リヴァイ、エレン 「その先にあるもの」 (30)
どシリアス。
ど捏造。
まさに妄想小説。
場違いなら速やかに撤収します。
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「そうだよ、エルヴィン。 エレンが父親に打たれたのはね、巨人化する薬なんかじゃなかったんだ。」
狂喜に輝いた白い顔を向けてハンジはささやいた。
「あれはリミッターを解除するための薬なんだよ、巨人化のね 」
「なん、だと・・・」
あまりの言葉に理解が追いつかない。いや、理解しているが、理性がそれを押しとどめる。
珍しく言葉を失ったエルヴィンに、ハンジは静かにささやき続ける。
いつもと違う潜めた声に返って狂気を感じ、エルヴィンをぞくりとさせた。
「人類はみんなみーんな巨人になる力を持っているってことだよエルヴィン。
エレンだけじゃない、あなたも、私も、リヴァイだってさ。
すごいじゃないか・・・貴族共が隠したがるはずだよ、みんなに知れたらどうなると思う?
考えただけでもわくわくするよね・・ 」
貴族たちはこれを知っていたというのか。
・・・・ああまでして秘匿するはずだ、もしこれが本当のことなら。
「・・・ハンジ、ほかにわかったことは? 」
「グリシャの手記にはこうかいてある。 もともとは人類の肉体強化のためだった、と。
怪我をしても、病気になっても、たちどころに回復するよう、自身の治癒能力を極限まで高めるため、
“イデンシ” に 特殊な”インシ”を組み込んだ、とね。 」
「イデンシ? それは何なんだ? 」
「人間の親兄弟は似てるだろう? 顔や髪の色、目の色、体つきなんかが。
私たちは親から自分を形作る何かを受け継いでるんだよ。 そしてまた子がそれを受け継いで・・・
その“何か”を “イデンシ”というらしい。 」
「最初はうまくいったように見えた。 ちょっとした怪我ならばすぐにふさがったし、病気もしなくなった。
ところがある実験で誤って足を切断する事故が発生したとき、その”インシ“は暴走したんだ。 」
巨人の誕生日さ、記念すべき日だね。 と、ハンジは哂った。
_________
良く知っている、肉を断つ音と衝撃、何かが飛び散る飛沫音。
一瞬遅れて右半身に感じる氷のような灼熱。
俺としたことが------しくじった。
他人事のように舌うちが漏れ、意識がかすむ。
予期せぬ攻撃の対象は、エレンだった。
人外の、鋭く長い鉤爪の生えた右腕からの強烈な一撃。
いかに巨人の能力があろうと、直撃で身を粉砕されては再生はかなわないだろう。
とっさにアンカーを天井に打ち込み、巻き取る軌道でエレンを抱えて飛ぶ。
負傷した足の動きがコンマ何秒か、遅れた。 致命的なミス。
エレンをとらえ損ねた獣の爪は、俺の右半身を深く大きく切り裂いた。
_________
エルヴィン団長の作戦とリヴァイ兵長により、ライナー達に連れ去られる寸前だったオレは無事救出された。
渦巻くような殺気を全身に纏わせ、鬼神のように戦うリヴァイ兵長の姿をオレは忘れることはないだろう。
巨人を翻弄するその姿は、オレの理想、目標、在りたい姿そのものだったから。
初めから勝負はついていたように思えた。奴らは逃走し、ユミルとクリスタは彼女たちの意思で
彼らと行動を共にしている。
近隣の捜索はなされたが足取りはいまだにつかめていない。
オレが拘束される前、壁の中に突如あらわれた巨人。
それが示唆するものは、人としての固定観念が根本から揺らぐような恐ろしい現実だった。
にもかかわらず、秘密を、真実を知っているはずの人間はかたくなに口を噤み、
オレたちは未だ巨人についてほぼ無知と言っても過言ではないのだ。
もはや人類は追い詰められ、一刻の猶予も残されていなかった。
追い詰められていると感じているのは調査兵団のみならず、憲兵団も同じだったらしい。
巨人についての知識を少しでも多く得ようと、オレの身柄引き渡しを連日申し入れているようだ。
憲兵団に引き渡されれば、オレは間違いなく「人類に貢献するための情報提供」という名目の元、
拷問に等しい解剖の果てに死ぬことになるだろう。
どちらの問題をも解決する糸口を見出そうとして、エルヴィン団長が選んだのは、
オレの生家の地下室にあるらしい巨人の情報を入手することだった。
_________
二度にわたり拘束されかかったエレンだが、今回も無事取り戻すことができた。
なぜ奴らはこれほどまでにこいつを欲しがるのだろう、テメェらだって同じ力を持ってやがるくせに。
その都度、俺たちは、大事な仲間を、部下を、失っていく。身内だけでやっていろ、と心底思う。
前回の女型捕獲作戦後、「人類最強」が飛べなくなった、という情報は瞬く間に街中に広まっていた。
人々は怒り、絶望し、この作戦の責任者であるエルヴィンに激烈な非難が集中した。
その結果のひとつとして、エレンの憲兵団への引き渡しが決定したのだ。
確かに多少やられたがもろに食らったわけでもなく、昔から人よりも怪我の治りの早かった俺にとっては
それほど大した怪我という訳ではなかった。
実際、壁の中に巨人が現れる前には、完治こそしていないまでも飛ぶには十分だったのだが、
エルヴィンはあえてそれを公表しようとはしなかった。
何か考えがあるのだろうと、俺も飛べないふりをし続けていた、そんな時に起こった再度のエレン誘拐劇。
