高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「とてもとても寒い日のカフェテラスで」 (45)

――おしゃれなカフェテラス――

高森藍子「いいですか、加蓮ちゃん」

藍子「加蓮ちゃんが意地っ張りなのは、もう知っていることです」

藍子「やりたいこと、言いたいことを貫くのは、加蓮ちゃんのいいところだと私は思っています」

藍子「でも。1度だけでいいので、冷静になって考えてみましょう」

藍子「今朝、テレビでこの冬一番の寒さになる、って言っていました」

藍子「実際に、今日はとても寒いです。家から出た時に、コートをもう1枚取り出したくなるくらいに」

藍子「というか、今年はちょっと変です。おかしいです。夏はすごく暑くて、秋はすごく寒くて、台風はいっぱい来て、冬は暖かくなると思ったら急に寒くなって……」

藍子「さて、加蓮ちゃんに質問です」

藍子「そんなとても寒い日に、店員さんがストーブで暖めてくれている店内と、冷たい風の吹くテラス席。私たちは、どちらにいるべきでしょうか」


北条加蓮「……ん? なんか言った?」

藍子「聞いてっ!」

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――まえがき――

レンアイカフェテラスシリーズ第62話です。
以下の作品の続編です。こちらを読んでいただけると、さらに楽しんでいただける……筈です。

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

~中略~

・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェの奥の席で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「今日までのカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「似ているカフェと、黄昏色の帰り道で」
・高森藍子「北条加蓮ちゃんと」北条加蓮「向かい合う日のカフェで」

