相原雪乃「転ばず先の杖」 (33)

アイドルマスターシンデレラガールズのSSです。

地の文は自分で分かりづらい所に使ってます。

前作 千川ちひろ「後悔先に立たず」
千川ちひろ「後悔先に立たず」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1371/13715/1371571865.html)

の続編ですが、なるべくこの話だけで読めるようにはしてある・・・はずです(不安)


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1372071540

モバP(以下P)「減給処分・・・」

手元にある紙。そこには自分のミスによる罰が載っていた。

千川ちひろ「朝から落ち込まないでくださいよ、私も同じく減給を喰らってるんですから」


この男、Pは担当するアイドル3人に言い寄られ、うち1人と口付けをしてしまい、
ちひろはそのキスの証拠である動画をオンラインストレージに入れてしまい、外部に漏らしてしまう可能性があったのだ。


ちひろ「あの動画はちゃんとクリーナーソフトで3度消ししておいたんで!プロデューサーさん、今後、こんなことないようにしてくださいね!」

P「ちひろさんもちゃんとチェックしてくださいね・・・」


この減給処分はより一層の注意を払え、との警告だった。
別に社長はアイドルたちの恋愛の邪魔をする気は無いのは確かだが、世間の目は冷たく厳しいため、保険のためだろう。

P「・・・朋たちも急遽一週間ぶっ続けのLIVEツアー組まれて、今は、名古屋ですかね」

ちひろ「そうですね、このツアーである程度の利益出さないと許さん!って社長に言われてますからねぇ」

P「あぁ・・・俺はやっぱこの仕事合わないのかなぁ、アイドルたちに負担かけちゃうなんて・・・」

ちひろ「コラッ!ネガティブになっちゃダメです!」


P「きっと星座占いもダメダメなんだろうなぁ・・・ヤギ座は、っと」


ヤギ座・・・絶望


P「ほぉらぁ・・・ヤギ座は絶望だって!」

ちひろ(大雑把すぎる・・・)

P「もう事務所のソファで寝てやるぅ!」

ちひろ「まぁ、今日のプロデューサーさんの仕事は午後からですし、お休みになって気分サッパリしても・・・」



?「ごきげんよう、Pさん、ちひろさん」

P「・・・雪乃さん、おはようございます」

ちひろ「雪乃さん、おはようございます」


相原雪乃「朋ちゃんたちがいないと朝はさびしいですわね」

P「ツアーですからね、しばらくは帰ってこれないと思いますよ」

雪乃「ふふっ、ではしばらくはPさんは私や海ちゃんたちに付きっ切りですわね」

P「海は末の弟の誕生日だ、って今日は休み取ってたかな。他のアイドルはツアーのバックダンサーに起用されてたはず」

雪乃「あらっ。でも、なんで私は呼ばれなかったんでしょうか?」

P「社長が用心深い人ですからね、いざという時に動ける人が欲しかったのでしょう」

雪乃「なるほど。今日はレッスンなので、トレーナーさんとワンツーマンになってしまいますわね」

P「そうですね・・・」

雪乃「元気ありませんね、甘い紅茶でもいかがですか?」

P「あ、お願いします。今なら心まで染みそうだ・・・」

Pipipipipi...


P「おっと、電話だ。相手は・・・アパートの管理人?」

P「はい、もしもし、Pです」

『もしもし、○○アパート管理人の△△です。』

P「何か御用ですか?鍵の閉め忘れですか?」

『いえ、大変申し上げにくいのですが・・・』

P「泥棒とか?」

『実はお宅の水道が破損してしまいまして・・・』

P「え?どうやって・・・」

『水道代払わないお隣の水道を停水させようとしましたら間違えて挙句、あなたの部屋の水道を壊してしまったのです』

『本来、水漏れなどの事故はその水漏れが起こった部屋の人に弁償及び自己負担で直してもらうのですが、今回はこちらのミスで起こった事故なので三日間ほど突貫工事で修理します』

P「あ、はい」

『なので、その三日間ほど、実家やホテルなどで過ごしてくださいね、お願いします』

P「え゛!?あの!?」


ツー・・・ツー・・・


P「切れちゃった」

ちひろ「どうしたのですか?慌てた表情してましたが」

P「な、なんでも、管理側が水漏れ事故を引き起こしたっぽいんですよね・・・」

ちひろ(ヤギ座絶望とはこのことでしょうね)

ちひろ「でもまだマシな管理業者ですね。私の知り合いは自分の部屋じゃないのに全額弁償させられたって事があったり、水漏れの事故があった時にすぐに連絡せず、8時間も放置させられたという事も・・・」