やつらの計画が、俺がいないものとしてたてられていたのだとすれば、あの巨大樹の森で突如現れた俺をみて、
随分と焦ったことだろう。
エレンとそれを拘束するでかいのをその手に隠した鎧の巨人。
鎧には確かに歯が立たないが、全身隙間なくおおわれていては動くことができないはずだ、という俺の予想通り、関節の間にはやわらかそうな巨人の生肉がおあつらえ向きに露出していた。
でかいのはなぜか巨人化せず、傍らの獣の牙をもつ不細工なクソ巨人もなぜか攻撃しようとはしなかった。
たった一匹の、ただ硬いだけのノロマな巨人など、俺の敵ではなかった。
ましてやその時の俺は、それまでの人生で最高に虫の居所が悪かったのだから。
露出したやわらかい肉の部分を、俺は徹底的に攻撃した。
仲間を、同僚を、後輩を、殺された怒りを、すべて斬撃に転換させて。
「 遅せぇぞグズ野郎。 どこ見てやがる 」
ざくり。
「なんだそりゃ、殴ったつもりか? ハエが止まりそうだな 」
ざくり、ざくり。
奴の手にいるでかいのが何か叫んでいるようだが聞こえない、聞こうとも思わない。
最速で木々の間を飛翔し、すれ違うたび確実に深いダメージを与え続ける。
中身がちょっと前まで仲間だった人間だろうと関係ない。容赦などしない。生け捕りなどみじんも考えない。
俺には明確な殺意だけがあった。
相手もそれがわかったのだろう、最初からビビって碌な反撃もしてくることもなく、
片腕を関節から切り落とされた段階でついにエレンを解放し、逃走を始めた。
追いついて四肢をすべて切り落とし、最後にゆっくり時間をかけて首を落としてやりたい、という残酷な衝動は、
全身全霊をもって抑え込まなければならなかった。 それほど奴等への怒りは大きかったのだ。
ミカサに説教垂れる資格なんざねぇな、と心の中で苦笑しながら、作戦の目的であるエレンを抱えて
エルヴィンのいる本陣へ急ぐ。
衰弱しきったエレンがうっすらと目を開け、俺を視界にとらえた。
「・・・兵・・・長・・・・・?、足、は・・・・」
「問題ねぇ。 これからエルヴィンと合流する。 ・・・大丈夫か? 」
「・・・団長に、伝え、・・・・、巨人は・・・ライナーで、ユミルが・・・力を盗んで、クリスタ・・・・を・・・・・ 」
「おいエレン、しっかりしろ。すぐにエルヴィンのところに連れて行く。 お前の口から直接伝えろ 」
エルヴィンはどんな些細なことも逃さない。俺からの又聞きより、エレンの口から直接きかせる必要がある。
ここで意識を失ったら、毎晩見る夢のように、起きた時には詳細な記憶も沈んでしまう可能性があった。
俺は合流するまでの間、エレンに話しかけ続け、時に罵倒し(さすがに手を出すのは控えたが)、
エレンもかろうじて意識を保ち続けた。
エルヴィンの元にたどり着いたとき、今にも意識を手放しそうだったエレンの目にあの強い光が戻った。
悪くない。こいつは、何度も死線を越え、死に触れ、化物にすら成り果てた今尚、その魂は折れていないのだ。
口に出したりはしねぇが、俺はその強さを買っている。
形は違えどその本質は俺のそれと似ていたので、どこかで親近感を持ったのかもしれない・・・・
俺はエルヴィンに拾われるまで天蓋孤独の身だったが、もし出来の悪い弟でもいたのなら
こんな感じなのだろう、という程度には。
情報を報告し終えた後、成すべきことを果たし安心したかのように崩れ落ちたエレンは、
そのまま6日間、深く眠り続けた。
俺はエルヴィンの命により監視という名目でエレンに付き添うことになった。
まだ内通者が居れば暗殺か誘拐される危険性があるからだ。
簡単な世話以外、特にやることはなかったので、とりあえず全く掃除の行き届いていないクソガキの部屋を、
俺が堪えらえる程度にまで片づける。意識が戻ったら早急に躾直してやると心に誓いながら。
あとは本や会議書類を読んで過ごす。
ハンジはしょっちゅうやってきては、俺がキレて部屋から蹴りだすまでエレンの実験案だのなんだの
くだらねぇ無駄話を嬉々としてしゃべり倒していった。
あの一件以来エルヴィンに一目置かれ、特別に許可されてやってきたアルレルトはまず部屋の清潔さに驚き、
開口一番エレンがやったのかと問う。そんなわけねぇだろうと一蹴すると、心底納得した顔をしていた。
お前とミカサで甘やかしすぎた結果だ、ちょっとは反省しろ。
そんな、図らずも休息のような日々を過ごしていたある夜、エルヴィンがやってきた。
「やあ、リヴァイ。 退屈な任務を押し付けてすまないね。 エレンはまだ目覚めないようだが、様子はどうだい? 」
「・・・見た目は昼寝中ってとこだな。 顔色もいいし表情も穏やかだ。 毎日水だけは含ませている。
あとは・・・ハンジの提案で一定時間日光を浴びさせているが、それがどう影響しているのかはわからねぇな。 」
「日光か・・・。 実験では夜でも巨人化できたんだろう? 体感的にも昼と変わらないとエレンも言っていたようだが。 」
「あのクソメガネが言うには、少なくとも実験中は人間体で飯を食ってただろう、と。 まあ大した手間でもねぇしな 」
「そうか。 その辺はハンジに任せる・・・彼はいつごろ目覚めるだろうか? 」
「ハンジは短時間の巨人化でも疲労困憊すると言ってた。 今回の疲弊状態からすれば一週間程度はかかるんじゃないか、と。 」
「 そうか。 ハンジの予想どおりなら明日か明後日当たりだな。
