ウマ娘怪談 (13)
私、怖い話なんて出来ないんだけど……
ああ、でも少し不思議な出来事はあったわ
この前の夕方、マルゼンスキーさんが何人かで並走していたの
とても楽しそうに走っていたし、参考になると思って見ていたんだけど
並走相手の人たちが凄かったの
あのマルゼンスキーさんに今にも追い付きそうな所まで迫っていたのよ
並走相手の人たちも見事な追い込みだったんだけれど、やっぱりマルゼンスキーさんが逃げ切って
それでせっかくだから息を整えているマルゼンスキーさんに声をかけて、並走相手の人たちを紹介してもらおうかなって近付いたんだけど
日が落ちたコースにはマルゼンスキーさん一人しか居なかったのよ
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1639807885
これ、アタシが体験した話なんだけど…
この前、少しの間風邪引いて寝込んじゃってさ。同部屋のクリークさんがいろいろ看病してくれてたんだけど、ある日夜中にクリークさんがアタシのこと起こして「こっそり寮を抜け出して夜風に当たろう」って急に言い出したんだ。もちろん抜け出したことバレたら怒られるし、アタシはいいって言ったんだけど、クリークさんアタシの手を引いて飛び出して行っちゃって
いきなりそんな事するからアタシも怒ったんだけど、なんか様子が変でさ。顔が真っ青で息を荒くしてたんだよ。それで「何かあったの」ってクリークさんに聞いたら、
ベッドの下から白い手がアタシの足をつかもうとしてた…って
それ聞いてゾッとしちゃってさ。フジ寮長にワケを話して使ってない部屋があるからその日はそこでクリークさんと二人で寝かせてもらったんだ
それで次の日、起きたらクリークさんがいなかったんだ。その時は「ああ、もう部屋に帰ったんだなー」ぐらいにしか思ってなかったから、フジ寮長にお礼言って部屋に戻ったらクリークさんが寝てたんだ。アタシが部屋に入った拍子に起きたから「もしかして二度寝?」ってからかったらクリークさん
「何のことですか…?私は一度も起きてませんけど…?」
…って
あれは俺がちょっとばかし残業して家に帰る途中だったんだ。俺実家がトレセンから近いし、職員寮使ってないんだよな。
で、トレセンから家に帰る道って言うとちょうどトラックの横を通り過ぎてちょっとした藪を超えるあたりなんだが、あそこって夜になると満月の日でも薄暗くていやーな感じなんだわ。
そんな感じのところをいつも通り歩いてたんだが、ふと顔を上げると前の方に黒髪のウマ娘が歩いてるのが見えてな。その子が、なんかをポロッと落としたんだ。
特定の担当はまだいないとはいえ、俺もトレーナーの端くれだしな。大方トレーニングかなんかなんだろうが若い子が夜に暗い道を一人で歩いてるってのも危ないし、落とし物を渡すついでに早いところ寮に戻るように忠告しようと思ったんだ。
で、慌てて落ちてるものを拾って追いかけに行ったんだが、走っても走ってもその女の子に追いつけないんだよな。
……ウマ娘の脚力に人間が追いつけるわけない?……いや、そうなんだけどな……なんというかその時はいけると思ったんだよ。その子だって走ってるけど、ずっと視界には入る範囲にいたしさ。
とにかくひたすら……どうも覚えてる時間から計算すると30分ぐらいは走り続けてた計算になるんだが、どんどん走って、とうとう獣道みたいなところに女の子が入っていくのが見えたから、追いかけようと思って腰まで伸びてる草に手をかけた。
そこで、突然後ろから「こんなところで何をしているんだい?」って声が聞こえたんだ。
びっくりして振り返ったら、なんてーのかな……栗毛?そんな感じの子が腰に両手を当てて仁王立ちしてたんだよ。
その子の顔を見たらなんか急にどっと疲れが出てきてな。いきなりぶっ倒れて、結局後から駆けつけてきたその子のトレーナーの部屋に担ぎ込まれちまった。情けないなぁ……
その子は……なんというか、ちょっと話し言葉が難しい子だったんだが、言っていることを噛み砕くと、なんでも夜の追加トレーニングに励んでたら俺がフラフラ変な方向に向かっていくのが見えたから道を間違えてると思って話しかけたんだと。
俺はその子に教えてもらうまで知らなかったんだが、あの藪の中ってちょっとした崖や沼みたいになってるところもあって危ないから入らないようにってのが入学時に先輩から後輩に伝えられるのが慣例になってるらしいぜ。お前知ってた?