※既に12月22日ですが、作中の日付は「そろそろクリスマスが近くなってきたなー」くらいの頃ということにさせてください。

加蓮「あ、店員さんありがとー。はい、藍子。ホットココア」

藍子「……ありがとうございますっ」

加蓮「そして私はホットコーヒーっと。うん、あったかー♪ すぐに飲んじゃうともったいないね」

藍子「カップを両手で握っているだけでも、ほっこりと暖かいですっ」

加蓮「そうそう。自販機とかでさ、コーヒーとかココアを買ったりする時もそうだよねー」

藍子「喉が乾いているのに、もうちょっとてのひらを温かくしたいなぁ、って思っちゃって」

加蓮「気づいたらカイロになっちゃってる」

藍子「そうそうっ」

加蓮「最初からカイロを買えばいいのにね。ほら、コンビニにでもあるでしょ。カイロ」

藍子「ちょっと前から、急にいっぱい見かけるようになりましたね」

加蓮「秋の最初の頃なんて扇風機を使ってたのにね。そういえばクーラーもつけてたっけ」

藍子「それ、私もです。10月なのに、ヒーターじゃなくてクーラーをつけるのって、すごく変で……」

加蓮「かと思えば急に寒くなってさー。テレビじゃ今年は暖冬になる、とか言ってたのにさー。ホント、もうちょっと落ち着けばいいのに」

藍子「ふふ。落ち着けばいい、なんて加蓮ちゃんが言うんですか?」

加蓮「じゃー代わりに藍子が言ってよ」

藍子「……」

加蓮「?」

藍子「……加蓮ちゃんの代わりは、その……。……か、加蓮ちゃんが言うからこそ、きっと説得力があるんだと思いますっ」

加蓮「アンタね……。まだ引きずってんの?」

藍子「うぅ……」コクン

加蓮「そ……」

藍子「……」シュン

加蓮「……そういえばこの前さ、またボンバー爆撃を食らったんだけど」

藍子「ぼんばーばくげき?」

加蓮「寒さ知らずの熱血乙女さんから。夜遅くにいきなりスマフォがポンポンポンポンうるさいから何かと思ったらさ。大量の『ボンバー!!!』が」

藍子「あー……」

加蓮「メッセージ欄にアレが並ぶとこ1回見てみなさいよ。もうシュールどころじゃないから。ちょこちょこどこで拾ったか分かんないスタンプが入る辺りさらに意味不明だし」

藍子「あははは……」

加蓮「しかもその度にどこからか奏まで乱入してきてさ。よくわからない話を始めるし」

藍子「奏さんのお話って、独特でちょっと難しいですけれど、聞いていたくなりますよね」

加蓮「あれでも分かると面白いんだけどね」

藍子「私は、ときどき分からなくなっちゃうかも……」

加蓮「分かれば大人になった証なんだってさ。私たちまだまだ子供なんだねー」

藍子「かもしれませんねっ」

加蓮「……一通り聞いた後、つまり気合ですね! でぜんぶ片付けちゃう子がいるけど、あれは大人って言っていいのかな」

藍子「い、一応私たちより年上ですから」

加蓮「そういえばそうだっけ。なんでこう私の周りにいる17歳って……。まぁいいや」ズズ

加蓮「で?」

藍子「それで」

加蓮「なーんで茜はボンバー爆撃をかましてきたのかな? ん?」

藍子「…………」サッ

加蓮「はい無言で目ぇ背けない。何したの。レッスンがうまくいかなかった? 途中で転んで泣いた? トレーナーさんに叱られまくって凹んだ? そんでモバP(以下「P」)さんにわざと弱いとこ見せて――」

藍子「は、話が飛躍しすぎですっ。そこまではやってませんから~っ」

加蓮「そこまでは。ふうん、"そこまでは"、ね。じゃあ藍子ちゃんはどこまでやったのかな? んー?」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……レッスンが……どうしても、うまくいかなくて」

加蓮「ん」

藍子「だって……。どんなに上手にできても、失敗しないで最後まで踊れても……。頭の片隅に、加蓮ちゃんの、あの時の顔がちらついちゃって――」

藍子「そうしたら、私なんて、って……。未央ちゃんや茜ちゃんは、大丈夫だって言ってくれますけれど……」

加蓮「あの2人が大丈夫って言うなら大丈夫でしょ。何に悩んでるんだか」

藍子「だってっ!」

加蓮「だって?」

藍子「…………だって……」

加蓮「……ハァ」

藍子「……」

加蓮「……」ズズ

藍子「……」

加蓮「……茜がメッセどころか会う度会う度ボンバーって叫んで突進してくるから早く復活してよ。厄介だし面倒だし」

藍子「はい……」

加蓮「ったく」ズズ

藍子「……」

加蓮「……」ズズ

藍子「……」

加蓮「……コーヒーでも飲んでみる?」

藍子「少しだけ……」

加蓮「ココア、少しだけもらうね?」スッ

藍子「うん……」

加蓮「ずず……」

藍子「……ごくごく」

加蓮「んぐっ、甘゛っ! 何これっ……ってそっか、店員が藍子に入れてくれた物なんだっけ」

加蓮「んー、そう考えてみたらなんかすごく藍子に合わせた感じっていうか、もう藍子用ブレンドとかあるんじゃないのっていうか……」ズズ

加蓮「何よ藍子ばっかり。店員が客の、しかも常連の片方だけに肩入れってやっちゃいけないことでしょっ。これ返すっ」スッ

藍子「……くすっ」

加蓮「お」

藍子「ううん。加蓮ちゃんは、いつも通りだなって……。よかったですっ」

加蓮「言っとくけどいつも通りじゃないのアンタの方だから。っていうかアンタだけだからね?」

藍子「あうぅ」

加蓮「良かったって、そもそも人に気を遣ってる場合じゃないでしょ。私とか茜とかどうこうがなくても、アンタだってアイドルなんだから。みっともない姿でファンの前には出れないでしょ?」