だがエレンにはあと半月ほどは眠っていてもらわなくてはならない。 ・・・わかるな? 」
もし目覚めてもまだ外部に漏れないようにせよ、ということか。
「承知した。 」
「憲兵団にエレンの引き渡しを要求されているのは知っているな?先の巨人襲撃で彼らも半狂乱になっている。
このままいつまでも突っぱねるのは難しいだろう。」
「ふん、懲りねぇな。解剖するんだったか? 前にも言っただろう、もしエレンが巨人化したら止められる奴はいねぇだろう。」
「・・・お前も一緒に、と言っている。」
「・・・何?」
「暴走時にはお前が奴を削ぎ取れるよう、エレンとリヴァイをセットでご所望だ。」
「・・・ふざけてんじゃねぇぞ」
「もちろん拒否したさ、リヴァイは調査兵団にとっても人類にとってもなくてはならない存在だ。
だがもしエレンの引き渡しが決定すれば、奴らの実験における保険として、お前しか適任者がいないもの確かだ。
お前自身が言ったようにね。 エレンの人体実験が人類にとって必要と判断されれば、決断に従わざるを得まい。」
「・・・チッ。 それで、どうするつもりだ。 黙ってやつらの要求に従うつもりじゃねぇんだろう 」
「 そこで今回の計画だ。 要するに奴らは巨人化の仕組みを知りたいわけだ。 どういう原理で巨人になるのか、
項以外の弱点はないのか。
だから我々はエレンに代わる「巨人化の情報」を提供してやればいい。・・・例の地下室だ。」
「・・・ようやくか。 だがどうやって行くつもりだ? かなりの道のりだぞ 。
信頼できて腕の立つやつは・・・もう殆ど残ってねぇ 」
「それについては考えがある。 まずはお前の意見をきかせてもらいたくてね。 」
エルヴィンが切り出した方法は、今まで例をみないものだった。
_________
オレはハンジさんの予想通り、ちょうど7日目に意識を取り戻したらしい。
6日間、布に湿らせた僅かな水しかとっていなかったにもかかわらず、体重もそれほど減っていなければ、
筋肉の衰えもなかった。おかしなことに、体重は減っていなくても腹は減っていたのだけれど。
身体検査で呼ばれたハンジさんは、目をぎらつかせながら「やっぱり日光か・・」などとわけのわからないことを
ブツブツ呟いており。怖いので聞こえないふりをした。
オレが意識を失っている間は、リヴァイ兵長が面倒をみてくれていたらしい。
おそらく無意識で巨人化したときの対応のためだろう。
恐縮しながら礼を言うと、エルヴィン団長の命令だから気にするな、と言われた。
部屋の掃除も団長の命令だったんだとすれば、本当に申し訳ない。(が、ちょっと助かったのも確かだ)
それから3日ほどたった夜、「こん睡状態のオレを検査する」という名目で、エルヴィン団長、リヴァイ兵士長、
ハンジ分隊長、それからミカサが集まった。
「みんな集まったな。・・・今我々が置かれている状況については諸君も理解していることと思う。
目下の問題はふたつ、壁内にあらわれた巨人の謎と、エレンの身柄引き渡しだ。 」
「エレンからもたらされた情報は重要なものではあったが、いかんせん断片的過ぎる。
彼らも肝心な部分はどうやら守り通したようだな。いろいろと考えられるがあくまで推測の域を出ない。」
「我々には猶予はない。ミッシンクリンクを手に入れ、エレンからの情報を構築し直し、対策を立てる必要がある。
従い、以前から計画にあった、イェーガー家の地下室にある情報に賭けてみようと思う。 」
興味津々できいていたハンジさんが目を輝かせた。
「うん、それはいいね! 手に入れば研究におおいに役立ちそうだよ、大賛成!」
「この作戦は極秘裏に決行しなくてはならない。 最短で行き、目的を入手し、最短で戻る。
目的はあくまでも地下室にある「巨人の秘密」を入手することだ。
巨人との交戦は出来る限り避けたい。
よって出発は夜、トロスト区の壁を越えて最短距離で向かう。 」
「・・・・・トロスト区ぅ!?」
一同を代表してハンジさんが叫んだ。
_________
「・・・トロスト区だと?」
まずは全容を聞いてからとは思いながらも、俺は思わず口をはさんだ。
「確かに最短だがそれでもシガンシナまで50キロはある。俺たちは立体機動で壁を越えられるが、馬を下すのは無理だ。
徒歩で行ける距離じゃねぇぞ」
「馬はカラネス区の門から出す。壁上から口笛で誘導し、壁沿いに進ませてトロスト区門の前まで来させる。
巨人は馬を襲わないからな。餌や水なら壁から降ろすことが可能だし、草ならこの時期いくらでも生えているから
飢えることもないだろう。身軽な少数ならではの作戦だな。 」
なるほどな。 荷馬車も物資も必要ないから、俺たちが騎乗する馬だけ誘導すれば良いわけだ。
「・・・夜出発するのはいいが、暗闇の中で馬を飛ばすのか?」
「もちろん、満月の夜を選ぶ。我々にとっては確かな明かりとなるが、通常の巨人の原動力とはならない。
計画通りに運べば目的を果たしても日の出前に戻ってこられるだろう。 」
「・・・・そううまく行けばいいがな。もし獣の巨人が来たらどうする、あのクソ畜生は夜に自由に動いていたぞ 」
「獣の巨人か。 あれが現れる可能性は低いと考えている。なぜなら獣の目的はまだ突破されていない壁の
内側にあると思われるからだ。 エレンを確保しようとしたあの3人とは目的が違うように思える。
まあ私の推測でしかないがね。 いずれにしてもカラネス区から昼間出発するよりはよほど安全だろう?