P「うちのアパートはまだアタリだったのかな・・・」

ちひろ「あ、でも勝手に入られるので、何か盗まれるかも」

P「うぇっ!?急いで取りに行かなきゃ!」

雪乃「お茶が入りました」

P「はーい♪(あとでいいや)」

P「とりあえず、三日間どうしましょう」

ちひろ「あー、水漏れで外に追い出されたんですね」

雪乃「水漏れ・・・事故ですか」

P「ははは・・・減給くらったのにホテル泊まれって・・・ちょっと手痛いかなぁ・・・」

雪乃「それでしたら、私の家に来ますか?客間ならたくさん余ってまして」

P「さすがに今の俺が雪乃さんの家を出入りしたら社長にクビ宣告されちゃいます」

雪乃「?」

ちひろ「それなら!」

P「?」

ガサゴソ・・・

ちひろ「はい、これを」

P「鍵ですか?どこの」

ちひろ「ここ(事務所)のです」

P「え゛?」

ちひろ「社長には言っておくのでここの仮眠室をしばらく使っていいですよ」

P「なんと・・・」

ちひろ「最近、物騒らしいですからね。ちゃんと管理して頂けるなら、お貸しします」

ちひろ「あとお願いなんですが、私を定時に帰らせてくださいね♪」

P「あ、はい。よろこんで」

P(ちひろさん、いつも残業してるし、この程度で少しでも余暇が取れるなら協力しよう)

P「ふぅ、あー紅茶が胃に染み渡る・・・」

雪乃「ふふっ、今日のはキャンディですわ、たっぷりと味わってくださいませ」

P(社長にはこちらからも言っておこう、流石に自分のことは自分でやらないとな)


P「あ、そうだ!」

雪乃「どうされましたか?」

P「いや、仮眠室で一角借りるんで、パーテーション(仕切り、衝立のこと)あると良いかなぁと思いまして」

雪乃「そうですね!それなら他の方の荷物が混ざるなんて心配も少なくなりますわね」

P「それじゃ、お茶飲んだら、まず自宅に行って貴重品とって、リサイクルショップでも行ってきます」

雪乃「あ、私も連れて行ってもらえませんか?そのリサイクルショップとやらに行ってみたいのです」

P(雪乃さん、リサイクルショップに行った事ないのかな?)

雪乃「レッスンの時間もまだ大丈夫ですし、見聞を広めるのは自分を育てることになりますし」

P「はい、では車で行きましょうか。雪乃さんも変装して・・・」


─ Pの自宅前 ─

P「自宅に置いてた貴重品が取られてなくてよかった、手帳とかスーツとか」

雪乃「でも着てるズボンがびしゃびしゃになってしまいましたね」

P「この程度、全体の資産が奪われるよりはマシですよ」

P「あとは下着とか寝巻きなど取ってくるので、もう少し待ってもらえますか?」

雪乃「はい♪」

─ リサイクルショップ ─

雪乃「ここがリサイクルショップですか」

P「リサイクルショップは基本、誰かが使い古したモノとかを勿体無くて誰かに使ってもらうために店に売る、そして店側はそれを商品として売る、って感じですかね」

雪乃「あら、赤ちゃんの洋服が」

P「年の関係で着れなくなった洋服とかが代表的ですね、やはり」

雪乃「こちらには扇風機が・・・600円?」

P「あ、いいお値段」

雪乃「私が昨年買った扇風機は1万円以上したのに詐欺ですの」

P「さすがに新品と中古を比べちゃいけませんよ、それにこの扇風機、すでに15年は働いてますよ」

雪乃「すでにお爺ちゃん、ってわけですね」

P(一瞬、野球のヤマモト マサ選手が浮かんだ・・・)

