだけで
相手の考えがわかった。
技術レベルもほぼ同等だった私たちは、壁外調査のたびに
チームとしての討伐数を伸ばしていった。
これがペトラの補佐数とオルオの討伐数の秘訣か
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父さん、元気ですか。
父さんに一番に知らせたくて手紙をかいてます。
私は明日から、特別捜査班に入ることになりました。
少数精鋭の、リヴァイ兵士長の直属です。
メンバーはリヴァイ兵士長自ら選抜したんだそうです。
認めてもらえたって考えるのは図々しいかな?
でも本当に嬉しい。やっと本当に夢が叶ったのだから。
みんなみんな、父さんのおかげです。
ありがとう。
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調査兵団への入団から4年、私は何回かの壁外調査を生き抜いて、
念願だったリヴァイ兵長の直属の部下となった。
いまやすっかり兵長の真似が板についたオルオも一緒だ。
(…もちろん、お世辞にも似ているとは言い難いが)
これは言っておかなくてはならないだろう…
ディータは死んだ。
トロスト区の壁が破られ、多数の巨人の対応に追われたあの日。
街の至る所に巨人が溢れ、いかにチーム討伐数を誇ろうとも精鋭は分散しなくてはならず、
私たちはそれぞれ同僚や後輩を率いて離れた場所で対応に当たっていた。
指示をしながら単独で巨人を削ぎ、時に危ういチームを補佐していた兵長が、
壊滅に近いチームに気づき、私に増援を指示していち早く向かっていった。
私は自身のチームに指示を残し、能力の高い2名を連れ急いで現場に向かった。
現場には三体の巨人と、今まさに倒された巨人一体。
一面に倒れ伏した、血にまみれた私の同僚達。
激しい怒りに体が熱くなる。
どれを削げばいい?と指示を待つ私に、兵長はひとりの兵士の介抱を命じた。
残りの兵士たちに1体を任せ、残りの2体に向かう。
「兵長?!」
先に巨人の活動を停止させるべきでは?と疑問に思いながらも
先ほど倒されたばかりの巨人の近くに横たわる兵士に近寄った。
それは腹を食い破られたディータだった。
一目で彼が助からないことがわかった。
兵長が最後の別れをさせようとしてくれたであろうことも。
それでも私は必死で声をかけ、溢れ出す血を少しでも止めようとした。
気づくと兵長が隣にいた。
「血が…止まりません」
やっとのことで伝えた。
兵長は黙って膝をつき、差しのべられた手を握りしめた。
ティーダは最後の力を振り絞り自身の存在意義を問い、
兵長の言葉に安心したように、眠りについた。
その顔はいつかのバルドと同じ、自分の死が無駄ではないと、
心から信じた故の安らかな表情だった。
自分を、仲間を信じること、それは生きるものとっても
死にゆくものにとっても、救いだった。
リヴァイ班は通称であり正式名称は調査兵団特別作戦班という。
リヴァイ兵長自ら選抜した少数精鋭で構成されている。
このメンバーに選ばれたことは私の誇りだ。
メンバーは私とオルオ、エルド、グンタ、リヴァイ兵長、あとは例の巨人少年、エレンだ。
エルド、グンタは年こそ上だが長年共に戦い良く見知った戦友であり、
チームワークに問題は全く無かった。
私達の任務はエレンの監視、巨人化能力の解析、そして
人類の兵器足りえるのかを評価するための実験に立ち合い、
何か問題が発生した際には速やかに収束させることだった。
いつ巨人に変身するかわからない少年。
通常種と比較して桁違いの戦闘力を持つ彼が暴走すれば
兵長以外に対応は不可能だった。
私たちはその際のサポートを担うのだ。
兵長は彼を化け物だと言う。
決して飼い慣らしたり従わせることは出来ないと。
そうだろうか?
