カルネアデス・プリズム(名探偵コナン×竜とそばかすの姫) (155)

スレタイ通りのクロスオーバー二次創作です。
両方観てる前提の内容になります。
「周辺作品」も絡むかも知れません。

R、ではないと思いますが、事件的にきつい描写があります。
味付け苦め、かも知れません。
しっかりオリキャラ入ります。

二次創作的アレンジ、と言う名のご都合主義、独自解釈、読解力不足
等々も散見される予感の下ではありますが。

それでは、スタートです

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1636540148


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 ×     ×

「敢ちゃん」

大和敢助は、上原由衣が運転する乗用車の後部座席でその声を聞く。
その間に由衣はハンドルを切って
幸い無人だった歩道に車を突っ込ませてハザードを点灯させた。

「長野県上田市、国道イチヨンサン号、俺の目の前で衝突事故。
俺は長野本部捜査一課の大和敢助警部だ。
ライトバンが急病を思わせる異常な進路変更を行って
反対車線の幼稚園バスに衝突………やばいっ!」

スマホに集中していた大和が更なる異変を感じて顔を上げる。

「衝突されて一度停止したバスが暴走、
近くを走行していたワンボックスカーが避けきれず衝突した。
現場への車の出入りを止めて、
PC(パトロールカー)と救急車の手配を頼む」

車を出た二人は、由衣が駆け出している間に
大和は前方を睨みつけながら110番通報を行っていた。
この時、長野県警捜査一課の大和敢助警部とその部下の上原由衣は、
長野県内各地で発生していた連続強盗事件の捜査本部に所属していた。
事件自体は被疑者が逮捕され、将来的な有罪も確実視されていたが、
諸般の事情で供述に基づく裏付け捜査と挨拶回りが多々必要な事となり、
二人はその一環として上田市内の関係先を訪問した帰りだった。
現場は片側二車線。由衣は北に向けて左車線で車を走らせていたが、
前方を南向きに走っていた左車線の営業車ライトバンが
猛スピードで反対車線に斜め走行を始めたために
とっさに避難した直後に事故以外の何物でも無い轟音を聞いていた。
大和が一番手近なライトバンに近づくと、
由衣が運転席の窓を掌で叩きながら叫んでいた。


「ロックされてるか?」

「はい」

由衣は言うが速いか、特殊警棒を振り出して助手席側に回った。
その間に、後続車だったタクシーが停車して
中から若い女性と運転手が駆け寄って来る。
由衣が特殊警棒の底を窓に叩き付け、割れた窓から助手席のロックを外した。
由衣はそのまま助手席に入り、運転席のロックも解除する。
タクシー客の女性がライトバンの運転席を開けるのを見て、
由衣はちょっと首を傾げる。
恐らく捜査資料だった筈だがどの顔写真だっただろうかと。

「もしもし、大丈夫ですか?」

運転席に体を入れた女性は、突っ伏した運転手の肩を叩きながら声を掛け、
服に掌を入れて胸、腹を触る。

「運転手さん、救急車を呼んで下さい。ライトバン三十代男性、
口は動いても、胸に触っても動きが感じられないと」

「分かりました」

「もしかして警察の方ですか?」

「ああ、そうだ」

「だったら………」

シートにスマホが置かれた運転席から、二つの公共施設の名前が聞こえた。

「こちらに協力の要請、出来ませんか?」

「何をだ?」


「AEDです。ここから運べば救急車よりも早く着くかも知れません。
一刻を争います」

「分かった、パトカーを向けられないか確認してみる。
上原は先にバスに行っててくれ」

「お願いします」

「分かりました」

タクシー運転手が走り去り、大和がスマホを操作する。

「医療関係者ですか?」

「いえ、家政婦です」

運転手を引っ張り出していた女性は、
背後から聞こえた大和の問いに答えながらその仕事の事を考える。
本来東京で働いていたのだが、
その、良くして貰っている派遣先から是非にと頼まれ、
追加料金と派遣元の許可を得て
こちらの別宅でのホームパーティーの手伝いを依頼されていた。
その中での、追加の買い物から
タクシーで戻ると言う豪気な仕事の最中だったのだが、
こうなってはなるべく早く連絡を入れて
後はなる様にしかならない、と腹をくくっていた。


「大和班長」

サイレンが聞こえ始める中、地面での心肺蘇生を背に見ながら
スマホをしまってバスに近づく大和に駆け寄って来る者がいた。

「陣内か」

駆け寄って来たのは制服警察官二人、
大和に声を掛けた陣内巡査部長とその部下の巡査達。
陣内は近くの交番に主任として勤務しているが、
地元に精通し熱心な職務で信望を得ている様は
若き顔役の片鱗と言える程で、一課の大和も一目置いていた。

「自邏隊が先着して交通整理や報告を始めています」

陣内が言い、異常な蛇行運転を見せた幼稚園バスの横っ腹に
目の前の進路を塞がれたワンボックスカーが突き刺さった現場に向かう。
ワンボックスカーの運転席からサラリーマン風の男がよろよろと出て来た。

「おい、大丈夫か?」

「息、出来ないぐらい痛い、いだだっ」

警察手帳を見せる大和に、男が苦しそうに堪える。
大和が男の胸に軽く触れると悲鳴を上げた。

「肋骨みたいだな。無理に動くと内臓を傷つけかねない。
ゆっくり歩道に避難出来るか?」

敢助の言葉に頷いたサラリーマンが巡査の肩を借りて移動する。

「非常コックを探して下さい」

「あった」

バスの背面で由衣が言い、コックを見つけた陣内と共に背面非常口を開けた。
それと共に、数人の園児が泣きながらバスを飛び出す。
すれ違いにバスに入った由衣は、
思い出した様に次々と始まる号泣にたじろぎそうになる。
それは陣内も違うとは言えなかったが、
それでも彼の方が耐性がありそうで、二人で宥めながら先に進む。


「大丈夫ですかっ?」

由衣が、頭から血を流し
通路で椅子の縁にもたれて脱力していた若い女性に声をかけた。

「は、はい。私より子どもたち、園長を」

「おい、大丈夫かおいっ?」

若い女性が言い、陣内が先に園長らしき運転席の男性に声を掛けていた。

「これ、急ぐわね。運び出します。
リモコン台(警察署無線室)から消防に連絡お願いします」

意識の無い園長の状態を確認した由衣が言い、
陣内が携帯無線で交信を行う。

「大丈夫よ、大丈夫だからぶつからない様にあそこから外に出るの」

子どもの群れの後に若い女性がふらふらとバスから表に出るのと、
由衣と陣内が二人がかりで
体格のいい園長に肩を貸す形で降りて来たのはおよそ同じタイミングだった。

「よーし、あっちで待ってような。大丈夫ですかっ?」

由衣が園長の心肺蘇生を開始する一方で陣内が園児を歩道に促し、
バスを出た教師らしき女性を支える。

「子ども、まだ中に………」

「血、止めるか。目ぇ見えてねぇや
ちょっと聞くが持病とか無いな?」

額からだらだら垂れ流しの傷口に少し目を細め、
ゆっくり座らせながら陣内がハンカチで応急処置をする。

「行かないと………」

「ちょっと待て」

女性教師の瞼を開いた大和が言う。


「ちょっと、万歳してみてくれ、両腕だ」

「はい」

「腕、痛むか?」

「いえ、大丈夫です」

「大丈夫じゃねぇよ」

陣内がぽつりと言う。

「ゆっくり立って」

大和に言われ、立ち上がろうとした女性は即座に陣内に支えられる。

「散瞳と麻痺が左右逆に出てる、中の出血を疑うべきだ。
報告しつつ彼女を安全な場所に」

大和が指で自分の頭を突々きながら指示を出す。

「あっちに。こっち側は動きますか?」

「………おいっ!」

無線に報告しながら女性を支えて移動する陣内とすれ違い、
何者かが矢の様な勢いでバスの非常口に駆け込んだ。

「みんな、大丈夫よ。あそこから表に出るの」

大和がその後を追って非常口に差し掛かると、
中では一人の女性が中の園児に声を掛け、
複数の園児が非常口に押し寄せる。


「この子をお願い、脚を痛めてる」
「お、おう、もう大丈夫だ」

しゃくり上げながら女性に抱え上げられた園児が一旦非常口に降ろされ、
大和に声を掛けられてそちらに向けて顔を上げたその園児は
火が付いた様に泣き出した。

「よーし、よしよし、元気だ。ここにつかまれ。
あんたも早く出るんだ」

大和は、なんとかかんとか園児を脇に抱える様に外へと移動する。
そうしながら、中の女性を気に掛ける。
三十、或いは四十代の、痩せた体つきの何処か慌ただしい女性だった。

「1、2、3、4、5、6、7………」

「交代だっ! あなたは避難してっ!!」

大和と入れ違う様に非常口からバスに入った陣内は、
床に寝かせた園児を心肺蘇生している女性を発見していた。
その時、「逃げろ」、「避難しろ」と言う叫び、絶叫が一際高く聞こえた。

「ちっくしょう………」

ほんの何秒かの後、立ち上がった陣内は周囲の状況を確認する。
取り敢えずバスは横転しており、
洒落にならない臭気と熱気が今でも伝わって来る。

「おい、大丈夫かっ!?」

窓の上に立つ形となった陣内は、椅子の背もたれを避けて探索する。
そして、窓であった床に倒れる先程の女性の背中を見つけ、
その女性と女性に抱き締められた園児の取り敢えずの生存を確認した。


「急がないと本気でヤバイぞ」

「はい。動ける?」

「痛い、痛い痛い」

女性に声を掛けられた男児が、荒い息を吐いて蹲った。

「痛いのか? 立てないのか?」

陣内の問いに園児は立ち上がろうとするが、すぐに体をくの字に折った。

「この子をお願いします」

「分かった、あんたも急げよ」

「はい」

園児を横抱きに運びながら、後ろに視線を向けて陣内は息を飲む。
後ろを進む女性は、頭からも指先からも血を滴らせ、
天井だった壁に手を着きながら懸命に進んでいる。
陣内は大急ぎでバスの外に出て、
到着していた救急隊に園児を託して振り返る。

「危ないっ!!」

バスの非常口に飛び込もうとした陣内に、
炎上するワンボックスカーからの火線を見た部下が飛び付いた。

ーーーーーーーー

上田市内の救急病院観察室で、上原由衣は大和敢助と再会していた。

「敢………大和警部、こちらだったんですね」

「ああ、バスの爆発で吹っ飛ばされたからな。
こぶが出来た程度で中身は異常は無かった。
で、結局どうなった?」

「死者一名、それ以外は命に別状ありません。
ライトバンの運転手の診断は心筋梗塞、
午前中から腹部の違和感があったそうです」


「放散痛か」

「恐らく。只、胃炎の持病もあったため薬を飲んで済ませていた所、
運転中に急激に悪化して意識を喪失したと。
バスの運転手はライトバンの衝突後少しの間覚醒していた様ですが、
恐らくその時点で硬膜外を含む内出血の多発外傷で
正常な判断が出来る状況ではなかっただろうと。
第一の衝突でバスの中が半ばパニックとなり、
既に重傷を負っていた園長と幼稚園教諭が混乱の中で
結果として中途半端な運転操作を行って被害が拡大した様だと」

「誰も責められない、って奴か」

「バスの中で亡くなった女性は、
バス転倒時の外傷で動けなくなり、そのまま爆発に巻き込まれて焼死、
正確には一酸化炭素中毒が死因になったものと」

「分かった」

「………今日一日は検査入院。赤馬の呼吸器系は後から来る事もあるから、
くれぐれも無理に出て来る様な真似はするな、と、上からもきついお達しよ」

「………ああ、分かったよ」

ーーーーーーーー

この日の勤務を終えた陣内巡査部長は、線香をあげた仏間に座り込んでいた。

「六分、七分の勝ちを以てよしとする、か。
又、三分に当たっちまったよ。ばあちゃん」


 ×     ×

その日の夕方過ぎ、
東京都米花町内の喫茶店「ポアロ」には、黒ずくめの女が訪れていた。

「おすすめは?」

「グラタンは如何でしょう。
鰈のいいのが入りましたよ」

「あー、いいわね。いただくわ。
後、オレンジジュースも」

「かしこまりました」

「ポアロ」の働き者安室透が、栗山緑からオーダーを取って調理を開始する。

「ご愁傷様です」

「うん」

ウエイトレス榎本梓がちょっと奥から戻って来て、
先程安室からも聞いた梓の挨拶に緑が頷いた。

「お待たせいたしました」

「これこれ♪」

焼きあがったグラタンが希望通りドリンクと共に用意され、
相好を崩した緑が早速取り掛かった。

「BAD END」

「おや」

グラタンを半分ほど腹に収めて呟いた緑の言葉に、
安室がカウンターから反応した。


「ああ、グラタンはいつも通り美味しいわよ。
仕事柄、詳しい事は言えないんだけどね。
先生も私も随分手を尽くした仕事で結果がBAD END。
しかも、理由が全然関係ない只々ありふれたハードラック。
それでぷっつり終わりなんだからやり切れない」

「お疲れ様です」

「うん」

安室の労いに緑が返答し、緑は食事に戻る。

「御馳走様」

手を合わせた緑が、カウンターに紙袋を置く。

「お土産。今度これで何か作ってもらおうかしら。
文字通り馬力がつく奴」

緑の言葉に、紙袋を持ち上げた安室が中身を取り出す。

「生食用ですか」

「ええ」

「明日来ていただけるなら、タルタルステーキ等どうでしょう?」

「いいわね。明日のランチにそれお願い。今夜はこれから一仕事」

「これからですか?」

緑の言葉に梓が聞き返す。


「ええ、資料の整理をね。
只でさえ気が重い事件で気が重い終わり方だったのに、
だからこそ、今回は貴重な案件だから
うん十年後に回顧録が書ける様に記録しておくって先生がね。
もちろん表に出す時は分からない様に脚色する事になるけど、
早い内に記録は整理しておくって」

「特に記憶は変わってしまいますからね」

「そういう事」

安室の言葉に緑が答える。

「だから今夜は家でもお茶漬けね」

「柴漬けですか?」

「残念、野沢菜よ。
御馳走様、今日も美味しかった」

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今回はここまでです>>1-1000

続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。

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>>13

 ×     ×

「哀ちゃん?」

休日の西多摩駅前でバスに乗ろうとしていた鈴木園子は、
停留所の先客に気付いて接近した。

「こんにちは」

園子の挨拶に、灰原哀がぺこりと頭を下げる。

「一人?」

「ええ」

「珍しいわね。何時もの子達は?」

「あの子達は博士と一緒に仮面ヤイバーショー。
私はこっちの方が良かったから」

「って事は、やっぱり目的地同じって事?」

「多分、そういう事になるわね」

「へぇー、哀ちゃんにそんなアウトドアな趣味がねぇ」

「あら、時々キャンプなんかにお付き合いさせてもらってるわ。
もっとも、今回は江戸川君に聞いてちょっと興味が湧いただけだけど」


「ふうん。じゃあガキンチョと一緒で良かったんじゃない?
哀ちゃんならついでに一人ぐらい乗せてくれたでしょう」

「別に、電車とバスで来られる場所だから
そこまでしてもらう事でもないわ」

「ふうん」

何処か意味ありげな園子に、哀はちょっとじとっとした視線を向ける。
そして、園子は、後々の事を考えて
「蘭ねーちゃん」と言ってみたい衝動を懸命に堪えていた。
そのまま、到着したバスに乗り込む二人だったが、
車内では特に言葉を交わす事も無い。
目的の停留所で降車た二人は、山々を背景にした町並みの道を歩き出す。
途中、軽くクラクションが鳴らされ、
二人がそちらを見ると、アルテシアに跨って二本指を立てたライダーが
ヘルメットの下の口をにっと笑わせるのが見えた。