P「それで、俺が探してたのはコイツですね」

雪乃「アイボリーの色のイントレパーテーションですか、オシャレですわね」

P「先日見たとき、欲しいなぁとは思ってたんですが、やはり男の1人暮らしじゃいらないですからね」

雪乃「値段は2360円ですわ」

P「ネットショップだと5700円だったんですけどね」

雪乃「は、半額以下ですわ・・・」

P「実はこのパーテーションはパネル数が4連タイプのものだったのですが、1つ外れてるんですよ」

雪乃「本当ですわ、板がつながれてないのに金具だけくっついてますね」

P「こういうわけあり商品も、リサイクルショップの醍醐味というか、ねらい目ですね」

雪乃「理解しましたわ♪」

P「では、これを買って事務所に戻るとしましょう。店員さーん!」

店員「はーい!ってPちゃんじゃない!」

P「ご無沙汰しております」

雪乃「Pさん、この方は?」

P「俺が今のアパートに引っ越してきた時に家具の相談を受けてくれた方です」

店員「よろしくねー!・・・ってよく見たらアイドルの相原雪乃さんじゃない!?」

雪乃「あ、はい。そうです、相原雪乃です」

店員「やっだー♪Pちゃんがべっぴんさんの彼女連れてきたと思ったら、超べっぴんさんの彼女じゃなーい!」

雪乃「か、彼女・・・////」

P「オバちゃん、違うって!担当アイドルだからっ!」

店員「ははっ、覚えてるわよ。アイドルをプロデュースしに上京したんだー!って言ってたじゃない」

P「ふぅ、肝が冷えた」

店員「せっかくだし、雪乃さんにはサイン貰おうかしら」

雪乃「はいっ、喜んで」

カクカクシカジカ・・・

店員「へぇ・・・アパートが」

P「はい、それで事務所の部屋の一角を借りることになりまして」

店員「それで衝立欲しいってことね。分かった、その衝立、2000円に負けてあげる」

P「本当ですか!」

店員「雪乃さんのサインもらっちゃったしね。あと出来ればそこのスッポン1個もらってってくれない?」

P「スッポン?」

雪乃「スッポンとは、これでいいのでしょうか?棒に吸盤・・・」

P「正式名称はラバーカップって言うんですよ」

店員「近くのデパートが売れなかったからってこっちに大量に回してきたのよ、新品だから安心してね。でも、それにしても」

P「なんです?」

店員「無知なお嬢様系アイドルにスッポン持たせると犯罪の匂いするわね」

P「わかります」

雪乃「?」キョトン

店員「ありがとうございましたー」



─ 車の中 ─

雪乃「店員さん、いい人でしたね」

P「ええ、またお世話になってしまいました」

P(そういえば、あの人に・・・)

店員『アイドルに愛情注ぎすぎて、オトしちゃダメよ!』

P(なんて言われてたのに俺は、俺は、俺はぁぁぁぁぁああああ!!!)

雪乃「首をそんなに振り回されて、どうされましたか?」キュッポン

P「俺ってなんでこんなに約束守れない最低野郎なんだろうって思っちゃいまして・・・」

雪乃「・・・あんまり気に病む必要はありませんわ。病は気からですよ?」キュッポンキュッポン

P「ありがとうございます」

雪乃「アナタに倒れられては困る人はたくさんいます、もちろん私もです」キュ・・・ッポン

P「ははは・・・ところで」

雪乃「はい?」

P「雪乃さん、それハマったんですか?さっきから窓に貼っては外してを繰り返して・・・」

雪乃「え・・・あっ////お恥ずかしい・・・」

P「スッポンの吸引力って物凄いですからね。もしかしたら窓割れちゃうんで」

雪乃「すみません、忘れてください・・・////」


雪乃「ところでこれは何に使うものなんですの?」

P「えぇと、お手洗いが詰まったときに・・・」

雪乃「お手洗い!?わ、わ、私、なんてものを車の窓に!」

P「ああ、まだ一度も使ってないんで、ただのゴムのおもちゃですよ」

雪乃「よ、良かったですわ・・・」

P「しかし、今時は業者に頼みますからね。ましてやウチはアイドル事務所、大事なアイドルたちにそんなことさせられませんよ」

雪乃「でもお掃除道具には変わりないのですね?」

P「そうですね」

雪乃「ならば転ばず先の杖、ということでとっておきましょう!」

P(雪乃さんが崇めるようにスッポンを持ってる・・・、不思議な光景すぎる・・・)

雪乃「うふふっ!」

─ 事務所 ─

雪乃「では、私はレッスンに行って参りますわ」

P「俺は営業に出回ってきます、帰りは一応17時に一度戻ってきますね」

ちひろ「期待してますよ、プロデューサーさん!では二人とも行ってらっしゃい!」

二人「「はい」」


ちひろ「よしっ、今日は溜まったビデオ見るぞー、おーっ!」

ちひろ(しかし、壁にかけられたパーテーションはともかく、あの大事そうにテーブルに飾られてるスッポンはなんだろう・・・)

