風都探偵ss Wの称号/風の導き (83)

風都探偵のssです。
アニメの影響を受けて書いてみました。
物語の時期は大体原作110話直後だと思ってください。それではどうぞ…

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1672244295


 風都。その名の通りこの街にはいつも透き通った心地の良い風が吹いている。
 街の中心に位置する巨大な風車を催した風都タワー、そこから流れる風は街に住む住人ならば誰もがその恩恵を受けるだろう。
 そして俺こと左翔太郎もそのうちの一人だ。
 愛用の帽子を深く被りながら今日もこの街に流れる風を心地よく感じて…


「翔太郎!そっち行ったよ!早く捕まえて!?」


 そんな黄昏る俺を余所に喧しい声が…
 助手のときめだ。せっかくハードボイルドに決めていたのに邪魔してくれるぜ。
 ちなみにこれでも仕事中だ。迷子になった猫を捕まえるべくときめと二人で追いかけている真っ最中。
 え?お前サボッてないで働けだと?いやいやサボっていたわけじゃない。
 こうして風の流れを感じて猫が何処へ行くのか探っていたんだよ。
 まあそうこうしているうちになんとか猫を路地裏まで追い詰めた。



「さあ、観念しな。もう逃げ場はないぜ。」


あとは捕まえるだけだ。そう思って猫に近づこうとした。


「ダメ!そっちは危ないよ!」


思わずときめが叫んだがなんと猫は捕まるのを嫌がり俺たちの隙をついてスルッと抜け出し道路へと飛び出た。
やべっ!なんと道路にはトラックが現れた。
すぐに俺は駆け足で走り出して猫を捕まえた。だが遅かった。
猫を掴んだと同時にトラックが俺の目の前まで迫ってきた。
このままだと轢かれる。そう思った俺はなんとか猫だけは守ろうと背中で庇おうとした。


………おかしい。なんともないぞ。
ひょっとしてトラックの運転手が咄嗟にブレーキを踏んで止まってくれたのだろうか。
だとしたらありがたい。俺はすぐに運転手にお詫びとそれにお礼を言おうと振り向いたがそこには驚くべき光景があった。



「よう、無事かい。」


なんと俺の前に見知らぬ男が立っていた。
 しかもその男はなんと片手でトラックを受け止めていたのだ。
 10トンはある大型トラックだぞ。それをこの男は片手で平然と受け止めている。
 これは…一体どういうことだ…?


 「翔太郎!猫ちゃんは!それに…」


 「ああ、俺は…猫も無事だ。けど…アンタ…大丈夫か…?」


すぐにときめが駆け寄ってきてくれたが俺はまだ呆然としたままだ。
だってそうだろう。目の前にいる男がトラックを受け止めているんだぜ。
こんなの仮面ライダーでもなければ無理に…待てよ…まさかこの人は…


「驚かせて悪かったな。けど無事でよかった。」


「いや、こっちこそ助けてくれてありがとう。
それにしてもこの力…アンタ…ひょっとして仮面ライダーなのか?」


 助けてくれた命の恩人に思わずそんな質問をしてしまった。
 不躾かもしれないが仕方がない。目の前でこんな事態が起きたんだから警戒してしまうのは当然だ。



 「そういえば…素顔で会うのは初めてだったな。」


 「素顔で会うのは?まるで以前に会ったことがある言い方だな。」


「ああ、これまでも何度か会っているぞ左翔太郎。」


オイオイ、まさか俺の名前までご存知とは…
 けど何度もと言われても俺にはこの人と会った記憶がない。
 これでも探偵をやっている身だ。職業上出会った人間の顔はそう簡単には忘れない。
 だからこそ疑問だ。本当にこの男は何者だ?


 「悪いが俺はアンタと会った記憶が本当にないんだが…」


 「そうだろうな。こうして面と向かって話をすることすら初めてだからな。
それじゃあ自己紹介させてもらうよ。俺の名は一文字隼人。またの名を仮面ライダー2号だ。
改めてよろしくな左翔太郎。いや、仮面ライダーW。」


 そう言いながら彼は俺に挨拶がてら自己紹介してくれた。
 え?一文字?仮面ライダー2号?えぇ――――――ッ!?




 「フィリップ大変だー!話を聞いてくれ!なんと偶然スゲー人と会ったんだ!?」


 一文字さんと出会った直後、俺は急いでかもめビリーヤードの二階ある鳴海事務所へと戻った。
 まさか単なる迷い猫の捜索中に伝説の男一文字隼人が現れたんだ。
 これぞまさにビッグニュース。そう思い血相変えて事務所に戻ってきた。
 だが事務所に戻ると相棒のフィリップは確かに居るがもう一人見知らぬ男がいた。
 見た目大柄で渋そうなライダーズジャケットを着込み見るからに厳つい男だ。
 まさか依頼人か?そう思ったが…しかし男は事務所の台所でなんと珈琲を淹れていた。
 しかも事務所にある珈琲豆を勝手に使ってる!それはこの街で一番美味い鈴鳴珈琲店で仕入れた豆なんだぞ!?
 そう動揺する俺に対して男は淹れてくれた珈琲をカップに注いでそれを俺とフィリップ、それに依頼人に猫を返して遅れて帰ってきたときめに渡してくれた。
 まあせっかくなんだしひと口飲んでみた。


 「美味…」

 
 
 思わず言ってしまったが本当に美味い。これは最高だ。

 俺だって上手く淹れようと努力してるのになんだよこの人簡単にやってのけるなよ心が折れるだろうがよ。つか誰なんだよ!?


「誰とは心外だな。以前に会っているはずだぞ。」


男がそう言ってきたが…そういえばどこかで会った気が…あ!


「どうやらようやく気づいたようだね翔太郎。そう、彼の名は本郷猛。仮面ライダー1号だよ。」


隣でフィリップが呆れながらに彼のことを紹介してくれたが…
同時に俺もようやく思い出した。そういえば会っていた。
そう、仮面ライダー1号こと本郷猛。俺たちの大先輩だ。



「いや~美味いな珈琲!まさに立花のおやっさん直伝だな。」

 
「そうだな。けど豆がよかったのもあるぞ。本当にいい豆を使っているな。」


それから先程出会った一文字さんも合流して客人の本郷さんに一文字さん、それと俺たち鳴海探偵事務所の面々と和気藹々(?)としたお茶会となった。
それにしても目の前に信じられない光景がある。
なんせうちの事務所にあの伝説の男たちが珈琲片手にくっちゃべっているんだ。
こんな光景滅多に見れるもんじゃないぞ。


「ねえ、いい加減説明してよ。この人たち一体何者なの?」


そんな緊張する俺の隣に相槌するようにときめがこの人たちが何者なのかと説明を求めてきた。
まあ事情を知らないときめには一応説明しなきゃならないんだが…


「悪い…実は俺もよく知らないんだ…」


「え?嘘?だって何度か会ってるんでしょ。」


まあ確かに何度か会ってはいるのは事実だ。
けど思えばいつも他のライダーたちとの集まりだったり戦闘の真っ最中だったりでまともに話かけたことがなかった。
そんな二人について改めてどう説明すればいいのかなんてむしろ俺の方がしてほしいくらいだ。




「…仕方ない。ここは僕の出番のようだね。」


すると本郷さんの淹れた珈琲を飲み終えた相棒のフィリップが席から立ち上がると瞑想をするような動作を取った。
どうやら相棒は地球の本棚に入ったようだ。
俺の相棒ことフィリップはこの地球の凡ゆる記憶が保存された地球の本棚を閲覧する力がある。
俺には見えないが、いまフィリイプの目の前にはこの地球の記憶が保存された大量の本棚がある。
これを一冊ずつ読み解くのはかなりの手間が掛かるだろう。
だがフィリップはそんな手間を省くためある言葉を口にした。


「キーワードは[仮面ライダー]」


そう一言呟くとフィリップの前にあった大量の本棚は一瞬で殆どが消え去り一冊の本が残された。
本に記されたタイトルは[仮面ライダー]
フィリップがキーワードで検索して得た知識だ。



「かつてこの世界に悪の組織があった。その名はショッカー。」


「ショッカーは才能ある人間を洗脳して改造人間を尖兵にして世界征服を企んだ。」


「本郷猛と一文字隼人。彼らはショッカーによって改造された改造人間だった。」


その昔、俺たちが生まれる前から暗躍していた悪の組織ショッカー。
悪逆非道の限りを尽くして人々の平和を脅かした非道な集団だ。
そんなショッカーに本郷さんと一文字さんは改造手術を受けて改造人間にされた。


「だが彼らは洗脳される直前に組織を脱走した。」


「そして人類の平和と自由のために戦う戦士、仮面ライダーとして戦うことを決意した。」


「仮面ライダー1号、仮面ライダー2号、数多の脅威を退けた彼らに人々は称賛するかのようにこう呼んだ。」


「栄光のダブルライダーとね。」


そう、仮面ライダーの始まりは彼らにあった。
本郷さんがショッカーを脱走して仮面ライダーとして戦わなければ今頃この世界はショッカーによって世界征服されていたかもしれない。
今日まで平和が保たれているのは彼ら先輩ライダーたちのおかげだと俺は思っている。



「え? 1号と2号でダブルライダー?仮面ライダーって翔太郎とフィリップに…それと所長の旦那さんのことじゃないの?」


「いや、仮面ライダーの称号は僕たちだけのものじゃない。他にも大勢いるんだよ。」


本郷さんに次いで新たに仮面ライダー2号となった一文字さん。
それ以降も仮面ライダーの系譜は続いた。
仮面ライダーV3、ライダーマン、仮面ライダーX、仮面ライダーアマゾン、仮面ライダーストロンガーと…昭和の時代だけでも10人以上もの仮面ライダーが存在している。
平成では…聞いた話だと1万人を越したというがそれだけのライダーがいたら村が出来そうな人数だな。
まあそんなわけで今や仮面ライダーも大所帯と化していた。


「へえ、てっきり仮面ライダーはダブルとアクセルだけかと思ったけど他にも居たんだ。
あれ?ということは翔太郎たちって本郷さんたちの許可なく仮面ライダーの称号を今まで勝手に使っていたということなの?」


オイやめろ。その件についてはあまり触れないでくれ。
俺たちは先代のおやっさんの意思を継いで仮面ライダーとなった。
つまりこの件を辿るとそもそもおやっさんが勝手に仮面ライダーを名乗ってたことから始まって…
だからこの問題は本当にややこしいんだよ。



「ハハハ、ライダーの称号なんて勝手に使ってくれて構わないよ。
お互いライダーになった経緯は異なるだろうがそれでもキミたちは人を守るために立ち上がった。
その想いがあれば十分だ。」


 「その通りだ。なんせ浅倉なんて凶悪犯がライダーを名乗っているくらいだ。
それを思えばこの街を守るためにライダーを名乗るキミたちは余程立派だよ。」


…そういえば居たよな…浅倉なんてやばいのが…NEVERの傭兵たちもライダー名乗ってたし…
まあそれはともかくとしてこうして俺たちは今まで曖昧で済まされていた仮面ライダーの称号に関して本家ダブルライダーから許可を得られた。
けどこの件に関しては雑談にしか過ぎないのだろう。恐らく本題はこれからだ。



 「ところで本郷、お前どうしてこの街を訪れた?ちなみに俺はカメラマンの仕事で訪れたわけだが…」


「うむ、それに関してだがまずは俺の方から風都の探偵諸君に聞きたいことがある。先日キミたちが解決した死仮面連続殺人事件についてだ。」


この件に触れられて俺とフィリップは思わず苦い顔になった。
まずは事件の概要を説明しよう。事件は古代民族文化の東堂幸三教授の死から始まった。
その死に顔はいま思い出しても余りにも不気味なものだった。
引きつったような激しい笑顔の死体。それが事件の始まりだった。
俺たち事件の調査を進めていく中でこの事件がかつてこの街でガイアメモリをバラ撒いて暗躍していた組織ミュージアムの長である園崎琉兵衛が絡んでいることを突き止めた。
園崎琉兵衛はロンドバレル島の遺跡を発掘するに辺り死んだ東堂の他に三人の協力者がいた。
電子工学と生物学のルーク・ランカスター、発掘学の調査技師の吾妻仁、遺伝子学の咲夜栄介。
彼らのイニシャルを肖ったL・A・S・Tのメンバーたちの連続殺人。
狂気の殺人鬼により次々に襲われるL・A・S・Tのメンバーたち…その犯人の正体は…
 まあ、この事件に関しては最後まで語らなくてもいいだろう。どうしても知りたければ本誌を読んでくれ。
とにかく俺は本郷さんに事件の詳細を明かした。
けれど本郷さんは事件についてよりもある点について興味を示していた。
それから少し思い悩んだ意味深な表情を浮かべながら考え事に耽っていた。



「やはり…そういうことだったか…」


「オイオイ、自分だけ納得するなよ。みんなわけがわからなくてサッパリだぞ。」


「すまん一文字、俺もまだ半信半疑なんだ。
それでだ。もうひとつ諸君に頼みたいことがある。俺たちを園崎邸に案内してくれないか。」


その言葉に俺は思わず飲んでいた珈琲を吹いてしまった。
ときめが汚いと叫んでいるがぶっちゃけそれどころじゃない。
この人は自分が何を言っているのかわかっているのか?


