こんにちは。前々から書きたいと思っていたネタで一本書けたので投下しに来ました。
【概要】
以前こちらに投下した話(【ミリマスR-18】秋月律子「私、悪い子になっちゃいました」 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1605365670/))の続きです。
普通(?)のいちゃラブなので特筆して注意すべきことはありませんが、好みに合わない話だったら御免なさい。
20レスほどお借りします。
ブラインドの隙間から見える三日月は、刺すような輝きを放っていた。その日の仕事も夜の十時過ぎまで終わらなかった。仕事が遅かったりトラブルがあったりしたからではない。量が多すぎるせいだ。しかも熱意の表れか、あの人は深夜帯まで仕事を続けることにあまり躊躇しない。似たような時間まで劇場にいることが多い私も、人のことは言えないけれど。
やっぱり、まだ終わらないのかな。劇場の戸締りとセキュリティの設定を済ませて事務室に戻ると、案の定プロデューサーは書類とにらめっこしたままパソコンの前から動かなかった。
「戸締り、終わりましたよ」
「ああ、お疲れ、律子。明日は朝の現場に入ってるはずだから、もう先に上がっててくれ。俺ももう少ししたら上がるから」
「またそんなこと言って、劇場に泊まるつもりじゃありませんよね?」
生返事のようなもごもごした言葉を発して、彼はまたモニターに視線を移した。覗いても大丈夫なデータである確認を取って、背後に回った。両手を乗せた肩が凝っている。広くて厚みのある僧帽筋をほぐしてあげながら、「来月のスケジュールがまだ確定できない」という嘆きを聞きつつ、掌に伝わる熱が私を温めていく。
「……」
このまま、腕を回して抱きつきたい。それに驚いた貴方に、思い切り抱き締めて貰いたい。実行に移す度胸なんて、私には無いけど。
そりゃ、表沙汰にできない関係だから、細心の注意を払ってるのは分かりますよ。職場では手を出さないって誓いを立てて、律儀にそれを守ってくれてるの、嬉しいんです。思い上がりかもしれないけど、私のこと、アイドルとして以上に、恋人として大事にしてくれてるんですよね。でも、お互い忙しくしてるから、二人だけの時間が取れるのって、退勤する直前のこんなひと時ぐらいじゃないですか。だから、もっと……。
分かってます。分かってます。みんなの職場でそんなこと、しちゃいけないって。でもプロデューサー、今だったら、胸やお尻を触ったって怒りませんよ。誓いを破ったって、私、見なかったことにしますから。それこそ、腕を掴んで、強引にそこのソファーへ押し倒されたって抵抗も……いえ、そうして欲しい……。
「律子? マッサージしてくれるのは嬉しいんだが、もう大丈夫だよ。だいぶ楽になった」
彼が振り向いた。首筋に顔を埋めようとしていた私の目の前に、ちょっとカサついた唇がある。
キスしたい。頭で思った瞬間には、もう吸い寄せられていた。
二度、三度と彼の唇を吸った。スキンシップの一歩奥にある、体全体からすれば一パーセントにも満たない器官での触れ合い。ほんの小さな面積で繋がっているだけなのに、頭のてっぺんから爪先まで、興奮が全身を駆け抜ける。もう堪らなくて――
「……律子からしてくれるなんて、珍しいな」
舌を差し入れるだけの積極性は、私には無かった。唇を重ねただけで終わってしまい、私の頭を彼の手が撫でる。こうしてもらうのは嬉しいけれど、これだけじゃ足りない。
ねぇ、襲っていいんですよ?
ウズウズしてるの、伝わりませんか?
視線で訴えかけてみても、残念ながら伝わらなかった。仕方がないかもね。私、そういうのにはお堅いキャラだったわけだし、今もそうだから。「貴方とセックスしたい」なんて、冗談でも自分の口からは言えないもの。
じゃあまた明日、って挨拶して部屋を出た時、声色がぶっきらぼうになっていたかもしれない。キスしたと思ったら、不愛想になって。向こうからしたら困惑するだろうな。はぁ……今の私、面倒臭い女になってる。
劇場の廊下に響くパンプスの音が今日はやけに乾いている。空気中の水蒸気が空っぽになっていて、遠くの壁から跳ね返ってくる靴音が寂寥感を強調している。それなのに体は熱を持ち、ほのかに汗をかいている。一際熱くなっているのは――
劇場の出口に向いていた足が、トイレに向いた。
「っ……ふ……んぁ……っ」
換気扇の音が低く唸る個室で、私は声を殺していた。
自分を慰めると書いて、自慰。
身の内で燻る情欲を我慢できず、かといって自分から睦み合いを求める羞恥を乗り越えることもできない臆病者は、己の指で慰められているのがお似合いだった。
ほんの僅かな出っ張りに過ぎない肉の芽は、硬くなって包皮を押し上げている。痒みにも似た疼きが体の内部でじりじり燃えていて、薄皮一枚越しにクリトリスを撫でるだけで反射的に鼻から息が漏れ出す。
くにくにと弄んで、顎を仰け反らせて悶えて……一人でこんなことをしているなんて滑稽だ。でも、あの人に同じことをされるのを想像するとひどく気持ちよくて、そんな外面がどうでもよくなってくる。
靴が床に擦れる音よりも、温水便座のモーター音よりも、性器の奏でる卑猥な音が膨らんでいく。ぱた、ぱた……と、下の口から溢れた涎が、便器の水面に落ちた。あ……イけそう……!