ちひろ「気にしたら負け、ね」


数時間後・・・。

P「つっかれた」

ちひろ「プロデューサーさん、おかえりなさい!私とちょうど入れ替わりの時間ですね!」

P「ちひろさんが定時で帰りたいって言ってましたからね、ものすごく張り切って頑張りましたよ」

ちひろ「ふふふっ、ありがとうございます!スタミナドリンク買いだめしておいたのでどうぞ」

P「ありがたくいただきます。ちょっと走ったもので・・・」

ちひろ「え?車使ったんじゃないんですか?」

P「元々近場だったので、電車で行ったんですよ。そしたら相手先のお偉いさんが「オペラ見に行くぞー」って連れて行かれまして」

ちひろ「あー・・・」

P「電車賃浮かすために歩いて帰ってきたんですが、途中でトナカイに懐かれましてね」

ちひろ「ん゛!?トナカイですか!?」

P「はい、なんでもサンタの子がグリーンランドからわざわざ下見に来たみたいです」

P「そのトナカイと遊んでいたら、気付けば夕方だったんで走らざるを得ないという事に」

ちひろ「苦笑いしか出ませんよ」

P「なんかすみません。心配かけたくなかったもので・・・」ズゥーン

ちひろ「ほ、ほら!落ち込んじゃダメですよ!ちゃんとお願い守ってくれたんですから!」

P「はい・・・」

ちひろ「じゃあ、あとはお願いしますねー」

P「さようなら、また明日」



P「誰もいない・・・」

P(はぁ・・・ネガティブ直らないかな・・・女性との物事に対して責任感が強すぎるだけと言われたが)

P(克服のために年下の朋や響子の前ではなんとか兄貴面してたけど、結果が告白される。加減が分からないな・・・)

P(そもそもめんどくさい男はモテないんじゃないのかな。よく女性雑誌とかでバカにしてる記事があったはず)

P(もしかして、皆は俺をこの仕事を辞めさせるためにやってる可能性が・・・)

P(・・・って俺は何を考えているんだ!俺がみんなを信じなきゃ・・・)


唐突にスッポンを顔面に引っ付きさせる。

P(忘れろ!忘れるんだ!アイドルを疑うようなことは!)

そして、思いっきりスッポンを引き剥がした。



キュッポンッ!!



P「いったぁぁぁぁあああああ!!でも目が覚めたぁぁあああ!!!」

雪乃「Pさん?」

P「あ、雪乃さん。すみません、変なところ見せてしまって」

雪乃「いえいえ、Pさんが悔い改めるために奇行に走るのは重々承知してますから気にせず続きをどうぞ」

P「み、見られるの意識してやれるもんじゃないですよ・・・」

雪乃「ところで、Pさんはもうお仕事が終わりですか?」

P「あとは簡単な事務仕事をやった後、応接間などの今日はもう使わない部屋の点検を行ったら、終わりですね」

雪乃「では、後で相談に乗ってくれませんか?」

P「はい、分かりました」

雪乃「ふふっ、じゃあシャワー浴びて参りますね。レッスンでの汗を流してきます」





その後、俺はすぐさま残った仕事を終わらせ、雪乃さんがシャワールームから出るのを確認して、自らもシャワーを浴びた。


P「各部屋確認完了!あとはオフィスだけか」

─ オフィス ─

雪乃「おかえりなさい。Pさんの寝巻はジャージなのですね」

P「そういう雪乃さんもジャージですね」

雪乃「ふふっ、トレーナーさんに借りましたわ♪」

P「なるほど。それで、相談とは・・・?」

雪乃「その前に。Pさん、お酒飲みませんか?」

P「お、お酒ですか?紅茶じゃなくて?」

雪乃「はい、腹を割ってお話がしたかったのです」

彼女の手にはチューハイの缶が2つ。すでに準備完了だった。

二人はソファに腰を掛けた。

俺は缶を開け、そのまま口をつけた。

雪乃さんは氷を入れたコップに注ぎ、ちびちびと飲みだした。

P「ぷはーっ、久しぶりにお酒飲んだなぁ」

雪乃「私もです。あまり飲む機会がありませんでした」

P「あー、それで相談とは」




雪乃「Pさん、芽衣子さんのこと・・・」





俺は一瞬ドキリとした。芽衣子はキス事件の当事者だ。
だが、この事件のことはスタッフと今ツアーとして罰を受けてるメンバーだけが知っている。

P(雪乃さんが口籠ってしまった。もしかしてどこからか情報が漏れたのか!?)