………おいおいマジかよ。教えてよそういうの。泣いちゃうよ?俺。
……え?このままじゃ全然怖い話でもなんでもない?ただ俺が間抜けなだけ?
ああ、すまんすまん。ここからが不思議なところでな?俺が最初に追いかけてた黒髪の子が着てたジャージのデザインに違和感があったからちょっと調べてみたんだが、どうもそのデザインってもう十年も前に廃止になったやつらしいんだよな。
そもそも俺、その子の落とし物を拾ったから追いかけてたはずなのに、その子が落としたのが何だったのか全然思い出せないんだよ。
あれ、一体なんだったんだろうな?
ほらテニスコートに向かう道、あるじゃない? まあテニスコート自体使う人少ないんだけど。
……あの道ね、夕方頃に一人で歩いてると引っ張られるんだって、尻尾を。
本当に毛が数本レベルで、こう、クイックイッと。ほんの少しだけ、ただそれだけ。
それで何かな?と思って振り向いても誰もいないんだ。
なーんだ気のせいか、って思って……その日はそのまま何事も無く帰っちゃう。
それで何日も経って、すっかりそれが頭の中から消えた頃にその道を通ると、また引っ張られるんだ。
それも、少しだけ、ほんの少しだけ強くなった力で。それで振り向くとやっぱり誰もいない。
それからも何度か、忘れ物を取りに急いで戻るとき、プールトレーニングの後で眠い足を引き摺ってるとき。
そんな意識してないときに限って、引っ張られるのよ。
最初は軽く、そして段々とほんの少しだけ、でも確実に少し強く。
あの道、尻尾を体の前に抱えて足早に渡るウマ娘を見たことない?
もしそうなら、その子はもう気のせいじゃないってぐらい強くなっちゃって、絶対に忘れないようにしてるのかもね?
え?なんでそんな話を学園で聞いたことがないかって? そう、それは幸運ね。
……引っ張られるからよ、この話を聞いたウマ娘がそれを“忘れた頃に”あの道を通ると、ね。
トレセン学園って、毎年やめる子が結構出るのは有名だよね。
じゃあその内訳がみんなレースで結果を出せなかった子なのかと言われれば、それは違う。
……なら残りはなんなのかって?それはね、ホームシック。寮生活に馴染めなくて、地方の地元に近いトレセンでやり直す子もそこそこいるんだよね。かくいうあたしも、中等部に入ったばっかの頃はそんな生徒の一人でさ。寮の同室の子とも全然話が合わなくて、地元の友達が恋しくって。お母さんに電話したいけど、期待して送り出した娘が泣き言なんて言ったら辛いだろうなって思って……毎日泣きそうになってたなぁ、あの頃は。
八月ぐらいかな?上級生はあらかた合宿に行っちゃって、校舎に人がいなくなるじゃん。その中でも特に人がいないあたりの廊下を歩いてたら、非常階段の前を通りかかったんだ。
そしたらさ、聞こえたの。声。確かにあたしを呼んでる声。
おねえちゃんの声が聞こえる。
あの扉の向こうにおねえちゃんがいる。
なんかもうボロボロ涙が出ちゃってさ、もう何がなんでも扉の向こうに行ってやろうって気になってドアノブを掴んで捻ったら、反対側の手をガッシリ掴まれたんだ。
いつの間にか寮で隣の部屋の子が後ろに立ってたんだよね。
普段うるさいぐらい賑やかな子なのに、神妙な顔しちゃってさ。「差し上げます!」ってなんか変な飾りのついた箱渡されたんだ。
ぶっさいくな猫のぬいぐるみが入ってた。なんでもどっかの神社のマスコットらしいんだけどさ、あれは流石にブサよりのブサカワって奴だって。今度見せたげるね。
最近になってあの扉を開けてみたんだけどさ、やっぱり普通の非常階段だったよ。
ボロボロで、段もサビきっちゃった古臭い非常階段。
扉の向こうにおねえちゃんがいるわけなんてないんだ。
だって、六年も前に死んじゃったんだからさ。
オタク共通の悩みが何かって言われれば色々あると思うんですけど、デジたん的に一番辛いのは「ハマったジャンルが古すぎて供給がない」だと思うんですよ。ほら、もちろん今が素晴らしいのは前提なんですけど、それこそあたしが生まれる前にだって輝かしいウマ娘ちゃんの歴史というものは存在しているわけで。ああ~、あの空気を生で味わいたかったなぁ~!みたいな、ね?