「本郷さんいくらアンタの頼みでもそれは聞けないぜ。あそこはかつてミュージアムの本拠地だったんだぞ!?」


かつて園崎低の主である園崎琉兵衛とその一家が住んでいた屋敷だ。
それに園崎は…



 「本郷さん、あなたが園崎邸に行く目的は一体何なんだ。それを教えてほしい。」


 隣に座る相棒のフィリップが冷静にそれで淡々とそう尋ねた。
 俺がこの件に触れられたくない理由はフィリップにある。
 何故ならフィリップは園崎琉兵衛の実の息子だ。
 既にミュージアムが崩壊して数年が経過しても家族の縁はそう簡単に切れるものじゃない。
 だから触れてほしくない。おまけに…


 「いまこの街には裏風都の住人たちが暗躍している。園崎邸に近づけば彼らを刺激する可能性がある。」


 フィリップは本郷さんにこの街の現在の状況を説明した。
 確かにフィリップにしてみれば園崎家の問題には触れてほしくないだろうがそれだけの私的な事情ばかりじゃない。
 園崎邸にはアレがある。だから下手に近づけば裏風都の連中を刺激する可能性は高い。
 

 「わかっている。だが俺もどうしても確かめたいことがある。無理な頼み事だとは重々承知しているが頼む。」


 それでも本郷さんは頑なだった。
 まあ1号ライダーにこうまで頼まれたが断ることなど出来ない。
 それにこの人たちなら妙なことにはならないはずだ。
 こうして俺はまず風都署のジンさんに建物に入る許可を取りたいと連絡を入れた。
 現在あそこは風都署の…それも超常犯罪捜査課の管理下に置かれている。
 ちなみにだが本来こういった件はジンさんの上司であり俺たちと同じ仮面ライダーこと照井竜に相談するのが筋だ。
 けどあいつは留守中。うちの所長で奥さんの亜希子を連れて親戚への挨拶がてら大阪に行っている。
 あいつら結婚して暫く経つのにまだ親戚への挨拶回りを済ませていなかったらしい。
 そんなわけで新婚旅行を兼ねて大阪まで羽を伸ばしているそうだ。
 まったく復讐に燃えていた男も今となっては形無しだな。まあそんなわけでジンさんからアポは取れた。
 こうして俺たちはさっそく園崎邸に向かうためそれぞれのバイクに乗って出発しようとするが…



 「…何だ…?」


 一瞬の出来事だった。バイクに乗り込む瞬間に妙な風が吹いた。
 そのことに俺以外誰も気づく素振りはなかったが…
 けど嫌な感じだった。こう何か胸騒ぎがするような…
 とにかく考えても仕方ない。俺は一足先に発進したみんなの後を追って愛車のハードボイルダーのアクセルを吹かした。
 こうして園崎邸へと向かうわけだが…けれどこの時この胸騒ぎの予兆を確信すべきだった。
 何故ならこれこそがこれから起こる事件の前触れだったのだから。

とりあえずここまで、大雑把な導入部でした。

ちなみに翔太郎たち風都のライダーが仮面ライダーの称号を使っていることに関してこれは私の独自解釈に過ぎません。
なので本気になさらず



 鳴海探偵事務所を出て30分弱といったところだろうか。
 本郷さんと一文字さんが乗る市販のバイク、それに俺とフィリップが乗るハードボイルダーにときめが乗った亜希子の原付が古びた廃墟の前で止まった。

 
  
 「着いたぜ。ここが園崎邸だ。」



 バイクから降りた俺たちは園崎邸の前に立った。
 ミュージアム崩壊と同時にこの屋敷は炎に包まれ無人の廃墟と化した。
 この屋敷の主だった園崎琉兵衛はかつてここで人類そのものを地球と一体化させるガイアインパクトを企てた。
 だがその野望も俺たち仮面ライダーによって打ち砕かれこうして廃墟のみを残してすべてが消えた。まさに強者どもが夢の跡だ。



 「…」


 そんな当時の思い出に耽る俺たちを余所に本郷さんは敷地内へと入った。
 それも鉄の鎖で施錠された門を苦もなく素手でこじ開けてだ。
 さすがは改造人間。こんな頑丈な鎖は俺じゃ絶対無理だ。
 あとからこの廃墟の管理人から滅茶苦茶怒られたが俺と一文字さんが謝ってなんとか事なきを得た。
 けど問題は本郷さんだ。
 まるで夢遊病の患者みたく何かに導かれるように迷いもなく敷地内を歩いていた。
 それから屋敷の中に入りそこから地下へと続く階段を降りるが…


 「ここで行き止まりか。」


 建物が崩れて行き止まりになっている瓦礫の山を見て本郷さんはようやく我に帰ったのか正気に戻ってくれた。
 それでも瓦礫の山に手をかざして何かを感じていた。


 「大きな力を感じる。やはり…そういうことだったのか…」


 何かを感じた本郷さんはようやく自分の考えに確信を持てたようだ。
 しかし同行している俺たちには事情がさっぱりわからないままだ。



 「本郷いい加減に話してくれ。そのためにわざわざここまで来たんだろ。」


 「そうだな、長い話になる。まずはこれを見てくれないか。」


 本郷さんは胸元のポケットから一枚の古びた写真を出して俺たちに見せた。
 写真には三人の男が写っていた。一人は若かりし頃の本郷さん。(見た目は今と全然変わらない)
 それに中央に居るのは初老の男でもう一人若い男が写っているがこいつ何処かで見覚えが…
 待てよ…この男…ひょっとして…


 「父さん…間違いない…これは父だ…けど…どうして…」


 どうやらフィリップも気づいたようだ。
 この古びた写真に写っているのは本郷さんとそれにもう一人は若き日の園崎琉兵衛だ。
 けどこれはどういうことだ。何故本郷さんと園崎琉兵衛が一緒に撮った写真がある?



 「フィリップ、改めて話そう。
俺とキミのお父さん園崎琉兵衛はかつて城南大学の同期生だったんだ。」


 「まさか!そんな話聞いたこともない!?」


 「無理もない。俺も園崎がミュージアムの黒幕だと知ったのは彼が死んだ後だった。
だから今までどうしても打ち明けることが出来なかったんだ。」


 本郷さんと園崎琉兵衛が大学の同期生だったのは本当に驚きだ。
 隣にいる一文字さんも知らなかったようだし長年の相棒にも打ち明けていなかったのはよっぽどの事情があるようだ。
 

 「本郷さん、わざわざこの場所まで来て長年の秘密を打ち明けるにはそれなりの事情があったと思う。そのことを話してほしい。」


 「わかった。すべてを話そう。俺と園崎は大学の同期生で気の合う学友だった。
園崎はよく故郷の風都を自慢していたよ。この街はとてもいい街だと…いつか来てくれ…その時は案内すると…」


 本郷さんは園崎琉兵衛と大学生活を共に過ごした過去の思い出を淡々と語った。
 二人とも学業に専念していくがいつの頃か琉兵衛は自分の研究に没頭するようになった。
 それから暫くしてのことだった。




 「ある日、園崎は学会である発表をした。それが風についてだ。」
 

 その内容はロンドバレル島でL・A・S・Tのメンバーたちに説いた内容と同じものだった。
 どうやら園崎琉兵衛はこの時既に後のガイアメモリ製造に関わる核心に迫っていたようだ。
 ところが…


 「だが俺も含めて……殆どの人間がその説を信じなかった。」


本郷さんは俯きながら悔いるようにそう呟いた。
無理もない。園崎家の当主としての権力があればいいが何の力もない一介の学生が訴える学説など誰が信じるだろうか。
ましてや恐らく当時はまだ仮説の段階にしか過ぎず確かな根拠が何一つ無かった。
そんな実証出来るわけもなく殆どの人間から相手にされずいつしか園崎琉兵衛は学内から疎まれるようになった。
 その後、本郷さんもまた園崎琉兵衛との交流が途絶えて学校を卒業後はすっかり音信不通となり今日に至った。


「だが園崎は長い歳月をかけて見つけ出した。この先にあいつが探し求めていたものが…泉が…」


 本郷さんは再び目の前の瓦礫に手をかざしてその先にある存在を感じ取っていた。
 同時に俺も過去の出来事を思い出した。
 かつてこの園崎邸の地下には緑色に輝く泉があった。
 園崎琉兵衛はそれをガイアゲートと呼びその力を使ってガイアインパクトを実行に移そうとした。
 だがそれは風都を守る俺たち仮面ライダーによって未然に防がれた。
 本郷さんが感じているのは今はもう塞がれた泉の力なんだろう。
 ここまでの話で本郷さんと園崎琉兵衛の関係は把握出来た。
 それでもフィリップはまだ何か納得していないようなところがあるらしくこんな質問をした。



「本郷さん。あなたは殆どの人間といった。…つまり僅かながら父の説を信じた人間がいたんですね。」


「ああ、それがこの人だ。俺たちの恩師にあたる緑川博士だ。」


そういって本郷さんは先程見せた写真中央の初老の男性を指した。
なるほど、この人が緑川博士か。


「待て本郷!緑川博士といえばお前を改造人間にした…言うなれば仮面ライダーの生みの親じゃないか!?」


「そうだ。緑川博士こそショッカーに洗脳されるはずだった俺を救い出し仮面ライダーへと導いた恩師。
当時緑川博士は教え子だった園崎の話を信じた。
俺たち仮面ライダーは大自然の使者と謂われているが何故風の力を用いるのか。
一文字、お前とて一度は疑問に思ったことがあるはずだ。」


 その言葉に一文字さんは思わず悩み込んだ。
 しかし緑川博士が園崎琉兵衛の話を信じたとしたら…



 「園崎の話を信じた博士はこう考えたのだ。
風には火、水、土、木にはない無限の可能性があるのだと…
だからこそ博士は仮面ライダーが用いる力に風を選んだのではないか。
この場所に来て俺はこのことにようやく確信が持てた。」


 なるほど、本郷さんが無理を承知でここに案内してほしいと頼み込んだのはそれが理由か。
 これでこの場所での要件は済んだ。
 だが直後にフィリップに向かい頭を下げながらこう告げた。


 「フィリップ、いや…園崎来人くん。すまない。俺のせいだ。
学生時代に俺もお父さんの話を信じてやれば…
キミたち家族がガイアメモリによって振り回されることはなかったのに…」


 「そんな…頭を上げてください…僕たち家族があのような末路を辿ったのはあなたのせいではない…」


 本郷さんのそれはある意味で懺悔のような謝罪だった。
 そんな謝罪にフィリップは逆に申し訳なく思っている。
 こんな二人のやり取りを見て俺は思わずこう呟こうとした。