雪乃「・・・その、呼び捨てで呼んでますよね?芽衣子って」

P「そ、そうですね」

P(見当違いだった、よかった)

雪乃「私と芽衣子さん、同い年で身長も同じなんですわ。なのに、なぜ私は“さん”付けで呼ばれてるのか不思議で・・・」

P(なるほど、俺の態度が気になってたんだ)

P「その、雰囲気と言いますか、丁寧な仕草がこちらの背筋を伸ばさせるというか」

雪乃「そうですの・・・で、では今だけでも呼び捨てで呼んでくださいまし!」

P「うぇっ!?」

雪乃「こんなワガママですが・・・ダメでしょうか?」

手元のコップに視線を落とした後の上目遣い。
上品さを持つ女性が見せるキュートな仕草は簡単に人を殺せそうだった。

P「あのっ、そのっ」

P(何を言葉を詰まらせてるんだ俺は!たった2文字を言わないだけなんだぞ!)

雪乃「む、無理なら別に」

P「いえいえっ!その、あの、えーっと・・・」


P「・・・雪乃」

雪乃「・・・////」


ボソッと呟いたのにも関わらず、彼女の耳には届いていた。
耳まで赤くした彼女に話しかけられるはずもなく、黙ったまま数分が経った。

縺九o縺�>

雪乃「・・・・・・」

P「・・・・・・」

雪乃「・・・Pさん」

P「なんでしょうか?」

雪乃「頭・・・冷やして参りますね。アイスでも買ってきますわ」

P「分かりました・・・」



雪乃さんはおそらくコンビニに向かったのだろう。

俺は恥ずかしさを紛らわすためにさっきやっていたスッポンを顔面に張り付けては剥す作業をしていた。

P(むなしいな、テレビでも見よう)


ピッ!


実況『11回の裏、満塁のチャンスで惜しくもムラタ選手は三振っ!攻守交代です!』

P(見たかった番組は・・・野球の延長でズレたか。キャッツのせいというより、ハラ監督のミスだな、うん)

P(満塁のチャンスなら代打でオガサワラを・・・)







「キャアーーーーー!!!」







P「今の悲鳴は・・・雪乃さん!?」

P(窓の外にジャージ姿の女性はいない、どこ行ったんだ)



バコンッ!!



事務所の扉を突き破るように開け、雪乃さんが飛び込んできた。

雪乃「く・・・ぅっ」

そのまま倒れこみ、右腕を押さえる。
切ったような隙間があり、その向こうから血が止まらない様子が窺える。

P(雪乃さんが切られた?誰に!?)

その考えの後、すぐさまゆっくりとガタイの良い男が入ってきた。

男「はっはぁ!アイドル事務所に張り付いてれば、いつか1人でアイドルが出てくると思ってなぁ!?」

手にはナイフ、長さは不明だがくだものナイフぐらいだった。
血がついている事からコイツが犯人であることが明確になった。

暴漢「ここでお前さんを殺せば、俺も一躍アイドル級の人気ものよぉ!」

P(そういえばちひろさんが、最近物騒だって・・・)

なんで俺は雪乃さんを一人にしたんだ!と、
いつもなら負のスパイラルに陥ってるところだが、今は酒の力もあってか間髪入れずに足が前に進んだ。

P(雪乃さんを助けなきゃ!)

雪乃「た、助けてっ!」

暴漢「喚いたって」P「うぉぉぉぉぉおおおおお!!!!」

幸い、相手の視界の外にいたのか先手を取れた。

暴漢「うごっ、くっそ離せ!」

P「誰が離すか!!雪乃さん警察を!!」

鯖折りの要領で後ろから腕ごと絞める。
相手が凶器を持っている以上、雪乃さんからこの暴漢を離すことを最優先にした。


暴漢「うっぜぇ、テメェから殺してやる!!!」

体格差で負けていたのか、振り払われる。

P「うあっ・・・!」

後ろによろけ、何歩か下がったが踏ん張った。
だが、その踏ん張ったのが仇となった。

雪乃「も、もしもし!警察の方ですか!いま、ナイフを持った男が・・・え・・・?」




P「く、ぐぅっ・・・!!」



声にならない声が口から漏れる。
暴漢の右手にあるナイフが今は自分の腹に突き刺さっている。

暴漢「素直に倒れてくれればこんな事にはならなかったのになぁ!」

踏ん張る際に前屈みになったのがヤツにボディブローと同じ型でナイフを刺せるチャンスとなってしまった。
致命傷を与えるには十二分だった。


雪乃「Pさんっ!Pさぁあああああああん!!」


P(雪乃さんの叫び声が聞こえる。でも遠い。腹に刺されているのに痛みは感じない。俺は死ぬのかな)


でも、その前にやらないといけない事がある。
痛みで叫ぶ前に、雪乃さんに魔の手が届く前にこの男を止める。

P(だが、どう止めれば・・・)

体格差で負けている、俺は柔道や空手をやっていない。
だが、とっておきのモノが手元にはあった。

P(・・・コイツがあるじゃないか!)