「んっ……あ゛ぁっ……!!」
器に収まりきらなくなった快感が噴き上げた。指先に触れた陰核が震えている。一瞬宙に浮くような心地よさと共に絶頂しても、お湯に入れた氷のように余韻はすぐさま消えてしまった。まだ疼きが治まらない。
「ムラムラする」ってこんな気分なんだ、って知ったのは最近だった。入浴剤を湯舟に溶かすみたいに、心の色が変わっていく感覚。
一回イッたぐらいじゃ満足できなくて、もっと深く達したくなる。ぬるぬるになった穴はすんなりと指を受け入れた。挿入する指を二本に増やしても、プロデューサーの指みたいな、瘤のように出っ張った関節のゴツゴツ当たる感触が無い。Gスポットを圧迫して、快感で物足りなさを塗り潰す。はしたないと知りつつも脚をガバッと広げてしまうと、ますます気持ちよさが膨れ上がる。私がどんなに声を抑えても、くちゃくちゃと立ち上る粘っこい音は抑えられない。
もしかしたら彼がトイレの外にいて、そこまで聞こえちゃってるかも――。私、準備出来てるから、見つかったらきっと、狭い個室の中で犯されちゃう。そのまま便器で用を足すみたいに劣情をこってりと吐き出されちゃったら、どうなるんだろう……!
「ん˝っ……い、イくぅ……んうぅっ……!」
想像したら、脳天をガツンとされたような衝撃が押し寄せて、そのまま呆気なく二度目のオーガズムを迎えてしまった。ぴちゃ、ぴちゃ……と、私の吐き出した蜜が水面に跳ねて音を立てる。シャツの袖口も、飛沫の一部を浴びて色濃くなっていた。
全身から一気に力が抜けていく。
インスタントな気持ちよさの後に、湿った虚しさが残った。
ああ、またやってしまった。みんなの大切な劇場で、こんなに淫らなことをして。気持ちいい思いをしたというのに、飢餓感はますます強くなるばかりだった。
ブルーになりながら家に帰ってきて、ネットの海をゆらゆらとサーフィンしていたら、ふとあるモノが私の目に留まった。「性行為同意書」という、SNSの一部でバズったネタのようだ。パートナーとのトラブルを避けるため、実際に利用したカップルもいるらしい。わざわざお堅い形式の契約書を模したテンプレートを使用しているが、内容は下品の一言に尽きる。なんせ、タイトルからして「性行為」と何の臆面もなくぶちまけているのだ。
普段の私なら苛立って即座にブラウザを閉じていたに違いなかった。真面目なトーンで品の無いことを書き連ねている明朝体の文面を見て、頭の中が自責の念と冷めやらぬ興奮でドロドロになっていた私は「ああこれなら……」と直感し、すぐにPCから同じページを開いて、普及型の性行為同意書とされているドキュメントをダウンロードした。ワード形式のファイルを開いて目を通す。
______(以下、甲とする)は______(以下、乙とする)との性行為にあたり、以下に同意します。
互いの署名欄だ。この場合、どちらが甲でどちらが乙だろう。契約書のこういう甲乙は厳密なルールがなく慣習的なものらしいけれど、とりあえず私の名前を乙に書いておこう。ここは手書きだから、プリントアウトするまでは空白。
第一条 範囲
性行為の範囲は以下の通りとする。
(1)~(4)まである。どうやらこのテンプレートを用いる人は、お互いに希望する行為を書く人が多いらしい。書類の記入というフォーマルな行為が心理的ハードルを下げてくれている。内心にしまい込んだ欲求を文字起こしすることに、私は不思議なほど臆さずにいられた。後で読み直したら……とは、考えないようにした。
第二条 実施場所
あの人のお家がいいけど……「両者協議の上で定める」と。
第三条 実施日時
「第二条と同じく、両者協議の上で定める」と。
第四条 費用負担
諸行為にかかる費用については、互いの協議の上で負担額を定めるものとする。
……ここの記述は何もいじらなくていいか。
第五条 その他
本同意書に記載のない条項については、甲乙の誠実な協議の上別途取り扱いを定める。
終 文
上記同意書は甲・乙の署名、捺印の上、甲乙ともに各一通保管する。
共に、そのままで。
鉄は熱い内に打て……。日付と署名を記入する欄を確認するや否や、二枚プリントアウトしてさっさと印鑑も押し、畳んで茶封筒へ押し込んだ。メッセージアプリでも、メールでも、ましてや口頭でも伝えられなかった本心を紙に託せたことに、私は小さな満足を覚えていた。
翌日、処理の済んでいない書類に紛れて、あっさりと封筒は彼の手に渡った。取り急ぎ目を通すように念押ししておいたけれど、そこまで催促しなくてもよかったかも、と思った。それも後の祭りだ。
封筒をプロデューサーに委ねて事務室を出た瞬間から頭が落ち着きを取り戻し始めて、理性が状況予測を始めてしまった。仕事中に何を考えてるんだ、って怒られてしまいそうだ。レッスン用シューズの紐を結ぶ手がもつれた。今日のトレーナーは厳しい人なのだ。今はしっかり気持ちを切り替えないと。
数時間後、レッスンが終わってシャワーで汗も流し終えた頃、スマホに一通にメッセージが来ていた。事務室へ来るように、とプロデューサーからの呼び出しだ。どうやら、今になってようやくあの封筒の中身に目を通したらしい。外回りの仕事で遅くなる人以外は大体帰っている時間だった。
レッスンウェアから着替えて、呼び出された先へ一歩一歩と足を進める度に心臓が加速していく。夜のテンションに任せて推敲もせずに書き殴った内容を忘れてしまう程、私の記憶力は衰えていない。少しずつ歩幅が小さくなっていったが、ベルトコンベヤーで運ばれるみたいにして事務室の前に辿り着くまではそうかからなかった。どんな心持ちでノックすればいいのか分からずにまごついていると、ドアの方から自ら開いて、私を中へ引き入れた。
「あ……律子。早かったな」
「……はい。お呼び出しがあったので」
手招きするプロデューサーの腕の隙間から、デスクに置かれた封筒が見えた。デスク脇のテーブルで彼と向かい合わせになって、封筒の中身が取り出された。一つにまとめて折り畳んだ用紙が今は二枚に分けられている。中身、見られてる……。
夢中になって書いていた時は頭から抜けていたけれど、紙がかさかさ擦れて、具体化された淫らな欲求が詳らかにされていく。雪歩じゃないけど、穴を掘って埋まりたいぐらいだった。燃えるように熱い顔を覆い隠すことも忘れて、私は目の前に置かれたボールペンをじっと見つめていた。
「律子、これは……」
「……はい……」
「悪戯にしては、随分本格的というか」
「い……悪戯じゃない、です」
小さな声でどうにかそう言うと、彼の戸惑いが治まった。
「……本気、なんだな?」
重力に身を任せるようにして私は頷いた。彼が、書面を眺めている。私のふしだらで赤裸々な肉欲を、舐めるように目で追っている。性器の内側を覗かれているみたいだった。
「契約書の書式みたいだし、一緒に中身を確認しようか。こっちでも署名はしたから、その……協議が必要な所を詰めよう」
一通がこちらに差し出された。空白だった冒頭の署名欄には確かに彼の氏名が記入されている。一緒に確認しようだなんて、何という辱めなんだろう……。
「順番が前後するが、日時は……律子さえよければ、今日これからでいいか?」
「お……お仕事は」
「終わらせた」
終わった、ではなく、終わらせた。彼は短くそう言い切った。
「場所は? どこかに行くか、俺の家に来るか」
プロデューサーの家、という小声のリクエストは、すぐさま承認してもらえた。
「第一条の(1)なんだが、『愛情を持って朝まで一緒に過ごす』……ということは、泊まりってことか。えっと、次の(2)の項目なんだが『何も着けない』って」
「読んで字の如く……です。お薬飲んでるんで、一度ぐらいは……って」
プロデューサーとの交際が始まったのがいい契機になった。初めの頃は若干の不調もあった。ただ、月のものの苦しさも軽減されたし、もっと早く服用していれば、と思うぐらいだった。
「だが、万が一ということも」
ここ見て下さい、と言い出せず、(3)を指さした。抱えた欲求を我慢せず、お互いに受け入れる。性行為中の射精は全て膣内に行うものと定める。
「い、いいのか」
「……はい」
お互いにハッキリと口には出さなかったけれど、つまり、ナマでして、中出しを求めちゃったわけで、その申し出をしたのも私の方なわけで。了承を求めてきたってことは、プロデューサーも我慢してるけど、男の人としてそういう欲求は持ってる……ってことよね。彼の視線が、私の顔と書面とを往復した。あの人も想像してる。繋がったままナカに出されちゃうって、どんな感覚なんだろう。挿入された記憶が下腹部を掠めて、ガタンと椅子が揺れた。
「(4)『時に優しく、時に強引に。お互い満足するまで、愛し合うのをやめない』『顔が見える体位を必ず交えるものとする』……」
「……こ、声に出して言わないでくださいよ……!」
昨晩、夢中でキーボードを叩いていた私は、相当に陶酔していたらしい。全身をかきむしりたくなってきた。
「他に、協議しておくべきことはあるか?」
私は首を振った。意識の底にあった性的欲求をこそぎとってべったり張り付けた、A4の紙。それ直視される恥辱に、いっぱいいっぱいだった。
「じゃあこれで、と言いたい所なんだが、律子、不備があるぞ」
「えっ……どこに?」
「書類下部の乙欄に署名が入ってない。ハンコは押してあるのに」
ほらここ、と彼が指した先では、ぽっかりとスペースが空いたままだ。書類の不備を目にして半ば無意識にペンを取り出して、秋月律子と署名した。二枚とも抜けがあったらしく、もう一枚にもサインする必要があった。性行為の合意、その成立は、私の手に委ねられている。
私が書類を仕上げるのを、プロデューサーがじっと見ている。
「子」の字を書き終えたら、セックスのためだけの合意が成立する。
口にする勇気が私にあれば「貴方としたい」って七文字で済ませられるのに、こんなに回りくどい、物証が残る手段を取ってしまったせいで、私の願望は蛮勇として強調されてしまっている。それにこれ……保管することになってるんだ。何かの拍子に読み返したら、「私がこの日、プロデューサーとセックスする契約を結んだ」って、思い出しちゃうんだ。
やだ……濡れてきちゃった……。
完成した合意書は、互いに一通ずつクリアファイルに保管した。そのまま劇場の戸締りを美咲さんに任せてプロデューサーは退勤し、私もその後ろをついていった。
いつもなら仕事の延長みたいな話に花が咲く車内で、私も彼も言葉少なだった。彼の家に行って、一緒にご飯を食べたりして、少しずつ距離が近づいたら「何となくそんな雰囲気かな」ってなって、体を抱き寄せられたのが、前回の記憶だった。だけど今は、猥褻な第一目的が頭の中心に居座っている。「これからエッチなことをしに行くんだ」って、頭の中がそればっかりになってしまって、会話を切り出すこともできなかった。
長い沈黙が終わり、周辺を警戒しながらエレベーターで彼の住むフロアまで上がる。玄関のドアに差し込まれた鍵が「カチッ」とロックを外した瞬間、いよいよだ、と緊張が走った。緊張? いや、期待かもしれない。
先に玄関へ通され、背後でドアが閉まると、太い腕が胴体に巻き付いてきた。力強く抱き締められて、心臓が跳ねた。
もしかしたらって思っていたけれど、鞄を放り投げて早々に始めちゃうのかな。始めちゃうのよね。だって、顎を掴んで唇を奪われたと思ったら、もう舌が入ってきたんだもの。
待ちかねた瞬間が始まる歓喜を唾液に乗せて彼に送る。粘膜同士の濃密なコミュニケーションが、脳の皺をトロかしていく。
ディープキスに夢中になっている間に、胸も鷲掴みにされた。自分で触っても何も感じないのに、触られているとジンジンした疼きが全身に広がっていく。既に高まっていた気分は臨界点を振り切っている。揉まれる胸から興奮が染み出し、乳液のようなとろりとした快感に変換されて、私という器に注がれていく。
触ってくれ、と小さく囁かれて、右手が導かれた。中身の入った缶コーヒーみたいなものが掌に当たっている。いつからこうなっていたんだろう。スーツのズボン越しに撫でると膨張した。手探りでジッパーを摘まんで下ろそうとしたけれど、引っかかってしまってスムーズにいかない。その間にも敏感なうなじにキスの雨が降ってきてゾクゾクしてしまい、手に力が入らない。モタつく私を急かすように、社会の窓が内側から叩かれていた。
ようやく窓の鍵が開く頃には、シャツのボタンは全て外されていて、ブラのカップもずらされていた。とりわけ感じやすい先端が指でコリコリされて、はしたない声が抑えられない。「気持ちいい」私は観念して口にしてしまった。きゅうっ……。指紋のザラつきを感じる。硬くなった乳頭が扱かれて、一往復する度に下腹部に響く。
(欲しい……)
先端が濡れてヌルヌルになった男性器を擦る手が、ペースを上げた。びくびく震えて手の中で暴れては、ますます硬くなっていく。こんなに大きいのが、私のお腹に入っちゃうんだ。プロデューサーの吐息が背後から首筋にかかって、興奮を煽る。
もう私、びしょびしょになってます。
前戯はもういいから、早く挿入て欲しい……!
半開きのドアの奥にソファーが見える。更に奥には寝室がある。連れて行ってもらうのすら待てない。そのじれったさは彼も同じみたいだ。まだパンプスを脱いでもいないのに、私のベルトはするりと抜かれてしまった。足元に落ちたスカートを拾うついでに靴を脱ぐ。そこに膝をついて、と促す声の直後、カチャカチャと金具が鳴った。
玄関で、セックスしちゃうんだ。
ベッドまで待てないなんて、私達、ケダモノみたい。
ショーツを押しのけて、銃口が突き付けられた。
「あ……ああっ! んあぁぁぁっ!!」
焼けた鉄塊をねじ込まれたような衝撃。入ってきた、って頭が認識した瞬間、逞しさに貫かれて私は絶頂してしまった。へなへなと崩れ落ちそうになるお尻をグイっと持ち上げられた。大丈夫か、と確認を取りつつも、彼は小さく腰を揺すっている。ひんやりしたフローリングに上半身を預けて、少しだけ股間に力を入れてみると、再開の合図と読み取ったプロデューサーがピストン運動を始めた。
「いっ……あ、あっ、あ……あうッ! あ、はあぁ……ッ……」
引き抜かれる時も突き入れる時も、粘液が押し潰されて卑猥な音があがる。お腹を無理矢理押し広げられて、出っ張った傘が引っ掻いていく。気持ちよさの容器は、満杯になっては溢れ出し、溢れた分の快楽をすぐに注がれてはまた溢れていく。ナカで跳ねるペニスが壁に押し付けられて、その度に絶頂感が押し寄せてきた。
「我慢しない」って約束を交わしているんだから、イケそうだったらいっぱいイッてしまおう。顔が見えないポジションだから、その分、あの人の形に意識を集中……しゅう、ちゅう……ッ!
「はあ˝……! ま、また……イ……んぁ、あうぅっ……!!」
「イキそう」って考えた瞬間、解れきった最奥を突き上げられて、すぐにイッてしまった。
「あ˝……ま、待っ……イッてるから……奥っ……弱いのに……! ひん、ひぃんっ……!」
指では届かない奥深くまでえぐられて、意識がふわふわと緩んでいく。余韻に浸る間もなく、引き抜いて助走をつけた硬い銃身がごつごつとぶつかってきて、視界が弾ける。ジェットコースターに揺られているような浮遊感に、もっと振り回されていたい。「もっとして」って口にしたいけど、嬌声をあげるのに喉が忙しくて、言えない。自分の出すのでないような声を聞かれてしまうのは恥ずかしい。でも、飢えを満たす幸福感に、声をあげずにはいられなかった。
「出していいんだよな」と、余裕の無い声が頭上から降ってきた。「同意書の通りです」と息も絶え絶えに解答すると、硬く張りつめていた彼自身が一段と膨れ上がった。
いつも優しい貴方が、本能を剥き出しにして私を犯している。
貴方もイキそうなんだ。
私とのセックスで気持ちよくなって、白くて熱いのが出ちゃいそうなんだ。
いっぱい、いっぱい……出して欲しいな……。
犬みたいに彼が息を荒げて、グラインドが加速する。逃げられないように腰が掴まれて、結合が深まるように股を開かされた。濡れそぼった膣壁を引っ搔き回され、一番の弱点をぐりっぐりっと圧迫されて下品な鳴き声をあげる私は、知的なイメージなんてすっかり剥がれた、交尾中のメスだった。
「ううぅっ……イく、大きいの……くる……っ……あ˝あ˝あっ……!」
閾値を超えて、幸福感と快感が溢れ出す。いや、溢れ出すどころではなく、爆発する。全身が汗ばんで、湯気でも立っているみたいだ。
「……あ……出てる……」
体の感覚がまだ曖昧な中、股の奥が温かいのに気が付いた。前後運動を止めた男性器がびくんびくんと波打って、ぬるま湯のようなものが噴き出ている。
遺伝子の原液が注がれている。
体の中に染み入ってくる。
まだ出てる。
一回の射精って、こんなに長かったっけ……。お腹の中で脈動する感覚に集中していたら、じゅわ……と広がっていく熱が気持ちよくて、身動き一つしていないのに緩やかなオーガズムに達してしまった。
数十秒が経ってようやく噴水のような射精が止まった。まだ硬さを維持した男性器が、ゆっくりと往復する。水っぽい泥を混ぜるような音がした。彼が腰を引き抜いて、床の上にぼたぼたと混合物が落ちた。私の秘部はどうなっているんだろう。四つん這いではよく見えない。
「悪い、ムードもへったくれもなくて申し訳無いが、我慢できなかった」
「……問題ないです。我慢しないのは、第一条第三項の通りですから……でも、すいません、玄関汚しちゃって……」