 「一人は悪の道を…もう一人は正義の道を…お互い真逆の道を歩むとは…運命のすれ違いか。」


 だが俺が呟く前に一文字さんがそんな皮肉めいたことを言ってしまった。
 運命のすれ違いと言われたら…そうかもしれない。
 本郷さんはショッカーに拉致され改造手術を受けた。本来なら彼は悪の道に染まるはずだった。
 だが彼は緑川博士に助けられて仮面ライダーとなって正義の道を歩んだ。
 園崎琉兵衛はこの街に戻り結婚して家族を育みやがてガイアゲートを見つけ出した。
 だがヤツはその力に魅入られフィリップをはじめ家族を犠牲にしてガイアインパクトを引き起こそうと悪の道を歩んだ。

 これほどまで相反する運命はないだろう。けど俺は思う。
 二人は歩んだ道は決して運命ではない。必然だ。
 何故ならこれは俺自身が園崎琉兵衛と対峙したからこそわかることだが…
 あの男は過去の一件がなかったとしても必ずやガイアメモリの力を手に入れて街を混沌に貶めていただろう。   

 さらに追求すべきは園崎琉兵自身の説を信じた恩人の緑川博士が生み出した仮面ライダーの存在だ。
恐らく意図しなかったことだろうが自分の唱えた説を信じた恩師により仮面ライダーは誕生した。
後に仮面ライダーの称号を受け継いだ息子のフィリップによって倒される。
 園崎琉兵衛と仮面ライダーの関係を知ったいまとなってはこれが彼の運命だったのだろう。
自身がもたらした結果によりその野望を阻まれた。運命の柵…
まさに皮肉めいた自らの業が招いた末路だったのかもしれない。




 「ねえ、これで用事は済んだわけでしょ。それなら早くここから出ない?なんだか気味が悪いわ。」


 今まで黙って話を聞いていたときめがいい加減帰ろうと訴えてきた。
 そうだな、もうこれで要件は済んだ。長居していいような場所じゃないんだ。
 早く事務所に戻ろうと…そう思った時だ。


 「待てッ!お前たちこのまま帰れると思うなよ!!」


 急に背後からそんな怒鳴り声が聞こえてきた。
 何だ?まるで昭和の悪役みたいな台詞を吐いてくるな。
 後ろを振り向くとそこには先程門前で出くわした管理人の男だ。
 管理人はえらい剣幕でこちらを睨みつけているが一体何者だ?
 すると管理人が作業着を脱いだ。脱ぐとその下には詰襟の白いスーツが…これはまさか…



 「お前!財団Xのエージェントか!?」


 間違いない。こいつの制服は財団Xのものだ!
 そしてこいつは財団Xから送り込まれたかつてミュージアムに出資していた財団Xの…加頭順と同じエージェントか!


 「加頭…懐かしい名だな…昔は俺もあの人の下で働いていた…」


 「ハンッ!それじゃあ敵討ちでもしに来たわけか!」


 「馬鹿を言うな。あんな何を考えているのかもわからない冷血漢の敵討ちをしたがる物好きがいるものか。」


 うわ、かつての部下に思いっきり死体蹴りされてるぞ加頭…
 まあ確かにあの男は人間らしさに欠けていたという点は否めないか。
 それから男は懐から何かを取り出した。ガイアメモリだ。それも[D]の刻印が記されていた。


 「ガイアメモリか。やはり財団はまだミュージアムの遺産を…風都を狙っているわけかよ!」


 ミュージアムの崩壊、及び担当エージェントだった加頭順の死で財団Xはこの街から撤退した。 
 そう思っていたがやはり財団はミュージアムの遺産を欲しているようだ。
 こうして園崎邸にエージェントを配置していることが何よりの証拠だ。




 「フフ…ハハハ…ミュージアムの遺産?風都を狙う?寝ぼけたことを言うな!このゴミ溜めに価値などあるか!?」


 なんだともういっぺん言ってみろ!この街がゴミ溜めだと!?


 「こんなゴミ溜めの街にも…ガイアメモリにも価値などないんだよ!」


 財団Xのエージェントはその手に握り締めているガイアメモリをまるで今にでも投げ捨てようとするような勢いでそう言い放った。



 ここで物語から脱線するがこの男の詳細を説明しておこう。
 この男の名はダスト。勿論本名ではなく組織から与えられたコードネーム…なんて洒落たものでもない。
 単なるあだ名だ。それも蔑称に近い。
 何故こんな蔑称が付けられたのか?この事情を語るには加頭順が死んだ直後まで遡る。
 かつてこの男は加頭の部下だった。そのため財団はこの男にガイアメモリの量産を一任していた。
 既にミュージアムから既存のガイアメモリのデータは得られていた。
 それこそミュージアムの頂点に在ったテラードーパントの力すら…
 ダストが財団Xからガイアメモリの生産を任されてから数年は量産ラインも順調だった。
 だがそれも僅か数年と短い期間に過ぎなかった。
 年々新しい仮面ライダーが増えていくに連れて悪の組織もミュージアム以外に数多く増えた。
 太古のメダルに宿るグリード、ゾディアーツ、ファントム、インベス、ロイミュード…etc…
 俺が知るだけでも相当な数の悪の組織が出現した。
 それに伴い財団も連中に出資して新たな怪人のデータを得ていく。
 財団Xも一応は企業だ。いつまでも同じ製品を造っていては顧客に飽きられる。
 

 「今やガイアメモリは過去の遺物。財団Xでは二束三文の価値すらない!単なるゴミなんだよ!!」


 そうなってくるだろうな。いくら財団Xが既にガイアメモリのデータを全て採取していたとしても開発元だったミュージアムが潰えたせいで新規のガイアメモリを生産することは出来ない。
 つまりガイアメモリに未来はない。そう判断した財団はガイアメモリをお払い箱にした。
 先のないガイアメモリより新たな可能性のある上位互換たる新製品の開発に着手すべきだ。
 ある意味普通の会社でいうコストカット。こうなると割を食うのは担当者だったダストだ。
 ガイアメモリの生産が打ち切られた以上、どうすることも出来やしない。
 今更何処ぞの悪の組織にガイアメモリを売りつけようとしても時代遅れの製品に価値などないと門前払いされるのがオチだ。




 「だから俺はもう一度組織でのし上がるために機会を待ち続けた!そしてようやくそれが訪れた!」


 「何言ってやがる。そんな機会なんて今まで何度もあっただろ。何で今頃になって…」
 

 ミュージアム崩壊後も風都では事件が絶え間なく頻発していた。
 EXEのチンピラたちやそれに最近では裏風都の連中が暗躍している。
 風都で暴れようとする機会なんていくらでもあったはずだ。
 するとダストは俺たちの方を指した。


 「お前だ!本郷猛!」


「ミュージアム…それも園崎琉兵衛の身辺を調べてお前たちがかつて学友だったこと、それに過去の経緯を辿った。それでこう考えた。お前はいずれこの街を訪ねると…」


「長年我ら財団Xの関連組織を潰してきた仮面ライダー1号…それに一文字隼人までいるとなれば…」


「伝説のダブルライダーを倒せば大きな手柄になる!そしてもう一度返り咲くことが出来る!!」


要するにこいつは本郷さんを誘き出そうとしたわけか。
財団Xのエージェントならクライアントの身辺調査なんて朝飯前か。
これでダストの事情はわかった。
まあ事情がわかったところで財団Xのエージェントである以上容赦はしない。




『DUST!』


ヤツは身体にあるコネクタにガイアメモリを接続。禍々しい音声が発せられたと同時に不気味な怪物に変化する。
全身が錆び塗れで無機質な身体でありながら黒い液体がドロドロ流れた気味の悪い巨体だ。
おまけにヤツの背後からゾロゾロとマスカレイドたちが現れた。
どうやら奴さんやる気満々だ。


「財団Xのエージェントならば容赦せん!」


「本郷俺も戦うぜ!財団Xは俺たちの敵だ!」


同時に本郷さんと一文字さんも戦闘態勢に入った。
二人とも拳を握り締めて今すぐにでも飛び出す勢いだ。
けど悪いがここは風都だ。つまり…



「こいつの相手は俺たちに任せてくれ。なあフィリップ。」


「ああ、この街の平和を乱す者は僕たちが許さない。」


俺は変身用ベルトのダブルドライバーを取り出し腹部に装着した。
同時にフィリップの腹部にもダブルドライバーが出現。
これで戦闘準備は整った。


「気をつけろ。ヤツは堂々と出てきたのだから何か策があるぞ!」


本郷さんの助言は最もだ。こんな堂々と出てきて正攻法で戦うのだから相当自信があるようだ。
それを踏まえるとヤツと戦うには…
そんな考え込んでいると俺たちの前を飛行するメカが現れた。こいつは…



「エクストリームメモリ!フィリップまさか初っ端から…」


「敵が未知の存在ならばこちらも全力でいくべきだ。」


フィリップが召喚したのはまさかのエクストリームメモリだ。
確かに通常フォームよりは効果的かもしれないが初手からこいつを使うのはフィリップにしては珍しい選択だ。
そんなフィリップだがよく見ると不機嫌な様子だ。
そうか、ここは園崎邸の…しかも家族が亡くなった場所でありフィリップにしてみれば墓所みたいなものだ。
だというのにダストは土足でこの墓所を土足で踏み込んだ。
それを考えたらフィリップが不機嫌なのは当然か。



「OK!先輩たちの前だ!カッコイイとこ見せようぜ!」


フィリップの意見を聞いた俺は自らのガイアメモリを取り出した。
色が黒くそれでいて[J]の刻印が印されたガイアメモリ。同じくフィリップも緑色の[C]の刻印が印されたガイアメモリを握り締めた。


『CYCLONE!』 『JOKER!』


握ったガイアメモリから発せられた音声と共に俺たちは同時にこう発した。


「 「変身ッ!」 」


その瞬間、エクストリームメモリが俺たちの頭上に舞い降り同時に俺とフィリップの身体はひとつに同化した。
周囲には眩い光が発せられてその光の中から一人の戦士が現れる。
左右が緑と黒、それに真ん中が銀色の三色に染まった最強の戦士。
これぞ俺たちがひとつになった仮面ライダーWサイクロンジョーカーエクストリームだ。

ここまで
 
今回の敵はssオリジナルの敵になります。



そして戦いが始まった。


「トォッ!」 「タァッ!」


本郷さんと一文字さんは襲いかかるマスカレイドの集団を次々と蹴散らしていく。
変身せずともこれだけの数を相手によく…さすがは歴戦の戦士だぜ。
だが俺たちだって負けちゃいないぜ。


「ハァッ!」


一発二発とドーパントに打撃を加えてヤツに確かなダメージを与えていく。
こいつ…いや、ダストドーパントとでも呼んでおこうか。
闘いが始まってみればこちらは優勢だ。
つか待てよ。こいつそんな強くもない…というより弱くね?
これなら通常フォームでも十分楽勝だぞ。


「グハァッ!?」


続いてキックをお見舞いしてヤツを蹴っ飛ばした。
これでヤツはもうフラフラだ。あとはトドメを刺すだけだ。
CJXの専用装備で攻守一体武器のプリズムビッカーを取り出した。
4本のメモリをプリズムビッカーに装填。
Wのエネルギーが中央部のマキシマムスターターに集められた。


「 「ビッカーファイナルイリュージョン!」 」


プリズムビッカーから七色に輝く破壊光線が発射された。
どんなドーパントだろうがこの一撃でメモリブレイクは確実だ。
これで事件解決。…とそう思った時だ。



「オォォォォッ!喰らえッ!!」


なんと直撃する寸前でダストドーパントがメモリの力を発動。
同時に先程の必殺技が吸収されて今度はヤツの腹部から破壊光線が発射された。


「うわぁぁぁぁっ!?」


その直撃を受けて俺たちは後方へと吹っ飛ばされた。
危なかった。咄嗟にプリズムビッカーで防がなかったらどうなっていたか…
それにしてもまさかヤツが攻撃を吸収するタイプだったとは予想外だ。
どうやらこれがDUSTメモリの能力か。


『翔太郎、こうなれば接近戦だ。飛び道具が駄目なら剣を使うんだ!』


相棒の冷静な意見に俺も同意した。
先程の攻撃はなんとか受け切れたのでこちらのダメージなんて大したことはない。
だが攻撃を吸収して跳ね返すとなれば射撃系の武器は使えない。そうなれば…
そこで俺はビッカーシールドに納まっている最強の剣プリズムソードを抜き出した。
 抜き出したと同時に緑色の刃をダストドーパントに指した。今度こそ確実にトドメを刺すという意思表示だ。


 「 「ビッカーチャージブレイク!」 」


 そして間髪入れずヤツの懐に入り込み必殺剣で斬りつけた。
 しっかりと手応えもある。今度こそ最期だ。そう核心したのだが…



 「この時を…待っていたァッ!」


 そう叫ぶとヤツはたったいま斬りつけたプリズムソードを身体に押し込もうとした。
 馬鹿ッ!なんて真似しやがる!
 こっちはメモリブレイク出来ればそれでいいんだ。なのにこれでは身体を引き裂いてしまうぞ。
すぐにヤツの身体に押し込まれたプリズムソードを引き抜こうとした。
けど何故か引き抜くことが出来ない。CJXの力で抜けないなんてありえない。
そう疑問を抱いた時だ。


 「ダァブルゥ…お前の力を頂くぞぉ!」


今度は俺の身体を掴んできた。
急いで掴んできたヤツの両腕を振り払おうとするが…出来ない…
よく見るとヤツの腕がCJXのボディと一体化…いや…吸収していた…
何だこれは…一体どうなっていやがる…?