我々はどのみち早急に地下室に行き、巨人の秘密を手に入れなければならないんだからな。」
「消去法か。理には適ってはいるが・・・・。」
危険なことには変わりない。未知であるだけにトラブルの予測がつかずやっかいだ。
自分の身は自分で守り切れる精鋭だけで決行する必要がありそうだ。
俺は言うまでもなく、エルヴィン、ハンジ、ミカサなら問題ないだろう、がエレンは・・・・
「・・・なんだ?何か問題があるなら言ってくれ。 」
「・・・なぜ、あのクソガキを連れて行く必要がある?あいつの機動がミカサの足元にも及ばねぇのは知ってるだろう。 家の場所なら地図でもわかるし、ミカサが居れば問題ねぇ。・・・・足手まといなんだよ。」
エルヴィン「ああ、そうか、そうだな。お前が彼を気に入っているのは知っているが」
リヴァイ「そういうことじゃねぇよ、揚げ足とんな 」
エルヴィン「いや、すまない。(と言っても私から見ればまるで兄弟のようなんだがな・・・ )
彼を連れて行くのには理由が三つある。ひとつは瓦礫の撤去だ。
彼の生家は巨人襲来時に飛来した壁の破片により破壊されたという。まずは瓦礫をどかさなければ地下室に入れない。
ここでエレンの巨人の力を使う必要がある。
次に、目的のものを入手するのに彼でなくてはならない仕掛けがある可能性。
命がけでたどり着いたは良いが秘密を目前にして指をくわえる、という事態は避けたいからな。
最後に、今回の作戦には私とお前が不可欠だ。 その間、お前の監視無しでエレンを残していくのはあまりに危険すぎる。 」
「・・・チッ。 作戦中までガキのお守りかよ。 だいたい途中で死なれたら元も子もねぇだろうが」
「そうならないよう、しっかり守ってくれ」
「簡単に言いやがる 」
「(エレンを溺愛するアッカーマンと、否定はしても十分面倒みているリヴァイなら適任だろうが・・・)」
「・・・なんだ」
「いや、こちらのことだ。 いうまでもないがエレンを連れて行くことと、地下室へ行くことは極秘だ。
巨人化の鍵を手に入れるということで、また異なる組織の邪魔が入るかもしれないからな。
表向きの作戦はクリスタとユミルの奪還前調査とする。」
」
「 ・・・ 全く、人類同士で面倒くせぇな。 作戦については承知した。 次の満月はいつだ?」
「14日後だ。それまでに今回の任務について上の連中を説得し、馬を誘導する。こちらは私に任せてくれ。
・・・まだ何かあるか?」
「いや、もういい。」
「結構。メンバーは私、リヴァイ、ハンジ、アッカーマン、エレンだ。では引き続きエレンに付・・・監視を続けてくれ。 」
「・・・・了解した。 」
エルヴィンが去った後、アホ面で眠りこけているエレンを一瞥し、考えにふける。
何て計画だ。すべてが初めてづくしだ。何が起こるかまったく予想がつかない。
が、俺はもう心臓を捧げたのだ。
与えられた任務に全力を尽くすのが俺のいまやるべきことだ。
_________
「以上が、この作戦の概要だ。 エレン、君にはつらい任務になるだろう。
君のお母さんが亡くなった場所に行き、瓦礫の撤去を、君の巨人の力で行ってもらわなくてはならない。
・・・できるか?」
団長、ミカサ、ハンジさん、リヴァイ兵長が俺を振り返る。
ミカサが悲痛な顔をしているのは慣れっことして、心なしかリヴァイ兵長も不機嫌な表情をしているのはなぜだろう。
もしかして、オレが怖気づくと思っているのだろうか。
「はい、やります、大丈夫です。 」
巨人化の実験の結果は思わしいものではなかった。
ましてや極度の緊張の中、うまく出来るかどうか確証はないが、やらなくてはならない。
オレは人類に、この人たちに、心臓を捧げたのだ。
ミカサが目をそらした。なぜかリヴァイ兵長の眉間の皺が深くなった。
安易に即答しすぎだと呆れられたのだろうか。
・・・そうか。
「・・・ですが、もしオレが、その、前のように・・・」
リヴァイ兵長が遮るように吐き捨てた。
「・・・安心しろ。その時は俺が何とかする。 」
「私も、いる。心配いらない、エレン。 」
ふたりの言葉に顔をあげる。表情こそ対極だが、ふたりの目に浮かぶのは等しくオレへの心配と、決意だとわかった。
「ありがとう、ございます。 」
かろうじてこれだけ言えた。頭を下げる。これで安心して戦える、自分自身と。
いままでにも俺ひとりのために、何人もの人間が死んでいったのだ。
オレが、もっと早くこの力に目覚めていれば。 きちんと制御できてさえいれば。 助かる命がどれだけあったことか。
もう誰も失望させたくない。後悔したくない。仲間を、先輩を、失いたくない。オレはこの力を絶対に、
完全に、制御してみせる。
戦決行前日。 夕食後、オレたちはエルヴィン団長の私室に集められた。