P「うごっ・・・はぁ・・・」

暴漢「おうおう、まだ息絶えてくれないのかよ」

暴漢は油断している、今だ。

P「すぅ・・・」

思いっきり息を吸い、暴漢のナイフを持つ手をつかんだ。

暴漢「ん?」

P「うぁぁぁぁぁぁぁああおおおおおおおおお!!!」




そして“さっきからずっと持ってたスッポン”をヤツの顔めがけて振り下ろした。


ギュポンッ!


暴漢「んごっ!?んんんんん!!!??」

見事、顔全体にキレイに張り付いた。

突然の出来事に暴漢は把握できず、顔に張り付いたスッポンを空いた片手で剥すことはできそうにはなかった。


P(今だっ!)




決死の覚悟で俺は慌てふためく暴漢の首めがけて、拳を放った。



暴漢「んんんんっっ!!?」

急所を打ち抜かれ、暴漢は痙攣しながら膝から倒れていった。


P「たお・・・せた・・・」

自分もまた、横に倒れた。着ていたジャージは元の色をしていないくらい赤黒く滲んでいた。


雪乃「あぁ、Pさんっ!もうすぐ救急車が来ます!しっかりしてください!」

P「ゆき・・・の・・・さん・・・」

雪乃「ダメですわ!目を閉じては!・・・もうすぐ、もうすぐですから!」

P「また皆に・・・迷惑かけ・・・そうです・・・」


雪乃「Pさんっ!?Pさんっ!!!Pさぁぁぁぁぁぁん!!!」


そこから俺の意識は消えた。


─ 杉坂海の家 ─


海弟「なーなーねーちゃん」

杉坂海「ん?どうしたよ」

海弟「これねーちゃんの所じゃない?」

テレビ『速報です。今日未明、○○プロダクションにナイフを持った男が押し入り、2名に重軽傷を負わせた模様です。』

海「え?」

テレビ『アイドルの相原雪乃さんが腕を切られるなどの軽傷、プロデューサーのPさんが腹部を刺され重傷です。男はすでに逮捕され・・・』

海「ちょ、ちょっと待ってよ・・・ウソだよね・・・?」

海弟「ねーちゃん?」

海「ど、どうすればいいんだよ!Pさんが刺されたって・・・!」

海「雪乃さん、軽傷なら電話取れるかな!?」

海母「こら海っ!早く寝なさい!」

海「え!まだ寝るような時間じゃ・・・」

海母「・・・外にマスコミがうじゃうじゃいるわ、どこから沸いてきたのかしら」

海「わ、分かったよ!」

海(どうか、皆無事でいますように)

─ 名古屋のとあるホテル ─

並木芽衣子「うーん、今日も疲れた!サウナでも入ろうかな♪」

五十嵐響子「離してください朋さん!私は我慢できませんっ!」

藤居朋「待ちなさい響子ちゃん!いま私たちが動いてもマスコミのエサになるだけだわっ!!」


芽衣子「どうしちゃったの?」

響子「芽衣子さん・・・Pさんが、Pさんがぁ・・・!」

芽衣子「え?」

朋「テレビを見て」

『・・・腹部を刺されたPさんは病院に搬送されましたが、意識不明の重体です』

芽衣子「え、嘘、め、眩暈が」バタンッ

朋「芽衣子さんっ!?ちょっと倒れちゃダメよ!」

響子「ヒック・・・うう゛・・・ども゛ざぁぁん゛」

朋「もう、私も泣きたいし、すぐにでも駆けつけたいわよ!うわーん!!」

─ 病院 ─

P「んんっ・・・ああ」

P(朝か。天井が白なのは事務所もだが、ここはどこだ?)

雪乃「Pさんっ!目が覚めたんですね!」

P(ベッドの横に雪乃さんがいた。目の下にはクマが出来てる、寝てないのか?)

雪乃「手術成功してもずっと意識がなくてっ!Pさんが起きなかったら私っ・・・!」

P(雪乃さんが泣いてる・・・そうだった、腹を刺されて倒れたんだった)

P「ここは、病院?」

雪乃「そうですわ、事務所に一番近い病院に搬送されたんです」

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