ーーーーーーーー

「こんにちは哀ちゃん」

「こんにちは」

野外駐車場の入口で、目線を合わせて挨拶する毛利蘭に
灰原哀は小さく挨拶を返す。

「よっ」

軽く声を掛けるコナンに、哀が一見ちょっと面倒くさそうに手を挙げる。

「やあー、哀ちゃん」

「こんにちは」

両腕を広げて実ににこやかに声を掛けて来た世良真純に
さくっと挨拶してするりと向きを変える灰原哀であった。


「じゃあ、俺は仕事して来っからよ」

「うん」

毛利小五郎と蘭が言葉を交わす。
かくして、防犯アドバイザー兼地域番組ゲストとして
招待されていた小五郎と一旦別れ、
園子を含む一行は近くの河川敷へと出発した。

ーーーーーーーー

「メイプルリバー杯、高校生の部」

土手から河川敷を眺めながら園子が口に出す。
河川敷では、係員や見るからに
ウォータースポーツな人達が行き来していた。

「比較的新しい大会だけど、学生カヌーの世界ではなかなかの顔になってるわ」

園子が言った。

「確か、日本全国をブロック分けして
一ブロックから一校乃至二校、だったかしら?」

「へえー、よく知ってるねー哀ちゃん」

哀の言葉に真純が反応し、哀は小さく頭を下げて視線を逸らす。

「なかなか、見応えがありそうだね」

「うん、カヌーもそうなんだけど」

真純の言葉に、園子が含みを残して一同が歩き出す。

「あっちが応援エリア。事前登録したメンバーで
各校少人数の応援パフォーマンスが認められてるんだけど」

言いながら、園子は係員や学生が点在している河川敷のエリアを見回す。

「ちょっと早かったかな」

蘭が言い、スマホを操作し始めた。


ーーーーーーーー

「あちらに見えますのがー、
西多摩市北部住民センターでございまーす」

何か思う所があったのか、道路に戻り暫く歩いていた一行の先頭で、
鈴木園子は開き直ったかの様に前方に見える建物を案内した。

「に、してはちょっとお洒落だね。ロッジみたいだ」

半ば林に埋もれる様に見える瀟洒な建物に、真純が感想を漏らす。

「元々のセンターが最終的に今の基準での利用が無理って事になって、
経営難になった地元企業から丁度いい物件を買い取ったって事よ。
本館がセンターで、別館のレストランは縮小して
食堂売店その他として第三セクターで運営してるって」

開いた門扉から敷地内に入り、
建物に向かう道すがら真純の言葉に園子が説明を加える。
それを聞いていた真純は、すっと制動の仕草で掌を差し出すと
丸で猫の様な足取りですすすっと動き出した。
真純が一挙に立木への距離を詰めた、と、思った時には、
立木の陰から飛び出した者が、
とん、と、真純に黒ズボンの腿を軽く蹴られて飛びのいていた。
次の瞬間、黒い塊が真純に急接近する。

「学生服?」

哀が呟いた通り、黒は学ランの上下だった。
ごうっ、と、真純と学ランが一迅の風の如く動き、
白いTシャツの上に袖だけ通された黒い詰襟の裾と
その上で額に占められた白鉢巻きの緒が翻る。
構え直した真純は、舞い上がっていた自分の帽子を左手でキャッチした。


「空手だね、蘭君の知り合いかい?」

「まあね、ちょっと驚かせてやろうって思ったんだけど、
僕の方が驚いたかな? 少し会わない間に
バリツ使いからブルース・リーに乗り換えたのかな毛利君?」

「ボクが蘭君の? それは光栄だね。
確かに、蘭君はウィザード級の絶対的完全犯罪スペシャリストを
向こうに回してでも逢瀬を楽しむに値するぐらいには魅力的だからね。
だけど、郵便受けに人形が踊って、空気孔からロープが這い出た部屋の暖炉に
呪いの附木を放り込まれてから誤解でした、なんて喜劇は御免被るよ」

「ちょっと、世良ちゃんっ」

(お゛いー、俺をなんだと思ってんだよ)

園子が肩を震わせる横で、蘭が声を上げる。
一瞬真純から視線を向けられ、哀の意味ありげな笑みを横目に
心の中でコナンは独り言ちる。

「戯言だよ。大体、僕の知る限り
恋をするなら相手は男性の筈だからね毛利君は」

「ミチルくんっ」

アハハハと快活に笑ってから続けた学ランに、
蘭が立て続けの突っ込みを走らせる。

「初対面?」

「聡いんだよ、あいつは」

哀の密やかな問いに、コナンが何処か苦い口調で密やかに応じる。

「で、改めてこちらの伊達女、君達の知り合いかい?」

「でしょう、イケメン女の揃い踏みじゃない。
ええ、私達の友達で港南高校のういしみちる君よ」


真純の問いに園子が答えた。
確かに、160センチを過ぎた辺りかと言う、およその所は中肉中背。
さっぱりショートカットした艶やかな黒髪に
やや童顔で黒目がちの整った顔立ちは美少女寄りの美少年を思わせる。
癖っ毛でやんちゃっぽさが先に立つ真純とも好対照とも言えたが、
逆に、ミチルの方はほっぺの絆創膏が玉に瑕だった。

「世良真純、最近帝丹高校に転校した蘭君、園子君のクラスメイトだ」

真純が名乗りを上げ、右手を差し出す。

「改めまして、ういしみちるです、よろしく」

一度左手のスマホに「初士路留」と表示してから、路留は真純の手を取った。

「港南高校か」

「うん、ミチル君がこっちに来るって聞いてたから
合流しようって連絡取り合って」

真純の言葉に、スマホを掲げた蘭が答えた。
それを聞き、真純がすっと路留との距離を縮める。

「………念のため聞くけど、君は女性って事でいい?」

「港南高校応援団客分、僕が口癖でミチル君が渾名の女の子。
初士路留をどうぞよろしく」

ごく小さな声で尋ねる真純に、路留がにっこり笑って
bow and scrapeで応じた。


「そ、ミチル君は蘭のライバルだからね。
港南高校女子空手部のエースで応援団の花形。
渾名がミチル君で十人に一人はミチル様。
港南の王子様とは彼女の事よ」

園子が、何故かオーホホホと高笑いでもしそうな勢いで簡潔に説明してくれた。

「そうそう、甲子園でも格好良かったんだから」

「ああ、聞いたよ。あの時は大変だったね」

(ああー、大変だったよ。
流石にオメーの晴れ姿迄は気が回らなかったな)

それに続けて蘭と路留が言葉を交わすのを見て、コナンが思い返す。

「ふぅーん、そのこれは武勇伝?」

「どっちかと言うと青春の痕跡かな?
うん、只のニキビ、後始末に失敗してね」

指で頬を掻く真純に路留は苦笑して答える。


「王子様、ねぇ」

「ん? ………うげっ」

真純の視線を追って、園子がたじろいだ。

「ちょっとそれ、
前会った時は世良ちゃんよりちょいマシぐらいだったじゃない」

「何気に失礼だな、園子君は。
ボクらでついついネタにしてるものだから、
失礼したの、ボクから謝るよ」

「んー、まあ、そうなんだよね。
鈴木君とは都大会でもご無沙汰だったっけ。
ここ何カ月かで急に大きくなったからね、
空手にも学ランにもバランスが悪くて正直困る」

「だよね」

軽く嘆息する路留に、蘭が応じた。

「やっぱり大変だよね、そんなに急だと特に。
下着とか用意出来てる?」

「まあ、なんとかなってるよ」

「困ってるなら言いなさいよ。
可愛いのでもスポーティーのでも勝負下着でも、
何カップのでも買える様に用意するから」

「アハハ、鈴木君は頼りになるね。ところで………」

(い゛っ………)

すっと足を動かし、
一旦真正面からコナンを見下ろす路留にコナンがたじろいだ。
そして、コナンの真ん前で片膝空気椅子とでも言うべき体勢になって
すっと目を細める路留を前に、コナンの後ろ足がずずずと後退し
つつつーっと汗の伝う顔はつつーっと横を向いていた。


「マイクロフトだったかな、毛利君の想い人は?」

「ミチルくんっ!」

「ボク、新一兄ちゃんの親戚だからー」

「ほおー」

つ、つ、つ、と顔の向きを正面に戻したコナンは、
にっこり笑う澄んだ瞳を見て、洪水の汗をイメージしていた。

「今の判じ物を即座に理解出来るんだ。
それなら流石、彼の血筋と言った所だね。
お子様に口が軽かったのは毛利君と言う事かな?」

「もうぅーっ、この子は江戸川コナン君、
新一のお母さんの親戚で、今は私の家で預かってるの」

「江戸川コナンです」

「ふぅーん、随分可愛い声だね。
僕は初士路留、工藤新一君とも、まあ、顔見知りなのかな」

(ああー、知ってるよ)

コナンは心の中で毒づいていた。

「そうか、工藤君の親戚か。
このちびっこで見事な切り返し。と、すると」

立ち上がった路留は、コナンに背を向けてちょっと上を向く。


「君の正体は、さしずめ謎の秘密結社に改造手術を受けて小さくなった
平成のシャーロック・ホームズと言った所かな?」

「そうなんだ。ボクの正体は
改造手術を受けて変身能力を身に着けた仮面ヤイバーなんだー。
ワァーッハッハッハッ」

両腕を斜め上に向けて高笑いするコナンの前で
振り返った路留はくくくっと笑い、
年下の男をうまくだましてケッコンしたおばさんやら
名○偵○シンなるキャラクターやらが出没するアニメであれば
ぽわーんと大汗が浮かぶ様な微妙な空気が漂う。

「ハハハッ、そっか、仮面ヤイバーか。
それは頼もしい事だね。
仲良しの工藤新一君にもよろしく、リトル・ホームズ」

からから笑った路留が腰を屈めて右手を差し出し、
コナンがそれを握ってからちょっとその場を離れる。


「………灰原」

「言っておくけどブスとか鴆毒とか
ソクラテスニンジンとかの処方はやってないから
スコップでも枕でも自分で用意してちょうだい」

「ああ、俺は旅に出る。探さないでくれ」

「大丈夫よ、あの子達にはちゃんと説明しておいてあげるから
新キャライケメングラマーお姉ちゃんに迫られて
蘭姉ちゃんの眼前で見せた江戸川君の勇姿をmovieで見せたら
説得力十分でしょう。まあ、仮面ヤイバーを
無断独占した事に就いては追及必至でしょうけど」

「フサエブランド新作」

「オーケー。本当にどうしたのよ? らしくないわね。
何か余計なものに目を奪われて思考を狂わされたのかしら?」

「バーロ。言っただろ、あいつは聡いんだ。
君は黒ずくめの男に毒薬を飲まされて体が縮んでしまった工藤新一だろう、
って言い出したって驚かねーよ」

「そこは驚いてよ」

哀の返答を聞きながらコナンは嘆息した。
工藤新一は、初士路留が苦手だった。
路留は体育会系の見た目と実力の一方で相当な読書家で、
毛利蘭と工藤新一がそれぞれ得意分野で一目置く程に観と勘に優れている。
友達の友達として時々顔を合わせていた工藤新一から見て、
深く付き合えば面白い友人になりそうな魅力的な人物である事は否定しなくとも、
当面の所は、工藤新一流のキザをふわりと交わされる
苦手が先に立つ、そんな相手だった。


「お疲れ様」

目の前の哀が目を見張った、と、思った時には、
コナンはほぼ真横から頬の触れ合いそうな距離で路留の声を聞いていた。
思わず「ひっ」と声を出して
後退しようとしたコナンの背中がぼんっと跳ね返される。

「可愛いお子様、って言うのも大変だね」

それだけ言ってコナンの後ろで立ち上がった路留は、
ひらひら手を振ってその場を離れる。

「あれれー、気に入られちゃったかなー」

それを見て、腰を抜かしていたコナンに声を掛けて来たのは園子だった。

「あの子、あれで苦労人だからねー。
ガキンチョみたいにみょーに賢い子見ると、気になっちゃうのかなー」

(知ってるよ)

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今回はここまでです>>14-1000

なんか、この時点で既に世良ママと釣り好きの社長の合わせ技みたいな
オリキャラさんの登場になりました

続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。

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>>25

ーーーーーーーー

「ちょっと待って、忘れ物」

一度は住民センターから応援会場に移動しようとしていた
初士路留が方向を変えてセンターの中に移動し、
コナン達もその後をついて移動していた。
路留はちょっとロビーを見回し、通路がある方向へすたすたと移動すると、
自動販売機で買い物を始める。
ミネラルウォーターを購入した路留の周囲に
他の面々と一緒になんとなく付き合っていたコナンだったが、
集団の中で何人かが怪訝な顔をし、
それ以外の者はぴりっと鋭い雰囲気に包まれた。

「蘭姉ちゃん、おじさんに報せてっ!」

「分かった」

まず世良真純が先頭に立って階段を駆け上がり、
蘭に向けて叫んだコナンがその後に続いた。

ーーーーーーーー

「なんだ、仕事中………」

住民センター一階事務室の応接セットで、
スマホの電話を受けた小五郎が応答する。

「ん? ああ、分かった。危ない事するんじゃねぇぞ」

電話を切った小五郎が目の前の職員を見る。

「今、この建物で花火等を使う予定はありましたか?」


ーーーーーーーー

「ねえ、ここ応援生徒の控室があるんだよねっ?」

立て続けの乾いた爆発音を追って二階に上ったコナンが、
並走する路留に尋ねた。

「そうだよ、実行委員会で僕らのために
二階と三階の部屋を借りてくれてるんだ」

世良を先頭にコナン達が到着したのは、
階段もある二階エレベーターホールだった。

(悲鳴!?)

それは、ここにいる全員に聞こえたであろう明らかな悲鳴。
女性の悲鳴、それも、些か場慣れしたコナンにも
強烈な負の感情が伝わって来ていた。
ダッ、と、駆け出した路留がエレベーターホールを出る。
そこから左右に廊下が展開している。
路留は、すっ、と息を吸った。

「何かありましたかっ!?」

(右側!!)

路留が叫び、耳を澄ませたコナンは言葉にならない声を察知する。

「もしもし、大丈夫ですかっ!?」

部屋に見当を付けた真純が、
「研修室」のプレートがついたドアをノックする。

「ねえ、ミチル姉ちゃん。本当はここに学校名が張ってあったの?」

「ああ、見ての通りさ………これは、血か?」

ミチルが、すぐそばにある床設置式看板と、そのもう少し先にある、
同じ規格の「港南高等学校」の張り紙がされた看板を見比べて言う。
こちらのドアの前にある看板には、張り紙が無い一方で
コナンであれば路留の呟きがその通りだろうと言う事が理解出来る
微かに擦り付けた様な赤黒い痕跡があった。


「やだ、やだ、たす、やだ………」

「踏み込もう!」

「そっちかっ!!」

中からの声を把握したコナンが提案した時に、
職員を連れてエレベーターホールを出た小五郎の声が聞こえた。

「女の人の悲鳴が聞こえた、ここから助けを求めてる」

「今行くっ」

コナンの声に小五郎が応じた。

「センターの者です、何かありましたか? 開けますよ」

職員がもう一度ノックをしてドアノブを回した。

ーーーーーーーー

控室として使われている研修室に踏み込み、一同は足を止める。
一同の前では、研修用に長机が並ぶスペースと出入り口との間に
少女が一人座り込んでいた。
ここにいた職員の視覚情報からの第一情報を述べるならば、
それは長い黒髪の高校生ぐらいの少女で、
一見して制服らしい白いブラウスに臙脂のタイ、紺色のスカートの服装で
両手で顔を覆い座り込んでいる、と言う状態だった。
園子が目を見開き、何か言おうとするが言葉が出ない。

(何だ、この臭い? 爆竹と………焼肉?)

