ハンジ「トカゲのしっぽ」 (5)
ハンジさんのほぼひとり語り。
人類最強は5年前メンバーにいなかった前提。
初めてなので間違いがあればすまない。
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深夜2時を回り、冷たい白い石の部屋は静寂に包まれる。
そっとベッドが揺れてすぐにおさまり、続いて密かな衣擦れの音が遠ざかる。
「・・・・・もう行くの?」
「・・・寝てろ」
冷めた声でそれだけ言い、黒い影が音もなく出ていく。
週に一度の、奇妙な逢瀬。
私は彼が残した乾いた跡を、その時の記憶とともにひとつひとつたどり、自分の思いを確かめる。
―――大丈夫だ、何も感じない。
当たり前だろう? だってこれは愛とか情なんかではなく、ただの行為なんだから。
“まるで自分に言い聞かせてるみたいだね” と、頭のどこかで嗤う自分がいる。
―――なぜ私は受け入れたんだろう? 彼はなぜ私を選んだのだろう。
実験のように明快な解答がないことが興味深くもあり、同時にとても面倒くさい。
―――だれだってよかったんだろう。
理由は単純明快、極限ゆえの、性欲増強さ。
生命の危機に、子孫を残そうとする本能ってやつ。 ほら、ちゃんと証明できた。
―――人類最強でも命の危険を感じたりしてるんだろうか。
人類最強の胤か、これはいい。 生まれた子はやはり強いのかな? とても興味深い。
そしてとても残念だ。 きっと、その子が成長したときに、私はいない ・・・ おそらく人類最強も。
まあ、人類最強と人類最狂の血を引くなら人類最凶だ、親などなくともたくましく育つだろう。
・・・・なぜかエレンを思い出し、笑いが込み上げた。
まっすぐで素直で一生懸命でひたむきなその器の内に、人類最強をして化け物と評させるほどの何かを持つ、巨人少年エレン。
あぁ、明日は何の実験をしようか? 血なんてセコイ事言わず、手足の先っちょでももらおうか。
切っても抜いてもトカゲみたいに生えてくるなんて、何て素晴らしい。神様からのご褒美。
・・・ようやく眠れそうだ。
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深夜2時を回る。 今日はいつにもまして静かだ。
明日、大規模な壁外調査が行われる。皆早々に部屋に戻り、さまざまに過ごしているのだろう。
震えて祈るもの、家族や恋人に手紙をかいているもの、そして仮初の熱に身を任せるもの。
子供向けの冒険譚ならさしずめこんなタイトルだろうか・・・「巨人少年の秘密の地下室」。
でも私は知っている、本当は、邪悪な女神を捕まえに行くんだって。
その女神はとても強くて狡猾で、だからちっぽけな人間は幾重にも罠を張らなきゃならない。
誰かが金の林檎になって、誰かが盾になって、・・・誰かが生贄になって。
非情に有能な我らが王様は、ごくわずかの古い家臣にだけ、計画をうちあけた。
その中に、人類最強の騎士は居ない。
彼は、明日、金の林檎の盾になるのだ。
窓から漏れる月明かりに照らされた白い冷たい石の部屋。
そっとベッドが揺れ、私の上に影が落ちる。
「・・・・・行かないの?」
「・・・上手に、使えよ」
俺の心臓を。
酷く優しい声でそれだけ言い、黒い影が音もなく出ていった。
私は自分の心を切り離す。 何度切り離しても、トカゲのように再生する思いを。
それは素晴らしくもなく神様のご褒美とも思えない、呪いのようだった。
長い声の猫!
このSSまとめへのコメント
こういうの凄い好きだ