エルヴィン「いよいよ明日だ。 許可はとってある。 珍しく上の連中が素直でな。
・・・まあ間違いなくクリスタのことがあるのだろう。 こちらにとっては好都合だった。
馬も予備の頭数も含めて無事トロスト区城門前で待機している。ガスも刃も積んである。 」
クリスタは自分の意思で行動しているが、団長はあくまで拉致されたと報告しているらしい。
クリスタの存在は上の人間にとって特別であり、これを有利に使おうという訳だ。
「さっすがエルヴィン。準備万端、お膳立てもばっちりだねえ!これで奇行種でも出てきてくれたら
ほんっとうにさいっこうなんだけどなぁ~!」
「そんなに会いたきゃ鏡でも見たらどうだ? 人類で奇行種って超レア物が一匹おがめるぜ 」
「あっはっは。今日はいつにもましてピリピリしてるね、リヴァイ。緊張するなんて柄じゃないんじゃない?」
「うるせぇクソメガネ。クソガキだの怪我人だの足手まといだらけで、不安になるなって方が無理だろうが 」
「ハイハイ、心配してくれてるんだよねぇ、ほんっとに素直じゃないんだからあなたは~」
「・・・テメェ・・・!」
エルヴィン「ふたりともその辺にしておいてくれ。ハンジもあまり煽ってくれるな。
彼はエレンの護衛もしなくてはならないから、ピリピリするのもやむを得まい。
・・・ところでハンジ、怪我の具合はどうだ? まだ完治していないだろうにすまない。 」
「ちょっとした火傷だよ、全然大丈夫さ。・・・・その、ごめんリヴァイ。私は・・・」
「もういい。俺もお前が奇行種だとか本当のことを言ってすまなかったな。 」
「・・・・・・・どういたしまして(このクソ刈り上げ)。」
・・・この人たちは仲が良いのか悪いのか。気づかれないようそっとため息をつく。ミカサに気づかれた。
「エレンはまだ、本調子ではない。ので、早く休ませたい。ので、作戦会議をすすめた方がいい。
というか、進めて。・・・ください。」
「そうだな、アッカーマン。作戦については以前説明した通りだが、念のために通しで確認する。
ハンジの実験で、少なくとも日没から3時間は動ける巨人がいることはわかっている。
シガンシナまで馬なら2時間あれば着く。街中では立体機動を使う。
早ければ2時間半ほどでエレンの家までたどり着けるだろう。」
「ついては若干の余裕をもって日没から4時間後の22時に出発する。遅くとも2時にはエレンの家跡にたどり着き、
巨人エレンが瓦礫を撤去次第、エレン本体を回収し、地下室へ入る。地下室内に留まるのは長くても10分までだ。
持ち運べるものはすべて持ち出せ。 行き同様屋根伝いにシガンシナの外へ出る、ここまでで2時。
日の出までの残り3時間以内にトロスト区へ戻り、立体機動で壁を越える。馬の回収はまた後だ。
何か質問はあるか?」
「そうだねぇ・・・最初の説明のときにも思ったんだけどさ、エレンの巨人化はどうしても必要なの?
トロスト区の穴をふさいだとき、巨人たちは人類には見向きもせずにエレンを目指してただろう?
夜間とはいえ、巨人化したエレンに引き寄せられる、ってことはないのかなあ?」
「確かにその危険性はある。だがエレンの力を使わないとなると、瓦礫の撤去のために今の倍以上の人員が
必要となるだろう。 撤去にかかる時間も飛躍的に増えてしまう。・・・現場の状況がわからない以上、
撤去できるかどうかすら不確定だ。さらに、人数を増やすということはそれだけ秘密を知る者が増えるということだ、
それも避けたい。」
「ほかの巨人が集まってきたとしても、瓦礫の撤去なら何とかできると思います。地下室への扉を確保したら、
オレは巨人を誘導し、その場を離脱します。10分くらいならば持ちこたえてみせます。」
「馬鹿野郎。 もし扉を塞いだ時のように、力尽きで動けなくなったらどうするつもりだ。 」
「・・・その時は、オレを置いてもらってかまいません。 」
「・・・・チッ。 良い覚悟だが、エルヴィンの計画ではお前の命が最優先事項だってことをわすれんじゃねぇぞ」
「その通りだ。今回は人命を最優先とする。少しでも危険の兆候があればすぐに撤退する。
少なくとも次回の決行において作戦を練るうえで、その結果が役にたつだろう。無駄足にはならない。」
「・・・クリスタが発見されるまではまだチャンスはあるだろうしな」
「ふぅん・・・ま、やるっきゃなさそうだね。 エレン、巨人化するときあんまり吠えないようにね~。 」
・・・申し訳ないがそれはちょっと保証はできない・・・
「・・・あの毛むくじゃら、出てこないといいいけど。」
「レアな巨人を嫌うとは珍しいな、ハンジ。 だが確かにあの獣は危険だ。もし姿を現したとすれば、
どの時点であっても緊急撤退する。決して侮るなよ。・・・アッカーマン、わかってるな?