 『まずいぞ…翔太郎…このままだと…僕たちはヤツに吸収されてしまう…』


 フィリップの警告通りCJXの身体が徐々に侵食されていくのが肌で感じられた。
 身体中に酷い嫌悪感が過る。それに身体から力が抜けていく。
 まるで身体中の生気を奪われていくような…
 このままでは不味い。なんとかこの状況から脱出しようともがくがそれすら出来ないとは…
 もう…駄目か…



 「そこまでだ!」


 だが間一髪で一文字さんが俺の身体をダストドーパントから強引に引き離してくれた。
 すかさず本郷さんが攻撃を仕掛けてヤツを退けた。
 

 「しっかりしろ翔太郎!大丈夫か!?」


 「俺は平気ッス…けど…」


 ヤツに生気を吸われたのだろうか意識が朦朧とするが俺は辛うじて無事だ。
 だが無事なのは俺だけだ。
 助け出されたと同時に俺はライダーの変身が解けて元の姿に戻っていた。
 本来なら隣にいるはずの相棒の姿が何処にも見当たらない。
 いくら姿がなくてもダブルドライバーを装着している限り俺たちは意識が繋がっているがその反応すらないとなると…
まさかと思った俺は腹部のベルトを恐る恐る見てみた。


「無い…エクストリームのメモリが無くなってる…」


ヤツに吸収される直前までベルトに装填されていたはずのエクストリームメモリがない。
あるのは俺のジョーカーメモリだけでサイクロンメモリすらない。
アレにはフィリップの意識だけでなく…データ化された肉体が在る。
それが無いなんて…まさか…



「翔太郎!大変!あれを見て!?」
 

ときめがいち早く気づいたがヤツの頭上にエクストリームメモリが備わっていた。
まさかこいつダブルの力を吸収したのか!?


「ハハハハハッ!これで仮面ライダーの力は俺のモノだ!」


ヤツは高笑いしながらそう叫んだ。
冗談じゃねえ。仮面ライダーの力を悪用されてたまるか。
しかしヤツは力を失った俺になど目も暮れず先程本郷さんが手を翳した瓦礫を壊してその奥へと入った。
まさか…あいつ…


「フフフ、ここが地球の本棚か。随分と寂れた場所だな。」


同じ頃、フィリップは地球の本棚でヤツと…ダストドーパントと対峙していた。


「何故ここに…この場所は…僕しか入れないはずなのに…」


ヤツが地球の本棚に立ち入ったことでフィリップは激しく動揺していた。
無理もない。この場所はフィリップにしてみれば聖域みたいなものだ。
そこにいきなり部外者が侵入してくれば動揺するのは当然だ。


「確かこうするのだな。キーワードは風。」


ダストがキーワードを唱えたと同時に無数にあった本が消え去り一冊の本が残った。
何かを察したフィリップはすぐにそれを奪おうとする。
だが直後にヤツの身体から発せられた無数の触手に身体を拘束されて身動きが取れなくなった。


「見つけた。これだ…この力だ…」


「これでようやく…このゴミ溜めから抜け出せる…」


「今こそ発動させよう。」


「エクストリィィィィィムッ!!!!」


先程瓦礫の中に侵入したはずのダストドーパントが突然そこから勢いよく飛び出して何処かへと去った。



「野郎!逃がすかよ!」


「待て翔太郎!ときめくんが!」


すぐにヤツを追いかけようとしたが何故かときめが苦しそうにしていた。
見てみると苦しそうな呼吸だ。
それだけじゃない。ときめの目から出血が…


「翔太郎…大丈夫か…お前も目から出血が…」


本郷さんから指摘されて気づいたが俺まで出血してるなんて…
まさかこれはダストの攻撃か?
けど俺は攻撃なんてされた覚えがない。


「あ…う…うぅ…」


それだけではなかった。いつの間にか意識朦朧として気を失ってしまった。
薄れゆく意識の中、俺とときめは本郷さんと一文字さんに抱えられてこの廃墟から抜け出した。
だが混乱はここだけではなかった。


「助けて!息が苦しいの!」


「お願い!子供が血を流して大変なの!」


「もう駄目だ…お願い…助けてくれ…」


この街…風都に住む人々の悲鳴が聞こえてきた。
誰もが苦しみ…そして助けを求めた。
なんとか手を指し伸ばそうとしても俺自身もまた身体の自由が効かない。
そんな中で俺はふとある場所に目を向けた。
街のどこにいても見ることの出来る風都タワーだ。


「な…どうして…風都タワーが…止まってる…」


 その光景を目の当たりにしながら俺の意識は途絶えた。
 どんな時でも風都の人々に希望の風を届ける風都タワーの風車が止まった。
 長年風都で暮らす俺にはある意味この光景が絶望のように思えた。



「翔太郎大丈夫…?」


「ああ、もう平気だ。心配かけてすまなかったな。」


あれから30分が経過。園崎邸を抜け出した俺たちは現在風都署にいた。
この風都署だが実は地下に緊急用のシェルターが設置されている。
現在このシェルターに風都の人々が大勢避難している。
こんな街だ。もしもの時の備えと照井が予め用意してくれたそうだ。
先のミュージアムとの戦いでは運用されずに済んだので無駄かと思われていたが…
備えあれば憂いなしとはまさにこのことだ。
それにしても問題は逃げてきた人々だ。
みんなが園崎邸での俺やときめと同じ症状に陥っている。
ダストドーパントと逃げてきた人々の症状、それに風都タワーの風車が止まったこと。
これらが関係していることは間違いないのだろうが一体どういうことなのかわけがわからなかった。



「…これは恐らく風都に毒が撒き散らされているからだ。」


そこに本郷さんが現れた。見ると苦しんでいる人たちを何人も抱えている。
どうやら俺が気を失っている間に逃げ遅れた人を運んできてくれたようだ。


「風都に毒を…どういうことだ…?」


「正確に言えばこれは毒ではない。だが人体には間違いなく悪影響を及ぼしている。
何故なら敵は風を利用してこの街の大気を高濃度に変えたのだ。」


本郷さんからの説明によるとどうやら敵はサイクロンメモリの力を使って純粋な酸素を街に流したらしい。
これにより街の住人たちが俺たちを含めて酸素中毒を発症してしまった。
なるほど、道理で苦しいわけだぜ。
ちなみに本郷さんと一文字さんが無事だったのはやはり彼らが改造人間だったからだ。
生身の人間ではなかったおかげだからこそ助かったわけだが…
あまりこのことについては彼らのプライバシーにも関わるので触れないでおきたい。


「そうか、敵はサイクロンのメモリを使ってこんな騒動を起こしたのか。チクショウ!よくも俺たちの力を悪用しやがったな!」


「だが問題なのはあのダストだ。ヤツが自力でここまでやってのけるとは思えん。やはり背後に黒幕がいるのでは…」


本郷さんが指摘する黒幕の存在だが…その黒幕とやらに俺は一人だけ心当たりがあった。
だが今は黒幕のことなんてどうだっていい。この事態をどうにかしなければならない。
本来だったらすぐにでもダストの追撃に出なきゃならない。
しかし…先程の戦いの影響か…まだ体調が不完全だ。
それにダストドーパントによってサイクロンメモリ…いや…フィリップを敵の手に奪われた。
俺たちは二人で一人の仮面ライダー。だから一人欠ければ変身は不可能だ。



「翔太郎…所長に連絡したんだけど…いま二人してこっちに戻ってきてくれるけど…
大阪から風都までどうやっても1~2時間はかかるって…」
 

ときめが亜希子たちに連絡を取ってくれたがやはりそのくらいの時間はかかるか。
ダブルに変身出来ない状況となればこの街を守るもう一人の仮面ライダーであるアクセルの力に頼るしかねえ。
なんとか照井が戻るまで時間を稼がねえとな。


「…悪いがそんな悠長なことは言ってられないぞ。」


そこに一文字さんも現れた。本郷さんと同じく倒れた人たちを担いでこのシェルターへと運んできてくれたけど…
それにしても悠長ってどういうことだ?


「実は先程ライダーマンの結城丈二から緊急の連絡が入った。財団Xの追撃部隊があと10分でこの風都に到着するらしい。」


「10分なんて…そんな…」


「それも奴さんたちご丁寧に最新鋭の装備で来るらしいぞ。余程手柄が欲しいようだな。」


 冗談じゃねえ。財団Xの追撃部隊だと…
 唯でさえこの事態に対処出来てないってのにそんなのが来たら…
 照井が大阪から風都まで戻ってくるのに1~2時間。
 だが10分後に追撃部隊が来るとなればどうなるだろうか。
 恐らく照井が戻ってきた頃にはこの風都は焼け野原と化すだろう。
 



「頼むダブルライダー!力を貸してくれ!風都を…この街の人々を守ってくれ!」


俺は本郷さんと一文字さんの前で必死に土下座をして頼み込んだ。
ダブルの力が使えない、いまとなっては彼らに頼るしかない。


「落ち着け翔太郎、まずは土下座なんてやめて顔をあげてくれ。」


「けど…こんなことになったのは俺のせいで…」


「いや、こうなった原因は俺のせいだ。俺が園崎邸に行きたいなんて無理な頼み事なんてしなければこんなことにならなかった。」


 気づけば俺と本郷さんは互いに悪かったなんて言い合っていた。


 「馬鹿、今はどっちが悪かったなんて問題は後回しにしろ。」


「そうだよ!早く街の毒を元通りにしてフィリップを助けないと!」


そうだった。今は責任問題は後回しにしよう。けど問題は山積みだ。
一旦冷静さを取り戻して俺はもう一度現在の問題を整理してみた。
やはり一番に対処すべきはダストドーパントがこの街に放った有害な酸素だ。
ヤツはサイクロンメモリとそれにエクストリームの力を使ってこの街に毒を流しやがった。
この問題を解決しない限り人々は苦しんだままだ。



「けどエクストリームの力を使ったにしても酸素中毒に苦しんでる人はいても死人は出ちゃいないな。」


「それは恐らくヤツがダブルの力を…正確に言えばジョーカーの力を取り損ねたからだ。
だからヤツは完全な力を発揮出来なくて人々も辛うじて助かったのだ。」


本郷さんの話を聞いて俺は手元に有るジョーカーメモリを見つめた。
まだ切り札はこちらにある。ライダーの力が使えなくてもやりようはあるはずだ。


「それでダストドーパントだがヤツめ調子に乗ったのか風都ゴールデン街で暴れまわってるぞ。
手当たり次第暴れて俺たちダブルライダーを誘き出す算段らしい。」


 さらに一文字さんからの情報を聞いてヤツの居所も掴んだ。
 それにしてもゴールデン街は厄介な場所で暴れてやがるな。
あんな居住区の近くで暴れられたら人々の被害が増してしまう。
それにあそこだと風都タワーが近い。街のシンボルを壊したらタダじゃおかないぞ。



