鼠剣士「マスター、イチゴミルクを頼む」 (10)
チワワ店主「見ない顔ね」
鼠剣士「初めて来たからな」チョコンッ
チワワ店主「しかも貴方ネズミじゃないのさ、珍しい」
大人びたフワフワのクリームホワイトなロングヘアーを掻き上げながら、つぶらな瞳を向ける店主は瑞々しい苺を3つほど摘まんだ。
四人席、二人席のテーブルは6つずつ、カウンターは8人は座れるが、まだ陽が暮れる前だからか…
その酒場に足を運んだのはどうやらカウンターの中央に座った、帽子を深く被った焦げ茶色の鼠だけのようだ。
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きたい
鼠剣士「珍しいか」フキフキ
顔は上げず、僅かに手をカウンターに出された御絞りを探り当てると徐に手を拭き始める。
焦げ茶色の鼠に珍しいかと問われたチワワの店主は「クゥン…」と考える。
チワワ店主「そりゃねぇ…だってネズミは今の世の中だと……」
鼠剣士「奴隷制度か」フキフキ
チワワ店主「まぁ、ね」
鼠剣士「ふむ」フキフキ
数分の沈黙。
チワワの店主はつぶらな瞳でカウンターに向かう鼠の剣士を見た。
そう、鼠は剣士だった。
チワワ店主(……ふーん)シャカシャカ
丁寧に手を拭いて一息を着く焦げ茶色の鼠の姿を眺めつつ、ミルクに莓と少量の蜂蜜を足したカクテルを振る。
爽明なピンクに染まるガラス容器の中で、まだ混ざり切らないミルクが流線を描いては上下に揺さぶられて再び流線を描く。
彼女が眺める鼠の剣士の両腰には一本ずつ細身の剣が鞘に納められている。
チワワ店主(装飾は銀でも鉄でもない)シャカシャカ
チワワ店主(鞘と剣の装飾は全て恐らく鋼、壊れやすい箇所はゼロね)シャカシャカ
チワワ店主(そして……『怖がり』ってとこかしらね)シャカシャカ
チワワ店主「お待ちどーさま、嫌な話をしてごめんなさいね?」
鼠剣士「仕方ないさ」
振り終えた店主はクリームホワイトの毛を再び掻き上げながら、グラスに移し替えたイチゴミルクを鼠の剣士の前に置く。
店主の悪びれた弁解に頷いた鼠の剣士はほんの少し高めの声で応える。
冷えたグラスに注がれたイチゴミルクを飲む時も、深く被った帽子を鼠の剣士は脱ごうとはしない。
チワワ店主(………)
使ったカクテルの容器を洗い流している時、店主は鼠の剣士の帽子を観察する。
鼠剣士「コクッ…コクッ…」パタパタ
イチゴミルクを純白のコートの下から出てきた、しっぽを振りながら飲んでいく。
顔立ちは細めのような、どこか幼い印象を持たせるものの。
顔半分から上は深く被った帽子によって遮られてしまっている。
その帽子はよく見ると目元を覆うツバの部分が細かい穴によって埋め尽くされているのが分かる。
チワワの店主はそれで視界を得ているのだと納得をする。
同時に、そうまでして顔を隠さねばならない身分だとも。
チワワ店主「……奴隷制度といえば、聞いたかしら?」
鼠剣士「何をだ」パタパタ
チワワ店主「この国の南に位置する都市で、1ヶ月前に奴隷達の反乱が起きたそうよ」
鼠剣士「それは物騒だな」
チワワ店主「そうかしら? 噂によると都市を支配していた将軍達以外は死人が出なかったらしいじゃない」
鼠剣士「ふむ」パタパタ
チワワ店主「数万のネズミ達による犬と猫族に対する一斉蜂起、彼等にはそれなりの憎悪があったはずよ」
チワワ店主「都市の駐屯兵団は約10万はいたはず、死人が出なければおかしいのよ、双方にね」
そこまで言った時、チワワの店主に鼠の剣士が空になったグラスを差し出した。
そのグラスの下には数枚のコインもある。
鼠剣士「この近くに宿はあるか、泊まりたい」
想像したらすごいかわいい光景が浮かんだ
期待
大塚明夫と田中敦子の声で脳内再生余裕でした
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