そんな迷えるオタクたちのためにあるのが中古ショップです!
もちろん冷やかしはご法度ですが、ショーウィンドウに並ぶプレミアウマ娘ちゃんグッズを見るだけでもう涎が出ちゃいますよねぇ~……じゅるりら……
……あわわ、すみません!身の回りで起こった変な事、ですよね?それが、ちょうどあたしがその中古ショップに行った時の話なんです。
この辺から30分ぐらいのところに、四階建ての半分以上がマニア向けストアな場所があるんです。大体の趣味用品が揃うって界隈じゃ有名なんで、気になるようなら今度案内しますね!
で、あたしが何を目当てにそこに行くかと言われればもちろんウマ娘ちゃんです!往年の名バブロマイド集とか……全部買おう!とかは無理ですけど、やっぱり見てるだけでもエネルギー貰えちゃいますからねぇ……ウヘヘ……
で、その日ちょうどお目当ての本だった「名バ勝負服デザイン百選~その構造に迫る~」を手に入れ光に包まれしご機嫌デジたんとなったあたしは、るんるん気分でエレベーターに乗り込んだんです。
ですが、るんるん気分が行きすぎて下に行くつもりがうっかり上行きに乗り込んじゃったみたいでして。だんだん上がっていく階数表示を見ながら、「あー、上に着いたら下押し直さなきゃなー」ってぼんやり考えてました。
でも、空いたドアの先を見たら、どう考えてもおかしいんですよね。だって、いくら上の方の階には空き店舗が多いっていっても、一面シャッターだらけで真っ暗なんてことはないはずなんですよ。
おかしいなぁって思いながらドアを閉めて下に降りたら、見覚えのある店の並びに戻ってこれたんですけどね。
……でも、不思議なんです。
エレベーターの中にはあたし以外誰もいなかったのに、一体誰があのエレベーターを「そこ」に止めたんでしょう?
それとも、「そこ」からエレベーターを呼んだなにかと、あたしは一緒に降りてきたんでしょうか?
うっかりエレベーターから降りなくてよかったです。……もしそうしてたら、何が起こってたかわかりませんから。
怖いこと?……うーん、マヤちょっと思いつかないから、クラスで流行ってる七不思議ってやつの話するね。
有名なやつにね、ヒカリさまっていうのがあるの。
レース場側のトイレの、奥から三番目のドアの前に紙を置いて「ヒカリさま、ヒカリさま、おいでください」って3回唱えるの。そうするとドアの下から手が出てきて、紙に書いた言葉のうち一つを指さすんだ。その言う通りにすれば、やることが絶対にうまくいくってウワサ。
自分が差し型だと思ってた子が逃げに変えてみて成功した!って話とか、聞いたことあるよ。
ヒカリさまは昔すっごい速いウマ娘だったんだけど、大きな試合には出られないまま死んじゃったんだって。なんでかっていう所は色々ウワサがあるんだけど、トレーナーちゃんに聞いてみたらウマ娘のシボージアンだったら三十年前のストーカー事件が一番それっぽいかもって言ってたよ。昔そういうひどい事件があったけど、今はみんなを守るためにいっぱいセキュリティが用意してあるから大丈夫だよって。
……ただの噂でしょって?……ううん。あのね、ヒカリさまはウマ娘の前にしか現れないっていう決まりがあるから先生たちは見たことないみたいだけど、これってほんとにほんとの話なんだよ。マヤもクラスの子達と試したことあるもん。
でも、マヤはヒカリさまに会いにいくの好きじゃないんだ。
だってみんな気づいてないけど、あれ、男の人の手だから。
とりあえずここまで
考えましたね
おつ
乙
元ネタがあるのかとか語り手ウマ娘のエピソード由来なのかとか
わりと考えたが分からなかったから完オリなのかな
あとヒカリ様はウマ娘より速い女装ヒト息子だった可能性
おつー
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません