古美門研介「こんな機会滅多にないぞ」黛真知子「自信がないのかしら?」 (22)

【プロローグ】

「サンタクロースをいつまで信じていたかなんてことは他愛もない世間話にもならないくらいのどうでもいいような話だが、黛君。君はいつまでサンタクロースを信じていた?」
「え?」
「夜中に不法侵入してきて荷物を置いていくという老人のことだよ」
「私は今も信じてます」
「なぁんだって!?」
「今もサンタクロースはいると思ってます」
「君の愚かさはいつも予想の上をいくねぇ」
「ほんとにいます!」

人は信じたいものを信じ見たいものを見る。

「服部さんは如何です?」
「はははは。私の少年時代にはサンタクロースというシステムがござませんでした」
「それは失礼」

そこで少女が呟く。彼女こそ今回の依頼人。

「私は信じたことない」

使い潰された子役は、親の愛情を信じない。

「私はサンタなんて、1度も信じたことない」
「自分の信じたいものだけを信じたまえ。聖書にもあるだろう? 信じる者は救われると」

子供自身による親権の停止の申し立て裁判。
勝訴すれば国内初の判例となる重大な事案。
黛真智子は、朝ドラ全開で説得を試みたが。

「メイさん。もう1度、お母さんと話し合って……」
「私はお母さんを信じてない」
「でも親子なんだから……」
「うるさい!」

少女は聞く耳を持たずに出て行ってしまう。

「12才の子が母親と断絶しようとしている。内心どれほどの苦悩を抱え、血を吐く思いをしてるか君にわかるか?」

この朝ドラにはわからない。私にはわかる。

「二度と薄っぺらい言葉を吐くな」

何故なら、幼少期に似た経験をしたからだ。

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「サンタクロースなんている訳ないだろう」
「サンタにプレゼント貰ったもん!」

小学生の時、同級生の女子と口論になった。

「4年生にもなって本気で信じてるとは驚きだ。あんなものはおもちゃメーカーの策略に踊らされた馬鹿な大人たちの自己満足イベントに過ぎないんだよ」

賢しい子供だった私が一般常識を述べるも。

「じゃあ、誰がプレゼントくれたのよ!?」

通常の子供には理解出来ない。知能が低い。

「愚問だね。一度寝たふりをして薄目を開けているといい。忍び足で君の枕元に糞をするお父さんの間抜け面を見られるだろう」
「サンタさんは脱糞なんてしないもん……」
「フハッ!」
「うえーん……」
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

嗜虐心を刺激されてついつい愉悦が溢れた。
くだらない。優越感に浸る意味もなかった。
彼女にはサンタクロースが来た。その事実。
私にはサンタクロースは来ない。その現実。

「ふぅ……まったくもって、馬鹿げている」

実際は、泣きたいのはこっちのほうだった。

「君のクラスメイトのお母さんが抗議に見えました。君は彼女にサンタクロースはいないと言ったそうですね?」

当然の帰結として告発され父に尋問された。

「……はい」
「何故そんなことを言ったんですか?」
「本当のことだからです。嘘を信じてるほうが馬鹿だからです」
「サンタクロースが存在しない根拠は?」
「だって嘘だから。居ないものは居ない」
「根拠を示しなさいと言ってます」

当時の私はまだ悪魔の証明を知らなかった。

言った言わない論争でもたびたび見られる。
根拠とは事実に基づくもの。虚構にはない。
何かが存在するという根拠は容易に示せるのに対して、存在しない根拠を示すのは困難を極める。小学生でも考えればわかることだ。

「……見たことないし」
「自分が見たことないものら存在しないというわけですか」
「僕だけじゃなくて世界中誰も見たことないです」
「世界中の人にインタビューしたんですか」

馬鹿げている。子供だと思って舐められた。

「サンタクロースが存在しない根拠は?」

何も反論出来なかった。幼い私は愚か者だ。

「君は根拠もなしに、勝手な見解でクラスメイトを傷つけたわけですね。カステラを買って今すぐ謝罪してきなさい」

根拠を提示すべきは、向こうのほうなのに。

「ちなみにそのお金は君のお年玉のために用意してたものなので、そのつもりで」

愚かな私は、父のその冷たい言葉の真意に気づけなかった。カステラの金額などたかが知れている。残りは全てお年玉として貰える。

「なんで僕のお金で、カステラなんか……」

或いはそれは不器用な父親のクリスマスプレゼントだったのかも知れないが、当時の私はそうと気づかず、買ったカステラを自分で食べた。そして当然の帰結として父にバレた。

「何故君がそれを食べてるのか説明しなさい。何でもいい。私を説得してみせなさい」

何故、父がここに居るのか。帰宅前なのに。
今ならばわかる。父は私のあとをつけて、一緒に謝罪へと出向いたのだ。不器用な人だ。

「僕が泣かせた女の子はカステラが苦手なので、持って帰りなさいと言われたから……」
「あの子の大好物はカステラだという情報を得たから、君にカステラを持って行かせたんですよ。それくらいの予想がつきませんでしたか?」

ぐうの音も出なかった。深い失望を感じた。

「頭の悪い子は嫌いです」

父に嫌われた。私も、愚かなガキは嫌いだ。

「どうせ中途半端な人生を送るなら、家名を傷つけないようにどっか遠くへ消えなさい」

耳が痛い。それから暫くして私は家を出た。
父を見返すために。愚かではないと認めさせるために。検事として九州地方の法曹界で名を馳せた父への当て付けのように弁護士となりそして今に至る。今の私は愚かだろうか。

「いつかの悪魔の証明、か。性懲りも無く」

それを証明するのが今回の審問であり、対する父は、さながらあの時の悪魔の証明のようにこの私が優秀である根拠を問うのだろう。

「……上等だ」

根拠は事実に基づく。今回は私に分がある。

「親権を停止させて、どうしたいのか?」

審問が始まった。父の質問を慎重に答える。

「メイさんは更生したいのです。芸能活動を休止し、勉学に励み、通常の人間関係と社会を学びたいのです」
「留美子さん。それは受け入れられますか」
「メイが望むなら受け入れられます」
「ほう。これで済んだ」

開始早々に終わらせにきた。舐められてる。

「メイさんにとって辞めてもいいという母の言葉は辞めたら許さないという脅迫に他なりません」
「何故そうなる。理解に苦しむ」
「メイさんは物心つく前から母親の幸せは自分の幸せなのだと教え込まれてきたんです。一種の洗脳教育です」
「洗脳? 洗脳の定義とは?」
「一般常識と異なる価値観や思想を植え付けることです」

あんたが私にやったように。すると不意に。

「黛先生、でしたね?」
「あ、はい」
「ご家族だけの習慣はありますか?」
「えっ」
「黛家だけのルールはありますか?」

パートナー弁護士は、思い当たったように。

「ああ……あははは。うちでは親しい人がうんちを漏らしたら大笑いして励ますルールがあって、だからみんなそうなんだと思って。クラスメイトが漏らした時に高らかに哄笑したら、その子がめっちゃ怒って。フハッ!」

敵味方も唖然とする室内に哄笑が響き渡る。

「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

閑話休題。裁判長は黛君を摘み出すべきだ。

「なんですか、この香ばしい青春トークは」
「黛先生も洗脳教育を受けておられる」
「こんなものは洗脳とは言いません!」
「しかしあなたが仰った定義に合致します」

こんな糞みたいなエピソードと同列なんて。

「あなたは言葉をよく知らないで使ってる」

刷り込まれる。昔のように。洗脳が始まる。

「洗脳とは、暴力など外圧を用いて特殊な思想を植え付けることである。とはいえ時に言葉も暴力となる。たとえば暴言を繰り返し、根拠もなく批判して、子供の人格を否定した場合などは当てはまるでしょう。しかし、この場合は違う。たしかに多少のマインドコントロールはあったかも知れませんが、親が自分の信じる幸せを子に求めることはごく自然なことです。そしてそれから脱却するためにもがくことも自然なことです。メイさんとそれから黛先生も、極めて正常に発達されていると思われます。悦ばしいことだ。以上!」

一方的に結論付けて、反論を許さない口調。
相変わらずだな。しかし、そうはいかない。
この親あってこの私が存在する。反論開始。

「それで? 結局、何を仰りたいのですか?」

対等ではなくあくまで上から。父のように。

「申し立てを取り下げなさい」
「お断りします」
「君はメイさんに自分を重ねているようだ」
「10代であなたと縁を断ち、自力で人生を切り拓いてきたからこそ今の私があります」
「今の君とは? まさか君は自分が成功者だと思ってるわけじゃないだろうね」

鼻で嘲笑われ、そして批判される。暴力だ。

「昔から君は卑怯で卑屈で、そして何よりも頭が悪すぎた」

その批判に確固たる根拠があるのだろうか。
ただの印象論であり、誹謗中傷でしかない。
訴えれば確実に勝てるだろう。無意味だが。

「無論、君を徹底的に躾、教え込むことを怠った私の責任だ」

あんたをそんな父にした私の責任でもある。

「君はもう手遅れだ」

あんたもな。なのに他所の親子関係に対し。

「しかしこの親子はまだ間に合う」

どの口がそんなことを抜かす。酷い父親だ。

「スカイツリーは大きいですよ。昭和の電波塔より、遥かにね。時代は変わったんです」

あんたはもう古い。そう揶揄すると、父は。

「ならばこの昭和の電波塔を説得してみなさい。君がスカイツリーだと言うならば」

それではこの老朽化した遺物を撤去しよう。

「当事者の主張を聞いて結論を出したいと思います。申し立て人、安永メイさんから」

いよいよ審問は佳境だ。黛君が少女に促す。

「いいのよ、今の率直な気持ちを言えば」

ここが正念場だ。だからこそ、口を挟もう。

「子役・安永メイを演じてきた君は自分の言葉を持たないのかな?」
「そんなんじゃないけど……」
「私が代弁しよう。お母さんにこのような仕打ちをしたことをずっと後悔しているね」

弁護士は依頼者の代弁人でもある。示そう。

「留美子さんは過去に2度、自傷行為しました。違っていたら訂正してください」

確固たる事実。悪魔の証明になどならない。

「メイさんはその都度激しく動揺し、母のために必死に仕事に取り組み、危機を乗りこえてきたんです。今回もそうなると思いましたか、留美子さん?」
「そんな計算で自傷行為をしたとでも?」

あくまで推論だと主張するか。もう遅いぞ。

「いいえ、問題はもっと深刻です。留美子さんにとってメイさんの成功はご自身の成功、明さんの苦しみはご自身の苦しみ。一心同体という比喩表現を超えた、危険な領域です」
「親子手を取り、互いに更生する道を探るべきです」
「不可能です。お互いの依存関係を断ち切らなければ治療も更生も図れません」
「親子の絆は……深くて強い」
「深くて強い絆だからこそ困難なんです」

まだわからないのか。自覚が足りていない。
あんたこそ自分に重ねるべきだ。親目線で。
噛んで含めるように言い聞かせるのは少女。

「お母さんには……私のこと忘れて……自分の人生を歩んで欲しいんです。でもいつかまた……一緒に暮らしたい。明のお母さんは……宇宙に1人だけだから」

ぐうの根も出ない父。勝った。私の勝ちだ。

「……代弁はもう必要ないようですね」
「先生、さっきから臭います」
「フハッ! 私としたことが、つい熱が入って代弁ならぬ大便をしてしまったらしい! ほら黛君、出番だぞ。盛大に哄笑したまえ!!」
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

勝利の美臭に酔い痴れていると、睨まれた。

「静粛に……では、留美子さんのお話を聞かせて貰えますか?」
「……ありません」
「であれば、今回で審問を終わりとします」

反論はなく審問は終わった。最後に黛君が。

「留美子さん。どのような結果になったとしても、親子の縁を切ることはどんな法律でも出来ません。思い合っていれば、親子です」

朝ドラらしいまとめ方だ。実にくだらない。
とはいえ、私には出せない結論ではあるな。
信じる者は救われる。ならば信じるが得だ。

「スカイツリーは大きかったでしょう?」
「いや、東京タワーのほうが大きかった」
「私が捻り出した大便には勝てませんよ」
「君が漏らす前に私は既に漏らしていた」
「フハッ!」
「フハハハハハハハハハハハッ!!!!」

そんなやり取りをして、父を見送ったあと。

「メイさんはこれからどうするの?」
「知り合いがロンドンにいるから留学する」
「ロンドン!? すごーい!」
「ふふっ。かっこいいでしょロンドン留学」
「じゃあ、芸能界はこのまま引退するの?」
「どうせイメージガタ落ちだもん」
「でも勿体ない気もするな……」
「子役は賞味期限の短い消耗品だよ」

依頼人は芸能界を引退するつもりらしいが、三つ子の魂百までという言葉もある。物心ついた時に洗脳され刷り込まれた役者の技能。

「いつかまた一緒に暮らしたい。私のお母さんは宇宙に1人だけだから。どこかで聞いた記憶があるんだがねぇ?」
「あ、それメイさんが主演のドラマの台詞」

そう簡単には人は変われない。そう信じる。

「君は根っからの女優だよ。必ずカムバックするさ。シェイクスピアの国で思う存分学んでくるといい」
「えへへ! じゃねー!」

依頼人はシェイクスピアの国へと旅立った。

【エピローグ】

「はい……ああ、あなたでしたか。いや、わざわざ東京まで出て行って恥を掻くとは思いませんでしたよ……嬉しい? 私が? 息子に負けて漏らすほどに? フハッ! まさか」