藍子「……そうですけれど……でも、加蓮ちゃんがいつも通りでよかったっ」

加蓮「アンタねー……」

藍子「えへへ」

加蓮「……、もういいや、うん。勝手にそこで凹んでなさい」

藍子「加蓮ちゃんが冷たいっ。この間は、私のことをあんなに大好きだって言ってくれ――」

加蓮「んぐっ! ……あれは100年に1度のサービスだから! 2度としないわよあんなの!」

藍子「え~っ。1日に1回は真面目になってくれるんじゃなかったんですか?」

加蓮「真面目な顔して藍子に大好きだって叫ぶ私とか色んな意味でヤバすぎでしょ!」

藍子「? どうしてですか?」

加蓮「ぐぬ……。なんか今日は噛み合わないなぁ……!」

藍子「ほらほら、いい機会ですからっ」

加蓮「何が!?」

藍子「100年に1回ではなくて、1年に100回、ううん、1000回くらいにしちゃいましょう!」

加蓮「だから何が!?」

藍子「私、加蓮ちゃんが励ましてくれたら、きっと頑張れると思いますっ」

加蓮「アンタの調子が狂ってる原因って私なんだよね!?」

藍子「……そうですよ。私の元気が出ないのは、加蓮ちゃんのせいなんです。だから加蓮ちゃんには、私のことを励ます義務がありますっ」

加蓮「言ってること滅茶苦茶すぎでしょ! アンタこそ寒さに頭やられてんじゃないの!?」

藍子「あっ、そういえば、寒いから中に入るってお話がいつの間にかなくなっちゃってました。また加蓮ちゃんに誘導されちゃってる……」

藍子「加蓮ちゃん!」

加蓮「やだよ。中に入りたいなら1人で入れば?」

藍子「それはイヤですっ」

加蓮「寒いって言っても晴れてるから大丈夫だって」

藍子「晴れてても、寒いんだから中に入りましょ?」

加蓮「ヤダ」

藍子「もう。だから、何に意地を張っているんですか?」

加蓮「私のことならだいたい分かるんでしょ? 見抜いてみれば?」

藍子「うーん……。お店の中に、誰か顔を合わせたくない人がいる、とか?」

加蓮「ハズレー」

藍子「じゃあ、店員さんとケンカをしちゃって気まずいとかっ」

加蓮「それもハズレ。そっかー。藍子ちゃんなら気づいてくれると思ったんだけどなー」

藍子「む……」ジー

加蓮「じー」

藍子「……」ジー

加蓮「……」ジー

藍子「……コート?」

加蓮「!」

藍子「そのふわふわのコートを……着ていたいか、見せたいか……でしょうか?」

加蓮「正解っ」

藍子「やったっ。加蓮ちゃん、最近はすらっとしたコートをよく着ているのに、今日は雰囲気が違うなーって思っていたんです」

加蓮「ふふん」

藍子「そのファーコート、どこで買ったんですか? あんまり加蓮ちゃんが選びそうにない服ですけれど……」

加蓮「そこまで見抜いてくるかー。これね、お母さんが買ってきたヤツなの」

藍子「加蓮ちゃんのお母さんが」

加蓮「うん。アイドルなんだからシンプルなのばっかりじゃなくてこういうのも着こなしさい、だって」