芯の強さを感じさせる目をしているが、素直で礼儀正しい少年は
とても化け物には見えなかった。
そして彼は巨人化して暴走しても人を食べないという。
ならば、分かり合えるのではないか。
仲間を信じることを知ってもらえれば頼もしい味方になりえるのではないか。
私はそんな風に考え、彼を安心させることに勤め、日々接した。
彼も少しずつ、心を許してくれているように感じていた。
振り返ってみれば、奇妙に安らいだ日々だった。
孤立した古城での、隔離された生活ではあったが、
もともと気の置けないメンバーで構成されたチームだ。
食事は私が担当させてもらった。
母を早くに亡くした私は、幼いころから家事一般をひとりで切り盛りしてきたのだ。
限られた食材でいかにおいしく飽きさせない料理をつくるか、
私はけっこう楽しんでいたと思う。
・・・その熱意はほぼ9割、リヴァイ兵長に向けられていたのは潔く認めよう。
兵長への思い。
幼いころや入団直後の時の憧れ、尊敬、敬愛とは違うのを、私は自覚していた。
かといって甘いだけのものでもなく。
うまく説明できないが。
一度、エレンと話した時、ミカサという幼馴染の少女の話がでてきたことがある。
彼が話してくれた彼女のさまざまなエピソードをきくにつれ、
自分の兵長に向けた想いに似ているような気がして、親近感を覚えたものだ。
私は、おそらくミカサという少女も、相手に全てを捧げているのだ。
心も、心臓も、肉体も、自身の持つものすべてを。
そして、それを相手に伝えるつもりがないことも、同じだった。
兵長の「悪くない」が 好きだった。
実は何種類かの意味を持つ、”悪くない ”。
まあまあ、まあ良い、良い。
だんだんそれがわかるようになったのが、心が近づいたようで、嬉しかった。
壁外調査の日が近づき、エレンを除くメンバーが集められた。
「次の壁外調査での俺達、特別操作班の役割は、
エレンを生かして帰らせることだ。」
いかに精鋭であろうと、相手は巨人だ。
自分自身だけでなく、新兵の身を護りきるのがどれほど
難しいことか、みなよくわかっている。
兵長はわずかな間をあけて続ける。
「・・・簡単なことじゃねえ。
だから俺は、お前達を選んだ。
殺しても死ななそうなヤツらをな。」
みんな歴戦の兵士だ。
顔を見合わせ、ニヤリと笑いあう。
「任務は最優先だ。だが無駄には命を捨てるな。」
「兵長、誰に言ってるんですか。
俺達はそう簡単にエサにはなりませんよ」
「ダメってときはせめて差し違えてやりますよ」
「いつもと同じに帰ってまた飲みましょうや」
眉間に皺を寄せ、呆れたように私達の言葉をきいていた兵長は、
あのとき一体なにを考え、何を思っていたのだろう。
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父さん、元気ですか。
来週、いよいよ第57回壁外調査です。
心配はいらないよ、リヴァイ兵長や頼りになる仲間といっしょだから、
いつものようにまた帰ってきます。
戻ったら、休暇をもらって、久しぶりにそっちへ帰ろうと思ってます。
直接きいてもらいたい話がたくさんあるの。
でもその前に、どうしても伝えたいことがあって手紙をかきました。
私は、リヴァイ兵長に、心臓以外の全てを捧げるつもりです。
死んでゆく兵士にリヴァイ兵長がいつも言うの、
「お前の意思が俺に力を与える」って。
たとえ命を落としても、リヴァイ兵長の力になってともに戦える。
こんな幸せ、普通の人生ではぜったいに味わえなかったと思う。
だからもし私になにかあっても悲しまないで。
私はリヴァイ兵長の翼になって、お父さんやたくさんの人たちを護るんだから。
父さんには本当に感謝しています。私を認めてくれて、自由にさせてくれたこと。
・・・なんてね。直接言うのもちょっと照れるから手紙にかきました。
では来週楽しみにしててね。
p.s. 久しぶりに父さんの手料理が食べたいな。
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第57回壁外調査当日。
あくまでも試験的な遠征であり、短距離を行って帰ってくるだけ、のはずだった。
エレンに傷一つつけないという制約はあったにしても、
新兵が参加する作戦なら多かれ少なかれいつものことだ。
いつもよりも少ない犠牲で済めば良いと願っていたが、そう甘いものではなかった。
旧市街地を抜け、いくらも進まない内に、早くもあちらこちらから信煙弾があがる。
巨人発見の赤、進路変更の緑、奇行種もしくは緊急を知らせる黒、黒、黒・・・・