「傷を確認してっ!」

さっと目で現場を確認するコナンの側で、
叩き付ける様に叫んだのは灰原哀だった。
少女の手首から伝い落ちる赤い液体が、
白いブラウスに見る見る面積を広げている。


「おっし、落ち着け、大丈夫だ」

「呼吸を整えて、張り付いてるなら無理に動かさないでいいから、
動くならゆっくり手を動かして」

少女に駆け寄り、汚れていない二の腕や鎖骨を取りながら
声を掛けたのは小五郎と真純だった。

「これ、誰かにやられたのか?」

「分から、ない」

少女の手がゆっくり顔を離れ、小五郎の問いに少女は震える声で返す。

「おい、救急車と警察だ、刃物で顔を切られてる」

小五郎の声に、蘭と園子が震え上がり路留が息を飲む。

「ちょっとだけ待って。
目に傷があるのか無いのか、それだけでも押さえて」

努めて抑えた口調で尋ねたのは哀だった。

「これ、動いたら頷いてね。うん。目に傷は見えない。
両方の頬骨周辺に横向きの切り傷、まず刃物だね。
気休めかも知れないけど、傷は軽いとは言えないけど
深さや大きさはそれほどでもなさそうで傷口は綺麗だ。
どちらにしても、通報は急いだ方がいい」

指を振った真純が言い、小五郎の首の動きを見て職員が壁の内線電話を取る。

「救急箱、綺麗なハンカチやタオルをあるだけ、
それから水、出来れば封切り前のミネラルウォーターを用意して」

「それから手袋、ゴムかビニールの使い捨て、
無ければビニール袋をまとまった量で」

真純と哀が口々に告げる中で職員が電話のボタンを押す。


「もしもし、……です、こちらに刃物で顔を切られた女性がいます。
消防と警察に連絡を、それから………」

「蘭君、119番に電話を、まず救急車と警察への連絡をオーダーして。
指令台がパンクしない程度なら情報伝達は複数でも確実な方がいい。
園子君は部屋の撮影を頼めるかな。
踏み込んでしまった場所からなるべく動かない様になるべく満遍なく」

「うん」
「分かった」

真純の言葉に蘭と園子もスマホを取り出す。
その側で、路留もどこかに電話をしていた。

「ちょっと待ってろよ、俺からも110番で念押しするからよ。
どの系統にも直結してる本部の通信指令が一番確実なんだ」

小五郎が、震える少女に声を掛けながらスマホを取り出す。

「おじさん」

「なんだぁ?」

「おじさんの携帯の通話記録、
蘭姉ちゃん、爆竹が鳴ってすぐにおじさんに電話してるから」

「分かった、報せておく」

爆竹の残骸に視線を向けたコナンの言葉に小五郎が応じてスマホをタップする。


ーーーーーーーー

「どう? 動ける?」

「ちょっとうるさい、うん、大丈夫」

「分かった」

当たり前だがしんどそうな被害者の様子を確認すると、
真純は近くの長机をスマホで念入りに撮影する。

「毛利さん、これ使いたい。念のためじっくり撮影してくれますか?」

「分かった」

小五郎の撮影を受けながら、真純は長机からパイプ椅子を動かして
被害者のいる入口近くの空きスペースに移動する。
コナンとしては、部屋前方に当たる長机の上の
奇妙な物体が気になって仕方が無いのだが、まだ触れる訳にはいかない。

「大丈夫? 大丈夫、な訳ないけど、座れる?」

真純が促し、少女は椅子に掛ける。

「ちょっといいかな、目を閉じて、
手を付ける前に傷や出血の手つかずの状態を証拠保全しておきたい。
撮影するよ、ちょっと顔を上げて」

俯いていた少女が、それでも首を小さく縦に振る。

「ありがとう」

真純が言い、撮影行為を行う。


「まだ、もうちょっとだけ目を閉じてて」

言ったのはコナンだった。
コナンは、指示に応じた少女の顔に改造腕時計からのライトを当て、
自分のスマホでも撮影を行う。

「ありがとう、もういいよ」

コナンが告げて、痛みに顔をしかめながらうっすら目を開く被害者を見る。
こうして見ると、状態は修羅場そのものだが
目鼻立ち、顔の作りはロングヘアの似合う
見るからに美少女ではないか。と、コナンは気が付く。
それ以前の事として、まずは女の子の顔の事だ。
今は、これからの治療の成功を願わずにはいられない。

「ねえ、君」

一方、路留は哀に声を掛けていた。

「君なら持ってるかなと思って」

続いて、園子、蘭や小五郎にも声を掛ける。
そして、椅子に掛ける少女に近づき、その前に跪く。

「手、動かせる? 捨ててもいい綺麗なハンカチをもらって来た」

そして、路留は彼女に畳んだハンカチを渡すと相手の顔を指さした。

「そこでぐっと押さえて。そっちも」

路留の指示で、被害者自身が
顔の前で手を交差する様な形でハンカチで傷を押さえ付ける。


「これで保つかな。
あの時代なら一にも二にもブランデーって所だけど」

よいしょと立ち上がり、路留が言った。

「お薦めは出来ないわね」

口を挟んだのは哀だった。

「当然驚愕反応はあるけど今は比較的安定してる。
この状況で血の巡りを良くするなんてリスクでしかない。

「OK、Dr.Watson」

「私は科学が大好きなただの小学生。
そこのホームズオタクと一緒にしないで」

(お゛いー………)

小五郎がなんとなく二メートル超えの白髪の飲料水運搬人を連想する中、
じとっと視線を向けた哀に対するコナンの反応を見て、
路留は漏れそうな不謹慎な反応を自制する。

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今回はここまでです>>26-1000

続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。

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>>33

ーーーーーーーー

「失礼します、毛利小五郎さんはこちらですか?」

「ああ、入ってくれ」

ノックと共に聞こえた女性の声に小五郎が応じ、
一組の男女が研修室に入る。
一見してセンターの職員と分かる女性と、
細身でカジュアルな休日風の中年男性だった。

「父です」

「お医者様よ」

路留の言葉に園子が続けた。

「カヌー大会防犯アドバイザーの毛利小五郎です」

「毛利さんですか。路留の父、初士雅人です」

駆け寄った小五郎と数人が入口付近で言葉を交わす。

「お医者様ですか」

「外科医です。過去には救急医として働いていました」

「それは少し昔の話になりますが」

路留の言葉を雅人が訂正する。

「実は彼女、刃物で顔を切られていまして、
救急車は呼びましたので応急処置をお願い出来ますか?」

「分かりました」


言葉を交わす二人を見上げながら、
コナンは雅人の声、眼差しが、眼鏡を掛けた一見穏やかな紳士のまま
仕事のそれになるのを感じていた。
ミネラルウォーターや布巾の束が用意され、
手袋をはめた雅人の手で傷口の洗浄、保護が進められる。

「灰原?」

そこで、コナンが異変に気付く。
先程迄は、元来の優しさからか少々立場を忘れていないかと言うぐらい、
指令塔の一翼を担う頼もしさを見せていた灰原哀が、
どす黒い酒の気配でも感じたかの様に目を見開いていた。

「あなた………ベルの、何?」

(ベル?)

哀の言葉を聞き、コナンはスマホを取り出した。

(ベル、『U』の歌姫)

即座に思い当たったコナンがスマホの画面に目を走らせる。

(これは………それに、彼女の話し方も、ベルのオリジンも確か高知)

コナンこと工藤新一は、歌を歌わせるとド下手の部類に入るが耳はいい。
加えて、素人離れした語学の達人であり、
海外経験豊富な両親と共に外国語への精通に加えて
日本各地の方言にも通じている。
その上、新一の母親である工藤有希子は
坂本乙女役を当たり役とした往年の名女優だ。
新一が生まれた時には既に引退していたが、
そのうるさ型をも唸らせた有希子の猛勉強猛特訓の成果は、
父母の膝に乗せられていた頃から新一の耳目に繰り返し焼き付けられていた。

「ちょっとだけすいません」

もう一度、コナンが画面と見比べようと視線を向けた先で、
治療を受けていた少女が小声で言って周囲を手で制して立ち上がる。
一歩、二歩と歩を進め、哀を見下ろした。


「ベルは、私の友達よ」

コナンは息を飲んだ。
驚愕に近い反応をしていた哀は、相手の行動に気丈さを取り戻していた。
コナンと言うか新一が睨んでいた通り、こうして立ち上がると、
今は危うさを覚えるが、全体に華奢なぐらいの細さに
すらりと背が高く手足の長いスタイルは長い黒髪に整った美貌ともマッチして
学校では男子からも女子からも目を引く存在だった事が容易に想像出来る。
そして今、背筋を伸ばし、哀を見据えて
大きくはないがしっかりとした声で告げたその姿は、
理不尽な暴力に打ちのめされていた先程までを考えると
凛としたものにすら見える。

「納得、してくれた?」

怖くない筈がない、それは今でも伝わって来る。
それでも哀を正面から見据え、大切なものを伝えている。
痛々しい傷も未だ隠すに至らない、そんな彼女が見下ろす眼差しは優しい。
哀の正面に立つのは、精一杯の優しさを込めた、
長い黒髪がよく似合う芯の強い女性。
哀も真面目な顔で頷いた。


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ちょっと中断します。

続きは近々、折を見て。

投下再開です。

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>>36

ーーーーーーーー

その日、別役弘香は、高知県内の廃校舎を再利用した
地域コミュニティーセンターの一室を借り受け、
そこにちょっとしたコクピット的パソコンルームを展開して
諸々の作業に勤しんでいた。
その傍らにいるのは内藤鈴、
弘香が今通っている高知県内の高校の同級生であり親友。
鈴自身は、元々はここにあった小学校を卒業した同窓生。
そして、今現在弘香が文字通り打ち込んでいる
膨大なデジタル作業の対象そのものの人物だった。

「東京、かぁ」

鈴は。かつての東京での目まぐるしい一日を思い返し、ぽつりと呟く。

「あの二人、よろしくやってるのかなぁ」

対して弘香は、そんな鈴の気持ちを百も承知で
リアルタイムに違いない別件にニシシシシと笑みを加える。

「張り切ってたもんね、ルカちゃん」

「そりゃあねぇ、元々一人で東京行くって言ってたんだから。
それを、吹部の子らがこっちで金を出してでも
部として応援するって校長に直談判してだから、
いやー、やっぱルカちゃん愛されてるわー」

ニッシッシと悪魔の笑みを浮かべる親友に、
それ、絶対ニュアンス違うと思う、と、鈴は苦笑いを返す。

「ちゃーんとね、帰って来たらどんだけ熱烈だったか、
聞かせてもらう算段出来てるもんねー」

言いながら、弘香はスマホを取り出し、少し怪訝な顔をする。


「噂をすれば影」

と、ノリで言いはしたものの、弘香にとって友達と言えば友達、
それも、得難い経験を共有した間柄である事を否定する心算は全く無いが、
それでもどちらかと言うと友達の友達、と言う方が近い関係。
そんな相手からの着信に弘香は通話ボタンをタップする。

「はいもしもーし」

「もしもし、ヒロちゃん? 鈴ちゃん、今、そこにいる?」

「うん、いるけど代わる?」

「鈴ちゃんから目を離さないで」

「は?」

「鈴ちゃんの側にいて。
合唱隊のおばさん達と、しのぶくんに連絡してすぐ来て貰って」

「何かあった?」

「顔、切られた」

「は?」

「刃物で顔、切られた」


「………
………………
………………………ルカちゃんが、って事でいい?」

「うん。その、目とかは大丈夫で、
顔が痛くて血が出て、それだけで」

「それだけって何っ!?」

「ヒエッ」

「ルカちゃんの顔って、それ、どんだけ、鈴だって………
ごめん、気を使ってくれてるんだよね。一番怖いの自分なのに」

「う、うん。私もテンパッて変な事言った」

「話せる? 無理しないで話せる範囲で。
変質者とかそういう奴?」

「そう、かも知れない」

「犯人は? 警察呼んだ?」

「うん、来てくれた人達が警察も救急車も呼んでくれた。
犯人の事は分からない」

「救急車は呼んだんだね?」

「うん、来てくれた人達が、すごく、よくしてくれて」

「うん、うん。現場と現在地、場所どこ?」

「どっちも控室」

「控室、って、西多摩市の住民センターだっけ?」

「そう、北部住民センター」


「分かった、こっちはこっちで対処する、怪我の事に専念して」

「うん、ありがとう」

「こっちこそ………
………あのさ、今、無茶苦茶怒ってるから私。もちろん犯人に」

「ヒロちゃん?」

明らかに只事ではない電話に、鈴が電話を切った弘香に怖々声を掛ける。
弘香が、物も言わず飛び出した。

ーーーーーーーー

「大丈夫!? ヒロちゃんっ!?」

トイレに飛び込み、胃の中身を便器にブチまけた弘香の背中をさすりながら
鈴が懸命に声を掛けた。

「緊急事態っ!」

唾を吐き、唇を拭った弘香が叫び、鈴が、ひっ、と起立する。

「メールの最初にそう書いて、合唱隊のおばさん達に
動けるならすぐにここ来る様に言って、出来れば車。
問い合わせは全部メールで私に回す様に伝えて」

「分かった」

その言葉に、鈴はぱっと動き出した。
借り受けた教室に戻った弘香が、
スマホとパソコンを同時進行で操作する。
パソコンで必要なメールを作成していく。
パターンとしてはラブメール誤爆と同じケアレスミスに怯えながら、
基本的には同じグループの中で、微妙な違いこそが重要なメールを
超特急で作成送信すると言うのは想像以上に神経を使う。

渡辺瑠果に、二通のメールを作成送信する。
一通目には、「ベルが解る警察官に、次のメールを見せる事」と書いておく。
久武忍宛に、ごくごく短い概要と行先を書いたメールを
「緊急事態」のタイトルで送信する。
千頭慎次郎に対しては、秒単位で焼け付く程頭を回転させたが、
この際相手に相応しい直球勝負しかない。
「ルカちゃんが変質者?にケガさせられた、係員や警察の指示に従う事」
最初に思い付いた落ち着け、と言うのは、
そもそも自分が落ち着いていないのに、よりによってカミシンが相手だ。
他に書ける事が思い付かなかった。
合唱隊の面々には、概要メールを送信しておく。

「もしもし、私、××××高校の別役弘香と申します。
少年係の××巡査部長かその代理の方をお願いします」

ヘッドセットを装着した弘香が
スマホの電話帳から呼び出したのはこの辺りを管轄する警察署で、
最近のトラブルを通じて知り合った警察官の名前を出していた。
少し待って、電話に出た相手は弘香の指名通りではなかったが
彼女とは顔見知りの巡査長だった。

「ご無沙汰しております、別役です。
東京の西多摩市での傷害事件の事、聞いていますか?
今日です、西多摩市の北部住民センターでの傷害事件、
被害者は渡辺瑠果、私や内藤鈴の同級生です。
ベルの案件の可能性があります。
これから私と内藤鈴でそちらに出頭しますのでご配慮願います。
今、ですか? 取り敢えず今は、
……小学校跡地のコミュニティーセンターにいます」

一度電話を切った弘香が、検索やらメモ作成やらを慌ただしく実行する。

「警視庁、メール受け付けは時間外、同じ県内なら#9110だけど、
相談センター電話番号………」

弘香がスマホを操作しながらヘッドセットを装着した。


「もしもし、私、高知県××××高校2年×組別役弘香と申します。
捜査一課かそこに伝わる人をお願いします。
東京都西多摩市北部住民センターで本日発生した
傷害事件に就いて至急お話ししたい事があります」

弘香が少しばかり指で机をノックして、話を再開する。

「もしもし………はい、そうです。
ルール違反で大変申し訳ないのですが、
これからお話する事の要点は、××時××分××秒に私の名前で
既に捜査一課の×××××アカウントにダイレクトメッセージ済みです。
まず、その傷害事件の被害者渡辺瑠果は私の同級生で友人です………」

弘香は、過去の経験やそこからの関心により、
関係機関がどの程度手放しで信用出来るかと言う事をある程度学習していた。
鈴が自分の忠告を振り切ってリスク満点の選択に突き進んだ時点で、
面倒見切れないとマネジメント契約解除を申し渡す、と言う選択肢もあった。
何しろ、これまでは陰でニシシシとほくそ笑んで見ていた
億単位の熱烈な好悪の渦に生身で突撃した、
電子の世界ではもう抜けられないのである。
只でさえ一見して大人しい「陰キャ」の鈴と、聡い、賢い心算で実際賢い、
その分自分の弱さやリスクにも敏感な弘香が今後も乗り切る事が出来る。
なんて事を楽観的に考えられる状況ではない。
だが、生憎と、ベルの育ての親の匿名プロデューサーマネージャー、の他に、
別役弘香は「内藤鈴の親友」と言う手放し難い肩書も持ち合わせていた。
加えて、だからと言って手放す、と言うには面白過ぎる、と言う本音もあった。
腹をくくり、色々勉強もした。
安全圏を出て傷つかざるを得ない幾つかの経験も積んだ。
今以て苦手な事には違いない、自宅を共にする経営の大先輩からも
幾度となく有難いお説教をいただいた。
だからと言って、これからもずっと上手くいく、なんて思える訳ではない、
と言うより、今現在リアルタイムで崩壊レベルの大ピンチな訳だ。
スマホのメッセージを見て、操作を続ける。
騎兵隊よりの伝令に勇気をもらい、戦いを続けよう。
内藤鈴の親友として、相棒として。

「もしもし、吉谷さんですか? 別役です」


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今回はここまでです>>34-1000


本日この際このタイミングに斯様なものを書き込んでいると言う
まことに勝手な少々の縁に於いて一言ご挨拶を。

おめでとうございます!!!


続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。

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>>44

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「失礼します、警察です」

控室に現れたのは、まだ三十歳前と思われる女性警察官を先頭にした、
女性一人に男性二人の制服警察官の集団だった。

「あなたが被害者ですか? お話を伺いますから少し待って下さいね。
皆さん、その場を動かないで。毛利小五郎さんはおられますか?」

「私です」

先頭の女性警察官の発言に小五郎が手を挙げて応じた。

「毛利さんですね。警視庁の者です」

「自邏隊(自動車警邏隊)の部長(巡査部長)か」

歩み寄った女性警察官が開いた警察手帳を見て、小五郎が言った。

「はい。毛利さんの事はかねがね伺っております。
ですから端的に伺います。これは事件ですか?」

「ああ、俺も元は一課だ。
ハコ番この方、刃物の傷もそうじゃない傷も何度も見て来た。
ありゃあ、誰かが刃物が顔を切った、それ以外にゃ見えねぇよ」

「私も同意見ですね」

「あなたは?」

「医師です。彼女の応急処置を行いました」

初士雅人医師が差し出した名刺を女性部長が受け取り確認する。


「私は外科医です。かつては救急医療の一線にもいました。
私の知見経験からも回答は毛利さんと同じものになります」

「分かりました」

頭を下げた女性部長は、
警視庁の外勤警察官用制式携帯電話であるピーフォンを取り出すと、
長机に置いた名刺を撮影してメール機能を操作する。
そして、かかって来た電話と少し話をしていた。

「改めて申し上げます。この人数で移動すると却って現場の痕跡が壊れます。
このまま指示があるまでここを動かない様に協力をお願いします。
お待たせしました。大変な所をすいませんが、
少しお話を聞かせてもらえますか?」

女性部長は、ピーフォンを使いながら椅子に掛ける被害者に労わりの声を掛け、
彼女とペアで動く精悍そうな男性警察官が他の面子を誘導する。
その後の状況は、「名探偵」として秘かに活躍しているコナンにとっては
少々やきもきさせられる状況だった。
今、室内にいる警察官は、カヌー大会の警戒の為に
会場周辺を警邏していた交番勤務の巡査部長と、
駐車場にパトカーを駐めて、防犯パトロールを兼ねて
制服のまま住民センター売店に向かっていた自動車警邏隊の二人になる。
この三人と、やはり交番勤務で
上司の巡査部長と共に会場周辺を警邏していた男性巡査長が
警視庁本部に始まる無線連絡を受けて真っ先にこのフロアに到着、
交番組の内、巡査部長が室内、巡査長が廊下の配置となっていた。
自動車警邏隊の女性巡査部長が被害者に聴き取りを行い、
そのやや年上の部下である男性巡査が
小五郎から聴き取りを行いながら一同を集めている為、
コナンとしても余り保護者としての小五郎や蘭の面子を潰す勝手はし難い。
加えて、その両者の間で交番勤務の巡査部長が所轄の先着前線として
無線に掛かり切りになっていた為、
只でさえピーフォンのメール機能を通信に多用している
被害者側の聞き取りがなかなかコナンの耳に届かない。


「毛利さん、捜査一課の佐藤美和子主任、ご存知ですよね?」

「ああ、まあな」

「佐藤主任と部長は高校で部活の先輩後輩だったんです。
あの人、刑事志望で総監賞持ちのバンカケ女王ですから」

自邏隊の巡査が、被害者に聴き取りをする上官に視線を向けて言った。
その内、到着した所轄の鑑識係による作業が開始され、
そのためか、入口から見えた機捜の腕章を着けた背広も
先着した交番の巡査長と言葉を交わして去って行く。
一方で、救急隊員が部屋に入って患者の状態を確かめ、
初士雅人医師も交えた話し合いとなる。

「つまり、すぐに搬送は出来ないと?」

「ええ、別の大事故と集団感染が重なりまして、
重体患者だけでも市内の病院が掛かり切りと言うのが実際で
待てるものは出来るだけ待って欲しいと言う状況でして」

「分かりました、ここまでの処置は出来ています。
出来るだけ早くお願いします」

「確か、ここって医療体制そのものがイカレてたわね」

救急隊と雅人の会話を小耳に挟み、哀が呟く。
西多摩市は比較的大きな自治体だが、
医療面においては、政治的動揺の影響もあって、
経営危機や集団退職が最近の新聞記事になる事もあった。
現場保全が一部終わった為か、
一度部屋を出た救急隊と入れ違う様に刑事の集団が現れた。


「通報者とは聞いていたが、又君かね。コナン君も」

「と言うか、目暮警部こそ早くありません?」

「だね、所轄や機動捜査隊とほとんど同時なんじゃない?」

呆れ顔で入口近くに立つ目暮警部に対して、
園子が問い返してコナンが付け加えた。

「うむ、西多摩市役所で開かれていた広域防災会議に呼ばれていてな、
過去にこの地域で発生した大規模事件に関わるヒアリングを頼まれていた。
三係が在庁番でもあったから、そのまま担当に回されたと言う事だ」

かくして、目暮十三警部以下警視庁捜査一課第三係の面々が控室に立ち入る。
目礼を示した自動車警邏隊の女性巡査部長に、
目暮の斜め後ろにいた佐藤美和子警部補が声を掛けて言葉を交わす。
そうして、まずは先着の警察官や小五郎と言葉を交わしていた
目暮班の面々が被害者に目を向ける。
声を掛けようとした美和子に椅子に掛けた少女が顔を向け、
その顔を見て、佐藤美和子警部補、高木渉巡査部長が微かに眉を顰める。


「え゛、っ?」

その側でたじろぎそうになっていた千葉和伸巡査部長を見て
佐藤が嗜めようとしたが、その前に少女が椅子から立ち上がった。

「君っ」

そして、目暮の声にも構わず様に椅子から刑事達の側に歩み寄る。

「内藤………ベル?」

少女が千葉に見せたスマホを見て、佐藤が問い返した。

スマホには、
「内藤鈴(ベル)は×月×日に警視庁○○警察署に保護されています」
と言うメールが表示されていた。

「ユーのベルですっ!」

千葉が小さく叫ぶ様に言う。

「これですね………えっ?」

高木の混乱を見て、佐藤が高木の手からスマホを取り上げる。

「じゃあ、彼女がベルのオリジン?」

「それは無いわね」

驚きの籠った佐藤の言葉を、足元からの言葉が即座に否定した。


「ベルのオリジンと彼女は明らかに別人よ。
ベルのオリジンはアンベイルで判明した事があるし、
『U』はそのシステム上成り済ましを行う事は出来ない。
ベルのオリジンはこういう、一見して美人って言うタイプじゃなかったし
時期的に言って彼女の髪の毛も長すぎる。
只、制服が同じデザインで両者が知人、それも友人と言う話が本当なら、
『U』のシステムから考えて、
ベルのオリジンがアカウント作成時の登録に
集合写真でも使って誤作動を起こしたか
オリジンの心の中の願望が反映された、と言った所かしら」

コナンと共に哀の頭の良さもある程度知っている佐藤は、
自分の膝上に手を当てて哀の話を聞いていた。
それを横で聞いているコナンも、
『U』に就いては便利なコンテンツとしての一通りの知識、
ベルに関しても、「通俗文学の知識」の一種として
それなりには知っている心算だった。
だが、この場合、コナンが一番よく知っている事は、
ベルに就いて灰原哀が只事ではない程にのめり込んでいると言う事だ。
そして、コナン自身も、哀の変化に興味を引かれた事もあって
『U』や録画でベルに接し、確かに心惹かれるのも分かる、
ぐらいの事はベルの歌に対して感じていた。
元々、コナンから見ても哀は歌とは無縁と言うタイプでもない。
歌わせたならば、素人にしては、
であったとしてもプロのお墨付きの歌唱力の持ち主である。
人気アイドル歌手の沖野ヨーコを押さえていたり、
友達とカラオケに行って興が乗れば
仮面ヤイバーやら美少女な天才やらを熱唱している。
だが、コナンから見ても、
灰原哀にとってのベルはそういう並びとは明らかに異なっていた。
ベルが『U』に彗星の如く現れて以来、
コナンが気が付いたら哀がアクセスしながらリズムを取っていたり、
研究室で踊っていたり涙を流していたり。
漏れ聞こえる哀自身の声やそれ以外の言動その他の状況証拠から、
その原因は明らかにベルであり、
これで例えば、うっかりあのダンスミュージック系のチャライ奴、
なんぞと評価を口走ろうものなら、満面の笑みで差し出される珈琲を飲んで
目を覚ましたら転生抜きで人生を零からやり直す事になりかねないと、
コナンが本能的に察する程の熱の入れ様だった。


「取り敢えず、私からの要請で一課の資料班に繋がる様に、
PSとNの本名、日付で情報求む、って事で連絡お願い」

「了解です」

佐藤が、自邏隊の女性部長に要請する。
警視庁本部刑事部捜査一課の主任を務めている佐藤も、
捜査員仕様の警視庁制式携帯電話ポリスモードを使って
専用サーバを含む連絡を行う事はもちろん出来る。
只、この時は、まずは第一報と言う装いの最低限の情報で
しれっと照会を行った方がいい、と、勘が働いていた。
強いて言うなら、それは、警視庁に於けるベルの扱いを
小耳に挟んでいたが故でもあった。

「すまん、今一つ話についていけないのだが」

佐藤達のやり取りに、目暮が追い付いた。

「はい。ちょっといいかな?」

千葉の問いに被害者が頷きスマホを差し出す。

「この………Nはベルを芸名とする歌手、そう理解して下さい。
但し、これが本当に大事な所ですが、
ベルは莫大なフォロワーを持つ大人気歌手ですが、
Nは自分がベルである事を公表していません。
日本の地方在住で今も平凡に暮らしている、筈です。
ですから、警察であっても不用意にその平穏を脅かす様な事をすれば、
巨額の利権の意味でも未成年者の人権上の意味からも大問題になりかねません」

「今の、その、情報化社会でその様な事があるのかね?」

「情報化社会だからこそ、かも知れません」

言いながら、千葉は自分のスマホを操作する。


「Nがベルの名前で歌っているのは
インターネットの中の仮想空間である『U』です」

「うむ、『U』の事は儂も知ってはいる。名前ぐらいは、ではあるが」

「はい。その『U』で、Nがそのネットの中で使われる姿で歌っている、
その時の名前がベルです」

千葉は、自分のスマホでベルの歌唱動画を表示した。

「ふむ………このアニメ、インターネットだけかね?
テレビでも見た記憶があるのだが、珈琲のCMか何かの」

「ええ、そうです。そういうオファーをしている企業もあります。
見た目はアニメですけどアニメとはちょっと違って、
アクセスしている我々生身の人間の動きとか諸々が
直接このアニメの様なキャラクターに反映されている。
『U』の用語では生身の我々をオリジン、そこから連動して
『U』の中に反映されたキャラクターをAs、そう呼んでいます」

「………つまり、それを少し置かせてもらうが、
このNは過去に東京でPS(警察署)に保護された事があって、
それが今回の事件に関係あると言うのかね?」

「分かっているのは、彼女がベルと友人であると自己申告していると言う事と、
過去に判明しているベルのオリジン、
今の言い方だとベルを操作している生身の人間の制服が
この制服と同じデザインだと言う事よ。
実際には操作、と、言うよりオリジンが画面の中に分身して
アニメみたいなAsに化けてオリジンの意思で動かせる、
と言う方が近いんだけど」

口を挟んだのは哀だった。


「それに、お姉さん高知の人だよね?
ベルのオリジンも高知の人だって、少し詳しい人なら知ってる事だから」

「コナン君」

質問と確認の後、哀の肘鉄が腹に埋まったコナンに千葉が声を掛けた。

「だとしても、ベルは所在地に関わる情報を開示していない。
誰かが勝手に探すのと警察の前で確認するのとは違った意味になるんだよ」

「ごめんなさい」

千葉の言葉にコナンが頭を下げた。

「つまりこのNはインターネットの中で
アニメの様なキャラクターで歌っている大人気歌手のベルである、
取り敢えずこういう事になるのかね?」

「大体合っています」

目暮の言葉に佐藤が答えた。
そして、佐藤と被害者の少女が小声で言葉を交わす。


「哀ちゃん、ちょっと」

そして、佐藤が哀を手招きした。

「この中にベルはいるかしら?」

千葉を隣に配した佐藤が哀に差し出したスマホには、
集合写真が表示されていた。
哀は、ちょっとそれを凝視すると一点を指さす。

「どう?」

「合っています」

佐藤の言葉に千葉が応じ、佐藤が被害者にスマホを返却する。

「まずは、負傷を押しての情報提供を深く感謝する。
警視庁捜査一課の目暮警部だ。
改めて、君の名前からお願いできるかな?」

「高知県××××高校2年×組渡辺瑠果です」

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今回はここまでです>>45-1000

続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。

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>>54

ーーーーーーーー

「いらっしゃいませ」

東京都米花町内の喫茶店「ポアロ」で、
榎本梓の挨拶を受けて一人の女性がカウンター席に就く。

「どうぞ」

「んー………カレーライスで」

「カレーライスですね」

梓が愛想よく応対し、メニューを伝える。
梓から見て、この女性客は最近出来た常連客だった。
訪れる時間帯はまちまちだが、週に二、三回はポアロを訪れ、
今の梓から見るとメニューを制覇するかの様に、
日替わりでまちまちのメニューを楽しんで帰って行く。
只、今日や初日がそうだった様に、
シンプルにカレーライスやハムサンド、
珈琲だけと言う日も幾度かあったが、
珈琲も砂糖だったりミルクだったりと気まぐれだった。
本人はと言えば、梓がこう聞かれたならば、
何と答えればいいんだろう、と言う事になりかねない。
つまり、三十手前ぐらいだろうか、地味なスーツで取り立てて特徴の無い、
常連さんだから辛うじて覚えている、ぐらいの印象の相手だった。
店でもほとんど口を利かないし、
愛想のいい梓も押し付けがましいタイプではない。
それでも、一度その場の雰囲気でちょっと雑談が成り立った所では、
「倉田商会」なる会社に最近雇われて
車で関係書類を運ぶ事もしている経理事務員で、
この店が気に入ったので近くに来たら
パーキングを借りて出入していると言う事だった。


ーーーーーーーー

電話ボックスに入った降谷零警部は、
受話器を取ると電話機にテレカを挿入し番号をプッシュした。

「もしもし」

「僕だ」

「はちきB案件です」

「(はちきB、はちきんBelle)詳細を」

「渡辺瑠果が刃物で顔を切られました。
現場は西多摩市北部住民センターです」

「と言う事は、カヌー大会か。マル被及びカミシンの情報を」

「現時点でマル被は不明、
西多摩の前線の無線にカミシンの名前は上がっていません。
高知で別役弘香が独自に警察への情報提供を行っています」

「刑事警察の動きは?」

「所轄と機捜隊の他、初期段階から猟奇犯罪の疑いもある
悪質な案件として本部捜査一課にも臨場指示が出ました」

「君は今何処で何をしている?」

「公安機捜と合流して西多摩市内を走行中です」

「捜査指揮権を押さえるつもりか?」

「許可が出次第、捜査指揮権を掌握し公安警察の総力を結集して」

「却下だ。表の捜査がそこまで動き出している段階で
こちらが直接割り込むのは国益の上からも
捜査効率上もベルへの影響からも得策ではない。そしてもう一つ問題がある」


「もう一つ、ですか」

「今日の捜査一課の在庁番はどの係だ ?」

「三係です」

「僕の知っている米花町の住民の一団が
今日西多摩市のカヌー大会を訪れていると言う確かな情報が存在している」

「通報者です」

「そういう事だ。以後、裏の情報収集に当たれ。
情報経路にいる警察内部のSにも関係情報の収集、提供を指示。
同時に、ジャスティングループの行確(行動確認)を開始しろ、
デジタル、アナログ両方でだ」

「行確、触らないと言う事ですね?」

「ああ、即座に決着しない限り、あのグループは当然捜査線上に上がる。
だが、刑事警察の正攻法では、
『U』の運営が任意の身元開示に応じる事は先ず無いし、
今の所、令状の請求も難しいだろう。
行確の上で、必要に応じて刑事警察に繋がる様に対処する。以上だ」

「了解しました」


降谷が電話を切る。
降谷達は、彼らが「はちきB」と呼ぶ案件に関しては、
公表情報の集約分析と、警察内を含む既存の協力者への
情報提供要請と言う段階で対応を行っていた。
内部ではより積極的な監視活動、
更にその上を行く獲得活動の提案もあったのだが、
後者の検討に就いては

「彼女は未成年の女子であり、
平穏に生活する日本の国民である、と記憶しているが」

と言う降谷の一言で終了していた。
法の裏側を行く部署であるからこそ、これを坊ちゃんキャリアの綺麗事、
等とみくびる眼力では到底務まらない。
罷り間違ってその様な手違いが起きていたならば、
その者は降谷以前にその忠実な部下の手で社会的に完全抹殺されていただろう。
そして、前者に就いては技術的なネックがあった。
対象者の居住地が限界集落にリーチがかかった
周囲に顔見知りしかいない過疎地の上、
そのごくごく身近で理系ハイスペック女子が鉄壁防禦を展開しているため、
下調べの時点で人的電子的共に新規に浸透工作に着手する
リスクとリターンが割に合わな過ぎると言う結論に達していた。

ーーーーーーーー

「お帰りなさい」

榎本梓が、「ポアロ」に戻って前掛けを締める安室透に声を掛ける。

「すいません、副業の方でちょっとだけ連絡を」

「探偵の兼業、大変ですね」


ーーーーーーーー

「鈴っ!」

女性達が駆け込んで来たのは高知県内の廃校の教室。
そこは、内藤鈴と別役弘香が待つ、廃校の建物を再利用した
コミュニティーセンターの自習室だった。

「大丈夫だった?」

「う、うん………」

吉谷が鈴に声を掛けるが、そもそも鈴はまだ事態を把握していなかった。

「鈴ちゃん、ここかい?」

「はい」

続いて入って来たのは、鈴も顔見知りの駐在さんだった。

「別役さんもいるね」

「はい」

弘香が返答する。鈴とは元々知り合いの駐在さんだったが、
幾つかのトラブル処理で弘香とも知り合っていた。
程なく、弘香はメモを用意しながら振動するスマホを取る。


「もしもし、別役です」

「あー、もしもし、別役弘香さんですね?
私、高知県警本部捜査一課の……と申します。
先程……警察署に問い合わせのあった
西多摩市での事件に就いてお電話致しました」

「ありがとうございます」

「今はコミュニティーセンターにいるんですよね?
内藤鈴さんも一緒で?」

「はい」

「事件の事は警視庁に確認を取りました。
ええ、内容から言って犯人がこちらで
直接どうこうすると言うのは無いと思うんですけど、
迎えの車がそちら行きますので、そこで待機してもらえますか?」

「あの、それでは県警本部に向かうんですか?」

「いえ、聴取はそちらの……警察署で行います」

「分かりました、ありがとうございます」

弘香が電話を切った。

「こっちも捜査一課が出て来た………」

「ヒロちゃん………」

怖々と声を掛ける鈴の前で、呟いていた弘香はすーっと呼吸する。

「………駄目」

「え?」

「ごめん、やっぱ口に出すのきつい。
吉谷さん、さっきのメール、見せてあげて下さい。
そこから先は私から話しますから」


鈴と親しい女性合唱隊リーダーの吉谷にメールを見せられ、
他の面々に背中や肩をさすられる鈴の様子は、
一言で表現するならば挙動不審以外の何物でもなかった。

「えと、あの、ルカちゃんが言うには、
目やなんかは無事で、そんなに大きい傷ではない、みたいな。
犯人、捕まってないけどそこに来てくれた人達が
すぐに警察も救急車も手配してくれたって。
とにかく、詳しい話聞く為にも、万が一の鈴の安全の為にも
これから警察行く、警察の方でこっちに迎えに来てくれるって言ってるから。
しのぶくんもそっちで合流する。
あの、吉谷さん、鈴のお父さんには?」

「連絡したわ」

吉谷の言葉を聞きながら、一同は足音に耳を向けた。

「ご苦労様です」

「どうも」

入って来た二人の男性に、弘香と鈴が頭を下げる。

「どうも、高知県警本部機動捜査隊です」

二人の男性が警察手帳を開く。

「知り合い?」

合唱隊所属の大学講師畑中が弘香と鈴に尋ねる。


「前に、ここからの帰りにおかしな人に追い駆けられた時に助けてもらって」

「そ。前にちょっと話したけど、
この娘達が私の家の近くまで誘導して防犯ブザー鳴らしたから、
私も出て行って注意したんだけど全然話が噛み合わないの。
それで、来てくれた……さんに相手してもらってる間に
三人で家に入って警察に連絡して。
鈴も先にスマホ警察に繋ぎっぱなしにしてたけどね。
その時に来てくれたのがこの二人で、
そのまま駐在所まで連れて行って追い払ったって聞いたけど」

鈴の説明に、合唱隊に属する農家女性の奥本が付け加えた。

「ええー、こちらの二人が任意同行と言う事で駐在所に連れて来て、
親御さんや本署とも相談して誓約書書かせて帰しましたわ」

「イカレたベルのストーカーって以外はカタギみたいだったし、
ちょっと聞こえただけでもがっちりシメられてたからね。
あれで逮捕しても軽犯罪法か条例違反ぐらいだったから、
クビとかになって無敵の人になられるよりも、
証拠押さえて失うもの残しておいた方がこの場合安全って事で」

駐在の言葉に弘香が付け足した。

「まあ、そんな所だけど、その後あの男は?」

「普通のファンレターをくれるぐらいで、危ない事はなくなりました。
あの時はありがとうございました」

尋ねた刑事に鈴が答えて、弘香と二人で頭を下げた。
付け加えるならば、鈴のスマホはストーカー事案の準用で
110番通報を行うと県警本部の通信指令室に
内藤鈴の名前等が表示される様に高知県警に登録されており、
鈴の住所は限界近い過疎地だが、ベルのアンベイル以降
高知県警察本部の指示でその地域の警戒が強化されており、
所轄警察署本署の地域課自動車警邏係や
県警本部機動捜査隊、自動車警邏隊が出入りする頻度も増やされていた。


「て言うか、もしかしたらあの男が犯人とか?」

「捜査一課の方で、ベルに関するトラブルがあったって言う口実で
彼の携帯に電話を入れてみたけど根耳に水って反応だったって話だ。
住んでいる神戸から一歩も出ていないと、
少なくとも電話の時点で神戸にいたなら東京での犯行は絶対に不可能だ」

「位置情報で簡単に分かりますね」

「ああ。それに、性格的にも、わざわざ東京まで行って、
それもお友達を刃物で襲うってのは飛躍し過ぎて見える。
もちろん、高知県警で把握してるそちらからの通報や相談は
うちの一課から東京の警視庁に全部送る事になってるから
そっちからも確認なんかはされるだろうけど」

弘香と刑事の一人が言葉を交わした。

「それじゃあ、行こうか」

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今回はここまでです>>55-1000

続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。

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>>63

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今となっては昔の話。
実写映画化も大成功を収めてテレビアニメ化もされた、
クロスオーバー二次小説やらSSやらコラージュ漫画やらの
二次創作ファン作品も実に大盛況を迎えたとある大ヒット漫画。

異能の殺人兵器を巡って正義と正義、天才と天才がぶつかり合う。
その原作漫画の中で、一つの携帯電話にかかって来た電話を
複数の携帯電話にリンクさせる機能が
作中で開発された地味に便利な発明品として登場する、
かつてそんな漫画が連載されていたと言うお話。

近年、警視庁が配備している職務用の携帯電話、
外勤警察官用のピーフォン、捜査員用のポリスモードは
警視庁の専用通信ネットワークによる情報のやり取り、
一斉連絡等の機能が従来の無線通信をカバーする強味となっており、
規定内の複数の所有者が通話を共有出来る機能も搭載されていた。



ーーーーーーーー

「作業服の男」

「だと思います」

カヌー大会応援控室として貸し出された
西多摩市北部住民センターの研修室で、
聞き返す高木渉巡査部長に渡辺瑠果が答えた。

「ノックがして、センターの者ですって。
それで私がドアを開けたら作業服、
アメリカ映画みたいなサングラスにマスク、女性ではない、と思います。
確か、ちょっとお腹が熱いって言うか、
それで体の力が抜けて、後はよく覚えていません」

「ふむ………」

瑠果の話を聞き、目暮十三警部が少し黙考する。
その側で、佐藤美和子警部補がポリスモードを取り出した。

「はい、三係佐藤………ええ、はい、すぐ折り返します」

一度電話を切った佐藤が椅子に掛ける瑠果に歩み寄る。

「別役弘香と言う名前に心当たりは?」

「私の、私やす、ベルの友達です。
警察が来る前に私が電話をしました」

「分かりました」

一つ頷いた佐藤が目暮に声を掛ける。

「資料班か」

「はい、至急」

そして、灰原哀は、眼鏡の蔓に伸びていた江戸川コナンの手が鋭くスナップし、
捜査一課三係の面々が廊下へと移動するのを横目で見守る。


ーーーーーーーー

廊下では、目暮警部以下の三係の面々がポリスモードを顔に付けている。
主に話をしているのは佐藤で、ポリスモードの通話共有機能で
他の面々が半ばそれを傍受している様な状態だった。

「少し、込み入って来ましたね」

電話が切れた後、高木が言った。

「別役弘香が高知から警視庁本部の相談センターに電話を掛けて来て、
一課を指名して西多摩の事件について話があると。こういう事か」

「ええ、センターから照会を受けた通信指令本部と資料班で
別役弘香が最初に提示した情報が合致している事を把握して、
資料班で聴き取りを行うと共に逆探知、身元照会を行って、
渡辺瑠果と同じ高校の生徒である別役弘香のスマホで
高知から掛けて来ている事も確認したと言う事です」

目暮と佐藤が情報を確認する。

「別役弘香はベルの同級生かつマネージャーですね」

千葉が言った。

「知っているのか?」

「生安部の友人がベル担当で話を聞いた事があります」

目暮の問いに千葉が答える。

「確か、サツ庁(警察庁)の指示とかで警視庁でもベル担当を置いてたわね」

「君に指名があったのか? 私は聞いていないが」

佐藤に続けて目暮が言った。


「はい、僕ではありません。
警視庁のベル担当は少年やストーカー、サイバーを扱う生安部の中で
部長が担当係員を指定していると聞いています。
影響力の大きさに鑑みてハム(公安)、
果てはZEROがマークしてるなんて都市伝説染みた話があったりもしますが」

「本当にそうだとしても、私達には分からないでしょうね」

冗談めかした千葉の言葉に佐藤が言う。

「それで、生安のベル担当の一人が僕の友人でして、
一課にもパイプがあった方がいいと言う事で個人的に多少の情報共有を」

「うむ、その友人に何か不審な兆候が無かったか確認を取ってくれ、
必要であればベル担当全般への協力要請、合同捜査も考えなければならん」

「分かりました」

「ベル関連であれば、一課の仕事になった事は真に残念だ」

返答する千葉に、目暮は一言付け加えた。

「これが、別役弘香が送ったダイレクトメッセージです」

佐藤が言い、各自がポリスモードのメール機能で表示する。
「別役弘香:今日発生、西多摩市北部淳民センター傷害事件に就いて」
がタイトルとなっており、

渡辺瑠果と別役弘香、内藤鈴、久武忍、千頭慎次郎は、高知県××××
高等学校で同じクラスに在籍する同級生であり友人です。
内藤鈴はインターネット仮想空間『U』で「ベル」(「Bell」「B
elle」の名前で歌手活動を行っています。高知県警……警察署少
年係…………巡査長、警視庁生活経済課…………巡査部長に確認して
下さい。
内藤鈴は本年×月×日、警視庁○○警察署に保護されています。
渡辺瑠果と親しい関係である千頭慎次郎は本日西多摩市内で開催され
ているカヌー大会メイプルリバー杯に学校代表でエントリーされてい
ます。

以上が、表示された。


「この、高知県警の少年係と言うのはやはりベルの担当と言う事か」

「状況から言って地元も平穏無事では済まなかったでしょうからね。
顔の繋がった少年係がいても不思議じゃないです。
さっきの話だと、既に高知県警からも警視庁に照会が入って、
先方から過去のトラブルに関する情報提供も得られると言う事ですし」

目暮の言葉に千葉が言った。

「生活経済課は過去の海賊版」

高木が確認する。

「取り敢えず、ベル関係のトラブルの届出はあってもほとんどが高知県警で
東京の警視庁に直接届いているものは案外無いみたいですね。
只、別件の捜査の中でベルの海賊版製作を掴んだ生活経済課が
一度別役弘香にも接触した、今の話だとそういう事でしたね」

千葉が自分の知識と今の電話の内容を確認した。

「千頭慎次郎とNの保護案件、
この二つは既に管轄のPSに要請が行っている、と言う事だが」

目暮が呟く。捜査一課の中でも
捜査初期からの情報センターとなる現場資料班は
管内警察署の刑事一課と直接連絡が出来る体制を取っていた。

「うちの班からもそちらに向かっています。
千頭慎次郎に関しては西多摩PSと共に学校や大会関係者を通じて
行動確認或いは任意聴取の方向で動いています」

佐藤が一方の状況を確認する。


「きな臭いのはNが○○PSに保護された案件ですか」

高木が呟き、一同がポリスモードのメール機能で資料を表示する。

「こちらからも向かっていますが、
○○PSは当時の担当者と刑事一課で当時の関係者の行確に入る腹ですね」

「確かに、この内容ならば、あのぐらいの事はあり得る、と考えるべき所か」

佐藤の言葉に、資料に目を通していた目暮が呟いた。

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今回はここまでです>>64-1000

続きは折を見て。

最初に訂正です。

>>67

「別役弘香:今日発生、西多摩市北部淳民センター傷害事件に就いて」

「別役弘香:今日発生、西多摩市北部住民センター傷害事件に就いて」

以上訂正です。失礼いたしました。

それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>69

廊下に集まっていた目暮警部以下の横を通って、
二人の女性に連れられた渡辺瑠果が控室に戻る。
二人の内の一人は自動車警邏隊の女性巡査部長。
もう一人は管轄の西多摩警察署の少年係で、
薬物等を検査する為にトイレで検体を採取した帰りだった。

ーーーーーーーー

「目暮警部」

控室に戻った目暮達に、警視庁本部刑事部の鑑識係員が声を掛ける。
鑑識の話を聞き、佐藤が瑠果に声を掛けた。
椅子から立ち上がった瑠果が佐藤達と共に移動し、
控室に使われている研修室の前方にある長机に近づく。

「これに、見覚えは?」

「ありません」

佐藤に問われ、瑠果は首を横に振る。


「こぉらっ、ガキが現場をうろちょろするんじゃねえっ!!」

「ごめんなさーいっ」

小五郎に襟首を掴まれたコナンの側に、
追い駆けて来た形の他の面々も到着する。

「い゛っ」

そして、園子は長机の上を見て張り付いた声を出す。
長机の上には、大きな金属のボウルと直系15センチぐらいの硝子皿、
もう少し大きな鉄皿、シャーレ、ターボライターが置かれていた。
硝子皿には透明な液体が薄く張られ、鉄皿には燃え滓、
シャーレの上にはピンク色と黄色がもつれ合った様な物体が見える
ターボライターは、横向きに着火する小型の使い捨てタイプだった。

「ねえ、元々こんな風に置かれてたの?」

「どうなの?」

「いえ」

コナンに続く佐藤の問いに、鑑識係員が応じる。

「ライターは床に落ちていてました。
元々、この二枚の皿の上にボウルが被せられていて、
ボウルから皿がはみ出していました。
これは硝子皿の上に乗せられていたんですけど、
放っておくと溶けてしまうのでこちらに」

係員が、佐藤にタブレットを見せながら
シャーレの上の物体を指して言った。

「この燃え滓って、燃え尽きてたのかなぁ?」

コナンが言い、佐藤が鑑識に耳打ちする。
警察、特に警視庁にはやたらと顔が利くコナンだが、
今日の警視庁刑事部鑑識は、
多摩地方担当の中でもコナンと馴染みのなかった係だった。


「少なくとも、所轄が鑑識を始めた時には燃え尽きていましたね。
ボウルの中に籠っていた煙は
その時に急遽採取したものを科捜研に回していますが」

佐藤に向けて鑑識員が返答し、天井を見た。

「換気扇だね。ボク達が来た時からずっと動いてたよ」

コナンが答え、考える。

(それでも、硝煙に紛れてすぐそれと解る臭いは残っていた。
残骸から見て、あの皿のすぐ近くで爆竹の束に着火した筈だ)

「焼肉?」

「だよね」

蘭の呟きに園子が応じる。

「確かに、これは肉か何かみたいね」

鉄皿の上の燃え滓を見て佐藤が言った。

「焼肉にしては、随分みみっちいね。
厚みはそこそこあるけど、
縮んだにしたって広さは親指の先二つって所かな?」

真純が言う。
鉄皿の上の燃え滓は、小さな蝋の塊、
線の様な灰、そして黒焦げの小さな肉片だった。

「これは、石、ですね」

佐藤の横で、器具でその肉片に触れていた鑑識員が言う。
どうやら、肉片の下に石粒があったらしい。
コナンがなんとか視界に入れると、
それは、ピーナッツよりやや小さいぐらいの楕円形の石粒だった。


「鉄の皿は園芸用の鉢皿かな。硝子皿が今の話通りだとすると、
時限発火装置? だけど、ピースが足りない」

「どういう事?」

ぶつぶつ呟く路留の言葉に、園子が言った

「うん。あのドラッグストアやコンビニエンスストア等で購入出来る、
口がリング状で角や棘の無い滑らかな鈍体に対しては
8インチやそこらどころか水筒の代用が利くぐらい悠々伸びる程の
非常な強靭さと収縮性と密着力を発揮するゴム製の袋に酸性の薬品を入れて、
袋が溶けて破れた袋から液体が漏れ出す事を利用した
時限発火装置と言うのはあるんだ」

「だけど、あれだけだとピースが足りない」

真純の言葉に、路留が同じ言葉を言う。

「そうね。あのドラッグストアやコンビニエンスストア等で購入出来る
口がリング状で、角や棘の無い鈍体、特に表面が滑らかにつるつるとした物体に
下向きに引き延ばす様に密着させながら包み込んだ場合には
極めて高性能の収縮性と強靭さと密着性を発揮する
あのゴム製の袋にある種の酸性の薬品を入れたとして、
それで時限発火装置を成立させる為には、
それでゴムが毀損して破れたゴムの袋から漏れ出した液体が
別のものと結び付いて熱を生み出す必要がある。
あれだと、只、ゴムの中に注がれたものが
穴があったのか隙があったのかで溢れ出して皿にたまった様にしか見えないし、
見た感じ安物の硝子皿に高熱が発生した形跡も見えない」

哀も、自分が見た限りで把握した状況を口に出す。

(ボウルの天井には穴、目打ちか何かか? 何かがこびりついて………)

考え込んでいたコナンの体が、
襟首を掴んだ小五郎の手でゆっくり浮上していた。


ーーーーーーーー

奇妙な皿を見せられた瑠果が椅子に戻り、
他の面々もなんとなくそちらに戻った辺りで、
小五郎とコナンがほぼ同時にスマホを取り出した。

(い゛っ………)

自分のスマホを確認し、
続いて小五郎の視線を追ったコナンは嫌な予感と共に行動を開始する。

「?」

椅子に掛けたまま待機していた渡辺瑠果は、
最初の救援者一同の中にいた眼鏡の男の子がくいくい袖を引くのに気付く。

「あのね、小五郎のおじさんって、名探偵なんだけど
あてずっぽうから推理をまとめるタイプだから余り気にしないでね」

「? うん」

コナンの小声の言葉に、瑠果は取り敢えず頷いた。

「分かりましたぞ警部殿!」

「本当かね毛利君っ」

小五郎の言葉に、目暮が驚きの声を上げた。

「私の弟子が、彼女の学校に関わる情報を
精選して抽出したものをこちらに送って来ました」

「ボクがお願いしておいたんだー」

自分のスマホを示す小五郎に、コナンがえへへーと続いた。


「渡辺瑠果さん」

「はい」

「ここではN、ですか。あなたとNさんは仲のいい友人だそうですな」

「はい」

「しかし、それはごく最近。
そう、ベルがアンベイルする前後の話だと言う事でよろしいですかな?」

「ええ、本当はちょっと違うんですけど周りにはそう見えたと思います。
私とベルは昔から友達でしたけど、色々あってごく最近まで
ベルの方から話をすると言う事はほとんどなかったですから」

「ふむ。こちらの情報では、
高校入学当初からベルのアンベイルの時期まで、
実際にベルと親しく関わっていた女子生徒は一人、そうですね?」

「ええ、大体それで合っています」

(それがベツヤクヒロカ、か………)

やり取りを聞きながら、コナンは心の中で呟く。

「そして、あなたとNは非常に対照的な存在だった」

そう言った小五郎を、瑠果は静かに見ていた。

「あなたはクラスでも部活動でも中心的な存在。
引いては、輝く存在として学校中から知られた、
言わば太陽の様な人気者。
対して、かつてのNさんは、言い方を選ばなければ
クラスの中でもいるのかいないか分からない、
むしろ彼女自身がそれを望んでいた。
全く孤立していたと言う訳ではなかった様ですが、
親しく接していたと言える友人は一人だけ。
丸で真昼の月の様な存在。それが実際だった」

「お答えは差し控えます」

瑠果は、静かに笑みを浮かべて言うと、すっと真顔で前を見た。


「不愉快です」

「同じクラスで友人関係、しかし学校での評価は正反対。
それが、最近状況が大きく変化する出来事があった」

「アンベイル」

瑠果のストレートな言葉を受けながら、小五郎が続ける。
そして、佐藤が呟いた。

「そう。ベルは事によっては億単位のファンを持つ世界的人気歌手。
その正体が目立たない地方の女子高校生だと発覚した。
それだけの有名歌手の面が割れたんだ。
少なくとも学校で見知っている人間はいたと考えるべきだし、
実際、様々な対処が為されていても
学校周辺でその様な情報を発信するネット情報は根絶とはいかなかった。
目立たない地味な存在だと思われていた目の前の友人が、
実はそんな世界規模の人気を誇る有名人。
それも、只の色物じゃない、圧倒的な歌唱力を評価される歌姫だった」

そう言って、小五郎は軽くスマホを振った。

「同じ学校の同じクラスに突如現れて、
それも、これからもずっとあなたの最も身近にあり続ける。
あなたの学校では誰もが、今でも誰もが認める頂点の輝き、
それを我が者としていたあなたの身近に」

「ちょっと、おじさまそれって」

小五郎の言葉を聞いて、園子が口を挟んだ。

「元々、ベルのアンベイルは何か突発的な事態だったんだろう。
それだけに、地方の高校に突然現れた
ベルの立場が微妙なものである事は想像に難くない。
それが、被害者であろうがなんであろうが、
危険な事件に巻き込まれたと言う事になれば………」

そこで、一同は気付く、俯いた瑠果の肩が震えている事に。


「ないないないない」

顔を上げた瑠果は、ぱたぱたと右手を振って、
ちょっと顔をしかめながらくすくす笑っていた。

「ええ、学校でも面白がってそういう、
比較とか上か下かとか勝ったとか負けたとかギスギスとか
勝手に言う人はいますけどね。
敢えてそういう価値観で言うなら、
私は別にそんな世界的な野心とかはありませんし、
す、ベルは、うん、ちょっと自信ついたかなって思うけど
学校では相変わらずのんびり草食って人畜無害に大人しく生きてます、
って、ちょっとヒロちゃん伝染っちゃった。
だから、別にそんな、私がこんな自分で痛い思いするなんて
馬鹿馬鹿しいってだけで」

「確かに、彼女の言動から言っても、とてもそこまで愚かだとは思えない。
あらゆる意味でリスクが高過ぎる。やるとしたら余程の激情家じゃないかな」

同意を示したのは路留だった。

「そうね」

そこに、哀が続く。

「このやり方だと傷跡どころか下手すると失明ものよ、
彼女の聡明さから言っても割に合わな過ぎる」

「そうよねー」

哀の言葉に園子が続いた。

「正直流石にそんな事でってねー、ホント綺麗な顔してるんだし。
彼氏でも奪られたってんならまだ話も分かるけど」

「それもない。ちゃんと別々にいるから。
ん? でもあれってどっちなんだろう。
うん、取り敢えず私と別々なのは確かだから私がそんな事する理由無い」

園子が蘭と手に手を取ってキャーと声を上げる側で、
瑠果はちょっと考え込んでから必要な結論を出した。



「それに、凶器はどうしたの?
あの怪我で凶器を隠すために動き回ったら
鑑識さんが簡単に痕跡を見つけると思うんだけど」

「少なくとも、氷の刃で出来る傷には見えないわね」

コナンの言葉に哀が付け加える。

「氷の刃、燃え滓、焼肉………」

「おじさん?」

ぶつぶつ言い出した小五郎に、コナンが引き攣った声を掛ける。

「まさか、とは思うけど、
実はあれが研ぎ澄まされた形で冷凍された肉のナイフだった、
とか言い出さないよね?」

「ん、んーな訳ねーだろーが」

コナンの言葉に小五郎が引き攣った声で応じる。

「だが、例えばだ、冷凍イカの耳なんてのはどうだ?」

「確かに、これが冷凍ヤリイカ一本とでも言うなら
隠滅する為には丸ごと煮込むぐらいする必要があるでしょうけど」

小五郎の言葉に、哀が反応した。

「えーと、煮込んでその後、どうするのかなぁ?」

「耳だけならライターで炙るか最悪生でも気合でどうにかなるって所かしら?
胃腸の虫刺されからのアレルギーで七転八倒する覚悟が必要だし
手も空気も随分生臭くなりそうだけど」

乾いた声で質問する園子をやり過ごし、哀が言った。


「それ以外のやり方だと時間が足りないか。
ライターでもあそこにありそうな燃料でもとても炭化する火力はなさそうだし、
部屋の臭いは完全に炉端焼き屋だ。
あの硝子皿に沈めても、多分時間が足りない上に後ですぐ分かる」

指の背で顎を撫でて口に出した路留にちろりと視線を向けられ、
コナンは居心地悪そうに眉を動かしながら口を開いた。

「大体、最初の疑問が解決しないよね。
あんな傷でそんな面倒な事してたら痕跡が残るって」

「渡辺さん」

小五郎は、コナンの言葉を無視する様に呼びかけた。

「ここは応援用の控室。荷物から見て吹奏楽部で来たと言う事ですかな?」

「ええ。どちらかと言うとマイナー競技で
大会側の人数制限もありますから来たのはごく一部ですけど」

小五郎の言葉に、瑠果はあっさりと返答する。

「成程」

小五郎の視線を受けて、呟いたのは目暮だった。

「渡辺さん、あなたはこの控室に一人でいた所を襲われた、
そう言う事でしたな?」

「ええ」

目暮の問いに瑠果が答える。

「なあ、おかしいと思わなかったか?」

小五郎が視線を向けたのは、蘭、園子、真純の並びだった。


「確かにね」

口を開いたのは真純だった。

「特にこの年頃の女子は、
交友関係に防犯上の事情もあって集団で行動する事が多い。
不慣れな土地での部活動の遠征と言う事であれば尚の事だ。
しかも、瑠果君は自分への評価を十分自覚している」

「そして、学校ではクラスでも部活でも中心にいる人気者。
だが、実際に彼女は一人で事件に遭遇している」

真純の言葉に小五郎が続く。
それを聞きながら、コナンは自分の顎を摘まんで思考する。

(確かに、控室に一人で被害に遭遇している。
あの騒ぎに気付かなかったって事はとっくに別の場所にいたって事だ。
彼女自身じゃないとすると)

ーーーーーーーー

「いい加減調子乗り過ぎなんだよね」

「友達とか言って、うちら引き立て役だからねー」

「そんな事思ってないっ」

「うちの彼氏に色目使ってさぁ」

「そんな事してないっ!!」

「そっち、脚押さえて脚っ」

「やだっ、やめてやだあっ!!」

「何か聞かれたら通り魔とか言っときなよ」

「チクッたら学校いれなくするからね」


ーーーーーーーー

「んー」

園子の唸り声を聞き、
コナンは脳内で黒タイツ劇団の三文芝居を幕引きさせる。

「実はハブられてたとか。
細くも長くもない子からの妬みとかすごそうだし」

「怒るよ」

瑠果が高さも温度も微かに、だが確実に低下させた声を発し、
真顔で園子を見ていた。

「ごめんなさいっ!」

「私からも謝ります、ごめんなさい」

園子がぱたんと体を折って真剣に謝罪し、蘭がそれに続く。
それを見て、瑠果は一つ頷いてついと前を見た。
その瑠果の前に、路留がすうっと移動して片膝をつく。

「お立合い、ここには君以外一体何人いたのかな?」

自分のスマホを胸に当てる形で、路留が質問した。

「先生は先に打ち合わせとかに行ってたから、私を入れて七人ね」

「つまり君を除いて六人だね」

路留は、6の数字が表示されたスマホを周囲に示しながら発言した。

「あいつ、カードの名手なんだ。モラン大佐と張るぐらいのな」

コナンが、軽く嘆息して哀に向けて呟く。


「僕は、そこのエレベーターホールで彼女達と会ってる。
エレベーターと階段に分割で移動したけど、
全員一階まですんなり移動してる。
彼女達を容疑者とするなら、それから建物から出て、
戻って来て爆竹を鳴らした事になる。
さっきも言ったけど、あの謎オブジェにも時限装置は見当たらない、
導火線を加味しても大した時間は稼げない。
時間も厳しいし、かなり不自然な行動になると思うね」

少し目を見開いた瑠果は、次に優しい笑顔を見せていた。

「それでは、吹奏楽部の他のメンバーは何をしていたのですかな?」

「先に行って、河川敷の会場に向かっていた筈です」

路留がするりとその場を離れた後で目暮が尋ね、瑠果は答える。

「成程。では、あなたは何故一人で控室に残ってたのですかな?」

目暮にそれを聞かれ、瑠果の言葉が止まる。
その瑠果の泳いだ目線をコナンは追った。

「えっと、それは、ちょっとだけと言うか………」

「ふむ………」

目暮が相槌を打つ間、コナンは瑠果の服をくいくい引いて小声で尋ねる。

「もしかしてメール見てた?」

「何やってる坊主?」

「にこにこメール見てた?」

小五郎の声に構わず、耳を寄せる瑠果にコナンが囁く。
こくん、と、下を向いた瑠果を見て、コナンはたたたっと駆け出した。


「なあに、コナン君?」

「何よガキンチョ?」

コナンに服を引っ張られた蘭と園子が口を開く。

「だから何やってんだよ?」

二人が寄せた耳にコナンがごにょごにょ囁き、
蘭と園子は頷き合うと小五郎に構わず佐藤に近づき囁いた。
佐藤が瑠果の目の前で視線を合わせて声を掛け、
瑠果がスマホを差し出す。

「ちかみ、と言うのは漢字でせんどうと書きますか?」

「はい」

佐藤の問いに瑠果が深過ぎるぐらいに頷いて答える。

「目暮警部、取り敢えず時間的にも
部屋にいた理由は一応説明がつくみたいです」

近づいた目暮がスマホを確認し、
ポリスモードのメール機能を使っている佐藤の横で
「ふむ」と一言呟いた。

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今回はここまでです>>70-1000

続きは折を見て。

まずは訂正です

>>16
×蘭が言い、スマホを操作し始めた。
○蘭が言い、携帯を操作し始めた。
>>17
×その上で額に占められた白鉢巻きの緒が翻る。
○その上で額に締められた白鉢巻きの緒が翻る。
>>19
×真純の言葉に、スマホを掲げた蘭が答えた。
○真純の言葉に、携帯を掲げた蘭が答えた。
>>30
×真純の言葉に蘭と園子もスマホを取り出す。
○真純の言葉に蘭と園子も自分の携帯を取り出す。

ええ、知ってましたよ。知ってた筈なんですけどね、
完全に手癖書きの失態ですねこれ。
申し訳ありませんでした。

改めまして。
それでは、今回の投下、入ります。


==============================

>>83

ーーーーーーーー

「では、お願いします」

事情聴取と搬送調整の見込みがついた事で、
渡辺瑠果は救急搬送に移された。
その一方で、佐藤美和子警部補は
捜査員用携帯電話のポリスモードで電話に出ていた。

「初士路留君だったね」

電話を切った佐藤と少し話し込んでいた目暮警部が、
路留に声を掛ける。

「はい」

「港南高校の」

「はい」

「ちょっと来てもらえるかね」

ーーーーーーーー

父の初士雅人に付き添われて路留が連れて行かれた先は、
すぐ隣の研修室だった。

「ここが、君達の控室だね?」

「はい」

目暮の問いに路留が答える。


「これに見覚えは?」

「? いえ」

横から現れた佐藤にポリスモードの画面を見せられ、
その中に何やら巻かれた紙を見て路留が否定する。

「これなんだが」

目暮に、研修室前方の長机を示され、
路留は怪訝に目を細めた。

「全く心当たりはないですけど、
間違いなく事件関係ですよね?」

「一見してそう見えるわね」

路留の言葉に佐藤が応じた。
二つの机の上に乗っている一つは
被害者渡辺瑠果等が通う高知の高校名が書かれた張り紙。
もう一つは、ナイフだった。

「書体等から見ても、
こちらで用意して控室の前に張られていたもの、でいいのかな。
ナイフは軍用のパラシュートナイフか」

「君かね」

顎を指で挟んで呟く世良真純に、目暮が呆れた様に言った。

「すいません、ちょっと路留君が心配で」

「パラシュートナイフ? スカイダイビングに使うの?」

頭を下げる蘭の隣で、園子が聞いた。


「正確にはパラトルーパーナイフ、だったかな。
パラシュート部隊が、外せなくなった
紐を切ったりするのに使うナイフだと思うけど」

「そう。これは昔のドイツの軍用モデルだね。
アメリカで製造してるレプリカだとすると、
ある程度量は出回ってる筈だね」

路留の説明に真純が続けた。

「一つ一つも大事だけど、状態だよね」

そう言ったコナンが、
コナンをとっ捕まえようとする小五郎の腕をすかっと交わして
長机の側の椅子から床に降りる。
コナンの言葉通り、
長机の上に広げられている張り紙は×字に切り裂かれていた。

「これは、やっぱり血痕?」

切り口の縁の汚れを指して真純が言う。

「詳細な鑑定はこれからだけど、血液型までは一致してる。
ナイフの血痕もね」

佐藤が言う。剥き出しになっているナイフの刃も、
言われてみればと言う感じで汚れていた。

「これ、このナイフって、もしかしてこの張り紙に包まれてたの?」

「どうしてそう思うんだい?」

(い゛っ)


顔見知りの佐藤に尋ねたコナンが、
横から口を挟む路留の声に喉を引きつらせる。


「え、ええと、変な折り目が付いてるし、
それに、切った時のじゃない、
血の着いたナイフを張り付けたみたいな汚れもあるかなー、なんて」

「だったら、さっきの紙包みかな?」

やたら可愛らしい声のコナンの答えを聞いて、路留が言った。

「ええ、そうよ。あんな風に包まれた状態で、
長机の下の床に放り出されてた」

佐藤が答えた。

「この控室を最後に出たのは?」

「僕です」

目暮の問いに路留が答える。

「君一人かね?」

「はい。身支度に時間がかかって」

路留が、学ランを軽く摘まんで言った。

「鍵は?」

「僕が施錠して受付に預けました」

佐藤の問いに路留が答える。


「じゃあ、ナイフを発見した時鍵は開いてたの?」

尋ねたのは、入口近くに移動したコナンだった。

「ああ、開いていたそうだ」

目暮が答える。

「路留君、もう一度聞くけど鍵は掛けた?」

「もちろん」

やはり入り口近くに移動していた真純が、路留から返答を得る。

「これで僕が犯人なら、いわゆる名刺事件、と言う事になるかな」

「現場にてめぇの名刺を置いて行く、
それぐらい簡単な事件って古いデカ言葉だな」

「そして、捜査の裏を掻く為にそれをやる犯人もいる」

路留の言葉に、小五郎と佐藤が言った。

「只、客観的に見ても僕に犯行は難しいと思いますよ。
さっきも言ったけど、
僕はあの学校の吹部とエレベーターホールで合流してる。
その後で、毛利君とそこの庭で合流した。
これで僕が犯人だと言うなら、僕はジャック・ザ・リッパー並みの
早業と悪運の持ち主と言う事にならないかな」

「それは、吹奏楽部にもおいおい確認するとしよう」

路留の言葉に、目暮が言った。

「確かに、その状況でこの鍵だと別の可能性を考えた方がいいかな?」

「ん? ああー、これならそっちの方がありかもな」

真純の言葉に、コナンの確保に動いていた小五郎が反応して
ドアのピンシリンダー錠を確認して言う。
それを見て、目暮が鑑識と打ち合わせて小五郎達が鑑識に場を譲った。


==============================

今回はここまでです>>84-1000

なんとか紅白前に一話投下出来た。
と言う、一区切りにも程遠い自己満足な年の瀬ですが、
来年もぼちぼちやらせてもらいます。

それでは良いお年を。

続きは折を見て。

あけましておめでとうございます。
正月と言う時期でもありませんが、一月中に新年一回目の御挨拶を。

それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>90

ーーーーーーーー

「ねえ、高木刑事」

一度廊下に出たコナンが、高木に声を掛ける。

「あれって………もしかしてテープ?」

コナンが指さしたのは、鑑識が壁に描いた白い囲みだった。

「ちょっと待ってよ」

高木が、ポリスモードを操作した。

「そうだね。まだ残ってるけどあそこに両面テープが貼られてる」

鑑識資料を確認した高木が言った。

「だとすると………もしかして、カメラかな?」

コナンが言う。

「ほら、小さくても遠くに映像を飛ばせるカメラがあるって
テレビで観た事あるから」

「だとすると魚眼かな」

「あ、ミチル姉ちゃん」

後ろからの発言に、コナンが乾いた声で応じる。


「いくら素人の女子でも、控室に三人も四人もいたら犯行自体が難しくなる。
慣れない人間ならごまかせるカモフラージュで壁にカメラを張り付けて、
そこから目的の控室、或いはその周辺の部屋まで出入りを監視して
控室が一人になるのを待っていた。むしろ、そう考えないと辻褄が合わない。
そうでなければ、余程の行き当たりばったりの悪運持ちか
パラトルーパーナイフ振り回してもっと最悪の犯行でも上等の凶悪犯かだ」

「ごめんなさい、ちょっと」

そこに佐藤が現れ、高木と共に路留を港南高校の控室に連れて行く。

「ねえ」

コナンに声を掛けたのは哀だった。

「どう?」

「あー、どうも繋がんねー」

哀の問いに、コナンが答えた。

「一番解んねーのはあの皿と焼肉だ」

「多分硫酸、それに溶けたゴムが浮いてた」

「ああー、もしかしたら時限装置じゃなくて判じ物かもな」

「判じ物?」

「ああ、相手は女の子の顔に傷を付ける変態野郎だ。
刃物で女に傷を付ける、焼けた肉片、あの肉片がレバーだとすると」

「女性を切り裂く、レバー、ジャック・ザ・リッパー」

「その線もあるかもな。だから、別の皿にも、
美少女の顔に切り付ける変態野郎にしか理解出来ない
何かの意味があるのかも知れない」


「何かのメッセージ、って事?」

「腹が溶けてて分かり難かったけど、あのゴムは二重になってた。
口を縛った一つ目の袋を二つ目の袋に入れて口を縛ってる。
その内側に硫酸が入ってたんだ。
袋の口を縛る、例えば織田信長が受け取った暗号」

「確か、あれは小豆だったかしら?」

「ああ、両方縛って袋の鼠。だけど、今回のは片方、
あれにしたら普通の縛り方だ、
本来の使い方だと、刺激を和らげる為にああやって二重にする、
ってのは聞いた事はあるけど」

「それ、やめた方がいいわよ。カウントダウンを遅らせる以前に
イレギュラーな摩擦で破損や脱落の原因になるから
行き着く先は土下座からの一本背負いって事になるわね」

「バーロ。だけど、その線の判じ物って事は考えられるな」

「だとすると、まあ十中八九犯人の勝手な妄想の産物ね」

「そこまで決め付けていいのか?」

「少なくとも彼女、渡辺瑠果に心当たり、それに繋がる自覚は無い。
女の目であの娘の一連の反応を見てたら解るわよ。
この推測が外れならアカデミー賞ものね」

「ねえ、世良君。あれは末恐ろしいと言うべきなのかな?」

「まあ、知ろうともない馬鹿野郎よりは遥かにマシじゃないのかな?」

ちょっとした確認の後に自校の控室を出ていた路留が、
真純と言葉を交わして二人で苦笑する。


ーーーーーーーー

「なあ、気が付いたか?」

犯行現場である控室にするりと移動していたコナンが、
隣を歩く哀に声を掛ける。

「ええ」

二人がさり気なく視線を向けた先には、床に荷物が置かれていた。

「ザックが二つ、その上にジャケットが掛けられてる。
被害者の顔の痕跡とあのジャケットの痕跡から言って、
被害者渡辺瑠果は意識を失った状態であの上に寝かされていた」

「それも、恐らく上半身をあのザックの上に乗せてね」

「ああー、彼女の顔には、血と唾液が真っ直ぐ横向きに流れた痕跡があった。
そして、ジャケットにも丁度それに合いそうな痕跡がな。
彼女は上半身をあの上に乗せて横向きに寝かされていた、
そう見るべきだろうな」

二つ並べられて、その上にジャケットが掛けられたザックを横目に
コナンと哀が言葉を交わす。


「渡辺瑠果の供述を要約すると、作業服の男にスタンガンを当てられて、
脱力した所に薬を嗅がされて意識を失った。恐らくこの手順だろう。
だけど、これ自体簡単じゃない」

「そうね。意識だけを失う様な薬、
それも外部から投与するのは本来コントロールが難しい」

「ああー、外からの投与でさっさと意識を失って、
それで何時間もしない内に目が覚めて特別な後遺症も無い。
考えられるのは、適当に薬物を使ってたまたまそれで上手く行ったか、
そんなオーパーツじみて都合のいい薬物の持ち主を探すか、或いは」

「或いは、その面倒な条件を満たすだけの
薬物のコントロールに長けている人物。
そして、今回の切り裂き事件に関わるキャストには、
今の所脳卒中後の老人はいない」

哀が言い、哀とごにょごにょ話していたコナンは
瞬時に目から鋭さを消してぱっと駆け出した。

「わあー、大きなバッグ。これって救急箱なの?」

「ああ、ファーストエイドキットだよ」

床に置かれていたファーストエイドキットに駆け寄って叫ぶコナンに、
初士雅人医師が優しく言った。

「この様なものを持ち歩いているのですかな?」

雅人の背後から現れた目暮が尋ねる。

「ええ、普段は車に。
山に登る時等はコンパクトなものを使うのですが、
今回は車に積んでいた災害用のものを」

「用意がいいですなぁ」

「やはり、昔からの仕事柄ですかね。
出来る限り二重三重の用意で万一に備えるのが
習い性になっている様で」

小五郎の言葉に雅人が言った。


「えーと、メスとかも入ってるとか」

雅人の言葉に、園子が言う。

「ああ、入ってるよ。
免許と技能とメスがあれば何かあった時の選択肢が大幅に広がるからね。
だけど、使用前には梱包封印されている使い捨てメスだし、
この中のカード型万能ナイフを含めて任意提出には応じますよ」

「では、後程お預かりしましょう」

キットの入ったバッグをぽんと叩く雅人の言葉に目暮が言った。

「先生は、ミチル姉ちゃんと一緒にここに来たの?」

「ああ、そうだよ。部活の現地集合で、
ミチルを送り届けて私も見物しようと思ってね」

コナンの問いに、雅人が答えた。

「だったら、運が良かったのかな。お医者さんがすぐ来てくれたから」

「ミチルからここで怪我人が出たって報せて来たからね」

「でも、あなた電話に出なかったわよね」

コナンの言葉に応じた雅人に、哀が言った。


「彼女、少し苛々してメール打ってたわよ」

「ああ、車にスマホを忘れてね。
車に戻ったら丁度電話が切れた所だったね」

哀の言葉に雅人が答えた。

「つまり、先生がお嬢さんと分かれて車に戻るまでの間に
お嬢さんは事件に遭遇した、そういう事になりますか」

「ええ。私は娘と別れてから
少し辺りを散策したり売店に寄ったりはしていましたけどね。
気付いてすぐに取りに戻らなかったのは、今思えば不覚でした。
休みで時間もあったので気が緩んでいましたね」

目暮の問いに雅人が答えた。

==============================

今回はここまでです>>91-1000

続きは折を見て。

念のため生存報告しときます

生存報告です

生存報告です

調整的生存報告です

生存報告です

調整的生存報告です

生存報告です

生存報告です


まずは忘れられるレベルの進行遅れ、只々お詫び申し上げます。

………ええと、公式から追加情報とかあった?
最近、って言っても結構前からネットで見かける設定関連情報に
割と血の気引いてるんですけど(汗

取り敢えず、竜そば側に関しては、小説と設定資料、
映画の記憶から起こしたプロットの大筋は変更せずに
このままなる様になるで突き進みます。見落としあったらすいません。

と、言ってる側から訂正です。

>>93
×この推測が外れならアカデミー賞ものね

○この推測が外れならマカデミー賞ものね

………引っ掛かってはいたんですけど、
原作中の通説度を見誤りました。参列の上訂正します。
自分で書いておいてのニワカっぷりが嫌になる。

個人的に色々ドツボにはまってる間に
地上波放送カウントダウン時期だし。

前置き長くなりましたが、
それでは今回の投下、入ります。


==============================

>>97

「分かりましたぞ警部殿!」

その自信満々の声に、コナンはぎょっとして振り返った。

「本当かね毛利君っ!?」

果たして目暮警部がこの様に反応した相手は、
世間では名探偵で通っている毛利小五郎その人だった。

「ええ。発見された凶器、あれが私を導いてくれました」

「パラシュート用ナイフが?」

そう言った世良真純に小五郎がちらと視線を向け、小さく頷く。

「しかし、あのナイフが軍用ナイフとしては小さなものだと言っても、
それにしても被害者の傷が小さ過ぎる、浅過ぎる」」

「それは確かに、私も気になってはいました」

小五郎の言葉に、佐藤美和子警部補も顎を摘まんで同意する。

「一理あるわね」

コナンがスマホで撮影した傷口を確認し、
その背後で哀が呟く。

「それに、出血の量も少ない。流れっぱなしだったとは思えない。
パニックになった時に傷口が開いた、ってのが妥当か」

コナンが小声で言った。

「じゃあ、別に凶器があると?」

「いえ、凶器はあのナイフでしょう」

目暮の問いに小五郎が応じる。


「そして、敢えて凶器をあの場に残した。
それは何故か? 本当の凶器をあの場に残す事で、
別の凶器の可能性を想像させない為です」

「よく分からんが」

「別の凶器、あの傷口を作るのにもっと適した凶器ですよ警部殿」

小五郎と目暮のやり取りをじっと聞いていたコナンが、
脇腹への肘打ちを受けて哀の方を見る。

(い゛っ………)

そして、くいっと哀が向けた視線の先を見て、
コナンは心の中で乾いた呻き声を上げる。
そちらでは、目を細めて小五郎を見る初士路留が
微かに剣呑な雰囲気を漂わせていた。

「初士先生、あなたはスマホを車に忘れた、と言いましたな?」

「ええ」

「お嬢さんと別れた後、散策して売店に立ち寄ってから車に戻り、
そこでお嬢さんからのメールに気付いたと」

「ええ、そうです」

「スマホを持ち歩くと、位置情報セルやGPS機能で
後で行う説明とは違う居場所の記録が残る恐れがある。
かと言って、犯行時刻だけ電源を切っていればあからさまに怪しい。
電池切れ等を装って切りっ放しにする、
と言うのも万一を考えて出来ない性格なのでしょうな。
だから、その時だけ車にスマホを置いておいた。
現場で爆竹を鳴らせば早期に通報が為されて救急車が来る。
あなたはそれに合わせて動く予定だった、が、ここで予想外の事が起きた」

「ミチル君が蘭君との予定外の待ち合わせで住民センターに留まっていた事、
そのために事件を知ってこの人に直接連絡を入れた事か」

「そう」

真純の言葉を、小五郎が肯定した。


「だから、あなたは電話に出る事が出来ず、
メールを見て急遽ファーストエイドキットを持って現場に急行した。
長い間スマホを放置していたとなると、それだけで不審を買いますからな」

「成程」

小五郎の言葉に、初士雅人が一つ頷いた。

「つまり、あなたは私が代理ミュンヒハウゼン症候群を患っている、
そう仰りたいのですかな?」

「ん? 代理………」

「代理ミュンヒハウゼン症候群」

雅人の言葉に小五郎が聞き返す寸前に哀が口を挟んだ。

「通常は児童虐待の一種として使われる言葉ね。
親が子どもを傷つけながら傷つけた子どもを甲斐甲斐しく看病する、
入院中の子どもの点滴に異物を入れたりしたりね。
そういう精神疾患、って、この間テレビで観たわ」

「って、じゃあまさか治療する為に。って事?」

鈴木園子が引き攣った声で尋ねる。

「そういう精神疾患、或いは、被害者がベルに近しいと
知っていたのならば売名、売り込みと言う線もあり得ますな」

「成程」

それは、雰囲気だけで言えば、驚く程似通った声だった。


「Ms.Watson。この場合、僕はどんな顔をすればいいのかな?
普通だったら怒ると思うんだけど」

「それで正解じゃない?
流石にこの状況で笑えるアドバイスをする度胸は私にはないわね」

「OK、じゃあこれは僕の意思だ。
不条理もここまで来ると漫画染みて笑わずにはいられない」

哀の返答を聞いた路留が軽く肩を竦めて口角を上げた。

「お立合い」

ぱんっ、と、柏手を打った路留が、それと共に伏せていた顔から
すうっと上目で小五郎を見る。

「ちょっと、どうするのよこれ?」

「どうにもなんねーよ」

哀とコナンが、焦りに満ちた小声で言葉を交わす。

「麻酔銃も誘導も、おっちゃんや蘭や園子ならまだしも
これでミチルにバレるなとか無理だ。
大体、眠らせてもまだ喋る中身が決まってねーし。
最悪、ミチルには土下座で秘密を守ってもらうから
その時はオメーも覚悟決めてくれ」

「あ゛ー、冗談じゃないわね」

コナンと哀がごそごそ囁き合っている間にも事態は進む。

「さて、問題は犯人が何処からこの建物を脱出したかだ」

言いながら、路留はスマホを操作する。

「この建物は、北側に裏山に繋がる林、南側に正面玄関がある。
そして、このフロアはエレベーターホールを出たら廊下、
一本の廊下の北側と南側に部屋が並んでいる作りだ。
この部屋があるのは南側だね」

路留が、この周辺を表示した地図サイトを示して言った。


「まず、最もポピュラーなルートは階段かエレベーターで一階に降りて
正面玄関から脱出するルートだけど、生憎僕は父を見ていない」

「確かに、大まかな時間を考えても、そのルートだと
ミチル君と犯人は玄関周辺で遭遇していた筈だ」

路留の言葉に真純が続けた。

「窓から脱出するとする。
玄関のある南側からの脱出は目立ち過ぎて非現実的。
北側ではどうか? タイムオーバーだ」

路留が、地図の建物周辺を指でなぞりながら言った。

「窓から脱出して建物の南側に回って道沿いにある駐車場まで走る。
それから車からキットを出してここに戻って来る、
なんて事は時間的にまず不可能だ。
あの爆竹に時限発火装置を使った形跡は無い。
蝋燭だとしても、あの量では保って五分って所かな、
毎日仏壇で見てるからね。
本人や身内の証言が当てにならないと言うなら、
警視庁ご自慢のSSBCに問い合わせてみればいい」

「キックオフ?」

哀の呟きを聞きながらコナンが見ると、
確かに路留は手の甲に乗せるコイントスをしていた。

「これだけの建物、公共施設だ。
玄関と駐車場、それらの出入りが何時にどうだったか
程度の事は簡単に分かるだろう。
僕達の証言が嘘だとしたら、
映像一つで覆るんだから随分と分の悪い賭けだ」

路留が、自分の手の甲を掴みながら小五郎にずいっと迫る。

「言っておくが僕も父もここには土地勘がある。
父は業界の研修会で時々ここに来てると聞いているし、
僕も行楽がてらそれに付き合ったり、今日の為に下見に来た事もあるからね。
冷静であれば、嘘であんな証言をすればすぐバレると考える。
そんな場所だねこの辺りは。
映像が出るか出ないか白か黒か表か裏かお立合いだ」


「毛利君」

路留に迫られ、目暮に声を掛けられた小五郎は
不敵に口角を動かした。

「石焼き芋ですよ警部殿」

小五郎の言葉を聞き、コナンの目に鋭さが走る。

「石と焼肉、これが時限発火装置だったんです。
焼いた石は長時間高い熱を保ち続ける。そこに肉片を当てておく事で、
時間が経てば熱せられた肉が燃え上がり導火線に着火する。
その間に逃走したと言う訳ですな」

「成程」

小五郎の言葉に応じたのは路留だった。

「そのやり方だと、サシが多過ぎるとすぐに着火する、
赤身肉だけだと焦げるだけで火が回らない。
短時間のアリバイ工作に使う時限装置である以上、
相当の精度か求められる筈だけど?」

「脂身を焼いてすぐに発火して爆竹が破裂したら
逃走前に人を呼び寄せる事になるわね。
燃え難い赤身の肉を駄目元で仕掛けてみた、って事も考えられるけど………」

路留の言葉に、美和子が一応の可能性を示す。

「現実にこの部屋で爆竹は鳴ってる、それは確かだ」

「だったら、あの焼肉を時限装置と見るのは厳しいわね」

路留の言葉に続いたのは哀だった。

「あれ、焼肉は焼肉でもレバーよ」

「おいおい本当かよ?」

哀の言葉に小五郎が言った。


「警察で詳しく調べるんでしょうけど可能性は高いわね。
焼けてはいたけど、
精肉や他のモツ肉にしては全体に緻密過ぎて見えた」

「そっか、焼肉でもお肉だと燃え上がる事もあるけど………」

哀の言葉に、蘭が思慮して口を挟む。

「そう、幾ら牛脂の融点が高いって言っても、
燃える様に脂を加えて焼石に付けたりしたら
何分もかからずに発火するでしょうし、
レバーを炙り続けても焦げるだけでそうそう発火するものじゃない、
あり得るにしても今回だと時間が短か過ぎる。
BBQパーティー大好き中高年の
脂質糖質管理してるからその辺の目は利く心算よ」

「ううむ………」

哀が理路整然と言い、小五郎は軽く唸って僅かに右足を引いていた。

「確かに、この場面に焼肉はおかし過ぎますな。
これは一度カンファレンスに掛けて何の問題があるか、
裏か表か数学的な可能性を潰して見るには値する、
そういう事ですかな、毛利さん」

「そういう事ですな」

当の本人、初士雅人の助け船に、
小五郎は堂々と搭乗して見せた。

「だ、そうだ」

そう言った路留にすうっと横目を向けられ、蘭が僅かに身を縮める。

「他でもない父の事となると、僕の心の広さも少々、ね」

「ホントごめん」

腕組みして蘭に接近していた路留に、蘭が小さく頭を下げる。


「この手の捜査は百も千も無駄の積み重ね、
先に確実に無駄である事を証明しておく必要がある。
そういうものらしいから、
父がそれでいいと言うなら僕も収めるけどね」

「おじさま結構こんな感じで
最終的にはばばんって犯人見つけちゃう感じだから。
でも、私からも謝っておくわ」

「分かったよ。
誰の為にも、精々早めにゴールして欲しいものだね」

間に入った園子が頭を下げ。路留が頷いて返答した。

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今回はここまでです>>106-1000

続きは折を見て。

生存報告です

生存報告です

間が開いてすいません。
それでは今回の投下、入ります。

>>114

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「まだ何かありますか?」

自分のスマホを取り出していた路留が目暮に尋ねる。

「学校関係でこれからの事をミーティングするので
用事が無ければそちらに行きたいんですけど」

「ああ、構わんよ。
初士先生も、お二人の協力に感謝します」

「それでは」

目暮の言葉に雅人が応じ、
その後ろで路留も頭を下げて初士父娘がその場を離れた。
その一方で、美和子がポリスモードの電話を受け、目暮に耳打ちする。

「どうやら、逃走経路が固まって来た様だ」

「只、少し妙なものも見つかっているみたいね」

目暮の言葉に美和子が続いた。


ーーーーーーーー

「何か、焦げ臭くない?」

「ああ、北側の林で焚火が見つかってな。
現在事件との関連を調べている所だ」

行き掛りでついて来た鈴木園子と目暮が言葉を交わしていたのは、
事件現場となった研修室から廊下を移動した先、
北側にある展望研修室だった。
その部屋は、学習、研修様の机椅子他の一式に、
引き戸式の窓とその外のベランダが特徴だった。

「あの窓から逃げた、って事か」

その、途中まで開いた窓を見て世良真純が言う。

「それで、妙なものと言うのは?」

「これだよ」

小五郎の言葉に、鑑識員と言葉を交わしていた目暮が
密封式のビニール袋を見せる。

「粘土?」

「ああ、こんな粘土の団子が室内から幾つも発見されたらしい」

目暮が言い、その視線の先を見ると、
確かに似た様な団子よりやや大きめの粘土玉の入ったビニール袋が
幾つも並んでいた。

「これは、何処で見つかったのですか?」

「それが、ドアや窓、戸棚、
その扉と壁の隙間に押し付けられた状態で張り付けられていました」

小五郎の問いに美和子が応じる。


「ドアの隙間にも張ってあったの?」

「ああ、ドアを開けた時に千切れたんだろうね。
それまでは張り付いてた可能性が高いね」

ドアに線で囲まれた痕跡を見つけたコナンが尋ね、
美和子が頷いて鑑識員が答えた。

「詰まり、この千切れたものは千切れた状態で発見されて、
それも含めて鑑識で剥がした、そういう事ですか?」

「ああ、開け閉めして確認する必要があったからね。
撮影の上でなるべく綺麗に剥がしたんだ」

ビニール袋を確認していた世良真純の問いに鑑識員が言った。

「おやぁー?」

真純がさり気なくその場を離れ、
代わって粘土の団子を確認していた小五郎が声を挙げる。

「何か、埋まってますなぁ。
表から見える様に光るものが」

「ホントだ」

父親の言葉に、近づいた毛利蘭も同意した。

「全部に埋め込まれてるみたい。
これって、何だろ? 何て言うか………」

園子が喉迄出かかってる表情で首を傾げる。

「ビーズ、かなぁ、透明な」

「形はそうかもだけど、大きくない?」

蘭と園子が模索する様に言い、蘭がさっと斜めに退いた。


「哀ちゃんっ?」

近くの椅子を引き寄せ、飛び乗る様にして
机の上を確認する哀の行動に蘭が声を上げ園子と共に目を見張った。

「ベル………竜?」

「これもベル関係なのか?」

哀を追ったコナンが言った。

「今までの流れから言ってそれも考えるべきね。
ベル関連、それも竜の事を」

自分も椅子を用意するコナンの横で哀が言う。

「なんだよリュウってなぁ」
「これです」

口を挟む小五郎に、千葉が自分のスマホを示した。

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今回はここまでです>>117-1000

続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。

>>120

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「モンスター?」

「これも、その『U』の、
人間と連動しているアニメのキャラクターなのかね?」

「はい」

小五郎と目暮の言葉に、
スマホに獰猛な怪物じみたキャラクターを表示していた千葉が応じた。

「『竜』、ドラゴンの竜。『U』の中では知られた道場荒らしです。
武術系の試合等に現れては、極悪過ぎるファイティングスタイルで
相手のAsのデータが
使用不能に破損する程の攻撃を加える暴力的なユーザーでした」

「そして、ベルのコンサートを妨害した」

「ほう」

哀の補足、と言うか本筋の言葉に目暮の口調が変わる。

「悪質ユーザーとして認知されていた竜は、
『U』に於ける自警団として活動していたグループ『ジャスティス』
の追跡を受けていました」

千葉が、説明しながらジャスティスの画像をスマホに表示する。

「その、ジャスティスに追われた竜が逃げ込んだ先がベルのライブ会場、
それも、初の大規模ライブのね」

「んー、ちょっと待って………」

哀の言葉を聞き、園子が額に指を当てて唸る。


「あの、竜に台無しにされたライブよね」

「そうよ」

「分かった! あの時のベルの衣装っ!!」

園子が叫び、千葉が操作したスマホを高木と美和子が覗き込んだ。

「ビーズドレス」

美和子が呟く。

「あのライブで着てたビーズドレス。かなり印象的なものだけど、
粘土に埋め込まれた、多分レプリカね。
ドレスのパーツと色も形状もよく似てる。
この状況だとその意図を考える方が自然じゃないかしら」

哀が言った。

「と、すると、すぐに関わるのは竜か?」

「私なら、どちらかと言われたらジャスティスの方を追う」

目暮の言葉に、哀が続いた。

「たまたま追跡されてライブを妨害しただけ、だからかね?」

目暮が尋ねる。

「に、してもあれはやり過ぎ、
ライブ会場で鉄骨振り回して大立ち回りだもの。
そのために、『U』の中では
歌姫ベルの大規模ライブを滅茶苦茶にした悪質ユーザーとして、
竜の悪評は決定的なものになった」

「一時期は凄かったからねぇ、
あれのせいで竜、『U』の全部からお尋ね者扱いで」

哀の言葉に園子が続いた。


「只、その事に就いてベル自身がどう思っていたか、
元々が歌以外で表に出ないタイプだからその辺は分からない。
そして、ベルへの怨恨ならむしろジャスティスの方にあるの」

「千葉君?」

「ええ」

哀の言葉に、美和子が促して千葉が応じる。

「元々、『U』は運営によるユーザーに対する直接的な規制が緩い所で、
その代わりの様に、ジャスティスが企業スポンサーの支援を得て
自警団としての権勢を奮っていました。
そのジャスティスのリーダーである
ジャスティンが保有していた最大の武器がアンベイルでした」

「アンベイル、さっきもそんな言葉を聞いたな」

千葉の説明に目暮が言う。

「はい。アンベイルと言うのは、
『U』の中でオリジンからAsへの変換を無効にする、
詰まり、『U』の中でその光を浴びるとAsから
元の人間の姿に戻ってしまう。そんな装置です。
ジャスティンはどういう訳かそんな装置を装着して
悪質ユーザーを取り締まる自警団活動を行っていました」

「じゃあ、竜もそのアンベイルをされたのかね?」

「いえ、アンベイルされたのはベルです」

「何?」

千葉の返答に、質問をした目暮が戸惑いの声を出した。


「状況から見て、どうもベルを張り込んで、
ベルの歌に誘われる竜を待ち伏せしていた様ですね。
ですが、ベルの方がジャスティンを捕まえて自らアンベイルされた。
当時の状況はそうでした」

「自ら、って、ベルは自分からオリジン、元の姿を公表したと言うの?」

「あの時の事は大混雑の大混乱で情報が錯綜していますが、
それで合っている筈です」

美和子の問いに千葉が答える。

「それがどうして怨恨になるのかね?」

目暮が尋ねる。

「本来、ジャスティンのアンベイルは
『U』の中では非公表で活動している相手の姿を強制的に公開する、
それが脅しになると言う前提で行うもの。
だけど、ベルは何を思ったのか、
今までの話通りだと渡辺瑠果と同じ一介の高校生でありながら、
自らそれを受け容れて堂々と歌い上げた」

「ええ、結果として圧倒的な、
『U』の中でも伝説的なコンサートになりました」

哀の言葉に千葉が補足した。


「逆に、その様なユーザーを巻き込みながら、
例え悪質ユーザーであっても、自警団の判断で
相手に無断でネット社会にプライバシーを公開する独善的な言動。
その対比が余りにも鮮やか過ぎて、ジャスティンの権力の源泉だった
スポンサーが一斉にジャスティンから撤退したのよ」

「面子を潰された、ってぇ事か。金だって馬鹿にならねぇ」

哀が説明し、小五郎の言葉に頷いた。

「ふうむ。ベルの、それも妨害されたライブに繋がるメッセージ、
と、なると、竜とジャスティス、両方の線を当たる必要があるな」

「竜、ジャスティン、或いはその過激な信奉者やアンチ」

「例のベル担当ともその辺りの事を詰めてくれ」

「分かりました」

目暮と千葉がやり取りをして指示を確認した。

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今回はここまでです>>121-1000

続きは折を見て。

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このSSまとめへのコメント

1 :  MilitaryGirl   2022年04月19日 (火) 18:29:12   ID: S:v-1W34

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