加蓮「そうそう。あとさ、普段からすかした態度なんだから、せめて大人っぽく着飾っときなさい、だって。余計なお世話すぎるよねー」

藍子「ふふ。加蓮ちゃんのお母さんらしいですね」

加蓮「これでもオシャレに気ぃ遣ってるのにさ。ま、最近ちょっと実用性ばっか考えてたかもしれないけど。動きやすいヤツとか」

加蓮「昔はさ。ずっと親……っていうか、周りの大人が決めた物しか着れない人生で、そんなの馬鹿みたいだってずっと思ってた」

加蓮「でも、こうして色んなものを自分で決めれるようになって、だからこそ、たまにはこういうのもいいかな……って」

藍子「なんだか、大人みたい」

加蓮「そう?」

藍子「Pさんが言っていましたよ。昔はイヤだったことを受け容れられるようになるのが、大人なんだって」

加蓮「へー……。Pさんは何が嫌だったんだろ」

藍子「それ、私も気になって、その時にPさんに聞いてみたんです。Pさんは何か受け容れられるようになったことがありましたか? って」

加蓮「それでそれで?」

藍子「そうしたら、苦手だった野菜がだいたい食べられるようになった、って!」

加蓮「あっははは!! 何それっ。それがもう子供じゃん!」

藍子「うふふっ」

加蓮「あ、いや待って。それ、Pさんにかわされてる可能性があるよ?」

藍子「へ?」

加蓮「その時のPさんの様子とかって覚えてる? 恥ずかしそうとか、笑ってたとか」

藍子「そうですね……。加蓮ちゃんの言う通り、軽く笑いながら教えてくれました」

加蓮「絶対誤魔化されてるじゃんそれ! 藍子、Pさんに騙されてる!」

藍子「ええっ!?」

加蓮「おのれPさんめ。藍子みたいな子を騙すなんて。これは仕返ししなきゃね。やられっぱなしでいいのっ、藍子!?」

藍子「……加蓮ちゃん、何か煽ってませんか?」

加蓮「バレたかー。今度野菜づくしの弁当でも作っていってあげたら?」

藍子「挑戦してみようかな……?」

加蓮「ついでに私の分もー」

藍子「あはは、ちゃっかりしてる……。でも、なんだか意外ですね。野菜のお弁当をほしがるなんて」

加蓮「栄養をちゃんと摂っとかないと面倒なこと言われるからね」

加蓮「受け容れる、かー。これも大人になるっていうことなのかなー……」

藍子「また加蓮ちゃんのこと、加蓮さんって呼んでしまいそうです」

加蓮「だから同い年でしょ。アンタも大人になればいいのよ」

藍子「大人に……」

加蓮「そうそう。それこそそれっぽい冬物とか揃えたりしてさ。コートにブーツに、あとニットも。マフラーとかもアリだよね。今度見に行――」

藍子「……加蓮ちゃんと並ぶと、年下だって思われちゃいそうですから……。私は、今のままでいいですよ」

加蓮「あっそ」ズズ

加蓮「あ、そうだ。藍子、ちょっとそのまま。うん、そのままね」

藍子「?」

加蓮「りゃ!」ベシ!