左翼次列に奇行種が乱入、
続けて右翼初列が巨人の大群により壊滅的な打撃を受け、索敵の機能を失ったようだ。
間をおかずして右翼次列にも奇行種が侵入、右翼はさらなるダメージで壊滅状態。
最後の奇行種はどうやら私たちのすぐそばまで侵入を許したようだった。
「何てザマだ・・・」
兵長が吐き捨てるように呟く。
当初の目的通りなら、右翼索敵が壊滅した時点で撤退してもおかしくはない。
けれど進路は東を向いたまま、当初の目的である旧市街地への変更もない。
なぜ進路を変えないのだろう。
このままでは、巨大樹の森に突入することになる。
ちら、と仲間を振り返ると、皆同じような表情をしている。
『行って帰るだけが目的なわけじゃないかもしれないな』
誰かの漏らした言葉が脳裏をよぎる。
が、それはとりもなおさずリヴァイ兵長の説明を否定することになる。
だめだ、だめだ。 指揮系統はひとつでなくてはならない。
私は、私たちはリヴァイ兵長を信じる。
巨大樹の森が見えてくる。
エルヴィン団長からの伝達が届いた、「森に進入せよ」と。
無言で馬を駆るリヴァイ兵長に、私たちも無言で従うしかなかった。
昼間でもなお暗い森に突入する。
木々の間から刺している木漏れ日が美しい。
きっと何か考えがあるのだろう、と自分を納得させて進んでいるというのに、
正直なエレンが率直な疑問を投げかけて私たちの心を乱す。
はたして兵長は答えない。
私たちの表情をうかがい、さらに疑問を深めてしまったらしいエレンを見て
しまったと思う。
それほど私たちもギリギリだった。
その時、すぐ後ろで轟音が響き、兵長の鋭い声が飛んだ。
「剣を抜け 」
言うなり自身も逆手で剣を抜き、構えながら、馬の速度を一気にあげた。
私たちも即座に剣を抜き、構え、馬を最速に移行する。
次の瞬間、それは全貌を現した。
私たちの目に飛び込んできたのは、15メートル級と思われる巨人が、
ひとりの兵士を地面に叩きつける光景。
恐ろしいほどの速さで追ってくるそれに、いまにも追いつかれそうだった。
久しく感じたことのなかった恐怖がよみがえり、パニックになりかけて叫ぶ。
「兵長!追いつかれます!立体起動に移りましょう!」
後ろを見ながら立体起動に移ろうとした兵長の動きが止まる。
後方支援が追いついたのだ。
兵長は剣の構えを解き、最速を維持したまま走り続けた。
何なのだ、この巨人は?殺しているが、食っていない。
[ピーーー]ために殺している。
援軍はひとり、またひとりと殺されていく、まるで虫けらのように。
激怒がパニックにとって代わる。
今すぐに殺してやる。私たちならできるはずだ、私たちにしかできないはずだ。
でも兵長は言う、このまま走れ、自分の使命に命の限り尽くせ、と。
そしてエレンにも言う、後悔しない道を好きに選べ、と。
エレンが巨人化すれば、おそらく当初の計画とは違った方向に進んだだろう。
なぜこの時エレンに選ばせようとしたのか、もしかすると兵長は
予定調和でない結末を見たかったのかもしれない。
リヴァイ兵長が音響弾を撃ったことで、頭のまわっていなかった私にもわかった。
私たちが、この奇妙で恐ろしい巨人をおびき寄せる囮だったことが。
おそらく今回の作戦で最も危険であったからこそ選ばれたであろうことが。
そしてそれをリヴァイ兵長も知っていたということも。
眠い、また明日。いや今日か。明日の放映に間に合わせたい。
乙
今日の放送前に覗くわ
それでもかまわない。そんなことはもうどうでもいい。
私はただリヴァイ兵長を信じるだけだ。
それがいま私がすべき最善の行動。
そうやって、私は生き延びてきたのだから。
エレンが葛藤し、逸脱しようとしている。
理解してほしいと切実に願った。仲間を信じることを。
選んでほしいとと切実に願った。私たちと共に進む道を。
親指の噛み傷がずきりとうずいた。
短いが激烈だったであろうその葛藤を乗り越え、エレンは仲間を選び、
奇妙な巨人はおそらく”本来の”計画通りに無事拘束された。
兵長を、仲間を信じることは、いつだって最善の道につながるのだ。
兵長が指示を残して先ほどのポイントへ引き返していく。
不安から一転、反動で、みな饒舌になる。
エレンの疑問はもっともなのだと思う、けれど、エルヴィン団長の作戦が
間違っていないと思ってしまう私たちは調査兵団に長くいすぎたのだろうか。
遠くで、聞いたこともないような、どこか不吉な叫び声があがり、すぐに静けさが戻る。
あの巨人、初めて見る女型の巨人が、いまその最後を迎えたのだろうか?