くるりと体を回転させると、互いに下半身だけが丸見えの間抜けさに口元が緩んだ。靴を脱いで初めの一歩を乗せる床が、濁った粘液にまみれている。
「なら、汚しても平気な所に移動するか。ほら」
手を取って起こされるなり、汚れた所には雑にバスタオルを被せて、ほんの数歩先の浴室へ連れ込まれた。さっきシャワーを浴びてきたのに、と思ったけれど、私の返事を聞くよりも先に、シャツもブラも、びしょ濡れのショーツも脱がされて、剥き身にされてしまった。お風呂場には持ち込めない眼鏡を外して、世界がぼんやりとにじんだ。
通気性の悪い玄関で汗ばんだ体に、温水が心地よかった。体液のついた所はすぐに流されたから、私と彼の繋がっていた証も、排水溝の奥へ飲み込まれてしまったことだろう。ちょっと、寂しい。
眼鏡がなくてくっきり見えないけれど、私の体にボディソープを塗り付けながら、どうも彼が顔ばかり見ている気がする。「眼鏡をかけてなくても美人だな」「見惚れてしまうぐらい可愛い」なんて、歯の浮くようなセリフ。ありがとうってすぐに言えるほど素直じゃないですけど……嬉しいですよ、その言い方。甘い悦びが、揉みしだかれる胸の中で広がっていく。
「ん……ふぁ……ね、もう、いいですよ。そんなに胸ばっかり洗わなくたって……」
「うーん、こことか硬くなってるし、もう少しほぐしてやろうかなって」
「あっ、あ……ん……そんな所、ほぐれない、から……っ」
玄関でいじられてからずっと硬くなったままの蕾が、滑りに任せて弄ばれている。にゅるにゅるして、すごく気持ちいい。盛り上がった気分が、開発の進んだ胸の感度を押し上げていく。捕らわれた乳首が指の間で潰される度に、下半身が切なく疼く。「とろっ」と蜜が体内から溢れてきた。
胸のふくらみをぽよんぽよんと掌で弄んでは、双丘をぎゅうと寄せて擦り合わせ、泡立つのを見て彼は愉しんでいる。
あの筒を手探りで探してみたら、すぐ手の甲に当たった。しっかり天井を向いている。握り締めたら彼の鼓動が伝わってきて、私が感じている声に反応して小刻みに震えている。
「律子」
「ね……挟んであげましょうか?」
「……」
「えっち」
いいですよ、何も言わなくても。だって、私が申し出た瞬間、芯が入って、骨みたいに硬くなってるんですから。体って正直ですよね。
湯舟の縁に座ってもらって、高さを合わせる。視界の中でモザイクがかかっているけど、上を向いた赤黒いものが見える。覆い被さって胸の間に匿ってあげると、ソープの泡でヌルヌル滑った。
根元から包もうとすると先端が飛び出てくる。彼の体のどこよりも熱くて、私の肌の狭間で強烈な存在感を主張している。ぎゅっと挟んで上下に扱いてあげたり、寄せた胸の間に正面から「ぬぷっ」と挿入させてあげたり。上下に跳ねる暴れん坊は中々同じ姿勢でいてくれないから、自然と私も色々せざるを得なかった。
硬い棒で胸を愛撫されているみたいだ。胸板の中心部を突かれたり擦られたりすると、心臓をトントンされているようでドキドキが高まっていく。散々可愛がられてコリコリになった乳首を擦りつけると、こっちまで甘い声が漏れてしまう。ぬかるんだ肌が擦れ合う心地よさに熱中する内に、プロデューサーが腰を振り始めた。
「……もしかして、このまま出したいですか?」
迷いがあった。射精は全部、私の体内に。そういう契約だった。でも、このまま射精まで導いて、熱々の体液を裸で浴びたい。ここだったら、いくら汚されてもいいのだから。
「胸に出しちゃったら、第一条第三項に反しますよ? コンプライアンス違反ですよ?」
「だけど、もうイキそうで……」
「貴方がどうしてもって言うなら……いいですよ、ちょっとぐらい違反しちゃっても」
「出したい。律子のおっぱいに、射精させてくれ……!」
そっかぁ……そんなに胸にぶっかけたいんだ……
年上の男性からの懇願。得も言われぬ満足感に、口元がにやけてしまうのを止められなかった。
腕を思い切り寄せて、皮が剥けて敏感な鏃をぴったりと包む。乳首がくっつくぐらいに両の乳房を寄せて、もう一度前からずぶずぶ挿入させてあげたら、彼は顎を仰け反らせた。
ぐぽっ、ぐぽっ。ぬっちゅ、ぬっちゅ。下品な音がする。ボディソープを足していないのに、おっぱいの狭間は彼の漏らした先走りでぐちゅぐちゅだ。腰が打ち付けられるのと一緒に乳首が陰毛に擦られて、じれったいくすぐったさが走った。
「……っ!」
呻き声を合図にして、熱いものが染み出してきた。どくん、どくん、と谷間にマグマが流れ込んできて、栗の花と形容される青臭い匂いが立ち上ってくる。胸の間にぶちまけられた精液がお腹に垂れてくる。
少し拘束を緩めて亀頭を露出させてあげると、まだ残滓が玉になって膨らんでいた。胸の間に形成された白い水たまりの中で、溺れそうになっている。
肉の中に沈めて、精液を塗りこむようににゅるにゅる滑らせてあげたら、温かい滴がとぷ……とぷ……と滲み出てきた。私の乳首と彼の鬼頭が、ねばねばした白い橋で繋がれている。
「ふふっ……いっぱい出ちゃいましたね。おっぱい気持ちよかったですか?」
唇を閉じることもできず呆けている彼の顔は、可愛い。少し距離が遠い彼の顔ではなく、今しがた私の体に劣情をたっぷり浴びせてくれた、白濁液でべとべとの亀頭に口付けを交わした。美味しくないと分かっていながら、ヨーグルトソースのかかったフランクフルトに舌を伸ばす。
「あ……っ、律子……」
「顔を褒めてもらったのが珍しく嬉しかったんで。もう少しサービスしてあげますね」
ボディソープを洗い流していないせいで、ケミカルな苦味が舌を刺す。
初めての時は臆病風に吹かれてできなかったけど、今なら躊躇せず、口いっぱいにだって男の人を咥えられる。気持ちよくなってくれるって分かってるから、生臭い精液の味も気にならない。こんなことも出来ちゃうんだから、私、本当にプロデューサーのことが好きなんだな。
「あ……ま、また……勃ってきた……」
柔らかく脱力しかかっていた男性器に、再び熱が入る。縫い目を舌先でくすぐっていると、血液が流れ込んで膨らむのが分かる。口の中でぐんぐん持ち上がってバナナみたいに反り返り、口蓋の天井に粘膜が擦れた。溜まった唾液ごと吸い上げてみたら、尿道の中に残っていた分が、とろりと流れ込んできた。
太くて長いソーセージにしゃぶりつく音が、浴室の壁に反響する。そうするつもりが無くても、息をする時に口の中にプールされた唾液を啜ってしまい、卑猥な音が漏れ出てしまう。溜息に混じった低い声があがる。動物の唸り声にも思えた。私のフェラチオで彼が感じているのは明らかだった。
「んむ……っ……ね、気持ちいい?」
「ぅ……ああ、すごく、いい……」
「うん、そう言うと思ってた。こんなに硬くしてるんだものね……ん、ちゅる……」
「お……あ……ねっとりして、ヤバ……!」
正直な御子息は、快感の強いポイントを全て教えてくれる。胸で挟んでいた時よりもカチカチに勃起して、先端の穴からしょっぱい先走りを絶えず垂れ流しにしている。ストローみたいに啜ってちゅうちゅう吸い付くと、情けない声が響いた。可愛い。息苦しいけど、気持ちよさそうにしていて、やりがいがありますよ。貴方の弱点、もっと責めちゃいますね。
目を凝らせば裸眼でも彼の顔が見えるし、私が主導権を握り続けて、可愛い所を存分に愉しむことだって、きっとできる。お口でも彼を射精まで導いてあげたくなってきた。でも。
「プロデューサー……いいですか? ……そろそろ、下さい……」
契約違反は一度きり。私のおねだりに大きく嘶いた男性器が、逆光を浴びて黒々と顔の前にそびえたっている。「この長いのと繋がって、動物みたいにぱんぱんして、またナカに出されちゃうんだ」と思うと、背徳的な興奮が身を震わせ、太腿を愛液が伝った。
お湯を張っていない浴槽の奥へ座らされて、お尻が彼の太腿に乗った。しがみつけるぐらいに首を近づけてくれて、腕を回して抱き寄せると、彼の顔の解像度が上がった。互いの性器が口付けを交わし、股が熱くなった。
「ふぁ……あ、入る……っん、んんっ……!」
「挿入れる瞬間の律子、いい顔するよな……」
「やぁ……そんな所、観察、しないで……」
「いいじゃないか。すごく色っぽくて、そそるよ……」
「んぁ……ね、ねぇ……一思いに入れてよ……じれったい……」
私の反応を味わうように、ゆっくりと時間をかけてあの人が入り込んでくる。子宮の入口に突き当たると、体重をかけて圧迫してきた。自分では刺激できない所。それなのに、繋がっている時は一番気持ちよくて、こんな風にぐっと押されているだけでも、快感でトロけてしまいそうになる。接合点から順に、お腹を押し広げられながら、膣のイイ所を余す所なく刺激してくるのに、その終点が最も気持ちいい。
あ……腰が引けて、またゆっくり、ずぶずぶ……あ、あっ、あ……!
腕の中にプロデューサーがいる。目を開ければ、私を見下ろす顔がある。キスできそうなぐらい近くにいるから、顔のパーツまでちゃんと見える。私を貪るのに一生懸命になっていて、時々眉間に皺が寄っている。眉間に皺が寄る瞬間、お腹の中で彼の性器が跳ねて、硬さを増していく。
感じてる顔、可愛いですよ。もっとも、感じてる顔を晒してるのは、私も一緒で……。だって、好きな人と一つになって、裸で抱き合って、気持ちよくならない訳がないじゃないですか。プロデューサーの愛嬌あるお顔をじっくり眺めている余裕も、あんまり無いぐらいなんです。
「んんっ、あっ、あ……おちんちん、硬くて、気持ちいい……!」
幸福感に酔って、自分の中で「律」が緩んでいる。素のテンションじゃ絶対に言えない「おちんちん」を口にして、彼のおちんちんが更に一回り大きくなった。射精しかかってしまったらしい。私がエッチなことを言っただけで、そんなに興奮しちゃうんだ……。
「はァ……! あっ、は、激し……あ、天井、擦れて……は、あ、あ……あ、そこ、そこ……もっと……!」
ぐちゅぐちゅ。ぱんぱん。空っぽのバスタブが、発情しきった男女のセックスに満たされていく。上向きに沿った亀頭がGスポットを何度もえぐって、尿意のような激しい快感が込み上げた。
「あっ、で、出ちゃう……あ、やっ、んぁ゛、出る、出るっ……!」
ピストンのリズムに合わせてぶしゅぶしゅ潮が噴き出す。我慢しなくていいんだ。「汚したらどうしよう」なんて考えなくていいんだ。その安心感が、開放的なオーガズムをもたらした。「お漏らししてもいいんだぞ」なんて煽りながら、狙いを定めた彼は天井の性感帯を容赦無く押し潰してくる。視界が白くフラッシュして、また股間から勢いよくジュースが溢れた。
「い˝、イッたのに……また、イきそ……! あ、奥、もっとして……ああぁんっ! あ、あ、そこ……硬いので、ぐりぐり……ぐりぐり……っ!」
絶頂に放り投げられたまま下ろしてもらえるわけもなく、最奥の壁がしつこくノックされる。はしたないおねだりにも躊躇は無かった。気持ちいいポイントを求めて、その通りに犯してもらうのは堪らなかった。窓を通して、外まで声が聞こえちゃってるかも、って一瞬頭をよぎったけれど、浴びせられる快感に倫理観が吹き飛んで、どうでもよくなっていた。
「あっぐ……イく、イくぅぅ……~~~~~~ッッ!」
心臓が強く収縮して、毛穴から汗が噴き出た。鉄砲水みたいな快感に意識が吹き飛びそうになって、懸命に彼の首へしがみつく。全身から力が一気に抜けて、心地よい疲労感が全身を包む。幸せな温かさに身を任せて揺られていると、「出る」と、焦った呟きが聞こえて、ワンテンポ遅れてプロデューサーも達した。彼の感じた悦楽が、体の中に流れ込んでくる。
「ん……出てる……もっといっぱい、射精してください……。ほら、ぎゅぅーって、搾るんで……」
雑巾を絞るイメージ。緩んだ意識の中で、射精中のおちんちんを締めてあげると、終わりかけていたシャワーが勢いを取り戻した。びゅっ、びゅっ……という音まで聞こえてきそうで、子宮の入口が叩かれている。
「あっ、はぁ……イイです……もっと、まぜまぜして……」
――ナカに出してもらうの、幸せだなぁ……愛を注がれてる感じがする……。
太いシャフトが、ゆっくりと膣を掻き混ぜて、プロデューサーが腰を引く度に白濁液が入口から溢れた。繋がったままもう一回戦したいな……と思ったけれど、残念ながら彼には休憩が必要だったみたいで、力を失い、するするとお腹から抜けていってしまった。
蓋が外れて、ホイップされたクリームが広がっていく。
浴槽の底に、二人で作った水たまりが形成されていた。
予備で置いてあった部屋着に着替えて、洗濯機も借りた。もうどこにも行かないからと編んだ髪を解いてしまうと、彼は私の髪を触りたがった。少しウェーブがかかってるから、撫でてもらうならちゃんと整えた時にして欲しいんだけどな。でも、嬉しそうにしてるし、私もイチャイチャしたかったし、文句はない。安全地帯にいないと、こんなこともできないものね。
クッションに座ってお茶を飲んでいると、背後から抱きすくめられた。広がった掌が右の胸を掴んでいる。
「こらっ」
セクハラだ。手の甲をつねってやろう、と思ったけれど、軽く摘むに留めた。
「……なんてね」
反対側の手を掴んで、胸元に導く。もう二回戦もしちゃってるけど、まだお腹の奥が疼いている。
もう一回だけ……
「もう一回だけ、えっちしたいな……♡」
――言っちゃった。
甘ったるい声が出せた自分に驚いていると、一瞬フリーズした彼の手が、やにわに蠢きだした。せわしなく私の胸を揉みしだく手つきに、彼が感じたであろう興奮が表れていた。
「んぁ……っ!」
脱がすのもじれったいのか、ショートパンツの内側に、彼の体温が侵入してきた。
「また濡れてる」
「また、じゃなくて、ずっと……ぉ……」
「ナカもトロトロのままじゃないか。今日の律子は随分と発情してるみたいだな」
「うん……気持ちいいのが残ってて……やん、入口だけじゃ、じれったい……あ、うん……それ……っ!」
下の唇を広げられて、指が根元まで入ってきた。どろりとした濃厚な蜜がたちまち分泌されていく。一本だけだった指が二本に増えて、くいっ……と穴を広げている。
「んふ、ん……んむうっ……」
上の口を塞がれて、舌が侵入してきた。頭がぽーっとする。口の中に溜まった彼の唾液を飲み下すと、身も心も差し出したくなってしまう。
私がどうにかして「ベッドに行きたい」とお願いしなかったら、きっと床の上で三回戦が始まっていた。
一人用のベッドの上は、あの人の体の匂いでいっぱいだ。仰向けに寝そべっていると、全身が抱き締められているみたいだ。着たばかりの部屋着は脱がされて、全裸に逆戻りした。「綺麗な裸だ」って褒めてもらえたから、恥ずかしかったけれど、両腕を開いてヌードを見せてあげた。
彼が自らハーフパンツを下着ごと引き下ろすと、元気いっぱいな息子さんが天井を向いてそそり立ち、ぶるんと部屋の空気を掻き混ぜた。
「……三回も出しちゃったのに、随分お盛んですね、プロデューサー殿」
「そりゃ『えっちしたい』なんて律子の口から言われたら、勃つに決まってるだろ」
「ふふっ……じゃあ……ね?」