「風都タワーか。なるほど、それなら…」


現状を把握した本郷さんはなにやら考え込んでいるがそこから名案を思いついたのかすぐにこんなことを言い出した。


「この問題を解決するには唯一つ、風都タワーを動かす必要がある。」


風都タワーを動かすって…オイオイ待ってくれ…
そのことを聞いて俺は先程の気を失う前の出来事を思い出した。
あの時、薄れゆく意識の中で俺は辛うじて風都タワーの風車が止まっているのを見た。
普段はこの街の至る場所に穏やかな風を送る風都タワーの風車が止まるなんて決してありえない。
それが止まるということはダストドーパントがこの街の風を支配したという証だ。


「一体どうやって風都タワーを動かすつもりだ!ダストがこの街の風を支配してるんだぜ!?」


「それについては俺たちに考えがある。それよりもだ。
風都タワーを動かすにはまず敵の妨害を阻止しなければならない。つまり囮役が必要だ。」


そこで本郷さんは俺に対して視線を向けた。
同時に本郷さんが何を言いたいのかすぐにわかった。
この俺に囮役をやってほしいのだと…


「すまん、ライダーの力を失ったお前には酷かもしれんが…」


本郷さんは申し訳なさそうにしているが…
確かに今の俺はライダーの力を…それに相棒のフィリップもいない。
正直戦力外として扱われても仕方がない。けどこのまま何もせず苦しむ人々を見過ごすなんて出来るものか。


「たとえ変身できなくても俺は探偵で仮面ライダーだ。この街は俺が…いや…俺たちが守る!」


敢えて俺ではなく俺たちと言ってみせた。その理由はこの場にフィリップがいなくてもあいつなら俺と同じ想いだとわかっているからだ。
とにかくこれでやることはハッキリした。
残り10分で俺が囮役となってダストドーパントを風都タワーから引き離す。
その間に本郷さんたちがこの毒を除去する。財団Xの追撃部隊が到着するまでがタイムリミットだ。
これでやるべきことは決まった。グズグズしている暇はない。さっさと行動に出るべきだ。



「いいや、10分じゃない。残り5分だ。」


さあ、動こうとした矢先のことだ。
一文字さんがいきなりそんなことを言い出してきた。何を言っているのかわけがわからない。
事態はのっぴきならない状況だ。それなのにどうして10分じゃなくて5分なんだよ?


「翔太郎、お前は一度ヤツに敗北している。おまけに相棒のフィリップもいない。
それでライダーの力を失ったお前が囮役とはいえヤツに太刀打ち出来るとは俺には思えん。
だからこれより5分間で特訓を付けてやる!」


 え?特訓?オイオイ冗談だろ。そんな昭和じゃあるまいし…それに時間が…


「そうだな、一文字の言う通りだ。
思えばこれまで先輩としてお前たちに何もしてこなかった。
だからこそ、今ここでお前を鍛え込む。覚悟はいいか!」


 お二人さんもうやる気満々だ。
 こうなったらもう覚悟を決めるしかない。
 俺は拳を握り締めて彼らの特訓を受けた。



「ハハハハハッ!このゴミ溜めが!壊れろ!壊れろォォォォッ!!」


 風都のゴールデン街ではダストドーパントが大暴れしながら周囲の建物を破壊していた。
 まるで積年の恨みを晴らすかのように破壊を繰り広げる姿はまさに狂気に駆られていた。


 「待て!これ以上暴れるのはやめろ!」


 そこへハードボイルダーに乗った俺が駆けつけた。


 「翔太郎!今度は私も一緒に戦うよ!」


 大型特殊装甲車のリボルギャリーに乗ったときめも参戦だ。
 確かに俺はライダーの力を失っている。だからといって戦うことを諦めちゃいない。
 それに俺には頼りになる仲間が残っている。
 さらにヤツがこの街に仕掛けた毒風にも対策を施した。
 急拵えだが風都署にあった防護マスクを本郷さんが改造してくれたおかげで外での活動が可能だ。
 第一ラウンドは向こうが制した。だがこれが三本勝負ならまだこれからだぜ。
 



 「フンッ!お前の力は俺が頂いた!今更お前に何が出来る!」


 「喧しい!ライダーの力だけが俺の全てじゃない!
ときめ、さっきの戦いを見てわかるが距離を取れ!不用意に近づくなよ!」


 「OK!まかせて!」


 ダストドーパントの攻撃がこちらに向けられるが俺たちはそれを難なく躱してみせた。
 確かに力ではエクストリームの力を得たヤツの方が上だ。
 しかしこちらにはマシンの機動力がある。それにスタッグフォンやバットショットにスパイダーショックなど頼れるメモリガジェットたちも総動員だ。
 

 「みんな、ヤツに吸収されるな!攪乱作戦でいくぞ!」


 メモリガジェットたちにそう指示を与えてとにかく吸収に警戒させた。
 だが距離を取るだけでは駄目だ。まずはダストをこのゴールデン街から遠ざけなきゃならない。


 「翔太郎!行くよ!」


 ときめからの掛け声でリボルギャリーからワイヤーが射出された。
 ワイヤーはダストの身体を拘束、それと同時にリボルギャリーはエンジン全開でヤツを引きずりながらヤツの移送を開始した。



 「どうやら始まったみたいだ。」


 「そのようだな。翔太郎たちも頑張ってはいるがライダーの力を使えない状況では防戦がやっとの状況だ。」


 俺たちがダストドーパントと攻防を繰り広げている頃、本郷さんと一文字さんはある場所を目指して急いで向かっていた。
 そこは風都で一番高い場所だが…
 そんな時、一文字さんがあることに気づいた。


 「おい本郷、あれを見てみろ。どうやらおいでなすったようだぞ。」


 本郷さんも一文字さんが指した方角を見るとそこには仰々しい軍用のヘリが飛んでいた。
 この平和な街に似つかわしくもない代物だ。


 「まずいな。翔太郎たちのところに向かっているぞ。」


 「急ごう。グズグズしていられん。」


 輸送ヘリを目視した二人は再び駆け上がり目的の場所を目指した。



 「ここでいいな。ときめ、ワイヤーを外してくれ。」


 一方で俺たちはダストドーパントをゴールデン街からこの人気のないスクラップ置き場に移送することに成功。
 リボルギャリーのワイヤーを外してこれでヤツはもう街を破壊することは出来ない。


 「待たせたな!今度はこっちの番だ!」


 俺はハードボイルダーのアクセルを吹かしてそのままヤツに正面から体当たりをかました。
 だがヤツは難なくそれを防いだ。
 

 「この程度でヤラれると思ったか!」


 「…いいや。ときめ!頼む!」


 「うん!リボルギャリーいくよ!」


 さらにそこへリボルギャリーが猛スピードでヤツの背後からタックルしてきた。
 これには流石に堪えたのか思わず吹き飛ばされてしまった。
 これで有効打は与えた。このまま攻め続けるぞ。



 
 「機動力はそちらが上か…ならば…!」


 するとヤツは俺の頭上をジャンプしてリボルギャリーにしがみついた。これはまさか…


 「キャァァァッ!」


 ときめの悲鳴が響いた。リボルギャリーにしがみついたヤツは下半身をドロドロに溶かすとそれがリボルギャリー全体を覆った。


 「ハハハハハッ!どうだ!これで機動力の問題は解決だ!」


 そこには高笑いしながら下半身をリボルギャリーと融合したダストドーパントの姿があった。
やりやがった。あの野郎今度はリボルギャリーを吸収しちまった。
 パワーアップしたヤツはアクセルを全開にして今度は俺目掛けてタックルを仕掛けてくる。
 なんとか逃げようとスクラップの山の間を抜けるがヤツはそんなことなどお構い無しに破壊しながらこちらへ迫ってきた。
 まるで重戦車だ。


 「フンッ!まさに蟻と像だな!喰らえッ!」


 そしてヤツの猛タックルによりハードボイルダーが吹っ飛ばされた。
 バイクから吹き飛ばれて俺は地面に激突。幸いにも動けないというほどではないがそれでもかなりの傷を負ってしまった。
 おまけに…クソ…防護マスクまで壊れた…
 そのせいで辛うじて防いでいた中毒症状がまた発症してしまった。
 口から吐血を起こし息をする毎に呼吸が苦しい。まともに立つことすら出来ずその場に倒れ伏してしまった。




 
 「フフフ、ここまでのようだなダブルの片割れ。」


 そんな倒れた俺の前にダストが現れた。見るとヤツは満面の笑みでいやがる。
 確かにパワーアップしたヤツにしてみればこの状況はさぞかし愉快だろうな。
 だがヤツはこれで満足などしていなかった。


 「さあ、お前のジョーカーメモリを寄越せ。それで俺は今度こそ完璧にエクストリームの力を支配できる。」


 「冗談じゃねえ…お前なんぞに渡してたまるか…」


 ヤツにジョーカーのメモリを渡してみろ。そうなれば…
 今は辛うじて風都の人々が酸素中毒に陥るだけの症状で済んでいる。
 だがダストがエクストリームの力を完全に支配したら…
 その瞬間、この街に住む人々は一人残らず全滅だ。
 だから何があろうと決してメモリを渡すつもりはない。


 「嫌だといえばこの女がどうなってもいいのか。」


 ダストはリボルギャリーのコクピットを開けるとそこには四肢を拘束されたときめが人質となっていた。
 ヤツはプリズムソードを取り出すとその刃をときめの首元に翳した。
 これ以上メモリの譲渡を断ればときめの首を斬るという意思表示だ。

 
 
 「ダメ翔太郎!こんなヤツの言うことなんか聞かないで!」



 自分が人質に取られてもときめはこんなヤツの言うことなんか聞くなと拒否した。
 確かに俺も同じ人質になったら悪党の要求なんて断るだろう。
 だけどときめは俺たちの大切な仲間だ。なんとかして助けてやりたい。
 だがジョーカーのメモリを渡せばヤツはすぐさま風都の人々を抹殺するだろう。
 クソ…何か打つ手はないのか…と思った時だ。
 何処からともなく機械のローター音が聞こえてきた。

 ふと見上げるとそこには一機の軍用ヘリがこちらに向かって降り立とうとしていた。
 それからヘリが着陸して数人の男たちが現れた。
 みんな白い襟爪の制服を着ているがこいつら…財団Xのエージェントじゃねえか!


 「ダスト、お前のようなゴミにしてはよくやったと褒めてやる。」


 「だがダブルなど所詮は小物。」


 「我らが狙いはダブルライダーだ!ヤツらはどこだ!?」


 他のエージェントたちは俺たちのことなどどうでもいい存在のように狙いはあくまでダブルライダーのようだ。
 そんなダストだがどうにも様子がおかしい。
 現れたエージェントたちを前にして物凄い形相で睨みつけていた。


 「黙れ!ダブルライダーは俺の獲物だ!今更現れて横取りとはハイエナか!」


 「キサマ…ダブルの力など奪ったくらいでいい気になるな。これを見ろ。」


 エージェントたちはそれぞれなにかのツールを取り出すとそれを使って姿を変貌させた。
 あの姿は…確か…ギーツとかいう新しいライダーが戦っているジャマトって怪人じゃないか?
 さらにリーダー格の男が俺たちライダーと同じようなベルトを装着した。



 「変身。仮面ライダーシーカーだ。」


 なんということだろうか。リーダー格の男は仮面ライダーに変身してしまった。
 あいつは確かギーツとそれにリバイスってのが戦った悪のライダーだ。
 けどあれは本物じゃない。恐らくは財団がそのデータから得た複製品に過ぎない。
 それでも最新のライダーの力をいとも簡単に複製するとは…やはり財団Xは侮れないな…


 「それがどうした!力なら俺だってぇっ!」


 そんな最新鋭の装備を施した財団のエージェントたちを相手にダストは果敢にも挑んだ。
 俺たちから奪ったエクストリームの力なら戦力は互角…いや…それ以上だと…だが…


 「ぐはぁっ!?」


 だがヤツは呆気なく倒されてしまう。一矢報いることすら出来ずにだ。
 


 「な…何故だ…」


 「愚か者め。旧式のダブルの力なんぞで最新装備の我らの適うはずあるまい。」


 「所詮はゴミ、このゴミの山と同じということだ。」


 「まさにお前にお似合いな墓場じゃないか。」

 
 同じ組織の一員だというのにヤツらは倒れたダストを蔑んだ。
 いくら敵とはいえ見ていて不快にしかならない。
 それに敵に渡ったとはいえ一応は俺たちの力だ。まるで自分たちを否定された気分だ。
 けど今がチャンスだ。倒れたダストのところへ近づいてなんとかフィリップとそれに
ときめを救出しなきゃならない。
 



「う…おぉぉ…」


 俺は這いつくばりながらもダストの下へと近づこうとした。
 だが事態はそう甘くはなかった。
 すぐに追撃部隊のヤツらに気づかれてしまった。


 「これがあの加頭順を倒した仮面ライダーWか。」


 「それにしてもなんと無様な姿だ。みっともない。」


 「我ら財団Xに楯突いた罪は重い。この街諸共消し去ってやるぞ。」


 連中はこの街での活動を妨害した俺もターゲットにしているわけか。
 相棒と助手は人質に取られてライダーに変身は出来ずおまけに酸素中毒を発症してしまった。
振り返ってみて改めてわかるが確かに今の状況は絶望的だ。
 

 「けど諦めるなんて出来るかよ。」


 「俺が…俺たちが諦めたら…その時はこの街に住む人たちがみんなやられちまう…」


 「そんなことはさせない。たとえどれだけ無様と罵られようが…」


 「この街は俺が…俺たちが守る!」


 そうだ。もう立ち上がる力がなかろうと…
 這いつくばってでも守ってみせる。
 それがこの街を守る探偵であり仮面ライダーでもある俺たちなんだ!




「 「よくぞ言った!この街を守る仮面ライダー!!」 」



 その時、何処からともなくこのスクラップ置き場に果敢な声が響き渡った。
 一体何処からとこの場に居る全員が見回してみるとなんと声は風都タワーから発せられてきたものだ。
 この街の何処からでも見ることが出来る巨大な風都タワー。そこに設置されている巨大な風車に注目するとそこには二人の男たちがいた。
 あれは…本郷さんと一文字さんだ!


 「現れたな本郷猛!それに一文字隼人!」


 「財団X!これ以上の横暴は見過ごすわけにはいかん!」


 「この街の人々を死なせはしない!行くぞ!」


 この場に居る誰もが本郷さんたちが現れた風都タワーに注目した時だ。
 いまだ酸素中毒に苦しむ俺にほんの少し…微かにだが…心地よい何かを感じた。
 これは風だ。ダストドーパントによって封じられた風が微かにだが戻ってきたのか。
 けど…どうして…



 「ライダァァァァッ!」


 すると本郷さんがポーズを取った。腹部には大きな風車の付いたベルトが出現。
 あれは変身ベルトタイフーン。同時に一文字さんの腹部にもベルトが現れた。
 二人はそれぞれ独特のポーズを決めると同時にこう叫んだ。


 「 「変身ッ!!」 」


 一仭の風が吹いた。そして現れたのは二人の戦士。
 あれは…間違いない。かつてショッカー、それにゲルショッカーと数多の悪の組織を倒した仮面ライダー1号と2号。
 伝説のダブルライダーの登場だ。


 「クソ…やはり左翔太郎は囮か。ダブルライダーが本命だったか!」


 ダブルライダーの登場と同時に財団Xの連中は俺になど目も暮れず風都タワーに向けて総攻撃を仕掛けようとした。
 

 「まずはこの街に流れる毒を浄化する!行くぞ一文字!」


 「オォッ!本郷!」


 「エネルギー全開!ライダータイフーン!!」


 ダブルライダーがそれぞれポーズを取るとなんということだろうか。
 変身ベルトのタイフーンにある風車ダイナモが激しく動き出した。
 いや、それだけじゃない。
 彼らのベルトの風車に共鳴するかのように…風都タワーの風車が動き出した。


 「何だこの風は!?」


 怪人どもが思わず驚いてみせるがこのスクラップ置き場に…いや…ここだけじゃない。
 街の中心にある風都タワーからこの風都全体に凄まじい風が吹いた。
 なんて風だ…目も開けられないほどに…本当に凄まじい風だ。
 けど…この風は…流れ込んだ瞬間にこれまで感じていた息苦しさが消えていく。
 まるで傷ついた身体を癒してくれるみたいだ。


 
 「これで街に流れた毒はすべて浄化された。」


 「だがまだ終わっていない。」


「風都よ聞いてくれ!この街を守る若者たちに…」


 「もう一度立ち上がる力を与えてくれ!!」
 

 彼らの言葉に呼応するかのように更なる突風がこの場に吹雪いた。
 周りの悪党どもはこのとてつもない風に狼狽えるばかりだが…
 何故か俺にはそれがとても心地よく…さらに力がみなぎる。
 

 「おのれダブルライダー!よくも!」


 この場に居る怪人たちは誰もがダブルライダーに注目していて俺のことなどすっかり忘れている。
 チャンスは今しかない。俺は傷ついた身体でなんとか立ち上がった。
 正直まだ身体中痛いが泣き言なんて言っていられない。
 立ち上がったと同時に拳にありったけの力を込めた。そして未だ呆然とダブルライダーに注目するダストドーパント目掛けて…




 「ライダァァァァッ!パンチッ!!」


 俺の拳がダストドーパントの顔面を直撃した。
 付け焼刃だがこれぞ時間がない中でダブルライダーから特訓を受けた一文字さん直伝のライダーパンチだ。
 それにしても痛…仕方ない…怪人を思いっきり生身の拳で殴ったんだ…痛みくらい当然だ。


 「うぐっ…あが…」


 だが俺の痛みよりも殴られたヤツの方が深刻だった。
 ダメージだけなら大したものではないはず。
 それでも仮にも怪人が生身の人間の拳をまともに受けたとあれば動揺するだろう。
 それに俺は拳を放っただけじゃない。


 「あが…苦しい…身体が言うことをきかない…どうなっている…?」


 「そりゃ苦しいだろうな。こいつを取られたらよ。」


 「そ…それは…サイクロンの…」


 俺は手に持っていたモノをヤツに見せつけた。緑色に輝くサイクロンメモリだ。
 同時にヤツも自分が何故こうまで苦しいのかようやく理解した。
 エクストリームの力をジョーカー無しでもなんとか抑えられていたのがサイクロンメモリを失ったことにより暴走を引き起こしているからだ。
 こうして俺の手元に戻ったサイクロンメモリだがなんとメモリが光りだした。その光の中から…待ってたぜ。相棒のフィリップがお出ましだ。



 「流石僕の相棒だよ翔太郎。よくこの窮地を脱してくれたね。」


 「お前こそなフィリップ。サイクロンメモリに自分のデータを移しておいたのか。」


 「ああ、キミなら何があろうとサイクロンメモリを奪還してくれると思ったよ。」


 どうやらフィリップはエクストリームが奪われる際に自分の転送データをエクストリームからサイクロンメモリに移していたようだ。
 これが功を奏してダストドーパントからの脱出に成功した。
 こうしてダブルライダーによる風都の街の浄化、及びフィリップの奪還には成功した。
だがこれで解決というわけじゃない。まだ財団Xの怪人どもが残ってやがる。
 怪人どもはまずはダブルライダーよりこちらを片付けようと思ったのか俺たちを取り囲んだ。

 
 「行くぜフィリップ!あとは悪党退治だ!」


 「ああ、変身だ!翔太郎!」


俺たちは立ちはだかる財団Xの怪人軍団を前にそれぞれのメモリを取り出した。




 『CYCLONE!』 『JOKER!』


 俺のジョーカーメモリとフィリップのサイクロンメモリがそれぞれの電子音を発した。
 そして俺たちの腹部にある変身ベルトにメモリを装填。


 「 「変身!!」 」


 その言葉を発したと同時にフィリップの身体は意識を失い倒れた。
 俺の身体はサイクロンとジョーカーのエネルギーに包まれそこから現れたのは左右が緑と黒に色分けされた仮面の戦士。
 そう、この姿こそ風都の街を守る仮面ライダーWサイクロンジョーカーだ。


 「フン、ダブルの登場か。だが今更ダブル如きに何が出来る!」


 俺たちを取り囲んでいた怪人どもが一斉に襲いかかろうとした。
 ケッ!見くびりやがって!
 確かにこちらにはメモリは二つしかない。だがなぁっ!


 「ハァァッ!!」


 俺たちはサイクロンの力が宿り右腕で地面を思い切り叩きつけた。
 するとどうだろうか。そこから突風が発生して怪人どもが散り散りに吹き飛ばされてしまう。
 それとダストドーパントに拘束されていたときめも救い出してこれで一気に形勢は逆転した。
 戦いの第二ラウンドを制したのは俺たちだ!


 「ありがと翔太郎フィリップ。けど…ダブルの力がいつもより増してるのは…なんで…?」
 

「ダブルライダーが起こしてくれた風のおかげだ。いまこの街にはいつも以上に風の力が漲っているからさ。」


風は仮面ライダーの力の元だ。だからいまのダブルはいつも以上に力が増している。
もしかしたらエクストリームの力と同等、いやそれ以上かもしれないな。



「どうやら仲間を取り戻せたようだなダブル。」


そこへサイクロン号に乗ってダブルライダーの二人が駆けつけてくれた。
彼らのおかげで風都タワーが動き出して街の人たちは救われた。感謝しきれねえよ。


「ありがとうダブルライダー。アンタたちのおかげだ。」


「礼を言うのは早いぞ。まだ怪人たちが残っている。」


「そうよ翔太郎!特にあいつ…ダストドーパントは危険だわ!」


ときめは捕まっていたのもあるのかダストドーパントだけはやばいと警告してくれた。
確かにヤツはやばい。サイクロンのメモリを失い暴走状態に陥っている。
それに他の怪人たちもだ。最新の装備を施しているからそこらのドーパントよりも厄介かもしれないな。
こうなるとダブルだけではきついか。


「ダブルライダー、俺たちはダストドーパントと決着を付けなくちゃならない。だから…」


「わかっている。財団Xの怪人軍団は俺たちダブルライダーが相手をする!」


これでそれぞれの相手は決まった。俺たちはダストドーパントとの決着をつける。
ダブルライダーは怪人軍団と戦ってもらう。
そうと決まれば俺たちは専用マシンのハードボイルダーとリボルギャリーを呼び出した。
駆けつけたマシンたちは先程の戦いで特に損傷もなくおまけにリボルギャリーもヤツとの同化も解除されてこちらも準備万端だ。
俺たちはそれぞれのマシンに乗り込んだ。


「頼んだぜダブルライダー!」


「ああ、必ず勝てよ仮面ライダーダブル!」


仮面ライダーたちのマシンが激しいエンジン音を鳴らした。
まるでこれからの戦いに勝利するための意気込みだ。
ダブルの称号を持つ仮面ライダーたちが互いにエールを送りながらそれぞれ決戦の場へと向かった。



 俺たちはダストドーパントを追跡するためこのスクラップ置き場のさらに奥へと進んだ。
 レーダーの反応からしてそろそろ出くわしてもいい頃だが…


 「ガァァァァァァッ!!」


 なんて声だ。この辺りに凄まじい叫び声が響き渡った。
 見るとヤツは先程よりも巨大な姿と化していた。これは一体どういうことだ…?