エレンの命にかかわることだ。 」
「はい、あなたの指示に従います。 勝手な行動は、とりません。 」
「結構。ではこれで解散する。全員、明日の任務は外しておいた。訓練にも参加しなくていい。
夜に備えて日中はゆっくり休んでおけ。 」
「「「了解」」」
眠い、長い、今日はここまで。
眠い、長い、今日はここまで。
おつおつ
作戦当日。
良く晴れた夜だった、変な言い方だが。
雲一つない、星すら見えない空に大きな満月が輝き、煌々とあたりを照らす中、俺たちは無言で馬を駆った。
いつもならどこからともなく湧き出してくる巨人も、さすがにこの時間はご就寝らしい。
巨人も夢を見るのだろうか・・・と、どうでもいいことを考え、夢の内容を想像しかけてやめた。
周囲に気を張り巡らせながら進んではいたが潜んでいる気配もなく、
俺たちは予定よりかなり早い時間にトロスト区の壁にたどり着いた。
乗ってきた馬に予備の装備を積み替え、予備の馬をいつでも乗れるように整える。
餌と水をおいてやり、しばしの休息をさせる。
巨人が直接襲わないとはいえ、俺たちと運命を共にすることが多いこの貴重な相棒たちも、
できる限り生かして帰してやりたい。
「街は巨人の巣になっているだろう。夜とはいえ油断するな。 」
何年もの間、巨人が我が物にしていた街。
破壊の後はあったが予想していたほどではなく、多くの建物はそのままの形で残っている。
やつらの狙いはあくまでも人間なのだ、と思い知らされる。
いたるところで、巨人が活動停止しているのが確認できた。
刺激しないよう、俺たちは極力音をたてないようにして屋根の上を進んでいく。
はたして奴らが目を覚ます気配はなかった。
視覚以外でも人間を感知するというから、やはり根本的な生命活動そのものが停止していると思われた。
ほどなくして俺たちはイェーガーの生家、正確に言えば生家「跡」にたどりついた。
「・・・ありえないくらい順調だったね、さすがエルヴィン。
夜でも動き回る奇行種に会えなかったのはちょっと残念だけど 」
「油断するな。 ここからが本番だ。 ・・・・エレン、頼む 」
エレンは緊張した面持ちでうなずき、目を閉じる。イメージしているのだろう、巨人となってこの瓦礫を退かす光景を。
次の瞬間、エレンは親指の付け根に深く歯を立てた。
血と、一瞬遅れて巨人の体が噴き出す。
例によってすさまじい雄たけびを上げるが、これはどうにもならなかったらしい。
幸い巨人が目を覚ます気配はなかった。
「 エレン、わかるか? 意識はあるのか? 」
エルヴィンの方を振り向き、金色に光る眼で見つめ、ゆっくりとうなずく。
誰もが胸をなでおろしたと思う。 実験においてエレンの巨人化はまだまだ不安定だったから。
その体にシュウシュウと立ち上る蒸気をまといながら、エレン巨人体が立ち上がり、瓦礫に手をかける。
ひとつ、ふたつ、と瓦礫がどかされていく。
・・・確かに便利な能力だ、完全に使いこなせるのなら、人類にとって大きな武器になるだろう。
だが、この力を皆手に入れたとしたら、どうなる? 強大過ぎる力は、逆に人類にとって仇となる、諸刃の剣のようなものじゃないのか。
現に、今いる巨人たちはもしかすると過去の・・・・
・・・だめだ、今日はなぜかくだらねぇことばかり考えつく。 目の前に集中し、いつ何が起こっても対応できるよう神経を尖らせ、
意識を張り巡らしていなくてはならないってのに。
大きな瓦礫を、折り重なった太い木の板を、大岩ほどではないだろうが軽くはないそれらを、エレンは一心にどかしていく。
途中で一瞬手が止まり、緊張が走ったが、エレンは何かを振り飛ばすように頭を振り、すぐに作業を再開する。
その後は安定して作業が進み、最後に地下への扉に覆いかぶさっていた太い柱を投げ捨て、エレンはひざをついて俯いた。
すかさず俺とミカサでエレンを切り出し、救出する。
「エレン、エレン! 大丈夫なの? 」
「・・・・ああ・・・・大丈夫・・・ 」
すぐには歩けそうにないエレンをエルヴィンがおぶり、俺たちはついにたどり着いた地下室の扉の前に立った。
_________________
「カギをよこせ。」
エルヴィン団長からカギ受け取り、リヴァイ兵長が鍵穴を回す。
ガチャリという音とともに抵抗もなく、あっけないほど簡単に、地下室の扉は開かれた。
当たり前だけど真っ暗だ。
用意してきたランタンをともし、慎重に足を踏み入れる。
石で囲まれた狭い部屋には本棚と机だけが置かれていた。
壁には何か大きな紙が何枚かはってあるが、薄暗くて内容はよくわからない。
「もう大丈夫です、自分で歩けます。」
まだふらつくが、自分の足で歩いて確かめたかった。
「そうか。では私は外で待つ。 10分たったら声をかける。 」
エルヴィン団長は部屋を一瞥し、急いで外に戻っていく。
見張りをするのだろう、万一巨人が現れた場合、囲まれれば逃れるすべはなくなる。
小さい頃にはこの部屋になにがあるのか興味津々だった。
何度も中を見てやろうと試みたが、父さんは一度たりとも鍵をかけ忘れることはなかった。
『そのうち、エレンにも見せてあげるときが来るよ 』
