【SS】ドラクエ5主人公「フローラが王妃になったら豹変した...」 (1)

10年前のあの日...僕はサラボナでビアンカでは無くフローラを選んだ。
理由は恋情とかではない。
奴隷生活が長かった僕には父親が子供に与える愛は分かっても男女が交わす愛や恋と言うものは全く分からなかった。

正直、妻にするのがビアンカでもよかったが、フローラと結婚しなければ天空の盾が手に入らない為、僕は迷い無くフローラを選んだ。
あの瞬間のビアンカの死んだ目が忘れられないが仕方ない
僕には父パパスから受け継いだ伝説の勇者を探し出し魔界に連れ去られた母を助け出す使命があったからだ。

愛なき結婚だがないものはこれから育めばいいと僕は彼女と旅を続けた。

僕は彼女の胆力に驚かされた。
修道院あがりのお嬢様と聞いていたフローラ。
精々が2‐3日で根をあげるものと思いサラボナ周辺でLv上げも込めて野営と戦闘を繰り返していた。

しかし彼女は弱音や文句を一言たりとも吐かなかった。
根をあげる所か彼女は父親や修道士達の監視を離れ自由に放浪する旅に新鮮を感じたのかイキイキしていた。

一番驚いた所は彼女が見かけによらず戦力になる所だった。
温室育ちの虫すら殺せなそうな見た目をした彼女だが一度モンスターが立ちはだかれば補助呪文や攻撃呪文でアシストしてくれる。
ビアンカと引けを取らない戦いぶりに僕はそのギャップに閉口した。

なんでも彼女は幼い頃占い師に不思議な運命を背負っていると予言され修行を進められた為、修道院で花嫁修業の他に呪文の修行を行っていたそうだ。
はっきり言って彼女の幼馴染のアンディは並みの男より断然戦いの戦力になる。

足手まといになる様なら理由を付けてサラボナに送り返す予定だった僕は良い意味で予想を裏切られる形となった。

これなら彼女を連れて旅にでても問題は無いと踏んだ僕はサラボナ地方を離れて勇者の情報を集めるべく様々な大陸を練り歩いた。


その間も彼女は、僕のサポートに尽力してくれた
そんな彼女をいつしか僕自身頼りにしていたし、彼女のただの盾の引換券とは思わず愛おしく思う様になっていた。

彼女いつだって僕より早く起き、僕が目覚める前に身支度を済ませ
野営際は朝食の準備まで済ませて僕の目覚めを待っていてくれる。

旅暮らしをしていると言うのに、浄化魔法(キアリー)で常に清潔感を保ち、なんなら軽く化粧までしていて僕の為に身なりにまで気を使ってくれている。
言葉遣いも丁寧で恭しく接してくれる。

彼女はいつも冷静で旅をしていて喧嘩になった事もない。
だが、一度だけ...僕がフローラに叱られた事がある。
ポートセルミの町で僕がいつもの様に若い女性の入浴を覗いていた時の事だ。

これはヘンリーと二人で旅していた時に身についてしまった悪癖でフローラの前でも遂やってしまった。
するとフローラは
”私が男性の方のお風呂を覗いていたら、貴方は夫として恥ずかしい気持ちになるでしょう?私も妻として同じ気持ちですわ”と冷静に諭された。

彼女は怒っていても感情的に喚き散らす様な真似はしない。
分かりやすく丁寧に、何が悪いかを教えてくれる。
6歳で父と死別し、母の愛も知らない僕にはフローラは妻であり母の様な存在に代わって言った。

だからと言って偉そぶったり、僕を束縛する様な真似はしない。
ヘンリーと通ったオラクルベリーのカジノでも”たまの息抜きは必要ですわ”と一緒に楽しんでくれたり
幼馴染にビアンカを訪ねに行っても嫌な顔一つせず受け入れてくれる。

まさに彼女こそ良妻だ。
彼女と結婚できた事が僕の人生の最大の幸運だった。


だからこそ...彼女の豹変ぶりに僕は茫然自失し止める事が出来なかった。

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