電「きゃあ!ハチなのです!」(12)


鎮守府

廊下


     テク テク テク…

提督「…………」

提督「……ん?」

     キャー!キャー!

提督「電?どうしたんだ?」

電「あっ司令官さん!」

電「ハチが入ってきたのです!」

     ブブブブ…

提督「おっアシナガバチか」


提督「どこからか迷いこんできた働きバチだろうな」

提督「電、窓を開けてくれ」

電「は、はい」

     カラカラカラ…

提督「ほーれほれ、怖かったな」

提督「ここから出るといい。巣へ帰るんだ」

     ブブブブ… ブ~ン…

電「ほっ……」

提督「ははは、一件落着だな」

     カラカラカラ…ピシャ(窓閉め)

電「司令官さん、ありがとうございます」


提督「どういたしまして」

電「刺されるかと思って怖かったです……」

提督「アシナガバチは比較的大人しいハチだから」

提督「そんなに怖くないよ」

電「そうなのですか?」

提督「けっこう可愛いところもあるんだぞ?」

電「へ?そうなのですか?」

提督「アシナガバチはハチの中でも巣作りが下手な部類とかな」

電「へえ……」

提督「敵も多いんだぞ?」


提督「鳥やら肉食昆虫に俺たち人間なんかもそうだな」

電「…………」

提督「あと寄生虫も天敵だ」

提督「寄生バチに寄生蛾なんかはホントに厄介」

電「えと……司令官さんは、ずいぶんハチさんにお詳しいですね?」

提督「……昔、ちょっと調べた事があってな」

提督「深海棲艦を研究して行く内に」

提督「社会性昆虫との共通点が多いことに気づいて」

提督「いろいろなハチやアリを調べてみたんだよ」

電「社会性昆虫?」

提督「ヒエラルキー……んと、上下関係のある集団組織の昆虫」

提督「そういうのを社会性昆虫と言うんだ」

電「そうだったのですか」


電「それで……ええと、アシナガバチ?に詳しくなったのですね?」

提督「そういう事」

提督「今の時期は……天敵から身を守るため巣をどんどん拡大して」

提督「仲間を増やしてる頃か」

電「天敵から?」

提督「数が増えれば、それだけ防衛力が増すし」

提督「例え巣に寄生されても数が多ければ成虫になる個体も比例して多くなる」

提督「それだけ自身の種の存続につながる」

電「…………」

提督「でも逆に言えば……この時期に巣を大きく出来なかったアシナガバチは」

提督「大抵、寄生バチや寄生蛾の餌食となって全滅する運命になる」

電「…………」

提督「ちょっと酷な話だったかな?」

電「い、いえ……」


提督「なら……ちょっとだけ面白い話もするか」

電「面白い話?」

提督「面白いというか、どちらかと言えば不思議な話かな」

電「はあ……」

提督「実は、社会性昆虫のほとんどには」

提督「なぁ~んにもしない、食っちゃ寝してる様な個体が必ず居て」

提督「それが2割~3割もいたりするんだ」

電「ええ!?」

提督「すごいのになると7割なんてのも居るぞ」

電「そんなに居たら、社会性が崩壊しそうなのです」

提督「ははは、俺もそう思う」


提督「ただ、これは諸説いろいろあってな」

提督「社会性昆虫は役割分担がものすごくはっきりしていて」

提督「それ以外はやろうとしない」

提督「つまり、観察している俺たちには分からない何らかの役割があるのでは?」

提督「という説もあるんだ」

電「なるほど……電は説得力があると思います」

提督「実際、判明している兵隊アリとかは」

提督「普段の平穏時にはほとんど動かないし」

提督「割と有力視されてる説ではある」

電「確かに面白いお話なのです」

提督「……でもなあ」

提督「俺はどっちかと言えば、さぼってる奴が居る社会の方が」

提督「現実味がある気がするんだよな」


電「それも分かる気がします」

提督「もちろん推奨する気はないが」

提督「そういった無駄のある方が、生き物として正しい気がするんだよ」

電「ふふふ」

電「…………」

電「さっきのアシナガバチさんは」

電「どちらなのでしょう?」

提督「俺は仕事さぼって散歩して迷い込んだんじゃないかと思ってる」

電「ふふふ、そう考えると楽しくなりますね」

提督「ははは」


電「……深海棲艦はどうなのでしょうか」

提督「俺はさぼってる奴は居ると思うな」

提督「でなきゃ単艦で日本近海に現れたりしないと思う……が」

提督「何もかも社会性昆虫に当てはまらないのが厄介なところ」

電「そうですね……」

提督「ま、地道にやって行くしかない」

提督「さぼってるかどうかは分からんが、攻撃してくるなら」

提督「応戦しないとこっちがやられてしまう」

電「歯がゆいところ……ですね」

提督「んじゃ、俺は仕事に戻る」

電「あ、はい」

電「電も失礼しますね」

電「司令官さん、ありがとうございました!」

     スタ スタ スタ…


提督「…………」

提督「……さぼってる奴、か」

提督「…………」

提督(実のところ)

提督(深海棲艦に天敵が居ない事の方が)

提督(問題だったりするんだが……)

提督(それは人間も同じ……か)

提督(…………)

提督(平和とは……何なのだろうな……)

     テク テク テク…


おしまい

鎮守府の日常の一コマ。

アシナガバチの巣は紙製で水を大量に飲んでポスターやラベルを噛み砕いて粘土化して作る。
雨等で巣が濡れたら皆で雨水を吸い出す。晴れた日はすっごいよく燃える。

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