『なるほど、エクストリームの暴走を抑えるためにサイクロンメモリの欠如を自身の肉体を強化することで穴埋めしているようだね。』


フィリップの説明通りヤツは先程の財団Xの連中が乗ってきたヘリやこのスクラップ置き場にある廃車やらの資材をとにかく吸収していた。
 だが明らかにキャパオーバーらしくその証拠に身体のあちこちから鉄すら溶けそうな蒸気が吹き出していた。
どうやらヤツも限界が近いらしいな。


「ダブル…お前じゃない…ダブルライダーはどこだぁ…」


「悪いがお前の相手は俺たちだ。この街を泣かせた罪は重いぜ。」


「ほざけ!俺は…この街が…ガイアメモリな憎いんだァ!」


発言も支離滅裂すぎて心身共に暴走状態だということが伺い知れる。
最早手遅れか。こうなれば俺たちも覚悟を決めるしかない。
そして俺たちはお決まりの台詞を言ってみせた。


「 「さあ、お前の罪を数えろ。」 」


これが最終ラウンドだ。
仮面ライダーWvsダストドーパントの最後の戦いが始まった。



「ダブルライダー!ここがお前たちの墓場だ!」


俺たちがダストドーパントと対峙していた頃、ダブルライダーも財団Xの怪人軍団相手に戦闘開始していた。
リーダー格の仮面ライダーシーカーがジャマトたち怪人軍団に指揮を取っている。
新ライダーのギーツが戦ってきた怪人たちだ。相当な強さなのは確かだ。
そんな連中を相手にダブルライダーはそれぞれ別れて戦うことになった。
1号ライダーがシーカーを、2号ライダーが他のジャマトたちを相手に戦うようだ。


「お前の相手はこの俺だ!ライダーの力を悪用するとは絶対に許さん!」


「ほざくな1号!旧式など最新のライダーであるこの俺の敵ではない!」


シーカーは自身の武器であるギガントソードを取り出して1号の身体を真っ二つに斬り裂こうとした。
剣を振り上げスクラップの廃材を斬り裂いてみせた。
手応えはあった。これで目的は達成したと余韻に浸っていた。


「何処を見ている。俺はここだ!」


気づくのが遅かった。シーカーが斬りつけたのは廃材だけだ。
手応えはその廃材を斬った感触だけで1号には傷ひとつなかった。


「どんな強力な攻撃も当たらなければ意味がない!喰らえッ!」


このチャンスを逃す1号ライダーじゃない。
1号はシーカーの首元を掴むとその身体を一気に振り回した。


「ライダァァァッ!きりもみシュートォォォォッ!!」


1号ライダーのライダーきりもみシュートによりシーカーの身体は空高く舞い上がり回転の衝撃で満足に身動きも取れずにいた。
このまま地面に激突かと思ったが…


「ライダーヘッドクラッシャー!!」


さらに1号はライダーヘッドクラッシャーを放った。
きりもみシュートで空中に飛ばされたシーカーの頭部を両足で挟み地面に叩きつけた。
 その場に激しい衝撃音が響き渡った。
 当然だ。きりもみシュートからヘッドクラッシャーとえげつない連続技のコンボだ。
 並みの怪人ならきりもみシュートの時点で撃破だろうがそれに加えて二段攻撃なのが恐いところだ。
 まさに技の1号と異名がつく華麗な連続攻撃だぜ。


 「う…うぅ…まだ…だ…」


それでもヤツはなんとか耐え切ってみせたのか再び立ち上がってきた。
しかし足はフラフラで満足に立っていられないようでこの時点でシーカーは戦闘不能寸前にまで陥っている。
だがここで追撃を緩める1号ライダーじゃない。
更なる攻撃を行うべく拳を握り締めてシーカーを追い詰めていく。



「取り囲め!2号ライダーなど一斉に襲いかかれ!」


一方こちらも大規模な戦闘を繰り広げていた。
一文字さんこと2号ライダーがギーツと戦ったジャマトたちを相手に孤軍奮闘中。
連中はそれぞれの武器を用いて一斉に2号に攻撃を仕掛けた。


「どうした?その程度の力しかないのか。これならまだショッカーの怪人たちの方が骨があったぞ!」


だがそんな攻撃はこれまでの歴戦を経た2号ライダーにはちっとも効きはしなかった。
赤い腕のグローブでそれらの攻撃をすべて防いだ。まさに鉄壁の防御だ。


「さあ、ジャンジャンいこうか!ライダーパワー!!」


ファイティングポーズを取り体内にあるパワー強化装置を発動する2号ライダー。
赤い拳を握り締めて渾身の一撃を放った。


「ライダァァァッ!パ―――ンチッ!!」


出た!元祖ライダーパンチ!
力の2号と呼ばれる所以通りその一撃は凄まじくその場にいたジャマトたちはこれによりすべて戦闘不能に陥った。
流石だぜ!



「このゴミ溜めの街で夢見ることが罪だとでもいうのかぁぁぁぁ!」


ダブルライダーが優勢に戦っている一方、俺たちもまたダストドーパントとの最後の戦いに挑んだ。
既にヤツは暴走状態に陥り正気を失っているがそれでも凄まじい破壊力を繰りなす攻撃を行っていた。
だがどんなに強力な攻撃でも当たらなきゃ意味がない。
仮面ライダーWサイクロンジョーカーはメモリの特性に合わせた俊敏性が売りだ。
だから力押しだけでどうにかなる相手じゃないんだぜ。


『翔太郎、こちらはサイクロンとジョーカーのメモリだけだ。
残りのメモリがダストドーパントの手中にある状況ではフォームチェンジは行えない。』


 「わかってる!けど防戦だけでどうにかなる相手じゃねえ!こっちも攻撃しねえとな!」


 『ヤツの行動パターンは既に検索済みだ。
武器での攻撃はどんなに強力でもダストのメモリの力で吸収されてしまう。だから…』


 「要するに肉弾戦、それもステゴロで勝負しろってわけだな!上等だ!」


 なるほど、だからダブルライダーはこの事態を想定して俺に特訓をつけてくれたわけか。
 けど迂闊に触れるわけにはいかない。また吸収されたら今度こそおしまいだ。
 だから焦るな、ゴリ押しでどうにかしようと思うんじゃない。必ずチャンスはある。一度目の敗北を活かせ。
何故なら仮面ライダーに二度の敗北は無いんだ。
 

 

 「クソッ!こうなれば武器を変えればいい!ルナトリガーだ!」


 奴さん痺れを切らしたのかこれまで使っていたプリズムビッカーからトリガーマグナムに変更した。
 取り出したトリガーにルナのメモリを装填して俺たち目掛けて銃弾を放った。

 
 
 「うわっ!」



 トリガーから放たれた銃弾が俺たちを狙う。向こうは逃げ惑う俺たちを見ていい気味だと高笑いしているが…逆だ。
チャンスがやってきやがった。俺は逃げながらも確実にヤツへと近づいた。
 そして懐に入り込むと同時に…

 
 「ライダーチョップ!」


 ダストドーパントがトリガーマグナムを持つ腕目掛けてライダーチョップを叩き込んでやった。
 同時にヤツの腕からトリガーマグナムを奪い返してこれでルナとトリガーのメモリがこちらに戻った。




 「おのれ…ならば…ヒートメタルだ!」


 こうなればと次はメタルシャフトを取り出してそれにヒートのメモリを装填したか。
 パワーなら向こうの方が有利なのかまたしてもヤツは力任せでメタルシャフトを振るい周囲を破壊しながらこちらへと向かってくる。
 そしてあと一歩のところで空高くジャンプしてきた。
 どうやら空中に飛んで助走を付けた一撃を叩き込もうという魂胆のようだ。だったら…
 ヤツが飛んだと同時にこちらもジャンプしてみせた。そしてヤツの腕を掴み取り…


 「ライダー返し!」


 空中からの背負投げによる必殺技ライダー返し。
 相手の反動を利用するからこれは敵さんが巨体なほど効果てきめんなようでこの技をまともに受けたダストドーパントはまともに起き上がることも出来ず地べたに這いつくばったままだ。
 その隙に俺はヤツの手元から転がり落ちたメタルシャフトを回収。
 これでヒートとメタルのメモリも揃って基本装備のメモリはすべてこちらの手元に戻った。



 「う…ぐ…うぅ…」


 ダブルの基本装備を回収出来た時点でようやくダストドーパントが起き上がった。
 だがヤツは既に瀕死の状態だ。足もフラフラでろくに動けないのがひと目でわかる。
 こんなヤツを相手にこれ以上戦ったところで無意味か。


 「これが最後の警告だ。今すぐ変身解除して投降しろ。」


 「…断る…俺はこのゴミ溜めの街から抜け出して…俺がゴミでないことを証明しなければならないんだ…」


 ダストドーパントは最後の警告を断り自分の存在意義を見出そうとしていた。
 これまで組織での冷遇はヤツにとって屈辱だった。
 だからこそダブルライダーを倒して自身の存在を証明しようというのだろうが…



 『それではひとつだけ聞かせてほしい。何故ガイアメモリの力を使うんだ。』


 「は?俺の話を聞かなかったのか!俺にはこれしかなかったんだ!だから俺は…」


 『本当にそうなのかい。キミは下っ端とはいえ財団Xの一員だ。
手を尽くせば最新鋭とはいかなくてもガイアメモリよりも新しい装備くらいは手に入るはずだ。
だがあくまでもガイアメモリの力を頼った。このことから考えると…』


 そう、フィリップの考察と同様に俺もダストドーパントの言動には妙な違和感を抱いていた。
 何故ガイアメモリを忌み嫌っておきながらガイアメモリを用いて戦うのか?
 そんなに嫌なら他の武器を調達してみればいい。なのにこいつはガイアメモリで俺たちに挑んできた。
 この不可解な行動に意味があるのならそれは唯一つ。


「お前は復讐者なんかじゃない。ガイアメモリの毒に侵された哀れな犠牲者だ。」


俺たちが導き出した答えはそれだった。
長年この街でガイアメモリの使用者と対峙してきたがそいつらは殆どがガイアメモリの中毒者だ。
体内に生体コネクタを埋め込んでいるのがその証拠だ。
かつての園崎家が使用していたガイアドライバーでも使用なければ所持者はガイアメモリの毒性をモロに受けてしまう。
最悪の場合は死に至るだろう。

 
 「ちがう…俺は中毒なんかじゃない…」


「俺はこの街を…ガイアメモリを憎んで…」
 

 「だから…復讐しようとして…」


 自分は決してガイアメモリの中毒者などではない。ヤツは必死になって自分に言い聞かせたが…
 確かにやってることは復讐なのかもしれない。
 だがこいつは大事なことを見誤っていた。
 本来ダストが復讐すべきは風都でもガイアメモリでもない。自分をゴミだと蔑んだ財団Xのヤツらだ。
 それなのにこいつはそれを果たせずに見当違いな復讐劇ばかり行っている。
 哀れというか…愚かというか…


 「俺は……ゴミじゃない!だからこの街を破壊してやる!!」


 だが俺たちの説得も虚しくヤツは狂いだしたかのように再び暴れ始めた。
 バカ野郎が!メモリの毒で本来の目的を見失いやがって!