藍子「っ!? いったああああ! い、今っ、本気でチョップしましたよね!?」

加蓮「うん。なんかムカついた」

藍子「何にですかっ! この前から何なんですか!?」

加蓮「簡単に見抜かれたことに」

藍子「加蓮ちゃんが見抜いてみなさいって言ったんじゃないですか!」

加蓮「うん。もし見抜いてくれなかったら、それはそれで寂しいからデコピンしてたよ?」

藍子「やらないでくださいよ!」

加蓮「だって私だし」

藍子「うぅ……。納得できちゃうから、何も言えない……」

加蓮「言い返してもいいんだよー? この前みたいに、加蓮ちゃんのばかー! って」

藍子「そ、それこそ100年に1回だけです」

加蓮「1年に100回じゃなくて?」

藍子「1年に100回も加蓮ちゃんと怒鳴り合うのは、さすがにイヤですよ……」

加蓮「そっか」

――おしゃれなカフェ――

藍子「結局、中に入るんですね」

加蓮「あったかー♪」

藍子「しかもストーブの前から離れなくなっちゃった……」

加蓮「マット敷いてあるんだし、ここでくつろいでくださいってスペースでしょここー。他にお客さんもいないんだからいいでしょ」

藍子「ダメだなんて言っていませんよ。ぬくもっていきましょう♪」

加蓮「今年もストーブをレンガ石で囲って暖炉っぽく見せてるんだね。あれ、でも前のとなんか色変わった?」

藍子「そういえば……? 少し、暖かみのある色になったような?」

加蓮「言われてみたら、照明もちょっと変わったよね」

藍子「夏の頃は部屋が白く見える明かりでしたよね。今は、暖色になって……。冬でも、寒く感じなさそうっ」

加蓮「あ、やっぱり藍子は気づいてたんだ」

藍子「ふふっ。加蓮ちゃんいわく、私はカフェマスターらしいですから♪」

加蓮「カフェのマスターになるのもいいけど、アイドルのマスターにもなりなさいよ?」

藍子「……………………、」

加蓮「……。まだ温まりきってない手を藍子の首筋に、はい、べたー」ベター

藍子「ひああああああああああっ!!? かっ、かかっ、加蓮ちゃんっ!!」

加蓮「暖かくなった?」

藍子「う~~~~っ……う~~~~~~~~~~!!」プルプル

加蓮「ふふっ。この前は何十年でも待ってやるって言ったけどさ。やっぱ待ち続けてるなんて私らしくないし。ちょっと強引にいこっかなって」

加蓮「ノロマな藍子にはそれくらいでいいっしょー?」

藍子「そっ、それにしたってやり方と言い方っ……! うぅ、まだぞわぞわする……!」

加蓮「じゃあ藍子もここで温まっていったら。せっかく暖炉ストーブあるんだし」

藍子「言われなくてもそうしますよっ」

……。

…………。

加蓮「ねむ……」フワ

藍子「ずっとここにいると……なんだか、眠たくなっちゃう……」

加蓮「カフェってさー、人がいたら人がいる場所だけど、いないとほぼ家みたいな感じだもんね。特にここは――」

加蓮「っと。藍子のことを忘れたとかじゃないからね?」

藍子「ふふ。分かってますよ。家みたい、っていう気持ちも分かるなぁ……」

藍子「でも、私にとっては、やっぱりここはカフェですね」

加蓮「お。厳し目?」

藍子「ううん。ここはカフェなんですっ。加蓮ちゃんと一緒にいるカフェ。えへ♪」

加蓮「……ったく。何が言いたいんだか」フフッ

加蓮「そういえばさー、クリスマスじゃん。もうすぐ」

藍子「クリスマスですね~」

加蓮「今年は何したいー?」

藍子「う~ん。パーティー?」

加蓮「いつもやってるじゃん」

藍子「じゃあ、ケーキっ」

加蓮「だからそれも……。ま、いつもできることをいつものようにやるのも、いっか」

藍子「加蓮ちゃん?」

加蓮「んー?」

藍子「ううん。今、なんだかぼんやりした目をしていたから……。何か、昔のことでも思い出したんですか?」

加蓮「……アンタそれ私の気分と回答によっては地雷原一直線ルートなのによくほわっとした顔で言えるね。眠くなったの? とか誤魔化せばいいのに」

藍子「あ、あはは……。今の加蓮ちゃんは、冬の朝の空みたいに尖った感じじゃなくて、寒い日に飲むココアみたいな顔でしたからっ」

加蓮「寒い日に飲むココアみたいな顔、か」

加蓮「……」

加蓮「……どんな顔?」

藍子「だから、寒い日に飲むココアみたいな顔なんです」

加蓮「いや、だからどんな顔??」

藍子「ココアはココアですっ」

加蓮「伝える努力をしなさいよ!」

藍子「と言われましても……。あっ、そうだ。加蓮ちゃん。そのまま、そのまま」ガサゴソ

加蓮「ん」

藍子「撮りますよ~。はいっ」パシャ

藍子「ほら、これ。ココアみたいな顔でしょっ?」

加蓮「どれどれー。あぁ、確かにこれはココアみたいな顔だね」

藍子「でしょっ?」

加蓮「ココアみたいな顔だ」

藍子「ココアみたいな顔ですね」

加蓮「でも私としてはコーヒーみたいな顔になりたいなぁ。だって私、ココア派よりコーヒー派だもん」

藍子「それはどんな顔なんですか?」

加蓮「……さあ?」

藍子「くすっ。じゃあ、今度加蓮ちゃんがコーヒーみたいな顔をしていたら、教えてあげますね」

加蓮「よろしくー。にしても、クリスマスか」

藍子「何か、やりたいことでも見つかりましたか?」

加蓮「やりたいことならいっぱいあるよ? まずクリスマス記念LIVEでしょ。年末用のレッスンでしょ」

藍子「……さすが加蓮ちゃんですね。最初にアイドルのこと――」

加蓮「追加。今年はアンタも巻き込んで合同でも見学でも何でもいいからレッスンやる」

藍子「へ?」

加蓮「自分には関係ありませーんって顔して笑って誤魔化して一歩引こうとしても無駄だからね。笑えばなんでも誤魔化せるとかナメたこと言ってるならもっかい首筋に手当てるよ?」