奉公人からの電話に談笑しつつ私は訊ねる。

「ところで……あなたのことはまだバレてないんでしょうね?」
「はい。今でもこちらの古美門先生は私のことを一般公募で応募してきたと思ってます」
「そう……嫌ならいつでもやめていいんですからね」
「いえ。先生に拾って頂いた命です。せめて御子息に奉仕させて下さいませ」

服部君は、優秀な忍びだ。研介は知らない。
まさに親心子知らず。独り立ちしたつもりでいる息子はまだまだ子供という証明である。

「それに先生こっちは楽しゅう御座います」

そう嘯いて受話器越しに楽しげな声が響く。

「サンタクロースの起源は恵まれない子に無償で穀物などを配っていた4世紀の司教ニコラスとされています。恐らく彼の行いを弟子が受け継ぎ、やがて一般家庭にも広がっていったんです」
「だからどうした」
「つまりサンタクロースは無数にいるんです。親が子にプレゼントをした瞬間、その人はサンタクロースなんです。サンタクロースとは誰かが誰かを想う心そのものなんです! よってサンタクロースは存在します!!」
「詭弁が得意な黛君。何か臭うんだが?」
「さっきの仕返しですよーだ!」
「フハッ!」
「ビッグ・詭便! 大便だけに。なんちって」
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

ロンドンへと旅立った安永メイへの餞別だろうか。なかなか優秀なパートナー便護士だ。
親しいわけではないが、哄笑させて貰おう。

「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

受話器を置いて確信する。洗脳ではないと。


【リーガル・トイレハイ】


FIN

【おまけ】

「役者志望じゃなく役者! 来月舞台あるし」
「ふーん」

そう威張り散らす蘭丸を少女は鼻で笑って。

「ちなみに、何の役?」
「シャイロック」
「ヴェニスの商人ね。やってみて」
「はあっ!?」
「見てあげるわ」

ふんぞり返る少女。私と黛君が囃し立てる。

「こんな機会滅多にないぞ」
「自信がないのかしら?」

すると蘭丸は渋々演技を披露せざるを得ず。

「しょうがないな……1回だけだからな」

咳払いをして、そこそこの演技力を見せた。

「奴は俺を馬鹿にした。悉く俺の邪魔をして俺の損を嘲笑い……!」
「はいはいはいはい。陥りがちな失敗ね。シャイロックはたしかに糞みたいな悪役だけど、血の通った人間でもあるの。そこがシェイクスピアのふかーいところよ?」

なるほど。しかし抽象的だな。こんな時は。

「はい。服部さん」

白羽の矢を向けると服部さんは名演を披露。

「フハッ! フハハハハハハハハハッ!!!! 奴は……糞を漏らした俺を馬鹿にした……!」

素晴らしい。泣ける。天才子役も感心した。

「うまーい! 私もうかうかしてらんないね」
「はははは。恐縮です」

この時に、少女はロンドン入学を決意した。


【便ミスの商人】


FIN


怪文書

最近クソスレよく立つな
>>1の肛門が緩んでる証拠だな、油物は控えて食物繊維を多く摂った方がいいぞ
頭が悪い文章は神経関連が不安定なのが原因かもしれん、乳製品とくにヨーグルトを中心に常食して小魚の乾物やナッツ類を意識して摂るように、ビタミンEに富むアーモンドやセロトニン生成に重要なトリプトファンに富むクルミがオススメだぞ

不快でつまらないものを書いてやろうって奴が垂れ流す文字とか
まともに読む気になれんのよなあ(苦笑)

RでもVIPでもで誰にも相手されてないカスが
誰かに構ってほしくてスカトロの真似したのかもしれんな

見方変えればスカトロがいつも自分に酔いながら作っているものは
どんな奴にでも簡単に模倣できるようなレベルのゴミってことでもあるんだよな

実用日本語表現辞典によると、怪文書とは

>怪文書
>読み方:かいぶんしょ

>怪文書(かいぶんしょ)とは、奇怪な文書のこと。
>元々は「出どころが不明で、信憑性も不明な、胡散臭い文書」を指す語。
>最近では俗に「ひどい悪文に気色悪い内容の、きてれつな文章」を指すような意味で用いられることがある。

だとさ

中身見る気はまったくないけど古美門はフハッ!って言いそう

お前達もしかして>>1に構ってほしいのか

>>13>>19
お前もしかして俺達に構ってほしいのか?w

ここまで内容に関する書き込み一切無し
読む気すら起きないレベルのゴミじゃしゃーない

>>14
このアホはスカトロ好きを装ってるが下剤と整腸剤の区別もつかないアホだから
アドバイスしても理解できないと思うぞ

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