エレンと同様に知性を持っているならば、今頃その本体が取り出されているだろう。
しばらくして撤退の煙弾があがる。どうやらうまくいったらしい。
馬のところまで立体起動でもどる道すがら、左の森から進路変更を意味する緑の煙弾があがった。
「リヴァイ兵長だな、合流するぞ 」
私たちは何の疑いももたずに、姿を現し、平行に飛翔するその人の元へ急いだ。
何が起こったのか、一瞬わからなかった。
先頭を飛んでいたグンタが突然バランスを崩して落下し木に激突した。
エレンが何かを叫びながら近寄った時には、私たちは何が起きたのか正確に把握していた。
あれは、兵長ではない。
なぜもっと早くに気付かなかったのか。
薄暗い森で木に隠れながらの接近だったこと、
兵長と同じように小柄だったこと、
そして作戦成功を信じて、どこか気が緩んでいたこと。
全てが最悪のタイミングで重なった。
女型の中身なのか、仲間なのかはわからないが、
私たちは兵長の命令通りエレンを守りきらなければならない。
刺し違えてでも、だ。
馬に戻ることはもうできない。
戻ったとしてもあの女型ならば馬ではいずれ追いつかれる。
立体起動で逃げ切れる保証もない。
できることはただひとつ、いまここで仕留めるしかない。
調査兵団の皮を被った裏切り者が、閃光と轟音をあげて女型に変異した。
一緒に戦いたいというエレンに本陣へ向かうよう指示する。
あなたに傷一つ負わせないことが私たちの使命なのだから。
苦しげに顔をゆがめる彼に、わざと失望して傷ついたふりをする。
エレンが仲間を求めていることは知っていた。
母を喰われ、父を失い、幼馴染からも引き離されて、巨人として忌み嫌われ。
仲間といえるのはリヴァイ班の私たちしかいなかったエレン。
まだたった15歳の子供なのに。
兵長から、腕だけ巨人化したときの私たちの応対に対して
かなりのショックを受けていたことをきいていた。
だからこそ私たちは親指を噛みきったのだ。
信じていないのか?仲間じゃないのか?こういえば従ってくれるとわかっていた。
卑怯なやり方だったかもしれない、でもそれしか方法はなかった。
私たちの思惑通りにエレンは離脱してくれた。
これで、心置きなく戦える。
私たちは今女型を仕留めるか、最悪でもエレンが逃げ切るまで時間を稼ぐのだ。
エレンの離脱を見届け、女型に向き直る。
相手がだれであろうと変わらない。
私たちは今できる最善のことをするだけだ。
後方支援部隊への攻撃を思い出す。
どうやらこちらの攻撃や軌道をかなり正確に読んでいるようだ。
・・・調査兵団の兵服を着ていたことから考えても、どこかの兵団に
紛れ込んでいたことは確かだろう・・・・裏切り者。
死に値する。捕獲など考えない。ここで始末してやる。
落ち着いていつもの連携をとる。
今のメンバーで一番の実力者はエルドだ。
私とオルオでまずは動きを止める。
エルドが正面から攻撃をしかけて注意を引き、女型の攻撃を受ける寸前に離脱する。
間髪いれずにガラ空きの左右側面から最速で迫り、交差して両目を深く切り裂く。
うまくいった。
女型がこちらの行動を予測できるならば、こちらも女型の行動を予測可能ということになる。
裏の裏をかけばいい。
視界を失った女型は小賢しくも項をその手で覆って大木に背をつける。
視力の回復を待つつもりだろうがそうはさせない。
顔を見交わせて簡単なジェスチャーだけで意思疎通し、
腕を支える筋肉を徹底的に攻撃する。
大勢の仲間をなすすべもなく目の前で惨殺されて平気でいられるわけはなかった。
エレン以上に、私たちも身を裂かれるような苦しみに耐えてきたのだ。
その怒りをすべて斬撃に変えて刃を振り下ろす、何度も何度も、何度も。
片目からはシュウシュウと蒸気があがっている。
あっという間に腕が落ち、首がむき出しになる。
あと30秒は残っている、十分間に合う、問題ない。
首の筋肉を落とせば項がむき出しになる。あと少し・・・!