藍子「…………っ」

加蓮「どっちがいい? あ、それとも今度は服の中まで手を突っ込んで背中をつつつーってしてあげよっか。ほら、指を這わせるように、つつつーっ、って――」

藍子「~~~~~! そっ、想像しただけで……! 分かりっ、分かりました! そのっ……な、なんとか頑張ってみますから、それだけは……!」

加蓮「分かればよろしい」

藍子「うぅ……。加蓮ちゃん、やっぱり手厳しいですね」

加蓮「まーね」

加蓮「クリスマスに何やるかって話だよね」

藍子「パーティーは参加しないんですか? ほら、毎年事務所でやってる」

加蓮「トーゼン、参加するわよ。今年は何やろっかなー。サンタ役かなー。いや、サンタが持ってきたプレゼントを奪い取るという役も――」

藍子「う、奪っちゃうんですか」

加蓮「っていう役をベテラン盗賊・アイコがやりたがってました」ポチポチ

藍子「待って!? 今誰に送りました!?」

加蓮「1.いつもの未央 2.提案したらマジにしてくれるPさん 3.盗賊アイコと共演したことのあるダーク魔女っ子由愛ちゃん 4.全員」

藍子「ぜ、全員に送ってる、これ絶対に全員に送ってます……! さ、さすがに冬にあの衣装は寒いので、勘弁してもらえませんか……?」

加蓮「あ、未央から返信来た。はやーい。"かれんもすっかり主催者が板についてきたね! オッケー、ファンタジー組に声かけとくよ!"」

藍子「あああああ……!」

加蓮「まっ、私からの荒療治だと思って諦めなさい。大丈夫、悪役なら味方してあげるから」

藍子「……一応、盗賊の私はモンクに転職して、勇者のパーティーに入るってお話だったんですけれど――」

加蓮「武道家って魔法に弱いよね? じゃ私魔女やるねー」

藍子「……ま、魔女も私の役ですし」

加蓮「お、魔法合戦とかやっちゃう? どっちの方が強い魔女かみたいな」

藍子「…………どうやったら勇者側になれるんですか、私」

加蓮「私が絡んできた時点で諦めなさい」

藍子「えぇ……。それなら、加蓮ちゃんも勇者側になれるよう、説得する役になっちゃいますっ」

加蓮「やれるものならどーぞ」

藍子「なんだか手強そう……!」

藍子「加蓮ちゃんが今年のクリスマスにやるのは、LIVE、レッスン、パーティー、ですねっ」ユビオリカゾエ

加蓮「もう1つくらい欲張ってみたいよねー」

藍子「お~」

加蓮「……また、サンタさんやろっかな」

藍子「それって……。病院の?」

加蓮「うん。……あ、でもさ。この前不定期検診で行った時に、ちょっと探ってみたんだよね。みんなどんな感じかって」

藍子「はい」

加蓮「なんか入院病棟とか待合室とか全体的に明るくなったんだってさ。最近はね。だから残念だけど私はお役御免みたい」

加蓮「あーあー、サンタクロース加蓮ちゃん、もっかいやりたかったなー」

藍子「よかったですね、希望の種が花開いて♪」

加蓮「人の心の代弁をするなっ」ペチ

藍子「いたいっ」

加蓮「他人の心を読む暇があったら自分の心の修理でもしてなさいよ」

藍子「他人じゃなくて、加蓮ちゃんですよっ」

加蓮「はぁ? それ何が違うの?」

藍子「他人なんて言い方、なんだか距離が遠いみたいじゃないですか」

加蓮「んー……。分かるけど、人も他人も変わらなくない?」

藍子「だから、加蓮ちゃんなんです」

加蓮「ふうん……」

加蓮「あったかー♪」(足を伸ばして手も伸ばしてる)

藍子「……」(自分の両手を見下ろす)