脚を広げて、これから彼が入ってくる所を、指で開いて見せびらかした。大胆を通り越して下品なことをして、背筋がゾクっとした。穴に棒を入れるだけの物理現象に、想像力がどこまでもふしだらな文脈を肉付けしていく。
「……ここに、大きなおちんちん、入れて欲しいな……♡」
「……ああもう、律子っ!」
「んあぁぁっ! 硬い……っ!」
一気呵成に根元まで彼が身を沈めてきた。子宮の入口にキスをしてじゃれつくと、すぐに内壁を刺激しながら退いていく。「ぐちゅっ」と音を立ててまた奥まで突き込まれ、襲い来る快感の大きさに視界がチラついた。
手を繋ぎたくなって両手を宙に浮かせると、ぎゅっと握り締めてもらえた。でも、バランスを取り辛くなってしまったのか、繋いだ手がベッドに押し付けられて、体重がかかる。強引に犯されてるみたいだ、って思ったら、頭が急沸騰して、大きな声が出てしまった。
「律子のおまんこ、きつい……!」
「あっ、き……きもちいい……?」
「ああ……。それに、トロけた顔がエロ過ぎて、すぐ……」
「……射精しちゃいそう?」
甘く囁いてあげると、おちんちんが硬さを増した。
「ねぇ、ナマで入れてナカ出ししちゃうの、気持ちよかったですか?」
「よ……よせよ。煽られたら、我慢できなくなる」
「我慢なんて、しないで……私のおまんこに、いっぱい……おちんちんの中身、移し替えて下さい……ね?」
びくん、びくん。彼が悶えている。さっき二度感じた時みたいに、出ちゃいそうなのかな、って反応。プロデューサーって、言葉で興奮しちゃうタイプなんだ。私も、だけど。ぬちゃぬちゃした水音が、どんどん大きくなっていく。
「私のイイ所、分かりますよね……あひ……うん、そこ、ぉ……」
「律子」
「お腹の深い所……硬いおちんちんでぐりぐりされて……イキたい……っ」
「……っ!」
大きな往復運動が、歩幅を狭めてきた。根元までずっぽりと繋がって、一番奥を小刻みにノックされる。
「は、あ、あ、あっ、んあ、おく、奥っ……気持ちいい……イく……っっ」
はしたない声が漏れる。神経を直に愛撫されているような快感が、羞恥心や躊躇の一切を押し流していく。すぐ目の前で私に夢中になっている彼への愛しさが、一気に込み上げてきた。今なら、言える……!
「すき……だいすきっ……!」
何度も何度も、思いを打ち明けた。「俺も好きだ」って、言ってくれた。素直になれた開放感は天にも昇る心地だ。ここまでしないと「好き」の一言も言えないなんて、普段の私はどこまで可愛げがないシャイガールなんだろう。今の内に、いっぱい言っておこう。好き好き、大好き。愛してる。彼の耳に沢山囁いてあげた。
子宮の入口を硬いおちんちんでゴリゴリ擦られる度にエクスタシーが押し寄せて、意識がふわっと浮かび上がる。彼と一つになったまま、このまま死んじゃってもいいかもしれない。
「律子……いいか?」
「……うんっ、出して……いっぱいナカに出して……」
両脚を彼の腰に巻き付ける。力を入れて、膣内の彼を、ぎゅっと抱き締めてあげた。イキっぱなしになっていて、もう何度目になるかも分からないオーガズムが、また訪れる。
「っ……出る……!」
来た……。はちきれそうなほど膨らんだ亀頭が押し付けられて、熱くどろっとした粘液が子宮の入口にどばどば浴びせられる。
「ァ……イく、イく……またイッちゃう……あ˝あ、う˝あああああッッ……!!」
仰け反った腰を彼に押し付け、今日一番の絶頂感が腰で弾けた。
結合点の行き止まりで、まだ精液がどくどく注がれている。
失神せずにいられたのは、彼と手を繋いでいたおかげだった。
「あ……っ、ン……ん、んん……」
舌を絡めあって、愛し合った実感を二人で共有する。上の口でも下の口でも繋がっている幸せが、全身を蕩けさせていく。
下のお口では、出された精液がゆっくりと攪拌されている。深く達したばかりの敏感な粘膜に、緩い刺激が心地いい。
もっと中に居座って、しっかり塗り込んで欲しい。
私のDNAが、貴方のものに書き換えられてしまうぐらいに。
この夜が終わっても、貴方の存在をずっと感じていたいから。
数日後、事務室で劇場宛に届いた書類を整理していると、この日三度目のお代わりがやってきた。オーディションのお知らせと、オファーの詳細と、先日取材を受けた出版社からの献本。
「あー律子、取り込み中の所悪いんだが」
「何です」
「こいつにも目を通してくれ」
プロデューサーが腰を下ろした隣のデスクから、住所や宛名書きの無い茶封筒がやってきた。「厳秘」と判子が押されていて、封まできっちりされている。目を通してくれ、と言われたから、とりあえず中身を確かめることにした。三つ折りにされたA4用紙が入っている。ぱらり、ぱらりと折り目を解くと、初めに目に入ったのはヘッダーだった。
「やだ……まだ昼間なのに……」
「おいおい、律子だって全く同じことをしただろう。そんなに恥ずかしがるなって」
「それは、そうですけど……」
「ともかく、読み終えたら連絡をくれ。時間が作れれば今日の内に『打ち合せ』するから」
事務的な口調で語るプロデューサーと、明朝体で書かれた内容の落差がすさまじい。同時に、自分のしでかしたことが彼に与えた衝撃を思うと、顔から火が出てしまいそうだ。鞄を手に取って外回りに出ていく彼の背中を見送ってから、文字列の導きに視線を乗せた。
署名欄には彼の名前が既に書かれており、捺印もされている。
印鑑、どこに入ってたっけ。
自分の署名を済ませるまでに、私は彼の第一条を読み返した。彼の欲望に目を走らせては反芻した。淫らな妄想を膨らませながら、何度も、何度も。
終わり
以上になります。ここまでお読み頂き、誠にありがとうございます。
「性行為同意書」を知って、書こう書こうと思っていた話をようやく形にできました。
律子さん、結構悪ノリもする面があるので、気分が盛り上がってればこれぐらいノリノリになってくれるかも、ぐらいに思いながら書いていました。
ご指摘ご感想など頂ければ幸いです。90分チャレンジ(失敗)で作ったクジがあるので、次に考える話はアイドルをくじ引きで決めようかな、とか考えてます。それでは。
おつおつ
良かった
乙
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