ここで、私はミスを犯した。
先陣のエルドの攻撃を待たずに、ほぼ同時に突っ込んだのだ。
ギュルン! と音をたてるようにして女型の片目が動き、エルドをとらえた。
女型の首めがけて加速していたエルドには避けるすべはなかった。
その巨大な口でエルドを口で受け止め、一気に噛みきり吐き出した女型は、
まっすぐ私に狙いを定めていた。
いつもの連携をとっていれば、あるいは避けきれかもしれない。
大勢を立て直し、もう一度オルオと息を合わせて無力化し、
今度こそ間違わずに攻撃できたかもしれない。
兵長の言う通り、選択するときに結果は誰にもわからない。
確かなのは、いま、私が、間に合わないこと。
「ペトラーーーー!!!!!! 」
オルオの叫び声が聞こえる。
最後に見たものは、木々の間から差し込む美しい木漏れ日。
オルオ、リヴァイ兵長を気取るなら、私たちの仇をしっかりうってきてよね
エレンは無事に逃げられたかな・・・あんまり時間を稼げなくてごめんね
もし追いつかれたら、つかまりそうになったら、その時は巨人になっていいんだからね
父さん、来週帰れそうにないよ、ごめん・・・でも約束はちゃんと守ったよ
顔にあたる光が温かい・・・子供の頃、同じような光を見たことがあったな
あの時は・・・そうだ、リヴァイ兵長が来てくれたんだっけ
今と変わらず強くてかっこよくて、私はあのときからずっと思い続けていたんだ
リヴァイ兵長、あなたは私の人生のすべてでした
もっとずっと一緒に戦いたかった
いつか巨人のいない世界を一緒に見たかった
もうあなたのお役にたつことはできなくなるけれど、
せめて私の意思が、魂が、あなたがもっと高く飛ぶための翼になりますように。
白くて温かい光が優しく私を包んだ。
++++++++++++++++++++++++++
ペトラ、父さんはお前に謝らなくてはならない。
お前が、絶対に死なないという約束を破ったことを、父さんはどうしても許せなかった。
認めたくなかったんだろうね。
昨日、お前からの手紙を読み返して、最後の食事のときのことを思い出した。
それでわかったんだよ、お前がちゃんと約束を守っていたことを。
お前にとって一番大事だった、「巨人をたくさんやっつける」 という約束を。
お前が帰らなかったあの日、父さんは初めてリヴァイ兵士長と話した。
彼は無言だったが、固く握りしめられた手が微かに震えているのを見た。
あの人はちゃんとお前の想いや意思を受け止めてくれているんだな。
だからお前は、彼の翼となって、これからも戦い続ければいい。
死が二人を分かつとも、か。 何だか本当に嫁に出したような気持ちだよ。
お前の幸せが、父さんの幸せだ
俺の娘でいてくれて、ありがとう。
-end-
乙
おつ
なるべく原作のエピソードに沿って創作したつもりです
こんな風に考えていたんじゃないかなあと考えながら描写したので
わりと淡々と地味になりました
あんまり泣けるように意図しなかったので物足りなかったらごめんなさい
さっき22話をみました
最後にもう1回だけ付け加えて「完」とさせてください
読んでくれた方、どうもありがとう
調査兵団特別作戦班の拠点だった古城。
目的を失い、その役目を終えた石の城はどこか空虚だ。
引き払うための後片付けや手続きを終え、窓の外を見つめるリヴァイに
いつになく静かに近づいたハンジがそっと声をかける。
「・・・やぁ、今、ちょっといいかい? 」
「何だ」
とっくに気づいていたかのように振り向きもせずに答えるリヴァイ。
「リヴァイ班は・・・残念だったね 」