中に入れてくれ、と幾度となく駄々をこねた俺の頭に優しく手を置いて、父さんはいつも優しく笑っていた。
それは本当に優しい笑顔だったのに、なぜか俺はいつも悲しいような怖いような気持になり、
いつしか入れてくれと言わなくなった。
今ならわかる、あの時の父さんの顔には、どこか痛みを堪えるような色が浮かんでいたことが。
「空気悪ぃわ埃だらけだわ、気持ち悪い」
リヴァイ兵長がいつものスカーフで口元を覆い悪態をつきながら部屋を物色を始めた。
本棚には医療に関するらしい数冊の本しかなく、どれも巨人についての資料ではなさそうだ。
机には紐で閉じられた紙の束が、まるでこれからは誰かに見せようとしているかのように
きちんと重ねて置いてあった。
机の引き出しには鍵がかかっていることもなく、開けてみれば中は空だった。
人類の命運を左右すると思われていたのは机の上の紙束のみ、
そしてそれは実にあっけなく手に入った。
「ほんとにこれがそうか?」
疑わしそうにリヴァイ兵長が言う。
「何がかいてあるんだろう?!もうないよね?これだけみたいだし、早く帰ろう!」
ハンジさんは読みたくてウズウズしているようだ。
久しぶりに触れた懐かしい父さんの匂い。 胸に湧き上がった疑問が勝手に口をついて出た。
「父はこうなることを知ってたんでしょうか 」
「・・・何か知っていたのは確かだろうな。 だがあの襲撃は予期してなかっただろう。
シガンシナが襲われてあわてて戻り、お前にきちんと説明することも出来ねぇままで
緊急に何らかの処置を施しているようだからな。 」
「・・・父はどうなったんでしょう。 もしかしてオレが 」
「喰ったんじゃねぇか、か? クソくだらねぇ。 てめぇは意識を無くしても人を食ったりしてねぇぞ。
つまんねぇこと考えてる余力があるなら隠し扉でもないか探してろ 」
壁を隅々まで調べながらリヴァイ兵長が低い声と眼を飛ばしてきた。
「あっ、す、すみません 」
続けて説教が飛んでくる。
「だいたいお前がろくに片づけもできねぇのは、そもそもは親の躾不足だったようだな。
どうせ全部親がやってくれてたんだろう。 出来すぎる親を持つ子がダメになるって典型だ 」
・・・・・・図星だ。 ぐうの音もでない。
父や母、それからミカサ。 オレは色んな人に守られてた、甘やかされた我儘なガキだった。
最後の最後まで心配させて。 何一つ返すことも謝ることすらできないまま。
空気を読んだのか、空気に全く頓着していないのか、ハンジさんが素っ頓狂な声でからかう。
「あっはは、 じゃあリヴァイの親はよーっぽどだらしなかったんだろうねぇ、ダメ親だと子がしっかりするって典型だよきっと!!」
「うるせぇクソメガネ、俺のは生まれつきだ 」
いつもの応酬が始まったと思えば、ハンジさんは唐突に話題を変える 。
「そういえばエレン、今日は随分と回復が早いようだねぇ? だんだん巨人化を使いこなせるようになってきてるのかなぁ、
ねぇエレン、帰ったら久しぶりに実験させてよ、いいでしょリヴァイ? 」
「好きにしろ」
「好きにしてください」
やったぁ、と万歳するハンジさんを呆れたような目で一瞥した後、
リヴァイ兵長は無言で隠し扉を探し続け、オレもそれにならった。
しばらくして、少し離れた屋根の上から周囲を警戒していたエルヴィン団長の命令が聞こえた。
「10分経過だ。撤収する。」
出ようとしてランタンの明かりが揺れ、今まで影になっていた本棚の隅を照らす。
「あ、ちょっと待って下さい」
本棚の上にひっそりと飾られた写真立て。
父さん、母さん、ミカサ、オレの、何気ない日常を切り取った一枚。
どんなに掛け替えのないものだったか、失った今痛いほどわかる。
オレをそれを手に取り、ジャケットのポケットに押し込んだ。
外に出て新鮮な空気に一息つき、エルヴィン団長の元へ向かいかけた、その時。
落雷のような凄まじい光を伴った爆発音と熱風が至近距離からオレ達を包み込んだ。
「なんだこれっ・・・…!?」
何とか踏みとどまり、灼熱に顔を歪めながら目を眇めて煙の中を窺う。
うっすらと浮かび上がる巨大な影を見極めようと、警戒しながら身を乗り出した、その刹那。
グワン!と、何の気配も前触れもなく、何かとてつもない質量がオレに向かって放たれた。
「な…っ!…」
その何の感情もこもらない攻撃に、オレは全く反応できなかった。
一歩も動けないオレの体は、なぜか次の瞬間宙に浮いた。
何かがオレを粉砕しようとし、誰かが立体起動で助けてくれたのだ、と理解した瞬間、
ゴボッというくぐもった声と同時に熱いような大量の液体が降りかかってきた。
オレを抱える腕が緩み、高度がガクッと下がる。
落下する…我にかえり、ギリギリのところでアンカーを射出し、その誰かを抱え直して何とか着地する。
ミカサだ、と思った。オレのためにこんな無茶をするのはミカサくらいしかいないから。
「ミカサっ!!お前何やってん………えっ?!」
「…うる…っせぇ…な…」
鮮血とともにゴボリと吐き出された声は。
「…っ!!!兵長?!」
自分の口から悲鳴ような声が迸った。
予想もしていなかった、考えたことすらない、無敗の人類最強が、血にまみれている。
「リヴァイ!!!」