加蓮「……?」

藍子「……」

加蓮「どしたの? 冬の朝の空みたいな顔をして」

藍子「別に……。そういえば、冬の朝の空みたいな顔って、どんな顔でしょうか」

加蓮「今の藍子みたいな辛気臭い顔」

藍子「せ、せめて何かに悩んでるみたいなってくらいにしてくださいっ」

加蓮「何か悩んでるなら吐き出せば?」

藍子「……」

加蓮「別に、今さらさ。ドン引きするような本音が出てきても、ね?」

藍子「……吐き出しても、どうにもなりませんから」

加蓮「じゃ怒鳴ってみれば?」

藍子「むー」プクー

加蓮「何。なんか甘っちょろい言葉でその場しのぎの慰めでもかけてほしいの? やだよ、面倒くさいもん」

藍子「加蓮ちゃんにそんなの期待してませんっ」

加蓮「ふうん」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……時間が――」

藍子「時間があれば、きっと、傷はふさがって」

藍子「またいつも通りに、なれるんだって」

藍子「私だって、落ち込んだり、上手くいかなかったり、そういう時を何度も経験していますから……」

加蓮「……すごく藍子らしいね」

藍子「私は加蓮ちゃんみたいに、びしっ、と解決はできませんけれど……。ちょっとずつ治していくのは、これでも得意なんですよ。……得意なつもりなんです」

加蓮「そっか」

藍子「分かっているんです。こういう時は、ゆっくり、気持ちを鎮めるのが一番なんだって」

藍子「……でも、加蓮ちゃんを見てたら」

藍子「早く、何とかしたいなって思うのに」

藍子「なのに、心の中で」

藍子「嫌だ、とか、駄目、って声が、響いて……」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……ぶっちゃけ言うけどさ」

藍子「はい」

加蓮「これ、私が元凶じゃん」

藍子「……はい」

加蓮「私も私で結構クるものあるんだよね。だって、私っていう病原菌が藍子を蝕み続けてるようなものだし」

藍子「……でも、加蓮ちゃんは」

加蓮「うん」

藍子「私の側にいる、って、言ってくれましたよね……」

加蓮「自分勝手だもん、私」

藍子「……本当ですよっ。こんなに自分勝手で、わがままな人、見たことないですっ」

加蓮「あははっ。私だって、藍子程どこまでも真っ直ぐで優しい子なんて見たことないわよ」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……ほら、私達ってさ」

藍子「はい」

加蓮「気が合わないじゃん」

藍子「……ふふ、そうですねっ」

加蓮「せっかちな私とノロマな藍子。そりゃ今のアンタが私といたら調子も狂うわよ」

藍子「そうかもしれませんね……」

加蓮「マイペースでやるのが大切なんでしょ? 自分の足取りで、落ち込んだなら数日とか数週間とかかけて、ゆっくり立ち直って……って」

藍子「加蓮ちゃんなら、すぐにでも立ち上がろうとしますよね。劇薬、って言うんでしょうか?」

加蓮「私が所構わずあらゆる薬を注射するヤブ医者とかなら、藍子は自然治癒してる患者さんだね」

藍子「あはは……」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……でも、私は藍子を離さないからね」

藍子「……はい」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……お客さん来ないねー」

藍子「来ませんね~……」

加蓮「店員、寂しそうにして……してなかった。思いっきりこっち見てる」

藍子「加蓮ちゃんが気づいちゃったから、慌てて奥に引っ込んじゃいました」

加蓮「だねー」

加蓮「カフェなのに、やっぱり自分の家みたい」

藍子「加蓮ちゃんも、ずっとここに来ているからですよ。きっと」

加蓮「えー、でもお母さんもお父さんもいないよ?」

藍子「? いてほしかったんですか?」

加蓮「いやいなくていーけど……。うるさいし。うっとうしいし。うるさいし」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……もうちょっとだけ、ここにいていいですか?」

藍子「私は……加蓮ちゃんの時間をお借りしても、いいんでしょうか……?」

加蓮「離さないからねって言ってんでしょーが」

藍子「……そうでしたよね」

加蓮「ったく」


おしまい。
読んでいただき、ありがとうございました。

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