「あいつらは命を賭して自分の使命を果たした。
あいつらじゃなければエレンは今ここにいない。決して無駄死にじゃない。」
「・・・そうだね 」
「そうだ」
あまりに早い返事に、ハンジにはリヴァイが自分に言い聞かせるように聞こえたが、
ハンジがそう思っただけなのかもしれない 。
「遺体も、遺品も回収できなかったらしいね 」
「生きているものを優先するのが当然だ。 」
・・・それにあいつらの魂はもうあそこにはない。 」
窓から吹き込んだ風がリヴァイの髪を掻き乱す。
「ねえ、リヴァイ。 一度聞いてみたかったんだけどさ、あなたは重くないの? 」
「何が」
「死んだ兵士の残した意思を、あなたはもうずっと背負い続けてる。
何十人、何百人 。”力になる”ということは、それなりの重量を持っているということだ。
いくら元ゴロツキの精神力を持ってしても、そろそろ限界なんじゃないの? 」
リヴァイがほんの少しハンジの方に顔を向ける。 風で髪が揺れ、その表情はまだ見えない。
「何だそりゃ? 心配でもしてるつもりか? 」
「そりゃあね。 あなたがつぶれたりしたら、人類にとって大きすぎる損失だからね。 」
「・・・重くなんかないさ。 」
リヴァイが振り向いた。見たこともないような穏やかな表情にハンジは内心驚く。
「 あいつらの”意思”をなんだと思ってやがる。 枷だとでもいうつもりか?
いうなれば、意思を持った羽だ。 ひとつひとつが自らの力で飛び、
大きな翼みてえに、俺をもっと高く飛ばせてくれる。 」
ああ、とハンジはため息をつく。
「・・・なるほどね。 こないださ、あのペトラって子の父親に会ったんだよ。
壁上の砲台の整備に来ていたみたいでさ。
奥さんを亡くし、一人娘をなくして、さぞかし辛いだろうと思っていたんだけど
やけに明るい顔をしてるから逆に気になって、話しかけてみたんだよね。
そしたらさあ、あの子はリヴァイ兵士長の翼になったんですよ、って嬉しそうに言うわけ。
その時は意味わかんなかったんだけど 」
わずかに目を見開いたリヴァイに、ハンジはにやりと笑って続ける。
「なんだよこれって、相思相愛ってやつ? 」
とたんにリヴァイにいつもの凶相が戻る。
「くだらねぇこと言ってねえで、テメエはさっさとあのクソ巨人の謎でも解明してこい 」
「はは、女心はハンジさんの方が知ってるわけだし、いつでも相談にのるからさ 」
「適材適所ってもんがあんだろクソメガネ。 テメエは巨人の人生相談にでも乗ってろ 」
「はいはい、じゃまたねえ 」
ふんっ、とまた窓の外に目を向けたリヴァイに手を振って、ハンジは退散しようとし、
部屋を出る時に最後にもう一度リヴァイに目を向けて・・・・
その背に翼を見た。リヴァイの体を守るように広げられた、大きな大きな翼を。
思わず立ち止まり、ゴーグルを上げてゴシゴシと目をこする。次の瞬間翼は消えていた。
「・・・ハンジさん疲れてるのかな? 」
いや、きっと本当にそこにあるのだろう、とハンジは思い直す。
人の心からの思い、強い意思というのは計り知れない力を持つのだろう。
そして何故だか無性に巨人に会いたくなる。
適材適所。私は私の信じる道に殉じよう。
行きつく先はただひとつ。私たちは皆同じものを目指しているのだから。
ハンジが行ってしばらくして、リヴァイはようやく窓を閉じる。
部屋を抜け、そっとドアを閉じ、エレンの待つ部屋に向かう。
もう振り返ることはなかった。
-完-
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