ハンジさんの唖然とした叫び声がする。
「やむを得ん!ミカサ、ハンジ、奴を足止めしろ!リヴァイを待避させる!出来るだけ時間を稼げ!」
初めて聞くエルヴィン団長の切迫した声が響く。
「はっ」「任せて!」
即座に行動に入る2人に“それ”を任せ、エルヴィン団長が飛び込んで来た。
「エレン、怪我はないな?」
機械的に頷いたオレを一瞥し、リヴァイ兵長へ向き直る。
「しっかりしろ、リヴァイ!人類最強の名が泣くぞ!」
声をかけながらスカーフを外して素早く傷口を締め、
軽々とリヴァイ兵長を抱きあげて手近で丈夫そうな建物を探す。
その時。知らない声をきいた。
{もう、うっとおしいなあ!アナタたちじゃないんだよ}
「エルヴィン!!まずい!そっちいった!」
「エレン!逃げて!」
ハンジさんとミカサの切羽詰まった警告の叫び声に、
振り向いたオレの目に映ったのは、全身を剛毛に覆われた、見たこともない巨大生物。
そいつは俺だけをしっかりと見据えていた。
眠くて間違い。
>>17
>遅くとも2時にはエレンの家跡にたどり着き、
>遅くとも1時にはエレンの家跡にたどり着き、
>>22
>俺たちは予定よりかなり早い時間にトロスト区の壁にたどり着いた。
>俺たちは予定よりかなり早い時間に「シガンシナ区」の壁にたどり着いた。
今日はここまで。
その獣のような巨人は、いつか見た獣の巨人よりもふたまわりほど小さかった。
どうやら別の個体のようだった。
が、身のこなしも脅威もあの獣に劣らないのは確かだった。
その獣はたったのひとっとびでハンジさんとミカサを出し抜き、オレ達の目の前へ迫っていた。
[さっきの巨人はアナタだよね、やっと見つけたよ・・・。アナタに恨みはないケド、コロスね]
言うなり死をもたらす長い腕が振り上げられる。
今後は体がちゃんと反応する。 すぐさまアンカーを打ち込み、振り下ろされる前に隣の屋根へ飛ぶ。
なるべくリヴァイ兵長から引き離さなくては、それだけを考えていた。
案の定、獣はオレだけを狙っているようだ。 エルヴィン団長やリヴァイ兵長には目もくれず、オレだけを追ってくる。
(よし、このままなるべくはなれて時間を稼ごう。 きっとその間に、ハンジさんがリヴァイ兵長の手当てをして、
そしてトロスト区へ戻ってくれるはずだ。 )
温かい、本物の血。 巨人のそれのように蒸発したりしない、オレの体を染めているリヴァイ兵長の血。
なぜあの人は自分の身を犠牲にしてまで戦うのだろう。
なぜオレなんかをまた庇ったりしたんだ。 オレは気持ちの悪い化け物だっていうのに。
あの人を死なせるわけにはいかない。
たとえオレがここで死ぬとしても、あの人は人類の希望、俺の希望、皆の想いを背負っている人だ。
こんなところで死んでいい人じゃない。
獣がオレに迫っていた。
その後ろにはハンジさんとミカサ。
彼女達の実力をもってしても、この手足の長い、巨人としてもバカ力の獣にはてこずったようだ。
とにかく腕のリーチが長すぎて近寄ることが危険すぎる。
あの腕さえ封じれば・・・・!
( ・・・・やれるか? このまま逃げ回っていればいつかガスが切れる。
オレがもう一度巨人化してこいつを抑えられれれば、ハンジさんとミカサなら殺れるかもしれない)
できるか?ではない、できなければならない。 やらなければならない。
オレは一刻もためらわずにこの日2度目の巨人化を実行した。
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・・・・・空気が震えた。
意識はかろうじて保っているにすぎないが、エレンが巨人化したのがわかった。
あの獣はエレンをピンポイントで狙っていた。
エレンもそれに気づき、俺から引き離して時間を稼いでいるのだろう・・・無茶しやがる。
エルヴィンが何かをしている。 止血だろうか。 何か左腕に刺し込まれるのを感じるが、痛みはない。
すでに体は冷え切り、右半身の感覚はまったくない。指先すらピクリとも動かせない。
俺もここまでか・・・・まあ、やるだけのことはやった、悔いはない。
(・・・・本当にか?)
ああ、あとはほかの奴らが俺の意思をついでくれるだろう、俺がそうしてきたように。
(お前はたくさんの仲間の想いを背負ってきたんじゃねぇのか?それを他人に押し付けるのか?)
みんな俺と同じに強く、勇敢で勇猛なやつらだ。
きっと俺たちの見たかった世界をつかみ取ってくれる。
(扉の外、何ものにも支配されない、自由。 お前はそれを見たくはないのか?手にしたくはないのか?)
(あきらめて・・・・・自分に嘘をつくのか・・・?!それでも人類最強か?!)
・・・・ああ、そうだ、そうだよ、俺は見たい。手に入れたい。こんなところで死にたくなんかない。
死んでいった仲間たちと、生きて戦っているお前らと、これから生まれてくるたくさんの命とともに、
本物の自由の中で生きていきたいんだ!
(エルヴィン、ハンジ、頼む、俺を死なせないでくれ。)
強く強く願った。 そして俺は意識を手放した。
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