 「クソッ!ライダーキック!」


 俺は迫り来るダストドーパントに向かって咄嗟にライダーキックを放った。
 勿論これは仮面ライダー1号こと本郷さん直伝のライダーキックだぜ。




 「トォッ!トォォッ!」


 同じ頃、ダブルライダーも戦いに決着が付けようとしていた。
 財団Xが率いていた大半の怪人軍団も倒されて残ったのはリーダー格の仮面ライダーシーカーのみ。
 そのシーカーもダブルライダーの猛攻に成す術もなくやられる一方だ。


 「いくぞ!一文字!」


 「オォッ!決めるぞ本郷!」


 ダブルライダーは揃って大きくジャンプを繰り出した。
 そして空中で回転すると…
 間違いない。これはダブルライダーの必殺技。その名も…


 「 「ライダァァァッ!ダブルキ―――ック!!」 」


 1号と2号の二人同時のライダーキックによる必殺技ライダーダブルキック。
 この技を受けるとシーカーは衝撃に耐え切れずヤツは激しい爆発と共に倒された。
 これで財団Xから差し向けられた追撃部隊はすべて撃破した。



 「まだだ!まだ終わっちゃいない!俺はまだ何もやり遂げていないんだ!」


 ダブルライダーが敵を撃破したはいいがこちらはまだ終わっちゃいない。
 チッ…どうやら攻撃が浅かったようだな。


 『あんな半端なライダーキックでは倒せないよ翔太郎。見通しが甘いのがキミの悪いところだ。』


 「ハイハイ悪かったよ。けどこうなれば最後はやっぱり俺たちのやり方で行こうぜ!」


 『ああ、メモリブレイクだ!』


 ダブルドライバーにあるジョーカーメモリをマキシマムスロットに装填した。


 『JOKER!MAXIMUM DRIVE!』


 その電子音と共にサイクロンの力で空高く空中に舞うとダブルの身体が左右真っ二つに分かれた。
 

 「 「ジョーカー!エクストリーム!!」 」


 そして仮面ライダーWの必殺技ジョーカーエクストリームが放たれた。
 いつもの俺たちの必殺技に加えてダブルライダーの特訓で強化された必殺キックだ。
 この一撃を受けた衝撃に耐え切れずダストドーパントは激しい爆発を起こして倒された。
 メモリブレイクにより本人はなんとか無事だがこの分だとメモリの中毒症状で長い入院生活を送りことになるだろう。
 


  
 「翔太郎、フィリップ、無事終わったな。」


 そこへ戦いを終えた本郷さんと一文字さんが合流した。
 おまけにジンさん率いる風都署の警察官も挙って到着だ。
 ジンさんたちはすぐさま俺たちに倒されたダストと財団Xの連中を連行した。
 そんな大捕物が行われている中でフィリップはこのスクラップ置き場である物を拾っていた。
 先程までダストが扱っていたガイアメモリだ。


 「見てくれ翔太郎。このメモリではエクストリームの力を扱うなど出来やしないよ。」


 フィリップが言うようにダストのメモリは下層のブロンズだった。
 これではエクストリームどころか通常のダブルのメモリを扱うことすら出来やしない。
 つまりヤツは何らかの手段で無理やり強化されたということだ。
 いまこの街でこんなことやるのは…あいつしかいない!
 



 「ご苦労、仮面ライダーの諸君。大活躍だったね。」


 この場に大勢の警察官が駆け込んで来る中で一人だけ異様な姿の男が現れた。
 手をパチパチと拍手させながら優雅な佇まいでこちらへ歩いてくる男。
 キザったらしい藤色に虹色のメッシュを入れた長髪でこのスクラップ置き場には明らかに場違いな小奇麗で真っ白なスーツに身を包むこの男の名は万灯雪侍。
 いまこの街を騒がす裏風都のボスだ!


 「やっぱりお前の仕業か万灯!要するにダストはハイドープだったのか!」


 「ああ、彼はミュージアム崩壊後からダストのメモリに依存していてね。だから少しきっかけを作ってあげたのさ。」


 「何故こんな騒動を引き起こした!目的は一体何だ!?」


 俺は今回の事件の黒幕である万灯に事件を引き起こした理由を問い質した。
 今回の事件には財団Xが関わっていた。そうなるとこの事件には余程の裏があるのだろう。
 だがヤツの意図は俺の予想とはまったく違うものだった。



 「…ゴミ掃除。それをしたかっただけだよ。」


 「は?何言ってんだお前?」


 「だからゴミを掃除したんだ。財団Xという大きなゴミをね。」


 それから万灯は淡々と今回の事件で自分が何をしたのか説明した。
 こいつは以前からこの街にいる財団Xの連絡員だったダストのことが目障りだったらしい。
 だからダストが行動を起こすのを見計らい接触してハイドープに仕立てた。
 

 「お前だって元は財団Xの人間だ!それを簡単に裏切って平気なのかよ!」


 「確かに財団は私の古巣だ。それを思うと心が痛いよ。けど今回の件で私はそれ以上に心を痛めていることがある。なんだと思う?」


 「わからねえ…一体何なんだよ…」


 「それはガイアメモリをゴミ呼ばわりされたことさ。」


 途端に先程まで少しばかり茶目っ気で話していたヤツの口調がまるで氷のように冷たいものに変わった。
 その言葉にはまるで冷酷さと同じく何処か怒りという感情を思わせた。



 「そうか万灯雪侍。キミは今回の件を利用してガイアメモリを見限った財団Xにその有用性を思い知らせようとしたのか。」


 「さすがフィリップくん正解だよ。
そうさ、財団Xはご苦労なことに最新装備を取り繕ってこの場に現れた。
だが結果はどうだ?メモリを扱う仮面ライダーWに圧倒させられ更にはガイアメモリよりも旧式のダブルライダーによって倒された。
最早財団Xの信用は地に落ちたも同然だよ。」


 万灯はまるで長年の悩み事が解決したようなスッキリとした表情で真相を語ってみせた。
 こうして真相を知ってしまうと事件はなんとも皮肉な結末だろうか。
 まさかダストが望んでいた復讐劇を万灯がやってのけてしまうんだからな。


 「仮面ライダー、キミたちもまたメモリを扱う戦士だ。私の気持ちが理解出来ると思っているが…」


 「だから人をゴミ扱いしていいわけないだろ!
こんな下らない真似をするために風都の人たちを苦しめてダストだって最初から捨て駒扱いしやがって!
絶対に許さないぞ!!」


 今回の事件、下手すれば風都の人々は死んでいたかもしれないし…
 ダストだって辛うじて生きてはいるがガイアメモリの影響でもうまともな生活は送れないだろう。
 だからこそ俺は再びジョーカーのメモリを握り締めて戦闘態勢に入った。
 万灯の行いは決して許さない。今この場で決着をつけてやる!



 「やめたまえ翔太郎。戦えば僕たちに勝ち目はない。キミ自身その傷だと今日はもう戦えないだろう。」


 そんな俺にフィリップは冷静な態度で俺の状態を把握した。
 言われて気づいたがダストドーパントとの戦いでの負傷やそれに酸素中毒による疲労やら今頃になって身体を襲った。
 確かにこの状態で再び戦闘となれば勝ち目は薄いか。


 「それにここには大勢の警察官がいる。彼らを巻き込むわけにはいかん。」


 「万灯、お前もこんな大勢の前で戦うつもりもないだろう。」


 「ああ、この場は引こう。あなた方ダブルライダーへの敬意も込めてね。さらばだ仮面ライダーの諸君。」


 最後は本郷さんと一文字さんも仲裁に入って万灯は大人しく引いてくれた。
 こうして万灯はゲートを開いて裏風都へと還っていった。
 帰り際なにやらときめのことを妙に見つめていたがまあどうだっていい。
 ヤツとは近いうちに必ず決着をつけてやる!
 



 「…」
 

 そんな意気込む中で本郷さんと一文字さんは何故か風都タワーを眺めていた。
 戦いが終わったとはいえ一体どうしたのだろうか?


 「実はさっき風都タワーを動かした時なんだが…あのタワーとシンクロしたような気がしてな…」


 「ああ、まるでこの街と一体になった気がするんだ。どうしてだろうな。」


 二人はまるで不思議そうにそう語った。
 その話を聞いたフィリップとときめは何のことやら皆目見当もつかないようだが…
 俺はひとつ思い当たることがあった。


 「実は風都タワーの建設には園崎琉兵衛が関わっていたらしいんですよ。」


 これは風都通の俺だからこそ知っていることだが…
 園崎家はこの街の名士なのだからこんなデカイ建造物の建設に関わることだってあるだろう。
 まあ俺もこれまで単純に街の名士だから園崎琉兵衛が風都タワー建設に関わっているのだと思った。
 けれど今の話を聞いてあることを思った。

 
 「ひょっとしたら園崎琉兵衛はこう思ったんじゃないんスかね。いつの日か風都に仮面ライダーが現れてこの街を救うのだと…」


 
 そう思えば先程の現象にも納得出来る。
 仮面ライダーと園崎琉兵衛の関係性を知ればまったくの無関係だとは思えない。   
 だが園崎が死んだいまとなっては証明することなど出来やしない。
 すべての真相は園崎琉兵衛の胸中にのみあるわけか。




 「いや、ひょっとしたらそれを証明出来るかもしれんぞ。」


 本郷さんがそんなことを言い出すとまたもや古びた写真を取り出した。
 それは先程とはまったく異なる写真だ。写っているのはこの街の風景だ。
 まだ建設中の風都タワーを背景にある家族が写っていた。
 写真中央にいるのは園崎琉兵衛。その脇には二人の少女たちが…
 これ面影があるが若菜姫と…園崎冴子…フィリップの姉たちだ。
それにもう一人大人の女性がいるが恐らく園崎の妻らしき人。
 俺は包帯でグルグル巻の状態しか知らないが恐らくこの女性はシュラウド…いや…フィリップのお母さんこと園崎文音だ。
 それと最後に園崎琉兵衛は幼い赤ん坊を抱いていた。


 「これは…僕…?僕たち家族の写真ですか?」


 「ああ、その通り。これは園崎から一度だけ送られたキミたち家族の写真だ。
いつかこの街に来てくれ。昔あいつが行った言葉だが本当にこの街に来て欲しいと願っていたんだな。」


 だから本郷さんにこの写真を送ったのか。
 写真に写る園崎家の人たちは誰もが満面の笑みを浮かべていた。
 この後に起きる不幸など知る由もなく…


 「フィリップ、実は俺がこの街に来た本当の理由はこの写真をキミに渡したかったからなんだ。」


 そうか、かつての戦いで園崎邸は焼失してしまい
僅かに残った品々は警察に押収されたのでいまやフィリップの手元には家族の思い出など何一つとして残ってはいない。
 今となってはこの写真はフィリップにとって唯一の形見なんだ。
 本郷さんがこの街を訪れた本当の理由はこれだったんだな。


 「よかったなフィリップ。」


 「どうしたんだよ翔太郎?キミが泣いてるじゃないか。」


 「いや…しょうがねえだろ!こういうの弱いんだからよぉ!」


 気づけば俺が一番涙を流していた。俺はハードボイルド探偵だってのにどうしてまったく…
 

 「いいもんだな相棒ってのは…」


 「そうだな。どんなに苦しくても支え合う相棒がいれば心強いものだ。」


 そんな俺たちを眺めながら本郷さんと一文字さんがそう言ってくれた。
 俺たちが二人で一人の仮面ライダーならば本郷さんと一文字さんは二人揃ってのダブルライダーだ。
 どれほど過酷な運命だろうと二人でなら乗り越えられる。それがダブルの称号を持つライダーならばこそだ。




 「本郷、結城から連絡が入った。今の騒ぎで財団Xのヤツらがまた派手に動き出したそうだ。」

 
 「どうやらのんびりしている暇もないな。俺たちも行かねばなるまい。」


 こうして本郷さんと一文字さんは愛車のバイクに乗り込むとエンジンを鳴らして出発しようとしていた。
 せっかくこの街を案内しようと思っていたのに…まあ仕方ない。
 

 「二人とも、いつかまたこの街に来てくれ。その時は今度こそちゃんと案内するぜ。」


 「ああ、翔太郎。その時は楽しみにしているぜ。」


 「フィリップくん。その写真を大切にな。」


 「はい。お二人共お気をつけて。」


 こうして彼らはバイクに乗ってこの街を去っていった。
 行き先は次の戦場か。運命は仮面ライダーに安息の時はないとでもいいたいのだろうか。
 彼らを見送りながら俺はもう一度風都タワーを見上げた。
 見るとタワーに設置されてある巨大な風車がまるで彼らにエールを送るように穏やかな風を流している。

 

 そんな風都タワーを見上げながらかつてこの街を恐怖で支配しようとした園崎琉兵衛のことを考えた。
 あの男が犯した罪は決して許されないものだ。だけど園崎もまたこの街を愛していたはず。
 だからこそ仮面ライダーならば自分の過ちを正してくれると心のどこかで願ったのではないか。
 今となっては単なる推論にしか過ぎないが…もしもそうであるならば…
 仮面ライダーの…そしてダブルの称号がこれまで以上に重いものであると感じてしまう。
 けどこれは俺たちが受け継がなければならないものだ。
 何故なら俺は…いや…俺たちはこの街を守る仮面ライダーW!


 end

 

これにておしまいです。
風都探偵のアニメが面白かったので影響されて書いた次第ですが
当初の予定では1月中に終わらせたかったのに気づけば3月になってしまいました。
もうシン仮面ライダーやってるし…
ちなみに本郷さんと園崎琉兵衛が学友だったのはssオリジナルの設定ですので本気になさらず
それでは失礼します。

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